大好きな愛犬に捧ぐ独り言。

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435柊の国の鰍
鰍は、杣台の地図を前にしている。

杣台軍用芋虫犬製作工場は先々週の7日間、
鰍の腹中虫を寄生させた軍用芋虫犬を水道チューブに放流し続けた。先週の7日間、
生態系の安定を待って、
今日はシステムの試運転なのだ。

「軍用芋虫犬腹中虫粘菌型コンピューティング、試運転第1回、開始します」
鰍はふつうに声を出しているだけだが、
室内にいた下男の柊三等兵はお嬢様の可愛らしい声にうっとりした。

鰍は液晶画面のなかの実行ボタンをクリックする。鰍が組んだ試運転プログラムが起動し、
杣台地図上のいくつかのポイントでイボガノン酸ナトリウムを表わすオレンジが濃くなった。
鰍のきらきらした瞳が一心に液晶画面群をみつめている。

水道チューブ内の微量物質の電子的モニター、
数箇所に仕掛けられた水道チューブ内の暗視カメラ映像、
杣台全域の監視カメラ映像、
その他、交通監視、電力消費、民間TV、携帯電話のランダム盗聴、メールのランダム盗読、など、
リアルタイムでの杣台の全体像を構築する液晶画面群が鰍の前に展開していた。
鰍はそのすべての画面を同時に把握する能力をもっていた。

画面に見入りながら、膝の上で小さな両手が軽やかに舞い、画面を切り替えて情報を収集しながら
試運転のすべてを全身に浴びている。
鰍の脳内では都市の奏でる交響曲が鳴り響いていた。