軍の特務班の少尉は開口一番、こう言った。
「やあ、ヒーローくん。
死体は黒幕や情報源を吐かねーぜ。プロだったら、脳は生かしとくけどな」
柊軍曹は静かな声で
「申し訳ありませんでした」とだけ言って、
尋問者の眼の下1cmのあたりを、ただ、睨み続けた。
「まあ、そんなに固くなるなよ。鰍ちゃんのおもりは、大変だぜ。あんたに務まるのか? それに、
鰍ちゃんは誰かに守ってもらわなくてもだいじょうぶな女の子だ。
下手に保護者面する男が出てくると鰍ちゃんの能力活性が落ちる可能性すらある」
柊軍曹はこの事情聴取というか査問の
位置付け――目的・意味・性格が
図りかねて沈黙した。
「あんた、榎クーデタのときは、証拠を目撃したのに、逃げたろ。
>>393 ぎりぎりの状況で、どんなことがあっても鰍ちゃんを守り切れるか?
逃げない、というだけじゃだめだ。プロは結果責任だからな」
軍部は基本的に親榎派だ。榎クーデタのときに証拠を目撃した柊軍曹が「正義」を貫くことは、
むしろ反軍的な行動であり、それを
軍の特務班の少尉が「逃げたろ」と糾弾するのはアンフェアもいいところだった。
「鰆ちゃんは――嘘がつける女の子だ。あの子は問題ない。困るのは鰍ちゃんだ。
鰍ちゃんは嘘がつけない。悪戯好きだし、無茶苦茶なことも平気でするが、嘘がつけないんだ。
もう一度言うが、鰍ちゃんのおもりは大変だぞ。あとで降りるくらいなら、いま降りろ」
柊軍曹はただ黙って
特務班の少尉の眼の下1cmのあたりに眼を据えていた。
「柊軍曹、きょうから君は特務に配属だ。君を主任科学官護衛准尉に任命する」