大好きな愛犬に捧ぐ独り言。

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641柊の国の芋虫
芋虫たちは四肢のない体を
棺桶の暗闇のなかにうつ伏せながら
羊水のような液体に漬かって
永遠にも等しい宙吊りの時間を過ごしていた。
生きているともいえず、死者ともいえない、
限りなく物体に近い〈生〉。

ときどき存在しない両手の先から
おびただしいデータ群が脳に流れ込んできて、
意識はそれを凄まじい異臭のように感じることもあったが、情報処理は
脳の「あるじ」の意識にもとづいてではなく、
純粋に装置としての脳髄のさまざまな路地裏で行われるので、
「あるじ」は無駄な付箋紙のように脳に張りついているだけだった。

感覚遮断が続くうち、芋虫たちの自我は液状にとろけ始め、
幼児に、そして乳幼児にまで退行し、やがて胎児のようになった。
胎児のようになった芋虫たちの意識のフィールドには、
現世でのさまざまな人生場面が断片的に、
ラーメンのスープに溶け込んだ背脂のように
不安定な形を見せながら浮かんだり沈んだりするのだった。