なあ、お前と飲むときはいつも白○屋だな。
一番最初、お前と飲んだときからそうだったよな。
俺もお前も理学部の学生だったとき、
一緒に飲みに行ったのも白○屋だったな。
「俺はいつか生命科学者になってCNSで一報取ってアカポスに付くんだ」
お前はそういって笑ってたっけな。
俺が文系就職して入社して初任給22万だったとき、
お前は博士号取るんだって胸を張っていたよな。
「もうすぐ結果が出そうなんだ。これでウチの研究室からCNSが出せるぞ」
「研究室の後輩に研究の仕方を教えてやってるんだ」
「お前も院に進めばよかったのに。専門知識を使わずに就職なんてもったいないぜ」
そういうことを目を輝かせて語っていたのも、白○屋だったな。
あれから十年たって今、こうして、たまにお前と飲むときもやっぱり白○屋だ。
ここ何年か、こういう安い居酒屋に行くのはお前と一緒のときだけだ。
別に安い店が悪いというわけじゃないが、ここの酒は色付の汚水みたいなもんだ。
油の悪い、不衛生な料理は、毒を食っているような気がしてならない。
なあ、別に女が居る店でなくたっていい。
もう少し金を出せば、こんな残飯でなくって、本物の酒と食べ物を出す店を
いくらでも知っているはずの年齢じゃないのか、俺たちは?
でも、今のお前を見ると、
お前がポケットから取り出すくしゃくしゃの千円札三枚を見ると、
俺はどうしても「もっといい店行こうぜ」って言えなくなるんだ。
お前が前の研究室のポスドク任期切れになったの聞いたよ。奨学金の返済も国民年金も払えないのも聞いたよ。
新しく入った技術者派遣で、一回りも歳の違う、20代の若い専門卒や主婦の中に混じって、
使えない粗大ゴミ扱いされて、それでも必死に卑屈になってテクニシャン続ているのもわかってる。
だけど、もういいだろ。
十年前と同じ白○屋で、十年前と同じ、努力もしない夢を語らないでくれ。
そんなのは、隣の席で浮かれているガキどもだけに許されるなぐさめなんだよ。