連載終了から早3年。
それでも続くげんしけんSSスレ。
何度も何度も落ちつつも、遂に迎えた第18段!
シリーズ物から新作まで、幅広いジャンルのげんしけんSSスレ。
未成年の方や本スレにてスレ違い?と不安の方も安心してご利用下さい。
荒らし・煽りは完全放置のマターリー進行でおながいします。
本編はもちろん、くじアン、「ぢごぷり」SSも受付中。
創作SSの初心者のための場としても活用していただいてもけっこうです。
☆講談社月刊誌アフタヌーンにて好評のうちに連載終了。
☆単行本第1〜9巻好評発売中。オマケもすごかった!
☆アニメ「げんしけん2」放映終了!いい出来でした!
☆作中作「くじびきアンバランス」漫画連載終了&アニメ放映終了!いい出来でした!
☆単行本1〜2巻好評発売中。(巻末に、その後の「げんしけん」を描いたおまけ漫画有り)
前スレ
げんしけんSSスレ17
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1221232036/l50
糞スレ
新スレ乙
こんばんわ。
さっそくですが参ります。
今夜も8レスです。
では。
「おーし全員乗ったか?!」
恵子の呼びかけに、キョロキョロと周りを確認する一同。
岸野「えーと、伊藤と浅田は車の方だったよね?」
神田「それ抜きにしても人数が足りない気が…」
巴「千里と日垣君がいないわね」
有吉「ほんとだ。さっきまで居たよね、2人とも?」
その時、バスの外から国松の大声が聞こえた。
「ちょい右!そう!あとちょっと上げて!オッケー!」
声のした左側(つまり歩道側)の窓の外を見る一同。
バスから2メートルほど離れて、国松がこちらを向いて立っていた。
台場「(バスの窓から身を乗り出し)千里、何やってるのよ!?」
言い終わると同時に、台場はすぐ下に人が居ることに気付き、驚きの声を上げた。
「日垣君!?」
ちょうど台場が身を乗り出した窓の下で、日垣はバスの車体に何かを押し付けていた。
恵子「(バスの窓から身を乗り出し)何やってんだよ、お前ら?(日垣の方を見て)何だこりゃ?」
日垣がバスに押し付けていたのは、白い布の横断幕だった。
黒い大きな文字で、「実写版 ケロロ軍曹 撮影快調」と書かれ、その下にやや小さい文字で「椎応大学 現代視覚文化研究会 学園祭参加作品」と書かれていた。
日垣は大型の磁石を使って、バスの車体に横断幕を固定していた。
荻上「(バスの窓から身を乗り出し)どうしたの、これ?」
国松「ロケバスが手配出来るって聞いて、大急ぎで作ったんです!(不意に顔色変え)あっ会長!(ペコリと頭下げ)ごめんなさい無断で作っちゃって!」
荻上「まあ私はいいけど…(恵子の方を見る)」
恵子「千里、これってもしかして、何か特撮の伝統なのか?」
国松「昔、第1期ウルトラシリーズのロケバスには、こういう横断幕付いてたんです」
恵子「まあ伝統ならしゃあないな、オケー」
顔を見合わせ喜ぶ国松と日垣。
台場「千里、これの材料費の領収書はもらってる?」
国松「レシートならもらって来てるけど、これは私のポケットマネーでいいわよ。私の趣味入ってるし」
台場「いいから明日にでもレシート持ってらっしゃい。宣伝費として経費で落とすから」
国松「いいの?」
台場「いいわよ。あなたのおかげで、大事なことに気付いたから」
国松「大事なこと?」
台場「(目を輝かせつつ横断幕の端をつまみ)宣伝の基本は、こういうPOPだってことよ」
豪田「うわあ、晴海また商人の目になってる…」
巴「て言うか、またもや狩る者の目に…」
神田「(窓から身を乗り出して、横断幕を見て)ところで晴海、この横断幕って、撮影期間中ずっと付けてるの?」
台場「当然!」
一同『それはちとハズイな…』
そんな現視研一行の迷いを吹っ切るように、恵子が檄を飛ばした。
恵子「うっしゃー!野朗ども出陣だ!」
一同「おう!」
十数分後、現視研一行はロケ地に到着した。
山の麓にあるそのロケ地は、確かに特撮のロケにぴったりの場所であった。
切り立った崖に囲まれた、広場のような原っぱだった。
バスから降りた一行、改めてロケ地を眺めて感嘆の声を漏らす。
国松「ほんと、いかにも戦隊やライダーが崖の上から降って来そうな場所ね」
巴「ビデオでは見てたけど、実物見ると確かにここ、雰囲気あるわね」
有吉「よくこんなとこ探してきたね」
浅田「まあ運が良かったよ、俺たちにとっては」
豪田「妙な言い方ね。それじゃまるで他に運の悪い人が居たみたいじゃない」
岸野「居たんだよ、それが」
一同「えっ?」
浅田「ここは本来、今頃住宅地になってたはずだったんだ。ところが山切り開いて造成し終わったとこで、会社が倒産しちゃったんだよ」
岸野「しかも次の買い手がまだ見つからない状態なんで、少なくとも年内はこのままらしいよ」
一同「…」
沢田「何か、ラッキーと言えばラッキーなんだけど、いわく付きの物件が続くわね…」
藪崎「素直に喜んだら、祟られそうやな」
恵子「今度大野さんに、巫女コスでお祓いしてもらやいいんじゃねえか?」
大野「いやそれはちょっとさすがに…余計祟られますよ」
朽木「その点なら大丈夫!山神様はスケベですから、適度に露出したコスでお祓いやれば、きっと鎮まって下さいますよ」
大野「ほんとかなあ…」
そう言いつつも、今夜田中に「適度に露出した巫女」のコス制作を依頼しようと、大野さんは秘かに決意した。
スー「(人差し指を立てて、塩沢兼人似の声で)オ祓イすたー誕生」
大野「ややこしくなるから、スーは黙ってなさい!」
ひと心地付くと、一同は各々準備を開始する。
先ずは伊藤のワゴンから、撮影機材をみんなで運び出す。
今回最大の大荷物は、布団やマットレスを改造して作った、岩型のマットだ。
全部で1ダースあったが、車に積み切れない上に、今日はテスト撮影なので、積んで来たのは2つだけであった。
全長1メートル四方ほどの、ルナツーやソロモンに形が似たそれらのマットは、触らぬ限りマットとは見抜けないぐらい、岩そっくりの仕上がりだった。
ロケハンの際に、浅田たちが撮って来たビデオを豪田も見たので、色合いもしっかりこの地に自然にありそうなものになっている。
伊藤「(マットを運びながら)やっぱり豪田さん、天才だニャー。どう見ても岩にしか見えんニャー」
有吉「(マットを運びながら)だな。僕にはちょっと無理だよ、この匠の技は」
一方浅田と岸野は、別口の作業に没頭していた。
先ずロケ地の隅の方に行き、各々スコップで穴を掘る。
陸軍の工兵のような、機械的で正確な動きだ。
ほんの1分ほどで、深さ1メートル近くの穴を掘り終わる。
次に穴の周囲に木の杭を打ち込み、さらに杭の間に横木を渡してロープでくくり合わせ、椅子のような物体を作る。
最後にその物体を覆い隠すように、縦長のテントを張る。
異様に手馴れた仕事ぶりで、2人はほぼ同時に、およそ15分ほどで作業を終えた。
恵子「何だいそれ?」
浅田「トイレですよ」
一同「トイレ!?」
岸野「後はトイレットペーパーを中に置いて、外に手洗い用の水タンクを置くだけです。水タンクには小出し用の蛇口があるから、十分手洗いに使えますよ」
朽木「使用後はどうするのかのう?」
浅田「穴掘った時に出た土を横に盛ってありますから、使用するつどスコップで土をかければオッケーです」
朽木「おお、何とエコロジーな」
女子一同「(引いて)それはちょっと…」
浅田「まああれは非常用だから、基本は休憩のたびに、伊藤のワゴン車で下のコンビニまで行って借りればいいよ。ただ、コンビニまで5分はかかるけどね」
この造成地のロケで撮影するのは、以下のシーンであった。
(数字はシーンaj
25ケロロ小隊(タママ、ギロロ、ケロロ)が、次々とベム1号を攻撃するも返り討ち
27ドロロも来るも、やっぱり返り討ち
29冬樹とアル1号が来る
31なぜ冬樹が操縦するのかと問うケロロ
33冬樹が操るアル、ベムと互角の勝負
35冬樹が最後の手段を命じるのに応じて、ベムに抱き付くアル
と言っても、ロケ初日の今日は、殆どカメラテストに費やす予定であった。
何しろロケハン担当の浅田と岸野以外、みんな直に現場を見るのは初めてなので、先ずはいろいろ撮影してみてから、具体的にどう撮影するか考えようという訳である。
(もちろん実際に撮影するので、使えるカットは使って行くが)
神田「問題は天気ですね。明日辺り、雨らしいですし」
豪田「雨はまずいわね。ラテックス製のベムと、樹脂製のアルはともかく、ケロロ小隊は布とスポンジ製だから、次の日地面が乾いてないと、泥だらけになっちゃうし」
恵子「まあいいさ。そん時はアル対ベム中心に撮るだけさ。浅田、まだ十分時間はあるだろ?」
浅田「十分ってほどじゃないですけど、来月上旬ぐらいまでにクランクアップすれば、編集に時間かけられる程度の余裕持って、現像返って来ますよ」
(注)繰り返しになるが、8ミリのフィルムの現像が返って来るまでには、2週間程度は見て置かなければならず、最悪の場合20日近くかかる場合もある。
(都内なら大体10日前後と言われている)
現在では8ミリの現像は、調布のフジカラーサービスでしか行なわれていない為である。
もちろん写真の技術がある人なら、自家現像も出来なくはないが、失敗の可能性も高い。
最初のカメラテストは、岩型のマットにケロロ小隊の面々が激突するシーンからであった。
ロケバスを更衣室代わりに、小隊役の面々はケロン人スーツ姿になった。
荻上「何でスーちゃんまで着替えるのよ?このシーンでは、クルルの出番は無いでしょ?」
スー「押忍!プロデューサーから、特写用に着替えてくれと言われたであります!」
国松「相変わらず宣伝熱心ね、晴海…」
小隊役の5人は、普通に背中からぶつかったり、ジャンプして落ちてみたり、様々な体勢から岩型マットにぶつかった。
それを撮影しつつ、カメラマンたちは感想を述べた。
浅田「特訓の甲斐あって、上手いもんだな、5人とも」
岸野「元々は運動音痴だった、沢田さんもけっこう様になってるしな」
浅田「だけど1番大変なのは、国松さんだな。よくやるよ、あんなもん抱えての受身なんて」
浅田の言う「あんなもん」とは、M60機関銃のモデルガンだった。
M60は三脚を付ければ重機関銃、二脚を付ければ軽機関銃として使える、多用途機関銃だ。
それだけにモデルガンとは言え、女の子が抱えて持ち歩くには、重過ぎる代物だ。
だが国松は、それを抱えて岩型のマットに激突し、ほとんど体のみで受身を取っていた。
(注)M60機関銃の実銃の重さは、10キロぐらいある。
アサヒファイヤーアームズという、今は倒産したメーカーが作ってたエアガンですら、5キロぐらいはあった。
筆者はおよそ20年ほど前、あるモデルガンショップで、M60機関銃のモデルガンが展示されているのを見たことがあった。
試作品レベルだったのか、その後あちこち検索しても資料は発見出来なかったが、金属部品を多用していたので、実銃とエアガンの間ぐらい、おそらく7〜8キロはあると思われる。
「どうってこと無いわよ、別に」
休憩に入り、浅田と岸野に受身について訊かれ、国松は事も無げに答えた。
国松「柔道じゃ、上になった相手を抱えて倒れ込むような状況なんて、いくらでもあるし」
浅田「いやそうは言っても、君選手じゃ無かったし」
国松「それに機関銃抱えてる方が、ライフルやサブマシンガン2丁持つよりは、自然に体丸められて、受身の体勢が取りやすいのよ」
岸野「なるほど、銃持った手を叩き付ける訳には行かないからね」
浅田「まあ確かにギロロなら、銃持った手で受身は取らないだろうね」
国松「だから2丁持ってやった受身の方が、逆にしんどいのよ。体丸めずに銃持ち上げて、体全体伸ばしてビターンと倒れなきゃいけないから」
浅田「まるでプロレスラーだな」
昼食を挟んで、次のカメラテストはアル1号対ベム1号の殺陣であった。
まずは空手的な殺陣だ。
短期間の特訓による付け焼刃ながら、持ち前の運動神経の良さと体力により、日垣はそれらしい動きを見せた。
一方クッチーも、本来獣的なアクションの多いベムには珍しい、回し蹴りや後回し蹴りなどの大技を見せる。
次にステッキを持ったベムと、錬金術で作った棒を持ったアルのチャンバラだ。
どちらの武器も、塩ビのパイプをゴムで包んで作った代物だ。
多少武器をしならせつつも、迫力あるチャンバラを見せた。
そして最後は、ロボット的な動きを見せるアルと、獣的な動きで応戦するベムであった。
ジャイアントロボ(特撮の)とジャイアント馬場の動きを参考にしたという、スローモーで大振りな日垣の動きに対し、素早い動きにも関わらず、クッチーは見事にシンクロした。
みんなが2人の動きに感嘆する中、恵子は1人怪訝な顔をしていた。
国松「どうしたんですか、監督?」
恵子「…何か、違うんだよな」
巴「何がです?」
恵子「あたしにも分からん」
一同「分からんて…」
荻上「でもそれじゃあ、対処のし様が無いですね」
恵子「だからあたしも困ってんだよ。あいつらの動きがいいことは分かるんだよ、あたしにも。でも、何かが違うんだ」
結局恵子が考え込んだままで、初の本格的な野外ロケは終わった。
オチらしいオチも無い締めで申し訳無いのですが、本日はここまでです。
次回、唐突に新章に突入します。
(場面転換のついでの気分転換ですので、深い意味はありません)
そして久々に、あの方が登場します。
ではまた。
こんちわ。
今から出かけます。
今日は帰り遅くなって、続き投下出来ないかも知れないので、とりあえず保守しときます。
では行って来ます。
S
H
A
こんばんわ。
今夜は7レスでお送りします。
では。
第15章 笹原恵子の迷走
「こりゃ今日は1日、開店休業状態だな」
空を見上げて、春日部さんは呟いた。
今日は朝からどしゃ降りの雨であった。
店を構えての客商売の多くにとって、雨は大敵である。
一部例外があるとすれば、雨宿りの為の需要がある飲食店(それとて降り始めのほんの1時間程度の話で、1日の総売り上げは晴れた日より落ちる)か、傘屋ぐらいであろう。
春日部さんの店のように服を売ってる店には、特別な目的意識があって来店する場合以外、こういう日にフラリと立ち寄ることは少ない。
ラッキーなことに、今日は欠員だらけであった。
アルバイトの女の子たちの多くが、いろいろな理由で欠勤し、店には彼女とバイトの女の子が1人居るだけであった。
案外女の子たちが、今日の天気を見て客足が少なかろうと、気を使ってわざと休んでくれたのかも知れない。
店を経営する場合、経営者が1番悩むのは人件費だからだ。
店を開ける限りは、誰か店に配置しない訳には行かない。
つまり客が来ようと来よまいと、人件費は待った無しでかかる。
最悪でも、その人件費以上には売れてくれないと、赤字ということになる。
(まあ他にもいろいろ経費があるけど)
バイトの女の子は、朝から1日中掃除に没頭していた。
年末の大掃除のごとく、普段は手を付けない場所までも清掃している。
そして春日部さんは、裏の事務所で書類の束と格闘していた。
「店長、しばらくお願い出来ますか?」
バイトの女の子が、事務所のドアを開けて春日部さんに声をかけた。
店のフロアのモップがけが終わったので、裏に洗いに行くとのことだった。
その為、しばらく春日部さんに店番を頼もうという訳だ。
「わーった」
春日部さんは書類の束を抱え、店に移動した。
春日部さんが書類を整理しつつ店番をしていると、今日初めてのお客が来た。
入り口に見えた人影が誰であるか、最初春日部さんには分からなかった。
「恵子…なのか?」
春日部さんは、恵子が監督に就任したあの日以来、恵子に会っていなかった。
その間、恵子の容貌は急激に変貌していた。
笹原似のふっくらした頬は、げっそりとこけていた。
髪はポニーテールに束ね、眼鏡をかけていた。
かつては今時の女子高生風のケバいメイクだったが、今は最小限だ。
服装もTシャツにGパンにスニーカーと、実にシンプルだ。
(その上に小さなリュックを背負っていたので、最初春日部さんは、おしゃれ初心者のオタク女子が来たのかと思った)
「なのかってのはひでえな、姉さん」
恵子は引きつった笑いを浮かべた。
「服買いに来たってツラじゃねえな」
恵子の雰囲気に、何かを感じ取った春日部さんが言った。
そこへアルバイトの女の子が戻って来た。
「(バイトの子に)悪いけどしばらくお願い」
そう言い残して、春日部さんは恵子を連れて店を出た。
春日部さんと恵子は、店の向かいにある喫茶店に入った。
「わりい、腹減ってんだ」
恵子はそう言って大量の注文をし、猛スピードで食べ始めた。
ひと心地付いたところで、黙ってその様子を眺めていた春日部さんが切り出した。
「どうよ、映画の方は?」
恵子「順調だよ。今の現視研って、いろいろ詳しい奴や、器用な奴や、芸達者な奴や、よく働いてくれる奴や、優秀なのばっかだからね」
春日部「私が居た頃と、えらい違いだな」
恵子「ああ、毎日賑やかに楽しくやってるよ」
春日部「その割には、何か元気無いな」
恵子「寝不足だからね」
恵子はここ半月ほどの、自分の生活ぶりについて春日部さんに説明した。
春日部「お前が寝るヒマ惜しんでオタク修行とは、変われば変わるもんだな」
恵子「そんなんじゃねえよ。たださあ…」
春日部「ただ?」
恵子はコーヒーをひと口飲んで続けた。
「ひょっとしたら、探してる答えが見つかるかも知れんと思ってさ」
春日部「答え?」
恵子「あたしさあ、アニキと違って、昔から漫画もアニメもそんなに見てねえんだよな。それどころか映画すらあんまし見てねえし、せいぜいドラマぐらいだよ、見てるの」
春日部「…」
恵子「だからあたしには、そういうのの引き出しがねえんだよ」
春日部「そんで今、必死で引き出しに詰め込んでるって訳か」
恵子「そう。スーに特訓してもらって、脳みそ動くようになってくれたのはいいんだけど、動き過ぎて撮り方思い付き過ぎで、どう撮っていいか分かんねえし」
春日部「思い付くんなら、その通りに撮ればいいんじゃないか?」
恵子「それやったら、時間とフィルムが何ぼあっても足んねえよ」
春日部「言うねえ」
恵子「だからどうにかして、答えを見つけたいんだよね」
そこまで言って、不意に恵子は固まり、一瞬置いて再び口を開いた。
「いやひょっとしたら、答えはもうここ(頭を指差す)にあるのかも知れねえんだけどね」
春日部「頭の中に?」
恵子「あたしさあ、そういうとこは頭動くようになったのはいいんだけど、他は相変わらずバカだからさあ、あいつらに上手く注文出来ねえんだよ、どう撮って欲しいか」
レベルはともかく、恵子の作劇術はアンジェラの説にあった、キューブリックに近かったようである。
恵子「だからあたしは、ただひたすら偉そうにNGを繰り返すだけなんだよね。それがあいつらに申し訳無くてねえ」
(注)スタンリー・キューブリックは、カメラマン出身の監督なので、こういう画が欲しいというビジョンがあっても、どう演技して欲しいという引き出しが無い。
その為延々とリテイクを繰り返し、それに飽きて来た役者が行なう様々なアドリブの中から、その答えを探し出す。
「いいじゃないか、それで」
優しい笑顔で、春日部さんが言った。
恵子「いいのかなあ、それで?」
春日部「あんまし考え過ぎんなよ。むしろあいつらは、お前のあんまり大した考えも根拠も無しに偉そうに命令するとこ、気に入ってるんだから」
恵子「ひでえな姉さん。それ褒めてるの?」
春日部「褒めてるつもりだよ」
恵子「でもあいつら、真面目だし頑張ってるから、あんまし無茶出来ないんだよね。出来ることなら、いい作品残してやりたいし」
春日部「お前がそこまで作品の完成度にこだわるとはな」
恵子「あたしだって、出来りゃ適当にさっと終わらせたいんだよ。でもさあ…」
春日部「でも?」
恵子「頭ん中で、何て言うの?映画の神様みたいなのが、そうじゃないこうじゃないって、あれこれ注文して、納得するまで放してくれないんだよ」
春日部「だったら神様の言う通りに、行けるとこまで行くしかないんじゃないか?」
恵子「いいのかなあ、それで?」
春日部「大丈夫さ、お前には有能な仲間がいっぱい居るんだ。お前の足りないとこは、ちゃんとフォローしてくれるさ。だから迷わずに、やりたいようにやりな」
突然大粒の涙を流す恵子。
たじろぐ春日部さん。
春日部「ばっ馬鹿!何泣いてるんだよ!」
恵子「ありがとう、姉さん。何か吹っ切れたよ」
しばらくして、恵子はようやく泣き止み落ち着いて来た。
それに合わせるように、雨もやんだ。
恵子はふと窓の外に注目した。
恵子「姉さん、あれ何だい?」
恵子が言うあれとは、春日部さんの店の3軒隣の店のことであった。
ブルーシートが張られ、店の前に軽トラが停められ、何やら作業中だ。
春日部「ああ、あれか。宝石店なんだけど、この間バイクが飛び込んだんだよ」
恵子「そりゃ凄えな。店メチャメチャじゃん」
春日部「それがそうでも無いんだよ」
恵子「どして?」
春日部「店のショーウィンドウのガラスがさ、特製の防弾ガラスだったからだよ」
恵子「防弾ガラス?」
春日部「うちの店の、オープンの挨拶しに行った時に聞いたんだけど、売ってる物が物だから、ガラスだけは金かけたって店長が自慢してたよ」
恵子「じゃあ割れなかったんだ、ガラス」
春日部「さすがにひびは入ったらしいけど、店の中は無事だよ」
やがてブルーシートの中から、作業着姿の男2人が、大きなガラス板を持って出て来た。
ひびに沿って切り取ったせいか、いびつな四角形だ。
大きさは2メートル四方ほどであった。
それを見ていた恵子の目が輝き、不意に立ち上がった。
春日部「?」
恵子「わりっ、ちょっと行って来る!」
そう言い残して、恵子は外へ出た。
恵子は、軽トラにガラス板を載せようとしていた作業着姿の男2人に駆け寄り、ガラス板を指差して、何か話しかけていた。
そしてやや困惑気味の表情の男2人に、手を合わせて拝み倒すようにして、何か頼み込む。
やがて男2人は、根負けしたような顔で、ガラス板を道端に置き、店内に引き上げた。
一方恵子は携帯を取り出して、どこかにかけ始める。
春日部さんは、喫茶店から呆然とその様子を見ていた。
「あいつ、何やってるんだ?」
やがて恵子は喫茶店に戻って来た。
春日部「何やってたんだ?」
恵子「もらったんだよ、あのガラス板」
春日部「もらったって…どうすんのよ、あんなもん?」
恵子「(ニヤリと笑い)まあその内分かるよ」
そこへ先程の作業着姿の男の1人が入って来て、恵子に声をかけた。
「姉さん、ガラスあのまんまじゃ危ないから、端の方だけガムテープ貼っとくからね」
恵子「(会釈して)あ、すんません、お手数かけます」
いつの間にか、それなりに話し方を覚えた恵子を見て、春日部さんは優しく微笑んだ。
その後春日部さんと恵子は、いろいろ雑談をして、喫茶店内で過ごした。
1時間ほど経って、その喫茶店の前に、1台の軽トラが停まった。
恵子「やっと来たか」
春日部「えっ?あれ恵子が呼んだのか?」
恵子「まあね」
軽トラから降りて来たのは、斑目と伊藤であった。
店内に入って来る2人。
伊藤は平常通りだが、斑目は微かにキョドっている。
伊藤「遅くなりましたニャー」
恵子「おせえよ、ったく」
伊藤「さすがにうちで軽トラ持ってる人は居なかったですから、やむを得ず斑目先輩にお願いしましたニャー」
斑目「まあちょうどこっちに配達があったからな」
春日部「配達?」
斑目「最近うちの会社、水道設備の保守点検だけじゃ持たないから、パイプ類の販売もやってるんだよ」
春日部「大変だね。て言うか斑目、随分板に付いて来たな、作業着姿が。元々は確か、事務じゃなかったっけ?」
斑目「まあ零細企業だからね、うちは。社員は何でも屋さ」
一見自虐的な口調だが、ブルーカラーな格好が似合うようになったのを、男らしいと言われたと解釈したのか、若干キョドりつつも、心もち誇らしげな斑目であった。
数分後、ガラス板を軽トラに積み込んで、斑目と伊藤と恵子は引き上げた。
(ガラス板が荷崩れしないように、荷物番として荷台に伊藤が乗ることにしたので、助手席に恵子が乗れた)
1人残された春日部さんも店に戻ることにし、レジへと向かった。
「またやられたか…まあいいか、今日のとこは」
恵子はまたしても、料理の会計を忘れて帰ったのだった。
以上です。
次回、防弾ガラスの用途が明らかに。
ではまた。
R
K
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32 :
唐突スレ汚し:2009/05/15(金) 13:00:15 ID:???
【1】
「ちょっとコレどういうコトよ!」
バンッ!…ワタシは古めかしい事務机に1枚のプリントを叩き付けた。
机に座っていた「あの女」は、ノンフレームのメガネを少しだけ動かして、目の前に突き出されたプリントに目を落としたが、眉一つ動かさず「フッ」と笑いやがった。
すんごいムッカつくんデスけど。
時は2017年。
ここはサークル棟の1階にあるサークル自治委員会室。
昼休み。ワタシは部室に顔を出す前に、サークル棟前の掲示板に貼ってあった告知を目にして腰が抜けそうになった。
告知プリントをそのまま剥ぎ取って、自治会室に怒鳴り込んだ。
サークル自治委員会名義のプリントには、「活動実績のないサークルの認可を取り消す」とあり、その筆頭……堂々のトップに、私たち……「現代視覚文化研究会」の名前が書いてあったのだ。
自治会室のデスクに座っている彼女のコトは、以前から知っていた。
授業のコマも重なっていて、サークル棟や大学構内でよくすれ違うのだが、その度に人を見下したようにフッと笑うのだ。
さっきみたいに。
きっとワタシが「現視研」だって知ってるからだと、薄々気付いていたけど、今日それを確信したわ。
(ワタシのこと嫌い? こちとら別に関係ないわ!)
人と接するのが苦手なオタクだけと、今回ばかりは黙っていられない。
キレたオタクなめんなよ。
歯ぎしりして仁王立ちしてたら、彼女がけだるそうに立ち上がった。
ワタシより背が頭一つ低いこともあって、メガネの奥から刺すような上目遣いでワタシを見てる。肩まで伸ばした髪は色気も素っ気もない、事務屋って感じの女。
彼女は吐き捨てるようにつぶやいた。
「『おばさん』の時と一緒。泡沫サークルどもの中で最初に文句つけに来たのは現視研だったわね」
33 :
唐突スレ汚し:2009/05/15(金) 13:01:52 ID:???
「何ソレ?」
ワタシは何のことだか分からない。
ただ、彼女が現視研が嫌いなのは分かった。
「ともかく、あんたたち旧世紀からのゲームとかマンガとか、役にも立たない無価値の遺物を部室に散乱させてるでしょ」
「何で知ってるのよ」
「先週の火災報知器点検の時に業者に立ち会って棟内をまわったの。あんたたちの部室は物品の散乱度トップ3に入るのよ。火事にでもなったらどうするのよ!」
「…うち、タバコ吸う人間いないし…」
「去年の暮れに鍋やってたでしょ」
「うっ…」
昨年末に先輩方を招いて忘年会をやったのがバレてた……。
冬期休講中でしょ。何で知ってるのよコイツ。
「それにこのサークル棟で過去に起きたボヤ騒ぎには、現視研が関わってるのよ」
「何年前の話よ」
「ん…十年くらい前」
「あたしたち関係ないよー!」
「うるさい。さらにあんたたち現視研は、何の活動実績も残してないのよ。幽霊部員ばっかりのサークルでも、延命処置としての会報やレポートを提出しているの……現視研の会報、何だっけ、『ニラ炒め』だっけか?」
「『メバエタメ』です!」
「……あー。それだって昨年春から出てないわ」
しまった……忘れてた。
昨年の夏はページ数が少なくなって(出しても出さなくっても同じかな)という安直な気持ちで自治委員会には提出してなかった。さらに秋からは作ってもいなかった……。
外はもう新緑が眩しい初夏……会報未提出で1年経ってしまったのだ。
34 :
唐突スレ汚し:2009/05/15(金) 13:08:13 ID:???
青ざめるワタシの顔色を見て、あの女はニヤリと笑った。チクショー。このチビめ(…といっても160センチはあるが)、脳天にエクスカリバーを振り下ろしてぇ!
「と・に・か・く、現視研は解散。梅雨になる前に部屋を退去してください。じゃ、あたしは午後のゼミがあるので失礼」
彼女はツカツカと出口まで歩き出した。ワタシは何とか撤回させようと、彼女の手を掴んだ。
「ちょっと待ってよ。急すぎるよ!」
「急…? あんたたち泡沫サークルを消すのは、あたしの叔母の頃からの十年越しの恩讐なのよ」
「は?」
ワタシは何のことだか分からない。十年って……久我山さんや斑目さんたちがいた頃から……?
彼女は、ワタシが話を理解できていないのにムカついたみたい。歯ぎしりして、ワタシの胸元に人差し指を突きつけた。映画のアメリカ人が口論するみたいに。
「………あ」
指がフニッと胸に埋まった。
彼女はすぐに耳まで赤くなったが、人の胸見て、さらに自分の胸を見下ろすと、ますます怒りが込み上げてきたみたい。
迷惑な反応だ。ワタシは悪くないぞ。
「……とにかく! 叔母が現視研に弱みを握られて煮え湯を飲まされたこと、聞いてるわ。あたしは叔母とは違う。弱点なんか見せないわ!」
何か一人で盛り上がってますよこの人……。
ワタシがまだ話が掴めずにボーッとしてると、彼女はワタシの手を払いのけて自治委員会室を出て行った。
ワタシは慌てて追うが、彼女はワタシをガン無視して、廊下を小走りに去っていく。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
(現視研が消される……)そんな思いが頭の中をグルグル回って、どうしようもない焦燥感にかられた。
(どうしよう、どうしよう……)足下から震えが来て、廊下に立ちすくんでしまって、もう彼女を追えない。
ワタシは彼女の名を叫んだ。
「待ちなさいよ、『北川』ッ!」
今年の春にサークル自治委員会長になったばかりの彼女の姿は、もう見えなくなっていた。
35 :
唐突スレ汚し:2009/05/15(金) 13:11:39 ID:???
近未来の現視研を襲う北川の怨念。
現視研解散のピンチにOBが立ち上がる!
「となりのクガピ3」
たぶん来週月曜につづく
>>35 びwwっwwwくwwりwwwwしwwたwwww
待ってる!
書き手の人二番手キタ―――――!!
これでSSスレ、あと10年は戦えるぜ!
こんばんわ。
どうやら明日には、新たな話が届くようですし、こちらもうかうかしてられませんな。
今夜は8レスです。
では。
「こりゃいいっすね、監督!」
仰向けの体勢でカメラを構え、浅田は絶賛した。
「でもこれだと、2人が限度ですね」
その様子を見つつ、岸野が言った。
藪崎「せやな、ビデオ組と8ミリ組か、メイン組とサブ組のどっちかで、2回撮影せなあきませんな」
加藤「確かにそうね」
ここは現視研が野外ロケ現場とした造成地。
浅田が仰向けに寝転んでカメラを構えてるその上には、昨日恵子がもらって来た、宝石店のショーウィンドウに使われていた防弾ガラス板があった。
ガラスの四方の下4ヶ所には、ビール瓶のケースを3つ積み重ね、針金で固定したものが置かれていた。
つまりガラス板は、仰向けになった浅田の上に浮いている形になる。
そのガラスの上には、アルの着ぐるみ姿の日垣と、ベムの着ぐるみ姿のクッチーが立っていた。
有吉「でも大丈夫かなあ?2人も乗っかってアクションして、ガラス持つかな?」
恵子「大丈夫さ、バイクがぶつかっても割れなかったんだから。それに昨日、斑目さんと伊藤とあたしと3人で乗っかって暴れてみたけど、全然へっちゃらだったし」
そんな恵子をウルウルした目で見つめる国松。
恵子「何だよ千里?」
国松「やっぱり監督は、素晴らしい監督です!こんな凄い方法、それもかつて実用性を立証された方法を、誰に教わることも無く思い付くなんて!」
恵子「(照れて)たまたまだよ。あの2人(日垣とクッチー)でっけえのに、画で見るとあまりでけえ感じがしなかったんで、何とかしてえと考えてたらこうなっただけさ」
恵子が今回やろうとしているのは、ベム対アルの格闘シーンを、防弾ガラス越しに真下から撮ろうという撮影である。
これはかつて特撮ドラマ版「ジャイアントロボ」で、実際に行なわれていた方法で、怪獣の巨大感を出す為の演出法である。
なおこれは副次的な効果だが、「ジャイアントロボ」の特撮シーンの撮影の多くは、屋外に組まれたオープンセットで撮影された。
その為に太陽も背景に映り、当時の他の特撮作品に無いライブ感があった。
今回現視研も屋外での撮影なので、同様の効果が期待出来る。
ガラス板の大きさが大きさなので、撮影はカメラマンが2人ずつ交代で下に入り、何度かに分けて行なわれた。
そして終盤、アクシデントが起きた。
主に向かい合っての、取っ組み合いや殴り合い中心の殺陣が続いたのに飽きたのか、恵子がとんでもないことを言い出した。
「お前ら2人、どっちかがどっちか投げれないか?」
日垣「まあ基本的な投げ方は、国松さんに習いましたけど…」
朽木「それならベムの手では握れないから、僕チンが投げてもらいましょう」
日垣「いいっすか?」
朽木「僕チンも受身は習ってるから大丈夫だにょー」
こうしてアルがベムを投げるシーンが、急遽追加撮影されることになった。
日垣はクッチーの腕を取り、綺麗に一本背負いで投げた。
ここで誤算があった。
確かに防弾ガラス板は、クッチーが投げ落とされた衝撃でも割れなかった。
だが衝撃で予想以上に大きくたわんで揺れ、周囲のスタッフも押さえ切れなかった。
そしてその揺れにより、四方でガラス板を支えていた、ビールケースの柱のひとつが倒れ、ガラス板が落ちた。
この時にガラス板の下に入っていたのは、浅田と藪崎さんだった。
大慌てでガラス板をどかした一同は、しばし呆然と固まった。
浅田が藪崎さんの上に覆い被さっていたからだ。
やがて浅田が体を少し持ち上げ、2人は至近距離で見つめ合う形になった。
藪崎さんは赤面して激しく動揺した。
『なっ何この子、とっさに私のこと庇ってくれたん?』
『ひょっとしてこの子、私のことを!?あかん、私には斑目さんという人が…』
『でもこの子も近くでよう見たら、割とイケてるメガネ君やし』
心の中で高速回転で葛藤した藪崎さん、浅田に声をかけようとする。
「あっ、あの…」
それを遮るように、浅田が切り出した。
「大丈夫…かな?」
『私のこと、心配してくれたはる、この子!』
だが次の瞬間、浅田のひと言が、高鳴る乙女心を木っ端微塵に粉砕した。
「どうやら無事だな、DJ-100。俺のDVX-100も無事だし。(野球の審判のジェスチャー付きで)セーフ!よかったよかった」
どうやら浅田は、カメラマンの本能で、とっさにビデオカメラを庇いに行ったようだった。
藪崎「そっちかい!?おのれは財津一郎かゴラアアアアア!」
キレた藪崎さんは、思わず浅田にヘッドロックを喰らわせた。
浅田「ど、どうしたんですか、藪崎先輩!?痛ててててててててて!」
(注)財津一郎
日本中小企業福祉事業財団(日本フルハップ)のCM(関西ローカル)で、これに似た状況の寸劇をやっている。
午後の撮影は、タママのタママインパクト(口から発射するエネルギー弾)発射シーンの撮影のみで、その日の撮影は終わった。
先ず通常の着ぐるみでニャー子にタママインパクト発射のポーズをやってもらう。
そして次に、通常の顔と別に作った、タママインパクト発射時の顔(口が砲口状になり、顔がやや前後に長くなる)を装着して、同様のポーズをやってもらう。
後は発射ポーズの途中で顔が変化して行くように編集し、シネカリ(フィルムに軽く傷を付けて光線を描き込む8ミリ特有の特撮手法)でエネルギー弾を描き込めば完成だ。
その日、夕食を一緒に食べることにした、伊藤とニャー子の猫カップル。
だがファミレスに向かう途中、伊藤の携帯が鳴った。
伊藤「(ディスプレイを見て)監督からだニャー、何だろ?(電話に出て)もしもし伊藤ですニャー…えっ、今からですか!?」
ニャー子「?」
伊藤「分かりました、明日までに準備しますニャー(電話を切る)」
ニャー子「何かありましたかニャー?」
伊藤「ごめんニャー子ちゃん、かくかくしかじかな事情で、今から手配しなきゃならないニャー。済まないけど、ご飯はまた今度一緒に…」
ニャー「そういう事情なら、私も手伝いますニャー。町内会以外にも、学校や幼稚園なんかにも、あるかも知れないし、手分けして電話すれば早いニャー」
伊藤「ありがとうニャー子ちゃん!」
一方こちらは、明日の撮影に備え着ぐるみのメンテナンスをしている、日垣と国松。
国松「明日はドロロの撮影だから、特にドロロ念入りにチェックしないと」
日垣「そうだね。まあ明日は合成用のポーズだけだし(携帯が鳴り、ディスプレイを見る)あれ?監督からだ(電話に出て)はい日垣です…何ですって!?」
国松「どしたの?」
日垣「分かりました、じゃ明日までに用意しますんで(電話を切る)」
国松「何かあったの?」
日垣「実はかくかくしかじかな訳で、明日の撮影までに準備しなきゃならないんだ。国松さんの特撮知識フル動員しなきゃならないから、相談に乗って」
その日の夕方、笹原が帰宅すると、部屋に恵子が居た。
笹原「また来てたのか…」
恵子「お邪魔してるよ、アニキ」
笹原「何見てるんだ?」
恵子が見ているテレビは、画面が白黒であった。
空を駆けるように飛ぶ、黒い全身タイツ風コスチュームの怪人たちを、目の所に白い仮面を着けたヒーローが、空を飛んで追っていた。
(モノクロなので、実際は何色か分からんが)
よく見ると怪人もヒーローも、人形ではなく、実際に扮装した生身の役者が飛んでいる。
バックの背景は、背後にスクリーンを張って、別撮りの背景のフィルムを映写しているようだった。
恵子「千里に借りて来たんだよ。特撮で実際に人間が飛んでるやつ無いかって訊いてみたら、これ貸してくれた。えーとタイトルは…忘れちった。今巻き戻すね」
笹原「ああいいよ、またすぐ出るし。火の元と戸締りだけは忘れるなよ」
言いながら笹原は、着替え等の荷物を手早くまとめる。
恵子「泊まりなんだ」
笹原「うん、担当してる先生の原稿が遅れてるんで、今夜はカンヅメなんだ」
恵子「大変だね」
笹原「お前こそ、見るのはいいけど、ちゃんと寝ろよ。現視研の子たちも心配してるから」
恵子「でーじょーぶだよ。さすがに寝るのは寝るから」
笹原「そんじゃ行って来るから、あとよろしく」
恵子「おお、ご苦労さん」
笹原が出た直後、恵子はあるアイディアを思い付いた。
そして伊藤と日垣に、電話である指令を伝えた。
電話が終わり、再びビデオを見てから、恵子は床に就いた。
布団の中で眠りに落ちる刹那、恵子はふと思い出した。
「しまった、肝心の当人に電話すんの忘れた…まあいいか」
そして次の日。
「聞いてませんよ〜〜〜〜!!!!!!!!!」
櫓の上から、ドロロスーツ姿の沢田が絶叫した。
「言ったよ、今さっきな」
平然と恵子は、櫓の上を見上げて答えた。
当初ドロロとベムとの対決シーンの撮影は、合成を駆使して行なわれる予定だった。
だが前日になって恵子が、伊藤と日垣に「明日のドロロのアクションさあ、やっぱ生身のアクションで撮りたいから、実際に吊るしてやるからな」と告げ、準備させたのだ。
伊藤「いやあ、大変でしたニャー。町内会に連絡して、盆踊り用の櫓を急遽借りて来ましたニャー」
浅田「でも、どうやって撮影するんです?ピアノ線か何かで吊るすんですか?」
恵子「まあ吊るすことは吊るすんだけど、あの櫓と崖の間に糸張って、そこを吊るしたドロロが滑って来るんだ」
沢田「無理ですよ〜そんなの〜!」
恵子「でーじょーぶだよ。なっ、日垣?」
一同が注目すると、日垣はポケットから、釣り糸用の糸巻きのような物を取り出した。
荻上「それは?」
日垣はその糸巻きから、糸を引っ張り出す動作をした。
日垣「どうです、見えますか?」
凝視する一同。
荻上「見えない…な」
台場「私もです」
浅田「俺も見えないな」
「あった!これであります!」
スーは日垣の手元から、何かを手繰り寄せて、一同の前にかざした。
一同「見えた!」
至近距離まで近付いて、ようやく見えたそれは、蜘蛛の糸のような細い糸であった。
荻上「これは?」
日垣「特殊繊維です。こんなに細くてしなやかなのに、ピアノ線以上の強度があります。本来は、プロの手品師が手品のタネに使うらしいんですけど」
大野「そんなの、どうしたんですか?」
日垣「この間、爆破シーン撮影に行った帰りに、小野寺さんにもらったんですよ」
荻上「何であの人、そんなもん持ってたの?」
日垣「何でも昔、バイト先の上司の人にもらったそうなんです。特に使うこともなくサバイバルキットに入れて持ち歩いてたそうなんですけど、特撮やるなら持ってけって」
荻上『だから何でそんなもんを?そもそも何でサバイバルキットなんて、普段持ち歩いてるの?何なのよ、あの人の昔のバイトって?』
国松「小野寺さんも私に渡してくれれば良かったのに。これでも一応特殊技術(特技監督)なんだから」
日垣「それはもう言いっこ無しだよ。だから昨夜、どうやって撮るか相談したじゃないの。多分俺がでかいから、こういう撮影やるなら俺担当と思ったんだよ、小野寺さん」
巴「で、その糸くれたバイト先の人って、どんな人なの?」
日垣「俺も詳しくは聞かなかったけど、何でもその後殺人事件やらかして、死刑判決下ったらしいよ」
一同「死刑!?」
日垣「何年か前に、海外の死刑囚が何人か一斉に脱走して、何故かみんな日本に逃げて来たって事件があったでしょ?その事件の犯人の1人らしいんだ、そのバイト先の上司の人」
一同『ますますもって謎だなあ、小野寺さんって…』
こうして沢田は、ドロロスーツで空中に張られた糸の間を滑空する破目になった。
手順はこうだ。
先ずロケ現場の崖の、地面から2メートルほどの高さの地点に、杭を打ち込む。
上手い具合に、そこは人が数人立てる程度の広さの、棚のようになっていた。
そして崖の杭から20メートルほど離れた地点に、櫓を立てて、杭と櫓の間に例の糸を張る。
さらにドロロの背中に、例の糸で作った輪を着ける。
最後に杭と櫓の間の糸を輪の中に通すようにし、それによってドロロが滑空し、崖の前に立ったベムに斬りかかり、それを撮影する訳である。
沢田「無理ですよ〜!監督〜!」
恵子「人間死ぬ気になれば、何でも出来る!でーじょーぶさ、お前居合い抜きの練習はやってただろ?ならやれるさ」
沢田「そんな〜!」
日垣「大丈夫だよ沢田さん。撮影前に、俺自身で滑空して試してみたから」
朽木「おお、日垣君の体重に耐えられるなら、沢田さんなら余裕だにょー」
こうして沢田は、清水の舞台ならぬ盆踊りの櫓から、糸付きでアイキャンフライする決意を固めた。
リハーサルは凄惨を極めた。
「ひえええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」
何度と無く繰り返される滑空のたびに沢田は絶叫を上げ、最初の数回は刀を抜く暇も無く、崖に辿り着いた。
ちなみに崖の終着点には、巴とアンジェラの怪力女子コンビが沢田をキャッチすべく待機していた。
何回目からかの滑空から、刀が抜けるようになり、回数がふた桁を超えてからもさらに繰り返して、ようやくベムに切り付けることが出来るようになった。
話的には半ばですが、本日はここまでです。
果たして沢田の運命やいかに?
「となりのクガピ3」、楽しみに待ってます。
ではまた。
>30人
読んだー!
古い人間だから特殊繊維と聞くと、「鋼よりも強く、絹糸よりもしなやか」を思い出します(byキンゴジ)。
しかし小野寺さんのバイト先エピソードがどうも分からないw
それにしても恵子はドンドン監督らしくなっていきますね。
全てが終わった時、彼女の中に何が残るのか(それとも抜け殻で真っ白な灰になるのか)楽しみです!
分からないと書いた後に、なにげに「バキ?」と思ったが……詳しくないので教えて下さい。
51 :
となクガ3:2009/05/18(月) 22:32:02 ID:???
【2】
北川を見失ったワタシは、茫然としたままキャンパスを出て、動物公園駅の改札の前に立った。
モノレールに乗ろうか乗るまいか………正直、どっちでもいい……何も考えられない……。
あの後結局、部室に顔を出すことはできなかった。
午後に講義が1つあったけど、受ける気もしなかった。
部室に誰かいたら、仲間に何て声を掛けていいか分からないし、こんなテンションで部室に行ったら、そのうち泣き出してしまうかもしれないもの。
ワタシ、会長なのに、情けない姿は見せられない。
クッチー前会長から引き継いだのは2年生の時。そういえば、もう4年生になったのに、次の会長も決めてなかったな。
ワタシの責任だ。
会報もさぼって、次期会長のことも考えてないまま現視研を潰しちゃうなんて、会長として失格だよ。
「ワタシが最後の会長か………いや、イカンイカン!」
後ろ向きな言葉に思わずがぶりを振った。
でも、どんどん気分が堕ちていくよー……。
「何が最後なんだい?」
「そりゃもう現視研が……ってアレ?」
うおっと、不意に聞こえてきた声に思わず答えてしまった。
慌てて辺りを見回すと、改札の向こうに見慣れた顔があった。
あれは……部室によく顔を出してくれるOBの斑目さんじゃないですか。
52 :
となクガ3:2009/05/18(月) 22:34:22 ID:???
今日は仕事が休みなのかな。ラフなカッコだ。
何と斑目さんは、肩車で頭の上に奥さん(スージーさん)を乗せたまま改札を出てきた。
うひゃあ、これが「猫夜叉オスワリ」って奴ですか……初めて見……ん?
あれ?
肩車している『奥さん』、やけに背が縮んだような……。
もともと幼い感じだったのに。
ワタシの目の前まで来た斑目さん。ワタシはラメさんの顔ではなく、上に乗った奥さんをマヂマヂを見つめながら問い掛けた。
「斑目さん……奥さん、縮んでる」
「え?、これ娘だよ」
「ええええええっ?」
「サーシャっていうの。よろしくね」
ワタシの視線は斑目さんの顔に向くことなく、悲鳴をあげながらも娘さんを見続けた。そういえばワタシが初めて斑目さんの奥さんに会った日、スーさんは出産前の臨月腹だった。
ひょっとして……。
「そうだよ。その時の子供で、いま3歳だよ」
お二人にはいま子供が2人いる。
ワタシはちっちゃい赤ちゃんの時に顔を見せてもらっただけだったけど。
ううーむ。確かに幼女だ。
でも奥さんにそっくり。
スージーさんをそのまま「SD」だとか「ねんどろいど」とかでディフォルメしたような………。
そのサーシャちゃんは奥さんと同じように、こっちを無愛想なジト目で見ている。
あ、そだ、挨拶しなきゃ。
53 :
となクガ3:2009/05/18(月) 22:36:12 ID:???
「こ…こんちわサーちゃん(はあと)」
「アムタバカァ?」
脳内にピシッ!とヒビが入るような音が聞こえた気がしたわ……。
ちょっと舌足らずだけど、イントネーションで確実にエヴァのネタセリフを喋っているのが分かる。
サーシャ、恐ろしい子ッ!
ワタシも斑目さんも固まってしまい、顔いっぱいに汗がしたたっていく。
「ごごごッゴメン! 言葉憶えたてで……」
「いっ、いえッ、やっぱアニメネタなんスね……あはは…」
ワタシは愛想笑いをして、再びサーシャちゃんを見上げた。
サーちゃんの青いジト目がこっちを見た。
「ワレオ崇メヨ…」
「あうう」ワタシは頭を抱えてヨロけた。
ワタシは気を取り直して斑目さんに向き直った。
「斑目さん、お子さん連れて現視研ですか……」
「違う違う。動物公園に連れてきたんだ。俺まだGWの連休中。コユ……いや、スージーはもう一人の子が熱出して寝てるから留守番さ」
ワタシは思わず眉をしかめて斑目さんと顔を突き合わせ、誰が聞いてるワケでもないのに小声で尋ねた。
「あの奥さんが看病してるんですか?」
「俺も凄い心配なんだけど、一応母親だから……ところで…何してんのこんなトコで?」
54 :
となクガ3:2009/05/18(月) 22:37:40 ID:???
「はぁ…」
斑目さんや、ミニチュアスージー…じゃなくてサーシャちゃんに会って少し気が晴れていたワタシだったけど、気分は再び鬱い空気に絡め取られていった。
「先輩………ピンチなんでありんす……」
「ん?……何かあったの?」
斑目さんが表情を変え、こちらの言葉に耳をかたむけてくれようとした時、その頭にくっついてるサーちゃんがジタバタ動き始めた。
「ジオ、動ケ、ジオ何デ動キャン!」
あー……斑目さんが呆れている。
「サーシャ、ちょっと待っててね。すぐ『どーぶつさん』行くからね」
斑目さんがサーちゃんをなだめて再びこっちを向いた時、ムッとしていたサーちゃんが再びちっちゃな口を開いた。
「動ケ、動ケ、動ケ、動ケ、イマ動カナキャ、イマヤラナキャ皆スンジャウンダ!、モウソンニャノ嫌ナンダオ。ダカラオネガイッ動イテヨッ!」
……駅の改札を行く親子連れや駅員が一斉に私たちを見てるのが分かる。
視線がイタい……。
「動物公園まで歩きながら話そっか……」
「はい……」
ワタシたちは、そそくさと逃げるように歩き始めた。
55 :
となクガ3:2009/05/18(月) 22:39:12 ID:???
短いですが今日はここまでデス。
次回、事情を知った斑目が取る行動とは?
たぶん水曜日夜につづく。
56 :
となクガ3:2009/05/18(月) 23:15:50 ID:???
ちなみに斑目の娘として設定した「サーシャ」に関しては、成長後の姿が、前スレ327以降の「2039年・斑目家のお正月」に出てきます。
となクガキタ―――――!!!
いい意味で、いろいろツッコミどころ満点ですな。
何年大学にいたんだよクッチー?
まだ大学に通ってたのか斑目?
今から8年後の未来に、3歳でエヴァネタかよサーシャ?
こりゃ次回が楽しみですな。
さて、今夜はいらしゃるかのう?
59 :
となクガ3:2009/05/20(水) 22:08:12 ID:???
スミマセン。
今日出張してたので、
3回目は明日に……。
wktk
お忙しいようなので、気長に待ちませう
62 :
となクガ3:2009/05/21(木) 23:39:55 ID:???
【3】
動物公園の入口は、親子連れで賑わっていた。
入口に仁王立ちしている巨大なゾウさんが、訪れる人たちを見下ろしている。そういえば昔、ここは笹原さんと於木野先生(←荻上)の初デートの場所だって聞いたけど…………意外だっ。
ワタシは入口前の売店のベンチに座って、ぼおぉっと幸せそうな人たちを見送っている。
子供が両親と手をつなぎ、目をきらきらさせながら目の前を歩いていった。
楽しそう、いいなぁ。
悩んだり辛かったりなんて、ないんだろうなあ。
ワタシも子供に戻りたいよ〜。
久我山さんと初めて会ったころくらいに……。
「……逃ゲチャラメダ逃ゲチャラメダ逃ゲチャラメダ逃ゲチャラメダ逃ゲチャラメダ逃ゲチャラメダ逃ゲチャラメダ……」
サーシャちゃんのブツブツ唱えるセリフに、ビクッとして我に返った(汗)。
ワタシはサークル自治委員会の会長との顛末を斑目さんに話終えて、ボーゼンとしていたらしい。
売店のベンチには、ワタシと斑目さんが座り、サーシャちゃんはジュースを買ってもらって、私たちの前をくるくると周りながら待っている。
ちんちくりんにちいちゃいサーちゃんは、ピンクのワンピースと帽子でおめかししている。
白いソックスに赤い靴。くるくるっとまわる度に、金色の髪とワンピースがふわふわ。
やべえカワエエ。
これで黒いセリフを吐かなきゃ一台欲しいくらい……いやいや落ち着けワタシ。
63 :
となクガ3:2009/05/21(木) 23:43:12 ID:???
一方の斑目さんも、腕組みして何やら深刻な表情をしている。
せっかくのお休みなのに、災厄持ってきてスミマセン。
ようやく斑目さんが口を開いた。
「……き 北川さんって言うんだ……そ その委員ちょ……」
声うわずって久我山さんみたいになってますよ?
「あのー、そんなに怖い人だったんですか……北川さんって」
「うーん、怖いというか、とてもマジメな人だよ。……ホラ、サークル棟のそばにゴミ捨て場あるでしょ?」
「はい」
「あそこのコンクリの壁、少し黒ずんでない?」
「はい」
「あの黒ずみ、うちがボヤ騒ぎを起こした名残りなんだよね。あの辺りに置いたマンガ雑誌がボワーッと燃えて……」
「ええええッ!」
「俺らパニクッちゃってて何もできなかったけど、その時いち早く対応したのが、当時サークル自治委員会の副委員長だった北川さん。君の会った北川さんのおばさんね」
さらに斑目さんが言葉をつなげる。
「あと、田中たちがガンプラ作りでシンナー使ったりサークル棟の屋上で塗装行ってた時もソッコーで注意しに来たし、コスプレ大会で盗撮騒ぎが起きた時も現場にやってきたな……あ、盗撮したのは現視研じゃないよ?」
「なんか……現視研(うち)って潰すターゲットに相応しい活躍してませんか。悪い意味で」
「いやいや、盗撮犯を捕まえたのはうちの『春日部さん』だし………ん?」
64 :
となクガ3:2009/05/21(木) 23:46:17 ID:???
斑目さんとワタシがふと見ると、サーシャちゃんが斑目さんのシャツの袖をくいくいと引っ張っていた。
「どしたのサーシャ?」
サーちゃんが年齢に似合わないニヤリと口元をつり上げてささやいた。
「イッペン、チンデミル?」
まるで地獄から来た少女だ。
ん?、斑目さんの顔が真っ青に……。
「ま、まさかスーが仕込んでいたのか……!」
斑目さんはアワアワと立ち上がって、サーシャちゃんの手を取った。
「さ、そろそろ動物さん見に行こうか………」
サーたんはコクリと頷いてる……どうも『春日部さん』というキーワードに反応したみたい。
スー奥様、怖い。。。
そそくさと動物公園に向かう斑目さんは、フトこちらを振り向いた。
「今日はゴメン、この辺で」
「いえ、こちらこそお時間をいただいてスミマセン」
「笹原とか久我山にも相談してみるよ!」
「……お願いします」
ワタシは、サーたんを連れて動物公園に入っていくパパラメさんの背中に、ペコリと頭を下げた。
ありがたかった。
斑目さんに会って、状況を聞いてもらえただけでも、だいぶ気が楽になったし。
よし!
ワタシは、パツン! と両手で自分の頬を張った。
そして気を取り直して、サークル棟へと向かって歩き出した。
現視研部室に、行くのだ。
65 :
となクガ3:2009/05/21(木) 23:47:42 ID:???
ゴメンよ。
今日はここまで。
あんまり話進んでなくて申し訳ありません。
次回は日曜日……ひょっとしたら土曜日です。
スレ汚し失礼しました!
キター!
まとめサイトで、となクガ2を読み直してみた。
記憶してた以上の長編で、読み応えあって面白かった。
となクガ3の続きが楽しみになった。
68 :
マロン名無しさん:2009/05/23(土) 21:57:24 ID:rai05L8J
てs
うーむ、終盤になって原稿いじったら、何かいろいろ大変なことになってしまいました。
ごめんなさい、続きは来週末にでも。
(ひょっとしたら、週の半ばぐらいに投下出来るかも)
さて、となクガを待つとしませう。
70 :
となクガ3:2009/05/24(日) 18:26:07 ID:???
【4】
3日後の夕方。
時刻はもう6時をまわっている。
ワタシは一人、サークル棟の階段を上っていた。
1階から3階へ。一歩一歩、段を踏みしめる度に怒りが増幅されていくようで、足が少々ガニマタ状態になっていてもお構いなしだ。
足の動きとシンクロして、
「……は・ら・た・つ・わ・ねぇ!」
ワタシたち現視研を筆頭に十件以上のサークルが削減を宣告されて、この3日間で5つが早々に部室を明け渡してるっていうじゃない………。
しかも今日、最新の会誌「メバエタメ」をサークル自治委員会室に提出しに行ったのに、北川の奴にあっけなく門前払いされちゃったのだ。
※ ※
「内容薄ッ! その場しのぎが見え見えじゃないの。没ッ!」
※ ※
……そんなぁ!
そりゃあ今回の「メバエタメ」は急いででっちあげ…………いやいや、急いで仕上げた徹夜のコピー誌だから、内容も読み応えも無くて、薄っぺらいのはアノ女の胸みたいなもんだけどさ。
それでも部員で手分けしたんだけどなぁ。
そのことを思うと、怒りに任せて登っていた階段が急にしんどいものに感じられた。
階段の途中でペースが落ちる。
ふと目の前を見ると、窓から階段に向けて、夕焼けのオレンジの光が差し込んで眩しい。
この色を見ていたら、無性に寂しくなってきちゃうよ。
階段を上りきって3階の喫煙テラスを見渡すと、無機質なコンクリ壁一面がオレンジ色に染まっている。
71 :
となクガ3:2009/05/24(日) 18:27:33 ID:???
「みんな、頑張ったのにな……。明日、みんなに『受け取ってもらえなかった』なんて伝えるの、つらいな」
ワタシはオレンジの世界に背を向けて、薄暗い廊下を歩き、304号室「現代視覚文化研究会」部室の前に立った。
あれ?
中から人の話し声が聞こえてきた。
まだ残ってたんだ………。
遅かれ早かれ、メバエタメが没になったことを話さないといけないから、ちょうどいいか……。
「ふー」
ワタシは、軽い落胆を溜め息に乗せて吐き出すと、ドアを開けた。
「たっだいまァ〜」
ちょっと無理にテンションを上げて挨拶。
すると、いつも部屋に居着いている奴らのシルエットとはちょっと違った影が数人分、窓から溢れてくる夕焼けの逆光に染まっていた。
「ん?」
「あ、会長。おかえりッス。みんな(現役)は帰ったんですけど……」
部室にいた「現役」は一人だった。
ちっちゃくて口の減らない女の子だが、その子が目を線のようにして妙に神妙な顔している。
「あの、会長。斑目さんと『先輩方』がお見えです」
「はい?」
ワタシは部室の奥、夕焼けの中に目をこらした。
72 :
となクガ3:2009/05/24(日) 18:29:48 ID:???
「やあ」
一番奥の席から軽く手を挙げてくれたのは、時折部室に来て、現役とも顔なじみの斑目さんだった。
その両隣には、特徴的なシルエットが見える。
一人はやけに胸がでかくて、もう一人は頭のてっぺんを筆のようにまとめてる。
……ってことは……。
その時、部屋が暗くなってきたので「現役ちゃん」が灯りをつけた。
シルエットの主の顔がハッキリ見える。
「……加奈子先輩に於木野先生ッ」
「ペンネームで呼ばないで。……さ “笹原”です」
筆頭さんがちょっと恥ずかしげに答えると、胸の大きな“田中”加奈子先輩がクスクス笑った。
「結婚してウン年経つのに、いまだに笹原姓で照れるなんて。しかも現役時代同様の筆頭でご登場とは」
「ほっといて下さい! 時間があったから“仕事の頭”にしてただけです」
於木野先生の手元には、マンガのネームらしきものがあった。
何と、二代目、四代目、五代目の歴代会長が集ってる。
なるほど、同人と商業の両方で活躍している於木野先生が来てるとあっては、現役も神妙になるよね……。
ワタシが口をあんぐりして驚いていると、斑目さんが一言。
「さっき聞いたよ。『メバエタメ』の件、うまく行った?」
嗚呼……ワタシはガックリと肩を落とした。
それで三人の先輩方には伝わったみたいだ。
「そうか。手強そうだね……」
斑目さんは、ポリポリと頭をかいて苦笑いする。
73 :
となクガ3:2009/05/24(日) 18:31:49 ID:???
「俺らが現役時代、現視研が“北川さん(叔母さんの方)”に潰されそうになった時は、“春日部さんと大野さん”が助けてくれたんだっけ?」
旧姓“大野さん”はプルプルと手を振って否定した。
「いえ、あれは咲さんの話術と………うッ」
加奈子先輩が言葉に詰まった。
「どしたの?」
斑目さんと於木野先生がいぶかしげに見つめてる。
「い……いいえ! 何でもありません、あれは咲さんのおかげです!」
加奈子先輩は何かばつの悪い表情で笑った。
何だろう、何かヤバイ秘密を知ってる感じ。
斑目さんは不思議そうな顔をしながら、こっちに向き直った。
「ん? まあいいや。その時、俺や笹原は、結局何も動かないまんまでさ。いざ立ち上がろうとした時にはもう問題は解決してたんだよね……だから……」
斑目さんは夕焼けを背に、テーブルに両肘をかけつつ、碇ゲンドウのように顔の前で手を組んだ。
「今回は貢献しようと思って、笹原(夫)にも相談してみたんだ。それで、この二人や久我山たちOBにも声を掛けたんだよね。そのうちあいつらも来るよ」
久我山さんも………。
ワタシは胸の奥に、クンッと鼓動が響くのを感じた。
会うの、久しぶりだな。
斑目さんは続ける。
一瞬、そのメガネが光ったように見えた。
「久々にやろうかと思うんだ……『会議』を」
74 :
となクガ3:2009/05/24(日) 18:33:19 ID:???
今回は以上です。
いよいよOBが立ち上がり始めますが、一筋縄ではいきません。
次回はたぶん火曜日です。
レスくださった皆さん、ろくに返事しなくてスミマセン。
そして30人の作者さんもがんがってください!
いいなあ、この勇者(?)が集結する段階のカタルシス。
八犬伝や真田十勇士や忠臣蔵みたい。
(ちと褒め過ぎかな)
次回集結かな。
楽しみに待ってます。
巻田くんってどうなったんだろーねぇ
一番可哀想な子だし気になるなー
>>75さま
褒めすぎです。
>次回集結かな
ごめんなさい。
今回は集結前の「つなぎ」のショートになってます。
見どころ自体まったくありませんw
続きは明日です。
【5】
夕暮れの中、ワタシは校門を出て近くのコンビニへ買い出しに出かけた。
斑目さんの音頭で「対策会議」が開かれるというのだから、差し入れくらいは用意しなきゃと思ったのだ。
ぶっちゃけ、自分もお腹減ってるからなんか食いたいだけデスけどね。
コンビニに差し掛かったとき、後ろからチョコチョコと現役ちゃんが追いついてきた。
「会長ぉ〜」
「ん?………あ、ワタシの事か」
「もう2年くらい会長って呼ばれてるのに、ソレはないでしょ」
後輩に突っ込まれてしまったが、今日は「会長」と呼ばれることがむずかゆい。
加奈子先輩や於木野先生のような歴代会長が集っているのだから。
まぁ斑目さんは別にいいけど(失礼だー)。
ワタシたちはコンビニに入って買い物をはじめた。
いま、客はワタシたちだけだ。
現役ちゃんはビールを探す手を休め、丸いアゴに手をあてて思案顔を見せた。
「OBさんたちって、もう大学卒業して何年も経つのに、何でこんなにまでシテくれるのかなー?」
確かに週末の夜だというのに、仕事を終えてからわざわざ来てくれる人もいるのだ。
現役ちゃんはニヤリと笑う。
「政治か金か?」
結構打算的な、この子らしい発想だ。
ワタシは苦笑いしながら答えた。
「みんな現視研に思い入れがあるんだよ。あの部屋にね……」
先輩方はあの狭い部室で、特別な出来事ではないけど、かけがえない楽しさや出会いをしてきたんだと思う。
ワタシたちの世代が現視研を続けられたのも、あの人たちのおかげ。
ワタシの入学時に、先輩方が部室で迎え入れてなかったら、今もこうして続いていたかどうかわからない………。
ふと我に返ると、現役ちゃんがお酒やおつまみをヒョイヒョイとカゴに入れてる姿が見えた(オイオイ話途中だよ)。
……後輩の姿を見て思った。
そうだ。
私も頑張って「次」に引き継いでいかなきゃね。
『ピンコーン♪』
私たちしか居なかったコンビニに、新しいお客が入ってきた。
「あれ?」
それは見覚えのある顔だった。
80 :
となクガ3:2009/05/26(火) 22:18:54 ID:???
短いッ!
毎回短くてスミマセン。
このSSは、基本プロットはあるんだけど、結構行き当たりばったりで書いているので、粗い部分が目立って申し訳ないです。
しかも店内に入ってきた「客」、誰にしようか決めてないしwww
とりあえず、また明日。
スレ汚し失礼しました。
81 :
狐と北前船:2009/05/27(水) 00:59:59 ID:???
こちらも久しぶりにSSを書いたのでリハビリ代わりのプロットです。
「狼と香辛料」のパクリです。
投稿逃げするようですいません。
82 :
狐と北前船:2009/05/27(水) 01:02:33 ID:???
むかしむかし、戦国時代の日本の出来事でごさいます。
信濃の山奥、斑目庄に晴蔵という水のみ百姓のせがれがおりました。
武田信玄公の小姓を勤め、武田勝頼公にも仕えた高坂弾正またの名を春日弾正の息女の春日姫の一行が晴蔵の村に落ちのびてまいりました。
春日姫は武田家滅亡後、縁を頼って越後領に逃げようとしておりました。
春日姫を一目見た晴蔵は姫に一目ぼれ。
一行の逃避行の道案内を申し出ました。
その途中、晴蔵は一匹の子狐が猟師の罠にはまっているのを見つけました。
晴蔵はあわれに思い、この子狐を助けました。
織田方の追手は姫と晴蔵の一行に迫っておりました。
あわやというところで、不思議な娘が晴蔵の前に現れました。
金色の髪、目は蒼く、頭に狐のような耳がついています。
よく見れば狐のしっぽまであります。
83 :
狐と北前船:2009/05/27(水) 01:03:49 ID:???
自分はお前に助けてもらった子狐である。
神通力を無くして困っていたところを助けてもらったお礼にお前の願いをかなえようと申します。
喜んだ晴蔵。
「春日姫の命を助けてほしい」と願い出ました。
不思議な娘は一計を晴蔵に教えます。
中略
春日姫は無事越後領に入り命は助かりました。
ですが晴蔵は織田方に捕まり間者と間違われフルボッコ。
嫌疑が晴れてボロボロヨロヨロになりながら杖をついて山道を歩きます。
84 :
狐と北前船:2009/05/27(水) 01:05:04 ID:???
晴蔵「テメー、この腹黒性悪腐れ女狐め! お前の言う事聞いたらこのザマだ!」
スー「『願イ』ハ叶エタヨw 嘘ハツイテ無イヨ」
晴蔵「嘘も言ってないが真実も言ってないだろっ! 姫たちともはぐれたしこれからどうしよう・・・。村にももう帰れないし・・・。」
スー「北ニ行クト運ガ開ケルヨ」
晴蔵「ホントだろうなー。こうなったら一旗あげて故郷に錦を飾るか! 名前も・・・そうだな・・・はったりもこめて志大きく信玄公の名前にちなんで斑目庄衛門晴信と名乗ろう。そういやお前の名前聞いてなかったな。」
スー「我コソハ和加須世理比売命(わかすせりひめのみこと)ナリ!」
晴蔵「せ・・ん・・ず・・り? あー、よくわからんからスーでいいな!」
彼こそが日本海を舞台に活躍する北前船の大商人・・・になる・・・かどうかは分からない・・・。
晴信とスーの珍道中がここに始まるのでありました。
どっちもGJ
スンマセン。
となりのクガピ3は今日はお休みします。
金曜日夜に再開させていただきます。
>狐と北前船
(中略)が凄い気になるw
あと晴蔵、聞き間違い自重www
和加須世理比売命、調べてみたら凄い出自じゃない
ですか!
武田晴信、高坂(春日)弾正ネタも上手い使い方で面白そうですね、是非本格連載してほしいッス。
>スー「北ニ行クト運ガ開ケルヨ」
奥羽へ荻上を探しに行く気か!
十三湊(北前船ルートの青森五所川原付近)あたりかな……。
87 :
となクガ3:2009/05/29(金) 23:08:11 ID:???
【6】
「おろ?」
「朽木先輩?」
コンビニにやってきたのは、朽木先輩だった。
口を3の字にして口笛を吹きながら店内に入ってきた。
ヨレヨレのラガーシャツに膝の擦れたジーパン。くたびれた格好は院生時代と変わらないなぁ。
何でも先輩は、過去2度も会長になれなかった無念(?)をきっかけに、院生になってまで現視研に残り、七代目会長の座を射止めたガッツマン…………というかソレって人生棒に振ってませんか?
昨年の春に晴れて卒業したけれど、結局「職員」として今も椎応大学に残っている……。
博士号を取っても就職できるわけじゃないし、簡単に教授職になれるわけじゃないからと先輩は言う。
そもそも、オタ生活をエンジョイするために院に進んだような人だから…………ってホント棒に振ってどっかへ失われてませんか?
貴方の人生。
朽木先輩はいつもの高いテンションであいさつしてくれた。
「おおーっ 現役会長。久しぶりでありますな!」
「ど、どうも。朽木先輩、最近大学でもお見かけしませんでしたけど……何してたんですか?」
「研究のお手伝いとして奥多摩で山ごもりざんすよ。一昨日やっと解放されたので、休みを取って録り溜めたアニメを見まくって、もうお腹いっぱいデスよワタクシ」
ムスーッと荒い鼻息が、ガンダムの排気ダクトのように排出されている。
「明日は部室に顔だそうと思ってたところでキミ達に出会えるなんて、デスティニーですのう」
「いや、運命かどうか分かんないけど。あ……ひょっとして知らないんだ……」
「???」
88 :
となクガ3:2009/05/29(金) 23:12:01 ID:???
ワタシは、現役ちゃんにお金を渡して会計をお願いしつつ、首をかしげている朽木先輩に経緯を説明した。
「!」さすがの朽木先輩も驚きを隠せないようだ。
「北川女史にそんな姪御さんがいたとは……」
「……それで、斑目さんがOBの皆さんに招集を……あ……」
「ワタクシ、招集されてない………」
首から上だけが器用にガックリうなだれる朽木先輩。
(あ、やっぱショックだったよね)
そんなワタシの内心の声が聞こえているかのように、うなだれていた朽木先輩がガバッと頭を上げた。
「ぬぁんのこれしきィ!」
「うわっ?」
「忘れられてたり無視なんぞ、現役時代から何度も経験済みでアリマス! ウン年ぶりに再発見再確認ッスよ」
拳をぶんぶん振り上げるもんだから危ない危ない。
朽木先輩、さらにテンションが上がったみたい。
「だが朽木学は砕けない。クッチーは滅びんよ、何度でも甦るさ! だってワタクシはさすがターンエーのお兄さん! この星の素敵な奇跡! 夢をマラソン空をユニゾンしたーい!」
30代半ばのテンションとは思えない壊れっぷり。
嗚呼、スキップしだした……ダメだこの先輩。早くなんとかしないと……。
そういえば現役ちゃんは買い物を終えたかな…………って、あいつ一人でさっさと帰ってやがる。逃げたな!
ちょっと、ワタシだけ朽木先輩の相手させないでよ!
89 :
となクガ3:2009/05/29(金) 23:14:12 ID:???
小さな章ごとに投下しますので、申し訳ないですが、今日はこれで終わり……。
週末は酒のむためだけに新幹線に乗ってお出かけしますので、次回は火曜日にお目に掛かると思います。
スレ汚し失礼しました。
90 :
狐と北前船 :2009/05/31(日) 00:02:05 ID:???
>>86 遅レスすいません。
>是非本格連載
かなりの思いつきと言葉遊びと語呂合わせで思いついたネタなんでとてもとても(汗
せめて北前船の歴史くらいはおさえておかないと無理ポそうw
>となクガ3
現役ちゃんいいなあ
「政治か金か」という打算的なところがw
トンズラしたりと創作キャラでは性格悪い子が好きですねー。
申し訳ありません。
アクセス規制食らっちゃいました。
(このレスは代理レスはここへスレ経由です)
続きは解除出来次第お送りしますので、今しばらくお待ちを。
>となクガ3
クッチーの投げっ放し人生にワロタ。
どうも原作世界の続きは、こうなってそうな悪寒。
>狐と北前船
元ネタの方は知らないのですが、連載になるといいですね。
こちらもあと40レス程で終了の予定なので、何とかその後のSSスレを守って欲しいものです。
ではまた。
テスト
93 :
となクガ3:2009/06/02(火) 23:40:30 ID:???
【7】
ワタシが朽木先輩と一緒に部室に戻ると、狭い部屋にはさらに人が増えていた。
加奈子先輩の夫・田中さん。
そして久我山さん。
お二人は普段から仲がいいので、仕事帰りに申し合わせて来たみたい。
ワタシにとって「恩人」でもある久我山さんは、いつもと変わらない小山のような体で、部室の一角を占めていた。
「フー」と溜め息をつきながら、汗を拭いている。
病院で初めて会った時も、あんな風に暑そうにしていたっけ。
「お久しぶりです!」
「あ う うん」
その返事は、どこかぎこちない。
久我山さんに会うのは、昨年末に部室で開いた忘年会以来。その時も久我山さんはどこか元気がない様子だったけど。
ワタシ、何か、失礼なこと言ったっけ……?
「いやいや、悪いネー」
斑目さんの声にハッとする。
気付くと、斑目さんが差し入れビールの礼を言い、現役ちゃんと2人でそれらを配り始めていた。
今日の斑目さんは仕事帰りのサラリーマンらしく、よれたワイシャツにだらしなく弛んだネクタイ。実に良く似合う。
ほかの参加者は、斑目さん、田中さん夫妻、於木野先生、久我山さん、私たち現役会員2人だ。
……………あ、あと朽木先輩(苦笑)。
笹原さんは、普段から編集の仕事がお忙しいので参加できなかったみたいだ。
そして斑目さんは、今回も『高坂さん夫妻』は呼んでいないのかな。
そんなワタシの疑問を代弁するかのように、加奈子先輩が無邪気そうに……いやきっと何かを探るかのように質問を投げかけた。
94 :
となクガ3:2009/06/02(火) 23:41:56 ID:???
「今日は高坂さんは呼んでいないんですか?」
斑目さんの動きがハタと止まったように見えたけど、すぐに、「高坂は呼んだけど、プシュケの新作、追い込み中だってさ」と返した。
「じゃあ、咲さんも来ないですかね」
「残念だけどね。『あの人』はここが潰れるのを期待してるかも知れないから、呼んだら逆効果っしょ」
先輩方一同が軽い笑いに包まれた。
笑いの後、斑目さんはコホン、と軽く咳をすると、声のトーンを高くして「開会」を告げた。
「え〜ッと、人も揃ったことだし、それでは始めようか。第189回、現視研救済対策会議〜ッ!」
うわ出た(笑)。
朽木先輩がよくマネしていたこのコール。斑目さんが元祖らしい。
ワタシが入会した時も、歓迎会でコールされたっけ。
つか、回数多くね?
「……あの、お約束ですが、189回ってどういう意味ですか?」
「これもお約束だけど、『そこは流せ』」
ワタシの疑問は田中さんによって、とっととスルーされた。
「じゃ、まあ最初は経緯の説明から…」
いきなり斑目さんに促されて、末席のワタシは慌てて立ち上がった。
オドオドしながら、掲示板の告知や、サークル自治委員会室での顛末を説明した。
隣に座ってた現役ちゃんがしれっと口をはさむ。
「まあ潰される理由の中でも、会長が会報サボったっていうのもイタいんですけどね」
「おまッ、自分だって同罪ぢゃん!」
まったくこのチビめ。アホ毛を掴んで吊るしたろかとも思ったが、実際「メバエタメ」発行を怠ったのはワタシの責任なので、海より深く反省。
95 :
となクガ3:2009/06/02(火) 23:43:14 ID:???
説明の中、北川自治委員長の言動についての話に触れると、ざわ……ざわ………と、先輩方の間で得体の知れない緊張感が漂ってる。
どんだけ恐れられてるんだ、北川家って(笑)。
ワタシが説明を終えると、斑目さんがハッとした表情を見せた。
「……あ、悪い、ビール空けるの忘れてた」
「そ そうだな。せっかくだから、の 飲みながら話そうぜ」
ぷしゅ、とビールの缶が空けられる音が続く。
斑目さんが音頭を取るべく缶をかかげた。
「えーと、じゃあ現視研が生き残ることを祈って……?」
「え?」
「あ、か…乾杯……?」
みんな微妙な表情で互いのビールを合わせた。
……ていうか先輩、こんな会合で乾杯は要らなかったような……。
気を取り直して、斑目さんが皆に呼び掛けた。
「ええと、サークル自治委員会が現視研の存続を認めるような活動をすればいいんじゃないかな?」
話によれば、10年ほど前の存続危機の時は、活動計画書を提出したそうだ。
ボヤ騒ぎを起こした時には、コミフェス参加を泣く泣く諦めてボランティア活動に取り組んだという。
先輩方も苦労しているんだな。
「誰かアイデアのあるひt……」
「はい」
加奈子先輩が挙手。
「コスプレがいいと思います!」
「君は何年経ってもそれしかないのか……」
96 :
となクガ3:2009/06/02(火) 23:44:31 ID:???
呆れる斑目先輩だが、その隣で田中さんが「悪くないと思うけどなぁ」と、ワタシや現役ちゃんをしげしげ見つめている………ヤバげだ。
「はいはいはーい!」
今度は朽木先輩だ。
「ええと他には……?」
斑目さん、クッチー先輩ガン無視ですか?
「ハイハイ杯ハーーーー井ッ!」
「……では朽木くん……」
「次の学園祭までにバンド演奏をマスターしてですのう…」
「朽木くん、それ何年前のアニメ?」
「第一、自治委員会は秋まで待ってくれないぞ」
「じゃあみんなで映画を撮るとか」
「ほかのSSのマネしちゃだめでしょ」
「あ! でも映画なら衣装としてコスプレできますね(はあと」
「それいいねぇ!」
「そこは黙ってていいデス……」
「『笹原千佳さん』も久しぶりにどうですか、コスプ…」
「結構です!!!!」
何かみんな暴走気味だ……斑目さんもまとめることが出来ない感じ……。
ワタシと現役ちゃんは顔汗で見守るしかできません……。
そんななか、「あ……あのさ……」と、久我山さんがゆっくり控えめに手を挙げた。
97 :
となクガ3:2009/06/02(火) 23:45:53 ID:???
今回はここまでです。
久我山の秘策とは何か?
次回は金曜日くらいです。
スレ汚し失礼しました。
こんばんわ、アクセス規制解除されましたので、平日のど真ん中に突如投下します。
8レスでお送りします。
では。
「彩、大丈夫?」
休憩の際、そう呼びかける神田に対し、沢田は虚ろな顔で笑って応えた。
「ハハ、ハハハハハハ…」
巴「監督、彩壊れてません?」
恵子「でーじょーぶだよ、こういう顔になった時、人間は普段出せない力を出せるんだよ」
アンジェラ「てゆーか、経験者語る?」
豪田「だんだんアンジェラ、バリエーション増えて来たわね」
伊藤「そういうとこまで、モアちゃんに似て来ましたニャー」
そしていよいよ本番となった。
恵子の言う通り、何度も死線をくぐり抜けて来たせいか、沢田の中で何かが目覚めたようであった。
度胸が据わって来たのか、自ら櫓を蹴って発進し、今までで1番の速度で滑空した。
そして本物のドロロばりの素早さで抜刀し、タイミングぴったりでベムに斬り付けた。
だが恵子がカットの声をかけようとして瞬間、事件が起きた。
糸を括り付けていた、崖に打ち込んであった杭が切れたのだ。
確かに糸そのものは頑丈で切れないが、その細い糸が頑丈過ぎる為に、糸によって杭が切断されてしまったのだ。
何度もリハーサルで滑空を繰り返したので、負荷が掛かり過ぎた為であった。
(ちなみに、小野寺が後日語ったところによると、糸の元々の持ち主の死刑囚は、日本に逃げて来た際にある高名な空手家と格闘になり、その手首を糸で切断したそうだ)
その結果、沢田は滑空で加速した状態のまま、突然空中に放り出されることになった。
突然のアクシデントに固まる一同。
だが意外なことに、沢田は体をきりもみ状に回転させ、さらにきりもみ回転中の体を捻り、複雑な回転で落下の衝撃を緩和して、体操競技のような見事な着地をして見せた。
『このままじゃ私死んじゃう!』
空中で死を悟った沢田の脳内で、何かが弾けた。
不意に彼女の脳内に、これまでの19年足らずの生涯の、あらゆるシーンが一挙に蘇った。
『何か、ヤオイネタの漫画とSSばっかりね、私の人生って。これでよかったのかなあ…』
そしてその途端、世界の流れが、コマ送りのようにゆっくりとなった。
あっと言う間に落下しているはずなのに、まだ糸で吊るされながらゆっくりと落下してるように、彼女自身には感じられた。
沢田は落ち着いて体を捻り、徐々に姿勢を整え、足元からゆっくりと着地した。
人は死の間際、これまでの生涯の記憶が、走馬灯のようによみがえると言われている。
この際に人は強烈な集中力を発揮する。
この集中力があれば、あらゆる物の動きがスローに見え、例えばボクサーのパンチやムエタイのキックすら、余裕で見切ることが出来るという。
さらに沢田は集中力に加え、死の直前の極限状態に置かれたことで、大量のアドレナリンが分泌され、普段あり得ない身体能力を発揮した。
沢田の神技的着地は、この2つの要因によるものだった。
着地から数秒遅れて、スタッフ一同から拍手と歓声が上がった。
呆然とする沢田に、みんなが駆け寄り、賛辞の言葉をかけた。
伊藤「凄いですニャー、沢田さん!」
巴「あんな凄い動き、私だって出来ないわよ!」
アンジェラ「てゆーか、疾風怒濤?」
スー「(渡辺久美子似の声で)凄エヨ!オ前絶対あさしん入レルヨ!」
みんなに声をかけられて現実に戻った沢田の中で、再び何かが壊れた。
「ひどいよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」
そう絶叫し、泣きながら走り去る。
それを呆然と見送る一同。
その呆然とする一同には、当然ながら恵子も含まれていた。
いや正確には、糸が切れた瞬間から、恵子はずっと固まっていた。
その呪縛を解いたのは、浅田のひと言だった。
「監督、まだカメラ回しますか?」
そう、突然のことに恵子はカットの言葉が出なかった為に、カメラは回り続けていたのだ。
止めようとした瞬間、恵子の脳内でも何かが閃いた。
そしてこう言い放つ。
「このまま回せ!」
カメラマン一同の目の色が変わった。
恵子のひと言は、カメラマンが最も燃える台詞だからだ。
この映画の撮影によって、浅田と岸野だけでなく、加藤さんと藪崎さんの中にも、カメラマンの本能のようなものが芽生え始めていた。
「すぐにドロロ追っかけろ!」
恵子がそう叫ぶよりも前に、4人は沢田を追って走り出していた。
着ぐるみを着けていた状態ということもあり、沢田は20メートルも走らない内に止まり、体育座りの体勢で蹲っていた。
カメラマンを先頭に追いついた現視研一同に取り囲まれた沢田は、トラウマスイッチの入ったドロロに似た、負のオーラを放っていた。
(解説)トラウマスイッチ
ケロロ小隊のドロロは、子供時代は虚弱体質で、幼馴染のケロロから、悪質ないたずらや悪ふざけの標的にされがちだった。
その為ドロロは、今でも何らかの拍子に過去の記憶が甦ると、いじけて延々と陰にこもる。
その状態を通常「トラウマスイッチON」と表現する。
沢田は何やらブツブツとつぶやいていた。
録音係の沢田が出番な為に、今日だけ録音係を務める台場が、沢田にマイクを向ける。
「いつもこうなんだ、監督は。この間の屋根から逆さ吊りの時だって…」
そんな愚痴を延々と続ける沢田に、呆然とする一同。
豪田「どうしよう、彩がリアルトラウマモードドロロになっちゃった…」
荻上会長が沢田に近寄ろうとしたその時、いち早く恵子が沢田に駆け寄った。
そしてドロロの頭部を外す。
頭にタオルを巻いた沢田の泣き顔が見えた。
その肩に手を置いて、恵子は優しい笑顔で言った。
「よくやったな彩。おかげでいい画が撮れたよ。ありがとう」
そう言われた沢田、泣き崩れつつ恵子の胸にすがり付いた。
なだめるように頭を撫でてやる恵子、カメラマンに叫んだ。
「よしカット!お疲れ!」
このドロロの糸が切れてからトラウマモード解除までの一連のシーンは、後日学祭にて本編と同時上映された、メイキング映画のクライマックスに使われた。
その後、沢田が落ち着きを取り戻したので、ドロロでいくつかの予備カットを撮って、その日の撮影は終了した。
そこで再び事件が起きた。
櫓を撤去する際に、伊藤が櫓を倒してしまったのだ。
櫓が倒れた先には、台場が居た。
一同「危ない!」
だが台場は俊敏な動きで横っ飛びし、サッカーのゴールなら端から端まで届きそうな飛距離のジャンプを見せて、櫓をかわした。
しかも着地の際には、空中で1回転して見事な着地を決めた。
一瞬呆然とする一同。
台場の運動神経がいいことは、4日目の撮影で知っていたが、前回はソフトボールのピッチャー役だったので、こういう形での披露は無かったからだ。
(夏美のソフトボール部助太刀のシーンでの、相手チームのピッチャー役だった)
真っ先に我に返ったのは、伊藤だった。
「(駆け寄りつつ)ごっ、ごめんなさいだニャー台場さん!」
みんなも我に返り、台場に駆け寄る。
日垣「大丈夫?」
巴「怪我無かった?」
台場「うん、大丈夫」
豪田「それにしても、凄い動きだったわね」
巴「ほんとほんと、私でも無理かも」
アンジェラ「てゆーか八面六臂?」
ただ1人、恵子だけは動かなかった。
そして台場を見つめ、何か考え込んでいた。
やがて考えがまとまったのか、みんなに近付く。
恵子「おい伊藤、その櫓今日中に返さなきゃいけねえのか?」
伊藤「まあそういう約束ですが…」
恵子「すまんがもう1日借りれるように、頼んでくれるか?」
一同「えっ?」
伊藤「まあ、この季節なら使わないだろうし、何とか頼んでみますニャー」
恵子「よしっ。おい日垣、ちょっと耳貸せ」
大きく体を傾けて、耳を寄せる日垣に、恵子が耳打ちする。
日垣「(恵子から離れ)えっ、今夜中にですか!?」
恵子「無理か?無理ならもちっと借りれるように、伊藤に頼ませるけど」
日垣「い、いえ、何とかやってみます。ただ台場さん、目が悪いのがちょっと…」
恵子「あっそうか…(少し考え込み)大丈夫、何とかするから、ちょっと待ってろ」
一同「???」
恵子「晴海、お前眼鏡無しじゃ動けないか?」
台場「ちょっと厳しいですね。視力0,1無いですし、乱視入ってますから」
恵子「そっか…予備の眼鏡とかあるか?」
台場「(自分のバッグから眼鏡を出し)ええありますよ。割ったら大変なんで、いつも持ち歩いてるんです」
恵子「(眼鏡を取り)わりい、ちと借りるぞ」
台場「あっ…」
恵子は眼鏡を日垣に渡した。
恵子「ちょっと耳貸せ(何やら日垣に耳打ちする)」
日垣「ああなるほど、それなら何とかなりますよ」
荻上「あの、何やるつもりなんです?」
恵子「それは明日の、お・た・の・し・み」
そして翌日。
本日櫓の上に立ったのは、台場だった。
目のところに仮面を着け、ミニスカートの忍者風コス姿だった。
つまり恵子は台場のずば抜けた身のこなしを見て、東谷小雪役として急遽抜擢し、当初の脚本に無かった小雪の登場シーンを追加したのだ。
小雪はドロロの相棒的存在の、くの一の少女である。
「大丈夫、日垣君?」
そう国松に声をかけられた日垣は、目の下に隅が出来ていた。
日垣「大丈夫だよ。まあ結局、徹夜になっちゃったから眠いけどね」
国松「それにしてもひと晩で、よくあのコス作れたわね。それも仮面のとこに、眼鏡のレンズ組み込むなんて芸コマなことやって」
日垣「まあ小雪のコスは簡単だからね。それに手甲脚絆と刀は、部室のコス在庫の中にあったし」
台場は昨日の沢田以上に、きわどいアクションをこなした。
基本的なアクションは昨日同様、特殊繊維の糸を高速で滑ってベムに迫り、切り付けるという流れだが、空中で腰の後ろの刀に手を回す際に、背中の糸の輪の結び目を解くからだ。
これにより、台場は空中で糸から解放されることになる。
そして空中で抜刀して、フライングボディーアタックのように、切り付けつつ体当たりし、その反動で飛び上がってバク転して着地という流れだ。
台場はリハーサル1回だけで、本番も1発オッケーだった。
浅田「それにしても台場さん、才能無駄使いしてるなあ。体育大学入って体操でもやってたら、いい線行ってたんじゃないか?」
急遽追加された小雪の登場シーンの撮影が終わり、現視研一行は休憩に入った。
この後は、タママ、ギロロ、ドロロの3人が、ベムに吹っ飛ばされて岩にぶつかるシーンの撮影だ。
休憩する一行の方に、見慣れた軽トラが近づいて来た。
斑目の会社の軽トラだ。
斑目「よう、差し入れ持って来たぜ」
斑目が出した差し入れとは、ジュース類だった。
荻上「ありがとうございます。(会員たちに)ちょうどいいから、このままお昼にしましょうか」
斑目も昼飯を用意していたので、現視研一行と一緒に昼食を取りつつ、談笑し始めた。
そんな中、談笑中の斑目に鋭い視線を向ける者が居た。
恵子だ。
楽しそうに会員たちと話す斑目を、食い入るように見つめる。
やがて恵子の中で、ある考えがまとまった。
そして斑目に近付き、不意にその肩に腕を回した。
恵子と言えども、女子の体に接触したことに過剰反応し、赤面滝汗になる斑目。
恵子「ラメさん、明日の土曜日ヒマ?」
斑目「まっ、まあヒマだけど…」
恵子「そんじゃあさあ、明日もここに来てくれるかなあ?」
斑目「はいっ?」
恵子「(斑目に半ば抱き付くようにして)オッケー?」
斑目「はっ、はいっ!」
総受け体質ゆえに、つい承諾してしまう斑目であった。
恵子「よしっ、伊藤、日垣、千里、ミッチー、ちょっとこち来い」
呼ばれた面々が集まると、恵子は円陣を組むようにして何やら話し始めた。
今夜はこれまでです。
次回斑目の運命やいかに!?
すいませんすいませんすいません!
バキネタ連発してすいません!
似たような引き繰り返してすいません!
お返事その他も少々。
>>49>>50 正解です。
>となクガ3
>「じゃあみんなで映画を撮るとか」
>「ほかのSSのマネしちゃだめでしょ」
うちのことっすかw
まあやれるかどうかはともかく、アイディア出す前向きな姿勢は買いましょう、朽木君。
あと大野さん(て言うか加奈子さん)
>「コスプレがいいと思います!」
相変わらずやなw
クガピーの活躍、楽しみに待ってます。
ではまた。
30人いる!を読んでケロロ軍曹に詳しくなった。
謝罪と賠s
109 :
となクガ3:2009/06/05(金) 23:08:46 ID:???
すんません。
今日は休みます。
明日夜までに投下予定。
別に「落ちた」から休むわけぢゃないぜ?
111 :
となクガ3:2009/06/06(土) 18:45:44 ID:???
>30人いる!
ケロロも好きな自分は、凄い楽しいです。
斑目さんの運命に、前もって乾杯wwww
東谷小雪のコスプレか……もちろんニンジャコスの下は「白」ッスよね!
112 :
となクガ3:2009/06/06(土) 18:46:51 ID:???
【8】
久我山さんが自分の提案をしゃべった後、現視研部室は異様な沈黙に包まれた。
それまでは、
もうとにかくコスプレしたい人(田中夫妻)とか、
もうとにかく何かヤリたい人(朽木先輩)とか、
呆れかえってるだけ(於木野先生)とか、
もはや収集つかずに斑目さんはオタオタするばかりだった。
だけど、久我山さんの提案の後、皆が静まりかえった。
私も、何を言われたのか一瞬理解できなかった。
「ちょ…と、久我山、もう一回言ってくれる?」
斑目さんが問い直した。
久我山さんはめんどくさそうに、また恥ずかしそうに、さっきと同じ言葉をみんなに投げかけた。
「こ コミフェスにサークル参加して、同人誌作成と販売で、じ 実績をつくったらどうかな?」
コミフェスとは……「コミックフェスティバル」の略で、オタク界最大のイベントだ。今年の夏で92回目を数え、ワタシたちも「夏コミ」とか「C92」と呼んでる。
ウチ(現視研)も、例年3日間の一般参加で同人誌を買いまくる予定だった…。
ここ数日の廃部騒ぎで、ワタシもすっかり今年のコミフェスのことを忘れていた。
113 :
となクガ3:2009/06/06(土) 18:48:37 ID:???
久我山さんの発言から一拍置いて、先輩方からは「ええええ?」と驚きの声があがり、一斉に異論を唱えだした。
「おいおい、漫研もコミフェス参加してたけど、あれ非公式だったぜ」
「しかもエロはヤバイだろう……」
「営利目的と間違われて目をつけられちゃうんじゃないですか? それよりはコミフェスでコスプレした様子を写真に収めて…(以下不毛なので省略)」
「第一、コミフェスの参加申し込みなんて2月に終わってるじゃないすか。……って……ひょっとして久我山さん?」
於木野先生が途中で何かに気付いたようにハッと目を見開いた。
久我山さんはタオルハンカチで額の汗をぬぐった。
末席のワタシの方にまで、久我山さんの緊張が伝わってくるみたい。
久我山さんはフー、と一息つくと、「いちいち説明すんの、に 苦手なんだけどな…」と前置きをした上で語り始めた。
「お おれ、今年のコミフェス受かったんだよね。さ サークル参加……」
「あ あとエロは描かないつもりだったから……」
「それと、全年齢誌を提出した上で、う 売り上げをどっかに寄付ってのは だ ダメかな……」
怪訝な顔して斑目さんが挙手した。
「サークル名はどうなってんの?」
「ちょうどさ、む 昔やった時みたいに、ひらがなの『げんしけん』で申し込んでいたんだよね……」
斑目さんや田中さんが、「おおー」と声を上げた。
114 :
となクガ3:2009/06/06(土) 18:49:53 ID:???
ワタシも現視研に入り立ての時に見たことがある、久我山さんたちが描いた成人向け同人誌「いろはごっこ」。
あれを完売したという思い出が、先輩方の中に共有されているんだ。
買い専だけの現視研が、最初で最後のサークル参加をやりとげた思い出が……。
久我山さんも、その時のことを思い出したのか、しばらく沈黙していた。
そして、言葉をつないだ。
「み みんなの中でヒマな奴いたら、さ 誘おうかと思ってたから、ちょうど良かったんだよ……」
でも、ワタシはその時、気付いてしまった。
思い出の「げんしけん」の名でサークル参加した久我山さんの意図を。
全年齢向けで、売り上げは寄付するという無欲さに。
きっと、去年の冬から思いを温めていたのかもしれない。
だから、ワタシの前で、あんなに、ぎこちなかったんだ。
夢を棄てるから。
これが最期だから。
この人きっと、漫画描くの辞めてしまうんだ………。
115 :
となクガ3:2009/06/06(土) 18:53:34 ID:???
今回は以上です。
小出し細切れでスミマセン。
サークル参加落ちた直後に、サークル参加受かった奴の話を書くとは………orz
>>110氏、温かい励ましありがとうございました。
「ワタシ」の小学生時代と、大学生になってから、互いの夢について語らった久我山が、自分の夢を棄てようとする。
果たしてどう展開するのか………これから考えますw
ちなみに、そんなにシリアスにはなりませんよ。
次回はたぶん火曜日です。
スレ汚し失礼しました。
こんばんわ、またバカが来ました。
今日も8レスです。
では。
「何ですと〜!?」
恵子が集めた面子が、一斉に声を上げた。
荻上「どうしたの?」
恵子「明日ちょっとだけ追加シーンを撮るんだよ」
一同「追加シーン?」
恵子「(斑目の肩に腕を回し)主演はこの旦那さ」
斑目「俺〜!?」
一同「何ですと〜!?」
恵子「で、助演はミッチーだ」
一同「何ですと〜!?」
恵子「まあ金髪キャラなんで、スーってのも考えたんだけど、スーじゃちっこ過ぎるからな」
一同「金髪キャラ!?」
ちなみに後述するが、神田の演じる予定のキャラの設定上の身長は148センチなので、身長の問題に限って言えば、実はスーでも問題無い。
伊藤「また町内会に延滞のお願いしなきゃならんですニャー。まあ多分それは大丈夫だけど、シナリオも今夜中に直しですニャー」
国松「伊藤君、演じる人が人だから、シナリオ出来次第連絡ちょうだい。操演(主にミニチュア等を吊っての特撮のこと)の仕掛け、考えるから」
伊藤「了解ですニャー」
日垣「今日は寝られるかなあ…」
国松「幸いマスク以外は有り物で流用出来そうだから、後で田中先輩に連絡してみましょうよ」
日垣「そのマスクが手間なんだけどね」
神田「私4日目に顔出しで出てる(夏美が助っ人に入ったソフトボール部の対戦チームの1人)けど、大丈夫かな?」
伊藤「試写で見た限りでは、真正面から顔映ってるショットは少ないから、何とか誤魔化せますニャー」
荻上「いったい何をやるつもりなんです?」
恵子「それは明日のお・た・の・し・み」
「すいません、急な話で」
日垣は国松と共に頭を下げた。
「いいよいいよ、まあ中に入ってよ」
自室のドアの前で、出迎えた田中が応えた。
2人は田中の自室に入ると、田中に今回コスの必要なキャラのイラストを見せた。
田中「なるほど、これなら大半は有り物で済みそうだな。問題はマスクだけか」
日垣「どうもお手数をお掛けします」
田中の自室を見渡す2人。
日常生活とコス作りに必要なスペースを除いて、部屋はコスで占領されていた。
田中「たださあ、ここにあるコスの9割は大野さんのだからなあ…向かいに探しに行くかな」
2人「向かい?」
田中は2人を連れて自室を出ると、アパートの向かいにあるガレージに向かった。
1台1台の駐車スペースに、ちゃんと屋根も壁もあり、入り口がシャッターになっているタイプのものだ。
シャッターの1つを田中が開けると、2人は思わず感嘆の声を上げた。
「こっ、これは?」
ガレージの中には、所狭しとコスが並んでいた。
こちらは自室と違い、男性用と思われる物や、大野さんには明らかに小さい物など、バラエティーに富んでいる。
田中「俺の部屋には置き切れない分の置き場として、ここを借りてるんだよ」
国松「そうだったんですか、私はまたてっきり、車でどこかに取りに行くのかと」
田中「(苦笑して)俺は車は持ってないよ。そんな金無いし」
日垣「でもこのコスって、誰用なんですか?失礼ですけど、サイズ的に大野先輩用とも田中先輩用とも思えないんですけど」
田中「大学の外のレイヤー仲間のだよ」
国松「そりゃまたどういうことです?」
田中は事情を説明し始めた。
大野さんと付き合い始めてからは、大野さんのコスばかり作っていた田中だったが、それ以前は主にイベント会場で知り合った、レイヤー仲間のコスを作っていた。
(まあたまに、春日部さんや荻上会長のコスも作ってたけど)
田中のコスは仲間内でも好評だったので、注文は殺到した。
多くの仲間は多額の謝礼を払おうとしたが、田中は材料費プラスアルファ程度の金額しかもらわなかった。
それでも大野さんのコスの材料費を賄える程度の稼ぎにはなった。
ただ問題は、コスのその後であった。
不朽の名作のキャラのように汎用性の高いコスならともかく、その時の流行りの作品のキャラのコスは、多くの場合1回限りの消耗品である。
(同時期にイベントが続けば、続けて使用することもあるだろうが)
その為イベント終了後、死蔵品と化すコスも多い。
ここで多くのレイヤーは、コスの処遇に困る。
安い市販品ならば捨ててしまう場合も有り得るが、田中の渾身の作ともなると、とても捨てる気にはなれない。
かと言って、田中のレイヤー仲間に限っては、家に置いておくのも問題があった。
田中は中学の頃からコスを作っていた。
ガレージに置いてあるコスの多くは、中学から高校にかけての時期に作ったものであった。
田中の趣味に理解のある(と言うよりあきらめている)田中の家族と違い、多くの未成年のレイヤーの家族は、コスプレには無理解だ。
田中の中学時代が90年代末ということもあり、まだ世間一般にはコスプレというものは、変態趣味の一種のように思われていたからだ。
田中「そんな訳で、結局使用後のコスの多くは、俺が引き取ったって次第さ」
国松「まるで無縁仏の供養ですね」
そして翌日。
崖の上に立ち、斑目は叫んだ。
「何で俺はここに居る〜!?」
その傍らに立った神田が、にこやかにツッコんだ。
「それ今日7回目ですよ」
今日の斑目の服装は、皮ジャンにジーンズにブーツという、普段あまり見られない格好だ。
その下には厚めにパットか何か入れているらしく、斑目にしては筋肉質なフォルムになっていた。
そしてその顔は、メカニカルでメタリックなマスクで覆われていた。
一方傍らの神田は、上半身は白いシャツの上からベスト、下半身はミニスカートにブーツという格好だ。
ベストとミニスカートにはフリンジ(ウェスタン・ファッションによく見られる、ヒラヒラの飾り)が付いている。
そして頭には金髪のヅラを被り、さらにその上から、バニーガールのようなウサギの耳状の飾りを着けていた。
つまり斑目と神田は、宇宙探偵556(コゴロー)とその妹ラビーを演じるのだ。
宇宙探偵556とは、ケロロの幼馴染のヒューマノイド型宇宙人で、姿形は「宇宙刑事ギャバン」の大葉健二に似ている。
(て言うか、大葉健二をモデルにして、キャラデザインされている)
「おーいミッチー、そろそろ撮影始めるから下がれ!」
崖の下から恵子が叫んだ。
その周囲には、撮影スタッフが待機していた。
ちなみに今日の記録係は、台場が担当する。
恵子「斑目さーん、昨夜ちゃんと練習して来たかー!?」
「ああ、ちゃんとビデオ見ながらやったよー!」
そう言うと斑目は、大きく脚を左右に広げて少し腰を落とし、体を左右に捻りながら、両手を振ったり上げたり前に出したりして、ポーズを決めた。
練習したのは本当らしく、一夜漬けにしては様になっていた。
本日撮影するのは、次のようなシーンだった。
@崖の上に556登場
A崖から飛ぶ556
B空中からベムに斬り付けるものの、撃退される556
C吹っ飛ばされてダウンする556と、その横で謝るラビー
@のシーンはほぼその通りだが、Aはもちろん本当に飛ぶ訳じゃなく、崖によく似た形の、高さ1メートルほどの岩から飛び降りて撮影する。
上手い具合にその低い岩の背後は開けているので、煽りで撮れば誤魔化せる。
Bは先日沢田や台場が使った、櫓と崖の間に張った特殊繊維の糸を伝って飛んでの撮影だ。
斑目は受身の特訓はやっておらず、ぶっつけ本番に等しいので、ベムに叩き落とされたところでカットし、Cは分けて撮影する。
Cは岩型のマットを密集させておき、そこへ2人掛かりでゆっくりと斑目をスローイング。そこへ神田が割り込んで、いつもの台詞「すみませんすみません、兄が役立たずですみません」と謝るという流れだ。
恵子「あれっ、日垣は?」
国松「バスの中で寝てますよ。昨日も徹夜だったんで」
恵子「わりいけど、そろそろ起こしてくれ。あいつも吊るす係に要るし」
国松「分かりました」
バスに向かう国松。
伊藤「日垣君は大変ですニャー。ひと晩で556のマスク作っちゃうんだから。その点僕は脚本の追加と、櫓のレンタルの延滞のお願いだけでしたからニャー」
荻上「ところで恵子さん、何で斑目さんのシーンを追加したの?」
恵子「いやさあ、ラメさんの声聞いてたら、556に似てるなあと思ってさあ」
荻上『中の人ネタかい!』
SSの登場人物がやってはまずい、危険なツッコミをつい心の中でやってしまった、荻上会長であった。
何度かリハーサルを繰り返し、いよいよ本番となった。
やはり撮影は、冥府魔道の道行きとなった。
@とAは順調に1発オッケーだった。
Bを撮影する前に落ちる感覚を味わった方がいいと考えたのか、Bの失敗で負傷した場合でも完成出来るようにする為か、先にCを撮影し、これも1発でオッケーだった。
問題は実際に斑目が吊るされるBであった。
何回も斑目をダイブさせる訳に行かないと考えたのか、Bだけはリハーサル段階から実際にカメラを回した。
もし使える画があれば、それも使うのだ
「ひええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
やはり斑目も悲鳴を上げた。
居合抜きをやった沢田や台場と違い、斑目は吊られるスタート地点から竹刀を握った。
これをベムに空中から斬り付け、それをベムが防いで556を叩き落すという流れだ。
得物が竹刀なのは決してギャグではなく、ケロロ本編でも556の武器が竹刀だからだ。
(まあその設定自体がギャグなのだが)
556の武器はレーザー竹刀と言い、刀身の部分にレーザーの刃を張り、それで斬り付けるというものだ。
(ちなみに556の元ネタになった宇宙刑事ギャバンは、実剣の刀身部にレーザーの刃を張るレーザーブレードを使う)
この殺陣が予想以上に大変だった。
さほど運動神経がいい訳でもない斑目が、慣れない吊り特撮で吊るされたのに加え、刀身の長い竹刀を持つことで、バランスが取りにくいのだ。
竹刀を振るう以前に、まっすぐ滑空することが出来ない為に、結果斑目は10数回以上も滑空する破目になった。
神田「シゲさん、大丈夫ですか?」
マスクと眼鏡を外し、大の字になった斑目に、神田は声をかけた。
(注)日垣の作った556のマスクは、眼鏡をかけたまま装着出来るのだ。
斑目「ははは…アムロ、時が見えるわ…」
スー「酸素欠乏症でありますなあ」
アンジェラ「そういうことなら私が…」
藪崎「何や、また人工呼吸か?」
図星だったらしく、滝汗状態でピタリと止まるアンジェラ。
だが立ち直りは早かった。
アンジェラ「(斑目の手を取り、自分の胸に持って行きつつ)じゃあ心臓マッサージで…」
藪崎「(アンジェラの手を取り)ちょ待て!心臓マッサージする方が、相手の手え胸に持ってってどうすんねん!?」
アンジェラ「あっ、間違えたあるね、テヘッ」
藪崎「間違え過ぎや!」
国松「あの、コントやってる場合じゃないんですけど…」
スー「押忍!しからば、また自分がテリオスで…」
沢田「いやスーちゃん、シゲさん意識はあるから!」
(注)スーは夏コミで、気絶して心停止した斑目の心臓にブーメランテリオスをぶち込み、蘇生させることに成功している。
詳しくは「26人いる!」参照。
「お前ら、何やってんだ?」
背後からかかった声に一行が振り返ると、そこには春日部さんが立っていた。
恵子「姉さん?」
荻上「こんちわ、どうしたんですか今日は?」
春日部「この近くに住んでる、店の出資者の人に用があってな。そのついでに大学に寄ってみたんだけど、ここでロケしてるって貼り紙があったから、来てみたって訳さ」
朽木「(敬礼し)見回りご苦労様であります!」
春日部「で、何かあったのか?」
荻上「実は…」
荻上会長が春日部さんに事情を話してる間、恵子は2人と斑目を交互に見つつ何か考え始めた。
そしてある考えがまとまった。
恵子「姉さん、あっ春日部姉さんの方ね、ちょっとこっちへ」
春日部「何だよ、猫でも呼ぶような手招きしやがって」
恵子は春日部さんに何やら耳打ちした。
春日部「いいのか、そんなことして?」
恵子「多分その方が元気出ると思うんだ、斑目さん」
春日部「(少し考え)じゃあやるか」
春日部さんは斑目に近付く。
斑目はまだ目が虚ろだ。
春日部さんは斑目に馬乗りになり、往復ビンタをかました。
斑目「(慌てて眼鏡をかけ)なっ、なっ、なっ?????」
春日部「目え覚ませ、斑目!」
それを見てハラハラする一同。
だが恵子は自信満々の表情だ。
次第に斑目の目の焦点が合い、意識がはっきりして来た。
そして最大出力で赤面滝汗状態になった。
斑目「かっかっかっ春日部さん、なっ何やってるの?」
春日部「そりゃこっちの台詞だ。後輩の映画に出てやるんなら、気ぃ入れてやれよ」
春日部さんが上から退き、斑目もようやく立ち上がる。
『やっぱり俺、まだ今のとこは、春日部さんの愛の鞭が、1番効くみたいだな』
この春日部さんの愛の鞭効果により、斑目は空中で竹刀を振るうことに成功した。
まあもっとも、もちろんそれだけではなかった。
日垣と国松によって、斑目の体のあらゆる箇所に、蜘蛛の巣のように縦横無尽に糸を張り巡らし、カメラの外から糸で引っ張って、操った結果でもあった。
斑目「俺はサンダーバードの人形ですか…」
以上です。
本文で抜けた説明をチト補足。
本家の宇宙刑事が、全身にコンバット・スーツを装着(「蒸着」という)するのに対し、そのパロの556のコンバット・スーツは、マスクのみです。
(ちなみに装着時の掛け声は「癒着!」です)
次回、またもや新章に突入しますが、ここまで順調に進んできた撮影現場に、ある危機が訪れます。
果たして現視研の運命やいかに。
お返事も少々。
>>108 ごめんなさいですぅ。
今週のケロロ、げんしけんファンはニヤリとする内容だったと思います。
>>111 ちなみに小雪、原作ではふんどしです。
>となクガ3
久我山の真田さんっぷり(こんなこともあろうかと)に感動。
次回もお待ちしております。
ではまた。
斑目さんと556の声が同じだからって強引な……
いいぞもっとやれ!
>今週のケロロ、げんしけんファンはニヤリとする内容だったと思います。
未見なのでkwsk
やはり声優つながりでしょうか?
128 :
となクガ3:2009/06/09(火) 22:03:43 ID:???
>30人
春日部さんって、実に便利だ(斑目的に)
斑目でコゴロー(556)とは、ちょっと細身すぎると思ったが、衣装とパットで誤魔化すとはw
「大葉健二」の4文字をSSの中に見て、男の子の血が熱く滾るのを感じるぜ!
チェイス!チェイス!チェイス!ギャバーン!
ファイト!ファイト!ファイト!ギャバーン!
……で、となクガですが今回お休みします。
代替で、今日と明日に分けて「別の話」を投下します。
すみませぬ。
斑目の「理性」と「萌え」とを比べれば
ハズカシながら萌えが勝つ
恥も外聞もねえものか
浜の真砂は尽きるとも
尽きぬグッズの数々を
集めるオタの裏家業
春日部様でも理解できめぇ
※ ※
初代元締、田中、久我山の3人が去って行った椎応長屋。
元禄由来視覚之文化研究會(元視研)の部屋では、二代目元締となった斑目が、上座で肩肘をついて虚空を眺めていた。
眼前では、田中が奉公していた大野屋の若女将お加奈が、咲に「こすぷれ」を強要していた。
「咲さん、西洋の奉仕給仕“めいど”の濃姿腐麗(こすぷれ)をしてみませんか?」
「絶対してみません」
「その冥土とやらの衣装は誰が作るのよ」
「“めいど”です。上方から田中さんが送ってくれますから!」
「私の寸法、分かるの……?」
「ええ、江戸出立前に見た感じで寸法も分かったって言ってましたから、安心してください」
「いや安心って……。まぁいいや、じゃアタシカエルカラ!」
「ああっ、咲さん逃げないでくださいよ」
「私は高坂を探しにきただけだってば!」
斑目の横で絵草紙を読んでいた完士が、顔を上げて咲の叫びに答える。
「あー、高坂君ならもうそろそろ来ると思うよ」
彼もすっかりこの場に馴染み、空気のような存在になっている。
その時ガラリ、と戸が開いた。
「あ、高坂たすけ……」
「コニャニャチワー! おろ、春日部女史どうされたんでありますか?」
これまた新入りの朽木だった。彼も最近、元視研にやってきて、空気を読まない言動で場を凍らせている。
力なく崩れ落ちる咲。
あきれた斑目は、在所無さげに席を立った。
「……俺、ちょっと傘の納品行ってくるわ」
※ ※
新・必殺御宅人
第壱話「筆頭無用」
※ ※
斑目は張り込んだ傘の束を抱え、木場の材木が立ち並ぶ裏通りを歩き、問屋への近道を急ぐ。
ふと目の前を、ヒュンと音を立てて何かがかすめた。
ガスッと音を立ててクナイが材木に突き刺さる。
慌てる斑目。
気配も感じさせずに、背の高い女が背後から駆け寄ってきた。女は無造作に流れる髪が顔前にかかっていて、その表情は伺い知れない。
咄嗟に気付いて二、三歩後ずさりする斑目の、その足もとを追うように、女の投げるクナイが次々に飛んできた。
何本かのクナイは急所に向けて放たれ、斑目は必死に傘でそれを防ぐ。
「な、何者だテメー?」
斑目は、やや声を振るわせながら竹刀の柄に手をかけた。その時、背後から上方なまりの女の声が聞こえてきた。
「加藤さん!いっそのことイテマエ!」
斑目が振り向くと、ドスを握りしめた太めの女が立っていた。2人とも見た所は町娘のようだが、上方なまりの方は殺気だっている。
挟み撃ちだ……しかし、「加藤」と呼ばれた女は静かな口調で相方に、「だめ。今日は足止めだけよ」と答えた。
(その割には急所狙ってたんですけど!)斑目は心中で突っ込む。
太めの女は、フンと鼻息も荒く、「おもんないわ!」と叫んでドスを収めた。
「あー、そこまでそこまで! ちょっと待ってよ2人とも!」
商人風の小太りの男が、斑目と女たちの間にドタドタと走り込んできた。背の高い女は、細い足が見える裾をめくり、クナイを収めた。
斑目は割って入った男を見やり、眉をひそめ目を細めて商人の顔を見る。
「ヤナ……か?」
「久しいな斑目」
北斎に端を発する「漫画」を研究研鑽する御宅人の寄り合い(サークル)「漫研」の元締・高柳である。彼は斑目とは旧知の仲であった。
御宅の元締2人は、人気のない橋の下の河原に移動した。女御宅人2人は高柳を護るためか、橋の上で「黄昏れるふり」をして待機している。
「お前、元視研の元締になったそうだな。今日は“元締様”にお願いしたいことがあるんだ」
「お願いにしちゃ物騒だな……」斑目は橋の上を一瞥する。
加藤と呼ばれた女御宅人が応える。
「わるいねぇ旦那。うちらも事情があって殺伐としてるんですよ。ねぇ藪」
「藪」と呼ばれたもう一人は、納得いかない表情でそっぽを向いていた。
後に斑目が聞き入れた、高柳の「お願い」が、元視研にとってやっかいな事を持ち込もうとは、斑目自身は予想もしていなかった。
翌日、元視研部屋には、高柳に連れられて、若い娘がやってきた。
咲や加奈よりも少し年若だが、無愛想な表情を崩さない。
しかも若い侍のように、少し大きめの着流しを着崩して、女であることを拒否しているかのようだ。
高柳が手ぬぐいで汗を拭きつつ傍らの娘を紹介した。
「ええっと。彼女はどうやら、北の方から流離ってきたみたいなんだよね。しばらくうちの寄合に身を寄せてたんだけど……、他の連中と折り合いが悪くてね。元視研で預かってくれないかな……と」
高柳に挨拶を促されたお千佳は、ムスッとしたままで口を開いた。
「奥州無宿、千佳です」
ここまでは良かったが、千佳はすぐに周りを一瞥して言葉をつないだ。
「私は御宅が嫌いです」
固まる元視研一同。
「特に女御宅が嫌いです」
お加奈のこめかみに青い筋が浮かぶ。ビキビキ
「どーしてそんなに衆道が好きなんですか?」
(※衆道…日本における男性による同性愛・少年愛の名称・形態by wiki)
お加奈が力一杯握り拳を掲げて反論した。
「衆道の嫌いな女子なんていません!」
(こりゃまた、やっかいなのを預かったなあ……)
斑目はチラリと高柳を見た。
泣きそうな顔で手を合わせる旧友に、苦笑いが漏れる斑目であった。
(後半へつづく)
明日後半を投下すると思います。
スレ汚し失礼しました。
136 :
御宅人:2009/06/10(水) 20:50:14 ID:???
いま京都で飲んでます。
たぶん続きは明日にさせていただきます。
御宅人続きキテター
wktkしながら待ってまっす
138 :
御宅人:2009/06/11(木) 15:08:10 ID:???
すんません。
また休みます……。
御宅人の方ってまとめスレ管理人さん?
たぶん違う
三沢さん……
すいません、またアクセス規制になっちゃいました。(多分「となクガ3」の人もそうなのでしょう)
解除次第続きをお送りしますので、どうぞよしなに。
お返事も少しだけ。
>>127 プルル看護長(中の人は春日部さんの人)の口元にしわを発見して、ケロロ小隊の面々オロオロという展開。
ちなみに実はゴミが付いてただけというオチでした。
>>128 すいませんすいませんすいません、春日部さんを便利屋に使ってすいません。
まあ原作世界でも、これよりはもっと曖昧な、付かず離れずな関係が続きそうな気がします、春日部さんと斑目。
>御宅人
筆頭キター!筆の人も裏の仕事やるのか楽しみです。
ではまた。
おお、解除したようだのう
原作終わったの結構前なのに未だに二次創作のスレがあるってすごいな・・・
いまさら原作にはまった俺歓喜
こんばんわ、アクセス規制も解除になったことですし、再開します。
本日は5レスだけ参ります。
では。
第16章 笹原恵子の慟哭
ここまでの所、恵子は普段の彼女からは考えられない、細部にまで渡るこだわりを見せて、撮影を進めて来た。
現視研の面々も、ノリにノッて撮影に臨んで来た。
しかしその一方で、彼女のこだわりに対し、多少の不満が無い訳でも無かった。
何しろNGがとてつもなく多いので、なかなか進まない。
それに加え、思い付きによる追加シーンも多いので、その準備担当者の強いられる労苦は半端ではなかった。
(中でもコス担当の日垣は撮影期間中、数度の徹夜を経験することになった)
そんな不満が、あるシーンの撮影の際、遂に表面化した。
問題のシーンは、ケロロ小隊とベムの戦いで、ケロロがベムと戦うシーンだ。
遂にケロロが自らベムに立ち向かおうとしたその時、ベムが錬金術でバナナの皮を生成してポイ捨て、つい反応してそれに向かってケロロが走り、すっ転ぶという流れだ。
(注釈)
ケロロはバナナの皮を見ると、芸人魂に目覚めてしまい、ついついすっ転ぶべく、バナナの皮を踏みに走ってしまう習性がある。
撮影前、スタッフは撮影現場の造成地の地面を浅く掘り、3枚の畳を埋め込んだ。
周囲の地面と同じ色に塗られている上に、その上に軽く土を撒いてあるので、畳が埋まっているようには見えない。
そこにバナナの皮を置き、荻上会長扮するケロロが走り込んで来て、畳の上でコケを決めようという訳だ。
わざわざ畳を埋め込んだのは、いくら受身の特訓をしたとは言え、所詮付け焼刃だからだ。
硬い土の地面での受身は、柔道やレスリングの熟練者でもきつい。
ましてや荻上会長は、滑って大きく前に両脚を振り上げて、跳び上がって背中から落ちるようにして受身を取るから、なおさらである。
このシーンでもまた、恵子のリテイク地獄は続いた。
荻上会長は、何度も何度も派手に滑ってすっ転び、ハードな受身を取るが恵子はOKを出さない。
恵子「わりい、何て言うのかな、姉さんのコケさあ、コケるんじゃなくて、受身を取りに行ってるように見えちゃうんだよな」
豪田「そんな無茶ですよ、監督!荻様はプロのスタントマンじゃないんですから!」
恵子「んなこたあ分かってるよ。でもさあ、何て言うか…(荻上会長に)すまね姉さん」
沢田「でもこのままじゃ、荻様が持たないですよ」
恵子「んーしゃあねえな、1回休憩行こうか」
10回目のNGを出したところで、恵子は休憩を宣言した。
恵子「あたしゃトイレ行って来るから」
伊藤「監督、車出しましょうかニャー?」
恵子「いいよ、テントでやるから」
浅田と岸野が作った簡易トイレは、当初はほとんど男子専用になっていたが、この頃には女子もこだわらずに使う者が多くなっていた。
荻上会長は、ケロロのスーツを脱いで、ビキニ姿で横になって休憩していた。
貧乳とは言え、普段なら男子ハアハアものの光景だが、汗まみれで息も絶え絶えで、疲労の色の濃い彼女を見て、男子たちもその気にはなれないようだ。
荻上「ごめんねみんな。私が上手く出来ないばっかりに、長引いちゃって」
豪田「そんな、荻様のせいじゃないですよ」
沢田「そうですよ、ちゃんとコケられてると思いますよ、私は」
荻上「でも恵子さんは、何か足りないと感じたのよね。やっぱアニメのケロロみたいに、5メートルぐらい舞い上がって、回転しながら落ちなきゃダメかな?」
巴「いや、それ無理ですし…」
荻上会長は、先ほど脱いだばかりの、ケロロスーツを着込み始めた。
国松「会長、まだ休んでた方が…」
荻上「これ着てみれば、何か分かるかも知れないと思ってね」
有吉「いくら何でも、やり過ぎじゃないかな、監督」
神田「まあ確かに、ちょっとこだわり過ぎかもね」
豪田「荻様は、連載開始を控えた大事なお体なんだから、これ以上過酷な受身するのは考えものね」
国松「でも監督は、いい作品作りたいからこそ、細かいとこまてこだわってるんだし…」
沢田「そのせいで日垣君、もう何回も徹夜してるじゃないの」
日垣「俺はいいよ。こういうことで徹夜するのは、嫌いじゃないし」
浅田「俺はいい作品撮りたいから、監督のやり方には賛成だけど…」
岸野「ただ撮影だだ遅れで、編集間に合うか気が気じゃないけどね」
巴「監督決まった時、まさかここまでこだわりの演出やるとは、思わなかったもんね」
伊藤「そうそう、監督ならもっとお気楽にざっとやっちゃうと思ってたニャー。もう少し適当にやってくれればいいのにニャー」
「何だよ、それ…」
一同が振り返ると、恵子が戻って来ていた。
怒気をはらんだシリアスな顔の恵子に、固まる一同。
「お前らオタクって、どうでもいい細かいことでも、こだわって徹底的にやるんじゃなかったのかよ。それがお気楽で適当って何だよ?」
痛いとこを突かれ、言葉も無い一同。
その時、恵子の目から、池上遼一の漫画のような、太い涙がこぼれた。
思わぬ涙にたじろぎ、オロオロする一同。
「あたしさあ、これでもお前らのこと、ちょっと尊敬してたんだよ。飽きっぽくて根気無いあたしと違って、お前ら漫画やアニメに夢中で一生懸命でさ…」
涙声になって、続きが言えなくなる恵子。
さらにオロオロする一同。
やがて恵子は顔を上げて、きっぱりと言った。
「分かった。あたしゃもう降りる」
一同「えっ!?」
恵子「もう監督なんて辞めた。あとはお前らで勝手にやれよ」
そう言うと、恵子は皆に背を向けて歩き出した。
その恵子の前に、立ちはだかる人影があった。
人影は左手で恵子の眼鏡を外すと、右足を大きく後ろに引き、左足を高く振り上げながら、上体を大きく右に捻った。
そして次の瞬間、左足を力強く振り下ろしつつ、上体を一気に左に捻り、右腕を振り上げ、その拳を投げつけるように前に突き出した。
こうして恵子の頬に、ピッチングフォームのように大振りだが、豪快な右ストレートが叩き込まれた。
恵子は5メートル近くも吹き飛び、撮影用の岩型のクッションに激突した。
クッションは元々は羽毛布団だったらしく、激突のショックで破れた瞬間、派手に羽毛をばら撒いた。
この間、呆然として誰も動けなかった。
殴った人影こと、荻上会長はゆっくりと恵子に近付いた。
そして恵子の前に立ち止まり、仁王立ちになって声を上げた。
「勝手なこと言ってんじゃないわよ!ここまで好き勝手に作っといて、今さら監督降りられると思ってるの!?」
荻上会長は恵子の胸ぐらを掴み、さらに続けた。
「第一あんた、私との勝負から逃げる気なの?」
一同「勝負!?」
荻上「そう、今日の撮影は、恵子さんと私のガチンコ勝負よ。(恵子に)だからこの勝負から逃げることは絶対に許さない!」
荻上会長は恵子から手を放すと、右手の人差し指を頭上に掲げた。
一同「?」
荻上「あと1回、あと1回で決めてみせるから、もうひと勝負付き合いなさい!」
一同が呆然と固まる中、恵子が突如爆笑した。
荻上「なっ、何がおかしいのよ!?」
恵子「ごっ、ごめん姉さん。だってさあ姉さん、その格好で、東北弁で言われてもさあ…」
そう、荻上会長は、ケロロスーツを着用したままであり、しかも興奮していた為に、東北弁になっていたのだ。
実は彼女の台詞は、作者が東北弁に自信が無い為に、標準語で書かれていただけであった。
恵子「分かったよ、姉さん。あたしの負けだ。監督は最後までやるよ」
一同「監督!」
恵子「すまねえ、あたしも煮詰まってたから、ついキレちまった。もう弱音は吐かねえよ。さあ撮影続行だ!」
一同「はいっ!」
神田「でも会長、ほんとに1発で決められるんですか?あれだけNG連発だったのに…」
荻上「大丈夫、休憩中に構想はまとめたわ。(右手の親指を突き出し)まかせなさい!」
伊藤「それではシーン25-C、ケロロの突撃の本番を再開しますニャー」
恵子「3、2、1、用意、スタート!」
バナナの皮に向かい、荻上会長はダッシュする。
そしてバナナの皮を踏み、上に脚を放り出すように滑る。
前までは、そこで背中から落ちて行くが、今回はここからが違っていた。
滑って足を振り上げる勢いを利用して、荻上会長はそのままバク転のように回転してクルリと裏表引っくり返り、空中でうつ伏せの体勢になった。
そしてうつ伏せのまま、顔から地面に突っ込むように落ちて行き、地面にダイビングヘッドバット(と言うよりダイビング顔面ヘッド)を打ち込むような形になった。
『怖がるな、私!校舎の屋上から飛び降りること考えたら、たかが1メートルやそこら落ちることなんて、どうということ無いさ!』
着地の瞬間、荻上会長の脳裏に浮んだのは、坊主頭で猿顔のサッカー少年だった。
数秒の間を置いて、恵子は高らかに宣言した。
「オッケー!」
会員たちは、拍手と歓声を上げた。
帰り道にて。
大野「それにしても荻上さん、凄いパンチ力でしたね」
朽木「まあパンチ力は、握力×体重×スピードですからなあ。おそらく荻チンは、握力で体重が軽いのを補ったのでしょう」
荻上「(クッチーの前腕部を両手で握り締め)私は花山薫ですか!?」
朽木「にょ〜握撃!」
こんばんわ。
一見さんの方の為に、ちと昨日の話の補足説明を。
この話の世界の荻上さんは、自分の体重並みの握力がある設定になってます。
軽量なので数値自体は大きくないですが、自重並みというのは、かなりの強力です。
子供の頃から、親指と人差し指に極端に力を入れてペンを持つくせがあったので、ピンチ力(つまむ力)が発達した為です。
ではまた。
となクガと御宅人の人、忙しそうだな
まとめサイトって停止してる?もしかして
こんばんわ。
本来なら前回にまとめて投下すべきとこを敢えて2回に分け、今回遂にクランクアップです。
4レスです。
では。
それからの数日間、撮影は順調に進んだ。
野外での撮影の合間に、屋内での特撮シーンや、笹原出入りの出版社にロケしての、秋ママの近況報告シーンなど、着々とスケジュールを消化して行った。
懸案だった、ラストの木っ端微塵になった日向家でのシーンの撮影も、この頃に近所の解体中の家の持ち主と解体業者との交渉が成立し、無事終了した。
(恵子の思い付きで、夏美のパワードスーツを急遽作らせたので、またも日垣は徹夜だったが)
そしていよいよ、クランクアップの日となった。
最後の撮影は、ベムを撃つギロロと、撃たれたベムのショットであった。
当初ギロロのフルオート射撃は、フレームの外から紐等で銃を抑えて撮影する予定だった。
体格の割に体力のある国松でも、モデルガンの自動小銃や短機関銃のフルオート射撃で、片手撃ちで制御することは難しいからだ。
(フルオート射撃では、銃本体の3分の1から4分の1程度のウェイトを占める、遊底部が高速で連続で前後運動する為、大した反動の無いモデルガンでも制御は難しい)
だが恵子は、ギロロが銃2丁でフルオート射撃するのを、きっちりとフレームに入れることにこだわった。
そこでギロロ役の国松が、クランクアップギリギリまで、片手でのフルオート射撃の特訓を強いられた訳である。
一方ベムが被弾するシーンの撮影は、実際に着ぐるみに弾着を仕込んで行なわれた。
(弾着と言っても、モデルガン用の火薬を着ぐるみに埋め込み、スイッチで電気を通して加熱して発火する、簡単な仕掛けだが)
着ぐるみはラテックス製なので、熱に弱い。
その為弾着を仕込んで発火させれば、どの程度破損するか、やってみないと分からない。
場合によっては1回の撮影で、着ぐるみが修復不可能なオシャカ状態になるかも知れない。
そこで撮影の1番最後に持って来た訳である。
先ずシーンナンバー25-A、ギロロの射撃シーンから撮影された。
この撮影に際し、MP5(世界中の特殊部隊で使われている短機関銃)やM16(アメリカ軍が使用する自動小銃)等の、様々な短機関銃や自動小銃のモデルガンが用意された。
どの銃の銃口にも、サイレンサー状のアタッチメントが付いていた。
日垣が作った、銃火を出す為のアタッチメントだ。
モデルガンは、火薬を使って発火させることで、自動式銃の排莢を再現出来るが、銃口から出るのは煙と小さな火花程度だ。
ついでに言えば、銃声も本物に比べれば小さい。
そこで花火を仕込んだアタッチメントで、銃火を出そうという訳だ。
(銃そのものを改造することは、法律で禁じられている)
スタートの合図で、ギロロ役の国松は次々と銃を2丁ずつ持ち、ダブルの腰だめ片手撃ちでフルオート射撃して行った。
両手で持って撃ったのは、最後に撃ったM60機関銃だけであった。
幸いどの銃も、ジャミング(排莢不良)等のアクシデントは無く、無事に発射出来たので、撮影は1発オッケーであった。
そして午後に入り、いよいよラストショットのシーン25-B、ギロロの射撃を受けるベムの撮影となった。
今回は着ぐるみを身に着ける前に、クッチーはぶ厚いボディーアーマーを着込んだ。
これもまた小野寺が寄贈した品で、通常の防弾チョッキと違い、特殊樹脂の詰め物によって、物理的に弾丸を防ぐタイプの軍用ボディーアーマーであった。
この上から、日垣の手製の弾着を仕込んだベムの着ぐるみを着て、弾着の発火の衝撃を軽減しようという訳である。
(注)通常の防弾チョッキは、薄いケブラー繊維等の防弾材を幾重にも重ねて、弾丸が命中した際に繊維が絡み付くことにより、弾丸の進入を防ぐ。
その為、拳銃弾や散弾は防げても、高速のライフル弾は防げないので、ライフル弾主体の戦場では役に立たない。
伊藤「それではいよいよシーン25-B、被弾するベム1号の本番を始めますニャー」
この頃には、それなりに睡眠時間を確保出来るようになったせいか、以前の顔のフォルムを取り戻し始めていた恵子が、最後の号令をかけた。
「うっしゃあ!3、2、1、スタート!」
カメラが回り始めてきっかり3秒後、日垣はベムの着ぐるみにセットされた、弾着の点火スイッチを押した。
(2つのカメラで撮影した内の1つは、逆回しに再生することで、撃たれたベムが復活するシーンに使われる為、これだけの間を置いたのだ)
機銃掃射に似た、爆音の連打が造成地中に轟いた。
最後ぐらいは派手に決めたいというクッチーの要望により、テストの時より火薬を若干増量したせいもあってか、日垣の予想以上の火と煙と音が上がった。
「にょおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
クッチーは雄叫びを上げ、体を捻ったり手を上下させたりしつつ、立ったままのたうち回り、やがて見得を切ったようなポーズで静止した。
「カット!」
恵子の号令に、注目しつつ固まる一同。
数秒の間を置いて、恵子は高らかに宣言した。
「オッケー!」
現視研の面々は、歓声を上げて拍手した。
そして一行は、先ほどのポーズのまま固まっている、クッチーに近付く。
神田「クッチー先輩お疲れ様、もういいですよ」
だがクッチーは、相変わらず固まったままだった。
日垣「あれっ?(マスクを外す)大変だ!朽木先輩、立ったまま気絶してる!」
一同「何ですと〜!」
アンジェラ「私が人工呼吸するあるね」
伊藤「いやこの場合、人工呼吸は関係無いですニャー」
スー「ならば自分がテリオスを」
浅田「衝撃で気絶してる人間に、さらに衝撃加えたら死んじゃうって」
巴「じゃあ私が殴るってのも無し?」
有吉「今回はやめた方がいいね」
クッチーへの対応を巡って議論が続く中、恵子は静かにクッチーに歩み寄った。
一同「?」
そして苦悶の表情で固まり、気絶しているクッチーと向かい合い、少し背伸びして、クッチーのうなじに両手をかけ、一気に下に引き降ろし、唇を重ねた。
一同「アッ―――!!!!!」
恵子はただキスをしただけでなく、思い切り舌を入れていた。
それがクッチーの再起動スイッチとなった。
「にょおおおおおおおおおおお!!!!!」
大慌てで恵子から離れるクッチー。
朽木「わわわ、わたくしはいったい…?」
恵子「(微笑んで)ご褒美だよ、よく頑張ったなクッチー。(会員たちに)それはそうとお前らさあ、何でそこでアッー!なんだ?」
一同「それはそのう…」
スー「押忍!おそらくみんな、監督を笹原先輩に脳内変換して、笹原×朽木と妄想していたのでしょう」
一同「スーちゃん!」
怒りの形相で迫る恵子。
恵子「お前らああああああああ!!!!」
一同「きいいいいいいいいいいいやあああああああああああああ!!!」
恵子と会員たちとの激しい鬼ごっこと共に、遂に現視研の映画はクランクアップとなった。
帰り道にて。
朽木「それにしてもベムの着ぐるみ、見事に木っ端微塵ですのう」
台場「困ったわねえ、これじゃあベムはこの後の宣伝活動には出られないわね」
沢田「まだやる気だったんだ、着ぐるみでの宣伝…」
台場「当然!」
日垣「その点なら大丈夫だよ。こんなこともあろうかと、ベムの胴体は石膏で型取ってあるから、3日もあれば修復出来るよ」
有吉「さすが日垣君、まるで真田さんだな」
朽木「どうやら僕チン、まだまだスーツアクターは引退出来ないようですのう」
長き撮影を終え、遂にクランクアップとなった現視研。
だがそんな彼らを、次回最後の難関が待ち受けます。
そしていよいよ、満を持して30人目のメインキャラ登場。
ある意味次回、遂に「30人いる!」完成です。
(次回以降も、もちっと続きますが)
>>154 止まってますね、14スレ目ぐらいで。
15スレ目と16スレ目は読めない状態のまま、随分になります。
(17スレ目は、まだdat落ちしてないので読めます)
管理人の方の安否が気になる今日この頃です。
ではまた。
保守
また保守か
またか
まかた
こんばんわ。
遂に「30人いる!」のタイトルを達成する日が来ました。
7レスの予定でしたが、諸事情により、おまけを1レス追加しました。
では。
最終章 笹原恵子の明日はどっちだ?
撮影が終わり、全ての機材を撤収して部室に運び終える頃には、夜になっていた。
現視研一行は、そのまま打ち上げパーティーも兼ねて、ミーティングを始めた。
有吉「それじゃあジュースしかありませんけど、とりあえず乾杯ということで。会長、乾杯の音頭をお願いします」
荻上「えーと…それじゃあみんな、ほんとお疲れ様でした!」
一同「お疲れ様でした!(乾杯する)」
みんながワイワイする中、しんみりしてる浅田と岸野のコンビ。
巴「どしたの?」
浅田「いやあ、ようやく撮影は終わったけど…」
岸野「これからのこと考えるとね…」
神田「あっそうか、今日でもう学祭まで、ちょうど2週間だもんね」
藪崎「現像の方、はよ返って来ても1週間から10日、最悪で2週間ぐらいって言うてたな」
浅田「今までに撮影した分は、随時現像に出してますから、5割ぐらいは編集も完成してますけど…」
岸野「今日の分は、最悪間に合わないかも知れません」
恵子「すまねえな、あたしが撮影長引かせちゃったせいで」
浅田「監督のせいじゃありませんよ。それも承知の上で、俺たちも突っ走ったんだし」
岸野「ただ国松さん、すまないけど今回ばかりは、最悪ビデオ版での上映になるかも知れないのは、覚悟しててくれないか」
特撮オタゆえに、8ミリに最もこだわった国松に、岸野は理解を求めた。
国松「(やや固い笑顔で)私は構わないわよ。そりゃ8ミリで上映出来るに越したことはないけど、先ず何よりも、学祭で上映することが最優先事項だし」
「えらい!よく言った千里!」
言いながら、国松をハグする豪田。
国松「むぎゅっ!」
アンジェラ「私もハグするあるね」
巴「次は私ね」
荻上「こらこら、その辺にしときなさい」
浅田「まあとにかく、8ミリの方の編集は、最悪徹夜になりそうだな。何日徹夜になるかは分からんけど、俺たち生き残れるかなあ」
岸野「短かったけど、楽しかったなあ…」
そんな後ろ向きな覚悟を決めた2人に、恵子はダブルヘッドロックを食らわせた。
恵子「こらこら、お前らだけで抱え込むな」
台場「そうよ、私だって光学合成(?)担当で、何度もフィルムいじってるから、手伝えるわよ」
有吉「そうだよ。第一編集終わってからでないと、どのみちアフレコも出来ないし」
アンジェラ「てゆーか連帯責任?」
沢田「みんなで手分けして探せば、編集機材だって数集められるから、そんなに悲観しなくていいわよ」
浅田「みんな、ありがとう」
岸野「そうだね、みんなでやれば何とかなるな」
恵子「よしっ、明日から綾が言ったように、みんなで編集の道具集めようや」
一同「はいっ!」
国松「あとそれと並行して、ビデオの編集とアフレコも進めて行きましょう」
浅田「そうだな、ビデオの方は7割以上編集仕上がってるから、後は今日の分も追加して、特殊効果入れたら、すぐアフレコにも掛かれるし」
伊藤「上手く行けば、ビデオのアフレコの音を8ミリ版に、まんま流用出来ますニャー」
岸野「だな。よし、だいぶ光明が見えて来たぞ」
その後1時間ほど話し込んで、一同は解散し、各々帰宅し始めた。
沢田「(岸野がフィルムを戸棚に仕舞うのを見て)あれっ?岸野君、今日撮ったフィルム、置いてくの?」
岸野「ああ、今日写真屋休みだから、朝一でここに寄ってから持って行くよ」
日垣「家から直で持って行った方が早くない?」
岸野「こういう時って、つい悪い可能性を考えちゃうんだよ。俺、心配性だから」
一同「?」
岸野「もし今夜うちが火事になったら困るからね。アパートだから、もらい火って可能性もあるし。その点ここなら火の気が無いから、うちのアパートよりは安全だ」
そして次の日の朝。
途中で一緒になった、神田と日垣と国松、そして何故か朝から弁当を持った斑目が部室に入ってみると、浅田と岸野が既に来ていた。
2人とも、呆然とした表情で、固まって座っていた。
2人の前のテーブル上には、フィルムのリールが置かれていた。
国松「どしたの?」
浅田は黙ってフィルムを指差した。
国松「これがどうかしたの?」
岸野「見てごらん、光にかざして」
言われた通りにフィルムを蛍光灯にかざす国松、いきなり大声を上げる。
「こっ、これって!?」
神田「千里、どうしたの?」
国松「これ、昨日撮影したフィルムよ!」
神田・日垣「えー!?」
斑目「あの、どういうこと?」
日垣が事情を説明し、斑目も驚きの声を上げる。
斑目「何が、あったの?」
岸野「今朝フィルムを現像に出す為に部室に寄ったら、見ての通りの状態だったんです」
浅田「しかもこんなもんと一緒にですよ」
浅田は手に持ったままになっていた、手紙を4人に差し出した。
手紙にはこうあった。
「事情は聞いたよ。知り合いに現像が出来る人が居たので、大急ぎでやってもらった。映画頑張ってね」
手紙を見つめていた斑目が、ぼそりと言った。
「この字、どっかで見たような記憶が…」
浅田「誰なんですか?」
しばし考え込んだ斑目、やがて叫んだ。
「分かった、初代会長だ!」
一同「初代会長!?」
1年生たちは、1度だけ面識のある、特徴ある初代会長の姿を思い浮かべた。
日垣「でも何で初代会長が?」
国松「ほら、前に仰ったように、私たちのことをずっと見守ってて下さったのよ。そして私たちがギリギリまで頑張って、どうにもならないと思って、助けて下さったのよ」
浅田「でもそれなら、なんで俺たちの前に姿見せて下さらないんだろ?」
「きっと初代会長にも用事があるんだよ」と、無難で常識的な答えを斑目が口にしようとしたその時、それを遮るように神田がトンデモ発言をやらかした。
「これが初代会長の最後の戦いだからよ!」
一同「最後の戦い?」
神田「そう、もう初代会長は、故郷の星に帰らなければならないのよ!」
唖然として固まる一同。
「あっ、あの神田さん…」
そう言いかけたその時、斑目は神田の目が、イッちゃってることに気が付いた。
『この目はもしや、可符香の目?まさか神田さん、妄想エンジンが発動したのか!?』
そしてただ1人、国松だけは神田の妄想にマジで敏感に反応した。
国松「と言うことは、まさか初代会長、今までの戦いのダメージのせいで、脈拍360、血圧400、体温90度の最悪の状態になっちゃったのかしら?」
こける男子一同。
斑目「なっ、何なのそのあり得ない数字?」
日垣「『ウルトラセブン』の最終回の、モロボシダンの身体データですよ」
国松「初代会長は、死んで帰って行くのかしら?もしそうなら、私たちのせいだわ」
ウルウルとなる国松。
斑目「いやあの国松さん、初代戦ってないし、そもそも宇宙人じゃないし…」
そう言いつつも、初代会長なら宇宙人でも不思議ではないと半分思ってるせいか、つい声が小さくなってしまう斑目であった。
だがそのことを抜きにしても、妄想時空にどっぷり浸かった女子2人には、彼の声は届かなかった。
神田は国松の肩に手を置いて、マジ顔でこう答えた。
「大丈夫よ。初代会長は、新たな戦いに参加する為に帰るんだから」
国松「新たな戦い?」
神田「平和な故郷の星に、侵略者の魔の手が迫っているの。だから彼は、故郷を守る為の戦いに参加するのよ」
再びこける男子一同。
浅田「いつそんな設定が出来たんだ?」
日垣「これは『帰ってきたウルトラマン』の最終回が元ネタだよ」
神田の妄想の波状攻撃に、どうしていいか分からなくなった男子一同を置き去りにして、女子2人はクライマックスに達しようとしていた。
国松の目から、「ぶわっ」という擬音が似合いそうな、大粒の涙がこぼれた。
そして部室の外へと走り出る。
神田「千里、どこ行くのよ!?」
国松を追って、神田も外へと急いだ。
男子一同も後に続く。
「ひとつ!腹ペコのまま学校へ行かぬこと!」
一同が部室の外に出ると、国松は涙を流しながら、空に向かって叫んでいた。
「ひとつ!天気のいい日にふとんを干すこと!」
斑目「あの日垣君、これって確か…」
日垣「ウルトラ五つの誓いです。『帰ってきたウルトラマン』の最終回のラストで、主人公と暮らしてた少年が、ウルトラマンを見送って叫ぶんです。こんな風に」
「ひとつ!道を歩くときには車に気をつけること!」
「ひとつ!他人の力を頼りにしないこと!」
「ひとつ!土の上を裸足で走りまわって遊ぶこと!聞こえますかー初代会長―!」
「千里…」
神田は祈るように両手を胸の前で結んで、国松を涙ぐみながら見守っていた。
そんな妄想女子2人を見つつ、斑目は心の中で初代会長に呼びかけた。
『聞こえてますかい、初代会長?あんたとうとう、ウルトラの星の住人にされちまいましたよ』
椎応大学の中央に位置する、最近建てられた10階建ての学棟。
その屋上に1人の男が立っていた。
小柄で、猫背で、撫で肩という、特徴ある体形。
中途半端な長さの長髪に、眼鏡をかけた犬のような顔。
その男、初代会長は、大学の敷地のはずれにある、サークル棟の屋上を見つめていた。
彼の視力でははっきり見える訳ではないが、空に向かって叫んでいる人影が見えた。
その叫びに対し、彼は独り言のようにこう答えた。
「聞こえてるよ。何か随分と、誤解を与えてしまったようだね」
その時、彼の無表情な表情が、わずかに変化した。
どうやら何かを感じ取ったようだ。
「分かってる、そろそろ出発だね。でもその前に、あの子たちにちょっとだけ…」
まるで目の前に誰か居るかのような口ぶりで、初代会長は独り言(?)を呟いた。
国松が、涙ながらに空を見上げていると、空の彼方から、声が聞こえて来た。
優しさを失わないでくれ。
弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。
例えその気持ちが何百回裏切られようと。
それが僕の最後の願いだ。
斑目「これ…初代会長の声だ!日垣君、これってもしや…」
日垣「元ネタは、『ウルトラマンA』の最終回で、エースが子供たちに残した言葉ですよ」
国松「やっぱり初代会長、私たちを見ていて下さったんだわ!(空に向かって、手を振りつつ)初代会長―!さようならー!」
神田「(空に向かって、手を振りつつ)さようならー!」
そんな妄想女子2人を呆れて見つつ、斑目は呟いた。
「またあの人は、誤解を深めるような紛らわしいことを…」
国松「(空を指差して)見て、みんな!」
思わず空を見る一同。
国松「初代会長よ!明けの明星の輝く頃、ひとつの光が宇宙に向かって飛んで行く。それが初代会長なのよ!」
何も見えず、愕然とする男子一同。
浅田「いや、もう明けの明星出てないし…」
岸野「それ以前に、空に何も見えないし」
男子たちが引いてる中、神田は国松の妄想に乗った。
「ほんとだ、初代会長だわ!」
国松・神田「(空に向かい)初代会長―!さようならー!」
「何が、あったの?」
来る途中で合流したらしき、荻上会長と恵子は、屋上への階段の途中で立ち止まり、屋上で繰り広げられている、不思議な光景を見ていた。
同じ頃、先程の10階建ての学棟の屋上には、もう人影は無かった。
ちなみに、この日この学棟での講義は無く、朝から学棟は閉鎖されていた。
荻上「そんなことがあったんですか。今度お会いした時に、ちゃんとお礼言わないと」
国松「そうですね。でも次に初代会長がいらっしゃる時は、また現視研がピンチの時ですから、なるべくなら言えず仕舞いになるようにしたいものですね」
荻上『この子の中では初代会長、すっかり救世主扱いなのね。まあ確かに今回はそうだけど…』
恵子「よしっ、初代さんのご好意を無駄にしない為にも、あと2週間、気張って仕上げようぜ!」
一同「おう!」
この日、八王子上空に突如所属不明の飛行物体が現れ、音速の数十倍のスピードで大気圏を脱出するのを、航空自衛隊峯岡山分屯基地のレーダーが感知した。
防衛省は事態を重く捉え、本件を極秘事項とした。
この件が、本作品と何らかの因果関係があるかは、定かではない。
今回の話の少し後の、浅田と岸野の会話。
岸野「それにしても初代会長、どうやって現像やったんだろう?」
浅田「知り合いに頼んだって言うし、時間的に自家現像じゃないか?」
岸野「まあ確かに腕が良ければ、自家現像も不可能じゃないけど、やっぱり8ミリの現像は失敗の可能性高くて難しいよ。それにさあ」
浅田「それに?」
岸野「今気付いたんだけど、自家現像だとマグネコーティングが出来ないから、アフレコが出来ないんだよ」
浅田「あっ…」
岸野「ところが初代会長の残したフィルムには、ちゃんとマグネコーティングが施されていた。てことは…」
浅田「フジカラー調布現像所で現像したってことか?」
岸野「今日本でマグネコーティング込みで現像出来る施設は、あそこだけだからな。だが今あそこは、週1回水曜日に行なわれてるだけだしなあ…」
浅田「じゃあ初代会長、いったいどうやって?」
岸野「神田さんと国松さんの妄想って、案外妄想じゃなかったのかもな」
正直この後は、後始末的展開です。
ある意味この話の本筋は、今回までなのかも知れません。
でもやはり上映まで、もちっと続けます。
ではまた。
初代は星になったのよ…って感じですかw
いつもお疲れ様です。
本当に楽しく読ませていただいてます。
176 :
マロン名無しさん:2009/06/28(日) 01:48:58 ID:Vr/b0JuW
age
おっぱい元気?
おっぱい不元気
ところでここ以外でSS乗せてる所ないかしら
同人でもいいのだけど。
>>178 「SS」で検索してみれば、SSスレ自体はたくさんあるよ
あなたの好きな作品のSSスレがあるかは、作品名で検索してみないと分からんが
(´_ゝ`)
ウルトラ最終回のつるべ打ちに泣いた笑った。
よくまあここまで様々なネタを織り込みながら30人を動かしたことに拍手。ブラーボ。
ここまで念入りな撮影風景を描写してると、上映中に部員の何人か泣いちゃうんじゃないかって想像できますね。
次回期待してます。
17スレ目、もう落とした方がいいかな?
まとめサイトの人が更新してくれるのなら、すぐにでも落とすのだが…
ん
保守
今過去スレずっと見て回ってたんだが、koyuki3ってまだ完結してないですよね・・・?
見逃してるだけなんでしょうか。
186 :
書いた人:2009/07/06(月) 13:45:55 ID:???
完結してません。ごめんなさい。
ちょうど同人活動初めた狭間だったので、他の原稿やってるうちにアレヨアレヨという間に忘れ去ってました。
最近ようやく粗打ちまで出来たので、脱稿したら自分のホムペにでも載せて、このスレにお知らせしますね(スレに載せるには間が空きすぎか)。
ご苦労様ですm(_ _)m
お待ちしとりまっせー
まだ頑張ってるとこがあるんですね
むしろ、ここに投下してください
こんばんわ
長々と続けて来た「30人いる!」も、あと10レスほどで終了の予定です。
終わり間際になって、また悪い癖が出て、今いろいろいじり直してます。
来週末ぐらいに、最終回をお届けすることになると思います。
ではまた来週。
待ちわびたぜ…この時を…
お待ちしております
続きが来ないな
俺にできることと言えば保守だ。
梶さん乙
こんばんわ。
とうとう最終回がやって来ました。
12レスあるので、2回に分けて投下します。
先ずは6レス投下して、残りは多分日が変わった頃にお送りします。
では。
その後、今まで遅れに遅れたことの埋め合わせのように、現視研の映画制作はサクサクと進んだ。
上手い具合に岸野は、近所の写真屋が急病で休んでいた為に、クランクアップの日の分を含めて3日分のフィルムを、現像に出していなかった。
(もしもクランクアップの翌日も休みだったら、調布のフジカラーの現像所に、直接持って行くつもりだった)
つまり初代会長は、都合3日分のフィルムを、まとめて現像してくれた訳である。
もしクランクアップの日の分を除く2日分を現像に出していたら、その2日分だけギリギリまで帰って来なかったかも知れない。
それに加え、クランクアップから5日目に、それ以前に撮影したフィルムの現像も戻って来た為、単にフィルムを繋ぐという意味では、編集は1週間で終わった。
アフレコも順調だった。
ビデオ版の編集が、クランクアップの2日後に完成しており、8ミリ版の編集中に、先にビデオに合わせてのアフレコ作業が進行していた。
クランクイン前の台本読み合わせ特訓が功を奏したのか、8ミリ版の編集の終了とほぼ同時期に、ビデオ版のアフレコは終了した。
その音源を流用したこともあって、8ミリ版のアフレコもわずか3日で終了した。
ひとつだけ問題だったのは、部室をアフレコルームにしたのだが、その際に会員たちが酸欠で倒れそうになった騒動ぐらいであった。
セットのベニヤ板と岩型マットの中の綿を使い、豪田の手により仮設防音工事を施されたのだが、あまりにも完璧に気密性を高め過ぎた為であった。
こうして現視研初制作の映画は、封切り4日前にようやく完成した。
編集とアフレコが終了した翌日、部室にて初号フィルムの試写会が開かれた。
映画が終わり、部屋の電気を点けてみると、あちこちで泣き顔が見られた。
豪田「あらあら千里、相変わらずウルウルしちゃって」
国松「だっ、だって、今までのこといろいろ思い出したら…」
巴「彩も号泣してるわね」
沢田「あ、改めて映画見たら、私ほんとに死にかけたんだなと思って…」
台場「まあ確かに彩、逆さ吊りになったり、空中で糸切れたり、臨死体験の連続だったもんね」
神田「それはそうと、女子2人の泣きまくりはいいとして…」
荻上「何であんたたちが、そこまで泣くのよ?」
荻上会長の言う「あんたたち」とは、男泣きに涙している男子会員一同であった。
岸野「いっ、いや映画見てたら、いろんなこと思い出しちゃいまして、つい…」
浅田「俺も、ガラス板落ちて来て死にかけたこととか、いろいろありましたし」
日垣「俺は徹夜の日々を思い出して、つい」
有吉「後半あんまし出番無かったけど、考えてみればファーストシーン僕からでしたし」
伊藤「ニャニャニャー!」
大野「こんな時までキャラ貫いてるんですね、伊藤君」
朽木「オロロ〜ン!」
大野「朽木君まで男泣きですか…」
藪崎「何や男のくせに、情けない連中やなあ」
ニャー子「ニャニャ?そう言う先輩も涙ぐんでますニャー」
藪崎「なっ、泣いてへんわい!」
加藤「ヤブ泣き上戸だからね」
そんな涙ぐむ藪崎さんを、アンジェラは無言でハグした。
藪崎「(くぐもった声で)やっ、やめ!」
だがアンジェラは、珍しく真顔で抱きしめ続けた。
藪崎さんも、黙ってハグを受け続けた。
ニャー子「ニャッ?先輩?」
しばらくして、一同は藪崎さんが静か過ぎることに気付いた。
スーは藪崎さんの手を取り、軽く持ち上げて放し、その手がダランと落ちるのを確認して、こう言い放った。
「押忍!気絶しているであります!」
国松「アンジェラ抱きしめ過ぎ!」
アンジェラ「(手を放し)あらま、力入れ過ぎたあるね。人工呼吸で蘇生するあるね」
浅田「結局それかよ…」
そんな騒ぎの中、固まってる人物が1人。
恵子だ。
「ガラスの仮面」の北島マヤに、役の魂が取り憑いた時のような表情で、上映が終わって真っ白になったスクリーンを見つめ続け、ピクリとも動かない。
荻上「恵子さん?」
呼びかけながら荻上会長は、恵子の肩を揺すった。
恵子「あっ、ああ姉さんか」
荻上「どうしたんですか?」
恵子「いや、何て言うか、ピッタリ合ったんだ、今」
荻上「ピッタリ?」
恵子「頭ん中にあった、この映画の理想的な完成形みたいなのと、この映画とが、マジでピッタリ合ったんだよ」
戦慄する一同。
台場「会長!監督!これは行けますよ!」
有吉「おお、プロデューサーの目が燃えた!」
巴「て言うか、またもや狩る者の目に…」
その後、試写会の日も含めた、学祭までの最後の3日間、上映する会場の設営や、町にまで繰り出しての宣伝活動等で、現視研の面々は忙しく動き続けた。
監督の恵子の発言に、一同がヒットの予感を覚え、プロデューサーの台場の商魂が燃え上がったことが、その活動に拍車をかけた。
そしていよいよ学祭当日。
斑目「おう、お前らも来てたのか?」
笹原「まあ、夕方から仕事ですけど…」
久我山「おっ、俺は休みだよ」
田中「俺も学校休みだし」
高坂「僕は昨日で仕事一段落したんで、今日はお休みにしました」
春日部「私は今日は、バイトの子総動員して、みんなに任せて来た」
田中「て言うか斑目、作業着着てるけど、普通に朝から来て大丈夫なのか?」
斑目「まあ今日は工事関係の仕事は無いからな。帰ってからまとめて事務片付けりゃいいって、社長も言ってくれてるし」
久我山「まっまるで、フレックスタイム制だな」
「みなさん、ようこそ!」
会場の入り口近くで、客引きをやっていた大野さんが、現視研OB&OGの面々に声をかけた。
ポニーテール風に髪を束ね、丸眼鏡をかけ、大野さんにしては胸の谷間を強調した服装から、それが秋ママのコスであることが推察された。
入り口はと見れば、頭のてっぺんにアホ毛を立てた有吉と、夏美専用パワードスーツを装着した巴が受付をやっていた。
つまり表は日向一家で店番という訳だ。
「うひゃあ、こりゃ賑やかだね」
斑目の言う通り、現視研初の映画作品「小劇場版ケロロ軍曹 錬金術大戦争であります!」の上映会場の前は、人だかりであった。
その主な客層は、子供たちとその親御さんたちであったが、けっこう若い観客も多かった。
斑目「(若い観客を見て)同類だな」
一同「同類?」
斑目「流派は違うが、あいつらもオタだよ」
斑目が見破った通り、彼らはアニオタや特オタのおっきなお友だちで、実写版ケロロというシュールな映像目当てにやって来たのだった。
久我山「そっ、それにしても子供多いね」
「近所の小学校や幼稚園を中心に、ビラ配りその他の宣伝やりましたからね」
斑目たちが背後の声に振り返ると、プラカードを持ったアルが立っていた。
コスと分かっていても、一瞬引く一同。
日垣「(仮面を取り)こんちわ、今日はみなさんお揃いですか」
各人は日垣に前述の説明をした。
笹原「ところで他のみんなは?」
日垣「あそこですよ」
そう言って日垣は、窓の外を指差した。
現視研の映画上映会場は、学棟のひとつの2階にある、講義室であった。
その学棟の1階入り口周辺の通路は広く、ちょっとした広場のようになっていた。
その広場で、ケロロ小隊役担当の面々が、呼び込みをやっていた。
ケロン人役の面々は、ビラを配ったり、様々なパフォーマンスをしている。
その傍らで、ハルマゲドンスタイルのモアことアンジェラが、ハンドスピーカーで叫んでいる。
「実写版ケロロ軍曹、ただ今上映中あるよ。てゆーか新装開店?」
斑目「相変わらずアンジェラ、微妙に間違ってるな」
高坂「あとのみんなは?」
日垣「映写機の係の浅田君と伊藤君以外のみんなは、、他のとこ見に行ったり、よそで呼び込みやったりです」
田中「もしや朽木君も?」
大野「(胸を張り)もちろんベムの着ぐるみで、やってますよ!」
笹原「うちのやつは?」
「監督なら、初回からずっと会場ですニャー」
会場から出て来た、伊藤が答えた。
笹原「ずっと?」
伊藤「こんちニャー。何か映画のどこがウケてるか、凄く気になさってたようですニャー」
笹原「あいつがねえ…」
一行が会場に入り、いざ映画が始まると、会場はかなり賑やかであった。
サンライズに了解を得て、映画のOPにテレビアニメのOPの「ケロッ!とマーチ」、しかも小隊ヴァージョンを使った為だ。
(なお余談だが、現在放送中のケロロ6期目の主題歌は、小隊ヴァージョン「ケロッ!とマーチ」である)
子供たちはOPに合わせて大合唱していた。
その昔、夏休みや冬休みや春休みに、本編の映画に加えて、テレビで既に放映されたアニメや特撮ドラマを併映する、興行スタイルがあった。
最近の子供向けの映画興行では、姿を消したスタイルだが、「東宝チャンピオンまつり」や「東映まんがまつり」等の、子供向けイベント興行である。
この種の興行では、既出の作品の主題歌が流れると、子供たちが一緒に合唱する光景がよく見られた。
テレビのOPの曲を使ったのは、子供の頃に父にその当時の話をよく聞かされていた、国松の提案だった。
映画そのものも、けっこうウケた。
観客は、実写で着ぐるみのケロロたちが動くシュールな画に爆笑し、一方で素人の処女作8ミリ映画にしては作り込んだアクションや特撮に唸った。
本物の劇場版アニメの場合、1時間半程度の上映時間の間、子供たちがずっと集中して見ていられるように作るのは、なかなか難しい。
どうしても、途中で騒いだりする子供が出がちだ。
だが現視研の映画は、上映時間を30分少々に抑えたせいもあって、子供たちも最後まで集中して見ていられた。
恵子は最後列で、そんな様子をマジ顔で見つめていた。
観客がウケるたびに、目を輝かせていた。
映画が終わり、笹原たちが近付くと、急に憑き物が落ちたように、赤面して立ち上がった。
「なっ、何だよ、あんたら来てたのかよ!」
赤面滝汗で、恵子にしては珍しいキョドり様だ。
連投規制に引っかかるので、ここで1回休憩に入ります。
続きは日付が変わった頃に。
お返事を少々。
>>175 それはサンダーマス…
ありがとうございました。
>>181 実は試写会の辺りは、あなたからの感想の後、加筆しました。
(本来この辺は、さらっと流してしまう予定でした)
ただ女の子全員感涙ってのより、こっちの方が現視研らしいかなと思って、男衆全員男泣きにしてしまいました。
すいません。
>>192 敢えてこの作品のことと思い込んで、お待たせしましたと言わせて頂きます。
では後ほど、日付の変わった頃に。
遅くなりました。
続きを投下します。
残り6レスです。
では。
「なっ、何だよ、あんたらヒマ人だなあ、はは、ははは…」
OB&OGの面々の、暖かい視線に耐えられなくなって、照れまくる恵子。
春日部「映画、思ったよりいい出来じゃん」
高坂「ほんとほんと、凄いよ恵子ちゃん」
斑目「俺、けっこう上手く撮れてるじゃん」
田中「コスも上手く出来てたし」
久我山「おっ、面白かったよ」
そんな中、マジ顔の笹原がずいと近付いた。
恵子「アニキ…」
笹原「よくやったな、恵子」
そう言って微笑んだ笹原に対し、恵子はポロポロと涙をこぼした。
恵子「あれっ?(涙を手でぬぐい)あたし、何で涙なんて…」
笹原は、そんな恵子を無言で抱擁した。
恵子「(赤面し)ちょっ、アニキ何を!?」
笹原「もう我慢しなくてもいい」
恵子「なっ、何言って…」
恵子は笹原にしがみ付き、声を殺して泣いた。
そこへ外で客引きをやっていた面々が帰って来た。
部屋に入るなり着ぐるみの頭を取り、室内の光景に驚愕する。
沢田「(赤面して)こっ、これは?」
スー「アッー!」
ニャー子「ダブル笹原ですかニャー」
国松「大変!会長がワープしてる!」
一同が目を向けると、荻上会長は赤面白目滝汗で、湯気を吹いていた。
アンジェラ「てゆーか銀河離脱?」
国松「(荻上会長の頭のタオルを取り、筆を作りつつシビビビして)会長―、戻って来て下さーい!」
斑目「またこのオチか…」
春日部「お前ら、たまには感動的に終わらせてやれよ」
現視研初の映画作品「小劇場版ケロロ軍曹 錬金術大戦争であります!」は、その年の学祭で最大の動員数を記録した。
幼稚園や小学校をターゲットに、正門前で着ぐるみでビラを配るという、台場考案のプロモーションが、見事に功を奏した形になった。
まあもっとも、子供料金を設定したせいか、動員数の割に興収は伸びなかったが。
(台場によれば、収支トントンぐらいだそうだ)
こうして現視研初の映画制作と上映は、無事に終了した。
学祭最終日の夜、打ち上げコンパが行なわれた。
伊藤「今日は河豚ですかニャー」
台場「まあ収支トントンだけど、今夜はご祝儀ってことで」
有吉「会長、乾杯の音頭をお願いします!」
荻上「それじゃあみんな、お疲れ様!」
豪田「来年もまた映画作りたいわね」
国松「今度はミニチュア量産して、本格的な特撮やりたいな」
巴「その前に、うちの場合はアニメでしょうが。絵描きはたくさん居るんだし」
台場「いいわね、それ。特撮と違って、採算取れそうだし」
岸野「でも8ミリでアニメとなると、なかなか大変そうだな」
有吉「確かにアニメなら、デジカメの方が簡単そうだね」
浅田「まあ編集ソフト使えば、何とかなりそうだし」
アンジェラ「それよりもラブストーリーがいいあるね」
神田「アンジェラからそういう言葉が出るとは、ちょっと意外ね」
アンジェラ「そうでもないあるよ。何しろヒロインは、ミスター斑目だから」
一同「(一瞬凍結してから)アッー!」
男子一同「(何か変な期待してたのか、がっかりした口調で)そっちのラブストーリーですか…」
そんな賑やかな会話の中、1人沈黙し、動かない者が居た。
恵子だ。
恵子は部屋の片隅で、眠っているかのように動かなかった。
浅田「あれっ?監督、どしたんですか?」
岸野「監督?」
最初に恵子の異変に気付いたカメラマンコンビに続き、一同も徐々に気付き始めた。
一斉に席を立つ一同。
賑やかだったコンパ会場が、沈黙に包まれた。
気のせいか、恵子が白っぽく見えた上に、どこからともなく、あおい輝彦似のこんな声が聞こえて来たような気がした。
「燃えたよ、燃え尽きたよ、真っ白にな…」
「いい加減にしなさい!」
久々に荻上会長が一喝した。
「紛らわしいことしないの!恵子さん、寝てるだけだから!」
そう、恵子は撮影期間中の疲れが一気に出て、ただ眠っているだけであった。
荻上会長の怒涛のツッコミは、なおも続いた。
「浅田君岸野君、意味ありげに後ずさらない!」
「朽木先輩、意味ありげに帽子取らない!」
「大野さん、意味ありげにグラブ落とさない!て言うか、そんなもんどっから出したんですか!?」
「豪田さん、恵子さんの後ろに、白い紙で背景作らない!」
「巴さん、ライト当てて無意味に陰影作らない!」
「そして…」
荻上会長は、恵子の後ろに潜んでいた人影を、猫のようにつまみ挙げつつ言った。
「スーちゃん、紛らわしい独白台詞入れない!」
スー「(あおい輝彦似の声で)ヘヘッ、アーラヨット!」
そんな中、国松は例によって目をウルウルさせつつ、恵子に抱き付いた。
国松「良かった、監督ご無事で!私はまたてっきり、ここに来る途中で引ったくり捕まえようとして、刺されたのかと心配しました!」
一同「???」
神田「千里、そんな上級者向けの特撮ネタ、まだうちのみんなじゃ分かんないわよ」
(作者注)興味のある人は、「ジェットマン 最終回」で検索してみよう。
結局恵子は、コンパが終わっても目覚めず、日垣に背負われて笹原の部屋に運ばれた。
翌朝になっても、その次の日も、そのまた次の日も、恵子は眠ったままだった。
会員たちは、部屋の合鍵を持っている荻上会長に連れられて、何度か見舞いに訪れ、笹原も仕事の合間を縫って、頻繁に様子を見に戻ったが、その間恵子は全く起きなかった。
何度かトイレに起きたが、それとて夢遊病のように、無意識に行なっているようだった。
(見舞いに来た会員たちが、偶然現場を目撃した)
こうして恵子は1週間も眠り続けた。
「ういーっす」
打ち上げコンパから1週間後、ようやく恵子は部室に顔を出した。
飲まず食わずで眠っていた割には、痩せこけていた頬は笹原似のふっくらしたものに戻っていた。
目も仮性近視が少し回復したのか、今日は眼鏡無しの裸眼だ。
化粧も服も、以前のものに近くなり、見た目はほぼ以前の恵子に戻っていた。
一同「お帰りなさい、監督!」
恵子「おいおい、もうその呼び方はよせよ。映画は終わったんだし。それにあたしゃ、もう映画は作らんよ、疲れるから」
台場「そんなこと仰らず、またやりましょうよ。あの映画、学祭で好評でしたし、この後とりあえず三つのイベントにも参加決まりましたし」
恵子「いやさあ、作りたくない訳じゃないんだけど、多分もう作れないよ、あたしには」
国松「(ウルウルして)どうしてですか?」
恵子「何て言うの、映画脳ってやつが、どうも1週間寝てる間に、打ち止めになっちまったみたいなんだよ」
一同「打ち止め?」
恵子「前は脚本とか読むと、ひとつひとつの画面がはっきりと、頭ん中に浮んだもんだったけど、今日起きてからは全然ダメなんだよ」
スー「押忍!おそらく監督は、ゴジラ10回鑑賞会によって、脳内麻薬が分泌され、それによって脳が活性化していたと思われます!」
巴「つまりその脳内麻薬が切れたと?」
スー「押忍!おそらくそうであります!」
「なあんだ、それなら話は簡単ではないですか」
それまで黙って話を聞いていたクッチーが、にこやかに言った。
恵子「何が簡単なんだ?」
朽木「もう1回、映画10回鑑賞会をやればいいんでありますよ」
こける一同。
恵子「おいおいよせよ。もうあれはこりごりだよ」
「それはいいアイディアですね、クッチー先輩」
クッチーの提案に、またもや目がイッている神田が乗った。
神田「この間は『ゴジラ』10回で、2ヶ月ぐらい脳内麻薬が持ったんだから、もっとたくさんの映画を10回ずつ見れば、もっと持ちますよ。千里、ゴジラって何作あるの?」
国松「全部で28作あるわ」
神田「じゃあそれ全部、監督に10回ずつ見てもらえば、きっともっと持つわよ」
スー「(塩沢兼人似の声で)戦イハコノ一戦デ終ワリデハナイノダヨ。考エテモミロ、我々ガ笹原恵子ニ見セタ映画ノ数ヲ。現視研ハ、アト10年ハ戦エル!」
恵子「ちょっスー、あたしこんな生活、10年もやれねえから!」
神田「晴海、恵子監督が新作作れば、今度はきっと儲かるわよ」
台場の目が異様に輝き、恵子の腕をガシッと取った。
恵子「ちょっ晴海!」
台場「やりましょう!千里、ゴジラの映画のDVD、すぐ用意出来る?」
国松「虫の知らせってやつかしらね。何となく予感がして、(リュックからDVDを出しつつ)こんなこともあろうかと、ゴジラシリーズ全作持って来といたわ」
浅田「何たる真田さん…じゃなくて、ちょっとみんな、冷静になれよ」
神田「浅田君は、また恵子監督と映画撮りたくないの?」
浅田「そりゃ撮りたいけど…」
神田「映画10回鑑賞会で2ヶ月映画脳が持ったということは、60回見れば1年、600回見れば10年、3000回見れば50年は持つわよ」
斑目「そんな単純なもんなのかね?」
もはや当然のように、飯を食いつつ斑目がツッコむが、事態はさらに進行し続けた。
神田「だから浅田君、恵子監督に映画3000回見てもらえば、一生恵子組で撮影出来るわよ」
浅田の眼鏡がキラリと輝き、恵子の腕をガシッと取った。
恵子「ちょっ、浅田!?」
浅田「俺、カメラマンとして、一生監督に付いて行きます!」
アンジェラ「てゆーか連鎖反応?」
恵子「ちょっ、ちょっと姉さん、大野さん、何とかして!」
荻上「(ちょっとまずいかなあと思いつつも)まあ、この際いい機会だから、将来について真面目に考えてみたらどうです?」
恵子「薄情者!」
大野「(微笑んで)今度は監督さんも、コスで出演して下さいね」
恵子「あんたの頭ん中は、それ一色かよ!」
神田「ねえ晴海、3000回映画見るのって、どれぐらいかかるかな?」
台場「1本2時間として、8ヶ月少々ってとこだから、さすがに1度に見るのは無理ね」
恵子「そっ、そうだろ。だからそういう無謀なことは…」
いつの間にか、神田のイッちゃった目の光が伝染し、目を輝かせた国松が、ガシッと恵子の肩をつかみつつ、力強く宣言した。
「とりあえず、行けるところまで行きましょう!私もお付き合いしますから!」
恵子「い、いやあああああああああああああ!!!!!」
「かってに改蔵」のオチのような絶叫と共に、長き物語は幕を閉じた。
果たして恵子は、生き残ることが出来るか?
ようやく映画も無事終了したが、荻上会長の悩み多き日々は、まだまだ続きそうだ。
頑張れ荻上会長、オタクたちの自由と平和の為に。
以上です。
一昨年の7月に、その1を投下して以来足掛け2年、428レス目でようやく終了です。
(まあ間に、約1年休みましたが)
ちなみに、その時のスレ番号は13でした。
まとめサイトの更新が止まっていて、現在スレの15と16は見られない状態です。
(17は、まだ落ちていないので見られます)
思えば、あまりにも長々と引っ張りすぎたせいと、反省することしきりです。
実はこれでも、入れるの忘れたり、入れ切れなかったりしたことや、回収忘れた伏線とか、やり残したことはたくさんあります。
でも悔いはありません。
現視研の面々と一緒に燃え尽きましたから。
次のことは考えてませんが、縁があったらまた会いましょう。
212 :
マロン名無しさん:2009/07/20(月) 09:27:49 ID:jX7ceo1T
あ
gjです。
いろいろな小ネタが織り込まれとても楽しく拝読しました。
特にメビウスネタに関しては感謝です。
ただ・・・これで終了とは何とも残念。
ご自身も仰っているようにまだまだいろいろあるじゃないですか!
ご本業やご都合など色々あるでしょうが、できればゆっくりとでも
続けていただきたいと思っています。
無理は申せませんが何とかご検討を。
とにかくお疲れ様でした。
一ファン
大長編完結お疲れさまでした!
感想(181)に合わせて皆を泣かせてくださって感謝です。
上映された映画がもたらすものは、ぼくらが幼い時に体感した映画の楽しさ。きっと学祭にやってきた幼児たちは立派なオタクに育って将来椎応大学の門をくぐるのでしょうね。
短編でもいいので30人(一人は星に帰りましたがw)の日常をぜひ書いてください。
>30人
完走おめでとうございます。
そしてGJ。
このシリーズは新旧げんしけんメンバーの活躍とともに、書き手のオタ知識を楽しむ作品でもありました。
その守備範囲の広さ深さに驚かされます。
しかしラスト、凄い映画は生まれたけど、結局恵子自身には何も残らなかったという展開は衝撃でした(w
>>159の恵子×クッチーのキス(再起動スイッチ)も衝撃シーンでしたが、「脳内麻薬の映画脳」だと思えば納得www
最近、個人的にイロイロあって、つか現在もなおしんどい状態で、筆も思考も止まっていたのですが、30人師匠のご活躍を読んで励みになりました。
明日の夜から順次、まず「となクガ」再開します。
>30人
やー大長編完成お疲れ様です。
俺も大未完が残ってるなー。少し読みためてましたが、ゆっくり鑑賞させて
いただきます。同人で発刊される予定はあるのですか?
まとめの方ってどうされてるのかなあ。
まとめの人、お仕事忙しそうですね。
218 :
となクガ3:2009/07/23(木) 23:27:19 ID:???
【9】
部室での「会議」から数日後、ワタシはサークル自治委員会室に来ていた。
「はぁ? ドージンシぃ? コミフェスぅ? サークルサンカぁ?」
にっくき北川(姪)が叫んでイスから立ち上がり、メガネの奥のジト目がこちらを睨んでいるのが分かった。
まぁ、立ってもワタシより背が低いんですがねー(優越感)
しっかし、まーたコイツ難癖つけようとしてやがんな。
でもガマン、ガマン。
ワタシは事前に先輩方と打ち合わせた通り、アノ女の挑発に「付き合う」ことをせず、ズイっと企画書を差し出した。
先輩方と一緒に書き上げた書類だ。
「?hっ」
ちょうど北川は、口にしようとしていた諮問糾弾の言葉を遮られたみたい。不満そうに黙って受け取った。
よっしゃ作戦成功。
………というか、この段取りは、北川の挑発に乗りやすいワタシに交渉事の信頼性がないから立案されたんデスけどね………。
自分に呆れて糸目になっていたワタシは、(はっ、いかんいかん!)と自分に喝を入れた。
「……まあとにかく、この企画書に目を通して頂戴。返答は後日でいいから」
ワタシは企画書を指差してそれだけを言うと、北川と目を合わせることなくサークル自治委員会室を出た。
219 :
となクガ3:2009/07/23(木) 23:35:38 ID:???
廊下に出ると、離れた場所で見慣れた顔がワタシを待っていた。
「会チョー、おつかれー」
後輩ちゃんがヒョコヒョコと寄ってきた。その後ろにいるのは……ワイシャツ姿のラメさんじゃないですか。
腕組みをしたまま廊下の壁に寄りかかってる……って?。
「斑目さん、今日は平日ですよ?」
「いや、いまお昼だし」
ラメ先輩は左腕の時計を指さしながら苦笑いした。
だとしても、フツーにリーマンがお昼に部室やってくるというのも変な話よね。
もう日常茶飯事だけど。
斑目さんは、ワタシの背後にあるサークル自治委員会室を恐る恐るのぞき込むように細い首を伸ばして、再びワタシの方に向き直った。
「いやー、部室に行ったら“企画書”出しに行ったって聞いたんでね。……で、どうだった?」
「はい。予定通りうむを言わせず提出です!!」
「うだうだ説明する中途半端な折衝は良くないからね。企画って緻密なプレゼンか、力技で押すか、だよ」
「作戦」を提唱したのは意外にも斑目さんなのだ。
いままで「立てよ国民」だとか、ただのアジテーション好きなオタクだと思ってたけど、先輩も伊逹に会社勤めしてるわけじゃないんですね……。
ワタシは作戦が上手く行った気分の良さから斑目さんをヨイショ!
220 :
となクガ3:2009/07/23(木) 23:39:58 ID:???
「いやー、さすが社会人ですよッ!」
「いやいや」
「でもハウツー本の知識まんまパクリ!! そこに痺れる憧れるゥ!!」(←後輩ちゃん)
「いやいや……っておい(汗」
ワタシは後輩のアホ毛をつかんで吊るしながら、斑目さんに詫びた。
「すんませーん。口の減らないチビでして……(汗」
「いやいや。でもまあ上手く行ったならなによりだよ。よっぽど下手こいてなきゃ、文句を言われるような内容じゃないと思うよ」
「ええ。でも痛快でしたよ。あの女のハト豆(鳩が豆鉄砲を食ったよう)なツラを見せてやりたかったですよ〜。先輩方のおかげです!!」
ワタシは久しぶりに腹の底からカラカラと笑った。
その時、ワタシの背後から妙に低い唸りのような声が聞こえてきた。
「……ふーん。これって、卒業した先輩たちの入れ知恵なんだ!?」
ギクっ。
ワタシが振り向くと、そこには企画書を握りしめた北川が仁王立ちッ!
そして反対方向に向き直ると、もう後輩も斑目先輩もいないッ!
逃げ足早ッ!
ちょ だれか たしけて…
221 :
となクガ3:2009/07/23(木) 23:42:20 ID:???
相変わらず短いですが、リハビリ的にスレ汚し失礼しました〜。
書き込みテスト
30人完結おめ
保守
225 :
となクガ3:2009/07/31(金) 13:44:42 ID:???
保守
明日
投下
遅延
陳謝
226 :
となクガ3:2009/08/01(土) 19:46:31 ID:???
【10】
北川は企画書を握りしめたままワタシを睨んでる。
「この前もOBが来て部室が騒がしいと思ったら、こんな足掻きをしていたのね」
「何で知ってるのよ?」
「あ……あんた達っていつもいつも騒々しいの! そーよもう少し自重しなさいよオタクサークルのくせに!」
顔真っ赤にして反論してやがんの。ワタシ達にそんなに恨みがあんのかよ。ワタシもムカムカしてきた。
「オタサークルだからって何よ、文句あんの!」
「アリクイでも食えないくらいのオオアリよ! 現視研ごときにサークル棟を無駄に使わせるのはまっぴらゴメンなの」
「ニャンだとぉ視覚文化なめんなョ! ゲームもアニメも同人誌も今や海外に誇る文化なんだい!」
「外国に恥さらしてるだけじゃない! 生産性のないサークルに明日はない!(キリッ」
ワタシは北川の手から企画書をひったくると、再び奴の目の前に突きだした。
「生産性、あるじゃんか。ワタシらの企画どーだったの?」
北川は不服そうな顔をしながらも、目をワタシからそらしながらボソボソ語りはじめた。
「……っ、あんたらの企画? 10年前のアニメ作品の研究を含む同人誌を製作して販売、印刷代を引いた売り上げはサークル棟の維持管理費に寄付……」
「……サークル全体に貢献する内容なら…悪くないわ……(チッ」
227 :
となクガ3:2009/08/01(土) 19:48:01 ID:???
お、どうやらオッケーのようデスね。納得いってなさそうな表情だけど、公に益する行為を打ち出せば、自治委員会なんてイチコロよ(←調子づいている)
ワタシがニヤニヤしているのに気付いて、アイツはワタシの手から企画書を取り上げ、キッと目を尖らせた。
「とっ、とにかく! やるからにはちゃんと結果出しなさいよ!」
「へいへーい。では失礼しまーす」
企画が通れば勝ったも同然。ワタシはフンフーンと鼻歌かましながら部室へ帰ろうとした。
その態度がまずかったのか……。
北川はワタシの背中に向かって一言付け足した。
「印刷……締め切りが遅れたら余計に経費がかかるのよね?」
「え、そうだけ…ど?」
「きっちり締め切り守りなさいよね。印刷代のオーバーは寄付金の減額につながるから、この企画書にある締め切り日を過ぎるようなら、その時点で現視研は解散です!」
「「「ええええええ!」」」
ワタシと一緒に、物陰から様子をうかがっていたらしい斑目さんと後輩ちゃんも悲鳴をあげた。あんたらのぞき見かい。
北川はそんな我々を一瞥して自治委員会室へと帰っていった。
残されたワタシは、妙な不安感に襲われていた。どうやら斑目さんも同じ気分のようだ。
「そ、そういえば、同人誌自体の企画って、まったくまとまってないッスよね……」
「俺らが昔同人誌作った時も、ギリギリまで出来上がらなくて印刷代オーバーしたっけな……」
「“締切オーバーしたら即解散スペシャル”ですか……」
本の企画は真っ白なのに、締め切り日は割引付の7月上旬……。
「解散リミット」まで、約2か月しかないじゃんか……。
228 :
となクガ3:2009/08/01(土) 19:49:51 ID:???
短いー
明日につづくー
次回、OB結集の企画会議。
よみがえる「いろはごっこ」会議の悪夢。
部室に血の雨が降る。
スレ汚し失礼しました。
となクガの人、疲れてるようだな
230 :
となクガ3:2009/08/04(火) 22:22:15 ID:???
【11】
関東も梅雨入りをしたらしく、昼間だというのに空は暗く、サークル棟の外はどしゃぶりの雨が降っている。
今のワタシの心のなかも、真っ黒い雲がどよどよ。
土曜日の午後。部室には斑目さんと久我山さん、田中さん夫妻、クッチー先輩、ワタシと現役会員が額を突き合わせて黙りこくっていた。
北川委員長から突きつけられた「同人誌締切オーバーしたら即解散スペシャル」が、心の重石になっているのだ。あの女め!
今年(2017年)のコミフェス「c92」は8月18、19、20の3日間。そして北川の奴に提出した企画書には、ミナミ印刷に入稿する期日は7月10日……。
ミナミ印刷の「マーヴェラス割引-40%セット」の締め切り日なんだけど、「やっぱ入稿は割引サービス効かせた方が(北川の)心証いいよね」と、テキトーに決めて記入したのだ。
頬杖えをついていた斑目さんが、窓の外を眺めながらつぶやく。
「今日は何日だっけ……」
「6月…10日デス……」
ワタシは答えたものの、絞り出すような声になってしまった。だって本自体の企画は真っさらで、これから全てを決めなきゃいけないんだもの。
斑目さんは、ぱんぱんと軽く手を叩いて皆に声を掛けた。
「じゃあさ、まだ来てない人もいるけど、本の内容決めなきゃね。はじめようか。第3回即解散スペシャル対策会g……」
その時、ガチャ!とドアが開いた。
ワタシらがドアの方を向くと、笹原先輩が雨に濡れた背広の肩を拭きながら入ってきた。相変わらず人の良さそうな笑顔を見せている。
「すみません遅くなって」
231 :
となクガ3:2009/08/04(火) 22:23:49 ID:???
斑目さんや田中さんが嬉しそうに迎えた。10年前の「いろはごっこ」の言い出しっぺだし、プロ編集だし、期待が集まってる感じ。
「いやー、忙しい中よく時間が取れたな笹原。話は先日伝えた通りなんだけど、何か企画とかネタある?」
「ええ。ここは一つ、サークル自治委員会に文句言わせないためにも凄いもの作りましょう」
「な 何か策あるのかな?」
「はい」
笹原さんは上着を脱いでパイプイスに掛け、右手でネクタイを少しゆるめながら座ると、説明をはじめた。
「うちの奥さん(荻上)をメインに据えて8ページ、ちょっと女性向けの感じは出ますけど、於木野鳴雪のネームバリューで参加者の手が動きますよ」
うわ、それ凄いかも。笹原さんは更にみんなに語り掛けている。
「それといまマガヅン系の編集の仕事をさせてもらっていますし、小野寺さん……あ、うちの先輩ですけど、その人のツテも頼れそうなんで、ゲストに黒木優、小梅けいと、木尾士目に描いてもらうのはどうでしょう。現役の皆さんや久我山さんは軽く描いてもらえばいいですよ」
ざわ…… ざわ……と、みんながざわめく。
「笹原さんの奥さんだけでも結構なゲストなのに……黒木優か凄いな」
「じゃあ私は、また最初の副会長のコスプレで売り子ができますね!」
「やっぱりやる気なんだ…」
「しかも、リニューアル版の小梅けいとかぁ……グッジョブなメンバーだな。で、木尾士目って誰?」
「ホラ、斑目さんと部室でくじアンの話した時に話題に出たじゃないですか“ぼくおしめ”の人ですよ」
「あぁー(遠い目)」
「うひょー。印刷後の原稿は是非ワタクシに!」
232 :
となクガ3:2009/08/04(火) 22:26:05 ID:???
ワタシのテンションも爆上げに。
黒木優ッ!
ワタシにとってオタの入口にあたる作家。小学生の時に入院した際、「くじアン」を持ち込んで読み続けていたっけ。
あの時、はじめて久我山さんに出会って、現視研を知ったんだよね。
どよめくワタシたちを見ながら、とどめに笹原さんは、「それで3000部はいけますよ」と鼻息荒く言い放った。
凄い。さすがプロ。それが実現したら利益どんだけ出るんだろう。
隣を見ると現役ちゃんが何かブツブツとつぶやきながら算段してる……。今から転売狙ってるな。後で制裁したる。
……あ、でも何だろう。
何か「違和感」を感じる。
ふと周りを見回すと、盛り上がるみんなの中で、一人だけ黙ってうつむいている人がいた。
久我山さんだ。
久我山さんは大きな溜め息をつくと、申し訳なさそうな顔で手を挙げた。
「あ、あのさ、笹原」
「はい」
「そ そんなにゲスト入れる必要ないよ。こ これは現視研の本だし。現役とOB中心でいいんじゃないかな」
「うーん。でも久我山さん、それじゃ売れませんよ」
「う 売れない……」
「ええ、今回の企画で狙っている“サークル棟維持管理費への寄付”の量が多ければ、それだけサークル自治委員会を黙らせて、現視研の地位向上にもつながります。それにはたくさん売った方がいいですよ」
「い いや、寄付額の問題じゃないよ。げ 現視研の人間が描くから企画が通ったんじゃ……」
「うちのヨメさんだって現視研のOGですよ。自治委員会に認めさせるにはそれだけのプレミアムは必要です!」
233 :
となクガ3:2009/08/04(火) 22:28:40 ID:???
なんか2人とも、次第に声のトーンが厳しくなってきた。会議の雲行きが、窓の外と同じように怪しく曇っているのが感じられるよ。
「…………」
「自治会を黙らせるような圧倒的な力を実現するコネがあるなら、利用しない手はないぢゃないですか。現役やOBはそれに乗っかってればいいんですよ!」
笹原さんは立ち上がってさらにまくしたててる。
腕組みをして眉をしかめてた久我山さん、目が怖くなってる。穏和な久我山さんもこんな厳しい顔するんだ。
久我山さんがポツリと呟いた。トゲトゲしく。
「笹原、……本当にハラグーロみたいになってきたな」
ハラグーロってのが何なのか、どこの外人の名前なのかワタシには分かんなかったけど、その瞬間、笹原さんの表情が一変した。
「俺は現視研の危機だって聞いたから、“できる精一杯”を提案してるんです」
「でもこれは、お 俺らの本なんだって」
「どうせ久我山さん原稿描くっていっても、また描く気が起きないとかグダグダ言って遅れるんじゃないですか? 今回は締め切りが重要なんスよ」
「ッ!(怒」
や、ヤバイ。
ワタシは助けを求めるように斑目さんを見た。
「まーまーまー。落ち着いて……」
とりなすばかりで事態を収拾できない。抑えようとはしてるけど、姿勢と声が低くて2人には無視されてる。
田中さん夫妻も緊張した顔で傍観している。
クッチー先輩は………いない?
ワタシの視線移動を察したのか後輩ちゃんがうつむいたまま、「小声で“ボクちん、ちょっとトイレ”と言い残して、素早く静かに出て行きました」とつぶやいた。
逃げたんだ……。
234 :
となクガ3:2009/08/04(火) 22:29:52 ID:???
ワタシは動揺する。現役会長である自分の怠慢が、結果として先輩方の不和まで生み出してしまったのだ。
久我山さんまで、あんなに怒って……。
この前、久我山さんがこの企画を提案したとき、ワタシは思った。
久我山さんにとっては、「最期の漫画」かもしれないと。ワタシのせいでその機会も台無しになっているんだ。
視界がグラグラと揺れはじめ、焦点が合わなくなってくる。ワタシのせいだ。そう思うと、ボロボロと涙が溢れてきた。
「うぅ……」
頭のなかグシャグシャになって、思わずハナをすすった。
その時、ガンッと、ドアが勢いよく開かれた。
久我山さんと笹原さんの口論も止まる。
みんながドアの方を見た。
ドアを開けた張本人も部室を見回し、ワタシと目が合った。
目に涙溜めているワタシは、そのひとの顔がよく分からなかった。
「あんた達、またクッダラナイことで口論して女の子泣かせてるの?」
後輩ちゃんがくれたハンカチで涙を拭いて、周りを見ると、さっきまで怒り心頭の表情だった久我山さんと笹原さんをはじめ、先輩方の表情が固まっている。
斑目さんがアワアワと口をパクつかせながら、ふらふら立ち上がって力なくドアの方に声を掛けた。
「か……春日部さん何でここに?」
「だから、今はもう“高坂”だって! 結婚して何年経ったと思ってるのよ」
あの伝説の先輩がやってきたのだ。
235 :
となクガ3:2009/08/04(火) 22:31:46 ID:???
今日はここまで、
>>229さま、ご心配掛けてすみません。
確かにバロメーター落ち気味ですが、もうすぐ「祭」だし、元気になりたいッス。
保ッ守
またも保守が続くSSスレ
238 :
マロン名無しさん:2009/08/11(火) 00:37:27 ID:/aoV3EVH
超亀だがケロロでげんしけんの本格的なパロティするには、
「特殊閉鎖状況下における説明義務の有無について」以外まず無理だろ
プルルとコゴローが何らかの理由で二人っきりになるあれを再現するしかないな
ラジオから朽木ことサブローの声も聞こえれば完璧w
保守
さすがに今日からの3日間は、このスレの住人も、忙しい人多いんだろうな
いいなあ、まんがまつり
俺も行ってみたいが、金も体力も無いから無理
現視研の面々、帰りにガンダム拝んで行くんだろうな
で、スー辺りがガンダムの足触って、「コレデ商売繁盛デアリマス!」とか、訳分からんこと言って
ゆうちょATMを空っぽにするオタクの財力に感動、いや絶望しとくか
保守なのー
u
へーちょ
そろそろまんがまつりネタのSSが届く頃だが…
保守
久しぶりに投下します。
でもネタは最悪です。
笹原「斑目さん」
斑目「何だ?」
笹原「俺とSEXしましょう」
斑目「!?何だその直球な頼み方は!」
笹原「すいません。じゃあ、俺とS○Xしましょう」
斑目「今更伏せ字にしても意味無いだろ!」
笹原「で、させてくれるんですか?」
斑目「するか!俺はホモじゃねぇ!」
笹原「知ってますよ」
斑目「つか、いきなりそんな事言ってるが、お前ホモだったのか?」
笹原「違いますよ。荻上さんと付き合ってるし」
斑目「じゃあ何でだ」
笹原「最近荻上さんの影響でBLを読む様になったんですけど、気持ち良さそうだったんで」
斑目「嫌な影響だな。
だったら二丁目にでも行って掘って来れば良いだろ」
笹原「病気とか恐いじゃないですか。
その点、斑目さんは童貞だし安全かと思って」
斑目「……もっとましな理由はないのか」
笹原「さあ、ズボン脱いで下さい」
斑目「こんな所で脱げるか!部室だぞ!」
笹原「じゃあ、俺の部屋が良いですか?」
斑目「そう言う問題じゃねぇ。突っ込まれるなんて嫌だね!」
笹原「『攻』なら良いんですか?」
斑目「まぁ、『受』よりはましだが……」
笹原「そんな!俺には『やおい穴』なんてあいてませんよ!!」
斑目「俺にだってあいとらんわ!!
だいたい男で勃つか!」
笹原「大丈夫です。荻上さんの顔を想像しますから」
斑目「最低だなお前」
笹原「いい加減尻をこっちに向けて下さい」
斑目「しつこいな!入る訳無いだろ!」
笹原「ウ○コの太さを考えれば無理でも無いですよ」
斑目「……………」
笹原「何吐きそうになってんですか?」
斑目「リアルに想像する様な事を言うな……」
笹原「大丈夫。斑目さんなら平気ですよ。多分」
斑目「もう嫌だ!帰る!」
笹原「待って下さいよ!今帰られたらこの下半身はどうなるんですか!」
斑目「ぎゃあああああっ!!
固いのを押し付けるなぁあああっ!!」
笹原「早く机の上で股を開いて下さい」
斑目「ふざけんな!」
笹原「ふざけてなんかいませんよ。『受』なんだからもう少し弱々しく抵抗して下さい」
斑目「2次元じゃねぇんだから、本気で嫌がるに決まってんだろ!」
笹原「でも案外燃えますね」
斑目「もうホント勘弁してくれ!
これ浮気なんじゃないか?荻上さんが悲しむぞ?」
笹原「嫌だなぁ斑目さん」
斑目「?」
笹原「男同士で恋愛なんて出来る訳無いじゃないですか。
身体だけなら浮気じゃありませんよ!」
強制終了!
すまん、思ったより酷い話に……orz
軽くワープ…
部室のロッカーの隙間から様子を見ている荻上の姿があった・・・
昔、タモリがまだ無名で、赤塚不二夫先生の家に居候してた頃、2人で試しにホモってみようとしたが、勃たずに断念したという、心温まるエピソードを思い出した
保守してやるのですぅ
俺はアニスパの坂本くんを思い出した
まとめは30人いるは、その14で止まってるんだよな
15からみたいけど、どこかで見れる?
SSスレのログなら全部持ってるはずだが、それでかまわなければどこかにうPするよ?
13スレから連載開始だと思うけど。
是非お願いします。
基本携帯ですが、PCも使えるんで何処にうpして貰っても構いません。
まとめの方どうなったのかね
>>259 ありがとうございます。
一応保存は出来たんですけど、何故か開けないんです。
パソコンはVistaですけど、誰か分かりますかね。
>>261 259ですが
……申し訳ない、ひょっとしたらインターネットエクスプローラーとかで2ちゃんねる
見てる人?
掲示した.datファイルっていうのは2ちゃんねるの生データで、専用ブラウザで読む
ためのものです(普段はこの生データを2ちゃんねるのHP側で読みやすく整形して
いる)。
どうすっかな、専ブラで表示されたものをctrl+Aでテキスト貼るかw
263 :
マロン名無しさん:2009/09/07(月) 18:56:48 ID:??? BE:102270252-2BP(300)
>>262 折角うpしてくれたのにすいません、あまりパソコン詳しくなくて…
>>263 ありがとうございます。
265 :
259:2009/09/07(月) 19:14:13 ID:???
俺からもありがとう。
てかなにこのグループw
こりゃ凄い
このマンガってどのぐらいリアルなの?
同じサークルの女の子が自分の性癖をある程度オープンにしてるってことだよね?
それってなんつーかなんつーか、、、エロいな。
さーてどうかのう、ホッホッホッw
269 :
マロン名無しさん:2009/09/15(火) 21:13:44 ID:1yk1Fdw5
保守
保守
斑目ラヴ
となクガの人は元気かな?
blogは更新されてるから元気ではあるんじゃない?忙しいのかも知れないけど
元気が何より
んだ
新作来ないな…
ここまで待ったんだ
ゆっくりしようぜ
wktk
保守
過疎ってるな
281 :
マロン名無しさん:2009/10/04(日) 02:33:56 ID:hfe0GkbE
か
俺が最後を飾ろうと「SSの挟間に」を投稿して幾年月・・・まさか、ここまで続くとは・・・
つーか買い足りないと思っていた人がいたとは・・・
感慨深いものがあります。
283 :
となクガ:2009/10/07(水) 04:11:04 ID:???
心配してくださっていた方、ありがとうございます
私事ですが、昨夜遅く、闘病していた親類が永眠し、見送りのための諸々の準備が先ほど終わりました。
最近身の回りは病人ばかりでバタバタだったのですけど、一段落するまで、いましばらくかかると思います。大変申し訳ありません。
取り急ぎご報告まで。
>>283 あれあれ、それは大変でした。心中お察し申し上げます。
まあのんびり保守しますのでどうかお楽に。
つか俺書けって話かorz
285 :
マロン名無しさん:2009/10/07(水) 14:23:32 ID:wkNAGZRK
げんしけんの背景ってさあ〜中央大?
いろいろ大変だったんだな、となクガの人
そのようだな
288 :
マロン名無しさん:2009/10/13(火) 19:04:04 ID:lURVosGI
うむ
がんがれ
保守
ほ
し
結構忠実に描いてるよね
近くの動物公園も
合宿の貸別荘もモデルがあるんだろうか
一部筑波大学も入ってるかも
296 :
敢えてageで緊急告示:2009/11/03(火) 15:19:45 ID:dKjAxtws
誰か17スレ目の方、保守しといて
金曜日以降、ずっと規制で書き込めてないの
代行スレだと、ある程度文章になってないと、受け付けてもらえないし
あのスレもう終わりかけだから、長文書いたらあっと言う間に終わっちゃうし
「保守」または「9」(残りKB数)だけでいいから、お願い
298 :
マロン名無しさん:2009/11/03(火) 22:41:41 ID:K1YqbFky
か
299 :
283:2009/11/05(木) 01:53:17 ID:???
まだ四十九日経っていないのですが、ようやく筆が進み出しました。
滞ってすみません。
つまんない話ですが、SSスレをまだまだ続けていくためにどうかご容赦を。金か土か、後日投下いたします。
と、いう書き込みをしたら規制で弾かれ、携帯で再度カキコ。
規制解けたら投下します。
おk
保
ほっしゅ
深夜に久々投下デス
時は2017年。
現代視覚文化研究会こと現視研は存続の危機に立たされていた。
サークル自治委員会委員長・北川(姪)が、
同じく自治委員会副会長だった叔母の無念を晴らすべく、
除籍サークルの筆頭に現視研を挙げたのだ。
現視研会長となっていた「ワタシ」は、
斑目らOB・OGのバックアップを受けてこれに対抗。
久我山の発案による生き残り企画
「同人誌のコミフェス売り上げを寄付」を北川(姪)に了承させる。
ただし北川(姪)から条件が突きつけられ、
同人誌の制作が遅れて入稿日を過ぎてしまうと現視研は除籍という、
「締切オーバーしたら即解散スペシャル」状態になってしまう。
本の内容も決めていない上、
現役もOBもルーズな現視研が果たして締切を守れるのか。
しかも内容を決める会合で、
笹原と久我山が対立してしまう。
仲裁能力のない斑目、
泣き出す「ワタシ」、
うんち名目で逃げるクッチー。
現視研が空中分解の危機を迎えたその時、
伝説のOG・春日部咲(旧姓)が現れた……。
305 :
となクガ3:2009/11/12(木) 03:42:58 ID:???
【12】
「……こんなどしゃ降りの日に、辛気くさいねぇ」
涙を拭いたワタシは、ようやくその人の顔を見た。
“高坂”咲さん。斑目先輩がよく旧姓の“春日部さん”で呼んでしまうひと。
ワタシは3年間で片手分しか会ったことがないけど、ピシッとしたスーツ姿は相変わらずお美しい。
「まったくアンタ達は成長しないよね。昔もそんな風にして荻上泣かしたじゃん!」
咲さんが目配せして、笹原先輩と久我山さんがワタシの泣き顔を見てギョッとした。
ワタシは久我山さんと目があった。
まだ目が潤んでいるのを見て久我山さんは一瞬たじろいだけれど、「ご ごめん」とつぶやいて、すぐに笹原さんの方を向いた。
「さ、笹原の好意、て 提案はありがたいよ」
久我山さんは汗をぬぐった。
「で でも、荻上さんはともかく、プロを動員して豪華本を作っても、そ それは“現視研の本“じゃあないんだな」
久我山さんの言葉に、笹原さんが、斑目さんや田中さん夫妻が、テーブル中央に置かれた「いろはごっこ」に目を移した。
10数年前の夏。寝ずに完成させた本はきっと、先輩方にとって、いまも懐かしく、忘れられない思い出なのだ。
「エロ本だから、アタシは恥ずかしい思い出しかないけどな」と咲さん。
「こ これから先、いくつになっても、このときは大変だったなとかさ。な 懐かしく苦笑いできる本のほうがいい。売り上げはわずかでも、自治会も……」
「……自治会も分かってくれますかね」
言葉を継いだ笹原さん。
大きくため息をついて、「そうですね」とつぶやいた。さっきの緊張した面持ちは消えていた。
306 :
となクガ3:2009/11/12(木) 03:45:58 ID:???
「で……貴女はナゼココニ?」
斑目さんが咲さんに尋ねた。もともと会合には呼んでいなかったらしい。
「今日は早帰りしたってのに、うちのが泊まり作業でさ。“代わりに見てきてくれないか”なんて言ってきたのよ」
「それはお疲れ様デス……そういえば高坂には声掛けてたな」
“うちの”とは咲さんのご主人のことだ。
そんな無茶なお願いでも聞いてしまうのは夫への愛ゆえか、現視研が好きなのか…。
斑目さんは気を取り直して、「さぁさぁ、本の内容について詰めようか」と声を掛けた。
ちょっと声がうわずっている。
咲さんが来て、緊張してるのか。心強いのか。嬉しいのか。
きっと、その全てだろう。
みんなが活発に「荻上さんのページ数をどうしよう」とか「売り子のコスプレを(以下略」と語りだした。
ページ構成は経験の有無をもとに決められ、於木野先生(荻上)メイン、久我山さんも漫画を描き、現役ちゃんらもちょっとだけページを任された。
また、笹原さんの案も一部採用されて、黒木優先生に寄稿をお願いしてみることになった。
ワタシは絵が苦手だし、小学生の頃は漫画編集に憧れていたから、笹原さんと一緒に紙面構成や原稿の取り込みなどをお手伝いすることになったのだ。
もちろん田中さん夫妻はコスプレ担当……って関係あるのだろうか。
おおまかに本の内容が見えてきた頃、ワタシは、涙で汚れた顔を洗いに部室を出た。
テラスに朽木先輩が座っていたのを見かけた。
「なにしてたんですか?」
「いや、ちょっとうんちが長引いて…」
きっと10数年前、於木野先生が泣いたという時も、クッチー先輩は「うんち」だったに違いない(←正解!)。
307 :
となクガ3:2009/11/12(木) 03:47:43 ID:???
リハビリ リハビリ
スレ汚し失礼しました。
つづく
遂に帰って来たか、となクガの人
春日部さんとクッチーの相変わらずぶりが素敵
続き、楽しみに待ってます
309 :
となクガ3:2009/11/16(月) 20:09:08 ID:???
>>308様ありがとうございます。
ようやく自分の時間が取れてきましたので、木か金にまとめて投下したいと願ってますデス。
その際はよろしくです。
とりあえず保守
312 :
となクガ3:2009/11/22(日) 23:43:23 ID:???
誰だよ「自分の時間が取れてきました」とか書いてるの(泣。
ただいま投下用をカキカキ中。
すんません。
保守
やあ
テスト
やっと規制解除されたか
となクガの人は規制されてるだろうか?
318 :
となクガ3:2009/11/29(日) 04:22:07 ID:???
解除はされましたが、遅い筆に自己嫌悪中デス。
まとめ投下は完成度低すぎて断念。
とりあえず続きです。
319 :
となクガ3:2009/11/29(日) 04:24:20 ID:???
【13】
どしゃぶりの雨はいつしか止んでいた。
ようやく「会議」は終了。
斑目さんが背伸びをしながら立ち上がった。
「見通しついたな。でもあと1ヵ月ないからなー」
「大丈夫じゃないの? アンタ達、昔1週間でエロ本を作ったじゃない」
「そ それに俺らだって若くないよ。て 徹夜の無理もきかないしな」
咲さんの言葉に、久我山さんが苦笑いしながら答えた。
田中さんが斑目さんに声を掛けている。
「久々だし飲みにいかないか?」
「あ、俺も?」
斑目さんは迷っているみたいだったけど、机を挟んだ対面側で加奈子さんが咲さんにもたれかかるようにして、「咲さんも行きましょうよ!」と誘うと……
「ま、まあいいか」
ううむ………。いいのか子持ちリーマン。
みんなゾロゾロと部室を出て行く。
部室を閉めるため立っているワタシの横を、みんなが過ぎていく。
「あたしゲマズに寄って帰るので。では!」と現役ちゃんが足早に去って行った。
「外で待っているからあんたも一緒に飲もうね!」と咲さんが声を掛けてくれた。
「やっぱり副会長でいく?」「でも新作版はちょっと……」と田中夫妻はさっそくコスの打ち合わせをしながら歩く。
「時間、そ そんなにないけど、が がんばろうな」と久我山さん。
「はい! 久我山さんもがんばってください」
現視研存続のチャンスを与えてくれた久我山さんに、ワタシは頭があがらない。
320 :
となクガ3:2009/11/29(日) 04:28:35 ID:???
そして笹原さんがワタシの側で立ち止まった。
「そうだ、今度、僕と一緒に黒木先生のとこに寄稿のお願いに行こうよ」
わ、わ、ワタシがデスか!
慌てるワタシに、にこやかに笑いながら、「君が今の会長なんだから、この同人誌の“編集”としてがんばってみたらどーかな」と笹原さん。
ワタシは、“編集”の言葉にハッとした。子供のころ、ワタシは漫画編集者が夢の変わり者だったのだ。
「ワタシなんか行って、大丈夫ですかね?」
「ベテランだけど気さくな先生だから大丈夫だよ。“お願いするかも”って話はしてあるし。それにね……」
笹原さんは部室の机の上に置きっぱなしになっていた「いろはごっこ」に視線を移した。
「あの本を作った時期、僕も会長だったし。あの体験は、今の仕事に就く時に生かされたんだよね。それに絵は全然ダメだったから、俺」
「あはは、ワタシもです」
「僕らは描き手のサポートに徹するわけだけど、きっといい経験になると思うよ」
ワタシは部室に鍵を閉めると、笹原さんの言葉を心の中で反すうしながら、サークル棟の狭い廊下を歩く。
よし、がんばろう。
まずは先輩方と飲み会だw
しかしワタシは、階段の手前でふと足を止めた。
ん………何か忘れるような気が………。
視界にトイレの表示を見た時、その“忘れているモノ”を思い出しそうになったけど、ワタシの記憶検索を邪魔する声が階上から降り掛かってきた。
「こんな遅くまで、現視研はOBまで集めて何をしていたのかしら!?」
321 :
となクガ3:2009/11/29(日) 04:35:12 ID:???
北川(姪)だ……。4階の方から階段を降りてきた。
何でこういうタイミングでコイツに会うかなー。
ワタシは肩を怒らせながら北川に向き直った。
「アンタこそ何してるのよ。自治委員会室は1階でしょ」
「私だっていちサークルの部員なのよ。部の用事もあるんです。貴女達みたいな暇人サークルと一緒にしないでね」
「私たちだって先輩方の力を借りて、同人誌の企画会やってたの!」
「せいぜいがんばることね。提出された企画の締切日を過ぎたら即刻廃部だってこと、忘れないでね」
「ムムム……(怒」
「まあ、廃部後に行くあてが無ければ、受け入れ先を紹介してやってもいいわw」
くっそー、余裕こきやがって。
いちいち癪に障るオンナだ。
「………てか、何で“OBまで集めてる”コト知ってんのよ。そんなに現視研の動きが気になる? そうまでして潰したい?」
「べ 別にアンタたちの動向が気になってなんかないんだから! こんな時間までウダウダやってるアンタたちは不審者同然よ!」
「いや、まだ残ってるサークル多いみたいだけど……」
「うるさい!早いとこサークル棟から出なさい!」
北川は何故か真っ赤になって怒りだした。
沸点低いなー、生理なのか?
なんかもうダメだこの自治委員会長。
ワタシはそそくさと階段を降りて行った。
この時ワタシは北川に気を取られて、完全に“思い出す”ことを忘れてしまったのだ。
朽木先輩が「長いウンチ」から帰ってきてなかったことを。
つか、朽木先輩がいたことを。
322 :
となクガ3:2009/11/29(日) 06:37:32 ID:???
クッチー先輩……。
1度会ったにも関わらず、さらなるウンチで席を外し、忘れられる……。
2週間近い期間のウンチ乙。
323 :
となクガ3:2009/11/29(日) 06:49:31 ID:???
時間が経つと設定のズレも見えてお恥ずかし。
次は早急に投下したいです。
まるでクッチー、後蹴りを決めた体勢で連載再開を待ってた、キン肉マンみたいだなw
ほしゅ
326 :
マロン名無しさん:2009/12/08(火) 12:45:17 ID:F9nsd2xy
>>323 プロの小説家でも、よくあることだよ
夢枕獏先生なんて、某格闘小説のキャラ設定が、いつの間にか変わってたりする
相撲取り出身のプロレスラーが、最新巻では核闘技未経験でバスケット経験者になってたり
右腕が極端に長い空手家が、最新巻では左腕の方が長くなってたり
まあ両方とも、20年近く続いてる小説での出来事だが
ほしゅ
328 :
マロン名無しさん:2009/12/13(日) 22:26:58 ID:f8PxPmJR
斑目萌え
何か不幸のバーゲンセール中。
マイミクさんはご存知のことと思いますが、親父が他界したのでもうしばらくお休みします。
そういう年代の人なんだな、となクガの人
保守
祝げんしけん続編
読み切りだけど
今年はもう新作は来ないかな?
それでは皆様、よいお年を
あけましておめでとうございます
初保守
てす
やった規制解除されとるw
では明日〜!
スレ汚し失礼します。
ホントは大晦日に投下するつもりのネタでしたが、最近まで規制されてました。
ちょっと遅くなりましたが、年始の挨拶代わりに。
大晦日の夜。
成田山新勝寺は、初詣の人で賑わっている。
ガヤガヤと本堂に向かう人の列は、参道いっぱいに溢れている。
この日、現代視覚文化研究会一行は、初詣で成田山へと来ていた。
前年、朽木が自分の地元に一行を案内して以来、1年ぶりである。
今年もコミフェスが12月28〜30日の開催であったため、朽木が意気揚々と企画した初詣であった。
にぎわいを見せる参道。
その脇で甘栗を売っている「宮川商店」の店先で、白い息を弾ませてヒョコヒョコとジャンプを繰り返す女の子の姿があった。
現代視覚文化研究会の新入り・吉武だ。
荻上、スージーに次いで背が低い彼女は、子犬のように何度も飛び跳ねた後、ズレたメガネを直しつつニコニコしている。
「人、多いっスねー。どこ見ても頭しか見えないや」
「このイベントをいたく気に入っているようだな」
矢島の隣で、いぶかしげな表情を見せたのは同期の矢島である。メガネの奥の細い目で、吉武を横目に見やる。
吉武は汗をかいたのか、ジャケットの襟を少しくつろげながら、「そりゃもう!」と笑顔で答えた。
「“OBの先輩方も来る”ときいたらワクワクするじゃないっスか。思った通り笹原先輩も斑目先輩も両方参加、しかも2人揃って立川駅に現れて……。今まで何して時間をつぶしてたんですかってもんでス」
「あ、やっぱりそっち方面か」
1年生2人は、初対面の時から受け認定している斑目で妄想を巡らしていたのだ。吉武のテンションアゲアゲも理解できる矢島だったが、軽くため息をついた。
「でもいま、それどころじゃないっしょ」
「そうっスね」
吉武もポリポリと頭をかいた。
1年生がもう1人、一団からはぐれてしまったのだ。
この日一緒に参詣していた先輩達は、はぐれた新入生・波戸を探している。
2人は合流地である商店の前で待機中であった。
不意に矢島の携帯が「まるかいて地球」のメロディを奏でた。
途切れることのない人ごみのざわめきに、危うく聞き逃すところだった。
ぼそぼそと携帯で連絡を取った矢島は、電話を切ると手短に吉武に伝えた。
「見つかったって」
やがて笹原と荻上、田中と大野の2組が別々の方向から戻ってきた。
「お待たせ」と田中。
まだ現れぬ同輩の姿に「あれ、波戸ちゃんは…?」と吉武が尋ねると、大野が答えた。
「斑目さんたちが見つけたんですよ。もう来ますよ」
しばらく経って参道の人の流れを見ていた矢島と吉武は、ほぼ同時にあるものを見つけて噴いた。
参道を埋め尽くす人たちの真上に、金髪が揺れている。
斑目がスージーを肩車してやってきたのだ。
その後ろから、一目では美人にしか見えない男の娘・波戸がおずおずとついてきている。
スーは斑目の上に乗って辺りを見回し、波戸を見つけ出したのであった。
周囲の目に耐えられない斑目が、頭上のスージーに呼びかける。
「あの……もう波戸くん見つかったので、体勢を解いていいのでは……?」
「ボクタチハ2人デ1人ノ探偵ジャナイカ」
「ひょっとして去年と同じように、本堂までこのまんまデスか」
「ゾクゾクスルネェ!」
不意にスーが、太腿でぐいっと斑目の頭を締め付けた。
「え、な、何?」
「サイクロン!」
「へ?」
「サイクロンッ!」
「じょ、ジョーカー!?」
なすがままの斑目。見かねた荻上がスーに声をかけた。
「こら、スー!」
「オウ! チカモ乗レ、イイ眺メダゾ」
「いや、私はいいがら斑目さんから降りなさい!」
「男ノタマシイ萌エアガル、ドキョウガッタイ、グレンラガンッ!」
「聞いちゃいねー」
「今度はそっちの合体か」と呆れる斑目である。
荻上がスージーを引きずり降ろしている傍らで、笹原が申し訳なさそうに俯く波戸に問いかけた。
「どうしたの波戸さん?」
「それが……その……」
「迷ってたら、あちこちで男の人に声掛けられてたんですって」と大野が答える。
女の子にしか見えない波戸が1人でオドオドしているのを見て、ある者は親切心から、ある者は下心から“彼女”に声を掛け、誘ったという。
「いっそのこと、言い寄る相手に正体をバラした方がいいのでは?」と笹原。
「ええっ…(汗」
焦る波戸をかばうように大野が割って入った。
「それはダメです笹原さん。ここまで徹底してキャラクターをつくるレイヤーは、その人物に“なりきっている”んですから!」
「いえ私、そーゆーのとは違うんで……」
吉武や矢島も口を挟む。
「まあ正体を伝えれば、だいたいは引くっスよね」
「オタクは喜ぶかもしれないがな」
その時、荻上に引きずり降ろされたスージーが一言。
『ヤメトケ、ソレデモ熱イ視線ガ来タラ、ソイツハ マジ ヤゾ』
「あ、もや●もんっスか」
「8巻か……」
「結城蛍と波戸くんを対面させてみたいな」
「むしろ波戸ちゃんにゴス着て欲しいっス」
ふと、ダッフルコートの袖をクイクイッと引っ張られた。
ありえないのに妙な期待感が瞬時に湧いて視線を向けるが……。
「……なんだ、スーか……」
斑目は複雑な苦笑いを見せた。
荻上の側から離れ、いつの間にか来ていたスージーは、頭一つ高い斑目を見上げて声を掛けた。
「オスワリ!」
「え、また?」
斑目の肩車で、またしても参道を見下ろす視点を得たスージーは、冷たい空気をすぅっと吸い込むと、声を張り上げた。
「ミロ!ヒトガゴミノヨウダー!」
周囲数百メートルの参拝者が瞬時に固まった。
先ほどまでのざわめきとは全く別のざわつきが、斑目とスーを爆心地にして広がっていった。
「スーーーッ!」
「何を言ってんだオメーはァ!」
大野や荻上が顔を真っ赤にしながら駆け寄って行く。
「やっぱ言いたくなるよな、アレ」
「……コミフェスの会場なら許されるんでしょうけどね」
田中や笹原は他人のフリをしながらとっとと歩いて行く。
それに続いて矢島、吉武、波戸も、寒い時期だというのに顔中に汗をかきながら離れる。
「やっぱ痛いサークルだー」
「まさに、“俺達にできないことを平然とやってのけるッ!そこに痺れる!憧れるゥ”っス!」
すみません。
>>345は順番を間違えて投下してしまいました。
>>345は無しで読んでください。
謹んでお詫び申し上げます。
皆が波戸を肴に雑談していると、『ゴーン……』と鐘の音が響いた。
「あ、除夜の鐘が……もう行きますよ!」と荻上が会長指令を飛ばす。
「へーい」と、参道の人の波に混ざってゾロゾロ歩み始める現視研一行。
笹原と荻上、その後ろをスーが笹原を睨みながら歩き、新会員、OBらが後に続く。
「早く本堂でお賽銭入れて、屋台でお酒を」と大野。田中は頭を抱えながら、「なんか去年は賽銭の前に呑み始めてそのままだったような……」とつぶやいた。
ざわめきの中でも、鐘の音はゴーン……と耳に届く。
殿(しんがり)は斑目だ。
斑目は、人の波の間に見える仲間達の姿に目を向ける。
談笑しながら歩く新入りたちの横顔が目についた。
年を経る毎に、新しい顔が加わる一方で、多忙故に見かけなくなる顔もある。
「久我山、高坂……春日部さんも今回は欠席か……」
1年前に、咲の背中を見つめて歩いたことを思い出す。
ゴーン……
何回目の鐘だろうか。
今年は、人ごみの中を“探して”、“見つめる”背中が無い。
仕方なく斑目は、歩きながら上を見上げる。
ゴーン……
鐘が響く、冬の夜空。
凍てつく寒さで澄んだ空気に、星が瞬いている。
「普段はどおってことねえのに、こういう時ばかり思い出すのな……」
斑目の中の煩悩は、去年の108回の鐘を聞いても結局消えないまま、今も胸の中でくすぶっている。
ふと、ダッフルコートの袖をクイクイッと引っ張られた。
ありえないのに妙な期待感が瞬時に湧いて視線を向けるが……。
「……なんだ、スーか……」
斑目は複雑な苦笑いを見せた。
荻上の側から離れ、いつの間にか来ていたスージーは、頭一つ高い斑目を見上げて声を掛けた。
「オスワリ!」
「え、また?」
斑目の肩車で、またしても参道を見下ろす視点を得たスージーは、冷たい空気をすぅっと吸い込むと、声を張り上げた。
「ミロ!ヒトガゴミノヨウダー!」
周囲数百メートルの参拝者が瞬時に固まった。
先ほどまでのざわめきとは全く別のざわつきが、斑目とスーを爆心地にして広がっていった。
「スーーーッ!」
「何を言ってんだオメーはァ!」
大野や荻上が顔を真っ赤にしながら駆け寄って行く。
「やっぱ言いたくなるよな、アレ」
「……コミフェスの会場なら許されるんでしょうけどね」
田中や笹原は他人のフリをしながらとっとと歩いて行く。
それに続いて矢島、吉武、波戸も、寒い時期だというのに顔中に汗をかきながら離れる。
「やっぱ痛いサークルだー」
「まさに、“俺達にできないことを平然とやってのけるッ!そこに痺れる!憧れるゥ”っス!」
妙にテンションが上がる吉武の横で、ふと立ち止まる波戸。
「どーしたっスか波戸ちゃん?」
波戸は頬に手を添え思案顔だ。
「………何か………忘れているような………。何か足りなくないですか?」
「さあ……?」
「おっかしいなー。みんな探しにきてくれないんデスかねー………」
波戸の捜索をする際、『成田はボクチンの庭だから1人でオッケー』と飛び出し、『男の娘を自分が見つけて2人でキャッキャウフフ』を目論んでいたクッチー。
彼は誰からも『波戸見つかる』の一報を受けず、さんざ歩き回ったあげく、皆が去った後の合流地点・宮川商店に遅れてたどり着いた。
運悪く、携帯は実家に忘れてきていた。
「あっれー………?」
彼の存在が思い出されるのは、この1時間後。
屋台の酒の席で田中が、「そういえば去年は朽木君が女性陣に潰されてさー」とぽつりと思い出を語った瞬間であった………。
現視研一行と再会するのは、この数日後、正月明けの部室であった。
朽木学の大晦日。涙するには寒すぎた。
(終)
初投稿キター!
スー、とうとう特撮にも目覚めたか
て言うか、合体ネタ連発は、斑目と合体したいという遠回しのお誘いか?
吉武テンションたけー
矢島ナイスツッコミ
あーるで言えば、浅野のポジションだな
波戸君、早くも方向音痴属性が加わったか
狙ったような萌えキャラだな
それにしてもクッチー、あれだけウザイ存在感なのに、存在感無しのドロロのように忘れ去られるとは、ある意味凄い才能
初投稿お疲れ様でした
ちょっと待てクッチー!
他にも女の子3人もいるのに、女装子さん一点買いかよ!
保守
テスト
やっと規制解除
次来ないかな?
来んね
規制解けたー
>>350-351ご感想感謝です
新入りさんは性格を想定するしかなく、味付け自分風味でスミマセン。
でも楽しかったー。
某所の読み切りアンソロも頑張るぞ。
ちなみに「宮川商店」は9巻30ページ、「ボンノーはとめどなく」のタイトル部分左上で甘栗売ってる店です。
特撮ネタは「W」で、あの2人で1人の探偵も格好の801ネタなんでしょうね。
「まるかいて地球」っていろんなバージョンあるんすね。曲調べててイタリアの?ねぇねぇマーマ?で爆笑しました。
クッチーが忘れられたりスルーされたり女の子いっぱいいるのに男の娘にロックオンすんのは……仕様です。
ラストの「涙するには寒すぎた」は、戦争映画「スターリングラード」のコピーから。……スターリングラードはジュード・ロウじゃない方です。でもあっちのコピーも好きです。
「むしろ波戸ちゃんにゴス着て欲しいっス」
「むしろ波戸ちゃんにゴス着て欲しいっス」
「むしろ波戸ちゃんにゴス着て欲しいっス」
だれか、ゴスたのむ。
喪が明けたので、やり残しの続きを書きたいです!
まだー
規制中多いらしいな
大規模規制中か・・・
うむ
さて
規制解除ッ!
またいつ規制されるか分からんので、とっとと投下します。
1節ずつの連載では、ブツ切り感があるし書いてる方も乗ってこないので、今夜5節投下し、あさって続きを投下して終わらせたいと思います。
ひさびさのスレ汚しでスミマセンが一つよろしくお願いします。
【14】
ワタシはサークル棟から出て、集合場所のモノレール駅へ。
サァこれから宴会だと思うと、すでに北川(姪)のうっとーしさなど三歩進んだ段階で忘れ去っていた。
駅前には、OBの皆さんがたむろして談笑してるのが見えた。うっしゃワクテカと思ってたら……斑目さんだけは肩を落として苦笑いしているじゃないスか。
ワタシは田中(加奈子)さんに尋ねた。
「斑目さん元気ないですけど、どーしたんですか?」
「スーも飲み会に合流するって電話があったんですよ」
「へぇ、奥様が……」
加奈子さんは鋭い眼差しで手をアゴに添え、“携帯で電話している咲さん”と、“久我山さん達と話す生気の無い斑目さん”とを交互に見て、何かを察した様子。
「キたんだわ。スーの額に電流がキュピーン!とキたんだわ」
「ニュータイプですか(笑」
しばらくすると、モノレール駅の階段を、金髪の“少女”が金髪の“幼女”を連れて降りてきた。“少女”の方は実際は母親なのだが……。
「あ、スー、早かったですね」
加奈子さんと咲さんがスージーを迎える横で、田中さんと笹原さんがサーシャちゃんの前でかがんで頭を撫でていた。
「サーシャちゃん大きくなったな。いくつになった?」
「禁則事項デス」
「いま保育園いってるんだっけ?」
「禁則事項デス」
「弟くんは今日は一緒じゃないの?」
「赤チャンは、ツレてクルと禁則事項にナルので、禁則事項に禁則事項してきマスた」
ワタシは、田中さんたちの問いに眉一つ動かさずネタで答える「よく訓練された幼児」を見て背筋が寒くなった。
近くにいるとまたサーシャちゃんに何か言われそうなので、斑目さんや久我山さんのとこに移動して尋ねた。
「斑目さん……英才教育…ってやつデスか?」
「見てたアニメのセリフすぐに憶えて使ってるんだよね」
ため息をついて答える斑目さん。
「でも憶えがいいんだよ」って頼りなく笑うけれど、それって脳細胞の無駄遣いでは?
久我山さんも斑目さんに問いかける。
「……で でも、け 結構古いアニメの決め言葉多いよな」
「ああ、俺が買い集めてたDVDボックス、母(スー)と子(サーシャ)で片っ端から見てるからな」
うわぁ…なんか光景が目に浮かぶ。
「でぃ…DVDボックスって買っちゃうと安心して見ないから、ゆ 有効に活用されていると思えば……」
久我山さんは顔の汗を拭きながらフォローしてる。
ワタシも「そうですよねー」と棒読みで同調したものの………オタの家庭ってみんなこうなるの?
一方、スー母子を前にして田中夫妻がニコニコと語っている。
「そろそろ親子でコスプレができそうですね」
「そうだね。もうちょっと大きくなったらレベッカ宮本とか」
「律子・キューベル・テッケンクラートの高校時代と幼女時代とで並べたりして……」
真横で聞いてる咲さんが青ざめて引いてるのが遠目にも分かった。
サーシャちゃんと同じ目線の高さになるようかがんで、咲さんが語りかける。
「そんな世界に今から染めたら可哀想じゃん、ねぇ?」
無愛想フェイスのままでサーシャちゃんが一言。
「デッカイ オ世話デス」
あ、咲さんこっちに逃げて来た。
【15】
私たちは最寄駅でモノレールを降りて、居酒屋の座敷へ。
幼いサーシャちゃんは、最も後輩であるワタシが面倒を見ると志願したので、ワタシの隣で黙々とジュースを飲んでいる。
店内では延々とアニソンが聞こえてくる。
有線で放送しているのではない。
テーブルの一番端で、みんなが存在を忘れていて、危うく置いてきぼりになるところだった朽木先輩が、ジョッキを手に高らかにアニソンをアカペラで歌っているのだ。
他の先輩方はもうクッチー先輩をガン無視。「居ないもの」と思って歓談している。よく他のお客からクレームこないもんだ……つか、誰も触れたくないのか。
クッチー先輩も最初こそ笹原さんや斑目さんにアニソン談義を仕掛けながら歌っていたけれど、相手してもらえないと分かると、1人で歌い続けている。
つかコーラスまで自分で歌ってる………誰かかまってあげて(自分はヤダ)。
田中さん夫婦は一緒になって、咲さんにコミフェスでのコスプレを強要している。どうやらこれは在学中からお約束の光景らしい。
特にハイペースでジョッキ生のおかわりを繰り返しつつ、「コスプレしましょうよぉぉ!」と咲さんに絡む加奈子さんがヤバい。
あの重たそうな乳で圧迫される咲さん、お疲れッス。
やがて於木野先生が合流!
「ここまでメンツが集まるのは珍しいから」と、笹原さんが声を掛けたのだ。
靴を脱いで座敷に上がる於木野先生を、笹原さんが迎える。
「お疲れ。一段落した?」
「はい。何とか…」
筆頭を解いて普段モードの於木野先生が、笹原さんの隣に座ろうとした時、それまで加奈子さんの隣で黙々とビールを飲んでいたスージーさんがすっくと立ち上がった。
笹原さんを威嚇しながら、於木野先生の手を引っ張って連れて行き自分の隣に座らせた。
「カイチョーハミーノ嫁!」
「またそれですか…」と於木野先生は呆れている。
彼女が日本留学の決意を固めたのは、於木野先生が居たからだと聞いたことがある。スーさんは本当に於木野先生が好きなのだ。
奥さんを取られて苦笑いの笹原さん。
隣には斑目さんが座っていて、中断していたオタ話の続きをはじめた。斑目さんは、時折みんなの様子を生暖かく眺めながら、笹原さんとボソボソと語り合っている。
時折、「斑目さんどぞ」「あ、ありがと」と酒を酌み交わす。
ああ、喧噪のなか、静かに交わる疲れた男達。…確かに美味しいこの2人。
ニマニマしながら見守ってると、咲さんが田中夫妻から逃げるようにして席を立ち、斑目さんの隣に座った。
笹原さんと咲さんに挟まれる格好の斑目さん。
「あっ、えっ?」と、うろたえる斑目さんに、咲さんが「さあ飲んだ飲んだ」と、メニュー表をかざして注文を促してる。
メニュー表からパッと顔を上げた咲さんが、ふとため息をついて斑目さんに詰め寄った。
斑目さん、ますますキョドってる。かわいいw
「斑目、小さいうちから、よくあんな風に育てたよね…」と、こっち(ワタシの隣のサーシャちゃん)を指差す咲さん。
「いっ、いやいや、おっしゃるコトはごもっともなんだけど。俺よりスーの影響受けてるって見てて分かるでしょ。それにあの子は“つくり”が違うんだよ。オタとしての構成物質が…」
なんか斑目さんが熱くなりだしたぞ。
「…俺らは自分から限られた情報に触れるうちにいつの間にかオタクになってたけど、サーシャあたりの次世代は、俺らのコドモ時代以上の圧倒的情報量に晒されてる訳で……」
「うわ、また語りだしたよ。でも確かに斑目の方に似てたら、コドモもくだらない事ばっか小難しく演説してそうだよね(笑)」
「ハハハ…すまんね」
「いつものことだし、いいよ。まったく…変わってないね」
「…まあね」
斑目さんはちょっち赤面したり挙動不審になったりしながら、ちびちびとお酒をすする。咲さんも斑目さんにはズケズケ言いながら、くだけた表情を見せている。
この2人の雰囲気も、笹×斑とは違う意味で、いい感じだな。
【16】
さて、ワタシの隣に座ってる(というかテーブルの向こうからは頭しか見えない)サーシャちゃんだが……。黙々とおつまみを食べ、ジュースを飲んでいる。
ちっちゃい子のお世話は後輩の役目と思って預かったものの……。黙々過ぎて……ナンだろう幼児相手なのに、この妙な緊張感ッ……(汗)。
な、何かおしゃべりしないと、こっちの間が持たない。
「さ、サーちゃんってさ、お母さんにそっくりだネっ!」
「オ前ガソウ思ウンナラソウナンダロウ。オ前ノ中デハナ」
「………(激汗)」
涙目のワタシに、対面の久我山さんが助け船を出してくれた。
久我山さんはカバンの中からゴソゴソと、スケッチブックを取り出した。
「さ、サーシャは、ど どんなキャラが好きなのかな?」
「……キュアアマゾン」(←プリ○ュアシリーズ第13弾のキャラ)
「それなら、わ わかるよ。よかった」
久我山さんは、うろおぼえながらスケブにキュアアマゾンを描きはじめた。
サーちゃんもジュースを置くと、机に乗り出すようにしてスケブをのぞき込んでいたが、いつの間にか机の下をくぐって対面側に移動。久我山さんの膝の上にちょこんと座って、描かれるキャラを興味津々に見ていた。
その様子は、「大トトロとメイちゃん」ぐらいの体格差で微笑ましい。
この時ワタシは、きっとホッと安心した表情を浮かべていたのだろう。久我山さんが小さな目でこちらをチラリと見ると一言、「お お疲れ」と声を掛けてくれた。
ワタシは申し訳なくポリポリ頭をかいた。
「お手数かけちゃってスミマセン」
「べ 別に いつもやってることだし」
「いつも? 仕事中もスケブ持ち歩いてるんですか?」
「び 病院のナースステーションで描いてって、頼まれたりするんだよね……」
「へ? 看護婦さんから頼まれるの?」
「入院してた小児科の病棟……お 憶えてるかな?」
忘れるわけありません。
10年ほど昔、あの病棟で入院していたから、そこで久我山さんに出会ったから、今の自分があるんデス。
「あの病院の え 営業回りを再開してね……」
「へえ」
「あ あの時の婦長さんが 現役でさ……」
「あー!」
久我山さんが入院中のワタシを励ますために、大好きな「くじアン」の絵を描いてくれた「色紙」。看護婦さんも褒めていたっけ。
現在久我山さんは、あの病棟に行って時間がある際には、入院している子供の好きなキャラを描いてあげてるというのだ。
ワタシが受け取った色紙のことを憶えていた、婦長さんや看護婦さんのリクエストだそうな。
「営業の一環だよ。それに相変わらず ら 落書きレベルだし」と苦笑いている久我山さん。
それでも、あの時のワタシのように励まされる子もいるに違いない。
久我山さんはキュアアマゾンを描き上げると、スケブのページをサーシャちゃんに渡した。サーちゃんは「サンクス」と妙に日本語臭いイントネーションでお礼を行って母親の席へと駆けて行った。
「趣味が仕事にも活きてるんですね」
「き キミが現視研に入会した時、励ましてくれたおかげだよ」
よかった。
前の会合で、コミフェス参加を提案した久我山さんの表情に、「マンガをこれで最後にする」ような雰囲気を感じていただけに、ワタシはホッと安心した……はずだった。
「……で でもね……」
「?」
「ま マンガ自体は、このコミフェスで最後かな……」
「ええ!?」
「い いろいろあってね」
ワタシは詳しい理由を聞き出そうとしたけれど、それは叶わなかった。
以降、久我山さんはその話題には触れなかったし、直後にスー奥様が久我山さんのもとにやってきて、スケブをおねだりしたからだった。
【17】
ミナミ印刷の「マーヴェラス割引-40%セット」の入稿日、7月10日を目指して同人誌づくりが開始された。
現視研の解散を回避すべく、ワタシの周囲は慌ただしいものになった。
まず飲み会後の1週間目で、於木野鳴雪先生が早々に原稿を仕上げてくれた。
部室で現役ちゃんが「うへぇネームできない〜」と担当分原稿で頭を抱えている最中に、笹原さんが於木野先生の完成原稿を持って現れた時には、「プロ恐るべし」と青ざめたもんです。
翌週には、笹原さんに連れられて黒木優先生の原稿を受け取りに行った。
前の夜には、“黒木先生とこんな会話をしよう”などともくろみ、小学生の頃は副会長とアレックスに萌えてました!とか、当日の脳内シミュレーションまでしていたのに……。
当日、集合場所の駅前。笹原さんがいつもの全方位的に優しい笑顔で「や、こんちわ」と声を掛けられたあたりから、手足がガクガクと震えだした。
(うはぁ、いよいよだ…!)と思うのもつかの間、ワタシはただ笹原さんの後ろでちぢこまっていて、緊張で何が何だか分からないままに全ての用件が終わってしまった。
終わってみると、黒木先生の仕事場がどんなだったか、先生の表情も、先生と笹原さんとの会話の内容も、ほとんど頭に残ってない……。
帰り道、ガックリトボトボと歩くワタシ。
笹原さんはワタシの気持ちを察してくれたみたいで、「しょうがないよ。俺も最初にメジャーな世界をかいま見たときは、目ぇグルグルしてキョドッてたし」と励ましてくれた。
一息つくために、駅のサ店でコーヒーをおごってもらった。
汚さないように折らないように、慎重に黒木先生の原稿を拝見。合計2ページのイラストとコメントだけど、旧版キャラがびっしり描き込まれている。
好きだった脇キャラたちも、小さいけどしっかりと……麻緒里、鏑木先生、如月組の黒服たち、もちろんアレックスも見つけた。
嗚呼、至福。
「これは見飽きないですよ!嬉しいなぁ!」
すっかり元気になって顔をあげると、笹原さんはニコニコして問いかけてきた。
「もう就活してる?」
ブッ! 思わず噴くワタシ。
「何ですか急に。危うく生原稿汚すとこでしたよ」
「ごめんごめん。こういう編集の仕事、興味あるかなと思って……」
「え?」
「興味があって就職先に困ってたらウチ(鷲田社)を受けてみるのもいいよ。一次面接は楽勝だし(笑)。でも仕事はキツいけどね(苦笑)」
就職に関する話題はそれだけで終わり。
その後は、他の原稿の進み具合やたわいない会話をした後、ワタシは笹原さんと別れて帰路についた。
電車のドア付近に立ち、ゴトゴトと揺られている。
通り過ぎてゆく町並みとこちらを照らしている夕焼けを見ながら、脳内は笹原さんの言葉をボーッと反すうしていた。
(編集の仕事……)
大事に抱えているカバンに目を落とす。
この中には黒木先生の原稿が入っている。
ワタシが漫画雑誌の編集になりたいと夢見ていたのは中学の頃までだったか。テスト勉強や同人活動や現実の友達付き合いの中で、夢見ていたことは段々と忘れ去られていたのだ。
今回の同人誌づくりによって、久しぶりにソレを思い出している。
(でも、笹原さんがあんなことを問いかけるなんて……)
ワタシは、久我山さんがくれた「色紙」のことを思い出した。イラストと一緒に、『後輩は編集者になれました。俺もがんばるから、君もがんばれ』と書かれていた色紙。
現視研に入会した当初、笹原さんにもアレを見せたっけ。
憶えていてくれいたんだな……。
本人はここ最近すっかり忘れていたのに。
(ううむ。……就職どうしようかな……)
イカンイカン。今はそれどころではない(←いや、ホントは重要な事なんだけど)。
ワタシは気持ちを切り替えるために、頭を窓に「ガンッ」とぶつけて、さらにブンブン振った。他の乗客から見たら立派な不審者だ。
ふぅ、とため息をついて、再び窓の外に目を移した。
「帰ったら、現役連中に連絡しておかなきゃな」
休んでる暇はない。現役会員で担うページの仕上げをしなければならないのだ。
【18】
数日後の夜中。現視研部室。
現役ちゃんたちは四苦八苦しながらも、自分たちの担当原稿を仕上げた。
絵が苦手なワタシも微力ながら、部室でベタ塗りやトーン張りを手伝った。
現役組はほかにも、「くじアン」キャラのセリフや登場コマ数などデータのまとめも担当しなければならない。
深夜まで部室で一緒に「くじアン」のコミックを読み漁りながらセリフやコマをカウントする。ワタシも現役ちゃんも、次第に疲れて何がなんだかワカンなくなってくる。
「時乃のキノコ言及セリフのカウント終了! つか、一字一句読んだけどキノコに関するセリフなんて無かったよ」
「え? 会長それは新版ですよ。今調べなきゃいけないのは旧版! 小梅版の時乃はキノコなんか興味ないぢゃないですか!」
「ええっ! じゃあ今まで目を皿のようにして読んでいたのは……」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
「うへぇ。ちょっと休憩してから見直すわ…」
ワタシは、おええ……と吐き気をもよおしながら、立ち上がり、背伸びをした。
パイプイスをずらして窓側に立つ。外は真っ暗だが、所々でまだ明かりが灯っているサークルの部屋がある。
ワタシの視界に、その一つの窓でサッと動く人影が見えた。そっちへ目を向けると、現視研の斜め上の部屋の窓だった。
あそこって確か、児童文学研究会だっけか。
ふと、その児文研の部屋の明かりが消えた。
ああ、帰る準備をしていたんだ……帰って寝るんだろうな。いいなぁ、ワタシも帰りたい。
「会長ぉー。いつまで油売ってるんスか。さぁ、早くくじアンを読む作業に戻るんだ」
ワタシの背中に現役ちゃんの声がつき刺さる。
「また時乃のセリフを数える仕事が始まるお」
「マーヴェラス割引-40%セット」の入稿日である7月10日まで残り2週間を切った。
この入稿日に間に合わなければ、その時点で現視研は解散。
斑目さんや田中さんなど、手の空いている時に現役を手伝ってくれて、原稿の取り込みや仕上げを一緒にやってくれている。
切羽詰まった状況なのに、現役やOBがみんなで本を作っている今が……大変だけど、申し訳ないけど、楽しい。
ワタシは、傍らのコーラを一口飲んで旧版くじアンに目を通し始めた。
右手はシャーペンを握りしめ、セリフをカウントしながらメモ用紙に「正」の字を入れていく。
目線をコミックに落としたまま、現役ちゃんに声を掛けた。
「これ基にミニ評論書くんでしょ」
「ハイ。OBの先輩と一緒にまとめマス」
「間に合うのか〜?」
「修羅場ッスねwww」
私たちの作業が終われば、だいぶ楽になる。
いち早く仕上がった於木野先生の原稿も、ほかのOBさんの原稿も、現役の原稿もだいたい揃ってきた。
あとは久我山さんの原稿だけなんだけど……。
(久我山さん、大丈夫かな?)
飲み会以来、久我山さんとの連絡がつかず、原稿の進捗は分からない。
それ以上に、(なんで、マンガやめちゃうんだろ)という疑問が頭をよぎった。
そんなワタシの疑念を消し飛ばすように、勢いよく部室のドアが開いた。
「買い出し部隊帰還〜!」
クッチー先輩だ。何か10年前の「いろはごっこ」制作時も同じ役目を担ってたそうで、「パシリはワタクシに任せてヨ!」と胸を張っている。
しかし先輩パシリって…それでいいんスか……?
今日はここまでデス。
スレ汚し失礼しました。
あさって(日曜)夜中に続きます。
たぶん。
376 :
となクガ3:2010/02/15(月) 10:00:59 ID:???
昨晩寝過ごした。。。
といっても今このスレは自分しかいないようだし
(゚Д゚;≡;゚д゚)
後日あらためて。
期待しております
まだかなまだかな
おお、続きが来ていた
スー、教育に悪いアニメ見せ過ぎw
クッチーまた買出し係かよw
続き待ってます
「はぐれクッチー純情派」の元ネタになった、ドラマの主役の方が亡くなられてしまった
(「必殺御宅人」もそうだが)
ご冥福をお祈りします
合掌
ごめんまたせて
続き投下はまだか?
直った?
復旧記念カキコ
さて
どうする
どうしよう?
復活?
hosyu
またーり
例の東京の条例案が通れば、ここも危ないかも
そんなん知らんわ
【19】
「久我山かー。最近携帯も連絡つかないんだよな。仕事かなり忙しそうだぞ」
田中さんの不吉な言葉を聞いたのは、入稿まであと1週間に迫った頃。
さすがに久我山さんの状況を確認しようと思ってたワタシは、部室を訪れた田中さんに相談したんだけど……。
「久我山は筆が遅いからなァ」
田中さん追い打ちの一言。
いや、久我山さんにとって、最後のマンガになるから気合いが入っているはずなんだ。何とか確認とらないと。
ワタシはふと、飲み会での一言を思い出した。
『あの病院の え 営業回りを再開してね……』
ガタッ! ワタシは居ても立ってもいられず、部室を飛び出した。
これは直接会ってみるべきだ。
「行ってみます!」
「行くってどこへ?」
「久我山さんのトコです!」
大学を出て、モノレールから電車へと乗り継いで、ワタシは数年ぶりにその地を訪れた。
小学生の頃に入院していた病院だ。
その佇まいは、ワタシが入院していた頃とあまり変わらなかった。
診察を待つ人、お見舞いに来た人らでにぎわう外来。医師を呼び出す放送、消毒薬の匂い。
外来の廊下を横切って入院病棟へ向かうと、だんだんと静かになっていく。
懐かしいな。小学生の頃の記憶がよみがえってくる。
昔ワタシが入院していた「西3病棟」の入口まできた。
待ち合いロビーでワタシはハッとして立ち止まり、「あわわわッ」と頭をかかえた。
勢いで飛び出してきたのはいいけど、ココに久我山さん来るって確証ないぢゃん!
もう来た後だったりするかもヨ!
もだえて身をよじった時、あるモノがワタシの視界に入った。
ワタシは思わずその場に立ち尽くした。
目に飛び込んできたのは、見憶えある古いソファだった。
小学生の頃、いつもこのソファに座って「くじアン」を読んでいた。
あのソファだ。
ナースステーションの脇に置いてあったソファは、場所を変えて病棟前の待合いに置いてあったのだ。
ソファの端は小さく穴が開いていて、古く傷んでいることが分かった。
座ってみると、みしっという音を立てて座面が沈んだ。
あのときの感触は忘れてないよ。
(ここで、待とう)
そう思った。
子どものころのように、このソファに座って久我山さんを待っていよう。
今日いなければ、それでもいい。入院病棟で次に営業に来る時期を聞いてもいいだろう。
いまはこのソファの感触を確かめながら、待とう。
【20】
ワタシはソファに座って、しばらくの間ボーッと病棟の入口を眺めていた。
何度か自動ドアが開いては、見舞客や看護師が出入りしている。
ふと、遠くでミンミンとセミが鳴いているのに気がついた。
窓越しだから、セミの声もなんだか遠くに感じる。
あー、セミの鳴く季節になってたんだ……。
初めて久我山さんに出会った時も、こんな風だったな。
そんなことを頭の中でつぶやきながら、どのくらい経ったろうか。
再び病棟の自動ドアが開いた。
ワタシは視界に入った巨体にハッとした。
大きな丸い体を縮めて会釈をしながら久我山さんが出てきたのだ!
「!」
なんてラッキー!ちょうど来てたんだ。
「久我山さーん」
「あ あれ?」
ワタシと目が合い、驚く久我山さん。
ワタシはソファの空いた部分を指さして、「どぞどぞ」とだけ告げた。
ギシッ…久我山さんが座ると、あの頃と同じ、いやあの頃以上にソファが軋み、座面が沈んでいく。
おぉ、潰れるんじゃねw
思わず笑いながら、懐かしくて、胸が熱くなった。
「この病院、ソファ、懐かしいですね」
「う うん」
「お忙しい中スミマセン」
「い いや、用意はしてあるから」
「え?」
久我山さんは営業用の大きなカバンを膝の上に乗せ、ガサゴソと厚めの封筒を取り出した。
「これ、同人誌の原稿だよ。忙しくて部室に持っていけなくてさ。ご ごめんな遅くて」
「いいえ、とんでもない」
中身を覗くと、キレイにペン入れされた漫画原稿が出てきた。
「……」
ワタシは前回お会いした時の言葉を思い出して、問いかけてみた。
「……これが、最後の漫画ですか?」
「え?」
「飲み会で『マンガ自体は、今回のコミフェスで最後』って言ってたじゃないですか」
「あ。うー。そ それはね」
久我山さんはタオルハンカチで額にかいた汗を拭き拭き、オドオドしながら答えてくれた。
「あー。そ その、見合い、するんだな」
「おおおおおー!?」
ワタシは思わず妙な歓声をあげた。
そういえば飲み会で咲さんが、『クガピーはおぼっちゃん』って、久我山さんをイジってたのを思い出した。
大学時代の部屋も広くて高級。免許だけでなくクルマまで持ってたなどなど。
見合いだなんて、家柄がいいのかな。
ワタシの隣で、久我山さんは苦笑いする。
「み 見合い結婚したら、漫画かけないよ。あ 相手一般人だし」
「まあオタク生活は制限されるでしょうね。でも意外。オタだったら二次元嫁に全てを捧げる覚悟かとwww」
ワタシは冗談まじえて笑ったが、久我山さんはまあるい肩を落として嘆いた。
ソファがそれに合わせてギシリと鳴いた。
「田中も、笹原も、高坂も結婚してるだろ。あまつさえ斑目まで。結構考えちゃうんだよね」
「スミマセン」
ワタシは冗談をわびる。
しかし斑目さんは「あまつさえ」扱いですかそーですか。
「あっ、でもまだ独身いるじゃないですか。朽木先p……」
途中で口ごもった。クッチー先輩と一緒ではさすがに辛い。
「スミマセン」
またワタシはわびた。
「お 親も会社も、結構うるさいし」
口数少ない久我山さんだが、親御さんのことや今後のことをかなり考えているのが感じられた。見合いを成功させようと頑張ってるんだろうな。
でも、そのためにオタ生活我慢するのは、ちょっと辛いね。
その時、入院病棟の自動ドアが開いた。入院患者らしいパジャマ姿の男の子が出てきて、こっちに気付いて手を振った。
「おっちゃーん!ごーえんじの絵ありがとー!」
「お おう。俺の分かるキャラで、よ よかったよ」
久我山さんが婦長さんに促されて絵を描いてあげたのだろう。
久我山さんの絵に励まされてる子がいる。
ワタシ自身も久我山さんの絵に励まされて今がある。
素敵なことじゃないですか。
絶対もったいない。
ワタシは久我山さんの方に向き直った。
「人を楽しませたり喜ばせたりする技を持ってる人が、自分の技や楽しみを封印するなんてオカシイです」
「え? うん」
「自分をさらけ出さずに結婚したって、辛いだけだと思いマスよ。見合いの時にハッキリ、趣味はマンガです。ボクはオタクでーすって言っちゃったらどーでしょう!」
「そ それはどーかな(汗」
「いまやオタも市民権もってますって!」
「で でも引かれて失敗したら……」
えーいグジグジとこの人はー!
ワタシは久我山さんに喝を入れるような気持ちで、立ち上がって力強く言い放った。
「見合い失敗したらワタシが代わりに嫁いでやりますから!そのくらいの覚悟でゴーっすよ!」
………叫んだ直後、ワタシは妙な視線を背中に受けてゆっくりと振り返った。
そこには、口元をニヤリとつり上げてこちらを見ている咲さんが。その目は生温かーくこちらを見つめている。
ワタシは体中に滝のような汗がにじんだ。
「あ、あれ? 咲しゃん? なんでここに?」
「えー、友達があっちの病棟に入院しててお見舞いの帰り。まさかこんなトコで会うなんてねー(ニヤニヤ」
「あの、ご機嫌良さげッスね……。いつからそこにお立ちになってらしたんでしょうか?」
「やだなー立ち聞きなんてしてないわよ。どうぞ続けてー(ニヤニヤ」
「いやワタシは覚悟の話をしただけで……。」
誤解してる。絶対この人なんか誤解………あれ?
ワタシの視界に、もう一つ見慣れた影が。
逆方向の廊下には、斑目さんが、プチスーことサーシャちゃんの手を引いてぼう然と立っていた。
「あれ? 斑目さん、どうしてここに?」
「いや俺もそれを聞きたいんだけど……。俺は久我山から原稿を受け取りにきたんであって……」
久我山さんが目を丸くして、ワタシの方を見てつぶやいた。
「お 俺は君が斑目の代わりに原稿を取りにのかと」
どうやら今日ここで、久我山さんが斑目さんに同人誌の原稿を預ける約束をしていたらしい。
だから営業カバンに原稿を忍ばせて、“用意はしてある”って言ってたのか。
いや、今はそんなことが問題なんじゃない。
なんか、斑目さんの態度も変だ。
「俺、なんか取り込み中のところ来ちゃってマズかった?」
「え?」
咲さんが斑目さん親子のところに駆け寄った。
「ダメダメ邪魔しちゃダメだよ斑目。ラウンジでお茶でも飲んで帰ろ。じゃあお二人ごゆっくり!」
「そ、そうだな。原稿も受け渡し終わってるみたいだし……」
ぜってー誤解してるこの人たち。
何でこんなにタイミングよく出て来るかなぁハハハハ……。力なく笑ってソファに腰を落とすワタシ。
久我山さんは申し訳なさそうに、「まあ、み 見舞い。頑張るよ」とつぶやいた。
前回が1か月前、自分の現状が腹立たしい
それでも続きは明日ということにしておきます
来てたー!!
待っています!!
402 :
おまけ:2010/03/17(水) 10:07:10 ID:???
「久我山さん、“見舞い頑張る”じゃなくて、“見合い頑張る”でしょ」
「あ すまん。動揺してて」
「そういえば、田中さんが最近携帯もつながらないって言ってましたよ」
「ほんと忙しかったんだけどね。あ あとは原稿にメドつくまで、か 顔向けできないなと思って」
「それにしても、久我山さんって田中さんと親しいって思ってましたけど、何で原稿の受け取りは斑目さんだったんですか?」
「あー。田中よりあいつの方が、ひ ヒマだろうと思って……」
「うわー……」
これが続きか?
斑目w
久我山若い嫁フラグキター!
【21】
セミが鳴き、うだるような暑さがもうやってきている。
まさに温暖化だというのか、このところの暑さは異常だよ。
7月7日「マーヴェラス割引-40%セット」の〆切まで残り4日となった。
この4日をかけて、原稿のデータ取り込み、画像の調整、セリフやノンブルの打ち込みなどにかかるのだ。ワタシ達の作業は最後の仕上げにかからなきゃいけない。
「あぢぃ。部室が3階にあるのがこんなに苦痛とは……」
一段一段、階段を上るたびに汗が吹き出てくる。
背中べっとり。
セミの声がうざい。
足が重い。
まぁ、足取りを重くする理由は暑さだけじゃないけどね。。。。
それは、久我山さんと病院で会った時のやりとりで、咲さんや斑目さんにいらぬ誤解を与えてしまったこと。
なんかワタシが久我山さんに嫁ぐとか嫁がないとか、久我山さんがワタシを嫁にする覚悟がどうとかいう方向に聞き間違えてるんだろうなぁ。
あれ以来、咲さんには会ってないけど、斑目さんはいつも通りお昼に部室に遊びにくる。しかし、その接し方が今までと違っている。
よそよそしいというか、わざとらしいというか……。
先日なんか部室に2人っきりになった時は、ラメさんは黙々とマンガ読んでたりカバンの中身を延々いじったあげく、急に凄い緊張した口調で、「く……久我山は口数少ないし、汗っかきだし、人のカラオケに小声で割って入るけど良い奴だと思うなぁ」とか話してくるしー!
「アイツほんと自分から大事なこと言わないしな〜」なんて、ワタシ気を遣われてる?
そんなコトがあったせいで、現視研部室に行くのにも覚悟がいるのだ。
そして今、盛夏のもとヤレヤレフー…とため息をつきながら、部室へと向かっているワタシ。
サークル棟の階段を登っていると、上の方から現役ちゃんが降りてキタ。いつも飄々としてる彼女が慌てている。
「あ、ちょうど良かったカイチョー」
「どしたー?」
「さっき台割見直してたんですが、原稿、2ページ足りませんよ!」
「え?」
「2ページ分を何かで埋めないとイカンのですよー。それとッ!」
それと……?
それと……!
…………………………!
まだ何かあるの?
「この前の会議で本文原稿の割り当てやったけど、表紙描くヒト決めてなかったデショ!」
えーと………。
ワタシはこの報告を理解するのに1分時間を費やして、思いっきり「うぇええええッ!?」と悲鳴をあげた。
どうしよう。
原稿は久我山さん、於木野先生、現役ちゃんら現会員のほか、於木野先生が紹介してくださった矢島さんなど他のOB・OGの方々、寄稿の黒木優先生などのページ割り当てで何度かページ数を変更した……。
それでページ数にズレが生じたに違いない。
しかも、肝心の表1と表4(表紙と裏表紙)が未確定だったなんて、誰一人気付かなかったよ……orz
ワタシは恐る恐る、現役ちゃんに尋ねてみた。
「え えーと、表1と表4は確か……」
「フルカラーの予定ですぜ」
階段の踊り場で、互いに顔汗で立ち尽くすワタシ達。
本文原稿を何とかごまかせても、ワタシ達現役組は表紙を描く技術は無い。
しかしどうにかしないと……。
そう思っているところに、階段を上ってくる笹原さんの姿が見えた。
「ん? 作業の激励にきたつもりなんだけど……。こんなところでどうしたの?」
「いやそれが……」
笹原さん、ワタシ、現役ちゃんは、部室に移動した。
そこで事情を説明。足りないページと表紙をどうするか。
対応を考えるものの、部室にはセミの声だけが絶えず聞こえてくるだけ。
笹原さんが口を開いた。
「表紙。久我山さんに頼んでみよう」
「え? でも忙しそうだし……」
「ここでやった会議の時、久我山さんが“現視研の本だ”って強く言ってたよね。この同人誌に賭けるものがあるみたいだから、その責任を果たしてもらおう」
「えええ!?」
笹原さんはさすがプロの編集だ。
非情に思える判断だけど、これを最後の漫画だと思っていた久我山さんの決意を感じ取って言っているのだろう。
笹原さんはワタシに真向かって言った。
「じゃあ、頼んでみてね」
「わ……ワタシが……」
「うん。この同人誌の編集は現役会長である君だからね」
無理を通さなければならない。
ワタシは思わず緊張する。
「難しい、ですね」
「大事なのは描き手のやる気を損なわないこと。この同人誌に一番のやる気を持っているのは久我山さんなのだから大丈夫だよ。その気持ちを高めるてあげるんだ」
「はい」
「………“将来の奥さん”ならそれができr………うッ!」
笹原さんは慌てて口をつぐんだ。
いま、スゲー聞き捨てならないセリフがその口から出てきましたヨ。
現役ちゃんは「???」と、意味が分からずにいぶかしげな表情を見せる。
失礼ながら大先輩の笹原さんをジト目で睨むワタシ。顔中に汗が滝のように流れている。
「笹原さん?」
「あ、いやこれは(汗」
「誰から聞いたんデスか………!」
正確に聞き出さなくても何となく分かる。
きっと、メガネのあのヒトだ。
(悩めるワタシへのフォローの在り方)を信頼できる後輩の笹原さんに尋ねたとか、容易に想像できます。
その昔、田中さんと加奈子さんが付き合い始めた時も、斑目さんと咲さんに話すのを警戒したと聞いたことがあるけど………まさかワタシがその被害に遭うなんてッ!
「あのー、それは全くの事実誤認なんスけど……」
「ま、まあ君はまだ在学中だしね。慌てなくてもいいよね」
ううっ、そういう問題でもないけど、今はワタシの事より、表紙と原稿を何とかしなくては!
「とにかく、表紙は久我山さんにお願いしてみます!」
「う うん。僕も奥さんのスケジュールを尋ねてみるよ。フォローしてもらえるかも知れない」
次いで現役ちゃんが神妙な顔で笹原さんに尋ねた。
「残り2ページの本文原稿、どうしましょ?」
……仕事が忙しいという久我山さんに表紙を頼む。その重い役目を負ってもらう一方で、ワタシ自身も、現役としての責任を果たさなくては……。
「描きます。ワタシがやります!」
次回
パソコン、プリンタ、スキャナを部室に持ち込み、入稿直前の週末を利用して、部室で徹夜作業を目論む現視研現役とOB。
合宿状態の現視研を警戒するサークル自治委員会。
「ワタシの結婚問題」に北川(姪)が過敏に反応する。彼女の脳裏にあるのは、卒業後すぐ結婚した叔母の姿が、それとも?
果たして久我山は表紙を描くことができるのか?
そして残り2ページの原稿に苦しむワタシに意外な人物が協力する!
つづく
初代会長フラグww
宇宙人再訪フラグキター!
いいぞー
【22】
病院で会ったときに、久我山さんの携帯メルアド聞いといて本当に良かった。
至急連絡のお詫びとお願いのメールを送ると、夜10時過ぎなら帰宅しているとの返答があった。
申し訳ないです……。
その夜、お風呂からあがって、タオルで頭をふきながら机に向かった。
まだ10時には時間がある………。
気持ちが落ち着かなくて、ゲームを始めたり、コミックを手に取ったり、録画済みのアニメを倍速で見たりと、5分刻みで時間を潰す。
何という小心者。
チラチラ時計を見ながらリモコンをいじってると、「ふぇ……ふえっくしょい!」とクシャミ一発。
薄着とタオルのままだったので、体が冷えたのか。
ワタシは思わずもう一度シャワーを浴びて、再びタオルで頭をふきながら机に向かった。
そうこうしている間に、時計の針は10時を過ぎていた。
携帯を手にして、大きく溜め息をつくワタシ。
「……気まずい……」
ただでさえお忙しい身の久我山さんに、急遽ご無理をお願いするなんて。
しかも病院でのアレのせいで、何とも電話し辛い。
大きく深呼吸して、久我山さんの携帯にダイヤルした。
プルルルルルルル……。
ダイヤルの音がワタシの緊張を高める。
『は はい』
うわ出た!
あ、約束してたんだから、出て当然なんだけど。
「あわわ。せ、先日はホントスミマセン。励ますつもりが妙なコトを口走ってしまって」
『な なんか変に誤解されたような。こっちこそ、わ 悪いね』
「いえいえこちらこそ……」
二度の風呂上がりのせいか、体のホカホカとドキドキとした鼓動が連動する。
久我山さんのことが好きだーとか、そんなコトは無いのだけれど、病院を退院した小学生の頃は、現視研を教えてくれた憧れのオタクとか、目標のオトナとして意識していた記憶がある。
再会することをずっと夢見て椎応を目指したのだし……。
いやいや、今はソレについて考えている場合ではない!
ワタシはブンブン頭を振ってから、昼間の笹原さん達とのやり取りを伝えて、改めて表紙のお願いをした。
「お願いします。お忙しい中とは思いますけど、力を貸してください!」
久我山さんは、最初困惑したようだけど……。
電話の向こうから、『フム』と、ちょっと力強い鼻息が聞こえてきた。
『よ よし、明日の仕事終わったら部室で描くよ』
「部室で、ですか?」
『う うん。家だといつも、な 何か食ったりビデオとか見ちゃって。ふ 筆が進まないし。か 環境変えて一気に描くのが吉……』
「あー、ありますねソレ!」
その時、ワタシの頭に電流走る。
大変失礼ながら、あることを久我山さんに無理強いして、さらにその後で後輩ちゃんと笹原さんに電話を入れた。
ふぅ、と一息ついて携帯を閉じるワタシ。
バチバチと両手で自分の頬を叩いた。
明日が勝負なのだッ!
【23】
翌日。7月8日の金曜日。
受講を終えて、昼休みに部室に行くと、現役ちゃんがノートパソコンで作業をしている最中だった。
「ごめんねー。無理お願いしちゃって」
「いえいえ。今日はゼミだけだったし、こういうイベント大好きだし!」
今夜ワタシたちは、パソコン、スキャナ、プリンタを部室に持ち込み、同人誌の画像処理、セリフやノンブル入れ、問題の表紙と……残り原稿2ページを部室で一気に終わらせようとしているのだ。
久我山さんも夕方合流の予定だ。
差し入れのジュースを現役ちゃんに手渡すと、彼女は作業の手を止めて尋ねてきた。
「現会長は都内だから自宅通学っしょ。家族はお泊まりについて何も言わなかったの?」
「ワタシも大学生なんだから、理由がハッキリしてれば干渉されないよ」とは答えたものの、親には「同人誌作るために徹夜」とは言えず、とりあえずサークルでの集まりだと伝えている……。
親はワタシがオタだって知ってるけど、最近は「真面目になってきたな」などと誤解している。
「現代視覚文化研究会」というサークル名称に騙されて、人文学、社会学的な集まりだと受け止めているらしいのだ。
それはそれで、毎度取り繕うのが煩わしい。
嗚呼、ワタシも下宿したかったな。
「その点、下宿生はお泊まりも気楽にできていいよね」とワタシは現役ちゃんに愚痴る。
「失礼な。今朝もアニメの予約忘れないようにチェックとか大変だったんスよ」
「それだけかよ」
ワタシの突っ込みに、現役ちゃんは何かを思い出したらしく「あっ…」と、声をあげた。
「あのー、ネット環境が無い部室にお泊まりだと、今夜ネトゲができないんデスが……」
「オイオイ。ネット引いてても、今夜はネトゲするヒマないぞ?」
ちょうどそこに、斑目さんがやってきた。
「ちわー。例によってお昼ここで食べさせてー」
クワッと見開くワタシの目。ワタシの失言を笹原さんに漏らしたのはきっとこの「メガネの人」に違いない。
「まぁぁぁだぁぁぁらぁぁぁむぇぇぇさぁぁぁぁぁぅぅん!」
「うお、ななな何か!?」
おびえる斑目さん。ワタシの背後にゴゴゴゴゴゴ…!と擬音が見えたに違いない。
「先日病院での久我山さんとの会話デスが……」
「あ アレがどしたの?」
「笹原さんが知ってたんデスが……」
「え? ちッ、違う! 俺、病院の日以来、笹原と会っても話してもいないよ(汗」
アレレ?
じゃあ……咲さんなの?
斑目さんはコホンと咳き込んで、「そ、それはさておき…」と話題を変えた。
さておかれちゃったヨ。ワタシの一大事……。
「これは、何してんの?」
斑目さんが現役ちゃんの作業を指差した。
「あー。同人誌の文字原稿です」とワタシ。現役ちゃんが、「今日は泊まり込みですぜ」と言葉を繋いだ。
「おー!」事情を聞いた斑目さんが感嘆の声をあげる。
「明日は休みだから俺も何か手伝うよ! 仕事終わったら差し入れ持ってくる」
「あ、ありがとうございます!」
疑惑が払拭された訳ではないが、斑目さんに感謝。いよいよ気分が盛り上がってきた。
このテンションで自分の担当している残り原稿2ページもチャッチャと終わらせよう。
「ワタシ、お昼買いに行ってきます。アンタ何かいる?」
現役ちゃんに声を掛ける。
「あ、自分はいいッス。もう食べました」
ワタシはお昼を買いにサークル棟を出て、購買のパンとお茶を抱えて戻る。
再びサークル棟に入ろうとしたところ、上げ気味のテンションを下げる嫌な奴に出くわした。
北川(姪)だ。
「あなたたち、また部室でゴソゴソやってるわね。同人誌の原稿は完成したのかしら?」
「こ、今夜仕上がる予定よ。楽しみに待ってなさいよ!」
「まぁ、期待なんかしてないけれど。現視研の最後の活動なんだから悔いのないようやってちょうだい(笑」
余裕たっぷりの笑みを浮かべて、北川は去って行った。
ムッカーッ! この女、ぜってー見返してやる。
【24】
夕方6時すぎ。
午後の授業を終えてから、再び部室にきたワタシは、原稿用紙を前にして頭を抱えていた。
まだアイデアが降りてこない。
2ページ分、どうやって埋めようか……。
窓の外は、夕闇が降りてきつつあった。
現役ちゃんがノートパソコンから目を離さないまま、「くじアンの感想文でも書いたらドーですか?」と提案してきた。
「そんなテキトーは許されないよ。これは先輩方にとっても意味のある本だもん」
その時、ガチャ!とドアが開き、久我山さんと田中さんが大きな箱を抱えてやってきた。
「ス スキャナとパソコン、クルマで運んできたよ」
田中さんがパソコン本体をテーブルに置くと、「久我山はさっそくパソコン立ち上げて表紙を描けよ」と声をかける。
「お おう」
久我山さんが部室のテーブルの奥に陣取って、モニターを設置しはじめた。
一方で田中さんは、「俺は嫁さん(加奈子さん)と合流して晩飯買ってくるから」と部室を出ようとする。
「買い出しならワタシが行きますよ!」と手を挙げたが、田中さんは細い目をさらに細めて笑う。
「原稿あるんだろ、ここはOBに任せとけ。お望みのモノがあったら何でも言えよ」
何と世話好きなヒトだろう。
アリガトウゴザイマス。
今度は現役ちゃんが手を挙げた。
「あー。それでは先輩、モバイルでもいいんでネットできないスかね?」
ワタシは現役ちゃんの頭を掴んでノートパソコンの画面に向き直した。
「もうあきらめろ」
「もう嫁さんは買い出しを始めているから、俺もすぐに帰ってくるよ」
田中さんが部室を出た。
なんだかんだで、田中さんも加奈子さんもこのイベントを楽しんでいるらしい。
「あぁぁ〜。今日は東の大陸にある洞窟攻略しに行こうって思ってたのにぃぃぃ」
「往生際悪いぞ」
ワタシと現役ちゃんがワキャワキャやっている脇で、久我山さんが作業をはじめた。
スケブを取り出して下絵を描く。メインキャラを中央に配置して、サブキャラを小さく描き分けていく久我山さん。
「さすがッスね」と、絵が苦手なワタシや現役ちゃんが溜め息をついた。
久我山さんは照れながら、「し 仕事の間、いろいろ練ってたんだよね。ま まだ納得できないけど」とつぶやいた。
ワタシは久我山さんの後ろにまわって絵を眺めてみた。
小山のような肩越しでは見辛いが……。
くじアンのキャラたちの絵に、懐かしさを感じる。ワタシが久我山さんからもらって励まされた、あの色紙と変わらないタッチだ。
「ちょ ちょっと見ないでくれよ(汗」
顔を赤くして大きな体でスケブを隠す久我山さん。
ワタシはニマニマしたまま「スミマセン」と謝った。いかんいかん、ワタシも自分の原稿やんなきゃ……。
その時ふと、刺すような視線を感じて、部室のドアの方を見ると、ドアのわずかな隙間から、こちらを凝視するたくさんの目がッ!
ヒィィィィ!
そのうちの一つは田中夫人・加奈子さんだった。
ドアの隙間から細い手を伸ばして、ワタシに「おいでおいで」をしている。
暗がりから手を伸ばす長い黒髪の加奈子さん……怖いデス。
ワタシは、作業に没頭する久我山さんや現役ちゃんを置いて、そおっと廊下に出る。
すると「差し入れ買ってきたからね」と、田中さんがワタシと入れ替わりで部室に入っていった。
その細い目はワタシを「お疲れ……」と慰めているように感じた。
廊下には、加奈子さんとスージーさん、於木野先生がワタシを待ちかまえていた。
スーの傍らにはプチスーことサーシャちゃんが立っている。
ワタシが現れるなり加奈子さんが、ずいっと寄ってきた。
「嫁の当てがない久我山さんを救済するためにプロポーズしたって本当ですか!?」
ワタシはガックリと脱力した。
ここまで情報が漏れ、しかも曲解されているとは……。
「それを確かめたいと思って来たんですよ。荻上さんなんか連載原稿の仕事を速攻で終えてきたんですよ!」
手伝いに来てくれたんじゃないんですか、加奈子さん。
テンションがあがる加奈子さんに、「旧姓で呼ばないでください!」と迷惑そうな於木野先生。
「一緒にしないでください。私は久我山さんのお手伝いをしようと思って来たんですから!」
先生は髪を筆ヘアにまとめていた。
つまり臨戦態勢で来てくれたのだ。何とありがたい!
「んー………。だども、疑問がはっきりしねえと、作業に身が入らねぇかも……?」
於木野先生アナタも本音はそこですか。
つか、なぜそこで頬を赤くして東北弁になる……。
ワタシはお二人の掴んだ情報が曲解されていることを力説した。
大事な時に、何という無駄時間……。
「えー」と、つまんなそうな加奈子さんは、「でもお見合いですかぁ。お相手どんな人なんでしょうね?」と興味の矛先を変えつつある。
「久我山さん頑張ってるんですから、変な詮索入れないでくださいね」
ワタシは釘を刺した上で、逆に加奈子さんに尋ねた。
「その件、咲さんから聞いたんですか?」
「え? 咲さんも知ってるんですか? 最近連絡取ってないから……」と加奈子さん。
「斑目さんでも無いって言うし……。じゃあ、誰からその情報を聞いたんですか?」
加奈子さんと於木野先生、そしてこのやり取りを聞いていたスージーさんが、一斉に視線を斜め下に下げた。
3人の視線の先には、斑スーの愛娘・サーシャちゃんが、母親そっくりの表情で口を開いた。
「ワタシガトツイデアゲルカラ!覚悟ヲ決メテ、真ッスグ ゴー!」
お ま え か !
サーたん、母親のようにセリフトレースするなら、もっと正確にお願い!(泣)
つづくです
425 :
マロン名無しさん:2010/03/31(水) 09:54:00 ID:Tenc5IaM
あげ
続きキテター
やっと規制解除…
続きが来てましたか
>「嫁の当てがない久我山さんを救済するためにプロポーズしたって本当ですか!?」
大野さんヒドス
ちょい保守
投下予定明日
いや、やっぱ明後日(オイ
まだかなまだかな
【25】
窓の外は暗くなったけど、部室はにぎやか。
くじアン同人誌の作業が佳境を迎えている。
窓際、テーブルの奥の方では、久我山さんと於木野先生がスケブにシャッシャッと何やら描き込みながら、表紙と裏表紙の絵柄について打ち合わせている。
「し 下書きはしたけど、り 両面ともキャラ集合絵というのは、限界あるよね」
「そっちを裏にして、表紙はもっと象徴的なモノにしたらどうでしょうか?」
「そ そうだな」
於木野先生のすぐ近くで、スージーさんとサーシャちゃんが並んで本を読みふけってる。
パツキン親子はワタシの対面になる。
スーさんが手にしてるのは部室の同人誌かー。
親子で並んでると、本体とミニュチュアが並んでいるようで微笑ましい………ん?………。
「!!」
ワタシはがばっと、席から立ち上がってサーシャちゃんを凝視した。
………サーちゃんが読んでたのは持参した絵本だった………。
ヘナヘナと腰を下ろしながら、この幼女が読んでいるのが同人誌でなくて良かったと胸をなで下ろすワタシ。
やべぇ。
同人誌を手にしてても違和感ないもんなァ。
「どうかしました?」
ワタシの挙動不審ぶりに、隣で作業していた現役ちゃんがいぶかしげな顔をした。
「え? うんにゃ何でもないよ」
「それよか会長、原稿マダー?(チンチン!)出来たらスキャンしますよー」
「うえっ、了解……」
ワタシの担当原稿はまだ1ページしか進んでない。
ただいま絶賛ペン入れ遅延中。
ついさきほど、渾身のネームを久我山さんと於木野先生に見てもらったばかりなのだ。
まぁ、その際、2人とも30秒くらい固まってたけどな……orz
ド素人のラクガキのような漫画に、丁寧にアドバイスしていただきました。
「い いろいろ考えなきゃいけないことは、あ あるけど……」
「1ページで済むネタですね。ここをこうして……」
結局先輩お2人のご意見を拝聴して、1ページはこのネタで乗り切ることに。今は必死でこの1ページを終わらせるのだ。
気合いを入れてペン入れを進めてると、部室のドアが開き、加奈子さんがニコニコしながら入ってきた。
「聞いてくださーい。咲さんと連絡取れまして、遅くなるけど仕事明けに来るって言ってましたー」
キャッキャッウフフ状態の加奈子さん。このイベントを楽しむ気まんまんだ。
ご主人の田中さんは、30分ほど前に一時帰宅している。
差し入れを食べ終わったワタシと現役ちゃんの姿をしげしげと見つめた後、何かが浮かんだらしく、「アレが応用できるな」「寸を詰めたら…」などとブツブツ言いながら部室を出て行ったのだ。
帰ってきた時に何が起きるのか、正直怖い。
ふと加奈子さんがワタシの側までやってきて、久我山さんに聞こえないような小声でささやいた。
「……咲さんには『例のコト』を説明しておきましたよ」
病院での一件だ。
やっぱり咲さんも(ワタシが久我山さんにプロポーズした)と誤解していたのだろうか。
「アリガトウゴザイマス!」ワタシは思わず合掌して感謝。
加奈子さんは、うんうんと頷きながら、「咲さんノリノリで『今日どんなに遅くなっても、クガピーに見合い相手のことを聞きに行く!』って言ってましたよ」と笑顔で語った。
ワタシの合掌返せ。。。orz
今日部室に久我山さん居ることとか、根掘り葉掘り話したんだろうなぁ……。
久我山さんスミマセン、受難の夜になるかもデス。
そこに再び、勢いよく開くドア。朽木先輩がやってきた。
両手に弁当屋の袋を抱えている。
「第二次買い出し小隊帰還デアリマス!」
その後ろから、コンビニ袋を手にした斑目さんが続いた。仕事帰りのネクタイ姿のままだ。
「うちのヨメと子供いる?」
スージーさんとサーシャちゃんが黙って同時に手をあげた。
「勝頼は大家さんに預かってもらってるよ。サーシャも連れてもう帰りなさい」
斑目さんが口にしたのは息子さんの名前か。
一方パツキン母娘は帰りたくないらしく、口を「3」の字にして揃ってブーイングしている。
「ブーブー!」
困り顔の斑目さんは、傍らの加奈子さんにコンビニ袋をあずけた。
「はいこれ。コンビニで差し入れ買って行こうと思ってたら朽木君に会ってさ…」
朽木先輩がみんなにお弁当を配りながら、ビシッと斑目さんを指さす。
「見敵必殺。斑目さんはわが小隊に遭遇してペコポン人の捕虜第1号となったのですヨ」
「え、俺、捕虜なの?」
「イエス!生きて虜囚の辱めを受けずデスゾ!」
クッチートークを真に受けてどーすんですか斑目さん……。
その時ふと、ワタシが周りを見まわすと、於木野先生と加奈子さんがややうつむき気味に肩を震わせ、一瞬後にちょっち悔しそうな笑顔を浮かべたのが見えた。
嗚呼、分かりマスヨー。
斑目さんの「虜囚の辱め」デスね!
そして今ここに笹原さんが居ないのだ。
それが惜しいのデスね!
ワープする両先輩の妄想を。これまた想像してワープしているワタシの肩を、現役ちゃんがつついた。
「さぁ原稿の仕事にもどるんだ」
「……ハイ……」
短くてすません。
続きは明日で!
>>401様、ほんと毎度お待たせしてスミマセン。
>>403様、短い続きでスミマセンしたー。
>>404様、他SS(斑目家の正月)のネタの事を仰っているならナイス着眼。
>>414様アリガトウゴザイマス。
>>411様
>>413様、メガネが分かりづらい表現で&初代じゃなくってスミマセン!
>>427様、咲ちゃん来てさらにヒドイ事になるのかどうか乞うご期待。
ではまたー。
明日も楽しみにしております
437 :
となクガ:2010/04/09(金) 23:47:06 ID:???
あー、テステス。
またしても規制中だったので、モリタポ買ってみた。
今晩中に投下するので、
>>434以降の続きご覧になる方は明日の朝にでもお見えになってください(勝手な!)。
安心したことだし、さて飲もうかな(オイ
【26】
「お、終わった……。これを頼む……」
ワタシは息も絶え絶えに、現役ちゃんに原稿を渡した。
久しぶりにイスから立ち上がったワタシは、ぐいっと背伸びをする。
窓の方をみると、外はもう真っ暗。作業してて差し入れちゃんと食べてないや。
お腹すいたな。
続いて部室内を見渡す。
あれ?
朽木先輩は?
「あー。朽木君はウザイので、また買い出しに行かせましたよ。『メガおでん缶』がないからってお願いしましたーウフフ」
プリントされた同人誌の完成原稿を校正中の加奈子さんが、ニッコリ笑顔のままでほがらかに語った。
まあ、確かにクッチー先輩が部室にいると騒がしいし。
作業お願いしてもイミフな歌を口ずさんだり途中でエロゲ雑誌を読みふけったり急に叫んだりで、周囲の集中と効率を悪くなるし。
正直買い出し部隊が最適なんだけど。
……第一、メガおでん缶ってアキバにしかないんじゃ……。
「ええ、行き帰りで2時間半はかかると思いますよ」と、ニッコリ加奈子さん。
鬼だ。
その直後、勢い良くドアが開いて、朽木先輩その人が現れた。
「第三次買い出し小隊改め、物資接収小隊帰還デアリマス!」
……は、速い!
「えー!?」驚く加奈子さん。
「ナイスサプライズですのう。実はワタクシ、先日アキバ巡回時にメガおでん缶をケース買いしていたのデスヨ〜。家から持ってきましたぜ」
朽木先輩は、加奈子さんの側の床にドスン!と段ボールのケースを降ろした。
「拙者ちょっち自分のジュース買ってきます〜」と鼻歌を歌いながら、再び廊下へと軽やかに出て行った。
脱力の加奈子さん。
ワタシの方をゆっくりと振り向いてつぶやいた。
「成田山の名物の食物って何かありましたっけ……?」
「ダメっすよ、パシリで里帰りさせちゃ……」
何か加奈子さんが哀れなんで、すい、と視線をそらす。
そらした視線の先では、久我山さんと於木野先生が我々のトークにも気付かぬくらいの集中力で作業に没頭していた。
……というかアホらしいので気付かぬフリをしているようだ。
それぞれ担当する絵柄も決まったらしく、表紙の作画と裏表紙の仕上げを始めていた。
於木野先生の隣ではスージーさんが「シゴトシゴト」と、アシをつとめている。
「スー、これ取り込んで」
「了解、マスター」
「マスターはやめて」…於木野先生が苦笑いしてる。
「船ヲ追ワセナイ。ファンネル!」
あー、マリーダか……ネタが尽きないガイジンだなこの人。
それにしても、さすがに於木野先生を「嫁」と呼ぶだけあって、仕事面ではいいコンビネーションだ。
大学時代は実際に先生のアシスタントをしていたとか。
一方でお子さんたちの世話は結局、斑目さんがすることになったようで……。
ちょっと前に斑目さんがサーシャちゃんの手をひきながら、
「終わったら交替だからな!」「俺は絶対帰って来る!帰って来るぞ!この絶好のイベントにィ!」と涙目で叫びながら帰って行ったし。
ソレを見ながら加奈子さんが「斑目さん、テンションが昔に戻ってましたねー。咲さんが居る時に間に合えばいいですけど(はあと」なんてつぶやいてたっけ。
黙々と作業を続ける表紙組。
ふと顔をあげた久我山さんと目が合った。
「さ さっきの原稿、お おわった?」
「ハイ。おかげさまで……久我山さんは表紙描いてるんですか?」
「ああ、結構楽なカットだけどね」
覗き込むように見ると、それは非常にシンプルなモノだった。
律子・キューベル・ケッテンクラート会長のヘルメット。
ヘルメットだけが、会長の机にポツリと置かれている。
「結構斬新ですね」
「だろ? う 売るときは、裏表紙を上にして重ねた本と、な 並べて置くんだよ」
「裏表紙の方は於木野先生作画のキャラ絵ですから、喰いつきはいいですよね」
でも表紙もカッコいいなぁ。
ある意味、くじアンを象徴してるカットかも。
一枚絵としては物足りないかもだけど、久我山さんの作画はとても丁寧だし、タイトルロゴなどを入れたらまた華やかになるに違いない。
「これ、写メ撮っていいですか?」
「こ これを?」
「ケータイの待ち受けにもなりますよこの絵」
恥ずかしそうな久我山さんだったが、ワタシはサッと携帯を取り出して撮影。
チロリンという音とともに、ヘルメット絵が保存された。
ワタシ達の同人誌は、着々と完成に向かってる。
表紙と裏表紙も目処が立ってキタ。ワタシの1ページ漫画も出来はアレだが形になった。
となると、あと1ページ……。
現役ちゃんがワタシの方を察して、「無理だったら、こっちで何とかしますよ」と気遣ってくれた。
「ん……。ちょっち外で考えてくるよ。ジュースいる?」
「あざーす」との現役ちゃんの返事を耳にして、ワタシは気分転換に部室の外に出ようとドアを開けた。
ではまたー
早朝からお疲れ様でした
次期待ほしゅ
期待期待
パシリで里帰りワロタ
【27】
時計はもう11時を過ぎていた。
夏とはいえ、ひんやりする外の空気が頬に当たって気持ちいい。
ワタシは、真っ暗な生活棟前まで出ると、煌々と光を放っている自動販売機の前に立った。
ガコン!
自販機でオレンジジュースを買い、近くのベンチに座る。
サークル棟の方を眺めると、現視研部室の灯りが見えた……けど、何か聞こえてくるぞ。
『ギャー!』
『夜中なんだから静かにしてください!』
『ネコノウンコフメ!』
カオスってるな……。朽木先輩が部室に戻ってまた何かやらかしたらしい。
ワタシは溜め息をついた。
「何よ貴女、サボっているの?」
ふいに声を掛けられて振り向くと、北川(姪)がいやがった。私の座るベンチの前に仁王立ちする。
今のワタシにはコイツに牙を向くテンションにはなれない。
「別にサボって何かないよ」と力なく答えた。
「元気無いわね。今夜仕上がる予定とか言ってたじゃない? それとも白旗でもあげるつもり?」
「仕上げるわよ。うっさいなぁ…。アンタこそ遅くまで何やってんの?」
「わ、私はサークル自治委員長としての勤めがあるから、仕方なく残ってんのよ!」
「そんなにムキになんなくっていいじゃん。はいコレ」
ワタシは手にしていたオレンジジュースを北川(姪)に投げ与えた。
いつもだったら全力投球でぶつけてただろうけど。
「え 何コレ?」北川は鳩が豆鉄砲くらったようにキョトンとしている。
「まぁ頑張ろーよ」
「!?」
「アンタも大変そうだから、お互い頑張ろうね、って言ってんの」
北川は真っ赤になってうつむいたまま、「アアア貴女もせいぜい頑張んなさいよ!」
と叫んで駆け出して行った。
アイツ情けをかけられることに慣れてないのか。
次からはこうやって追い払おう。
ガコン!
ワタシは再びジュースを買って、ベンチに座った。
フウ、ともう一度溜め息をついて背伸びをした。
「おやっ、何アンタ、サボってんの?」
え? また!?
次の声の方へと向くと、暗がりから歩いてきた男女が外灯の下に照らし出された。
咲さんと、ご主人の高坂さんだ。
「お疲れさま。頑張ってるみたいだね」と、高坂さんが優しい笑顔で労ってくれた。
「アリガトウゴザイマス。何とかやってま……」
『ギャーッ!』
『朽木先輩!今度は何のまねスか!』
『ラーメン天使プリティメンm(以下略)のコスでありますヨ!』
『(以下略)の意味ねー!』
『何年も前にスー殿に切り刻まれたブツが今ここに復活でアリマス!』
『冒涜です! コスプレの冒涜です!』
『バカバッカ』
『し 静かにして欲しいんだな』
ワタシの返事を部室の喧噪が遮った。
咲さんが灯りの着いた窓を見上げてあきれた表情を見せる。
「まーた変わらずやってんな」
「楽しそうだね。じゃ、おみやげ持っていこうか」との高坂さんの問いかけに、咲さんは「うん。先に行ってて、すぐ行く」と答えた。
咲さんは、サークル棟に入る高坂さんの後ろ姿を見送って、ワタシの隣に座った。
「どう? 上手くいってる?」
「あ、はい…」
全体に順調ではあるが……、ワタシはちょっと言葉を濁した。
「元気なさそうだけど?」
「はあ、あと1ページが決まらなくって……。そこは正直苦しいっスね」
咲さんはちょっち間を置いて、夜空を見上げたり足下を見たりして、うんと頷いた。
「……でもまあなんだ……。苦しめ!」
「えええ?」
「あいつらも10年前は、誰かの部屋で寝ずに原稿描いたり、漫研のパソコン借りたり、クッチーパシリに行かせたりしてたし……。こういうのって後々、凄い残ると思うよー」
その時また、部室の方から歓声が挙った。
高坂さんが部室に現れて歓迎されているのだろう。
そうだよね。
大変だけど、みんなで苦心して、騒いで、頑張って、本を作っている今という時間は、きっと“残る”と思う。
夏の夜。
部室。
いつもの顔ぶれ。
散乱した原稿やペン。
仲間の陣中見舞い。
クッチー先輩のパシリ。
サボって読む同人誌。
買い込んだコンビニ弁当やお菓子。
今こうして外灯に照らされて、ジュース飲んでいるひととき。
全部、懐かしく思い出す時がくるんだろうな。
久我山さんは「最後」と思って、ソレをもう一回やりたかったのだろう。
浸ってるワタシの横で、咲さんは苦笑いしながら溜め息をついた。
「まあ、私はやんなかったし、出来上がった本にドン引きしたけどな」
ワタシも咲さんも、軽く笑い合った。
「で、どんな本になんの?」
「ええと、後で原稿見てもらったらいいデスけど。あ、そーだ。コレが表紙です」
ワタシは携帯を取り出し、部室を出る前に撮った、久我山さん作の表紙を見せた。
「お、このヘルメット。えーとこれは……『カイチョー』のだな」
「分かるんですか?」
「あ…、えーと、まーねハハハ」
なんか苦笑してる。
この人が苦々しい顔をするということは……。
「加奈子さん絡み?」
「ん? まぁ、ね」
「……それってコスプ……」
「いやッ! 何でもない! 関係ない!」
嗚呼、やったんだ。というか、やらされたんだ。
咲さんがヤルくらいだから、よっぽどの事情があるんだろうなぁ……。
452 :
となクガ3 Never Say Never Again:2010/04/26(月) 03:03:22 ID:BednEaqQ
「ま、若気の至りって奴かな。うわ、我ながらオタくさ!」
「もー。イタい言動を何でもオタクに絡めないでくださいよ」
「悪いね」と笑いつつ、ふと咲さんはベンチから見えるサークル棟の庭の一角を見つめた。
ん?
視線の先にはゴミ捨場があるんだけど、咲さんはそこを見つめて再び微笑んだ。
咲さん自身も、このサークル棟にはいろんな思い出が刻まれているのだろう。
「……うん。若かったよねぇ」
そう言うと、咲さんは「よし!」と膝を打って立ち上がった。
ワタシを見下ろすように前に立つと、「ねえ、今回のはエロ本じゃないんだよね?」と問いかけてきた。
「エロ本って……。まあ、サークル自治委員会に企画を出した手前、モロではないですけど。微エロはあって念のため成人向けですよ?」
「ううむ…。モロとか微とかの加減分かんないんだけど、うーん。まあいいか」
「???」
話を掴めないワタシに、咲さんはニッコリと微笑んで、意外なセリフを言い放った。
「ね、その未定の1ページ、私にもちょっと描かせてよ?」
いつも遅くて申し訳ない。
終盤なんで今月中には終わらせたいです。
乙です
クッチーの10年w
それでいいのかw
GWもあるさw
のんびり行こうぜ
ハイ。
のんびり行きます。
【28】
静まり返った深夜のサークル棟に、カツカツと階段を登るワタシ達の靴音が響く。
ワタシは、先を行く咲さんの背中を追いながら、つい先ほどの発言について尋ねた。
「ホントに描くんですか? てか、絵を描けるんですか?」
咲さんは階段の途中でワタシの方を向き、「アンタらの好みの絵にはならないと思うけど、まあ何とかなるわよ」と言って再び登り始めた。
「ふうん。咲さんも何だかんだ言ってオタに染まっ……」
「やっぱ描かない、ヤメル! カエル!」
「あ゛ーッ!ゴメンナサイもうオタなんて言いマセンから描いてくだしあ許してオネガイ!」
ワタシは階段を降りようとする咲さんの腰にしがみついて懇願した。
「ふん。改めて言っとくけど、私はオタクになってもないし、染まってもないからね!」
咲さんは、そう念押ししたが、現視研部室の前まで辿り着いた時、ワタシの方を向いて真顔で言った。
「……ただこの“カイチョー”と現視研に、ちょっと礼をしておきたいだけなのよ」
「お礼?」
「大学4年間の、ね」
そうつぶやくと、咲さんはドアを開け…………うわ、部室 酒クサッ!
「お帰りなひゃいませゴー主人サマァー!」
ろれつの回らないクッチー先輩が >< な目をして向かえてくれた。
うわぁ吐息が酒の香り…。
さらに加奈子さんがご機嫌な顔で咲さんにもたれかかってきた。
「咲さん、いらっしゃーい! 早速飲みましょー!」
「うわっ、お前ら、どんだけ飛ばしてんだよ」と呆れる咲さん。わずかな時間で、相当量飲んでいるようだ。
作業を手伝っている高坂さんが、「プレ打ち上げなんだって」とにこやかに一言。
加奈子さんが、「もう打ち上げてもじゃないですかー。ほぼ完成みたいなものですからー」と一升瓶の中身をコップに注いだ。
ホントいい気なもんだなこの人は。
高坂さんは、現役ちゃんに代わってパソコン作業を担い、久我山さんと於木野先生が描いた絵にタイトルロゴなどを配置していた。
高坂さんの隣には久我山さんがいて、画面上でイメージを確認している。
ふだん小生意気な現役ちゃんも「流石です先輩」と、高坂さんの作業に見入っている。
また、於木野先生は裏表紙の作業を終えて、奥の席でカリカリとネームを作成中だった。
本来の仕事のモノらしいが、敢えて今ここでソレをやるってことは、加奈子さん達から逃れてるんですね。
スージーもすぐ横にピトッとくっついて、同人誌を読みふけっている。
ワタシの居ない間に、部室では作業組と打ち上げ組の分裂が起きていたのだ。
咲さんは、再びもたれかかってきた加奈子さんを払いのけると、現役ちゃんの隣に座って問いかけた。
「えーと、筆記具貸して。あと原稿用紙と、漫画…“カイチョー”の載ってるのお願い」
ざわ……ざわ……
部室内の空気が豹変した。
みな無言で一斉に咲さんの方を向く。
変わらないのはいつも笑顔の高坂さんだけだ。
鉛筆を手にした咲さんは、高坂さんの方を向いた。
「ねぇ、濃い鉛筆の線でも大丈夫かな? 私ペンなんか入れられないから」
「大丈夫だよ。こっちでも調整するけど」
「ふむ……。ちょっと勝手が違うけど……」
咲さんは、パラパラと「くじアン」のコミックをめくると、テッケンクラート会長のカットを見定めてパタンと閉じる。
続いて、原稿用紙にシャッシャと線を描き始めた。
直線的な描線が幾重にも重なってやがて輪郭を形成し、人物の像を浮かび上がらせていく。それは漫画の絵ではなく、もっと違う世界の絵……。
思わず覗き込むようにして咲さんの手元を見るワタシ。
ふと顔をあげると、高坂さんを除いて、部屋にいる皆が咲さんの動きに注目している。
さっきまで景気よく飲んでいた加奈子さんと朽木先輩も静かになった……というか、朽木先輩はまた空気読まずに咲さんの背後に近づこうとして、加奈子さんに止められていた。
「モガッ、モガガガガッガ……ッ!」
頭から袋を被せられて、抵抗していた朽木先輩はやがて静かになり、加奈子さんによって部室の外に運び出されて行った。……怖ッ!
そんな周囲の動きをよそに、咲さんは律子・キューベル・ケッテンクラート会長を描き上げ、「よし」と、筆を置いた。
スラッとしたプロポーションに直線的な表情が美しい。さらに原作をアレンジしつつ洗練された衣装など、味わいあるカイチョーの絵が仕上がった。
私は思わず「凄い」とつぶやき、於木野先生と久我山さんも咲さんから原稿用紙を受け取って見入っていた。
「絵、描かれるんですね……だどもこの絵は漫画というよりデザイン画?」
「店を持つ上での参考程度だけど、服飾デザインについても勉強してみたんだ。あんま上手くないけどね」
「そ そういえば田中もこんなデザイン画を、か 描いてるとこ見たな」
「田中は服飾系の専門校行ってたからね。あ、そうだもっかい原稿用紙かして」
さらに咲さんは、絵のそばにサラサラとメッセージを書き入れて、夫である高坂さんに渡した。
高坂さんは手際よくスキャンを開始する。
これでついに、くじアン同人誌の原稿が揃ったのだ。
まさか咲ちゃんが・・・
何たる超展開
気が付けば、スレが立ってから早1年か…
GWも終わりまた日常が始まる
明日投下しまつ
【29】
斑目さんの目が、メガネの奥で見開かれた。
「へぇー! あの旧姓春日部さんが同人誌に寄稿! ホー!」
この先輩は、スー奥様が帰って来ないのでスヤスヤ眠る子供達を連れて部室までやってきたのだ。
背中にサーシャちゃんを、前に赤ちゃんを抱えている。
そうまでして来るかー。
「ちなみに、コレがその原稿です」
現役ちゃんがスキャン済みの「咲さんの原稿」を手渡すと、斑目さんもテンションが上がってきたもよう。
「ついに“クラッシャー花山17歳さん”(2巻163p参照)が同人デビューか!」
「斑目、クラッシャー…が何だって!?」
「いえなにも……。でもこの原稿、絵柄が“らしくなくて”アタラシイ感じだねぇ。萌えというものは恐ろしいですな。全くの一般人をここまで踏み込ませるのだから!」
「絵を褒めてくれるのはありがたいけど、もえてねぇよ」
「デビューオメ! シンカン! シンカン!」
「新刊なんか出すか!」
盛り上がる斑目さんやスーに、拒絶する咲さんもちょっち恥ずかしそうだ。
「つかもーその話題はいいからさー。早く仕上げてしまおーよ!」
「そーですよー。仕上げたら、打ち上げで飲み明かしましょーよー/////」と反応する加奈子さん。貴女はもう飲み明かしてるじゃないスカ。
その時、笹原さんが大きなレジ袋を抱えてやってきた。
「お疲れ。みんなもう終わった?」
於木野先生が迎える。
「あ、お疲れさまです。そっちの仕事は終わったんですか?」
「うん。思ったより早く済んだよー」
大変なんだなー編集者。
「あ、これ、打ち上げ用にと思って買ってきたよ」
酒とつまみが大量に追加された。加奈子さん歓喜。
呆れるワタシの裾を、現役ちゃんがくいくいと引っ張った。
「ん?」
「カイチョー、コレにトドメを」
「あ、そうだね!」
ワタシは現役ちゃんと一緒に入稿用データをまとめる処理をしていたのだが、いよいよディスクに焼けば終わりだ。
もう一台のノートパソコンで作業を終えた高坂さんから表紙データを受け取る。
高坂さんがニッコリと笑いかけてきた。
「現役会長、作業終了にあたって一言」
「へ?」
久我山さんも「こ ここまで皆で作業したんだから、ね」と促してくれた。
気付くと、斑目さんや咲さん、笹原さんと於木野先生、スージーもこっちを見つめていた。
「じゃあ完成と同時に乾杯を(はあと」と、加奈子さんがみんなに紙コップを配ってビールを注ぐ。
現役ちゃんが「オールグリーン」とモニターを指した。
データは久我山さんが持ってきたパソコンにまとめ、あとはキーひとつでディスク焼き込み開始だ。
「…じゃあ…」
ワタシは深々と頭をさげた。
「ワタシの不手際で、先輩方にもご迷惑をおかけしました。久我山さんの本づくりに便乗させてもらい、笹原さんはじめ皆さんの協力のおかげでサークルを護ることができます!」
顔を上げて、キーボードに手を添えた。
「本当にありがとうございました。………じゃあ、いくよー!」
ワタシはenterキーを押した。
ウィィィィィィィィィィ……焼き込みが始まった。
これで…これで…長かった闘いも終わる。
加奈子さんがコップを掲げた。
「それじゃあ皆さんご一緒に、カンパー…」
瞬間。
バタンッ!
景気よくドアが開いて、加奈子さんに追放されたはずの朽木先輩が飛び込んできた!
「ワタクシを差し置いてセレモニーなんてッ!」
部屋の中央に踊り出た朽木さん、振り上げた足が電源コードを……!
ブツン……ッ!
コップを掲げたみんなの手が硬直した。
朽木先輩が引っ掛けたコードは、久我山さんのパソコン本体の電源…ッ!
午前1時はまだ宵の口。
ワタシ達の闘いはまだまだ続くッ。
やっちまったよ…
はぁぁぁぁ
最近あとがきも、リアクションへのレスもしないでごめん。
咲ちゃんの寄稿は、去年2巻を読み返した時から考えてたんですが無理矢理の超展開でしたー。
あとクッチーって、ほんと役に立つキャラですね。
あと2回で終わります。
たぶん。
次回投下も楽しみにしております
17スレ目オチタ\(^o^)/
>>473 誰が保守してたか知らんがおまいらのやったことは決して無駄ではないこともない
476 :
となクガ:2010/05/26(水) 15:55:06 ID:???
遅くてすまんです保守
次回週末(金)
明日香
今日子
【30】
朽木さんがスマキで廊下の隅に放置されてから2時間。
久我山さん、高坂さん、現役ちゃんとワタシで、パソコンの復旧と、運悪く保存していなかった分のデータ作り直しを行った。
その間、咲さんはお酒を片手に、部室にあった(あの人曰く“まともそうな”)コミックを読み漁りながら高坂さんの作業の終わりを待っていた。
加奈子さんは、咲さんの隣でガンガン飲んでいる。この方はお酒が入る入らない別にして、今日はナニモしていないのでは………?
スーさんは、さすがに子供を(寝ているとはいえ)部室に泊めるわけにもいかず、斑目さんが送って帰った。
於木野先生は、こちらに「ちょっとごめんね」とことわりを入れつつ、部室の端で笹原さんと何やらネームについて相談しているようだ。
「それじゃあココとコレは考え直しスか…」
「うーん、でもそうしないと話が掴めないよ…」
「だども、ソコはアレな意図があって…!」
段々声のトーンがヒートアップしていき、加奈子さんや咲さんが2人から距離を広げ始め、こちらの作業組の方に寄って来るのが分かった。
咲さんが「夫婦喧嘩は家でやれよな」と小声で苦笑いする。
作業が終了し、今度こそデータが完成した。
入稿データが揃った時、時計は午前3時を指していた。
加奈子さんが、「じゃあ今度こそ皆さんご一緒に」と、コップを配り始めた時、斑目さんが帰還した。
「スーを送ってきたよ」
「ちょうど良かったです斑目さん、いよいよ打ち上げですよ」と加奈子さん。
あなた4時間くらい前から打ち上げっ放しぢゃないですか。
斑目さんは紙コップを受け取りながら、部室のドアの方を振り向いた。
「朽木君、廊下でシクシク泣いてたけど……」
「いいんでねぇすか?」(荻)
「あいつにはいい薬だろ」(咲)
「い いいと思うぞ。お 俺のパソコンやられたし」(久)
「まぁ、朽木君は立ち直り早いし…」(笹)
「きっと明日には忘れてると思うよ」(高)
「いいんですよー。じゃあカンパーイ!」(酔っぱらい)
ワタシは、みんなキッツイなぁと思いつつも「長年の信頼関係があるからこそ、スマキ放置プレイもアリなんだよね」と自分をむりやり納得させた。
隣で現役ちゃんが「それ無い。絶対無い」と首を振った。
宴もたけなわ。咲さんと加奈子さんが、久我山さんを責め立てはじめた。
「で、相手はどんな女性なのさ。写真とか見てるんでしょ?」
「そ それは、あー…」と、シドロモドロの久我山さん。
一方で、乾杯前はネームで激論を交わしていた笹原さん夫妻は、今度は部室の窓際でまったりと語り合っている。
この部室がお2人の出会いの場でもある訳だし、当時を思い出しているのだろうか……。
もうちょっと、近づけば2人の会話が聞き取れるのに……と、コッソリにじり寄ろうとした時、現役ちゃんがワタシの手を引いた。
「?」
「トイレ行きましょトイレ」
「はぁ。怖いの?」
「違いマスよ」と、現役ちゃんはドアの方へ目配せする。
半開きのドアから加奈子さんがニヤニヤしながら手招きしているのが見えた。
同時に咲さんが、「コーサカ、斑目、そろそろ可哀想だからクッチーの様子を見てこない?」と立ち上がった。
「え、俺も行くの?」とポカンとしていた斑目さんだったが、咲さんの表情と窓際の笹原夫妻を交互に見て、「あー、行く行く。可哀想だからね」と立ち上がった。
お見合いに関する追究が中断しホッとした表情の久我山さんも、しばらく経ってから、小声で「お おれトイレ行くかな…」と静かに立ち上がり、部室を出た。
酔った状態の笹原さんと於木野先生は、学生時代の話題に花が咲いているのか、周りを気に留めていないようだ。
納得したワタシも、現役ちゃんと静かに外に出た。
廊下の向こう、階段の方に加奈子さんをはじめ先輩方がタムロしていた。
「皆さん4階に行きますよ!」とヒソヒソ声。
「4階?」
「児文研も灯りがついていたでしょ。ちょっと場所を借りて4階の窓からウチの部室を監視するんです」
高坂さんが「卒業式の時は気付かれちゃったけどね」と笑う。
「でもこんなにゴッソリ人が抜けたら怪しまれるんじゃ…」と困惑の表情を見せる斑目さんに、久我山さんが、「け 結構酔ってたし。み みんな出て行ったのに気にしてなかったぞ」と答えた。
児童文学研究会(児文研)からの覗き見って、話には聞いていたけど……。
「先輩方の伝統芸に触れることができるなんて思ってもみませんでしたよ」
「伝統芸言うな」とツッコむ咲さんの表情がもうニヤケている。トドメに「こりゃ、キスだけじゃ済まなかったりするかもな」と笑った。
それはシャレになりませんよ!
ワタシ達はゾロゾロと階段を上り、ついに児文研の部室にたどり着いた。
ダラダラとつづく
次回はたぶん月曜朝デス
ダラダラやっちゃってください
放置プレイヒドス
でも案外クッチー、喜んでるかも
衣替え
486 :
となクガ:2010/06/05(土) 06:35:56 ID:???
ほしゅ
もうちっっっと待ってくあさい
コミケ落ちの心の傷を癒(以下略
487 :
となクガ:2010/06/05(土) 06:36:57 ID:???
予告
投下
明日
待
今年のコミケは荒れそうじゃのう
【31】
児文研の前で加奈子さんがワタシの肩を叩いた。
「じゃ、交渉お願いね」
「え、ワタシが?」
「だって私たち卒業生だし」
咲さんがニマニマしながら「早くしないと“始まっちゃう”かもしれないから、早くしなさいよ!」と急かす。
何というデバガメ。酔ってんな咲さん。
しかし午前3時過ぎだしねぇ。
ワタシは控えめにノックをして児文研のドアを開け、そおっと中を覗き込んだ。
「あのー……夜分遅くにすみませーん……」
部屋の主は、こちらの様子に気付いていない様子だった。
絵本などが積み上げられた窓の方に、姿勢を低くしてへばりついていた。
その背中が、ブツブツと何かをつぶやいていた。
「……みんなどこ行ったのかしら。それより何か怪しいわよあの2人の雰囲気!」
え?
「あのー……児文研……さん?」
ワタシの一言に、背中がビクッと反応した。カチカチカチ…と機械のようなぎこちなさでコッチに振り向いた。
あれ?
ワタシはその顔を知っているッ!
ワタシも、その“顔”も、同時に同じ台詞を叫んだ。
「「つか、何でアンタがそこに居るのよ!」」
そこに居たのは北川(姪)ではないか!
あいつも、ワタシの顔を見て驚いている。
「えー、何ナニどーしたー?」と、咲さんと加奈子さんが顔を覗かせて、瞬間凍り付いた。
「ゲッ!」
姪の北川は、昔の北川さんと良く似ているらしい。
後に続いてきた斑目さんと久我山さんも愕然としている。
北川(姪)は真っ赤な顔をして問いかけてきた。
「ちょ、何でココにキタのよ?」
「いやまあ……、ちょっと窓の外を見せてもらいたいなー、なんて。……か、かく言うアンタはドシテ?」
「わ、私は児童文学研究会の会員なんですが、何か?」
北川、ここの会員だったの?
「え、でも中庭で会ったとき、“サークル自治委員長としての勤めがあるから、仕方なく残ってる”って言ってなかった?」
「え、あ、…たッ、たまたまよ! そーよ自治委員会の仕事終わってたまたま部室に顔出しただけなんだらッ」
ワタシはふと北川の手元を見た。
その手には、しっかりと双眼鏡が握られている。
「アンタ……窓際でナニしてんの?」
「え……、うッ!」
北川が自分の双眼鏡に気付いて慌てて両手を背中にまわした。
瞬間、私の隣に居た咲さんと加奈子さんの目が、ギラリと光ったのを感じた。
キラリじゃなく、ギラリである。
「ひょっとして、4階から現視研の窓をノゾキ見していたんだ…」
咲さんの問いかけにビクッとする北川。
あー…。ここで覗いていたから、私たちの動向に詳しいわけだ!
どうやら図星らしい北川。
気付いた時には、北川の両側を、咲さんと加奈子さんが囲んでネチネチとつぶやき始めた。
加奈子さん、いつの間にかマスクを付けてる…。
「こんな夜更けまでよくヤルよねェ!」
「これはもう、犯罪といってもいいレベルですね…」
「サークル自治委員長ともあろう者がコレでは、示しが付かないよね」
「あ…あの……こッ、コレはそのあsdfつghjklrいhkんlmbvcyxrt;:」
咲さんと加奈子さんからすれば、昔煮え湯を飲まされた“あの人”にそっくりな北川(姪)は格好の餌食。嗜虐心を高ぶられるのだろう。
北川、メガネの奥が涙目だぞ。
「うわ、可哀想に……」
ワタシや斑目さんは、思わず北川に同情してしまうが、その時、いつの間にか窓際の方にいた高坂さんが、こっちに手招きした。
「ねえねえ、笹原君たちが……」
「何コーサカ、動きがあったの!?」
「肩に手をまわし始めたよ」
「ナンデスッテ!?」
咲さん、加奈子さん達は一斉に窓に殺到する。
斑目さんに久我山さん、現役ちゃんまで…。
「うおお、約10年越しに部室キスかー!?」
「フツーここらへんで気付くだろ、周りの人間の不自然な不在に」
「こ 今回は酒も入ってるし」
「ちょ、電気消そうぜ。悟られる」
「ああああいよいよ2人の顔が近づいてきた!」
その直後、窓際に居ないワタシの方にまで、現視研部室からの音声が聞こえてきた。
バァンッ!(←現視研部室のドアを蹴破る音)
『ソロモンヨ、ワタシハ帰ッテキt……』
「わっ、スー!」
「なしてここに!?」
『……キサマラノ………キサマラノ血ハ何色ダアァァァ!』
シャーッ!(←スーが笹原を威嚇)
児文研部室の窓際で一同が叫ぶ。
「ええええええええええッ!?」
「子供ほったらかして帰ってきたのか……」
「修羅場だ、笹ヤンの身がヤバいwww」
「このまま経過を観察しましょう(笑」
かえってノリノリの一同。
一方、解放された北川が、真っ赤な目をしてこっちを見る。
「どーゆーことよ」と北川に迫るワタシ。
「わっ、私はただ要注意サークルのあんた達を監視してッ……」と、北川が力一杯弁解しはじめた矢先に、バサッ、と窓際に積み重ねられた本の一角が崩れた。
4、5人のデバガメが殺到したためだ…が。その本を手にした加奈子さんがつぶやいた。
「これ、『くじびきアンバランスOFFICIAL FANBOOK』じゃないですか」
「あっ、そ、それは!」と焦る北川(姪)。
おぉぉぉお!?、お前のか!?
495 :
となクガ3:2010/06/06(日) 07:32:47 ID:???
たぶん次回が最終。
あくまで、たぶんだけど。
そして次回以降もクッチーは放置。
これは確実。
スレ汚し失礼しました。
キテタ!
終わっちゃうか…
いつの間にかクッチー、いないことで存在感を示すドロ沼君キャラに…
スー、その台詞をここで使いますか
次回も期待
オタクの修羅場が見られるぜ!
ついに最終回ですか・・・
まだかなまだかな
てすつ
期待
気体
503 :
となクガ3:2010/06/23(水) 00:09:44 ID:???
遅くてすんません。
次は木曜ー週末金曜にかけて投下しまつ。
あれ
昨夜飲み過ぎて投下が遅れました。
スミマセン。
最後までいきますが、連投規制避けるため間が空くかもです。
よろしくお願いします。
【32】
くじびきアンバランスOFFICIAL FANBOOK。マガヅン編集部刊、1280円……。この本が児文研部室で見つかった後、ワタシ達は北川(姪)を拉致って現視研部室に帰ってきた。
高坂さんと久我山さんがその本を手に語りだした。
「これ、1話のフィルムコミックや絵コンテ、監督や声優の対談が入ってるアレかぁ。うちの部室にも昔からありますね」
「う うん、今回の本の参考にもなったよ」
「賓客」として一番奥に座らされた北川(姪)は顔を真っ赤にしてうつむいている。賓客というか晒しものである。
ざまぁwww
そんな彼女の両脇には、またしても咲さんと加奈子さんが座り、どんどんビールを勧めている。
「い、いや私はお酒はッ…」
「いいじゃないですかー。私達が飲み会やってたのをずっと見てたんでしょ〜」
「うっ…(汗」
「じゃあもう一緒に飲んでるのと同じですよ〜」
加奈子さんワケワカラン……。
今度は咲さんが北川(姪)の肩を抱くようにしてもたれかかり、「ところで貴女の“おばさま”はお元気かしら? ご主人との仲も睦まじいのかしら〜?」と低い声で尋ねた。
「…は、はい…」
咲さん、何か私怨がオーラになって目に見えるかのようデスよ!
あまりに凄惨なので目を背けると、ドアの近くの席では別の修羅場が。
「チカハ、ミーノ嫁!」
「あー…はいはい(苦笑」
“笹原夫妻”の間にスーが割って入り、於木野先生にベッタリくっついている。一方、スーさんの実の嫁…じゃなく夫の斑目さんは脇に追いやられている。
「あのー、言っても無駄だと思うけど俺の立場は…?」
「ダマレ下僕」
於木野先生は顔を真っ赤にしつつチビチビお酒を飲んでいる。
顔が赤いのは酔っているせいではない。児文研部室から覗かれてたコトが恥ずかしいらしい。
キレて帰らないだけでも大人になったと、笹原さんは苦笑いしてるけど、この場合は成長云々関係ないのでは……。
それに幸いにも(?)咲さんや加奈子さんは北川(姪)という格好の獲物に夢中なので、於木野先生は静かに過ごせるのであった。
その北川(姪)に、「くじびきアンバランスOFFICIAL FANBOOK」をパラパラと眺めていた高坂さんが微笑みかけた。
「北川さんは、くじアン好きなんだね!」
ざわ…、と反応する現視研一同。北川(姪)の肩もピクッと反応した。
「い、いや私は別に…ッ!」
ワタシは思わず「まさかコイツが?」と口にしたが、北川もワタシと同年代だし、ワタシがそうだったように、小学生の時に「くじアン」にハマっててもおかしくはないのだ。
咲さんが、笑みをこらえ頬をひきつらせながら尋ねた。
「北川さん……、あの“おばさま”の姪なのに、隠れオタなんだ?」
「ちっ…ちがッ…。私はただ子供の時に“くじアン”を見た事があるだけでッ!」
「そんな奴は“ファンブック”なんか持ってないって…」
「いやソレは懐かしくて思わず“DVDボックスと一緒に”買っただけで、別にナニモオタクなんてことじゃなくって!」
血相変えて否定する北川……てか酒が結構入ってるな……自分から墓穴掘っちゃってるじゃないの。
ワタシはニマニマしながら「泡沫サークルだとか何とかワタシ達を見下しておきながら、実は同類なんだwww」とツッコむと、ヤツはガタッと立ち上がってワタシを睨んだ。
「泡沫よ。私も入ってあげても良かったのに、1年の頃は存在さえ定かじゃない幽霊サークルだったし……気付いたらアンタが楽しくやってるし……!」
「……ひょっとして……ウラヤマしかったとか?」
「べ 別にアンタのことが羨ましいとか、そんなことないもん!」
この人、げ、現視研に入りたかったのかな……と、部室にいる一同が顔をひきつらせた。
例外は常にニコニコの高坂さんと、常に仏頂面のスーくらいだ。
「私は現視研なんて潰して、のほほんとしてるアンタを打ち負かしたいの。まぁ……現視研つぶれたら、じ、児文研に入れてやってもいいのよ!」
強がっているつもりが空回っている北川(姪)。ワタシの狙い撃ちかよ。
肩で息をしている北川(姪)を、加奈子さんがなだめるように優しく……いやなんだか不気味に、何かを悟ったような顔をして後ろから北川の肩をなでた。
「……北川さんは……お友達になりたいのね」とささやいてワタシの方を見る加奈子さん。
「「はぁ?」」
ワタシと北川(姪)が同時に叫んだ。
加奈子さんはニッコリと微笑んで視線を於木野先生に向けた。
「その昔……“荻上さん”を嫌って、対抗意識を燃やしているように見えて、実はお友達になりたかった不器用さんがいましたよね?」
「知りません」と目を合わせずに即答する於木野先生。その横でスーが「ヤブー?」とつぶやいた。
加奈子さんや咲さんが北川の頭をなでながら、「もー、素直じゃないんだからw」と声をかけたが、北川は振り払うようにして席を離れると、ドアの方へと逃げた。
そしてワタシのそばに立った。
ワタシより背が頭一つ低いこともあって、メガネの奥から刺すような上目遣いでワタシを見てる。
「くじアンが好きなのは認めるけど、自分がオタクだって認めたわけじゃないんだからね! 覚えてなさいよ!」
アイツは歯ぎしりしながら、ワタシを指差した。
「………あ」
指がフニッとワタシの胸に埋まった。
彼女はすぐに耳まで赤くなったが、人の胸見て、さらに自分の胸を見下ろすと、怒りが込み上げてきたみたい。
迷惑な反応だ。つか前にも一回やったろ、お約束かよ。
北川(姪)はドアを開け、フト立ち止まる。
こっちを振り向かずに、「き、今日もらったジュースの例だけは言っとくわ。あ…、ありがと…」と捨て台詞を残して、部室から逃げ出して行った。
少しの間、現視研部室は沈黙に包まれた。
久我山さんがぽつりと、「つ……ツンデレ……」とつぶやいた。
「ひとまず現視研の難敵を退けたようだな」と斑目さん。笹原さんが「なんか妙な方向に退きましたけどね」と苦笑いする。
「つか、この難敵は私達で拉致ってキタんじゃないスカ」と現役ちゃんがツッコむ。
咲さんと加奈子さんはワタシの方をニマニマ見ている。
「あんたが優しく受け入れてあげれば丸く収まるんじゃないの?」
「そうですよ。お友達になってあげたら?」
「お、お断りします!」即答で却下デス。
「……そんな簡単なものじゃないですよ……」
於木野先生がポツリとつぶやき、みんなが思わず於木野先生を見る。
一斉に視線を受けて於木野先生は真っ赤になって「べ、別に私はっ…!」。
“経験者”は語るですか先生……みんなニマニマしてますよ。
「あ あのさ」
久我山さんが、ヌッと立ち上がった。
「……ち ちょっと、み みんなで行きたいとこがあるんだけど……」
窓の外は、少しずつ明るくなってきていた。
てす
【33】
サークル棟を出ると、東の雲が茜に染まっていくのが見えた。闘いの終わりを感じさせ、ホッと見入ってしまう。
ポケーっと空を仰いでると、「カイチョー、入稿忘れないでくださいよ」と現役ちゃんからつつかれた。
久我山さんも「か 帰りに、よろしくね」と声をかけてくれた。
「はい」
ワタシのバッグには、入稿するデータと出力原稿が入っているのだ。
ワタシ達はゾロゾロと大学を出る。
「ごめんねー。私は仕事の準備あるから」「みんな気をつけてね」
自宅へと帰る咲さん、高坂さんに見送られ、ワタシ達は始発に乗ってある場所へと向かった。
電車内で固まって、いつもの会話を楽しむ先輩達。
「あのゲーム、操作性は悪くないですしね」
「スカートの揺れ具合もズムーズでイイよな。でもパンチラはやってほしかったな。ソレが神ゲーとクソゲーとの評価の分かれ目だな」
「そ そういう部分も、げ 原作通りに作り込んで欲しかったよな…」
ワタシは黙って、先輩方の会話を聞いている。今回はワタシのせいで皆さんに迷惑かけたけど、こうやって自分たちの時間を、楽しく過ごせたことは嬉しかった。
乗り換えを繰り返し、早朝のお台場へ…。
国際展示場駅に着くと、そこはコミフェスの時とは別の世界のよう。
オタ系のポスターが貼られていない駅コンコースを歩いて外に出ると、全く人の気配が無い、整然とした空間が広がっていた。
向こうに見えるビッグサイトまでの間に、人っ子ひとり居ないのだ。
「こんなに、広かったっけ…」
私達の知るこの場所は、いつもはオタクの人海と熱気とで埋め尽くされている。
それが今は、なにもない。
「原罪ノケガレ無キ、浄化サレタ世界ダ」とスージーがつぶやくと、斑目さんが、「俺は罪にまみれても、人が生きている世界を望むよ」と返した。
ワタシ達は人のいないお台場を歩く間、電車の時とは違って口数が少なくなっていた。
神妙な気分になっていたのか、朝日を浴びて輝くビッグサイトの正面に立つと、思わず手を合わせたくなった。
みんな大きな会議棟を見上げて、感慨深げに立ち尽くす。
久我山さんが口を開いた。
「こ 今年の夏も、冬も。つ 次の夏も…、ま またココに来たいな」
「おう」と斑目さん。一拍置いて「見合い結婚してもオタク続ける宣言か?」と久我山さんを凝視した。
「う うん。できれば…」
「そうだろうなぁ。辞めたくても辞められるもんじゃないしな」
「こ ここに来てみて、改めて思ったよ」
笹原さんも「確かにガランとしてると、人で賑わうビッグサイトが恋しくなりますね」とつぶやいた。
続いて加奈子さんが尋ねる。
「で、お見合いは、いつなんですか?」
数分後。
「なんで今日のお見合いなのに、前夜貫徹しちゃうんですか!」
加奈子さんが頭を抱えている。
「お前、何やってんだよ! はよカエレ!」斑目さんが激昂する。
「だ だって原稿が…」と久我山さん。
「それはこっちでどーにかできますし!」於木野先生もうろたえる。
「み 見合いは午後に都内でやるから じゅ 十分間に合うって…」
「そういう問題じゃありません! 親御さんも心配しますって!」
「スミマセン、日取りも確かめず助っ人お願いしてホントスミマセン!」と、ワタシは平謝りだ。
【34】
みんなにけしかけられた久我山さんは、渋々ゆりかもめの駅へと向かう。
加奈子さんに指示され、ワタシは久我山さんを見送るために付き添った。何てことだろう。大事な日の前に貫徹させちゃって、これでお見合い失敗したらワタシのせいかも……。
ワタシは歩きながら詫びた。
「ほんとにスミマセン…」
「そ そんなことないよ。おかげで楽しかったから」
うなだれるワタシに、山が傾くように身を縮めて慰める。久我山さんは優しい。
「き きょうビッグサイトに行ったのも……オタク続けることを覚悟するためだしね。そ それを決意させてくれた……感謝だよ」
「はい」
ワタシの方こそ、感謝なのだ。久我山さんに会えたから、オタクとしての今のワタシがあるのだから。
国際展示場正門駅の改札に辿り着き、券売機でキップを買った久我山さんが、「じゃあ」と笑った。
「お見合い頑張ってください。それと、オタクとしてのカミングアウトも」
「うん」
「……ダメだった時は、ワタシ、嫁ぎますから」
ワタシは笑うと、そのまま大きな久我山さんの躯に、ギュッと抱きついた。
何でそんな大胆なコトができるのか。不思議な感じ。
好きとかそーゆー感じじゃなかった。
初めて会った小学生の頃、その時の気持ちに帰ったような気分。
そうだ、ワタシはトトロのような大きな久我山さんに、ギュッてしたかったんだ。
久我山さんも、それを感じ取ったのか、ワタシの頭を撫でて、ゆっくり離れた。
「じゃあ」
「はい」
久我山さんを乗せたゆりかもめは、ゆっくりと動いていき、やがて朝霞の向こうに見えなくなった。
ワタシは、ゆりかもめを見送ると、ふー…と溜め息をついた。
そしてビッグサイトへと再び歩みだした。
いつものように楽しくダベっている先輩方の姿が小さく見えた時、ふと足が止まった。
「……あ、朽木先輩サークル棟に忘れてきた……」
【35】
1か月ちょいが過ぎた。
早朝から…というか前夜から人でにぎわう夏真っ盛りのお台場。国際展示場駅に着いたワタシとクッチー先輩、現役ちゃんの3人は、物欲と煩悩に引き寄せられた者たちの渦の中に同化していった。
朽木先輩はもう辛抱堪らん様子で、「ではワタクシ、さっそく開場前会場内行列に参戦してくるでアリマス!」と、サークルチケットを手にグイグイ先行し、すぐにその姿は見えなくなった。
ワタシは現役ちゃんに尋ねる。
「アンタも今日、買い物あるんでしょ。一般参加で入るんだから、朽木先輩にもっとお願いしておかなくて良かったの?」
「この日のために高校時代からの友達に毎年手伝ってもらってますから。オタクじゃないスけど、いい“ファンネル”に育ってるんですよー。そろそろ合流ポイントなんで、私もここで!」
現役ちゃんはニヤリと笑い、一般列に向かって去って行った。
ワタシはディスプレイ用の物品とペーパーを入れたバッグを肩にかけ、人また人の波のなかを、ビッグサイトへと向かって歩く。右手には一般参加の人たちが3列4列になって並んでいる。
朝からカンカンに照りつける太陽のもとで並ぶ大勢のオタク達の中には、どこかに斑目さんや、仕事明けの笹原さんたちがいるのだ。買い物が済んだら、みんな手伝いや冷やかしに来てくれる。
さぁ今日は頑張るぞと、妙に気合いが入った。
目指すは、大きなホールの中に与えられた、ちっちゃな島中のワタシ達のスペース。大量のチラシが積まれたテーブルの足下には、ミナミ印刷から届けられた、くじアン同人誌の箱が置かれていることだろう。
見てろよ北川(姪)め、ばっちり売り上げて文句一つ言わせないんだから!
階段を上り、ビッグサイトの会議棟の足下までやってきた。サークル参加者の入り口に近づくと、人ごみの中で、ワタシはひときわ大きな体を見つけた。
久我山さんだ。
もう汗だくで、首にまいたタオルでヒフーと額の汗をぬぐっている。
果たしてお見合いがどうなったのか。
ワタシはまだ聞いていない。
久我山さんもこちらに気付いたようだ。ワタシは軽く手を振って、人の波をかき分けつつ歩みを早めた。
(終)
スレ汚し失礼しました。
思えばコレを書き始めてから、父と義父が他界し、家族が病気になったりと、
プライベートでイロイロあって気付いたら1年以上かかってしまいました。
こんな話に、1年お付き合いいただいた方々に御礼申し上げます。
通しで読んだらきっと、納得いかないトコや書き直したいコトがわんさか出てくると思います。
それはいずれ、自分のHPにコレを掲載する時にまとめたいと思います。
ちなみに、Never Say Never Againのサブタイトルの元ネタは、007好きには有名なアレです。
この話的に意訳すれば「二度と(オタを)やらないなんて言わないで」ってことです。
ラスト、久我山の見合いがどうなったかはボカしましたが、どうなったんでしょうね?
自分も決めてません。
久しぶりに長いSS書いて思ったのは、「ほんとクッチーって便利だね」ってことでしたw
あと、近々、おまけエピソードを投下したいと思います。
まだ書きたいものはあるし、書き残したものもあるので、近いうちにまたスレ汚しいたします。
以上、ありがとうございました。
おお!待ってた!
でも最終回か
おまけも待ってる、乙
乙。大変そうだけど完走できて良かった
おお、最後の長編も遂に幕か
乙でした
余談ですが、今回「おば様」という呼称を連発してた咲ちゃん
その中の人は、別の某アニメでは、おば様と言われてトラウマスイッチが入るキャラをやってます
スー「サーシャに新しい技を授けた」
斑目「へえ、(少し嫌な予感がしつつも)どんなの?」
サーシャ「(いきなりパンツを下ろして)心ノ種ガ産マレソウデス!」
斑目「らめええええええええええええええええええええええ!!!!」
(注)作者はとなクガの人ではありません
失礼しました
>>521 放送倫理機構に目をつけられた「心の種」キタ!
>スー「サーシャに新しい技を授けた」
>サーシャ「(いきなりパンツを下ろして)心ノ種ガ産マレソウデス!」
ちょっと待って欲しい。
これは立派なトイレトレーニングではないか?
523 :
名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 13:27:26 ID:fYYckrCu
中央大学近辺は良いよねー
つーか立川・多摩はアニメ聖地に恵まれすぎ
もう長編はないのかなあ・・・
木尾の次回作、げんしけん続編というのは無いか……
新人3人の行く末を見たいが……
次の漫画がコケたら書くかも・・・というネガティブな予想
夏(コミ)がくると、げんしけんを思い出す。
年末もだけど。
リアルタイムなら、スーとあの読み切りの1年生3人は、今年が最後の夏か
新作があるといいな
ぢごぷり2巻にげんしけん分はあったのかしら
保守