HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part13
HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part12
http://yuzuru.2ch.net/csaloon/kako/1259/12594/1259474099.html あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part281
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1280906619/ まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ ※左のメニューの【お預かり作品】に作品があります。
我らはSS投下者の代理人
保守のスレッド代行者
,___
/゙ ` ̄ ̄`-,―ー,ハ、 _ ,--、 ,_
l | ゙//:´::::|(二二,)
゙l \ヽ`ー―−- - | ,iii,,ゝ:::::|(二二 ) 我らが使命は
| _`、_ 。 。 。.|。 。,ii,l iノ ̄ヽ(゙~l`) 投下者に襲う規制を
゙l i ` ̄~`tーーl_,_:/:lヽ、___,/-´ そのレスの最後の一片までも
゙| i ー´~l::::::::::::::::://::::_,(二) ―――保守する事―――
l i |::::○ ::::○::::: | ,ー´
l, i イ ゙l::::::::::::::::::::::::::|i:::|ヘー、_
く i i |:::(二)ヽ::::::::::|i:::|lノ ゙゙ `ヽ
゙ゝ`i ノ ,i⌒i⌒i⌒l~ヽ i ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー、
<´ゝ- (二| ,i l i , |iiニ,__i ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ i ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
゙\ ,_,ー´ ̄ー ,/ /:゙ヽ,_,_,_,,ノ゙> |i:::|y _,ー´ ̄/
ヽ ヽ, _-ー´,,ノ:::::::。,>`-ーー、,ゝ.|i:::| i  ゙̄/
|ー,く (,_,ー゙ ̄´ :::::::。゚::: )/ゝ::/ ゙̄/゙|i:::| ,i ヽ_」
゙| ヾ\ \:::::::::::::::。゚:::::::::i// / , .|i:::| \i ,l/
ヽイ-`ヽ ゙\;:::::::::゚。::::::::。\_,/゙。 .|i:::| ヽ, l゙
\ \ヽ \ ゙\ :::::::゚。_。゚:::::::`\ 。 .|i:::| 丶 ,|ノ゙
おお、復活させるのか
前スレ落ちてから長かったなあ…
書き手の皆さん、続き待ってます
書き手が投下する為に立てた
というわけではないのか
書き手の皆さんが投下するために立てたに決まってるじゃないですか
日本語って難しいね
こうなったら字楽先生に指導してもらうしかないよね
あのキャラスレまだ続いてたんだな。
前に銀河英雄伝の番外編が、作者が気に入らないって理由だけで消されて以来見て無かったわ。
一日経って避難所見たら投票終わって消すの決定って見て唖然としたんだが、
今の管理人ってあの時と同じ人?
オスマン・トルコさん召喚
落ちちゃうんじゃね
保守
だれかーだれかー
しばらく実習やら卒論やらでネット自体見てなかったのですが……
いつの間にやらゼロリカさんが完結してたりしばらくスレがなかったり。完全に浦島太郎状態です。
あまりに遅すぎる言ですが、ゼロリカさん完結おめでとうございます。そしてお疲れ様でした。
燃料投下というにはアレですが、来週に……最低でも再来週ぐらいには投下したいと思います。
いい加減話としてダレてきてる外伝を終わらせようかと。
正直誰も望んでないんじゃないかという気がしないでもないですが、一度人様に晒した以上は完結させないとと思うので。
投下でもないのにすみません。
職人さん方が戻ってくることを祈りつつ。お目汚し失礼しました。
期待してます
途絶えていた作品の再開は嬉しいです。
他の作者さん達ももどってこないかなぁ
キャオラッ
こんばんはー。誰も投下なければ投下します。
風邪ひいてるので、誤字とか大目だったり超展開あったりするかもしれません。
テンションの関係で気づいてない可能性があるのでそういう場合ご指摘ください。
後の糧としたいと思います。
あ、それから若干グロ目な展開が混じります。
HELLSING好きには中々いないと思いますが、苦手な方はご注意ください。
「さすがに……疲れたな」
戦場の真ん中。数多のグールと人間の死体でできた丘の上に、ギーシュが座っていた。
周囲の敵は全て討ち滅ぼしたようだったが、精神力も体力も尽き果てて、
これでは邪魔になるだけと考えたらしく、今からキュルケたちを追う気はないようだった。
キュルケ達の戦いとその上に見える空を眺めながら、彼は立ち上がる代わりに言葉を紡ぎ出す。
「――なあ、青い空よ。あの日の約束を未だ覚えているかい?」
紡ぐのは歌。変わってしまった自分達と、あの頃から変わらぬ空に問いかける歌。
「傷は未だ癒えないよ。
もう傷つきたくないから、もう涙を流したくないから、器用になったつもりだった」
遠くではシエスタとモット伯が一進一退の攻防を続けている。
更にその奥では、ルイズに辿り着きそうになったキュルケとシャルロットへ、ワルドが飛び掛った。
ワルドに応えるようにシャルロットが前に出て、残ったキュルケはルイズの元へと駆け抜ける。
「――でも気がついたら、汚れた宝箱を抱き締めて、思い切り泣いていた」
脳裏を過るのは思い出。皆で笑いあったあの頃。
ギーシュの顔にこびりついた血が涙で流されていく。
「青い空よ、あの日の約束を未だ覚えているかい? 傷は未だ癒えないよ」
痛いんだと、静かに涙を流しながらギーシュは手で胸を押さえる。
戦場で貰った傷ではない。心が痛くて、ギーシュは年甲斐もなく泣いていた。
背後から、声が聞こえる。
孫の声だ。
ギーシュは涙を拭った。
「――追伸。あれから僕は、綺麗な種を植えたよ。この種が大きく、純粋な木になるまで。
僕はこの丘で待つことにしたんだ」
孫に応えるように、ギーシュは右手を挙げた。
戦いの結末は見ない。
別れはもう自身の中で済ませているし――今の彼には帰るべき場所がある。
本当は、ルイズを討ったら自分も逝こうと、そう誓っていたのだけれど。
今の彼には、捨てられないものが、見届けたいものができてしまっているから。
「やっぱり僕は約束を守れなかったよ。……でも」
でも、彼女は許してくれるんじゃないかって、そうも思っているのです。
ギーシュはそう口の中で呟いた。
*
ギーシュが死体の丘に座り込んだその頃。
キュルケとシャルロット率いる部隊はグールの群れをかき分け、ルイズへ肉薄しようとしていた。
文字通り押し潰そうとする不死の軍勢に抗いながら、ギーシュの開いた血路を駆け抜ける。
それは殆ど捨て身に近い吶喊だったが、多大な出血を払いながら彼らは突き進み、そして。
「二人抜けた……! ツェルプストー候達だ!」
「総員、ここでグールを止める……! 本体は侯爵たちに任せるんだ!」
大量のグールが犇く空間を抜け、キュルケとシャルロットはついにルイズを指呼の間へと捉えていた。
食い散らそうと進撃するグール達と動かないルイズとの間に開いた、五十メィルほどの間隙。
其処へ先陣を切っていたキュルケとシャルロットが飛び込んだのである。
これによって、気の狂った演劇はとうとう最終章へと突入しようとしていた。
舞台に立つのはたった四人の演者のみ。
円の端にキュルケとシャルロット。それを迎え撃つように、ルイズとキュルケ達の間へ仁王立つワルド。
そしてワルドの奥、円の中心に立つルイズ。
お姫様と、侵略者から姫を守る騎士のような光景だ。
その実は寧ろ、死霊の王とその従者を討とうとする勇者たち、と言った方が近かったが。
「……キュルケ。貴女はルイズ。私はワルド」
「…………分かったわ。無理するんじゃないわよ?」
「心配も遠慮も無用。それに、彼(ワルド)には聞きたいこともある」
昔の『タバサ』へ戻ったような口調のシャルロットに、キュルケは少し悩みながらも諾と応えた。
無用と言われたが、心配だし遠慮もする。
ワルドは桁外れに強いし、何より恐らくはシャルロットもルイズの相手をしたかった筈だ。
だが彼女はその役目をキュルケに譲ると言った。ルイズの好敵手を自認するキュルケへの気遣いである。
それが解らないほどキュルケは鈍くなかった。
「……行かせると思うのかね?」
「貴方の意志は関係ない。私が行かせる」
「それはまた大きく出たものだ。だが――そう簡単に行くかなッ!」
「私が行かせると言った。『タバサ』とキュルケのコンビは、常に学園で最高だった!」
二人は言葉と共に杖を掲げると、示し合わせたように竜巻を作り出してぶつけ合った。
エア・ストームとアイス・ストーム。拮抗する二つのスクウェアスペルが轟音と突風を生む。
そしてシャルロットの風に後押しされるようにして、キュルケが走り出した。
「させん!」
「そっちこそ、させない」
ワルドの遍在が四体、キュルケを追おうとして、同数のシャルロットの遍在に阻まれた。
本体と遍在の全てが鍔迫り合いを演じ、魔法と武器と言葉の応酬を始める。
キュルケはそれを背中に聞きながら、玉座へ、ルイズの元へ駆けて行く。
「それよりも、どうして貴方がルイズの中にいる? 貴方はタルブ村とは無関係のはず」
「……一度はレコン・キスタに走り――あの子を裏切った身だ。
二度もルイズを討つ側に回るくらいならば、共に消えるのもいいかとね。自ら望んだことだ」
「ルイズはそんなことを求めてはいなかったのに……!」
「それでも。私はこれが正しいと思ったのだよ。
分からんさ、何が正しいかなど、君にも私にも、ルイズにもね」
「それは、ただのエゴ……!」
「そうだ! だがそれはみな同じこと! 所詮はエゴに過ぎんのだよ、誰も彼も!」
ごう、と、互いの意志を篭めた風が吹き荒れていった。
*
「ルーーーーーーイーーーーーーーーズゥゥゥーーーーーーーーーーーーッ!!」
「来なさいキュルケェッ! バカ踊りも仕舞いにしましょう!!」
ルイズへと走りながら、キュルケは懐から短銃を取り出した。
渇いた音と共に、鉛弾がルイズを貫いていく。
だが吸血鬼には、それも真祖の直系たるルイズにはそれは致命傷足り得ない。
討ち倒すならば頭を吹き飛ばし、心臓を杭で貫くより他はない。
その証拠に、腹や腕に風穴を開けられながらルイズはキュルケを捕まえるべく突進してきていた。
「ちッ…《発火》!」
「ぎッ!?」
短銃では足止めにもならないと判断したキュルケは、即座に短銃を投擲。
《発火》の呪文で短銃を爆破した。
鉄で出来た銃身と内蔵された弾丸がルイズを蹂躙し、その隙にキュルケはバックステップで距離を取る。
吸血鬼に接近戦は即ち敗北を意味するということを、キュルケは脳髄に叩き込んでいた。
「さあ往くわよルイズ! 教育してあげる、本当の人間の闘争っていうものをね!」
「ちぃぃッ!」
キュルケは背負っていたバックパックを外し、中味をぶち撒ける。そこには大量の銃、銃、銃。
何れもコルベールとキュルケが「もしも」のために開発したものだ。
短銃やフリントロック式の銃だけではない。
原始的なショットシェルによる散弾銃。パーカッションロックによるボルトアクション小銃。
ハルコンネンを参考にでもしたのか、対物ライフルのようなものまである。
大口径のものや範囲攻撃に特化したそれらが、誰に向けられることを想定されたかは言うまでもなかった。
使われぬことを願って作られた革命的兵器たちはその本懐を果たすべく、担い手もないのに浮き上がり、
そして吸血鬼へと銃口を向ける。キュルケの《念力》の魔法であった。
一人軍隊(ワンマン・アーミー)を体現するこれこそが、キュルケの対吸血鬼の秘策である。
「吹ッ飛びなさい!」
「舐めるな人間! 全弾避け切ってやるわよ!」
断続的な轟音が鳴り響く。硝煙が立ちこめ、埃が舞い上がった。
細かく位置を調整しながら十字砲火を叩き込もうとするキュルケと、キュルケを捉えようと猛進するルイズ。
両者は泥沼の消耗戦に突入したが、しかし反面、決定的な決着は中々つかない。
両腕で顔を庇いながら突進するルイズに、キュルケが散弾銃の一撃を叩き込む。
それによって右腕が肩から吹き飛びながら、ルイズは残された左腕を振るう。
反応の遅れたキュルケがわき腹を抉られたが、すれ違いざまにライフル弾を眼球にお見舞いする。
血煙が舞った。
片や爪で片腹を抉られ、片や腕と目を?ぎ取られながら、それでも彼女達は嗤う。
「ねぇキュルケ! あなたは誰かを殺したいと思ったことがある?!」
「あるわよ! 当たり前じゃない! だって今、こんなにも貴女を殺したい!」
決着がつかないのは、二人が共に決定的な一撃を封じられているからだ。
ルイズの武器は吸血鬼の腕力と虚無の魔法だ。
だが、キュルケは無数の火器の掃射によって、正面からの接近や大きな魔法を許さない。
キュルケの《念力》で飛び交う火器たちは、性質上、心臓への精密射撃には時間が掛かる。
だがルイズの身体能力や《ディスペル》への警戒が、攻撃を一時止められる程の時間を作らせない。
故に、崖の上でダンスを踊るような戦闘を繰り広げながら、二人は膠着状態に陥っていた。
「じゃあ死にたいと思ったことは? 世界の終わりを望んだことは?
人を傷つけたことはある?!」
「あるわ! あるとも! だからあたしは人のまま!
そんな自分が怖いから、あたしは化け物にはなれなかった!」
わき腹に魔法薬を掛けながら、キュルケが問い返す。
その隙にルイズが踏み込もうとして、リボルバー式連発銃の迎撃を受けた。
支援
「そういう貴女はどうなの?! ルイズ、『ゼロ』のルイズ!
始祖の魔法と人を外れた体を持った貴女は!」
「私もあるわ! いいえ、今もそう!」
互いに背筋に冷や汗を垂らしながら、二人は死の舞踏を踊る。
急速に体が再生していく不快感に顔を顰めながら、キュルケが懐に手を入れる。
太腿を打ち抜かれたルイズが、至近距離からの射撃を嫌って飛び退る。
置き土産に一言のみで発生させた《エクスプロージョン》をばら撒いて煙幕とするおまけつきだ。
そして訪れる、僅かな停滞。
ここが分水嶺だと、二人とも知っていた。
「私はいつだって誰かを妬んでた。躓く度に何かのせいにしてた。
自分のことばかり心配してて、何も信じてなんかいなかった」
「それは違うわ、ルイズ。貴女は何時だって前を向いていた。泣きそうになったって、下を向かなかった」
「そんなことない! 私は汚れてる、私はいつだって、心に悪魔を飼っているの!」
《エクスプロージョン》の煙幕が切れる寸前。
両者は動き出していた。
ルイズは言葉の端々に混ぜた《ディスペル》の呪文を完成させ、杖を振り下ろした。
キュルケは懐から取り出した透明の液体を撒き、マッチを投げた。
光と共に全ての銃器が力を失い、キュルケとルイズの間に炎の壁が出来上がった。
「そんなの……誰だってそうじゃない! 世界は何時だってこんな筈じゃないことばっかり!
それでも貴女は挫けなかった!だからあたしは、貴女を全力を尽くすべき愛しい怨敵と認めたのよ!」
キュルケが投げたのは『ツェルプストーの火』と呼ばれる兵器だった。
ハルケギニアでは燃える水と恐れられたそれは、ウォルターに言わせれば「ナフサ」という物質。
コルベールがコークスの産業廃棄物たるコールタールをヒントに作り出した、異界の燃料。
その特徴は極めて高い可燃性と消火の困難さだ。特に水を掛けた場合には――
「それでも私は……!」
「この、大莫迦野郎ッ!」
ルイズが炎の壁に飛び込むのに合わせて、キュルケは瓶を投げた。
モット伯から渡された聖水だ。
ルイズに直撃した聖水は、それだけでアンデッドの身を焼く。
そして、それだけでなく、高温の油の中では水は禁忌だ。言うまでもなくそれは、
水蒸気爆発を齎す。
――爆音。
「があッ……!」
ルイズの片足が吹き飛び、転がる。
終わったか、とキュルケが気を抜きかけた。
《ブレイド》の呪文で剣を出すと、ポケットに手をやり、何かを取り出そうとする。
が、その瞬間。
「まだよ! まだ終わってない……!」
「なッ……!」
片足だけで飛び込んだルイズが、キュルケに殴りかかった。
回避は間に合わない――そう咄嗟にキュルケは判断する。
ではどうする。このまま頭を砕かれるか、それとも。
逡巡は殆どなかった。
キュルケは、自分からルイズに飛び込んだ。
「ぐッ……!」
「ああッ……!」
轟音と共にルイズの腕が振り抜かれ、キュルケの髪と、頬の肉を抉っていった。
だが、直撃はしていない。
ルイズの元に飛び込んだキュルケは、ルイズと縺れ合う形で転がっていく。
ただし吸血鬼の膂力で体当たりされた形になったため、骨の数本は持っていかれた。
同じようにルイズも、傷ついた足を地面に打ち付けて苦悶の声をあげていたが。
最終的に、キュルケがルイズに馬乗りになる形で二人は止まった。
「くッ……ふふ、全く、貴女相変わらず子ども体型なんだから。ぶつかられると体が痛いわ」
「……キュルケこそ、相変わらず余計なものぶら下げてるから頬肉抉られるのよ。
重いのついてるから避けきれなかったんじゃないの?」
「おあいにくさま。女を捨てきれるほどあたしは自分に絶望しちゃいないわ」
軽口をぶつけ合いながら、二人とも悟っていた。
もう終わりだと。
キュルケがルイズの心臓を突くのと、ルイズがキュルケを殴るのと。
どちらが速いとは言えないし、そもそも言う必要もない。
どちらが先に死んでも、死に切る前に互いが互いの止めを刺し終わる。
人間は死んだ瞬間に全ての力を失うわけではないのだ。
もう互いの攻撃を避ける余力が無い以上、この勝負は相打ちで終わることが決まっていた。
「さて……さよならかしら、それとも『またね』かしら?」
「どっちでも。どの道私もキュルケも地獄行きよ」
「違いないわね」
くッくッく、と嗤いながら、キュルケは先ほど懐から取り出していた金属球をルイズの胸に置いた。
中には沸点を超えた状態で保存された液体燃料が満載されている。
所謂一種の燃料気化爆弾である。
コルベールの《爆炎》の完成形、キュルケをして「悪魔の兵器」と言わしめた禁忌の発明。
それは間違いなく二人を同時に始祖ブリミルの元へと送るだろうと思われた。
尤もキュルケはともかく、ルイズには其処までのことは分からなかったに違いない。
ただ、何となく察する様子を見せてもいた。
「一人では逝かせない。言葉に出さなかったけれど、あの日約束した皆が思っていたことよ」
「……キュルケ」
「あたしで悪いけど。付き合ってあげるわよ、地獄の底までね」
「………………ごめん、キュルケ」
いいのよ、とキュルケが首を振り、ブレイドで金属球を断ち割る。
その刹那に、ルイズは動いていた。
キュルケの腕を掴み、放り投げる。
その先はギーシュが作った、グールの屍骸の山。
それを見送って、ルイズは閃光の中へと消えていった。
「ルイズーーーーーーッ!」
キュルケは遠ざかる視界の中で、ルイズの微笑みを見ていた。
回る視界の中でもずっと、一度も目を離さず。そうしたら、何故かルイズの声が聞こえる気がしたのだ。
ルイズは泣いていた。やっと死ねると安堵しながら、笑顔で泣いていた。
――私は裁かれるべきなのでしょうか。
――悲しみよ、憎しみよ。何故人は多くを望むのですか?
――もう十分なはずなのに、それでも人は欲に身を委ね
――誰かが泣いても心や耳を塞ぎ、新しい世界を作ろうとするのです
――そう、誰もが皆、心に悪魔を飼っているのです
轟音が耳を焼き、平衡感覚を失わせた。
それと同時に、キュルケはグールの屍骸にぶつかる。
衝撃に血を吐きながら、彼女はルイズを焼いた雲を睨みつけていた。
「それでも。それでも私は生きているわ。悪魔と共に、ね。
地獄で待ってなさいルイズ、何、すぐよ」
数年後。
ツェルプストーはゲルマニアから独立を勝ち取り、公国として独立する。
同時にツェルプストー伯キュルケは対吸血鬼専門機関を秘密裏に設立。
多くの国家と吸血鬼事件限定での介入権を得る。
機関の名前は「HELLOUISE」と言った。
投下終了。これでルイズが死んでた場合の話が終わりました。
元々
・ルイズが吸血鬼化したらこんな感じに詰みそう、という思考実験兼うちのルイズのキャラ解釈&紹介
・うちに登場するゼロ魔キャラたちはレベルカンストするとこんな感じに成長しますよ、という予告
・ゼロ魔のキャラたちでHELLSINGをやらせてみる
の三つが目的の外伝だったんですが……随分と長くなりました。
文章をくどくする癖があるので進まない進まない。
っていうかルイズヘイトではないよ、という意味も篭めてたはずなのに。
何故うちのルイズはこんなに痛めつけられているのだろうか。
ともかくまあ、これで本編に戻れます。
本編では段々魔改造されて外伝状態に近づいていくゼロ魔キャラを楽しみにしていただければ幸い。
次は……今月中に投下できたらいいなあと思います。
ではでは、お目汚し失礼しました。
お帰りなさい&お疲れ様でした
あ、すみません、大事なことを言い忘れてました。
最初の方と最後の方のポエマー的な何かはHAWAIIAN6の曲が出展です。
曲名は「PROMISE」と「EVERYBODY HAS THE DEVIL ON THE INSIDE」です。
歌詞の日本語訳をちょいちょい改変して使いました。
問題あるようならまとめていただける際に抜かしといてくれればどうにかします。
支援&乙ありがとうございました。
おつです!
いつの間にスレ復活してたんだ
おか&乙!
スレ復活&投下乙。
コッパゲ先生がチートだなw
保守
遅くなったけど完結お疲れ様でした。再開と完結に晴れやかな気持ちです。
ルイズには物事を受け入れ見ていることが精一杯。吸血鬼を演じて自分を守っていたのか・・。
自分の中のアーカード像と同じに見えて悔しいなあ。
本編の投下を待ってます。
保守がてら聞くけど
ギ―シュの使い魔のモグラって
あの世界に数居たりするの?
一応いるんじゃないの?
おお反応早いな
>>38 じゃあ
ある場所にモグラを集めて穴を掘らせて地面を耕された状態にして
そこに水系統で大量に水を撒く事で急作りの湿地に作り変え
ルイズのイリュージョンで平地の映像をかぶせて通常の平地のようにカモフラージュした所に
ヨルムンガンドをおびき寄せて自重でぬかるみに嵌った所を狙い撃ちとか出来そうだな
モグラを統率するのはギ―シュのモグラで
モンモラシーの惚れ薬を使って雄モグラを惚れさせる事で言うこと聞かせる事にでもして
そこまでモグラを訓練して使えるようになるには動物使いでもなきゃ無理じゃね
>>41 繁殖行動のために巣を作る習性とか
求愛行動がコロニーを形成して自分の能力をアピールする事とか
まあ学園の教師に生態をちょろっと授業で喋らせれば
大砲をゴーレムに曳かせたり
ゴーレムを土嚢みたいな陣地設営の為の素材として現場まで運搬する為に動かしたり
土属性の運用考えると楽しい
大砲の砲車も金属で作れば土系統の術者が居れば大砲の運用は随分違ってきそう
弾とか火薬も調合できるみたいだし
向こう行ったとして軍事面のアドバイサーとして貢献できそうなのはミレニアム勢かね
シュレ猫とか好奇心強そうだから現地の物と突き合わせて色んなの生みだしそう
人がいないと見せかけて、いきなり出没するんだな
吸血鬼って銀食器どうするんだろう
向こうの世界じゃ普通に使われそうだが火傷とかしないのかね
HELLSINGの吸血鬼は銀に触れても平気、被害受けるのは狼男だけ
別に触れるのは元から誰でも平気だろ
ただ吸血鬼は銀で傷つけることができて、狼男は銀の弾丸でぶち殺すって伝承
銀に触れたからって爛れるとか、どこの嘘設定だよ
作品によっては吸血鬼や狼男にとって銀は猛毒って設定もあるからもう少しおさえておさえて
銀か―
そもそもどの程度で死ぬのかね
狼男に銀貨ぶち込んだけど
アルビオン製の銀貨で枢機卿が粗製乱造して含有率少なかったからあんま効果ないとか考えたけど
少しでも体には行ったらアウトなのかね心臓にぶち込まないときかねーのかね
そもそもヘルシング機関で儀式済みの銀使ってた気がするが
普通に銀歯で最強戦力がくたばったりするし
効果のほどは銀の質より絶対量と当たった場所が急所かどうかじゃね
その時々の価格によります
あとは威力もあるんじゃね?
大尉の場合、吸血鬼パワーで打ち出された即死級の一撃→銀製で再生できない→死亡
ってことだと考えてた。登場する対化物用兵器はどれも大口径・超威力だしな。
我ら保守カリオテ
シュレ猫が向こうの世界に行ったら亜人扱いで激しく陰口叩かれそうだが
気にしないんだろうか根に持つんだろうか
56 :
人情紙風船:2010/12/02(木) 22:10:43 ID:???
お久しぶりーふ
久々すぎて以前の名前を忘れました
久々に新作書けたぞぅってハリキッテきたら落ちてた\(^o^)/オワタ
と思って避難所に投下していいかものか運営に相談までして恥をさらし
ここの存在を教えてもらったオツムの弱い人情紙風船ですぜ
ルイズとヤンの人情紙吹雪8話、投下してよろしいでしょうか
ひゃっはー!まってますたー
「ダーーーリ〜〜ン お砂糖、何個入れる?」
ヤンはダルそうに、のそりとベッドから起き上がる。
窓の向こうから朝日が差し込む。
(かぁ〜〜〜 今日も晴れてるネェ あーーー 朝日ウゼェ……)
上半身は素っ裸のままボサボサ頭を掻きながら窓に近づく。
「ダーリン? お砂糖要らない?」
再度キュルケに聞かれて、ヤンはようやく返事をする。
「あーー じゃあ6個」
「6個? わぁ ダーリンって結構甘党なのね」
言いつつキュルケは紅茶を持って奥から現れる。
その格好はショーツ一枚。
その上からワイシャツを羽織っているだけ。
つまりは裸ワイシャツ。
その扇情的な姿を見てぼんやり思う。
(うーむ やはりスゲーな胸 あの婦警といい勝負だな)
「はい ゲルマニアから取り寄せてる最高級品よ トリステインのものにも負けはしないわよ♪」
ぐいー
キュルケの口上を聞き流して、ヤンは受け取った紅茶を一気に飲み干した。
「あ! ちょっとダーリン……もうちょっと味わってよ……結構いいモノだったのよ… もう!」
頬を膨らませ抗議する。
「うるせーブルジョワジー 紅茶の味なんてどれも一緒だ カンケーねー」
(ダーリンったら… でもこんな所もダーリンの魅力よね♪ やっぱり素敵……)
飲み終わったティーカップをキュルケに投げてよこすと、ヤンは脱ぎ散らかしていた服を着始める。
「あら? ダーリンひょっとしてもう行っちゃうの? もうちょっとゆっくりして行けばいいのに……」
「俺ももっとダベりてェンだがよーー 今日はルイズが街に連れてってくれるッつーから 起きる前に戻っとくわ。」
「…………ふーん ま、しょうがないわね ヤンはヴァリエールの使い魔だものね……」
「おいおい すねんなすねんな 今日だって朝から可愛がってやったじゃねーか」
その言葉に少し頬を赤らめながらキュルケはやや俯く。
「す、すねてなんかいないわよ? 私はそんな子どもじゃないから…」
そんな彼女を見てヤンはニンマリと笑う。
「クックックッ… 『子どもじゃない』ねぇ? 確かに立派に成長してるけどな 体とか。 けどよォ所詮はまだまだお子チャまよ…
そのギャップは結構カワイーぜ?」
「お、お子チャま…! わ、私はツェルプストーの人間なのよ!? 子ども扱いなんて…!」
キュルケは真っ赤になって否定する。
百戦錬磨の恋愛上手がツェルプストー家の矜持の一つなのだ。子ども扱いなんてトンデモナイ。
「うるせーー テメーはまだ乳クセーガキだ 素直に俺に甘えてりゃいいんだよ。 じゃーな 行ってくるぜ」
そう言ってヤンはキュルケの頭をわしゃわしゃっと撫でてやると扉に向かって歩いていく。
キュルケは、それこそまるで小さな子どもの様にぷーッと膨れてヤンを見送る。
(……ダーリン……私をとっても甘えさせてくれる人……私は…本気よダーリン。 ルイズ…負けないからね……)
ヤンの背中を見つめる瞳には激しい情熱の炎が宿っていた。
****************************************************************
「起きろーーー 朝だぞー 馬鹿ルイズー うんこルイズー 糞虫ルイズー ぺたんこルイズー」
ぐっすり眠り扱けているのをイイことにヤンは好き勝手言っている。
そして、やおらルイズの両頬を抓むと、そのまま持ち上げた。
「ふぎ、ふぎぃぎぎぎぃ…………うみゃあ…クックベリ〜パイ…お腹いっぱい………すぅ」
ルイズは相も変わらず夢の中。
起きる気配は無い。
「カァーーーー ったくコイツはホンット起きねーーなーー! たいしたもんだ ホレホレ 起きろ ホレ!」
以前やったように両頬を抓んだまま上下にシェイク。
「ほーらほらほら どーだ? まだオネンネでちゅかぁーーーー ルイズちゃーーん?」
上下運動はどんどん激しくなる。
ルイズの頬っぺたがぐぃんぐぃん伸びる。
「ふ、ふぇ!? ふひぃ、ひやいひゃいいひゃいいひゃいッ!! ヒャ、ヒャン!? ひゃにやってんひょよッ!!!」
パッ
ドサッ
「おはようルイズちゃん 今日も胸クソ悪ィぐらいイイ天気だぜぇ? さっさと着替えな どっか連れてってくれンだろ?」
ルイズは頬をおさえて涙目でヤンを上目遣いに睨む。
支援
「うう〜〜〜! ア、アンタねぇ!! もっと優しく起こしなさいって前も言ったわよねぇ!?」
「あ〜? 言われたよーな言われてないよーな…… でも俺の『優しく』はお目覚めのキスになるんだけどOK?」
シレッと答えた瞬間、ルイズの顔が真っ赤に染まる。
「ッ!? そ、そそそそそそこまで優しくなくていいのよ! もっと普通に起こしゃあイイ話でしょおがぁぁぁぁぁぁ!!!」
と叫びつつヤンの顔面目掛けて鉄拳が飛んできたが、華麗に回避。
どうやら以前の濃厚なお目覚めのキッスを思い出したらしい。
「おぉ あぶねーあぶねー。 じゃあさっさと支度しろよ 俺ぁ外で待ってっから」
そう言うとヤンはさっさと部屋を出て行こうとしたその時、ルイズがヤンを呼び止める。
「あ! ちょっと待ちなさいよ! 使い魔の仕事しなさいよ!!」
ルイズの言葉にヤンはあからさまに怪訝な顔をする。
「は? 仕事?」
「そうよ! 言ったじゃない! もう忘れたの!? 使い魔は主人の身の回りの世話をするって言ったでしょ!?」
ルイズはがなりたてる。
「あーー……それも言われたよーな言われてないよーな」
「言った! 絶対言った!!」
「…………で? だったらどうだってゆーんだ? 俺何すンの?」
「だ、だから……その……えと……」
ここまで言ってルイズは言葉に詰まってしまった。
使い魔として、馬鹿犬としてしか思っていなかった為着替えやら洗濯やらをやらせようと思っていたのだ。
最初は。
しかしディープキスをこの短期間で3回も決められてしまった少女は、この使い魔との結婚を想像するまでになってしまっていたのだ。
少女の脳ミソはオメデタイのだ。
「わ、私をき、き、ききききき着替…き、き着替えぇぇぇさせ〜〜うぅーーっっ〜〜何でもない! この馬鹿犬!! さっさと出て行きなさいよ!」
「はぁ? 仕事はいいのかよ?」
怪訝な顔をするヤン。
「い・い・か・らっ! 出て行きなさい! 着替えるんだから!」
ヤンの背中を力いっぱい押し部屋からの追放を試みる。
「あーはいはい 出てく出てくよぉー 押すなって」
ずりずり押されながらヤンは部屋の外へフェードアウトした。
扉を乱暴に閉じ、ルイズは息荒くごちる。
「うーーー……無理よぉ…ヤンに私を着替えさせるなんて………」
年頃全開の少女はガックリうな垂れるのであった。
****************************************************************
「なんか体のアチコチが痛ぇーんだけど……乗馬なんてハイソなことやる羽目になるなんてよぉ さっすがファンタジー」
黒尽くめの男は体をごきごきと鳴らしてほぐしている。
隣の桃髪の少女は男の言葉を聞くと顔をニパーッとさせる。
「まぁ粗暴なヤツだからこんなもんだと思ったわ でもまぁまぁ頑張ったわね! これからみっちり仕込んであげるから覚悟なさい!」
召喚されてから押されっぱなしだったために、少しでも優位に立てる所を見つけご満悦だ。
「ケッ 馬なんていらねーよ 大体さぁ。 走った方が速いっての 俺は!」
「……アンタが言うと冗談に聞こえないわね……」
「冗談じゃネーもん」
大きな街に軽妙な会話のキャッチボールをする珍妙なカップルがいる。
ルイズとヤンだ。
トリステイン王国王都トリスタニア。
その大通りに二人はいる。
なかなかの人通りだ。
王都というのは伊達ではないらしい。
しかし彼が知る大都市のメインストリートと比べると人数は少ない。
少ないとは言っても、牧歌的な雰囲気がどこと無く漂っており寂寥感は感じられない。
「へー 結構人いんなぁ 意外だわ。 活気あんじゃねーの」
「ふふん♪ 当然よ! ここはトリスタニアなのよ! 王都なのよ! わかる? 王都よ王都 アンタなんか足を踏み入れるのも憚られる都なのよ!!」
ルイズは無い胸を反って得意気だ。
別に自分が都市計画やら整備やらをやったわけでもあるまいに。
「嘔吐?」
「アクセントを変えるんじゃないの! 王都よ! お・う・と!」
「ほー へー なるほどねー ソイツァスゲェヤ」
「…………アンタ絶対そう思ってないでしょ…………」
ヤンの適当さが滲み出まくっている返答に青筋をたてる少女。
可愛い顔が台無しだ。
「しかしよぉ」
「なによ?」
「貴族様の都の割りにスリ多くね? さっきから何度か財布がふわ〜って飛び出そうなんだけど。 これって魔法だよなぁ?」
「そ、それは…その…王都にもなると色々な人が集まっちゃうから……」
ルイズは少し俯く。
この後ヤンの口から出てくる台詞がルイズには予想できたからである。
「ふーん でも魔法が使えんのって『由緒正しい貴族様』だけなんだろ? その『貴族様』がスリとはねぇ」
ニタニタと下婢た笑みを浮かべるヤン。
ルイズは何故か自分が悪いことをして、それを攻め立てられているような、そんな気分になる。
「い、色々事情があるのよ! 没落しちゃったり……勘当されちゃったり……貴族の次男とか三男とか……!
貴族の誇りが足りない連中なのよ! そんな奴らと私を一緒にしないでっ!」
ルイズは怒る。
実際、そんな元貴族どもを軽蔑しているのだろう。
「事情ねー まーいーけどなー クククク……」
「うっさいわね! ほらこっちよ!」
まだ嗤うヤンに憤慨しながら、ルイズは裏通りを勢い良く指差す。
ルイズに手を引かれ入った裏通り。
薄汚い男達が地べたに座り込んで、こちらに退廃的な視線を向けてくる。
ヤンはこの空気に郷愁を感じた。
割れた酒瓶、腐った食いモンの欠片、汚ねェドブネズミやゴキブリ共。
やせ細った野良犬。 片目が潰れた猫。 道の隅に巻き散らかされた臭ェゲロ。
全てに無気力で諦めていて、それでも何かを掴みたくて無駄にギラついた目。 目。 目。
まるで『スラム』だ!
落ち着く。 なんて落ち着く空気だ!
ここ数日、貴族の世界とやらを覗いてきたがやはり自分にはこの空気こそ相応しい。
「おお〜 いい場所知ってンねぇールイズぅー! なんかステッキーなお店連れてってくれんの?(主に裏社会的な意味で)」
ヤンはとても上機嫌そうに見える。
ヤンが子どものようにコロコロと喜ぶ様子を見て、ルイズもまた顔をパーッと綻ばさせる。
支援
「ふっふっふっ! 楽しみにしてなさい! ・・・・・・えーと確かここの隣だった・・・・・・・・・あったわ! ここよ!!」
ずびし。
ルイズの指が示す方向。
そこにはお店。
ぐいっとルイズに引っ張られ入店する。
そこは様々な刀剣等が置かれている武器屋だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「どう? ここでアンタにピッタリの剣を買ってあげるわ! ヤンがいくら強いっていってもずっと素手ってわけにもいかないでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ヤン?」
黙っている自分の使い魔にルイズは不安そうな視線を送る。
「あぁ いや何でもねー。 ちょっと俺の予想と違ったモンでな」
(ま そーだよな こんな乳臭ェガキに期待した俺がバカだったわ。 ドラッグとか女とか扱ってるわけねーか)
ヤンの返答にルイズは先程よりもさらに不安げな表情になる。
「…どこか行きたい場所あったの?」
「いやーまー そーゆーわけじゃないデスヨ(そーゆーわけナンだけどな 本当は)。 まぁお前にしちゃあ上等だ 合格。 こういう店嫌いじゃネェ」
完全に上から目線の言葉だったがルイズもいい加減慣れてきた。
だからヤンに『合格』と言われただけでルイズの表情は、再び輝きを取り戻すのだった。
店の奥に居る中年の男は、でこぼこな珍客を観察していた。
いらっしゃいませー!と元気良く言ったのだがスルーされた。
一瞥もされなかった。
接客とはそんなことも間々あるので別に気にしなかった。
黒尽くめの男の方は、こういった店にもまったく違和感の無いアウトロー臭のする男だ。
しかし、桃色髪の少女はこの店には異質だ。
身長、ソコから推測される年齢、容姿、来ている服、仕草。
全部場違いだった。
貴族。
貴族の娘がこんな裏通りの平民の為の武器屋に来るなど。
この二人、最初はお上の監査か何かと思ったが違うようだった。
会話の内容や少女の様子からはとても主従には見えない。 あまりに「近すぎる」感じだ。
兄妹かとも思ったが身に纏う空気を始め、容姿も違いすぎる。
だったら恋人同士なのか、と聞かれれば・・・・・・・・・よくわからん・・・というのが正直なところだ。
しかし貴族の(と思われる)娘とアウトローな男のカップル・・・。 奇妙だ・・・。
(ん? 貴族っぽい嬢ちゃんだけくるぞ・・・やっぱ客なのか?)
「・・・・・・ここは平民の武器しか扱ってませんぜ? 貴族様のお目には・・・」
ガサ入れだったらどうしよう・・・(別に後ろめたいことはないが)面倒だ・・・。
「客よ。 剣を見せて頂戴」
「へ? 貴族の方が剣を持つので?」
つい素っ頓狂な声がでてしまう。
「違うわ。 こいつに持たせるのよ」
桃髪の少女は黒尽くめの男をズビッと指差す。
一瞬、反応に困ってしまう。
護衛に持たせる・・・と考えるのが普通なのだろうが、明らかに「主人と下僕」という雰囲気ではない。
男がふてぶてし過ぎるのだ。
だから咄嗟につい言葉に出てしまった。
「へぇ 恋人さんに贈り物ですかい?」
桃髪の少女はポカーンと間の抜けた顔になる。 そして次の瞬間、端正な顔が真っ赤に茹で上がった。
「な! な、ななななななんななななんであんなヤツと私が恋人なのよ!!? どう考えても吊り合わないでしょ!?」
やっべぇ!
ミスった!
貴族怒らせた! 俺死ぬ!
さようなら母ちゃん、子どもたち!
ひょっとしたら連座で殺されっかも・・・そしたらゴメンね家族達・・・父ちゃんバカなこと言っちまったよ!
「ひぇぇぇえええ〜〜〜〜〜〜! し、失礼致しやした!! そうですよね!? あんなチンケな男とお嬢様が恋人だなんてねぇ!?
あるわけないっすよねぇぇぇ!!」
美少女のコメカミがピクッと動く。
「”チンケな男”ですって!? アンタに何がわかるっていうの!? 人の使い魔をチンケ呼ばわりするとはいい度胸だわ! 平民の分際で!!」
えー? 使い魔・・・? そんなのわかる訳ないじゃん・・・。
どうみても人間じゃん。
明らかな怒気を纏い始めた美少女は杖を取り出し構えた。
平民が貴族に杖を構えられる。
これはつまり死刑宣告。
完全に怒らせちゃった・・・。
詰んだわコレ。
やっべーまじっべーわ。
あーホントごめん家族。
このキレ具合だと多分みんな殺されるわ。
貴族の気分次第で生殺与奪権が右往左往。
それぐらい平民の命って軽いのだ。
死を半ば覚悟した時、奇跡は起きた。
ボカッ
「いたっ!」
黒尽くめの男が桃髪の少女の頭を叩いたのだ。
結構な力で。
「バカかテメー いきなり爆殺しよーたぁ俺よりキレてやがンなぁ・・・・・・ちったぁ落ち着け」
少女は頭をさすりながらムクれ面だ。
「い、いきなりご主人様の頭叩くなんてどういうこと!?」
「超ゴメンなさい」
「全然謝ってないでしょーがぁぁぁぁ!」
目の前でケンカ・・・というよりは漫才にしか見えない何かが始まった。
助かった!
救われた!
どう見てもカタギに見えない男の方が話が分かるお人でしたぜ!
いやホント。
あとちょっとで漏れてた。
正直少しちびった気がする。
後でパンツ変えようっと。
目の前の喧騒を暫し眺める。
使い魔の男とのやり取りも終わり、ようやく一息ついた少女がこちらに向き直り。
「ふー・・・ まぁいいわ。 とにかくこの店で一番いい剣をちょうだい」
「は、はい ただいま!」
そそくさと店の主人は奥へと消えていく。
「はッ 『一番いい剣』・・・ねぇ いやー貴族様は違いますねー御主人様」
「当たり前よ 私はヴァリエール公爵家の三女なのよ? 誰よりも貴族なのよ やっと私の凄さがわかったみたいね? ふふん♪」
いや 嫌味で言ったんだけど・・・。
拍子抜けを喰らったヤンは大して反応もせずスルー。
店内の武器群に目をやる。
光モンばっか。
P90とかやっぱねーか。 つまんねー。
まぁ刺す時のアノ感触も悪かーねーけど。
「ん?」
特に目的も無く見回していたヤンの視線が止まる。
片刃の剣。
なんの変哲もない見窄らしい剣。
じ〜〜。
「何よ ヤン。 そんな剣が欲しいの? もっといい剣買ってあげるわよ?」
店主を待っているだけのルイズも手持ち無沙汰となりヤンを観察していた。
「んー いや別に欲しいって訳でもねーんだが。 何となく気になってよ」
そうこうしてる間に店主到着。
「お待たせいたしました。 こちらが当店で一番の品になります」
そう言って男が取り出したのは豪奢な造りの両刃剣。
「こちらかの有名なシュ・・・」
「おいオヤジ この剣くれ」
店主の説明のターンを無視してかぶせて来るヤン。
「は? ちょっとヤン 欲しい訳じゃないって言ったじゃない! そんな汚い剣ヤメなさいって!」
店主より早く口を開いたルイズ。
その途端。
「あ゛? こら娘っ子! 汚い剣とは何事だ!! このデルフリンガー様に向かって大層な口をきくじゃねーか!!」
「「しゃべった!」」
ヤンもルイズもびっくりだ。
一心不乱の支援を
「あぁ・・・お客様・・・その剣は・・・口も悪いし何より見た目がきっっっっっったねーーーので貴族の従者様にゃあ相応しくありやせんぜ」
店に置いてあるのに酷い言われようである。
「ンだとテメー! 俺様こそこんなきっっっっっったねぇぇぇぇ店に善意でいてやったってぇのに あーもーあーー ヤル気なくした もう出てくわ もう出てく」
「おー出てけ出てけ 毎度毎度、営業妨害しやがる恩知らずなんざいらねーっつーの テメーを手入れするだけ時間の無駄だしな!」
「言ったなコノヤロー! おう黒いの! ってことで今からアンタが俺の持ち主だ! そうと決まりゃーこんなトコとはオサラバだぜ!」
「へ! 折れな! うんこデルフ!」
「は! 潰れな! クソ武器屋!」
****************************************************************
「はい というわけで剣をゲットしましたねルイズたん」
「・・・・・・良かったのかしら・・・お金払って無いけど・・・ しかもそんなボロっちいの・・・・・・」
「ボロっちいって言うな! しかしおでれーたな 勢いで飛び出してきちまったが黒いあんちゃん。 オメーさんまさか・・・」
王都のとある喫茶店で一人の人間と一人の吸血鬼と一振りの剣が雑談に興じている。
剣を買うつもりの資金がまるまる浮いたので割と豪華なランチが楽しめていた。
ガツガツとマナーも何もあったもんじゃなく食い散らかすヤン。
かなりの速度で次々と料理を平らげ。
「ごちそーさん」
ドッカ
食い終わった側からテーブルに足を投げ出しくつろぎだす。
「ちょっと! 行儀が悪いわよヤン!」
「うるせー。 で・・・えーと なんだっけ デル・・・デルゥ・・・デルゥ」
「おい・・・そんな複雑な名前じゃなかったろ・・・しかも、デルの言い方ちょっとおかしいぞ なんか汚らしいモンが出そうだろうが! デルフリンガーだよ!」
彼、デルフリンガーは鞘にシッカリと収められると喋れないらしく、今は僅かに刀身を覗かせいる。
そして椅子をまるまる一つ占領し、背もたれに立て掛けられいる。
つまりデルフリンガーは椅子に座っている。
一応そのつもり。
「ああそーそーデルフリンガーね。 で、俺が何だって?」
「・・・オメーさん・・・まさか・・・・・・。 ・・・・・・・・・えーと・・・まさか・・・・・・・・・えー あー ・・・・・・・・・なんだっけ?」
「はぁ? テメェから言い出したんだろうが 俺が知ってるわきゃネーー」
「・・・・・・やっぱり別の剣にしましょうよヤン・・・。 インテリジェンスソードっていってもボケてるんじゃあ・・・ ボロっちいし」
「ま、待て待て! 眠りすぎたせいでまだ頭がシャンとしてねぇんだ! それだけだ! 暫く経てば思い出すから! ね?ね!?」
ガチャガチャとあからさまに慌てる剣。
おもしれー。
「ところでヤン」
「あ? なに?」
「いつまでテーブルに足乗っけてるのよ! さっさと降ろしなさいバカ犬! みんな見てるじゃないの!!」
そう言われて周りを見渡してみる。
ゆっくりじっくりと。
ガンを飛ばすような感じで。
ヤンと目が合うとサッと逸らしてしまう。
当然である。 怖いお兄さんのガン飛ばしは避ける。 体がぶつかったら謝る。
コレすなわち小市民の知恵。
だがルイズの言う通り、皆さんの注目を集めてしまっているようだ。
「・・・あー これはアレだわ。 ほら 俺達美男美女カップルだからヨォ ヒャハハハ!」
一瞬固まるルイズ。
その後瞬速で顔が赤くなる。
「え、ええええええええぇぇぇぇぇ! カ、カカカカカカップル!!? カップル!? ッカカカカカカカカップルって! わ、わわわわ私は えと その・・・!!」
一人で大騒ぎを始める。
ヤンの無作法以上に人目を引いてしまうのは、もはやしょうが無い。
どう見ても迷惑バカップルです本当にありがとうございました。
「なぁーデルフ。 コイツって変わってるよな」
「いやどっちもどっちじゃね?」
どう見ても貴族の少女。
どう見ても怖いお兄さん。
周りの人々は生温かい目で見守ることしか出来なかった。
よかろう、ならば支援だ
73 :
人情紙風船:2010/12/02(木) 22:35:36 ID:???
お豊の知略と政治なみに頭の悪い俺でもわかるありがとうの気持ち・・・
支援、感謝の極み・・・
8話以上になります
投下あんどお目汚し失礼しました
ヤン来てたー
うp乙です
ヤンはいつ見てもステッキーっすよ、早く月光蝶やってほしいっすわ
ヤンの人乙ですー
デルフが加わってルイズの心労が加速しそうですな
77 :
人情紙風船:2010/12/09(木) 22:13:29 ID:???
ようやく規制解除
こんばんわです
どなたも居らっしゃらないなら第9話投下致しますー
ひゃっはー!
「くぅー! ぐぅーーーッ! うーッ!! ヴァ、ヴァリエールのクセに・・・私より先にヤンとデートとは生意気なんじゃないの・・・!」
憤慨している少女がいる。
燃えるような赤髪と褐色の肌。
整った顔立ちとナイスばでーを持ち、これに惹かれない男などいないであろう極上の美少女と言える。
そして隣には、幼い未発達の体、しかし将来限りなく有望と思われる青髪の美少女。
いい意味で対照的なコンビは、現在悪い意味で対照的なコンビを追跡中・・・。
追跡目標はピンクのちんちくりんと黒いお兄さん。
先刻、武器屋から出るのを見届けた。
店から出たヤンは見窄らしい剣を片手に握り締めていた。
チャンスだ!
そう思った。
ヴァリエールはヤンに、あんな剣しか与えなかったのだ! そうに違いない!
ここで一発、最高級の剣でもプレゼントすればヤンの心を一気に手中に収められる!
「所詮、ヴァリエールなどツェルプストーには敵わない! ルイズ敗れたり!」
思わずガッツポーズで叫んでしまった。
「・・・・・・ばれる」
相棒の沈黙少女の的確な突っ込み。
「ハッ!? そ、そうね・・・私としたことが危なかったわ ありがとうタバサ」
そんなこんなで大枚はたいて『ゲルマニアの錬金術師シュペー卿が鍛えし業物』を購入。
後はタイミングを見計らいヤンとルイズに接触。
そしてルイズの目の前で、この大剣を渡すのだ。
歓喜の余りヤンは、『主』であるヴァリエールの目の前で思わず私に・・・・・・熱い抱擁・・・そして・・・。
情熱的で濃厚なベーゼ!
ルイズ涙目(笑)
これよこれ!
我ながら恐ろしいぐらい完璧な作戦ッ・・・!
ルイズらは大通りに出るとそのまま食事処へと入る。
キュルケ達も半刻程の間を置きそれに続く。
ピンクと黒はとても目立っている。
というのもデコボコっぷりもさることながら、問題は注文の量。
ヤンの健啖っぷりには恐れ入る。
尤も、自分の親友タバサも負けてはいない。
自分の隣で、まるでヤンに対抗するかのごとくの食欲を発揮している。
「もぐもぐもぐもぐもぐ・・・・・・ごくん・・・・・・場に動きあり」
タバサの言の通り、寛ぎ食事をとっていたヤン御一行のテーブルが騒がしくなった。
ルイズが突然、立ち上がり喚き立て始めたのだ。
はた迷惑な奴らね。
だがこれはヤンに接触する最高のチャンス。
「いくわよタバサ!」
立ち上がるキュルケに促され、タバサは慌てて残りの食事を掻き込む。
赤毛の友人はゆったりとした足取りでルイズらのテーブルへと歩み寄って行く。
ルイズがこちらに気づいたようだ。
顔を顰め、あからさまに嫌な表情。
「うるさい奴がいると思ったらヴァリエールじゃない。 あら! ダーリン! こんな所で偶然会えるなんて・・・これは運命って奴なのかしら? ね♪」
1日中付け廻しておいてよく言うものだと、タバサは半ば呆れながら感心する。
「げっ! ツ、ツェルプストー! なんでこんな所にいるのよ!」
「お キュルケじゃネーか ん? こっちの嬢ちゃんは・・・」
キュルケの横にいる小じんまりとした少女。
・・・。
コイツは・・・。
あの時・・・俺を監視するかのような目で見てやがったガキ・・・。
「あ ダーリン初めてだった? この子はタバサって名前で私の友人よ」
キュルケに紹介されペコリと頭を下げる。
そしてこっちを眺めてくる。
後方からのルイズの怒気の篭った視線とも違う。
目の前のキュルケの熱い視線とも違う。
観察の視線。
「クはははハは この前から俺のこと見てっケど何か分かったかのかよタバサちゃん?」
口角を引き釣り上げて哂って見つめ返す。
「ッ!?」
支援!
少女は焦った。
見ていることはバレてもしょうが無いとしても。
だが今、この男は『何かわかったか』と聞いてきたのだ。
言外に自分には重大な秘密があります、と申告したようなものだ。
意図がバレてる・・・!
そしてからかわれているのだ。
お前ごときの観察眼では自分の正体は掴めない・・・と。
あるいはバレてもどうってことはない程度の秘密?
それとも秘密も知った者を自由に処断できる自信の現れ?
理性も知性も感じさせない言動を繰り返してはいるが、それはフェイクなのだろうか。
この男から感じる何らかの『気配』は・・・『不安』なのか『期待』なのか。
自分の考えすぎなのだろうか。
考えれば考える程、ヤンという男がタバサには理解出来なかった。
しかし食堂で見たモノ。
あれは紛れもない真実なのだ。
「・・・・・・ず、ずっとヤンを見てるですって!? ちょ、ちょっとアンタまで人の使い魔に色目を使うわけ!? さすがツェルプストーの友人ね!」
ルイズはタバサのことは殆ど知らない。
学園で見かけるクラスメイト。
若干15歳ながらシュヴァリエの爵位を持つエリートである・・・というぐらいは知っている。 が、その程度だ。
記憶の中では、この少女の表情の変化など見たことがない。
その少女が明らかに一瞬、動揺したのだ。
それを見たルイズは焦り、怒る。
明らかにナニかを勘違いしたわけだ。
「えぇ!? まさかタバサまでダーリン狙いなの!?」
それに釣られてキュルケまで。
「ち、違う・・・・・・誤解・・・」
友人にまで勘繰られて、些か焦ってしまう。
これがルイズには良くなかった。
止まらぬ邪推。
「あ、ああああああんたが色んな女に色目を使うからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
シエスタ、キュルケ、タバサ。
この短期間に3人も!
しかも全員美少女で、2人にはおぱーい的な意味で完全敗北である。
ぷっつん。
ルイズの中で決定的な何かが切れた。
タバサとキュルケを見ていたヤン。
その背後で何かを振り上げる、空気の音。
「へっ?」
まさか、と思いつつ素っ頓狂な声をあげ振り返ると。
どばーーん
盛大な爆発がヤンを包んだのであった。
****************************************************************
カッ
「・・・・・・」
ぶんッ
カッ
「・・・・・・ダメだ さっぱり当たらん」
ざっく ざっく ざっく
ざっく ざっく ざっく
「・・・・・・・・・・・・薪割りは後で私がやっておきますから・・・・・・・・・水汲みでも手伝ってきてください」
若干、呆れ顔の女性。
筋肉隆々、半身刺青だらけの農作業に精を出していたその女性が、太ましい男性に声をかける。
女性のそのTHE・ガッツな感じの姿。
何ていうか・・・
すごく・・・
似あっています・・・
耕しているのは、この女性だけではない。
ざっと数百人の逞しい男性達がフロンティアじゃあー開拓じゃあー と言わんばかりにバリバリ耕している。
農作業に鼻歌はお約束。
彼らは美しいバリトンボイスを清々しいお天道様の下に響かせる。
ホイテ ヴォーレン ヴィ アイン リートライン ジンゲン♪
Heute wollen wir ein Liedlein singen, (我らは今日は歌を歌い )
トリンケン ヴォーレン ヴィ デン クーレン ヴァイン♪
Trinken wollen wir den k?hlen Wein (冷えたワインを飲もう)
ウント ディ グレーザー ゾーレン ダツ クリーンゲン♪
Und die Gl?ser sollen dazu klingen, (そしてグラスで乾杯しなければならない)
デン エス ムス、 エス ムス ゲシーデン ザイン♪
Denn es mu?, es mu? geschieden sein. (なぜなら別れなければ、別れなければならないから。)
ギープ ミァ ダイネ ハント、 ダイネ ヴァイセ ハント♪
Gib' mir deine Hand, deine wei?e Hand, (その手を私に差し出しておくれ、その白き手を)
レープ ヴォル マイン シャッツ、 レープ ヴォル マイン シャッツ♪
支援
Leb' wohl, mein Schatz, leb' wohl mein Schatz, (さようなら、私の愛する人よ、さようなら、私の愛する人よ)
レープ ヴォル、 レーベ ヴォル♪
Leb' wohl, lebe wohl (さようなら、お元気で)
デン ヴィア ファーレン、 デン ヴィア ファーレン♪
Denn wir fahren, denn wir fahren, (なぜなら我々は進軍する、進軍するのだから)
デン ヴィア ファーレン ギーゲン エングラント、 エングラント♪
Denn wir fahren gegen Engeland, Engeland. (なぜならイギリスへ、イギリスへ我らは進軍するのだから。)
「なぁ おい ところでドクはどこでなにやってる」
「ドクは少佐以上に体力ないですから。 家でティファニアと料理するって言ってましたよ」
ふーっ、と手拭いで汗を拭きながら答える筋肉女。
さっきからいちいちガテン系の動きが様になり過ぎている。
「な、なんだとぅ! ドクの奴め! あのオッパイを独り占めしようというのか!」
軽く三桁sを越えているであろう太ましい肉体からは想像も出来ないほどの素早さで駆け出す。
こんな所で農業してる場合ではない。
あの野郎!
テファたんは俺の嫁だと言っておいたものを!
ばーーん!
「こらーーーーーーーーーーーーー!!」
「「「「ぎゃぁあぁぁっぁあああああぁぁぁぁぁ!! でたーーーーーーーーーーーー!!」」」」
扉を勢い良く開けて乱入してきたデブに混乱する子供たち。
「って少佐じゃないですか あーびっくりしたー なんですかいきなりー」
混乱した子供たちの中にいた、ネコミミを生やした少女のような少年のような。
そんな子が胸を撫で下ろす。
耳も一緒にふにゃ〜となって、なんというか。 その。 可愛い。
「准尉。 ドクは ドクはどこだ。 奴には造反の疑いが掛かった。 というか造反してるんじゃないかな ちょっと一発殴ろうと思って」
「ド、ドクならそこにいますけど」
ネコミミっ子の指差した方向には紛う方無きドクの姿。
そして・・・。
その横には煌く金髪。 極め細やかな白い肌。 つんと尖った耳。
そして胸。
とにかく胸。
そのたわわな胸が視界に入る度、少佐のアハトアハトが火を噴くぜ。
そんな魔乳美少女の横で楽しくお喋りしている、やせ細ったメガネ男。
ギリギリギリギリギリギリ
ぐ・ぬ・ぬ・ぬ・ぬ・ぬッ!
「おらーーー!」
げしっ
「ぐっはぁ! あ! しょ、少佐殿! ま、薪割りは!? 薪割りをなさってたんじゃないんですか!?」
「テメェーーーッッ!! テファたんは俺の嫁だっつってんだろーがァッ!!」
ガッ
「ぐ、ぐぅ・・・ぐぐぐぐぐぐぐッッ て、ティファニアさんのオッパイは・・・・・・み、みんなの・・・ 我らミレニアムのぼ、母性の象徴なわけでありまして・・・」
言葉では多少、遜っているドクだがシッカリやり返していたりする。
互いに頭部を、両の手で強く抑えつけ主張を譲らない。
「少佐さん! ドクさん! ケンカはやめなさいっていつも言ってるでしょ!! 少しは大尉さんを見習って下さい! もう!」
ぐる〜
少佐とドクが頭をねじる。
そこには・・・もくもくと野菜を切り続けるトレンチコートの姿が。
「「あ゛ッ!! あの野郎!!」」
「い、いつのまに・・・ずっとティファニアさんと話していて気付かなったなァ・・・! さすが最強戦力!」
「お、おのれ大尉・・・! むっつり狼! てめーも造反者だーーー!」
しかし哀しいかな少佐とドクは潰し合っていて大尉には手が出せない。
こうしている間にも大尉は着実にティファニアの好感度をゲットしている筈だ。
我々は、逆に好感度が下がっている!
うおーん
泣くデブとメガネ。
しかしやはり、いがみ合いはやめる気がないようだ。
「はぁ・・・ドクゥ〜 少佐ぁ〜 カッコ悪いですよ〜」
ネコミミっ子も呆れた様子。
表紙裏wwww支援
猿かな?支援
どうしたんだろう
「なーシュレディンガー! 少佐達なんかほっといて遊びの続きーー」
はいはい、と同じぐらいの年に見える少年達に遊びの輪に戻されるネコミミ。
ばーん
再び勢い良く扉が開かれる。
しかし今度の闖入者は先程より段違いに可愛らしい。
「肉調達班ただいま戻りましたー! ティファニアさーん! 見てくださいよーーこーれー 今日は700羽も墜としましたよー♪」
「うわー 相変わらず凄いですねリップヴァーンさんは♪」
浮き浮き顔のリップバーンの後ろからはスーツで決めた男が現れる。
「水調達班も戻りましたぁぁぁー」
「あ トバルカインさんもお帰りなさい! いつもありがとうございますね♪ さぁー頑張らないと! 皆さんちゃっちゃっとやりましょー!」
「「「「了解(ヤボール)!」」」」
ティファニアの指示の元、調理当番の吸血鬼達がてきぱきと夕飯の支度を進める。
1000人分の食事である。
外に大食卓を100個ぐらい設置してみんなで仲良くお食事しましょう。
そうティファニアが提案したら二つ返事で少佐がオッケーした。
超大家族で賑やかにしているのがエルフの少女は本当に楽しいらしい。
毎日が大わらわ。 少し前まではヒッソリと建っていた僅かな家も、今では軽く2、300軒。
男女比がかなり偏っているが、僅かな期間でウエストウッド村の規模は拡大していた。
無敵の敗残兵達はこんな環境であろうとも馴染んでしまう。
50年超の潜伏経験を持つミレニアムは、こんな適応能力すら得ていたらしいデスヨ?
約2名を除いて。
少佐&ドク。
戦争以外なんの役にも立たない。
研究以外なんの役にも立たない。
この二人はもうこういう人である、と大隊の誰もが理解しているので大きな問題は無い。
「テメェはマチルダ姐さんにでも萌えてろよカースッ!」
「少佐こそティファニアさんは私に任せて、マチルダ姐さんをどうぞ!」
「おれはババ専ではないから遠慮するぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「私もどちらかというと幼い子の方が好みでしてェェェ!」
この問題発言はしっかりと最後の大隊員の脳内に記憶されるのだった。
しかし戦争がないと本当に駄目だなこの人達は。
はやくなんとかしないとなー。
固く心に誓うミレニアム一同だった。
****************************************************************
「へぇっくしっ!!」
「おや 風邪ですかミス・ロングビル。 無理は良くありませんよ」
「あ、あら 大丈夫ですわ おほほほ」
何かと世話を焼いてくるお人好しの同僚からの心配に、しっかりと社交辞令を返した妙齢の美女。
ハルキゲニアにおいては些か行き遅れに差し掛かりつつあるお年ごろ。
ロングビルこと盗賊フーケことマチルダ・オブ・サウスゴータは苛立っていた。
ここ数日、宝物庫を調べまわったのだがいやはや何とも。
堅牢な固定化が掛けられており、自分の錬金の魔法では突破出来そうもない。
怪しげな人間の使い魔とかもいるし、噂のお宝『破壊の杖』は明たほうが懸命だろうか。
それとも綱渡りの盗賊人生に終止符をうつか。
そして良い人を見つけて家庭を持つ。
年齢いこーる恋人いない歴にもちょっと疲れてきた。
というか焦っている。
普段は気にしていないつもりなのだが・・・ふ、とした時に焦りがでる。
何故だ!
顔だってスタイルだってそんなに悪くないぞ!
何で自分に言い寄ってくる男には碌な奴がいない!
あんなコッパゲはやなんだ!
高望みしたせいで完全に売れ残った!
元貴族の矜持でも心の奥底にこびり付いているのか。
白馬の王子様を望む夢見がちでもないが、汚い男に抱かれるなんざ想像しただけで恐ろしいっつーの!
くっそう!
しかしここの給料は中々に良い。
上司のオールド・オスマンのセクハラさえ除けば、人間関係や自らの安全・・・魔法学院長の秘書という社会的地位。
支援!一心不乱の支援
諸々、考えれば悪い職場ではない。
むしろ恵まれていると言える。
何時までも続けられるわけはない盗賊業。 そして結婚願望と恵まれた職場。
ここでマジで頑張るのもいいかもしれない。
しかし・・・。
そう、しかし。
ティファニアが召喚した使い魔とその部下達。 複数形。
最近、家族が増えてしまったのだ。 1000人ぐらい。
おかしいでしょ。 1000人って(笑)
しかも全員吸血鬼だし。
しかも私の知ってる普通の吸血鬼と何かかなり違うし。
しかも肝心の使い魔の少佐が危険な目でテファを見てるし。
オマケに私をババア扱いするし。
話聞いてみたらテメェの方がジジイだろうがデブ!
とにかく!
就職してるのは現在この私一人!
いや、みんな頑張ってくれてるよ? 農業とか。
でも耕作ってすぐ金にならないし、もちろん実も成らない。
当座の資金が必要なのだ!
みんな何とか現金を工面しているものの、一家の大黒柱はこの私!
我が家のエンゲル係数は順調にマッハで右肩上がり。
実家への仕送りも増やさなければティファニア達がカツカツになってしまう。
この職場でさえ十分とは言えない状況になってしまったのだ。
そうだ。
やるしかない!
我が家の家計の為に!
テファ! 子供たち! そしてエンゲル係数上げてくれた使い魔達!
姉ちゃん頑張って稼ぐからね!
結婚!? 何それおいしいの!?
わはは恋人なんざ欲しくないわよ!
私は血も涙も無い盗賊フーケ様さ!
ちくしょうミレニアムども!
マチルダが決意を新たにした時。
その悲痛な決意に神か悪魔かが微笑んでくれた。
多分、間違いなく後者だが。
ドーーン
爆音。
「あちゃー! どうやらミス・ヴァリエールですね・・・ またやらかしてしまったようで はぁ・・・」
「! (今の方角は・・・ひょっとしてひょっとすると!?) わ、わたくしミス・ヴァリエールがやらかした被害を見てまいりますので」
「いつもいつもありがとうございますミス・ロングビル。 あ、あのそれでその、お礼というわけではないのですが今度お食j」
「急ぎますので失礼しますわね」
「・・・・・・・・・」
コルベールの何度目か分からないお誘いは、またこうして失敗に終わった。
がんばれハゲ!
負けるなハゲ!
僕らはそんなゲーハーが大好きだぜ!
コルベールの言葉も華麗にスルーして駆けるロングビル。
爆音響いた庭。
そこでロングビルが見た光景とは。
木の枝に括りつけられたロープに吊るされた使い魔の男。
と。
それを爆殺しようとしているルイズの姿。
「ぐわーー! やーめーてー! 流石に死ぬって! オレでも死ぬって!」
どかーん
どかーん
どかーん
「ちょっとヴァリエール! それ以上は流石にダーリンでも危ないわよ!」
やや遠巻きに見ていたキュルケも必死に取り成すが効果はない。
というより逆効果のようだ。
「うっさいわね! バカ犬にはこれぐらいで丁度いいのよ! だいたいアンタがヤンに色目を使うからいけないんでしょうが!!」
ルイズの目は血走っている。
少し・・・というか、かなり危ない人に見える。
「アンタもアイツもアイツも・・・皆アンタ達のせいよ!!」
鬼気迫る、とはこのことだ。
キュルケもこれにはたじろぐ。
しかしヤンのことを結構本気で思っている彼女は果敢に立ち向かう。
「ふぅん だったらダーリンにそんなことするのはお門違いなんじゃないの? 私に腹が立つなら私が相手になるわヴァリエール!」
「・・・・・・ツェルプストーにしては・・・なかなかいい考えねェ・・・! 丁度いいわ! ツェルプストーとヴァリエールの因縁!! ここで終わらしてあげる!!」
何だか凄いことになっているようだ。
ロングビルは影から覗いていた先客のメイド少女と同様に覗きこむ。
コソコソ
「・・・これは一体どうゆうことなのかしら?」
「あ どうも! 私も最初から見ていたわけでは無いので詳しくは・・・・・・でもこのままじゃヤンさんが・・・!」
「ヤンって・・・あの吊り下げられている人?」
「はい! そうなんですよ! ヤンさんってとってもきゅーとでカワイイ、優しい人なんです! それなのにミス・ヴァリエールのなさりようは・・・あんまりです!」
「(きゅーと? かわいい? 優しい? ・・・・・・何だか見た目というか、醸しだす空気からはそんなの微塵も感じ無いけどね・・・寧ろミレニアムの連中に・・・)」
いけないいけない、先入観は良くない。
贔屓だの差別だのは尤も忌避すべきこと。
支援
身を以てそれを痛感しているロングビルは努めて公平に、そして冷静に場を眺める。
やたらめったら爆破を試みていた少女。
これからどうやら修羅場で、ドンパチが始まりそう。
ここは宝物庫の壁が近い。
結論。
いいぞもっとやれ。
あの『ゼロのルイズ』の爆発の威力はつとに有名だ。
あれならひょっとしたら宝物庫の壁も・・・。
黒髪のメイドと一緒に固唾を飲んで行方を見守る。
「連打で行くわよ! ファイアー・ボール!」
「こっちだって・・・! ロック! ロックロックロックロックロックロックロックロックロックロック・・・・・・!」
あちらこちらから炎と爆発が巻き起こる。
それはさながら戦場である。
そして当然、そのド真ん中に吊るされているヤンは・・・。
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ、あにきーーーーーーーだぢげでーーー!」
燃えカスになりつつあるヤン・バレンタインであった。
その凄惨?な光景を、使い魔である風韻竜シルフィードの背中という安全圏から眺める少女と剣。
「げらげらげらげら! 相棒ざまぁ! げらげらげらげら」
「・・・・・・・・・バカばっか」
「きゅいきゅい!(お、おねえさま! それ電子の妖精さんの決め台詞なのね!)」
今日もカオスな1日は暮れつつあった。
99 :
人情紙風船:2010/12/09(木) 23:16:43 ID:???
第9話以上になります
途中さるを喰らってしまい申し訳有りませんでした・・・
いつも支援ありがとうございます!
10話も近日中には投下できると思います
ではまた
お疲れさまでした〜
ヤンが何気に不幸な目に合ってて怖いw
投下乙です〜
何かキタ!
大量に何かキタ!w
乙!
戦争の無いミレニアムがここまでオモシロ集団だったとはw
ガリアではリンボに行ったはずの
13課ご一行とかいたら嫌だな
いや、ガリアには旦那(零式)御一行だろ狂王的に考えて
むしろブリミル教総本山に13課御一行をだな……
ガリアは意気投合しそうな気もするが
ロマリア血の海じゃないかw
ガリア組はロマリアが血の海と知ったら、今度は逆に横あいから思い切り殴りつけにいくんだろうかw
新規投下と思ったら単なる更新だったでござるの巻
HELLOUISEさん、人情紙風船さん、遅れましたが投下乙です
長らくご無沙汰しておりました、シュレの人です。
ダラダラと書いちゃ消ししていたタルブ降下戦の続き、
確率世界のヴァリエール14話後編がやっと完成しましたので
今晩にも投下したいと思います。
ただ、やりたいネタを好き勝手に詰め込んだ結果
他の話の3倍弱くらいの長さになってしまいましたので
幾つかに分割して投下させて頂こうかと思います。
では。
どうも、シュレの人です。
確率世界のヴァリエール 第十四話 後編 Aパート
投下させて頂きます。
確率世界のヴァリエール - Cats in a Box - 第十四話 後編
(犯した罪への罰なのだ)
ルイズは船の上で、ただ思った。
トリステインの港町、ラ・ロシェールへ向かう軍艦イーグル号の上で。
運命には抗えない。
手にした『始祖の祈祷書』を見つめる。
虚無の系統たる己の力そのもの、己が虚無の担い手だという証。
それが、なんだというのか。
その力も、証も、結局は何の役にも立たなかったでは無いか。
借り物の力を得て、この世界の主人公でも気取っていたのか。
使い魔が居なければ何も出来ない、役立たずの『ゼロ』。
そして私はその使い魔を、自身の片翼を、自らの手で裏切った。
この結末は当然の帰結、必然の応報なのだ。
私には運命を変えることなど出来はしなかった。
†
シュレディンガーが消え去ったあの後。
皇太子の亡骸にルイズが気付いたのは、全てが終わった後だった。
彼の胸に空いた大きな傷がエア・ニードルによるものだという事。
そして、彼女の伴侶となったワルドの最期の言葉。
その時になって、やっと彼女は全てを悟った。
自分が取り返しのつかない過ちを犯してしまったという事を。
支援だな
発砲の轟音に気付いた衛兵が礼拝堂の鍵を壊して中に入って来た時も、
ルイズは一人座り込んだままだった。
突然降りかかった凶事にニューカッスル城が混乱に包まれる中、
ルイズはアルビオン王国国王ジェームズ一世の前に引き出された。
ルイズは死を覚悟していた。
いや、それこそが己に出来るせめてもの償いだと思った。
自分が手引きして皇太子を殺したも同然だ。
あの夜、このニューカッスル城で守ると誓ったその命を
今日、この手で暗殺者に売り渡してしまったのだ。
そしてその暗殺者も、自分が愛したその男も、最早この世にいない。
ルイズが死を望んだのは、覚悟でなく、償いでなく、
あるいは単なる逃避だったのかもしれない。
しかし、ルイズのその望みが叶う事はなかった。
アルビオンの王は何を問い質す事もせず、彼女を許しのだ。
年老いた王はルイズの手を取ると、やさしく語りかけた。
「大使殿。
初めて会うたあの夜より、我らの命運は定まっておったのじゃ。
民も、貴族も、王であっても、運命(さだめ)からは逃げられぬ。
朕らが無様に足掻いたがゆえに、そなたらを巻き込んだ。
朕を許せ。
そして我が息子を、許してやってくれ」
老王の瞳は曇りなく澄み、己が命運を受け入れんとしている。
彼はあの夜と同じ顔をしていた。
最期の戦いを迎えようとしていた、あの夜と。
ルイズは何かを言おうとして言えず、ただぼろぼろと涙した。
ジェームズ一世は立ち上がると、決然と皆に告げた。
「戦の支度を!」
ニューカッスルを揺さぶらんばかりの悲壮な鬨の声がそれに応えた。
†
そしてルイズはその夜のうちにイーグル号の艦上の人となった。
明日の昼にはトリステインの港町ラ・ロシェールへたどり着く。
艦内にはニューカッスルからトリステインへ疎開する人々や
ワルドの裏切りに与していなかった元部下達も乗り合わせていたが、
彼らの誰もが口をきくことなく押し黙っていた。
狭い船室の中、窓の外には月のない夜空と雲海が広がる。
運命には抗えない。
私には運命を変えることなど出来はしなかった。
いや、愚かしくも自ら運命の手綱を手離してしまったのだ。
あの時死ぬ筈だった人たちは今、定めどおりに死へ向かい、
あの時乗る筈だったこの船に今、定めどおりに乗っている。
全ては、全ての運命は、おそらく変わる事はなかったのだ。
ルイズは手にした『始祖の祈祷書』をもう一度見つめ、
声もなく涙を落とした。
†
イーグル号がラ・ロシェールへと到着するまで、ルイズは
ベッドの上でひざを抱えたまま一切の食事も睡眠も取る事はなかった。
デッキへ降り立ったルイズを初夏の日差しが照りつける。
彼女の絶望を、失意を、世界は意にも介していないとでも言うように
空は晴れ渡っていた。
王が倒れ、国が滅んだところで世界は何も変わらない。
ましてや私一人、どんなに運命を呪い嘆き悲しんだところで。
一人うつむき、小さく自嘲する。
「ルイズ!」
突然の自分を呼ぶ声に、びくりと身を強張らせる。
この、声は。
顔を上げたその前に、トリステイン王女アンリエッタの姿があった。
「姫、殿下、、、?」
どうしてここに。
ルイズの顔が悔恨と恐怖の涙に歪み、膝が揺れる。
思わず後ずさるルイズの腕をアンリエッタが掴み、
震える肩を優しく抱きしめた。
「わ、私、、姫、殿下、、わたし!」
「よいのです!
もう、よいのです、ルイズ、、、」
ルイズを抱きしめる腕に力がこもる。
暖かな体温がルイズを包む。
「アンリエッタ様、、、」
ルイズは初めて大きな声を上げて泣いた。
。。
゚○゚
同時刻、トリステイン王都トリスタニアの王宮、その奥まった一室。
茶をすするトリステイン魔法学院の学院長、オールド・オスマンの前で
マザリーニ枢機卿はため息をひとつついた。
「今度ばかりはあの娘にかけてやる言葉が見つからん」
「ワルドはおぬし直々の選任じゃったかの」
「責任は取る」
「真面目に返すな鳥の骨、何ともからかい甲斐のない事じゃ」
「年寄りの冗談に付き合う気分でもないわ。
この一件が片付けば、全ての責を負い身を引こうと考えておる。
丁度良い頃合だ」
マザリーニが力なく笑う。
「こういう時におぬしが居ってくれて良かった」
オスマンが茶を吹きそうになる。
「気持ちの悪い事を抜かすな。
それに、鉄火場はここからじゃろうに」
オスマンは椅子に座りなおしてマザリーニを見つめた。
「アルビオンのジェームズ王は何と?」
「ただ『我らのみにて雌雄を決す』、と」
オスマンがやれやれと首を振る。
「こちらの責を問う事はないが、助力も請わぬという事か。
なんとも勇ましい事じゃ」
「それだけミス・ヴァリエールがジェームズ王に信頼されて
おったということだろう」
「この際は有難い、か?
実際こちらも他所に手を貸す状況ではない様(ザマ)じゃからのう。
しかしまさかワルド子爵の通じて居った先がよりによって」
今度はオスマンがため息をつく。
「ガリアとはの」
マザリーニの顔が険しくなる。
「だが「状況」から見て間違いあるまい」
「その「状況」とやらに変化はなしか?」
「ガリアとの国境線、オルレアン湖岸の60隻のガリア艦隊はそのままよ。
『アルビオン内乱に拡大の兆しあり 貴国防衛の助力をせんとす』
そういったままこちらの返答を待っておる」
「隙あらば混乱に乗じこの王都を攻め落とすつもりじゃろうのう。
ダングルテールに二個師団を配させたのもワルドの策略じゃったな。
このトリスタニアから北と南では、今から呼び戻しても遠すぎる。
アルビオンへ上るはずじゃったラ・ロシェールの艦隊を
王都防衛に当てる他ないというわけじゃ」
「うむ、向こうに居られる姫の護衛とラ・ロシェール防衛分を除き、
残りは全てこちらに引き戻させる」
「おお、そうか。 アンリエッタ殿下が直々にミス・ヴァリエールを
迎えに参られたんじゃったの」
オスマンが窓の外、ラ・ロシェールの方角を見つめる。
「殿下のお心が、せめてあの娘の慰めになれば良いがのう」
。。
゚○゚
「ルイズっ?!」
ラ・ロシェール領主の邸宅へと案内されたルイズを待っていたのは、
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたキュルケの乱暴な抱擁だった。
「大丈夫だった?! どっこも怪我してない?!
ああもうこの馬鹿ルイズ、みんなに心配掛けて!!
あぐっ、ふぐうぅ、ほんとにっ、ほんとにもうっ!!
あ゛う゛う゛、、良がっだぁあ゛あ゛〜〜〜!」
支援
キュルケは胸にルイズをかき抱いたままその場にへたり込むと
人目も憚らずにえぐえぐとしゃくりあげ、ルイズの頭を乱暴に
しかし愛おしげに頬を寄せて何度も何度も撫でさする。
領主邸の庭園にも、涙ぐみ安堵する学友たちの顔があった。
ギーシュ、モンモランシー、ケティ、マリコルヌ、シエスタ。
いつもは冷静なタバサも、うっすらと涙をためた目で
ルイズに向かって微笑みかけている。
その横にはギーシュの使い魔、大モグラのヴェルダンデ、
キュルケの使い魔、サラマンダーのフレイム、
タバサの使い魔、シルフィードの姿もある。
「ど、どうして、みんなここに?」
目にたまった涙をぬぐい、やっと落ち着いたキュルケが優しく笑う。
「アンがね、アンリエッタ様がアンタの事を知らせてくれたの。
それでね、みんなでね、迎えにいこうって」
そういって立ち上がると傍らのアンリエッタを振り返る。
「御免なさいね、ルイズ。
私一人では心細くって」
「と、とんでもありません、アンリエッタ様!
私は、アンリエッタ様に、それにみんなにも
心配をかけてしまって、、、それに、それに、、、」
「 『それに』 はもういいの!!」
キュルケがルイズを再び強く抱きしめ、泣き笑いの顔で頭をなでる。
「もういいの。 アンも言ってたでしょ?
アンタが無事なら、それでいいの」
「キュルケ、、、」
「そ、れ、に!」
キュルケが腕を伸ばし、アンリエッタをルイズと一緒に抱きしめる。
慌てる近衛兵たちを同行していたアニエスが困り笑顔で制する。
「男なんて星の数よ。
この世界に良い男なんていーっぱいいるわ♪」
二人のひたいにこつりと頭を当てて、涙をぬぐい冗談めかして笑う。
「なっ?!」
「まあ、キュルケったら」
アンリエッタが涙目のままくすくすと笑う。
「それでもいい男が見つからなかったときは、
その時には、アタシが居るわ」
「!!」
耳まで真っ赤になるアンリエッタをよそに
キュルケはルイズに口付けようと唇を尖らせ迫る。
「んむ〜っ」 めしっ。
ルイズの正拳がキュルケの顔にめり込んだ。
「結局あんたはいっつもそれか!!」
顔を赤くしながらもキュルケに怒鳴る。
「そうそう、ルイズちゃんはそうでなくっちゃ」
殴られた鼻をさすりながら、キュルケが笑いかけた。
ルイズはため息を一つつき、仲間達を見回す。
「あの、みんな、、、」
「 「 「 謝るのは無し! 」 」 」
みなが声を揃えてルイズに言う。
小さくうなずくと、ルイズはもう一度皆を見回した。
「うん。
ただいま、みんな」
。。
゚○゚
その日ルイズは皆と大いに語らい、飲み、食べて、
また語らい、語らい尽きることなく眠った。
誰も彼女の使い魔の事に触れなかったが、ルイズは
皆のその心遣いに感謝した。
それはおそらくルイズにとって、人生最良の一日だった。
。。
゚○゚
明くる朝。
それを最初に見つけたのはマリコルヌだった。
朝の光のさす世界樹<イグドラシル>の上、晴れ渡る空を見ながら
マリコルヌはしばしの散歩を楽しんでいた。
何隻もの軍艦を係留している世界樹を吹き抜けた風が、
酔いの残る火照った顔をなでていく。
山あいの太陽がゆっくりと顔を覗かせていくのをしばし見つめる。
(ああ、今日は日食だったっけ)
昨晩の席で、アンリエッタ姫も一緒にタルブへ日食を見に行こうと
盛り上がっていたのを思い返す。
田舎の村にいきなりお姫様がやってきたら、上を下への大騒ぎになるだろう。
そんな事を考えながら、このラ・ロシェールからいくらも
離れていないというタルブの方角を眺める。
遥かな山々の向こうに幾筋かの煙が立ち上っている。
「あそこかな、、、ん?」
その先の景色に違和感を覚える。
肩にとまっていたフクロウ、使い魔のクヴァーシルが
羽をばたつかせてけたたましい鳴き声を上げる。
「あれ、は、、、あれは!!」
もいっぱーつ!支援
彼の見つめる彼方で、旗艦レキシントン号率いるレコン・キスタの艦隊が、
今まさにこのトリステインへ降下しようとしていた。
マリコルヌが駆け足で皆の所へ戻った時には、ラ・ロシェールは
既に厳戒令の中にあった。
市民達は怯えながらも避難指示に従い、隊列を組んだ兵士達が
慌しく横を駆けていく。
「み、みんな、無事?」
「あんたこそ! 探したのよ!」
すでにラ・ロシェール領主邸宅の庭には制服に着替えたルイズ達が
集まっており、戻ってきたマリコルヌを見つけ安堵の表情を浮かべる。
「レコン・キスタが来たらしいんだけど、どーなってんのよこれ?」
落ち着かなげなキュルケの横には、シエスタが不安げに寄り添う。
遠くかすかに、しかし低く太い遠雷のような音が絶え間なく響いている。
山の間に昇る朝日とは逆の方角の雲が、赤々と照らされて見える。
「あ、あの、マリコルヌさん? あの明るいのって、、」
「、、、タルブだよ、あいつらタルブの方から降りて来てるんだ」
それを聞いてシエスタが血の気を失いその場に倒れこむ。
「大丈夫?! シエスタ!」
倒れ掛かるシエスタをキュルケが受けとめる。
「ご、ごめんなさいキュルケさん、それより、姫殿下を」
「そ、そうだわ! マリコルヌ、あんたアンリエッタ様見なかった?!」
マリコルヌへルイズが詰め寄る。
「ひ、姫殿下なら」
「見たの?!」
「世界樹の上で。
アニエスさんや他の近衛兵と一緒に戦艦に乗り込む所だった」
「姫が?!」
皆が世界樹<イグドラシル>を見上げる。
全ての艦が桟橋を離れ発進しようとしていた。
赤く燃えるタルブへと向けて。
†
タルブ開戦の報せはトリスタニアの王宮にも届けられていた。
「タルブ領主、アストン伯戦死!」
「レコン・キスタはタルブへ降下兵を展開!」
「レコン・キスタ艦隊十四隻、そのままラ・ロシェールへ転進!」
多数の伝令と喧々諤々の議論を続ける貴族とでごったがえす
大会議室へ、ローブを羽織ったオスマンが入ってくる。
「いよいよか来たか。 しかしタルブからとはの」
「オスマンか」
伝令たちに次々と指示を出していたマザリーニが振り返る。
「あ奴らロンディニウムを守る船さえ捨てて
かき集められるだけの船をかき集めて来おったらしい」
「まさに背水の陣じゃの」
「ここであの貴族派の奴らめがラ・ロシェールを落とす事にでもなれば
南のガリアが鎮圧の協力を口実に一斉になだれ込んで来るだろう。
いや、ハナからそういう手はずだろうて。
ええい、姫殿下の安否はまだわからぬか?!
殿下を乗せたフネはどこまで戻っておる!!」
苛立つマザリーニの元へ血相を変えた伝令が飛び込んでくる。
「枢機卿、報告いたします!
ラ・ロシェール駐留艦隊全五隻、レコン・キスタと交戦中!」
「全隻、だと? ばかな!
姫は、アンリエッタ姫殿下はいずこにおわす?!」
猫耳支援
「は、殿下は、、、
アンリエッタ姫殿下は前線で全軍の指揮を執っておいでです!」
†
遠くの山肌に幾本もの土煙が立ち上り、数瞬遅れて砲撃の轟音が
ビリビリと大気を揺らしてラ・ロシェールの市内にまで伝わる。
レコン・キスタ艦隊十四隻とラ・ロシェール駐留艦隊五隻は
タルブとラ・ロシェールとを結ぶ山峡内にて激突していた。
「戦艦ソレイユ被弾、中破です!」
「あれがレキシントン、この距離で大砲が届くのか!」
「竜騎兵を再編成、出撃急げ!」 「第二波、来ます!」
「殿下、矢張りここはいったん引くべきでは?!」
トリステイン空軍ラ・ロシェール駐留部隊、戦艦メルカトール号。
横で叫ぶ艦隊司令官のラ・ラメーに、アンリエッタは毅然と返す。
「なりません!
ここで引けばラ・ロシェールは落ちます。
そうなれば南で待ち構えるガリア艦隊がそれを口実に
トリステイン国内へ進軍を開始してまいりましょう。
必ず援軍は来ます!
トリスタニア防衛に向かった艦隊の中から援軍が戻ります、
それまで何としても、何としても持ちこたえるのです!」
アンリエッタははるか後方の世界樹<イグドラシル>を振り返り、
昨晩の語らいを思い返す。
(あそこには自分の友がいる)
国も身分も関係なく、ただ一人の年頃の少女として過ごせた時間。
ルイズだけではない。
キュルケも、ギーシュも、モンモランシーも、ケティも、
シエスタも、マリコルヌも、今や自分にとって大切な友人だった。
(見守っていて下さい、ウェールズ様。
私の命をかけても、皆を、私の友を守ります!)
遥か彼方のアルビオン大陸を思う。
「攻撃を敵旗艦に集中、押し戻すのです!」
勇ましく杖を掲げ、アンリエッタは正面の戦艦レキシントンを睨んだ。
†
アンリエッタが見据えるそのレキシントン号の艦上。
神聖アルビオン共和国皇帝オリヴァー・クロムウェルは苛立ちを隠せずにいた。
「砲撃がこのレキシントンに集中しているではないか!
他の艦は何をしている? レキシントンを下げろ、余を殺す気か?!
相手はこちらの半数以下ではないか、敵を包囲し押し潰せ!」
わめくクロムウェルをレキシントン号艦長ボーウッドが静かにいさめる。
「閣下、相手は山間の地形をうまく利用し、我が方は横へ展開できません。
数の利を生かしきれませんが、正面から撃ち合うより他ありません」
「大体ラ・ロシェールの艦隊は全艦が王都へ向かったのではなかったのか?
トリスタニアへ着ければよいのだ、迂回するわけにはいかんのか?!」
「ここはトリステイン軍を各個撃破する絶好の機会です。
それにここで相手を残さば必ずや追撃を受けましょう」
沈着なボーウッドをクロムウェルが忌々しげに睨む。
「ええい、艦で横に回れぬというのなら竜騎兵だ、
竜騎兵を出して敵を囲ませろ!」
。。
゚○゚
これ面白いな
「ですが、あまりに竜騎兵を前線に出しすぎては艦砲射撃が使えません。
味方を巻き込んでしまいます」
「ならばどうしろというのだ?!」
「むしろ竜騎兵を陽動に使われては?
迂回させラ・ロシェールを襲わせて敵の気を逸らすのです。
ラ・ロシェールに援護を割く様であれば、そのまま敵を押し込めます」
「そ、そうか」
「ついでにワルドの置き土産も使われてはいかがですか?」
「うむ、あの女か、そうだな。
どうせ空に置いていたとて使い道も無いか。
ではそうしろ! どうした、早くやれ!」
そのままクロムウェルは座席にどすりと座り込み手を組んで顔を伏せる。
本来ならばラ・ロシェール駐留艦隊など発艦前に全滅させて然るべきだ。
それがタルブに手間取っている内にこのザマとは。
ハルケギニア最強の空軍も今は昔という訳か。
それもこれも、あの小娘のせいだ。
使い魔を引き連れてただ一人でアルビオンの戦艦を落として回り、
レコン・キスタ全軍を混乱に陥れたあの桃髪の小娘。
あの娘さえ居なければ、全てはあの日ニューカッスルで終わっていたのだ。
(ええい、『虚無の魔女』め!)
「竜騎兵部隊、戦列を組め!」
「軍団(レギオン)! 軍団(レギオン)! 軍団(レギオーン)!」
アルビオン艦隊の下に竜騎兵がゆっくりと弧を描きつつ集結していく。
「竜騎兵部隊、突撃準備よし!」
「次の砲撃の合間に出るぞ!
前方敵艦隊を右手山領より迂回、進行する!
目標、ラ・ロシェール市内!!」
†
「はあ? アンタ一人でどうするってのよ?!」
「じゃあここで指をくわえてみてろって言うの?!」
ラ・ロシェール領主邸宅の庭先で、キュルケとルイズが怒鳴りあう。
周りを重武装した兵士達が駆け抜け、竜騎兵が次々と空へ飛び立っていく。
「そう言ってるのよ。 戦争が、戦争が始まっちゃったのよ?
もうアンタ一人の力でどうこうできる事なんて残ってないわ!」
「まだよ、、、」
ルイズはゆっくりと懐に手を差し入れ『始祖の祈祷書』を取り出す。
「私には、これがあるわ」
「ふう、やれやれ。
つまりルイズは、僕らも知らない「とっておき」を
まだ隠し持ってるってことかい?」
ギーシュの言葉に、ルイズは静かにうなづく。
「でも、どうやってあそこまでいくってのよ?」
彼方の空を見上げるモンモランシーの横を、タバサが進み出る。
「、、、タバサ」
問いかけるルイズへ静かにうなずき、力強く微笑む。
タバサの横のシルフィードも、頭をもたげきゅいきゅいと頬を寄せる。
「シルフィも、、、」
ルイズはシルフィードの頭をそっと抱き寄せた。
「ちょっとみんな待って、あれ!」
マリコルヌの声に皆が振り向く。
「、、、やれやれ、話は後って所だねえ」
ギーシュの見つめるその先には、編隊を組みこちらへ向かってくる
アルビオン竜騎兵の大部隊の姿があった。
その内十数騎ほどが、本体を離れゆっくりとこちらへ転進する。
戦事(いくさごと)に慣れていないシエスタがおろおろと周りを見回す。
「ど、どうしましょう?
敵が、こっちへ来てるみたいです?」
「そりゃあここは領主邸だからねえ、攻撃目標の一つになってて当然さ」
冷や汗を流しながらギーシュが答える。
「領、領主さまはどちらに?」
「さっき世界樹のほうへ行ってたよ、不幸中の幸いだね。
ま、あちらも攻撃を受けるだろうがここよりはましだ」
「そんな?!
みなさん、とりあえずお屋敷の中へ、、」
駆け出そうとするシエスタの腕をモンモランシーが掴む。
「ダメ、シエスタ。
火竜の火を射掛けられればかえって危険だわ」
「ああ、そうだな。
シエスタ、見つからないよう塀の陰に隠れて居るんだ。
モンモランシー、ケティ、君たちもだ。
ケティ、いざって時は君の「火」で二人を守ってくれ、頼んだよ」
「は、はいっ。 わかりました、ギーシュさま!」
ケティが真剣な面持ちで頷く。
「君たちもだっ、てギーシュ!
あなた何をするつもりなの?」
モンモランシーの問いにギーシュは空を見すえたまま、静かに杖を抜く。
「僕らはルイズを送り出すために、なんとか隙を作らなくちゃあならない。
君は僕らの中で唯一の癒し手(ヒーラー)だ。
君が文字通り僕らの生命線だ」
「そそそ、そうとも、怪我を治してくれる君が先に怪我をしたら、
ここ、こっちが困るじゃないか」
カチカチと歯を鳴らしつつ、マリコルヌも強張った笑みで杖を抜く。
「あら〜、男じゃないのマリコルヌ。 惚れちゃいそ」
キュルケがマリコルヌへ流し目を送りつつ杖を掲げる。
ギーシュがルイズを振り返る。
「すまない、ルイズ。
君の力も必要かもしれない。
君のその「とっておき」を使う余力を取っておくとして、
他にどのくらいの魔法までなら使える?」
「え? ああ、そうね」
既に杖を抜いていたルイズが突然の質問に考え込む。
「ええと、何と言ったらいいか、『虚無』の魔法は特別なの。
普通の魔法を使うのとは別の「力」を使うのよ。
だから、使えるだけの魔法を使ってもそのあとで
『虚無』を使う事は出来る、、と、思う」
「ほほう、そりゃ便利だ」
言いながらギーシュが杖を振るうと、大きなタワーシールドと
投槍を構えた青銅の戦乙女(ワルキューレ)達が地面から立ち現れた。
上空では既に戦闘が始まっていた。
地上からの援護はあったが、それでも数と練度の違いは埋めがたく
防衛線はじりじりと押されつつある。
領主邸上空で戦っていた集団のうち、数騎のトリステイン竜騎兵が
翼を燃やされきりきりと落下していく。
均衡が破れ、六騎ほどのアルビオン竜騎兵がラ・ロシェール領主邸に
向かって一斉に降下を始めた。
「きき、来たわ!
ギーシュ、どうすんの?!」
「ルイズ、一昨日の学院での練習を思い出すんだ。
フライ(飛行)の魔法を使ってくれ」
「そ、そんなんでどうなるってのよ!」
「良いから。
ただし、僕らにじゃあなく、彼らにだ」
ギーシュがこちらに向かって来る竜騎兵を杖で指し示す。
「わ、判ったわ」
ルイズが息を吐き、杖を構える。
「、、まだだ」
竜騎兵は大きく弧を描き、渦を巻くように領主邸を囲む。
「まだ引き付けて」
一騎が強く羽ばたき、残る竜騎兵もそれに続く。
「左手は添えるだけ。」
タバサがルイズの杖に手を添える。
迫り来る竜騎兵達が炎の息を浴びせようと首を反らせたその瞬間。
「今!」
「イル・フル・デラ・ソル・ウィンデ!」
ルイズの暴力的な威力のフライ(飛行)が竜騎兵を襲った。
今まさに殺到しようとしていた竜騎兵達が一瞬にしてバランスを崩し、
あるものは体勢を立て直そうとして屋敷や地面に激突し、
あるものは急浮上を制御できず空中で味方同士で衝突し、
あるものは騎士を振り落としそのまま空中で貼り付けにされる。
揚力と重力の均衡は破れ、火竜達は陸に上がった魚の様にもがいた。
「あぶない!」
その内の一騎が苦し紛れに炎の息を吹きかけてくるが、
ワルキューレのタワーシールドに受け流される。
「今だ、みんな!」
ギーシュの号令と共に、空中で身動きの取れない竜騎兵達に
魔法と投槍とが一斉に射掛けられた。
「やや、やったか?!」
初めての実戦にマリコルヌの声が上ずる。
「上出来だ。
ルイズ、タバサ、上空に敵は居ない。
今のうちに行くんだ」
頷きシルフィードに乗ろうとしたルイズを、突然に<空気の塊>が襲う。
割って入った一体のワルキューレが吹き飛ばされ、塀に激突した。
「そんなに急がなくっても良いじゃあないのさ」
その声に皆が屋敷の屋根を見上げる。
そこにはローブをまとった緑髪のメイジの姿があった。
「あんたは、フーケ!」
「お久しぶりねえ、おチビちゃんたち。
こんな所で再会できるとは、来た甲斐があったってもんさ。
せっかく会えたんだ、もうちょっと遊んでいきなさいよ」
フーケが杖を振るうと庭土がゴリゴリと音を立て盛り上がっていく。
「さて、いつぞやの借りを返させてもらうとするかね」
「いやいや、感謝するよフーケ。
こんな男冥利に尽きる台詞を言える機会が来るとはねえ」
やけに芝居がかったしぐさで髪をかき上げ、ギーシュが杖をかざす。
「ルイズ、ここは任せて先へ行け!」
「お、おい、ずるいぞギーシュ!
僕が言おうと思っていたのに」
「はっ、そんなおチビちゃん一人戦場に送り出したところで
何がどうなるってんだい?
まったくこれだからガキは嫌いだよ」
完成した巨大な土くれのゴーレムにフーケがひらりと飛び移る。
「ルイズ!」
シルフィードの上のルイズへキュルケが呼びかける。
一心不乱の支援を
「感謝しなさいよ?
お姫様を守るなんてオイシイ役回りを譲ってあげるんだから」
命をかけた場面でも変わらぬキュルケの物言いに、思わず心が和らぐ。
「はいはい、帰ったらいーっぱいキスしてあげるわよ」
ルイズがキュルケに投げキッスを送ると、シルフィードは
二度、三度と大きく羽ばたき空へ舞い上がっていった。
キュルケは流れ出る鼻血をぐいっとぬぐい、フーケに向き直る。
「さあ、やあっってやろうじゃないの!!」
。。
゚○゚
シュレディンガーは夢を見ていた。
仲間と共に地獄を駆けた遠い遠い昔の夢を。
自分はいつからこの世界にいたのか。
思い出を手繰っても思い出せない。
最も古い記憶は、常に彼らと共にあった。
最古参の新兵にして無敵の敗残兵、
『最期の大隊』<ラストバタリオン>
しかし、彼らの中にあっても自分だけは
特別な、特異な、ただ一人の存在だった。
それで良いと思っていた。
それが当たり前だと思っていた。
あの時までは。
あの桃髪の少女に出会うまでは。
意識がゆっくりと覚醒していく。
ぱたぱたと耳を払い、一つ大きく伸びをして、
懐かしく体を包む甘やかな香りをゆっくりと吸い込む。
鉄の匂い。 油の匂い。 火薬の匂い。 血の匂い。
『豹の巣』<パンテルシャンツェ>
アーカードとアルビオンのハヴィランド宮殿で別れた後、
シュレディンガーは行く当てもなく世界中を彷徨い、
気付けばここに居た。
ジャブローの密林奥深くに隠された、我らが夢の棲家。
そして我らが夢のあと。
「らしくないなあ」
頭をぼりぼりとかき、起き出して足の向くままに歩き回る。
格納庫を離れ兵舎へ。
蜘蛛の巣の様に張り巡らされた地下道を歩く。
食堂を通り過ぎて武器庫へ。
足の向くまま行く当てもなく、しかし行き着く先は判っていた。
長い廊下の突き当たり、鉤十字の旗が掲げられた部屋の中。
机の上に置かれた鉤十字の腕章に手を触れる。
全てが古びた部屋の中で、それだけが場違いに新しい。
決別したはずの、過去の象徴。
シュレディンガーはそれを静かに手に取った。
「ちょっとだけなら良いよね、少佐」
。。
゚○゚
支援ありがとうございました、
以上でAパート終了です。
分量的にABCのパートに分けて
それぞれ20レスづつくらい投下の予定です。
では、近日中にBパート投下いたします。
皆様良いクリスマスを。
お疲れ様っしたぁ、続き楽しみに待ってます
139 :
人情紙風船:2010/12/25(土) 15:23:49 ID:???
おおシュレが還ってきた
お待ちしてました、投稿乙です
続き待ってます
ところで人情紙吹雪10話もう少しお待ちください
ヤン坊の↑↑↓↓←→←→無敵ガンダールヴチートコマンドを何処まで許すかで脳内葛藤が生じてまして
もう一噌突き抜けてしまおうかしら
人情紙風船さんお久しゅう御座います、シュレの人です
他の方の投下なければ8時半頃に
確率世界のヴァリエール 第十四話 後編 Bパート
投下させて頂きます
どうも、シュレの人です
確率世界のヴァリエール 第十四話 後編 Bパート
投下させて頂きます
「んでギーシュ、あんなこと言っちゃって
とっておきの魔法でもあるの?」
「いやいや、僕の魔法はもう打ち止め」
攻撃の手を止め肩で息をするキュルケに向かい、ギーシュは
全ての花びらが散り落ちた杖をヒラヒラと振ってみせる。
「さあてそろそろ」
狂喜に歪んだフーケの声が響く。
甲高い金属音を立てて、二人の足元に最後のワルキューレが
バラバラになって叩きつけられる。
「死んでもらっちゃおうかねえ!」
「んじゃどーすんの?」
キュルケが引きつり笑いでフーケのゴーレムを見上げる。
「なになに、仕込みは上々さ。
後はキュルケ、あのゴーレムの
足の一本でももいでくれる?」
「簡単に言ってくれちゃってまあ」
「出来ないの?」
「冗〜談」
「なに話し込んでるんだよ二人とも!
こっちもそろそろ打ち止めだ!」
「わ〜かってるって!」
マリコルヌが目くらましのエア・ハンマーを打ち出すと同時に、
キュルケはモンモランシーと一緒に身を潜めていた
自身の使い魔フレイムの元に駆け寄る。
「フレイム。 アナタの「火」、ちょっと借りるわよ」
そう言いながらキュルケはフレイムの首を引き寄せる。
「使い魔の力を借りるってのはねぇ、
何もルイズの専売特許じゃあ無いのよ」
呪文を唱え掲げた杖の先に火を灯しつつ、自らの使い魔に口付ける。
そのとたん、杖を持ったキュルケの腕が燃え上がる。
その炎が束ねられ、杖先の火球が猛烈な勢いで膨れ上がっていく。
「一人一人では単なる火でも、
二人合わされば炎となるわ!
行くわよ、『フレイム』ボーールッ!!」
ゴゥンッッ!!
直径1メイルを超える大火球がゴーレムの足元で炸裂する。
「やったっ!」
爆音が静まり舞い上がった土煙が晴れていくと、
巨大なゴーレムは両膝から下を吹き飛ばされていた。
「喜んでいるところ悪いんだけどねえ」
ゴーレムの足が周りの土を吸い上げ見る間に再生されていく。
「この程度、どうって事ぁ無いんだよ!」
ゴーレムがゆっくりと立ち上がり、拳を振り上げる。
「さあ〜、もう許さない!
さあ〜、誰も助からない!
さあ〜、さっさと死んじまえ!!」
「いや、お前の負けだ。 土くれのフーケ」
ゴーレムの前に立ちはだかったギーシュが高らかに宣言する。
「ハン! なに負け惜しみを、、、?!」
言いかけたその時、不意に足元のゴーレムががくがくと揺れ始める。
「成程たいした再生力だ、大飯喰らいの王様だ」
ゴーレムのあちこちがミミズ腫れの様にぼこぼこと盛り上がる。
「その彼の最大の武器が、彼の最大の弱点でもある。
古今暴君は己の傲岸さ故に毒酒をあおる」
「何をした?!」
「何もかも」
魔力を使い果たした杖をくるくると回し、
芝居がかった様子でギーシュが語る。
「港町ラ・ロシェール。 此処は良い所だねえ。
僕は来るのは初めてなのだけれど、一緒に訪れた親友の一人が
奇遇にもこの町の出身だったようでねえ。
昨日は存分に旧友と親交を暖めたようだよ」
フーケの足元がぼこりと盛り上がり、そこから何かが跳びかかる。
「紹介しよう、僕の親友にして僕の毒」
「っぎゃーーっ?!」
「ヴェルダンデとその仲間達だ」
制御を失い崩れ落ちた土くれの小山の上で、気絶したフーケの身に着けた
宝石にモグモグと何匹ものジャイアントモールがたかっている。
腕を火傷したキュルケを手当てするモンモランシーの横で
ギーシュは空を仰ぎ見た。
(さあ、上手くやれよ、ルイズ)
†
ヤンにもっと弾けてほしいネ、シュレ支援
アンリエッタの艦隊はラ・ロシェールへと押されつつあった。
ボーウッドの陽動作戦は功を奏し、アンリエッタは竜騎兵の大半を
ラ・ロシェール防衛へ割り振らざるを得ず、防衛部隊が劣勢と
なった時のために陣をラ・ロシェールに近い位置まで引いていた。
その後退に付け込まれ、大きく陣形を崩しつつある。
「ソレイユ撃沈! ソレイユ撃沈!!」
「くっ、乗員の退避を助けろ!」 「救助いそげ!」
「各艦被害状況を報告せよ!」 「三番艦、応答ありません!」
「連絡を取りに行け、フライででもだ!」
伝令達が慌しく走り回る戦艦メルカトール号の上で、
艦隊司令官のラ・ラメーがアンリエッタの元へ駆け寄る。
「殿下、これ以上引けば流れ弾がラ・ロシェールに届きかねません!」
「解っています。
?! 提督!」
ごうっっ!!
後方から突然に炎のブレスを射掛けられる。
アンリエッタとラ・ラメーの周りに魔法障壁が張られるが、
風に流された炎を受けてメルカトール号のマストが燃え上がる。
「く、前方に気を取られすぎたか!
早くマストを消火しろ!」
メルカトール号の上空に、十騎ほどの竜騎兵が獲物を狙う様に弧を描く。
「敵竜騎兵、我が艦の上方! 再度来ます!」
「くそ、太陽に入られた!」
手をかざし敵を見上げる兵士達の目に、敵群に近づく新たな影が映る。
「何だあれは? 速過ぎる!」 「新手か!」
「いえ、あれは、、、」
ただ一人アンリエッタだけが、あり得ぬ速度で敵に近づく
その影が何であるかを理解した。
「あれは、シルフィード!!」
シルフィードは竜騎兵達を牽制するように敵陣を真一文字に
突っ切ると、そのまま急上昇して彼らのさらに上につける。
「ここでいいわ、タバサ」
「がんばってくるのね、ルイズ!」
シルフィードがきゅいきゅいと頭を寄せる。
「ふふ、ありがと、シルフィ。
じゃあ、征って来る!」
ルイズはそのまま眼下の竜騎兵達に向かい逆しまに身を躍らせる。
大きく息を吸い込む。
脳裏に浮かぶのは、幼い頃に寝物語に聞かされた母の武勇伝。
ルイズは目を見開くと、杖を掲げて声を限りに名乗りを上げた。
「我が名は『虚無の魔女』!!
我はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!!
我が主の敵を打ち倒しに 参 る ! ! 」
「『虚無の魔女』、だと?!」
メルカトール号に再度攻撃を加えようとしていた竜騎兵達が
空からたった一人で降りてくる桃髪の少女を見上げる。
「あれが『魔女』か、『虚無の魔女』か!」
「仕留めろ!」 「討ち取れば恩賞は思いのままだ!」
急降下するルイズに竜騎兵達が追いすがり、一騎が炎を吐きかける。
「なっ?!」
しかしその炎はルイズの髪を焦がす事すらなく<空気の壁>に阻まれた。
(まだだ)
親指を立てるルイズに、上空のタバサがサムアップを返す。
(まだ)
小さく息を吐き、杖を構え呪文を唱える。
眼下にトリステインの戦艦が近づく。
(左手は添えるだけ。)
タバサの言葉を思い出す。
「今!」
ルイズを追っていた竜騎兵達が見えない壁に叩きつけられたかの様に
急停止し、騎兵達は振り落とされ、あるいはそのまま宙吊りになる。
「あれは、レビテーション(浮遊)、いや、フライ(飛行)か?
しかしあれだけの数を一度に浮かせるとはまた、なんという、、、」
メルカトール号の上で呆然と見上げるアニエスの横で、艦長が叫ぶ。
「撃て撃て、撃ちもらすな! いまの奴らはただの的だ!
撃ちまくって『虚無の魔女』どのをお守りしろ!」
空中に釘付けになった火竜達がメルカトール号からの銃撃や魔法で
次々と射抜かれ、難を逃れた者も巻き添えを恐れて遠くに下がっていく。
メルカトール号の甲板上に慣れぬ浮遊魔法でおっかなびっくりと
降り立ったルイズに、アンリエッタが駆け寄った。
「ルイズ! どうしてここに?」
尋ねるアンリエッタにルイズはきっぱりと告げた。
「姫殿下、ここに居るのは殿下のお友達のルイズでは御座いません。
殿下の僕(しもべ)たる『虚無の魔女』で御座います」
「でも、貴女までが戦場に来ずとも、、!」
「いえ」
ルイズは懐から『始祖の祈祷書』を取り出す。
「殿下より賜りましたこの『虚無』の力、お捧げ致しますのは
此処を置いてより他には御座いません」
「そう、、、そう、なのですね」
アンリエッタは少し悲しげに目を伏せた後、毅然と向き直った。
「ではミス・ヴァリエール。
『虚無』たる貴殿のお力、お借りします」
「はい、殿下」
「いや、お見事な手前でしたな。
しかし噂の『虚無の魔女』殿がこんなに可愛らしいお方だったとは」
メルカトールの艦長が蓄えた髭をなでつつルイズに敬礼する。
「先ほどは有難うございました。 お名前は? ミスタ」
「フェヴィスと申します。 以後お見知り置きを、『虚無の魔女』殿」
「殿下、好機です!」
前方を指差すラ・ラメーの視線をアンリエッタが追う。
「奴らめよほど指揮官に恵まれていないと見える」
「まだ望みはあるようですね、提督。
敵戦列が伸びています! 小回りの利く分こちらが有利!
単独先行している敵艦を挫くのです!」
「はっ!」
ラ・ラメーが頷き、号令をかける。
「後退はここまでだ、各艦回頭!
突出している敵艦に集中砲火をかける!」
†
「何をやっている、一気にラ・ロシェールまで押し込まぬか!」
レコン・キスタ艦隊の中央、戦艦レキシントン号の上で
突然の反撃にクロムウェルはいらいらとした声を上げる。
支援を更なる支援を
「艦列が伸びた所を狙われたようですな。
先行している艦を戻せ、戦列を整えろ!」
指示を出すレキシントン号艦長ボーウッドをクロムウェルが睨む。
「なに、なぜ戻す? 一気に突き崩せば良いではないか!」
「閣下、戦はここで終わりではありませぬ。
おそらくは既にトリスタニアから援軍が来ておりましょう。
トリスタニアへ攻め上るにはそれらとも戦わねばなりません。
無理に力押しをして無用の損耗を出すのは上策ではありませぬ。
このままじりじりと押し込めるが宜しいかと」
ばりばりとクロムウェルが歯噛みする。
「くっ、、、
そもそもこれしきの追撃戦で戦列を乱すとは、
前線の、ええい、何と言うのだあの艦は!
艦長を呼んで来い!」
「は、後で調べさせましょう。
ご安心を、閣下。
もはや戦況は決しております」
「む? そ、そうか」
ボーウッドの言葉に多少の平静を取り戻し、席へ座ろうとした
クロムウェルの体を爆音と衝撃が揺さぶる。
「な、何だ? 何があった?」
慌てて後方を振り返ると、後衛の艦から火の手が上がっている。
「伏兵か?!」「いえ、それらしき影は何も!」
兵士達が騒然としている間にもじわじわと炎は艦を包み、二度三度と
爆発を繰り返してゆっくり高度を下げていく。
(まさか、まさかこれは) (いや、しかし、、、)
ざわめく兵士達の間を縫い、伝令がクロムウェルに走り寄る。
「前線の竜騎兵より報告!
敵旗艦上に、、、『虚無の魔女』が、現れたそうです!」
伝令がその名を口にした刹那、墜落していく艦の巻き添えを恐れ
退避していた隣接艦も、轟音と共に爆炎に包まれる。
「なっ、、、だ、と?」
山腹に落ちていく二隻の艦を見つめ放心するクロムウェルをよそに、
甲板上の兵士たちの間に見る間に恐怖が伝染していく。
「まさか、「アレ」は人の乗る船は襲わないという話じゃ?!」
「馬鹿を言え、他に何がある!」 「し、しかし!」
「『魔女』だ!」 「『虚無の魔女』が出たぞ!!」
「くそう、敵艦上のは囮だ!」「ヤツをこの艦に入れるな!」
「入れるなだと?! 冗談じゃない、どうしろってんだ!!」
「静まれ! 静まらんか馬鹿者ども!
被害を報告! 伝令を出せ!
風石庫に兵を配置しろ!」
混乱する兵士達をいさめようとするボーウッドの後ろで
クロムウェルが懐から銃を抜き出す。
ぱんっっ。
乾いた音が響き、ううろたえていた兵の一人が
うめき声を上げ胸を押さえて倒れこむ。
「、、、ボーウッド、突撃だ」
クロムウェルが静かに告げる。
「なっ!
いえしかし、閣下?!」
「これでも落ち着いて座っておれとぬかすか?
全艦突撃、突撃だ!
我等の敵を根絶やしにせよ!
何をしているボーウッド、
信仰心があるならさっさとやれ!!」
支援
クロムウェルが怒鳴りながら拳をかざし、その指に嵌められた
『アンドバリの指輪』が紫の光を放つ。
ボーウッドの、居並ぶ兵士達の顔から表情が抜け落ちていく。
「見ておれ、『魔女』め、『魔女』め!!」
無言で自分へ敬礼する部下達を見もせず、クロムウェルは
狂気を孕んだ笑いを浮かべ、敵艦列を睨んだ。
†
「ぜ、全滅。
十二騎の竜騎兵が全滅?
三分もたたずにか。
め、眼鏡を掛けたたった一騎の美少女メイジに竜騎兵が十二騎も?
ええい、連邦軍の美少女メイジは化け物か。」
「お姉さま、さっきからシルフィの上でうるさいのね!」
ルイズ達が戦うその上空、敵竜騎兵達の間を猛スピードですり抜けながら
シルフィードがきゅいきゅいと迷惑げに頭の上を睨む。
「だいたい十二もやっつけてないのね。
シルフィたちまだ四っつしか落っことしてないのね!」
「四騎じゃない。」
タバサが前方の敵を杖で指し示す。
タバサが放ったアイス・ジャベリンを火竜のブレスが一息に溶かす。
すれ違いざまにタバサへとブレスを吹き掛けようと火竜が大きく
息を吸い込んだ、そのわずかな隙に。
シルフィードはあり得ぬ程の急加速で接敵し、180度ロールを行いつつ
敵の上方をすり抜ける。
天地逆の世界、触れ合わんばかりの距離で敵をかすめるその一瞬。
タバサは「眼下」の敵を「見上げ」ながら杖をかざし、ブレスでも防げぬ
回避も出来ぬゼロ距離から、敵兵にアイス・ジャベリンを叩き込む。
火竜から落ちていく騎兵を振り返りもせず、二人は空を翔けぬける。
「これで五騎。」
「なのねっ!!」
†
「くっ、いくらなんでも強引過ぎる!」
じりじりと一進一退を続けていた今までとうって変わり
被害を省みもせずに突進するレコン・キスタ艦隊の猛攻に
フェヴィスが声を上げる。
メルカトール号の上からでも、敵陣後方の数艦が突然に
爆発し墜落していく様子は見て取れた。
ラ・ラメーがレコン・キスタ艦隊を睨む。
「奴らめ先ほどのアレからどうも様子がおかしい。
敵竜騎兵も統制を欠いて闇雲に飛び回っておるし
敵艦も砲を避けもせず突っ込んできよる。
しかし、それにしても度が過ぎるというものだ!
殿下、いくらなんでもこれは防ぎようがありませぬぞ!」
「ですが提督!」
アンリエッタが言いかけたその時、砲撃の着弾音と振動がその体を叩いた。
「殿下!!」
吹き飛ばされかけたアンリエッタの体をアニエスが掴んで抱き止める。
「大丈夫でございますか?!」 「お怪我は?!」
「けほっ、わ、私は平気です。
それより、、、」
「右舷外装中破!」 「風石庫被弾! 風石庫被弾!」
「マストに火が移ったぞ、水メイジ!」
「早く火を消せ! 火薬庫に近い!!」
「艦長、風石庫と後尾マストをやられました!
まだ浮いては居られましょうが、このままでは追い付かれます!」
「そうか、、、」
報告を受けたフェヴィスがアンリエッタに向き直る。
「殿下、提督、お聞きの通りこの艦はもう持ちません。
退艦のご支度を!」
「そう、そうですか艦長、わかりました。
ルイズ、貴女も退艦の準備を」
「いえ」
「?! ルイズ?」
ルイズがアンリエッタの手を押し留め真っ直ぐに見つめる。
「私はこのフネを降ります。
しかし、姫殿下と一緒には参れません。
殿下、今こそ私の力を使う時なのです。
この『虚無』の力を」
「ルイズ!」
「私があの艦隊を引き止めます。
その為に此処へ来たのです」
「、、、できるの、ですか? そんな事が」
ルイズは『始祖の祈祷書』を腕に抱き、静かに頷く。
ゲッコーチョーゲッコーチョー支援
「ここではおそらく味方の艦を「巻き込んで」しまいます。
私が敵艦隊との間に入りますので、その間に
殿下は他の艦に移り、全速力で後ろに退いて下さい」
「そんな! 危険すぎます!」
アンリエッタが思わず叫ぶ。
「そういう事なら」
フェヴィスがルイズの横に進みでる。
「私もお供いたしましょう。
艦と命運を共にするのが艦長の務めなのでしょうが、
ここに居るよりは魔女殿と一緒のほうが少しはお役に
立てそうですんでな」
フェヴィスが髭を撫でつつルイズに微笑む。
「ズルいですなあ、艦長」
他の乗員達も杖を掲げルイズの前に進み出る。
「そんな格好の良い役回りを艦長だけに
お譲りする訳には参りませんね」
「ふん、困った部下を持ったものだ。
上官を立てるということをまるで知らん」
「そりゃ、上官が上官ですしな!」 「違いない!」
フェヴィスが乗員達と笑いあう。
「という訳です、提督。 姫殿下をお願い致しますぞ」
「心得た、艦長。 魔女殿を頼む」
ラ・ラメーとフェヴィスが互いに敬礼を交わす。
「艦長、、皆さんも、、、」
ルイズは皆を見回した後、アンリエッタへ視線を向ける。
アンリエッタは伏せていた顔を上げた。
「わかりました、ルイズ」
静かに答え、ルイズを見つめ返す。
「命令です。
必ず生きて戻りなさい。
必ずです、ルイズ」
「はい。
仰せのままに、アンリエッタ様」
ルイズは一礼すると艦首へ走り、そのまま空へと身を投げた。
フライ(飛行)の魔法を唱えると、敵艦隊の進路上にある
小高い丘の上を目指す。
「艦長、『虚無』の魔法には長い詠唱が必要です。
それまでどうか時間を稼いでください」
フェヴィスが笑って頷く。
「心得た、ミス・ヴァリエール。
皆、『虚無の魔女』殿は我らが艦を守り戦ってくれた。
今度は我らが彼女を守る番だ。
死なせたとあっては貴族の名折れだ、地獄行きだぞ!」
響く鬨の声と掲げられた杖がそれに応えた。
†
靴の中に入った血ががっぽがっぽと音を立てる。
「あっれ〜、ここって前も通ったっけ?」
廊下の先に転がる死体の山を見てシュレディンガーが小首をかしげる。
手にはMP40“シュマイザー”短機関銃を構え、腰にM24型柄付手榴弾を下げ、
背中にいくつもの武器を背負ってよたよたと歩く。
「このフネには前にも来たんだけどなあ、
どこだったっけ、フーセキ庫」
とすっ。
来た道を振り返ったシュレディンガーの胸を長剣が貫く。
「え?」
きょとんとした顔の乗ったその首を、もう一振りの剣がなぎ払う。
「やった、やった!」 「やっと仕留めたぞ!」
「くそう、死ね、死ね! 畜生め!!」
物陰に隠れていた兵士達が一斉に飛び出して、頭をはねられ倒れた
シュレディンガーの体を何度も何度も刺突する。
「ひっどいなあー」
のんきな声に恐慌状態だった兵士達の動きが止まる。
そこにあったはずの死体が消え去り、剣が床に突き刺さる。
ゆっくりと声のほうへ目をやると、今まで自分達が殺していた筈の
猫耳の亜人が呆れ顔で立っていた。
「もう死んでるってのにさー」
「ひ、ひいっ?!」
シュレディンガーの手の中でシュマイザーが金切り声を上げ、
反動で照準も定まらないまま辺り一面に無差別な死を撒き散らす。
「ありゃ、弾切れ? んじゃ」
マガジンの空になった銃を投げ捨てると、背負っていた無反動砲を構え
いかめしげに眉をきりりと引き上げた。
「パンツァーファウスト、パンツァーファウスト!
ファイエルン!!」
降り注ぐ肉片と爆風の中、シュレディンガーが血溜まりから立ち上がる。
「ありゃ、最後の一個だっけ? まーいっか、コレもあるし」
そう言うとシュレディンガーは腰に下げた柄付手榴弾を確認し、
背中のハーネル突撃銃を構えた。
†
クロムウェルは瓦礫の中で意識を取り戻した。
体中が軋み上がり、腹腔が焼けるように熱い。
腹から木材が顔を出し、左手はねじれ明後日を向いている。
額の血をぬぐい、ゆっくりと身を起こして辺りを見回す。
「だ、誰か居らぬか、、、」
周りに散らばった兵たちの死体がその声に応える事は無い。
かろうじてレキシントン号は浮かんでいるようだが
そこらじゅうから黒煙が上がり、生きている者も見当たらない。
クロムウェルは何が起きたのかを思い出そうとするが
耳鳴りと頭痛がそれを遮る。
だが、何が起きたかは判り切っている。
後方の艦を爆発させ沈めて回っていたあの「アレ」が、
このフネにもやって来たのだ。
足元の船室から銃声と剣戟が響き、叫び声が上がる。
爆発が起こり、船が傾く。
クロムウェルはよたよたとよろけて壁に肩を付き、
そこにあった窓から船外の様子が目に入った。
自軍と敵艦隊とは今だ戦闘が続いているようだった。
その、両陣営の中央。
地上の小高い丘の上に。
「あれは、、あれは、何だ、、、」
黒い球体が、浮いている。
いや、球体なのか?
紫電をまといゆっくりと膨張していくそれは、
光すらも反射せず周囲の景色を飲み込んでいく。
そこを見た時にだけ盲いたかの様に感じる、暗く黒い円。
戦場交響曲支援
まるで、世界に空いた「穴」だ。
その「穴」に近づいた竜騎兵が一騎、吸い込まれ消える。
まるで初めから、『虚無』そのものででもあったかのように。
あり得ぬ光景の衝撃にクロムウェルの視線が彷徨い、
その先に少女の姿を見つける。
朦朧とする思考と視界、視認出来る筈もない遥か彼方の丘の上、
しかしクロムウェルはそれが彼女だと即座に認識した。
膨らみ続ける「穴」の下で、杖をかざすその姿を。
もはや全ては終わりだ。
「世界を救う」夢は潰えた。
この命ももう長くは持つまい。
だが。
だが、お前だけは許せるものか。
お前だけは、生かしておけるものか。
お前が「世界」を狂わせた。
クロムウェルの指に嵌められた『アンドバリの指輪』が
静かに輝き、辺りを照らす。
その輝きに応えるように、物言わず転がっていた兵達が
操り人形のようにのろのろと立ち上がる。
クロムウェルは死者の如くに足を引きずりゆっくりと、
死者の群れを引き連れて廃墟と化した艦の中を進んでいく。
大砲の並ぶ砲甲板へと向かって。
†
「性懲りも無くまた来たか、
うっとおしい火(か)トンボどもめ!」
「守れ、魔女殿を守れ!」
「弾幕を張れ、近づけるな!」
「トーチカが崩れそうだ!
錬金と固定化をかけ直せ!!」
「砲撃、六時から来るぞ!
風だ、風で逸らせ!!」
竜騎兵が頭上をかすめ、砲の着弾で土柱が上がる。
自分を守り戦うフェヴィス達の声が遠く聞こえる。
初めて虚無の魔法を使った、あの時の様な絶望への陶酔はなく。
ルイズの心は驚くほどに澄み切っていた。
『始祖の祈祷書』はあるが、心を繋げる為の『水のルビー』は無い。
それでもあの時のたった一度きりの詠唱で、そのスペルは
ルイズの頭の中に刻み込まれていた。
虚無の呪文の初歩の初歩の初歩。
『バニッシュメント(追放)』
『虚無の地平』への門が、ルイズの頭上で静かに開いていく。
―――エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ―――
世界が、たった一人の少女に怯えている。
黄金律が、悲鳴を上げて捻じ曲がる。
ルイズの体があの時のように透き通っていく。
違う世界の自分に出会った、あの時のように。
世界が、あまりに膨大な虚無の力を拒んでいる。
世界に拒まれ、運命に追い立てられたものが
世界を否定し、運命を踏破するための、力。
(姫さま、最後の最後にウソを吐いて御免なさい。
でも、わかってくれるよね。
さよなら、アンリエッタ)
これこそが、『虚無』の力。
―――オス・スーヌウリュ・ル・ラド―――
ルイズの命が、細く細くほどけてゆく。
ルイズの存在が、細く細くほどけてゆく。
ギーシュに語った虚無の力の根源。
通常の魔法とは異なる力を根源とする
虚無の魔法の禁忌たる由縁。
単純な事だ。
火の系統のメイジは火の力を操る。
水の系統のメイジは水の力を操る。
風は風を。 土は土を。 ならば。
虚無のメイジは虚無を操る。
虚無とはこの世に在らぬ事。
虚無とは存在しえぬ事。
虚無の力の根源は、術者が「存在する事」そのものなのだ。
己が「ここ」に存在する事実それ自体をすり減らし、
削り取り、そして力へと変換する。
魔術の理法を外れた外道の法理。
(ワルド、あなたは今天国に居るの? それとも地獄?
もう一度会って文句の一つも言いたかったけれど、
私はどっちにも行けそうに無いや)
これこそが、『虚無』の理(ことわり)。
―――ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシュラ―――
今ならワルドの気持ちがわかる。
彼は「世界」を掴むため、力を欲したのだ。
ありのままの自分が居ても良い世界。
自分が存在する事を許される世界。
かつてルイズも力を欲した。
それは切望であり、熱望であり、渇望だった。
だがその力を手にした今、理解する。
私が本当に欲しかったのは力そのものではなく、
自分がここにいても良い理由、いても良い世界だったのだと。
その為に、自分がこの世界に在る為に力が必要だったのだ。
そして、今の自分にはそれがある。
皆の笑顔を思い返す。
自分を受け入れてくれる、小さな、けれど暖かな「世界」。
運命を変えられるなんて思わない。
世界を救えるなんて思わない。
でも。
私のこの小さな「世界」だけは。
この「世界」だけは!
支援
髪の毛も 指も 思い出も 骨も。
私の全てをくれてやる そのかわり。
私の大切なものを これ以上何一つだってやるもんか。
運命(あんた)なんかに もう一かけらだってやるもんか!!
ルイズの体が虚無と解け合う。
ルイズの存在そのものが、虚無となっていく。
(シュレディンガー、どこかで見てる?
バカなご主人様で御免ね)
そしてこれこそが、『虚無』の担い手。
―――ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル ―――
ルイズの頭上に空いた穴は既に100メイルを優に超え、
有象無象の区別無く、全てを飲み込み始めていた。
天頂に輝く太陽を二つの月がゆっくりと覆い隠す。
「食」が、始まろうとしていた。
世界は光を失ってゆき、虚無へと通じるその穴の輪郭が
徐々に滲み、ゆがみ、ぼやけて爆発的に膨れ上がっていく。
円の淵からあふれ出した虚無が、狂ったように空を覆っていく。
『虚無』が、運命を、世界を、侵食し始めた。
。。
゚○゚
「やったね、ルイズ」
幾筋もの黒煙を立ち上らせるレキシントン号のマストの上。
シュレディンガーは迫り来る虚無への穴を満足げに見つめ、
優しく微笑みつぶやいた。
(おめでとう、ボクのご主人様)
†
「あれが、『虚無』の力、、、」
ラ・ロシェール駐留艦隊の中央、戦艦イーグル号の上。
アンリエッタは敵艦隊を飲み込んでいくその異形の力を
固唾を呑んで見守り、ただ祈った。
(さっきの声は、まさか、、、?
ルイズ、ルイズ、無事でいて!
始祖ブリミルよ、その末裔に何とぞご加護を、、、)
†
「、、、冗談でしょ」
ラ・ロシェール領主邸の庭先。
敵も味方ももはや戦っているものなど無く、遠くに見える
その信じがたい光景にただ目を奪われている。
世界の終わりのようなその光景に身を震わせるシエスタを
キュルケは優しく抱き寄せる。
(ふふ、なんて馬鹿馬鹿しい力なんだこと。
いいぞ、やっちゃえ、泣き虫ルイズ)
†
「制御不能! 制御不能!!」
レコン・キスタの戦艦同士が空中で衝突し、しかし
墜落する事も許されぬまま穴の中へと飲み込まれていく。
魔法も使えぬ一般兵が叫び声を上げ船から身を投げ出すが、
その体は宙に浮き、ゆっくりと虚無の穴へと引きずられていく。
もやのように漂い混じる虚無の境界面が、意思在るものの様に
兵士の体を包み込み、その悲鳴ごととぷりと飲み込む。
「あの下にいるはずだ! 『魔女』だ、『魔女』を狙え!」
地上に向かって何発もの砲弾が打ち出されるが、
その全てが虚無の穴の引力によって軌道を逸らされ、
あるいは穴の中に吸い込まれる。
「ちくしょう、魔女め、魔女め!
『虚無の魔女』め!!
お前は、お前は一体なんなんだ!!」
†
(これが、あのお嬢ちゃんの魔法だってのか)
虚無の穴の真下。
砲撃に吹き飛ばされて地面に倒れたまま、
フェヴィスは空を覆う虚無の力を見上げていた。
部下達はすべて倒れ、自分ももう長くは持つまい。
だが、彼は笑っていた。
(生きながらえて祖国の滅ぶ姿を見るよりはと思っていたが、
なんてこった。 ははは、神かけて、なんてこった!
こんな死にぞこないの命を懸けた甲斐があったってもんだ)
満足げな笑みを浮かべると、フェヴィスは
ゆっくりとその目を閉じた。
†
「そうだ、世界を救うのだ」
広がりゆく虚無の力に捕らわれ傾いたレキシントン号、砲甲板。
物言わずのそのそと動き回る死人たちを率いて、
クロムウェルは火薬と砲弾をつめた砲を地上に向ける。
熱に焼かれて白く濁ったその目は、見えるはずの無い
桃髪の少女の姿だけをはっきりと捉え、ねじれ曲がって
動くはずの無いその腕で、狙いを定めた砲を支える。
「虚無よ、お前は『ここ』に在ってはならぬのだ」
レキシントン号が虚無の穴にゆっくりと飲まれ終えるその刹那。
轟音が響き、一発の砲弾が地上へ向けて放たれる。
その砲弾は虚無の穴の引力とこの世界の重力とに導かれ、
あり得ぬ軌道を描いて地面に到達した。
そして。
砲弾は土柱を高々と立ち上げて、
杖を掲げた少女の体をぼろきれの様に空に放り投げた。
。。
゚○゚
支援ありがとうございました。
以上でBパート終了です。
Cパートも年内とはいかないかもしれませんが
早めに投下できるかと思います。
それでは皆様、良い年末を。
お疲れさまでした
174 :
マロン名無しさん:2010/12/28(火) 15:02:35 ID:ZGQ+7lyo
乙です
どうも、シュレの人です
確率世界のヴァリエール 第十四話 後編 Cパート
10時過ぎくらいに投下させて頂きます
どうも、シュレの人です
確率世界のヴァリエール 第十四話 後編 Cパート
投下します
シュレディンガーは周りを見回した。
何も見えない。 目が開いているのかすら定かでない。
まるで突然に盲いたかの様な、明るくも暗くも無い灰色の世界。
そこに自分の輪郭だけがおぼろげに浮かんでいる。 否。
そう感じたものを見えていると思い込んでいるだけなのかもしれない。
宙に浮いているのか、どこかに立っているのか、それすら判らない。
光も無い。 闇も無い。 時間も距離も、天地すらも、無い。
指定座標の範囲外。 テクスチャの向こう側。 何処でも無い場所。
存在することを許されなかったものたちの逝き着く果て。
確率世界の箱の外、『虚無の地平』。
虚無の穴に吸い込まれ、「追放」されたものたちの逝き着く果て。
シュレディンガーは自分の隣に巨大な質量の塊を感じる。
レコン・キスタ旗艦、レキシントン号。
もはや黒煙をたなびかせる事も無く、ただここにある。
このフネはもう、生きる事も死ぬ事も無く、ただここに在り続ける。
周囲に意識を凝らす。
「近く」に、レキシントン号以外にも様々な存在を感じる。
この「近さ」は、無論距離ではあり得ない。
ここに来た時間の「近さ」、でもない。
しいて言えば、物と物との関係性の近さか。
だがそれもじきに意味を失う。
ハルケギニア世界に開いた穴は、もうおそらく閉じていた。
しかしその穴は閉じるまでに多くのものをここに「追放」していた。
彼らはレキシントン号と同様、生きても居らず、死んでも居ない。
ただ延々と、ただ永遠と、この世界を漂い続けるのだろう。
その彼らの中を彷徨い思う。
自分はいつから存在しているのか。
思い出を手繰っても思い出せない。
ただきっと、自分はここで生まれたのだろう。
この『虚無の地平』で。
そして彼に、「少佐」に導かれこの姿形を得た。
彼に「シュレディンガー」として定義付けられた。
唯一つの目的のために。
あの吸血鬼を打ち倒すためだけに。
そして目的を果たし、そして目的を失い。
それでもまだ「シュレディンガー」として存在している。
それが自己観測するシュレディンガーの猫。 自分という存在。
この世界にも、どの世界にも、自分と同じ存在なんて居なかった。
世界で、世界中で、そして世界の外で、たった一つの存在。
それで良いと思っていた。
それが当たり前だと思っていた。
あの桃髪の少女に会うまでは。
「ルイズ、、、」
小さくつぶやく。
自分以外の全てが同じ色をした世界の中で。
でも、彼女だけが違って見えた。
「少佐」も、「大尉」も、あの「吸血鬼」も。
深く関わり、それでも自分と彼らとは違っていた。
でも、彼女だけは。
その時。
不意に、彼方に灯りがともる。
光も闇も無い筈のこの世界で、光と闇とが分かたれていく。
空間が定義付けられ、距離が生まれる。
時間がシュレディンガーの中を流れ始める。
「あれは、、、」
全てが灰色の世界で、シュレディンガーの体だけが色付いていく。
全てが意味を失う世界で、彼だけに存在する意味が与えられる。
「、、、あの光は」
その光に呼応するように、シュレディンガーの右手が
ゆっくりと、柔らかく、しかし確かに脈打ち光をまとう。
コントラクト・サーヴァントの契約の証。
ワルドに胸を貫かれ、首を撥ねられた時に
消えて失せた筈の、ヴィンダールヴのルーン。
主人と使い魔とを結ぶ、絆。
「ルイズ!」
もう一度、彼女の名を呼び。
シュレディンガーは彼方の光に向かって進んだ。
。。
゚○゚
虚無の穴は既に閉じ、
しかし空は今なお闇に包まれていた。
二つの月は太陽を静かに飲み込み、
最後の光のしずくさえ天空から消える。
勝者の凱歌も、敗者の怨嗟も無いままに
争う者の姿はもうここにはなかった。
その闇に包まれた世界から、赤黒いものがにじみ出て来る。
戦場に倒れた者達の魂が、命が、そして死が。
血の河が。
墜落し炎を上げる戦艦から。
潰れ果てたトーチカから。
焼かれ黒煙を昇らせる集落から。
積み重なった鎧の山から。
それらはこぼれ、束ねられ、幾筋もの血流となって
戦場の一点に集まっていく。
倒れた少女の下へと。
『死の河』が。
ゆっくりとうねり、集まっていく。
自らの主を迎え入れるために。
自らを存在せしめるために。
寄り集まった血の流れが幾重もの円を描いて少女を囲み、
這い伸びたその端が少女の体に触れようとしたその時。
その先端が、グシャリと折れて曲がり潰れた。
「彼女は、ボクのだ」
全てが闇に閉ざされた世界の中に、灯りがともる。
少女の体は光に包まれ、死の河が力を失い流れ散っていく。
その光の中には、少女と、少女の使い魔がいた。
シュレディンガーはしゃがみ込むと、主人の頬に
光をまとう右手で優しく触れた。
そこには、奇跡があった。
ルイズは、生きていた。
彼女を乗せた大輪の花のように、桃色の髪が地面に大きく広がる。
彫刻の様に美しく整ったその顔は透き通るように青白く、
煤と土ぼこりで汚れてはいたが、傷一つ付いていなかった。
破れ千切れまとわり付いて残骸と化した制服のすそからは
細くしなやかな右手が伸び、その手には今だ杖が握られていた。
その顔に宿った意思と、その手に握られた誇りと。
それがルイズに残された全てだった。
ルイズが、ゆっくりと目を開く。
その瞳がシュレディンガーを見つけ、
その唇が柔らかく微笑む。
(シュレ、わたし、やったわ)
「うん、見てた。 ずっと見てた」
その薄い胸が空気を吸い込む事はもはや無く、
その喉が鈴を振るような声を響かせる事も無い。
吐息の代わりに唇からは血のしずくが一筋あふれ、
しかし彼女の言葉は全てシュレディンガーに届いていた。
(わたしを守るって、言ったクセに)
言葉とはうらはらに、いたずらっぽく微笑むルイズに
シュレディンガーは全てを包むような優しい笑みを返す。
「守るよ。
ルイズはボクが守る。
いままでも。
これからも」
シュレディンガーがそっとルイズを拾い上げる。
ルイズはュレディンガーのいざなうままに
その唇にそっと手を触れた。
短く、激しいその生涯の最期にもう一度だけ、
ルイズは自身の使い魔に口付けたいと思った。
==============================
ルイズの頬を風が撫でる。
「ここ、は?」
とろけていた意識が覚醒していく。
ゆっくりと体を起こす。
、、、体?!
驚いて自分の体をまさぐる。
胸を触る、腹を触る、おしりを触る、足を触る。
体だけじゃない、来ている服にさえどこにも
傷一つ、汚れ一つ付いていない。
「気が付いた?」
「シュレ?! ここって、、」
周りを見回す。
まだ空は暗いままだ。
しかし場所はタルブでもラ・ロシェールでもない。
シュレディンガーと何度も訪れた学院の屋根の上だった。
「、、、もしかして、ここってあの世?」
「いや、ルイズは死んでないよ」
シュレディンガーがルイズの正面に座り込んだまま
静かに告げる。
「これがボクの本当の力。
本当の姿。
ボクはどこにでもいて、どこにもいない。
ボクがボクを認識する限り、どこにでもいれる。
たとえ、体を失ったとしても」
「そ、それってつまり、死なない、、って事?」
いや、死ねない、のか。
自分はさっき確かに死を体験した。
それは全てのものを支配する、唯一の理のはずだ。
過去の記憶の断片が脳内を巡る。
フーケのゴーレムと戦った時あの時にも。
シュレディンガーが単独任務から帰った時も。
消えるはずの無いルーンが消え失せていた。
キュルケの言葉を思い出す。
シュレディンガーを「死神」と呼んでいた事。
記憶のピースが音を立て繋がっていく。
全ての生者を支配する、唯一の理。
死があるからこそ、生がある。
そして、その逆も。
ならば、目の前の者は何者なのか。
そして、私も。
私は死んだのか?
死んではいないのか?
それとももう、死んでしまっているのか?
「怖い?」
「わっ!」
突然に差し出された手を反射的に避ける。
宙に浮いた手がびくりと固まる。
「あ、ごめ、、」
言いかけて、言葉を止める。
光の無い世界の中でも、ルイズには感じ取れた。
シュレディンガーは、怯えていた。
今までに一度も見せた事のない、
願うような、請うような、その眼差し。
どれだけの生と死を繰り返してきたのだろう。
この世界で、全ての世界でただ一人、
どれだけの孤独の中にいたのだろう。
不意に気付く。
あの時の私と、同じだ。
それが当たり前だと思っていた。
魔法を使えなかった、「ゼロ」と呼ばれ続けた日々。
しかし、初めて魔法が成功したあの時の喜びと。
その証である使い魔が眼前から消え失せた時の絶望と。
あの時の私と、同じなんだ。
シュレディンガーにとって私は、永い永い
孤独の中で出会った、ただ一つの証なんだ。
自分が一人きりではないという事の。
数多の世界の中でただ一人の、自分と等しい存在。
心が軋みを上げる。
シュレディンガーが消え失せたあの夜に感じた、
全てが崩れるような絶望、乾き切るような無力。
多分、シュレディンガーも今、それを感じている。
その感情の意味すらもわからずに。
死と生と、神と罰と背信と、そして永遠と無間。
様々な概念が頭をよぎるが、今のルイズにとっては
全てが愚にも付かないものでしかなかった。
支援!支援!支援!
ルイズは迷い無くその手を伸ばすと、
シュレディンガーが逃げようとするのも構わずに
その手を両手で握りしめ引き寄せる。
「シュレ!
こ、怖いかって聞かれれば
そりゃ、ビ、ビックリは、したけどね。
でも、もしアンタがどうしても
一緒に居て欲しいって言うんなら
そ、そうね。
一緒に居てあげない事もないわ、シュレ」
シュレディンガーは驚いたように目を丸め、
そして笑った、ぽろぽろと涙をこぼしながら。
「っはは、何ソレ! 変な言い方」
「い、良いでしょ! どうなのよ」
ルイズの手を握り返し、シュレディンガーは
涙をためた目で微笑み、静かに頷いた。
「うん。 一緒に居て、ルイズ」
日食は終わりを告げ。
天空から差しこぼれるダイヤモンドリングの光が
一つに重なった二人の影を照らし出した。
==============================
ラ・ロシェールの平原にも、陽光が再び戻っていく。
墜落した戦艦の残骸が黒煙を上げてくすぶるが、
もはやどこにも争っているものは居ない。
ルイズが居た丘の上、そこに一人の少女が立っていた。
純白のスーツに純白のコートを羽織り、同じく
純白の毛皮の帽子からは黒髪がこぼれる。
忌々しげに太陽を見上げ、諦めたように小さく哂う。
「まあいい。
今回はあ奴に譲ってやるとするか。
なに、機会はあるとも。
いくらでも、永遠に」
黒髪が蝙蝠の翼のように形を変える。
「さあて、遊びも飽いた。
ぼちぼち帰るとするか。
あの青髭の兄弟の元への」
。。
゚○゚
トリステインの南限、オルレアン湖岸。
湖からの湿った風が青い髪をなでていく。
遠く湖の向こうを眺める男に、ローブをまとった女性が影のように近づく。
その目は血のように赤い光を放っている。
「終わったか」
「はい。
下は、件の『虚無の魔女』がレコン・キスタ艦隊の
半数以上を沈め、残る兵も皆降伏した様です。
上は、シェフィールド様が全てを平らげてしまいましたわ」
「そうか」
赤い目をした女性が懐から布包みを出し、それを開く。
その中には二つの指輪があった。
始祖の秘宝、『風のルビー』と『水のルビー』。
男はそれを受け取り一瞥すると、それきり興味を無くした様に
それを無造作に羽織ったコートのポケットに突っ込む。
「お前の主人には何と報告するつもりだ?」
「ご兄弟でございましょう?
貴方様からお伝え下さいまし」
そう告げるとローブの女性は微笑んで影の中に溶けて消える。
(もうすこし「やればできる子」かとも思ったが。
ふん、クロムウェル、所詮はこの程度か)
眉を上げて薄く笑う。
(まあいい。
いずれあの浮島にはまだ異世界の異教徒たちがいる。
ロマリアの狂信者どもが、あの絶滅主義者どもが
主の消えたアルビオンを放っては置くまい。
どちらに転ぶにせよ、まだまだ楽しめそうだ)
雲の彼方、見えるはずの無い白の大陸に目を向ける。
空を眺めるその男の後ろが急に騒がしくなる。
「あっ、あっ、兄者ぁああ〜〜〜!!」
ズザザーッッ!
同じく青髪に青髭の男が息を切らしてやってくる。
肩にはマントを羽織り、頭上には王冠を頂いているが
肩で息をするその姿には威厳のかけらも無い。
「せっ、せっ、戦争はどーなった?!
私の可愛いシャルロットちゃんは無事か?!
くっそう、トリステインのジジイども、
こっちが丁寧に協力を申し出てやってるのに
返事も返さんとは、ナメてんのか?!
このまま攻め込んでって滅ぼしてやろうか!
お前も蝋人形にしてやろうか!!」
「落ち着きなさい、陛下。
シャルロット様はご無事です。
陛下は王女殿下の事となると途端に
分別がおなくなりになられる。
陛下がその様に軽率に振舞われては
民も安んじて居れませぬ」
「そ、そうか、無事か、無事ならいいんだ。
それにしてもジョゼフ、怒っているな!
兄上は怒ると口調がやたら丁寧になる」
頭を抱えため息を一つ吐くと、ジョゼフは弟へと向き直る。
「シャルル、私を「兄上」と呼ぶなと何度言ったら判る。
国に頭は二つも要らぬ。
私を簒奪者にでもするつもりか?」
「弟が兄を敬ってなにが悪い!
それに簒奪者になるくらいなら先王の指名を断らねば
良かっただけの話でしょうに。 始めて見たよ、あんな人間。
そんなにその「研究」とやらが大事なのか?」
「大事も小事も無い、俺に王は務まらぬ。
それだけの話だ」
シャルルがやれやれと頭を振る。
「全く兄上はあの使い魔が来てから変わってしまわれた。
兄上だけではない、シャルロットも変わってしまった」
「向こうでは偽名を使っているのだったな。
確か、バサラと言ったか?」
「何その超強そうな名前! 無双かよ!!
タバサだよタバサ!
そもそもはあれだ、あの兄上の使い魔が
可愛い子には旅をさせよだの
可愛い子には七尾旅人だのと言わなければ
こんなに気を揉む事もなかったのに」
愚痴を垂れるシャルルにジョゼフは深々と頭を下げて見せる。
「その通りで御座いますとも、陛下。
あまねく世界の厄災凶事は全て我が使い魔の仕業で御座います。
火竜山脈の火竜どもが暴れだしたのも
アルビオンが長々と続く内乱になったのも
レコン・キスタがトリステインに攻め入ったのも
全部ウチのシェフィールドが原因で御座いますとも」
ジョゼフの言葉にシャルルがあわてて弁明する。
「そ、そーは言ってないだろうに。 ヒドいな兄上。
そういえばそのシェフィールドはどうしてるんだ?
あの大蝙蝠、いや、黒猫、あー、黒トカゲだったか?
あの姿をコロコロと変える使い魔はまた「研究」とやらなのかい?
大体何の研究なんだ、少しくらいは教えてくれても良いだろうに」
「内容か」
ジョゼフは軽く笑い、空を見上げる。
「この世界の全てを手に入れる方法だ」
「はっはっは、そいつは素晴らしい。
手に入ったら半分くれ、ジョゼフ」
シャルルは快活に笑うと後ろを振り返る。
「では諸君、楽しい楽しいショーも
ひとまずお開きだ。
そろそろ帰ろうじゃないか、
愛しき我が家(リュティス)へ。
クラヴィル、全艦回頭用意だ、急げよ」
「はっ!」
ガリア国王シャルルはその頂いた王冠に相応しく
威風堂々たるしぐさで王都に向かって腕をかざした。
。。
゚○゚
「フェヴィス!」
衛生兵の運ぶ担架にアンリエッタが駆け寄る。
「良かった! 良くぞ無事で居てくれました」
涙ぐみながら包帯の巻かれたその手を取る。
「そんな、姫殿下。
私なんぞのために勿体無い」
上体を起こしフェヴィスが恐縮する。
ラ・ロシェールの平原。
レコン・キスタ残党の艦は全て地に下ろされ、
兵たちも武装を解かれそれぞれに集められている。
抵抗を試みるものは誰一人として居ない。
皆、自分たちの軍隊を滅ぼした、そして世界を滅ぼしかけた
虚無の力に抵抗する気力すら失っていた。
虚無の穴に近かった山肌が山林ごと丸く削り取られ地肌を晒し、
崩落の起こらぬよう、数十人の土メイジが処理に追われている。
レコン・キスタ艦隊の何隻かは全てが飲み込まれる前に
虚無の穴が閉じたため、艦の一部がこちら側に残されていた。
それらは全て墜落し、あちこちに残骸の山を築いていたが、
虚無の穴により削り取られた断面はつややかな光沢を放っている。
太陽は頂点からいくらか西に傾き、雲間から届く柔らかな午後の日差しが
平原に広がる戦いの名残りを照らし出す。
「何を勿体無がる事がある!
有難く頂戴しておけ」
聞き覚えのある声にフェヴィスは身を強張らせる。
「こ、これはマザリーニ枢機卿!
それに、オスマン殿も!」
「良い良い、怪我人が無理をせんでもよかろうて」
「面目ない事で。
それよりも枢機卿、虚無の魔女殿は、
ミス・ヴァリエールはどこです?
この勝利は彼女の力の賜物です。
ぜひとも一言礼を言わねば」
その言葉に、アンリエッタは物言わず目を伏せる。
そのしぐさにフェヴィスが動揺する。
「そんな、まさか」
「あの時に、私は聞いたのです、ルイズの声を」
諦観を帯びた目でアンリエッタが微笑む。
「別れを告げる彼女の声を」
「そんな!」
「兵を総動員して目下捜索しておるがな」
マザリーニが懐に手を入れる。
「見つかったのは、これだけだ」
『始祖の祈祷書』を取り出して見せた。
「ルイズーーーッ!!!」
キュルケの呼び声が響く。
制服も長く美しい赤髪も煤と煙に汚れ、地面を掘り返した土で
爪の間も真っ黒に汚れているが、それを気にする余裕も無い。
「どこにいるのー!!
でてらっしゃーーい!!!」
魔法の力を使い果たし、腕に負った火傷の痛みで今にも倒れそうな
その体を無理やりに引きずり、声の限りに叫ぶ。
その横には彼女の使い魔、フレイムが寄り添う。
フレイムの目を借り、瓦礫の中、土くれの中に人間の熱を探す。
そうして埋もれていた幾人かを助け出したが、そこに
目指す少女の姿は無かった。
キュルケが瓦礫の横にしゃがむ人影を見つけ、駆け寄る。
「ギーシュ!」
彼は地面から頭を出した彼の使い魔、ヴェルダンデに
頬を寄せ、懸命に何かを聞いているようだった。
「どう?!」
キュルケの問いかけに、ギーシュは静かに首を振る。
「彼の仲間達にも手伝ってもらっているが。
彼女の気配も、鼓動も、、」
キュルケが奥歯を食いしばり、その目にじわりと涙がにじむ。
力を失い、膝から落ちそうになった体が細い手に支えられる。
「駄目。」
短く力強い、絶望を許さぬ声。
「タバサ、、」
自分の体を支える小さな友人に、キュルケが詫びる様に応える。
その支えが急に消え、キュルケは地面にしりもちを付く。
「ちょ、タバサ?!」
抗議の声を上げるキュルケをタバサが片手で制す。
その顔は真っ直ぐに空へと向けられ、その耳は彼女にだけ聞こえる
彼女の使い魔の声を遠くに聞いていた。
喜びに震え叫ぶシルフィードの声を。
「あれ。」
タバサの指が空の彼方を指差す。
それにつられギーシュとキュルケも顔を上げる。
いつもは無表情なその顔に歓喜の笑みを浮かべ、タバサは叫んだ。
「あれ!!」
竜騎兵達が大きな弧を描き空を飛び回る。
それを目にした者達が我れ先にと集まってくる。
フェヴィス達が戦い抜いた、錬金で作られたトーチカの残骸。
ルイズが消えたその場所に。
ごうっっ。
音を立てて風が巻く。
走り寄っていた皆の足が空を蹴り、体が宙に浮く。
それを気にする者も無く、彼らの視線が上空の一点に集まる。
竜騎兵達が遠巻きに周りを回る、その中心に。
「ははっ、いやいや、何ともはや」
「ほんっとうに、人騒がせなんだから」
「照れちゃ駄目ですよ、お姉さまったら」
「良かった、ルイズさん、、、」
「おお、ルイズ! おーい!」
「魔女殿、それに使い魔殿も健在か」
「おお、シュレ坊や! シュレ坊や!」
「仲直りなのね、姉さま!」
「めでたし。」
「ふふ、やるじゃない、バカルイズったら」
見上げる皆の中央。
人々の輪の中に、二人が降り立つ。
その二人の前で、涙に目を潤ませ微笑むアンリエッタに
ルイズは片膝をつき、頭を垂れる。
「ご命令通り、ただいま戻って参りました」
「お帰りなさい、ルイズ」
ルイズは顔を上げ、アンリエッタに微笑みを返す。
「もう私はここに居ます。
もう私はどこにも居ないし
どこにでも居れる。
だからここに居ます。
私は私の意志でここに居るのです。
アンリエッタ様のおそばに。
これからも、ずっと」
「そう。 そうなのですね。
あなたもシュレディンガーさんと
同じになったのですね、ルイズ」
「はい」
優しく問うアンリエッタに、静かに応える。
「あらー、本当に同じねぇ」
シリアスなシーンを台無しにするなとでも言うように
睨みつけるルイズに、どこ吹く風とキュルケが笑顔を返す。
「ねえ、ギーシュ、タバサ。
使い魔お披露目式典の時みたいじゃない?
なーによ、ルイズ。
アンタさっきから真面目な顔して
カッコ良く決めてるつもりなんでしょうけど、
嬉しくてはしゃいじゃってるの丸分かりよ?
ピコピコ動いちゃってさー、
もうほーんと、可愛いったら!!」
クスクスと笑うキュルケの視線の行く先に気付き、
ルイズの顔がみるみる紅潮する。
「シュレ」
ルイズがシュレディンガーに向き直る。
「もしかして、、、生えてる?」
「うん。 にょっきり」
「おお、あれが魔女殿の例の「ツノ」か」
「本当だ、何とまあ可愛らしい」
「猫耳の使い魔殿とお揃いだな」
「何というか、、、来るものがあるな」
「『虚無の魔女』殿という呼び名もいささか硬苦しい。
どうだろう、『ネコミミの魔女』殿と呼んで差し上げては?」
「異議なし! 異議なし!」
「成程、ネコミミか!」
「『ネコミミの魔女』、万歳!!」
「万歳! 万歳!」 「ネコミミ万歳!!」
プルプルと羞恥に肩を震わせるルイズをよそに、
周囲のモブ兵たちが好き勝手に盛り上がる。
「それよりルイズちゃん、朝の約束、覚えてるわよね?」
目を閉じて鼻息荒く口づけを迫るキュルケに向かって
マリコルヌの髪を引っつかみ顔を押し付けると、
上がる悲鳴も気にせずにルイズはスカートをたくし上げ杖を抜く。
「シュレディンガー?」
ルイズが青筋を立てつつにこやかに振り向く。
「ちょ、ルルル、ルイズさん?
ボクのせいじゃなくない?!」
「いいえ、一から十まであなたのせいよ?」
満面の笑顔でエア・ハンマーのスペルを唱えると、
なぜか杖が青い稲妻を帯びてバチバチと強く輝く。
「ご主人様に恥をかかせる様な使い魔には、
きちんと躾をしなくちゃね」
にっこり。
「ぼ、暴力反対!」
後ずさるシュレディンガーの巻き添えを恐れ、
ギャラリーが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「ルイズ。」
「何?! タバサ!」
「左手は添えるだけ。」
力強く頷くと、杖を思い切り振りかぶる。
「こんの、バカ猫ーーっ!!」
午後の夏空に雷鳴が轟いた。
。。
゚○゚
確率世界のヴァリエール - Cats in a Box -
∧,,∧
(≧∇≦)ギャフン END
支援ありがとうございました
最後のAAがずれなくて良かった
以上で確率世界のヴァリエール「Cats in a Box編」終了です
ではまた
∧,,∧
(≧∇≦)ノシ
シュレの人さん乙でしたー。
燃える展開と時折交じるネタ成分が異様な魅力を放ってました。
独自設定が非常に上手く組み込まれていることにも驚きです。
こんなのを書いてみたいと思わされました。
ついでの連絡。
HELLOUISEですが、PCの電源が物理的にお亡くなりになったようで、更新がいつになるか分かりません。
とりあえず新しいPC買えるようになるか修理できるようになるまでは更新できないということに…orz
お待ちしていらっしゃる方々には申し訳ありません。とりあえずお金を稼ぎます。
見捨てないでいただけたら幸い。
シュレの人乙っした
HELLOUISEの人、頑張って稼いでください・・・
203 :
人情紙風船:2011/01/02(日) 12:42:35 ID:???
遅れましたがあけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします
そしてこれまた遅れましたがまとめて下さった方いつもありがとうございます
シュレさん乙でした
HELLOUISEさん・・・なんというか・・・お気の毒です・・・
一ファンとしてお待ちしてます
保守
おっと、あの作品の方に誤爆ってしまった
ので、改めて
確率の人、乙です
ho
207 :
マロン名無しさん:2011/02/22(火) 18:25:53.38 ID:3EnyfSvQ
age
巻末のアレ召喚しようよ。たぶん最強だぜ。
保守
ジョゼフの使い魔がドクだったら
設備の無さと少佐がいない世界ではやる気が起きない。
食材の不味さから覚醒、食生活向上の為に農業開発に奮起。
ドク=堆肥レベル食事を家畜の餌に向上させようをスローガンに農業指導に精を出す
シャルル=ドクの計画に乗ったジョゼフにより多数派工作がばれ、本音をぶちまけて自害
ジョゼフ=食事を堆肥から家畜の餌レベルに向上させる計画に乗る。どうせならと対象はハルケ全人類に拡大。
ドクの計画を遂行させる為に王権を得ようとして、結果的にシャルルを自害させたので、結果的に現在の封建を否定する事になろうと止まらない
タバサ=父を自害させた伯父が憎い、でもドク・ジョゼフ印の食品に手が伸びちゃう(ビクビク)
ほしゅ
保守
ho
保
鬱だ死のう状態の人間呼んだ場合
その後契約に持っていけるんだろうか
ウォルター 率直に聞く。
このスレはもうおしまいか?
初代HELLSING卿の苦難に比べればこの程度
じゃあネタ振りでも
英国本土でリップやらトランプマンが召還されたけど
あれが向こうの世界に呼ばれた場合
ルークみたいにアーカードの支配は切れて元の人格になるのかね
ラジコンの電波切れた時みたいに動かなくなると創造する
で、契約して支配権が上書きされたらアーカードの影響が消えて再起動
意識無い相手に契約すると
後で凄いこじれそうな不安が
まあそこを何とかするのが腕の見せ所だが
ロンドンに出てたアレは魂の入ってない操り人形みたいなもんじゃないの?
ルークはアーカードじゃなくわんちゃんに食われてただけだし
あるいは意思の無い死の河そのものを召喚して
片っ端から人間を飲み込みまくっていくというパニックホラーな展開に
ウィンクル中尉の弾頭ってヘルシング機関みたいに特別製なの?
ゼロ魔世界で調達した弾だと不都合がとかあるのかね
>>222 アーカードの支配がどの程度続くのかが分からんのが少しネックだな
死んだら解放されるのかどうか
でも神父に殺されかけたらもろともに焼けてたな
よく分からん
>>223 トバルカインのトランプ見たら何かの加工はされてそう
魔弾の能力にも関わるのかは知らない
例えばゼロ魔世界の弾丸だと操った時にしっくりこないとか
念能力です
伊達男は具現化系
リップは操作系
大尉は強化系
ゾーリンとシュレは特質系
>>219 インタビューから考えれば、
ルナ隊長よろしく全ての命に自我があってそれをアーカードが主人格で拘束制御してるらしいから、
完全に解き放たれて召喚された場合は理性があるかと、そもそも肉体を失ってることになるけどそこはなんか適当に
向こうの世界だとマスケットのお手入れできなくてリップ中尉発狂するんじゃ
持ってるやつと同じ規格の部品とか手に入らんだろうし
突拍子もない書き込みだけど
ウィンクル中尉って物凄く未成熟な部分もってそう
あの年齢で軍隊入ってそのままミレニアムで現代までだし
成長が阻害されてる的な意味で
終戦間際での召集っぽいしそもそも士官教育されたのかって疑問が
ヴェアヴォルフってどの程度吸血鬼の制約があるのかよく分からん
日傘持ってたりしたけどある程度は影響あるのかどうか
洗い物で流水使うのは大丈夫なんだろうか
海に落ちたら流石に即死しそうだが
保守
保守
233 :
人情紙風船:2011/05/22(日) 23:37:01.41 ID:???
139で俺はいったい何と言っていたか
「人情紙吹雪10話もう少しお待ちください」
もう少し・・・?
もう半年経ってるじゃないの・・・馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの
スレを維持してくれていた同志達に感謝と敬礼
大丈夫そうなら第10話の投下をさせて頂きたく存じ上げ候
待ってたよー
235 :
人情紙風船:2011/05/22(日) 23:40:07.29 ID:???
これ見てください。 壁! これ・・・見てよ!
ヒビですよ! これ全部!
脆そうだよね〜。 ゴーレムのワンパンで砕けるよ!
できるヨ!
チャンス到来だわ!
アレなら私でも行けるわ!
でも・・・取り敢えず本業の前に、ある程度の後始末はやっておいた方がいいわね・・・・・・。
それにしても・・・。
乾いた音を立てて風が吹き抜け、枯れ葉が虚しく舞い上がる。
死屍累々とは正にこの事。
殺人事件の現場と言われたら納得出来る。
いや。 やっぱ納得出来ない。 それ以上のナニかが起きたんでしょ? って言いたくなる。
ヤンの吊るされた死体?が風に揺られてゆらゆらしている。
「そ、そこらじゅうボロボロ・・・」
「ホントに・・・これは頭が痛いですわ・・・」
この後、シエスタとロングビル、及び上空にいたタバサにてルイズ、キュルケ、ヤンらを介抱。
ロングビルは被害状況を報告すると言ってそそくさと去っていった。
この血闘事件は生徒達の巷間をたちまち駆け巡った。
もともと曰く付きの両家の令嬢である。
いつかはやるに違いない、と思っていた生徒も多く暇な貴族の子弟達の格好の的であった。
だが皆の度肝を抜く本当の事件はこのすぐ後。
その夜に起きるのだった。
盗賊フーケの侵入である。
****************************************************************
その時、ヤンは寮の屋根に寝っ転がっていた。
頭の後ろで両手を組み、二つの月を見上げる。
ルイズと、そして意図的ではないもののヒートアップしたキュルケからの流れ弾等で燃えカスにされかけた彼であったが、
Sien!
シエスタの丁寧な治療と吸血鬼としての生命力。 そしてそれだけではない何かによって短時間で完治していた。
脅威の再生能力について現在、ヤンは左手・・・つまり自分の兄と会議の真っ最中。
「俺らには復元能力なんざ無かったのになー。 この速さはちょっとした再構築だよなー なーなーこれもガンダールヴの力なわけ?」
「そうだろうな ガンダールヴの力には武器を持った際の肉体強化と、武器を理解しその真価を引き摺り出す・・・という物がある。
どうやら徐々に吸血鬼の能力が高まっているようだな」
「武器ィ〜? でも俺様縛られてただけだゼ? デルフだってタバサの野郎が持ってたしな」
直後に欠伸をしヤル気のヤの字も見せない愚弟。
「忘れたのか・・・ 俺達の肉体はミレニアムに強化された人工吸血鬼・・・。 『何の為』に作られた吸血鬼だ?」
「・・・・・・何のタメってそりゃァ・・・ブッ殺すためだろー? 気に食わねー奴らをヨー ケはハはははハハ」
正解へと導いたつもりが、それでも答えに辿りつかない。
昔から変わらぬ、考えない脳ミソを持つ弟。
ルークは半ば、というよりは完全に呆れながら解答を示してやる。
「・・・・・・つまりそれが答えだ。 俺達は『兵器』なのさ。 あの人らに利用される為の・・・ノーライフキング『アーカード』を倒す為の布石・・・駒だ。
武器である肉体は強化され、そして肉体である武器の潜在能力は引き出される。 その相乗効果・・・といった所か。 飽く迄推測だがな」
弟からの、解答に対する返礼は再度の欠伸。
ルークにとっては実に見慣れた光景なので、今更頭にも来ない。
「そーゆーお難しいお話はさー もー俺わけわかんネーや。 ま、アレだろ? 強くなってんだよな? スゴク」
「そうだ」
「オッケーオッケー 俺はそれだけ分かってりゃ十分だっツーの 細けぇことは兄貴にまかせたわーー」
兄弟水入らずのぐだぐだの時間。
餌は見つからない。
敵は見つからない。
静かな夜。
今日もこれで終わってしまう。
ああ、終わってしまうのだろうな。 そう思われた時、異変は起きた。
空気を大いに揺らす轟音。
爆発ではない。
例えるなら戦車が民家に突っ込んだような。
とにかく重量のある物が何かに突っ込んだ音。
いくらかの修羅場をくぐり抜けているバレンタイン兄弟には一目瞭然であった。
つまりルイズではない。
ルイズの爆発ではここまでの轟音がこの魔法学院に響くことなど、今まで無かった。
ナニが起きた?
ナニかが起きた。
ナニかって何だ。
オモシロい事かもしんないね。
こりゃ行くしかないね。
そう思考を結んだヤンの動きは素早かった。
飛び起き、そして駆け出す。
久々に感じるきな臭いモノに、ヤンの貌は無邪気な子どものよう。
夜の闇を飛び跳ねて、直ぐ様騒音の発生源に辿り着く。
そこには蟻のようにケチらされた警備兵達と散乱する石片。
壁面には大穴。
そして足音を響かせ悠然と去ろうとする巨大なゴーレムの姿。
支援
この巨大な土塊が、どうやら大穴の犯人に違いない。
「おホッ 何だありゃ? おいおい デケー! モビルスーツかってぇの! 兄ちゃん見てアレ! アレも魔法かよ!?
ク、ククくははくクハッハハハハハハ!! 兄貴ィッ! あれさァ! すげーなアレ! デッケェ!! スゲェーッハハははは!
なーなーなァなァなァなァなァなァナぁ兄貴よォ!! いいだろ!? アレ殺っちゃっていいンだろ!? イイんだよなァ兄貴!!!?」
何時ぞやの食堂でのガキを嬲ってやったとき以来。
あの金髪のクソガキ以上に面白そうなオモチャ。
しかも自分でも実感できるのだ。
イギリスの時よりも、遥かに力を得ている実感が。
その感覚を得たヤンのボルテージは上がり続けていた。
そんな時に『アレ』である。
ヤン・バレンタインに暴れるなというのが、土台無理な話である。
「ああ 殺れ」
ルークの許可。
それが合図だった。
その一言の瞬間。
引き絞られた弓のようにしなったヤンの脚が屋根を蹴り、砕いて跳んでいた。
屋根と巨人までの距離は既に300メイル程に広がっていた。
だが、その距離を瞬きよりも短い時間で跳んできたヤンは、自身を矢として巨人の頭部に突っ込んでいった。
宝物庫の壁を砕いた時のような音をたててゴーレムの頭が吹き飛ぶ。
ゴーレムの肩に掴まっていたフーケに、突然散弾となって飛び散ってきた岩の欠片を避けられるはずもなかった。
「ぐぁっああぅ! ぐぅッ!!! な、何事だい!?」
散弾によって強かに体中を傷めつけられる。
先刻までゴーレムの頭部があった場所。
もうもうと立ち上る砂煙の中には双月の月光を背にした黒い男が立っていた。
「なッ!?」
金色の瞳を爛々と輝かせて。
眼と口をサディスティックに、心底愉快そうに歪ませて。
黒い男がフーケを見下ろしていた。
「なん・・・で!?」
ヤン・バレンタイン。
ゼロのルイズの使い魔。
血闘騒ぎで重傷を負っていたのに・・・。
なのに・・・。
何故・・・?
どうやってここへ?
どうやってゴーレムを破壊したの?
様々な疑問が脳裏を駆け巡る。 そして瞬時にアイツらの姿が思い出される。
ミレニアムの吸血鬼。
最後の大隊。
トボけていながらも恐るべき能力を有する存在達。
私の知る『夜を歩く者』達とは一線を画す、正しく人ではない化け物(ミディアン)。
きっと普段の彼らの、アノ滑稽な姿は本性ではない。
そう。
きっと本性は・・・。
今眼の前に居る、この男のような。
金色の瞳が妖しく真紅に輝く。
それは獲物をみつめる獣の目であった。
「ニィやハハはハははははハハ なんだよォ くハハは オモチャだけじゃなくてお食事付きですかァ? 僕チンツイてるぅー!」
「ヒッ・・・!」
猿った?
杖を振りかざし魔法を叩き込む。
たったそれだけの、今まで数え切れない程に繰り返してきた動作が出来なかった。
ハッキリと感じる死の恐怖に体が竦む。
男はゆっくり近づいてきて、そして。
「イッタダッキマァーース」
「い、いやッ! こ、来ない・・・ぐぁッ! あ、あ゛ぁアッあぁぁ・・・!」
牙が深々とフーケの喉に食い込んでいく。
皮膚を破いて肉を裂いて。
熱い。
大して永くもない人生の中では経験したことのない熱さ。
とてつもなく熱い。
体中を灼熱が駆け巡る。
食い破られる痛みを飲み込んで、遥かに巨大で圧倒的な熱がやってくる。
「―――んぁ」
眼の奥が白いヒカリに覆われてゆく。
「―――はっ―――あっっ あ゛ぁ」
ナニも見えなくなっていく。
「あああッ―――はぁ、ふぁあ、んあーーーー!」
喉に食いついている野獣以外が目に入らない。
「あぁ、あ゛んあぁ! あ!」
光に飲まれる。
「あぁぁぁあんァぁァあ、んはッ! あ゛ぁあ゛っ、あ゛っ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!」
肉を食われている。
血を吸われている。
痛いはずなのに。
なのに何故だろうか。
只々、熱い。 ずっと熱い。
支援
しえんだ
このマま溶ケてキエテしマいソウな程・・・。
男は女に夢中だった。
ひたすら無我夢中で貪っていた。
実に、実に久しぶりの感触。
喉を通りすぎていく熱い濃厚。
こんなに美味いものだったか。
血とは。 肉とは!
こんなにも美味だったか!!
余りにも旨かった。
余りにもエサに夢中になり過ぎていた。
ついついうっかり隙だらけ。
歩みを止めたゴーレムに学院の連中が追いついてきてしまっていた。
空からも、アノ青髪のタバサとかいうガキが空飛ぶドラゴンさんに跨って迫ってきているようだ。
左手たる兄が言ってくれなければ、女の喉に食いついている様を目撃されてしまう所だった。
もっともっとこの感触に浸っていたがったが、それも出来そうもない。
血は頂いた。 極上だった。
だが、まだ肉を食っていない。
喉の本当に僅かなヒトカケラだけだ。
ヤンは渋々・・・渋々女の喉から口を離す。
「あ゛ッ ふあぁぁ・・・あ、ふぁあ・・・」
女の喉から血と唾液の混じり合ったものが糸を引いて千切れていく。
血を限界まで吸われた女は虫の息だった。
「っぷはー! ンめーッ! こいつぁ上物だぜ 兄貴にも一口分けてやりてーヨー」
女の首を掴んで立ち上がり当たりを見回す。
格好からして教師どもだ。
「あーりゃりゃ 来るのはえーよコイツら・・・・・・ チッ 場所変えてディナーにすりャ良かったぜ」
「見境なしめ・・・ 理性を保たんからだ」
「へーいへい すんませんねぇ不出来な弟で。 で? どうするよあんちゃん この女ほっとくとグール化しちまうぜ?」
「知らぬ存ぜぬを通せばいい。 お前はただ学院に侵入した賊を退治した・・・それだけだ。 グールになったらメイジ供が退治してくれるだろう。
ルイズ様に危害が及ぶ場合は、お前が処分すればいい・・・・・・それより口の周りを拭け。 女に付いた牙の跡を抉るのも忘れるなよ」
「へッ わぁーってるよォ・・・っと!」
ヤンは女を掴んだままゴーレムから飛び降りる。
主人が意識を手放しかけているゴーレムは既にボロボロと崩れ始め、只の土くれに戻りつつあった。
世間を騒がせた盗賊、土くれのフーケはここに捕縛された。
****************************************************************
「このバカ犬!!」
「非道いじゃないダーリン!」
「そりゃあないぜ相棒!」
「・・・・・・KY」
「きゅい!」
いきなりコレである。
「な、なんだなんだお前ら!」
傍若無人の低脳男、ヤンもこれにはタジタジ。
理由がさっぱりである。
「私が気絶してる間にフーケを退治するってどういうことよ! このバカ犬ッ!! 御主人様をいつもいつもいつも置いてっちゃうんだから!!」
支援
「私がいない時に危ない真似しちゃダメじゃない! ダーリンにもしもの事があったら私・・・・・・!」
「武器の俺様無しでゴーレムぶっ飛ばすなんて俺のメンツがーー! 潰れたよー潰れちまったぜー! 相棒は人でなしだー!」
「・・・観そこねた・・・・・・・・・今度から事前に一報欲しい」
「きゅいきゅい!」
今の発言で、なぜ自分が責められているのかは大体わかった。
1人・・・いや1頭を除いて。
取り敢えず、ルイズは何時も通りの叱責。
キュルケは純粋に俺の心配。 可愛いぜ。
デルフリンガーは武器の面目が丸潰れという訴え。
タバサは俺の戦闘の観察を行いたかったということ。
で・・・この竜はなんで俺に吠えてるんだ?
「きゅいきゅい!」
・・・まだ吠えてるし。
まさかと思うが。
「お前、何となく流れで吠えただろ」
「きゅッ!?」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「はぁ・・・まぁいいわ・・・もう過ぎたことだし・・・。 とにかく! 今後は何事にも私の許可を得なさい! 単独行動禁止だからね!!」
「エ゛ーーー」
「えーー じゃない! 分かったわね!! ・・・・・・ところでアンタ 手に持ってるの何?」
ルイズの言葉に一同の視線がヤンの右手に集中する。
ヤンの右手には見慣れぬ棒のような杖のような・・・パッと見、金属で出来た何かが握られていた。
「これ? パンツァーファウスト」
ほい、と軽い感じで手渡されるルイズ。
受け取りしげしげと見つめる。
「・・・・・・ぱんつぁ・・・なに? 杖?」
「いや その先っちょがな こう ヒュルヒュル〜っつって飛んでって。 で アボーン! ってなる・・・・・・爆弾?」
身振り手振りを交えながらの、まぁ大体あってるヤンの説明。
「「「ば、爆弾!?」」」
「何処からこんな物騒な物持ってきたのよ! 盗んできたの!? 盗んできたんでしょ!」
グワッ!っと顔面を寄せて問い詰める。
問い詰めると言うよりは決め付けてるわけだが。
「ちげーよ! なんでそうなるンだよ! あの女が持ってたの! フーケ! で、俺様が持ってたほうが役に立つだろうから貰っといたんだよ」
「人はソレを窃盗って言うのよ! しかもフーケが持ってたってことはこれって・・・・・・ひょっとして『破壊の杖』?」
「・・・・・・多分そう」
タバサの相槌。
ルイズに冷や汗が滲み出てくる。
「ば、ばかーーーーーーー! 今、学院中で大捜索してるの知ってるでしょーが! か、返してくる!」
「あーーダメーダメー! それ俺のなんだー! 俺が俺の物って決めたんダー! キャーやめてー返してードラえもーん!」
「何よどらえもんって!? は、離しなさいって! きゃっ! ちょ、ちょっとどこ触ってんのよ!! はーなーせー!」
ギギギギギギギギギギ
吸血鬼と競り合うとは・・・ルイズ、脅威のパワー!
爆発物を奪い合い・・・。
その瞬間、ヤンとルイズを除いた面々に悪寒が走る。
「これって・・・もしかしてもしかするとマズくない? タバサ」
「もしかしなくても・・・・・・・・・マズい」
「きゅ、きゅい!(お、おねえさま! 早く逃げるのね!)」
Sien!を一心不乱のSien!を
「あ、相棒! 嬢ちゃん! 危ない物もって暴れr」
ぽろっ
「「「「あ゛」」」」
ガチン
ヒュパ
チュゴーーーーーーーン!
****************************************************************
「ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー両名、退院したその日に再度医務室送り。
此度はミス・タバサとその使い魔追加。
ミス・ヴァリエールの使い魔、同じく医務室送りになるも1時間後に退院。
尚、使い魔の立てた手柄によりシュバリエ授与が検討されていたミス・ヴァリエールですが・・・今回の破壊の杖爆破の一件でプラスマイナスゼロに。
ミス・ロン・・・土くれのフーケですが重傷を負ったものの一命は取り留め現在は塔に幽閉しています。
フーケの正体は一部の者にしか知らせておりません。
明日未明に監獄チェルノボーグへ移送される・・・・・・とのことです」
コルベールの顛末の報告。
いつもならば秘書ロングビルの仕事だった。
だが彼女はもういない。
「ふむ・・・まぁそんなとこだろうの。 生徒達をこれ以上動揺させない為にも彼女の正体の公表は必要なかろう。 幸い目撃者も少ない。
報告ご苦労じゃったな・・・。 コルベール君・・・今日はもう休んで良いぞ」
少なからずコルベールがロングビルを想っていたことをオスマンは知っていた。
そのロングビルが盗賊フーケとして捕縛されたのだ。
多少なりとも気が沈むのはしょうがない。
例え『炎蛇』でも。
だから気を使ったつもりだったのだが・・・・・・。
コルベールから学院長室を退出する気配が感じられなかった。
「・・・まだ何かあるのかね?」
オスマンの言葉に、やや俯き加減だったコルベールが顔を上げる。
「・・・・・・フーケはミス・ヴァリエールの使い魔、ヤン・バレンタインによって捕縛されました。 ・・・・・・その際の戦闘で彼女を殺しかけてしまった。
そう彼は言いました・・・・・・しかし・・・・・・フーケの体からは血液が殆ど失われていたのです。
あれ程の量の血を失えば、現場に血溜まりが出来ていてもおかしくないのですが・・・・・・そんなものは何処にもありませんでした。
まるで傷口から抜き取られたかのようです。 彼は・・・ヤン・バレンタインは一体どのような方法でゴーレムに立ち向かい、そしてフーケを倒したのか。
そして彼が時折見せるずば抜けた身体能力。
オールド・オスマン・・・・・・私は不安なのです。 そして気になる。 ・・・・・・彼の正体が・・・・・・。
彼にはガンダールヴ以上の何かがある。 そしてそれは・・・・・・何かとても危険なモノの様な気がするのです・・・・・・」
コルベールは何時になく真剣な面持ちでオスマンに語りかける。
コルベールは今でこそ温厚な人格者であり、優れた教師であるが、かつては極めて優秀な軍人として畏怖されていた。
そのコルベールの表情に、恐れの感情が見え隠れする。
「・・・・・・さすが炎蛇の二つ名は伊達では無いのう。
・・・・・・血液・・・となると吸血鬼という線が疑わしいかの。 だがそれだけでは説明できぬことも多々ある」
オスマンは豊かな顎髭を撫でながら思索に耽る。
「私もそれは考えました。 しかし、彼は陽のもとでも堂々と活動しています」
「その通りじゃな。 ・・・・・・まったく・・・ガンダールヴかもしれぬ・・・というだけでも厄介なんじゃが・・・・・・。
性格もトラブルメーカーそのもので得体も知れぬし・・・はぁ・・・ オマケに情勢不安で各国との摩擦も大きくなっておるし 老体にはコタエルのぅー」
その言葉にコルベールは暗く微笑を浮かべ小さく、そうですねと答えるのみだった。
「ふぅ・・・ まぁ問題は山積みじゃが一つ一つ順に解決して行くことにしよう。 取り敢えずはフリッグの舞踏会の準備じゃ!
色々ゴタゴタしとったが、もう目の前じゃ 暗い顔ばかりもしておれんぞコッパゲール君!」
「コルベールです」
うっすら青筋をたてつつニコヤカに返答。
とぼけた老人だが、コルベールはオスマンのこんなところも好きだった。
確かに考えているだけでは事態はなんら好転することはないのだ。
自分にやれることをやる。
今はそれが精一杯だ。
だが・・・確実に。
確実に時代は悪くなっている。
それだけは間違いなかった。
もう一発支援だ
256 :
人情紙風船:2011/05/23(月) 01:19:53.67 ID:???
ふおぉぉぉぉぉぉ!!
最後の最後に猿を食らうとはなんたること!!申し訳ない!!
10話、以上です
なぜこの程度の内容に半年かかったのか・・・
謎此処に極まれり
11話はひぐらしがなく頃には投下できます!
投下できると思う!
投下できるといいな
投下できるんじゃないかな
いつも支援やらスレ保守やらホントにここの住人の皆様にはお世話になり続けます
ありがとうございます
乙乙乙!
やべえ、来てた、乙!
ヤンが良い味出してて好きだわー
このまま一滴の血も吸わないドタバタコメディになるんかと思ってた
そうかそうかこうなるか、世の中はランチで溢れてるな
ひぐらしがなく頃にとか以下略ネタかー!
外伝アニメ化だねー君たち
映像特典的なものらしいけどねー
そういやショタウォルターメインのSS無いねー
やたら人気はあるのに
カンオケぶら下げて空から落ちてくるとか面白そうじゃない?
ロリカードは棺おけの中から解説役とかで
保守
保守
保守
268 :
マロン名無しさん:2011/08/08(月) 13:37:17.16 ID:G+ahsqJ+
保守age
269 :
マロン名無しさん:2011/08/20(土) 12:53:18.12 ID:dsJCKxyi
保守
虚無と狂信者の人は来ないままか
保守ばっかすなぁ〜
ひぐらしの季節は過ぎましたよ…人情紙風船まだかな…
誰かが投稿したかもしれないってちょっと期待したりした?した?
ルイズがアーカードに影響を受けるのはわかるけど、インテグラをなぞることは無いと思う
ルイズが子孫に思い出として語るのが良い。吸血鬼は置き去りにして良いんだ
275 :
マロン名無しさん:2011/10/09(日) 13:05:12.76 ID:NeQf9S6o
保守&age
来週ドリフの2巻発売だにゃー
ヒラコーとノボルが一緒にTRPGかあ
age保守
hosyu
280 :
マロン名無しさん:2011/11/28(月) 00:03:43.24 ID:z4+mScHx
ほし
白秋戦でラインなんていらない
速攻で鷹に投げれば勝手にとってくれる
誤爆失礼
更新されたかと思えば、保守 保守 誤爆
、、、、
率直に聞く、我々はもうおしまいか?
アイシル面白かったよな
また稲垣に描いてほしいわ
ぞるぞる来るような何かを期待して保守ってみる
286 :
マロン名無しさん:2011/12/09(金) 19:37:53.56 ID:K2E1fndG
お前の家に死の川押し寄せていく様子が見えた
保守
なんか向こうに漂流物がきたっぽいな保守
まぁこっちは一応ヘルシングキャラだもんな
リップの魔弾ってゴーレムに効くの?
金属製のは偵察機みたいに叩き割れそうだけど砂とかだと衝撃吸収されそうで