福岡市の歯科医院長が提唱する「歯臓治療」が物議をかもしている。
医師法違反や誇大広告などの疑いが浮上しているだけでなく、
その“オカルト性”も明らかになってきた。院長の診療や言動は、
科学を装いつつ「歯は人間の神への進化の封印を解く鍵」など、
常識を超えた精神世界にどっぷりとつかっている。
■異様な集会
昨年6月、福岡市のイベントホールで開かれた「虫歯菌根絶一万人集会」。
全国各地から集まった患者が、興奮状態でその瞬間を待っていた。
院長は気を発するかのように両手を前に突き出して叫ぶ。「歯は臓器!」
主催は院長が会長の日本歯臓協会。具体的な虫歯菌の根絶策は示されず
「アトピーも治っちゃう」と院長が勧める「歯臓治療」の効果を強調した。
続いて、ステージで患者を見て「スパイラルが出ています」。歯臓治療を終えた
患者の頭部からは、らせん状のエネルギーが放射され、
見つめるだけで目の前の水は「浄化」されると訴えた。
今年6月の健康歯学フォーラムでは、約500人の患者に「地球文明の崩壊や
人類を救済する重大な使命がある」。2012年12月、原子レベルで
生命体を大変容させるという光エネルギーの帯「フォトンベルト」が地球を覆うのに
備えるという。放映されたビデオでは、人が7段階で「神の体」へ進化する過程が解説された。
■非科学と独善
院長は現代医学を「人類を滅ぼす」と非難。既存の歯科用金属は有害として
除去し「波動を高める」と独自開発をうたう金合金と詰め替えている。
一部の全国紙やテレビ各社が好意的に報道し、集会に来賓として出席した
経営コンサルタントも著書で絶賛。患者は数千人に及ぶ。だが、多くの医師や歯科医は、
院長の主張を「科学的な根拠がなく独善的」と批判する。
実は、院長の主張のほとんどは疑似科学、空想に基づく精神世界の話だ。
まず「波動」の実態は不明だが、量子力学の波動と錯覚させ“波動処理”した
水や健康グッズの販売は一大ビジネスに発展している。フォトンベルトも、
宇宙物理学者は「聞いたこともない」。一般からの問い合わせが多い国立天文台も
ホームページで「学問的には全く意味のない荒唐無稽(むけい)なもの」と存在を否定する。
「とんでもない」荒唐無稽な本を笑い飛ばす「と学会」は昨年、院長の著書を
「トンデモ本大賞」に選んだ。SF作家でもある山本弘会長は「不安をあおり
救済法を示すやり方は、新興宗教などの典型的な勧誘手法」と話す。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20040824k0000m040111000c.html