ここはとあるどこかの建物の一室。
多少の洒落っ気はあるが、どこにでもあるようななんの変哲も無い建物の中の一部屋。
けれど、今この瞬間ばかりは、その部屋は異常な空気に満ちていた。
部屋の中には、九十人に迫らんとする人々が集っている。
制服姿の者が多いが、スーツや和服や野球チームのユニフォームの者まで服装一つで多種多様な人物が
この部屋に集められているのが分かる。
そしてそのほとんどの人物が落ち着きの無い様子で辺りを見回している。
まるで目の前の世界が急に変わったかのような、不思議な感覚を覚えているのだ。
だが、その雑多な喧騒がいつまでも続きはしない。
部屋の扉が開き、一人の仮面の男が目の前に現れたのだ。
「始めまして。今回のゲームのディーラーを努めさせていただくレロニラと申します。皆様にはただいまよりあるゲーム
『デッドオアアライブ』つまり生きるか死ぬかの戦いを行っていただきます」
「生きるか死ぬか……ですか」
神崎直はおずおずとレロニラの言葉を反復する。
今までのLIAR GAMEとは何か違う雰囲気を敏感に感じ取ったのだ。
「はい。尚、今回のゲームは文字通り敗者には死が訪れます。金銭の負債を負うことはありません。ただ、敗者は死に、
勝者は生きる。それだけです。そして勝負を決める内容ですが、至って簡単です。皆さんにはこのたびのゲームの事務局より
支給品を配らせていただきます。内容は食料、筆記用具、地図、参加者名簿、照明器具、時計などをデイバックに入れて
お渡ししますが、更にランダムアイテムと称するものを、それぞれ一つから三つまで入れられています。中身には拳銃や刀といった
武器、パソコンや携帯電話や衣服といった特殊な道具、そして使いようが無いガラクタまで様々な物がありますが、それを使って
最後の一人になるまで殺しあっていただく。それだけです」
レロニラは説明を一度きり、周りを見回した後、再び言葉を続ける。
「また、皆様には、六時間に一度、午前六時、正午、午後六時、深夜零時に定期放送をお伝えします。その内容としては
今までの死者の読み上げ、更に禁止エリアの発表をさせていただきます。更に、これは注意ですが、ゲーム開始から五日間を
経過した後、生存者が二名以上いらした場合は全員が失格となり、死亡します」
「おい。それで優勝した奴はどうするつもりだ?」
レロニラの説明が区切りが付いたのを見届け、渡久地東亜が聞き返した。
「はい。勝者には、あらゆる願いを叶えましょう。無論、人の蘇生でもそれが願いであれば当事務局は責任を持って叶えます」
「ほう。なるほど」
それを聞き渡久地は不敵な笑みを浮かべる。
そしてその後更に別の方向から次は女性の声が届いた。
「……それ、私には無理だわ。自慢ではないけど、私には男の人を殺して勝ち残る力なんてないもの」
桐奈々美は平静をした口調で話した。
しかし、レロニラはディーラーの姿勢を崩さずに答える。
「心配は要りません。それは把握しています。この参加者の中に明らかな実力差があることは承知しています。
無論頭脳で戦う場も設けています。皆様が戦う戦場にはLIAR GAME会場というものを設けています。その場所のみ
暴力行為の一切を禁止し、当局の提示するゲームで争っていただきます。ゲームは複数ありますが、このゲームでは
敗者は勝者に、自身の保有するアイテムを一つ。もしくは情報を提供した後に、会場から退場していただきます。
退場後4時間の経過を持って、再入場が可能となります。そしてこのゲームで5連勝。もしくは7勝を挙げたものは
『勝利者』となり、殺し合いからは離脱となり、その後の身の安全は当局が保障します。また全ゲーム終了後には
殺し合いの勝者と同様に願いをかなえてもらう権利を手にします」
「つまり、最終的に複数人が生き残る可能性があると考えていいのかしら?」
「はい。そうなります」
レロニラは桐奈々美の問いに答え、再度周囲の様子を確認する。
これ以上の質問が無いのを確認しようとしたが、そこで一人の男が割って入った。
「ふざけんじゃねえぞ!お前、俺を散々振り回して、次は殺しあえだ!ふざけるなよ!おいコラっ!」
声の主は藤沢和雄である。
LIAR GAME一回戦にて神崎直に敗れた元教師である。
男は怒りに身を任せ、レロニラに掴みかからんとばかりに近づいてくる。
「どうやら説明の邪魔をする方がいらっしゃるようなので、排除いたします。尚、これは先ほど説明いたしました
禁止エリアに侵入した場合にも起こる処分ですので、目を逸らさずにご覧下さい」
「ああっ!ふざけんじゃ……」 ボン!
藤沢の怒りの言葉は最後まで続かなかった。
レロニラが手に握ったスイッチを押すと同時、藤沢の首から上が跡形も無く吹き飛んだのだ。
爆音が響いたと直後、周囲は水を打ったように静まり、心臓の鼓動が聞こえるようなぐらい物静かだった。
「………お分かりいただきましたか。ですが本番では60秒ほど警告音を発した後に爆破しますので、ご安心下さい。
勘違いで入ってしまういきなり死ぬ事はありません」
レロニラは最後の注意を告げるが、流石にそれ以上レロニラに歯向かう者はいなかった。
「ではただいまより皆様を戦場へと移動します。ワープとなりますので、次の瞬間には目の前の景色が変わり、
ゲームはスタートとなります。それではゲーム『デッドオアアライブ』スタート」
レロニラの言葉と同時、部屋にはあれほどいた人は姿を消し、残されたのはレロニラと一つの死体のみ。
ゲーム。『デッドオアアライブ』開幕
【藤沢和雄@LIAR GAME 死亡】