大好きな愛犬に捧ぐ独り言。

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490柊の国の鰍
鰍は、
柊軍曹ににっこり微笑みかけると机に向かい、
積み上げた本たちが描き出す世界へと――
一瞬にして没入する。

最初図書室で形而上物理学の本を眺めたとき、鰍は遊び半分のつもりだった。

鰍の構築した軍用芋虫犬腹中虫粘菌型コンピューティングは
いくつかの微量物質をシグナルとして使い、
神経系的というよりはホルモン系的な情報伝達を行うシステムだ。

電子的な通信が、結局のところ ON‐OFF によるデジタルな情報伝達を行うのに対して、
ホルモン系的な通信は、「濃度」「拡散」「複合」などの液体的性質を持つ。
鰍が企図したのは、言ってみれば
「言語ではなく、感情を直接伝える媒体」だったのである。

たとえば第4回試運転は 長期 低速度 運用実験だった。

このシステムの運用には大きく分けて二つのタイプがあり、
ひとつはあの第1回のときのような 短期 高速度の運用、これは
シグナル物質を高濃度で送ることによって刺激速度を上げ、短期で目的を達する運用、そして
もうひとつが第4回のような 長期 低速度の運用タイプである。

鰍はゆっくりゆっくり時間を掛けて、
メープルロード商店街の端に位置する十字路の
ひとつの角を「霊スポット」にすることに成功した。
「見た」という人間が続出し、WEB掲示板でもちょっとした騒動になった。実は
第4回試運転は継続運用されており、いまでも稼動中なのだ。