>>41の続き
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】 ■第二十三回■
昭和60年の秋は爽やかに過ぎていった。
街中では菊池桃子の「もう逢えないかもしれない」や
中森明菜の「SAND BEIGE -砂漠へ-」などがよく流れていた。
しかし瑠利子はそのような軽薄な音楽には全く興味を示さず、
黛敏郎の「涅槃交響曲」や武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」
などに関心を示していた。瑠利子の部屋から
重厚なクラシックの音が途切れることはなかった。
秋も深まった昭和60年10月下旬のある夕暮れ時であった。
瑠利子はいつものようにステレオでクラシック鑑賞をしていると、
母が青ざめた表情で部屋に飛び込んでくるなり、こういった。
「伯母さんがね、さっき車に轢かれて…」
瑠利子は頭の中が真っ白になった。
伯母さんはどうなったのか聞こうとしたが聞けなかった。
母は両手で顔を覆って泣き崩れた。
(第二十四回に続く)