>>267の続き
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】 ■第十七回■
瑠利子の母方の曽祖父が亡くなったという電報が届いた。
母は青ざめた表情をしていたが、やがて意を決したように
瑠利子にその事実を伝えた。
彼女は衝撃で言葉にならず、呆然としていたが、
しかし友達にはいつもどおり優しい笑顔で接し続けた。
雛飾りと豪華料理を楽しんでいる友達を追い返す、
そんな無慈悲なことは瑠利子にはできなかった。
だから曽祖父を失った悲しみは胸に秘めて、
友達にいつもと変わらぬやさしさで接していたのであった。
ところが瑠利子は雛飾りの遥か上段に飾られた男雛を見ていると
ああ、あのやさしかったひいおじいちゃんはもういないんだなと思った。
すると心の底から深い悲しみがこみ上げてきた。
両目からあふれ出る涙を抑えることはできなかった…
瑠利子は逃げるように奥の間に駆け込んだ。
悲しみをこらえるような嗚咽がいつまでも続いた…
(第十八回に続く)