1 :
1(前スレの1):
このシリーズは、2000年12月28日 23:00(冬コミ前日)に終了します。
「20世紀でコミックマーケットが終わる」という前提の上でなら、
どんな立場からの話でもOK。
但し、実在の人物、サークルなどが強く想起されるような場合は、節度を守ること。
書き込む際は、過去スレッドの通読を推奨します。
前提が極めて緩いので、通して読むといくつか矛盾などがあるかも知れませんが、
細かいことは気にしちゃぁいけません。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
お断り
このスレッドの内容は全てフィクションであり、実在の人物・団体・
事件等とは一切関係がありません。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
ログ、執筆者紹介のページ
http://ueno.cool.ne.jp/endofcomike/ ライター有志による交流サロン(既出キャラ、天候などの資料集、掲示板などあり)
http://members.nbci.com/doujin2/
3 :
うんこ:2000/11/19(日) 08:23
前スレまだ400いってないんじゃないの?
>>3 前スレはHTML文章にした時点で350Kバイト以上あり、
現時点でどーでもスレが1000書き込まれた状態より多いのです。
その上、これから重量級の書き込みが増えるということでしたので、
早期引っ越しに踏み切りました。
>1さん
お疲れ様です。では、がんがん逝かせてもらいます(笑)
ガンガン逝っちまって下さい。
ちなみにタイトルは、前回も今回も次回も、SF小説が元です。
モナ、ゼロワンからかえってきました。
終わるコミケット本、自分のへたれ文が2本も導入部に使われていてビック
りしました。
00.11.7あざみ野と、00.12.30都賀の台の作者です。
話しが大掛かりになってしまい、まとめ読みしようと、今日まで
このスレを読まないようにしていたのですが、
BOOK版、構成がとても良いので自分のへたれ文も
救われてる気がします。あた、時系列が整理されてるせいかとても読みやすいです。
冬コミ前日に終了だそうで、せっかくなのでおこがましいかも知れませんが
コテハンとして皆さんのようにきちんとしたものは、書けないかも知れませんが
事件と関わりのないところから、最後のコミケを迎えようとしている
無名の一参加者の視点の短文など、書いてみたいと思います。
あ、後、三文文士様ファンです。
モナ01いらっしゃらなかったのですね。残念です。
8 :
名無しさん:2000/11/19(日) 22:24
やはり4番目で最後となる予定のスレですし、
The end of millennium〜千年紀の終わりに〜
で良いんでないでしょうか?
1年ずれてるのはご愛敬と言う事で(藁
終わるコミケット本、購入キボンなんだけど
通販してないのでしょうか?
200部刷っちゃったらしいし、なんかあれば、冬のボーナスで、半分ぐらい引き
受けて、通信販売でも地道にやろうかなと思っておりましたことをここに告白しま
す。なお、終わるコミケット本は完売したとの情報が入っております。私の友人に
頼んでおいたのですが、買えたかどうか、うわぁ、どうしよう、買えてなかったら。
総集編とか出たら、いかなる手段を使ってでも買ってもらおう、そうしよう。
>桃のお店の中華娘さん
とんでもない、プロ作家の独白といい、「やおいも男性向けも健全もコスプレも、
みんな真っ白に雪が覆い隠して…」といい、とてもヘタレ文とはいえない、むしろ
あの短文で中身がよく凝縮された良い文章をかかれていらっしゃると思いますが。
モナ01行きたかったんですが、桃仲間なもんで^^;;;;;;、土日はね。
はい、大変失礼しました!
毎度。
「終わるコミケット プロローグ版」は200部刷ったにもかかわらず、
開場から30分強で約半数が売れるという「プチ大手」状態でした。
結局残りは予備分もあわせて20冊ありません。
通販するぐらいなら増刷して冬コミでコソーリと販売しようかと思うのですが、
購入希望者はどの程度いるのだろかねぇ。
24日までに再版をかければ同じ原価で作れるので、きぼーんは早めにお願いします。
冬コミで余ったら2月のこみちあでも出るか。一応「創作(文芸)」だしな。
こっそりと
再販&コミケ売りキボーン。
13 :
しーな:2000/11/20(月) 12:29
>サンデーライターさま
モナ01お疲れ様でした。
自分も再版&コミケ売りキボンです。
よろしくお願いしますです。
こっそりと
再版&ティア売りキボーン(w
冬コミではばたばたと忙しくって午前中とかには買いにいけない
可能性が物凄く高いので・・・(コミケクラスなら午前中に売り切れると予想
ティアだったら確実に行けるもので・・・。
ちなみに、この前のコミティアのティアズマガジンには「りぞこみin沖縄」の
マンレポ本が紹介が掲載されてたくらいですから、ジャンル的には余裕でしょう。
非常にわがまま言ってるのは承知の上ですが、ご検討いただければ幸いです。
>>6 あ、やっぱりそうなのか。
さしずめ今回は、
――「二十部売れるのも二千部売れるのも私には同じことだから」
二十万人という参加者の中で……それはどちらも刹那だったのだ。
...ってな感じであろうか。
# 元ネタは最初のハードカバー収録版。後の軽装版では表現をいじってあるみたいなんで。
再販&コミケ売り希望。
大手蹴って朝一に買いに行きますよ(笑)
17 :
手動筆記人:2000/11/20(月) 15:08
あー、よく寝た(寝坊決定)
とりあえず昨日はお疲れ&つかの間の詠美ちゃん様気分、ということで。
>>11 増刷といっても、次回オマエモナ合わせで「終わるコミケット(完全版)」が
出るであろうことが予想されるだけに、あまり刷らない方が良心なのかなぁ、と
思ってしまったり。次回が有ればの話ですが(コラ)
#しかし、終わっちゃう団体の人が纏め買いしてった、というのはちと(^^;もん
だったなぁ。
うちらの本来のサークルの本もこれくらい売れれば良いのに、とサンデーライターさん
共々ため息付いてたり(あとおなごのファンも(笑))
なんか、2000/12/30 13:00の事件が解禁になったのに誰も書かないのは何故?
オマエモナで疲れているから?それともお互いに遠慮しているとか(笑)。
だったらわしが書いちゃうよ〜ん。
>再版
前向きに検討中。売上で印刷代は回収できてるので、
原稿を持っていけばすぐにでも再版をかけられます。
#「米沢代表に見せます」と言ってまとめて買って逝った方がいました。
#もしかして準備会の蔵書(備品?)になるのか?
#拡大集会で何かコメント付けられたりしてな。
#設営関係者も買っていたなぁ、そういえば。
2000/12/30 12:58 東京ビッグサイト 西2ホール外Eシャッター前
いつの間に集まったのか、数百人単位の人だかりができている。
この向こうには販売停止をかけられた大手サークルの1つがある。
「はい、シャッターを開けますので、皆さんシャッターから2メートル離れてくださーい」
夏コミで起きた事故を知ってか、スタッフの掛け声で群集はおとなしく少し後ろへ下がった。
シャッターの両脇には混雑を整理するスタッフ達と、厳つい装備に身を固めた複数の警備員がいる。
左隣にはポンちゃん―本名は田貫賢一というのだが―がいる。
コミケは有明になってからだが、仕事の速さはスタッフの間でも評判だ。
オレはちらりと右を見た。柱のところにいるスタッフの―いや、名前は伏せておいた方が良いだろう―がすぐ俺に気づいた。
彼はかぶっているキャップのつばを右手で軽く触り、続いて自分の左肩、左ひじの順に触れた。
『ニイタカヤマノボレ』の合図だ。
オレは同じように右手で自分の額に触れ、続いて左肩を2回軽くたたいて『了解』の合図を送った。
オレとポンちゃんは安全管理室のメンバーだった。
正しくは今もメンバーなのだが、その名簿にオレたちの名前は無い。
外された理由は「仕事の都合で参加不可」というのが一応の理由だが、
この作戦の実働メンバーとして行動することになったから、というのが本当のところだ。
その極秘裏に行われている作戦は、今まさに山場を迎えようとしている。
「シャッター開けまーす。完全に開いて、スタッフが合図をするまで動かないで下さーい」
スタッフがそう言ってすぐ、キィと金属のきしむ音が少ししてシャッターはゆっくりと上がり始めた。
「まだだ。落ち着いて行けよ」と女の子のように小柄なポンちゃんの背中に手を当て、小声で話し掛ける。
「任せてください。これでも障害物競走は得意だったんですよ」
同じく小声で返した返事は、いささか緊張している風にも聞こえた。
シャッターはゆるゆると上がっていき、ようやく1メートル程の空間が下にできた。
次の瞬間、オレはポンちゃんの背中を軽く押した。
小柄なポンちゃんは、難なくシャッター下の空間を潜り抜け館内へ消えていった。
予定ではそのままホール中央の柱附近まで駆け抜けているだろう。そしてすぐにオレも後を追う。
その時、他にも慌てて前へ出ようとするのが幾人か確かめられた。作戦は成功だ!
しかしシャッターをくぐろうとした時、床のコンクリートでオレのスニーカーはスリップした。
あっという間に後続が俺にぶつかる。拙い。このままでは潰される。
オレは何とか体勢を立て直すと、目の前にいたヤツの襟首を右手でひっ掴んで位置を入れ替わった。
右手に何かがぶつかる衝撃が伝わる。
「ひっ、ひでぇっ! 人を盾にぃぃぃぃぃっ!」
右手を離すと机の脇をすり抜け、一気にホール中央の柱まで走ったところで振り返った。
いまやシャッターは2メートル程まで開き、そこからは文字通り人の津波が押し寄せている。
シャッターに面していた机は津波に押しつぶされ、置いてあった本は宙を舞っている。
売り子は危険を感じてスペースを離れようとしたが、それは間に合わなかったようだ。
計画ではこれで終わるはずだった。しかし結果は予想を大きく上回った。
続いて押し寄せる人津波は、スペースに積み上げられていたダンボール箱をいとも簡単に弾き飛ばした。
さらに外周から2列目までの島は完全に人津波に飲み込まれてしまった。
そして怒号とうめき声があたりを支配した。
そうだ、ポンちゃんはどうした。この結果にどこかで戸惑っているんじゃないだろうか。
その時「スターッフ! 担架大至急!」と叫ぶ声が聞こえた。
声の主はポンちゃんだった。人津波に潰された島は、さらに奥のサークルにまで被害を与えていた。
「おいポン! 大丈夫か!」
「私は大丈夫ですが、この子が怪我をしています。椅子の直撃を食らいました」
ポンちゃんが抱えている女の子の額のタオルが赤く染まっている。
人津波に弾き飛ばされたパイプ椅子が、運悪く彼女の頭に落下したらしい。
「彼女の名前は?」
「琴美ちゃんっていいます。お兄さんと一緒に来てるんですけど、いま本を受け取りに行っていて…」
隣のスペースにいた女性が代わりに答えた。彼女も腕に怪我をしている様子だ。
「…おにぃ…ちゃん…」
琴美ちゃんはわずかに目を開けると、そう呟いた。
>手動筆記人さん
>琴美ちゃん萌え〜な方々
琴美ちゃんに怪我させてしまいました。スマソ。
でもこれは琴美ちゃんが出てきた頃から考えていたネタなのでなぁ。
最後の琴美ちゃんのつぶやきが
鼻につんと来た。涙ジンわり・・・うう・・・琴美ちゃん・・・
あう、それでは怪我以上のことにしようとしているオイラはどうすれば…(^^;
つーか、俺の方は年内に終わりそうに有りません(笑)
冬コミでサークル取れたのでそっちのほうに全力投球しますんで。
(一応Tripodのアカウントを取ったので、間に合わなかった分はそっちのほうに
置いとくつもりです。出来るのは来年以降ですけど)
>>21 とりあえず、↓のセリフさえ使われなかったらあとはどういう展開になっても良いです。
どーせオイラのはバッドエンディングだし(笑)
『…私は、未来を貰いました。私の、大切な友達から…』
私も再販&コミケ売り希望です。>サンデーライター様
コミケぐらいしか東京へ行けない地方在住者にも愛の手を……。
何でしたら10冊ぐらいまとめ買いして周りに布教活動(笑)しても良いと思ってお
りますが。
「終わるコミケット プロローグ版」のPDFをライターズサロンにアプしました。
ライターズサロン:
http://members.nbci.com/doujin2/ Book版とはレイアウトが多少異なりますが、中身は同じです。
A4用紙17+1枚に印刷して袋とじ製本をすると、完璧です。
ライターズサロンにも掲示板がありますので、そちらも使ってください。
お絵かき掲示板は調整中です(見られるけど)。スマソ。
再販&コミケ売り激しくキボーン。
オマエモナ01スレで頼んでいた者です。
27 :
遥か昔にいたもの。:2000/11/21(火) 02:11
オマエモナ行けなかったので、早速PDFダウンロードしたら…私の文も載ってるにゃ…そりゃそうだ…はずかちい…
日高姉妹を書いた者です…ちょこちょこ出てるようで、母として嬉しいです…
一応、本業は絵描きなので、日高姉妹の絵でも描いて、掲示板に貼り付けようかなあ…
28 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/11/21(火) 17:21
age
ステーキのあさくさ有明店。いわゆるファミレスの装飾から一歩上に行く高級感を
強調したデザインの店内に、似合う一人と似合わない一人。
「おまたせしました。サーロインステーキ、180gとライスでございます。こち
らのボッチは、お肉を押し付けますと、アツアツのままお召し上がりいただけます。
大変お熱くなっておりますのでお気をつけくださいませ」
「へえ、これが味っ子の元ネタなんだぁ!」
「あ、すみません、おねえさん、ありがとうね」
(たまにいるなぁ、ああいう反応を示すお客様)
ウェイトレスはきびすを返すと、ディナー後の清掃に取り掛かった。
「おまえさぁ、せっかくいい肉食わせてやってるんだから、ああいう反応するの控
えろよ。恥ずかしいったらありゃしない」
「センパイだって、同じ世界にいた人間じゃないですか」
「だから、だからこそ痛いんだ。分かるだろ、この感覚」
「ええ、まぁ、そりゃもう。どちらかっていうと、羞恥プレイですね」
「頼むから、そういう単語も出さんでくれ」
「まぁ、とりあえずさめないうちに食べましょうよ。美味しそうですよ」
「そりゃそうだ、東海地方をドミナントにするチェーンだが、原価率に40%もか
けているのはここだけだよ」
「ああもう、気分を台無しにするのやめて下さいよ、業界病ですよ」
じゅうじゅうと音を立てる肉に刃物を入れ始める二人。
「しかし、コミケットが終わるとはねえ。正直驚いたねぇ」
「さんざん運営批判してきた人間がそうおっしゃると驚きですね」
「あ、俺だってもともとコミケット準備会スタッフだよ、ブロック担当だけど」
「早稲田出て、ジャスコ入って、あっさり辞めちゃったじゃないですか」
「準備会スタッフでは飯が食えない」
「そりゃそうですね」
「しかしまぁ、ここまで時局が悪化した後になって言い出すのもなんだが、これは
準備会の手際の悪さが目立つね」
「なんでですか、どういうことですか」
「君もとがるね」
「センパイだって、自分のところのショッピングセンターとか批判されたら、むか
つきませんか」
「今回は貴重なご意見を賜り誠にありがとうございます。私どもでは、全てのお客
様のご意見をありがたくいただき、今後の店舗運営、店舗開発に活かしていく考え
でございます。今後も当社をよろしくお願いします」
「…また、典型的な定型文書ですね」
「定番だが、価値は永遠だ」
「で、何が良くなかったっていうんです?」
「共同幻想を維持する努力を怠った」
「げんそう?」
「今までコミックマーケットを支えてきたものはなんだと思う?」
「一般、サークル、スタッフ、3種の参加形態をもつ参加者の意思です」
「うん、その回答は悪くないな。だが、単位はとれても、Aはとれないね」
食後のコーヒーをすすりながら、話を継ぐ。
「コミケットの理念というものも、そう。準備会に対して向けられてきた信頼とい
うのもそう。50万人の参加者の中にはぐくまれてきた共同幻想が、今までコミケ
を支えてきたんだよ」
「コミケットの理念を幻想と言い出すんですか」
「かつては違った可能性が高い。だが、現状ではそうだ。幻想というほかないよ。
米やんも資本主義への異議申立という社会の空気で作った文章が、暴力的資本主義
そのものとしかいいようのないイベントの理念としていつまでも有効だとは思って
ないだろうさ。一種の修正理論だからね」
「あれだけのイベントを支えてきた情熱を否定するんですか」
「君、論理的な思考ができないな。情熱は否定しない。それはもちろんだ。という
か、人間は欲望に生きるんだよ。もっといい生活をしたい。もっと楽しいことをし
たいという欲求が我々の世界を大きく切り開いてきたんだ」
「じゃあ、なんでそんなことを」
「物事を改善していくためには現状を厳しく冷静に見つめることが必要だから」
「……」
「あれだけのイベントを維持するために、2000人からのスタッフが必要とされ
ている。一般的に組織論の見地からすれば、組織は、300人、500人、そして
1000人の規模を超えたときに大きく変質するとされているんだ。かつては、同
世代の人間のみで、つづいて、彼らの後輩たちも含めた同質の集団で行えたイベン
トだったとしても、量の拡大がそれを不可能にしたわけだ。で、異質な人間をまと
めていくために、コミケットの理念というものが必要とされた。これが、第一次晴
海期のころだね」
「センパイが準備会に顔を出したころですね」
「いや、コミケットに何も分からず行き始めた頃だ。まぁ、それはいいとして、彼
らは、スタッフ内でもいくつかの技能集団として別れていく。これが、例えば混雑
対応担当であり、入口担当であり、受付販売担当であり、ブロック担当なわけ」
「そうですね、それは私も聞いたことがあります」
「彼らは現在のコミケットの原型を作ったわけだが、その後は数の暴力に対抗する
べく、それぞれの分野で高度なノウハウの蓄積を行った。はっきり言って、現在の
コミケット準備会は、極めて高度なノウハウを保有する専門技術者集団だともいえ
るんだ」
「あれだけ、不手際が続いていると責めていた人の言葉とも思えませんが」
「あれほどの規模のイベントで、不手際の1000や2000ぐらい指摘しようと
思えばいくらでも出来るさ。彼らの凄みは、その不手際を片っ端から発見し、改善
し続けてきたということだ。例えば、有明第一回のコミケットでは、数多くの不満
が準備会に寄せられた。あの頃、スタッフにも定型に慣れすぎた弊害が出てきてい
た。慢心といってもいい。それを払拭すべく、どれほどの努力が払われたかは、君
も知っているだろう」
「はい」
「この改善能力というのは、組織の健全度を示すバロメーターだと僕は考えている
んだが、この高い能力を持つ人間を準備会に引き止めておく手段として、何らかの
報酬が必要とされたわけさ」
「それが、チケットであり、大手との交渉による取り置きだったわけですね」
「そうだ。どちらかというと、館内担当なんかが、そういうところが大きいね。あ
そこは、どちらかというと発想が流通業的なんだ。対人スキルがとても重要で、素
人をどれだけ早く訓練して、定型的な事務作業に従事させるかが問題になるからね。
一方、公共地区担当なんかは、どちらかというと発想は製造業的だね。あそこは工
数の削減とか、いわゆる生産管理技術を応用した用語が使われている」
「館内が美味しいところを独占してきたということですか」
「そうじゃない。ただ、組織規模が大きく、そして、組織特性的に、働いていた人
間に報酬を与える必要があり、しかも構成員が強くそれを望んでいたブロック担当
と混雑対応担当が合併して出来た組織だから、必然的にそうなったんだ」
「で、それが行き過ぎたと」
「うん、まぁ、そういうことだ。情報技術の発達が、かつてはひそやかな形で行わ
れてきたその取引を明るみにし、そして、組織規模の拡大に伴い、その取引が肥大
化し、更に、その取引される物品に特別な資産価値がつくという状況が発生した結
果、かつてはささやかな、一般の人間の嫉妬心をあおらない程度のものだった『裏
報酬』ともいうべきものが、準備会に対する信頼を大きく損ね、共同幻想を打ち砕
いたんだ。もちろん、そこには、こみっくパーティ以降の『新しい世代』の大量流
入が大きく影響している」
「なるほど、センパイの分析はよく分かりましたが、それに対する処方箋は?」
「それが思いつくほど頭がよければ、俺は準備会で飯を食っていけるような組織改
革を進めて、そこに入ったさ」
「じゃあ、何の役にも立たないじゃないですか。さっきの厳しく見つめる理由とも
矛盾するし」
「趣味だからね、それでもいいんじゃないか。俺は、自分の仕事はきちんとやって
いるぜ。だが、だが…」
「だが、なんです?」
「本当にそれが口惜しくてね。何とかする方法がなかったか、未だに自問自答して
いるよ。俺は、そういう方向に向かっていくのが分かって、そういうものがウザく
なって、それで、準備会から離れたんだ。だが、同人誌というものから離れて、初
めて、自分がどれだけ同人というものが好きだったかよく分かってね。一度手放し
てしまうと、なかなかもう一度取り戻すわけにはいかんものが世の中にはあるもん
だよ、なぁ、君」
「センパイ……、とりあえずどうぞ」
女性がナフキンをそっと差し出す。男は、思わず溢れ出したもので顔を濡らして
いた。いつの間にか、店内に似合わない二人がそこにいた。
34 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/11/22(水) 04:59
面白かったが長いよ。
あと表示可能行数をわきまえてくれ。
「終わるコミケット プロローグ版」の再版を決めました。
奥付以外変更は無し。よって初版第2刷ということになります。
頒布サクールは未定。頒布はあくまでもコソーリと。
まずは手動筆記人さんと相談してみよう。
表に表示可能な行数で分割するとなると、何分割すればいいやら想像がつかないで
すなぁ。とりあえず、打ち込み限界行数を探るので精一杯。ごめんしてください。
ずっとsage進行すべきなのかという迷いもあるんですが…。
長いというご批判については、フランスのある文豪の言葉を引用することで返事に
代えさせていただきます。
「私はこの手紙をいつもより長く書きました。というのも、短く書く時間がなかっ
たからです」
もっとぼやかして書いた方がいいテーマだとは思うんですが…。
あ、あと、準備会の現状分析については、かつてあったコスプレ系の情報掲示板「
真・噂掲示板」で活躍されたさいばば氏の文書を参考にしています。氏も多分ごら
んになっていると思いますので、あえて触れておきます。
虹の地球を聞きながら@三文文士
2000年12月29日 05:01 東京ビッグサイト・北1駐車場入口
動き出す、朝
「しっかし、こんな時間から幹部会議とは、遥さんも大変やのぅ…あちちちっ」
熱々のはんぺんを頬張りながら、朝倉が呟く。
「…………」
横にいる由希から、返事が返ってこない。
「…………くー」
代りに、寝息。
「寝んな、おい。むちゃむちゃ高いおでん奢らせといて、一口も手ぇつけんってのは
どーいう了見や、こら」
「…………むー」
屋台のオヤジの、苦笑い混じりの睨みも気にしない朝倉の言葉に、由希が寝ぼけ
半分で答える。朝倉は、やれやれといった風に由希から視線を外し、ライトが煌々と
照らす駐車場を、ぼんやりと眺めた。
雪は、しんしんと降り続けていた。低くたちこめた雲が全天を覆い隠し、未だに空は
暗く沈んだまま。太陽が昇るのは、まだ先の事だ。
フェンスの向こう、ライトの光に浮かび上がるように、地には無数の影。愚か者と
いう名の生き物が作ったキャンピング村が、其処にあった。無数のテントや段ボール
箱が並び、その一画をコーンとテープが隔離している。テープには、『Keep Out』と
目立つ文字が書かれていた。
更にそれを取り囲むように、警官や警備員。そして、彼らにも増して重装備な、安全
管理担当スタッフ。機動隊もかくも、と思わせるような威圧感。
「……(キツい冗談やな。まるで事件現場を保全しとるみたいや)」
そんな事を思いながら、朝倉は大根を口へと運ぶ。ちょっと固い。
「もうぼちぼち、タクシーの通りが多くなっても良さそうな時間なんだけどねぇ……」
唐突に、屋台の親父が話しかける。
「ん、あぁ。確かにJRの始発プラスタクシー組が着いてもおかしくない時間やな」
視線を湯気越しのオヤジへと戻しながら、朝倉が答える。「けど、今回は親王はんが
おいでになるとかで、検問がバリ激しいねん。それに積雪のオマケ付きやから、
そんなスピード出せへんしな」
朝倉は、卵をぱくつきながら、何気なく言う。
「今年最後の稼ぎ時と思ってたら、初日の出だしはそんなにって感じだなぁ……」
オヤジが、残念そうに笑う。「確か、今回で終わりなんだろ? この祭り」
「……あぁ。これが、最後や」
寂しそうに答える。卵の欠片を飲み込むと、後ろを振り返り、遠くを見つめる。
高架を、ゆりかもめの車両が回送されて行くのが目に入る。新橋発の始発列車だ。
今は無人の車両だが、此処へ帰ってくる時には、限界にまでコミケ参加者を詰め込んで
来るのだろう。参加者にとって、第一の戦場の内の一つ。
「……動き出したな」
つい、口をついて出る言葉。コミケットの参加者達には、なんだかんだと不評ばかり
言われ続けたゆりかもめだったが、朝倉は結構この乗り物が好きだった。。
どれだけ罵られ、時にはトラブルを抱え、それでもコミケが有明に移ってからの
数年間、重たい客と荷物を詰め込まれながら走り続けた其れが、なんだか戦友のような
気さえしていたのだ。----ただ、一般参加者に押しつぶされながら、ゆりかもめに揺ら
れた経験が無いというのも、彼に幻想を抱かせた要因の一つではあるだろう。
感慨深げに紡ぎ出された、そんな朝倉の言葉に合わせたかのように、
「……おはようございます……」
先程まで、頭を朝倉の肩に預けていた由希が、ゆっくりと体を起こした。小さな
あくびをしながら、目尻をごしごしと擦っている。でも、半分以上、夢の中。
「おはようさん……でも、ゆりかもめ君のがもっと、早起きやったな」
「……むー……?」
朝倉は、事情の解っていない由希の頭をぽんぽんと叩くと、小さく笑った。
2000年12月29日 05:05 東京ビッグサイト・会議棟 610会議室
不安予報
冷たく重い空気の中に、その者達は押しつぶされていた。
会議棟、逆三角の中にある会議室。照明こそ点いているものの、暖房は全く機能
していない。そこに、遥を始めとしたホール長クラス辺りを底辺に、準備会の幹部
スタッフ達が集まっていた。招集の電話がかけられてから、今からまだ一時間と
経ってはいない。それにも関わらず、集合時間の五時の段階で、招集のかかった人間は
一人残らず、着席を終えていた。
しかし、主役である筈の代表の姿は、其処には無かった。それどころか、正面の
席には未だ、誰一人として座っていない。
遥は、一番窓際の席に座りながら、眼下の風景を何気なく眺めていた。視界に
広がるのは、西ホール。ライトに照らされたトラックヤードのあちこちに見える
人影は、警備のための警官や機動隊員達だ。西ホールのアトリウムで親王殿下が開会
宣言をされるまで、あと五時間足らず。その警備状況は、素人目の遥にもはっきりと
解るほどに厳戒だ。
「なに、見てるの?」
不意に、遥の隣に座っていた古賀葵----東4ホール・ホール長付----が、横から
顔を出す。遥がホール長となってから、色々と世話を焼いてくれたお節介たちの一人。
「何を見てた……ってわけじゃないよ。ただの時間つぶし」
そう言って、遥は苦笑いをする。
「ふぅん。……あ、遥ちゃん、目が赤いよ?」
「……そりゃあ、眠ってないからね……って言うか、ホテル浦島組の面子は、みんな
そうだけど。全員、一階のロビーで侃々諤々とやってたし……」
更に苦笑いの度を深めながら、遥が答えた。もちろん、遥もその輪に入っていた
うちの一人である事は、言うまでもない。
「あ、私も同じ。ワシントンのロビーで似たようなことやってた」
古賀が、自分を指さしながら、にへっと笑う。
「……昨日の事件、知っちゃったら……誰だって眠れないと思うよ。少なくとも、
此処にいるみんなはね」
最後に、そう締め括って。
「……そうだね」
遥は、ただ頷いた。何を思って眠れなかったのか。それは個人個人で違うのだろう
けれど。
扉が開く音。話し声はその瞬間に途切れ、会議室に入ってくる者の足音だけが、
部屋に響いた。彼等がそれぞれの席に着座すると、もはや物音らしい物音は何一つ、
しない。その場にいる者の息づかいだけが、小さく耳に届く。そして、
「コミックマーケット59は、予定通り開催する」
開口一番、館内総統括の唐突な宣言に、静まり返っていた室内が微かにざわめいた。
斯くして、緊急幹部会議は始まった。正面のテーブルを陣取るは、副代表を始めと
して、館内総統括や統括部室長、サークル対応係統括等といった、館内担当関係を
主としたお歴々。正面テーブルに座りきらなかった統括たちも、『聴衆』達の最前列に
着席している。
そして、其処にも米沢代表の姿は無かった。
室内のざわめきが一段落したころ、スタッフの一人が挙手をして立ち上がる。
「……昨夜の乱闘事件が、今回の開催に何らかの影響を及ぼすのは必至だと思うの
ですが、その点は一体……?」
その場に集った『聴衆』達の全員が持っていた、不安である。
逮捕者が出た。それも、会場内で、サークル参加者という純然たるコミケットの
参加者が加害者として起こした、大規模な暴力事件で。本来なら、いつ中止命令が
飛んできてもおかしくない状況の筈だ。事実、この場の半数以上のスタッフが、
最早コミケット59の開催は無い、と、覚悟を決めてきていた。音の途切れた部屋に、
総統括の言葉が響く。
「昨日の乱闘事件とは、一体なんだ?」
質問をしたスタッフが、思わず息をのむ。再び、室内をさざ波のようなざわめきが
走った。
「乱闘事件など、はじめから存在しない。印刷や宅配関係の業者が自らの不注意で
怪我をしたり、軽トラが急ハンドルで横転したという、些細な事故はあったがな」
言い含めるように、さらに言葉を被せる総統括。
「野次馬のサークル参加者が騒いだために、その場にいたスタッフが何か勘違いをして
警察に通報してしまったようだ。有らぬ誤解を招いたことは、遺憾に思う」
「……遥ちゃん……どういう事?」
古賀が、眉を曇らせながら呟いた。
「……無かったことにした訳よ。昨日の事件をね」
遥は無表情に正面を見据えたまま、そう答えた。もっとも、そんな事が準備会の
一存だけで行える筈もない。
先日、都内で予定されたジャンルオンリーの即売会が、当日になってから中止に追い
込まれた。理由は、一般参加列で起きた些細ないざこざ。それを見て不安に思った
住民が警察に通報すると、直ぐに警官が駆けつけて来て、参加列を散らしていった
のだ。そして、有無を言わさずイベントを中止させた。参加サークルも頒布用意が
調い、あとは五分後の開場を待つだけの状態だったにも関わらず。
秋の池袋の事件以来、警察----いや、世間そのものと言ってもいい----の即売会に
対する視線は、厳しさを増す一方だった。自分の我欲をコントロールできない大人達が
大量に集まる、それが同人誌即売会。そういうレッテルを貼られたイベントに、最早
多少のトラブルのお目こぼしすら、期待するだけ無駄というものの筈だった。
その警察にまで手を回して、明らかに事件性のある乱闘騒ぎを握りつぶすことが
出来るのは、誰か。それを行える機関なり人物といえば、かなり限られる。だけど、
何故? どんな理由があって? 何のメリットがあって、この最後のコミケットを
行わせようと言うのか……?
遥は其処で、思考を停止させた。この件でこれ以上考えるのは、遥達コミケスタッ
フに取って無駄な事だ。コミケット59は、開催される。それが決まった以上、他に
考えなければいけない事は、山のようにあるのだから。
「この件に関しては、西ホールの地区長代行以下数名が、湾岸署に出向いて説明を
行っている。諸君も、この件に関する対応は私が今言った通りで、宜しくお願いする」
最後に、館内総統括がそう締め括り、一同を見渡した。その視線の鋭さに、皆が
言葉を失ったかのように静まりかえる。
「……引き続き、サークル対応係統括から、緊急連絡を伝えます」
総統括の隣の男が立ち上がり、机から書類を取り上げた。
「先日の午後、コミケ新刊を積んだパリカン便のトラックが、首都高で事故を起こした
のは、皆さんご存じのことと思います」
「……」
沈黙。誰一人、口を開こうとはしない。この事件では死者も出ている。軽々しく
言葉にすることは、流石に躊躇われた。
「亡くなられた方には、謹んで哀悼の意を……えー、今回の事件では、計三台の
トラックが炎上、大破しており、その貨物である新刊の梱包の殆どが消失しました」
そして、この件がきっかけとなって、昨夜の『事故』が起きた。一つの悲劇から、
次の悲劇が生まれたのだ。願わくば、これ以上の悲劇の玉突きだけは、何としても
起きないようにしなくては……そう、堅く心に決めた者は多い。
しかし……悲劇の誘発は、まだ始まったばかり。
「……これにより、多数のサークルで予定搬入量の減少という事態が発生しています。
事故を起こしたトラックの内、10t二台が主に西地区、10t一台が東123地区の
梱包を積んでいたため、それらの地区ではかなりの混乱が予想されます」
統括の言葉に、西と東123地区の担当者から、悲鳴にも似た嘆きの声が漏れる。
「被害サークルは殆どが大手、男性向けに集中しています。彼らが新刊を売り切れば、
一般参加者はまだ売り切っていないサークルを求めて大移動するでしょう。西から
東へ、また、東123から東456へ。後で、公共地区担当総括から説明が----」
遥は、先ほど配られた手元の資料に目を落とす。各ホールの新刊搬入数、搬入率の
数字から見て、東456地区の混雑のピークは、恐らく午後一時前後。そこからは、
断続的に混雑が続くだろうと予想する。西と東123のトラックヤードに並んでいた
大手買いの参加者が、東456に集結し、一日目閉会まで人波が途切れることは無い。
「……随分とキツい状況ね」
遥は小さく苦笑いをこぼした。
2000年12月29日 05:32 東京ビッグサイト・会議棟 609会議室
駆け上がる螺旋
「……以上、今朝の緊急幹部会議の報告を終わります」
「うん、ご苦労様」
「…………いよいよ、最後の祭りが始まるな」
「あぁ」
「……これで終わりか……」
「……何故、コミケは今、終わるんだ?」
「コミケットと僕たちの関係を、もう一度見つめ直してもいい時期だと思ったからさ」
「そうだな……懐かしむなんて柄じゃないが、昔に戻りたいと思うことは何度と
なくあったよ。コミケという円環を、しっかりと守ることが出来たあの時期にな」
「有明にきてからだね……急激な変化に着いていけなくなり始めたのは」
「企業ブース、小遣い銭稼ぎのプロ作家に、大量生産の萌えキャラ……馴染みすぎ
たんだ、コミケットにな。そいつらを目当の参加者が、グッズや商業誌を買うのと
同じ感覚で、見栄えだけはいい同人誌を漁っていく……」
「新たなものが生まれすぎたんですよ、ここ数年で。あくまでも、主役は創作
物を紡ぐ全てのアマチュアサークルだという、コミケの理念を揺さぶるほどの
勢いで」
「変わっていったのと同じだけの時間……元に戻していくための時間が必要という
事だろう。コミケが開催し続ける限り、其れは出来ない相談だ。だからこその
『一時休止』と言う訳か」
「……コミケに新たな流れが入れば、それを新たなコミケットとして考えれば
いいのではないですか? 同人そのものにしても、一つところに形をとどめ、
何も変わらない世界という訳ではないでしょう」
「準備会は変化をを黙認しつつ、其れを必ずしも是とはしてこなかった。今までも
そうだったし、これからも変わりはない」
「前進のない停滞は、やがてコミケットを、引いては同人自体を滅ぼしますよ」
「……コミケットに新たな何かを取り込むには、相応の痛みが伴うだろう。その
痛みは、或いは既存のコミケットを壊してしまう程のものかも知れない。だが、
それを恐れるあまり、新たに根付こうとしているもの全てを否定していいのだろう
か? よりよい姿に変わっていく可能性もあるというのに」
「コミケ創成時から共にやってきた仲間の言葉か、それが。……我々は二十五
年間、コミケがコミケのままで有り続けることを望んで、今日までやってきたん
じゃないか。それを----」
「しかし、此処にいる誰もが、今の閉ざされたコミケットに満足していない。あんた
もだ。違うか?」
「……」
「俺達だけじゃない、参加者の多くも、そう感じているはずだ。この閉塞したコミ
ケットを、何とかしなくてはいけない、とな。あんたはより慎重で、俺はより積極
的……それだけの違いだ」
「今のコミケットを保ち続けるのは、単なる停滞に過ぎません。停滞を続ける
だけでは、我々に未来はないですよ。私たちは、自分の手で未来を閉ざしている
のではないでしょうか」
「……」
「コミケットを維持するのではなく、コミケットを広げていくために、新たな
力を積極的に手助けしていく。確かに、今までのコミケットにはなかった考え方
でしょう。ですが、今までにない考え方だからといって、頭ごなしに否定できる
とは思わないんです」
「そう考えて、思い当たったんだよね。コミケットと僕たちのあり方を、もう一度
見つめ直すのも悪くないとね」
「今までと同じ、ただ維持するだけの営みを、これからも続けて行かねばなら
ないとは思えないのです。うまく言葉に出来ませんが、もっと違ったやり方も
あるのではないかとね」
「……お前達は、自分の言っていることを理解しているのか? それは我々
準備会……いや、即売会、そして同人全体の有りように問いかけを発しようと
しているんだぞ?」
「閉じた円環は、停滞するだけなんだよね。……僕たちは長い時間、近代同人を守ろう
とし続けてきた。今までの四半世紀は、其れで良かったのかも知れない。だけど、次の
四半世紀も同じようにするのが最良ではないかも知れない。コミケットを、同人の変化に合わせて、大きく変えていく可能性を探すのは、悪い事じゃないよ」
「俺達は二十五年の間、円環を保ち続けてきた。そのあり方をもう一度考えるに、
十分な時間が流れたのは確かだ。新たな可能性を探ることも……必要なのかも知れ
ない」
「……二十五年の時が巡り、読み手やサークルの壁を越えて、多くの者が同人の
在り方を思索しようとしている。……だが、まだ誰も、確たる答えを得ては
いない。どれほど思索を巡らせばいいのかも解らない。今と違った同人の在り方を
見つけられるかどうかも解らない。それでも、お前達は考えたいというのか?」
「僕たちには、時間が必要なんだ。同人の在り方に思いを巡らせる、ね。あらゆる
参加者達の言葉を聞いて、今までのコミケットの姿を見極める。それでなお、新たな
同人の姿に可能性を見出すなら……」
「……」
「その時こそ、新たなコミケットを始めよう」
「……私はそろそろ総本部に戻らないといけない時間ですので」
「うん、解った。悪いね……僕が居ると、色々な混乱を招くと思って身を隠したわけ
だけど、其れによってまた別の混乱を、君に押しつけることになってしまった」
「構いません。それで、この最後のコミケットが、より円滑に進むので
有れば、私は喜んで忙殺されますよ」
「最後の、ではないよ。あくまで、一時休止だ。忘れちゃ駄目だよ」
「はい……それでは、失礼します」
扉が閉まる。彼以外に人の気配のない廊下。扉を背に、暫く中空を見つめていた。
溜息を一つ。そして、歩き出す。
「……ご老体共の戯れ言だ……耳を傾ける必要など、最早どこにもない」
小さく呟く。まるで、自分自身にそう言い聞かせるような口調で。そうでもしない
と、自分自身がその言葉に絡め取られてしまいそうな、そんな気がして。
『彼等と自分は、確かに同じものを見ていた』
だが、その道は、もう交わることはない。未だに幻想から覚めやらない彼ら重鎮と、
同じ道を歩くことはないのだ。そう、しっかりと暗示をかける。
コミケットは、完全に終わるべきだ、と。
我ながら、とんでも無い異論だとは思う。しかも、準備会の上級幹部の身で有れば、
尚更だ。
「……何時から、俺はこんな異端者になっちまったかな」
呟きと共に吐き出された白い息が、後ろへと流れていく。エントランスホールへと
下る、長い長いエスカレーターの上に立ち、独りごちた。
ふと、ガラスの向こうを見渡せば、既にエントランスプラザを埋め尽くした、西側の
入場待機列。そして、こちらでも彼らを取り囲むように、警官や安全管理担当の
スタッフ達が見て取れる。
あぁ、そうか。彼は思い当たる。"あいつら"が、安全管理担当という部署を捏造して
からだ……。
言葉による注意だけでは、モラルどころかルールすら守らない参加者が増えたのは、
事実だ。毅然とした態度----即ち強制力----で彼等に立ち向かうことが出来ればと
思ったことも、確かにある。
しかし、力で押さえつければ、人は憎しみや嫌悪を募らせていくだけなのだ。
それは、押さえつけられた本人以外にも、急速に伝播していく。例えその力が、
どんな正論で飾られていたとしても。
仮に、そうやって排斥しても、不良参加者達はまたイベントに舞い戻ってくる。
スタッフの目をかいくぐる新たな知恵と、スタッフ達への負の感情を抱いて。
同人は、狭い世界だ。何度だって、彼らと出会っていかなくてはならない。
そして、即売会はコミケだけではない。安全管理担当のような部署を持ち得ない
それらの即売会に、コミケで手負いにした不良参加者をを解き放つことになる。
確かに、コミックマーケットは世界最大の同人誌即売会だ。ある意味、同人における
デファクトスタンダードと言ってもいいだろう。だからと言って、何をしても許される
のか。準備会は、同人において無条件な正義なのか。
「そんな訳は無い」
男は、無意識のうちに呟く。
……俺達は、あくまで言葉という『表現』で、彼等に語らなければならないんだ。
同人イベントの長、あらゆる表現の担い手……コミックマーケットがその努力を放棄
するなぞ……あってはならない筈だったのにな。
男は、解っていた。安全管理担当を承認した連中が守りたいものは、『自分たちの
居場所であるコミックマーケット』でしかないことを。同人や、それを育む参加者
達の事など、露程も考えてはいない。
サークルと読み手の邂逅を手助けする。その理念を忘れたコミックマーケットに、
もはや未練など、感じよう筈もなかった。
「秋月さん」
エスカレーターを降りきったところで、男の直属のスタッフが待っていた。
「どうした」
「館内担当、及び安全管理担当の統括部から、西地区で不穏な動きがあ----」
男は、それ以上の発言を、片手を上げて制止する。
「誰が聞いているか解らん。詳しくは別室で聞く」
「は、はいっ」
男は、西地区アトリウムへと続く通路を軽く一瞥すると、背を向けて、東地区への
総本部へと歩みを進めた。
男の名は秋月耕平。館内担当総統括を務めている。
2000年12月29日 06:32 東5ホール詰所
終わりの始まり
「おはようございます!」
東5ホール館内担当、一日目総勢八十八人の前に立ち、遥が大きな声で挨拶をする。
「おはようございます!!」
大きな声で、挨拶を返すスタッフ達。冷たくざらついた空気の中、白い息が天井へと
舞い上がっていく。ホール内に暖房が入るのは、もう少し後のことだ。
「えー、雪にも検問にも、お巡りさんのボディチェックにもめげず、よく集まって
くれました」
あちこちから笑い声。
「えー、三拡以来のご無沙汰です。最初で最後、東5ホールのホール長を押しつけられ
ました笹島です。どうぞ宜しくお願いします」
遥が、ぺこりと頭を下げると、一斉に拍手が巻き起こった。
「女性ホール長ゆーのも、最初で最後やな。まぁ、頼りなさそうに思えるかもしれへん
けど、実際頼りないんで、しっかりフォロー宜しゅ----あ痛ァっ!」
横からの朝倉の茶々入れに、すかさず手に持っていた書類を丸めて、二発ほどどつき
を入れる遥。
「とまぁ、ふざけた仕事をしてたり、さぼってたりするスタッフや、朝倉君を見かけ
たら遠慮なくどつきますので、精々頑張って自分のお仕事して下さいね」
「ちょい待ちっ、ワイは無条件でどつかれなあかんのかいっ」
珍妙な二人のトークに、再び笑い声があがる。
「まぁ、掴みはこれくらいにして……本日の天気は、朝方までは雪。その後は閉会まで
曇りだそうです。なお、今回の全導線は雨シフト対応と言うことになりますので、
頭に入れておいて下さい。あと、トラックヤードの雪がお昼までに片づかない場合は、
犬と鳥の受付も雨シフトになりますので、案内をお願いします。ガレリアの東4側が
パリカン、東6側がフットワークになります。それと----」
「あ、すんません。ぼちぼち外周ブロック打ち合せがあるんで、抜けさせて貰います
よって」
朝倉が、手を挙げて遥の朝礼を遮る。
「解った。東456地区の外周ブロ担全体朝礼があるので、シブロック担当のスタッフ
さんは朝倉君について移動して下さい……場所は外周テントでいいの?」
「入場前から雪まみれにする気かいっ。見本誌部屋ですわ」
「ということだそうですので、宜しく。あと、サークル入口担当もそろそろ用意を
始めてくれるかな。スケジュール、多少前倒しにするかも知れないから」
指示を受けたスタッフ達が、床から腰を上げ始める。
「あと、今から移動していくみんなに、最後に」
遥が、凛とした声で呼び止める。
「……これが、最後のコミケットです。此処に来る参加者達は、数の上でも、意気
込みでも、過去のコミケットに比べて確実に勝るでしょう。同じように、スタッフの
みんなにも、数でも、規模でも、今まで以上の危難が降りかかると思う……」
その場のスタッフ達が、緊張のあまりに息をのむ。
「でも、負けないで。あなた達は、終わるコミケットという、ある意味危機的な状況
にも関わらず、それを承知でスタッフになった……酔狂だけど、やる気と自信と根性を
持った人達だから、きっと大丈夫だと信じています。『全ての人が楽しいコミケットの
進行』というのが、初日の目標……無事に目標を達成して、此処に居るみんなが
笑顔で、一日目の終礼を迎えたいと思います。いってらっしゃい、頑張って」
そう言って、にっこりと微笑む遥。そして、その直後に、歓声。
斯くして、一日目の幕が上がる。
……随分とご無沙汰です;。ちょっとスランプに陥ってた上に、コミケ合わせの
本の原稿に追われていたりで……。
えと、『駆け上がる螺旋』前半の台詞部分に関しては……勘弁して下さい、色々と;。
>終わるコミケット・プロローグ版
ほぼ完売&再販おめでとうございます。オマエモナにはちょっと逝けません
でしたが……もし冬コミで再販があるのなら、是非とも記念に買い求めたいと
思います(笑)。
しかし……何時の間に2ちゃんねる、こんなに行数制限が厳しくなったんでしょう。
不便です(泣。おかげで、切りの悪いところで分割されてしまってます。
読み辛くてごめんなさい;。
あぁ、また改行ミスってるよ……(滂沱
53 :
Jr:2000/11/22(水) 19:49
2chでは、料理板の思い出に残る食事スレッド以来、かな。
正直に、白状します。俺、さっきまでi286さんの文を読んで、
ディスプレイの前で泣いてました。
つーか……読んでて、自然に頭の中に映像が流れてくるんですよ。
このスレッドを知っていて、マジで良かったと思った、ある晩秋の夜。
……i286さん。なんと言うか、もぉ、見事に撃沈されたって言う感じです。
その内容の素晴らしさにも、そして、やろうとしていたネタを先読みされて
いたって言たと言うか、これから徐々に語らんと使用としていた部分を呈され
てしまったと言う部分にも……。
果たして、「体制暴力装置」を欲する「体制」とは何か?
力は誰が為に?
少なくとも「総本部安全管理室」が準備会機構に付け入り、成立してしまっ
た背景の一つを見事に描かれてしまいました。
今後のことついては、あと少しだけ時間を頂戴して、迫りくる時と相談しな
がら考えてみようと思います。
#長文、失礼しました。
55 :
中華娘:2000/11/22(水) 21:55
箸休め@終わるコミケット異聞
〜たくましカシマシ娘〜
安全管理班は逝ってよし!
1名前:コミケの行く末を憂うもの投稿日:2000/8/25(金)23:32
威圧的な扮装と、理不尽な実力行使によって参加者に不安感をあたえ
恐怖による統制を行わんとする、暴力集団「総本部安全管理班」
を糾弾するスレッドです。
2名前:名無しさん@お腹いっぱい
糞スレ決定
〜〜〜〜〜〜終了〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3名前:教えてくん
てか、あんぜんかんりはんてなに?
4名前:名無しさん@お腹いっぱい
なんか、あたしもよく知らないけど黒い軍服みたいなの着た
スタッフの事だよね。
5名前:名無しさん@お腹いっぱい
友達のサークルがさ、台車荷崩れしたときに
そこの人に助けてもらったんだけど
超かっこいい人だったんだって。
黒ずくめ軍服もえ〜
56 :
中華娘:2000/11/22(水) 21:56
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
103名前:管理班萌え
てかやっぱ、隊長総受け?
104名前:>95
夏に踊る系の大手で、管理班本出してる人いたよ〜
105名前:95>104
マジですか?!カップリングとか分かります??!
うわー、超読みたい!!
106名前:名無しさん@お腹いっぱい
冬に管理班本出そうかな・・・
でも、これって生物ジャンルにはいるの?
翌日、パソコンを立ち上げると真っ先に2ちゃんをひらき
昨夜立てたスレッドをざっと読んだ1は
キーボードに顔面を突っ込むと、低くうめいた。
彼が期待していた、安全管理班を糾弾する同志のレスは
かけらも見当たらず、あるのはただひたすら
彼が常日頃見下してやまない、同人女たちによる
安全管理班ヤオイネタ書き込みだけだったからだ。
げに恐ろしきは同人娘、彼女達の手にかかれば
どんなものでもラブラブホモ天国へと変貌するのであった。
合掌。
57 :
中華娘:2000/11/22(水) 22:00
なんか、名無しさんi286氏のすばらしい作品のあとに
こんなんで申し訳ないですが、箸休めということで
コミケット終了が発表される以前の、某掲示板での
安全管理班をめぐる一幕でした。駄作すまんです。
58 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/11/22(水) 23:00
59 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/11/23(木) 00:52
久々のi286氏の作品、待ちに待っていました。
ホントに感動モンですわ。
なんてーかもう、このスレは暇つぶし感覚で読めなくなっちゃいました。
名だたる各作家さんの名前を見つけた時は、PCの前で姿勢を正して読む事にします。
各作家の皆様方、自分はROM専門ですが心より応援しております。
このスレを読んで、自分の文才の無さに歯噛みする晩秋の深夜に・・・
駄目だ、俺も詩のうかと思うくらい鬱。自らの文才のなさを恨みますが、ないもの
はいくら探してもないので、仕方なくもこのまま転がりつづけます。
ろーりんぐすとーんなわけです。
しかし、駄目ですね、秋月総統括といわれようとなんだろうと、館内担当総統括っ
て言われると、ガラスの腰で、オールバックな某閣下を思い出さざるを得ません。
これから自分が書きたいことをあげておきます。これだけはどんな手管を使ってで
も完成させるつもりです。
1:「サンシャインシティとレヴォ準備会にとって涙すべき15分間」事件をしっ
かりと書ききること。今、友人総動員して、1000人以上に大怪我をさせるため
の工夫を考えています。
2:混対系スタッフ達の悪戦苦闘を描くこと。じぶんの感じている参加者の変動を
シャッター前のあの緊迫した10分間を描くなかで映し出したい。
3:13時の事件についての、スーパーバッドエンディング。それこそ、コミケッ
トあるいは同人誌即売会という言葉が、何とか真理教クラスのタブーとなってしま
うクラスの。
4:午後4時の拍手の嵐、その中に身を置いたら、誰よりも行列作る、少年よ大手
になれ♪、まぁ、これは冗談な歌なんですけど、C59の閉会を描きたい。自分の
中でまだその画像が出てきていませんけど。
5:この世界のブロッコリーの背景にいる巨大商社、菱井コーポレーション文化情
報事業部(仮)みたいな、そういう存在を描きたい。
くじけない諦めない手と足を休めない限り必ず目指すところへたどり着ける@三文文士
12/30 A.M.6:32 JR南浦和駅・京浜東北線上りホーム
人のまばらなホームに、白い吐息が舞った。
階段を下りた雅人と佳織は、そのままホームの端の方へと移動した。
先程とは違い、人の姿があまり無い場所…そこで、雅人は足を止めた。
「……不吉、だな」
「え?」
空を見上げて呟く雅人に、佳織が聞き返す。
「いや、この空模様がさ」
雅人は佳織を見ることなく、静かに言った。
灰色……いや、黒に近い空。
そして、白い雪がホームの光を受けて静かに降り続けている。
「今までのコミケで、こんな天気見たことないもんね」
「それだけじゃなくてさ、なんか、こう……不気味なんだよ」
明らかに不安とわかる、雅人の口調。
「な、なに言ってるのよ。雅人って、そんなゆに恐がりだったっけ?」
「あのなぁ」
「とにかく、最後のコピー誌も仕上がったんだし、そんな意気込みじゃ売れるものも売れ
なくなっちゃうよ」
「……まったく、お前ってほんとお気楽だよなぁ」
「へっへー、これが私のとりえだもん」
「とりえっていうか、天然だろ」
「ひ、ひっどーい!」
怒る佳織の姿を見て、雅人は苦笑いを浮かべた。
「……あんがとな」
「え?」
「いや、なんでもない」
そう言いつつ、雅人は佳織の頭にぽんっと手を置いて、
「あわわわっ!」
ぐりぐりと一気に髪の毛を掻き乱した。
「へっへっへっ」
「ちょ、ちょっとなにするのよ! せっかく昨日セットしてもらったのに〜」
佳織は雅人の手を払いのけながら、頭に手を当てて髪をそっと直し始めた。
「ふーん、お前もいっちょまえにおしゃれするようになったんだな」
「私だって、女の子ですからね」
わざとらしく言う佳織。
確かに、服も結構整えてあるし、わずかにだが化粧も施してある。
雅人はそんな彼女を見て、少しそっぽを向いた。
「あれから、もう5年か」
「何が?」
「俺が告白してから」
「ああ、あの変な告白」
「あれ、そんなに変だったか?」
「十分変だった」
苦笑しながら、佳織は雅人の脇腹をつついた。
5年前……晴海コミケ時代。
当時まだ中学生だった雅人が、サークル設営中に佳織に告白したことがあった。
『永瀬』
『うん?』
『一緒に、合同誌作らないか?』
『いいけど、いつ?』
『……ず、ずっと』
『は?』
こんな言葉で伝わるわけがなく、佳織が軽くあしらったことで雅人の生涯最初の恋は崩
れ去った。
それが告白だと佳織にわかったのは、つい昨日、コピー製本で無駄話をしている時のこ
とだった。
「オタク一筋だった辻原が恋心持ってるなんて、誰が気付くっていうのよ」
「あのとき一緒にオタク一筋だったお前」
「……私はあっち一筋だったんだから、尚更気付くわけないじゃない」
仏頂面で答える佳織。
「ま、そりゃそうかもな」
「肯定されるのも、なんか癪にさわるわね」
「でもまあ、昔のことだし」
そう言い、雅人は佳織に背を向けてゆっくり歩き出した。
「今は、お互い別の道にいるもんな」
「放送局と、工業の専門学校。確かに別々ね」
「それに、今や片方は誰かそばにいてくれるし」
「辻原も、早く誰かいい人見つけなさいよ?」
「余計なお世話。
まあ、俺たちもまだ幼かったってことか」
「ふふっ……そうかもね」
「俺たちも、あれからお互い変わったしな」
「変わっちゃったよね」
「ああ。
俺たちのまわりも……ずっと、変わらないと思ってたコミケも」
「時代って、動いてるんだね」
「そういうものなんだろ、実際。
始まりがあれば、終わりがある。いくら信じていてもな。
コミケが終わらないなんて、ただの幻……永遠なんて、どこにもなかったんだ」
「寂しくない?」
「寂しくない……って言ったら、嘘になる。でも、時代の流れに逆らうことはできない。
俺は素直に、その流れに身を任せるよ」
「随分、悟ったこと言ってるじゃないの」
「へへっ、おかげさまで。
まあ、お前がいろいろ言ってくれたからだけどな」
振り返って、笑う雅人。
だが、その目尻には溢れそうになった涙が光っていた。
「永瀬は……お前はどうだ?」
しばらく、お互いの間に沈黙が流れる。
「私も、寂しいよ。
いろんな人に出会えたし、一緒に遊んだりしたし……コミケは、同人誌はこんなに広い
世界なんだって、教えてくれた場所……だもん……」
今までの事を思い出したのか、佳織の瞳はだんだん潤んできていた。
しばらく言葉が途切れたあと、佳織は再び口を開いた。
「確かにね、いろいろなことがあったよ……喧嘩してジャンルを離れたこともあったし、
私自身、他人のことを疎ましく思ったことがあった。だけど、それを清算してくれたのも、
コミケっていう場だったんだもん。いきなり『終わる』って言ったって……実感、沸くわ
けないじゃない……」
流れ落ちる涙を隠すように、顔を伏せる佳織。
「本当にコミケが終わるなんて、信じられないよ……
また来年もあるって、どうしても考えちゃう。来年の新刊、どうしようかって考えちゃ
う。ほかの即売会合わせじゃなくて、みんなコミケが中心……おかしいよね、未練がまし
いよね」
「…………」
ついこの間、愚痴る雅人をなだめた時とはまったく反対の姿だった。
「ねえ……本当に、コミケが無くなっちゃうのかな……
どうしても、忘れることなんてできないよ……」
今まで、雅人が聞いたこともない涙声で、佳織は呟いた。
そんな佳織に、雅人は彼女の頭に左手を乗せた。
「今は、それでもいいんじゃないか?」
「……?」
「毎年あったんだからな。今すぐに終わるのを実感しろっていうのが、無理なことだろ。
ま、そのうち慣れるかもしれないし、それに……」
「……それに?」
「それに、まだ今日があるし」
そう言いながら、自らも右腕で涙を拭う雅人。
「まだ、コミケは終わらない。
今日、一日が残ってる。もしかしたら、それが未来に繋がるかもしれないんだ」
その言葉に、しばらくして佳織は小さく頷いた。
『間もなく、3番線に大船行き電車が参ります……』
スピーカーから流れるアナウンス。
それを合図に、雅人は佳織の肩をぽんっと叩いた。
「さあ、最後の祭りへの招待列車が来るぜ。今日は一段と混んでるんだろうなぁ」
「…………」
「行こうぜ、永瀬」
「……うんっ」
その言葉に、佳織は涙を拭って顔を上げた。
いつも通りの、満面の笑み。
二人は笑い合うと、やってる電車のほうへと向き直った。
そして、
『終わり』が、始まった。
長くなってしましまいました……どうもすいませんです。
今朝は厳しい寒さでしたね。おかげで、冬コミ当日をイメージして書けました。
もしかして、このまま行くとコミケ当日は雪?
そうなったら……怖い(苦藁
>名無しさんi286さん
やられました。正直、遥のスタッフたちへの言葉は、頭の中でイメージが浮かんだほどです。
凛とした声っていうイメージがあって……なんか、涙が出て来ちゃいました。
本当に、最後……そういう悲壮感も漂ってきますね。
「終わるコミケット プロローグ版(第2刷)」を本日入稿してきました。
冬コミで頒布します。内容変わらずA5/36P/200部/200円です。
あ、表示の刷色をちょこっと変えてみました。
長文ウザイ上に重いからテレホ開始3、4時間はsageてやってくれよ。
自分のスレだけよけりゃいいってもんでもねーだろ。
どーしても自分の書いたの見て欲しいなら昼間に定期ageしてやるから。
サイトひとつ立ち上げれないんかねえ。
2ちゃんねるでやることに意味がある。だから
>>55-56
まさに待ってましたって感じ(笑)
>>68 あぁ、欲しい・・・
200部スタッフはつらい数だ・・・
72 :
71:2000/11/24(金) 16:09
なんか最後の文章が変だ。
「200部はスタッフが買いに行くにはつらい数だ」です。
2000/12/30 07:21 東京ビッグサイト アトリウム
昨夜から降り始めた雪は、一向に止む気配を見せない。
大雪注意報は、先程見た天気予報では警報に格上げされていた。
アトリウムも暖房が入ってはいるが、人気が無いからか寒く感じる。
「麻衣子さん、これを使おう」
そう言って靖弘が渡したのは誘導棒、いわゆるニンジンだ。
「なんかニンジンにしては大きくないですか?」
普通のものは60センチ程度だが、これは90センチ位はある。
「うん、搬入部の連中が余りをよこしたらしい。でもほら、こうやって…」
靖弘は誘導棒のスイッチを入れて体の正面で構えて、数回斬りつける動作をやってみせた。
「ほら、ライトセイバーみたいだろ」
「もうー、長モノは禁止なんですから、スタッフ自らルールを破らないように」
そう注意する麻衣子に靖弘は「へーい」とおどけて答えた。
ちょっとした沈黙の後、二人の口から笑い声が漏れ出す。
「なんか全然緊張感が無いわね〜」
「ま、いいんじゃないの? 最後だからってそんなに気張らなくても」
「そうね。みんなが楽しく過ごせていい思い出ができれば、それで十分じゃないの?」
「今日は雨シフトだから、ここも人で埋まるんだろうなぁ」
靖弘はそう言うと、ガラス屋根に降る雪を見上げた。
「もっともコミケであれば、晴れでも人で埋まってますけどね」
「おっと、まったくもってそのとうりだ。こりゃ一本とられたな」
アトリウムに2人の笑い声だけがこだまする。
時計はまもなくサークル入場開始時刻を指し示す。
74 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/11/24(金) 16:42
>>71 コミケスターフやってる方ですか?
当日どのくらい出るか分からないんですけど、取り置きも考慮します。
せいぜい10部が限度ですが。
>>72 おそらく頒布部数は100×2サクール。
どちらも50部売れたら諸手挙げて万々歳なサクールなので安心です(笑)
>>サンデーライターさん
現在ニウマシンSetup中なので、今晩にでも頒布計画についてのメールを送るナリ。
(前倒しでモバギMC/R450買っちまっただよ。執筆スピードUpのために(笑))
77 :
71:2000/11/24(金) 17:24
>>75 コミケスターフやってます。
ただ自分は取り置きとか好きじゃないからいつも関わってないんですよ。
もし、自分がいるホールだったらしてお願いするかも知れませんけど(苦笑)
このスレが立った当初から読んでて
時に笑ったり、時に泣いたりしたからどうしても欲しいんですよ。
>>76 もし差し支えなければ、メールでサークル名とかを
教えていただいてもよろしいでしょうか?
>>71=77
頒布サクール名などは今のところ「未定」ということになっています。
「心当たりがある」段階です。
決まり次第このスレで告知していく予定です。
79 :
ながらを巡る冒険:2000/11/25(土) 01:05
お目汚しぢゃが、このスレ萌えなのでちと書いてみました。設定はヲタ御用達
の夜行快速をめぐる話って事で・・・。
なお、あくまでもフィクションですのでそんなにつっこまないで下さいね
(笑)。>コード69の皆さん
***********
11月20日 午前9:00 NR東日本東京支社東京車掌所
今年車掌のになりたての太田は年末の勤務ダイヤを見て愕然とした。最後の
コミケと言うのに、この12月30日に乗務が入っていたからだ。
「ああ、折角休暇届出したのに・・・。宇津出汁能生。・・・ん?65仕業か
ぁ・・・。あ、これは『ながら』で明けて終わりだな。」
太田は、鉄道系サークルでは知らない人が居ないと言われる「日鉄研」のメン
バーであり、今年の冬コミにもスペースを取っていた。いわゆる「鉄コラ」を
しながらも、かなり手厳しい本を作る事で知られているサークルだ。
「太田、今年で最後なんだろ。お前らの作る本は結構上役にも知れているから
な。折角だから楽しめよな」
指導車掌の村崎が太田に声をかけた。
「はい、ありがとうございます。けど・・・、この日の『ながら』って噂では
相当凄いらしいって聞いたんですけど、本当ですか?」
太田は村崎の顔が曇るのを見逃さなかった。
「ああ・・・、確かいつだか忘れたが、ある旅行会社が丸々一両を貸し切って
な、車内にコーンを置いて大宴会をやったって言うんだ。その日はたまたまオ
レが乗務していたんだが、熱海から自由席の9号車でそれをやられたので、お
客さんから相当の苦情が来たらしい。確か・・・、コミケって言ったよな。最
後のコミケなだけに本社の連中は早速対策チームを組んだよ。その中で、お前
がコミケに参加しているって言う話が出て、それならばって事で乗務担当に回
った訳だよ。・・・分かるな、この意味が。じゃ、オレはこれで帰るわ。原稿
落とすなよなぁ。」
まだ、この時には誰もが「あの大惨事」が起こるとは思っていなかった。いや
、誰かは起こると思っていたかもしれなかったが、せいぜい有明で起こると思
っていただけかもしれない。
80 :
ながらを巡る冒険:2000/11/25(土) 01:12
30行制限を忘れていた・・・。
次からは何とか制限範囲で書き込みます(汗。
81 :
ながらを巡る冒険:2000/11/25(土) 01:26
11月29日 午前8:55 NR東海ツアーズ名古屋支店
「なお、本日は12月29日発の『ながら』売出の日です。売出
時間帯には回線のレスポンスが相当落ちるかと思いますが、その
点考慮に入れた操作をお願いします。以上、朝礼終わり。」
・・・まったく、同人さんってやつはなんでこんなに『ながら』
なんか好きなんだろう?って思う。混んでいる列車に好き好んで
乗るんだろうねぇ。まぁ、考えてみれば『コミケ』って言うやつ
は聞いた所によると何十万人も集まるって言うからな。そんな鬼
のように大きいイベントに集まるんだから回線もパンクするわ。
でも・・・、まさか去年の11月11日11時11分のような事
は無いだろうな。・・・よし、今回も前受分をばっちり取ってや
るとすっか。
NR東海ツアーズ名古屋支店のNR券発券担当の井上は、社内
で「神の右手」と呼ばれる人間である。そんな事を思いながら、煙
草に火をつけて、早速マルスを立ち上げた。
「・・・ん?何か今日は反応が鈍いな。これだと大体・・・レスポ
ンスが2秒か。回線が落ちなければいいんだがな。」
そして、前受け分の手配依頼書をまとめながらふと思った。そう言
えば、これが最後のコミケなんだなと。これで来年からは楽になる
な、と。
82 :
ながらを巡る冒険:2000/11/25(土) 01:44
11月29日 午前10:00 NR東海ツアーズ名古屋支店
「間もなく、午前10時をお知らせします」
117の時報が10時を告げる数秒前、井上は「発信」キーを押し
た。だがしかし、いつもなら10時ジャストに「受信中」のランプ
がつく筈のものが2秒たっても5秒たっても、全然つかない。10
秒経ったとき・・・、画面にエラーメッセージが出た。
「回線異常」
一番恐れていた事が起こった。全国にあるマルス端末が一斉にダウ
ンしてしまったのである。「ちくしょぅ、やられたか」そう舌打ち
して別の端末に向かって操作をかけたが「回線異常」の表示が出て
一切操作が出来ない。
「おい、オレのコミケはどうなるんだ!」
「新幹線で行かせろって言う策略か!!」
「ふざけるな、お前なんか逝ってよしだ!」
カウンターに並んでいた人が口々に叫び出す。
「お待ち下さい、回線異常ですので原因を調べております。どうか
落ち着いてくだ・・、ぁぁぁぁ」
カウンターに居た女子社員が袋叩きに合う。
「ふざけるんじゃねぇ、お前ら本当に人間のクズだな。お前らみた
いな人間が居るから・・・、コ、コミケが・・・終わってしまうん
だぞ・・・。ふざけるんじゃ・・・」
井上はカウンターの前で突っ伏して泣いた。仕事中にも関わらずで
ある。そして、涙声でこう言った。
「この回線障害は・・・、恐らく全国の駅で起こっているはずだ。
今日売出の列車に関しては後日、売出があると思う。だから・・・
、最後まで落ち着いて、コミケの花道を飾ってやれよ・・・な。」
83 :
71:2000/11/25(土) 02:15
>>78=サンデーライターさん
なるほど、そういう事でしたか。
非常に厨房な書き込みで申し訳ありませんでした。
84 :
ながらを巡る冒険:2000/11/25(土) 21:47
11月29日 午前9:58 NR指定券管理センター
「最後のコミケット」へ向かう各夜行列車の乗車券の売出を控えて、国立に
あるNR指定券管理センターは回線の監視に余念がなかった。
「まぁ、大丈夫でしょう、こないだの11の6並びでシステムの衆も学習し
たでしょうからね。」
NR西日本担当の大村は持ち前の明るさで同僚に話した。
「でもよ・・・、《最後のコミケ》だろ。また・・・例の奴らが騒ぎ出すん
じゃねぇか?うち、『ながら』持っているからねぇ。」
NR東海担当の石谷は心配そうな顔をして回線モニタに目を移した。
「いやぁ、東日本さんも発券ライセンシー取り消したって言うから、大丈夫
でしょ・・・。さーて、あと30秒でお時間ですな。じゃ、かかりましょう
か3,2,1・・・開放!」
・・・だが、しかしである。余りにも多くの予約要求が集まりすぎたために
全国の駅、旅行会社にあるマルスシステムがダウンしてしまったのである。
「ちくしょぅ、回線がいかれおったかぁ!サブシステムはどうだ!」
「サブシステム異常無し!」
「よし、回線を切り替えろ!」
「承知!サブシステムに切り替えました!」
しかし、それでも回線の輻輳はまだ解消しない。辛うじて販売を続ける事は
出来たが、それでもまだ一部列車の販売不可の状況を示す表示がモニタに走
る。
「一体・・・、どの列車だ?ログを確認しろ。」
「該当列車は・・・、コード0336のながらです!」
「やっぱり、ながらか。起きるべくして起きた・・・な。」
85 :
ながらを巡る冒険:2000/11/25(土) 21:49
11月29日 午前10時21分 NR東日本東海道線 特急踊り子103号
「旅客指令より各列車乗務員へ一斉連絡です。現在、マルス機能がダウンし
ており、当日乗車分の指定席券が一切発券不可能の状況です・・・。繰り返
します・・・」
この日車掌の太田は「特急踊り子103号」の乗務についていた。「マルス
が落ちるなんて珍しいなぁ」と思ってはいたが、どこかに引っかかるものを
感じていた。横浜駅に到着してドア扱いをした後、再び走り出した列車の車
掌室の中で自分の勤務ダイヤをもう一度見直した。
「12月29日・・・。コミケ1日目か。確か1日目はそれほど人出が多く
無いはず。すると・・・2日目組の《ながら》が引き起こしたのか?しかし
、それだけの為にシステムダウンする事ぁ無いだろうな」
取り敢えず、悪い予感はするものの無理して平常心を戻して乗務を続けてい
る。小田原に着いたとき、列車に乗り込んできたお客さんにいきなりどやし
つけられた。
「ちょっと、どういう事よ?折角人が指定席券を買おうと思って窓口に並ん
だら《指定席券は現在発券出来ません》なのよ。500円払うから指定席座
るわよ!それに・・・、何?あの人達。列車の切符を買えなくて駅員さんを
よってたかっていじめていたわ。信じられないわよ。こら、何か逝ったらど
うなのよ!」
「大変申し訳有りません。取り敢えずあいた席にお座り頂けますか?後ほど
お伺い致します。」
太田は、「悪い予感」が「確信」になるのを感じていた。
86 :
ながらを巡る冒険:2000/11/26(日) 02:52
11月29日 午後12時06分 NR東海東京本社209会議室 1
「一体どうなっているのだね?説明して貰おうか」
「はい。現状に関しては・・・」
NR各社の東京駐在役員が集まる中で、NR東海指定席東京管理センター
長の田村は今までの状況を説明しだした。
「東海道線内に収容されている12月29日に出発する列車の予約が取れ
ない状況です。新幹線を初めとした他の路線についてはシステムを切り替
えて10時03分には仮復旧を行いました。なお、現状では回線の輻輳は
回復したものの予想を遙かに超える発券要求の為、システムがダウンして
おります。現在、NRシステムのテクニカルスタッフが回線の本復旧作業
を、弊社のスタッフがマルス販売プログラムの再調整を行っており、今夜
中には復旧の予定です」
「状況は分かった。原因は何かね?この年末の繁忙期の最中にシステムが
ダウンした責任は重いぞ」
田村は一瞬血の気が引く思いがしたが、再びはっきりとした口調で回答を
始めた。
「原因は・・・、12月29日大垣発の《ムーンライトながら》です。東
京着の12月30日には、有明でコミックマーケットと言う超大規模のイ
ベントが開催され、恐らく青春18きっぷ使用客の多数がこの列車への乗
車を希望したためと思われます。」
「まさか・・・、あの・・・、連中がシステムを壊したと言うのか?」
「私はそうと思っておりませんが、結果としてそ
87 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/11/26(日) 02:55
>ながらを巡る冒険
メモ帳かなんかにまとめ書きしてから、はりつけるのが
マナー。
あと下げれ。
俺も下げ忘れ。
鬱だし脳。
89 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/11/26(日) 02:58
寒い
90 :
Jr:2000/11/26(日) 04:28
2000/12/29 05:24
西2ホール外 トラックヤード
「この時間で既にあれか……確かに、多い。」
立川は、車を降りると同時に小さく呟いた。
白い息と共に吐き出された言葉に含まれる、
驚きと、呆れと、そしてほんの少しの納得。
(東城が愚痴りたくなるのも無理ないね……。)
徹夜組対策部隊として先発し、会場周辺警備に当たっている東城。
彼が立川の携帯に連絡を入れてきたのは、2時間ほど前の事だ。
『前にウチで受けた仕事、なんつったか、若い子に人気のある
グループのコンサートがあったろう。ほら、10万人だか集まった時の。
あの時も前日から会場に待機してたお嬢ちゃん達がいたがね、
あんな可愛いもんじゃないぞ……。』
肩をすくめつつ後ろを振り返ると、
部下達が、車から機材を運び出している所だった。
黙々と作業をこなしているように見えるが、
その表情から、立川と同じ事を考えているのが判る。
……ただ、すぐ隣にいる、ある1人を除いて。
91 :
Jr:2000/11/26(日) 04:28
「おっかない顔だねぇ、霧沢。」
「…………えっ?」
その1人は、声をかけられた事に咄嗟には気が付かない。
「俺が何か?」
「恐い顔をしてるなって言ったんだよ。」
「……嫌な物、見ちゃいましたからね……。」
「徹夜組、か。」
「はい……。」
「この寒い中でよくやるよなぁ。苦情が出てるってのも頷ける。」
「あいつら、自分たちの行動が誰かの迷惑になるなんて思っちゃいないんです。
結局、『自分くらいいいだろう』の積み重ねで……。
それがどういう事態を引き起こすかなんて、全然考えずに!」
「今から行って、一発殴ってくれば気が晴れるぞ。どうだ?」
「やれるもんならやりたいっすよ……。けど、今は自分の仕事をやります。
もし、徹夜組のやつらが入場してこの辺りで問題起こすようなら、
その時は存分に殴らせてもらうんで。」
「合格。ちゃんと解ってるね。
……後半部分にはあまり期待して欲しくないのが正直な所だが。
「やだな、冗談っすよ。」
「まあいい。作業続けててくれ。」
「はい。」
結果的に、この言葉が現実の物となった――たとえ本人は冗談のつもりだったとしても。
数十時間後、霧沢達はシャッター前で徹夜組の一部とも衝突する事になる。
ただ、その規模は、立川が危惧した物よりも遥かに大きかった。
92 :
Jr:2000/11/26(日) 04:35
13:00まではもーちょっと時間が……。
ていうか、なんか割り込む形になっちゃったんでしょうか?
スミマセン。>ながらの話を書いている方
識別できるのに何時までも名無しさんではおかしいと思いましたので、取ってみました。
たくさんの感想、どうもありがとうございます。これからも頑張りますので、また
読んでやって下さい。
#……凄く嬉しかったけど、でも、ちょっとびっくりもしました(^^;。
あと、私も『館内担当総統括』といえば彼の人の名前を思い浮かべます(笑。でも、
取りあえず準備会内では、公人であろう米沢さんのみに実名使用を止めます〜。
>流れ書きさん
SS、最後の〆の文が格好良くて、無意識にサロンの方で使ってしまっていました。
今、一通り読み返して気づいたという……問題があったら消しますので、指摘して下さい;。
イラスト掲示板の、台車で居眠りしてる由希ちゃんに萌え。(笑)
なんか“i286氏”にはツボつかれまくりですわ。
>i286さん
いや、なかなか良いイラストですね(*^^*)
「完全版」(出るのか?)にはイラストも多数収録したいです。
居眠り由希ちゃん・・・可愛かったモエ
97 :
A-NE:2000/11/27(月) 12:43
「まだここにいるの?」
本から顔を上げると、見慣れた悪戯っぽい笑みがあった。
化粧や髪型、服装まで雰囲気は大分変わっているが、糸目になって
目じりにシワができる笑顔は直せないようだ。
「あれっ、長野?!」
「お久し振り〜。5年だっけ?最後に会ってから」
挨拶をしながらひらひらと手を振る癖も変わっていないらしい。
「お前が化粧にスカートなんて信じらんねぇよ」
「アンタこそまだここにいるなんてさぁ。ジャンルまで同じじゃん…」
「悪かったな。一度ハマるとナカナカ抜け出せないんだ」
「私のことも?」
「……」
気まずい沈黙。
「実はさ…もう『長野』じゃないんだな」
目の前にかざされた左手には、薬指にプラチナの指輪がはまっていた。
「それを報告しにきたの」
「……コミケにか?」
「だってカタログ見たらまだ同じ名前でスペース出してるんだもん」
「まぁ…な」
お互いに苦笑いをする。
「最後だって聞いたからさ、久々に来たんだ」
「ふぅん」
「あのあとずっと行けなかったんだよね…カタログは買ってアンタが
スペース出してることは確認してんだけど…」
5年前の今日、彼女は僕の前から突然姿を消した。
やっぱり同じように椅子に座って本を売ってて、彼女は机の向こうでなく、
僕の隣にいた。そして「ちょっと買い物行ってくる」と席を立って、それっきり
音信不通になった。そばにいない事に気付いたときには、住所も、ケータイも、
メールアドレスも、きれいさっぱり使えなくなっていた。
あの時の服装は、ジーパンにパーカーで、化粧のけの字も無い顔をしていたんだったな。
「……あの時のこと、話したほうがいいかなぁと思って」
「うんにゃ、いいよ…。今幸せなんでしょ?」
「まあね」
彼女の微笑みに、少し胸が痛んだ。
「とりあえず、新刊あげるよ・・・ラストだし」
「あ、ありがと・・・あ、それじゃぁ私これから
行かなきゃいけない所があるから」
カバンに本をいそいそとしまうと、僕の方を向いて
「ごめんね、いろいろ」
と言い、そして、また例の笑顔で
「じゃぁね!」と手を振った。
僕は手を振り返しながら、奥付の住所やメールアドレスに連絡がこないか
密かな期待を抱いていた。
しかしそれは、彼女が知らない苗字になってるという現実を突き付けることも
解っている。でも、最後にならない限りコミケに参加するのがやめられないのと
同じように、そうでもしないと彼女への想いを断ち切れないのだ。
どもども、あね と 申します
コミケではエッセイ系のジャンルにおります。
なので、小説はここで書いてるのが初めてです。
ですが、スケールのでかいものも書けんし、パロディも
苦手なので、読んでると自分の文章、浮いてるなぁと。
こんなんでもいいですか?
犬の小物、猫の小物、色んな小物が置かれた雑然とした部屋の真中にコタツが1つ。
上にはミカンと、恵比寿パステルと書かれたプリン。
部屋の主は綿入れを着込み、紅茶をすすりながら、客と話し込んでいる。
「で、どーよ、遥は」
「どーよって、どういうこと?」
「元気そう? ちゃんと仕事できてる? 支えがいある?」
「少なくとも、あの西2ホール長よりは7倍ぐらい。ホール長就任の仕掛け人の割
に、心配はしているのね」
「うん、無理したし、させていることは千も承知だから。あなたも、できる限り支
えてあげてよ、なんたって、ホール長付なんだからさ」
「承りました。藤沢音美地区長補佐殿」
部屋の主はそのひねた返事に苦笑すると、ミルクティーを飲み干した。
「しかし」と話を継ぎながら、紅茶を淹れ直す。
「音美さんも馬力あるよね、地区長補佐だけだって、大変なのに、資材も、前日受
付もやってんだものね」
「ううん、あたしは暇だからね、しがない公務員だから。尚子さんのほうこそ、コ
ンビニ向けの商品開発とかやりながら、スタッフだもんね。凄いよ」
「まぁ、忙しいことは忙しいけどね。誰だっけ、本業がアンミラの副店長って人い
たよね。外食産業とか勤めている人に比べたら全然よ。そりゃ、泣きたくなるよう
なムーンライトとか、電話も出来ないミッドナイトはあるけどさ」
「そして、また、独り身」
「…そういうこと言い出すわけ? 死んだはずにしてあげようか、音美さん? 名
前の通りに」
「いやいや、ていうかごめん」
「次言ったら、頼まれているサークルさんとの取次ぎ、無条件で終了するからね」
「ごめん、ほんとうにごめん」
大学時代からの友人どうし、あまりに遠慮を忘れてしまうこともある二人だった。
「さて、この冬の一品はどーするの」
「ちょっとづつ考えているけどねぇ、尚子さんはどーなの」
「うん、総本部が中華粥、混対の人たちが、餅つきするっていうから、なんかかぶ
らないものを考えてるよ」
「もう、混対って部署はないんだけど」
「いちいちとがらない。テント村って言えばいいかしら?」
「よろしいです、先に続けて。しかし、やっぱり男手あるところはちがうよね、餅
つきとはね」
「一度やりたかったって言ってた。前は冷麦とかやってたよね」
「流しそうめんもやったことあるわよ、あそこは。もっというなら、会場内で焼肉
の研究してたこともあるわね」
「あの人たちだったんだぁ。ま、んなことどーでもいいわ。やっぱり、作りたてが
一番美味しいものやりたいよね」
「焼き芋とか? 燃やすものなら事欠かないわよ」
「統括部と総本部と地区本部と警察と消防、あんたが、全知全能の限りを尽くして
全部話をつけるって淑女の名誉にかけて誓える?」
「いいよ、あたし、淑女じゃないし」
「ええい、そういう反応を期待しているわけじゃないの」
「まぁ、無理よね、言ってみただけ」
「天ぷらとかはどーかな? あれはやっぱり揚げたてが一番でしょ」
「油は危ないからやめたほうが良いよ。処理も大変だし」
「入口担当は山形出身の石神姐さんが芋煮会やるって聞かないんだってよ。最後だ
からやらせてくれって」
「やっぱり、みんな最後になるって思っているんだ」
「そういうあんたはどーなのよ」
「あたしもそう思っている」
「奇遇ね、あたしもよ」
「ただ、ひたすらに次回、次回って準備を進めたから、まだついてこれたのよ。一
度でも歩みを止めたら、もう動けない。周りを振り返ってしまうから」
「こないだ、音美さんが言ってた『価値観の違う、違いすぎる人』たちと付き合う
こともないかって、やっぱり思う?」
「まぁね、次回どーしてもやらなくてはという〆切が設定されていたから、踏ん張
れたけどさ、今までは」
「そうだよね。となると、長く付き合った人たちともなかなか会えなくなるね」
「うん、準備会がらみの人間づきあいも整理しなくちゃいけないと思ってる。居場
所なくなっちゃて、パニックの子もいるよ、うちの部署だと」
「シティとかに行く気ある?」
「ううん、問題はそこよね。今更シティとかは行きたくないけど、同人誌は読みた
いんだよね」
「やっぱり通販?」
「即売会の会場に行っても浮きそうだしなぁ、見てよ、このババアぶリ」
「もう、あたしも若い子達と話が合わないもんなぁ」
「へえ、そんな経験したんだ」
「だって、小次健って言われて、意味がわからないのよ」
「……それはしょうがないんじゃないの? ガメラ館を埋め尽くした興奮とか、も
う知らない子たちだもの。それにジャンル違いだろうし」
「まぁ、今から翼とかトルーパーとか、あるいは、セラムンとか始める人はそうそ
ういないだろうけどね。でも、あたしにとってはあれが青春だもの」
「心は侍、空しさ抱く鎧を♪って?」
「そう。迷い子になる明日も歩きつづけているわけよ。それで」
黙り込む二人。お茶をすする音だけが部屋にしばらく響く。
「ねぇ、前日設営からことこと煮込んだビーフシチューってどう?」
「ポッカのヒット商品みたいね」
「机の下に電熱器を置いて、ずーっと煮込んであげるの。無理かなぁ」
「いや、無理じゃないと思うよ。大きな寸胴もそれ用の電磁調理器も会社から借り
てこれるしね。仕込んで煮始めて、閉館中は上のジュース用冷蔵庫にしまいこんで、
2日目に食べるの。美味しいと思うよ。ご飯も炊くから、昼ご飯の時間に東5にお
いでよ」
「じゃあ、それで行こうよ。うちと合同にしてもらっていい? シチューなんて、
最後の晩餐っぽくていいよね」
「いいよ、煮物はたくさんまとめてやった方がおいしいもの。仕込みは手伝ってよ、
あれは大変なんだから。それはそれと、今年は、まだビーフシチュー食べてないな
ぁ。ね、夕飯、インペリアルホストにしない? あたし、あそこのビーフシチュー
って大好きなんだ」
「あ、いいねえ、でも、とりあえず、このプリン食べちゃおうよ、美味しいんだよ」
とろけるようなプリンの味わいに目を細めながらも、どこか暗さの残る二人。
先行きの見えない不安、居場所がなくなる不安、そんなものとの闘い。
その結果は、彼女達が自ら見出さなくてはならない。
104 :
手動筆記人:2000/11/27(月) 16:42
2000.11.12 PM04:23 祖師ヶ谷大蔵・国立大蔵病院
(前スレ#342より続き)
病室棟のエレベータホールまで車椅子を押し進め、私は上りのボタンを押す。
「あそだ、要、先行ってて。ジュース買ってくるから」
要が座っている車椅子をエレベータの中に入れて外に出ようとしたとき、
私は何かに引っかかって前につんのめった。
何事かと振り向くと、要が私の服の裾を掴んでいる。
要の瞳は、何かを訴えかけるようにじっと私を見つめていた。
「…わかってるって」
そう言いながら、要の頭をなでる。途端に要は満面の笑顔を私に見せる。
要を乗せたエレベータのドアが閉まるのと同時に、廊下の向こうから何かが
落下する音が響いた。
私は事態を察して口元に笑みを浮かべながら、音が鳴った廊下の先にある
自販機コーナーへと歩いてゆく。
すると、自販機コーナーから人影が姿を現わした。
私は、白衣を着たその人影に一礼する。
「いつも要のことで本当にお世話になってます、中島さん」
「いえいえ、看護婦として当然の職務を果たしてるだけですよ、六角さん」
「要からもお礼を言っておいて欲しいと言付かりましたんで、今さっき」
105 :
手動筆記人:2000/11/27(月) 16:43
中島さんはいつものように穏やかに話すと、にこやかに微笑みながら先ほど
買ったらしいジュースの缶を両手に持って私の前に差し出した。
その缶には、”どろり濃厚 野菜ジュース”という文字が踊っている。
「…何ですか? この怪しさ大爆発なジュースは?」
目の前に出された謎の物体Xを、おそるおそる指さす。
「大丈夫ですよ、私からのおごりですから」
中島さんはウインクしながら答える。
「いや、そういう問題じゃなくて…」
「あら、先ほど六角さんが”ジュースを買ってくる”って話してるのが
聞こえたので買ったんですけど、お気に召さなかったですか?」
「中島さんのご厚意は嬉しいんですが…私、コレに合う紅茶を買おうと思って
たんですけど…」
そう言いながら、右手に持ったチーズケーキを中島さんに見せる。
「確かにケーキに野菜ジュースは合わないですねぇ」
中島さんは小さくため息をついた。
「あ、でもこれはこれで有難く頂きますんで。ホントありがとうございます」
私はそう言いながら、中島さんから野菜ジュースを受け取る。
「ありがとう」
中島さんの顔に満面の笑みが浮かぶ。
その優しげな表情を見ていると、なぜか私まで嬉しくなってくる。
「ケーキに合うジュースといえば、これかなぁ…」
そう呟く中島さんの目線の先には”どろり濃厚 にんじんジュース”という
これまた不吉な文字が刻まれた缶が邪悪なオーラを放ちまくっている。
「あ、あの、私たちの分は自分で買いますんで」
今までの穏やかな気分は吹き飛び、慌てて怪しげなジュースが手元に増える
のを阻止する。私は人参が苦手だ。
「要ちゃん、いつも人参残してるからちゃんと食べて欲しいんですけどねぇ」
中島さんはそう言いながら、またため息をついた。
106 :
手動筆記人:2000/11/27(月) 16:43
「それにしても、あの頃に比べると随分元気になりましたね、要ちゃん」
缶ジュースの落下音だけが響く静寂の世界で、中島さんがポツリと漏らす。
「…そうですね」
私は適当に相槌を打つ。
確かに、要は元気になった。
一人で病室の外に出られるようになった。
スケッチブックを介してではあるが、私に日々の話をしてくれるようになった。
だが、そんなことは以前の要を知る私からすれば余りにもささやかなものだった。
いつも一緒にとりとめもない話で笑いあって、
時にはすき焼きの肉を巡って箸を突き合わす大喧嘩をして、
時にはお姉さんらしく妹の恋の悩みを聞いてあげたりして、
そんな、ありふれた楽しい日々がいつまでも続くと思っていた。
しかし、忘れもしない2000年8月13日、
私たちのささやかな幸せは跡形もなく無惨に踏み潰されていった。
人の皮を被った獸たちの群れに。
12/30 A.M.6:57 京浜東北線上り・大船行き車内
寿司詰め。
まさに、そういう表現がぴったりだった。
雅人たちが乗ったときにはすでに座席もあらかた埋まっていて、都内に入った途端に車
内はほぼ満杯になっていた。
しかも、速度制限でダイヤが完全に錯綜している今では、乗車不能というアナウンスに
乗客と待っていた人々が怒鳴り合うのも当たり前になってしまっていた。
それ以上に……若い女性や、一目でそれとわかるオタクたちのしゃべり声が、まるで往
年の株式市場での怒号のように飛び交っていた。
「うっせえなぁ」
ぼそっと、仕方なさそうに呟く雅人。
だが、佳織はまた浮かない表情で外を見つめていた。
明るい喧噪が渦巻く車内とは対照的に、外はしんしんと雪が降り続けている。
しかも、電車が発車したときからさらに雪は強くなっている。
「…………」
「どうした? 永瀬」
結露で曇る窓を何度も指で拭っている佳織を見て、雅人は不思議そうに言った。
「ちょっと、雪が強すぎない?」
赤羽駅を出発した途端、過ぎゆく照明に舞い散る牡丹雪が照らされる。
まるで、吹雪……いや、吹雪と言った方が適切だろう。
遅く走行しているせいか、その雪がはっきりと見える。
「そう……だな」
「こんな雪が降っていたら、普通は電車も止まると思うんだけど……」
「コミケがあるし、止まったら暴動でも起きると思っているんゃないか?」
おどけて言う雅人。
だが、佳織は不安そうに口を開いた。
「今、その言葉は洒落にならないよ」
「え?」
佳織はそれに応えず、辺りを見回す。
確かに、みんなの表情は明るい。
だが、それはある一つの感情で共通している明るさだった。
『虚勢』
みんな、コミケが終わるということを信じたくないのだろう。
わざと明るく振る舞って、目の前の現実から目を背けようとしているみたいだった。
もし今、ここで運転中止などをしたら……
「……確かに、やばいか」
頭の中で惨状を想像した雅人の額に、汗が流れる。
それは車内の暑さだけではなく、恐怖からのものだ。
「うん」
「永瀬」
「……何?」
「ここから、いいルートはあるか?」
「うん、私が通勤に使ってる南北線なら、王子で乗り換えて、飯田橋で有楽町線に乗り換
えられるけど……」
「よし」
苦笑いを浮かべて、雅人は小さく頷いた。
「有楽町まで行くよりは、ずっと安全だろ」
「……うん」
やはり、浮かない表情の佳織。
不安が、どんどん大きくなっていく。
12/30 A.M.7:05 京浜東北線・大船行き(東十条駅停車中)
『東十条、東十条です。
当駅で、時間調整を行います。今しばらくお待ちください』
その言葉に、車内から非難の声が上がる。
「まったく、遅れるじゃんかよ」
「いいかげん普通に走れってんだよなぁ」
「待ち合わせに遅れちゃう〜」
だが、佳織と雅人は押し黙って周りを見ていた。
二人は内心、不安に思っていたのだ。
このまま『運転中止』になってしまうのではないか、と。
今、ここで起きてしまってはかなわない。
せめて、王子……地下鉄に接続できる駅まで到着できれば……
二人は心の中で、幾度もそう祈り続けた。
だが、二人の思惑とは裏腹に外の雪はさらに強まっていく。
まるで、コミケ参加者を嘲笑うかのように。
「辻原」
「あ?」
「ここで降りたほうがいいかもね」
「……俺もそれを考えてた」
あまりにも強すぎる雪。
このままでは、いつ電車が止まってもおかしくないような天候だった。
二人は頷くと、席を立って人混みを掻き分け始めた。
「すいません、降ります!」
雅人は在庫の入ったバッグをかばうようにして、抜けだそうとする。
「っ!!」
一足早く車内から出た佳織は、降りたホームで思わず震えた。
寒いから、というわけではない。
待っている乗客たちの殺気ですくみ上がってしまったのだ。
「永瀬、行くぞ!」
「う、うん」
同じくそれを察知した雅人は、早くここから逃げようと佳織の手を引っ張った。
改札口まで、溢れる人たち。
帰省ラッシュもあるのだろうが、それ以上に「同類」の姿がちらほらと見える。
二人は急いで階段を下り、改札口から出た。
「有楽町までの金、無駄になっちまったな」
「そんなこと言ってられる場合じゃないわよ。とにかく、王子駅まで行こう?」
「そうだな」
そう言って、二人はバッグから折り畳み傘を取り出して駅の構内から出た。
しんしんと降る雪。
あまりにも強いそれを、二人は恨まずにいられなかった。
12/30 A.M.7:25 JR王子駅・駅前
空は、まだ薄暗い。
カートを引いてる人、それらしきキャラのジャンパーを来ている男……王子の駅前は、
やはり東十条駅と同じように人の波でごった返している。
傘を差しているのにもかかわらず、二人の肩には雪がうっすらと積もっていた。
「やっと、着いたな」
「うん……あ、ちょっと待ってて」
佳織は傘を畳み、肩の雪を振り払うと、バッグのポケットから携帯ラジオを取り出し、
電源をつけた。
そして、そのまま耳を付ける。
「……?」
何をしているのかわからない雅人は、佳織の腕を軽く引いて構内まで連れて行った。
しばらくして、佳織は表情を曇らせてラジオから耳を離した。
「武蔵野線と京葉線は、新木場と東京で折り返し運転……どうにか運転はしてるみたい。
総武線は、本線が一部不通……山手線と京浜東北線、常磐線に埼京線は、今ダイヤが大幅
に乱れてるって」
「ゆりかもめは?」
「点検中」
「それ、かなり酷くないか……?」
「この天気だもん……これだけ動いてるのが奇跡だと思う」
「けど、京浜東北線は今動いてないだろ」
「うん、この情報はちょっと古いんじゃないかな……」
「ってことは……」
雅人のつぶやきに、頷く佳織。
「……先、急ぐか」
雅人も、無言で頷いた。
それから十数分後。
「運転中止」の掲示が出たと同時に、各駅に混乱が巻き起こることとなる。
地下鉄も、JRなどの地上路線に比べればまともだったが、それでも少しダイヤが遅れ
ていた。
特に南北線は東急目黒線と接続しているせいか、地上方向からの電車は軒並み遅れてい
て、赤羽岩淵発の電車も東急との接続は行わず、目黒での運転終了を行っていた。
飯田橋で有楽町線に乗り換えてから、それはさらに顕著になった。
特に、有楽町線は西武池袋線、そして東武東上線の2路線が乗り入れていて、ダイヤの
8割がその乗り入れに頼っていたため混乱を引き起こし、地上での遅れが大幅に影響して
いた。
しかも、都バスが走行できないためか、JRや都営地下鉄の乗換駅などで大量の人が雪
崩込んでくる。
その人たちのギラついた目が、二人には忘れられなかった。
緊張が、車内に渦巻いている。
いつもの「祭の前の緊張感」ではない。
重く、ピンッと張りつめた……そんな、重い空気。
その空気の前に、二人は口を開くこともできなかった。
『間もなく、新木場、新木場――終点です。りんかい線は、お乗り換えです。現在、JR
京葉線は降雪量過多のため、運転を見合わせております。皆様、どうかご了承ください』
そのアナウンスが流れた途端、あたりの空気が一変した。
ざわめきが走り、先程までの緊張が一気に解ける。
「ふぅ……」
ため息をつく二人。
だが、二人の表情に安堵の色は無かった。
まだこれから、りんかい線という関門があるのだから。
やがて、電車のスピードが落ちていき、駅の構内に滑り込んでいく。
そして、所定位置に止まり……ドアが、開いた。
『新木場、新木場です』
瞬間、乗客たちは一斉に出口に向かって駆けだしていた。
「うわっ!」
「きゃっ!!」
その波に、二人は強く押し流されていく。
エスカレーターを駆け上がり、そのまま出口へ……
ガシャン!
そのままの勢いで、二人は自動改札から吐き出されていった。
「……こ、怖ぇ」
「……うん」
なんとか波をよけた二人は、額に脂汗を浮かせながら息を整えることにした。
しばらくして、顔を上げる雅人。
「……!」
りんかい線の改札前。
「うそ……だろ?」
そこには「切符待ち」ではなく「改札待ち」の列が出来ていた
12/30 A.M.08:22 新木場駅・構外
「まあ、当然のことかもね……」
列に並びながら、佳織はため息混じりに呟いた。
「けど、こりゃ異常だろ……」
雅人も、ため息混じりに言う。
「でも、都内全体のJRから乗り換えて来た人たちが合わさると、このくらいにはなるん
じゃない?」
「……まあな」
数100メートルはあるだろうか。
雪の中、外に出された人たちは、改札と切符購入に分けられて並ばされていた。
この寒さに、コートの襟を立てる者、缶コーヒーを頬につける者……さらにはディスプ
レイ用に持ってきたのか、ピカ○ュウのぬいぐるみをジャンパーの中に入れて暖まろうと
した者などが続出した。
「電車、この雪だから徐行運転だって」
「……東雲も地下駅にすればよかったのによお」
ラジオを聴いている佳織に、雅人はマフラーを首に巻き、カイロを中に入れながら相槌
を打つ。
今の彼には、それだけのことがとても恨めしく思えていた。
おそらく、他の参加者も同じだろう。皆、殺気が漲っているか、それか諦めたような表
情をしていた。
「最後のコミケだってのに、なんでこんな目に遭わないといけないんだよ……」
「でも、最後だからこそ……かもしれないよ?」
「何がだよ」
「最後、こういう天気だからこそ、参加者の資質が問われているんじゃないかな」
「資質……」
「うん」
そう言った佳織の表情は、真剣そのものだった。
しっかり、真正面から問題を見据えないといけない――先程の弱々しい表情は、微塵に
も感じられなかった。
「確かにな。つつがなく終われば、コミケは続くかもしれない。だけど、こういったこと
がきっかけで何か起きてしまったら……」
「雅人の行った即売会と同じ、もう二度と開かれることはないでしょうね」
「そんなの、嫌だって」
「でも、雅人は無事に終わると思う?」
「……終わると思いたい。いや、無事に済むはずだ」
何かを振り払うように、雅人は軽く頭を振った。
「それが一番なんだけど……」
佳織はうつむいて、マフラーに顔を埋めた。
雅人も、本心ではわかっている。
このコミケに来るのは、雰囲気を察することができる人たちばかりではない。むしろ、
目の前にある現実を無視して暴走する者……さらに、そんなことを察することなく突っ走
る馬鹿も参加している。
その馬鹿たちが、夏コミで放火をし、Cレヴォで大暴走した。
今日は2日目――その馬鹿が来ている可能性は大きい。
何が起きるか、わかったもんじゃない。
「あ、動いた」
列が動き出し、佳織と雅人は15分ぶりに駅の構内に入ることができた。
外の冷たさとは対照的に、中は暖房と人のぬくもりのおかげか、幾分暖かかった。
「ただいま入場制限を行っています! 乗車券をお買いの方は、改札列の後ろにお並びく
ださい!」
駅員が、どんどん増殖する乗客に向かってメガホンで呼びかけた。
有明初期とは違い、頼もしい駅員たち。
だが、今回で彼らの世話になるのも最後。そう思うと、雅人は駅員たちに感謝せずにい
られなかった。
だんだん、自動改札機に近づいていく。
JTBで購入したチケットを財布から取り出し、雅人と佳織は一番端の改札列に並び替
えた。
ちょうど目の前で、列が止まる。
ロープを張っている駅員を見ると、その表情は疲弊しきっていた。
朝からずっとコミケ参加者の世話をしているのだから、無理もない。
「おはようございます」
「お疲れさまです!」
二人は、笑顔で駅員にそう挨拶した。
「おはようございます。がんばってくださいね」
駅員も、笑顔でそう返す。
この挨拶が、今二人ができる最大限の礼だった。
12/30 A.M.08:43 りんかい線・東京テレポート行き車内
「ふぅ」
雅人は軽くため息をついて、佳織のことを見た。
佳織はまたマフラーに顔を埋めて、目を閉じている。
やっと、安心したのだろう。
新木場駅では、駅員の手際の良さと、徐行ながら増発された電車のおかげでスムーズに
乗車することができた。
雅人も、有楽町線の時よりは落ち着くことが出来たと同時に、いろいろな感情が湧き出
していた。
もう少しで、ビッグサイトに着くことが出来るという安堵感。
そして、いつものような高揚した感じの他に、これが最後だという緊迫感。
『バカやらずに、終わってほしいもんだな』
雅人は、安心して体を預けている佳織を見ながらそう思った。
それが、雅人の……そして、佳織の今の一番の願いだった。
「永瀬」
「ん?」
「そろそろだぞ」
「うん」
雅人の体から身を離し、軽くあくびをする佳織。
「お前、あまり寝てないだろ」
「まあね」
「スペースに着いたら、俺が設営やるから。お前は寝てろ」
「ありがと。でも、大丈夫だから」
「そっか」
軽いやりとりを終えると同時に、電車は減速を始めた。
所定位置に停車し……ドアが、開く。
『国際展示場、国際展示場です』
アナウンスとほぼ同時に、乗客のほとんどが電車から降りていく。
雅人と佳織も、人の流れに乗ってエスカレーターを上がっていった。
そして、改札窓口を通り、二人はそのまま外へと出た。
「……凄いね」
「……ああ」
吹雪。
それにも関わらず、並んでいる人の群れ。
雪が降っている以外、いつもとなんら変わりないコミケが、そこにあった。
「……んじゃ、行くか」
「そうだね」
二人は、傘を差して再び歩き出した。
今にも雪煙に消えそうな、ビッグサイトへ。
灯火が消えようとしている、コミケの会場に向かって。
今回は鉄ちゃんの友人に協力を仰ぎました。
有り難うございました。
またまた長文になりましたが、どんどん「迷走」していく様を書いてみました。
……期限にまで終わるのかな?
2000/12/30 05:12 山梨県南都留郡道志村
車は狭い谷川に沿って曲がりくねった道をかなりのスピードで走っている。
暗闇と吹雪でよく分からないが、一応国道らしい。
車内には小刻みなユーロビートのリズムが響いている。
「なぁ哲也、オレ達なんでこんな山道を走ってるんだ?」
「しょうがねぇだろ。中央道は通行止めまでして除雪してるんだから」
「だったら須走から御殿場へ抜けて、東名って手もあるだろうが」
「東名はみんなが使うから混むんだよ。今頃は大渋滞さ」
道と川の間にはキャンプ場がいくつかあるが、今はただの雪原だ。
作業用の小屋はあるが、民家は見当たらないし、対向車も走ってこない。
そんな中を四輪駆動のRVは、雪煙を巻き上げながら疾走して行く。
「大体お前は出る直前までコピー本作ってて、全然寝てないだろう」
「なんだ正和、オレの運転が心配か? 安心しろ。オレは天才だ」
「いや、お前の運転が上手いのは知ってるけどな、疲れてたらそうもいかないだろう」
ヘッドライトとフォグランプの強烈な光が、吹雪の道を照らし出す。
しかし右へカーブを切った瞬間、車は時計回りに綺麗に1回転し、道端の吹き溜まりに後部を突っ込んで止まった。
「だーから言っただろう。ほれ、運転を代われ」
正和は窓ガラスにしたたか打ちつけた頭を押さえながら、自分と哲也のシートベルトを外した。
「そうだ正和、会場入りする前に、この道中のレポ本を作ろう」
「…ハァ? 今から? 何で?」
「もちろん、我々の真実の戦いを、後の世に伝えるために!」
>>113 重箱の隅をつつくようでスマソですが、
>特に南北線は東急目黒線と接続しているせいか、地上方向からの電車は軒並み遅れてい
>て、赤羽岩淵発の電車も東急との接続は行わず、目黒での運転終了を行っていた。
営団南北線目黒駅は折返しポイントが東急側にしか無いので、南北線&三田線車両は
目黒駅で折り返すことが出来ません。
http://www.tokyometro.go.jp/news/2000-s0105.html というわけで、#113のような事態になった時は白金高輪止りになるものと予想。
もしくは、地上高架で間違いなく遅延が出る三田線の影響を受けるのを嫌って
溜池山王止りになるかも。
(白金高輪駅の路線構造がイマイチ不明なので憶測)
http://www.tokyometro.go.jp/news/2000-s0103.html なお、2〜3年前の夏コミの時の話ですが、午前9時頃に総武緩行線で
人身事故が発生し、秋葉原駅手前の大陸橋上で停止した車両のドア開閉コックを
ひねって無理矢理ドアを開け、陸橋上を闊歩していったバカヲタ達が居た
そうです。当然緊急停止信号発令、その後総武線は1時間以上に渡って全線
ストップ、数万人規模の影響を与えたそうです。
↑何かの参考にお使い下さい(^^;
123 :
名無しさん@お腹いっぱい:2000/11/29(水) 13:59
age
鉄ネタツッコミっす
>>117 南浦和〜有楽町〜新木場〜国展と乗り継ぐ予定だったらば
JTBで買った前売り乗車券よりも SFメトロカード使う方が
自然だと思います・・。 りんかい線パスネットに加入してますんで。
>>122 ダイヤが乱れて東急との直通をしない場合は白金高輪折り返しで
目黒〜白金高輪は都バス振替となります。開業翌日の9月27日に
車両故障があって早速やりました(藁
南北線 三田線とも大混乱でした
白金高輪の引上線は南北線優先と言った感じの造りになっています。
>>122 >>124 ツッコミありがとうございます。
お恥ずかしい、地下鉄は自主調査でやったもので……
生半可に鉄道ネタをやるものではないですね。大変申し訳ありませんでした。
パスネットに関してはまだその存在を知らないまま相談したので(^^;
これもよく調査しておく必要がありましたね。
鉄オタってすげぇ。(単純な驚き)
だんだん核心にせまりつつありますな〜。
楽しみ楽しみ。
私は関西の人間なんで、鉄道ネタの不備にはぜ〜んぜん気がつきませんでした。
緊迫した雰囲気は伝わってくるので、ま、大筋では問題ナシではないでしょうか。
流れ書きさんの話好きなんで、とりあえずフォローしてみる。
だからってツッコミが悪いつーわけでもないので。
なんか、このスレに書き込む時は、他スレよりも圧倒的に気つかうなぁ(笑)
128 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/01(金) 12:49
ageよう
129 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/01(金) 20:31
繋いだら真っ先にここに新作が出てないかチェックするようになってしまった。。
つか最近はネギピロ氏とか百円ライター氏とか見習い文士氏とか見ないね。
本業忙しいのかな……シリーズ物の続きが早くみたい。
130 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/01(金) 22:27
シリーズもの以外のちょっとした話も読みたい。
つーか、カタストロフ仮想コミケ59にそろそろ飽きてきた感じ。
「な、なんじゃいこりゃぁ〜」
パソコンの前で思わず唸ってしまった。
オークションですんごい値がついてるじゃんか、サークルチケット。
まぁコミケ次が最期だし
これで同人は最期っていう大手が結構あるっていうし
今回は当選倍率が物凄かったからなのもあるんだろう。
しかし……1枚7万円はやりすぎじゃないか?
などと思いつつも引出しを開け色ラベルつきの封筒から
三枚綴りの「金のなる券」を
取り出し、眺めてみる。
「一人でやってるからいっつもあまらしてるんだよなぁ」
過去のコミケ前にも幾度となくオークションの誘惑にかられたが、
何となく気が咎めて結局「記念」として取っておいた。
しかし、今回は桁違いだ。二枚で14万円。
………
……
ふぅ
溜め息をついて、チケットを封筒にしまった。
やっぱやめとくか。
今まで幾度となく繰り返したその動作。
チケット売ったら魂まで売り渡すことになるぞ
と自分に言い聞かせる。
それになんたって
今まで貯めてある二枚綴りのレアカードは、今回でコンプリートなんだ。
132 :
Jr:2000/12/02(土) 14:09
……最初は、ただのお遊びだった。
初めての壁で、完売したのが嬉しくて。
「へへぇ、完売アーンド再発行記念っ!」
「よく考えたら効率悪い事してるよね。
500のうち50部だけ別、なんてさ。しかも変えたのが遊び紙だけって……。
ま、面白いからいっか。」
「そうそう、細かいこと気にしないっ。
知る人ぞ知る特別バージョンだよー。」
・
その人が来たのは、2回目の壁で、浮かれていた頃。
開場の前に声をかけられたんだ。
「うそ? ホントに!?」
「私も『本当にウチですか?』なんて聞いちゃったよ!」
「信じらんない……なんか、すごく嬉しい……。
あっ、じゃあさ、一緒にあれ渡さない?
ほら、せっかく特別にって作ったんだしさ。」
「そだね。数もちょうどいいし……」
133 :
Jr:2000/12/02(土) 14:10
それから何年か経って、自分で言うのもなんだけど、壁常連みたくなって。
大手ってやつに……なったのかな。部数も、いつの間にか結構増えてて。
「あの人っていつも来てくれるよね。あの時の事、覚えてるのかな……。」
「あの時って?」
「ほら、何回か前、初めて頼まれた時。記念にって作ったのを渡したじゃない?」
「ああ、特別バージョンとか言ってたやつね。」
「そうだ! あの遊びってのさ、次の新刊でもっかいやってみよーよ。
あんまり大っぴらじゃなくても、裏表紙の色だけ
ちょこっと変えるくらいなら出来るよね。」
「うん、いいかもね。300くらい用意しとけば足りるかな……。」
・
それを目にしたのは、いつもより騒がしかった夏コミの、1週間ほど後の事。
淡いピンクの裏表紙の――普通なら、白でなければならない筈の――その本を見た時、
……何も考えられなくなった。考えたくなかった。
「なんでよ……? なんでこんなにたくさんっ……!」
「5千円、か。……解んないよ、私も。」
「なんでこれが並んでるのよ……? ねぇ……。」
「……とりあえず、外に出よう。ね?」
「こんな、こんなの見るために……作ったんじゃ……ない……っ……。」
134 :
Jr:2000/12/02(土) 14:10
2000/12/30 09:35 東5ホール シ-xx
2つ隣のスペースに、その人が居た。
サークルの人に何かを話している。
声はここまで聞こえてこないけど、会話の内容は想像がつく。
おそらく、私も数分後に同じ様な話を聞くだろうから。
(これで最後。きっちり、終わりたいもんね)
(後の事なんか、考えなくていいんだから。)
そう、決めたんだ。
135 :
Jr:2000/12/02(土) 14:10
「ども、おはようございますー。ちょっといいですかー?」
「はい、何でしょうか?」
「あのー、いつものようにスタッフ分の取り置きをですねー……。」
「すみませんが、お断りします。」
「500ほど……え?」
「今回は、お断りします。」
「な、なんで……。今までずっと……。
スタッフの中にもですね、こちらの新刊を欲しがっている人が……。」
「……欲しがってる人、じゃなくて、
読んでくれる人の手に、渡したいんです。」
あたしは、2冊の本を彼の前に突きつける。
わざと、裏表紙を上にして。
「これ、前回の新刊なんですが。
こっちが普通にスペースで頒布した物です。
もう一つは、あなたに取り置きを頼まれた物。
……言わなくても、お解りですね?」
136 :
Jr:2000/12/02(土) 14:11
2冊のうちの片方は、透明なビニールに包まれていて、
その上から、「5000」と書かれたシールが貼ってある。
案の定、彼の顔色が変わった。
そのまま何も言わず、足早にスペースから去っていく。
「ごめんなさい……」
あたしの呟きは、決して彼に向けたものではない。
スタッフが取り置きした本が、中古同人誌ショップに流れている。
一部では暗黙の了解らしいその話は、聞いた事だけはあった。
けど、まさか自分たちが実際にそれをやられていたなんて、全然考えもしなかった。
甘いと言われれば、まったくその通りで。
何も知らなくて、ただ浮かれてて、……いいように利用されて。
あたし達は、都合のいい、金儲けの道具でしかなかった。
……でも、そんなの関係無しに、本を読んでくれたスタッフが居たのも事実で。
『あのっ、ちょっとだけお時間よろしいでしょうか?』
137 :
Jr:2000/12/02(土) 14:12
転売の事実を知る前、夏のC58。
閉会間際にスペースに来てくれた彼女の手には、
裏表紙がピンク色の新刊があった。
『これ、休憩の時に他のスタッフから薦められて読んだんです』
彼女に新刊を薦めてくれたというスタッフも、
そして彼女も、何も知らないんだろう。
たぶん、誰かの気まぐれで流通ルートからこぼれた物を、
偶然、手にしただけなんだろう。
『絵柄も、ストーリーも私好みで、つい魅入っちゃったんですよ。
すっごくよかったですっ! それだけ、どうしても言いたくて。
ああ、帰っちゃう前で良かったぁ……』
「ごめんなさい……あたしは、こういう事しかできない……」
……いつも来ていたあの人が、
スタッフの分をほぼ全てまとめていると言っていた。
事実、彼以外が取り置き依頼に来たことはない。
これで転売される数は、少しは減るはず。
そして、スタッフに渡る数も……。
138 :
Jr:2000/12/02(土) 14:13
『次の新刊、楽しみにしてます。頑張って下さいね!』
読んでくれる人の手に渡したい。
できる事なら、彼女みたいな人の――。
「ごめんなさい……本当に……ごめんなさいっ……」
喧噪に包まれたホールの一角。
既に人だかりが出来始めているスペースの背後、
壁際に積まれた、開梱を待つ段ボールの傍らに。
幾つかの、雫が落ちた。
うぅぅ・・・
Jr氏の新作を読んで、
思わず「ほろっ」っときてしまいました。
最近、めっきり涙脆くなったもんだ。
(前スレ376からの続きです)
ほうほうの体であの雑居ビルを脱出してきたイベンター一同は、雪に足を取られなが
らも何とか池袋駅前まで辿り着いた。幸い病院に行かなければならない様な者は居な
かった(気分の悪かった女性も外の空気を吸うと大分良くなったらしい)ので、結局こ
こで解散するという事になった。行先のある者全員がタクシーで去った後、松畑を含
む三人が残る。
「……残ったのはこれだけですか」
残っていた一人のあの男がどちらへとも無く話しかける。
「やっぱり警察へ届けた方がいいんじゃないかと思って……」
先程ドアを投げた女性が不安そうに言う。
「……さっきならできたろうがな……」
松畑が溜息と共に呟いた。実は松畑は逃げ出した時警察に行こうと提案していた。だ
がそれは多数決により却下されてしまったのだ。
「現在拉致監禁されているのなら警察は動くだろうが、被害者全員逃げ出して連絡先
も解らないと来れば、やれるのは精々俺らの事情聴取くらいだな」
確かに暴行で被害届を出せそうな者を含め、各員の連絡先を聞けずに解散されてしま
ったのだからしょうがない。これ以上警察沙汰になるトラブルを増やし、世間からの
非難を増大させ活動の場を減らしたくはない。口惜しいが、そんな彼らの気持が解る
分一方的に非難する気持は起き難かった。
「ま、こうしていてもしょうがないですし。あの怖い人達が探しに来ない内に一端移
動しましょう」
こう提案されて断る道理は無い。
「自己紹介しておきましょうか。私、御旅屋(おたや)正治といいます」
「あたしは八瀬(やせ)明良。○○県でオンリーイベントのスタッフしてます」
「松畑紀之。見ての通りロートルのイベンターだよ」
年齢も住む場所もバラバラな三人を乗せ、タクシーは池袋を離れた。
小笠原があてがわれたホテルの部屋に戻ったのは夜の2時を過ぎていた。朝になれば
窓の向こう、雪に霞むあの会場で祭が開かれる。彼はそのスタッフの一員だった。他
の仲間はまだ下で話をしているのだろう。首都高の事故の事、西館の乱闘の事、明日
からの作業の事、そしてこれからの事。いや、『これから』はないか。彼は苦笑する。
今回でコミケットは終るのだ。
コミケ終了の報を聞いてから、彼は自分の中で張合いと言う物が無くなったのを感じ
ていた。毎回毎回綱渡り的な緊張感に苛まれながら自己の責務をこなして行く内に、
置かれた状況自体を(不謹慎にも)楽しんでいた事を今更ながらに思い知らされたのだ
。だがそれを理由にスタッフを辞めることは、東*ホール長付と言う役職にあった彼
にはできなかった。
今回集まったスタッフは殆どは最後のコミケットの花道を盛大に飾る事に並々ならぬ
意欲を燃やしている。その熱気に接しながら、そしていよいよ開幕を当日に控えなが
ら、小笠原は未だ胸の中の喪失感に戸惑ったままだった。
取合えず横になる為に上着に手を掛けたその時、そのポケットから電子音が流れた。
携帯を取りだし、耳に当てる。
『あ、良かった、起きておられましたか。すいません御旅屋です。御迷惑とは思った
のですが、ちょっと厄介な話がありまして……。取合えず今よろしいですか?』
24時間営業のファミレスで漸く空腹を満たすと、これまでの事を思い返す余裕も出
てくる。テーブルを囲んだ三人の内、八瀬が口火を切った。
「御旅屋さんの知り合いにスタッフがいて良かったですね」
警察が無理なら、と今回の件を準備会に知らせる事にした松畑ら三人は、スタッフが
泊り込む有明のホテルへ向かい、御旅屋のツテを頼って然るべき地位のあるスタッフ
に面会したのだ。
「この方法しか無かったですからね。それよりあんな所まで付き合ってもらってすい
ませんでした」
頭を下げる御旅屋に松畑は手を振った
「俺も関係者だし。それにしてもあの小笠原さんとやら、ちゃんと上の方に伝えてく
れるのかいな。何か覇気の無さが気になるんやけど」
「まあもう寝る所らしかったですからね。それは勘弁してやって下さい」
ロビーで会った小笠原は真面目にこちらの話を聞いてはくれた。が、具体的な内容や
物証がほとんど無い為、明確な対処はし難いとも正直に話してくれた。
「朝に掛け込んでこんなあほうな話をしても門前払いされるのは目に見えとるしな」
実際コミケの前日という切羽詰まった時期に人を呼出し、調子ばかり高い言動をぶち
上げ挙句に暴力で行動を強制する事や、数十人相手に四人しか見張を残さない程の人
員の少なさ。松畑も第三者として聞いたなら冗談と思っただろう。が、監禁されたの
は事実だし、他にも気になる事がある。
「……あの会議室一晩借りるのに幾らかかるんでしょうね」
「お、八瀬ちゃんはいい所に気が付いた」
普通なら身近にいる仲間だけで行動を起こしそうな物だが、敢えて各イベントの連絡
先を調べ、集まる場所を確保し通知を出すと言う面倒な作業を行っているのが解せな
い。特に気になるのはあの会議室の賃貸に関してだ。彼らが監禁されたビルはボロだ
ったが廃ビルと言う訳ではなかった。そんな場所を本来の目的でない筈の行動に所有
者の様に使う事に松畑らは強い違和感を覚えずにはいられなかった。
2000/12/30 12:16 東京都江東区塩浜 南東京信用金庫塩浜支店
建物の入り口からやや離れたところに、白いカローラワゴンが止まった。
ゆっくりとドアを開けて降りたのは野上だった。
「松田、車だ。時間が無かったんで、あんまりいいヤツを用意できなかったがな」
建物に向かって大きな声で言う。
それに対して松田は、入り口から顔だけを出して野太い声で言う。
「金と飛行機はどうした。 そっちも用意できたんだろうな」
「飛行機は羽田だ。金も用意してある。すまんが、そこまでは自分で車を運転して行ってくれ」
一呼吸開けて野上が答えた。
松田はライフルで野上に下がるよう指示した。
松田の方を向いたまま、ゆっくりと後ろへ下がってくる野上。
野上が警官隊のところまで下がったのを見てから、建物の中にいた犯人達が車に乗り込む。
車はエンジンをかけるとすぐに、警官達を蹴散らすように派手に走り回った。
次の瞬間、1発の銃声とともに入り口の窓ガラスが砕け散った。
銃声の方を見ると、紺のクラウンが信金の駐車場から走り去っていく。
助手席にはライフルを持った松田がいた。
そのすぐ後ろを白いカローラワゴンが追いかけていく。
「ハト!」
大門が叫ぶと、すぐさま鳩村のバイクがクラウンの後を追う。
続いて多数のパトカーがけたたましくサイレンを鳴らして続く。
野上は大門の方を向き、一言、言った。
「大門、後は頼むぜ」
大門は無言でうなずくと、金色のZに乗り込んだ
≪犯人は新砂橋から明治通り方面へ逃走中≫
犯人を追っているパトカーから無線が入る。
今、有明のどこを爆破しようかなぁと考えてます。
やっぱ西部警察には、どかーんと派手な爆破シーンが必要でしょう(笑)
それと、へっぽこー1号さんの#2-14に出てきた刑事(名前未定)も登場する予定。
145 :
さすがに:2000/12/07(木) 10:44
250は沈みすぎなのでage
age荒らしに反応するなage荒らしに反age荒らしage荒らしage荒らしにage荒らしにage荒らしに反応すage荒らage荒age荒らしageage荒age荒らしage荒らしにage荒らしにage荒らしに反応するな反応するな反応するなに反応するならしに反応するな荒age荒らしに反応するならしに反応するなに反応するならしに反応するなしに反応するなるな反応するな反応するなに反応するなに反応するな応するな
147 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/10(日) 04:03
最終スレは15日に作るんだから書くなら今のうちだぞアゲ。
148 :
サンデーライター:2000/12/12(火) 15:43
仕事が忙しくて書いてるヒマないです。しくしく。
149 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/12(火) 16:05
年の瀬だから、みんな忙しいのね?
150 :
1:2000/12/12(火) 19:58
冬コミの原稿もあるだろうし、これが最終スレッドでもいい気がしてきました。
とりあえず、金曜まで様子を見ることにします。
ごめんなさ〜い。上司が入院して、今、自分の店、自分と上司の上司だけで守って
いる関係で、とてもSS書いていられる状態じゃないです。在庫の店舗間移動のた
めに、昨日も140km走ってしまいました。
とりあえず、今日はお休みなので、頑張ってみますけど…。
保証が出来ないっす。
私も体調が怪しい。
さっき病院へ行ったら「気管支炎の疑い&血圧が高い」と言われたよ。
153 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/15(金) 09:57
もう金曜日あげ
ま、そんなもんだろsage
155 :
1:2000/12/16(土) 00:26
このスレッドを最終スレッドとして続行します。
スレッドの終了は予定通り、12月28日(金)23:00です。
それでは、どなた様もお体にお気をつけて。
病院から「検査の結果が気になる」と、お呼び出しを食らってしまいました。
大丈夫なのか、わし!?
157 :
サンデーライター:2000/12/16(土) 22:19
ついに血を吐いてしまいました(マジ)
これから入院してきます。
>>157 オマエモナ01で本を買った者です。お大事に〜。
159 :
名無しさん:2000/12/17(日) 20:46
うひー、皆さんこの年の瀬に大変ですね。
と言いつつ私も恐怖の出版業界名物年末進行で死にそうですが。
皆さんお体だけは大切に・・・
161 :
サンデーライター@一時帰宅中:2000/12/23(土) 16:36
とりあえず年内に退院できそうです。お騒がせしてスマソ。
それと、「終わるコミケットプロローグ版」については、冬コミでの頒布は中止します。
こみちあかイッテヨシでになるでしょう。
……冬コミ修羅場を明日まで続けた挙げ句、設営参加のために東京へ
明晩出発するため、28日23時までに書き上げるどころか、続きさえアップ
できません……中途半端な私を許してください(滂沱
雪が降る・・・
白い白い雪が
有明国際展示場に向かう
黒い人々の群れを
全て覆い尽くすかのように
雪が降る
楽しいはずの朝なのに
お祭りの
朝なのに
なぜか人の群れは黙々と
黙々と
まるで巨大な墓標のような
雪に霞む墓標のような建物に吸い込まれていく
ただ黙々と
「なぜ?」
それは予感
「終末の?」
終末はもう決められた
揺るぎ無い事実
「それではなぜ?」
それは予感
終末ではなく崩壊の
終わるのか
それとも壊れるのか
かけがえのない
祭り
神聖だったはずの
祭り
終わるコミケット・・・
最後のおわコミ作品です。
皆様のような系統だてられた
「物語」を書くことが出来ないため
イメージ的なものに逃げてしまいました。
願わくば、ヘタレ字書きスレにさらされないと良いんだけど…
さてはて、泣いても笑っても後1日。
どうなるのでしょう。
て言うか、皆さん無事ですか?
あまり無理はなさらないでくださいね。
166 :
元撤収組:2000/12/28(木) 04:00
「ハァ?」
ギコのような顔で聞き返す香田。
「だから、スタッフはこれを置いていっただけなんだって・・・。」
「名前も告げずにか!?」
「朝の登録の時に見た顔だから、間違いないと思ったんだよ。それに腕章してたし・・・
大体、そのスタッフも大慌てで、手紙を置くなり蒼い顔で走り出して・・・」
こいつでは話にならないと、香田は本部に向けて走り出した。
「通路は走らないでくださ〜い♪」というスタッフの声を背に。
「隠密撤収中隊」に、ブロック担当を名乗る人物が手紙を置いていったのは、ほんの15分前。
ちょうど外出していた代表・香田は、帰るなり手渡された「本部から」と称する手紙を読んだ。
そして、愕然とした。
「だから、どういう事なんだよ!」
「・・・何度も言わせるなよ。
本日16時からの会場撤収は、準備会正規スタッフ及び利便社・山和舞台の両業社のみで行なう。
したがって、君達の出る幕はない。
君達サークルは閉会後、直ちに後片付けを済ませ、ビッグサイトから速やかに退去されたい。
これは本部の決定なのだ。」
香田に呼び出された真塚は、あくまで冷静に答えた。
そう。あくまで冷静に。
香田が駆け込んできた時、1ホールの準備会本部は狂乱の渦にあった。
スタッフが入れ替わり立ち代わり、次々に書類の束を抱えて走ってくる。
電話という電話は一時も鳴り止まず、無線は既に限界に達していた。
真塚も、額一面にべっとりと汗をにじませている。
おそらく、さっきまで他のスタッフたちと一緒に走りまわっていたのだろう。
しかし、真塚はあくまで冷静に答えたのだ。
設営部代表の真塚にとっての本番は、文字どおり前日設営当日。
コミケ当日は細かい残務処理は少々あるものの、基本的にはヒマだと思ってよい。
その真塚が走り回っているという事は、何かとてつもない事態が起きているに違いない。
「納得行かねぇよ!俺たちが、今日までどんな思いでやってきたか、知ってるだろ!?」
香田の言葉には、聞く者によっては何よりも強い説得力があった。
167 :
元撤収組:2000/12/28(木) 04:02
「隠密撤収中隊」は、撤収を手伝っていた一般参加者の間で生まれたサークルである。
指揮系統がバラバラで互助組織もない撤収参加者たちをまとめ上げる目的で、
香田ら数名の参加者が発起人となって結成された。
しかし、その道のりは平坦ではなかった。
過去何度か、このサークルはメンバーの暴走で解散の危機に追い込まれた事がある。
その度に香田は準備会に頭を下げ、メンバーを叱り飛ばし、
どうにか常時参加者50人クラスの大所帯まで発展させてきた。
現在では、準備会の外部組織として事実上認知され、撤収活動をスタッフの指揮下で
懸命に取り仕切っている。
今回、最後のコミケットということもあって、香田らメンバーの気合の入りようは
尋常ではなかった。
「君達に、これ以上語る事は何もない。」
「今まで協力してきたのはなんだったんだよ!」
「それには非常に感謝している。だがそれとは話が別だ」
「・・・わかったよ!俺たちは俺たちで、独自に活動を展開する!
今回だけはスタッフの指図は受けねぇ!」
その瞬間、真塚はキレた。
確かにキレたのだ。
「貴様ら、自分の命がどうなってもいいんだな!!!??」
言うが早いか、真塚は「とんでもない事を口走ってしまった」と後悔した。
そして香田は、騒ぎに気づいた他のスタッフによって、本部からつまみ出された。
168 :
元撤収組:2000/12/28(木) 04:02
「何か変だ・・・」
「準備会で人事改編があって、撤収部隊のシンパが丸ごと飛ばされた、とかじゃねぇの?
俺たちがこれ以上問題起こす前にさ(ワラ」
撤収部隊のメンバーの1人、中浦が自嘲気味につぶやいた。
「いや、それならもっと前に潰されてるはずだ。現に、俺たちは今回こうやってサークル参加している。」
「大雪だから早く帰れ、っていう温情路線は?」
「それなら、コミケ自体が開催された事が謎だ。
いずれにしても、俺たちを排除して撤収がスムーズに行くとは思えない。
撤収部隊がいるといないとでは作業スピードが桁違いだ、ってのは、あの真塚自身の言葉だからな。」
香田のつぶやきに、全員が奇妙な違和感を覚えていた。
「・・・それでも追い出したい、何かがある、って事か。」
「今日一日、スタッフの動きもなんか変だったな。
あっち(東1〜3ホール)じゃ、また事故も起きたらしいからな。」
「・・・だとしたら、もう一山・・・」
「何しろコミケ。しかも今回で最後だ。何が起きても不思議じゃないさ。
で、香田ちゃん?今日はこの後どうするよ?」
「真塚に啖呵切った手前、逃げるわけにもいかねぇだろ。
とりあえず、スタッフが本気で排除にかかるまでは、俺たち自身が独自に動くまでさ。」
後に、香田は自分の先走った目論見を後悔する事になる・・・。
169 :
元撤収組:2000/12/28(木) 04:04
とりあえず、変な風に登録されてしまったようです。スマソ
今までずっとROMってましたが、本日中に終了という事で
いても立ってもいられなくなり、創ってしまいました。
撤収中毒から見た「終わるコミケット」です。
今、帰宅しました。
ごめんなさい。もう間に合いませんね。これで、3時間後には出社しなくてはなり
ませんし。クリスマス商戦>年末商戦>年始商戦の激しさ、厳しさ、痛感してます。
ていうか、この時期に全国管理者会議やるか、ふつう。もうなに考えているんだ、
総合企画部。
>ライター各位
えらそうなことをいってましたが、けっきょく最後まで書ききることはできません
でした。どこかでこっそりやるつもりですので、そのときのため、情報交換させて
いただきたく思います。よろしければ、
[email protected]までご通報ください。
>有明警戒1さん
本当に申し訳ありません。自分の時間配分能力のなさから、かかる事態を招きまし
た。謹んでお詫び申し上げる次第です。いただきました原稿につきましては、今後
どこかで発表するつもりであるところのSSの中で生かしていきたいと考えており
ます。
そして時がきた。
しかし、ここにたたずんでいた私は、身動きが取れなかった。
見ていることしかできなかった。
動こうと、歩みを進めようすることは、なんと難しいことだったのだろうか。
私は、その時が来ても、何もできはしなかった。
あの時、できるだろうと思っていた自分は、そこにはいなかった。
悔い。怒り。悲しみ。諦め。未練。
そして、時はそんな思いすら置き去りにして過ぎ去っていく。
それ抗う術は、この手にはなかった。
字並べ屋<
[email protected]>
今回、自分はサクール参加じゃないんですが、
ご迷惑でないのなら各方面にご挨拶くらいには上がりたい所です(涙)。
と言うか、私もご挨拶がてら新刊買いに行きたいんで、
サクールをこっそり教えてくださると幸いです。>手動筆記人さん、i286さん
(雑食性なんでジャンルは問いませんです、ええもぉ(笑))
とりあえず、会社を出たら、そのまま現地入りしますが、
ノートは持って出ているんで、メールチェックはできますんで。(^^;
字並べ屋<
[email protected]>
とりあえず、このまま終わらせてしまうのは、
自分でももったいないと思ってたりします(苦笑)。
私も、どのような形でも良いので最後まで見届けたいです。
実は、まだ後日談が残ってたりするので・・・
年末進行に忙殺され、同人用のCD焼きまくり……私も結局書き切れませんでした。
でも性格上、このままで済ませるのはイヤなので、どこかで発表するつもりです。
今回は私もサクール参加しています。
私もこっそり会いたいので、連絡用のメールアドレスを開放しておきます。
#流れ書き <
[email protected]>
絶対、必ず書きます。
きょう、たったいま連絡がありました。
私のかけがえのない友人、親友といって差し支えない人間が、昨日亡くなったそう
です。
彼は同じ年に生まれ、趣味が合い、これからの日本のある業界を支えていくはずだ
った、将来を周囲から期待され、これからも同じ時を共有していけるはずの人間で
した。
会社の忘年会の帰り、暴走車にはねられ、亡くなったそうです。
彼の愛したコミケット、その当日になくなるとは…。
僕は、冬コミというと、彼のことを思い出すでしょう。
忘れがたい出来事が起きてしまいました。
あのような優秀な人間が逝くなら、いっそ俺が逝けば良かったのに。
ていうか、お前、親父も交通事故で失ってるじゃねえかよ。
遺された定年間際のお母さんと、お祖父さんとお祖母さん、どうするんだよ。
ごめんなさいこんなところに書くことじゃないのに@三文文士
今更なんですが、前日の話しを書き出しても平気ですか?
なんか、書いていた奴が完成遅れてまだ出来てなくて...
どうしようか迷ってます。
178 :
1:2000/12/28(木) 23:34
4ヶ月にわたってお送りしてまいりました「終わるコミケット」スレッドは、
開始当初の約束通り、本日23時をもちまして終了とさせていただきます。
長い間お付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。
完結しなかった物語については、各執筆者が独自にページを公開しておりますので、
そちらでの展開をご期待ください。
なお、現時点以降、このスレッドへの作品投稿は「なし」です。
20世紀最後のコミケットは、21世紀に続くものとして行われるのですから。
これが、現実です。
終わりすら望まずにはいられない、哀しき者たちへ。
179 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/28(木) 23:45
荒れそうだけど敢えて言わせてもらう。
なんで1がこのスレしきってるん?
確かにこのスレ立てたのは1だろうけどこのスレは1のものではなく
書き手読み手が作り上げてきたものじゃないのか?
なんでスレを立てたからといって1に命令されなきゃいけないんだ?
ただでさえ書き手側では倒れて入院したり仕事が忙しかったりして
続きを書きたいのに書けない人がいるのになんでそういった事情まで無視して
このスレが1に仕切られなきゃいけないんだ?
…特に三文文士氏は
>>176のような状況じゃ書きたくても書けないでしょうし……
#すいません、無知なんで何と言っていいか分かりませんが、同じコミケ参加者として
#文士氏のご友人に哀悼の意を捧げさせていただきます…ご愁傷様です。
単なる個人的なわがままかも知れないが、
私はこのスレでこのスレの参加者全員で作り上げていったものの最後が見たい。
180 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/29(金) 00:18
>>179 激しく同意。
書きたいなら勝手に書いてよし!
書いてまずいことなんてないだろ。あるのか?
181 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/29(金) 00:40
12/28 23:00で終了するってのは前々から言ってあったことなので
いまさらそーいうのはナシ。
執筆各氏もそれは納得の上では?
いいじゃん、続き読めるんだし。
182 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/29(金) 00:49
>>181 でもそれはスレを立てた時に1が勝手に決めたことだろ?
それに4ヶ月前に執筆者が自分が入院したりして28日までに終わることが出来ないとは思わなかったから
4ヶ月もあれば十分終わるだろうと思って了承しただけなんだから
今現在の事情を考慮に入れれば別に期間延長したって問題無いんじゃないか?
執筆者の面々がそれぞれ他の場所にアップしてくれるのでもいいけど
やっぱ、ここで始まったことなら終わるのもこっちで締めたいと思うのだが。
それに俺らロムラーの意見ではなく執筆者各位の意見を尊重したいと思うのだがどうだろうか?
ということで執筆者各位の意見を待つ。
取りあえず、俺は
>>179に同意でここで続きを読みたい派。
183 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/29(金) 00:54
スレを立てたのは1の功績だが
スレを育てたのは皆の功績。
184 :
179:2000/12/29(金) 01:00
んじゃ、存続するか終了かでアンケート取りますか?
もちろん自作自演は禁止で、執筆者の意見尊重ってことで。
つか、今繋いでる方だけでもいいんで執筆者の方出てきてくれないですかね…?
185 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/29(金) 01:05
今繋げない執筆者も多いと思うし、もうちょい冷却期間を置いた方がいいのでは?
ちょっと結論を急ぎすぎてる気がする。
執筆者のことを本当に考えているなら、もう黙れ。
187 :
中華娘:2000/12/29(金) 01:09
つけ爪したらキ−が打ちにくいです・・・
私としては複雑な気分です。
本物の冬コミが終わってしまったら、
しらけてしまうのではないかという危惧があるのと
同時に、このスレで全ての終焉を見届けたいという気持ちもあります。
でも純粋に読み手としてならやはりこのスレで見届けたいです。
188 :
中華娘:2000/12/29(金) 01:11
ただ、他の書き手の皆さんの事情を考えると
一概に続けろというのもアレですし、
各自、書き手の皆さんの判断にゆだねてみてはどうでしょうか?
「何かを作りたい、何かを作って誰かに見せたい、そういう気持ちが、同人の根幹なんじゃないのか?」
「あらあら、ずいぶんとまぁ臭いことをおっしゃる」
「俺はそう信じてる」
もう遠くになってしまった、逆三角形の建物。
「くさいねえくさいねえ、まったく、匂ってきそうだ」
「じゃあなんだって言うんだよ」
「いいかマイフレンド、俺にとって本を描いて売るってことは、ショーだ」
ヤツはくるりと一回転して見せた。
「ショー?」
「そうさ、ショーだ。ショーがショーであるためには、何が必要だ?」
「観客とピエロ」
一本指を立て、俺の目の前に突きつける。
「ビンゴォ、その通り。俺は壁で踊り狂い続けるピエロ。そして観客は徹夜組」
「・・・だが俺は思うよ」
「へえ、何をだい」
冷たい風が俺達の間を通り抜けた。
「俺の言っていること、お前の言っていること、どちらも間違いじゃない」
「それで」
「エンターテイメントであろうが芸術であろうが、俺達がやることは同人だ。それ以上でもそれ以下でもない」
ヤツは背を丸め、喉で笑い、俺の肩を叩いた。
「そうさマイフレンド、気にするこたぁない」
「やりたいようにやれってか?」
「そうさ、わかってきたじゃねえかマイフレンド」
俺達は歩き出した。
「さぁて、次の新刊はどうすっかな、なぁやっぱラブひなか?マイフレンド」
「俺に聞くなよ。俺様は学漫王になるんだぜ」
「ウヒャヒャヒャ、相も変わらず金にならねえことが好きだねえ」
「物好きだろ」
「ウヒャヒャヒャ、自分で言うことじゃねえよ」
・・・
コミックマーケットは、それ自体では意味を持たない。
カタログにも書いてあったろ?全員が参加者だって。
俺達がやることが、即ち同人であり、
俺達が描くものが、即ち同人誌だ。
税金納めようがシャッター潰そうが、
訴えられようが圧力かけられようが、
俺達は同人であり、
俺達は同人誌を描く。
飽きたら辞めればいいし、
スタッフになるのもなかなか悪くない。
どんな困難があろうが、
俺達がいる限り「同人」は
無くならないのだから。
…コミケ前夜なんで気が昂ぶってました、スマソです。
頭冷やしに逝ってきます…
191 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:2000/12/29(金) 12:06
くだらないことに気を取られて大事なことを言うの忘れてた。
執筆者のみなさん、ありがとう、いい夢見させてもらいました。
192 :
名無しさん@どーでもいいことだが。:
とりあえずこのスレは終わっておけば?
んで、誰かが「続・終わるコミケット」とかゆースレを立ち上げるってのはどうでしょう?
書きたい人はそのスレで書けばいいし、そうでない人はそのスレは読まなければ良い。