>>643の続き
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】 ■第十九回■
昭和60年8月12日。この日は暑かった。蝉の鳴き声が賑やかだった。
瑠利子は家族と夕食を食べた後、テレビで放送される予定の
「東京裁判」を楽しみにしていた。彼女はアニメやくだらない
お笑い番組などには全く興味をもてなかった。
いつも見るのは教育テレビだった。
しかし、この夜は映画鑑賞のために時間を割くことにしたのである。
ところがNHKの7時のニュースを見ていると、
終わり間際になって日航機遭難を知らせる速報が入った。
瑠利子は思わず父に尋ねた。
「お父さん、飛行機落ちちゃったのかな?」
「そうかもしれないね。もしかすると東京裁判は放送中止になるかもしれないね」
父はそう答えると、新聞のテレビ欄を眺めた。
瑠利子は不安な心持で窓辺に立つと、夜空を見上げた。
(第二十回に続く)