【純粋】愛は面影の中に 東瑠利子 第三話【清純】

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259高城涼子 34歳 著述家 ◆3hoyN3.pmOxR
>>184の続き

【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】 ■第二十六回■

昭和60年12月。瑠利子一家は都内の別宅に来ていた。

当時瑠利子の家は本宅の他に都内に広大な別宅を所有していた。
普段は本宅に居住していた瑠利子一家だが、
この日からは退院したばかりの伯母を慰めるために
伯母とその家族を別宅に招待したのであった。

正門を入ってからおおよそ15分ほど歩かなければ玄関にたどり着けなかった。
庭には大きな池があって、鯉が約100匹、優雅に泳いでいた。
松や欅、楓その他数え切れないほどの木々が生い茂っていた。
そんな中、たくさんの石灯籠に混じって小さな墓石がひとつ建っていた。
これは8月に発生した、日航機墜落事故の犠牲者を供養するため、
11月になって瑠利子の両親が建立したものであった。

瑠利子は墓石の前で心から手を合わせた。
彼女の頬には一滴の涙が流れていた。
瑠利子はひたすら犠牲者の冥福を祈り続けた。

やがて瑠利子は閉じていた目を開くと辺りを見回した。
彼女の視界には五重塔があった。
これは広大な庭の中にある建物であった。
瑠利子の曽祖父が明治時代に巨費を投じて建てたものであった。

瑠利子は平和と人類愛を祈念しながら五重塔へ向かって歩いていった。

(第二十七回に続く)