「友達も一人もいない」西村賢太さんが芥川賞
現在では珍しい破滅型私小説の書き手。「万に一つも受賞の可能性はない」と思っていた芥川賞を3度目の候補で射止め
「本当に大変うれしいです。それだけです」と顔を紅潮させて喜んだ。
受賞作「苦役列車」は、自らの経験をベースにした作品。中学卒業後に家を出て、日雇い仕事で生計を立てる19歳の主人公、
貫多の日常を描く。友人も恋人もいない貫多は、単調な労働の日々の中で同世代の専門学校生と知り合う。
だが、彼に恋人がいることへの嫉妬や学歴コンプレックスから、自虐的で暴力的な言動を繰り返してしまう。
作品には閉塞感と滑稽味が同居する。
「僕もふだん誰とも話さないし、友達も一人もいない」という。
23歳のとき、大正時代の無名の作家、藤沢清造の作品に出合い、私淑。「僕よりダメな人がいて、それで救われた」。
破滅的な生を描く私小説にこだわり続けてきた。
「自分よりダメなやつがいるんだなという気持ちになってもらえれば書いたかいがある。それで僕も辛うじて社会にいれる
資格が首の皮一枚、細い線でつながっているのかなと思う」
暴行で留置場に入れられた29歳のとき、貧しさの中で凍死した清造を思い出した。清造には「菊池寛が作った賞を
もらいましたと報告したい」と語り、自らが編集を進める清造全集の資金に賞金を充てるつもりだ。
「あまりいい家庭環境に育たなかった。父が問題のある人物で。いつかは書きたいと思ってます」。東京都出身。43歳。
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2011/01/17/kiji/K20110117000070570.html