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・・・原因が複合的である以上、対策も総合的なものでなけらばならない。特に次のような点が重要である。
第一は、経済政策手段の活用である。日本政府はこれまで、厚生労働行政を中心に対応してきた。
これも重要だが、さらに経済政策の考え方を生かして、「子供を育てることが有利になるような(せめて不利に
ならないような)インセンティブを組み込むことも必要だ。そのための仕組みとして誰もが思い浮かべるのは児童手当
だが、税制の活用も重要である。
例えばフランスでは、個人所得税でN分N乗方式(夫婦合算の所得を子供も加えた世帯人数に分割して課税)が
採用されており、子供の数に応じて税負担が軽減される。日本でも、子育てを促進するような
税制体系を構築すべきだ。
第二は、政策資源を高齢層向けから若年層、子育て層向けにシフトすることだ。これまで、将来の人口問題として
注目されたのは「高齢化」であり、社会的弱者として最も意識されていたのは高齢層であった。このため、
政策資源ももっぱら年金、医療、介護などに振り向けられていた。
しかし、若年失業率の高さ、子育てのストレスなどを考えると、若年層、子育て層にも社会的弱者とみなすべき
人々は多い。・・・・
・・・
出生率が2015年までに1.6となり、その後2050年に人口置換水準である2.07年までに回復すると、人口を長期的に
9000万人で安定させることができる。こうした姿を実現させるための戦略的な取り組みが求められている。
少子化と人口減少[2] 国家的危機と認識すべき 04/08/04 日経「経済教室」
同時並行で対策を
国レベルで選択と集中
神田玲子 総合研究開発機構総括主任研究員
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今後の生産年齢人口の急減は、1950年代初頭からの大規模な育児制限の結果である。優生保護法など
による育児制限によって、戦後のベビーブームが早期に終結したことが、いわゆる「団塊の世代」を生んだ。
生産年齢人口の急減は、その団塊の世代が高齢者となり、代わって育児制限の行われた世代が、生産
年齢人口の中核となるためである。日本特有の「人口の谷」の存在が、他の先進国と異なり、経済を縮小
に導くのである。
ここから二つの結論が得られる。一つは、出生率の向上、つまり少子化対策では問題を解決し得ないという
ことである。なぜなら今後の生産年齢人口の減少速度は変えることができない。これから生まれてくる人々の
問題ではなく、すでに存在する人々の年齢構成の問題だからである。
いま一つは、外国人労働者の活用も問題の解決にはならないということである。現在最も外国人比率の高い
ドイツ並みに増やした場合の国民所得を試算したが、図のように、日本経済が早晩、縮小に向うことに変わり
はない。それだけ生産年齢人口の減少速度が大きいのである。
さらに外国人労働者の大規模な活用は、別の問題を生む。現在の外国人労働者への関心は、高度な技術労働者
ではなく、単純労働者に集中している。そのため、流入する外国人労働者は20-30歳代が中心となるが、それは第二次
ベビーブームの世代と一致する。
そして、他国の例からみて、その活用には限度があり、いずれ抑制に転じざるを得ないとすると、
それは第二次ベビーブームの「山」を高め、その後の「谷」を一層深くする。当面の経済の縮小幅は小さくなるかも
しれないが、将来の経済の縮小を一層急激なものにするのである。いわば「後世代への負担の移転」である。
119 :
118:2010/06/10(木) 06:22:45 ID:AjLkBP9r0
・・・一方で人口も減少するため、筆者の試算では、一人当たり国民所得が低下することはない。・・・
また基本的には、企業経営が悪化することもない。人口減少による経済の縮小は、不況による経済の縮小とは
異なる。不況期に企業経営が悪化するのは、需要が縮小して供給を下回るからであるが、人口減少下では、労働力
制約によってまず供給能力が縮小する。売上は縮小するが、コストも縮小するのだから、企業経営が悪化するとは
言えない。・・・
・・・
一方、財政支出については、人口が減少し、経済が縮小するのであるから、当然、その規模は縮小してしかるべき
である。高齢化という拡大要因ばかりが主張されるが、少子化は教育支出などの縮小要因である。増税なくして財政
収支を均衡させることは十分に可能であり、縮小経済においては、増税は経済を更に縮小させる危険性が高いこと
を認識すべきである。なすべきことは、増税ではなく、人口の減少に見合って財政支出が縮小するような財政
システムへの転換である。
人口減少経済において最も困難になる過大は社会資本整備であろう。・・・2020年代の初頭には、公共投資が
民間設備投資をクラウドアウトする危険性が高まる。・・・
日本が引き続き豊かな社会であり続けられるかどうかは、そうした経済社会システムの再構築が速やかに進展するか
どうかにかかっている。ただしそこでは、様々な既得権が消滅する。そのため、そうした変化を押しとどめようとする動き
も生まれるだろう。外国人労働者の活用や少子化対策も、それによって現在の経済社会システムを延命させようとする
動きであると言えなくもない。・・・
・・・
少子化と人口減少[1] システム構築を急げ 日経04/08/03経済教室
経済の縮小は確実
社会資本も整理が不可欠 松谷明彦 政策研究大学院大学教授
人口減少問題に対して、スウェーデン型の出生率向上策を取る、外人労働者受け入れで対処する、
の2つの方法があるが、どちらも無理である。
理由は、
出生率が回復する前にもう高齢化時代が到来してしまう、
外人労働者受け入れだと、25年後までに2400万人も受け入れなくてはならなくなり、しかも
根本的な解決にはならない先送り策でしかない、ということ。
若者が比較的多い大都市圏は高齢化の影響をもろに受けて就職・所得で苦労。
地方は一人当たりの所得が増加。地方が繁栄し、都会は衰退する。
投資型社会から消費型社会に移行。
「人口減少経済」の新しい公式―「縮む世界」の発想とシステム
松谷 明彦 (著)=大蔵省→政策研究大学院大学教授 日本経済新聞社
ttp://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532350956/qid=1087751545/sr=1-1/ref=sr_1_10_1/249-6357201-9979521 日経04・06・20朝刊書評欄で紹介
2009-11-04
人口減少社会における公共政策・・・・「人口減少社会とは?〜人口減少高齢化の現状及び問題認識〜」
(講師:政策研究大学院大学松谷明彦教授)
ttp://d.hatena.ne.jp/k19540302/20091104/p1 ■少子化対策には「必要性」と「持続性」の視点を
現在、わが国において少子化対策は優先順位の高い課題となっているが、社会福祉政策は一般に、大衆迎合的
に際限なく広がりやすく、財政・社会の破綻を招くことがあるので、その政策が本当に効果があるのかどうかを
吟味する必要がある。また、そもそも子どもをなぜ増やしたいのか、その目的を明確にすることも大切である。
例えば、ドイツでは、少子化対策をはじめとした人口問題は「外交」として位置づけられている。EUの覇権を
握るためには、一定程度の人口が必要であり、出生率があがらないとなれば、移民を受け入れるしかないからである。
また、スウェーデンなど北欧の国々は、人口がこれ以上減ると森林資源の維持管理ができないという切実な問題
を抱えており、いずれの国も、確固たる必要性に基づいて支出をしているのである。わが国においても、
少子高齢化対策を行ううえでは、社会的必要性と持続可能性の視点をしっかりと持たなければならない。