はっ
アイは詰めていた息を
鋭く断ち切るように吐き出す。
正面の巨大プラズマ・ディスプレイのなかでは
杣台が「炎上」している。
リラックスして操作していたつもりだったが、いつの間にか
息を詰めてしまっていたようだ。
断ち切るように息を吐いたことで、
気づかぬうちに硬くなっていた躰がほどけ、
時間がゆるやかに流れ出した。
ゆっくり息を吸う。
ゆっくり、ゆっくりと息を吸い、それが頂点に達したとき、
今度はゆっくり、ゆっくりと息を吐いてゆく。
自分の輪郭を確かめるように、ブラの上から胸を触り、位置を直す。
全身の細胞がぞわぞわする。
軍用芋虫人システム操縦席の操作盤の上に置いた目覚まし時計みたいな形の機械に眼をやる。
機械は電纜で操縦席に繋がれ、電力や情報の供給を受けている。
デジタル時計の文字盤を思わせる側面の液晶に671という数字が読める。
その意味は、アルジャーノン指数、671万[au]。
――跳べる・・ 跳べる!!
アイはコックピット・ソファにゆったりと身を沈めると、
両眼を虚空の一点に
放心したみたいに据える。
現実が「平ら」に見えてくる。
それは精神疾患における「離人感」とも似ている。
だが、ガイア沈殿に属する現実など、4次元に過ぎない。
7次元時空のなかでは「平ら」な広がりでしかなく、
「平ら」に見えることこそ、正しい。
別に目前の光景がへしゃげるとか、縮むとか、いうわけではない。
現実がありのままで「平ら」に見えてくる。それと同時に、
現実の〈外〉に、無数の多重コスモス場の気配がちらついてくる。
額の第3の眼が脳のなかで開く。
不意に、
無数のチャートが、
空中でシャッフルするトランプみたいに
ばっ、ばっ、ばっ、ばっ、と噴き出し、気がつくと
アイは跳んでいた。