祝福すべき赤ん坊の誕生。その待ち焦がれた瞬間を前に、 ライアンの母親、マリエ・ゴンザレスさんが望んだものは、
他の親たちと同じただひとつの願い - ただ健康な子供であること、それだけだった。
「何も高望みはしなかったわ。ただ鼻が小さい子がいいな、なんて思ったりもしたけどね。」
ゴンザレスさんは出産前を回想して語る。しかし彼女の望みは叶わなかった。
初めて自分が産んだ子を目にした時、彼女は驚きとショックを隠すことが出来なかったという。
「初めてライアンを見た時、ただただ涙しか出なかったわ。本当に悪夢に思えたの・・・。」
彼女の息子、ライアンは非常に稀な先天的遺伝障害であるハーレークイン魚鱗癬という病気を持って生まれた。
この先天的皮膚障害は患者の皮膚を通常の7倍から10倍の速度で角化させると言われており、生まれたライアンの
皮膚はまるで鎧につつまれたように硬い鱗に覆われていたのである(写真は出生時のライアン君)。
「彼の体は大きくて、ぶ厚い、ひび割れた鱗のようなものに包まれていたの。それから、全身を包む鱗の割れ目から
髪の毛が少しだけ見えたわ・・・。」ゴンザレスさんは語る。
「ライアン君を見たとき、一目で彼がどんな症状であるかを理解しました。そしてその疾病がほとんどの場合において
致死性のものであることも認めなければなりませんでした。」
出生間もなくライアンを診察した新生児専門医師のブライアン・ソンダース氏は語る。
その後ブライアン医師は、まだ誕生後間もないライアン君の治療にすぐさま取り掛かった。
「顔を埋め尽くす鱗のせいで、彼はまるで魚のように口を開けていましたね。」
そうブライアン医師が語る通り、ライアン君は硬い鱗のせいで呼吸困難に陥っていた。
医師や看護婦らがライアン君の気道を何とか確保し、延命処置を行う最中、ソンダース医師は世界で報告されている
同様の症例をくまなくチェックし、ライアン君を救う道を探った。
「そして英国で、同様の症状を持ちながら延命した2歳の男の子のケースを発見したんです。その少年は
ヴィタミンA誘導剤を用いることで治療に成功したということでした。」
しかしソンダース医師は、アキュテイン(治療薬)をこれまで幼児に対して用いたことがなかった為、
投薬を躊躇せざるを得なかったという。
しかし医師の躊躇をよそに、ライアンの母親はとにかく出来るだけの事をして欲しいと、ソンダース医師に即座の
薬剤投与を求めたのである
。「とにかく、出来ることを何でもいいからしてください、ってお願いしたわ。」ゴンザレスさんは語る。
そして投与された薬剤は見事に効果を示し、ライアンの皮膚を覆った鱗は徐々に細かく、薄くなり、
また新たな皮膚が角化するのを防ぐことに成功したのである。
しかし、それはそれから始まるライアンの長い戦いの、ほんの序章に過ぎなかったのかもしれない。
「ドアを開けるとき、私はいつだって気を引き締めるんです。その向こうにいる人が自分を見てどんな反応をするか、
分かっていますからね。」
そう語るライアンは現在、18歳である。
現在でも彼の皮膚は通常の数倍の速度で角化していくため、彼は毎日7500カロリーを消費しなければならず、
皮膚の手入れはもはや彼の避けられない日課となっている。
例えば眠る前にも彼はチューブを通してたんぱく質を摂取しなければならないという(写真は現在のライアン君)。
「私が知る限り、この疾病を持って生まれて、この年齢まで生きているのは、本当にライアンただ一人ですね。
ましてライアンがトライアスロン選手であることなど、一体誰に想像が付くでしょうか。」
そう語るのは現在ライアンの皮膚治療を行うスーザン・ビオコ医師である。
現在ライアンは二度目のトライアスロン挑戦に向けて、トレーニングを行っている最中である。
彼は週に三度はプールで、そして土曜日には海で水泳を行っている。
そして練習の後は決まって - 日に7回はそうするように - 大量のローションを皮膚に刷り込むという。
またそんな時、彼の皮膚には余りにも酷な海水の痛みを耐えてなお、彼は、笑顔さえ浮かべるのである。
彼の荒れた皮膚を海水がいかに突き刺そうとも、彼の強いストローク、そしてその強い意志は決して負けることはない。
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