福本漫画バトルロワイヤル part.4

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611希望への標(前編)6
「零・・・」
涯の脳裏に零との会話が蘇る。
「オレは零には会えない・・・」
「涯君・・・」
赤松は涯を覗き込む。
涯から言葉がいつのまにか溢れていた。
「零は・・・オレに期待していた・・・
主催者に立ち向かう話を聞いた時・・・力になりたいと思った・・・
オレはそれまで、誰かから期待をされることはなかった・・・
それで構わないと思った・・・
だが、零に期待され、それに応えたいと思ったとき・・・
初めて・・・人を殺したことへの罪悪感が生まれた・・・」
涯は自嘲の笑いを浮かべる。
「オレにもこんな感情があったなんてな・・・
人を殺したのは成り行き・・・当然だと自分に言い聞かせた所で・・・
罪悪感が・・・オレに罵声を浴びせる・・・ケモノであると断言する・・・」

ここまで話した所で、涯は悟る。
この男に嫌悪感を覚えていたのは、この男と一緒にいる時、心を晒さらしてしまう状況が多かったからであると・・・。
それまで涯は他人の視線、感情に振り回されないようにする為に、孤立という防壁で自分を守っていた。
しかし、このゲームでは、様々な感情が露出し、傷つけられ、その傷を見せ付けられる。
気づくと、涯の防壁も簡単に崩されてしまっていた。

「多分・・・もう一人の自分が自分の行為を責めている・・・ということだよね・・・」
赤松の言葉に、涯ははっと顔を上げる。
零に全てを知られた時、自分を責めるもう一人の自分の存在を思い出した。
「そういう自分はどんなに説明しても、すぐに反論してくる・・・
しかし、人間はそうやって、善悪のバランスを保つ・・・
それは君が人間である証拠だ・・・君はケモノじゃない・・・」
612希望への標(前編)7:2009/06/24(水) 00:18:50 ID:???
「ケモノ・・・じゃない・・・」
涯は赤松の言葉を反芻する。
赤松は話を続ける。
「このゲームは殺し合いを求めている・・・
だからこそ、私は最終手段として、人を殺めてしまうという行為を否定はできない・・・
ただ、その声があったから・・・
君がその声に耳を傾けていてくれたから“人間として”どうすればいいのか模索することができた・・・
それはこのゲームにおいて誇れることだ・・・
お願いがあるんだ・・・もう一人の自分に伝えてくれないか・・・
殺人を思いとどまらせてくれて・・・ありがとうって・・・」

「赤松・・・」
赤松達から逃亡する間、心にあったのは、自分はケモノである、もはや人間じゃないと自分自身を否定し続ける言葉であった。
その声を押さえ込もうとすればするほど、それはさらに鋭利なナイフとなって、涯の心を突き刺していた。
憎悪の塊のようなもう一人の声とそれで弱っていく自分。
赤松の言葉は、その両方を肯定するものであった。
初めて、もう一人の自分を受け入れることができたような気がした。


沙織も赤松の言葉を黙って聞いていた。
沙織もまた、誰かを殺さなくては生きていけないという覚悟と人を殺したくないという本音の間で葛藤していた。
赤松の言葉は涯に向けられていたものだが、自分に対しても語りかけられているような気がしてならなかった。
沙織に小さな変化が現れていた。
「ねぇ・・・応急処置させて・・・」