「おい・・・行ったか・・・」
「行ったようですね・・・」
涯たちは沙織が立ち去るまでの間、出っ張る岩を足場にし、へばりつくように崖の斜面に身を潜めていた。
沙織が立ち去ったことを確認すると、四人は崖をよじ登る。
涯は武器を回収しながら、零に尋ねる。
「零・・・これ・・・“空城の計”だろ・・・」
“空城の計”とは、三国志演義で、蜀の諸葛亮が用いた策である。
野戦で敵国である魏に敗れ、城内に逃げ込んだ際、城門を開け放ち、追ってくる敵軍を待ち伏せた。
結果、敵軍は城内に何か奇策があるのではないかと恐れ、撤退した。
あえて、敵に隙を見せることで、敵の疑心を煽る戦略である。
零は目を輝かせる。
「涯・・・三国志知っているのかっ!」
涯の頬に赤みが浮かぶ。
「オレ・・・好きなんだ・・・」
二人は顔を見合わせると、“クク・・・”と照れたように笑い出した。