P2P小説総合スレ part69

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79[名無し]さん(bin+cue).rar
瞳の中の大河

沢村 凛


内戦に明け暮れる架空の王国を舞台に、高らかに理想を掲げ、最後まで気高く生きる軍人の生涯を描いた長編ロマンである。著者は『ヤンのいた島』で、第10回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した沢村凛。
3作目となる本書は、簡潔で、品格漂う筆致と、細部に至るまで構築された世界観を用いながら、歴史のダイナミックなうねりや、それに翻弄される人々の姿を見事にとらえた大作となっている。
異世界という設定ながら、『三国志』や『水滸伝』などの雄大な歴史小説を彷彿(ほうふつ)とさせる作品だ。
貴族の血をひくものの、出生に複雑な事情をかかえるアマヨク・テミズは、軍学校を卒業し、西の駐屯地へ向かう小隊の隊長として赴任する。
そこでアマヨクに下った命令は、王家の宝を盗んだ者たちの捜索だった。アマヨクは、野賊の6頭領のひとり、オーマの仕業であることを直感するも、逆に盗賊たちの策略にはまり、捕えられてしまう。
伝説の野賊として名高いオーマとの出会いをきっかけに、アマヨクの波乱に満ちた運命が幕を開ける。

主人公は、正義を貫く英雄でありながら、必要であれば平気で嘘をつき、信念の為であれば人を傷つけることも辞さない。宿敵オーマに「血の通った当たり前の人間だった」と述懐させるように、きわめて人間臭い人物である。
そんな主人公の無骨ともいえる生き様を軸に、物語には、権謀うずまく貴族達の争い、父親との相克、道ならぬ恋、ラストシーンでの謎解きなど、活劇としてのおもしろさがふんだんに盛り込まれている。
その味わいは、まさに蕩々(とうとう)と水をたたえた大河のように、驚くほど深く、幅広い。(