第52話 ヒーロー先生の巻
過疎の影響で廃校になった中井小学校を、かつての卒業生が訪ねてきた。ひとりは髭にサングラス、もうひとりはワイシャツ姿の青年だ。
校舎はもうボロボロで、すでに取り壊しが決定していた。と、
「おーい」
外から声が聞こえた。眼鏡にスーツ姿の青年とワンピースの女性。彼等もこの学校の卒業生だ。中に入った二人は早速腐った床板を
踏み抜いてしまう。と、子供が壁にあいた穴から出入りして遊んでいるのが目に入った。
「こらこら こんな所で遊んじゃだめだぞ」
「帰った帰った」
四人は子供達を校舎から出て行かせた。ここは子供の危険な遊び場になっており、取り壊しが決定したのもそのためだった。
「ねっ 同窓会やらない!?」
女性の提案に男三人は「それいいな」と頷く。
「ヒーローも呼ぼうよ!」
「ヒーロー」
「広川先生か」
「いいな 呼ぼう!」
ヒーロー…
ボクたちは 広川先生をヒーローと呼んでいた。
そう…本当に 広川先生はヒーローだった…
青年二人は、広川の行方を探した。彼は一ヶ月前に教師をやめ、音信不通だという。不思議に思いつつ、広川が住んでいるアパートに着いた
二人は早速部屋を訪ねた。
「ごめんくださーい」
「広川先生!」
「いますかー?」
呼びかけるが返事はない。が、ドアの鍵が開いていることに気づき、中に入ると……そこには、グラスを手に、赤い顔でぼんやりと椅子に座る
広川の姿があった。
「広川先生!」
「ん…だ…だれだ?」
「ぼくたちです!」
「中井小学校の時 お世話になった…」
が、二人の言葉にも広川は「ん…ああ…」と笑みを浮かべるだけ。二人は広川のあまりの変わりように唖然とした。が、ひとまず広川を
外に連れ出すことに。
「いったい どうなさったんです?」
「まあ とにかく みんなあいたがっていますよ」
「もどりましょう あの学校へ」
同窓会の話をする二人に、広川は自販機で買ったワンカップを飲みながら言った。
「わしゃもうすぐ死ぬ… 急性の心臓マヒで死ぬ予定らしい」
広川は死神から死の宣告を受けたのだ。とても信じられない話に、思わず二人は顔を見合わせた。
「わしは行かん だれにもあいたくない ひとりにしておいてくれ」
それでも説得しようと二人が近づこうとした瞬間、
「本人が ああ言ってんだ 言うとおりにしてやれよ」
いきなり目の前に山高帽にスーツの子供――死神くんが現れ、二人は目を見開いた。
「そいつが死神だ 信じてもらえたかな?」
「オレたちは 本人の意見を尊重する 彼の言うとおりにしてくれ」
唖然とする二人。が、「それならなおさら みんなにあってもらわなくちゃ!」と再び広川を説得にかかる。
「先生 きてくださいよ! 先生はみんなのヒーローなんですから!」
「ヒーローか…」
広川は大笑いした。
「わしはヒーローなんかじゃない」
「なにを言っているんです 先生はヒーローですよ」
「よくおぼえてますよ あの時のこと」
「そうそう」
一度目はケン坊が崖から落ちそうになった時。必死で崖にしがみつく彼を、広川が飛び出し、まるで映画のような軽い身のこなしで崖から
助け上げたのだ。
二度目は凶悪犯がよし子を人質にとって立てこもった時だ。村は大騒ぎになった。その時も広川が立てこもりの現場の中に飛び込み、
犯人をあっという間にやっつけた。
この二つの事件がきっかけで、広川は「ヒーロー先生」と呼ばれるようになったのだ。
「ホントにヒーローがいるんだなって思いましたよ」
「やめろ!!」広川は二人の話をさえぎった。
「オレは… オレは… ヒーローなんかじゃない!!」
そして広川は、あの時の真相を語り始めた。
崖の上から落下しそうになっているケン坊の姿を見て、広川は恐れた。彼にもしものことがあったら、新聞にも載るだろうし自分が責任を
とらされる。俺の一生はもう駄目だとも思った。
どうしよう。どうしたらいいんだ…。悩む広川に、
「なにか悩みごとでもあるのかい?」
そう話しかけてきたのは悪魔くん。広川は彼と契約し、ケン坊を助けた。
「身軽に動けたはずだ 悪魔の力を借りたのだから はたから見れば それはヒーローにみえたかもしれん」
よし子が人質になったときも同じだ。二つめの願いで凶悪犯を倒した。怖いものはなかった。
その後、彼は町の中学に転勤した。そこは荒れていてひどいところだった。悪魔の力を借りれば怖いものはなかったが、三つ目の願いを
使ってしまえば死んでしまう。自分の力では何も出来ない自分が情けなかった。
「オレは悔やんでいるよ あの時に 2つの願いを使ってしまったことに… 自分のために使わず人のために使った自分が バカらしく
なったんだよ!! オレは 大バカものだってな!」
そして今度は、死神が現れた。あと一ヶ月の命と聞かされ、広川はすぐに仕事をやめ、貯金した金で遊びまわっている毎日を送っているのだ。
そうしながら最後の楽しみとして三つ目の願いをどう使ってやろうか思案中だという。
「がっかりしたか? オレは こんな男だよ」
が、青年は言った。
「いいえ! 先生は ヒーローですよ! 悪魔の力を借りたにせよ ちゃんと生徒を助けたじゃないですか その考え 行動は
ヒーローですよ!! お願いします きてください!! みんなにあってください」
「今のホントのオレを見たら みんなガッカリするぜ」
「それでも けっこうです 本当の先生を見てもらうなら… 今の話を みんなに話すべきですよ 先生は 悔いを残すのですか!?」
驚く死神くん。
「フン おもしろい」広川は笑った。
「よーし みんなの前で今の話をしてやろう みんなの がっかりした顔を見てやろう オレはヒーローじゃないってことを言ってやるわい!!」
そして同窓会当日。
駅に着いた広川を、かつての教え子達が出迎えた。
「広川先生!」
「ヒーローがきたぞ」
「やったあ!!」
「おひさしぶりです」
「先生!」
「ヒーロー!!」
たちまち教え子達に取り囲まれ、広川は苦笑い。と、
「先生 オレのことおぼえてますか!?」
七三わけの真面目そうな青年が、一歩前へ進み出た。その顔に、広川は見覚えがあった。
「ケ…ケン坊か?」
「そうです!!」
ケン坊は笑顔になった。
「オレ 医者になったんです」
「医者…」
「広川先生に助けられた時 命の尊さを感じて 医者になったんです!! 先生 あの時は本当にありがとうございました!」
そう言って、彼は深々と頭を下げた。すると、
「先生!」
今度は髪の長い女性が進み出た。この女性は……
「よし子…」
「そうです よし子です」
ケン坊によると、彼女は今料理学校の先生をしているという。
「スゴイでしょ? 今日は先生のためにケーキを作ってきたんです!」
集まった生徒達の間から歓声が上がった。
「先生 あの時は 本当にありがとうございました! あの時のよし子はこんなに りっぱになりましたよ!」
皆から笑いが起き、ケン坊も「生きててよかったな」と茶化すように言う。そしてケーキを受け取った広川は……そこに書かれた
「I LOVE HERO」の文字に、涙を滲ませた。
「先生…」
「やだ 泣かないで」
「こっちまで悲しくなっちゃう」
その様子を見て青年二人は「つれてきてよかったな」と微笑んだ。
そして、一同は校舎を見に向かった。が……なんと校舎から煙が出ている。入り口では子供達が泣いていた。訳を聞くと、去年の残りの
花火で遊んでいて、うっかり火を終え移らせてしまったらしい。しかも、女の子がひとり、まだ中に取り残されているのだ。
「助けて〜〜」
煙が出ている二階の窓から、女の子が顔を出して叫んでいた。一行は消防車を呼ぼうとするが、ここは山の上。消防車が来る事は難しい。
皆が焦る中、広川は校舎の裏に向かった。
「あ…あんた まさか…」
死神くんは嫌な予感がした。そして、
「そうだ 3つ目の願いごとが決まった!」それは見事に的中した。
「悪魔よ 出てこい!!」
「なんてことするんだ!」
死神くんの叫びも空しく、悪魔くんは姿を見せた。
「ひさしぶりだな 顔あわせたくないやつもいるけど…」
「オレだってあわせたくない」
「3つめの願いを言うぞ!!」
死神くんは「やめなさいって!」と広川を止めるが、
「最後の願いだ あの女の子を助けてくれ!!」ついに願いを言ってしまった。が、悪魔くんの口から出た言葉は……
「だめだね」
意外な言葉に、広川はもちろん、死神くんも絶句した。どうして、と問う広川に悪魔くんは言う。
死神の世界に規則があるように、悪魔の世界にも規則がある。死亡予定一ヶ月未満の人間とは、契約してはならない決まりだ、と。
「あんたの命は あと2日 契約は無効だ!」
「!! そんな………」
死神くんは契約が無効になってよかった、と喜びつつもこのままでは女の子が助からない、と悩む。広川はショックで、その場に膝をついた。
「ならば 死神よ お前にたのむ あの女の子を助けてくれ!」
「ヘッ オレが」
「やめときな」悪魔くんが言った。「こいつはなにもできやしねー 役立たずの死神さ」
「なにーっ」
「とにかく オレはもうあんたには なにもすることはない あばよ!」
そう言い残し、悪魔くんは帰ってしまった。広川はしばし、うなだれていたが――やがて何かを決意したような表情になり、走り出した。
その頃、教え子達は体育マットを窓の下に持ってきて、この上に飛び降りるよう女の子に言うが、彼女は「やだ〜〜っ こわい〜っ
お母さ――ん」とすっかり怖がってしまい、降りようとしない。その時、広川が校舎の中に入って行くのが見えた。
「先生!」
「まさか…」
青年二人が、慌てて後を追いかけた。
「先生!」
「先生 まってください」
もう校舎はかなり火が回り、広川が立っている場所も火に囲まれている。彼は二人の方を向くと、言った。
「みんなにあえてよかった… ありがとう 礼を言うぞ」
その顔は、笑っていた。
「オレのやったことは まちがいではなかった 生徒のために 体を張って 本当によかった 安心しろ 悪魔の力を借りているのではない
今度は 自分の力で 自分の意思で あの子を助ける 今度こそ 本当のヒーローだ」
そして広川は、涙を零し……奥へと走っていった。
「先生!」
「どうせ死ぬんだ こわいものはない!!」
直後、天井が崩れ落ちた。
「お母さ――ん」
泣き叫ぶ少女の肩に手を置き、「もう だいじょうぶだ」と広川は声をかけた。女の子は広川に抱きついて泣いた。
「さあ 目をとじて」
「う…うん」
広川は女の子を両手で持ち上げ、マットの上に投げ落とした。
「やった!」
「助かったぞ!!」
「次は先生よ!」
「早く!」
その時、広川のいる教室が大爆発した。それと共に、火はあっという間に校舎全体に燃え広がっていった。
「先生――っ」
「ヒーロー先生〜〜っ」
呼びかけるが、返事は返ってこない。ケン坊もよし子も、かつての教え子達も、助けられた女の子も、皆、泣いた。
「あんた りっぱだよ 最後までヒーローだった」死神くんは言った。「死亡が2日早まったけど 悔いのない人生だっただろう…」
校舎は全焼し、広川を供養するための花束と線香、そして写真が置かれた。助けられた女の子はそれに手を合わせると、笑顔で言った。
「わたし 大きくなったら 学校の先生になるんだ ヒーロー先生みたいになるんだ!」
その言葉に、教え子達も笑う。死神くんがその様子を木の上から静かに見守っていた。
死亡日が2日ずれて死神くんまた上司にしかられるオチね
なんで悪魔は死亡予定一ヶ月未満の人間と契約できないんだろ。
魂が手に入るなら何でもいいと思うんだが。
2つめまで願いを言って死に逃げされるのを防ぐためじゃね?
でも今回みたいに長々と引っ張って結局無効になるケースもあるしなあ
>>10 むしろ死ぬまでの時間が短くて3つ願い事を言う可能性が低いからでは?
でも、今回みたいに以前から契約してて今3回目を使うとかいうケースなら全く問題ないと思うが。
新規契約はしないってルールにしとけばいい。
クーリングオフで!
これ願い1回かなえるたびに契約してるってことなのか?
悪魔君 依頼者
契約1回目 願いかなえる 代償なし
契約2回目 願いかなえる 代償なし
契約3回目 願いかなえる 魂売る
悪魔君、商売ヘタすぎるぞwww
第53話 蛍祭りの巻
研二は山奥の村にある沖田工業という会社の社長の息子だ。
かつてこの村には蛍がたくさん飛んでいて、夏になると蛍祭りがあったのだが、彼の父親がここに工場を建てたため川は汚れ、蛍は姿を
消してしまったのだ。そのため研二は「お前のせいで蛍祭りがなくなったんだぞー」といつも同級生達にいじめられ、友達もいなかった。
その日もひとり家に帰ると、祖父が玄関で倒れていた。
「おじいちゃん! どうしたの おじいちゃん!!」
研二が声をかけると、祖父は何とか体を起こした。
「だいじょうぶ?」
「だ…だいじょうぶだ」
と、研二は玄関にバケツが置いてあるのに気がついた。
「なに これ」
「ん これは蛍にとって 大事なものだ」
そう言って祖父は、バケツの中から小さな巻貝を取り出して見せた。
「蛍!? この貝が 蛍になるのかァ 知らなかったな?」
祖父は思わずずっこけた。
「バカモノ! これは蛍の幼虫が食べるカワニナと言う貝じゃ! そんなことも知らんのか!?」
祖父は研二を、奥の部屋に連れて行った。祖父は父に内緒でここでカワニナを三年ほど前から養殖しているのだ。
「蛍を育てるには まず エサを育てなくてはな 川の水もきれいになってきたし 今年は蛍が見れるかも知れん」
それを聞いて「ぼくにも手伝わせて!」と笑顔で言う研二に、祖父も顔をほころばせた。
二人は、バケツのカワニナを川に放流した。川の水も一ころよりは大分綺麗になってきていて、カワニナが棲むには充分だ。
「じゃ 今年は蛍が見られるんだね!?」
「ああ…今年はなんとしても見てみたい… 研二…わしがいなくなったら お前が蛍を育てるんじゃ」
研二は驚いた。そういう祖父の横に見慣れない、山高帽にスーツの子供――死神くんがいたのだ。
「だ…だれ?」
「死神じゃ わしは あと一週間の命なんじゃ」
研二は、衝撃を受けた。
「このことはだれにも言うな お父さんやお母さんにも言ってはいかん 2人だけの秘密じゃぞ」
家で祖父と二人、蛍について勉強をしていると、父が帰ってきた。が、父はその事を「バカバカしい 何の役にも立ちゃしない」と冷たい一言。
祖父はそんな父をたしなめた。
「こらこら 子どもの夢を こわすようなことを言うでない」
「おじいちゃんのいいたいことは わかってますよ わたしが工場を建てたせいで蛍がいなくなった…でしょう みんなから言われて
もう耳が痛いですよ」
だが父は反論する。この村の人の半分は自分が建てた工場で職を得ている。でなければ今頃、誰もいない過疎の村になっている、と。
「しかし 蛍がいなくなったのは事実じゃ 少しは責任を感じたらどうじゃ!!」
「感じてますよ! だから工場を建て増しする予定です」
「自然を壊してはいかん!」
「やむをえないことです」
と、祖父が急に咳き込み、議論は中断された。
「年なんだから ムリしないでくださいよ」
父は奥の部屋へ行ってしまった。
「そうだぜ ムリすんなよ 予定が早くなっちまう」
姿を見せた死神くんも忠告する。研二は言った。
「おじいちゃん 蛍 見つけようね!」
翌日。蛍を見つけに川へ向かっていた研二は、いつも彼をいじめている男子三人組に見つかってしまった。彼が蛍を探していると知ると、
早速三人は「ふざけんな!」と研二に殴りかかった。
「てめーのせいで蛍がいなくなったんだ!」
「今さら なにをしても おせーよ」
「社長の子だからってなまいきだぞ」
が、研二は「うるさーい」と彼等を体当たりで弾き飛ばした。
「蛍が いなくなったのは ボクだけのせいじゃない! 工場だけじゃなく 家からでる水も川をよごしているし 一番の原因は畑や田んぼで
使う農薬なんだ ボクだけのせいじゃない それでもボクは 悪いと思って 蛍をさがしているんだ ジャマをするな!」
「ケッ お前になにができる」
「蛍のこと わかっているのかよ」
むっとした研二は、三人に説明してみせた。
「蛍は 世界で2000種 日本では約30種いて 発光するものは約10種 ゲンジボタルとヘイケボタルが有名 6月から7月にかけて羽化して
成虫の期間は二週間 幼虫は肉食性で カワニナやヒメタニシなどの淡水性巻貝を食べる」
三人はあっけに取られ、その間に研二は川へ向かった。
家に帰ると、祖父が水槽に寄りかかって倒れている。慌てて研二は死神くんと二人で祖父を助け起こした。
「蛍は…!?」
「だめだったよ 近くの川や池に行ったけどいなかったよ でも 必ず見つけだしてあの川に飛ばしてあげるよ! おじいちゃん それまで
がんばって! ボク おじいちゃんのために がんばるからね!」
その様子を、いじめっ子三人組が外から窺っていた。
次の日も、研二は川で蛍を探したがやはりいない。もっと上流に行けばいるかも……と歩いていくと、例の三人組の一人が、石をどけて
蛍を探していた。
「はは……ここにはいないみたいだよ 他をさがしてみようよ」
「うん… ありがと…」
二人はさらに上流へ。するとそこではもう一人が網で川底をさらっていた。
「ダハハハ…オレも蛍ってのが見たくてさ…」
こうしてメンバーは三人になり、さらに山奥へ。と、研二の父が作業員達と何かをしていた。ここに第2工場を作るための測量をしている
のだという。研二はあっけにとられた。
「やめて! そんなことしたらせっかくきれいになった川が!! 蛍が! カワニナが!!」
「まだ そんなことを言っているのか 蛍なんていないんだよ!」
「いるよ! 蛍はいるよ この川に蛍はくるよ!!」
その時、三人組のリーダー格の少年が姿を見せた。
「おじさん オレからもたのむよ 工場を建てるのはもう少しまって…」
「蛍なんて 10年以上見たことないぞ」
「だから 今年は蛍がくるよ!」
研二は必死に訴える。すると、父は言った。
「それほど言うなら 少しまってやろう 蛍がきたら工場は建てない」
「よし 行こうぜ!」
四人はすぐさま、蛍を探しにいった。
その頃、祖父は水槽に手をいれぼんやりとしていた。今年育てたカワニナはもう全て川に放した。
「今年もだめなのか」
「そんなことないぜ」つぶやく彼に死神くんが言う。
「蛍に心を動かされた子どもがなん人かいる それだけでもたいした収穫だと思うよ」
そして、どうしても蛍が見たいのなら探してきてやるよというが……祖父は椅子に腰掛けると、言った。
「いや… こんなじじいのために 研二たちがいっしょうけんめいにやってくれている たとえみつからなくても わしは まんぞくじゃ」
「そうだな」
「いた!」
「いたぞ!」
四人の間から歓声が上がった。ついに、カワニナを食べている蛍の幼虫を見つけたのだ!
すぐに研二はそれを洗面器に入れて家に持ち帰り、自宅にいる両親に見せた。
「お父さんお母さん 蛍だよ 本物の蛍だよ 蛍は本当にいるんだよ」
「う…うむ」
そして研二は笑顔で祖父の下へ。
「あなた…」
「研二の生き生きとした顔を 初めて見たよ」
研二は祖父の部屋に飛び込んだ。が、椅子に座った祖父はぐったりしている。隣にいる死神くんも「残念だが もう時間がない」と告げる。
研二は、呆然とした。
研二は三人組にもうすぐ祖父が死ぬ事を告白する。
「どうしてわかるんだよ」
「とにかく もうだめなんだ 蛍…間にあわなかった… あんなに蛍見たがってたのに…」
研二の目に涙が滲む。それを見て三人組の一人が、おじいさんを騙す事になるが、蛍を見せてやれるいい方法がある、と言った。
「ホント? できるの…」
「ああ… ボクは科学部の部長だぜ なんとかごまかしてやるよ」
少し経って、研二は祖父を呼びに言った。
「おじいちゃーん 蛍だよ」
「ええっ」
驚く祖父を、研二は外へ連れ出した。
「ホントか!?」
「ホントだよ 蛍がきたよ」
そして、川原に着くと、三人組と彼等が集めてきた子供達がいた。そしてその周りを、小さな光の玉が飛んでいる。
実はこれは、光ファイバーを全員が手に持ち、指先で蛍の光のように点滅させたり、飛んでいるように動かしたりしているのだけなのだが、
それでも祖父は「おお」と声を上げた。
「おじいちゃん よかったね 蛍だよ」
と、祖父が子供達の方へ向かって歩き出した。近付けば、ニセモノである事がばれてしまう。研二が着物を引っ張って止めるが、それでも
歩みを止めず……研二はとっさに、祖父の前に出て土下座した。
「ごめんなさい! おじいちゃんごめんなさい これは 蛍じゃないんだ!! この川に蛍はいないんだよ!! ウソついてごめんなさい」
泣きじゃくる研二。と、祖父の顔の前を光るものが横切った。
「蛍…」
つぶやく声に研二が顔を上げると、やはり光る小さなものが飛んでいる。それも一つではなく、無数に。
「蛍だ!!」
「本物の蛍だ」
子供達も声を上げた。でも、どうしていきなり?
「まさか…」部長が、光ファイバーを手にして言った。「この光にひきつけられて…」
蛍が現れたのは、子供達のいるところだけではなかった。測量をしている人達の下にも、夕涼みをしている人も、家にいる人も、皆が蛍を見た。
たちまち村は蛍が帰ってきた、と大騒ぎになった。
「祭りじゃ!」
「蛍祭りができるぞ!!」
その騒ぎの様子を、研二の両親も見ていた。不意に、父が言った。
「来年も 蛍見れるかな」
「えっ?」
「わたしは ぜひとも見てみたい!」
「ハイ!」
皆が外に出てきて喜ぶ中、研二は祖父の下へ向かった。が、祖父は立ったまま動かなかった。顔に蛍が止まっているのに、何も反応しなかった。
やがて、蛍はどこかへ飛び去っていった。
「おじいちゃん ありがとう ボクね 友だち たくさんできたよ」
研二は泣いた。
「おじいちゃんのおかげだよ! 蛍のおかげだよ!!」
そしてその様子を、祖父の魂と死神くんが、笑顔で見つめていた。
いいね
詩的だった
ホタルの光と魂がだぶってたわ
結局第2工場はどうなったんだ?
最後の方のセリフから察するに、約束守って建てないんじゃない?
代わりにホテルを建てます
高速道路もね!
第54話 霊界カラス カア助登場の巻
「しまった〜〜っ!!」
この辺りの大ボスの猫に押さえつけられて、カラスは悲鳴を上げた。
「はなせ オレは普通のカラスとはちがうんだぞ!!」
そんな訴えを無視して、猫はカラスにかぶりつこうと大きく口を開ける。が、通りかかった老人が杖で猫を殴り、追い払った。
「まったくひどい猫じゃ だいじょうぶか?」
老人はカラスが羽を痛めているのを見つけると、手当てをするために家に連れて帰った。
(くそう また人間に助けられるとは… オレって ホントドジだな)
カラスは心の中でつぶやいた。
(キズを治して 早く霊界へ行かないと…)
その頃霊界では、死神達が主任の下に集められ、職務態度が怠慢である、と叱られていた。最近、死神達が感情的になって人間に
振り回されている、というのだ。
「No.404号 この前魂納入が3日遅れている 理由をのべよ!」
「ハイ… 死亡予定者が誕生日に死にたいと申しまして… 3日後が 誕生日だったんです」
それを聞いた主任は、
「たわけ〜〜っ」404号を殴った。
「死神が 人間と仲よくするんじゃね〜っ! おまえたちみたいな部下を持つと 頭がいたいわい! 管理職はいやだ〜っ」
そして主任は本日から皆に監視役をつけることにする、と告げ、背後のカーテンを開けた。
そこにいたのは何百羽もの霊界カラス。これからは彼等が死神達と行動を共にし、ちゃんと仕事をしているかを霊界に報告するのだ。
と、翼に包帯を巻いたカラスが「おくれてスミマセン」と飛んできた。先程、老人に助けられたカラスだ。
「なんだ ケガしてるのか No.413号! おまえにこれをつけよう」
「え〜っ?」
「とにかく本日より ちゃんと仕事するように!!」
主任に怒鳴られ、死神達は仕事へ向かった。
「まあ 仲よくやろうぜ」
死神くんが話しかけたが、カラスは何も言わなかった。
「名前は?」
もう一度声をかけるが、やはり何も言わない。
「カア助でいいか…」
すると、やっとカラスが口を開いた。
「ジョンとかミックとが しゃれた名前にしろ」
思わずずっこける死神くん。
「それよりちゃんと仕事しろ 死亡予定者は?」
そう言われ、死神くんは写真を取り出した。
「笠原広(こう) 75歳 死亡予定は5日後だ」
――写真の人物は、カラスを助けてくれた老人だった。
広は雨戸を開け、もう体が言うことをきかぬわ、とため息をついた。と、そこへ死神くんが現れ名刺を差し出した。
「死神…」
「じいさん あんたはあと5日の命だ 5日のあいだにやり残したこと やりたいことをやるんだな」
うなだれ、膝をつく広。
(いつもながら この死の宣告はいやなもんだぜ)
広は死亡時刻を訊いた。予定では五日後の午前十一時。それを彼に伝えると……
「たのむ 半日待ってくれ!」
広はそう死神くんに頼んだ。
「5日後に 孫娘の結婚式があるんだ 孫娘の花嫁衣装を見させてくれ!!」
死神くんは一瞬悩んだが、カラスの方をチラと見て「だめだ! 時間厳守だ」と言った。
「5日後の11時だ あきらめな!!」
死神くんは去り、広は呆然と座ったまま動かなかった。
「どうだ ちゃんと仕事してるぜ」
「今のところはな」
広は孫の江美に結婚式の日は病院へ行かなくてはならないから、と欠席の電話をし、ため息をついた。
ふと表を見ると、この間助けたカラスが木に止まっている。隣に死神くんも立っていたが、この時は姿は見えなかった。
「やあ この前のカラス君じゃないか? キズは もう治ったのかい?」
広は優しくカラスに声をかけた。
「ノラ猫には気をつけるんだよ もう わしは助けることができんのだから… は… ははは…」
広は涙を流し、奥へ行ってしまった。
「なんだおまえ あの人に助けられたのか?」
「悪いかよ」
死神くんの問いかけに、カラスはむっとした。
「ドジなオレさ… 人間に助けられたのは二度目なんだ…」
最初に助けられたのは山を飛んでいて、悪いハンターに撃たれてしまった時だ。その時はホントにもうだめだと思った。
が、たまたま通りかかったそばかすに眼鏡の少女に助けられ、毎日手厚く看護された。
「ありがたかった 人間に感情を持ちはじめていた そしてオレは その女の子がもうすぐ死ぬことを知った」
元々霊界カラスの仕事は、死亡予定者の身辺調査で、特別な理由がない限り、霊界に「死亡に障害なし」の報告をする。彼は仲間のカラスが
少女の身辺調査をしているのを見てしまったのだ。
カラスは霊界に行き彼女を助けてくれるよう頼んだが、そんなものが通るわけなく、彼は処罰を受けた。仲間外れにされ、いじめられ、
人間に対して感情をなくすよう教育も受けさせられた。
そしてようやく解放されたカラスが見たのは、霊界の入り口の列に並ぶ、彼女の魂だった。
「たしかにオレはあの老人に助けてもらった だが なんとも 思っちゃいない 予定通りにあのじいさんは死ぬ ただそれだけだ」
「いやなやつ…」
その晩、広は再び死神くんに孫の結婚式に行かせて欲しいと頼んでいた。
「たのむ! 一時間待ってくれ 孫の結婚式は12時からなんじゃ!! 花嫁衣裳を 見るだけでいいんだ!! たのむ!」
だが死神くんはカラスを気にして「だめだよじいさん」とあくまで拒否する。
「考えてもみなよ あんたが結婚式場で死んだら 大さわぎだ 孫の結婚式に死人が出たらどう思う? 縁起でもないことだ
日本人は 特に縁起をかつぐ方だからな 結婚式をぶちこわさないためにも 式場へ行っちゃだめだ!!」
再びうなだれる広に「やっぱり心が痛むな」とつぶやく死神くん。それを聞いてカラスは「甘いな」と厳しい一言。
やはり「いやなやつ」と思う死神くんであった。と、
「ならば死神よ わしは もう思い残すことはない 早く死なせてくれ」
広の一言に死神くんは驚いた。
「じいさん なんてこと言うんだ」
そう言う死神くんに、広は理由を話す。
彼には三人の孫娘がいた。何の趣味も道楽も持たない彼は、その三人の花嫁姿を見ることだけを楽しみに生きてきた。だが一人は駆け落ちして
家を出、もう一人は事故で死んでしまった。最後の一人である江美の花嫁姿だけは見られると思っていたのに、それも叶わぬとは……。
「さあ 早く死なせてくれ…」
だが死神くんは目を伏せると、言った。
「だめだよ… 遅くても 早くても だめなんだ 予定通りでないと」
広は言葉を失い、さらに深く頭をたれた。
「かわいそうだと思わないのかい?」
死神くんはカラスに言うが彼は「別に…」とそっけない。
「とことん甘いやつだな おまえは 死神とオレたちカラスは 人間のきらわれ者さ 人間のためになにかしてやっても よくは
思われないんだよ 仕事を 一所懸命やりな そんなことで死神がよくつとまるな」
「いやなやつ」
カラスが飛び去った後、死神くんはつぶやいた。
そして広の死亡予定日。
死神くんは予定通りちゃんとやれよ、と文字通りカラスにせっつかれていた。と、死神くんは広がフラフラの状態で道を歩いているのを
見つける。死亡予定時刻は近い。もう体が言う事を聞かないはずなのに。
それでも広は、孫の花嫁姿が見たいんじゃ、お祝いの言葉もかけてやりたい、と必死に歩き続けていた。
「迷惑はかけぬ… 人に見られぬよう帰ってくる…」
「ムチャだ!!」
「たのむ 行かせてくれ」
広の真剣な表情に、死神くんも決意した。
「行くんなら行くで急ぐんだ 早く早く」
死神くんは広の背中を押した。
「結婚式場で老人の死か… こりゃ大さわぎだ」
カラスは言った。
「だいじょうぶだ 後の処理はオレがやる!」
「本人の死亡した場所が正式死亡場所になる オレたちが 勝手に死体を 動かしてはだめだ」
「うるさい! おまえの指図は受けない!!」
死神くんは必死で広を進ませた。そんな彼にカラスは「あきらめな 間に合わないよ」とあくまで冷たい。
「それよりも おまえの職務怠慢ぶりを霊界に報告しなくちゃいけない」
「ああ 勝手にやればいい!! じいさんの最後のたのみは かなえさせてやるからな 死んでゆく人間になにかしてやってもいいじゃないか!!」
「甘いな」
「甘くてけっこうだよ!」
死神くんは倒れそうになる広に肩を貸した。それを再びカラスが止める。
「やめろ オレたちが直接 力を貸す事は禁じられている いいか 就業規則第27条特別な場合をのぞいて…=v
「やかましい!!」
睨みあう二人。と、カラスがさっと翼を振った。すると数え切れないほどのカラスが電線や塀、家の屋根に止まった。
「そちらが そういう態度でくるなら こちらも実力行使だ」
「つくづくいやなやろーだ」
「それでいいんだよ オレたちゃきらわれものだ」
「オレはやる!」
そう力強く死神くんが宣言すると、再びカラスが翼を振った。それを合図に、一斉にカラスが死神くんに襲い掛かった。
「わ――っ」
「江美…もうすぐだね…」
花嫁衣裳に着替え終えた娘に、母は言った。
「ええ おじいちゃんが来れなくて残念だわ…」
その広は、もう結婚式場の目前まで来ていた。だがもう時間が間にあわない。このままでは式場の前で倒れるという、最悪のパターンだ。
そして広はよろけ……ついに時間が来た。
その時、母が広の姿に気づいた。
「あら? 外にいるのおじいちゃんじゃないかしら?」
「ええっ!?」
二人は窓を開け、「おじいちゃーん」と広に声をかけた。
「江美…」
広も笑顔になる。カラスは「なにをしている 早く魂をぬきとれ!!」と死神くんに言った。が、死神くんは「あと5分だけ」とやろうとしない。
「やれ! 時間厳守だ」
「いやだ」
「結婚式場に死体という最悪のパターンは もう変えられないんだぞ」
「しかし もう少し待てば 生きてる間に お孫さんと会うことが…」
「バカヤロウ!!」
カラスは死神くんを突き飛ばすと……なんと、広から魂を抜き取り始めた!
「オレたちは 新しい力を授かった おまえらが任務を遂行しない場合 オレたちが かわりに魂をぬきとることができる」
驚く死神くんの目の前で、カラスは完全に魂を抜き取り……広の体は倒れた。
「お母さん お姉さんの写真は?」
「ここにあるよ」
二人は、他の親族達と一緒に下にいる広の元へ向かった。最悪の状況だ。
「なにをしている? 早く魂の緒を切るんだ」カラスは死神くんをせき立てた。「その最悪のシーンが見たいのか!?」
「お姉さんが生きていればねえ…」
母は、その姉の遺影を手につぶやいた。
「わたし お姉さんの分まで 幸せになるわ…」
「早くしろ!!」
仕方なく死神くんは、ハサミを取り出す。そして切ろうとしたその時、入り口のドアが開いた。江美達が下に着いたのだ。
カラスははっとした。母親が持っている遺影に写っているのは、そばかすに眼鏡の、最初の命の恩人のあの少女。広の死んだ孫とは、
彼女の事だったのだ。そして――
「おじいちゃん!!」
江美達は声を上げた。そこには元気に立っている、広の姿があった。
「おじいちゃん 来てくれたのね」
「ああ… 病院に行く途中 立ちよっただけだ…すぐ行かなきゃ… 長居はできんのじゃ…」
「おじいちゃん…」
「江美… きれいだよ」
広の言葉に、江美は笑った。
「大きくなったなァ よかったなァ 幸せになっておくれ…」
「おじいちゃん…」
そして二人で抱き合うと、広は「わしはもう行かなくちゃ…じゃ…」と式場を後にした。
直後、倒れた広をカラスは藪の中に隠した。ここなら結婚式が終わるまで、死体は発見されないはず。広の魂を運ぶ死神くんは、ニヤニヤと
カラスを見つめた。
「な…なんだよ」
「どういう風のふき回しだい?」
「………………………わからん」
カラスは言った。
「ふたりもの恩人を目の前にして どうかしちまったのさ オレにも まだ人間に対して感情があったんだ… オレも まだ甘いってことさ」
そして霊界に戻ったカラスは「最初の仕事で さっそく時間におくれるとはなにごとだ〜〜っ!!」と主任に叱られた。
「おまえたちを監視につけた意味がないではないか!? 理由をのべよ!!」
「ちょっと甘いものを食べすぎまして… お腹の調子が…」
「ふざけるな〜」
カラスは、大きなたんこぶを作って死神くんの元に戻ってきた。
「たっぷりしぼられたようだな そういや まだ名前がなかったな ジョンだっけ? ミックだっけ?」
「カア助でいいよ」
そうぶっきらぼうに答える彼に、死神くんは言った。
「おまえ いいやつだな」
結婚式を半日早めてもらうわけにはいかなかったのか?
いや、式そのものじゃなくても、花嫁姿になるぐらいなら。
新レギュラー登場か。
しかし霊界が思ってた以上に厳しい場所でびっくりした。
今までよく罰とか受けなかったな死神くん。
上司が思いつきで厳しくするけど実態はゆるゆるな職場ではなかろうか
そういえば同じ霊界の住人なのにカア助は姿を消せないんだな
たまたま消してなかっただけかもしれんが…
カラスは普通にそのへん飛んでるものだし、姿消す必要がなかったんじゃね?
おれは「イヤな奴」が最後「いい奴」になったのが地味に良かった
第55話 だまされ上手の巻
「な…なんなの!? あなたたちはいったい…!?」
女性は、突然目の前に現れた死神くんとカア助を見て思わず声を上げた。名刺を見せられ、彼等が死神だと知り自分が死ぬのかと思う彼女だが、
「その逆だよ」と言われた。
「あんたの自殺を止めに来たんだ」
女性の前には、首を吊るための紐がぶら下がっている。
「こまるんだよなァ 勝手なことされちゃ」
「そういうこと あんたの死亡予定は まだまだ先だぜ」
死神くんとカア助に言われ「そ…そんなこと わたしの勝手でしょ!?」と女性は反論する。
「わたしは死にたいのよ!! わたしは…わたしは 男にだまされたのよ!! 結婚サギにあったのよ!!」
そして彼女は、理由を話し始めた。
やや太目の体型、眼鏡に地味な服装という見た目の影響もあってか、女性は、男には全く縁のない生活を送っていた、冴えないOLだった。
だがある日、街を歩いていた彼女は男性に声をかけられる。彼はイギリスから帰ってきたばかりだと言い、キャッシュカードでお金を下ろす
方法を尋ねてきた。
「今日はキャッシュカードはもう使えないわ」
女性はそう教え、二人はそのまま喫茶店で話をする事になった。
「父親の仕事の関係で もう15年も イギリスにいました」
「まあ15年も…」
二人は楽しい時間を過ごした。
「わかる? わたしね…男の人に声かけてもらったのは 生まれて初めてだったのよ!!」
「だろうな」
はっきり言うカア助に、死神くんも女性もずっこけた。
その後二人は次の日曜日に会う約束をして別れ、彼女は天にも昇る気持ちだった。もしかして彼と赤い糸で結ばれているのでは……とも思った。
「でも… でも…」
彼女は「おいおい」と死神くんが止めるのも聞かず、首に紐をかける。が、よろけた瞬間紐が切れ、床に倒れてしまった。
「もう少しダイエットした方がいいねェ」
からかうカア助を「よせよ」と死神くんがたしなめた。
それから4、5日して女性は偶然彼の姿を見かけた。しかも男の子を連れていたのだ。彼女に気づいた彼は、喫茶店に連れて行くと、言った。
「本当のことを言おう! 実は ボクには妻がいたんだ でも5年前に亡くなって… わたしひとりでこの子を 育てているんだが」
「まあ」
「その時 おかしいと思ったけど… 彼の言うことはなんでも信じたわ」
実際、その子はずっとイギリスに住んでいたはずなのに日本語しか話せなかった。でもすぐに彼女に懐き、仲良くなった。
そんなある日、彼女は男の子から母親の写真を見せられる。写っていたのは自分とそう変わらない、太目の女性だった。男の子によると、
結婚する前は痩せててすごく綺麗だったらしいが……複雑な思いで写真を見つめていると、男の子が言った。
「ねェ 母ちゃんって呼んでいい?」
突然のことに女性は真っ赤になったが「え…ええ」と頷いた。たちまち男の子は笑顔になった。
「この時からわたしは 結婚を 意識しはじめていたわ でも…でも」
女性は今度は薬の瓶を手にした。
「ああっ」
「やめろ!!」
二人が止めるが構わず一気に薬を口に流し入れ……ブハッと吐き出した。
「だから言ったのに」
「睡眠薬のつもりだったんだろうが これ正露丸だぜ」
それから彼は頻繁に女性のアパートに来るようになり、小銭がないからと言っては二千円とか三千円をよく借りていった。
「ふつうならそこで気がつくべきよね それでも わたしは幸せだったの」
彼が自分を慕い、頼りにしてくれる。それで満足だった。
そしてついに彼女は、彼から大きなダイヤのはまった指輪を見せられた。
「ま…まさか まさか…」
当然、それは偽物のダイヤだったのだが、その時はそんなことには気づかなかった。
彼はそれを女性の左手薬指にはめた。
「わたしに? 高いでしょ? これ…」
「なーに 千五百万円の安ものだよ」
文字通り、目の玉が飛び出るほど驚く彼女に、男は言った。
「結婚しよう!」
「幸せだった 本当に… 世界が ふたりだけのためにあるような わたし お人好しだから だまされやすいのよね」
女性はそう言いながら、カミソリを手に取った。
その後、デートをした時、彼からイギリスにいる父親に知らせたいし、今父親の会社の調子が悪いからすぐ帰って、会社を立て直さなければ
ならない、と言われた。そしてお金が少し必要だから百万ほど貸してくれないか? と頼まれたのだ。
「よく考えればおかしな話よね 百五十万必要なのに 指輪に千五百万も使うなんて… でもわたしは そんなことまで考えなかった
彼のためなら なんでもしてやろうと思った」
そして彼女は、全財産である百五十万円を彼に渡してしまった。
「ありがとう これは必ず返すよ!」
彼は笑顔で礼を言うと、すぐイギリスに行かなくちゃならないんだ、と慌ただしく帰っていった。
「一週間でもどって来るから!」
女性は彼を笑顔で見送った。ただ、一緒に来ていた子供が、何か言いたげな目をしていたのが気になったが……。
それでも彼女は嬉しくて、両親や親戚、友人に結婚することになったと電話をしまくった。皆喜んでくれ、両親も近いうちに来ることに
なっていた。だが、それから間もなく、警察から彼女の元に電話がかかってきた。彼が結婚詐欺の容疑で、逮捕されたという電話だった。
そこでようやく彼女は、自分が騙されていたことを知ったのだ。
「わたしは泣いたわ だまされた自分が! バカな自分が!! お人好しの自分が!! 自分が なさけなくて泣いたのよ!! 言いたいことは
それだけよ!」
彼女は手首に当てたカミソリを引いた。が、何故か傷一つついてない。何回繰り返しても同じだった。
「ムダだよ 刃がついてないぜ」
「さっきからオレとカア助で 自殺できないように さいくしてあるんだ」
それを聞いて女性は、死神くん達に訴えた。
「おねがい 死なせて! もう生きる気力がないのよ! わたしの気持ちわかるでしょ!? 死なせてよ!! おねがい!!」
土下座をする彼女に、二人もすっかりお手上げ状態。仕方なく死神くんは言った。
「じゃ少し待ってくれ 霊界に行ってあんたのことを報告しよう 死亡許可が出れば あんたは死ねる」
「ホント!?」
「自殺なんて苦しいことしなくていいんだ だから ちょって待っててくれよ」
死神くんは消えた。
直後、再び警察から電話がかかってきた。調書をとるための呼び出しだ。
取調室に着くと、すっかりやつれた様子の彼と、息子がいた。
「かあ…ちゃん」
息子にそう呼ばれ、女性は複雑な表情になった。
刑事によると彼は詐欺の常習犯で、競輪場で金遣いが荒いのを不審に思い、捕まえて白状させたという。職にも就かず、刑務所の出入りを
繰り返し、妻にも逃げられたのだ。
「かわいそうなのは子どもの方ですよ 親がムショに入っている間 施設に あずけられましてね 親が出てきたらひきとるという
くり返しでして…」
今回の被害者は彼女一人だけ。そして刑事は調書を取り始めた。
「え〜〜っと あなたは この男に百五十万をだましとられた… そうですね?」
しかし、彼女は彼と過ごした幸せだった日々を思い返し……「いいえ」と答えた。
刑事はもちろん、二人も目を瞠る中、女性はさらに続けた。
「わたしは この人から商品を買いました その商品の代金として 百五十万を おしはらいしたのです」
「な…なにを言っとるんです!! なにを買ったと言うんですか!?」
「幸福です」
女性は、きっぱりと言った。
「短い間でしたが すごく幸福でした わたしは 幸福を買ったのです」
その目に、涙が滲み、
「ありがとう 夢を 見させてくれてありがとう 本当に… ありがとう…」
彼女は、深々と頭を下げた。
警察署からの帰り。
「わたしって ホントにお人好しね」
そうつぶやきながら歩いていると、死神くんたちが現れた。死亡が許可されたというのだ。
「本当!?」
「ああ 死亡日はいつになるか未定だがな」
「いいわ…もう思い残すことはないもの…」
「ようし 身の回りでもキレイにしとくんだな それから…もう だまされるんじゃないぜ!」
翌朝。男は女性が告訴を取り下げたおかげで釈放された。
「まったく バカな女だぜ」
そう笑う父を、息子が蹴飛ばした。
「バカ! 父ちゃんのバカ!! あの人の悪口を言うなんて…父ちゃんのバカ!! 父ちゃんなんかキライだ! 大キライだよ!!」
男は泣きじゃくる息子の頭を撫で、抱きしめた。
「わかってる… わかってるよ… あんなに心やさしい女性は初めてだ」
「行こうよ あやまりに行こうよ」
「正明…」
「もうすぐ死ぬのね… 思い残すことは何もないわ…」
女性が部屋で一人、そうつぶやいた直後、ドアがノックされた。もう死神が来た……? と思ったが、来たのは男とその息子。
「な…なに? なにしに来たの?」
息子は女性の姿を見て「母ちゃん!」と抱きつき、
「すまん ゆるしてくれ!!」男は土下座した。
「あんたのようなやさしい人をだまして悪かった 心を入れ替えてまじめに働く 借りた金は必ず返す!! だからせめて この子の
母親がわりになってくれ この子にはあんたが必要なんだ」
「母ちゃん!」
「こんなことゆるしてもらえるとは思っちゃいないが… たのむ! このオレでよければ本当に… ………結婚…」
「やめて! だめよ… 帰って… もう終わりなのよ!」
彼女は戸を閉めた。
「お母ちゃん!」
「うそ… こんな…こんなこと」
女性は泣いた。もう死ぬと決まっているのに、こんなことになるなんて。外ではまだ、子供が「母ちゃん」と自分を呼び続けている。
どうしたらいいかわからず、彼女は死神くんを呼んだ。
「な…なんだい?」
「わたし どうしたらいいの?」
「どうって」
「わがままを言うようだけど 今さら死ぬ予定のとり消しなんて… できるわけはないわよね…?」
「ああ できないね」
「あんたは死ぬんだ」
二人はきっぱりと言った。
「カア助 死亡予定日は?」
「くわしくはわからないが 60年ぐらい先だねェ」
――彼女の顔色が、変わった。
「なによ! それはいったい!?」
「今すぐ死ぬとは言ってないぜ」死神くんは言った。「オレは念をおしてこう言ったはずだ もうだまされるんじゃないって!」
彼女はしばらくあっけにとられていたが、
「わたしって ホントにお人好しなのね…」と苦笑いした。
「わたし…これからどうしたらいいの?」
「どうって…まずドアを開けてあげなよ」
死神くんは去って行った。それに答えて、恐る恐る戸を開けると……そこには二人の他に、なんと両親が来ていた。
「なんだい? この人たちは」
不思議がる両親に、女性は説明を始めた。
「あ… あの紹介するわ この人がわたしの…」
60年後ってことは80歳ぐらいまで生きるってことか。
自分の運命を知ってしまっていいのか?
主人公が心美人とかぶるな。
第56話 ひとりぼっちが三人の巻
ある日、丸野はクラスメートの広谷と共に、金山に体育倉庫に呼び出され、こう言われた。
「なァ オレのかわりに死んでくれよ」
二人は唖然とした。
(金山君は札つきの不良で みんなからきらわれている 友だちでもないボクが どうして呼ばれたのかわからない)
「信じられない話かもしれないけどな 死神が出やがった」
「「死神…」」
「オレは あと 一週間の命だと言いやがった オレは死にたくないって言ってやったんだ 魂が不足しているから だめだって
言いやがった」
だから代わりにお前等が死んでくれ、と金山は言った。
「う…うそだろ そんなこと…」
「ウソでこんなこと言えるかよ!? いいか おまえらどちらかが オレのために死ぬんだ」
広谷が「どうして…」と尋ねると、「おまえら いつもひとりじゃねーか」と金山は言う。
「友だち いねーんだろ? クラスの中で いるのか いねーのか わからん存在じゃねーか そんなやつはいねー方がいいんだよ!」
俺はやりたいことがいっぱいあるんだ、おめえらとは違うんだよ――そう怒鳴られて、思わず二人は竦みあがった。
二人は一緒に帰った。
「なんだか おかしなことになっちゃったね」
「うん…」
(広谷君も ボクもクラスの中では目立たない方で 言葉も かわしたことがない… 金山君の言うとおり友だちがいなくて存在感もない
自分自身なんのために生きているのかわからない…)
その時、彼等の前にカラスを帽子に乗せたスーツ姿の子供――死神くんとカア助が現れた。
「だ…だれ?」
「さっき 話に出てきた死神って言うものさ」
二人は驚いた。
「そんなことより まさか あいつの言う通りに本当に 死ぬつもりじゃないだろうな? バカなこと考えるなよ 死ぬのは おまえらじゃ
なくて あいつだ…」
「そうだそうだ」
「あいつが なにを言っても 聞いちゃだめだぞ」
そう言う死神くんに、丸野は訊いてみた。
「どうして 金山くんは死ぬの?」
「運命だよ どうしてと言われてもそれしか答えようがない」
「それに あいつが大人になってもまともにゃなれないよ 神様は すべてお見とおしさ」
死神くんの答えに、カア助も付け加える。が、
「こちらとしては 予定通り魂が納入できれば だれが死んでもいいんだけどね」と余計な事を言い出した。
「かわりに お前らが死…」
「よけーなこと言うな!!」
すかさず死神くんが蹴りを入れて止めた。
「おまえたちは死ぬ予定に入ってはいないんだ とにかく あいつの言うことは無視するんだ」
そう言って死神くんは消え、広谷も帰ってしまい、丸野は一人、その場に取り残された。木の上から死神くんがその様子を窺う。
「だいじょうぶかなァ あのふたり」
「気の弱そうなやつ…」
自室のベッドに寝転がり、丸野は色々と思い返していた。
俺はもうすぐ死ぬ、死にたくねえ、お前達は生きてる価値がない、存在感がないと言った金山の言葉。実際、自分はクラスでも勉強は
出来ないし目立たないし、いじめに遭った事もあった。特にやりたいこともないし、いない方がいいのか……。
翌日、二人が出した結論は「死にたくない」だった。それを聞いて「ふざけんなよてめーら!!」と金山は二人に殴りかかるが、
「いいかげんにしろ!!」と死神くんが止めた。
「自分のわがままがそこまで通ると思ってんのか!?」
「うるせー オレは死なないからな! おまえら オレより生きてる価値がねーんだよ!! いてもいなくてもわかんねーんだよ
だから死ねよォ!!」
「いいかげんにしろってーの」
「人のこと言えんのかよ!!」
今度はカア助も加わって、金山を蹴飛ばした。
「おまえこそ 生きてる価値がねーんだよ 暴力をふるう 学校へは行かない 酒は飲む! いいと思っているのか」
「マジメになるからよォ」
「信用できないね」
死神くんとカア助は「ホラホラ もうあっち言ってろ」「こんなやつ無視しろ」と丸野達を追い払った。
「死神よォ あいつら死ぬ予定に入ってないのか?」
「あたりまえだ」
すると金山は「それじゃ オレがあいつらを殺したらどうなる?」と尋ねるが……当然、「バカなことを考えるな〜っ」「アホー」と
二人に怒鳴られてしまった。
その晩、丸野は広谷と二人で原っぱに来ていた。広谷は星を見るのが好きで、小学校の頃から続けているのだという。
「でも もうできないんだ」
広谷は言った。
「どうして?」
「勉強できないから親がだめだって 勉強しろってうるさいんだ 友だちいないし これだけが楽しみだったのに」
「つまんないね」
丸野は空を見上げた。
「ボクなんか趣味もないし もっとつまんないよ 友だちいないし」
そのまましばらく黙る二人。不意に、丸野が言った。
「スペース・シャトル乗ってみたいね」
「オイラが乗ると重くて飛ばないよ」
丸野は笑った。
翌日、金山は二人を建設途中で放置されたビルがある空き地に呼び出し、ラジコンをいじりながら待っていた。やがて二人が姿を見せた。
(来たか…)
金山は胸ポケットの中を確かめた。死神くん達が、警戒の眼差しでその様子を見ている。
(やろー とんでもないこと考えてやがんな)
「わー ラジコンだ」
目を輝かせて言う丸野に金山は「動かしてみるか?」とコントローラーを貸した。が、操作が下手なのを見かねて金山はすぐにコントローラー
を取り上げ、「こういう風にやるんだよ」と手本を見せる。彼はレースに出て、優勝したこともあるらしい。
他にもバイクでレースに出てみたいし、車も乗りたいし、ヨットや登山……やりたいことがたくさんあるんだ、と金山は夢を語る。
「てめーら なにかやりてーことあんのか?」
「ない」
そうはっきり答える丸野に「はっきり言うなバカ」と金山は呆れた。
丸野は再びコントローラーをいじり始めた。
「広谷君は 望遠鏡で星をさがしているんだよ」
丸野の言葉に、「それで なにか見つけたのか」とつっかかる金山。
「でも 星のことはなんでも知ってる」
「ふーん 南十字星というのはどこにあるんだ? 答えてみろや」
「日本では見れない星だよ」
と、丸野がラジコンを石にぶつけた。
「こら なにやってんだおめーは!!」
「おもしろいなー ボクも買おうかな」
「てめーにゃムリだよ!!」
その後、三人はビルの上に足場として渡してある板に座って他愛もないおしゃべりをした。
「ボク 他人とこんなに話したの初めてだ」
丸野は笑った。が――
「ケッ バーカ」
金山は立ち上がると、胸ポケットからナイフを取り出した!
「やろー バカなことを」
止めに向かおうとする死神くん達。が、直後、板が割れて傾き、金山と、同じ板の上にいた丸野が下へ落ちそうになった。幸い板は
鉄パイプの枠に引っかかって斜めになった状態で止まったが、二人は必死で板にしがみついていた。
「た…助けて」
広谷は、上にいた丸野をひとまず引き上げた。そして次は金山だが……
「早く助け…」
二人は悩んだ。が、
「た…助け…」
「つ…つかまって!」
必死な様子に丸野は手を差し伸べた。しかし、あと少しの所でさらに彼の体がずり落ち……広谷がとっさに手を伸ばして止め、無事金山も
助かった。
「よかったね」
丸野にそう声をかけられ、金山は驚いた。すると、
「金山君 ボク…かわりに死ぬよ」と広谷が言い出した。
丸野はもちろん、金山も、カア助と死神くんも目を瞠った。
「ホ…ホントか?」
「うん…友だちいないし 勉強きらいだし やりたいこともできなくなったしね」
笑顔で答える広谷。が、それを聞いて丸野は動揺した。
「だ…だめ やめて… ボクが死ぬよ だから だから…」
さらに驚く死神くん達。
「ボクなんか やることないんだ 勉強できないし 友だちいないし 生きてる価値がないんだ ボクなんか いない方がいいんだ
ボクが死ぬよ! ふたりは生きて!」
ますます目を丸くする死神くん。
「本当か? 本当に お前が死んでくれんのか?」
丸野は何も言わず、ただ涙に濡れた目で金山を見た。それを見て金山は……「ウソだよーん」と笑った。
「バーカ かわりに死んでくれなんて 本気で信じてたのか? ウソだよウソ てめーらがさびしそうだったから 声かけてやったんだよ」
金山は二人に背を向け、「死ぬのは オレだよ」と寂しげに言った。
不良で暴力も振るうし、親にも迷惑かけて、皆にも嫌われて、死神に死ぬと言われたときも、何も感じなかった。死んでも仕方のない人間だと
思っていた。でも、死ぬ前に何かがやりたくなって、なんだか寂しくなって……それで二人に声をかけたのだ。
「でも信じられねーよな オレのかわりに死んでもいいなんて言うやつが ふたりもいるなんてよ そんなバカが世の中にいるなんて… 信じらんねーよ」
金山の目に、涙が滲んだ。
「オレ これからも 人に迷惑かけるだろうし いなくなった方がいいんだ 今日 おめーらといろんな話ができて楽しかったよ
もっと早く知りあっていればよかったなア」
そして彼は、やり残した事をやらないと、と歩き始めた。
「おまえらに死ぬ理由はねーよ せっかく友だちができたんだから 大切にしねーとな」
「友だち…」
そして金山は帰っていった。二人に「ありがとよ」とお礼を言って。
それから間もなく、金山は死んだ。原因不明の心臓麻痺だという。クラスメートも先生も葬式には出なかった。丸野と広谷を除いて。
二人に気づいた金山の母が、声をかけてきた。
「あの… あなたたちは…」
「金山君の友だちです」
はっきり答えた二人に、母親は涙を流した。
その帰り道。丸野はおもちゃ屋でラジコンを買った。そして広谷と二人、楽しそうに話しながら帰っていった。
(友だちを作るのはカンタンなことさ まず話をすることさ)
相変わらず天界の運用は厳格なんだかルーズなんだか分からないな。
魂の数はきっちり合わせるくせに中身はどうでもいいなんて。
「ウソだよーん」なんて言ってごまかしてるけど
ナイフ持ってたあたり最初は本気だったとしか思えん
金山が二人のどっちかを殺して生き残ったとしても
一生人殺しの罪を背負っていかないといけないんだぜ。
まあ最初は出来る事ならどっちかに死んでもらいたかったが情が移ったということだろう
>>54 実際最初は本気だったと思うけど、すぐに考え変わったんだろうね
第57話 老人達の反乱の巻
老人ホーム「やすらぎの里」に一ヶ月前に入った雄三は、仏頂面で廊下の椅子に座っていた。
「やあ 雄三さん」
そんな彼に、老人たちの一人、吾助が声をかけた。
「ここに来て一か月ですな どうです なれましたか?」
「フン 老人ばっかしだ」
「老人ホームじゃからの…」
吾助は、雄三の隣に腰掛けた。
「なれれば 実に楽しい所ですよ 雄三さんは 聞くところによると 大学の先生だったと言うじゃないですか」
「教授と言え」雄三はますますムスッとした。「みんなとは ちょっと頭のデキが違うんじゃよ! 頭のデキが」
と、雄三の頭上を野球ボールがかすめた。
「なにをする!!」
投げた老人を雄三は怒鳴りつけた。吾助によると、彼――三吉は学生の頃甲子園に行ったという。
すると今度は、突っ張りをしながら大きな足音を立てて別の老人が歩いてきた。
「平作どんは 昔 相撲で十両まで進んでのォ いつも 自慢話のネタにしとる」
吾助の言葉を雄三は鼻で笑った。
「ウシさんは女医さん いくぞうさんは弁護士 ハナさんはアナウンサー コイチさんはマンガ家じゃ そういうわしはレーサー
だったんじゃよ 今度 息子の車でドライブしませんか?」
「まだ死にたくないわい!!」
雄三が叫ぶと、吾助は笑いながらその場を去った。
「フン なにがレーサーじゃ のオ 死神よ」
彼の隣には、死神くんとカア助がいた。実は雄三はあと二年の命なのだ。
雄三は家族に「いい所よ」「友だち たくさんできますよ」とすすめられてここに入ったのだが「家に帰りたい」とこぼす。
「こんな所にいたらじじいになってしまう」
「もう じじいなんだよ」
「ここの老人は 昔の話ばかりする 自慢話ばかりする それも みんなウソじゃ!!」
三吉は甲子園のピッチャーだったというが、あんな細い腕で投げられるわけがない、平作があの体で相撲取りなものか、四十年前に
レーサーの仕事があるわけない……と、雄三は次々と文句を並べる。そしてこんなやつらと一緒にいたくない、家に帰ると言い出した。
家の柱時計のネジを巻くのは自分の仕事だし、庭の木や盆栽の手入れ、犬の散歩も日課になっている。自分はみんなから尊敬されているし
家の中では偉いんだ、と雄三は主張する。
が、それを聞いた吾助、三吉、平作は「やめた方がいい…」と雄三を止めた。
「ここにいた方がいい」
「老人は老人どうしが一番いい」
「家に帰っても ジャマものあつかいされるだけじゃ」
「じゃかましい!!」
雄三は三人を一喝した。
「わしは 大学教授であるぞ みんなとはちがうんじゃ!! なれなれしく話をするな〜〜っ!!」
その夜。雄三はこっそりと部屋を抜け出した。
「オイオイ 本当に行くつもりかい」
死神くんの問いに雄三は「あたりまえじゃ」と答えた。
「歩いて なん時間かかると思っているんだよ」
「足には自信がある」
その時、吾助達三人が出て来て再び雄三を止めた。
「ここにいた方がいい」
「老人は老人どうしが一番いい」
「家に帰っても ジャマものあつかいされるだけじゃ」
「同じセリフ言うな〜っ!!」
「せっかく 友だちになれたんじゃから 仲よくしましょう」
そう言う吾助を「おまえらなんか 友だちなんかじゃな〜〜い!!」と怒鳴りつけると、雄三は行ってしまった。仕方なく部屋に戻って寝た
吾助だが、外で職員が話している声が聞こえてきた。
「ねェ 雄三さんがいないわよ」
「おハナさんが 外 歩いているの見たって…」
「こまった人ねえ どうする?」
「とりあえず警察ね」
それを聞いて吾助は部屋を抜け出し、軍服姿になった。そして示し合わせたかのように、三吉と平作も廊下で待っていた。
雄三は夜道を家に向かって歩いていた。
「帰るぞーっ 家に帰るぞーっ 家族のみんなと また いっしょに仲よく 暮らすんじゃい」
が、ホームから連絡を受けた警官二人が、雄三を待ちかまえていた。
「さっ 早く帰りましょう」
警官に捕まり、必死に雄三は抵抗する。その時、眩い光とともにジープが現れた。運転しているのは吾助。三吉と平作も乗っている。
「雄三さん 早く!!」
吾助に促され、雄三はジープに乗り込み逃走した。
「な…なんだなんだ」
「老人が… 老人が 老人にさらわれた!!」
警官達は、突然のことにただただ驚くことしか出来なかった。
久しぶりの運転で腕が震えとると言う吾助に不安を覚えるが、ジープはすごいスピードで進んでいった。と、前方に車が二台。
「あぶない スピードのだしすぎじゃ」
が、吾助は速度を落とさずにハンドルを切り、車体を斜めにして二台の車の間を通り抜けた。
「一度 やってみたかったんじゃ!」
「バカタレ〜ッ」
今度はパトカーが後を追いかけて来た。
「三吉どん」
吾助に指示されて、三吉は後ろを向いて立ち上がり、
「ピッチャー第一球 ふりかぶりました…」
そしてパトカーに向かってボールを投げた。ボールは見事、パトカーのヘッドライトに当たった。
「ストラーイク!」
「いいぞいいぞ」
雄三はあっけにとられた。その後も次々と、三吉はヘッドライトを壊していったが……疲労で倒れてしまった。
「なんてじーさんだ」
「止まりなさーい」
警官が呼びかけるが、吾助は構わず進んでいく。
「雄三さん 家は!?」
「右に まがってくれ もうすぐじゃ!!」
が、右に曲がった所で警官が三人立ちはだかった。仕方なく車を止め、
「平作どん!」
吾助は平作に指示を出した。
「おじいちゃん なにやってるんです!」
「めーわくですよ 早くホームに…」
と、
「どすこーい」
平作がまわし姿になり、強烈な突っ張りを警官にくらわせた。
「平作どん あとたのむ!!」
雄三は目を丸くした。警官三人が、全く手がつけられないほど平作は強かったのだ。
「平作どんやったあ!! 先に行くぞ」
吾助は再びジープを走らせた。
「青春じゃ わしら青春しとるぞ!! 若返ったみたいじゃ」
はしゃぐ吾助に、雄三も苦笑い。と、まだ追いかけてくるパトカーがいた。
「三吉どん たのむ!」
三吉は真剣な表情になり、「わしのすべてを この一球にかける!」とふりかぶったが……なんと、その拍子に骨が折れてしまった。
が、投げた球は見事、フロントガラスに命中。パトカーはスピンした。
「やったぞ!!」
腕が折れた三吉を気遣う雄三。
「どうだ わしの球」
「み…みごとじゃ ナイスコントロールじゃ」
三吉は満足げに笑った。
と、今度はガス欠を起こして車が止まってしまった。ここから歩いて行った方が早い、と雄三は車を降りた。吾助も三吉にジープの番を頼み、
後を追う。
そしてついに、雄三の家が見えてきた。が、窓越しに彼の目に飛び込んできたのは……自分がいた時よりも、ずっと楽しそうに笑う家族の姿
だった。
「見なきゃよかったな」
死神くんが言った。
雄三は、あまりの家の変わりように愕然としていた。柱時計は普通の壁掛け時計に変えられ、たくさんあった盆栽も、片手で数えられるほど。
さらに今までは外で飼われていた犬が室内で孫と遊んでいる。
「あんたの出る幕はないみたいだな」
「あんな楽しい家族の顔を 見たことはないだろう?」
死神くんとカア助に言われ、雄三は尋ねた。
「なぜだ? わしがいないのがうれしいのか?」
そうじゃない、と死神くんは否定した。
「あんたがいると みんな気を使って カタくなっちゃうんだ」
「あんたと孫じゃ 話もあわないだろうし」
「あんたの気むずかしい顔を 目の前にしたら楽しい話もできないよ」
雄三は改めて、家の中を見た。
「わしはもう 不用な人間なのか?」
「そうじゃないけど… 老人は老人どうしで話があうだろうと 家族が考えたすえに老人ホームに行かせたんだ 家族のせいっぱいの
思いやりだよ」
「そういうこと!」
雄三は、しんみりとした表情になった。
「あんな所… 老人ホームなんか… いやじゃ…」
と、雄三は吾助が倒れているのに気づいた。
「吾助どん!!」
それを見て死神くんが時計を見ながら「時間か…」とつぶやいた。実は吾助も死神くんの担当で、死亡予定日は今日だったのだ。
「吾助どん…」
雄三が呼びかけると、吾助は意識を取り戻した。
「雄三さん どうじゃ 家族は…」
「家族なんか もうどうでもいい… 早く帰ろう」
「いや…もうだめじゃ… わしはもう死ぬ…」
「死ぬのがわかって なぜ こんなムチャを…?」
「死ぬからこそ ムチャしたんじゃ」
そして吾助は、雄三に嘘をついていたと告白する。彼はレーサーではなかった。しかし、車は好きで、整備士として働いていたのだ。
「ウソでもいいから みんなと 楽しい話をしたくてな… 老人の楽しみなんて これくらいしかないからのォ」
しかし三吉と平作の言っている事は本当だから信じてやってくれ、と頼む吾助に、雄三は自分も嘘をついていたと白状する。確かに大学で
働いてはいたが、教授ではなく用務員だったのだ。
「いいんだよ それで… だれも わかりゃしない」
吾助は雄三に「ありがとう」とお礼を言った。
「最後に こんないい思い出を作ることができた 礼を言うよ」
「吾助どん…」
――そしてついに、死ぬ時間が来て――
「雄三さん… ホームに帰ったら みんなと仲よくやってくれ でないと いつまでたってもひとりぼっちじゃ… それはすごくさびしい
ことじゃ… 残り少ない人生を楽しくやらなきゃ… だから… みんなと… 仲…よく…」
吾助は雄三にそういい残し、息を引き取った。家の中では、そんな事など知らずに家族が楽しげに笑っていた。
「吾助どん 死ぬな 死なんでくれ!」
雄三は泣いた。
「ひとりに しないでくれ せっかく友だちになれたのに… ウソでもいいから… また 楽しい話をしてくれ… たのむ」
吾助の遺体を抱きしめたまま、いつまでも泣き続けた。
しばらくして。安らぎの里に新しい入居者がやってきた。
「今日から 新しく入る田辺さんです みなさん仲よくしてくださいね」
そう紹介されても、気難しい表情のままの田辺に、
「いや――っ 田辺さん ようこそいらっしゃいました」
以前とうって変わって、にこやかな顔になった雄三が声をかけた。
「ここは楽しいところですよ 仲よくやりましょう」
雄三は、田辺を案内した。
「三吉どんは 昔ピッチャーで活躍して 平作どんは 相撲とりだったんです なにをかくそうわたしは 大学教授でしてな…」
しかし寂しい結末だな
マンガ家のコイチさんww
死神くんはああ言ってフォローしてるけど、多分家族からうっとおしがられてたんだろうな…雄三さん
第58話 前世の殺人の巻
「板橋さんですか こちら 白崎警察です」
突然、板橋の元に警察からかかってきた電話は、妻の晴子が殺されたという信じ難い内容だった。大急ぎで家に戻ると、警官と野次馬で
周囲は大騒ぎ。板橋は、幸い無事だったまだ赤ん坊の息子・みつおを警官から受け取り、無事を確かめるようにしっかりと抱きしめた。
そして――家から妻の遺体が担架に乗せられ運び出されてきた。
「晴子! 晴子!!」
はっと気がつくと、板橋は自室の布団の中で寝ていた。
「また いやな夢を見ちまった…」
もうあの事件から、二十三年が経っている。起き上がり着替えていると、二階からすっかり支度を終えたみつおが降りてきた。
「オッハヨ」
「ああ おはよう みつお」
「今日 彼女つれて来るよ 会ってくれる?」
「ん ああ もちろんだ」
みつおが出かける姿を、板橋は笑顔で見送った。
「あいつも あんなにりっぱに成長した 彼女まで作るようになって… もう あの時のことは 思いだしたくない」
しばらくして、板橋が勤める心霊研究所にみつおが恋人・安田由樹子を連れてきた。彼女は霊やUFOに興味があり、自分の前世が
知りたいのだという。
「そんなことを知って どうするんです? ガッカリする人かもしれませんよ」
「でも 知りたいんです」
「おやじ たのむよ いつもの催眠術を使ってさ…」
「わかったわかった 息子のたのみとあらばやってみよう さあ そこに座って」
「わあv」
板橋はメトロノームを鳴らし始め、催眠術を開始した。
「さあ 目をとじて… なにも考えないで 心をおちつけて」
と、
「やめた方がいいぜ」
いきなり背後から声がした。「おまえ今 なにか言ったか?」とみつおに訊くが、彼も不思議そうな表情。
声の主――死神くんとカア助は、頭上から彼等の様子を見ていた。
板橋は続けた。
「メトロノームの音がだんだん小さくなって 聞こえなくなってくる あなたは今若返っています 18歳 12歳 8歳 5歳 3歳
1歳… 0歳… あなたは赤ン坊になってしまった あなたは 生まれる前の状態となった そう お母さんのおなかの中です
さらに若返っていく 一個の細胞になった さあ あなたはそれ以前にほかの人間だった 安田由樹子に生まれ変わる前の人間になったのです
あなたの名前は?」
真剣な表情になる死神くん達。すると、由樹子が口を開いた。
「お…おれは…」
「お…男だ!」
驚くみつおの前で、さらに由樹子は――その人物は続けた。
「オレは久保川啓三だ」
瞬間、板橋の顔色が変わった。
「久保… 久保川啓三 年齢は?」
「50だよ」
「職業は!?」
「ただのドロボウさ」
板橋は、雷に打たれたように後ろに倒れた。慌ててみつおが父の体を支える。
「どうしたんだよ おやじ!!」
「や…やめだ もう帰ってもらってくれ」
「ええっ!? おやじ!!」
みつおは由樹子の体を抱き起こして、困惑した。
その晩、研究室でお茶を飲みながら板橋はあの時の事を思い返していた。
事件後間もなく、警官が家を訪ねてきて、犯人は久保川啓三という窃盗の常習犯だと教えてくれたのだ。だが彼は末期ガンに侵されていたため
その後死亡し、動機を捜査中だとも言っていた。犯人がすでに死んでいたことに、彼は呆然とするしかなかった。
(やつが… やつが妻を殺した)
その時、いきなり横に死神くんとカア助が現れた。
「だから やめろって言ったのに」
「な…なんだおまえは!?」
名刺を見せられ、相手が死神だと知り板橋はただただ驚く。
「それより どうするんだい? あの子…」
「顔も見たくない もう会いたくない 殺してやりたい」
そう叫ぶ板橋を死神くんは落ち着かせた。
「彼女は たしかに久保川の生まれ変わりだが 関係は まったくない ふつうの女の子だ」
「あんたの娘になる人だぜ 過去のことはもう気にすんなよ」
「やかましい」
カア助の言葉を、板橋は突っぱねた。
「妻は交通事故で動けない体だったのだぞ それを あいつは… ゆるせん 絶対ゆるせん」
「あんたの奥さん 死ぬ予定だったんだよ オレの担当だったからよく知ってるよ 予定通りの死だったんだ 殺したやつをうらんじゃ
いけないね」
が、死神くんにそう聞かされても気持ちは治まらず、板橋はそんな話など聞きたくない、帰れと死神くんを怒鳴りつける。
死神くんは提案した。
「もう一度 会ってみたら どうだい?」
「もう あの女の顔は見たくない」
「彼女じゃなくて 彼だよ」
板橋ははっとした。
「殺人犯 久保川啓三に会って 話でもしてみたらどうだい? 相手の気持ちも知りたいだろう?」
と、みつおがドアをノックして入ってきた。様子がおかしかったので、心配して来たらしい。
「どうしたんだよ 今日は…?」
「みつお おまえ彼女が好きなのか?」
「う…うん まあね」
みつおは真っ赤になった。
「そうか それじゃ 明日またつれて来てくれないか」
「あ…ああ それより 久保川啓三って知ってる人なの?」
板橋はただ「赤の他人だ 彼女には言うな…」とだけ告げた。
翌日、再び研究室を訪ねてきた由樹子。板橋は早速、催眠術をかけ始めた。
「若返っていく あなたはどんどん若返っていく… 15歳 10歳 8歳」
外の天気は、彼の心の中を表したかのように、荒れ模様だった。
「さあ あなたは安田由樹子の前世の人間になりました あなたの名前は?」
由樹子は――その人物は、小さくうめくと答えた。
「久保川啓三だ…」
途端に、板橋の表情が険しくなり、ナイフを振りかざした! すかさず成り行きを見ていたカア助と死神くんが止めに入る。
「なにをする!!」
「バカなことはやめろ!!」
「殺してやる 妻の敵だ」
「この子は 安田由樹子という普通の女の子だよ」
「ちがう! 今のこいつは殺人犯の久保川啓三だ」
「うるさいな ここはいったいどこなんだ」
状況がまだ呑み込めていない久保川は、気だるそうにそうつぶやいた。が、
「なぜ妻を殺したんだ!?」
板橋の言葉に、顔色が変わった。
「あんた…まさか… あの奥さんの…」
久保川は板橋を見つめると、「す…すまねエ ゆるしてくれ」と詫びの言葉を口にした。
「ゆるしてくれるとは思っちゃいないが オレの話を聞いてくれ」
そして久保川は、事件の真相を語り始めた――。
久保川は、人に迷惑ばかりかけ、悪いことは何でもやって生きてきた。人生を投げ、盗みやかっぱらいでその日を生きているような男だった。
そんなある日、死神からもうすぐ死ぬと死の宣告を受けたが、何も感じなかった。ただ、残りの人生を楽しく生きてやろうとだけ思った。
そして、彼は板橋の家に盗みに入った。めぼしい物はないかとタンスを漁っていると……
「だれ? だれかいるの?」
隣の部屋から声が聞こえた。
とっさに久保川は小刀を出し、「や…やろう 静かにしやがれ!!」と襖を開けた。
が、そこで彼が見たのは、顔以外のほぼ全身に包帯が巻かれ、死人のような青い顔で床に伏せっている晴子の姿だった。そしてその後ろには、
死神(くん)が立っていた。
彼女は久保川に話し始めた。自分は交通事故に遭って全身麻痺となり、医者にも見放され、死を待つだけの身であると。そして次に
晴子の口から出た言葉に、久保川は唖然とした。
「こ…殺して」
晴子は真剣な眼差しで久保川を見つめた。
「おねがい わたしを殺して… これ以上 あの人の重荷になりたくないの 子どもを育てられないのよ こらえきれない痛みが全身を
走るのよ 苦しいのよ 早く楽にして」
久保川は何も言えず、その場に立ち尽くしていた。が、やがてゆっくりと彼女の首に手を伸ばした。
「人のためになることなんて 生まれてこのかた やったことのないオレだったが この人のためだと思い オレは…オレは…」
最初の人助けが人殺しだなんて!! ――そう皮肉に思いながらも、赤ん坊が泣き叫ぶ中久保川は首を絞め――晴子は、死んだ。最後に
愛する夫にこう言い残して。
「さようなら あなた… わたしは幸せでした 愛しています 愛しているからこそ あなたの迷惑にはなりたくなかった… さようなら
ありがとう」
話が終わり、沈黙が場を支配した。と、再び板橋がナイフを取り出した。
「よせ!」
「やめろ!!」
死神くんとカア助が腕を押さえようとしたが間に合わず――ナイフは久保川に向かって振り下ろされた!
「うわ〜〜っ」
が、ナイフが刺さったのは彼ではなく床だった。そして、思いも寄らない言葉が板橋の口から発せられた。
「ありがとう…」
久保川はもちろん、死神くん達も驚きに目をみはった。
板橋は語る。晴子はいつも苦しそうで、毎日のように彼にも「苦しい」「殺して」と訴えていた、と。だが妻を殺すなんて出来るわけがない、
と苦悩の日々を送っていた。結局苦しんでる妻に、自分は何もしてやれなかった。
「わたしがうらんでいるのは あんたではなく自分自身なんだ 死をのぞんでいた妻を 他人の手で死なせたことがくやしかったのだ
妻を楽にしてあげることができなかった自分が なさけなかったのだ」
板橋は、手で顔を覆った。
「あんた…」
久保川は涙を流す彼を、呆然と見つめた。
死神くんとカア助も笑顔になり、外もいつの間にか晴れている。
「ありがとう」
板橋はもう一度、礼を言った。
「妻の死に顔は とても安らかだったよ…」
やがて催眠状態から目覚め、久保川は由樹子に戻った。
「由樹子さん」
「あ…ハイ」
「うちの息子と 末長くつきあってやってくれ…」
笑顔で板橋に言われ、由樹子は戸惑った。
「あー スッキリした なんだか心のモヤモヤがふきとんだみたいよ」
みつおと二人で歩きながら、由樹子は笑顔で言った。
「それで わたしの前世の人はいったい だれだったの?」
「さあ おやじのやつ なにも言わないんだよな」
「へんなの」
「ただ… 人助けをしたりっぱな人だったと言ってたよ…」
死神くん、知ってたんなら最初から全部教えてやれよ。
自分が話しても納得しないと思ったから犯人呼び出すように勧めたんじゃない?
晴子が死を望んでいたことを板橋は知らなかったと思ってたみたいだし。
心霊研究所・・・・・なんかいやな職業だな。新倉イワオさんが働いてるのか?
内容は少し違うけど
菊地寛の「恩讐の彼方に」
みたいな話だ
> 予定通りの死だったんだ
> 殺したやつをうらんじゃ いけないね
今に始まったことじゃないが死神くんは
生きている人間に対してデリカシーがなさすぎる
霊界では予定通りでも殺したのは犯人の意思だろう。
妻を殺した相手をうらんじゃいけない道理はないよ、死神くん・・・
あれ?
晴子の後ろに死神くんがいるシーン、23年前のはずなのにカア助がいる…。
>>80 カア助が初登場した回から23年経ってたんだよ。説明がないだけで。
あれは先代カア助のカア之助だよ
仮に板橋が奥さんの願いを聞いて殺そうとしても、予定日前だったら死神くんに止められてたんだろうな・・・と思うとちょっと複雑。
*この号でFJ休刊
第59話 砂漠のナイチンゲールの巻
アフリカ××国難民キャンプ。
そこに来ていた死神くんとカア助は外が騒がしいのに気づいた。
見ると、カメラマンが看護婦の衣装を着たアイドルらしき女性が歌っているところを撮影していた。現地の人々は呆然と眺めている。
「日本から来た芸能人らしいな」
「ケッ どうも日本人ってのは節操がなくて いやだな」
「まったくだ ここにもうじき死ぬ人間がいるっていうのにな…」
そういう死神くんの下には、ガリガリに痩せ、ハエにたかられた小さな子供が寝ていた。
撮影が一段落し、休憩に入ったアイドルの育美は文句を言っていた。
「まったく! どうしてこんなアフリカでプロモーションビデオ 作らなくっちゃならないのよ アメリカかヨーロッパにしてほしかったわ」
「だって 今度の新曲が「感じて看護」という看護婦の歌なんだよ」
マネージャーが、ポスターを見せて説明した。
「それで衣装の方も看護婦スタイルになっているし」
「センスないわね」
「アフリカ難民に 手をさしのべる天使のような美少女という感じで やってくれと言う社長のお言葉だ」
「アホくさ〜っ」
育美はあきれたようにつぶやくと、近付いてきた子供達を「衣装が汚れるでしょ」と追い払った。マネージャーは育美をなだめるが、
彼女は「やってらんないわよ!」と不機嫌だ。
と、カメラマンが現地人の青年を連れてきた。彼はこの集落の偉い人で、一行に挨拶をしたいらしい。
「ドモ コニチハ」
青年はカタコトの日本語で挨拶した。彼は少し前にアフリカの大干ばつによる危機を伝えに日本にいたことがあるという。
「アノ時ハ イロイロ送ッテモライ タイヘン助カリマシタガ 今デハ ナニモシテモラエズ残念デス」
「前のことは みんな忘れちゃってるだろーな」
マネージャーが小声でカメラマンに囁いた。
そして再び撮影は再開。育美は指示通り、笑顔で青年に箱を渡した。中身はカンパンやビスケットなどの援助物資。
青年は笑顔で「アリガトウ ミンナヨロコブ…」とお礼を言った。子供達もその周りに集まって大喜びする。が、育美は不思議そうな表情。
「あんなもので喜ぶなんて! きれいなドレスやおいしい物食べた方が幸福よ」
と、子供達が育美を指差して何か言っている。青年曰く、彼女の事をナイチンゲールのようだと言っているらしい。
「ナイチンゲール……ってなに?」
そんな彼女に目を点にしつつも青年は説明する。
「ナイチンゲールハ オ金持ちノ裕福ナ家庭ニ生マレマシタガ ソノ一生ヲ病人ノ看護ニツクシタ人デス 昔 看護婦ナドト言ウモノハナク
病人ノ世話ヲスルノハイヤシイ身分ノ人ガスル仕事ト サレテイマシタ」
感心する育美。子供達は世界中から送られた絵本を読み聞かせてもらっているので、ナイチンゲールの事を知っているのだ。
「このわたしが 本物の看護婦に見えるっていうの? おっかし〜〜っ」
育美は笑った。が、相変わらず不機嫌そうに「早く撮影終わらせて さっさと帰りましょ!」とスタッフに言い放つ。
次は子供達と仲良く遊ぶカットの撮影。育美は笑顔で子供達に接するが、やはり内心は(暑くて不衛生なところねえ 毎日オフロ入ってるの?)
と文句たらたらだ。
と、背後の家が騒がしくなった。子供が亡くなったらしい。するとマネージャーはチャンスとばかりにその子どもの手をとって涙する
カットを入れようと言い出した。
「ジョーダンじゃないわ やめてよ そんなの!!」
育美は泣いて拒絶するが、結局撮影は行われた。
「ハイ 泣いてー」
「ホントに泣けてきちゃったわよ!!」
その様子を、上から死神くん達が見ていた。
さすがに怒って、アイドルをやめると言い出す育美。だが最後のカットの撮影だと聞き元気になる。子供達と一緒に気球に乗り、
空高く飛び立っていくカットだ。気球には育美とマネージャー、そして子供が三人と青年が乗った。と、老人達が空を指差し
何かを言っている。
「空ガ荒レルカラ ヤメタ方ガイイト…」
青年は伝えるが、マネージャーはすぐ終わるから大丈夫、と気球を飛び立たせてしまう。浮かび上がる気球を見て、地上の子供達は
大はしゃぎした。カメラマンもいい絵が撮れた、とご満悦。その時、急に強い風が吹き始めた。
「マネージャー なに? あれ」
育美が指差した先には……何と竜巻が! あっという間に気球は竜巻に巻き込まれてしまう。
「育美ちゃん!」
「大変だ!」
地上でスタッフが大さわぎする中、気球は遥か遠くまで運ばれて行き……なぜかその後を、死神くん達が追っていた。
しばらくして、育美は意識を取り戻した。そこはサバンナのど真ん中。ひとまず近くに倒れていたマネージャーを助け起こし、無事を
確認しあうが……なんと子供達の一人が、壊れた気球の下敷きになって死んでいた。とりあえずマネージャーは青年に「帰り道わかる?」と
尋ねると、彼は持っていた槍で方角を指し示した。ここは彼に従って、集落まで歩いていく事に。
強烈なサバンナの日差しに照らされ、喉が渇いた育美は水筒の水を飲もうとするが「水ハ飲マナイ方ガイイ カエッテ疲レル」と青年は止める。
が、育美は「うるさいわね! 日本人は水がなきゃ生きていけないのよ!!」と言い、構わず水を飲んだ。
と、青年が二人の子供のうち男の子の方を木に寄りかからせ、そのまま出発しようとした。
「あれ? なに この子 おいて行く気?」
「ソノ子ハモウ死ヌ」
驚く育美に、青年はこの子が死神に会ったと言ってると伝える。育美は元気を出させようと水をあげようとするが、青年に水筒を
取り上げられた。
「ヤメロ 水ガモッタイナイ」
「な…なにすんのよ!!」
構わず青年は歩き出した。
「ちょっと 水返してよ」
「サワグト疲レル」
「そんなこと 言ってる場合じゃないでしょ」
そして一行が完全に見えなくなると……男の子の前に、死神くん達が現れた。
やがて夜になってしまい、寒さに震えるマネージャーと育美。すると青年が「コレ着ル 少シハアッタカイ」と布を差し出した。
「あ…あなたたちは?」
育美が尋ねると、青年は女の子と寄り添って、焚き火の側に座った。
「火ノ近クデアッタカイ ワタシ 火ノ見ハリスル…」
思わずマネージャーは(キザなやつ…)と心の中でつぶやいた。
「くっさ〜〜っ」
「センタクしてあんのかよ」
文句を言いつつ布を被る二人。
「あの子 どうなったかしら」
心配そうに言う育美に「死んだに決まってるよ」とマネージャーは言った。
「オレたちに責任はないよ 殺したのはあいつだ!」
やがてうとうとし始める育美。と、カラスを帽子に乗せた子供が女の子を見つめているのに気づく。が、寝ぼけていた育美は気のせいだと思い
そのまま寝た。
(オナカすいた〜っ 帰りたい〜〜っ)
翌日。歩いている一行の前に蛇が現れた。悲鳴を上げる育美たちの前で青年はあっさり槍で蛇を殺すと、焚き火で焼き始めた。
「まさか これを食べるって言うんじゃ…」
「みごとなランチだね…」
と二人が苦笑いしていると、何と青年は「ドウゾ」と二人に蛇を勧めてきた。当然拒絶する二人。
「ジョーダン言わないでよ こんなの食べれるわけないでしょ!!」
「なに考えてんだキミィ!!」
が、青年は険しい顔で「食ワナケレバ死ンデシマウ 食エ!」と二人に向かって槍を向ける。その迫力に負け、二人は仕方なく
ものすごい勢いで蛇を食べた。
「食べたわよ これでいいの!?」
「ごちそうさま!!」
それを見届けると、青年は「行コウ」と再び歩き出す。その時、彼のお腹が派手な音を立てて鳴った。
すっかり疲れきり、棒切れを杖代わりに歩く育美とマネージャー。マネージャーは水を飲ませてくれるよう育美に頼むが、
残り少ないからと断られる。
「ちぇっ 自分が一番飲んだくせに」
「うるさいわね!」
と、青年の隣を歩いていた女の子がいきなり倒れた。青年は「コノ子モ モウスグ死ヌ…」と言う。
「コノ子モ 死神ヲ見タト…」
――育美の脳裏に、夕べの光景が浮かんだ。
「そんな うそよ! 死なないで!! ほら 水 飲みなさい!!」
育美が水筒を渡すと、女の子は笑顔になり、
「アリガト… ナイチンゲール…」そして意識を失った。
育美は慌てて水を飲ませようとするが、
「むだだ」
「やめな」
夕べ見た子供――死神くんとカア助が姿を見せ、止めた。
(死神!?)
「そうだ あんたが飲みな この子には もう必要ない」
「この子も それをのぞんでいる」
「この子のかわりに あんたが 生きのびるんだ」
呆然とする育美の前で死神くんは姿を消し――女の子は、息絶えた。
仕方なく再び歩き出そうとするが、なぜか青年が女の子の遺体の側から離れようとしない。
「おーい どうしたんだ 早く 行くぞー」
マネージャーが呼びかけると、青年は涙をぬぐい、こちらを向いて言った。
「アノ子ハ… ワタシノ妹デス」
二人は驚きのあまり、唖然とした。
その晩。育美は火の番をしている青年が泣いているのに気づくと、隣に寄り添い、自分の布をかけてやった。
相変わらず照りつける太陽。
「み…水…」
「水なんてもうとっくにないわよ!!」
育美があきれながら答えたその時、とうとう青年も倒れてしまった。
「おまえまで死んだら オレたちは どうなるんだよ!?」
「えんぎでもないこと言わないでよ!!」
すぐに駆け寄り、青年を助け起こそうとして、育美はその体が異様に軽い事に気づいた。そういえば、彼も他の子供達も
自分達と一緒にいる間は一滴も水を飲まなかった。食事も自分達だけにしか出さなかったし、火の見張りで一睡もしていない。
「どうしてなの!? どうして わたしたちにそうつくすの!?」
泣きながら育美が尋ねると、青年はうつろな目で、言った。
「ワタシタチノ国ハ貧シイ ワタシタチガ 生キ残ッテモ 国ヲ助ケルコトハ デキナイ デモ日本ハ オ金持チデ豊カナ国
アナタタチガ生キ残ッテクレレバ ワタシタチノ国ヲ救ッテクレルダロウ ワタシノ国ヲ助ケテホシイ…」
「バカ! そんな…そんなこと!」
育美は彼をしっかりと抱きしめた。
「死なないで!! わたしたちのためにこれ以上 苦しまないで」
その時、遠くから「オーイ」と呼びかける声が。マネージャーがそちらを見ると、スタッフの皆や集落の人々がこちらに向かっていた。
助けが来たのだ。
「水! 水を早く!!」
育美は水筒を受け取ると、すぐに青年に飲ませようとした。が、全く反応しない。もう水を飲む体力も残っていないのだ。
「飲んで! 飲まなきゃだめよ 死んじゃだめ!!」
呼びかけるが、やはり反応はなく……育美は思い切って、水を口に含み口移しで彼に飲ませた。
(育美ちゃんのキス…)
突然の事に、スタッフも呆然。が、彼はついに水を飲み……目を開けた!
育美は安堵の笑みを浮かべ、子供達も大喜びで歓声を上げた。
そして育美がアフリカから発つ日。そこには心からの笑顔で皆に手を振る育美の姿があった。
(さよなら アフリカ… また来るわ きっと必ず)
バスに乗り込んだ彼女に皆が手を振り返した。その中には青年の姿もあった。
(あなたたちのために わたしはナイチンゲールになりましょう 日本のみんなにつたえましょう もっと援助を!)
そして、木の上から死神くんが見ているのに気がつくと、育美はそちらにも手を振り、
(死神さんの仕事を ヒマにしてあげるわ)死神くんも、手を振り返した。
「いい勉強になったな 少し大人になったようだ」
一行が去った後、死神くんはつぶやいた。
「おぼえておくがいい 世界にはいろんな人がいる… 幸福に暮らしている人がいれば 不幸な人もいる」
「手術で命を救われる人もいれば 医者がいない所で死ぬ者もいる」
「しかし 命の重さはだれでも同じ 軽く考えちゃいけない… 命の尊さにかわりはないんだ」
いくらマロンでもこんな酷いスレはないわー
気球飛ばしを強行したマネージャーが悪いよなあ・・
いい話…なんだろうけど重いな…
最後の死神くんの言葉が重いな
「感じて看護」…ダサすぎるぜ
うーむ、後味の悪さがなあ
>>91 死神くんが見えてたって事はあの子達は気球飛ばさなくても死ぬ運命だったのでは
*この回からMJに移籍
第60話 日本一の家族の巻
夜の電車内で、少年・源太が周りの様子を窺っていた。やがて新聞を読んでいる中年男性に気づき、持っていた「刑事リスト」を
確認すると……
(ヤバイ 刑事だ)その男の顔が、リストの中にあった。
(父ちゃんに知らせないと!)
その頃、隣の車両では彼の父親・源三が酔って倒れそうな男を支えてやっていた。が、もちろんそれはフリで、源三は男の懐に手を
伸ばす……が、源太がこちらに向かってアカンベーをしているのに気づいた。刑事がいるという合図だ。慌てて彼は手を引っ込めた。
電車を降り、成果がなかったことを残念がる父に「しかたないよ」と源太。そこへ、先程の刑事が声をかけてきた。
「源三 元気でやってるか?」
「刑事さん…」
「最近 スリが多くてな…」
「ハ…ハハ おれも気をつけなきゃ」
「子供を使ってんのか?」
「何をいってるんです あっしは何もしてないですよ」
源三は冷や汗を流しながらも、そう言って豪快に笑った。
「フン お前のうわさはよくきくぜ 一度もつかまったことのない子連れスリ… 現行犯で必ずつかまえてやるからな」
「いやなやつ!」
源太は去っていく刑事の背中に向かって、アカンベーをした。
その帰り道。二人は酔って道端で寝ている男を見つけた。
「オイオイ あんただいじょうぶかい?」
「タクシー呼んであげるよ」
二人は男を抱き起こすと、介抱するふりをして背広のポケットなどを探った。そして呼んだタクシーに男を乗せて帰らせると……
しっかりスッた財布から現金を抜き出し、笑いあった。
「おれも いつまでも こんな仕事 してらんねェよなァ…」
源太の寝顔を見て酒を飲みながら、源三はつぶやいた。と、腹部に鋭い痛みが走る。
「ちくしょう ハラがちくちく痛みやがる…」
すると、
「早く病院にいきな」背後から声がした。
振り向くと、山高帽の上にカラスを乗せた、スーツ姿の子供――死神くんとカア助がいた。
「な…何だ 何者だ!?」
驚く源三に、死神くんは名刺を見せた。
霊界行政機関霊魂取扱官庁
死神 No.413
霊界三―六B
(13)4444
相手が死神だと知り「おれは死ぬのか?」と尋ねる源三に、死神くんは言う。
「今の状態では 病気になって確実に死ぬ…そう あと3年だ」
「3年!?」
源三は目の玉が飛び出るほど驚いた。
「だから 病院へ行って入院しな そうすればもっと生きられる」と忠告する死神くん。彼の考え次第で、死亡予定日が決まるのだ。
「いいか 今 病院にいかないと3年後に死ぬんだぞ どうするんだい?」
源三は、寝ている源太の姿をちらりと見た。
「子供が心配か? 母親がいるだろ?」
「! な…なぜそれを!?」
「あんたのことは すべて調査ずみだよ」
翌日。源太は死神くん達と一緒にバスに乗っていた。
「なあ いったいどこへいくんだよ」
「おまえの父さんにたのまれたんだよ」
「何を?」
「母親さがしだよ」
その言葉に「おれには母ちゃんがいたのか!?」と驚く源太。
「だれにでもいるもんだよ」
「知らなかった」
と、源太の目の前に、鞄から財布をはみ出させて寝ているおばさんがいた。早速源太は「いいカモだ」と財布をスろうとするが
死神くん達に止められる。
「おれも父ちゃんみたいに 日本一のスリになるんだ」
「バカなこと考えるなよ」
そして源太は、死神くんが探し当てたアパートに連れてこられた。教えられた部屋のチャイムを押すと……「ハーイ」女の人が出て来た。
彼女は源太を見て怪訝そうな顔をしたが、
「あ…あの おれ 竹田源三の息子で 源太と申します」そうお辞儀をする彼に、思わず驚きの声を上げた。そして源太は、父親に
渡すようにと頼まれていた手紙を母に渡す。そこにはただ一言「この子をたのむ 源三」と書かれていた。
ひとまず家に上げられ、食事を食べさせてもらう源太。そのものすごい食べっぷりに母も、そして隣の源太の妹らしき女の子も唖然とする。
「お父さんは元気? 今 どんな仕事してるの?」
母にそう訊かれて、源太は元気よく答えた。
「ハイ 父ちゃんは日本一のスリです!!」
二人はあきれた。
「まったく…… あの人は……」
母は源太に自分と源三がもう離婚していることを告げる。
「わかる? あの人とは夫婦じゃないし… わたしは今 あなたのお母さんじゃないの」
一人家に残った源三は医者に行くのかを死神くんに尋ねられ「ケッ バーカ 医者にいく金なんかあるもんか」と言った。
「それじゃ……」
「ああ そうだ もう この世に未練はねェ 死ぬつもりだ」
源三は酒をあおった。
「だから息子をあずけたんだ 幸せになってほしい…」
母は結婚していた時のことを話し始めた。
源三はいつも気まぐれで、ずっと勤めていた会社をあっさりやめて会社を興したものの、何の計画も立てずにやったものが成功するはずも
なく、すぐ倒産した。借金だけが残り、彼は毎日酒を飲み、ギャンブルばかりやるようになってしまった。
そして源三の方から、「おれといっしょにいると不幸になる」と別れ話を切り出してきたのだ。彼の自分勝手な行動についていけなくなっていた
彼女はそれを受け入れ、源三が源太を、彼女が妹の幸子を引き取って育てることになった。
「おぼえてる?」と訊かれるが、幸子のことは覚えてなかった源太は苦笑い。が、父の手紙の中身を見せられ「あんたは今日からここで
暮らすのよ」と言われ、源太は「父ちゃんといっしょでなきゃ いやだ」とそれを拒む。母も負けじと源太を説得し始めた。
「あの人といっしょにいたらダメな人間になるわ まともな仕事についているかと思ったらスリですって? それはりっぱな犯罪よ!!」
「そーよ そーよ」
幸子も同調する。
「わたしと同じであなたも捨てられたのよ ここで暮らすのがあなたのためなのよ あの人からはなれた方がいいのよ!! 父親みたいに
なっちゃだめよ」
「そーよ そーよ」
源太は黙って話を聞いていたが、ついに我慢できなくなり「うるせー」と叫んだ。
「父ちゃんの悪口いうな!! 金持ちから金とってどこが悪いんだ!! 父ちゃんは 毎日危ない目にあいながらオイラを育ててくれたんだ」
源太の目には、涙が滲んでいた。
「オイラのためにいっしょけんめいだったんだ!! オイラの父ちゃんは日本一だぞ!!」
そして彼は、あっけにとられる母と幸子を尻目に「こんな家なんかにいてやるもんか!!」と部屋を飛び出した。
「おれは父ちゃんみたいに日本一のスリになってやる お前なんか日本一最低の母ちゃんだ」
母はしばらく呆然としていたが、幸子の頭を抱き、つぶやいた。
「あの人でも 尊敬されるようになったんだねェ…」
父の元へ向かう源太の前に、死神くん達が姿を見せた。
「家に帰るのかい?」
「ああ そうだよ」
「それじゃ父親にいい聞かせてほしい」
「何を?」
「病院にいけと…」
驚きのあまり、源太は足を止めた。
「病院……?」
死神くんから全てを聞いた源太は、家に帰るとすぐ病院に行って、と源三に頼むが、彼は「バカタレ そんな金なんかねェ! 保険も
入ってないんだぞ」と苦い顔をする。すると、「金はオイラがなんとかするよ」と源太は言った。
「今度はオイラが父ちゃんのために働くんだ! 父ちゃんと同じ仕事を」
「源太…」
「だから だから父ちゃん………」
源太の必死な様子に、源三は何かを決意した。
源太は早速、仕事をするべく電車に乗り込んだ。カモはいないかと辺りを見回していると……母と幸子がいた。しかもわざとらしく
財布が鞄からはみ出している。
(ふざけやがって よーし見てろ 母ちゃんから金をすってやる…)
が、その車両にはいつかの刑事も乗っていた。それに気づかず、母に近づいて行く源太。その時、電車が急ブレーキをかけた。
源太はその勢いを利用して母に体当たりし、鞄から落ちた財布を取ろうとしたが――それに気づいた刑事が手をつかんで止めた……
と思いきや、彼が掴んだのは源三の手だった。
「父ちゃん!!」
「あんた!!」
突然のことに源太も母も驚く。
「ヘッヘッヘッ ドジふんじまったな… 刑事が目の前にいるのも気づかずスッちまった スリとしちゃあ失格だあ!」
源三は大笑いした。
「ちがう 父ちゃんじゃないおれだよ」
そう言う源太を「子供のスリなんかいるもんか!」と源三は殴り、言った。
「いいかボウズ スリなんて人間のやるこっちゃねェ りっぱな犯罪だぞ 二度とこんなバカなことはするな! まともな人間になれ!!
父ちゃんよりりっぱになれ!!」
源太の目から、一粒の涙が流れた。
「さ…刑事さん」
笑顔で手を差し出す源三を見て、刑事は告げた。
「竹田源三 スリの現行犯だ!!」
それを聞いて源太は大声で泣き出し、刑事に「父ちゃんをはなせーっ」「悪いのはおれだーっ」とまとわりつき、源三を連れて行かせまいと
必死で抵抗する。
すると、それまで黙って成り行きを見守っていた母が、落ちた財布を拾うと「ありがとう サイフをひろおうとしたのね」と源太に
お礼を言った。
「いえ奥さんちがいますよ サイフをスラれたんですよ」
刑事は言うが、母は笑顔で「いえちがいます この子がわたしのサイフをとろうとしただけですよ」と答える。
「奥さん何をいっているのです こいつはスリの常習犯で…」
母は笑って、刑事の言葉を遮ると、言った。
「刑事さんこの子はわたしの息子です そしてこの人はわたしの夫です 夫婦 親子の関係にあるのに そんなことするはずないでしょう」
いつしか彼女は泣いていた。
「母ちゃん…」
「おまえ…」
これには刑事もあきらめるしかなかった。
二人が住んでいる家に来た母と幸子は、あまりの部屋の汚さに部屋の掃除を始めた。そして酒を飲もうとしている源三を母は「あんた酒は
いいかげんにしなさい!」と叱る。
「明日にでも引越しするからね」
その言葉に、源三は驚きに声を上げた。
「引越し……? それじゃ おまえ…」
すると、母は紙を丸めたものに火をつけた。
「何で火をつけてんだ?」
「10年前の離婚届よ 役所にださず ず――っと持っていたの だからあなたとわたしはず――っと夫婦のままよ」
源三の口から、くわえていた煙草が落ちた。
「またいっしょに暮らせるんじゃないかって思ってた その方がいいものね 子供のためにも… わたしたちのためにも…」
「ああ……」
源三の目から、涙が零れ落ちた。それを見て源太と幸子も「オイラの母ちゃんは日本一だァ!!」「そうだァ」と元気よく笑った。
「明日病院にいきなさいよ!!」
「わかってるよォ」
その様子を見ながら、死神くん達も「カカア天下の方が、うまくいってんなー」と笑うのだった。
霊界の住所って・・・・
源三は病院行ってあと何年生きられんのかな?
>あの人でも 尊敬されるようになったんだねェ…
いや、尊敬のされ方が間違っとるだろw
源三はともかく、母親はよくタイミング合わせて同じ電車に乗れたな。
竹田源三…
むすめどろぼうの回のおっさんと同じ名前じゃね?
ホントだw
まあ現実同姓同名の人がいてもおかしくないわけだが
第61話 老刑事の犯罪者学の巻
ある日、白崎警察署に一本の電話がかかってきた。ベテラン老刑事がそれをとると……なんと時限爆弾を仕掛けた、という犯行予告だった。
「あと一時間で爆発する 場所は日の出遊園地だ 大ぜいの罪のない人が死ぬことになる サンプルを作って裏口のゴミ箱の中へいれておいた
ウソだと思うんなら調べてみるんだな」
「おい 本当か!? きさまはだれだ!?」
だが、そこで電話は切れてしまう。すぐに警官達は、ゴミ箱を調べに向かった。
その頃、日の出遊園地の電話ボックスから学生服を着た少年が出て来た。そこへ死神くんたちが現れ「本当にやるつもりか?」と問う。
「そうだよ 死神くん」
「自分のやってることがわかっているのか?」
が、彼は黙ったまま何も言わない。
「おい!」
すると少年はボタンがついた箱を取り出して見せた。それは爆破スイッチで、いつでも爆弾を爆発させる事ができるのだ。仕方なく引き下がる
二人だが、
(てめーこのやろ お前のやってることは殺人だぞ!)
(何考えてやがんだよ)
と心の中で叫んだ。
「ちくしょう 爆弾のとめ方はわかんないし おれたち死神は直接手は出せない事になっているし 特に霊界カラスが見はり役についてからは
きびしくなった」
死神くんに非難の眼差しで見つめられ、カア助は気まずそうに目をそらした。
一方警察では、犯人の言葉通りサンプルが見つかった。繋がれていたのはダイナマイトではなく新聞を丸めたものだったが、時限装置は
きちんとしたものだった。老刑事の指示で、警官達は皆日の出遊園地へ向かった。
「まったく… とんでもないことになったもんだ… いたずらですんでくれればいいんだが…」
そういってトイレに入った老刑事に、
「いたずらじゃすまないよ」いきなり何者かが話しかけた。振り返るとそこにいたのは死神くんとカア助。
驚く彼に自分は死神だと説明し「あんたえらい人なんだろ? たのむよ 犯人を説得してほしい」と死神くんは頼む。
「犯人がわかっているのか?」
「ああ 犯人は島田修二 白崎高校二年 家は飲食店を経営…」
死神くんは犯人の少年の写真を老刑事に見せた。
「犯人については 何でも知っている さあ早く!」
「そうか」
老刑事は早速遊園地へ向かう、のかと思いきや、島田が通っている高校へ行った。
「おいおい学校じゃなく 早く遊園地へ行ってくれよ」
が、彼は構わず「どんなやつか知っておかないとな」と、ちょうど宿直で学校にいた、島田の担任の寺岡に会いに行った。
寺岡によると、島田は大人しく目立たない子だが頭が良く、彼が顧問の化学部の部長でもあるという。彼ならニトログリセリンの作り方も
知っているだろうし、それを利用してダイナマイトを作ることも時限装置も簡単に作れるはず。
「しかし彼が そんな大それたことを…」
寺岡は頭を抱えた。
「思いあたるふしは何もありません…」
老刑事はクラスの名簿を見せてくれるよう、寺岡に頼んだ。
名簿を見ながらまた別の場所に向かおうとしている刑事に「何やってんだよ 早く遊園地に行ってやつを説得してくれよ〜〜っ」と死神くん。
が、「じゃかぁしい おれのやり方に口出しすんじゃねえ!!」と彼にぶっ飛ばされた。
「犯人の下調べを十分にやっておかなくちゃだめなんだよ!」
次に老刑事が訪ねたのは級長の佐山の家。だが佐山は島田のことは余りよく知らないという。
「めだたないし 口きいたこともないし あいつ 友だちいないんじゃないかな」
今度は繁華街で遊んでいる同級生達に聞き込みをした。
「島田?」
「そんなやついたっけ?」
「あの おとなしいやつだろ?」
「仲のいい友だちはいないのか?」
刑事に訊かれ、彼等は「いないいない」と即答した。
次に聞き込みしたのは同級生の少女達。
「島田くん?」
「知らない」
「あいつ暗いもん」
「紀子 あんた幼なじみじゃない?」
そう訊かれてショートカットの少女が「う…うん」と頷いた。
「幼なじみか」老刑事は言った。「彼について 何か知っていることがあれば…」
「…………………… 最近わたしをさけているような感じで…」
「どうだ 犯人がどんなやつか わかってきただろう!?」
老刑事は言うが、死神くんは「時間がないんだよ〜〜っ」とやきもきする。
そして最後に行ったのは、島田の家の中華料理屋。
話を聞いた両親は驚きに目を見開いた。
「そんな…」
「大それたことを…」
「最近いそがしくて全然かまってやれなくて」
「そういや 話することもないな… 部屋に閉じこもって何か作っているような感じはしたのですが」
「まさかそんなことを…」
「早くしろよ あと20分しかないじゃないか!!」
島田の家を後にした老刑事を死神くんがそう言って急き立てた。
「犯人はすでにわかっているんだ ムダな時間をくってしまったぞ!!」
「まったくだ!!」
カア助も同意する。が、再び「口出しすんなっていってあんだろ このタコ!!」と彼に殴られてしまった。
「犯人がわかってんなら てめーが説得してみりゃいいだろが!?」
「それができないから あんたに たのんだんだ」
「これが おれのやり方だ! 自身はねえがやってみるよ」
そしてようやく老刑事は日の出遊園地に着き、ベンチに座っていた島田を見つけた。
「死神から話はきいている お前を説得しにきた刑事だ」
島田は、脅すように爆破スイッチを取り出し、指をかけてみせた。が、刑事は気にせず島田から少し離れた所に座った。
「あと15分か」
老刑事は時計を見ながらつぶやいた。今日は日曜日で遊園地は大入り。爆弾が仕掛けられたことを知ったら、皆パニックになり怪我人が
多く出るだろう。
「そうならないよう 百人以上の捜査員が必死に爆弾をさがしている お前ひとりのせいでな どうだ おもしろいか?」
島田は答えなかった。
「なぜこんなことをした 目的は何だ?」
やはり何も言わない島田。
「どうした 何かいってみろ」
爆破までは後十分だ。
「お前のこと 調べさせてもらったぜ 勉強のできる優等生 化学部の部長で 担任の寺岡先生も鼻が高いといっていた しかし
その反面口ベタでおとなしく 友だちがひとりもいない めだたないやつ! 同級生でお前を知らないやつもいたぞ」
「うるさい!!」
ついに島田が口を開いた。
「そうだよ おれは暗くてめだたなくて いてもいなくてもわからない生徒だよ!! いつも化学室にとじこもって時間をつぶしている生徒だよ」
「やっと口をひらいてくれたか」
老刑事は動機を尋ねるが、島田は「べつに…」と答えた。
「ただ でかいことがやりたかったんだ おれはこんなでかいことをやったんだぞって 知ってほしいんだ」
それを聞いて「そんなことをしてまで めだちたいのか」「親や先生が悲しむぞ」と死神くんとカア助は言うが、島田は「親なんて おれの
こと何とも思っちゃいないよ 先生だって おれひとりにかまってくれるわけじゃないし…」と冷めた返事。が、
「幼なじみの紀子ちゃんが さみしがっていたぞ」
老刑事のその言葉に、初めて笑顔を見せた。そして昔から彼女が好きだったことを告白する。だがある日、彼は紀子がプレイボーイの近藤から
手紙を受け取っているところを見てしまい、ショックを受ける。
「それで やけくそになって こんなことをしたのか?」
「そうだ その通りだよ やけくそだよ」
島田は立ち上がった。
「おれだってみんなと話もしたいし遊びたい アイドルの話をしてさわいでみたい 女の子にキャーキャーいわれたいし デートもして
みたかったんだ でも だれもおれのことなんか気にもとめなかった だから だから でかいことをやって みんなをおどろかそうと
思ったんだ 島田修二はこんなことをやったんだぞーって!! わかったか! わかったらこんな所でのんびりしてないで 早く爆弾を
さがせよ!!」
しかし、老刑事は静かに立ち上がると、言った。
「いや… 爆弾は近くにある」
驚く島田。
「お前はめだたなくて口ベタな生徒だ しかしおれの前ですべてを話した いいたいことをすべていった 自分の考えをさらけだした
紀子ちゃんが好きだともいった おとなしくて口ベタな少年が そうカンタンにいえるもんじゃない お前は死ぬつもりでいったんだ」
その言葉に、死神くん達も驚いた。
「お前は自殺するつもりだったんだ!!」
爆破まで後三分。
「死ぬつもりだったから やけくそで 何でもいうことができた つまり… 時限爆弾は お前そのものだ!!」
島田は黙っていたが、やがて「へ…へへへ 見事だ刑事さん その通りさ」と認めた。
「どうする? 早く逃げないとあんたも死ぬぜ」
が、老刑事は「お前のまわりを見てみろ」と島田に言う。「目をこらして よーく見てみるんだ」
島田がその通りにすると……寺岡と両親がいた。さらに同級生も、紀子も、皆がいつの間にか周りに集まっている。老刑事が呼んだのだ。
そして後二分というところで、彼はハンカチを振った。
「な…何をした!?」
「おれが合図を送ったら みんな集合するようにいってあるんだ」
その言葉通り、皆ゆっくりと島田に向かって近付いてくる。
「どうする!? みんなを殺すつもりか!? 両親を殺すつもりか!? 先生を! クラスメートを 紀子ちゃんを殺すつもりか!?」
「そうだそうだ」
死神くんも説得に加わった。爆発まで後一分。
「早く爆破装置をとめろ! みんな死ぬぞ!!」
「お前のためにみんな死ぬぞ!!」
島田はうめき、その場に膝をついて叫んだ。
「やめろ やめてくれ くるな! こないでくれぇ!」
「とめろ みんなお前のことが心配で きてくれたんだぞ そんな人を殺すつもりか!? みんな友だちだ お前がみんなの中にはいっていけば
仲よくなれるんだ」
「そうさ カンタンなことだ」
「死ぬ気になって おれにすべてを話してくれたじゃないか!」
「そうだ お前は口ベタでも暗くもない 普通の少年だよ」
もう皆がすぐそこまで来ている。
「早くとめろ みんな死ぬぞ」
と、いきなり島田が立ち上がり学生服の前をはだけた。その裏には大量のダイナマイトと時限装置が。そして彼は、スイッチを取り出し――
「ゲッ それは!?」
「わ――っ」
「バカヤロウ!」
ついにボタンを押した……が、何も起こらなかった。実は爆破スイッチではなく、時限装置を停止させるためのスイッチだったのだ。
刑事も死神くん達も、思わず力が抜けてその場にへたり込んだ。
やがて、同級生達が島田に声をかけ始めた。
「島田 どうしたんだ?」
「何かあったのか?」
「どうしたの?」
「刑事さんが自殺するかもしれないっていうから びっくりしたぜ」
「大丈夫そうじゃん」
「おめー大それたこと考えてんな」
「悩みでもあったの?」
「もう解決したのか?
島田は戸惑いつつ「べ…別に」と答えた。
「何があったのか知らないけど 気にすんなよ」
「そうそう」
「近藤を見てみろよ 紀子ちゃんにラブレターわたしてフラれてやんの」
「うるせー」
思わず紀子の方を見る島田。
「島田 もう大丈夫なのか?」
「先生!」
「修二…」
「父さん…仕事は…」
「バカヤロ 息子の一大事に仕事なんかしてられっか!!」
父親は島田の頭を叩いた。死神くんとカア助もようやく笑顔になり、島田は嗚咽を漏らした。そして立ち上がり、老刑事に自分を捕まえるよう
頼もうとするが……
「バーカ」再び頭を叩かれ「みんなのいる前で逮捕なんかできるかよ!」と小声で言われた。
「あとで自首しろ そうすりゃ罪も軽くなる」
そして老刑事は皆に向かって言った。
「さあみんな 遊園地は何をする所かな!?」
「何をするって…?」
「遊ぶところにきまっているだろ!」
その言葉に皆歓声を上げ、一斉に遊びにいった。
「ホラ お前も行け!」
死神くんに背中を押され、島田もその中に加わるが、
「やっぴー ジェットコースターのろうぜ イエーイ」
無理して明るく振舞う姿は、まだ違和感ありありだった……。
「とりあえず事件解決だ 死神とやら 礼をいうぜ」
「礼をいうのはこっちの方さ いろいろ勉強になったよ 犯罪者のあつかい方は やっぱりあんたの方が上だ」
「助かったよ」
そして死神くんとカア助は、霊界へ帰っていった。
自首すれば罪は軽いったってなあ・・・
未成年で、爆発は未遂だけど、この場合ネンショーにどれくらい入ることになるんだ?
刑事さんが愛の時効に出てきた長さんそっくりだな
死神くんのこと知らないから別人だろうけど
近藤君カワイソス
第62話 本当の自分の巻
とあるビルの屋上に、学生服姿の少年が立っていた。
(おれは死に場所を求めて ここへきた もうなにもかも いやになっていた)
と、
「ヨウ あんた夏谷正美さんだね?」
いきなり背後から声がし、振り返ると山高帽の上にカラスを乗せたスーツ姿の子供――死神くんとカア助がいた。
「ここんとこいそがしくて 長話もできないんだ てっとり早くいおう あんたあと一週間の命だ」
渡された名刺を見て、相手が死神だということに驚きを隠せない少年。そして本当に忙しいらしく、死神くんは「残りの一週間 有意義に
生きるんだな んじゃ また一週間後にな!」と告げるとさっさとその場から立ち去った。
が、少年は「なにかのまちがいだ」と名刺を捨てる。それもその筈、彼の名前は「夏谷正美」ではなく「東(あずま)進一」なのだ。
「一週間後に死ぬだって!? おれは今 死ぬんだよ!」
進一は柵を乗り越えようとしたが、いきなり誰かが飛びついてそれを止めた。
「な…なんだ!?」
「なにやってんだ おまえ!?」
「は…はなせ!!」
「バカなことはやめろ!!」
次の瞬間、進一はバランスを崩してひっくり返り、額を思い切り打ってしまった。
痛がる進一に止めた人物が「だいじょうぶか!?」と声をかけるが……二人はお互いの顔を見て、絶句した。
「あ…」
「お…おまえ…」
まるで鏡でも見ているかのように、二人はそっくりだったのだ。
「いやあ びっくりしたよ おれとそっくりな人間がいるなんて」
進一はそのそっくりな青年と二人で、繁華街を歩いていた。
「自殺するつもりだったのか? バカなこと考えるなよ 生きてりゃいいことあるさ 今日みたいにおもしろいことにであったりしてさ
おれの名前は夏谷正美っていうんだ おまえは?」
進一は驚いた。さっきの死神は、自分を彼と間違えたのだ。
(あと一週間の命……? この男が……!?)
「ヨォ 名前は?」
「あ…おれ…東 進一」
進一は慌てて答えた。
進一はそのまま、正美のアパートへ招かれた。自殺しようとした理由を訊かれ、進一は語る。
彼には三人兄がいて、皆一流大学へ行っている。親は新一にも絶対大学に行けと行ったが、彼は勉強以外のことをやりたかった。
でも親は解ってくれず、皆の期待やプレッシャーもあって入試はめちゃくちゃだった。進一はもう家には帰れない、と歩き回っているうちに
この街に来たのだ。
「ハッハッハッハッ それが自殺の理由かい?」
正美は大笑いした。
「笑いごとか? おれにとっちゃ一大事だ!!」
「ごめんごめん いやあ 死ぬなんておれ 考えたことないぜ」
――あと一週間。
死神が言っていた言葉が、進一の頭をよぎった。
「やりたいこといっぱいあるしさ…毎日が楽しくて生きてることがおれの仕事みたいなものさ!」
明るく話す正美を見て、進一は知らせた方がいいのかと一瞬、悩んだが、自分には関係ないことと、言わないことにした。
「よかったら泊まっていけよ 家に帰りたくねえんだろ? メシ作ってやるよ」
(脳天気なやつ……)
翌日、進一は正美がやっている劇団の稽古場へ連れて行かれた。来月彼等は公演を行うので、それに向けて稽古中なのだ。団員達は正美に
そっくりな彼を見て驚く。
進一はそのまま稽古を見学した。初めは女の子がたくさんいることや、正美が彼女らしき女性と仲良く話しているのを羨ましがるだけだったが、
真剣に皆に指導する正美の姿に、次第に見る目が変わっていった。
次に連れて行かれたのは音楽スタジオ。正美は劇団とは別にバンドを組んでいて、今度コンテストにも出るのだという。正美の担当はギターで、
曲も彼が作っているのだ。正美がギターを弾く姿を、進一は真剣に見つめていた。
そしてその日の夜。正美は進一を先に帰らせると、バイトへ向かった。彼は炉端焼き屋と工事現場と運送会社の三つのバイトを掛け持ちして
いるのだ。
(おれはもうひとりの自分を見た 生き生きとしていた自分を見た 明るく夢を持ち 行動的な自分を見た まったく逆の自分を見た)
その頃霊界では、間違えてそっくりな他人に死の宣告をしたことが判明し、死神くん達は主任に叱られていた。
「見張り役のお前がついていながら なにやってたんだ!? 早く本人に知らせてこ――い!!」
慌てて死神くん達は正美の元へ向かった。
「やべーっ」
「大変なことになっちまった」
死神くん達が正美のアパートに着くと、彼は部屋で一人で本を読んでいた。今度は間違いないだろうと、死神くんは名刺を渡し「あんた
あと3日の命だ!」と告げた。
「おどろかないでほしい 急な話で悪いけど これは運命なんだ」
「残りの3日を精いっぱい生きるんだ」
が、彼は特に反応を示すでもなく、名刺を見つめたままぼんやりしている。
何となく不安になって、死神くんは訊いてみた。
「あらためさせてもらうけど あんた本当に夏谷正美さんなんだろうな?」
「そうだよ」
わずかな沈黙の後、彼は頷いた。
そして死神くんが帰ってからしばらくして。
「オーッス ただいまーっ ハラへっただろう?」
「ごはん作ってあげるよ」
正美が、彼女のまゆみと一緒に帰宅した。そう、またしても死神くんは進一に死の宣告をしてしまったのだ。だが、二人を迎える彼の表情は
明るかった。
(これでいいんだ おれが死ぬんだ おれが夏谷正美にかわって死ぬんだ)
正美には夢がある。将来がある。可愛い彼女もいる。羨ましいほどに、自分にはないものがある。
(どうせおれは自殺するつもりだったんだし…)
進一は立ち上がると、料理する二人に「手つだうよ」と声をかけた。
「サンキュー」
「料理できるの?」
まゆみの不安は的中し、鍋は吹きこぼすわ味付けを間違えるわで出来は散々だった。
それから進一は、積極的に正美と一緒に行動するようになった。
劇団の練習に参加したり、バンドでギターを弾かせてもらったり、一緒にアルバイトをしたり……楽しい日々が過ぎていった。
(おれもやればなんでもできるんだな 生まれかわったら やりたいことやるんだ 自分の思い通りに生きるんだ!)
そして、死ぬまであと一日という日。演劇の練習中、彼の目に涙が滲んだ。
「東…」
「どうした?」
「泣いてんのか?」
心配した団員達が声をかけてくる。
「どうしたの?」
「東くん」
「なにかあったの?」
その場に膝をついて、進一は泣き続けた。
(おれは明日 死ぬんだ)
「ぶわっかも〜〜ん!!」
死神くん達は再び主任に怒鳴られた。宣告した相手がまた別人だった事がわかったのだ。
「一体どういうことなんだ!?」
カア助の言葉に「こっちが知りたいよ」と死神くん。
「とにかくいそげ! 今日がやつの死亡予定日だ!!」
進一は、何をするでもなく街をふらついていた。
「今日おれは死ぬんだ…」
何気なくつぶやいたその時、
「あんたの本名は 東 進一っていうのか…」背後から声が。振り返ると険しい表情をした死神くんとカア助がいた。
「そうか お前はじめから死ぬつもりだったんだ」
「だから自分が夏谷正美だとウソをついた そうはさせないぜ」
「運命をかえることはできないぞ」
「待ってくれ!! 彼を殺さないでくれ!!」
飛び去っていく二人を、進一は人ごみを掻き分け、必死で追いかけた。
「かわりにおれを!! たのむ!!」
その頃正美は、運送会社で荷物を運んでいた。
「夏谷正美さんだね?」
振り返ると、カラスを帽子に乗せたスーツ姿の子供がいた。
「ああ なにか用?」
「むかえにきたぜ」
子供は――死神くんは、彼に名刺を見せた。
「やめろ――っ」
進一は前へ進みながら、叫んだ。
「やつが死んだら 劇団はどうなる!? バンドのメンバーはどうなる!? 彼女の まゆみちゃんはどうなる!? やつがいなくなったら
すべてがパーだ やつは必要な人間なんだ!!」
「話がわかってもらえたかな?」
「急な話で悪いね いろいろあってさ」
「なんていうか…へへ… へへへ ホントに急だな」
二人から話を聞き終えた正美は、苦笑いした。
「どうやって死ぬんだい?」
「それはいえないよ」
「そっか んじゃ仕事にもどるわ 死ぬときゃ痛くしないでくれよ」
そう明るく言って去っていく彼に、思わずポカンとする死神くんとカア助。が、その時、時計を見て気づいた。
「時間だ!!」
道路を横断しようとする正美。が、彼に向かって車が突っ込んできた! それに気づいた瞬間、進一が正美に思い切り体当たりした。
「東!!」
驚く死神君達の前で、正美は道路に転がり、進一は車に跳ね飛ばされた。通行人が悲鳴を上げる。
「へ…へへへ…死神よ 死ぬのはおれだ… おれが夏谷正美だ」
そうつぶやき、倒れている正美に向かって「ありがとう」と礼を言った。
(おれの人生の中で あんたといっしょにすごした一週間が最高だったよ)
「大変なことしてくれたな しかし運命をかえることはできない」
「残念だな ムダ骨だよ」
「死ぬなよ」
彼は、目を覚ました。そして、愕然とした。
「生きてる おれは生きてる 東 進一は生きている!!」
そして、静かに泣いた。
「夏谷…」
霊安室で正美の遺体と対面する進一。死因は頭を打ったことによるショック死だった。
「しかし皮肉なものですな 助けたつもりの彼が死んで あなたが助かるなんて…」
――運命をかえることはできない。
医師の言葉に、夢で死神くんが言っていた言葉が脳裏をよぎる。と、看護婦が警察が面会に来た、と進一を呼びにきた。
「いやあ めずらしいことがあるものです」
「双子でもないのに そっくりな人がこんな事故に…」
警官達はそう言うと、身元の確認のために名前を訊いてきた。そして彼が名乗った名前は……
「ぼくは… 夏谷正美です」
やがて退院した進一は、正美として劇団に復帰した。
「さあ いよいよ公演間近だ ガンバロウぜ!!」
死んだ東のためにも頑張るんだ、と皆に檄を飛ばす進一。曖昧なところはショックで記憶喪失になっている、とうまくごまかし、懸命に
練習した。
その様子を笑顔で見つめる死神くんとカア助。
「がんばっているな」
「おれたちをだましたくらいだ うまくやっていけるだろう」
次はバンドの練習。さすがに疲れた進一が控え室で休んでいると、まゆみが缶ジュースを差し出した。とりあえず受け取ろうと、手を
伸ばした瞬間、
「ガンバッテね! 東くん」
笑顔でまゆみにそう言われ、ぎょっとする進一。まゆみは涙をぬぐうと、そっと進一に抱きついた。
「やつより一枚上手がいたな」
「だますほうが悪いのか だまされる方が悪いのか…」
霊界は魂の数さえ合えば中身はどうでもいいんじゃなかったのか?
でも身代わりに死のうとした人を止めようとしたこともあるし、よほどのことがない限り別人が死ぬのはダメなんじゃない?
>死因は頭を打ったことによるショック死だった。
これって進一のせいなんじゃないの?
だとしても事故だろ。緊急避難だかなにかで法的にも認められてるのでは。
助けに入らなきゃ霊界の導きによりどの道死んでたし、
上手く行けばまた人違いしてくれたかもしれんからな。
進一のせいというにはあまりに酷だ。
第63話 ルールの巻
「アイバンクに登録を!!」
「目の不自由な人たちへ角膜を!!」
「お願いしまーす」
街頭でボランティアが、目が見えない人達のために、角膜移植のためのアイバンク登録を呼び掛けていた。
その中の一人、小夜子もまた、五年前に角膜が濁る病気にかかり、視力を失っていた。普通目の不自由な人は聴覚や嗅覚など他の感覚が
著しく発達するというが、彼女は違った。小夜子は、他人の手に触れるとその人の性格や考えている事が読み取れるようになったのだ。
と、また一人誰かが握手を求めた。その手を握ると……
(この子かわいいなあ おれもうすぐ死ぬから この子に角膜をあげよう)
「えっ!?」
驚いた小夜子は募金を呼びかけている人にその人物を呼び止めてもらおうとしたが……すでに人込みに紛れて分からなくなっていた。
その晩、自室に戻ってからも、小夜子はその人物のことが気になって仕方なかった。
「目が見えていれば どんな人か わかっただろうし おいかけることもできたのに…」
と、
「目が見えるようになりたいのか?」背後からの声に振り返ると……目が見えないはずなのに、はっきりと全身真っ黒な、先の尖った
尻尾の生えた子供――悪魔くんの姿が見えた。
「へへへ そうだろ なにしろおれは人間じゃないからな」
「人間じゃない…!?」
「おれは悪魔だ!!」
びびる小夜子を「こわがることはない とって食うわけじゃない」となだめると、悪魔くんは契約を結んでみないかと持ちかける。
彼女の願いを三つ叶える代わりに、魂をいただくというものだ。
「願いがかなう…? 信じられないわ そんなこと…」
「じゃ ひとつめの願いとして あんたの目が見えるようにしてやろう それで信じてもらえるかな?」
「そうね この目が見えるようになったら あなたのことを信じるわ 契約もするわ!」
「OK 契約成立だ」悪魔くんは満足げに笑うと、「おれは呼んでくれれば いつでもどこでも出てくるぜ」そう言って消えてしまった。
慌てて小夜子は引き止めようとして……気づいた。
目の前に部屋のドアがある。その隣の本棚も、窓もカーテンも、何もかもがはっきり見えている。
「み…見える! 物が見える わたしの部屋が見える!!」
はしゃぐ小夜子。が、その拍子につまづいて転んでしまった。二階から聞こえたもの凄い音に、両親が心配して様子を見に来た。
「ど…どうした 小夜子!?」
「な…なんでもない ちょっとつまづいただけ…」
小夜子は両親を驚かせないよう目が見えるようになったことは黙っておく事にし、散歩に出かけた。
いつものくせで、白い杖を持って夜の町を歩く小夜子。夜空の星を見たり、五年前にはなかったビルを発見したり、ネオンの美しさに感動
したり……と、路地裏に人影があるのを見つけた。一人はこちらに背を向けた青年らしき人物。そしてもう一人は血が滲んだ胸を押さえ、
倒れた。
(人殺し!?)
その瞬間、青年がこちらを振り返った。手にはナイフが握られている。目撃されていた事に気づき、青年は目を見開いた。
しばらく見つめ合う二人。小夜子はとっさに「だ…だれ? だれかいるの? そこにだれかいるの?」と目が見えていないふりをする。
安心したのか、彼は走り去った。力が抜けてへたり込む小夜子。が、
「キャ――ッ」
今度は倒れている男性から魂を抜き取っている子供とカラス――死神くんとカア助の姿が見え、思わず悲鳴を上げた。
「さわがしい子だな」
「おれたちの姿が見えてるらしいぞ」
「なんなの あんたたちは!?」
混乱している小夜子に、死神くんは名刺を渡す。
「死神…悪魔の次は死神?」
それを聞いて死神くんの顔色が変わった。
「あんた悪魔と契約を結んだわけじゃないだろうな!?」
「3つの願いとひきかえに 魂をぬきとられるんだぞ!!」
「おーっと 説教はやめてくれよォ!!」
すかさず悪魔くんが、死神くん達を蹴飛ばした。
「ひさしぶりだなア死神ちゃんよォ なんだ このカラスは」
「おれの見はり役だ」
「見はり役がいないと仕事ができないなんて なさけない話だねェ」
「うるさい」
「毎回毎回お前にじゃまされて まともに仕事ができやしねェ 今回はじゃましないでくれよ」
「お前らが勝手に人を殺すから 霊界は大変なんだぞ」
「エンギでもねえこと言うなよ おれたちは人に夢を見させてあげてるんだ 願いをかなえてやってんだ お前らみたいに ただ魂を
ぬきとるだけの死神とはわけがちがうんだよ」
「なんだとこのやろ!!」
さすがに怒ったカア助が飛びかかったが、あっさりと電撃で追い払われてしまった。
「へへへ どうもあいつらは説教が好きでしょうがねえんだ 気にすんなよ」
そう言って悪魔くんも帰ってしまい、小夜子は目の前の死体を見て、改めて悲鳴を上げた。
それから三日が経っても、事件が解決する有力な手がかりは得られず、小夜子は唯一の目撃者(?)として警察に呼び出された。殺された男も
かなりの悪人で恨みに思うものはたくさんいるらしい。その中から容疑者は四人に絞り込まれていた。
マジックミラーの向こうにはどう見ても作者そっくりの男と細い目の青年、派手な化粧の女性、そして左端に、あの晩目撃した青年がいた。
小夜子は自分の能力の事を刑事に話し、心を読ませてくれるよう頼んだ。
「それじゃ 右から…」
小夜子は容疑者がいる部屋の中に入れてもらい、早速握手して心を読み始めた。右端の男の心は……
(かわいいなー こんな子とエッチしてみてーなー)
次の瞬間、男は壁にめり込んでいた。
「次の人」
二人目の男性と握手すると、札束の山の前にいる被害者の男性の姿が浮かんだ。
(おれが借金した三百万が 高利息のため三年間で一千万だ あいつが死んで それが帳消しになれば もっとよかったんだがな)
三人目の女性の手を握ると、札束を手に笑っている被害者の姿が浮かんだ。
(死んでよかったんだよ あんなやつ 金でなんでもできると思っているんだから)
そして、別の女性がベッドの上で被害者に乱暴されている姿も。
(あいつに泣かされた女は ほかにもたくさんいるよ)
最後に浮かんだのは、彼女がナイフを持って被害者に襲い掛かろうとするのを周りの者が止めている所だった。
(どうしてあたいだけ 犯人あつかいされちゃうんだよ)
そしてついに、犯人の青年の番になった。小夜子が彼の手を握ると……その感触に、覚えがあった。
――おれ もうすぐ死ぬからこの子に角膜をあげよう
彼こそが、あの時の人物だったのだ。そして、小夜子が読み取った彼の心は……
被害者の男は地上げ屋で、青年の家に前々から土地を売らせるために様々な嫌がらせをしていた。父親を車で跳ね、家に火をつけ……
そんな時、死神くんが青年の元に死の宣告にやってきた。
ついに嫌がらせは青年の妹にまで及び、彼女を乱暴しようとした。幸い青年が踏み込んだおかげで未遂に終わったが、怒りが頂点に
達した彼はあの路地裏に男を追い詰め――
「きさまだけはゆるさん!! どうせおれの命は… あと3日!!」
血しぶきが上がったところで、映像は途切れた。
あまりの事に、思わずふらつく小夜子。刑事は何かわかったかと尋ねるが……
「すみません わたし わかりません…」
小夜子は、何も言えなかった。彼は悪い人ではない。悪いのは殺された男の方なのだ。
彼女が警察を出て歩いていると、青年が死神くんたちと一緒に小夜子の前に現れた。
「あんた人の心が読めるのかい?」青年は言った。「それならおれが犯人だってわかったはずだけど 警察にはいわなかったんだな」
「あ…あの あなたはいい人だもの…」
小夜子の言葉に、青年は恥ずかしそうに頭をかいた。
「社会のルール守って普通に生きてきたつもりだけど ルールを守らないやつにひっかきまわされて…」
自首するつもりだったが、残された妹が殺人犯の妹と言われるようになるから、と死神くんに止められたのだという。
「ありがとう 最後に礼がいいたくてさ」
青年はそう言って去っていった。ふと、小夜子は思い出した。心を読んだ時、あと三日の命だと彼は言っていた。そして今日はちょうど、
あの事件の日から三日目だ。小夜子は悪魔くんを呼び出した。
「ふたつめのお願いよ あの人もうすぐ死ぬんでしょ? 助けてあげて! あの人はいい人なのよ」
だが悪魔くんは「だめだね」と断る。悪魔が叶えるのはあくまで個人の願い。小夜子の願いは他の誰かが願っている事でもあり、複数の人間の
願いを叶える事になってしまうと。がっかりする小夜子。が、
「…といいたいところだが 今回は特別サービス!」そう言って悪魔くんは笑った。「一度あの死神をやっつけてやりたいからな」
その頃青年は、予定通りの時間に鉄骨の下敷きになっていた。が、
「どけい カラス野郎!」
悪魔くんがカア助を殴り、さらに死神くんを電撃を連発しまくってダウンさせた。
「何をする気だ!?」
「この男を助けるのよ」
「それがあの子の願いか!?」
「そうだよ! 今回はおれの勝ちだぜ!! こんなキズ すぐに治してやるぜ!」
その時、カア助が悪魔くんに体当たりした。
「この…カラス野郎」
「こっちもルールを守らなくっちゃならないんでね」
カア助は悪魔くんを思い切り信号に叩きつけ「早く魂をぬきとってしまえ!」と叫んだ。ようやく死神くんも立ち上がり――
一人ベンチで待つ小夜子の下に、大きなたんこぶを作って悪魔くんが帰ってきた。
「へ…へへへ すまねえな ドジふんじまって ふたつめの願いはかなえられない…無効だよ!」
「あの人は…?」
「死んだよ おれにはもう手が出せない状態にある」
「そう…」
小夜子はうつむき、涙を流した。
「なにもできなかったね わたし… せっかく3つの願いがかなえられるというのに… 何も…」
そして悪魔くんに、代わりの二つめの願いを告げた。
それから数日後。そこにはボランティアたちと一緒に募金を呼びかける小夜子の姿が。二つめの願いは、目を見えない状態に戻す事だった。
「どうして元の自分にもどしたんだい?」
死神くんの問いかけに小夜子は「わたしたちのルールを守っただけ…」と答える。角膜の順番待ちをしている人はたくさんいる。自分だけ
優遇されたくないと。
「死んだあの人の角膜も順番通り ほかの人の目に役立っているはず」
そう答える彼女に「あんた立派だよ」「ガンバリな」とエールを送って、死神くんたちは帰っていく。
「あっ それから」
「わかってる もう悪魔さんには会わないつもりよ」
それを聞いて、木の上で悪魔くんは舌打ちした。皆が呼びかける声が響く。
「アイバンクに登録を!!」
久々に悪魔くん キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
この地上げ屋ひどいな・・・
殺さずに去勢しろよ。手術は麻酔なし!!
小夜子は最初出てきた時と警察行くときは車椅子なのにあとは普通に歩いてるな
歩けるけど長時間は無理なんだろうか
自分の魂をトレードの材料として目を治したんだからルールとは関係ないと思うがなあ。
他の目の不自由な人にも悪魔くん紹介しちゃえばいいのにな
目が見えないとか、歩けないとか、身体の機能が治るなら契約する人続出だろ
>>137 そのうちの何人かは悪魔の誘惑に耐えらんない。
障害者=善人ではない。
悪魔くんとしてはそういう困ってる人に狙いを定めた方がやりやすそうだが
第64話 人間不信の巻
とある公園で、野犬の群れのリーダーが皆に最近野犬狩りが頻繁に行われているから注意するように、と呼びかけていた。
ふと、リーダーは老犬のジロがいないことに気づく。仲間に頼まれ、まだ子犬のタロがジロを探しに行った。
「おじいちゃーん」
ジロは、公園のはずれにいた。
「おお タロか」
「どうしたの? みんなさがしてるよ」
「……………… わしはちょっと旅に出る…」
「旅? どこへいくの? 人間につかまっちゃうよ あぶないよ」
「……………… タロよ わしはもうすぐ死ぬ」
タロは驚いた。ジロは死神に会い、生まれ変わって人間になると告げられたという。おじいちゃんがボケ老犬になっちゃたのかと心配する
タロだが……
「おいおい そんないい方はないだろう」
そう言って死神くんとカア助が現れた。人間と勘違いし吠えるタロをジロはなだめ、彼が死神だと紹介する。
「敵じゃないの?」
「安心しな とってくうわけじゃない いつもは人間相手に仕事しているわけだが 時どき人間に生まれかわる動物も相手にしているんだ」
「おじいちゃんは人間に…敵になっちゃうの?」
不安げなタロに「敵になるつもりはない 人間にもいい人間と悪い人間がいるんだ」とジロは言うが「ウソだ 人間はみんな悪い!! みんな
敵だ」とタロは納得しない。するとジロは自分は昔人間に飼われていた、と告白する。その時彼はまだ子犬で、人間も優しかった。だがある
雨の日、理由はわからないが彼は捨てられた。
「人間は目からも雨を降らせていた」
「雨じゃないよ」思わずツッコむ死神くん。
その日から彼等と人間は敵同士になった。残飯をあさっていれば追い払われ、悪ガキ達に棒で叩かれ……他の兄弟は一週間もしないうちに
死んでいった。
しかし一方で、食べ物をくれる親切な人間もいた。人間がいないと生きていけないこと、助けてくれる人間と敵になる人間がいることを知った。
やがてジロは人間に捨てられた犬達が作ったグループに助けられ、人間は敵だと教えられ今日まで生きてきた。
「しかし見よ」ジロが示した方向には、人間と仲良く散歩したり、昼寝をする犬達がいた。
「人間と仲よくやっている仲間もいる 悪い人間ばかりでもなかろう…」
「あいつらはだまされているんだ 人間はみんな敵だ!!」
あくまでそう主張するタロは、昔飼われていた時の人間を探してみたい、と旅立つジロについて行くことにした。ジロの言う通り、人間に
本当にやさしさがあるかどうかを知るために。
死神くんは「危険な旅になるかも知れない 十分気をつけな」と二匹を励ました。
「いい人間だけを見てくれればいいがな…」
二匹はとある町に着き、タロは庭で飼われている犬を見つける。試しに「おじさんは人間に飼われてて幸せかい?」と尋ねると、
「あたりめぇよ 毎日くい物が出るだけで幸せだよ」彼はそう答えた。だがジロと共に去っていく後ろ姿を見ながら犬は思う。
(しかし人間に飼われていると自由がねエ おめえらの方が幸せかもな…)
今度はおしゃれなプードルに「ねェ きみは今幸せかい?」と訊いてみた。が、
「んま〜 きたならしいノラ犬ね! わたしのジョアンナちゃんに近づかないで!!」
その犬の飼い主の女性が怒ってプードルを抱き上げて去って行った。
「何もしてないのに どうして人間はあんなにおこるの?」
「さあ?」
ジロは笑った。
今度は子供達が「キッタネーノラ犬だ」「やっちまえー」と二匹に向かって石を投げつける。
「タロ 逃げろ!!」
二匹は必死で走り、なんとか原っぱまで逃げきった。
「大丈夫か? 無理すんなよ」
死神くんも疲れきった二匹を心配そうに見守る。
「人間はやっぱり敵だ!! ボクたちと人間は仲よくはなれないんだ!!」
タロは言うが、ジロは「わしは人間を信じておる」と言い、再び歩き出した。
それからも二匹の旅は続いた。雨の日は大きな葉の下で雨宿りし、ゴミバケツをあさって食べ物を探し、時にはバットを持った子供達に
追いかけ回されたりもした。
「おじいちゃん… いい人間なんていやしないじゃないか」タロは言った。
「おじいちゃんは 人間にすてられたんだろ? それでも人間を信じるの? おじいちゃんも人間になったら ボクたちの敵になっちゃうん
だね」
悲しげなタロに「いや…人間の悪い所ばかり見ていい勉強になったよ」とジロは言う。
「ああいう人間にはならなければいい わしが人間になったら お前のめんどうを見てやろう 約束してもいいぞ」
ジロは笑うが、タロはますます悲しげな顔になった。
「人間になったおじいちゃんなんかキライだよ 人間なんかキライだよ!」
その時、タロは突然現れた人間に首根っこを押さえつけられた。
「何をする はなせぇ」
「タロ!!」
ジロはすかさずその男の腕に噛みついた。
「タロ 逃げるんだ!」
慌てて塀の陰に隠れるタロ。が、ジロは首に輪を引っ掛けられ人間達に捕まってしまう。
「おじいちゃん!!」
タロは助けにいこうとしたが、
「待ちな!!」これまた突然現れた別の大型犬に止められた。
その間に、ジロは他にもたくさん犬が乗せられたトラックに入れられ、どこかに連れて行かれてしまった。
「あのじじいはもうだめだ」
大型犬は言った。
「かれらは野犬捕獲員だ かれらにつかまったら おそらく死ぬんだろうな」
ショックを受けるタロ。
「おじいちゃ――ん」
「ムダだというのがわからんのか!?」
犬は改めて、飛び出そうとするタロを押さえつけた。
「お前は おじいちゃんにたすけてもらったんだ 命は大切にするんだ じいちゃんの分までしっかり生きろ!」
「おじいちゃーん」
タロの悲痛な叫び声が、辺りに響き渡った。
「予定通りだな」
時計を見て死神くんはつぶやいた。引き取り手のない保護犬は安楽死処分される。人間に生まれ変わったら、きっといい人生を送れるだろう。
不意に死神くんは険しい表情になった。
「人間も野犬を安楽死させることが 最善の手段とは思ってないんだろうが… 罪があるのは 犬を簡単にすててしまう人間の方のはず
人間の身勝手さにはいつもハラがたつ…」
「おじいちゃん…」
一人残され、タロは泣いた。
「どうして… どうして人間はひどいことばかりするんだ おじいちゃんは人間を信じていたのに! どうして…」
そして、叫んだ。
「おじいちゃんは人間にすてられたんだぞ ひどい目にあわせたのも人間 最後に殺すのも人間じゃないか!! 何も悪いことしてないのに
ひどいじゃないか!! 人間なんか… 大っキライだァ!!」
「お父さん」
「お父さん」
子供達に呼びかけられ、タロははっとした。昔のことを思い出してついぼんやりしてしまったらしい。
(おれも父さんとよばれる年になったんだな…)
タロがジロと別れ、一人ぼっちになってから五年が過ぎた今、タロはとある町の捨て犬達のボスとなっていた。
と、仲間がゴミ箱をあさりながらつぶやく声が聞こえてきた。
「もっとうまいものくいてぇなァ」
「人間が食べさせてくれたドッグフード また食べたいなァ」
「人間の話はやめろ」タロは二匹に蹴りを入れた。
「お前たちは人間にすてられたんだぞ 人間を信用するな にくまなくちゃだめだ」
「んなこといわれても…」
と、そこへ他の仲間が大慌てで走ってきた。タロの妻・チロが車にはねられたというのだ。急いで駆けつけると、チロは下半身をやられ、
ひどい状態だった。
「ひでぇことしやがる」
「だめだ もうたすからない」
子供達も「お母ちゃ〜〜ん」と大泣きする。ふとタロは、死神くんのことを思い出し、彼を呼んだ。突然現れた死神くんに驚く仲間達。
「何か用か?」
「チロは…チロは死ぬのか?」
「さあ わからないね」
「おれたちの担当じゃないし…」
そう答える二人に「何とかしろ!! チロをたすけろ!!」と迫るタロ。すると、チロが口を開いた。
「あなた… 病院…」
「何?」
「病院へ…」
「何だそれは?」
「人間は病気やケガをした時病院にいくの… わたしたちにも動物病院というものがあるのよ」
それを聞いて仲間達も動物病院へ連れて行くんだ、そうすれば助かるとタロに勧める。だがそのためには人間に頼まなければいけないと知り、
タロは「バカなこというな!」と拒絶する。
「そんなことできるか! 人間はおれたちを目の敵にしている」
「タロ…人間はそんな悪いやつばかりじゃない…」
「タロは悪い人間しか見てないから…」
そう説得しようとする仲間にまた「人間の話はやめろ!!」と蹴りを入れるタロ。それを見て死神くんは険しい表情で言った。
「ジロおじいちゃんがいっていたな 人間を信じろって たしかに人間は自分勝手で悪いこともする おまえがにくむ気持ちもよ――くわかる!
しかしな…お前たちをいじめるのは人間だが… たすけてくれるのも人間なんだ!!」
「あなた… おねがい…」
「お母さ――ん」
妻と子供達の悲痛な声に、ようやくタロも決心した。ひとまずほっとする死神くん。が……
「チロが大ケガをした たすけてくれェ!!」
そう叫ぶ声はどう聞いてもうるさく吠えているようにしか聞こえず、かえって人間達を怖がらせてしまった。
見かねた死神くんが「ほえてどうすんだよ!! やさしくたのむんだ」とアドバイスするが、なぜかみんな近寄っただけでタロを避けて
行ってしまう。
「だめだな」死神くんが言った。「お前はまだ人間を信用しきってない 心のどこかでにくんでいる 人間と犬じゃ言葉がつうじない
わかるだろ? だからこそ心から信用しあわないと 心がつうじないんだ」
「おれにはできない」
タロは力なくつぶやいた。
「人間を信用するなんて… できない…」
そしてすごすごと、チロの元へ帰った。
「チロ…」
「あなた…」
「すまん… おれは何もしてやれん」
と、
「その犬 ケガしてるの? 大丈夫?」後ろから声がした。そこにはどこかで見たような、五歳くらいの人間の男の子が立っていた。
「何だお前は!!」
飛び掛ろうとするタロを慌てて止める死神くん。男の子は父親を呼んだ。
「どうした 二郎!?」
父親は大ケガをしたチロを見ると「こりゃ大変だ」と彼女を抱き上げた。動揺するタロを「この人間は大丈夫 信用しろ!!」と死神くんは
なだめる。
と、父親はタロと子供達に気づき、「何だ? お前の家族か? いっしょにくるか?」そう声をかける。戸惑うタロだが、仲間達の笑顔に
後押しされ、ついていくことにした。
「よかったな」
「いい人にひろわれたな」
仲間達が、去っていく車を見ながら心から嬉しそうに言った。
「これでタロも人間を信用するようになるだろう」
「おれたちは人間にすてられて にくむ気持ちもあるが」「おれたちが一番人間と仲よくなれる」「一番人間の身近にいる動物なんだ」
「きっと 仲よくくらせる時代がくるさ」
「ねェ お父さん この犬飼ってもいいでしょ?」
二郎の頼みに、父親はうなずいた。
「お父さんは子どものころ 親にいわれて泣く泣く子犬をすてにいったことがあるんだ 今でも後悔してる だから かわいそうな動物を
たすけるため今の仕事についたんだ とにかく早くその犬をたすけないとな」
「うん!」
その時、二郎の顔を見てタロははっとした。二郎は、ジロにそっくりなのだ。
「おじいちゃん… おじいちゃんだね? そうだろ? おじいちゃんだろ?」
タロの目から、涙が零れた。
「きてくれたんだね? 本当にあいにきてくれたんだね?」
先程までとはうって変わって、二郎に懐くタロ。
「アハハ くすぐったいなァ 何だよォ」
「お前のことが 気にいったみたいだな」
そして車が着いた彼等の家は、動物病院だった。
二郎のお父さんがジロを捨てた人で、二郎がジロの生まれ変わりで・・・
捨てた犬が息子になって帰ってきたでござる
まあ神様のせめてもの思いやりなんだろうな
前世の因縁で親子関係が無意識的に悪化しそうな気もするが
ジロは捨てた人を恨んではいないみたいだから大丈夫だろう
第65話 兄弟のキックオフの巻
「そらいったぞ 貴志!」
貴秀は弟にボールを回した。が、体力のない彼は「だめだお兄ちゃん もうヘトヘトだ」とかなり疲れた様子。
「お前は体が弱いんだから もっとガンバラないと…」
笑いながらそういった瞬間、突然、貴志の足がぐにゃぐにゃに曲がりだし――
「うわあああああ」
悲鳴を上げて、貴秀は飛び起きた。そこは病院のベッドの上。どうやら夢を見ていたらしい。足を確認すると、添え木が当てられ、包帯が
しっかりと巻かれていた。
その少し前。貴秀は弟の貴志と一緒に家に帰る途中だった。
「お兄ちゃんサッカーの選手になるんだろ?」
「ああ そうさ どうだ貴志もならないか」
「ぼくは無理だよ 体が弱いから お兄ちゃん ぼくの分までガンバッテ」
「よーし」
貴志はボールを蹴りながら歩き始めた。
「ペレやマラドーナより有名になってよね! ぼく学校の友だちに自慢するから」
その時、貴志は走ってくる車に気づかずうっかり前に飛び出してしまった。貴秀はとっさに彼をかばい……両足に大怪我を負ってしまった。
「もうサッカーができないんだ」
悲嘆にくれる貴秀だが、医師の見立てではリハビリさえすれば歩けるようになるらしい。だがもうサッカーができないという強い思い込みが
それを阻み、全くやる気がなかった。
ついには絶望した貴秀は車椅子で病院の屋上に行き、飛び降り自殺をしようとする。が……
「何考えてんだお前は!?」
「バカなことはやめろ!!」
突然背後から押さえつけられ止められる。驚き何者だ、と尋ねる貴秀にその人物――死神くんは名刺を渡した。
相手が死神だと知り「おれを殺しにきたのか!?」とびびる貴秀に「お前みたいに死ぬ予定にはいってない人間を助けたりするのも仕事の
ひとつだ」と死神くんは説明する。
カア助も「バカなこと考えやがって」と言うが、貴秀は「この足を見てくれよ もうサッカーができないんだ」と沈んだ表情。
「先生がリハビリをつづければ歩けるっていってただろ?」
死神くんの言葉にも「ムリだよ 動かないんだ」とすっかりあきらめモードだ。
「あまったれてんじゃねーよ」
カア助は貴秀の頭をつついた。
「死ぬなんて考えんなよ」
そう言って死神くんは去った。それと入れ代わりに、貴志が姿を見せた。
「何してたの?」
「別に…なんでもないよ」
「ごめんね お兄ちゃん ぼくのせいで こんなことになっちゃって」
謝る貴志に「バーカ 気にすんなよ」と貴秀。
「ねェ ぼくにもっとサッカーをおしえて!」
貴志は言った。
「お兄ちゃんのかわりに ぼくがサッカーの選手になるよ! ふたりで夢をかなえようよ」
その後退院し、サッカー部に戻った貴秀は貴志を特訓するようになった。
だがあまり体力がない貴志はすぐにへばってしまう。
「お兄ちゃん少し休ませて 苦しいよ」
「そんなことでサッカーの選手になれると思うか!? もっと体力をつけるんだ!」
再び走り込みに戻る貴志。思わず死神くんが「おいおい 無理させんなよ」と注意するが「うるさい! お前たちには関係ないことだ
ひっこめ!」と追い払われた。
心配した他の部員が監督に貴志はサッカーが出来るかどうか訊いてみるが……
「うーん……… 今のところあの走りじゃまだムリだな」
貴志は生まれつき体が弱い。貴秀の足元にも及ばないだろう。
「貴秀は本当に素質のある少年だ プロのサッカー選手になるのも夢ではなかったのだが…」
その晩。自室で貴秀は歩こうと試みるが、やはり思うように足が動かず転んでしまう。起き上がると机の上のカッターナイフが目に入り、
貴秀は手を伸ばすが、
「またバカなこと考えてやがるな」
「まったくよー」死神くんとカア助に取り上げられてしまった。
「弟がサッカー選手になるからおしえてくれっていっただろ」
「約束したんだろ ふたりの夢なんだろ」
二人の言葉に貴志なんかにできっこない、と言う貴秀を「そんないい方はないだろ 弟は一所懸命なんだ」と死神くんは叱る。
「お前がはたそうとした夢を 弟がかなえようとガンバッテいるんだ」
貴秀は小さく笑った。
「よーし貴志がどこまでやれるのかやってやろうじゃないか」
その後も貴志への指導は続いた。他の部員達は「いつまでつづくのかな」「たいしてうまくならないのに」と冷ややかな視線を送っていたが、
監督は何かを感じていた。
そして特訓を開始して一ヶ月近く経つ頃には、相変わらず体力はないものの、テクニックだけは貴秀が目を瞠るほどの上達ぶりを見せていた。
(まさかここまでやるとは… こいつほんとに…)
すると、監督が来て貴志に言った。
「がんばったな 貴志 どうだ今度の試合に出てみないか?」
「ええっ!? ホントですか監督!」
貴志は顔をほころばせ「やったあお兄ちゃん!!」と貴秀に抱きつく。だが当の貴秀は複雑な表情だった。
家に帰ってからも、貴秀は暗い表情だった。貴志が試合に出られて嬉しいはずなのに、喜べない。ふと貴秀は自分の足を見た。
(本当はこのおれが試合に出るはずだったんだ この足で走って この足でボールをけって)
自分は貴志に嫉妬している――貴秀はよりいっそう、暗い表情になった。
試合当日。
「いよいよ試合だァ キンチョーするなァ エヘヘヘ」
兄の車椅子を押しながら笑顔な貴志とは裏腹に、相変わらず貴秀は暗い顔をしていた。
「どうしたのお兄ちゃん」
「うるさい うらやましいこった 自由に走りまわれるなんて」
「エヘへ お兄ちゃんも歩く練習したら? お医者さんが歩けるっていってたじゃないか」
「うるさい だれのせいでこんな足になったと思っているんだ」
貴志の顔から、笑顔が消えた。
「お前の顔なんか見たくもない 先に行ってろ!!」
そう兄に怒鳴られ、貴志は苦笑いすると仕方なく先に行ってしまった。
「何だ ひどいこというなァ」
「最低だな」
そう言う死神くんとカア助を貴秀は「やかましい おれの気持ちもわからんくせに!!」とぶっ飛ばした。
そして試合が始まり、貴志達のチームはかなり点を入れ余裕で勝てるというところまで来ていた。が、途中で貴志が倒れてしまう。
監督はタイムを取ると「よくやった もう十分だ」と貴志を他の選手と交代させた。貴志はベンチを見るが、そこに兄の姿はなかった。
「お兄ちゃん…お兄ちゃんは?」
兄を探しに行った貴志は、土手の階段の下にある木の側にいる貴秀を見つけた。
「お兄ちゃん」貴志は上から声をかけた。「こんな所にいたの? 試合見てくれなかったの?」
「どうした? まだ試合中じゃないのか?」
「ウ…ウン ぼくもう限界だから…」貴秀に言われ、貴志は苦笑した。「みんなの足手まといになるから…」
それを聞いて貴秀は弟を怒鳴りつけた。
「バカヤロウ! 最後までプレイできずにプロのサッカー選手になれるものか! 考えがあまいぞ!! やはりお前には無理だったんだ
もうやめちまえ!! 大体お前はだな…」
その時、死神くんが現れ、貴秀の頭を蹴飛ばした。
「何度も同じこといわせんなよ」
「弟さんをそんなにせめるなよ」
「それはこっちのいうセリフだ いつまでもつきまといやがって 一体 おれに何の用があるんだ!!」
「あんたにつきまとっていたわけじゃない 用があるのは弟のほうさ」
驚いた貴秀が貴志のほうを見ると……階段の上で倒れていた。
「お兄ちゃん ぼくもうだめみたい 胸がドキドキしてとまらないんだ」
追い討ちをかけるように、死神くんが言う。
「おれは死神だ どんな仕事をするか知っているだろ?」
「ま…まさか」
貴志は今日が死ぬ予定日だったのだ。だが貴志に固く口止めされていたので何も言わなかった、と死神くん。
「う…うそだ うそだろ!? 貴志どうして おれに何もいわなかった!?」
「兄キに心配させたくないという心づかいだよ」
「んなこともわかんねーのか?」
貴志は笑みを浮かべると、言った。
「お兄ちゃん ありがとう こんなぼくでも一所懸命やればできるんだね お兄ちゃんみたいにはなれなかったけど… このままで満足だよ」
「貴志!」
思わず貴秀は立ち上がって弟の下へ向かおうとするが、やはり転んでしまった。
「お兄ちゃん 歩いてよ 練習すればいいんだよ ぼくみたいにさ… またサッカーやってよ 前みたいに… やさしくてカッコイイ
お兄ちゃんにもどってよ」
貴志の目に涙が滲んだ。
「貴志は事故で 兄キの足をケガさせたことにすごく責任を感じていたんだ」死神くんは言った。「だから死ぬまでの間 お前を立ち直らせようと
一所懸命だったんだ それをお前は わかってやろうともしなかった」
「まったくひどい兄ちゃんだな」
カア助の言葉に苦渋の表情を浮かべる貴秀。
「弟がガンバッテいるのに 自分は何もしなかった」
「弟の努力も水のあわだ」
やがて貴志の目が霞み、見えなくなり始め――
「時間だ!」
「お兄ちゃん… あり…がとう…」
貴志は、息を引き取った。
「バカヤロー 貴志死ぬな――っ」
必死で階段を這い上がりながら、貴秀は叫ぶ。だがその目の前で、貴志の魂は抜き取られていった。
「後悔するがいい 自分をせめるがいい 今のお前には何もできないんだ」
「弟とちがってなにもやろうとしないんだ」
二人はまるで挑発するかのように貴秀に言葉を投げつけた。
「その足じゃ 弟の体にふれることもできまい」
「くやしかったら歩いてみな」
「貴志!」
貴秀は必死で、上に登ろうとした。
「ちくしょう動け!! 動け! おれの足動けぇ!! 動いてくれぇ!!」
「か…監督!」
ベンチにいた補欠の選手が、慌てて監督の肩を叩く。振り返った彼が見たものは、
「ま…まさか まさかお前…」貴志を背負い、しっかりと立っている貴秀の姿だった。「貴秀! 歩けるようになったのか!?」
「キャプテン」
「足なおったんですか!?」
他のチームメイト達もその姿に驚く。
「貴志くんはどうした?」
「つかれて ねているんです」
そう答えると、貴秀は貴志の体をそっと、近くの木に寄りかからせてやった。そしてしっかりと、もう動かないその体を抱きしめる。
(貴志…バカなお兄ちゃんをゆるしてくれ)
貴秀は監督に試合に出させてください、と頼む。少し迷ったが、監督はOKを出した。
(貴志! お兄ちゃんサッカーやるからな そこで見ていてくれ!)
貴秀はグラウンドに向かうが、やはり歩けるようになったばかりで足が思うように動かず、すぐに転んでしまった。
「何だあいつー」「歩けんのかよー」「あいつはマークしなくていいぞ!!」
すかさず相手側から飛ぶ罵声。だがもう貴秀はめげなかった。
(立つんだ! 貴志はもっと苦しい思いをしたんだ)
チームメイトも監督に「あんな調子でサッカーやれるんですか?」と不安げに尋ねる。が、監督は言った。
「わたしは体が弱くて体力もないのに 毎日がんばってサッカーがすごく上達した少年を知っている やる気になれば何でもできるさ」
監督の言葉に、皆も笑顔になった。
相手チームに笑われながらも、泣きながら必死で歩く貴秀に、死神くんは「がんばれ!」とエールを送った。
いくらやる気になったからといっていままで麻痺してた足がいきなりサッカーできるまで復活しないだろ
んな切ないこと言うなよw
なんか今回特に死神くんが厳しいような気が。
第66話 うそつき太の巻
「松沢センセ〜〜ッ」
その日、部屋で休んでいた若き女教師・松沢の元に二人の子供――1人は死神くん――が現れ、突然の事に彼女は思わず悲鳴を上げた。
が、片方の小太りの男の子が彼女のクラスの生徒・太(ふとし)だとわかると、松沢はほっとしたのか矢継ぎ早にしゃべり出した。
「あなた今までどこにいたの!? 連絡も何もしないで 2日も行方不明で 学校も両親もクラスメートもみ〜んな心配していたんですよ!!
あんたは何っ!? お友だち? 親戚? ずーっといっしょにいたの!? 今まで何をしていたの!?」
死神くんが圧倒される中、太は「親もクラスメートもだれも心配なんかしていなかったよ」と言い、「何を言ってるんです!」と松沢に
叱られる。
「担任の先生かい? こいつを助けてくれ」
ようやく死神くんが口を開いた。
「先生助けてよ ケガして動けないんだ 苦しいんだ」
太はそう訴えるが、松沢は「何いってんの 元気じゃない またウソをついてるのね」と全く本気にしない。
「待ってなさい ジュース出してあげるから…」
松沢はジュースを冷蔵庫から取り出し、太達の方を振り返ったが……そこにはもう二人の姿はなかった。玄関を確かめてみるが、鍵が
かかっている。
夢でも見てたのかしら、と松沢はジュースを飲んで一息着いた。
「わたし心配性だし…太くんが気になっていたから… 太くんにはいつも悩まされっぱなしだわ」
太はウソツキのあだ名で呼ばれていて、その名の通り、嘘ばかりついていた。
松沢が担任になってからも何度か嘘をついては彼女を困らせていた。「ひでおくんが校庭でたおれてるよ!!」と言ってきた時はただ
昼寝していただけだったし「よし子ちゃんの足がとれちゃったよ〜〜っ」と言った時は人形の足がとれていただけ。時には「先生スカートが
やぶれてて白いパンツ丸見えだ!!」と言われて「へへ――んだ 今日のパンツはピンクよ!!」……うっかりパンツの色をみんなに教えて
しまったこともあった。
我慢できなくなった松沢は、太を職員室に呼び出し、オオカミ少年の話をした。
『むかし むかしある所に 大変ウソツキな少年がいました
オオカミがきたぞ――っ オオカミがきたぞ――っと少年はいつもウソをついていました』
『ヒツジをオオカミに食べられては大変とヒツジ飼いの村人たちは大さわぎ 少年は村人のあわてふためくようすを見て大わらいをしていました
ところがある日 本当にオオカミがあらわれたのです 少年は「オオカミがきたぞー」といつものようにさけびました
しかし村人たちはウソだと思いだれもそこにはあつまらず 少年はオオカミに食べられてしまいました』
「わかった? ウソばかりつくと いつかはひどい目にあうのよ」
「ふーん 先生も そんな場合助けにきてくれないの?」
「せ…先生はちがいます!」
「それならウソついても大丈夫だ」
思わずコケる松沢であった……。
その時のことを思い出し、思わず笑う松沢。が、先程の太の言葉がどうしても気になり、立ち上がった。
一方太は、本当に怪我をして廃ビルの中に横たわっていた。
「よう元気か?」
「まだ生きてるか?」
カア助と死神くんが声をかけるが、太は「もうだめだよ オイラは死ぬんだ だれも助けにきてくれない」とすっかりあきらめていた。
そんな彼を「先生が助けにきてくれるぞ」とカア助は励ます。が、
「ムリだ こないよ オイラは死ぬんだ ウソツキ少年はオオカミに食べられるんだ それと同じだよ」太の体からは魂が出かかっている。
「こいつ生きる気力がないな」
「だめだなこりゃ」
松沢は太の家でもある精肉店を訪れた。すると母親が「うちの太が帰ってきましたよ!」と告げる。が、父親いわくさっきまでいたが、また
すぐ出て行ったという。
帰ってきた太はやはり同じように「助けてよ 動けないんだ 苦しいんだ」と言い、「3丁目のこわれたビルの中にいるから」と告げた。が、
父親は太がまたみんなを騙そうとしていると思い「いいかげんにしろい!!」と怒鳴りつける。そして手伝いを頼もうと振り返ったときには、
もう姿が消えていた。
「なんかぼーっとしてユーレイみたいだったな」
次は公園にいたクラスの生徒達に訊いてみた。するとやはり太がさっきまでここにいて「助けてよ 動けないんだ 苦しいんだ 3丁目の
こわれたビルの中にいるよ」と訴えたという。が、皆は新しいウソでも考えてるのかと本気にせず、力持ちの彼に土管をどかすよう頼むが、
その時にはもう消えていた。
「なんか体がすけて見えたよ」
松沢は思う。太はほぼ同じ時間に自宅と彼女の家と公園に来ている。そして体が透けて見えた、幽霊みたいだと言っていた……松沢はぞっと
しつつ、3丁目にある廃ビルに行ってみる。すると、
「太くんを助けにきてくれたのか?」いきなり太と共に死神くんとカア助が現れ、彼女は驚き悲鳴を上げた。
腰を抜かし「な…なんなの あんたは一体!?」と尋ねる松沢に死神くんは名刺を渡す。
「し…死神!? それじゃ… 太くんは死んじゃったの!? そこにいるのは幽霊なの!?」
そう尋ねる松沢に、死神くんは太はまだ生きていると教え、誰かに助けてもらわないと危ない状態にあるから助けてやってくれ、と頼む。
ひとまず廃ビルの中に入ると、本棚と古い鍋やテーブルが置かれていた。太の秘密基地で、第一から第三まであるのだ。
「そうか こんなのつくって遊んでたのか こんなのよく動かせるわねェ」
「バカ力はオイラの自慢だからね」
と、松沢は「いしょ」と書かれた手紙を見つける。まさか……と思いきややはり太のウソだった。さすがに松沢も「いくらなんでもこれはやりすぎよ!!」と
太を叱るが、
「だって このくらいのことやんなきゃ もうだれもぼくのこと かまってくれないじゃないか!!」太は泣きながら叫んだ。
「先生にはオイラの気持ちがわかんないんだ 友だちがいないっていうのは 一番さびしいもんだよ」
死神くんは改めて「太くんを勇気づけてやってくれ」と頼む。今の太には生きる気力がない。気力がないと魂が拒否反応を起こし、肉体に
戻らないのだ。肉体が腐ったら、もうだめになってしまう。
「太くんはどうして 友だちができないのかなァ?」
太ははっきりと「バカでデブでウソツキだからだよ」と答えた。
「わかってんなら なおせばいいじゃない!」
だが太は「いまさらなおしたってもう おそいさ」と言う。バカ力だから普通に遊んでいてもみんなの迷惑だし、怪我させてしまうこともある、と。
「太くんなら相撲とりになれるわよ」
松沢は必死で励ました。
「太くんのおかげで みんな助かってるわ 重いものはこんでくれるもの」
が、「みんなオイラをそういうことに利用しているだけさ」と太は冷めた答え。
「だれも相手にしてくれないから ウソをつきはじめたんだ 最初はみんなひっかかっておもしろかった 最近はみんな相手にしてくれないんだ
先生だけは毎回だまされつづけたけど」
「悪かったわねェ」
そして太は自分が死んだら皆驚くだろう、と自殺の真似事をしていたら足を滑らせ下に落ちてしまったのだ。足の骨が折れたらしく、動けずに
二日の間じっとしていたら、死神くんが現れ死んじゃいけないと言ったという。
「親やクラスメートに助けをもとめたけどだれも信用してないし だれも心配なんかしていなかったよ!!」
太は涙をぬぐった。
「はじめは死ぬ気なんてなかったけど 死んでも いいやって思うようになったんだ」
「だめよ!」松沢は言った。「死んだらだめよ! 死んだら何もならないもの そうでしょ?」
「生きててもいいことないじゃないか!」
「そんなことないわ!」と松沢は自分も中学の頃はいじめられっ子だったことを話す。
やせている今とは違い、その頃はチビでデブでノロマだったのだ。
「でもウソなんかつかなかったもんね 明るくふるまって みんなと仲よくなれたわ 自分でダメだって思いこんだら何もできないもの
そうでしょ?」
太くんも暗くならずにみんなの中へ――と言いかけたところで、横の壁が突然崩れた。
「先生あぶないよ ケガするよ もう帰りなよ」
「何いってるの! あなたを助けにやってきてるのよ 先生の気持ちがわからないの!?」
そして太に体はどこにあるの、と松沢は尋ねるが、太の答えは……
「ウソだよ」
松沢はもちろん、死神くん達も唖然とした。
「このビルじゃないよ ほかの秘密基地だよ 最後までぼくはウソツキさ 先生はまただまされたんだ」
「太くん!!」松沢は力なく、その場に座り込んだ。「バカ! あんたって人は!!」
「先生もうあきらめてくれ」
「こいつは本当に生きる気力がない」
死神くんとカア助もあきらめ気味に言う。
「じゃあ…」
「霊界としては こいつの死亡をみとめる!」
カア助が宣言した。
「最後の最後でとんでもない大ウソをついちまった」
「こいつは死ぬ方をえらんだんだ」
「それに 時間的にもう助からない」
「限界だな」
そう言うと死神くん達は、太の魂と共に消えてしまった。
「バカ… ひどい…ひどいわ…」
松沢はしばらく泣いていたが、やがて涙をぬぐい、立ち上がった。と、彼女は死神くんが最後に言った言葉を思い出した。
――最後の最後でとんでもない大ウソ…
「ウソなの? 最後にいったことはウソだったの?」
太はやっぱり、このビルの中にいる! 松沢は大慌てで探し回り、ついに、崩れた床の縁に倒れている太を発見した。
確かめると、まだ息がある。
「太くんだめよ 生きるのよ 死んだら何にもならないじゃない」
松沢は必死で、重たい太の体を引きずり、病院へ連れて行こうとする。が、その時、踏んだ部分の床が崩れてしまった! そのまま下へ
まっ逆さま……と思いきや、太が彼女の腕をしっかりと掴んで止めていた。魂が体に戻ったのだ。
「あなた あなた…」
「へへへ…オイラのバカ力も役にたつんだね… オイラのために先生が死ぬなんてやだよ!」
嬉し涙を流す松沢。死神くん達もほっと一安心。と、再び床に亀裂が入り始めた。太は渾身の力を込めて、無事松沢を引っ張り上げた。
「先生 オイラガンバルよ もうウソつかない みんなと仲よくやってみせるよ」
そう言う太を、松沢は笑顔で見つめた。
そして太は元通り学校に通うようになった。
「先生 背中のボタンがはずれてブラジャーが見えてるよ!」
太にそう言われ、松沢は驚いて後ろを確かめようとしたが、
「太くん! またそんなウソを!」と彼を叱る。
「ホントだよーっ」
そう、今度は本当で、ばっちり背中からブラジャーが丸見えになっていたのでした。
嘘でなくせばいいんだな。
つまり毎回ブラの紐をはずしてからはずれてると言えば…
よし子ちゃんの足は人形とはいえ本当にとれていたんだからウソではないのでは
つまりウソ800を飲めば
校庭で倒れていたのも確かだろう。自分から倒れたわけだが。
第67話 生きがいの巻
ある夏の暑い日。
子供達に紙芝居を見せ終わり、一段落している一ノ瀬の元に幼なじみの宮田がやってきた。
仕事で近くに来たので、この公園にいるのではないかと思い寄ったのだという。
「まだこんな仕事をして生活してんのか?」
そう言う宮田に笑顔で答える一ノ瀬。彼は宮田に誘われ、彼が経営している会社に寄っていく事になった。
「いつきてもすごい部屋だな」
広く豪華な社長室を見渡して一ノ瀬は言った。宮田は俺の会社で働かないかと彼に持ちかけるが、一ノ瀬は「やめてくれよ おれには
むいてねえよ」と笑顔で断る。
「どうだ今夜食事でも?」
「い…いや いそがしいから… それにフランス料理みたいな高級品 口にあわねえんだ」
そう言ってまた一ノ瀬は豪快に笑った。
帰っていく一ノ瀬の背に、小馬鹿にしたような笑みを宮田は向けた。
「社長なんですか? 今のみすぼらしい人は?」
秘書の質問に「わしの親友だよ」と宮田は答えた。「やつがいなければ今のわたしはいなかったろう」
秘書は重役会議が始まる事を宮田に告げるが、彼は「わしの息子たちにまかせてある… わしが出なくても何も心配あるまい」と社長室に
戻ってしまう。
(なんのための社長なんだか…)秘書はあきれた。
宮田は帰っていく一ノ瀬の姿を窓から見つめた。何故真面目に働こうとしないのだと不思議に思いながら。
「そんなブラブラして どうしていつも笑顔でいられるんだ? わしのようにえらくなろうと思わないのか 今の生活で満足なのか?」
すると、
「人それぞれの人生だ いろんな生き方があってもいいじゃないか」
いきなり背後に死神くんとカア助が現れた。
「なんだお前は!? どこからはいってきた!? どうして宙にういている!? こりゃマンガか!?」
パニクってわめきたてる宮田に「マンガだよ」と冷静にツッコミつつ、死神くんは名刺を渡した。
「むかえにきたぜ」
死神くんは宮田に後二年の命だと告げる。突然のことに、言葉を失う宮田。
「のこされた人生を有意義に生きることだな」
「ふざけるな! いきなり出てきてそんなこと勝手にきめるなァ!!」
宮田は怒鳴るが「これは運命なんだ 運命はかえられないんだ 不平不満があれば いつでも出てきてやるぜ」そう言って死神くんは消えた。
彼はただ、呆然とした。
「わしが 死ぬ…? あと 2年…」
困り果てた宮田は一ノ瀬に死神くんに会い、余命宣告を受けた事を打ち明ける。幸い一ノ瀬は話を信じてくれた。
「おれは どうしたらいいんだ」
「きまっているじゃないか! のこりの人生を精一杯生きるんだよ」
一ノ瀬の言葉にあっけに取られる宮田。
「悔いののこらない人生をおくるんだ やりたいことをやればいいんだ」
そう言って一ノ瀬は「子供たちがまっているから…」と紙芝居を見せに行ってしまった。
「ちっ 能天気なやつだ おれのいったことを信じてねえな なあ 死神よ そう思うだろ?」
と言われても死神くんには「さあ…?」としか答えようがなかった。
宮田は一ノ瀬との思い出を語る。
二人は子供の頃からの仲良しで、チビで力もなかった宮田はよく一ノ瀬に助けてもらっていた。彼は背が高くスポーツマンで、勉強も出来たし、
女の子にもモテていた。
反面、宮田はコンプレックスの塊で、何をやっても一ノ瀬にはかなわなかった。やがて宮田は一ノ瀬と対等に張り合うには金しかないと
がむしゃらに働き、ついには会社を作り一代で冨と地位を築き上げたのだ。そして一ノ瀬はというと、何故か定職にもつかず、紙芝居屋を初め
その日暮らしの生活を送るようになった。
「おれは優位に立った おれはやつに勝ったんだ」宮田は笑った。「やつはおれにあうたびににが笑いさ」
が、すぐに笑いは消えた。
「金でほしいものはなんでも手にはいるが 命だけはどうにもならないのか…」
そして死神くんに「何をしたらいいんだ?」と尋ねるが「自分の人生だろ?」「そんなこと自分で考えろよ」と連れない答えを返される。
さらに、すべて満たされているからすることがない。紙芝居とはいえ、一ノ瀬さんみたいに生きがいがなくちゃ、と言われ、宮田は反発する。
「やかましい わしにだってやりたいことが山ほどあるんだ! 一ノ瀬といっしょにするな!!」
「じゃ やればいいじゃないか」
あと二年しかないんだぜ――そう言って死神くんは消えた。
「わしがやるとしたら 仕事しかないじゃないか…」
宮田は歩き始めた。ふと振り返ると、一ノ瀬が相変わらず笑顔で子供達に紙芝居を聞かせていた。
それから宮田は取引先に電話をしたり挨拶にも行くようになった。だがそれを知った息子達が「勝手なことしないでください」と彼を止める。
「社長みずから そんなことしなくていいんですよ お父さんは社長らしくでーんとかまえていればいいんですよ」
「会社のことは わたしらがちゃんとやってますから」
「社長が雑用みたいなことしないでくださいよ」
「お父さんは好きなことやってりゃいいんですよ」
わかったわかった、と息子達を部屋から出て行かせた後、宮田は気づく。
会社の事は息子達の方がよく知っている。ここ五年ほど、仕事らしい事はやっていない。やったことといえば、接待でゴルフに行ったり、
料亭やキャバレーに飲みに行ったり……仕事の虫だったはずの自分が、仕事らしい事をしなくなっている。
宮田は街へ出た。そして人ごみの中、自社のビルを見上げ、愕然とした。
「な…なんてこった わしの会社はわしがいなくても動いている 社長がいなくても運営しているんだ わしの会社は わしを必要と
していない!!」
宮田はがっくりと、肩を落とした。
死ぬまでの二年間、することがない…。死ぬ日がくるのを、ただじっと何もせずに待っていろというのか?
彼の足は一ノ瀬の下へ向かっていた。ベンチに座っている宮田に「どうした 元気ないな」と一ノ瀬は声をかける。
「バカヤロウ 元気なんか出るかよ お前はいいよ 子供たちに人気があって…」
「そりゃこういう商売だからな」
「お前は子供にとって必要な人間なんだ」
その言葉に、一ノ瀬は不思議そうな表情で宮田を見た。
「お前はこの世になくてはならない人間なんだ それにくらべておれは…」
すっかりうつむいてしまった宮田を一ノ瀬は「何いってるんだ 元気出せよ」と励ますと、新作ができたからと彼に紙芝居を見せる。
だが、いつもと変わらぬ彼の笑顔がかえって宮田をいらだたせ……
「やめろーっ」
思わず宮田は紙芝居をばら撒いた。
「一ノ瀬! どうしてお前はいつも笑顔でいられるんだ!?」
「な…どうしたんだ 宮田」
「だまれ!! お前はおれがもうすぐ死ぬから心の中で ざまあ見ろと思っているんだ!!」
「宮田…」
「おれは一所懸命働いて 金も名誉もほしいものは なんでも手にいれた お前はそれが気にいらないんだ」
「そ…そんなこと思っちゃいないよ」
「うそだ おれはあと2年の命なんだぞ! おれの気持ちがお前にわかるか!?」
「宮田…」
その時、突然一ノ瀬は小さくうめくと胸を押さえた。ふと気がつくと、死神くんの隣にもう一人、同じ格好をした子供――死神404号がいる。
「な…なんだ お前は… まさか…」
「そのまさかだよ おれと同じ死神だよ」
死神くんは言う。実は一ノ瀬は今日までの命だったのだ。
どうして俺に何も言わなかった、と言う宮田に友達に心配かけたくなかったからだよ、と死神くん。
「宮田… おわかれだ…」
「ば…ばかな! こんな…こんなこと… 死ぬのがこわくなかったのか? どうしていつも笑顔でいられたんだ?」
「ハハハ… どうしてかな?」
「自分の人生に満足しているからだよ」代わりに死神くんが答えた。「精一杯 やりたいことをやったからだよ」
「あんたとは正反対だぜ」嫌味を言うカア助。
「い…一ノ瀬 死ぬな! おれをひとりにしないでくれ お前をうしなったらおれはどうなる!? おれはお前がいたからがんばってこれたんだ
お前は友だちであり ライバルでもあったんだ」
「わがままなやつだな」「人のことさんざん悪くいっといてよーっ」死神くん達はあきれた。
「悪かった おれが悪かった だから死ぬな ひとりぼっちにしないでくれ」
そして宮田は404号に金はいくらでも出すから一ノ瀬を殺すな、と頼むが、そう言われてもどうしようもない。
「宮田…」一ノ瀬が口を開いた。「お前は立派だよ 一所懸命働いて 会社の社長さんだもんな」
「そんなことはない お前のおかげだ お前のおかげなんだよ」
「おれは夢のある仕事がやりたくて 紙芝居屋になったんだ 昔の仲間は バカにして笑うやつばかりだ しかし お前はちがった
わかってくれてたんだ」
言葉に詰まる宮田に「天国でも お前みたいな友だちができたらいいな…」と一ノ瀬。
「一ノ瀬 おれは おれは…」
「おれの分まで生きてくれ…」
そしてついに、時間が来た。
「一ノ瀬死ぬな! 一ノ瀬!」
叫ぶ宮田。と、最後の力を振り絞って、一ノ瀬が何かを言っている。
「えっ? 何?」
「か…かみ… かみ…しばい… こ…子供たちが… 待ってる…」
いつの間にか、彼等二人の周りには大勢の子供が集まっていた。
「おじさんどうしたの?」
「紙芝居のおじさん どうしたの?」
「ねえ紙芝居やってよ」
「早く見せてよ」
「紙芝居見せてよ」
「ねえ おじさん 紙芝居やってよ」
宮田は決心して、散らばった紙芝居を拾い上げた。
それからしばらくして、公園には一ノ瀬に代わって紙芝居屋になった宮田の姿があった。最近では子供もたくさん集まるようになっている。
最も、下手くそな紙芝居屋さんとして有名になってしまったかららしいが……。
「まったく父さんは一体何を考えてんだ」
「まったくだ」
遠くから父親が紙芝居を読み聞かせている様子を見ながら、息子達がつぶやいた。
「こればかりはガンとして おれたちのいうことを聞かなかった」
「ああ しかし… 生き生きしてて 実に楽しそうだな」
笑顔で紙芝居を読む宮田の姿に、死神くん達も「生きがいを見つけたようだな」とほっとするのだった。
174 :
マロン名無しさん:2009/05/28(木) 22:55:00 ID:fzq0HZti
やべえリアルに響いた
仕事の生きがいってか…
しかし2年前に告知ってのも凄いフライングだw
いつ告知するのかに何かルールはあるのかな。
5日前とかが多いような気がするが。
なんとなく老人にはわりと早めに告知してる気がする。
あと3年とか2年とか。
会社を築き上げた人でも経営を何年も他人任せにしてたら、そりゃ必要とされなくなるだろ・・
形ばかりの社長になっても当然だわ。
まぁ形ばかりの社長になって必要とされないのは本来望むところだと思うけどな
自分がいなくても正常に会社が機能するなんて中小企業の経営者の俺としては凄い羨ましいぞw
第68話 ドロボウ息子の親孝行の巻
ある晩、老人ホーム「自由の森」で寝ていたトヨさんは、枝が折れる音で目を覚ました。窓の外を見ると、大怪我をし、血だらけで倒れている
青年が。
「どうなさったのですか? そんな大ケガを…」
「う…うるせぇ」
そこへ警官が二人やってきた。何かを探し回っているらしい。トヨさんが尋ねてみると、最近この辺を荒らし回ってる泥棒を追っているの
だという。二階から足を踏み外して大怪我をしているためそう遠くへは行けないはず、と警官。
明らかに先程の青年のことだが、何故か彼女は「さっきケガをした人が この前をとおりすぎて行きましたよ」と警官に教え、それを信じた
彼等は行ってしまった。ほっとしたように微笑むトヨさん。が、青年は彼女にナイフを突きつけ、薬と食料、そして金を要求する。
その時、いきなりナイフが何者かによって叩き落とされた。
「な…なんだ〜〜っ!?」
驚く青年の目の前には子供とカラス――死神くんとカア助がいた。
「このおばあさんに手を出すな」
「予定がくるうだろ」
「おめえら一体何者なんだ! こりゃ夢かマンガか!?」
「マンガだよ」
いつものように冷静にツッコんで、死神くんは彼に名刺を渡した。
「この人はあと5日の命なんだ」
「よけいなことすんじゃねーっ」
何が一体どうなってんだ? と青年が混乱していると、騒ぎを聞きつけたホームの職員や他の入居者達が集まってきた。青年はとっさに、
トヨさんを人質にしようとするが……
「トヨさん その人は一体!?」そう職員の女性に尋ねられた彼女は「この人は… わたしの息子の太一郎ですよ」と答える。思わず背後で
コケる青年。
「あいにきてくれたんですよ」
「息子って…ナイフを持ってるじゃないの」
「リンゴをむいてくれようとしているんですよ ホラ」
トヨさんにリンゴを渡され、仕方なく剥いてみせる青年。が、
「やろう 顔を知られたからにはみんな殺してやる!!」再びナイフを構えた。すると今度は、老人達の中の一人がナイフを叩き落とした。
「あまいな若ェの ドスの構え方はこうじゃ!」
「いいぞ親分!」
周りの老人達がはやし立てた。
事務所で手当てを受ける青年。警察にチクッたらここの老人を皆殺しにしてやるぞ、と脅しをかけるが、職員の女性は「トヨさんの
息子さんに対してそんなことできませんよ」と彼女が言ったことを信じている様子。ふと、窓から他の老人達が覗いていることに気づいた
青年は「見せもんじゃね――っ!!」と彼等を追い払った。が、一人の老婆は青年を睨みつけ「出てけ!」と言い放つ。
「ここは老人の集まる場所じゃ 老人が安心して暮らせる場所じゃ 若いもんは早く出てけ!」
不思議がる青年に「ここは家族にジャマ者あつかいされていやいやきた人が多くてね 若い人をきらう人もいるのよ」と女性は説明する。
「ケッ すぐに出てってやるよ おたがいの身のためだ 警察にはいうなよ」
そして青年は用意された食事を食べるとうっかり眠ってしまい……気がついたときには朝になっていた。慌てて寝ている間に警察に
電話されてはいないかと部屋に駆け込むが、皆何事もなく普通に食事をしている。
と、老人が二人、散歩に出ようとした。青年は彼等が警察に行こうとしていると思い、「外に出るな!」とまたナイフを取り出すが……
今度は職員の女性にあっさりと叩き落とされた。
「いいかげんにおし! その気ならゆうべのうちに警察に電話してたわよ」
するとトヨさんが「太一郎や こっちへきて朝食をお食べよ」と声をかけてきた。我慢できなくなった青年が「おれの名前は良一ってんだ
親はおれを産んですぐに死んじまったよ おれは親戚にひきとられそだてられたんだ」と言うが……
「あらまあトヨさん この子 生んで死んじまったのかい」
「ええ そうですよ」……軽くあしらわれてしまった。再びコケる良一。
「若ェの 盗みならいいが殺しはだめだぞ」
夕べドスの構え方を教えた老人が良一に言った。
「ジジイ! えらそうなこというんじゃねえ!」
いつものようにすごむ良一だが、直後に彼――善吉が元ヤクザの大親分と聞かされ思わず冷や汗を流す。
「警察なんかよびませんよ」
「ケガがなおるまで ここにいなさい」
「ドロボウの話でもしてくださいよ」
皆そう言って良一を迎え入れるが、夕べ「出てけ」といった老婆だけは違った。
「そんなやつと仲よくなってどうするつもりじゃ わしらは若いもんにすてられてここにきたんだぞ! 若いもんは信用するな! 何か
あったらわしが警察に電話してやる!」
困り顔になるほかの老人達。彼女・クマさんは本当は優しい人なのだが、家族に捨てられたせいで若い人を嫌っているらしい。
「ときに若ェの 将棋はできるか?」
「あ…ああ」
良一が答えると、尋ねた老人は一局やろうと将棋盤を出してきた。全く恐れられてないことを不思議に思いつつ、言われるまま将棋を指す良一。
するとあっさりその老人が勝ってしまった。
「楽勝じゃな これでこのホームにきて700連勝じゃ 死ぬまでに千勝してやるわい!」
高らかに笑う老人に、
「うるせぇジジイ おれをなめるとぶっ殺すぞォ!!」またナイフを取り出す良一。が、やっぱり死神くんに叩き落とされた。
「このジイさんにも手を出すな」
「このジイさんは あと3年の命だ」
「ホッホッホッ ここの連中はみんな死神さんとは仲がいいんじゃ」老人は笑った。「さ もう一局やるか ん?」
「ジイさん あんた死ぬのがこわくないのか?」
良一が尋ねると老人は「そりゃこわいさ」と言った。
「あんたのナイフよりもずっとこわいよ 確実な死だからな」
今度はゲートボールに誘われる良一。するとトヨさんは彼に盗んで欲しい物があると頼んできた。
「おじいさんからもらった結婚指輪…わたしの宝物なんです わたしの家にあるんです 盗んできてくれませんか?」
自分の家なら取りに行けばいいじゃないか、と困惑する良一に善吉は言った。
「あまいな 若ェの わしら老人は 老人ホームにはいったら 二度と家には帰れねェのよォ 帰ればやれきたないだの くさいだのと
ののしられ… 暴力をふるわれることもある だから おめえさんにわざわざたのんでんだ」
他の老人達も「盗んでくれよ! 家の連中を見かえしてやるんだ」とお願いするが、クマさんだけは「若いもんがわしら老人の言うことを
聞くもんかい」と冷めた態度。
その晩。トヨさんと二人きりになった良一はどうしてそんな大事な結婚指輪を持ってこなかったのかと訊いてみる。
「いつかは家に帰れると思ってましたからね」トヨさんは言った。「でも…帰れそうもないし… その前にわたしは死んじゃうんです」
ふと良一は、トヨさんの目に涙が滲んでいるのに気がついた。
「今日はなんだかつかれちゃったよ…」
目頭を押える彼女の肩を良一は揉んでやった。
「おれ人にやさしくしてもらったの うまれてはじめてだぜ」
親戚に引き取られたときはあんた達と同じで、ののしられ暴力を振るわれたと良一。
「やさしい親がいれば こんなグレずにすんだのにな」
トヨさんはいつの間にか、静かに涙を流していた。
「ト…トヨさん」
「人に肩をもんでもらうなんて なん十年ぶりかねぇ」
それから数日の間、良一はホームの老人達と楽しい日々を過ごし、すっかり彼等と仲良くなっていた。相変わらずクマさんだけは彼を警戒して
いたが。
そして良一はついにトヨさんの家に結婚指輪を盗みに行くことにした。これで足を洗おうと決めて。家に侵入し、トヨが言っていた仏壇の
引き出しの中にある金庫を出してみるが……何故か鍵が開いている。しかも指輪がどこにもない。
その時、玄関の戸が開く音がした。本物の太一郎が妻と一緒に帰ってきたのだ。そして聞こえてきた会話に、良一は愕然とした。
「ういーっ まったく ババアのあの指輪 食事代にしかならなかったわい」
「まったく なん10万もするのかと思ったら たったの3万円よ 質屋にだまされたんじゃないの?」
「まったくあのババアなんの役にも立ちゃしねぇ 死んだら死んだで葬式代がかかるし…」
耐えきれなくなった良一は、思わず彼等の前に飛び出した。
「な…なんだ!? お前…」
「バカヤローッ」
そして思い切り、太一郎の頭を殴った。
「てめえそれでも人間かよ!!」
「な…な…」
「本当の息子のくせになんていいぐさだよ あんたの親が今 どんな思いでいるのかわかんねえのか!?」
「だれかーっ」
「強盗よ」
二人の悲鳴が、辺りに響き渡った。
そのころホームでは、トヨさんが急に倒れたので大騒ぎになっていた。そこへ良一が帰ってくる。
「トヨさん… 指輪… ホラ指輪だよ」
老人達が歓声を上げた。
「トヨさん 指輪だよ 太一郎さんが指輪をとってきてくれたよ」
その言葉に、トヨさんはゆっくりと目を開いて指輪を見、
「これは…」驚いたような表情になったが、すぐに微笑んで「太一郎さん ありがとう!」と涙を流してお礼を言った。目を瞠る良一。
「わたしのために とってくれたんだね ありがとう これで安心して死ねるよ」
そしてみんなが見守る中、トヨさんは息を引き取った。涙に暮れる一同。
「へ…へへへへ バカだよ トヨさん」
良一は泣きながら笑った。この指輪は本物ではなく、彼がアクセサリー店で買った偽物。本物は質屋にあるのだから。
「あんたはだまされたんだよ 大事な結婚指輪なんだろ 見てわからなかったのかよ」
だが善吉は「若ェの そりゃ本物だ」と良一を慰める。
「そうだよ これは本物の指輪だよ」
「あんたがトヨさんのためにと思って 買ったんだろ?」
「トヨさんをかなしませまいと思って やったことだろ?」
「トヨさんもそれがわかったのさ」
「見なよ 幸せそうな顔してるよ うれしかったんだよ」
「あんたのやったことは立派だよ!」
「この指輪は本物だよ」
良一はそっと、トヨさんの体を抱きしめた。と、
「おい そこの男!!」
背後から声が。老人達が振り返るとそこには警官が二人いた。良一はホームに帰るところを彼等に目撃されていたのだ。
「名前はなんという?」
「こっちをむきなさい」
だが良一は動かなかった。すると、
「おまわりさん わしゃあいつの正体を知っとるぞい」クマさんが警官に言った。不安になる老人達だが……
「あいつはなァ トヨさんの息子で 太一郎っていうんだ」意外にもクマさんは良一をかばった。「バカなやつじゃが 親孝行なやつじゃ」
「そうですよ 親にあいにきてるんです」
それをきっかけに、他の皆も良一をかばう。
「若いが見どころのあるやつじゃ」
「将棋がよわくてのォ」
「ゲートボールもいまいちヘタで…」
「太一郎さんに何か用かい?」
「太一郎さんはやさしいいい人だぞい」
「やめろーっ」
こらえきれなくなって、良一は叫んだ。
「どうしてみんな そんなにやさしいんだ どうしてそんなに人がいいんだ」
そして良一は、俺みたいな犯罪人とあんた等みたいないい人がつきあっちゃいけねえよ、と自ら警官の下に向かった。
「へへへ ここの老人はボケてて おれを別人とまちがえてるんだ さあ 逮捕してくれ」
悲しげな顔になる老人達。と、
「またきなよ」良一に職員の女性がそう声をかけた。「罪のつぐないをして きれいな体になったらまたきなよ」
老人達もそれに賛成する。
「あんたがいてくれて楽しかったよ」
「わしらは家族に見はなされたが あんたはちがった」
「あんたはトヨさんの息子でもあるが わしらの息子でもあるんだよ」
良一は涙ぐみ……そして言った。
「おれが帰ってくるまで みんな死ぬんじゃねぇぞ!!」
老人達は歓声を上げ、パトカーで連行されていく良一を見送った。
「ホントに親孝行なやつだな」
その様子を死神くんと、トヨさんの魂が微笑みながら見ていた。
老人ホームの人たちはみんな死神くんを知ってるのか・・・
死神くんはちゃんと魂の数が合うなら5日ぐらい早まってもいいとは言わないんだな。
なんか都合の悪い事があるのだろうか?
第69話 山を守る銃声の巻
冬――二月。
平次は妻と二人の子供・秋生と春子と共に車で町へ買い物に出、家に帰る途中だった。
「なあ父ちゃん 町の近くへひっこそうよ 買物のたびに町まで二時間もかかるなんて オラやんだア」
妻が運転しながら不満を漏らすが、「家族旅行と思えば贅沢なもんだべ」と平次はまるで意に介さない。
「毎週同じ町行って 何が家族旅行だべか」
それに父ちゃんが鉄砲を持ってるから皆怖がってる、と彼女が言うと「バカタレ! 去年のこと忘れただか」と平次は険しい表情になった。
一年前……
平次達の住む村に、ハンターに撃たれ怪我をした熊が姿を現し、暴れ回った。平次の父で猟師の正平は、さっそく銃を取り出し熊を退治に
向かうが、途中、熊が壊した建物から落ちてきた瓦礫から子供をかばい、頭に怪我をしてしまう。
平次達が不安がる中、正平さんの腕なら一発で仕留められると他の村人は言うが……その時、正平の視界が、頭の傷から流れた血で塞がれ、
銃弾は熊の左耳をかすめただけだった。そして正平は、その熊に殺されたのだ。
「おやじのかたきをこいつでとるんだ だからいつでも撃てるようにしてんだよ」
そう言う平次に「あんたが銃撃つとこなんて 見たことないだよ」と妻は言うが、平次は十年くらい前までは親父と一緒に猟師をやってて、
どんな獲物も一発で仕留める「一発屋平次」と呼ばれたもんさ、と自信満々だ。
「一発屋平次… なんかいやらしいネーミングだなあ」
顔を真っ赤にする妻に「アホかおめえは!!」と平次。
「とにかく おれっ家のまわりに ホテルだのゴルフ場ができるんだ ひっこしせんでも買物ぐれぇできるようになるだよ」
と、地響きの音が聞こえてきた……雪崩だ! 一家が乗った車は避ける間もなく、雪に呑まれていった――。
「おい」
「おい おきろよ いつまでねてるんだ」
誰かの声で平次が目を覚ますと、そこにはカラスを連れた子供――死神くんとカア助がいた。
不思議がる平次に「なんでもいい 早く家族を助けるんだ」と死神くん。平次が車の中を見渡すと、妻と春子はいるが、秋生がいない。
彼は割れた窓から外に飛び出し、気を失っていた。平次は慌てて秋生を起こすが反応がない。
もう事故が起きてから三時間が経っていて、このままでは全員凍死してしまう。平次は死神くんに助けを求めた。
「こんな場所じゃ人間もきてくれねぇ おばけのあんたにたよるしかねぇ どうしたらいいんだ!?」
「おばけじゃないんだけど…」死神くんは苦笑いしつつ「今回はそのおばけをつれてきたんだ」と、なんと正平の魂を連れてきた。
「何が一体どうなってんだ」と目を見開き驚く平次と妻。
「おれたちは あんたらを助けにきたんだ あんたたちは まだ死ぬ予定にはいってないからな」
「おれたちのいうとおりにしろ!」
死神くんとカア助に言われ、何でもするから子供を助けてくれと必死で頼む平次。すると、正平が「ここを少しほってみい」と雪の固まりを
指差した。そこは洞穴で、中に入れと正平は言う。
その通りにすると、中には冬眠している熊の親子が。しかも親熊の方には左耳に傷跡があった。
正平はお前と話がしたくて死神くんに頼んで特別に来た、と前置きし、話し始めた。
「平次よ この熊をにくんではならぬ」
「でも おやじはこの熊に…」
そう言う平次に確かに自分はその熊にやられたがもう憎んではいない、悪いのは人間の方だと正平は言う。
「知っておるじゃろ マンションだの スキー場だの ゴルフ場ができて 動物たちの住む森がどんどんなくなってきとる 人家の近くに
出てきた熊は なんの理由もなく殺された」
猟師は自然と共に生きてきた。それでバランスがとれていた。しかし今は違う。
「人間のつごうでどんどん山はけずられ 木はたおされ 動物たちは殺される なげかわしいことじゃ」
そして平次にもう動物は殺すな、と正平は告げる。
「やつらにも 生きる権利はあるんだ わしのかたきをとろうなんて考えんでもええ たのむ 山の自然を守ってくれ 動物たちを守ってくれ」
「おやじ…」
「おーっと 感傷にひたってる時間はないんだよ!」死神くんが平次をせかした。「早く子供の体をあたためるんだ! あんたにとっちゃ
にくい熊だが 今はこの熊にたよるしかない」
平次は死神くんのアドバイスに従い、秋生の濡れた服を脱がせると、親熊と子熊の間に入れてやった。
「冬眠中の熊は何をされてもわからない… 安心しな」
「静かにしていれば目ざめることはない 2、3日でむかえがくるだろう」
そして死神くん達は帰って行った。だが平次は険しい表情で銃をしっかり手に持っている。
「かまうもんか! この熊が目をさましたら殺してやる!」
それからしばらくして……秋生がついに意識を取り戻した。
「ここどこ? これ何?」
「エヘヘーッ 熊さんだよ!」
春子の言葉に驚く秋生だが、すぐに「あったかいね 気持ちいいや」と安心しきった様子。
「父ちゃん ハラへった」
その言葉に食欲があれば大丈夫だ、と喜ぶ平次。妻に買ってきた物を適当に料理するよう頼むと「よかったよかった」と秋生の頭を撫でた。
と、子熊が少し目を覚まし、春子の手を舐めた。
「あはは くすぐったい かわいい」
「春子 やめろ 小さくても相手は熊だべ」
平次は娘を咎めるが、春子は「ねえ どうして熊を殺しちゃうの?」と訊いてくる。
「あぶない動物だからだよ」と平次は答えるが、少し考え、言った。
「熊にとっちゃ 人間の方があぶないけどな」
「かわいそうだね 熊さん 人間と仲よくなれたらいいのにね」
その言葉に、平次は相変わらず銃を構えつつも何かを思った。
それからさらにしばらく経って、平次は犬の鳴き声と「おーい だれかいるか〜〜?」と呼びかける声で目を覚ました。
彼は大急ぎで家族を起こすと、穴から顔を出した。
「平次さん!! 生きとったか? 心配したぞい」
「みんな無事か!?」
捜索に来た人々と喜び合う平次達一家。と、犬がまだ洞穴に向かって吠えている。
平次はとっさに「うるせえなこの犬は!」と犬を足でこづいた。
「何すんだべ平次さん!!」
「わりィわりィ 早く病院へつれてってくれ」
そしてそれから八ヶ月があっという間に過ぎ、平次達の村も開発が始まりマンションの建設が始まっていた。
平次は銃を見つめ、もう二度と使うまいと決心するが……
「あんた大変だよ」
妻が部屋へ駆け込んできた。話を聞いて建設現場に向かうと、そこには子熊の死体が。工事現場に出てきたので皆でやっつけたのだという。
「バカヤロウ! これは子熊だぞ」平次は作業員達を怒鳴りつけた。「母熊を怒らせるようなことして どうすんだべや!!」
「んなこといっても こんなのが工事中にウロチョロされたら おちついて仕事もできねぇべや」
「おれたちに死ねっちゅーだか?」
彼等の反論に、何も言えない平次。と、今度は反対側から「熊だ!」「熊が出たぞ」と村人達の悲鳴が聞こえた。
子熊を失った母熊が怒っているのだ。このままでは死人が出る!
そして姿を現したのは……例の左耳に傷のある熊だった。村人達が逃げ回る中、平次は銃を取り出し、熊と対峙した。
「平次だ!!」
「一発屋平次だ」
「ひさしぶりに見られるぞ やつの熊撃ちが」
村人達の間から歓声と、「撃て!」「殺せ!!」という声が上がる。その様子を平次の家族が不安げに見守っていた。
「バカヤロウ どうして人前に出てきやがったんだ」
銃口を向け、熊に言う平次だが、(いや… バカヤロウは人間の方か…)と心の中でつぶやいた。
人間の身勝手な都合に彼等は振り回され、生活の場を失い、そして人間に殺される……。
平次がためらっていると、
「何をまよっている 早く撃て!」再び正平の魂が姿を現した。また死神くんに無理を言って会いに来たらしい。
「お前もわかったろう 人間の身勝手さが この熊は お前が撃たなくてもほかのやつらに殺されるだろう 早くお前の銃で楽にしてやれ」
死神くんとカア助も、まだあんたは死ぬ予定に入ってないんだ、と撃つように勧める。
「ここでうたないと あんたもふくめてほかの人間も死んでしまう!」
「そうだ!」
だが、春子と秋生が平次の足にすがり付き「父ちゃん撃たないで」「かわいそうだ!」と必死で止める。
すでに熊は、平次と一メートルとはなれていない場所まで近付いてきていた。
「早くしろ 子供まで熊に殺されちまうぞ」
「撃て!」
「殺せ!」
死神くんも村人も皆が殺せと言う。が、子供達だけは「父ちゃん撃つな!」「殺さないで!」と懇願し続ける。
そして熊が右前足を彼に向かって振り下ろそうとしたその時――。
一発の銃声。熊は脳天を撃ち抜かれ、倒れた。
「やった! やったぞ!!」
「やったぞ平次!!」
村人達は歓声を上げるが、平次は撃っていない。彼が後ろを向くと、別のハンターがいて、銃口から煙が出ていた。
「へ…へへ おれだ おれが撃ったんだ」
村人は「でかした!!」と彼を褒め称え、熊の死体を蹴飛ばし、乱暴に扱うが……
「やめろーっ」
「あ〜ん」
春子と秋生はそんな大人たちを追い払い、死体にすがり付いて泣いた。
それから少し経って……
平次たち一家は、村からさらに離れた山奥の炭焼き小屋に引っ越していた。
と、外で犬が吠え出した。とっさに平次は銃を取り、春子と共に見張りをしている秋生の元へ向かう。
「父ちゃん あそこだ」
秋生が指差した先には、小さな熊の影が見えた。
「父ちゃん早く!」
春子に言われ平時は銃を構え、そして何故か春子と秋生はそれぞれフライパンと木槌、鍋とお玉を手にした。
そして平次は……天に向かって空砲を撃った。驚いた熊が足を止める。さらに春子達がフライパンと鍋を叩き、大声で騒ぐ。
「あっち行け〜〜っ」
「こっちくるな〜〜っ」
「帰れ」平次は熊に向かって言った。「これ以上里へおりちゃだめだ!! 山へもどれ 人間の前に姿を見せるな 山の自然はおれが守る
お前たちの生活はおれが守る 山へもどるんだ〜っ」
平次はもう一発空砲を撃ち、驚いた熊は山奥へと戻っていった。
「ふう〜 今日は二発も撃っちまった」
「二発って空砲じゃないか 火薬のムダづかいだよ」
妻は不満げに言った。
「まったく ひっこしするっていうから町に出るのかと思ったら こんな炭焼小屋にひっこすなんて 何考えてんだべ」
「うるせぇな」
「ここから町まで三時間だべ いやんなっちゃう」
「大したことねーよ」
「こんな美人の奥さんが山奥にいたらもったいないべ」
「なーにぶっこいてけつかんでぇ おれは一生ここに住むってきめたんだ」
「それは勝手だけど それにつきあうわたしの一生はどうなんのよ?」
「うるせぇったらうるせぇんだよ ガタガタぬかすと離婚すっど!!」
「ああできるもんならやってみい!!」
二人のやり取りを聞きながら「またケンカしてる…」とあきれる春子と秋生。
そしてそんな様子を、
「あの男にはぜひとも長生きしてほしいもんだな」
「まったく」そう話しながら死神くんとカア助が見守っていた。
母熊をしとめるのは平次にしたほうがよかったな。
糞スレあげんな
いきなりしりみせ
本当に離婚されないんだろうか
子供たちの反応見る限り、本気でヤバいケンカじゃなさそうだから大丈夫だろ。
お母さんも大変だけど子供達も大変だ
第70話 復活の絵の巻
酒瓶と空き缶がゴロゴロ転がる部屋の中で、男は壁に寄りかかり座っていた。酔っているのか、その目はどんよりとしている。
「ちくしょう 酒がねえぞォ 金もねえぞォ」
そこへ、
「長井さーん 現金書留です ハンコおねがいしまーす」
郵便屋が届けに来たそれを大急ぎで受け取った。中身は最初から変わらず十万円。差出人も同じ、吉村健二という人物だ。
「ふん いつもでたらめな住所かきやがって 一体どこで何してんだか」
ふと、棚の上に飾られた写真に目が止まった。二十年前、吉村と一緒に撮った写真だ。
「20年… もう20年たつのか…」
長井はあの日のことを思い返した。
二十年前、長井は画家、吉村はカメラマンという夢を持ち、互いに励まし合い頑張り合う仲だった。
その日、長井はコンクールに出す絵をようやく完成させ、吉村も喜んでその絵をカメラに納めていた。
「絵のことはぜんぜんわからねーけど シロウトのおれがみても何か感動するものがあるぜ」
「おれの自信作だ 入選する自信はある」
そして二人は絵を出品するため吉村の車に乗せる。
と、長井が車を運転させてくれと言い出した。無免許じゃないか、と吉村は止めるが、今のうちから練習しなきゃと言って聞かない。
仕方なくすぐそこの交差点まで運転させてやることにしたのだが……走り出してすぐ、犬が飛び出してきた。
長井は車を止めようとして、誤ってアクセルを踏んでしまう。犬は轢かずに済んだものの、車は電柱に激突してしまった。
すぐに通行人が駆け寄り、彼等を助け出す。
「おい! 大丈夫か!? 早くおりろ ガソリンがもれてるぞ!!」
何とか車の中から引きずり出された吉村。その時、彼の目に右手に大怪我をした長井の姿が飛び込んできた。
そして次の瞬間、車は爆発。絵は車と共に燃えてしまった。
その後、二人は病院で診察を受け、幸い軽傷で済んだ。が、長井の右手は複雑骨折した上神経が切断されており、もう元には戻らないと
医師は宣告する。
帰り道、長井は「どうして おれの絵を早く外へ出してくれなかったんだ」と吉村を責めた。
「しかし…」
「うるせぇ おれの右手はもう使えないんだぞ おれにとっちゃ あれが最後の作品なんだ!!」
吉村はただ「すまん…」と言うことしか出来なかった。
「おれの人生はもうメチャクチャさ」
「おれが責任とるよ」
「どう責任とるっていうんだ!!」
「できるかぎりのことはする」
吉村は言うが、長井は「うるせぇ てめえの顔はもう見たくない」と彼を拒絶し、帰って行った。
「長井…」
長井は自動販売機の前で、改めて傷跡だらけの右手を見た。
「くそう おれの人生は一体なんなんだ どうしてこんな目にあわなきゃならないんだ!?」
すると「なんか悩みごとでもあんのか?」と背後から声がした。振り返ると全身真っ黒で、先の尖った尻尾の生えた子供――悪魔くんがいた。
「な…なんだ なんだお前は?」
「あんたに夢をあたえにきた」
「ということは 夢かこりゃ」
「夢じゃないよ あんたに3つの願いをかなえてやろう なんでもいってみな」
あまりに突拍子もない話に、これは夢だと思い込んだ長井は、面白がって「それじゃ おれのこの右手をなおしてくれるかい?」と言った。
「これで契約成立だ 3つの願いをかなえるかわりに お前の魂をもらうぜ」
「ああ 好きにしな この右手が元どおりになったら…」
そう言って右手を見て、長井は驚いた。傷跡が消えている。そればかりか、手指を自由に動かすことが出来る!
「信じてもらえたかい?」
「お…お前一体…」
唖然とする長井に悪魔くんは改めて自分は悪魔だと自己紹介し「あとふたつ願いがかなう… よーく考えてつかうんだな」と言って消えた。
長井はもう一度、確かめるように右手を動かした。
「動く 動くぞ 右手がなおった」
長井は大はしゃぎで自宅に帰り、久々に画材を取り出した。そして何か描こうとカンバスに向かうが……その手は動かなかった。
今更画家になんか……という思いから、意欲もやる気も湧いてこない。20年という月日は長すぎた。
ふっと、脳裏に吉村の顔が浮かんだ。
(やつのせいで おれは… そうだ! やつにあおう そして…そして)
「復讐かい?」
またいきなり声をかけられ、長井の思考は中断した。
「な…なんだ また悪魔か?」
今度は死神くんとカア助が来ていた。名刺を渡され相手が死神だと知り「おれになんの用だ?」と長井は尋ねた。
「ある人にたのまれてね」
「あんたに あいたがっている だからさがしまわってきたんだ」
「おれに…」長井はハッとした。「吉村か? そうだろ 吉村だろ?」
「ああそうだ 吉村さんがあんたにあいたがっている」
「しかし 今のあんたじゃあわせるわけにはいかんな」
カア助が言った。
「ゴタゴタがおこるより 静かに死なせたいからな」
「死ぬ…?」長井は驚いた。「吉村が死ぬのか?」
その時、悪魔くんが現れ「またおれの仕事じゃましにきやがったな」と死神くんを蹴飛ばした。そのまま取っ組み合いの喧嘩になる二人。
と、長井が「吉村はどこだ? 今どこにいるんだ?」と訊いてきた。
「それがふたつめの願いか?」
「そうだ! 吉村はどこにいるんだ!?」
「よせ! そんなことでふたつめの願いをつかうんじゃない!!」そう言う死神くんを構わず足蹴にし、魔法で探し始める悪魔くん。が、
「やめろ! おれがあの人にあわせてやる!」あっさり死神くんに止められた。
電車の中で「いいか 変なことしたらただじゃすまないからな!」と長井に釘を刺す死神くん。悪魔くんもくっついて来ていた。
「吉村はいつ死ぬんだ」
「あと3か月の命だ」
そしてアパートに着くと、吉村は薄暗い部屋の中で床に臥していた。随分痩せて、頬もこけている。
吉村は長井の右手に傷がないことに気づき「なおったのか?」と尋ねる。
「ああ動くよ なおったんだ しかし役にたちやしねえ 絵を描くことをやめたおれにとっちゃ この右手はもういらないんだよ!!」
長井は怒りに任せて「きさまのせいだ!!」と吉村を殴ろうとするが死神くんに止められる。
と、吉村が「なぐりたいのなら好きなようにしてくれ… その前に… おれの描いた絵を見てくれないか?」と言い出した。
訳がわからないまま長井は隣の部屋を見……呆然とした。
そこには、あの時焼けてしまったはずの絵があったのだ。タッチも色使いもまったく同じ、二十年前の絵が、確かにそこにあった。
「お前なら1か月で描けただろうが… おれは20年かかったよ」
よく見ると、壁や床にあの時、絵を撮影した写真がある。
「おどろいたか?」死神くんが言った。「彼は20年間 この絵を描きつづけたんだ」
何百回、何千回と失敗を繰り返し、絵を描き続け、その間も働いたお金を長井の元へ送金し続け……ついには身も心もボロボロになり、
寿命を縮めてしまったのだ。
「彼は20年間努力してきた… 何もしなかったお前とはちがうんだぞ! お前は毎日酒飲んでグチばかり…」
「説教はやめろっつ――んだ!!」
悪魔くんは思い切り死神くんを殴り飛ばした。
「人のことはどうだっていいんだ それより うらみをはらすんだろ?」
長井は何も言わなかった。
吉村は「これでゆるしてもらえるとは思っちゃいないが この絵をうけとってくれ…」と長井に言う。
悪魔くんは「画家になる夢をこわされたんだ にくいだろ?」と復讐するようそそのかすが、カア助が「吉村さんだって 夢をすてたぞ」
と反論する。
「カメラマンになる夢をすてて この絵を描きつづけたんだ そもそも あの交通事故もお前が原因で…」
「やかましい!!」
再び死神くんを殴る悪魔くん。すると、それまで黙っていた長井が口を開いた。
「もらっていくよ」
驚く悪魔くん。
「この絵もらうよ この絵を どうしようとおれの勝手なわけだ そうだろ?」
「ああ」
吉村は頷いた。
「どうするつもりだオイ!」
死神くんが訊くが、長井は黙って帰っていった。
「ひどい友だちをもったな」
死神くんは言うが、吉村は微笑んで「満足だ 心おきなく死ねるよ」とつぶやいた。
帰り道、長井は「吉村の死はもうきまりなのか?」と悪魔くんに尋ねる。
「死神がついているからな きまりだね 助からないよ」
それを聞くと長井は吉村の病気を治してくれ、と悪魔くんに頼む。
「アホか! おれはお前自身のための願いをかなえてやるんだ 他人のことに関する願いごとはかなえられねーよ!」
「たのむ! 1日だけでもいい 吉村を元気にしてやってくれ」
何故か涙ぐむ長井に、唖然とする悪魔くん。
「ちっ 何を考えてやがんだ」
それから少し経って、吉村はいきなり長井に美術館に呼び出される。長井の体調も、何故かその日は健康そのものだった。
「行こう! みんな待ってる」
「みんな…?」
不思議に思って中に入ると、吉村は記者達に取り囲まれた。
「吉村さんですか?」
「吉村さんですね!? おめでとうございます」
ますます混乱する吉村。と、正面の壁にあの時長井が持っていった絵が飾られていた。「日本近代美術コンクール 大賞 吉村健二」という
札と共に。
「みなさんまってください ちがうんです この絵は…」
吉村は弁解しようとするが、長井は「お前の絵だ! お前が描いた絵だ そうだろ?」と主張する。
「長井…」
「いや 実にすばらしい力作ですな 審査員全員が絶賛してますよ」
審査委員長らしい、長い髭をたくわえた老人が言った。
「この絵には 作者の数十年にもおよぶ 思いいれがかんじられます 制作にはどのくらいかかりましたか?」
「20年です」長井が言った。「彼は20年かけて この絵を描いたのです」
記者達の間から歓声が上がった。
「すばらしい」
「見事だ!」
「よかったな 吉村よかったな」長井は泣いた。「うれしいよ おれうれしいよ」
「長井…」
すると記者が「今後の活動について何かひとこと」と吉村にマイクを向けた。
「……………… すみません… わたしはこの絵しか描けないのです」
吉村の答えに、記者たちは目を丸くした。
「もっとも この絵が描けたのも親友である彼のおかげです」
吉村はそう言って長井を示した。
「この絵は 彼と私の共同制作といえるものです わたしはもう 描くことはないでしょう これからは 彼が作品をのこしてくれるでしょう
これからの 彼の活躍に期待します」
長井は再び、目に涙を滲ませ「吉村…… すまん おれをゆるしてくれ」と詫びた。
「バカなおれをゆるしてくれ わがままなおれをゆるしてくれ」
二人は泣きながら、しっかりと抱き合った。
それからしばらくして、吉村は亡くなり、その死は「期待の新人急死」と新聞にも取り上げられた。
そして町には、再び絵筆をとりカンバスに向かう長井の姿があった。
「ヨオ やる気をおこしたのか?」
死神くんが声をかける。ふと、長井が治った右手ではなく、左手で絵筆を持っていることに気づいた。
「なんだよ 右手使わないのか?」
「せっかくなおしたのに」
長井は悪魔の力を借りずにやりたいから、と答える。
「何年かかろうともおれはやる 吉村がそれをおしえてくれたんだ」
「いいことだ 立派だよ」
「やつもあの世でよろこんでるだろう」
二人の言葉に長井も笑顔になった。
「しかし悪魔のやつが吉村を元気にするなんて…願いごとを聞きいれるなんてな」
「いいとこあるじゃねーか」
そう話しながら霊界へ帰っていく死神くんたちを見て、悪魔くんは「うるせぇ」とつぶやいた。
悪魔くんも、もっと早く長井を見つけとけば邪魔される事もなかっただろうに
死神くんも言ってるけど、絵を失ったのも右手ダメにしたのもほぼ100%自分のせいなのに、吉村を恨むのはお門違いだよな…。
無免許で事故とか擁護しようもないわ
第71話 ひとり歩きのクリスマスの巻
年末。
クリスマス間近でにぎわう街中を、死神くん達は仕事で飛び回っていた。
年末進行で魂の不足分も補わなくてはならないし、棚卸や決算もある。
そこへ、別の霊界カラスがカア助の元へ飛んできた。カア助の弟分で、死亡予定者の身辺調査をして、彼に報告しに来たのだ。
「おれも以前 この仕事をしていたが できの悪いおめえの身はり役になっちまった」
「おめえはひとこと多いんだよ」
カア助はざっと書類を見ると、「問題ないだろ 霊界に提出しておけ」と弟分に返した。が、
「おいこら そんないいかげんなことで人間の生死がきまってんのか」死神くんは不満げだ。
構わずカア助は死亡認定書を作成して霊界の承認を得るよう弟分に言うが「ちゃんと確認しろよ」と死神くんは文句を言う。
カア助はこれは俺達霊界カラスの仕事だ、口出しするな、と言うが、死神くんは書類のうち、少女の写真が載っているものを示して言った。
「この子は納得できないね 不治の病ということだが 死ぬときまった病気でもないぜ」
カア助はあきれて年末は忙しいんだ、テキパキ仕事しようぜ、と言うが、認定書の提出期限が12月24日の20時だと知ると「ギリギリまで
おれが再調査してやる」と彼女の元へ向かった。
「やれやれ やつはすぐ感情的になるからな」
死神くんが少女が住んでいるアパートに行くと、腹話術の人形を持った男性がいて、楽しそうに話している。
とても報告書にあったように生きる気力がないようには見えない。
カア助は改めて報告書を読み返した。それによると少女の名は栗田聖美。男性の方の名は柴田誠一郎。
二週間ほど前、彼が小児病棟に腹話術で慰問に来た時に知り合ったのだ。
「彼女はどうして生きる気力がないんだ?」
カア助が尋ねると弟分は看護婦の話を立ち聞きしてしまったから、と答える。車椅子で移動中、看護婦達が待機している部屋の前を
通りかかった時だった。
聖美の病は不治の病で、原因も治療法もわかっていない。次第に体力が衰えて動けなくなり、助かる見込みは10%以下……彼女は慌てて
部屋から遠ざかり、泣いた。
「その時はその時で 今はちがうだろ」死神くんが言った。「彼氏ができてうれしいはず おにあいのカップルだ」
が、弟分は男の方も病気だ、と言う。彼の場合は心の病だと。
「やつの心の病気ってなんだ?」
「見てわかりませんか?」
そう言われて、死神くんは気づいた。さっきからしゃべっているのは人形の方だけで、彼自身は一言も声を発していない。顔も無表情だ。
人形が彼の代わりになってしまっているのだ。
「彼女は 親も親戚もいない かわいそうな身の上なんです 人形より 人間がはげましてくれれば彼女も なんとかなるかもしれませんが…」
弟分のその言葉を聞いてカア助は「よく調べあげたな 霊界に死亡認定書を提出だ」と言うが、
「ちょっと待てといってんだろ!!」死神くんがそれを静止した。
「おい いいかげんにしろ お前は人間に対してすぐ感情的になる 目を覚ませよ」
カア助はあきれて言った。
不治の病で、生きる気力がなく、自殺もしかねない。身寄りも友達もなく、頼りの彼も情けない。死んだほうがいいって場合もあるんだぜ、と。
だが死神くんも彼女が死んだら誠一郎も生きる気力を失うかもしれない、死亡予定者でもないのに死んだらどうする、と反論する。
そう言われてはカア助も口をつぐむしなかった。
「聖美ちゃん もうすぐクリスマスだね!」
人形が楽しそうに聖美に話しかけた。
「オイラ聖美ちゃんのためにプレゼント用意してあるんだ」
「ホント!?」
「早く病気なおるといいね! 病気がなおったらさあ… デヘヘ… オイラとデートしてください!」
笑顔で言う人形。だが、聖美の目からは涙が零れた。
「あれっ どうしたの聖美ちゃん どうして泣くの!? ねぇ 聖美ちゃん」
やはり彼の腹話術は、聖美にとって何の慰めにもなっていないようだ。その後、誠一郎が人形をしまって帰る時、聖美は「あの…」と声を
かけてみるが……
「なんだい聖美ちゃん」
誠一郎はすかさず人形を取り出し、彼に返事をさせる。聖美は「ううん なんでもない」とがっかりしたように俯き、死神くん達も肩を
すくめた。
誠一郎は腹話術研究所の先生の元へ言って、自分の腹話術を披露していた。
先生に君の人形は生きている、私より上手に使いこなしていると言われ、笑顔になる誠一郎。が、
「しかし… きみ自身が何もしゃべらないのはどうしてかね?」やはり自分が何も話さないことを指摘される。
「人形ばかりがしゃべって きみとの会話のやりとりがない なにか きみは 自分のいいたいことをその人形に 代弁させているのじゃ
ないのかね? そんなことじゃだめだ きみが人形になってしまっている」
帰り道。「まったく先生の言うとおりだ」と誠一郎は声をかけられる。
振り向くと、そこには死神くん達が。名刺を見せられた誠一郎は……
「なんだお前は!? 死神がなんの用だ!?」
また人形に会話をさせ始めた。「やれやれ 先生にいわれたばかりだろ」とあきれる死神くん。
「お前 聖美ちゃんのこと好きなんだろ」
「な…なな いきなり何をいうんだ!! 失礼じゃないか!!」
「お前じゃなく 本人に聞いているんだ」
「うるさい! おれたちは一心同体だ 同じ考えを持っているんだ!」
「あっそ じゃ はっきり言おう 聖美ちゃんもうすぐ死ぬぜ」
その言葉に、さすがに人形も黙った。死神くんは続けた。
聖美ちゃんは生きる気力がない。霊界としては彼女の死を認めざるを得ない。死亡認定書を提出すればもう変更は出来なくなる、と。
「今 彼女に必要なのは勇気づけてくれる人間だ 人形じゃない」
「う…うるさい」
「とにかく彼女をはげましてやってくれ 人形じゃなく お前の口でな!」
死神くんが去った後、誠一郎は呆然とつぶやいた。
「死ぬ… 聖美ちゃんが…」
ただ立ち尽くす彼を、
「元気だせよ」人形が慰めた。
「やつの心の病気も重症だな」
死神くんがその様子を見ながら言った。
「やつは人形といっしょでなければ生きていけないのさ」
カア助も言う。自分の明るい性格をすべて人形につぎ込んでしまった。やつはただの暗い目立たないやつさ、と。
「それはそうと おめえ 関係ない人間に 姿を見せるのは 規則違反だぞ 始末書もんだぞ」
「始末書ぐらい なん枚でもかいてやるさ」
次の日も聖美に会いに行く誠一郎。楽しく会話をしつつも、誠一郎は死神くんに言われたことが気になって仕方がなかった。
(聖美ちゃんが死ぬ… うそだ…)
と、聖美が「ねぇ お願いがあるんだけど…」と話しかけてきた。
「なんだい? オイラにできることならなんでもするよ」
「わたし 友だちがほしいの!」
―― 一瞬の沈黙。人形は笑って「なぁんだ それならぼくがいるじゃないか!」と言うが、聖美は言う。
「ううん わたしは人間の友だちがほしいの!」
再び流れる沈黙。死神くん達が外から「聖美ちゃんの本心がでたぞ がんばれ!」と応援するが……
「オイラ 身も心も人間だよ オイラじゃダメっていうのかい? オイラ かなしくなっちゃうな」
結局誠一郎は口を開かず、人形にそんな台詞を言わせて泣かせる始末。慌てて「あっ ごめんなさい 気にしないで!」と謝る聖美。
再び肩をすくめる死神くん達であった。
そしてイブの日。プレゼントを持って聖美の元へ向かう誠一郎に、死神くんは言う。
「最後のチャンスだ 今夜中に彼女を生きる気にさせろ でなければ彼女の死は決定だ」
「だまれだまれ 彼女に手をだしたらおれがゆるさねえぞ!」
相変わらず人形を通して会話する誠一郎。そんな彼を「彼女は人形とじゃなく 人間と話がしたいんだ」と死神くんは諭す。
「もっとも あやつっている人間も 人形みたいなやつだけどな」
その時、
「おれは人形じゃない!」初めて誠一郎が、自分の口で反論した。
「はじめて自分の意見をいったな」
「それでいいんだ それが普通なんだ」
ひとまず引き上げる死神くん達。やがてチラチラと、雪が降り始めた。
「ホワイトクリスマスだ ロマンチックだねぇ」
笑顔で死神くんは言うが、カア助はむすっとしていた。
「彼女の気持ちはかわってない 生きる気力がない 何をやってもだめさ 時間もないしな」
「ドンデン返しがあるさ」
そして聖美とのパーティーが始まった。
「メリークリスマス 今夜はホワイトクリスマスで メチャンコステキな夜だね!」
「そうね…」
「まずはシャンペンでカンパイだ!」
グラスをとる聖美の姿に、誠一郎の脳裏に死神くんの言葉がよぎった。
――生きる気力がない 今日中に何とかしろ
――お前は人形だ
とりあえず人形は聖美にプレゼントを渡した。
「デヘヘヘ はずかしいな オイラ女の子にプレゼントするのは生まれてはじめてさ」
聖美が包みを開けると、中には花柄の綺麗な服が入っていた。
「わあ ステキ ありがとう!」
「エヘヘヘ 早く 車いす生活とおさらばしたいもんだね!」
すると、たちまち聖美の表情が曇った。
「去年まで ちゃんとあるけたんだけど… わたしね… もうだめなのよ」
「な…何をいうんだい聖美ちゃん!!」
人形は焦った。
「わたしの病気はもうなおらないのよ」
「聖美ちゃん 元気だして!」
「だめなのよ 体がいうことをきかないのよ」
ついに彼女の目から涙が零れた。
「だめだよ聖美ちゃん」
「わたしは死ぬのよ」
その時、窓が開いて死神くんが入ってきた。
「だめだったようだな」
不思議がる聖美に、死神くんは名刺を渡した。
「死神… 死ぬのね わたし死ぬのね」
「やめろ――っ」
人形が叫んだ。
「やい てめえそれでも人間か!!」
「死神です」
「カラスです」
「人形はだまってな」
「てめえはなんの役にも立ちゃしねえ」
「だまれ オイラは人間と同じだ オイラは人間だ!!」
すると死神くんは「それを聞いて安心した」と「今日死んでもらうのはお前だ」と人形を指差した。
「お前がでしゃばるから 柴田くんが非常に迷惑している」
「だから ここはひとつ彼のために死んでくれ」
「な…何をバカなことを! やめろ よせ!」
人形は必死で「こいつはオイラがいないとだめなんだ! こいつはオイラがいないと何もいえないんだ!!」と訴えるが、死神くんは冷静に
「柴田くんは病気だ」と言い放つ。
「ひとりぼっちという病気だ これをなおすには 人間の友だちが必要だ 人形のお前はジャマなんだ」
そして死神くんは人形を取り上げると「悪いが 死んでもらうよ」と……
「やめろーっ」
誠一郎の絶叫が響く中、人形を床に思い切り叩きつけた。
「死んだよ」死神くんは言った。「今日から お前は一人で生きていくんだ」
「自分の考えたことを 自分の口でしゃべるんだ 自分の体で行動するんだ」
「それが普通なんだ」
そして、死神くん達は消えた。
しばらくして、ようやく誠一郎が口を開いた。
「ボクはダメな男さ 友だちがいないから こんな人形を友だちがわりにしてきたんだ 人形相手に ひとりふた役をこなしてきたんだ」
そしてこの人形みたいに、何でも話せる人間になりたかった、自分の理想をこいつに求めたんだ、と誠一郎は語る。
「趣味で始めた腹話術だったけど… 死神のいうとおり 病的なものになっちまった」
そして床に落ちた人形を抱きしめ、泣いた。
「もうひとりのおれは死んじまった もうだめだ」
すると、それまで黙っていた聖美が「病気をなおしましょう」と言った。
「あなたの病気は友だちがいればなおるのね わたしも友だちがほしかったし…ちょうどよかったじゃない」
誠一郎ははっとした。聖美が、震える足でしっかりと立っている! ふらつき倒れそうになる彼女を、誠一郎はとっさに支えた。
「わたしは人形より あつかいにくいわよ」
「よかった 彼女の死ぬ気がなくなり生きる気力がわいてきました これで安心です」
弟分が笑顔で言った。
「どうだ みごとなドンデン返しだろ」
「ふん」
ふと死神くんがもう20時を過ぎている事に気づく。早く霊界に報告を……と思ったら、すでにカア助は霊界に「延命認定書」を提出していた。
「だろうと思って 全然気にしてなかったよ カア助のやることはよくわかる」
照れたカア助は死神くんに突っかかる。その様子を見て弟分は「ふたりは名コンビですね」と褒め、去っていった。が、
「てめ この!」
「やんのか てめ!」
まだ二人の喧嘩は続いていました。
人形が可哀想だ
216 :
l:2009/06/10(水) 00:49:04 ID:MQMvZEsE
決算やら棚卸しやらって、なんだか普通のサラリーマンみたいなセリフだな。
腹話術の人形って結構高いって聞いたけど…
それをあっさり壊せる死神くんって…
でもああでもしないと誠一郎はずっと表に出てこないままだったろうしなあ
人の一生とは比べものにならないほど安いよ
第72話 千秋楽結びの一番の巻
三日月の夜。一人の力士が公園で首つり自殺をしようとしていた。が、
「こらあ〜っ!!」
突然現れた子供とカラスに怒鳴られ、尻餅をついた。
「な…何者だ?」
尋ねる彼に子供――死神くんは名刺を渡した。驚く力士に死神くんは説明する。人間の魂を抜き取り霊界へ運ぶのも仕事だが、死ぬ予定でない
人間を見張るのも仕事だ、と。
「いいか おまえは今 死ぬ予定じゃないからな」
「バカなことはするな!」
止める二人にその力士――茂木山(もてぎやま)は理由を話し始める。
昔デビューした頃は学生相撲日本一になったこともあり、色々と期待されていた。その後も順調に幕下優勝、十両昇進。
結婚して子供も出来、ついには大関にまで昇進、横綱になるのも夢じゃないと言われた。
が、ある時足を怪我して休場。その後復帰したものの負け越しばかりで、ついには前頭六枚目にまで落ちてしまった。
故郷の母は「もう年なんだから そろそろ引退したらどうだい?」と電話してくるし、親方も「もう あんまり無理するんじゃね――ぞ」と
それとなく引退を勧めてくる。
おまけに息子の太郎からも「父ちゃんなんかキライだ」と言われる始末。いつも友達にお前の親父はてんで弱い、とバカにされているからだ。
「オイラ 父ちゃんに にて 太っているから 足がおそいしモテないんだ オイラには自慢するものが何もないじゃないか!」
そう泣く太郎に弟弟子達は相撲取りにならないか、と勧めるが、
「相撲なんか大っきらいだ――っ!! 父ちゃんもキライだーっ!!」
そう叫び、泣きながら家に帰っていった。
もちろん彼だって引退を考えた。しかし自分には相撲しかない。自分の人生は相撲のためにあるようなもの。それを取ったら何も残らない……。
母親の期待にも応えられず、子供にも嫌われ、もう死ぬしかないと思ったのだ。
死神くんは「相撲だけが人生じゃないぜ 元気だせよ」と茂木山を励ました。
「とにかく自殺なんて考えるんじゃない 自殺しようとしたらいつでもジャマしにくるぜ」
仕方なく茂木山が部屋へ戻ると、弟弟子達が「親方がさがしてましたよ!」と伝えてくる。
さっそく親方の元へ向かうと……なんと千秋楽で横綱の千代乃藤と対戦することになったと告げられる。
本来の相手であるもう一人の横綱・北海山が怪我で休場し、他の力士はすでに対戦しているため彼しか戦う相手がいないのだ。
「勝てる相手じゃないが はずかしい相撲とるんじゃないぞ!」
まだ呆然としている茂木山に、親方は言った。
部屋を出ると、弟弟子達がひそひそとささやきあっていた。
「勝てるわけねェよな」
「横綱の全勝優勝は決定だな こりゃ」
それを聞いてまったく横綱なんかに勝てるわけない、とますます気分が落ち込む茂木山。そこへ妻から電話がかかってきた。
「あのね いい物件があったのよ! 場所も駅の近くで家賃も安いのよ 相撲やめたら そこでちゃんこ料理屋でも…」
茂木山は黙って電話を切った。
(やっぱり死ぬしかないか…)
そう思ったその時、すかさず死神くん達が現れた。茂木山は「もうわしにかまわないでくれ」と死神くんに怒りをぶつける。
「こんな思いをするのはもうたくさんだ!! 死んだ方が楽なんだ わかってくれ!!」
だが死神くんは解決策が一つある、と言う。それは千秋楽で横綱に勝つこと。奮起して、また相撲人生を歩めばいいとカア助は言うが……
「勝てるわけがない 相手は全勝優勝しようとしているんだぞ わしは負けこし おまけに足もケガしている 勝てるわけがない」
と、完全に弱気になり、何も考えたくない、死んだ方がましだという彼に、死神くんは言う。その後どうなる? と。
「のこされた家族 故郷の母親 親方… 弟弟子達… おまえが死んだらみんなショックをうける… 自殺者がでたなんて問題がおきたら
部屋はつぶれるかも 母親も悲しむ」
そして、一番つらいのはおまえの奥さんだぞ、と死神くんは言う。
「子供のために働かなくちゃならない 子供もグレるかもな…」
さすがに返す言葉もなく、茂木山は黙り込む。
「自分で負けると思ってちゃあ 勝てる試合も勝てないさ」
死神くんは消えた。
それから茂木山は、千代乃藤の取り組みをビデオを見て研究したり、稽古にも熱を入れるようになる。
そして千秋楽当日、茂木山は太郎を近くの川の土手に呼び出した。
「何だよ父ちゃん 話って…」
「太郎… 太郎は父ちゃんきらいか?」
太郎は少し考えてから、答えた。
「前は すきだったよ やさしくて強くてカッコよかった でも今は… 足をケガしてからは… 暗くなっちゃったし あそんでくれないし
てんで弱いんだもん」
そして「今日は横綱とやるんだろ? 大丈夫?」と太郎は父に訊く。茂木山は「ああ 勝ってみせる」と言った。
「ホント?」
「ああ 勝ってやるとも! 父ちゃんは 横綱になるのが夢だったんだ!」
「ケガ 大丈夫?」
「ああ このケガを逆に利用してやる それが作戦さ」
「本当だね!? 本当に勝ってよね」
「ああ だから応援してくれよ」
太郎は大はしゃぎで家に帰っていった。茂木山も笑顔になる。
「死神の言うとおり がんばってみるか」
もうまもなく千秋楽結びの一番が始まろうとしていた。
国技館の枡席には、茂木山の母と妻、そして太郎と妹の姿があった。
「あの子がどうしても見にこいっていうから きてみたけど… 何かあるのかねェ」と母親は不思議がる。
「引退するつもりなのかねェ」
「そうねェ」
「もう無理せずに 楽な仕事についてくれればいいけど」
「あの人のちゃんこ とてもおいしいの だからお店でも…」
「お父ちゃん また負けるの!?」
そんな会話を交わす一行。だが、
「千秋楽の結びの一番が 横綱と茂木山かい なんだかはりあいのない一番ですな」
「結果が見えてますな」
そう話す後ろの観客を思わず睨みつけ、客はびびってしまった。
「どうだ 調子は?」
土俵際にいる茂木山に、死神くんが声をかけた。
「勝てるか?」
「わからん とにかく一所懸命やるしかない 死神よ 応援してくれ」
が、相変わらず「負けたら自殺すっど」という彼を「おいこら!!」と怒鳴る死神くんであった。
「はっけよい のこったのこった!」
ついに取り組みが始まった。早々に喉輪で土俵際まで追い詰められる茂木山。が、うまくかわして土俵づたいに走り出す。
すかさず千代乃藤が追いかけようとするが、茂木山はそれを利用してまわしを取った。劣勢になった千代乃藤は茂木山の怪我した足を狙う。
一瞬、体制が崩れ茂木山もまわしを取られた。
「きたねェぞ横綱!」
思わず叫ぶ太郎。死神くん達も「がんばれ!」と応援する。
それから何度も投げられそうになる茂木山だが、そのたびに踏ん張って耐えた。
「やるじゃねえか茂木山」
「いいぞ」
観客達も「ガンバレーッ 茂木山ーっ」と彼を応援し始める。だが、茂木山の力はもう限界ギリギリだった。
(いや…まだチャンスはある… さあこい もう一度……)
そしてそのチャンスが来た。千代乃藤が再び足を狙ってきたのだ。すかさず自分の足を絡めて止め、そのまま投げに入る!
が、怪我した方の足に体重をかけたため痛みが走った。その隙に千代乃藤が離れようと肘をぶつけてくるが……
「負けてたまるかあ!!」
そのまま強引に投げを敢行! 二人はもつれ合って土俵下に落ち……軍配は千代乃藤に。
物言いもつかず、千代乃藤の全勝優勝が決定したのだった。
座布団が飛び、大きな歓声が響く場内。奥へ向かう茂木山の前に、死神くん達が現れた。
「死神よ 安心しな 自殺はやめたよ なんかふっきれたよ」
笑みを浮かべる彼に「いい相撲だったぞ」と死神くん。そこへ、親方がやってきた。
茂木山は彼に、足はもうだめみたいだから引退します、と告げる。
「そうか…… 残念だな いい相撲だったぞ」
「負けちゃったね」
「けど いい相撲だったわ」
枡席の母親と妻も感動していた。「きてよかった…」と母は涙を流す。と、突然太郎が大声で笑った。
「とうちゃんのうそつき! 勝つっていったくせに! 横綱になるっていったくせに!!」
その晩、茂木山は部屋の入り口を感慨深げに眺めていた。もうここへ来ることもないのだ。
それより息子に合わせる顔がない、どうしたものか……と悩んでいると、中から稽古している声が聞こえてきた。
誰かと思い窓の隙間から中を覗いてみると……なんと太郎だった!
「大丈夫か? 太郎くん」壁にぶつかった彼を心配して、相手の弟弟子が声をかける。「しかしどうして急に相撲を……?」
太郎は立ち上がると、胸を張って言った。
「オイラ…… オイラ相撲とりになる! 横綱になってみせる!! 父ちゃんのはたせなかった夢を オイラがはたしてやる!!
オイラがやらなきゃだれがやるんだ」
そして再び弟弟子に向かっていく太郎。何度投げ飛ばされても向かっていく息子の姿に、茂木山は涙を流した。
妻子が居るのに死ぬしかないとか
何考えてんだこいつ
うつ病か
とりあえず半年何も考えずに休め
第73話 命のザイルの巻
ある冬の日。二人の男が吹雪の中登山していた。
「今日が死亡予定日なのに 山のぼりかい?」
後ろを歩いている男・露崎に、そう死神くんが尋ねる。
「死神よ…おれは死に場所として山をえらんだ 親友の野田といっしょにな 彼に見とどけてほしいんだ」
二人は岩壁の前に到着した。やがて吹雪はやみ、二人は少しずつ、順調に絶壁を登っていった。
「大丈夫か? 露崎」
後ろにいる野田が、露崎に声をかけた。
「あ…ああ ひさしぶりの山で少し緊張ぎみだがな おまえは 山のぼりが仕事だからいいけどな」
「おいおい おれの仕事は 写真をとることだ 山岳写真家といってほしいな」
「うらやましいよ 自分のすきなことを仕事としてやっていられるんだから」
「犠牲も大きかったがな…」
すると露崎が「香織と康平のことだが…」と恐る恐る口を開いた。
「ん…ああ ふたりは元気か?」
「相談したいことが…」
と、上から小石がパラパラと落ちてきた。それに続いて、大きな岩も。
露崎はとっさに腕でガードするが、落石は彼を直撃し、岩壁から手を離してしまった。
「露崎!!」
野田はとっさにザイルを腕に巻き付け、露崎が落下するのを防いだ。
「大丈夫か露崎!! しっかりしろ!!」
ふと、露崎は気づいた。二人分の体重を支えているせいで、ハーケンが外れかかっている。このままでは二人とも死んでしまうだろう。
露崎は子供達に届けてくれ、と一通の封筒を渡すと、
「露崎! 何をする やめろ!!」
野田の制止も聞かず、自らナイフでザイルを切り、遙か下へと落ちていった――。
それから五年後。やはり吹雪の中、同じ登山道を歩く三つの人影があった。
先頭にいるのは野田。後ろの二人は露崎の子供・香織と康平だ。
(あの事故から5年か… おれはまたやってきた)
「なーんて のん気なこと考えてる場合じゃね――ぞ!」
感慨にふける野田の前に、死神くん達が現れ忠告する。
「死神か… おまえたちもしつこいな 露崎の時もそうだったのか?」
「あのな〜〜」
「この状況を どう考えてんだよ!!」
あきれたように言う二人に、露崎の子供達が父親の死んだ場所へ行ってみたいと言うから、案内してやってんだ、と笑顔で野田は答える。
が、死神くんは告げる。二人の本当の目的は、あんたを殺すことだ、と。
二人は父親を見殺しにした野田を憎み、仇をとろうとしている。おまけに皆誰にも知らせずに山に登った。ここで殺人があったとしても
目撃者はいないし、知るものもいない。完全犯罪が成立する。さらに……
「あのふたりは あんたの実の子だ!!」
死神くんの指摘に「よくしらべたな」と感心する野田。「たしかに おれの子だ」
学生時代。野田と露崎と、そして後に彼の妻になる小夜子とは仲が良く、いつも一緒にいた。
二人とも小夜子に惚れていて、ほぼ同じぐらいの時期に小夜子にプロポーズをした。小夜子は野田を選び、二人の間に出来たのが
香織と康平だ。
しかしその頃の野田は定職にも就かず山に登ってばかり。家にいるのも月に2、3日。
とうとう小夜子は愛想を尽かし、彼と離婚。まだ物心つかない香織と康平を連れて露崎と再婚した。彼とはうまくやっていたらしい。
「あのふたりに 本当のことを話さなかったのかい?」
死神くんの問いに、もちろん話そうとした、と野田は言う。露崎の葬式の日にすべてを話すつもりだった。だが、野田の姿を見るなり、
子供達は灰皿を投げつけた。
「かえれ!!」
「人殺し!!」
「おまえが父さんを殺したんだ!!」
「出ていって!!」
泣き叫ぶ二人に、野田は何も言えなかった。小夜子も本当のことは話せなかったのだろう。
「とにかく気をつけろよ」
お前はまだ死ぬ予定の人間じゃない、と言って死神くんは姿を消した。
やがて吹雪が収まり、晴れてきた。雲海の美しさに思わず声を上げる香織と康平。
「おじさんは結婚しないのかよ?」
不意に、康平が尋ねてきた。野田は結婚はしたし、子供も出来たがすぐに離婚した、と答える。
「家庭的な男じゃなかったんだ 妻や子供たちに 何ひとつしてやれなかった… おれにできるのは山にのぼること 山のすばらしさを
おしえることぐらいだ」
「その山で どうしてお父さんを見殺しにしたの!?」
香織が叫んだ。嫌な予感にうろたえる死神くん達。
「見殺しにしたわけじゃない あれは事故だ」
「人を殺しておいて 心がいたまないの!?」
「一度でも お父さんの命日に 墓まいりしたことあるのかよ!!」
「いそがしくてな」
淡々と答える野田に、二人はより一層憎しみを募らせたようだった。
「気をつけろ」死神くんが改めて忠告する。「息子の方は ポケットの中にナイフが入ってて いつでもとり出せるんだ」
そして三人は、あの時二人が登っていた岩壁に着いた。露崎はこの真下の割れ目に落下したのだ。
「いくぞ! ちゃんとついてこい」
野田は先に、割れ目の中に入っていった。
下りながら、野田は二人に登山の経験はあるのか、と尋ねる。
ないと答える康平に対し、香織は大学の山岳部で2回あるという。卒業までにはチョモランマに登るつもりだと言う香織だが、
野田は「その細い腕じゃ あそこは無理だ 体力もないしな」と厳しい評価を下す。
「あんたにとやかくいわれるすじあいはないわ!!」
思わず声を荒げる香織。と、康平が足を滑らせ落ちそうになった。
「しっかりしろ ザイルをはなすな」野田は康平の体を支えた。「あわてなくていい 一歩一歩確実におりるんだ 早くおりて楽になる
ことより いかに安全におりるかを考えろ」
「は…はい」
ようやく三人は底に着いた。香織と康平はすっかり息切れして膝をついている。
「こんなガケをおりてきたんだ すげーな」康平が思わず声を上げた。「初心者でも やればできるもんだな」
が、香織に帰りは十倍は体力を使うといわれ、思わず真っ青に。
「それより… やるなら今よ」
野田は二人に背を向け、立ち尽くしている。康平はナイフを取り出した。
すぐに死神くん達が野田に警告する。
「あぶない」
「殺されるぞ」
「おい! きいてんのか!?」
しかし野田は全く反応しない。と、
「ここが事故現場だ」
野田がようやく口を開いた。彼の足下には、花束が五つ置かれている。
ここは一年を通して気温が0度以下なので、花が腐らずドライフラワー状になって残っているのだ。
香織はひとまず康平を抑え、花束が置かれた場所に近寄った。ふと、香織は気づいた。左へ行くに従って、花束が古くなっている。
つまり、毎年ここに花を供えに来る人がいる! 二人が野田の方を向くと……
「これがおれの墓まいりだ」野田は泣いていた。「露崎には たとえようもないくらい 感謝している 言葉でいいあらわせないほど
すばらしい親友だ」
そして手を合わせる野田の姿に、二人は何も出来なかった。
岩壁を登る三人の姿を見ながら、一安心する死神くん。
が、今度は康平の様子がおかしい。下りで体力を使い切り、すでに限界が来ていたのだ。
香織は登り切ったが、康平は途中で止まってしまった。すぐに野田が助けに行こうとするが、それより早く、康平の手からザイルが
離れてしまった! 康平の体は野田にぶつかり、二人はザイルにぶら下がった状態になった。
「大丈夫!?」
呼びかける香織に「5年前と同じだ」と野田は言った。あのハーケンでは二人分の体重は支えきれない……。
「おまえたちのお父さんと同じことを おれはやらねばならん」
予想外の事態に、焦る死神くん達。
「香織…康平 大きくなったな」野田の目に思わず涙が滲んだ。「最後にあうことができてよかったよ… さらばだ」
そして野田は、ナイフをザイルに近づけ……
「「やめろ――っ」」
死神くんと康平、二人の絶叫が響く中、それを切った!
……が、野田は落下しなかった。康平がとっさに腕を掴んで止めたのだ。
「バカヤロウ はなせ!!」
「いやだ!!」康平は叫んだ。「あんたいい人だ にくいけど 悪い人じゃない!!」
はっとする野田。だがそれを押し殺して言った。
「このままじゃ ふたりとも死ぬぞ」
「死なせたくない 死なないでくれ」
康平は泣いていた。
「バカヤロウ!! あの時と同じだっていうのがわからんのか!? はなせ!!」
すでにハーケンはかなり外れかかっている。と、
「同じじゃないわ」香織が下りてきて、野田の体を支えた。「あの時はふたり 今度は3人いるのよ こっちのザイルにつかまって!」
「ねえちゃん」
こうして三人は無事、外へ出ることが出来た。
帰りの電車の中、「来年もこようよ」と康平が言った。
「おれも花たばもって供養したい 父さんののぼった北壁を 自力で征服してみたい!」
「わたしも…」
そんな二人の様子を見て、野田は「おまえたちの父さんから あずかったものがある」と、例の封筒を取り出した。
「大事にずーっと持っていたんだ おまえたちに見せる時がきた」
二人は封筒を受け取ると、そっと中身を取り出した。
「大事な話をしよう… これから おれはきみたちの母さんが話せなかったことを話さねばならん」
入っていたのは、まだ小さな香織を抱いている、お腹の大きな小夜子と、野田が写った写真だった。
「さあ 何から話そうか…」
弟はともかく姉は覚えてないのかね。
真の親子設定は要らん様な気が・・・
>>233 回想シーン見る限りまだ小さかったみたいだから覚えてないんじゃね?
姉:1歳2ヶ月
弟:腹の中
覚えていなくても無理はない
第74話 ノアの方舟の巻
「パパ いってらっしゃーい」
「ああ いってくるよ」
仕事に出かけるマイケルに、娘が走り寄り挨拶のキスをした。
しかし、息子のジョーイは母親に「あいさつしたの?」と聞かれても「パパの仕事は人を殺すことじゃないか!!」と言い放ち、さっさと
自転車で学校へ行ってしまった。
「あの子ったら反抗期なのよ」
マイケルは複雑な表情になったが、
「じゃ…2日間はかえれないから」妻とキスを交わし、仕事場へ向かった。
A国・SAミサイル基地。ここがマイケルの仕事場だ。相棒のクレアと一緒に、先に働いていたロバートとディップと交代する。
と、二人はロバートの顔色がよくないことに気づいた。
「病気か? 休んだ方がいいぜ」
が、ロバートは「大丈夫だ」と言うとさっさと帰って行ってしまった。
「へんなやつ…」
その後ろに、死神くんとカア助がいた。
いつものように、ミサイルに異状がないかをチェックしていく二人。
「なあ クレア」
不意に、マイケルが口を開いた。
「ロバートのことなんだが… この前 家族でキャンプにいった時 偶然にあったんだ その時 やつはとんでもないことを
口ばしりやがった」
「ミサイルを発射してみたいと思ったことあるかい?」
とんでもない質問に「な…何をいってるんだ 地球の破滅だぜ」とマイケルは驚く。
が、ロバートはそんな様子を気にとめることもなくさらに続けた。
この地球上で一番愚かな生物は人間だ、人間は自然を破壊し、他の生物を絶滅させ、それでも飽きたらず核爆弾で地球を破滅させようと
している……。
「おれは人間なんていなくなればいいと思っているんだ」
「ロバート!」
マイケルは咎めるが、ロバートは構わず続ける。
一度人間は滅んで、自分達の愚かさを知ればいい、前の恐竜時代の方がずっと平和だったんだ、と。
「人間がこの世にあらわれてからは 破壊をくりかえしてきた 人間が絶えずやってきたことは… 無益な殺し合い 「戦争」だ」
そして高らかに笑うロバート。
と、彼の妻がマイケルに「主人をたすけてください!!」と泣きついた。「主人は最近変なんです おかしなことばかり口にだして…
あの人をたすけてやってください!!」
その話にクレアも、彼がノイローゼ気味だという話は聞いた、と話す。
ディップも、彼は何かあるたび、すぐにミサイル発射キーに手が行くと言っていた。「やつは核ミサイルを発射したがっているんだ」と。
もっとも、一人では核ミサイルは発射できないシステムになっているのだが。
「おれの相棒はカタブツのまじめなやつで たすかるよ」
マイケルの言葉に「それは皮肉か?」クレアはむっとした。
その頃ロバートは、自宅でコンピューターをいじっていた。
「おい おまえ一体何をやらかそうとしているんだ!?」
死神くんの問いに「発射基地のコンピューターにはいりこむだけだ」と淡々とロバートは答える。
「人間がつくりだした 最大にして最高のショーのはじまりだ」
不気味に笑うロバート。どうにかしたいが、死神くん達には人間の作ったコンピューターのことはわからないため、どうしようもない。
何度も彼に忠告はしたが、言うことを聞いてはくれなかった。
「この男はもう…」
その時、基地に緊急指令が入ったことを告げるサイレンが鳴り出した。
『緊急指令!! 緊急指令!! 本部からの緊急指令 これからつたえるメッセージを解読せよ!』
もちろんこれも、ロバートが言っている偽の指令。だがマイケル達はそんな事は知るよしもなく、彼が告げる暗号の解読を始めた。
そしてそれをインプットすると……画面に出たのは「発射命令承認」の文字。二人は愕然とした。
「う…うそだ 何があったんだ」
うろたえながらも、マイケルは発射時刻と着弾地点を確認、二人で発射キーを入れる。
基地中にシェルターに入るよう促すサイレンが響きわたった。
そしてクレアはマイケルにキーを同時に回すよう言うが、納得がいかないマイケルは「もう一度本部に確認してみよう!!」とクレアを
止める。
「やめろ 手順通りにやれ!」
そういうクレアを無視して、マイケルは本部に電話をするが、通じない。
ロバートがすでに手を回して外部と連絡を取れないようにしてしまったのだ。
「あわてるがいい 恐怖におののくがいい おまえたちにできることはただひとつ ミサイルを発射することだけだ」
ロバートは基地の様子を想像して、笑った。
連絡が取れないことに混乱するマイケル。クレアはこちらに指令を伝えた後、本部が何らかの被害を受けたのではないかと推測する。
我々の国からミサイル攻撃を仕掛けるなんて考えられない。考えられることは、他国が攻撃を仕掛けてきて、本部がその標的になった、
ということ。
「その報復として われわれの基地からミサイルを発射する…これならつじつまがあう」
「なんの前ぶれもなく 核戦争がはじまったというのか!?」
マイケルは拳で台を叩いた。
その頃、本部でもSA基地にミサイル発射命令が出ていると騒ぎになっていた。すぐに連絡を取ろうとするが、回線は繋がらない。
「だれかがコンピューターに侵入して妨害しているみたいです!!」
「ハッカーか!?」
「とめることはできんのか!?」
「どういうことだ? 何がおこっているんだ?」
ミサイル発射60秒前。基地の人々は先を争ってシェルターに避難していた。しかし二人の職員が間に合わず外に取り残されてしまう。
「わーっ あけろ あけてくれ!!」
「中にいれろーっ」
必死でドアを叩く二人。
ミサイル発射30秒前。
――パパの仕事は 人を殺すことだ!!
今朝ジョーイに言われた言葉が、マイケルの頭をよぎった。
「人間はほろぶのか?」
マイケルの問いに、「ほろびはしない」とクレアは答える。
ここは核シェルターになっていて、水も食糧も十分にある。エネルギーも100年間は大丈夫だ。
地下には人工の畑もあり、少ないが女性も勤務しているから子供も作れる。
「ここはノアの方舟だ」
そしてついに10秒を切り、カウントダウンが始まった。そしてあと二秒というその時、
「やめろーっ」
突然響き渡った叫び声に、二人は仰天してカウントを止めた。
死神くん達が、現場に直接止めに行った方が早いと、超特急で駆けつけたのだ。
「何者だ!?」「どこからはいってきた!?」と戸惑う二人に、死神くんはすべてロバートが仕組んだことだ、と告げる。
クレアは不法侵入者として死神くんを撃つが、死神である彼には銃は効かなかった。
「大事なことをつたえにきたんだ 信用しろ!!」
そう言って死神くんは、ロバートが自分のコンピューターでいくつものパスワードを使って侵入し、基地のコンピューターを狂わせた
ことを説明。
マイケルは納得する。ロバートは学生の頃からコンピューターを扱ってきたし、前にもハッキング騒ぎを起こしたことがあったからだ。
が、クレアはマイケルに発射時間はとうに過ぎているから席に着け、と言う。
「ロバートのしわざだっていってんだろ」
死神くんがもう一度言うが、クレアはお化けの言うことは信用できない、と突っぱねる。
「ここには ここの規則がある われわれは規則にしたがい 任務を遂行しなくてはならないのだ」
すでに外は放射能の嵐かもしれない、他の基地からもミサイルが発射されているはずだ、とクレアは言う。
「この基地だけ ミサイルを発射してなければどうなる? われわれの責任だ 軍の腰ぬけ野郎として 国中のわらいもんだ」
だがマイケルも「もし こいつのいうことが本当だったらどうする」と反論する。
もしそうなら、自分達が発射したミサイルが引き金になって核戦争になってしまう!
が、クレアは少しも動じることなく言った。
「おれたちは軍人だ 上からの命令は絶対だ 規則にしたがい 任務を遂行しろ!!」
「このわからず屋!!」
死神くんに罵倒されながらも、クレアは規則に従わないのなら撃つ、と銃口をマイケルに向ける。
「代行の人間が おまえのかわりにスイッチをいれることになる… 死人がふえるだけだ」
マイケルはしばらくクレアと睨み合っていたが、やがて表情をゆるませた。
「わかったよ クレア おれも軍人だ 規則にしたがおう 銃はもうしまえ」
今度は死神くん達が仰天した。
「ちょっとちょっと あんたら 何考えてんだよ!! 一発のミサイルで何百万人も死ぬんだぞ」
「上からの命令なら 人を殺してもいいっていうのか!?」
死神くんとカア助は必死で二人を止める。が、
「いいか 同時にキーを…」
クレアが銃を置いた次の瞬間、今度はマイケルが銃を抜きクレアを撃った!
倒れるクレア。予想外の展開に死神くん達も「しまった〜」と絶叫した。
と、本部からの通信が聞こえてきた。回線が繋がったのだ。
『SA基地 きこえるか!? ミサイルは発射するな!! ロバートの犯行ということがわかった みんなウソだ!! オイSA基地 きこえて
いるのか!?』
マイケルは倒れたクレアの前に、ただ立ち尽くしていた。
そしてロバートは駆けつけた警察により逮捕された。最後までうつろな表情で「人間は一番おろかな生物だ」と言い続けながら。
「やつの行動はとんでもないことだが… やつのいってることは正しいかもな」
その様子を見ながら、死神くんはつぶやいた。
担架で運ばれていくクレア。幸い急所は外れていた。
心配して近づいてきたマイケルに、意外にもクレアは「おれを撃ってくれてありがとう…」と礼を言う。
俺もミサイルは発射したくなかった、お前が正しい、お前のやったことは立派だ、と。
「おれは軍人として 威厳をたもちたかったのだ 撃たれてよかった これでいいのだ おまえのとった行動は立派だよ」
だが、マイケルは去っていくクレアを見ながら言った。
「おまえの方が軍人として立派だよ」
そこへ長官がやってきた。敬礼する彼を「何もいわなくていい」と制すると、「この仕事はやめずにつづけてほしい」と言う。
「きみが必要なんだ 世界平和のためにも きみのような人間が必要なんだ これからもたのむ…」
そしてマイケルは、今日も仕事に向かう。
自分の役目はミサイルを発射することではなく、ミサイルを守ることだ。
この地球がノアの方舟であり続けるためにも…。
重いな…
なんか最終回近いんじゃないかと思った
恐竜時代だって生存競争は繰り広げられてただろうが
一回の攻撃で殺せる数が違う
人間も石と棒で戦ってたころは
他の動物とそんな変わらなかった
スケールが違うだけで争いがあったのは同じだろ
自分が生き残るため他者を殺すってのに変わりはない
なんで前にハッキング騒ぎを起こしたことがある奴をミサイル基地なんて重要なポジションにつかせるんだよ…
ロバートが悪いのはもちろんだけどそれを考慮しなかった上司も責任があると思う
恐竜時代は
>自然を破壊し
>他の生物を絶滅させ
>地球を破滅
なんてことは行われてなかっただろ
ロバートだってそこまでやらなきゃ我慢できた
藍藻はそれまでの生物に有害な酸素を放出するという、地球環境破壊を起こし、多くの嫌気性細菌を
絶滅に追いやった。
それと同じように、生物は基本的に自分に都合のいいように環境を作り替え、繁殖しすぎれば地球の
キャパを超える。
ただそれだけの事。人間だけが特別な訳じゃない。
本気でそれを人間の行為と同じと思っているのなら頭が心配だ
それが同じと思えないのは人間至上主義の考えでは
人間は「しないこともできる」んだよ
それを「あえてする」のは他の生き物と違うところじゃないかな
結局できてないじゃないか。
本能のなすままに。
第75話 ミッドナイトジゴロの巻
「はい お金」
喫茶店で女性は、目の前の恋人に一万円札を何枚か渡した。
「ごめんね 今 手もちがこれだけしかないの」
「うん…まあ しかたないさ いつも悪いね」
男性は笑顔でお礼を言うと「人とあう約束があるから」と席を立った。
「あっ 昌弘さん」
「なんだい?」
が、彼女は頬を赤らめて「…なんでもない…」と顔を伏せた。
スポーツカーで帰る昌弘を見送る女性。と、
「あっ 動いた!」お腹を押えた。
「ちっ あの女もしけてやがんな」昌弘は運転しながら愚痴った。
「銀行員だから 金があると思ってたのに ケチりやがって あの女ともこれまでだな あんなブスどうでもいいけどよ」
その時、横を歩いてる女性につい目がいった。
「おっ いい女」
が、そのせいで曲がってきたバイクが前を通り過ぎるのに気づくのが遅れてしまった。
慌てて昌弘はハンドルを切るが間に合わず――最後に聞いたのは、救急車のサイレンの音だった。
やがて昌弘は目を覚ました。が、そこは明らかに地上とは違う、雲の上のような場所だった。
(ここはどこだ? 天国か? 地獄か?)
と、いきなり目の前にカラスを連れた子供――死神くんとカア助が現われた。
相手が死神と知り、自分は死んだのかと思う昌弘だが、死神くん曰く、生と死の境目だという。上へ行けばあの世で、下へ行けば現世だ。
彼の死亡予定日はまだ先だが、放っておけば大変なことになるのでここへ来てもらった、と死神くん。
昌弘は今、植物状態で生き続けていて、もう事故から三年が過ぎているという。
「霊界ではおまえを生かすか殺すか検討中だ」
「ずいぶんかかるんだな」
「そんなことより おめえはとんでもない悪いやつだな」
死神くんの言葉に首をかしげる昌弘。
実は彼は、結婚詐欺の常習犯で今まで何十人もの女を騙して、金を巻き上げてきたのだ。
だが昌弘は少しも悪びれる様子もなく「だまされる方がわるいんだよ」と言い放つ。
死神くんは彼が入院した時の様子を見せた。今まで騙された女性達が皆病院に集まり、喧嘩が始まって大騒ぎになったのだ。
それを見て「こいつは見ものだ」と大笑いする昌弘を「笑いごとか〜〜っ!!」と死神くんは怒鳴りつけた。
そして次に「この女性を知っているか?」と二人の女性の顔写真を昌弘に見せる。
「さあ? 昔つきあっていた女かい? いちいち名前なんかおぼえてねーよ」
「この女性は おまえにだまされたショックで 自殺したんだ!!」
が、昌弘は「ふ〜〜ん」と気の抜けた返事。
「おまえは罪の意識はねーのか!?」
「罪悪感がねーのか!?」
再び死神くんとカア助が怒鳴りつけるが昌弘はあっさり「ないね」と一言。
「おれは 女たちに夢をあたえてやったんだ 女たちは おれと一緒にいるだけで幸せを感じているんだ 感謝されてもいいくらいだ」
彼女達のおかげで毎日楽しく暮らせたし、いつ死んでもいいと言う昌弘。
「働きたくなかったしな 一生プレイボーイでいるのもつかれるしな」
死神くんは険しい表情で言った。
「おまえに考え直す気があれば 生きかえるチャンスがあたえられたんだが 今のおまえじゃ 無理のようだな 霊界におまえのことを
報告しよう 生きる価値のない人間だとな!」
そして死神くんは、時間がかかるからそれまで寝ていろ! と再び彼を眠らせた。何故か意識だけを残した状態で。
病室に戻った昌弘。すると、彼のベッドのそばに誰かが立っていた。どうやら女らしいが、はっきりとその姿は見えない。
やがて彼女は昌弘の手を握った。彼女の考えていることが伝わってくる。
『早く病気をなおして…』
驚く昌弘。そして彼女は帰っていった。
(バカな女だ だまされているのも知らず 見まいにくるなんて… おれは死ぬんだ きてもムダだぜ)
昌弘は笑った。
「どうだ? 413号 例のあの男は」
主任に尋ねられ、すかさずカア助が「だめですよ あいつは」と報告する。
「生きる気力がないし、生かしておいてもまた女性を不幸にするだろうし…」
それを聞いて死亡認定書を作り始める主任。が、死神くんがそれに待ったをかけた。
「まってください それが最良の方法だとは思えません」
(またこいつは人間のカタをもって…)カア助はあきれた。
「ホウ おまえのいう最良の方法とは?」
「彼をもうすこし あの状態にしておいてください」
「オイオイ またかよ」今度は主任があきれた。「おまえが3年まってくれといったから まったのに まだまつのか?」
「あと2年 おねがいします」死神くんは頼み込んだ。「主任も知っているでしょう? 彼の身辺でおきてる変化を…」
再び昌弘の病室に、例の女性がやってきた。
(またきたな おまえは一体だれなんだ?)
その疑問が伝わることはなく、やはり彼女は手を握って、『早く病気なおして』と願って帰って行く。それは毎日続いた。
昌弘はあきれつつも、(こんなおれでも心配してくれる女がいたんだ)と嬉しくなった。
と、再び死神くんが昌弘の前に現われた。最初に会った時からもう二年が過ぎている、と言われ驚く昌弘。
「霊界の決定はまだでない そこでだ おまえの意見をもう一度ききたい 生きる気があるのか? 死んでもいいと思っているのか?」
死神くんにそう問われ、昌弘ははっきり「生きたい!」と答えた。生きて確かめてみたいことがある、と。
それを聞いて死神くんは、生死が決定するまであと一週間あるからその間だけお前を自由にしてやろう、と言う。
そして一週間後にもう一度意見を聞いて、それが最終決定となる。
「1週間の間に 自分を見つめなおしてよーく考えるんだな」
「ケッ あんなやつは死んだ方がいいんだよ そう思わんのか?」
霊界に戻る途中、カア助に問われきっぱり「思わない!」と死神くんは答える。
(まったく 何考えているんだか…)
その頃病院では、五年ぶりに昌弘の意識が戻ったことでちょっとした騒ぎになっていた。
昌弘は鏡で自分の顔を見て愕然とする。かつてのプレイボーイだった頃の面影など微塵もない、傷跡だらけのひどい顔になっていた。
医師によると何回か整形手術をしたが、これで精一杯だったという。昌弘は立ち上がろうとしたが、医師に止められた。
五年間寝たきりだったせいで筋肉が萎縮し衰えているので、リハビリが必要だという。
昌弘は傷をサングラスで隠し、松葉杖を両側についてようやく立ち上がることが出来た。
「へへへ 自称ミッドナイトジゴロがなんてザマだ」
自嘲気味に笑う昌弘。だが、こんな自分でも毎日のように見舞いに来てくれた女がいる。必ず探し出してやる、と決意を胸に秘め
リハビリに励み、6日で歩けるまでに回復した。
そして一週間目。今夜の十二時が最終結論を出す時間だ。
昌弘は看護婦にも話を聞いたが、その女性は彼が目覚めてからは来なくなり、口止めされているため名前は言えないという。
「その女をさがしだしてたしかめてやる おれが生きる価値のある人間なのかどうか」
早速一人目の女性のもとを訪ねる昌弘。が、彼女は彼の顔を見るなり「かえってよ!!」と泣きながら追い返そうとする。
「今さら何よ!! サギ師! ペテン師!! 結婚するとかいっておいて 何人の女と つきあっていたのよ!! バカ!!」
それでも何とか最後に「お別れの握手がしたい」と頼み、彼女の手を握らせてもらう。……が、違った。
覚えている温もり、感触とはまるで違う。
(手をにぎればわかる 必ずさがしだしてみせる)
次の女性はすでに結婚して子供がいた。「この幸せをこわさないで」とやんわりと帰るよう促される。
握手をしてみたが……やはり違った。
「かえってよ!!」
三人目の女性はキャバレーに勤めていた。入るなりいきなりグラスの酒をぶっかけられる昌弘。
「あんたに金をとられ 借金をかえすのに大変なんだから!! 顔も見たくないわ!!」
「すまない… お別れだ」
何とか彼女と握手をするが、やはり違う。
それから昌弘は、心当たりを次々と訪ねていった。そしてその度に、騙された憤りをぶつけられた。
ある女性にはほうきで叩かれ、ある女性には拳で殴られ……それでも何とか全員と握手をしていくが、皆違う。
そして次の女性を確かめるべく、住んでいたアパートを訪れるが……
「あんた その部屋にはだれもいないよ」
通りがかった老婆がそう教えてくれた。
四年前に、男に振られたショックで自殺を図った女がいたが、今はどこにいるのかわからず、ずっと空き部屋になっているのだという。
「女の一生をかえちまう ひどい男がいるもんだねェ」
老婆は帰って行き、昌弘は呆然と立ち尽くしていた。そんな彼に死神くんは言う。
「自分のやった罪の大きさが どんなものかわかったか?」
昌弘は何も言わず、最後の一人が住むアパートを訪れた。彼が事故に遭う直前、喫茶店で会っていた銀行員の女性だ。
チャイムに応え、出てきた女性は昌弘を見て驚いたような表情になった。
「やあ おれだ わかるかい? こんな夜おそく 悪いな…」
女性は「かえって…」とドアを閉めようとするが慌てて昌弘は引き止める。
「おれが悪かった かりた金はいずれかえす ひとつききたいことがある 毎日 見まいにきてくれたのは きみだろ?」
女性は何も言わなかった。
「本当のことをいってくれ きみしかいないんだ!」
「わたしなんか… ほかにもきれいな女の人が いっぱいいるじゃない!」
「いや! きみしかいない きみが一番やさしい女性だ」
だが女性はやはり「かえって!」と昌弘を追い返そうとする。仕方なく、握手をさせてくれるよう頼み、手を握るが……違う!!
愕然とする彼の前で、ドアは静かに閉じられた。
雨に打たれながら歩く昌弘。そこへ死神くんが現われ「時間だ」と告げる。
「あんたの最後の意見をきかせてもらおう」
「生か死か?」
「わからん 一体だれなんだ!!」
昌弘は膝をついた。知っている女は全てあたった。なのに皆違っていた。あの手の温もり、感触は絶対忘れられない。なのにわからない。
「おれを心配してくれてる女がいるというのに おれにはその女がだれなのかわからないんだ」
昌弘は思う。女達に散々迷惑をかけた。自殺した女もいた。罪の償いをしなくてはいけない。
「おれは生きる価値のない男だ 死神よ… おれは…」
言いかけたその時、サクランボ模様の傘を差した、小さな女の子が目の前にやってきた。そしてそばには銀行員の女性も。
「あなたがきたら 目をさましちゃった…」
どうやらこの女の子は、彼女の娘らしい。女の子は昌弘に笑顔で「ハイ カサ」と自分の傘を差しだした。
昌弘は受け取ろうと手を伸ばし……手が触れあった瞬間、はっとした。
その温もり、感触……間違いなく、記憶にあるあの手のものだ。
(おまえが!? おまえが!?)
驚く昌弘に女性は「あなたの子供よ」と告げた。「おろそうとおもったけど 子供に罪はないもんね」
そしてパパの顔が見たい、と言う彼女を毎日病院へ連れて行ったことを打ち明ける。
「エヘヘ お父さん 病気がなおってよかったね」
無邪気に笑いかける娘に、昌弘は涙を流した。
「何人も女を泣かしてきたおれだが… 逆に泣かされたのはおまえがはじめてだ」
昌弘はそっと、娘の頭を撫でた。その様子を見て、女性は言う。
「せまい所だけど 家にくる? あなたさえよければ… この子のためにも…」
ひとまず帰って行く二人。
「結論が出たようだな」
死神くんが言った。もうとっくに十二時は過ぎている。
「おまえ最後にいったな 「罪のつぐないをしなくっちゃあな」と 霊界としては その意見をとりいれることにする!」
そして死神くんは告げた――「生きるんだ!」と。思いがけない言葉に驚く昌弘に、死神くんは続けた。
「死んで罪のつぐないができるなんて思うなよ 生きて罪をつぐなうんだ 自殺した女性を供養してやれ 今まで迷惑をかけた女性に
ゆるしてもらえるまでつくさなくちゃだめだ」
とりあえず、お前を必要としている親子がいる、早く行ってやりな、と言い、死神くんは帰っていった。
昌弘はしばらく立ち尽くしていたが……やがて、あの母娘のもとへ向かった。
「おめえが5年もまった理由は あの子供か?
尋ねるカア助に死神くんは「ああ」と頷いた。
「死ぬのはたやすいことだが 生きて罪をつぐなうのはくるしいことだ あの男にはくるしい方を 選んでもらった」
「まったく… おめえはやさしいのかきびしいのかわからんやつだ」
やることはやってんだ
6日で杖突いてとはいえ歩けるものなのか?
気ぃ、長すぎるやろ。
5年て
まあ死神くんに寿命がある訳でもなさそうだしな
しかし大人と5歳児じゃ手の大きさが全然違うだろうに、そこは気づかなかったんだろうか。
意識曖昧な病人にそこまで求めるなw
第76話 カーテンコールの巻
とある整形外科で、一人の女性が手術を終え、包帯を取り外してもらっていた。
「どうですか マネージャーさん」
医師に問われ、マネージャーと呼ばれた男性は「すごい みごとだ」と感嘆する。
「どこから見ても アイドル歌手の山崎百合香だよ!!」
鏡で顔を見た彼女も、満足げに笑う。今日から私は山崎百合香になる、またステージに立って歌える、と。
「プロダクションにもどって 社長をびっくりさせてやろうぜ」
彼女はマネージャーとともに車に乗った。そして、本物の百合香に出会った時のことを思い返す。
彼女の本当の名前は森川愛。とある芸能プロダクションに所属するアイドルだ。
三年前、彼女は今日からプロダクションに入ることになったと、山崎百合香を紹介された。
挨拶に「よろしく」と笑顔で答えつつも、レッスンに向かう彼女を見る愛の表情は冷めたものだった。
年に何百人もデビューする芸能界。その中で生き残っていけるのはわずか1〜2%。彼女はどこまで頑張れるか……。
が、彼女のデビュー曲はあっという間にレコード売り上げのNo.1を記録。初のコンサートも大成功。ドラマや映画でも大活躍するように
なっていった。決して歌や踊りが上手かったわけではないが、何か光るものを彼女は持っていた。
いつしか百合香は愛の人気を追い越し、プロダクションを支えるアイドルに。
それと相反するように愛のスケジュールは白くなっていき、彼女は芸能界から忘れられつつあった。
が、百合香は体が弱く、ちょっとした事ですぐ倒れてしまう。それで仕事をキャンセルすることも何度かあった。
その日も、仕事中に倒れ、事務所に担ぎ込まれた百合香は、マネージャーに謝った。
「すみません… 私がもうひとりいるといいのに…」
「そうだな 百合香に双子がいれば 交代で仕事できるのにな」
マネージャーの何気ない一言は、愛の心を強く揺さぶった。
もう一度ステージに立って歌いたい、アイドルとして脚光を浴びたい……彼女は百合香の影武者になることを決意し、プロダクションも
それに賛成した。
そして百合香のビデオを見てそっくり真似ることに時間を費やし、十数回もの整形手術で、ついに今日、彼女は山崎百合香になったのだ。
プロダクションに戻った愛は、早速百合香の元へ。
「またサイン会で貧血おこしたんだって!? だらしないわね」
百合香は自分そっくりになった愛を見て、唖然とした。
「どう? おどろいた? これからはふたりで仕事をこなしていくのよ あなたも楽になるわ」
「愛さん…」百合香はまだ困惑していた。「そんな… 愛さん…愛さんは…」
何かを言いかける百合香。だが愛はそれを遮った。
「うちみたいな弱小プロダクションは 売れっ子スターが出たら どんどん売りこまなくちゃだめなのよ! ほかのタレントは
きりすててでもね!!」
愛はさっさと部屋を出た。
(同情はまっぴらよ 私は歌が好きなだけ いつでも歌っていたいのよ あんたみたいに 運がよくてアイドルになった人には
わからないでしょうね)
「おどろいたな 影武者がいるなんて」
「おそろしい世界だな」
一人になった百合香の元に、死神くんとカア助が現れた。実は百合香はもう間もなく死亡する予定なのだ。
心の準備はついたのか? とカア助に聞かれ頷く百合香。と、急に笑顔になって「アイドルになれたのも 死神くんのおかげだよ」と
お礼を言った。
「3年前 あなたに死の宣告をうけて 自分のやりたいことをやろうって思って芸能界に入ったんだ でなきゃ今ごろフツーの
女子高生だよ」
苦笑する死神くん。
「でもよかったな 売れっ子になって」
「なんでこんなに売れたのか 自分でもわかんないんだ」
その頃愛は、百合香になりきるために彼女を真似て歌う練習をしていた。だがプロデューサーに「だめだめ」と止められる。
物真似なら素人の方が上手い、と。
「百合香の魅力は ひたむきに一所懸命やっているところにあるんだ なんか うまく表現できないけど… 百合香の歌や姿は
今見のがしたら もう見られないんじゃないか? そんな気にさせるのが百合香の魅力なんだ」
その言葉に、マネージャーもうんうんと大きく頷く。だが愛は内心納得がいかなかった。
(何わけのわかんないこといってんの 実力は私の方が上よ 私がトップスターになってみせる)
それから間もなく、百合香のコンサートツアーが始まった。どこへ行っても会場は大盛況だった。
だがこのツアーの最終日こそ、百合香の死亡予定日。正真正銘のラストコンサートになるのだ。
その前日。百合香の体調を案じたマネージャーは一旦百合香を休ませ、試しに愛に二、三曲歌わせることに。
「がんばってください!」
百合香にもそう励まされ愛は自信満々でステージに立ち、歌う。が、マネージャー達は渋い顔。
「まずいな」
「ああ 百合香らしさがでていない」
彼等は客にバレるとまずい、と一曲歌わせただけで愛を下がらせてしまった。怒り、抗議する彼女にマネージャーは言う。
「だめなんだよ 愛ちゃん ぜんぜん百合香になってない 歌のうまいへたじゃないんだ よ〜く百合香を見て勉強するんだな」
スポットライトを浴びて歌う百合香の姿を見ながら、愛の中に暗い感情が生まれていった。
(あなたがうらやましいわ… あなたが…)
そしてそれは、危険な考えへと発展していく。
もしも百合香がいなくなったら……!? もし彼女が死んだら、自分が代わりに山崎百合香になりすまし、プロダクションもその死を
ひた隠しにするはず。
(山崎百合香は ふたりもいらないわ アイドルを目ざしてた森川愛はとうに死んじゃったしね…)
いつしか愛の目から、涙が溢れていた。
その晩、百合香は死神くんから死亡予定時刻は午後九時だから それまでにコンサートを終わらせるようにと注意を受ける。
百合香は頷き、どこか悲しげな表情になった。
「かなしいかい?」
そう聞かれ、百合香は言った。
「私より愛さんがかわいそう…」
だがカア助は言う。
「あの愛って女 何かしでかそうとしているぜ 十分 気をつけないと…」
最終日。今日も会場は大入りだ。百合香のはりきりぶりに今日は出番なしか、と思う愛だが……
(いいえ 私は出番をつくってみせる!)
そして予定していた曲はすべて終了。観客席からはアンコールを求める声が響く。
だが百合香はかなり疲労していた。愛は百合香を休ませようと、彼女に付き添って控え室へ連れて行く。
「大丈夫 百合香」
「ハ…ハイ」
「薬…のむ?」
愛はそう言って、隠し持っていた紙包みを百合香に差し出した。が、
「キャー」
いきなり現れた死神くんとカア助に取り上げられ、悲鳴を上げた。
「とんでもないことをやろうとしたな」
そして死神くんは告げる。お前が手を出さなくても、百合香ちゃんはもう死ぬ、と。
「死ぬ… 死ぬって…?」
訳がわからず、呆然とつぶやく愛。百合香は「死神さん 時間どおりね」と微笑んだ。
あと一分で、予定時刻になる。百合香は自分のバッグを開けると、何かを取り出した。
「愛さんこれ… おぼえてますか?」
愛は驚いた。それは彼女のデビューシングル。近くのレコード屋にキャンペーンに来たときに買ったのだという。
歌が上手くて、キラキラ輝いていた、と懐かしそうに語る百合香。
その後サイン会でサインをもらい、彼女は愛に訊いた。
「私もアイドルになれるかなァ?」
「もちろんよ! ガンバッテね」
愛は笑顔で答え、そして握手を交わした。それがとても嬉しかった、私の宝物なんです、と百合香は言う。
「私も愛さんと同じ 歌うのが大好きで芸能界に入ったんです 愛さんを目ざしてきたんです! 愛さんは… 愛さんとして
ガンバッテください!」
強い眼差しで見つめられ、愛は言葉を失った。そして、
「山崎百合香は 今日ここで死にます 愛さんは もとの愛さんにもどって…」
その言葉を最後に、百合香は意識を失い、倒れた。
「だれか〜〜っ!! マネージャー!!」
愛は慌てて叫んだ。
すぐに医者が呼ばれ、愛はマネージャに言われ、コンサートを終わらせるべく一曲だけ歌うことに。
ステージに上がる愛。一斉に歓声が上がった。笑顔を振りまきつつも、彼女の頭の中に、先程の百合香の言葉がリフレインする。
――愛さんは 愛さんとしてガンバッテ
――山崎百合香は 今日ここで死にます
――私の宝物なんです
――愛さんと同じで 歌うのが好きなんです 愛さんをめざしてきたんです!
――もとの愛さんにもどって…
ついには、マイクを持っていた手を下ろしてしまった。客席もざわめき始める。
愛は思う。ずっと百合香は、若くてかわいい、それだけで人気を得ていると思っていた。でも違っていた。
歌が好きで、死ぬまでの短い一生を歌に託したから……それは昔の自分も同じ。
(私のうしなったものが百合香にはあった… 百合香にだけは負けたくないと思っていたけれど… 勝てるはずもない はじめから
負けていたのね)
愛の頬を、涙が伝う。その様子を、魂になった百合香も心配そうに見守る。
(まだまにあうかもしれない もう一度あのころに… もう一度やりなおしたい!)
愛はマイクを構え、涙をぬぐうと、言った。
「みなさん! わたしは… わたしは… 今日かぎりで 引退します」
その言葉に、マネージャー達はもちろん、客席のファンも、百合香も驚く。
「ごめんなさい」
愛は騒ぎ始めた観客に、頭を下げた。マネージャーはすぐに愛を引っ込め、百合香を出そうと医師に彼女の具合を尋ねるが……
医師は、何も言わなかった。百合香はとうに息を引き取っていたのだから。
愛は、客席に向かって、手を振った。
(百合香… さようなら…)
「これでいい…」その様子を見ながら、死神くんは言った。
「自分をおし殺して他人を演じつづけるなんて とんでもないことだ 自分の思いどおりに生きていくのが 最高の人生さ
百合香ちゃんはそれを実行しただけだ」
「だから悔いののこらない人生をおくることができた」
その後、百合香が芸能界から突然姿を消したことは「山崎百合香謎の失踪」としてしばらく新聞を賑わせた。
中には死亡説を報じるものもあった。
そして愛は、元の顔に整形し直した。
ちょうどタクシーに乗ろうとしている所を「あのう…森川愛さんですか?」と女子高生に声をかけられる。
だが振り返った彼女の顔はまだ包帯だらけ。驚く彼女に「顔のケガをなおしているの」と愛は説明する。
すると彼女は、「私 愛さんのファンなんです ずっとテレビにでないから心配していたんですよ」と笑顔で話し、「これからも
ガンバッテください!」とプレゼントを差し出した。驚きつつも、「あ…ありがとう」とお礼を言う愛。
「アハッ 私もアイドルになれるかなァ」
そういう彼女に、愛ははっきりと言った。
「もちろんよ! ガンバッテね」
そんなになんども整形したらマイケルジャクソンみたいに顔が崩れるぞ
死の宣告をされたことをこれだけ前向きにとらえたキャラって今までいなかった気がする
第77話 ピーマン食べたの巻
とある中華料理屋で、親子三人が食事をしていた。が、
「あっ ピーマンがはいってる!! いやだ〜〜っ!!」
息子ののぼるはそう言って、せっかく頼んだチャーハンを食べようとしない。
母親に「好ききらい いわないで ちゃんと食べなさい!」と叱られるが、のぼるは「やだやだ ピーマンきらいだ〜」と激しく抵抗。
思わず「あなたににて ほんとにわがままなんだから…」と愚痴る母親に、父親はムッとする。
「きらいなものはしょうがないだろ 無理に食べさせなくてもいいじゃないか」
「好きになるように努力しなさいよ」
「もっとやさしくいえばいいだろ おまえのいいかたはきついんだよ」
「ほっといてよ! 昔はこんなじゃなかったわよ!!」
喧嘩を始める二人。が、他の客の視線が集まっていることに気づき、すぐにやめた。
店を出、海水浴に行くという父親に大喜びののぼる。が、それとは裏腹に両親の表情は暗かった。
しばらく車を走らせ……父親は目に涙を滲ませた。
「のぼる ダメなお父さんをゆるしてくれ」
何のことだかわからないのぼる。よく見ると母親も泣いている。
「パパ どうしたの? ママ…」
その直後、車は勢いよく海に向かって飛び込んだ。
「バカなことをしたな おまえたちは死ぬ予定じゃないんだ 子どもをまきぞえにするなんて最低だぞ!」
その言葉に目を覚ます両親。目の前にはカラスを連れた子供――死神くんとカア助がいた。
よく見ると、自分達は宙に浮いていて、下には呼吸器やら脳波計やらをつながれた自分達が寝ている。
「どうなってんだ?」と困惑していると、ベッドの周りで遊んでいるのぼるの姿が。
死神くんによると、発見が早かったおかげで三人とも一命は取り留め、のぼるはもう元気に飛び回れるほど回復したという。
だが、問題は両親二人。生きる気力がないため、肉体に魂が戻らず植物状態になっているのだ。
「ねー パパとママいつまでねているの?」
のぼるにそう聞かれ、看護婦は「重い病気だから まだしばらく寝たままなのよ」と答える。
遊びに出て行くのぼるの姿を、看護婦達は哀れむように見つめた。
「かわいそうに」
「もう二度と目ざめないかも知れないのに」
「心中なんて ひどいことするわよねェ」
死神くんは二人に言う。
「どうだ 子どもがかわいそうだと思わないのか? 子どものために生きようと思わないのか?」
すると、
「のぼるひとりじゃかわいそう」
「うんうん」
「のぼるひとりじゃ生きていけまい」
「そうそう」
そう言う両親にこれで安心、と思いきや……
「だから3人とも早く殺してくれ」
「なんやそりゃ!」
父親の言葉にツッコむカア助。その横で思わずコケる死神くんであった……。
のぼるは病院の近くの公園で、ブランコに座りつまらなさそうにしていた。両親は目を覚まさないし、ここは遠い町で友達もいない。と、
「おれが力になってやろうか?」
そう言って現われたのは悪魔くん。早速いつものように契約を持ちかけると、のぼるはあっさりとそれを受け入れた。
(ケケケ…ガキは仕事がやりやすいぜ)
するとのぼるが一つ目の願いを言うよ、と言い出す。
「おっ さっそくかい? なんでもいってみな」
「友だちになってよ!」
悪魔くんは目を丸くし、
「友だち…?」
そう言ったきり、言葉を失った。
死神くんは無理心中を図った理由を両親に訊く。
「妻が株に手をだしてね これが大損だったんだ」
「何よ〜〜っ」夫の言葉に、妻はムッとした。
「あなただって 安い土地を買わされて 調べてみたら国有地だったじゃない 金だけとられて大損よ!!」
「おまえだって 純金コインをたくさん買いこんだが みんな鉛のニセモンだったじゃないか!!」
「あなたはへんなセールスマンがきたら ことわりきれずなんでもかんでも買いこんでるじゃない! それでも男なの!?」
「やかましい!!」
どんどんヒートアップしていく言い争いに、我慢できなくなった死神くんが「ケンカするな〜〜っ!!」と二人を止めた。
我に返った二人は静かに語る。
自分達夫婦は何をやってもうまくいかず、人にもすぐ騙される。おかげで友人や知人からお金を借りまくって、首が回らない
状態になってしまった。そこで死んだ方が楽だと思ったのだ。
そんな二人を死神くんは子供のためを思うんなら生きろ! と励ますが、二人は相変わらずやる気を出す気配がない。
ひとまず外へ出る死神くん達。
「どう思う?」
死神くんの問いに「だめかもしれんな」とカア助もあきらめモード。
その時、二人はのぼると砂場で遊んでいる悪魔くんを発見。しかもいつもと違って帽子をかぶり、服を着ている。
「おい おまえ何やってんだ!!」
死神くんの出現に「また おまえたちか」と悪魔くん。
「まさかおまえ この子どもと契約を…」
「そうだよ すでにひとつめの願いごとをかなえてやった 契約成立だ!」
「何をかなえてやったんだ?」
「見てわかんないのかよ ひとつめの願いは「友だちになって」だ」
死神くん達は目を丸くし、
「友だち…?」
そう言ったきり、言葉を失った。
それを見て「同じパターンくりかえすんじゃね――っ」怒った悪魔くんは死神くん達をぶっ飛ばした。
「今の 友だち?」
「ちがうよ あいつらのいうこときくなよ」
悪魔くんはおめえの親か兄弟がこの病院にいるのか? とのぼるに尋ねる。
「うん パパとママがねてるよ パパとママいつもケンカしているんだ 前は仲がよかったのにね―― どうして仲が悪く
なったのかなァ…」
「知るかよ」
ふとのぼるは、まだ両親が仲が良かった頃のことを思い出す。
その時のぼるは遊んでいて、うっかり棚の上にあったグラスを落として割ってしまったのだ。
それを見て「新婚旅行のスペインで買った 大事なものなのに〜〜っ」と大泣きする母親を「泣くなよ バカだなァ」と慰める父親。
のぼるはその様子を呆然と見つめていた。
「そ――か わかったぞ ボクが悪いんだ ボクのせいでパパとママがケンカするようになったんだ」
そしてのぼるは、二つ目の願い事を悪魔くんに言った。
のぼるが悪魔と契約したことを両親に伝える死神くん。
が、悪魔が願いを叶えてくれると聞き、両親は「チャーンス!!」とはしゃぎ出す。二つ目の願いで金を要求させようという魂胆なのだ。
死神くんは「子どもをダシにつかうな〜〜っ」と怒るが、カア助が生きる気力が湧いてきてるから、と制する。
ここは子供に頼り、三つ目の願いを言わないよう言い聞かせよう、と。
そこへのぼるが戻ってきた。と、いきなり両親の魂が体に戻る。生きる気力が湧いたおかげで自然に戻ったのだ。
それを見て喜ぶのぼるをよそに、すかさず父親は「のぼる! パパのいうことをよ〜〜〜くきくんだ!!」とお金を要求させようと
するが……ふと、手に持っていたグラスに気づいた。
「エヘヘ ボクこわしちゃったでしょ アクマって子になおしてもらったんだ」
それを聞いて、既に二つ目の願いを使ってしまったことを二人は察する。
「ごめんね パパ ママ これでまた前のやさしいパパとママにもどってよ」
が、両親から返ってきたのは「バ…バカタレ――ッ」「バカ――ッ」という怒鳴り声。
のぼるは驚いた拍子にまたグラスを落とし、割ってしまった。
「せっかく 借金かえせるチャンスだったのに… まったく…」
「あなたににてかんじんな所でドジなんだから」
「うるさい!!」
そして二人は、やっぱり死ぬしかない、とまた体から魂が抜け出てしまう。
のぼるは泣きながら、病室を後にした。
「まったく どこまでついていないんだ」
「世の中うまくいかないわね」
そう愚痴りあう両親を、今度は死神くんが「バカヤロ――ッ」と怒鳴りつけた。
あのガラスにどういう意味があるのかはわからない。が、二つ目の願いで使ったということはそれなりに重要な意味があったはず。
「あの子は あの子の考えで両親を元気にしてやろうとしたんじゃないのか!!」
「それをこわすなんて!!」
「おまえたちは あの子の心をふみにじったんだ 最低だぞ」
このままでは三つ目の願いを使ってしまうかもしれない、と死神くん達は急いでのぼるの元へ向かった。
公園のブランコで泣きじゃくるのぼる。
「そんなに泣くなよ」悪魔くんはあきれた。
「パパとママはボクのことキライなんだ ボクのことはどうでもいいんだ」
そんな彼にまだ三つ目の願いが残っているぜ、と悪魔くん。
すかさず駆けつけた死神くんが止めるが、結局「ひっこんでろい!!」と再び悪魔くんにぶっ飛ばされた。
「よーし これが最後だ もっと大きいこといってみなよ 月へいってみたいとか世界一周してみたいとか… 金や女の子でも
いいんだぜ」
そして、のぼるが口にした三つ目の願いは……
「あのね…」
死神くんは、両親にのぼるが三つ目の願いを使ってしまったことを報告する。
「3つめの願いで金を要求したか?」と相変わらずな父親を「バカヤロウ!!」ともう一度死神くんは怒鳴りつけた。
そしてのぼるが病室に入ってきた。叶えた3つめの願い、それは……
のぼるは持っていた袋の中からピーマンを取り出すと、目の前で囓って見せた。
「エヘ! パパ ママ 見て ボク ピーマン食べられるよ」
唖然とする両親。
「ボク いい子になるよ だから おこらないで しからないで ボクをキライにならないで」
涙ぐむのぼる。その様子を見て、両親も表情が変わっていった。
「これが のぼるくんの命とひきかえに要求した願いだ」死神くんが言う。
「大人にとっちゃささいなことだが のぼるくんにとっては大事なことなんだ」
「もう好ききらいいわないよォ いい子になるよォ」
泣きながら言うのぼる。その時、父親が体を起こしのぼるの頭を撫でた。
「パパ」あっという間に笑顔になるのぼる。
「えらいぞ ピーマン食べられるようになったんだな」
「うん」
「のぼるを見てたら なんだかパパもやる気がでてきたよ」
そして「ごめんな のぼる かまってやれなくて」と我が子をしっかりと抱きしめた。そして、
「おい 起きてんだろ? のぼるに声かけてやれよ」
父親が母親の方を向いて言うが……
「うるさいわね こんな変な顔見せられないわよ!」
母親の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。それを聞いて「元が変な顔なんだから しょうがないだろ!」と軽口を言う父親。
「何よ そのいいかたは!!」
「本当のことだろが!!」
それをきっかけにまた喧嘩を始める二人。のぼるは「いつものパパとママにもどった」と嬉しそうに笑った。
ひとまず問題が解決し、ほっとする死神くん達。残る問題は悪魔くんだ!
何とか魂を取るのを阻止しようと悪魔くんの元へ向かう二人。が、悪魔くんは意外なことを口にする。
「3つの願いのうち おれがかなえてやったのはふたつだ」
わけがわからない、といった表情の二人に悪魔くんは説明する。
のぼるは「ピーマンが食べられるようにして!!」と願いを言った後、あまりのくだらなさに呆然としている悪魔くんをほったらかして、
自分で勝手にピーマンを買い、自分で勝手に食べたのだという。
「そうさ 自己暗示ってやつさ バカなガキだ」
大笑いする悪魔くん。死神くん達も呆然とした。
「そんなわけで あいつとの契約は続行中だが おれ個人の理由でとりけしにしてもらう」
悪魔くんはかぶっていた帽子を地面に叩きつけた。
「最初の願いが「友だちになって」だ クソいそがしいのに いつまでもガキの相手なんかしてられっか あのガキにそうつたえておけ!
あばよ!!」
そして悪魔くんは帰ってしまった。死神くん達は、顔を見合わせほっとした。
その頃、病院では、
「ちくしょう なんだかやる気がでてきたぞ! もうおまえみたいなヘマはやらねーからな」
「あなたといっしょにしないでよ!! あなた以上にわたしががんばってみせるわ!!」
さっきまで植物状態だった二人が元気に喧嘩をしているのを目の当たりにし、医師は「なんだなんだ」と仰天。
「このふたりはいったいなんなんだ 誰か説明してくれ〜〜っ」と叫ぶ声が辺りに響き渡った。
この両親ダメすぎ。
心機一転しても多分ダメだろ。
友達になってもらえば、友達のよしみで好きな願いを魂とは関係なく叶えてくれないかな?
上辺だけの友達なので無理
ピーマンてのは普通に意表だったわw
両親がクソな分こどものけなげさがあ〜
最終話 死神失格の巻
「わっぷ!!」
死神くんはいきなり、主任に書類の束を叩きつけられた。
彼曰く、今まで死神くんが書いた始末書の山と、霊界からの警告書だという。
「おまえがいつも規則にしたがわず 自分勝手に仕事しているからこんなことになるんじゃ!!」と死神くんを叱る主任。
当然、その矛先は見張り役でもあるカア助にも向いた。
「見張り役のおまえがついていながら 何をやってんだよ!!」
「だって〜〜っ こいつはわがままで自分勝手で おれのいうことぜんぜんきかないんですよ 感情的になるし 人間のカタもつし
主任もわかっているでしょう?」
「とにかく警告書がきたからには 規則どおりに仕事しろ!!」
主任は今度大きな規則違反をしたら、この仕事をやめてもらうことになる、と告げる。
それを聞いて「クビですか? そりゃあいい!!」と大喜びするカア助。
「死神がクビになったらどうなるんです? 他の仕事につくんですか」
「消えてもらうだけだよ」
カア助の問いに、主任は説明する。
死神には「死」というものがない。が、死神が死神でなくなる時、この世にはいなくなる。消滅するのだ。
驚く死神くんに主任は「そら 今回の仕事だ 規則を守れよ」仕事内容が書かれた書類を渡した。
地上へ向かいながら「ハッハッハッ〜〜ッ おめえとのつきあいも そろそろ終わりだな〜〜っ 楽になるぜ」とはしゃぐカア助。
が、死神くんはいつものように怒らず、ぽつりと言った。
「おれ 時どき思うんだ おれ この仕事むいてないんじゃないかなァって……」
珍しく沈んだ様子の彼に、カア助は「ちゃんと仕事しろよ」と言った。
とあるビルの屋上に、サングラスにヘルメットの、大きな箱を担いだ男がいた。
男はポータブルTVを取り出し、ニュースにチャンネルを合わせる。
今日は「平和の使者」リンダ・グローバーが来日する日。
彼女は不治の病であと数年の命と医師に宣告され、それ以来各国の首相・大統領に平和を訴える手紙を送り続けてきた。
その行動が多くの支援者を得、今では世界各国を回り、軍縮や核兵器削減などに多大な影響を与えているのだ。
『すでに世界26か国をまわり 平和をうったえつづけてまいりました いま全世界で平和ブームがたかまっておりますが これも
すべて 彼女 リンダ・グローバーのおかげなのです!』
興奮気味に伝えるレポーター。男は箱から銃を取り出し、組み立て、そして、照準を合わせた。
レポーターが、あと五分でリンダの乗った飛行機が到着する予定だと告げる。
「ここのポイントを見つけるのに苦労したぜ」
男はサングラスを外した。
実は彼は、リンダを殺すよう依頼された殺し屋。空港周辺は警備が厳重で近づけず、ボディーガードも常についている。移動中の車も
おそらく防弾ガラス。チャンスはただ一つ。飛行機のハッチから彼女が下りて来る時。そこを狙えるのがこの場所なのだ。と、
「彼女に死を宣告したのは3年前だったな」
いきなり背後から声が。男はすかさず銃を撃つが、その人物――死神くんは何事もなかったように平然としている。
さらに二度撃つが、結果は同じだった。
「やめろ おれは人間じゃない」
「さわぎが大きくなったら こまるだろ」
「何者だ」
そう言う男に、死神くんは名刺を見せた。
「死神…? おれを殺しにきたってわけか?」
「ちがうよ」死神くんは険しい表情で言った。「おまえ 殺し屋だな リンダ・グローバーを殺しにきたんだろ」
「かくしてもムダだぜ」
「リンダの命はあと2年あるんだ ここで死んでもらっちゃこまるんだよ」
「おれの仕事をジャマしにきたというわけか」
死神くんは「そうだ」と答えた。
「おれはプロだ うけた仕事はやりとおす ジャマするな」
「おれだってプロだ 自分の仕事はやりとおす」
死神くんは殺し屋に「仕事を依頼したのがどんなやつなのか知っているのか?」と尋ねる。
依頼したのは兵器を密造・密売している秘密組織。世界が平和になってしまえば自分達の兵器が売れなくなるため、彼等にとって
リンダは邪魔な存在なのだ。
が、殺し屋である彼にそんなことは関係ない。金さえもらえば誰からでも仕事を受けるのだから。
飛行機が次第に近づいてくる。
死神くんは今殺さなくてもあと二年で死ぬんだよ、と何とか止めようとするが、当然殺し屋は「今日殺すと依頼をうけた 今日殺す!」
と聞く耳を持たない。
なんとか彼を止めようと、体に触れようとしてカア助に止められた。
「就業規則第48条 必要以上に人間の体にふれてはならない 就業規則第35条 死生と関係ない人間に対し 必要以上に会話をしては
ならぬ 同様に姿を見せてはならぬ」
思わず「うるさいな」とうっとうしがる死神くんを「規則にしたがって仕事をしろよ」と注意するカア助。
が、死神くんは構わず「必要とあれば姿を見せるし人間の体にもふれる!」とカア助を押しのけた。
「おまえの仕事もジャマしてみせる!」
そしてついに、飛行機が滑走路に着陸した。
「やめろ おまえにおれの仕事をジャマすることはできん」
そう言う殺し屋に「そんなことない 規則内であればいろいろできる たとえば…」カア助は説明しようとするが、
「おれは死神だ おまえを殺すこともできるんだぜ」
いきなり死神くんがそんなことを言い出し「そんな規則はね〜〜っ!!」と思わずツッコんだ。
すると殺し屋が「おれはこんな時のために保険をかけてある」と言った。「高い保険料を払うんだ おれの魂が保険料だ」
はっとした死神くん達が後ろを向くと……
「おれの出番のようだな」
やはり悪魔くんがいた。
「またおまえか!?」
「半年に一回しか出番がないのにまたでたな!!」
「なんだよ そりゃ!!」
タラップが接続され、総理大臣らが出迎えのため並ぶ。殺し屋は早速、悪魔くんに死神くんを目の届かない所に飛ばすよう頼んだ。
「残念だな 消えてもらうぜ」
「くそう!!」
死神くんは、殺し屋に飛びかかろうとしてカア助に止められた。
「オイ! やめろ!!」
「規則なんてクソくらえだ!!」
「よせ!!」
その時、
「うるさい!! 気がちる!!」
殺し屋が再び二人に向かって発砲し……カア助に弾が当たってしまった。
血を流す彼に「なんだ カラスは本当のカラスなのか」と意外そうな表情を浮かべる殺し屋。
カア助は苦しげにうめいた。
「へ…へへへ 忘れてたぜ いつも おまえと行動しているから 自分も死なないなんて思ってたら… おれはただのカラスなんだ」
笑うカア助を、慌てて抱き上げる死神くん。
「おめえとはこれまでだ へへへ もうケンカもしなくていいんだ… 新しい相棒と 仲よくやりな…」
「カア助!!」
「最後にひとこといわせてくれ… おめえはいいやつだ…だから規則を守って…この仕事……続けてくれ……」
そして、カア助の首ががくんと後ろに倒れ……動かなくなった。
「カ…カア助…」
呆然とする死神くん。だが、
「悪いがこれまでだ あらよ!!」
悪魔くんは容赦なく、魔法で死神くんを遙か遠くへはじき飛ばしてしまった。
「遠くへ飛ばしてやったぜ」と願いを叶えたことを報告するが……殺し屋は既に、照準を覗きリンダが現れる瞬間を待っている。
その集中力に「さすがプロだな」と悪魔くんは感心した。
出迎えのスチュワーデスにより、ハッチが開けられた。殺し屋は引き金にかけた指に力を込めるが……降りてきたのはサングラスに
黒スーツの男達。
『ボディーガードでしょうか? 数人の男がでてきました リンダは命をねらわれているということですから 当然のことでしょう』
リポーターが淡々と伝える声がTVから聞こえてくる。
「今日から安心してねるんだな 永遠の眠りをな」
殺し屋はまだ出てきていないリンダに言うようにつぶやいた。
そしていよいよリンダが出てくる……と思った瞬間、カア助の体を抱えた死神くんが立ちはだかった。
驚き「悪魔よ 何をしている!?」と後ろを向く殺し屋。
が、悪魔くんは戻ってきた死神くんにぶっ飛ばされ、気絶していた。
それを見て殺し屋は「さすがプロだな」と死神くんを褒める。
「プロなら規則を守れよ あのカラスのいったとおり ジャマしても おまえの体はつつぬけだ ムダなことはするな」
「口うるさいカラスはもういない」
死神くんは、カア助の体をそっと下に寝かせた。
「おれの好き勝手にさせてもらうぜ」
「きさまに何ができる ひっこんでろ」
再び睨み合う二人。と、
『リンダです!! リンダ・グローバーの登場です!!』
ついに、車椅子に乗ったリンダが姿を見せた。歓迎の声を上げる人々に、笑顔で手を振り応えるリンダ。
その瞬間、殺し屋の体が倒れた。
「な…なんだ?」
殺し屋は混乱した。自分が宙に浮いていて、倒れている自分を見下ろしているのだから。
「どうなったんだ!? きさま何をした!!」
「魂をぬきとったんだ 肉体は何もすることができない」
「きさま…」
と、「すげえ規則違反だな」悪魔くんが目を覚ました。「よくもやってくれたな てめ〜〜っ」
怒る悪魔くんに、殺し屋は二つ目の願いを言う。
「あの女を殺せ!!」
「わかった…おまえの願いはなんでもかなえてやるぜ」
悪魔くんはリンダの元へ向かい、殺し屋は高笑いした。
「はじめからこうすりゃよかったんだ 死神よ おまえの負けだ! 世界平和なんてクソくらえだ!!」
「人殺しめ」死神くんは静かに言った。「おまえは 最低だ!」
そう自分を睨む死神くんに「おまえだって 人を殺すのが仕事だろ」と殺し屋。
すると死神くんは、何かを吹っ切ったような表情になり、ハサミを取り出した。
「なんだそのハサミは? 何をするつもりだ?」
死神くんは何も言わず、そのハサミを殺し屋の魂の緒に当てた。そして、
「そうさ おれは人殺しだ」
そうつぶやくと、
「カア助…ごめんよ おれ…死神やめるよ」
そっとハサミを閉じ――プツ、と小さな音がして、魂の緒は切れた。
「おまえは死んだよ」
告げる死神くんに「あの女も死んだ」と笑う殺し屋。そこへ悪魔くんが戻ってきた。
「やったか?」
「いいや」
「なぜだ!? 何をしている!?」
「あんたとの契約は無効だ 死んだやつとは契約できないのさ」
彼は一瞬、唖然としたが、
「やってくれたな 死神よ」うつむいている死神くんを見て、微かに笑った。
リンダの乗った車が、沿道にいる大勢の人々の歓声を浴びながら進んでいく。
「死神よ おれの負けだ おまえの好きなようにしろ」
殺し屋は言った。どのみち仕事に失敗したら、依頼主に殺される運命にある。死神くんは彼の魂を連れ、霊界へ帰って行った。
その様子を見ながら、どこか心配そうに悪魔くんがつぶやいた。
「どうすんだあいつは こんなことしでかして 死神失格だぜ」
「これよりNo.413号の裁判をはじめます」
マントを深く被った、目しか見えない裁判官が開廷を告げた。被告人は当然、死神くんだ。
傍聴席には他の死神仲間が、証人席には主任がいる。
「413号は日ごろより規則を守らず 今回 生存者の魂をなんの理由もなく とりあげたのです!!」
検察官らしき死神が、罪状を読み上げる。
「法定規則にしたがい 最高刑の罰則を要求いたします!!」
「主任は いいたいことがあれば いいなさい」
裁判官の言葉に、主任は立ち上がった。
「え〜〜 413号はまったく規則を守らず 私も手をやいておりました 人間の味方になって死亡時間も守らず人間のいいなりになるし
死亡予定の人間を勇気づけて 予定をのばしてしまったこともあります わがままで自分勝手で感情的で すぐ人間の味方になる
仕事の実績も悪く 彼の行動は死神として失格です!!」
出てきた言葉は案の定、厳しいものばかり。「はっきりいって 彼は死神にむいていません!!」とまで言われてしまう。が、
「しかし… 彼のやったことは すべて正しいことだと信じます!!」
思いがけない言葉に、死神くんはもちろん、傍聴席の死神達も驚く。主任は続けた。
「彼は人間を理解し 人間の心を読み 人間のためにつくしました 彼は人間のために一所懸命仕事をしました 彼の仕事における
ミスは すべて人間のためのもので 彼個人のミスではありません 彼と関係のあった人間は なんの問題もなく 安らかに死を
むかえ あるものは勇気づけられ 生きる気力をとりもどしたのです 彼こそが 一番人間の心を理解している死神といえるでしょう!!」
不意に、死神くんの脳裏に、これまで出会った人々の顔が浮かんだ。
小柳亜美、中村先生、悪魔くんを困らせたおばあちゃん、ライオンのレオ、太郎を始めとする四人の幼なじみ達とおばあちゃん、
戦場で出会った兵士、福子、雄三や吾助ら四人の老人達、郁美、空き地を守っていたおばあちゃん、いずみと源三……。
そして、判決が下った――。
「主任どうもありがとうございます」
死神くんはなんとか消滅を免れた。お礼を言う彼に「あまり問題おこすなよ」と主任。
「あの…監視役のカラスは…!? 新しいやつを…」
「そんな新しいカラスなんぞつけられん」
「…それじゃ おれひとりで…」
「何をいってんだおまえは! ホレ!!」
主任は背後のカーテンを開けた。そこにいたのは……包帯を巻いたカア助!
「カア助!!」思わず声を上げる死神くん。「おまえ死んだんじゃなかったのか!?」
「勝手に殺すな!」カア助も叫ぶ。
「主任におまえの口ぐせにしていることをいわれちまった」
「おれの口ぐせ?」
「「おまえはまだ死ぬ予定ではない」ってな」
二人は思わず笑った。
そして死神くん達は、いつものように仕事へ向かった。
空には、大きな虹が架かっていた。
〈死神くん 終〉
天界が命を奪う運命にしてない相手でも人間が殺す事可能なのか?
変わりにどっかのろくでなしが生き延びるんじゃね
タバコ屋のおじいちゃんがあと80年長生きするんだっけ
>>293 戦場が舞台になった話で兵士が撃たれて死んだのを見て
死神くんが「予定外の人間が死んじまった」って言ってるシーンがあったからたぶん可能
それにしても今回で終わりか…結構長く連載してたなこの漫画
最後は死神くんが人間に近すぎるってことで、死神をやめさせられて人間に生まれ変わる
んじゃないかと思ってたが違ったか
打ち切り?
大分続いたからネタ切れじゃね?
カア助は助かったがただのカラスってことはいずれ死に別れるときがくるんだよな。
カラスの寿命って10年もないよな。
なんだかんだで主任は死神くんのこと評価してたんだな
ちょっと意外だ
これより楽屋裏に入ります。
改めて参加してくれた皆さん、読んでくださった皆さん、ありがとうございました。
誤字脱字やら分かりづらい文章やらでだいぶご迷惑おかけしたかもしれませんが…どうもすいません。
では、今からただの名無しに戻ります。
乙です
落ち着いて長く続いた連載だったなー
フレッシュジャンプでたまに読んでただけだったから
掲載誌買えて続いてたのは知らなかった。
とんちんかん毎週連載しながら死神くんかけもちするのは大変だったろうなあ。
作者はこういうシリアスものも描きたいんだろうな
ギャグのほうが有名になった割りにこっちは大ヒットにはならなかったけど
結局連載終了は何年?
平成2年だから7年ぐらい連載してたことになるな
>>305 とんちんかんの最終巻だかのあとがきで、
「この連載でえんどコイチ=ギャグ漫画家と思われるのが嫌だった。
シリアスも描けるし要望があればエロでもやる」
見たいな事をかいてたきがす。
このスレも死に行くときは死神くんが現われるのだろうか