465 :
柊:
こんなとこにいたら、腎臓をとられる!!!!
柊おぢさんは病院から逃げた。
逃げるといっても逃げ場所などない。
本気で600万園の借金から逃げるつもりなら
どこかの地方都市にでも高飛びして隠れるべきだったが、
柊おぢさんにそんな才覚はなかった。
柊おぢさんはもとのぼろアパートの自分の部屋に逃げ込んだのだ。
それは「逃げた」「隠れた」などというものではない。
「頭隠して尻隠さず」ですらない。
ただただ目前の恐怖から逃避する動物的な行動だった。
アパートのドアを開ける。
ぼわぁ っと押し寄せてくる異臭。
6匹分の犬の残骸(喰いかす)の腐敗臭だった。
「いぬ、いぬぅ、いうぅ、うあぁ、あえぇ、えあぁ」
柊おぢさんは、這いつくばりながら畳に嘔吐した。
変形した岩石顔の片目の男が、畳を転げまわるようにして嘔吐し続けた。
車が走ってくる音が聞こえた。車のドアが開き、ばんっ と閉じられる。
足音が近づいてくる。
アパートのドアが開かれた。
「柊さん、逃げてどうするんですか?」一人が優しい声で言う。
「っめえ!! っざけんじゃねっぞぉ!!!!」もう一人が怒鳴る役だ。