視界がぼやける。どこか薄暗い部屋の中で、亞里亞は目を覚ました。
『あれ・・・ここはどこ?』
亞里亞はキュトンとしながら、目をパチパチさせた。
たしか、目が覚める前は部屋のベッドの中にいたはず。
「ううっ・・・」
亞里亞は胃の奥からこみ上げてくる消化液を吐き出しそうになり、
必死に口を手で抑えた。
部屋の中には、むせ返るような異臭が漂っている。
それは、ホルマリン系の薬品の匂いだった。
辺りを見回すと、マネキン人形らしき物がたくさん立っている。
「亞里亞ちゃん、起きた?」
ふと、どこからか声が聞こえてくる。
「兄や・・・?」
振り返ると、そこには兄が立っていた。
兄はなぜか悲しげな表情を浮かべ、亞里亞を見下ろしている。
「兄や・・亞里亞このお部屋きらい・・暗くて・・・・
変なにおいがして、それに・・お人形さんたちが怖いの・・。
亞里亞・・おうちに帰りたい・・・くすん」
亞里亞がそう言うと、兄はくすっと笑った。
「亞里亞ちゃん、あれはね正確にはお人形さんじゃないんだよ。
剥製っていうんだ。」
「はくせい・・・?」
「女の子はね、年を取るにつれて醜くなっていくんだ。
シワが増えたり、肌がボロボロになったりね。
僕はね、女の子がそんなふうにならないように、いつまでも
年を取らずに綺麗な姿のままで残しておくことができる。
そう、僕は魔法使いなんだ」
「うわぁ。兄やは魔法使い。すごい、すごい」
どうやら亞里亞は、意味がよく分かっていないようだった。
「でもね、僕は本当は魔法使いになんかなりたくなかった。
いつかこの日がくるのは分かっていたんだ。
でも・・・僕は亞里亞ちゃんのことが可愛くて・・・
せめてもう少しだけ・・一緒にいたかった・・・」
兄はボロボロと涙を流し始めた。堪えても堪えても、
溢れ出す涙を抑えられないようだった。
「兄や・・泣かないで・・。兄やが泣くと亞里亞も悲しく
なっちゃう・・・くすん」
兄は意を決したように深呼吸をすると、棚の中から何かを取り出した。
それは透明な液体の入った注射器だった。
「亞里亞ちゃん・・・ごめんね。今までの誰よりも、
綺麗なお人形さんにしてあげるからね」
プスッ
兄は、注射器の針を亞里亞の首筋に打った。
すると、とたんに亞里亞の体がガクガクと痙攣しはじめる。
「ああ・・・う・・」
目はだんだんと空ろになり、しばらく体をふらふらさせると、
糸の切れた操り人形のようにガクリとその場に崩れ落ちた。
「ハア・ハア・・に・・いや・く・・・くるし・・い・・」
亞里亞の呼吸がだんだんと小さくなってゆく。
やがて瞳孔が開き、亞里亞の体はピクリとも動かなくなった。
兄は亞里亞のドレスを脱がし全裸にすると、
『防腐液』と書かれた水槽の中に亞里亞の体を浸した。
そして数日後、兄は水槽から亞里亞の体を取り出すと、
蒼白くなった体に、ツーとメスを入れた。
防腐液に浸していたため、血は吹き出てこなかった。
綺麗に開かれた背部の切り口の中に手を入れ、次々と内臓を
引きずり出してゆく。
頭部を首からを切断し、脳みそ、舌、眼球なども切り落とした。
兄は全身のあらゆる箇所にメスを入れていき、
臓器だけでなく肉、筋、腱も削ぎ落としていく。
亞里亞は全身の肉を落とされ骨と皮だけの体になり、
再び防腐液の中に浸された。
やがて皮の中に新聞紙、トイレットペーパー、粘土など
が詰められ、亞里亞は剥製として生まれ変わった。
その仕上がりはとても美しく、まるで生きているかのようだった。
878 :
亞里亜編(4/4):03/02/22 01:03
「兄や様、いつも有難うございます。
流石ですね、今までで一番素晴らしい作品です。
ふふふ、ご主人様の趣味は美しい少女を剥製にして
コレクションにすること。
亞里亞様がここまで成長するのをどれだけ心待ちにしていたことか。
ご主人様もさぞお喜びになるでしょう。
あれ、兄や様?もう少しゆっくりなさっても・・・」
「もういい・・・僕は帰る」
兄は屋敷を後にした。
その後ろ姿はとても小さく、どこか悲しげな感じであった。
「亞里亞様、お帰りなさいませ」
じいやは亞里亞の剥製に対し、狂気じみた笑みを浮かべた。