ラジオ番組UPスレ FM専用 part25

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302[名無し]さん(bin+cue).rar
『婚約者を亡くしてしまった』
そう言うなり、妹は声を上げて泣き出した。

婚約相手は大手企業に勤める背の高い好青年で、ゲームにプログラミングと趣味も多彩だった。
幾度か顔を合わせた事もある。話し上手で細かな気配りの利く、感じの良い男だった。
彼が帰宅中に対向車をかわしきれず帰らぬ人となった、その夜から、妹は部屋へ閉じこもりきりになった。
扉の前に置かれた食事にもほとんど手をつけない。時折すすり泣く声が聞こえては、その度ガリガリと床を引っ掻いている。
心配に思って"ガリガリ"の最中に声をかけてみた。すると「違うの」と答えが返る。
「違うって、何がだい」 「光源処理が……違うの」 「光源処理?」 「彼のは、もっと優しかった」 「優しいって?」 「……」
僕はゆっくりと部屋の扉を開けた。――幸い、妹からの拒絶はなかった。
彼女は手にマイクロソフトのゲームコントローラーを携え、ハイビジョンTVでゲームをしている。舶来轟音ハード信奉者ご自慢のXBOX360だ。
「彼の光源処理はこんなに固くなかった」俯いて彼女は言う。
ようやく飲み込めてきた。何時だったか、婚約相手の彼が『このゲームハードこそは標準化されるべきなんです』と熱弁を振るった事がある。
妹はその話を退屈そうに聞きつつ、彼のゲームハードをつないだディスプレイでゲーム映像を見ていた。
彼女は今、そのゲームハードの光源処理を求めている。記憶の片隅に引っかかったハードの名前。あれは、確か――。

風の強い日だった。寒さから逃げるように駆け込んだアキバのヨドバシカメラで、売り場の店員に対応機種はないかと訊ねる。
彼は『幾つかございます』と言ってカタログを見せてくれた。どうせならと、婚約相手の彼が使っていたのと同じ60GBを選んだ。

「ほら、これだよ」そう言って、僕は妹にその光源処理を見せてやる。
「――あぁ!そう……これ……。彼の光源処理が見える――」彼女はこれが最後とばかり、一しきり大粒の涙を零して泣いた。

その日を境に、妹はみるみる活力を取り戻していった。今では食事も残さず食べている。完全に立ち直れる日も近いだろう。

彼女の傍らには、いつだってSONYの最新ゲーム機。
XBOX360?光源処理が固いよ。もっとシンプルにいかなきゃ、愛だって語れない。