2 :
1/4:2009/01/30(金) 15:18:32 ID:???
第200話 私がライバル
炸裂する藤田の小内巻き込み。審判の手が高々と差し上げられる。
『一本――ん!きまったあっ!静岡代表・藤田恵!中量級優勝――っ!』
場内は割れんばかりの大歓声。中学以来、二年ぶりの全国優勝。
これで藤田もインターハイチャンピオンの一人となった。
県の団体戦では巧と互角だったというのに、栄冠を手にしたのは藤田一人。
いかに腑に落ちずとも、それが結果であった。
と、巧の姿が見えないことに皆が気づく。負けたショックが大きかったかと杉が気にするが、
「まー大丈夫でしょ、保奈美がいってるから」
桜子のその一言で例のごとく、野次馬根性炸裂。
「なんだよ、また近藤と一緒?油断もスキもあったもんじゃないな」「いくか、のぞきに!」
杉ばかりではなく茂までもが反応し、それを桜子が止める。
「あんたらのぞかなくちゃいけない義務でもあるの?」
「これも一種の習慣なんだよ」
結局、ミッタンや一年生、応援に来てくれた他の学校の者たちも一緒になって行く事に。
「あいつらのって大っぴらな割に異常にオクテだからな」
「小学生並の進展度ですからね」「あら、そうなの?」
「本当のところはどうなのかしら?」「みんないくの?」
ゾロゾロと行列になって進む彼らを、桜子一人ではどうしようもなかった。
「は、袴田サンまで……」
「藤田のバカ……どうなったかな」
不意にそんな事を口にした巧は、その場で起き上がる。「いこう!」
「やっぱ、他のヤツらの試合みとかなくちゃ。いつか当たるヤツもいるかもしんねえし」
(だいぶ元気もどったみたい…よかった)
一安心の保奈美。だが、
(でも、もうちょっとゆっくりしたかったな…)
そんな本音もありました。
「え?なんかいった保奈美?」「う、ううん、別に…」
3 :
2/4:2009/01/30(金) 15:19:21 ID:???
戻ってきた巧たちを龍子先生が呼ぶ。その隣の人物に巧も保奈美も気がつく。
「か――さん!」「あっ……巧くんのお母さん!」
「あら、まあ!保奈美ちゃん?」
小学校卒業の際に引っ越していたので、保奈美とは久しぶりの対面となる。
「美人になったわね――大きくなったらキレイになると思ってたけど、まあ――」
それはそれとして、突然姿を現した母親に巧が抗議する。
「なっ!なんでここにいるんだよ!」
しかし彼女はそんな息子を一瞥し、
「なんでじゃないでしょ、おまえは――っ!」
持っていたハンドバッグで思い切り巧を殴りつけるのであった。
「どーして今日の試合のこと、母さんに教えなかったの!今朝、新聞でみてはじめてしったのよ!」
「だって今までも試合なんかみにこなかったし、仕事忙しいし!」
「全国大会だろ、今日のは!他の父兄の方はみなさん、みえられたでしょう、先生?」
頷く龍子先生。仕事が忙しいという巧母の職業は、看護婦さんなのだという。
「ところで今、スゲー痛かったぞ……なにはいってんだよ、そのバッグ?」
「あ――いけない!うっかり忘れて!巧の試合をみせてやろうと思ってたのに!」
その言葉で巧は気づく。
「父さんか……」
巧母がバッグから取り出したのは、亡くなった父親の遺影であった。
「ごめんなさいね、お父さん……」
4 :
3/4:2009/01/30(金) 15:20:02 ID:???
意外に渋い巧父。巧は母親似らしい。父親は消防士だったのだという。
会場に着いたときにはもう最後の試合だったので、見せてあげられなかったことを巧母は悔やむ。
「いいよ。負けちまったしな、あんな試合!」
「なにいってんの。二位だってすごいじゃない」
ふて腐れる巧を優しく諭す母。
「男だろ、いつまでもウジウジしてるとみっともないよ」
「ウジウジなんかしてねえよ!」
「してたじゃん」「してねえ!もうふっきれた!」
「だったら二位でも堂々としてなさい!男だろ!」
母は――決して優しいばかりではなかった。
と、そこで背中に杉がぶつかる。
「おっとあぶね!あっ巧!」「キャッ!」「急に立ちどまらないでくださいよっ!」
それがきっかけになり、巧は完全に吹っ切れる。
「あーっ!わかったよかーさん!堂々としてりゃいいんだろ、堂々と!」
この後の表彰式は父さんに見せてやれ、と言い捨てて身を翻す巧。
(こーやってきびしく育てたのね)
感心する龍子先生。
(相変わらず仲いい……)
少し羨ましい保奈美であった。
5 :
4/4:2009/01/30(金) 15:21:08 ID:???
三日間にわたって高校生たちの闘いが繰り広げられたインターハイ、男子の大会はこれにて閉幕。
個人戦、軽重量級は玉城一史が優勝。
そして重量級は、大本命の東名大藤沢の窪ノ内を破った千駄谷学園二年生、橘大樹に決まった。
優勝旗を受けとる鳶嶋。
彼が戻ろうと振り向いた時、二位の巧の姿がその目に映った。
巧は心の中で眼前に立つ男に告げる。
(鳶嶋……きさまがそれをもっていられるのは)
(一年間だけだ!)
すれ違いざま、鳶嶋は何かを感じ取る。
「軽中量級二位、浜名湖高校 粉川巧!」
二位の巧も表彰を受け、その首にはメダルがかけられる。
(ほら、あなた。巧よ、いい顔してるでしょ)
巧の母は息子の晴れ姿を亡き父の遺影に見せるのであった。
中量級を優勝した藤田は横に立つ鳶嶋を無言で眺める。
その鳶嶋が気にしていたのは、自分が負かした相手である巧。
(本当にあれが、さっきの粉川巧か?)
優勝者であるにもかかわらず、巧を見つめる鳶嶋の目は厳しく、その額には汗が浮かぶのであった。
「巧さんは二位、宮崎さんは三位、団体戦はベスト8か。終わったなあ、I・Hも……」
感慨深げに呟く仲安だったが、
「まだ麻理のが残ってるっ!袴田さんもねっ!」
麻理に後ろからボコボコにされるのであった。
7 :
1/3:2009/01/30(金) 21:00:46 ID:???
巧「ついに麻理ちゃんの出番だね」麻「ハイ!」
巧「やっぱキンチョーするかね」麻「そりゃも――ドキドキしてます」
桜「あのな――それのどこがドキドキしてる顔なんだ?」
麻「ドキドキしてますよお、ほらあ」
そう言って麻理は桜子の手を彼女の胸に当てる。その瞬間――桜子に電流走る。
桜(こ、こいつ!いつの間に……!)
自分の胸に手を当てて確かめる桜子。
桜(ほっ、まだ勝ってるわい)
保「どうしたの桜子?」桜「えっ、べ、べつに。ホホホ…」
第201話 女子個人戦始まる
I・H四日目、女子個人戦48キロ以下級、ついに麻理と袴田さんの出番である。
かたや春の選手権で全国優勝、この日、春夏連覇をかける48キロ級の女王――佐鳴高三年 袴田今日子!
その袴田さんを県大会で破り、彗星のごとくデビューした天才少女――浜名湖高一年 来留間麻理!
「で…どのコが袴田を倒したんだって?」
輪ゴムで髪を結わえつつ、一人の少女が尋ねる。
「ホラ、あそこのコよ」
「クスッ、マジ?ポニーテールのほうじゃなくて?ドチビじゃん」
桜子を相手に打ち込みをする麻理の姿を見て、彼女は笑う。
「あんなのに負けたとは袴田のヤツ、ケガでもしたか、大スランプに陥ったか?いずれにしても……」
「チャンスよねっ!ふっちん、今度こそ宿敵・袴田をやっつけられそうなのっ!」
髪を両側で結わえた彼女は栃木代表の選手。その名を――“乙淵ふね”といった。
8 :
2/3:2009/01/30(金) 21:02:12 ID:???
こないだの春の大会じゃ、あとちょっとで負けちゃったの。
袴田さえいなけりゃ、ふっちん、優勝できてたはずなのに。
「ちょっとフネちゃん」
「いやっ!“ふっちん”って呼んでっていってるでしょう!」
呼称にはこだわりがあるらしい彼女だが、それはともかく。
「あんた春の大会、一回戦負けじゃん。どこがいったい『優勝できたかもしれない』のよ」
「だ、だから、それはその一回戦で袴田とあたったからで……」
まあ、確かに可能性という話では優勝できた“かも”しれないが。
『第一試合場 赤・静岡A代表 来留間!』
そしてついに麻理の第一試合が始まる。
試合場に出てきた麻理の姿に会場の誰もが驚く。
本当にあれが全国優勝の袴田に勝ったのか。怪我でもしていたのではないか――と。
「おたがいに礼!はじめっ!」「ハイ!」
開始の号令と同時に麻理が仕掛ける。
その速攻に面食らう相手の足を、麻理はあっさりと刈り払う。
相手はそのまま背中から落下。
「一本!」
相手の上に乗っかっていた麻理は「んしょ!」両の手足で四つん這いになり、
「よいしょ。よいしょ」ペタペタと移動して離れてから、改めて立ち上がる。
それと同時に――場内は大歓声に包まれた。
「いっ、一本…」「信じられない!」「あっというまに……小内刈り一発で……!」
口々に上がる驚嘆の声。とはいえ、浜高の面々にはそんな反応も慣れたものだったが。
「おいおいマジかよ、全国レベルでもこんなに強えの?」
「ま、相手もフイをつかれたんだろうが…」
「来留間の最初の試合っておもしろいね。会場じゅうが絶対にびっくりするから」
様々な意味で衝撃的な、麻理の全国デビューとなった。
9 :
3/3:2009/01/30(金) 21:03:55 ID:???
(うぞ〜〜!コ、コイツ実力で袴田に勝ったっつーの!?)
果てしなく動揺するふっちん。
彼女と麻理は同じブロックであり、勝ち進めば対決は避けられないのだ。
「か、かくなる上は……少々反則スレスレの手を使うしかないかも……ねっ!」
「ええっ!アンタなに考えてんの!?」
一方、袴田さんも麻理に負けてはいられない。一回戦を一本勝ちして絶好のスタートを切る。
やはり彼女が不調なのではないと理解した会場の人々。この二人が優勝候補ということで疑いなかった。
「てことは久々に敵同士ってワケっスか、佐鳴のお姉さま方」
「今度は負けないわよ――」
桜子の言葉に自信満々で返す佐鳴高の女子部員たち。
袴田さんは麻理に勝つため猛練習を重ね、背負い対策も研究をしてきたという。
と、そこで。「ねっ、今日子。あら?」
袴田さんが試合用の赤紐を返し忘れていることに気づく。
彼女にしては珍しいうっかりミスなのだが――。
「うーん……ただみてるだけってのはけっこうツラいもんスねー体動かしたくなっちまう」
応援席で巧がぼやく。昨日まであれだけ動き回っていたというのに、元気なものである。
昨日は最後の最後で負けてしまったものだから、不完全燃焼ということもあるらしい。
「あせることないさ、巧くん。今日は麻理ちゃんの応援しなよ」
石塚が諭す。
「明日っからまたいくらでも練習すりゃいいさ、この暑い中で。オレらはもーお気楽だけどな」
彼はもう三年生なので、昨日の個人戦までで引退が決まっているのである。
「まっ、今日はオレも応援に徹しますよ。袴田さんのね」
「そっかあ…袴田さんもこれで引退っスもんね、高校柔道」
そう思えば、やはり感慨深いものがあった。ただ――石塚はそれ以外に気になることがある様子だった。
(それにしても…あの話、本当なのか?袴田さん)
旧姓石田舟さんのことかw
あの話?マリ戦で少々反則スレスレの手を使うことか
そこまで堕ちたか袴田
ふねwww
ハンドクリームを塗って掴まれにくくする手か。
いや、全身スキンクリームかもしれんぞ
16 :
1/4:2009/01/31(土) 21:02:24 ID:???
第202話 ふっちんの秘策
「おっ!いました!これはひさびさの掘り出しモノです」
「はい、48キロ以下の髪を両方で結んでいるコですね」
双眼鏡まで持ち出して可愛いコのチェックに余念がない杉と茂。彼らが目をつけたのは、
「あっ名前が変ですねー乙淵ふねだって」「あら、サザエさん?」
袴田さんを一方的にライバル視する変わった名前の少女であった。
「フ――ネちゃ――ん!がんばって――っ!」
衆目もかまわずに、彼女に声援を送る杉たち。
(なんだあいつら?)当人にも不審がられていたのだが。
ここまで勝ち残ったことを仲間たちに賞賛されるふねであったが、
彼女は優勝を狙う者として当然と言い放つ。
「袴田んとこみてみな。優勝するとああなるのよ」
彼女の示した先では袴田さんが取材のカメラのフラッシュを雨あられのごとく浴びており、
その姿はまさにスターと呼べるものであった。
「とはいっても、フツーはI・Hで勝ったくらいであんなふうにはならない。
袴田があんなにチヤホヤされるのはルックスがいいからなのよ」
彼女の言っていることも、確かにもっともかもしれないが――それで?
「私はもっとカワイイから、袴田に勝てば今日からあたしがスターなのよ!」
ものすごくバカっぽいことを、ものすごく本気で言い切るふね。
仲間たちはやれやれとため息をついた。
17 :
2/4:2009/01/31(土) 21:03:15 ID:???
そうこうしているうちに、袴田さんと麻理は二回戦、三回戦と勝ち抜いていく。
次の対戦相手はというと――そこで保奈美が笑う。
「ちょっと名前が変わってて……このひと」
「お、おとぶち……フネ?」
「フッ、フネェ!?」
思わず吹き出す桜子。「もし近くにいたら聞こえる」と保奈美は諌めるが、
(もー聞こえてるよ、このガキ〜〜)
もちろん近くにおりました。ご本人。
桜子は袴田さんにこのおかしな名前の対戦者について尋ねる。
「あっ、この人だったら一度試合してる」
(おっ、覚えていたよーね、袴田)
前回は一回戦負けとはいえ、優勝者に印象を残していたことを得意がるふねであったが、
「どんなツラしてました?」「名前のインパクトが強すぎて、顔はちょっと覚えていないんだけど…」
その印象は彼女の実力とは何ら関係の無いものだった。
「えっ、その時、袴田さん一本勝ちだったの?じゃあなんとかなりそーだ。良かったね!麻理ちゃん!」
(袴田〜〜!そしてそこのポニーテール!もう許さね〜〜)
と、そこで袴田さんを呼んだのは、佐鳴高顧問・鈴木春海先生。
先生は袴田さんに話がある、と彼女をつれていってしまう。
何の話をしているのか気になる桜子は偵察に。だが、そこで麻理とふねの試合が始まってしまった。
聞き耳を立てる桜子。春海先生の話というのは――、
「がんばってください。この大会にもし優勝することができれば…
キミの行きたがっていた鹿嶋大学への推薦入学がきまるんだから」
なんと、袴田さんの進学についてのことだったのだ。
18 :
3/4:2009/01/31(土) 21:04:04 ID:???
(ヘラヘラしてられるのも今のうちよ。やってやる!ギリギリ反則にならない秘策を!)
憎悪と闘志をブレンドした炎を胸の内に燃やす乙淵ふね。彼女の秘策とは――!
@来留間がでてくるところでいきなり猫だまし!
Aひるんだところを双手刈り!
と、そういう戦法なのであった。猫だましについてはルールに何も書かれていないのである。
「フネちゃーん、お願いだからやめてー」「成功してもなんかはずかしいよー」
春海先生の話を盗み聞きしていた桜子は気づく。
袴田さんが鹿嶋大学に行くためには、この大会を優勝しなくてはいけないわけで、
そのために一番大きな障害になるのは誰あろう――麻理であることを。
そして準決勝開始。
(ネコだましはなるたけ顔の近くでたたかなきゃ効果がない!さあ、もっと近くへきなっ!)
少しの間様子を見ていた麻理は、一息にふねの懐へと飛び込んでいく。〔0.01秒〕
(よし!今だ!ネコだまし!)〔0.05秒〕
ふねの両手が動作開始。〔0.88秒〕
麻理がふねに急接近。〔0.91秒〕
ふねの両手が叩いた!〔0.93秒〕――麻理の頬を。音高く。
麻理の飛び込みがあまりにも速すぎたため、猫だましが間に合わず、麻理の顔を挟む形になってしまったのである。
静止する場内。
「えっ?あれ?」
自分でも何をしたのかにわかに理解できないふね。
当然、審判が「待て」をかけた。
19 :
4/4:2009/01/31(土) 21:05:01 ID:???
「わっ、わざとじゃないです!このコが自分から突っ込んできて……!」
見苦しく言い訳をしようとするふねであったが、麻理が顔を押さえてその場にへたり込んでしまう。
「「「わああなかしたー」」」
これには場内大ブーイング。
「ひどいっ!麻理ちゃんを泣かしちゃうなんて!」普段は温厚な保奈美も怒る。
「こらっフネッ!」「いくら顔がかわいくても、していいことと悪いことがあるぞフネッ」「聞いとんのかっ、フネ!」
彼女をチェックしていた杉たちからも非難の嵐。
(ほ、本当にあてる気はなかったのに、その名前を連呼しないで――)
崩れていくふねであった。
ふねの猫だまし、というよりビンタには一応「注意」が与えられた。
ショックを受ける彼女だったが、「警告」にならなかっただけまだマシ。
泣き止んだ麻理は涙を拭い――ふねを睨みつける。
精神的に動揺したふねはもはや麻理の敵ではなく――、
「んしょ――っ!」
背負い一閃で決着がついた。「一本っ、それまでっ!」
これにより、麻理の決勝進出が確定。だが――。
(麻理ちゃん勝ったけど……このままだと進学がかかってる袴田さんと戦わなくちゃなんないの?どうしましょう?)
困惑する桜子だった。
猫騙しか
舞の海の得意技だっけ?
フネの猫だまし
タマ涙目
【注意】
※猫は素早いため、猫だましをする前に手の内に突っ込んでしまいます※
※ 本物の猫には通用しませんのでご注意下さい ※
栃木代表の人「フネちゃん…ちゃんと取説読んでから使おうよ」
フネこれで終わりかよw
最近シリアス成分多かったがこういうのを見ると和むなw
25 :
1/3:2009/02/01(日) 21:00:02 ID:???
第203話 袴田さんの夢
準決勝を戦う袴田さんに声援を送る麻理。その爽やかな光景にドス汚れた目を向ける者がいた。
「ふん!ふん!ふん!ふん!なんだあっ、来留間のドチビが!てめえの敵応援してんじゃねえよ、バ〜カ」
ウンコ座りで毒づくのは、前回、麻理に手ひどい敗北を喫した乙淵ふねである。
「ふっちんがグレたわ」「紅夜叉かしら?」
袴田さんは必殺の内股で技ありを奪い、そのまま抑え込みで合わせ技一本。決勝進出を決める。
佐鳴高のおねーさま方も、麻理も保奈美もそれを喜ぶが――桜子は一人、複雑な表情をしていた。
この大会に優勝できるかどうかにかかっている袴田さんの推薦入学の話。
その進学問題に立ちはだかっているのが、何も知らない無邪気な麻理なのだ。
もし麻理が勝ち、後で袴田さんの推薦入学の話を自分が駄目にしたと知ったら、麻理は落ち込むことだろう。
桜子はこの話を麻理に教え、今日は袴田さんに勝ちを譲るべきだと考える。
そして、桜子が話をしようとしたそのとき――、
「海老塚さん!」
袴田さん自身がそれを止めた。
彼女は桜子を伴って、一度その場を離れる。
そしてもう一人――妙な動きに気づいた乙淵ふねが、その後を追いかけていった。
廊下のベンチに腰を下ろし、桜子を諭す袴田さん。
推薦入学の話を盗み聞きしたのは別に良いが、それを麻理に話すのは許されることではない。
「私…麻理ちゃんにわざと負けさせることまで考えてました……」
うつむく桜子。
「でも、そんなことは絶対にしちゃいけないことですよね。
こんなあたり前のことわからないくらいにこんがらがっちゃってた……。
はああーっ、いわなくて本当によかった……」
彼女は両手で顔を覆い、自分のしようとしたことを猛省するのであった。
26 :
2/3:2009/02/01(日) 21:00:49 ID:???
「あのね、海老塚さん」
そこで唐突に袴田さんが口を開く。
「私ね、小学校の先生になるのが夢なの」
自分で言っておいて照れまくる袴田さんだった。
鹿嶋大学から袴田さんに推薦入学の話が来たのは、一ヶ月ほど前のことだったという。
それまで普通に受験するしかないと考えていた彼女は、他と同様に受験勉強をしていたのだ。
だが、I・Hで優勝すれば推薦では入れるといわれ、そこからまた柔道中心の生活に。
彼女は柔道もしたいし先生になる勉強も両方したい。だから、二回試験が受けられるようなものだと考えた。
だから――推薦入学の話に余計な気を回す必要は無い、桜子にそう言いたかったのである。
とはいえ、やはりこの話は麻理の耳には入れられない。
わざと負けたりしなくても、前のようにガチガチに硬直して技が出せなくなってしまうだろうから。
だが――物陰でそんな二人のやり取りを盗み聞きしている人間がいた。
(聞――ちゃった!おやまあ、そんなことがあったのね、袴田さん!)
フネである。
(そんなに来留間が袴田のことを慕っているなら、本当のことを教えてあげときましょ。このあたしが!)
そして彼女は邪悪にほくそ笑むのであった。
そこで桜子、周囲の異様な気配に気づく。慌てて見回すとそこに――見覚えのある髪型が。
(あの後ろ頭は…フネッ!)
「来留間さん!えへへ。乙淵よ、さっきはごめんなさいね」
いきなり話しかけてきたフネに対し、警戒心バリバリの麻理は猫の子のように毛を逆立てて威嚇する。
ビビリながらも彼女が仕入れた情報を麻理に伝えようとしたその時――桜子がその口を封じた。
そのままフネをひきずっていく桜子。袴田さんは心の中で彼女に礼を言う。
「あの……なんかあったんですか?」「ううん、たいしたことじゃないから」
「何かあるならすぐこの後よ。大事な大事な決勝戦」
「負けないよ」「ハイ!」
27 :
3/3:2009/02/01(日) 21:01:44 ID:???
「よくもこんなところまでズルズルひきずってきてくれたねっ!そこをどきな、ポニーテール!」
体育館の外でフネと対峙する桜子。しかし、そんな言葉ぐらいで道を譲る気は彼女には無い。
「どかないよ。決勝が終わるまであんたを試合場には近づけさせない!」
凛として言い切る桜子に対し、フネは身をくねらせて尋ねる。
「どうしてん?ふっちんだって決勝戦、どっちが勝つかみたいの」
「変なヤジ、いいそうだもん。“袴田さーん、ここで勝ったら鹿嶋大推薦決定よーん”とか」
心底を見透かされ、フネは舌打ちをするのだった。
「とにかく力ずくでもここは通さない!」
「ほお……面白いじゃないの」
『赤、来留間麻理。白、袴田今日子』
ついに始まる決勝戦。二人の三度目の対決は、どちらに軍配が上がるのか。
両校の応援にも熱が入るが、その中に桜子の姿は無かった。
「はじめ!」
「せいっ!」
芝生の上に大外刈りで桜子を叩きつけるフネ。
「へっへーん!I・Hで準決勝まで進んだあたしに、白帯のあんたが勝てると思ってんのっ!」
相手はまがりなりにも全国区の選手である。実力の差は歴然としていた。が。
「水面蹴り!」
桜子は下からフネの膝裏をけたぐる。
「確かに!柔道の技で勝負しようとしたら絶対勝てないけどね!そんならこうすりゃ!立場は逆転よ!」
思い切った桜子。何と道着の上着を脱ぎ捨てた!
「さあ、これで柔道技のほとんどは使えない。どうするフネちゃん!」
そこまでフネを悪役にしたい理由がわからんのだが
河合はサザエさんにトラウマでもあるのか?
諸手刈り→寝技
肩車→寝技
V・V投げ→寝技
オラぁわくわくしてきたぞ!
なんでもありの桜子ってめちゃ強そうだ
女子編は麻里ちゃんが強すぎる設定だから脇でギャグ展開しないとだめなんかね
芝生の上で桜子必殺のバックドロップが炸裂するのかな
いくらフネでも芝生の上でバックドロップはかわいそうだw
33 :
1/3:2009/02/02(月) 21:01:54 ID:???
第204話 桜子危機一髪!
I・H女子個人戦決勝。袴田さんVS麻理の女の対決!今回ばかりは男は完全に応援役である。
「仲安、麻理ちゃんの応援せんの?」「キミの声を待ってるよ、来留間は」
「ほらっ!勇気を出して」「な、なんでオレにゆーんすかっ!」
あんまり応援役をしっかりやっていないような気も。
袴田さんが仕掛けた巻き込みをこらえた麻理は、即座に十字固めに切り返す。
だが、袴田さんもすぐに反応。技に入られる前に身をひねり、麻理を背中から畳に落とす。
「あのちっちゃいコ動きがいい!」「十字固めにいくスピードの速いこと」
「袴田もあぶないところだったが冷静にさばいた!」「やっぱりうまい!」「すごい試合だなあ…」
二人がそんなレベルの高い試合をしていたころ……。
桜子の手首をつかんで一本背負いに入ろうとするフネ。だが、つかんだところが簡単にすっぽ抜けてしまう。
「くっ!やっぱり素手をつかんでじゃ、うまくいかないっ!」
顔面から地面に突っ込んだフネ。その立ち上がり際を狙い、
「ジャンピングヒップアターック!」「だーっ!」
彼女に桜子のお尻がヒットした。
「いったでしょ、柔道着がなきゃつかむとこないから柔道技なんて使えないって!」
「踊るなっ!」
そんな具合に桜子とふっちんはかなり低レベルな私闘をしていた……。
降り出した雨は少しずつその勢いを増してくる。そんな中、フネは桜子に問い質す。
「だいたい、なんでおまえそこまで袴田に肩入れする。変だぞ、女同士のくせに!」
「変じゃないね!これがあたしらの友情だもん!あの二人の試合をジャマするヤツはほっとけないのよ!」
見事に言い切る桜子に、フネは「へー、そうですかっと」と吐き捨てる。
「それはそうと、こんなに大雨になってきたけど、あんたまだやる気?」「あたりきよ、これくらい!」
真剣勝負に雨天中止などありえない。だが――フネはそんな彼女を嘲笑うのであった。
「この鈍感バカめっ!こんだけ濡れちゃってたらTシャツが透けてみえちゃうぞっ!」
「うおおおっ!しまった――っ!」
34 :
2/3:2009/02/02(月) 21:02:57 ID:???
桜子といえども女のコ。透けた下着を衆目に晒して動き回れるはずもなく、その場にうずくまってしまう。
「ここで一気に勝負をつけたいとこだけど、それよりも……
今のうちに試合場にいけばまだ間に合うかもしんない!ぶっこわしてやる!袴田と来留間の試合を!」
この期に及んでなお消えることのないフネの執念。
だが――(はっ!よーく考えてみたら!)そこで桜子は気づく。
立ち上がり、フネに向かって後ろから突撃。
「桜子タ――ックル」「だぶっ!」
ラグビーばりのタックルを決める桜子。
フネはとっさに前受身をとるものの、濡れた芝生の水しぶきを顔面におつりとしてもらう。
「てめえぇ――ついに羞恥心までなくなったのか?この露出女ー!」
そんなフネの罵声をものともしない桜子。「うっかり忘れてた。今日のあたしは…」
「ブラじゃなくてタンクトップ着てたのよっ!たいしてエッチにみえなかったりして――っ!」
桜子はそのままフネを羽交い絞めにして捕まえる。
「だからもうにがしゃしないよ」「キ――ッ、なんてしつこいヤツ」
二人とも風邪を引きませんように。
麻理と袴田さんの試合を見つめる女性の姿。彼女に見覚えのある人間も周囲にはいた。
彼女はこのあいだ引退をした山吹光。全日本体重別九連覇をした選手である。
今は母校の鹿嶋大のコーチをしており、スカウトのためにI・Hにきているのだ。
「決勝までくるにはきましたけど、袴田てこずってますね、先生」
彼女はそういうが、隣に立つ鹿嶋大の監督は違う評価を下す。
「うーむ、いや、あの選手を相手にしているからだろう。やはり、袴田の実力が低いとは思えない」
袴田さんをスカウト対象に考えている彼らからしたら当然だろうが、
県の予選で一年生に不覚をとったと聞いて不安になっていたのである。
だが――実際に試合を見て、彼らは納得をしていた。
「来留間というあの選手が一年にしては強すぎるのだ」
「それは、私も感じました。面白いコですね」
35 :
3/3:2009/02/02(月) 21:03:46 ID:???
(強い!でも、私も前より強くなってるはず!勝負よ麻理ちゃん!)
試合も佳境、袴田さんは決め技の一本背負いに入ろうとする――が。
「反応が速いっ!一本背負いをとめた!」
山吹の目が光る。
「しかも足を取っている!」
そのまま残った足を刈り払えば麻理の勝利が決まる――というところで、
袴田さんは肩越しに麻理の奥襟を捕まえ、その体勢から身をひねり、内股で強引に切り返した。
「でやああっ!」
判定は「技あり」この終盤に来て決定的なポイントリード。
「おおっ!うまい!」「あそこから内股で返すとはっ!」「さすがは袴田サン!」
「おまえら、本当に来留間の応援しろよ!」
この麻理のピンチだというのに――、
「なのにウチの女子部員ときたら、海老塚さんはどっかへ消えてるし!
探しにいった近藤さんも帰ってこないし!薄情な先輩たちね!」
龍子先生の怒声も空しく響くばかりである。
「桜子――っ!どこにいるのーっ!」
その頃、保奈美は桜子を捜し、傘を差して会場の外にまで出てきていた。
そこに走ってくる二人の影。「保奈美――っ!」
「保奈美――っ!こいつを、フネを止めてっ!」
息を切らせ、必死の形相の桜子。
「こいつは袴田さんとマリちゃんの試合を妨害する気よっ!命がけで止めてっ!」
「ちっ、仲間かっ!ケガしたくなかったら、どきなっ!」
いきなりの状況に保奈美は戸惑うばかりであった。
「えっ?と、止めるって?あたしが?」
36 :
業務連絡:2009/02/02(月) 21:05:01 ID:???
次回は一回休載して、単行本21巻のおまけを紹介します。
これが龍子先生だったらフネ死亡フラグでガチだったんだが・・・
まさかまさかの保奈美覚醒?
保奈実「巧クン!助けて!!」
「はーい」
「ばーぶー」
近藤「きゃー、誰か助けて!」
女相手でも手加減しなさそうな二人 が あらわれた!
佐野「…お、平八郎の友達の…近藤さんだっけ?」
酒井「よう、浜高の美人さん」
タンクトップ(;´Д`)ハァハァ
44 :
1/3:2009/02/03(火) 21:00:14 ID:???
○単行本第21巻 (表紙:巧母・巧(乳児) 裏表紙:巧父・巧(幼少期))
・四コマその1 とりあえずやりました『水戸黄門』
1.桜(助さん)「ここにおわすおかたをどなたとこころえるっ!」
三(格さん)「さきの副将軍、水戸光圀公であらせられるぞ!」
2.佐(悪代官)「くっ!もはやこれまでっ!かくなるうえはっ!」
桜(助さん)「きいた?格さん、今のセリフ」
三(格さん)「こいつ時々出てくる“往生際の悪いヤツ”かっ!」
桜(助さん)「あぶないっ!」
3.佐(悪代官)「どうせ死ぬならせめて!この世のたむけにご老公のくちびるをっ!」
保(黄門様)「きゃ――っ!」
4.佐(悪代官)「てめ――うっかり八兵衛が強い水戸黄門なんてあるかっ!」(佐野フルボッコ)
巧(八兵衛)「やかましい!それ以前の問題だっ!」
保(黄門様)「あ――ん!」
45 :
2/3:2009/02/03(火) 21:00:58 ID:???
・四コマその2 もういっこやりました『水戸黄門』
1.さて、問題と言えばお銀の例のシーンであるが…
杉(お銀)「あ――いいお湯かげんだこと」カッポーン
2.麻(ディレクター)「視聴率がガタおちなんだけどね」
杉(お銀)「ま――どういうこと?!」
桜(助さん)・三(格さん)「おまえのせいだっつーのっ!」
3.麻(ディレクター)「お銀は次回から彼にやってもらおう。たのむ、ながたクン!」
永(お銀〈二代目〉)「まかせといて」
杉(お銀〈降板〉)「個人的な趣味で選んでるだろディレクター!」
4.そしてそのころ弥七は…。
斉(弥七)「おっとまちな!おめえさんの相手はこのオレだ!」
一人で役づくりに没頭していた…。
茂(飛猿)「斉藤……」
46 :
3/3:2009/02/03(火) 21:01:49 ID:???
○GS美神、柔道に挑戦!!第21回 サンデーコミックス名物『絵筆をもってね!』
・「極楽大作戦・(有)椎名百貨店」の椎名高志先生が特別ゲストだ!!
選評/河合克敏 応募総数:2434点 入選:13点
グランプリ:三重県・森田医師〔浜高メンバー(リングにかけろ)〕
〈河合〉これじゃ、みんな死んじゃってるよ!
〈椎名〉大丈夫、いざとなったら生き返ります。
椎名賞:神奈川県・くじらのたまご〔女子重量級の県大会代表選手〕
〈椎名〉私が名前をつけましょう。「マジェスティック・12子」さん。
〈河合〉略して「MJ・12子」さんってワケですね。
河合賞:山口県・柴田宏臣〔桜子・麻理(四コマ)〕
1.桜「ぶうぉぅほっほー」2.桜「ぶうぉぅほっほー」麻「桜子センパイ何やってんですか」
2.桜「帯ギュ読んでんのおもしろくって」麻「知ってる。あれおもしろいよね」
4.アナウンス「Sコミックス帯をギュッとね 第○巻□月×日堂々発売」
〈河合〉「すごい笑いかた…」
〈椎名〉「やっぱ体育会系っスから…」
topix:岩手県・伊藤勇太〔別所(繊妍 ほっそりと美しいさま)〕
〈椎名〉な、なんか、こうたまんねっス…
〈河合〉「せんけん」と読むらしい。フンイキ出してますよね。
広島県・岡原えりまき〔桜子(サンデー各作家風桜子六種)〕
〈河合〉キチンとかけてるよね。
〈椎名〉オチも効いてるし、ザブトン一枚。
一週遅れの感想になってしまったが…
短めのタンクトップって…ww
いかにも男性作家だなぁって感じでちょっと可愛い。
そしてツッコミ入れられないお前らも可愛い。
フツーは「スポーツブラ」というのだよ。
48 :
1/3:2009/02/04(水) 21:00:02 ID:???
第205話 熱戦に決着
「止めてぇ保奈美――!」
袴田さんと麻理の決勝戦を台無しにするべく走るフネ。
その前に立ち塞がったのは近藤保奈美、その人である。
「と、止めればいいのね。じゃあ失礼して……」
彼女のとった防衛手段、それは――、
「目つぶし攻撃ーっ!」
手に持った傘を回転させて、その水滴での攪乱攻撃であった。もちろん肉体的にはノーダメージ。
「そんな情けない攻撃が!通用するか――っ!」
フネはジャンプ一番、保奈美の傘を蹴り飛ばす。
「見たか!小学生の時にやってた、空手茶帯の実力を!」
きれいに着地を決めたフネ。だがその瞬間、追いついた桜子が彼女を捕らえた。
「でかした保奈美!一瞬、足止めさせりゃこっちのもんよっ!」「あっ、そうなの」
「くらえ!小学生の時にクラスの男子15人からギブアップを取った……コブラツイスト!」
スタンディングから関節を取った桜子。だがフネはそのクラシックな技に毒づく。
「くっ、しかしそれは昔のハナシ!今の高度なプロレスの世界でコブラでギブが取れるかあっ!」
「じゃ本気で絞めよう」「ででででででっ」
ところ変わって試合場。
現在、袴田さんが技あり一つリード。それを取り返すべく麻理が背負いを仕掛けるが、不発に終わる。
袴田さんは麻理の背負いに対抗するべく、石塚を相手に猛特訓を重ねていたのだ。
「そう!そして、とうとうボクが背負いをかけてもかわせるようになった!
悪いが麻理ちゃんの背負いは通じないぞ!」
誇らしげな石塚。全国区の男子選手の技にさえ対応できる袴田さんに隙は無かった。
麻理は手が短いため、組手争いの時点で既に負けてしまっている。組み合ってからでは遅いのである。
それに対して打つ手が無いわけではない。だが、それをアドバイスしては袴田さんにも聞こえてしまう。
結局――麻理が自分で気づくしかないのだ。
49 :
2/3:2009/02/04(水) 21:02:06 ID:???
一度組手を切り、間合いを離して仕切りなおす麻理。
そして再び組み合おうとしたその瞬間――麻理が仕掛けた。
「んしょ――っ!」
組んだ瞬間、引き手をとると同時に一本背負い。「技あり――っ!」ポイントが並んだ。
袴田さんはそこで集中力を切らすことなく、すかさず逆襲の寝技を狙いにいく。
しかし、残り時間は10秒しかない。
結局、麻理はその最後の攻撃をしのぎきり――「それまで!」時間が来た。
ポイントは互いに技あり一つずつ。勝敗の行方は判定にもつれこむことになった。
春の選手権チャンピオン、袴田。後半に追い上げを見せた脅威の一年生、来留間。
軍配はどちらに上がるのか。
その頃、ようやくフネが桜子を引きずりながら試合場に到着。
「と、とうとうここまでくるとは、根性あんじゃん。
でも、もう試合を妨害しようっつう力も残ってないでしょ」
「…いまさら、もう終わってるって」
「判定!」
副審二人の旗は赤、白、双方に分かれた。が、しかし――主審が挙げた手は左手。
『優勝は袴田今日子――!三年生の袴田、高校最後の試合で有終の美を飾った――っ!』
場内を包む大歓声。
袴田さんも、佐鳴高の仲間たちも、その目から涙が止まらなかった。
50 :
3/3:2009/02/04(水) 21:02:59 ID:???
「負けちゃった……」呟く麻理。
判定が出てしばらくたってなお、拍手が鳴り止まない場内。それほどの好試合だったのである。
互いに持っている技を全て出し尽くしたかのような見事な攻防がそれだけの感動をもたらしたのだ。
(まあ、いいや。みんなこんなにほめてくれたし)
「なんとか勝てたか」「ええ、でも危なかったですよ」
試合を見届けた鹿嶋大の監督、そしてコーチの山吹光。
「旗判定も二つに分かれましたしね。本当に互角だった。
ただ、こういう時は審判も春の大会でタイトルをとっている袴田に旗をあげたくなるでしょうから」
審判の判定は心情的な問題で、決して麻理が劣っていたわけではないのだ。
「袴田さんが勝ったか。ま、いっか。麻理ちゃんまだ一年生だし」
ほっと一安心の桜子だったが、その態度がフネには気に入らない様子。
「甘いんだよ、あんたらは。もっと貪欲にならなくっちゃ、勝負の世界は勝ち残ってけないよ」
と、そこで雨に濡れたフネはくしゃみをする。「へくちゅ!」
「フネさん、カゼかもしれませんよ」「性格に似合わずかわいいクシャミするね、おフネさん」
「もう!下の名前を連発すんな!本人けっこう気にしてんだぞ!」
こうしてインターハイでの全ての試合が終了し――浜松への帰途へつく。
で、袴田さんの推薦入学のことはというと……。
「え――っ!推薦、自分から断ったのー!?」
新幹線の車内に響く桜子の声。袴田さんはせっかく優勝したというのに推薦入学の話を蹴ってしまったという。
それではどこへ行くのかというと――彼女の視線の先には石塚の姿。そう、彼と同じ大学にしたのだ。
「小学校の先生になるんじゃないんですか!」
「あっ、石塚くんも教育学部志望だったから。ラッキー、とかいっちゃって……ダメ?」
べつに当人が良いのなら良いが、何かわざわざ大変な道を選んでいるような。
「大丈夫、必死でやればなんとかなるって自信がついたの。今日、麻理ちゃんと互角に戦うことができて。ねっ」
その頃、鹿嶋大の監督と山吹コーチ。
「わたしら何のためにイバラキから……」「それをいっちゃあおしまいよ」
ナントイウアイノチカラ
なんとすぎ・みやざきらがうらめしそうにいしづかをみている!
要するに背負いの技のキレだけなら、麻理ちゃんは石塚さん並だということか。
凄いのか凄くないのかサッパリわからん・・・
教育学部…体育科で入るんだろうか
いやいや、佐鳴って元々県下有数の進学校だから。
55 :
1/3:2009/02/05(木) 23:00:26 ID:???
第206話 亀裂
インターハイに燃えた夏も終わり、浜高は今日から二学期を迎える。
二学期初日の今日の練習は一時間半のショートプログラム。
その終了後には夏稽古の打ち上げ、カラオケパーティーが待っている。
「顧問同伴がちょっとイヤだが、みんなガマンしてくれっ!」
「はっきりいうなよ、ガマンって!」
既に練習は次の大会、春に武道館で行われる高校選手権を照準としている。
今日も今日とて仲の良い浜高柔道部。その練習風景を見て、斉藤は思うところがあるのだった。
「熱か、熱か、ん心もカラダもぉ〜〜!あ熱かぁ〜〜ん♪」
桜子の熱唱しているのは『火の国の女』by坂本冬美。
「尾崎、尾崎っと」「森高森高」「麻理ちゃん、あんたアニメソングとかにしたら?」
仲安の選曲はわりとそのまま。麻理のアイドル系はやや似合わない。
(巧くん、バービーボーイズとか知ってるかな?)
保奈美は巧と一緒に歌えるデュエット曲を探し、
(あっ、これ歌おうかな。『デビルマン』)
持ち歌の少ない巧は選曲に迷っていた。
「おっ、『天城越え』!アタシだっ」
「おまえ続けていれるなよっ!」「おまけに演歌ばっかしじゃねえかっ!」
カラオケ…そこは人々の思惑が錯綜する…。
そこに茂の注文しておいたビールが到着。だが、さすがに教師の前で未成年者の飲酒は認められない。
キャンセルを頼もうとする龍子先生であったが、既に栓を抜いてしまっていたので料金は払い戻せないという。
「じゃあ、仕方ないから、大人が処理しましょうコレは。はい西久保さん処理して」
「まあ、仕方ないっスね」
「てめえらはよ――!」
56 :
2/3:2009/02/05(木) 23:01:09 ID:???
歌の苦手な斉藤は飲み物を飲んでばかり。巧はようやく歌えそうな曲を見つける。
そのとき、斉藤がポツリと呟いた。
「…仲いいよな。浜高柔道部」
突然の言葉に戸惑う巧。そして斉藤は続ける。「本当に…これでいいのかな?」
浜高柔道部は二年生だけのチームで全国ベスト8にまで行った。
もっと練習をして技を磨いて、それで他校の三年がいなくなれば、もっと上を狙えるはず――。
「……うん。確かにそれは前に聞いたけど……」
斉藤の言わんとしていることがイマイチのみこめない巧。
というところで巧の入れた『島唄』が流れる。
斉藤との話は一時中断。麻理と保奈美も一緒に『島唄』を歌うことに。
斉藤の相手は歌い終えた杉と茂に交替。
こんなところまできて柔道の話はヤボ、と完全に気を抜いている二人に対し、斉藤は真面目に尋ねる。
「もっと上を狙う気がないかってきいてんだよ!」
斉藤のいいたいことは杉にも分かる。
だが、それは彼が橘とも鳶嶋とも直接戦っていないから言えることではないのか――杉はそう問い返す。
「確かに全国大会には行けた。この壁は越えた。ベスト16の壁も越えた。けどよ。
その次のこの壁だけは、オレには越えることができる気が正直しねぇよ」
越えられない壁というのは千駄谷学園や天味、東名大藤沢といった超々強豪校のことである。
そうした学校の選手たちは高校三年間、ほとんど休みなしでハードな練習を重ねている。
今から浜高がそれに追いつくためには、いったいどのような練習をしたら良いというのか。
「それこそ木村政彦みたいに寝る間を削って乱取りするのか!?
血の小便が出るまでケイコしろってのか!?
冗談じゃねえよ!死んじまうぜ、オレたちじゃな!」
57 :
3/3:2009/02/05(木) 23:01:48 ID:???
杉が声を荒げ、テーブルを叩いた。
その音に歌っていた巧たちも思わず口を閉じてしまう。ただ流れるバックコーラス。
「差を埋めることはムリだって言うのか?」
「ムリって言うよりな、不可能だ」
杉は同じく鳶嶋と戦ったミッタンに意見を求める。
「オレは…確かにもっとがんばれば、ベスト8より上にいけるかもしれないと思うよ。
でも、千駄谷の橘と鳶嶋の二人には、それでも通用しないと思う」
実体験からの言葉なだけに、それはとても重いものだった。
斉藤は茂にも意見を求める。
「宮崎、おまえは?」
「さてな。でも、一つだけ言えることは、オレは押しつけられるのだけは性格的にガマンできねえからな」
そして最後に――巧は。
「おれは……やっぱり勝ちたい」
その一言に杉は鼻を鳴らす。「……フン」
斉藤も満足そうな様子だったが、そこで茂がさらに重ねて問う。
「巧よ、そりゃあ、斉藤のいう『上』を目指してガンガンハードに練習するのに賛成ってことか?」
だが、それに対する巧の反応は――。
「いや……勝ちたいけど……みんなと楽しくやっていきたい……」
巧のその言葉に思わず立ち上がる斉藤。
「そうか……おまえだけは違うと思っていたけどな…」
もはや彼には言うべき言葉は何も残っていなかった。
「先に帰らせてもらうよ」
斉藤は誰とも目を合わせることなく、一人、その場を後にしたのであった。
斉藤・・・・・・
こういうの分かるわ
俺も高校の時似たようなことに議論になったし
無論レベルは浜高よりもっと低かったけど
重たいなー。前回までとの雰囲気の違いに戸惑うわ。
何か少年誌でこういうの珍しいな。
大抵頑張れば主人公側は絶対に追いつけるってのを
特に根拠なくキャラが信じてるもんだけど。
だよなー
なんか妙にリアルというか、しかも両者の言い分がわかるだけに
読んでてなんかくるものがあるぜ
63 :
1/4:2009/02/06(金) 21:06:41 ID:???
第207話 すれちがい
「は――あ、なんだか昨日は、みんないつもとずいぶん違ってたよねぇ――」
ため息をつく桜子。「それにしても……」
「巧くん一人しか二年生が練習にこないとは……」
こんな事態は今までになかった。もしかしたら、柔道部始まって以来の大ピンチかもしれない――。
というのに、悠然と構えている桜子、保奈美、それに麻理。
このまま先輩が出てこなくなったら――と困惑する仲安だったが、
「でも、とりあえず三人のほうはあそこまできてるけどね」
そう言って桜子が道場の入り口を指差す。
引き戸のガラス越しに見える人影が三つ。
杉・茂・ミッタン、この三人でしかありえないシルエットが映っていた。
「斉藤いないみたいだぜ」「更衣室の奥にいるかもしれねえ。もうちょっと待とう」
昨日の今日でバツの悪い三人。
斉藤がいるのかいないのか、様子をうかがっていたのだが、そこを桜子に発見される。
「斉藤くんならきてないよ」
いきなり入り口が開いて顔を出した桜子に驚く三人。
「昨日あれだけ言い合ったから、顔合わせづらいんでしょう?男が三人も固まっちゃってまあ」
「へっ!斉藤?関係ねえよ!オレらはちょっと用事があって遅れただけだ!」
杉は強がりを言いながら道場へと入っていった。
ミッタンが本当に斉藤は来ていないのかと確かめる。桜子はそれを肯定。
「ホントよ。昨日、あんたらと意見が分かれて四対一になっちゃったから怒ってんじゃないの?」
彼女のそのセリフに巧は違和感を抱く。「四対一?」
「あんたと杉と宮崎とミッタンで四人じゃない」
何をいっているのかと彼女は呆れる。巧の最後の一言が一番効いたというのに。
64 :
2/4:2009/02/06(金) 21:07:21 ID:???
要は“これ以上練習をキツくするかどうか”でもめていたわけだが、
その本質的な部分は“練習をキツくしたところで千駄谷にかてるかどうか”という議論であった。
斉藤は勝てると考え、杉たちは勝てないと考えたのだ。
現実に現在の浜高と千駄谷の実力には開きがある。
それを克服しようと浜高の側がギリギリまでがんばっても、同じようなギリギリの練習は千駄谷もやっている。
結局、互いに同じくらい強くなってスライドをしていくだけで、差が縮まることはないのである。
それではI・Hの仇を取る気は無いのかと問う仲安に対し、杉は声を荒げる。
「カンタンに言うな!オレらだって悔しくねえワケじゃねえ!
実際に戦ったオレらだから実感としてわかるんだ!がんばって勝てる相手ならやるさ!」
杉の叫びには悲痛ささえも漂っていたが、それを桜子が冷たい目で眺めていた。
「そうか?」
そこで巧が口を挟む。
「オレは勝てると思うけど」
驚いた杉。一瞬、言葉を失った。巧はさらに続ける。
「負けたっていっても、二‐二の内容負けじゃん。あとちょっとで勝てたんだよ。そんなに差はないんじゃない!」
その言葉に茂も杉も慌てて反論。
「二‐二っていっても、あそこの鳶嶋や橘はなあ……!」
「待て、それよりおまえっ!おまえだって昨日きついケイコはヤだって言ってただろうがっ!」
杉には巧が突然心変わりをしたかのように感じられたのだが、それには巧も違和感があった。
「オレは確か、『みんなと楽しくやりたい』って言ったんだよ」「だからっ……!」
「あっ!」
「そうか……斉藤、オレがラクしたがってると思って怒ったのか」
杉との会話の中で違和感の正体に気づいた巧。
「なんだよ巧?」「おまえどっちの味方なんだよ!」
「どっちかっつうと」
巧は一人、更衣室へと入り、
「斉藤だな」
その扉を閉めた。
65 :
3/4:2009/02/06(金) 21:08:06 ID:???
今から練習だというのに柔道着からジャージにTシャツという格好に着替えてきた巧。
「ロードワークに、いってきまーす」
彼は「んじゃ」と言い置いて、一人勝手に道場を飛び出していってしまった。
巧が走るのはなぜか――夕暮れ時の商店街。
その一角に、『さっぽろらーめんと餃子の店 さいとう』つまり斉藤の自宅があった。
巧は斉藤の母親に尋ねてみるも、まだ斉藤本人は帰っていないらしい。どこかで時間をつぶしているのか。
店から出ようとしたところで、斉藤の弟妹たちに出会う。
「オス!斉藤弟妹!元気か?」
気さくに声をかける巧。
「そうだ!おまえらのボス…じゃなくて、兄ちゃんの寄り道しそうな場所知らねえかな?
なーんて、わかるわけねーか。なー」
何の気なしに妹の頬をつつく。と、
(いい男……(ハァト))巧の手を握る斉藤妹。どうも気に入られた様子だった。
「ふーん、斉藤が部活休んで、粉川もどこかへいっちまったと……
こりゃ柔道部分裂するかも知れませんね。なんか最近のプロレス団体みたいじゃないスか」
「『週プロ』見ながら話を聞かないでください」
龍子先生の訴えにもまともに耳を傾けようとしない西久保さん。
子供たちの心を読み取れていなかったことに龍子先生は気を落とすが、
考え方がバラバラなのは当たり前でしょう、と西久保さんはさらりと言ってのけるのだった。
66 :
4/4:2009/02/06(金) 21:08:53 ID:???
乱取り相手の交替時間となり、余りとなった仲安は「チャンス!」と他の目を盗んで道場を抜け出す。
だが、桜子がその動きに感づいた。
「マリちゃん、ちょっと待っててね」
「おトイレですか?私もいこうっと!」
どうして女のコは一緒にトイレに行きたがるのか知らないが、いっそ彼女も一緒に連れて行くことに。
「いい?マリちゃん、今から、巧くんの後を追うよ」
そこでいきなり保奈美に声をかけられた。
「何してんの桜子?」「わっ、保奈美!?しまった、ここは愛人号のとなり!」
というわけで――気がつけば道場の中の人間は随分と少なくなっているのであった。
「あそこ!」「おお、いた!」
斉藤の妹が巧を連れていったのは――近くの川の河川敷。
そこで斉藤は一人、筋力トレーニングに勤しんでいた。
「99〜〜!100!」
腕立て伏せ100回。汗だくの彼は息を切らせて地面に転がる。
「斉藤!」
その声に彼は、妹と手をつないで近づいてくる巧の姿に気付き、身を起こした。
「巧…」
斉藤「巧…お前、妹に何をした!」
誤解を解くつもりが更に泥沼へ、ですね
わかります
巧モテすぎだぞ
なんともうらやましい
西久保があんまり心配してないってことは、案外丸く収まんのかな
この後、巧と斉藤は夕方の河川敷で殴り合って
「お前強いな」「お前こそ」とお互いを認め合い
マブダチになるんですね
夕方の河川敷でトレーニングとかどこの青春ドラマだよw
三馬鹿の方に感情移入してしまう…
巧と斉藤は出来すぎてて面白くねぇよ。
巧は1人超然としてるというか色んな意味で違う世界の人というか・・・
傍から見ると何だか皆にいい顔してるようにも見えるな。
斉藤や巧の気持ちもわかるけど、俺は三バカに味方したくなっちゃうなあ。
でかい壁を前にすると逃げたくなる……
74 :
1/3:2009/02/07(土) 21:00:29 ID:???
巧を追いかけ勢いで道場を出てきてしまった桜子たち。
柔道着姿のままで外に行くのはあまりにも勇気の要る行動だが、もう道場には戻れない。
「まったく、後先のことちっとも考えないんだから」
さらりとキツイことをいう保奈美。彼女は手を叩き、自転車を引っ張ってくる。
「どこからみてもランニング中の柔道部!」「目立つことには変わりないような…」(保奈美って最近…)
第208話 走る二人
「何しにきた?ジャマしにきたなら帰ってくれ」
巧の顔を見るなり棘のある言葉をぶつける斉藤。だが、邪険にされても巧はめげたりはしない。
「おまえが誤解してると思って。オレが言ってた“楽しくやりたい”ってゆうのを、
ラクな練習をしたいってとられたみたいだから」
巧は斉藤の横に並んで同じように腹筋を始める。
「オレが言いたかったのは、柔道を楽しくやるってことだ」
練習が苦しいのは当たり前。体をいじめるのだから。でもそれを嫌々やっていては駄目。
苦しい練習を長く持続させるためには、楽しくやらなくてはならない。巧が言っていたのはそうした心構えの問題なのだ。
だが、斉藤はそれを「理想論だ」と斬って捨てる。
例えば筋力トレーニングは苦しくなるまでやらなくては意味が無い、単純作業の繰り返しである。
そんなものが楽しいヤツがそんなにいるか?斉藤は巧を問い詰める。
「いや、楽しめる!」即座に反論する巧。
「コンセントレーションカールっていうウエートトレーニングがあるだろ。
あれをやれば力コブが太くなる。自慢できるじゃん!
懸垂をやれば後背筋がついて、逆三角形のカラダになれる。カッコイイじゃん!
この腹筋だっておなかがひきしまってカッコよくなるぞ!何回やっても平気だぜ!」
75 :
2/3:2009/02/07(土) 21:01:32 ID:???
ところでこの腹筋、何回やればいいのかと斉藤に聞くと、出てきた数字は普段の1・5倍。
「なんだ?声なんてあげて。苦しくとも楽しむんだろ?」
からかうような斉藤の言葉に、意地になる巧であった。
「超うれしい!こんなに腹筋が鍛えられてっ!」
その頃、桜子たちは斉藤の自宅のラーメン屋の前まで来ていた。
中に入った一行は、ついつい普通に注文をしてしまう。
「って違ーう!ラーメン食べにきたんじゃなーい!」
桜子のおかげで軌道修正。
斉藤の母に尋ねてみると、やはり巧もここにやってきたことが分かった。
「ところで、どうしてそんなカッコしてるの?巧くんが今日は部活なかったって言ってたけど」
マジメな斉藤が部活をサボったなどと知れたら心配をされてしまう。
慌てて保奈美が誤魔化そうとするが、そこで皆の柔道着姿を突っ込まれる。
これはさすがに、どうにもならないかと思われたが――、
「あら――みんな、どうしたの?それ?」
「ああっ、しまった!うっかり着替えるのを忘れてここまできちまったー!」
「そうねー、近藤さんだってTシャツのままでっせー!」「いっけなあーい!」
「もーみんなおっちょこちょいやねー!」
「失礼しました――っ!」
テケテンテンテンテン。
ヤケクソ気味の力技で、どうにかこの場を乗り切った。
「あせったあ!なんであいつらのために、私らがこんなに気をつかわなくちゃならんのよ!」
その頃、河川敷では斉藤と巧が次のトレーニングメニューに入っていた。
ヒンズースクワット400回。さすがに双方とも息が切れている。
「どうした、巧?つらそうだな」「へっ、ちぃーっともつらくない」
スクワットは足腰のトレーニング。
背負い投げは投げる瞬間、自分と相手の体重を両方とも自分の足腰で支えなければならない。
「足腰が強くなれば、オレの背負いはもっと破壊力をつけるぞ!ちっともつらくねえ!」
76 :
3/3:2009/02/07(土) 21:04:05 ID:???
「さあ、もう終わりか斉藤!そっちがへばってんじゃねえのか!?」
「うっ、100mダッシュ七本だっ!」
苦しい練習を自ら望んだ斉藤。
苦しい練習も楽しくやるべきだと主張する巧。
どちらも先に音を上げるわけにはいかず、トレーニングはいつしか信念をかけた意地の張り合いになっていたが、
やがて――それすらもどうでもいいことのようになっていった。
(オレは勝つために自分から苦しまなくちゃならないと思い込んでいたんだ。
でも、それは苦しんだ代償として、勝たせて欲しいという甘えた考えだ。
そんなことをしなくても――)
(柔道を好きになればいいんだ。楽しむ努力をすればいいんだ)
「あっ、いたーっ!」「巧さんと斉藤さん!」「何してんの?」
ようやくのことで巧と斉藤を見つけた桜子たち。
だが、彼女たちの目から見た二人は、まるで遊んでいるかのようだった。
その頃、浜高柔道場では。杉が不機嫌そうに腕組みをして仁王立ち。
「とうとう帰ってこなかったな、巧!おまけに海老塚、近藤、仲安、来留間も消えやがって!」
茂が肘で石野をつつく。
「石野、おまえは裏切ったりしねえよなあ」
「あはは、そ、そんなこと…」
殴り合いこそなかったが河川敷で「お前やるな」「お前こそ」コースだな
要するにカラオケのときに巧が言ったのは「練習厳しいのは歓迎だけとどうせなら楽しくやろうぜ」ってこと?
そんなのわかんねぇよw そりゃあ斉藤も誤解するわ
確かにアレじゃあ「勝ちたいけど辛いのはヤダ」に取られても仕方ないからな。
まあ個人競技だから、全員が同じレベル(体格差・成長度合いもあるので「同じ練習」ではない)の練習やる必要はないんだけど、どうなるかね。
青い春やねー
勝ちもしくは強敵のライバルまで行くのが目に見えてる主人公や
サブ主人公がそんなコト言ってても説得力ねぇよ!
とか思ってしまう自分が性格悪い気がして嫌だ…
なんだよそれに乗っていけば杉たちは優勝やそれに熱く
絡めるところまで行けるって言うのかよ。
あの2人に、浜高で唯一実力で個人戦県大会どまりの杉の気持ちを
推察できるとは思えない。
そりゃ自分はこれ以上は無理だって言うだろ・・・
杉は同地区同階級に全国制した藤田がいて、
IHでもこれまた全国制した橘にあっさり負けたりしてるから
名門の壁みたいなのは特に強く感じてんだろうな。
宮崎は軽量級とは言え全国ベスト4に行ったんだから
斉藤が上手く持ち上げる言い方すればあっさり翻意しそうな気もするけどなあ。
杉と違って実力がどうとかって意味で反対してる感じがないし。
一番強固に反対しているのは杉だろうね、気持ちは分かるけど。
ミッタンは宮崎次第のような気がする。
後輩2人がどうなるか…
しかし杉はとことん不遇だな
ちょっとだけ確変はあったけどあんなのじゃ全然足りない
一回くらい藤田に…せめて引き分けくらいまであってもいいじゃないか
仏門に生きている割には現実主義すぎだな
仏門ゆえにじゃねーか?どんな宗派しか知らんけど、
基本的に仏門って苦行よりも中道をゆけって考えだろうし。
浄土真宗じゃなかったっけ、杉家
いつぞやの話で出てきた気がする
>>84 宮崎はこのままの練習でも来年は優勝できると自分で思ってんじゃないのw
91 :
1/3:2009/02/08(日) 21:02:04 ID:???
いつのまにか勝手に仲直りをしていた巧と斉藤。心配することなかったと桜子がぼやく。
「ところで巧。おまえ、本気で勝てると思うか?あの千駄谷に」
「勝てる!と思うぜ、オレは」
巧のその返答に、斉藤は何かを感じ取るのであった。(やっぱりコイツは…)
「でも、杉と宮崎と三溝の力が要るけどね」「…だな」
第209話 再び一つに
朝練に堂々と遅刻してやってきた茂とミッタン。彼らが着替えをしてグラウンドに来ると、
そこには同様に遅れてきたらしい杉が腕組みをして突っ立っていた。
「見ろ!してやられたぞ」
言われるままにグラウンドに目をやると、そこには朝練に勤しむ斉藤の強さが。
「巧と斉藤……!」「斉藤が戻ってきたのか!?」「いや違う。あいつら斉藤とつるみやがったんだ」
斉藤が戻ってきたのではなく、斉藤の側に他の連中が吸収されたのである。
しかも、先に来ていた石野もちゃっかり向こうに引っ張り込まれており、
杉たちは裏切られた感がぬぐえない。
そこにやってきたのは龍子先生。茂は先生に皆に注意するよう促すが、遅刻してきた者の言い種ではない。
先生は斉藤の側も杉の側も、どちらも応援はしない。
要は日本一を目指すか、ベスト8でよしとするか、目標をどこに置くかという問題。
実際に体を動かすのは先生ではなく、彼ら部員たちなのだから。
「あんたたちで納得するまで話し合いなさいよ。まあ、確かに熱血のほうが好きだけどね――シュミ的には」
先生からも突き放されてしまった杉たちは、ともかくジョギングを始めるのであった。
巧はそんな彼らの様子を横目で眺める。
(やっぱり……早くあいつらにわかってもらって一緒にならないと……)
92 :
2/3:2009/02/08(日) 21:02:44 ID:???
昼休み――巧と斉藤は学校を抜け出し、市の中央図書館にまでやってきていた。
彼らは柔道ばかりではなく、レスリングや筋力トレーニングなど、
役に立ちそうな本を片っ端から借り出してくる。
それをそのまま外のベンチで広げるのであった。
「いやあ…最新のトレーニング理論か。調べてみるもんだな」
自分たちのやっていたトレーニングにはまだまだ無駄が多かったことを思い知る斉藤。
「どうだ?新しいトレーニングの計画立てられそう?」
「うん。いちおうもうちょっと細かく調べてから作っていきたいな」
理論的なものが好きな彼は水を得た魚である。
コーチなどに押し付けられてやるのと、自分でそのトレーニングの意味が分かってやるのでは、
ヤル気がぜんぜん変わってくるというもの。
「授業サボってきたかいがあったなあっ!」「バ、バカ、おまえ大声で!」
放課後、道場で対峙する斉藤・巧と杉たち三人。
「いったい何を始める気だ?」
つっけんどんな態度の杉。しかし斉藤は動じない。
「オレたちは、やっぱりもっともっと強くなりたい。だから、今までの練習方法を改革したい。
それをおまえらにもわかってもらって……また一緒に練習して欲しい。それを言いにきた」
「フン、改革すれば千駄谷学園ら強豪に勝てるとでもいうのかよ」
媚びることなく堂々と言う斉藤に対し、嫌味を込めた言葉で杉は返す。
ともかくも、まずは説明である。
「来留間、黒板」
アシスタント役の麻理が黒板を裏返すと、そこにはなぜか「ぼくドラえもん」と国民的青ダヌキの絵が。
「ラクガキしたら消しとく」
反省する麻理。どうにも緊張感が続かなかった。
93 :
3/3:2009/02/08(日) 21:03:42 ID:???
「オレが考えた強化項目は三つ。まず一つめは、重量アップ!」
春の選手権までに全員、体重を5キロ以上、もちろん筋肉で増やす。
半年しかないのだから、時間的にはギリギリである。
「二つめは、科学的なトレーニング!」
最小限の努力で最大限の効果をあげる。
一つの例だが、オリンピックで金メダルをバシバシ取る旧東ヨーロッパのレスリング選手は
土曜、日曜はほとんど練習しないらしい。
毎日毎日猛練習するのは、格闘競技の世界ではもはや時代遅れなのである。
元々縛られるのが嫌いなタチの茂には、この話は特に効果があった様子。
「そして最後に三つめは、これだ」
そういって斉藤が黒板に書きつけた文字は――「裏技」。
「各自が後半年の間に、必ず何か一つ新しい技を身につける!
そして、それをイザというときの隠し玉として使うっ!」
それは例え一本を取れなくても良いが、出せば必ず有効でも効果でもポイントが稼げるような技が良い。
「杉、おまえが尚北戦で見せたやつみたいのだ」
杉の相手、尚北の仲宗根は、実力的には明らかに杉を上回る選手だった。
だが、あせってムリヤリ出した大外刈りを杉に返され、技ありを取られた。
それまでは「技あり以上を絶対に取られない男」だったのに。
「確かあれは、一学期の頃、西久保さんから教わった大外返しだったな」
奇しくも自分が既に斉藤の考えの有効性を実証していたことに、杉は複雑な思いをするのだった。
そこで巧が斉藤を押し退け、前に出る。
「とにかく、これがオレたち(といってもほとんど斉藤)が考えた計画だっ!
オレたちはこれで千駄谷を絶対倒して、日本一を目指すっ!」
「に?」「に…日本一ぃ!?」「そう」
裏技?勝ち抜き戦で相手にドロップキックを喰らわせて後に繋ぐような奴か
「打倒千駄ヶ谷」と「目標日本一」か。同じようで全然違う目標に感じられる。
浜高が日本一を目指すっていうのがピンとこないな。お気楽軍団のイメージだったから。
巧のいいとこどりめw
いつぞやの宮崎の反則技が裏技に昇華される予感
なんだっけ?名前忘れたけど
かわずがけだっけ
河合描け
ミッタンはもう裏技持ってるじゃない
えーっと、ほら、ヴァ…ヴァ…ヴァン・チュータ投げ
ロンダード覚えようぜ
…を理解できる人がどれだけいるだろうか
組む前にロンダートか
なんか反則取られそうだなあw
裏技ならフネさんの猫騙しだろ
104 :
1/3:2009/02/09(月) 21:01:25 ID:???
第210話 西久保さんのライバルだった男
今日も今日とて浜高柔道場へコーチにやってきた西久保さん。
斉藤含め、元気そうなメンバーの様子に安堵する。
彼に言われたとおり龍子先生は何も口出しをしなかったが、結果的に仲直りできたならそれで重畳。
「…にしても元気よすぎますぜ、コイツら。乱取りでこれじゃバテちまう」
とか思っていたところで「はい一分――!交代ー!」と声がかかる。
「一分で交代?」
「ええ。時間を短くすれば、どんどん先に技をかけていく練習になると言って…」
これが新しい練習法の一つ。
試合中の残り一分の緊張感を再現し、考えるより先にガンガン技をかけていくための乱取りである。
もちろん、考えながら技をかけていくための普通の乱取りもやるわけだが。
「あいつら自分で考えたんですか?」「ええ」
能動的な皆に驚く西久保であった。
そこで、前回のラストに戻る。
「日本一ぃ!?」
あまりに大それた目標に杉は思わず大声を上げるが、巧はむしろその態度の方を不思議がる。
「なんで?狙ったっていいだろう?I・Hベスト8だぜ、オレたち」
巧はそういうものの、そこから先が大変なのだ。千駄谷学園、東名大藤沢、天味。彼ら超強豪高の壁は厚い。
「確かに一年前のオレたちじゃムリだろう。だってあいつらと当たるとこまで勝ち進めなかったもんな」
もちろん、巧も現実が見えていないわけではないのだ。
「でも、今は試合できるところまで追いつけた。あと一息だ」
「だからそのあと一息が……」
「オレは勝つぞ!鳶嶋だろうが橘だろうが!」
どちらの格が上だとか下だとか、そんなものは関係ないとばかりに言い切る巧。
そんな彼に杉たちはただ絶句するしかないのであった。
105 :
2/3:2009/02/09(月) 21:02:11 ID:???
(おおっと、試合の時以外はボケなすの巧くんが……!試合の時並のキリっとした顔に…)
巧の迫力に思わずのまれる桜子。
(そしてこの女……巧くんは、あんたの青春そのものだよ)
彼女の隣で保奈美は格好いい巧の姿に目をハートマークにして忘我していた。
そこで斉藤が口を挟む。
「みんな、巧が『楽しくやりたい』って言ってたろう?」
この言葉は最初、斉藤も勘違いをしていたが、楽な練習をしたいということではなかった。
苦しいだけの練習では続かないから、楽しくやろうということなのだ。
だが、皆にはそれがピンと来ない。
「え?苦しいのを楽しく?」
「マゾになるの?」
茶々を入れる桜子はともかく。
「マゾ…いや、まず強くなっていく楽しみだな。その中には、新しい技を身につける楽しみ。
力をつける楽しみ。それぞれのトレーニングの中で、目的を作っていくべきだと思うんだ。一人一人が」
本気の“楽しい柔道”はきっとできる。不器用な言葉で、しかし力説する斉藤。
そしてその言葉は――「……わかったよ」――届いた。
「ちっ!日本一だの、楽しい柔道だの。でっけえことや都合のいいことばっかし吹きやがって」
憎まれ口を叩きながら、杉の目には再び力が戻っていた。
「だまされたつもりでのってやる。お前らの口車にな」
「いいかげん自分でもヤになってきてたからな。いじけたこと言ってんのに」
「杉!」茂が、ミッタンが、復活した杉を――「てめええっ!」思いっきりブン投げた。
「言いだしっぺのおまえが先に寝返んなよ!このヒキョー者がっ!」
裏切り者が制裁を受けるのは世の常。責任者のケジメとして杉は茂にボコボコにされ、
「て、ワケで、オレも賛成だわ」茂とミッタンの二人も晴れて合流するのであった。
106 :
3/3:2009/02/09(月) 21:03:05 ID:???
「日本一……あいつらが……」
その大きすぎる目標を聞いた西久保は顔を押さえる。龍子先生は彼に笑わないよう言うが、
「いや…笑ってなんかないですよ。ただ…ちょっと」
彼が抱いた思いはまるで別のものだった。
(ちっ、オレとしたことが…アイツらをうらやましく思うなんてな…)
練習後、西久保さんは皆を集めて話を始める。
実は彼もまた昔、千駄谷学園の選手と戦ったことがあったのだという。
ただ、それは武勇伝でも自慢話でもなく、彼が敗れた相手の話だった。
西久保がその男と相見えたのは、I・H個人戦、中量級の準決勝戦。
その男は西久保よりも頭一つ分背が低く、かといって小太りでもない。重そうには見えなかった。
相手が千駄谷なら油断などしないのが普通だろうが、当時の千駄谷はまだ無名の新設校。
次の年の金鷲旗で団体優勝して初めて世の中に名を知られたのだという。
そして、その試合――西久保は一発で投げられた。時間は一分ちょっと。
「背負い投げだ。今の巧より鋭い背負いだったかもしれん」
その男の名は。
「はっきり覚えてるぜ。石丸修一」
東京――午前7時。私立・千駄谷学園柔道場の朝練風景。
千駄谷学園柔道部の朝練は朝5時半から7時まで。全寮制だからこそできる時間割である。
橘と鳶嶋の寝技乱取り。圧倒的な体重差がありながら、鳶嶋は橘に不遜な態度をとる。
「今日も絶対、押さえ込まれないからな。いや、逆に押さえ込んでやるぞ」
実際、互角のやり取りをする両者。そこにコーチの声が飛ぶ。
「そら、どうした橘ァ!鳶嶋は軽中量級だぞ、さっさと押さえ込まんか!
ほら、鳶嶋も下になってばかりじゃなくて返せ、返せ!気合入れろよ、新主将と新副主将!」
二人にハッパをかけるコーチ。
その帯には、“石丸”の文字が刺繍されていた。
巧かっこいいかあ?
論点ズレてる馬鹿にしか見えないんだが・・・
杉のがよっぽど潔くてかっこいいぜ。やる気になってる馬鹿に水差したくなかったんだろうな。
主人公様だからな…少年漫画だし。
いーんだ…杉がそーゆー意味でカッコよくなったら杉じゃないし。
杉かっこいいよ杉。
どーせ今後も柔道では最底辺の扱いだろうけど。
せめてミッタンと久留間兄妹気に入ってて良かった。
巧はスーパーマンだからな。
何というか長嶋茂雄的な感じがする。
自分の感性を相手に伝えられないところとかも含めて。
団体戦で鳶嶋兄に勝って、個人戦でも鳶嶋弟といい勝負をして軽中量級二位になった巧と
全国大会に出られなかった杉では感覚に違いが出るのは仕方が無い
杉出てるよ! 団体戦で。
技あり以上とられたことのない男に勝ったじゃないか
くそっ、恵さえいなければ杉だって!
杉が超絶強くなって、柔道一直線ってーのもなんか違うしなw
今のエロ坊主柔道部員のほうが身近でいいわぁ
「杉クン、変わらないでー」
113 :
1/3:2009/02/10(火) 21:02:58 ID:???
第211話 麻理ちゃんあてにきた手紙
「あのねー、講道館からねえ、こんなのがきてたんだけど」
そう言って龍子先生が麻理に示した手紙には、“全日本女子強化選手選考会”という文字があった。
選考会とはいえ試合をするらしい。それに麻理も出場しないかという案内のようである。
試合は東京でやると聞き、麻理の中に駆け巡る子供のような東京のイメージ。
「もー、東京っていったらヤル気だしちゃってえ。遊びに行くんじゃないのよ」「えへへ」
全日本女子強化選手選考会。この大会に出ることがこの後、来留間麻理の人生を大きく変えることに、
今は龍子先生も麻理本人も知るよしもない。
「おっ、今月の『柔道日本』に千駄谷学園が出てるぜ!」
杉の開いていた柔道雑誌には千駄谷学園の練習風景、そして新主将・副主将の鳶嶋と橘が紹介されていた。
斉藤は千駄谷学園の練習の様子について尋ねる。それによると――。
「毎朝5時30分起床、7時の朝食まで一時間半練習」
「朝練だけで一時間半も?」
「放課後は4時から5時半まで一時間半」
「ああ、その分午後を少なめにしてるのか」
練習時間のペース配分の違いとして納得しかけた茂だが、さらに記事には続きが。
「…で、30分休けいの後、6時から8時まで二時間練習…って、ホントか、これ?」
思わず飲んでいたスポーツドリンクを茂は吹き出すのであった。
(一日五時間も…)
名門校の練習量を具体的な数字で確認してしまった杉たち。
これはショックが大きいと判断した斉藤はすぐにフォローしようとするが、
「日曜日なら五時間ぐらいやるとこあるけどな」
「それを毎日とはね、ついていけねえヤツとかでないのかな」
「まさに毎日が日曜日状態!」「そんなのちっともうれしかない!」
一度は空中分解の危機を乗り越えた皆である。そのぐらいで今さら動じはしなかった。
と、そこで杉が記事の中に気になる名前を見つける。「コーチの石丸?」
それは以前に西久保が口にした名前ではないのか。と、噂をすればちょうど西久保がやってきたところだった。
西久保は雑誌に載っていた写真で、間違いなく彼の知る石丸修一本人であると確認する。
114 :
2/3:2009/02/10(火) 21:03:33 ID:???
「そうか、石丸…こんなところにいやがったか、クックックッ」
かつてのライバルの姿を目にしたことで、どうやら彼の中に火がついてしまったようだった。
「十代のころの闘志がよみがえってきたぜ!今日は気合入れて、てめえらの稽古つきあったる!」
ヤル気満々の西久保だったが――その背中を遅れてやってきた麻理が突き飛ばした。
「西久保さーん!麻理、今度東京行くことになっちゃった――っ!」
千駄谷学園――その日、一人の生徒が親に連れられ柔道部の寮を退寮した。
走り去るタクシーを見送りながら、鳶嶋も橘も仕方がないと理解しつつも、その心中は複雑だった。
一学期中はキビシさに耐えかねて一年が逃げる。そして二学期になると、今度は一年に追いつかれた二年が逃げる。
「バカヤロウが…なんですぐあきらめるんだ…!」
忌々しげに言う石丸。だが、その言葉は逃げ出した生徒を責めるものではなかった。
「逃げずにここにとどまれば、オレたちがなんとかしてやれるのに…。
自分から逃げていっちゃ、オレもなにもしてやれないのに。そうだろ?」
彼は、去り往く生徒に何もできなかったことを悔やんでいたのである。
「あいつ…入学してきた頃は面白いヤツだったよなあ。人を笑わすのが得意で……」
「そして強かったよ。スランプって怖いな」
「そら、どうしたあ!御厨!立て立て立てーっ!」
今日も千駄谷学園柔道部では厳しい訓練が続く。体力の限界に達した一年生が胃の中のものをもどす。
しかし石丸は、厳しくはあれど、やはりその生徒を責めたりはしない。
「いいか、御厨、いいな!よし、こい!」
目に涙を浮かべながら、御厨が再び石丸に向かっていく。そして――背負いで彼を投げ飛ばした。
「今のだ、御厨!タイミングはあれでいい!
今のは、ワザと投げられたんじゃないぞ、途中までオレも全力で踏ん張った!
おまえはカンがいい!今のタイミングを体で覚えるんだ!」「は、はい!」
無名の一年生を相手にもとことん厳しく、しかし親身に教える石丸を、鳶嶋は量りきれずにいた。
(石丸コーチか……)
115 :
3/3:2009/02/10(火) 21:04:43 ID:???
浜高でも特訓が続く。体重5キロアップのための筋力トレーニング。彼らは確実に体を作り上げていく。
鏡の前でポージングする巧たち4人(斉藤は不参加)。
「少しは筋肉ついてるかしら?」「あたし、もっと三角筋つけたいわん」
「あたしは上腕二頭筋」「ヒラメ筋」
ちょっとナルシシズムの入っている皆の様子を桜子は気持ち悪がるのであった。
「こ、この変態ども…」
麻理はその頃、東京の講道館本部にやってきていた。
「わあっ!これがあの……!東京ドームと後楽園ゆうえんち!」
柔道の総本山、講道館は、実は東京ドームのすぐ近くに建っているのだ。
試合が終わったら遊園地、ということでヤル気充分の麻理だった。
○全日本女子強化選手選考会とは
オリンピックなどの国際試合に日本代表として出場するのは、みんな全日本強化選手。
そして、その強化選手を選ぶ大会がコレである。
日本中の中学・高校・大学・実業団から強い選手だけを集めて試合させるわけで、
大会のレベルはものすごく高い。
「やっぱり国際強化選手よね。だんぜんカッコいーじゃん!強化選手に比べりゃI・Hチャンプなんて屁よ!屁ガス!」
まさかの再登場、宇都宮出身のふっちんこと乙淵ふね。I・Hベスト4ということで彼女も呼ばれていたらしい。
「強化選手になれば、海外に連れてってもらうことも思いのまま(嘘です)!一回戦の相手、とっととこーい!」
ノリノリのフネであったが――その目の前に立ったのは、よりにもよって彼女の天敵・来留間麻理。
結局、彼女の野望は「一本!」もろくも崩れ去った。
そんなこんなで麻理は東京土産を両手に抱えて浜松へ帰還。もちろん試合には勝ちました。
もっとも、彼女にとっては試合よりも遊園地のウルトラツイスターの方が印象深かった模様。
「でも、また試合に出なくちゃならなくなったんです」
選考会というのは同時に「福岡女子国際大会」の予選だったらしい。
それを聞いた斉藤が驚くが――巧には何をそんなに驚いているのかピンと来なかった。
「バカ!国際大会なんだよ!世界中のトップレベルが集まる、すごい大会だっ!」
福岡女子国際…
あ、ヤワラの初優勝は中学時代だから麻理が上回ることはないのか
うん、国際大会
118 :
108:2009/02/11(水) 00:09:34 ID:???
先週の今週でコレの展開か…
俺上手い事釣られてる気がするorz
IHの対決の後、また再戦とはな。
大会じゃなく選考会なんだから、組み合わせとか考慮してやればいいのに。
フネが哀れだ…
120 :
1/2:2009/02/11(水) 21:00:00 ID:???
第212話 麻理ちゃん 福岡に行く@
「おおっ!始まった、始まった!」
合宿所のテレビに躍る『福岡国際女子柔道選手権大会』の文字。
こんなに大きな大会に麻理が出るなど、にわかに信じられないことである。
ちなみに桜子も麻理の練習相手ということで福岡に行っており、袴田さんも応援として同行している。
さあいよいよ――というところであったが、実は今日は重い階級の試合の日。
「あっ、来留間の試合、明日だ、二日目だ!さあさあ、練習に戻るぞっ!」
ちょうどその頃、麻理は他の今日出番のない選手たちと共に練習場にいた。
仲間とはぐれてしまった麻理はきょろきょろと周囲を見回すが、当然ながらガイジンさんばかり。
日本人っぽい顔を見かけたと思ったら、それは中国の選手でした。しかもデカい。
袴田さんに発見された麻理はようやく合流を果たす。
「三溝先輩ぐらい大きかったです」「きっと無差別級ね」「さすが、十億人いる国はスケールが違う!」
袴田さんも選考会に出ていれば代表に選ばれていたかもしれないが、
彼女はI・H以後、受験に専念するために柔道は一時中断。強化選手選考会には出場しなかったのである。
「それなのに、今回応援に来てくれて。でも大丈夫?受験勉強のほう」
龍子先生が心配そうに尋ねる。
「いえ、毎日のノルマはちゃんとやりますから。参考書持ってきました」
「大変ねえ、受験生は。教えてあげようか?」
さて、同じ練習場の一角で、褐色の肌に三つ編みの少女が体を温めていた。
ジャンプをする彼女の驚くべきバネ。跳びあがった足の位置が他の選手の腰の高さにまで達している。
ゼッケンにある「CUB」の文字からして、彼女はキューバの代表らしい。
「なんかアマレス者の長谷って人を思い出しました」
「いたねえいたねえ。バク転までできたらそのまんまだよね」
麻理と桜子がそんな会話を交わしていると――三つ編みの彼女の仲間たちの声が飛ぶ。
『ミリアン、アレやってみな!』『みんなを驚かしてやんなよ!』
その声に笑顔で応じた彼女は――本当に宙返りを決めて見せた。
『いいぞ、ミリアン!』『Que barbaro!(サイコー!)』
121 :
2/2:2009/02/11(水) 21:00:55 ID:???
「ほ、本当にやった……」
ざわめく場内。そこで桜子と麻理の目が光った。
もちろん、そんなパフォーマンスができたところで柔道には関係ない。
『でも、バネがあると同時に運動神経もよさそうだってコトがわかったわ』『ケイト!』
ミリアンを評価するの金髪の女性。
“ケイト”と呼ばれた彼女は、仲間たちから一目置かれた存在であるようだった。
『何をいうの。あなたほどの人が。あんな子供、あなたの敵にはならないわ』
『48キロの選手は、みんな敵でありライバルよ。若かろうが関係ないわ』
と、そこで彼女らの目に入ったのは――「ようし麻理ちゃん!カモ――ン!」
構える桜子に向かって走ってくる麻理の姿。麻理は桜子の組んだ手に足をかけ、
「でゅわーっ!」二人の呼吸を合わせて桜子が麻理を跳ね上げる!
麻理は空中で一回転し、きれいに着地を決めて見せた。「やった!」「成功!」
先ほどとはまた違った驚きが広がる場内。その中で二人に向かって拍手をするのは――ミリアンだった。
「日本人でもこれくらいできるってとこ見せようと思ったんだけど…驚くどころか、喜ばれちゃあね……」
予定と違って少々調子の狂う桜子。ちなみに今のはI・Hの後に二人で編み出した合体技だそうで。
そして、二人の技を楽しんでいるのはミリアンのほかにもう一人いた。先ほどの金髪の女性である。
袴田さんが彼女に気づく。
「あっ!あれはっ!ケイト・アンダーソン。来てたんだ、すごいっ!」
彼女は世界選手権を三度も優勝した超有名選手らしく、まるで知らない桜子を袴田さんが怒る。
「そうだ、サインもらいに行かなくちゃ!」「色紙を持ってきてあるとは…」
どうやら袴田さんが忙しい中ついてきたのは、これがお目当てだったらしい。
「ミ、ミセス、ケイト・アンダーソン?」
憧れの人を目の前にして緊張しつつも、袴田さんは彼女に英語で話しかける。が――、
「え、えくすきゅーずみぃ、ぷりーずさいん」
彼女の口からはそんな拙い言葉しか出てこなかった。
「あんた、それでも受験生かいな――っ!中学生でももうちょいマシなコトいうって!」
「ああ、緊張しちゃって単語が思い浮かばない!」
桜子「袴田攻略メモ:
『あこがれ』に弱い
…っと。メモメモ」
>「え、えくすきゅーずみぃ、ぷりーずさいん」
俺社会人だけど、これ以上サインをもらういい言い回し思いつかない…
しかし、海老塚に練習相手が務まらないのはしょうがないとして、
他校の生徒を引っ張り込む龍子先生はどうかと思ったが、
袴田さん自身が望んで来たのならいいか。けっこう役得のようだし。
ぎぶみーさいん
じゃないか?
>>123 おかしくね?
桜子が麻理の練習相手としてきてんのは作中に明記してあるし
袴田さんは応援名目で付いてきただけでしょ
まとめると
袴田「受験は来年もあります。
でも麻理ちゃんの国際大会初出場は今しかないんです!」
127 :
1/2:2009/02/12(木) 21:01:00 ID:???
第213話 麻理ちゃん 福岡に行くA
福岡国際女子柔道選手権大会。それはオリンピックや世界選手権に比べれば小さな大会ではあるが、
それでも世界のトップクラスがこの大会のためにはるばるやってくるのである。
そして女子48キロ級の“偉大なる世界チャンピオン”ケイト・アンダーソンもそこにいた。
「入った!これが、アンダーソンさんの世界一のテクニックよ!」
憧れの世界チャンプの寝技を目の前で見られて袴田さんは大喜び。それにしても随分と変わった形の抑え込みのようだが。
「きっと、オリジナルの押さえ込みね」「自分で考えた押さえ込み?すごーい!」
彼女は若い頃は相手をバンバン投げ飛ばして勝っていたのだが、
ベテランになって自分より若い選手に力で負けるようになってくる。
しかし今度は寝技を磨いて世界一の寝技の達人となり、とうとう今まで七年間も世界一の座を守っているのだ。
「すごい人でしょう?」
アンダーソンを見つめる袴田さんの目は完全にハートマークになっていました。
でもまあ、彼女と対戦するには麻理が準決勝にまで勝ちあがらなければならない。そこで袴田さん、はたと気がつく。
(しまったっ!確率は低いけど、代表になってればアンダーソンさんと試合できる可能性もあったんだ!
でときゃあよかったっ!強化選手選考会!)
何か随分とキャラが変わっているような様子。そこまでご執心なのだろうか。
ボードに麻理の名前が表示され、いよいよ彼女の出番が近づいてくる。
紐を貰いにいこうとする麻理は、これから試合に臨む褐色の肌の少女に気づく。
キューバのバク転娘、ドミニク・ミリアン。相手の選手はフランス代表、ジュリエッタ・ルルーシュ。
相手方の名を聞いて袴田さんが驚く。
「FRAのルルーシュっていったら!前回の世界選手権二位の強豪よっ!」
慎重に間合いを測るルルーシュ。彼女が仕掛けようとしたその瞬間、ミリアンが彼女の足元に飛び込む。
双手刈りである。完全に虚を突かれたルルーシュの体が畳に叩きつけられ、勢いあまって一回転。
「くっ!油断したっ!」
先手を取られたルルーシュは逃がすまいとミリアンを後ろから捕まえにかかるが、その時である。
「一本!」「えっ?」
主審の手が高々と挙げられていた。
128 :
2/2:2009/02/12(木) 21:02:48 ID:???
「一本?」「えっ?どうして?」
「きっと…さっきの双手刈りだわ。主審が宣告するのが遅れたけど」
『Arriba!(やった――っ!)』
飛び上がって大喜びをするミリアン。昨年二位のルルーシュが一回戦で消えるという大番狂わせに場内は騒然とする。
『アリバ!アリバ!』『こら、ミリアン、まだ礼が済んでないぞ!』
こんな子供に一本負けとは、ルルーシュに試合開始直後で油断があったということか。
しかし、アンダーソンは厳しい目で勝者の姿を見つめていた。「D・ミリアンか……」
「あっ、麻理ちゃん、ドコいくの?」
試合場へ向かう麻理を、龍子先生は思わず呼び止めてしまう。
こんな大舞台で彼女が試合をすることに、いまだに現実感が湧かないのだ。
戻ってきたミリアンとすれ違い様、麻理は彼女に話しかける。
「ミリアン、私の試合見ててね」『Gracias.(ありがとう!)』
もちろん、言葉など通じてはいないと思うのだが。
「ひょっとしたらあのコ…いつもおんなじ顔してるから、よくわかんないけど…」
「燃えてるのかもしれない!」
その頃、浜高柔道場。仲安は集中力がまるでなく、乱取りでも投げられてばかりだった。
「やっぱり麻理のコトが心配?」「わっ!」
久しぶり、巧の“真ん中分けで麻理の真似”。
まあ、状況が状況なので、仲安が落ち着けないのは仕方がないが。
「もう、巧先輩、それやめてくださいよ!本当に気色悪いっスよ!」
「んしょっ!」「一本!」
麻理は目の覚めるような背負い投げで中国の孫から一本勝ち。
彼女のその実力は、世界を相手にしても通用していた。
「今度はあのコか……今年はやんちゃなおじょうちゃんが多くてまいったわね」
チャンピオン、ケイト・アンダーソンは若き才能の前に頭をかき、
『Bien hecho(おみごと!)』
ミリアンは拍手をして喜ぶのであった。
>>125 よく読み返したらそのとおりだった。
龍子先生ごめんなさいorz
麻理とミリアンが通じていないだろう、と?
甘いな、あの来留間サンの妹と、それに似た天然キャラっぽい奴だぞ
言葉でなく心で通じ合うんだよ!
いつもおんなじ顔してるってさりげにひどいなw
>>131 スポーツ選手としては褒め言葉になるかもしれないじゃないか!
超ポーカーフェイスだな。
考えてみたら笑顔(デフォ)・怯えた顔・怒った顔しか記憶にない。
動物みたいだなw
134 :
1/3:2009/02/13(金) 21:06:32 ID:???
第214話 麻理ちゃん 福岡に行くB
華麗なる女たちの闘いが火花を散らす福岡国際。48キロ級は二回戦に突入。
ベスト4一番乗りは無敵の寝技を誇る世界チャンピオン、イギリスのケイト・アンダーソン!
ケイト・アンダーソン(イギリス)○腕がらみ△井上貴美(日本)
続いて男顔負けの攻撃型柔道、韓国の金淑姫!
金淑姫(韓国)○大外刈り△M・ポーラ(ブラジル)
さらに脅威のスピードと天性のバネ、おまけに国際大会初登場でデータなし。
不気味なダークホース、キューバのドミニク・ミリアン!
D・ミリアン(キューバ)○小内掛け△伊藤香(日本)
そして…もう一人、周囲の予想をくつがえして勝ち上がってきたのが!
いつのまにか日本代表!来留間麻理!
来留間麻理(日本)○背負い投げ△L・ノイバウアー(ドイツ)
こうして48キロ級の4強が出揃った。
そして麻理の準決勝の相手は――ケイト・アンダーソンである。
「来留間!ここまできたら優勝狙えよ!相手が世界チャンピオンだろうと、思いっきりぶつかっていけ!」
予想外とはいえいよいよ頂点が見えてきた麻理にハッパがかけられる。
「わたしたちの分までがんばってねっ!」「一生懸命応援させてもらうからっ!」
ここまでに敗退してしまった井上、伊藤、長谷川らも麻理を激励する。
「女のコたちは他の出場選手だけど、あのオッサン誰ですか?」
随分と失礼な桜子の物言いだったが、彼は日本代表チームの監督です。
「ハイ!優勝めざしてがんばります!」
屈託の無い笑顔で応じる麻理だが、それが逆に監督を不安がらせるのであった。
(相手があのアンダーソンだというのに、なんであんなにニコニコしている……
もはやあきらめてるからか、それとも何も考えていないのか…)
べつに、普段どおりなだけなのだが。
135 :
2/3:2009/02/13(金) 21:07:29 ID:???
桜子の後ろから麻理の様子をじっと見つめる袴田さん。
何しろアンダーソンの大ファンである彼女、麻理が本当にその本人と試合できるとあって、羨ましくてしかたがないのだ。
「でも、アンダーソンさん、実はもうすぐ引退するかもしれないって噂があるの。もう30歳だし、たぶん来年当たり……」
「えっ!じゃあ福岡国際も来年はでないんですか?」
「ええ、おそらく」「あいたたた――っ!」
話しながら袴田さんは、いつの間にやら桜子の肘関節を極めていました。
「ごめんなさい、そこに手があるとつい関節技を……」
「そんなもんが条件反射でできるようになるなーっ!」
二人のコントはともかく、麻理がアンダーソンと試合ができるのはこれが最初で最後かもしれないのである。
ベンチに腰を下ろし、いつもは決勝戦前にしか行わない精神統一のお祈りをするアンダーソン。
その彼女の様子に、コーチはいつもと違う雰囲気を感じ取っていた。
呼びにきた係員を少し待たせ、最後までお祈りを済まさせる。
「ケイト。もういいかい」「いきましょう、コーチ!」
準決勝第一試合、ミリアンと金の戦いは積極的に攻勢をかける金がやや優勢。
そこでミリアンが金の足を取りに行く。すかさずこらえる金。
だが――ミリアンはそこから金の足を抱えて持ちあげ、そのまま畳に投げ落とす。「一本!」
『なんと、キューバのドミニク・ミリアン、またも一本勝ち――っ!
今のはすくい投げになるのでしょうか?足を取ったまま、後ろへ反り返って投げてしまいました』
ミリアンのその勝ちっぷりに「あのコとも試合したい!」と思う麻理であったが、今は目の前の相手が先。
(ケイト・アンダーソンさん!この人に全力でぶつかってくもん!)
136 :
3/3:2009/02/13(金) 21:08:34 ID:???
「なっ!?」「なに〜〜〜〜っ!?」
合宿所のテレビをつけた浜高柔道部の面々の前に映し出されたのは、
ただ一人勝ち残った日本代表として準決勝に挑む麻理の姿であった。
「おまけに相手がアンダーソン。ソウル五輪で金取ってる人だぜ」
「なにぃ!?麻理ちゃん、もう金メダリストと戦うチャンスを得たかっ!先を越されちまったな!」
そんな寝言をぶっこく巧は杉に頭をはたかれるのであった。
現地での応援も当然に熱が入る。
「いけーっ!」
「ああん!やっぱりいいなあ!来留間さんいいなあ!」
袴田さんのそれは、応援というよりは何か別のもののようだったが。
(今までこのコだけはマトモな性格なほうと思ってたんだけどな――)
先手を取ったのは麻理。アンダーソンの襟を取り、そこから背負い投げに行く!
『ああっ!来留間が!来留間がなんと!投げたあ――っ!』
しかもポイントは有効。世界チャンプを相手にポイントを先行したのである。
ところが――次の瞬間。
喜びもつかの間。「押さえ込み――っ!」
『押さえ込みっ!?なんと、いつの間にかアンダーソンのほうが上になっています!
今、主審が押さえ込みの宣告をしましたっ!』
その動作に一切の無駄がない世界チャンプのテクニック。麻理はそれに捕まってしまった。
(意外にあっけなかったわね、お嬢ちゃん。これくらいじゃあ、まだまだ女王の座は明け渡せないよ
>(意外にあっけなかったわね、お嬢ちゃん。これくらいじゃあ、まだまだ女王の座は明け渡せないよ
ああ、言っちゃった…
今からでも遅くはない、アンダーソンに「フラグ」って言葉の意味を教えてあげれ
確かに袴田さん県大会あたりからヨゴレに少しずつシフトしてきてるよなw
ヨゴレいうなw
レニ・ノイバウアー、何気に可愛いな
141 :
1/3:2009/02/14(土) 21:02:21 ID:???
第215話 麻理ちゃん 福岡に行くC
麻理を捕らえたアンダーソンの崩れ袈裟固め。ほぼ完璧な形で決まってしまったかに見えるが、
寝技では下になったときは力より柔軟さがあれば解くことができる。まだ諦めるのは早い。
(崩れ袈裟固め、崩れ袈裟固め…)
この窮地にありながら、麻理は落ち着いて巧との寝技練習を思い返していた。
『どうした来留間!外せないか?』『わかりません。どうやってとるんですか?』
『足を使うんだ。おれがI・Hで日置の寝技を外したように』
「あっ!わかりました」
麻理はアンダーソンに取られている左手の掌に、彼女の背中越しに右足を乗せ、そのまま思い切り脚を伸ばす。
すると同時に麻理の左手を取っていたアンダーソンの右腕も引っぱられ、そこに余裕が生まれる。
麻理は自由な右手でアンダーソンの右手を押さえて固定し、取られていた左手を引き離す!
「しまったっ!」
両腕が自由になった麻理はアンダーソンの下で体を返してうつ伏せの体勢を取る。「解けたっ!」
『おおっと、押さえ込み解けた――っ!時間は15秒!効果です!』
しかしアンダーソンは即座に関節を狙ってくる。
腕がらみに取られそうになったところを、麻理は腕を軸に体ごと回転し、その攻撃を凌ぎきった。
「は――助かった!もうだめだと思った!」
安堵する桜子の横で、袴田さんは驚きの表情を隠せずにいた。
「来留間さん、あなた…いつの間にこんなに…」
142 :
2/3:2009/02/14(土) 21:04:57 ID:???
試合再開。
効果こそ取られてしまったものの、麻理は有効を先取しているのでまだポイントはリードしている。
ここは慎重にいくべきところなのだが、麻理は自ら仕掛けていく。
左の背負い、だが、アンダーソンはそれを小外刈りで切り返して「有効」。
あっさり逆転されてしまった。
さらにアンダーソンは、麻理の腕を取り十字固めを狙ってくる。
だが、麻理はそれに素早く反応。
腕を取られつつもそのまま立ち上がり、十字固めに入られる前に防ぎきった。
逆転された麻理は攻めていくより他に無い。残り時間は2分。まだ充分に再逆転の目はある。
またもや背負いを狙っていく麻理だが、アンダーソンはそれを再びすくい投げで返す。
「有効」一つが重ねられ、さらにポイント差が開く。
『来留間、元気よく攻めていっているんですが……ちょっと元気が空回りしてますね』
解説席のコメントも厳しい。やはり世界チャンプの壁は厚いのか――だが、袴田さんの見方は違った。
「確かに今のところ、来留間さんの技はことごとく返されているけど……何だか私には……」
「アンダーソンさんがそんなに余裕があるように見えない」
麻理は、なおも当然のように攻める。その表情に焦りの色は無い。
小内刈りでアンダーソンの体勢を崩し、そこから三度目の背負い投げ。
これは腹ばいに落ち、ポイントは無かったが、今度は返し技を食らわずに済んだ。
残り試合時間――1分。
「見て、アンダーソンさん、肩で息してる!」
143 :
3/3:2009/02/14(土) 21:05:52 ID:???
その頃、浜高の合宿所でも皆が試合の行方を見守っていた。
しかしポイント差がつき、試合時間も残りわずか。
やはり世界チャンピオンの相手は荷が重かったかと思われたその時、巧が声を張り上げた。
「あいつだって、オレたち男とおんなじ練習こなしてきたんだっ!いままでの来留間とは違うんだぜ!」
麻理は深呼吸を一つ。そして――「始めっ!」彼女の目の前にはアンダーソンの姿のみ。
それはI・H決勝の再現。麻理は組み際を狙い、アンダーソンの袖のみをつかみ――、
――そのまま、一本背負いにいった。
「一本!」
解説席、応援席、試合を観ていた誰もが虚を突かれた形になった、その光景。
一瞬遅れて、大歓声が会場全体から湧き上がった。
『一本――背負い投げー、日本の来留間逆転勝ち――っ!
驚きました、世界チャンピオン、ケイト・アンダーソンを豪快に投げ飛ばして一本勝ち!
組んだと思った直後の一本背負いでしたっ!!』
「よっしゃ――っ!」「やった――っ!」
皆が呆然とする中、麻理の勝利に声を上げる巧、そして仲安。
(はっ!しまった!思わず立ち上がってしまった!)
我に返った仲安は自分のその行動に赤面するのであった。
アンダーソンはもう六年以上も公式戦での一本負けはなかったという。
『そのアンダーソンの偉業ともいえる記録をストップさせたことを、来留間本人は知っているのでしょうか?
くったくのない満面の笑みを浮べ喜んでいます!』
「素顔だって」
一方のアンダーソンはコーチの元で涙を流す。それも無理からぬことではあったが。そして――、
試合を見届けたミリアンが呟く。
「マリ、あのコ……強いな……」
144 :
業務連絡:2009/02/14(土) 21:07:06 ID:???
次回は一回休載して、単行本22巻のおまけを紹介します。
137の叫びは、アンダーソンには届かなかった…
後におばけコアラと呼ばれる少女が世界に名を轟かせた瞬間である
ちょっと待て、寝技で7連覇だかしてる世界王者の寝技をあっさり外すって・・・
たぶん下村さんもマリみたいな小さい子と対戦したことが無くて、掛りが甘かったんだよ
つーか寝技の練習相手が寝技不得意のはずの巧かよw
>>149 きっとその横で斉藤が口で指導してるんだよ
今回巧が言ってたのはすべて受け売り
寝技下手だからこそ外しやすい
=外す練習には丁度良かった
じゃね?
>>149 だってほら、彼女がいない奴が寝技なんかやれば
つい色々やりたくなって危険じゃないか。
ぶっちゃけ好み云々は置いておいても
高校生くらいのガキがカワイイ女の子と密着して
勃たない訳が無い
つまり何が言いたいか簡潔にまとめると
巧ウラヤマシス
麻里はカワイイっちゃカワイイんだろうがあまりその手の感覚を揺さぶられるタイプじゃないなあ。
なんか近所の小学生の女の子みたいな可愛らしさというか、ペットを可愛がる感覚に近い。
>>154 その感覚には同意だが世の中には小学生の女の子が好きな人種もいてだな。
でも麻里はどっちかってーとロリより「動物」に近い気がするw
156 :
1/2:2009/02/15(日) 21:01:43 ID:???
○単行本第22巻 (表紙:乙淵ふね 裏表紙:ケイト・アンダーソン)
○スプリガンV.S.柔道!!第22回 サンデーコミックス名物『絵筆をもってね!』
・『スプリガン』のたかしげ宙・皆川亮二先生が特別講師!!
選評/河合克敏 応募総数:1548点 入選:43点
グランプリ:千葉県・小林賢治〔桜子(和装・半裸)〕
〈河合〉これは桜子だそうです。描いてる人は、16歳の女のコです。
〈皆川〉Hだ……。
〈宙〉 すげーぜ!!
〈河合〉ねっ、もうちょっとなんとか…
たかしげ宙賞:兵庫県・仲安麻理鈴〔巧・別所?(四コマ)〕
〈宙〉 こーゆーの好きなんス。
〈河合〉いや、これこそベスト・オブ四コマですよ。
〈皆川〉なんかおかしい…
皆川亮二賞:宮永一世〔斉藤兄弟(暗闇に光るサイトー兄弟の目)〕
〈皆川〉これは手が込んでいる。ベタの下に絵が描いてある(印刷ではでないでしょうが…)
と思ったら、ただ失敗しただけじゃねえか、こりゃ!!でもアイデアはいいので。
〈宙〉 完全一発ネタ。
〈河合〉これが皆川賞か、意外なトコだなー。
157 :
2/2:2009/02/15(日) 21:02:18 ID:???
topix:長崎県・なみへい〔石野〕
〈皆川〉ペンネームがすごい。なみへい九歳。シュールだ…
〈宙〉 おもしろすぎる、いいセンスだよね。
〈河合〉小学生、もっと送ってこいよ!!
宮城県・読者のうらみはおそろしい〔桜子(のせてよ)〕
〈皆川〉うーん、魂を感じるぜ!!
〈宙〉 魂とゆーか、怨念とゆーか…。
〈河合〉毎回感じてるんスよ、オレは…。
愛知県・百万年生きた女〔杉・桜子〕
〈河合〉きてるなー。これは…。
〈皆川〉さすがだ、百万年生きなきゃ描けねえ絵だ!!
〈宙〉 ノーコメント(笑)
和歌山県・人肉切り包丁〔多数〕
〈河合〉おまえ…似せようとしてないだろ。
〈宙〉 名前がちがうからニセモノだろ。
〈皆川〉おまえ、杉の親指が逆だぜ。
〈河合〉おまえは裏グランプリ
山口県・柴田宏臣〔来留間兄妹(耽美)〕
〈宙〉 これはスゴイ!!
〈皆川〉25世紀の絵だ!!
〈河合〉電波をバリバリ感じるぜ
4コマなしかよ… 河合終わったな
ふっちん一発ギャグのヨゴレのくせに表紙を飾るとは
160 :
1/3:2009/02/16(月) 21:02:31 ID:???
ソウル五輪や世界選手権で計4個の金メダルを持つ無敵の女王、ケイト・アンダーソンを破った麻理。
大金星を挙げた彼女と、やはり無名の新人としていきなり決勝進出を果たしたキューバのドミニク・ミリアン。
48キロ級決勝戦はこの二人によって争われることとなった。
○ドミニク・ミリアン
(1974年8月28日生れ・乙女座・17歳)
身長=158cm 体重=48kg
B=78cm W=58cm H=84cm
出身=キューバ共和国ハバナ市
得意技=すくい投げ、双手刈り、朽木倒し
好きな言葉=「努力」「愛」「勇気」
理想のタイプ=?
○来留間麻理
(1975年10月25日生れ・蠍座・16歳)
身長=148cm 体重=45kg
B=ヒミツ W=ナイショ H=おしえない
出身=静岡県浜松市
好きな言葉=「急がば回れ」
理想のタイプ=トシちゃん(古賀稔彦五段)
第216話 麻理ちゃん 福岡に行くD
合宿所のテレビで中継を観ていた浜高柔道部の面々は、
麻理が世界チャンピオンを倒してしまったことをいまだに信じられないでいた。
だが、これはまだ準決勝。次の決勝戦まできちんと見届けなければならないのだ。
「ねえ、でも、もしも優勝したら!浜高にTV局とか取材に来るかもしれないっ!」
保奈美の言葉に皆で勝手な妄想を始めてしまうが、本当に来たとしてもおそらく麻理のことしか触れられません。
161 :
2/3:2009/02/16(月) 21:06:39 ID:???
冬の寒さに身を震わせるミリアン。
キューバ生まれの彼女らにとっては季節の変化が不思議なものに感じられるらしい。
暑い夏場に大会があればよいのに、冬場では体調を保つのにも苦労をするのだ。
ミリアンはESPA(キューバのスポーツ英才学校)で「JUDO」を始めたばかりの頃を思い出していた。
『キミたちがやる、JUDOというスポーツは、日本という国で生まれた格闘技だ。
JUDO発祥の地だけあって、日本の選手の技術はすごいぞ。
今でも、投げる技術に関しては日本人が一番すごい。
見ろ、この技を!美しいだろう。彼らは魔法使いだ。キミたちは、この東洋の魔法使いたちと戦っていくんだ』
そのときに観た日本人選手のビデオは、強い印象となって彼女に焼き付いていたのであった。
「…きっとあのコがそうなんだ」「えっ?」
「決勝で戦うマリ・クルマ。あのコがコーチのいってた魔法使いの一人よ」
確かにアンダーソンから一本勝ちした麻理は魔法使いかもしれない。
タニアは不安なのかとミリアンに尋ねる。
「ううん。早くクルマと試合したいの。すごく楽しみなの」
アンダーソンをじっと見つめる麻理。ホントにあの人に勝てたのか実感が湧かないのでは――と桜子に問われる。
それも確かにそうなのだが、麻理が気になっていたのはまた別のことだった。
「コーチの人、アンダーソンさんとヤケにぴったりくっついてるから、外国のコーチってそうなのかなーって」
麻理の言葉に袴田さんが微笑む。
「あの男の人はコーチでもあるけど、アンダーソンさんの旦那サマでもあるのよ」
「ええっ、じゃケッコンしてんですか!?」
驚く麻理だが、結婚をしても柔道を続けているアンダーソンの姿を羨んでいた。
「才能のかたまりみたいなコだけど、来留間さんもやっぱりフツーの女のコよね」
「ウチらはおばけコアラと呼んでますけどね」
そこで麻理がポツリと呟く。「わたしもああなれたらいいな…」
その言葉に桜子も袴田さんも耳聡く反応する。
「あー?誰とああいうふうになりたいんだい?仲安くんかえっ?」「えっ来留間さん彼氏いるの?」
結局、この二人もフツーの女のコなのであった。
「違いますよ――あんなのシュミじゃないもん!」
162 :
3/3:2009/02/16(月) 21:07:41 ID:???
いよいよ決勝戦が始まる。
相手のミリアンは昨日初めて見たときバク転をしてみせ、
麻理と桜子はそれに対抗して合体バク転を披露。そんな縁があった。
「でもね、桜子先輩。私、あの時なぜか思ったんです。このコと試合したらおもしろいだろうなって」
「バク転を見て?」「ハイ」「変なの」
そしてついに、麻理はミリアンと畳の上で対峙する。福岡国際女子、48キロ級決勝戦の開始である。
麻理は16歳、ミリアンは17歳。互いにまだこれだけ若い同士。
これは次の時代の女子柔道をリードしていく者を占う試合といえるかもしれない。
「始めっ!」
フットワークを使って回り込むミリアンに対し、麻理は目を離さずに構える。
先手を取ったのは麻理。
ミリアンの襟を取り、足払いで崩しにかかるが――ミリアンがその足を逆に捕まえる。
『あぶな――い!持ち上げられた――っ!』
ミリアンの得意とする、足を取ってのすくい投げ。
完全に体を浮かされた麻理であったが、
「んしょっ!」
麻理は空中で体勢を整え、ミリアンに覆いかぶさるように自ら体を預ける。
そしてそのまま――着地。
『うまいっ!今のはうつぶせです、ポイントになりません!』
麻理の見事な判断力に解説席からも驚きの声が上がる。
そして、誰より驚いたのは、完全に持ち上げていた状態から技を返されたミリアンである。
しかし――麻理を見つめる彼女に浮かんでいたのは、歓喜の表情。
(マリ・クルマ。やっと出会えた、魔法使いに!)
(´・ω・`)仲安……(´・ω・`)
> 違いますよ――あんなのシュミじゃないもん!
これはひどいw
※なお、この時集音マイクが麻理に向けられていました※
仲安はいじられてる時が一番輝いている
本人不在でここまで輝けるなんて素晴らしいじゃないか
167 :
1/2:2009/02/17(火) 21:05:26 ID:???
第217話 麻理ちゃん 福岡に行くE
開始直後にいきなりミリアンの大技、すくい投げが出たものの、麻理はギリギリのところでこれを回避。
これほどの瞬発力を持つ相手は、おそらく麻理も初めての対戦となる。
試合再開。再び軽快なフットワークで麻理の周りをサークリングしつつ、ミリアンは間合いを詰めていく。
と、そこでミリアンの双手刈り。しかし麻理はこれを事前に察知し、上から潰して止める。
ミリアンは足を取りに行く技が多い。
一回戦から三回戦まで足を持って相手を倒しており、しかもその全てが一本。
彼女はそういう技のプロフェッショナルであり、
その技は世界二位のルルーシュを一発で沈めた破壊力を持つ。
麻理はここで先手を取っていくことを選ぶ。きちんと組めば麻理の技なら通用しないはずがない。
襟をつかまれ、ミリアンの動きが一瞬止まる。だが、彼女は構わずにまたも麻理の足を取りに行く。
ミリアンの双手刈り――だが、麻理はそこで冷静に、上から背中越しにミリアンの帯を取り、
後方に引き込みつつ回転しながらミリアンの体をひっくり返した。「有効!」
『引込返し!来留間選手は、ミリアンの双手刈りをうまくさばいて引込返しで返しました!』
『やりました来留間、有効です!ポイントを取りました!』
しかもそのまま麻理は縦四方固めに入る。
絶好のチャンスと思われたが、ミリアンに思い切り暴れられ、あっさり抑え込みを解かれてしまう。
時間はわずかに9秒。効果にすらならなかった。
(足があんなに長いんだもん、……ズルイ)
(本当に魔法のようだ。すごい子!マリ・クルマ。勝ちたい、彼女に!)
168 :
2/2:2009/02/17(火) 21:06:18 ID:???
麻理の有効一つリードで試合再開。
と、ここでミリアンは自ら真っ当に組み手を取りに来る。
足から入る攻撃ばかりでは審判の印象が悪くなり、反則を取られかねないからだと思われるが、
麻理にとってはこちらの方が、展開としては好ましい。
背負い投げにいく麻理。だがミリアンは足をついてこれをかわす。
麻理は続けて大内刈りを仕掛けていく。
ミリアンを刈り倒すものの、これは腹ばい。ノーポイントに終わる。
組んだら速攻をかける麻理に、がぜん福岡国際センターは盛り上がってきた。
麻理の小内刈りにミリアンがぐらつく。そして背負い。
ミリアンは頭から落ちるも、ギリギリのところでこれをかわす。
だが、その立ち上がり際――麻理は大外刈りを狙う。
そのときである。
麻理の間断のない攻撃の最中、圧倒的な劣勢にありながら、ミリアンはこの一瞬を見逃さなかった。
大外刈りに入ろうとする麻理の刈り足を捕まえ、技を止め、そのまま身体ごと持ち上げた――!
「ああっ!」「来留間さん!」
仲安の負けるなという声援と共に大逆転の流れだな
しかし、今更ながらマリ・クルマって…
そのうち「東洋のマリック」とか言われるようになるのかな
171 :
1/2:2009/02/18(水) 21:01:24 ID:???
第218話 麻理ちゃん 福岡に行くF
「技あり――っ!」
やはりここ一番で狙っていたミリアンのすくい投げ。麻理は逆転をされてしまった。
(やった!魔法使いを捕まえた!)
浜高では、メンバーが麻理の体格の小ささを改めて嘆く。
麻理はリミットの48キロより3キロも体重が少ない。
そのため、一発入ると軽く吹き飛ばされてしまうのである。
「いや、あいつだって、この一年で5kgも太ったんすよっ!」
正しくはあるが容赦のない杉たちの言葉に、思わず声を上げる仲安。
だが、それは少々藪蛇だった。先輩達の無機質な目が仲安に向く。
「詳しいね」「うっ!」
試合時間4分のうち、すでに2分30秒が経過。
終盤に差し掛かろうというこの時に、技ありのポイントは大きい。
とりかえすべく麻理は積極的に仕掛けていく。
背負い投げ――しかし、ミリアンはそれに反応してつぶす。
さらに、うつ伏せ状態の麻理を力ずくで持ち上げ、投げた。「有効!」
この細い体のどこにこれほどのパワーを秘めているのか。恐るべし、キューバのドミニク・ミリアン。
ところかわって――いきなり久しぶりの三方ヶ原工業高校。
来留間先輩の妹が出場するということで、三工柔道部も福岡女子国際をテレビで観戦していた。
劣勢の麻理に、やはり世界の壁は厚いのかと皆が語り合っていた時、藤田は別のことを考えていた。
(よく見ると相当似ている兄妹だよな。顔の真ん中がそのまま移植されてるみたいで……コワイぞ)
その時、テレビ画面の端にどこかで見たようなものが映り込み、思わず藤田はのけぞる。
「ど、どうしたの?藤田くん」「い、今……」
(間違いない。確かにいた。福岡まで見に行ってたのか、あのヒト)
172 :
2/2:2009/02/18(水) 21:02:27 ID:???
再び試合場。残り時間はすでに20秒ほどになってしまっていた。
ポイントはミリアンが技あり一つと有効一つ。対して麻理が有効一つ。このままではどうしようもない。
そのとき、仲安がテレビに向かって大声をあげた。
「なにやってんだ!このバカ麻理!“裏技”だっ!おまえだって作っただろうがっ!!」
彼のその反応に再び杉たちの目が向けられる。「はっ!(し、しまった……!)」
が、それはべつに彼を責めるようなものではなかった。
「そうか、裏技があった!」「アレかっ!」
残り時間はあとわずか。ついに麻理は良い組手を取る。
最後の勝負。そこで麻理が繰り出したのは――なんと、内股。
しかし、ミリアンはケンケンでこれをこらえる。
もつれあい、不発に終わるかと思われたそのとき、
麻理がその身体を倒れ込みつつ反転させた。「ん〜〜」
「しょっ!」
「えっ?」
全力でこらえていたところから突然、力の方向が真逆となったミリアン。
対応しきれず、体をひっくり返され畳に落ちる。
「技あり――っ!」
『な、なんだー今の技はっ!?とにかく技ありです!来留間、ドタン場でついに追いついたーっ!』
世界の壁はとうにぶち破った気がするのですが三方ヶ原工業高校の皆様…
つか藤田もそこまで驚くことないだろw
妹がでかい大会に出てるなら見に行ったっておかしくなかろーに。
そもそもセンパイは卒業してるだろ
後に巧とタッグでプロレスラーになるのは決まっているから
福岡にいることに驚いたんだろう
寧ろ地元開催のIH決勝にいなかったことのが不思議かもな。
177 :
1/4:2009/02/19(木) 21:01:37 ID:???
第219話 麻理ちゃん 福岡に行くG
『こ、これは……“すみ返し”です!内股からすみ返しに変化しました!』
麻理は最初に内股に行ったが、ミリアンはこれをこらえた。
彼女は足が長いので麻理の内股では投げられなかった。
だが、麻理はそこで体を返して“すみ返し”に行った。
こういう連続技のあり方を「先の先」というのである。
「でたっ、来留間の『裏技』!」「内股からすみ返し」
「ホントは本人、内股をマスターしたかったんだけど!」
麻理の特訓成果がこの大舞台で発揮されたことに、浜高メンバーは歓喜する。
彼女が内股を新しい技として選んだのは、もちろんそれが袴田さんの得意技だからである。
だが、彼女は柔道部の中では一番足が短かったので、やっぱり誰にやってもうまくかからない。
そこで、内股から「すみ返し」にいくというパターンを考えたのであった。
残り時間は12秒。このまま判定になるかと思われたが、麻理は最後の詰めを誤らない。
うつ伏せのミリアンの腕をとって極めにかかる。
反射的にミリアンはそれを外そうとして体を返すが、それこそ麻理の狙い通り。
「んしょっ!」
残り4秒から押さえ込み、上四方固め!
「麻理ちゃん、押さえ込んでも時間がないってっ!」「いいえ、あれでいいのっ!」
思わず声を出す桜子だったが、袴田さんはそれを否定。
「“押さえ込み”の間は時間がきても続行されるのよ!押さえ込みを外すか、一本取るまで!」
(またもや新事実だよ、もう9ヶ月も柔道やってんのに……)
ルールぐらいは勉強しましょう。
ともかく、二人のポイントは互角なので、10秒押さえ込めば勝ちが決まる。
『Sueltame!(放せっ!)』
「ぜ――ったい!逃がさないっ!」
178 :
2/4:2009/02/19(木) 21:02:35 ID:???
『今、10秒――っ!“効果”決まったあ――っ!日本の来留間麻理、優勝――っ!』
『16歳の女子高生が世界の強豪を次々と破り、福岡国際女子をついに制しましたあ――っ!』
『……!!(負けた……)』
ミリアンが麻理の肩を軽く二回叩いて“まいった”する。
「一本!それまでっ!」
今、正式に試合終了。ミリアンは礼の後、麻理に握手を求める。
『Una vez mas…(もう一度…)』
『en Olimpiada!(オリンピックで!)』
その言葉は外国語であったために麻理には理解ができなかったが、
(確かに「オリンピック」って聞こえたっ!オリンピックって!)
麻理の心には深く響いたのであった。
試合場の下には報道陣が待ち構えていた。
新たなるスター誕生に沸き立つ彼らは麻理にカメラを向けフラッシュをたく。
「何でもいいですから一言!」「あっ、顔かくさないで!」
遠慮のない彼らの態度に麻理は――「さ…」
「さ?」「すみません、もっと大きな声でっ!」
「桜子せんぱ――いっ!」
大声で助けを求める麻理。
「全国ネットで名前を呼ぶな――っ!ったくあのコは――っ!」
仕方なしに飛び出そうとする桜子を龍子先生が制した。
「ちょっと待って!あれを見てっ!!」
179 :
3/4:2009/02/19(木) 21:03:38 ID:???
興奮した観客か、フードをかぶった男が報道陣をかき分けて麻理のもとへと向かっていく。
「暴漢だっ!」「止めろっ!」
慌てて制止しようとする係員だったが――麻理の顔が輝いた。「兄さん!」
「お、おっ、妹よ!よくやった!兄は見てたぞっ!」
「ひえーっ!あっ、あのお方はっ!」
「くっ…来留間先輩!」
フードの下から現れたその男の姿に、桜子も、遠く離れた浜高柔道部の一同も驚愕。
「妹よ。そこから逃げたいのかい?」「はい」
「よし、じゃあ、飛んでこいっ!」「はいっ!」
兄に言われたとおり、報道陣を踏み台にしてジャンプする麻理。
同時に先輩も係員を振り払い――「キャッチ!」
「しっかり捕まってろよ」「はい」
麻理を肩に乗せたまま走りだした。
「わ――っ、逃げたーっ!」「誰か捕まえてーっ!」
『おや、来留間選手をかかえたまま場内を走っていきます。どーやら関係者の方だったようです』
喜びの来留間兄妹の姿にタニアが呟く。
「日本人は勝っても泣いてばかりだと思ってたけど…陽気なヤツもいるんだね」
名残惜しげなミリアンに、タニアが行こうと促す。
「これからクルマとは何度でも闘えるよ。もっと大きな舞台でね」
「うん、私も彼女とそれを約束したもん」
「マイク」「なんだいケイト?」「私、決めたわ。これからはあの子たちの時代よ」
女子柔道史上、最も偉大なチャンピオンとうたわれたK・アンダーソンは、帰国後、引退を表明した。
そして、そのアンダーソンを破り、デビュー戦でフクオカを制した日本の少女、
マリ・クルマの名は、またたく間に世界中の柔道選手に伝えられたのだった。
180 :
4/4:2009/02/19(木) 21:04:57 ID:???
麻理の優勝に大歓喜の浜高柔道部の面々であったが、その中で一人、仲安は浮かない表情をしていた。
「どうした仲安、シケた面しやがって――っ!いつもケンカしてる相手でも祝ってやれよーっ!」
空気を読むつもりなどまるでない巧が仲安の背を思いきり叩く。だが――。
「いえ…もう、ケンカなんてできないっスよ」
彼は少し寂しげにそう応えた。麻理が違う世界の人間になってしまったかのように。
(福岡国際優勝か…よかったな、麻理……)
「仲安くん!」
翌日の帰り道、仲安の姿を見つけた麻理が追いかけてくる。
「仲安くん、あのねー、昨日ねー!」
屈託なく仲安と腕を組もうとする麻理に、仲安はついその手を離そうとするが(と、誰も見てないか)
周りを確認し、また元に戻した。
「あのね、昨日、ミリアンって子がね…!」
「そんなでっけえ声出すなよ。ちゃんと聞こえてるよ」
彼のその頬にはわずかに赤みがさしていた。
「ミリアン?決勝で当たったコか?」
「うん、そのミリアンがね――…」
そんな二人の微笑ましい姿を電柱の陰から眺めている人間が約二名ほど。
(よかったね、仲安くん!がんばるのよ!)
保奈美と巧、心配で様子を見に来ていたのである。
(仲安、本当に麻理ちゃん好きだったんだなー。冗談でからかってたのに…)
なんかもう勝った事より
来留間兄妹の暴走の事で頭がいっぱいです
シュミじゃないくせに腕を組んだあげく、無意識に関節技だと?
仲安、おまえ男だよ・・・
高校生の恋の甘酸っぱさっつーより
「悪役」の実はいい奴記号「いぬっころと戯れる不良少年」
にしか見えないのは何故なんだぜ?
>「私、決めたわ。これからはあの子たちの時代よ」
残念、麻理やミリアンの時代ではなくフラグの時代が来るのだ
186 :
1/3:2009/02/20(金) 21:02:59 ID:???
第220話 うかれる人々
麻理の福岡国際女子の優勝。それは、普段静かな浜名湖高校を、ちょっとした騒ぎに巻き込んだ。
何しろ、本当にテレビの取材が来てしまったのである。
レポーターに今後の夢を尋ねられた麻理。その答えはというと、
「もっともっと強くなって、オリンピック出たいです」
というもの。大きくは出たが、それはもう半ば夢ではなくなりつつあった。
麻理はそこにさらに言葉をつなぐ。「先輩たちと一緒に」
彼女の屈託のない物言いに部員一同総コケ。
「だ、そうですよ、先輩のみなさん」
「ア、アハハハハ!」「いやあ、本当にそうっスねえ」「努力しま――す」
彼らにとってはそれはあまりにも遠すぎる話で、笑うしか反応のしようがなかったのだ。
しかし、彼らのその態度に麻理は残念そうな顔をするのであった。
(笑われちゃった。本気で言ったのに。巧先輩ぐらい強ければ、将来オリンピックとか行けるんじゃないかなあ)
続いて先生のコメントを求められる。
「でも、私が柔道教えてるわけじゃないし。西久保さんがコメントしたほうが……」
龍子先生に話を振られ、慌てて拒否する西久保。
実は二か月ほど前、西久保さんは浜高の専任コーチになったのだ。
どういうことかというと、彼は警察を辞め、実家の仕事を手伝うことにしたのである。
公務員の立場ではどうしても時間が縛られてしまっていたが、
おかげで毎日浜高の練習を見に来れるようになったのだ。
「と、いうわけで、今、この人の肩書きは『家事手伝い』になるのだ!」
「うわーっ!似合わない!」「日本一ゴツイ家事手伝い!」「かもね!」
「くっ……!誰のためにやってると……」
教師として、浜高柔道部の代表として、きちんとしたコメントを終えた龍子先生。
一発OKが出たのは良かったが、そこで彼女はあることに気がつく。(はっ、カメラ左向き!)
「すみません、もー一回いいですか?あの、私、カオの右側の方がカメラ映りとかいいんで。お願いしますう!」
せっかくの良いコメントも、何かいろいろと台無しだった。
187 :
2/3:2009/02/20(金) 21:04:31 ID:???
浜高柔道部の新たな挑戦も目前に迫っていた。全国高校選手権県予選である。
やはり強敵は三工、そして暁泉辺りというところか。
「あら?佐鳴は?」
桜子が問うが、強敵として数えるにはどうか。
石塚の世代がいなくなった佐鳴には、もう袴田弟しか戦力に数えられる人間がいないのである。
彼にはかわいそうな話だが。それは仕方のないことだった。
そんなこんなで練習終了。帰り道、皆で斉藤の家のラーメン屋に寄っていこうという話の流れに。
遠慮のない仲間たちに斉藤は嫌がるのだが、
「半年で5kg太れっていったのはテメーだろうが!
ボクたちスポオツ選手は一日3500kcalを消費するんだよ」
「普通の人の倍よ!それより多く食べないと太れないんだよ」
科学的にやろうと決めたのは良いが、その分やかましくなった彼らに斉藤は少し辟易としていた。
と、彼らが店に入ったところで、斉藤の妹の由佳里が顔を出す。
「あっ、浩司お兄ちゃん。手紙きてたよ」「えっ?」
「い・つ・も・の。女の人から」
「はいはい、由佳里ちゃん。おとなしく見せてくれてありがとう」
由佳里の一言を耳にした瞬間、杉・茂・ミッタンは電光石火の早業で斉藤を取り押さえ、
おびえて動けない彼女から問題の手紙を回収するのであった。
「プライバシーの侵害だぞっ!」
(こいつら、イザってときは斉藤より速く動けるんだな……)
その横暴に抗議する斉藤。呆れる巧。
さて、手紙を検める杉の目に飛び込んできた差出人の名前、それは――。
「別所さんからっ!?」
「え――――っ!」
あまりの衝撃に一同、そのまま固まってしまうのだった。
188 :
3/3:2009/02/20(金) 21:06:10 ID:???
ところ変わって喫茶店。龍子先生と西久保さんがテーブルを挟んで今日のことを話していた。
インタビューが苦手な西久保。凶悪犯にも怖気づかないのに、と先生に笑われてしまう。
そして、話は柔道部のことに変わる。何しろ今度の目標は千駄谷学園に勝つこと。
これまでは良い意味でプレッシャーの無かった彼らだが、今回はそれがまるで逆になるのだ。
「大丈夫ですよ。実力で勝てるはずです。
あいつら、この数か月で恐ろしく上達しました。オレが保証しますよ」
西久保はそう太鼓判を押すのであった。
そんな西久保の言葉に一安心する龍子先生。だが、まだ障害は残っていた。
(三工には藤田がいる。アイツを攻略することが最大の難関なんだが……)
「ったく、斉藤のヤツにも困ったもんだぜ!」「いつの間にかちゃっかりだもんな!」
「あーいうヤツが一番信用できん!」
別所さんの手紙の件でブータレながら歩いてくる杉たち。
そんな彼らと喫茶店の中にいた西久保さんの目がガラス越しに合ってしまった。「あっ!」
「先生!」「西久保さん!」「な、何!?二人っきりでこんなところで!」
「デートか?」「専属コーチになったのもこれが目的か、あんたは!?」
店の中にまで入ってきて二人を責め立てる部員たち。
慌てて否定する龍子先生。そして西久保さんも、つい――、
「そ、そう。ただっ!今後のことを話し合ってただけだっ!」
そんな紛らわしい返答をしてしまう。
「今後のことって何だ!今後のことって!」「二人のつき合いはそこまでいっていたのかーっ!」
「こ、言葉が足りなかったんだーっ!今後の柔道部のことって言おうと思ってたんだ――っ!」
夜――斉藤は自室で別所さんからの手紙を読んでいた。
三か月前、別所さんからの突然の手紙に驚いた斉藤。桜子が彼女に斉藤の住所を教えておいたのであった。
斉藤はこのことを桜子に口止めしておいたのだが、その代わりに絶対に返事を書くよう念を押された。
そうして斉藤と別所さんの二人の文通が始まったわけなのだが。
(ホントにまだ文通してるだけの仲なんだけどな〜〜。明日っからあいつらに何言われるのかな〜〜)
微妙に不安な流れだな…
ここいらでガツンと頭叩かれないとマズいんでないか?
西久保さん・・・警察やめてまでって実家の収入そんなにいいのか。
斉藤・・・お前上目指すんじゃなかったのか。
なにこの急なラブラブフラグ
麻理とチャーリー
西久保さんと龍子先生
- -と別所さん
>>191 - -
↑が斉藤の顔にしか見えなくなったww
棒線二本でしっかり斉藤に見えるな
194 :
1/3:2009/02/21(土) 21:02:28 ID:???
第221話 愛の抵抗
浜高メンバー五人は斉藤の家のラーメン屋に行った。
そこで斉藤と別所さんが文通していることを知ったのだが……。
さて、その直後の話である。気まずい雰囲気ではあったが、結局四人とも腹ごしらえはしたのだ。
(さっきから一言もしゃべらない。原因は、浩司と文通している女のコね…)
なんとかこの場の雰囲気だけでも明るくできないものかと考える斉藤母。
(今日、みんなが食べているのはヤキソバ…はっ!柔道部がヤキソバ!?)
ある連想に思い至った斉藤母は、皆に尋ねる。
「ねえ、みんな」「ハイ?」「どうだい、味は?」「!」
「「「「 まろやかああん! 」」」」
「もういっちょいく?」「ウッス!」
魂の呼応した五人。立ち上がった彼らが一瞬、柔道着姿に見えたがそれはご愛敬。
ただ、あまりに古いギャグなので、斉藤・妹にはちょっとわからなかった。
(※ぺヤングソース焼きそばの昔のCM)
県大会まで後九日。練習ペースは落とすが気持ちはダラけさせないよう、部長として杉が引き締める。
「たとえば!こっそりとカゲで女とつき合ったりしてると、気持ちにスキができる!」
「えっ?」「誰のことですか?」「アクマで一般論だ」
一般論、などと主張しているが、どう見ても特定の誰かを狙い撃ちした言葉であった。
「こっそりつき合っちゃいかんよね」「不健康だよな」
ミッタンと茂も杉に唱和するが、事情の知らない一年生たちには誰のことなのか分からない。
「私たちのことじゃないよね、巧くん」「オレたちオープンだしな」
笑い合う巧と保奈美。誰も貴方がたのことは数に入れていません。
195 :
2/3:2009/02/21(土) 21:03:22 ID:???
ともかくも練習開始。まずはランニング、グラウンド10周からスタート。
そこで桜子が走りながら斉藤に尋ねる。
「ねえ、ねえ。ひょっとしてあの(別所さんの)ことがバレたの?」
小声で話しかけたつもりであったが、それが下級生たちに聞こえてしまった。
「えっ?あのコトって!?」「桜子先輩と斉藤先輩がつき合ってたんですか!?」
ものすごい勘違いをされて慌てた桜子、
「バカ!違うのよ!斉藤くんと別所さんの話よ!」
自ら皆に大暴露をかましてしまうのであった。
「えーっ、別所さんって、あの県大会とかI・Hの時にいた人?」
「キャー、高校生のくせに遠距離恋愛だあっ!」
どうせこうなるだろうとは思っていたが、斉藤と別所さんの件はたった一日で部全体に広まってしまったのであった。
その後も杉・茂らによる斉藤いじめは続いた。
練習の時に集中攻撃をしたり、教科書に落書きをするなど陰湿な攻撃をしたり――やっていることは小学生レベルだが。
「キミに新しいニックネームをつけてやったよ」「ぴったしだろ?」
そう言って杉はわざわざ半紙に『恋泥棒』などと筆書きして斉藤に突き付けるのであった。
「チームワークもへったくれもないっスね」「県大会大丈夫かなあ?」
たかだか黙って文通をしていたというだけであったのに。
そしてついに、高校選手権県予選。久しぶりの県営体育館である。
荷物をベンチにおろしてその場を離れようとする斉藤の後を、ぞろぞろとついていく杉たち。
「オレはトイレに行こうとしてるだけだぞ!」「あーらそうだったの?」
「また斉藤くんのことだから、こっそり別所さんに会いに行く約束でもしてるのかと思っちゃった!」
いい加減に怒った斉藤。試合前だというのに、狭い通路でケンカを始めてしまう。
と、はずみで茂が後ろの人にぶつかる。
慌てて謝るとそこには、暁泉学園の面々が立っていた。
「まてよ、暁泉らが来てるってことは…」「例のヒトは?」
平八郎に尋ねる間もなく、問題の彼の声が聞こえてきた。
「エ――ビちゃん!誰だかわかるっ?」「ひっ、ひ――っ!な、永田くん!」
久し振りだというのに、素早い動作で桜子の目隠しをして遊ぶ永田であった。
196 :
3/3:2009/02/21(土) 21:04:01 ID:???
平八郎は巧に、暁泉の新メンバーを紹介する。
一年生の喜久地。軽重量級の平八郎よりさらに体格の良い彼は、中学三年の時に全国大会でベスト4にまで行ったという。
平八郎は喜久地に浜高メンバーの紹介をしようとするのだが――、
I・H代表校とはとても思えない浜高の皆の軽薄な調子に、説明に困るのであった。
「フッ、なんだかなあ……堀内さん。こいつら、本当に強いんスか?」
強豪校の雰囲気をまるで感じさせない浜高に対し、小馬鹿にしたような喜久地の態度。
これにはさすがに杉たちも癇に障った。
「当たり前だ…闘ってみればすぐわかる」
「ふうん。闘ってみれば…ねえ。楽しみだなあ」
ふてぶてしく去っていく喜久地。平八郎は後輩の無礼を巧に謝る。
下級生の教育がなっていないと文句をつける杉と茂。こいつらのなれなれしさも相当なものだが。
「確かに、アイツちょっとナマイキなトコあんだけどよ」
「まあ、あんたらのことよく知らんし、許してやってくれよ」
ご無沙汰の顔に一瞬固まる杉。
「久し振り。いたんだ…佐野くんと武双山くん」「黒柳だよっ!」「いや、失敬」
今回の県大会の下馬評では、優勝候補筆頭に夏の優勝校・三方ヶ原工高。
続く二番手は、夏の準優勝校・浜名湖高校。
三番手に静岡第一。
そして、四番手に最近躍進著しい、暁泉学園の名が挙がっていた。
しかし、組み合わせのシード権は、あくまで夏の大会の結果で決まる。
夏の大会ベスト8どまりだった暁泉は、早くも四回戦目でシード校、浜名湖と当たることになっていた。
両校とも四回戦まで順当に勝ち進み、奇しくもこの日最後に残った試合で相まみえることになったのである。
I・H以降の練習の成果を初めて出せる相手、暁泉学園。その先鋒はあの一年生、喜久地であった。
斉藤は先鋒の茂に、勝てるヤツのところでキッチリ勝ってもらいたいというのだが、
「テメーの指図なんか受けるかよっ!引き分け狙おうかなーっと!」
またひねくれたことを言う茂だった。
「でも、やっぱり勝ちにいくもんね!ナマイキな一年坊に、ちいっと礼儀ってもんを教えてやらなきゃイカンからなっ!」
ペヤングw
このCMは頭に残ってるわ
オイス!だよね
俺はさっぱりわからん
いったいあのギャグの何が面白いんだ
200 :
1/3:2009/02/22(日) 21:04:06 ID:???
第222話 レベルの違い
(I・H三位だとか言ったが、どうせ軽量級だろ。
まずはコイツを1分以内に倒して…浜高をオレ一人で五人抜きしてやるぜっ!)
中学時代に全国ベスト4の実績がある喜久地は、相対した宮崎を――浜高を、侮ってかかる。
彼はその長い手で宮崎を捕まえようとするが、伸ばした手をことごとく払われてしまう。
その一瞬の隙に宮崎が喜久地の懐に飛び込む!
「えっ!?」
組んだと同時の一本背負いに喜久地の巨体が大きく崩れる。
喜久地は何とか手を畳についてこれを防ぐが――、
「ぜやっ!」
そこからさらに宮崎は自分の身体ごと喜久地をひっくり返す。
「技あり――っ!」
「開始早々、ちっこいほうがでっかいのを投げたっ!」「すげえっ!」
「さすが、I・H軽量級三位になっただけのことはあるぜ!」「浜高の宮崎!」
場内に湧き上がる大歓声。
「くそうっ!出会い頭にたまたまかかっただけだ!」
しかし喜久地は自分が投げられた事実をまっすぐに認めることができなかった。
頭に血を上らせ、真っ向から組んでいく喜久地――その前から宮崎の姿が消える。
「でたっ!」「宮崎くんといえばっ!」「巴投げだーっ!」
大きく弧を描いて喜久地は畳に叩きつけられる。
「技あり――っ!合わせて一本!それまでっ!」
なすすべもなく敗れた彼の姿に、本人も含め、暁泉のメンバーは絶句するのであった。
201 :
2/3:2009/02/22(日) 21:05:24 ID:???
開始一分も経っていない秒殺劇に、三工の関谷も驚く。
一年生とはいえ、喜久地は今日一回五人抜きもしている。
その喜久地が宮崎の前にはまるで相手にならなかったのだから、彼が動揺するのも無理はなかった。
隣にいた藤田は、そこで浜高の面々のいつもとは違った様子に気がつく。
(なんだ?いつもは勝ってようが負けてようが、ギャーギャーとうるさい浜高が……みょうにおとなしいな)
その態度は余裕というわけではなく、真剣に試合も見ている。彼らの雰囲気そのものが違うのである。
浜高は後半にポイントゲッターの斉藤・三溝・粉川を置いている。
前半のうちにリードを取り戻さなければヤバイ――。
ハッパをかけられ、暁泉学園の次鋒、佐野が出る。しかし、先鋒戦を短時間で終えた宮崎に疲労は無い。
暁泉側も必死になったが――。
浜高・先鋒の宮崎の快進撃は、周囲の驚きの中、なおも続いていったのであった。
宮崎は佐野から小内掛けで有効を奪い、優勢勝ちで二人抜き。
さらに暁泉の中堅・黒柳とも引き分け。
彼は何と、強豪・暁泉の三人の選手を一人で片付けてしまったのである。
そして、暁泉の副将・永田も――浜高・次鋒の杉に対し内股で攻めたところを裏投げで返され、一本負け。
杉を含めて浜高はまだ四人も残しているのに引きかえ、
暁泉はついに大将の平八郎まで引っ張り出されてしまったのである。
「巧と勝負したかったろうが、堀内、ここで終ってもらうぜ。手加減はしねー」
「なら、今度はオレが全員倒すまでだ!まだ勝った気になるのは早いぞ、浜高!」
暁泉のエース、平八郎の払い腰が杉の体を宙に飛ばす。だが、腹ばいに落ちてノーポイントに終わる。
「あぶね――っ!やっぱ堀内は油断できねえぜ!」
「くっ!やはり宮崎だけじゃなかったかっ!いったいコイツらどうしたってんだ!?」
以前とはまるで比べ物にならない杉の実力に驚く平八郎。
結局、時間いっぱいまで戦い、旗判定で辛くも暁泉側が一勝を返した。
202 :
3/3:2009/02/22(日) 21:06:40 ID:???
「浜名湖、中堅・斉藤!」
(ちっ、杉に粘られたのは誤算だった…おまけに次はコイツかよ)
既にかなりの体力を消耗してしまった平八郎。そんな彼に最後の希望を託す仲間たちの声援が飛ぶ。
それに対して浜高側は――。
「斉藤くん、何キョロキョロしてんの?」「誰かさんお探しですか?女のコとか」
「誰がキョロキョロしてるよ!」
「浜高の連中がいつもと違うって?どこが?」
「あれ?」(なんで、斉藤の時だけ騒ぎ出すんだ?)
すっかりいつもの調子に戻ってしまった浜高の面々に、藤田は困惑するのであった。
堀内VS斉藤。
双方譲らず、なかなか決め手が出なかったが、
平八郎が払い腰を狙ったところをタイミングよく斉藤が小外刈りで切り返し、技あり。
それが決め手となり、斉藤が優勢勝ちをもぎ取った。
「暁泉相手に三人も残して勝っちまった!強い!」
まだ四回戦とはいえ、下馬評では県下のベスト4にその名を挙げられていた暁泉学園。
その暁泉を相手にして三人も残しての圧勝という事実に、
関谷も現在の浜高の強さを素直に認めざるを得なかった。
「いけそうだな!」
戻ってきた斉藤と言葉を交わす巧。彼らの表情には自信が満ち溢れている。
そんな彼らの様子を目にして、藤田は自分たちの最大の障害を再確認するのであった。
「明日の決勝……間違いなく浜高が来るな」
体格といい経歴といい態度といい、カマセ臭が強すぎる新キャラだと思ったら、
やっぱり豪快に噛まれましたとさ。
つーか暁泉全体がかませに…
赤石林業ですら暁泉のかませにされた時は
もう少しページをもらえたというのに…
205 :
1/3:2009/02/23(月) 21:01:02 ID:???
第223話 真の強敵
明日の決勝は浜高と三工に間違いない、という周囲の声。
しかしトータル五人の力では浜高の方が上なのではないか。
これまで県下最強の名を欲しいままにしていた三工も今度ばかりは――。
「くそっ!たれが――っ!」
永田は苛立ちまぎれに道着を床に脱ぎ捨てる。
その姿を目の当たりにしながら平八郎は巧たちに向き直り、
「完敗だ。大将も、副将も引っ張り出せなかったでは、言い訳のしようもないぜ」
素直に彼らの実力を称賛するのであった。
だが――永田は舌打ちをし、
「だせえこと言ってんじゃねーぞ、平八郎!潔く負けを認めるなんて、気持ち悪いだけなんだよっ!」
平八郎の態度に憤るのであった。
「粉川と三溝を見ろ、汗一つかいてねー!あれ見て悔しく思わねーのか!?」
「悔しいが、それ以上に驚かされたんだ。
いったい、どうやってこんなに強くなったんだ?ってな。わずか四か月の間に…」
暁泉の面々もこの四か月、結構ハードな練習をしていたのである。
特に永田はその中でも一番練習熱心であり――だからこその反応だったのだ。
「“威武も屈せず”」
「原田!」「ダンナ!!」
いきなり現れたのは原田彦蔵。
喜久地が加入したために選手からは外れてしまった彼だが、仲間たちの応援にはやってきていた。
彼の言葉を市川先生が噛み砕いて説明する。
「“威武も屈せず”。いかなる強大な武力にも屈服しないという意味だ。
また、そういう者こそ立派な男だとゆう中国の孟子の言葉だな。
おまえの言うことにも一理あると言いたいのだ。原田は」
「え?ダンナ……」
原田は永田を制し、さらに続ける。
206 :
2/3:2009/02/23(月) 21:01:48 ID:???
「“賢を見ては斉しからんことを思う”」
これは論語から。再び市川先生の解説。
「今度は、堀内の言うこともわかると言いたいのだ。
浜高の強さを認め、見習いたいと思うことは正しい。
そして深読みすれば、この格言の中の“賢”というのは永田の名前と同じだから、
永田よ、君も自分を見失わず、その名のとおり“賢に優れた人物”になるよう努力すべきだ、と」
「……わかったよ。ダンナ」
原田の言葉に落ち着きを取り戻した永田は――「ぶえっくしゅーっ!」そこで大きなくしゃみを一つ。
「あらやだ、アタシ裸じゃない。早く汗ふいて服着なきゃカゼひいちゃう」
いつも通りの性格に戻ってしまったのであった。
「あんたら、こんなんとやってて疲れない?」「いや、もう慣れた」
西久保への報告を終えた保奈美は応援組の点呼を取る。これで後は選手の皆が戻ってきたら帰るだけ。
完璧なマネージャーの仕事ぶりを自画自賛する彼女であったが、
「そお?何か忘れてた気が……」桜子がそんな不安なことを言うのであった。
(よかった……浜高が勝ち残って……)
全試合が終了し、人数もまばらになった会場を眺めている人影があった。
彼女は別所愛子さん。
自分のところが出場しているわけでもないのに、浜高の試合を観るためだけにやってきていたのである。
(さあ、帰ろうかな)
「きっとマネージャーの仕事とはカンケイないことよ。私がなんか忘れてるんだ」「そお?」
桜子はそこで見覚えのある後ろ姿に気がつく。「あれはひょっとして……」
「別所さ――んっ!」
(あ、あの声は…!)
しかし彼女は桜子の声に反応せず、その場から歩き去って行った。
(ごめんなさい。桜子さん!私、今日は来てないことになってるのっ!だから会えないの)
207 :
3/3:2009/02/23(月) 21:02:42 ID:???
県大会二日目。この四ヶ月間、浜高が目標としてきたのは“打倒千駄谷”である。
だが、そのためには今日を勝って、全国大会に行かなければならない。
そして今日は昨日の暁泉を上回る強敵が一つだけいる。
「三工っスね」
杉の言葉を西久保さんが訂正する。
「三工じゃない。“藤田”だ」
それを聞いた巧は力強くうなずくのであった。
西久保はそこで龍子先生に他に何かあるか尋ねるが「いいえ、別に」と素っ気ない。
一週間前ぐらいからこの調子らしいが。
ここで部長として杉が試合前に確認を一つ。
「昨日といい今日といい、別所さんが会いに来ないのはどうゆうワケ?」
「文通してる男がここにいるというのに」
「だ――っ、どこが部長として確認しときたいことなんだよっ!」
試合がすべて終わるまでは試合のことに集中しろ、と怒る斉藤。彼のその態度から桜子が察する。
(ということは、それまで別所さんと会うのは控えたいってワケね。
ははーん。コイツの考えそうなこった。堅え、おまえは堅えよ斉藤)
柔道着に着替えるためにメンバーが控室に入ると、そこには先に三工の選手陣がいた。
「着替えるのはちょい後にするか」「ああ、ちょっと今は空気が悪いからな」
そんな斉藤と杉の言葉など無視して、藤田がTシャツを脱ぐ。
その下から現れたのは――絞り込まれ、造り込まれ、鍛え上げられた、見事なアスリートの肉体だった。
(藤田!!)
それを目にした巧の表情は瞬時にして引き締まるのであった。
姫は学校サボって何をやっているんだ?
>>208 高校の柔道の試合って平日にやるもんなのか?
負け試合を華麗に回避し理知的に仲間を宥めるダンナ超格好良い
211 :
1/3:2009/02/24(火) 21:01:08 ID:???
第224話 愛のバンダナ作戦
県大会二日目は一日目を勝ち残った8校によって準々決勝からスタートする。
藤田があっさりと一本勝ちを決め、三工は安部川高を降す。
斉藤が巧に、先ほどの藤田の体を見てどう思ったかと尋ねる。
つまらなそうに「たいしたことねーんじゃないの?」などと返す彼だが、事実は認めなければ仕方がない。
わずかな間に造り上げられた藤田の身体は、斉藤をも驚かせるものだった。
「ひょっとしたら、オレたちとかなり似たことをしてきたのかも知れん。
きっと、あいつはあいつでいろいろ考えたり実践したりしてるんじゃないかな。強くなる方法を」
それを聞いた巧は視線の先の藤田に対し、新たなる闘志を燃やすのであった。
(なんか、すげー試合したくなってきた!この野郎、藤田、見てやがれっ!)
そして浜高の準々決勝――なのだが、またも宮崎・杉・斉藤の三人で終ってしまった。
実は昨日から巧もミッタンも、一度も試合をしていないのである。
「いくらなんでも、少しは試合して体を動かしといたほうがいいんじゃないスか、先生!?」
そんな巧の訴えにより、準決勝は彼が先鋒で出ることに。
ただ、その試合の前に西久保さんが巧に一つ、注意をしていた。
『巧!言っとくが、三溝にも試合をさせたい。一人で全部やるんじゃないぞ』
普通、勝ち抜き戦では“全部倒す気でやれ”と先鋒に言うことはある。
しかし、“全部やるな”というのは珍しかった。
県内では強豪に数えられる三縞学園を相手に、瞬く間に三連勝を決める巧。
副将相手には何もせず、そのまま引き分けにする。「ほらよ、ターッチ!」「バケモノめ……」
戻ってきた巧に三つ溝も呆れ、西久保はほっと安堵するのであった。
そして、もう一方の準決勝はやはり三工が制した。
相手は佐鳴を破って勝ち上がってきた静岡第一だったが、大将・藤田がきっちりと一本勝ちで決めた。
なお、余談だが戦力が落ちたと言われた佐鳴のベスト8は大健闘といえた。
たった一人のポイントゲッター、袴田(弟)のおかげである。
「ほら、佐鳴、ベスト8まで来たじゃん。誰だ?今回は弱いって言ってたのは?」
桜子は妙に嬉しそうに、佐鳴を侮っていた部員たちの頭を小突くのであった。
212 :
2/3:2009/02/24(火) 21:01:42 ID:???
観客席に一人座るセーラー服姿の少女。彼女――別所愛子は一枚の封筒を手にしていた。
(あとひとつ勝てば会えますね。斉藤さん……)
「ふーん、それが斉藤くんからの手紙?」「ハイ」
「女の子に出す手紙なのに、タテ書きのフツーの封筒じゃん」
「でも、そこが斉藤さんらしいんじゃないかと…」
いつの間にやら隣にいた人物に、驚いた彼女は思いきりコケる。
「しゃっ、しゃくらこさん!」「探したぜ。愛子」
さらに加えてどこからともなく、保奈美と麻理も出現。
どうして隠れるように応援しているのか別所さんに尋ねる。
ベンチの間の細い通路に倒れ込んだままの別所さん。そんなところで悩むポーズとらんでも。
理由は斉藤からの手紙にあった。
団体戦なので皆が試合に集中するためにも、直接会うのは試合が終わってからにしようという彼からの提案だったのだ。
「ほーら、やっぱりそーだ!」
「もー、斉藤くんってば女の子の気持ちがわかってないっ!」
「そんなこと言ったって、気になっちゃいますよ、途中の試合だって!」
選手としてはむしろ称賛するべき斉藤の態度だったが、女子の皆さんには大不評の様子だった。
気にはしていないという別所さん。
実によくできた女性だが、実は斉藤が途中で会いたくないのには他にも理由があった。
「バレちゃったのよ、ウチの男子部員に。別所さんが斉藤くんと文通してること」「えーっ!?」
いよいよ決勝戦のオーダーが発表される。
まずは先鋒に斉藤。次鋒が杉。中堅は茂、副将にミッタン。そして大将に巧。
十中八九、三工は大将に藤田であろうから、こちらも大将に巧を置く。
しかし前半にリードをしておきたいから斉藤に先手必勝をかける、という布陣である。
「まあ、そんなとこですが……今日はきっと斉藤がやってくれそうな気がするんで」
そんな杉の言葉に、何だかんだいって自分を信頼してくれていると感動する斉藤――であったが。
「なにしろコイツ、ウワサじゃ今日、女が応援に来てるハズですから、きっとええカッコしーをしたいハズです」
何かもう色々と台無しだった。
「いーかげんにしろ――!!」
213 :
3/3:2009/02/24(火) 21:02:24 ID:???
斉藤がイジメに遭っていると知り、自分のせいで迷惑をかけたと責任を感じてしまう別所さん。
それはそれとして、とりあえず会って激励もできないというのは困りものである。
と、そこで保奈美が別所さんのしているプロミスリングに気がつく。そして彼女は閃いた。
いよいよ決勝戦開始――気合を入れて皆が立ち上がったそのとき、
「ちょっと待ったあ!」
桜子が飛び込んできた。
「斉藤くんだけちょっと待ったあ!」「わっ!?ちょっと、何?」「こっちへいらしてん!」
いきなりのことに驚く斉藤。杉たちは別所さんのところへ行くのではと疑うが、違った。
「急いで右腕まくって、ホラ!」
保奈美と麻理がバリケードを作って他からの視線を遮っている間に、桜子が斉藤の右腕にバンダナを結ぶ。
「何だ、このバンダナ?」「別所さんのバンダナよ」
これはお守りの代りなのだ。
気の利かない男のために走り回る桜子に、お節介だなと文句をたれる斉藤である。
「あっ、出てきた」
観客席から試合場を見つめる別所さんの前に、いよいよ浜高の面々が入場してくる。
そして、先頭に立つ斉藤が――そっと、自分の右腕に触れるのであった。
その姿に顔をほころばせる別所さん。
そして、いよいよ決勝戦が始まる。
「ただいまより決勝戦を始める!赤、浜名湖高校。白、三方ヶ原工業高校!正面に向かって、礼!」
あ、…っと
今更大事なことに気付いたんだが
団体の決勝が始まろうかという時に言っていいのかな?
前々回の
(どうせ軽量級だろ)
でふと思ったことなんだが、
全員体重を増やしたってことは…個人の階級変更があるのかな?
>>214 目標が+5kgだったっけ?結局みんな達成出来たの?
宮崎と巧と...あと誰だっけ?
は個人戦の時にリミット近かったよね??
達成できてたとして現状で宮崎は軽中量級?
まあとりあえず杉は階級変えた方が良いな
平ちゃんと互角に戦えるんだから1階級上げて軽重量級に行った方がいいよなあ。
藤田のいる中量級にとどまるよりよっぽど勝ちやすかろう。
夏の王者は平ちゃんだったし。
219 :
1/2:2009/02/25(水) 21:01:31 ID:???
第225話 燃えてる斉藤
右腕を強くつかむ斉藤。その下には別所さんから受け取ったバンダナが結ばれていた。
(がんばってください、斉藤さん……)
「斉藤くーん!!」「がんばんなさいよ、本当に――っ!!」「ファイト、斉藤くん!」
先鋒戦に立つ斉藤に女子部員からの熱い声援。しかしその裏には、
(別所さんにいいトコ見せるのよっ!)という思惑があった。
彼女たちのそんな態度にプレッシャーを感じる斉藤。
他の皆も急に斉藤をひいきしだす女子たちに違和感を覚えていた。
三工の先鋒として出てきたのは関谷。同じく器用さが売りのテクニック派対決である。
「始めっ!」
慎重に間合いを測る両者。
それがある瞬間、弾けるように同時に飛び出し、火花の散るような組み手争いが始まる。
それを制したのは斉藤。関谷を捕まえて振り回すが――、
「これくらいで優位に立ったと……思うなっ!」
関谷は右手を完全に封じられながら、左手で斉藤の背中をつかみ、そこから小外刈りを仕掛ける。
とっさに足をかける斉藤。二人、もつれたまま倒れ――「有効ーっ!」関谷がポイントを先取した。
斉藤のピンチに女子たちも慌てる。
関谷はそのまま寝技に入ろうとするが――そのとき、藤田の声が飛んだ。
「逃げろ関谷っ!」
だが、その声はわずかに遅かった。
「絞めてるっ!いっ、いつの間に!?」
驚きの平山。斉藤は下になりながら関谷の首に腕をまわし、そのまま絞め上げていたのである。
関谷は何とか外そうともがくが、そのうちに体勢までも上下ひっくり返され、追い込まれてしまう。
そしてついに、関谷が斉藤の身体を二回叩いて“まいった”した。
「一本!それまで――っ!」
220 :
2/2:2009/02/25(水) 21:03:08 ID:???
即座に二人を引き離す審判。そして斉藤は――、
「よおぉしっ!」
右腕を叩いてガッツポーズをとるのであった。
「うんうん、さすが」「斉藤が声出してガッツポーズ?」
「おや、バンダナ巻いたところを…」「たたいてガッツポーズ」
普段の彼からはまず考えられない珍しいパフォーマンスだが、女子の皆はその意味を理解していた。
「うぷぷ。やるね、斉藤くんも…」
斉藤が出てきたら引き分けてでも食い止める算段だった三工の吉岡先生。だが、その思惑は外れた。
「次鋒・小島、斉藤と刺し違える気でおまえが止めろ!」
斉藤と小島の試合が始まるが――藤田はそのとき、試合には目もくれず巧の方を睨みつけていた。
(こいつら……いったい、どんな練習してきやがった?)
巧はその視線を真正面から受け止めつつ、逆に自信に満ちた目で返す。
(にらみつけてても、内心ビビってんだろ。オレたちの成長をな!)
小島に対し、積極的に一本背負いを仕掛けていく斉藤。
だが、小島はそれをこらえ、斉藤を背中から畳に押しつぶすのであった。
>>216-218 だが、藤田もデカくなっていて軽重量級に移りましたってオチが杉だとありうると思うぞw
刺し違えさせるつもりなら、斉藤にドロップキックでもさせましょうよ吉岡先生
>>221 確か藤田もリミットギリギリだったよね。
杉...哀れwww
思い切って無差別級に転向したらどうだ?
藤田に勝つよりミッタンや平山に勝つほうが楽そうだし。
226 :
1/3:2009/02/26(木) 21:01:56 ID:???
第226話 愛のガッツポーズ
背負いをつぶされた斉藤は即座に脱出にかかる。
「野郎!逃がすかっ!」
すかさず寝技で追い込もうとする小島であったが、その身体に斉藤の脚が絡みつく。
小島の左腕を両脚で挟み込み、彼をうつ伏せに畳に押し付ける。
そこから腕をロックし、腰をわずかに持ち上げると――、
「ぐわっ……!」小島から漏れるくぐもった悲鳴。
「ええっ!?」「まさか!?」「関節技……!?」
「あれが……キマっているのかっ!?」
百戦錬磨の三工の選手たちをして見たこともない形の関節技。
小島はたまらず畳を叩いて“まいった”をした。
「一本!それまで!」
「出たぜ!変形の膝固めっ!斉藤の野郎、ついに“裏技”出しやがったっ!」
浜高が言う裏技とは、I・Hの後の反省も含めて、浜高のメンバーが各自新しく身につけた必殺技である。
麻理が福岡国際女子で見せた内股からすみ返しのパターンもその一つ。
(でも、まだオレたちのは未完成なんだよな――)
(それに引きかえ斉藤のヤツは、寝技だけでもすでに五つの新技を身につけてんだよ――)
(だから膝固めも実は「裏技その一」!)
斉藤は再び右腕に触れ、そのまま腕を高く差し上げた。
「おおーっ、またしてもガッツポーズ!」「なんと不敵なっ!」「イカスっスー!」
観客には大ウケのパフォーマンスだったが、仲間たちにはあまりにも違和感のあるものだった。
「斉藤?」「あいつ、なんか悪い物でも食ったんじゃねえか?」
(すごい斉藤さん!三工相手に二人も倒すなんて…)
彼の活躍を観客席から見守る別所さん。
(そして、差し上げられた手には私のバンダナが…きゃっ!)
彼女はひとり、顔を赤らめていたりした。
227 :
2/3:2009/02/26(木) 21:02:27 ID:???
三工は三人目、中堅の大谷に出番が回ってしまった。
「大谷!斉藤は寝技を狙ってるぞ!斉藤が転がってもつき合うな、立って勝負だっ!」
関谷のアドバイスに従って攻める大谷。
大外刈りをかわされて畳に手をついても、すぐに丸くなり寝技の追撃を防ぐ。
審判の「待て」がかかり、再び開始線へと戻る。
(寝技に引き込んでるだと…?)三工側の反応が少し面白くない斉藤。
「そっちがいくら逃げようとしてもなあっ!」
大谷と組みあった斉藤――、
「こういう手もあるぜ!」
片腕をとった状態から跳躍、空中で大谷の首に足をかけ、
そのまま全体重をかけて大谷を畳に引き倒した。
「おらあっ!」「ぐおおっ!」
「うおっ!なんだ、ありゃあっ!」
「立ってる相手にいきなり飛びついて腕ひしぎ十字固めにもっていった!」
「あれは“跳び関節”だーっ!」
“まいった”する小島「一本!それまでっ!」
これで斉藤の三人抜き。技を解いた斉藤は立ち上がり、
「だあ――っ!」
両手を掲げて咆哮するのであった。
「……完全にキャラクターが違う」
ドン引きの仲間たち。それに対して、
(ああ、もう!カッコよすぎ!)
別所さんは幸せの絶頂にいた。
228 :
3/3:2009/02/26(木) 21:03:24 ID:???
(跳び関節だと?あれは確か、I・Hで粉川と闘った日置が使っていた技!
こんな技まで身につけていたか、斉藤!)
斉藤の成長ぶりを藤田は冷静に受け止める。
(もう絶好調だぜ。何度も練習してきた技とはいえ、こうもビシバシ決まるとは……)
本当にこのバンダナのおかげかもしれない、
と斉藤は右腕に巻かれた別所さんのバンダナを意識するのであった。
ついに副将の平山まで引っ張り出されてしまった三工側。
彼の後ろにはもう大将の藤田一人しかいない。
斉藤の迫力に気圧される平山。斉藤は体重差もかまわずに果敢に攻めていく。
大内刈りで「有効」を奪われた平山は、完全に精神的にのまれていた。
「だ、だめだ!!負けるっ!!」
ところが、そのとき――。
斉藤の右袖から別所さんのバンダナが滑り落ちた。
ああ、もう!カッコよすぎw
あれ?試合中に物を落としたりした場合…
なんか指導とか注意とか受けちゃったりするの?
…あ、いや、浜高側から出なく、審判からって意味で
つーか面白いは面白いんだがw
この後の展開どーすんだよ
もう平山と藤田しか残ってないぞ、三工
巧と藤田の因縁の対決をやるには平山が四人抜きするしか
西久保さんが、敵は三工じゃなく藤田って言ってたが、
まさか「藤田以外は敵じゃない」って意味だったとは・・・
三銃士引退して弱体化著しいな
斉藤の強さはもはやギャグだなww
つーか、関谷のかませっぷりが泣ける...
235 :
1/2:2009/02/27(金) 21:01:16 ID:???
第227話 そしてバンダナが…
斉藤の袖から落ちてしまった別所さんのバンダナ。
慌ててそれを拾い上げるものの、当然ながら審判から待てがかかる。
「何のためにこんなものを巻いていたんだ?包帯のかわりかね?」
「いえ…ゲンかつぎのようなもので…」
もっときつめに縛っておけばよかったのだが、そうすると血のめぐりが悪くなってしまう。
とりあえず問題になるようなものではないので反則を取られるようなことはなかったが、
バンダナは杉たちの手に渡ってしまった。
試合再開――にもかかわらず、杉たちにはそんなことよりバンダナの方が気にかかる。
まさか別所さんのものではと思い至った杉、バンダナの匂いをすごい勢いでかぎ始める。
「げ〜〜斉藤の汗の臭いしかしねー」
それはそうである。だいたい犬でもあるまいし、匂いを嗅いで持ち主が分かったりなどするものか。
(くそっ!コイツがさっき腕をつかんだから、バンダナがとれたんだ)
苛立つ斉藤は平山を攻め立てる――が、そのどれもがいまひとつ決まらない。
「どこかに刺繍でイニシャルとか入ってねえか?」
「ハンカチならともかく、バンダナじゃあなー」
(あいつらバンダナ調べてやがるっ!試合も見ずにっ!)
杉と茂の行動が気になって仕方がない斉藤は、急速に集中力をなくす。
無理やり大外刈りを仕掛けていくが、いくら何でも平山に対して、
体勢も崩さずに技をかけて倒れるはずがない。
「ちょっと杉くん!それあたしのだから返してよ」
見かねた桜子が杉からバンダナを取り返そうとするが、納得のできない杉はそれに応じようとしない。
ついには杉と桜子とで、バンダナの引っ張り合いになってしまう。
「つべこべいわずによこへ」「なんだコイツ?」
(わ――っ!あいつら何やってんだ――っ!)
236 :
2/2:2009/02/27(金) 21:01:48 ID:???
そこに斉藤に大きな隙ができる。平山はそれを逃さずに払い腰を仕掛ける。
「技あり――っ!」
この決勝戦で初めて斉藤が取られた大きなポイント。「こ…!このやろっ!」
斉藤はすぐに平山のバックを取り、絞めに入ろうとするが――そこで藤田の声が飛ぶ。
「つぶせ平山!後ろだっ!」
それを耳にした平山は斉藤ごと後方へ倒れ込む。
重量級の平山の全体重でのしかかられた斉藤は、思わず技を外してしまう。
後方へ一回転した平山は、そのまま斉藤を抑え込む。
上四方固め。完全に固められてしまった上に、体重差もありすぎる。
こうなってしまってはいかに寝技巧者の斉藤といえどもどうすることもできなかった。
(寝技で三工をさんざん苦しめてくれた斉藤を、寝技でお返ししてやるとはな…)
「一本!それまで!」
「おまえのせいで斉藤、気が散ったのかもね」「だって……」
巧にジト目で見られて困る桜子。杉はそそくさと逃げ出すのであった。
「さて、試合に行かなくちゃ!」
戻ってきた斉藤に、三人抜きしてガッカリすることはないという巧だったが、
斉藤自身はその試合ぶりを恥じていた。
「いや…オレはまだまだ修行が足りん!」
「ようし、今度はこっちが抜き返してやる!ボクだって三工の副将だっ!」
「てめーにはI・H予選の時にやられてっからなァ!その借り、今日返してやらあっ!」
一勝を返して意気込む平山と、彼とは因縁のある杉の試合。
三分過ぎ、大外刈りを仕掛けてくる平山を、杉は西久保直伝の大外返しで倒す。判定は「技あり」。
この終盤に来て、大きくポイント差が開いた。
「このままだと、三工はとうとう藤田一人だけだあ!」「浜高は杉を合わせてまだ四人!」
この絶望的な劣勢にあって――藤田はなお冷静さを保っていた。
(そろそろ出番か)
237 :
業務連絡:2009/02/27(金) 21:03:09 ID:???
次回は一回休載して、単行本23巻のおまけを紹介します。
藤田(そろそろ出番か)
「先生!お願いします!」
ガラッ! ←いきなり現れた襖の奥から男、現る
浜高一同「!!」
藤田「先生!あいつらをやっちまって下さい!」
??「あー?こいつらか…わりぃがおめぇら、後悔するなよ」
桜子「西久保さん!ちょっとそのパターン古すぎますよ!」
保奈美「でもちょっとかっこいいような…」
宮崎「どこがだよ!あれ時代劇の悪役の登場パターンじゃねぇか!」
杉「つまり勝つのは俺達ってことだな!よしっ!」
巧「いいからお前は試合に集中しろって。斉藤みたいになりてーのか」
斉藤(くっ…!言い返す言葉がない!)
三溝(…俺がやっても似合うかもなあれ)
藤田(し、しまった!!ボケにボケを被せられてしまったぁ!)
こりゃ藤田との決着は持ち越しだな
藤田vs斉藤見たかったぜ
241 :
1/3:2009/02/28(土) 21:02:16 ID:???
○単行本第23巻 (表紙:ドミニク・ミリアン 裏表紙:来留間麻理 仲安昌邦)
・四コマその1
1.94年4月29日 この日、日本武道館が燃えた!
吉田秀彦が活躍した全日本柔道選手権!あの場にいたんだよ、私は!
2.年に一回、日本で一番強い柔道家をきめるのが全日本だ!
体重無差別だから、どんなに小さい選手でも予選を勝ちぬけば出られる!
3.そして86キロ級の吉田がこの大会で大旋風を巻きおこした!
なんと、準決勝で全日本5連覇していた小川に判定で勝ったのだ!
4.そしてついに決勝戦!20年ぶりの重量級以外の優勝なるかっ!?
河「オレたちは歴史の証人になるのか?!うおおっ今年みにきてよかったーっ!ラッキー!」
宙「うーん吉田すごいっスねー」(スプリガンのたかしげ先生をさそたのだ。格闘技好きだから)
242 :
2/3:2009/02/28(土) 21:02:46 ID:???
・四コマその2
1.決勝の金野との試合はソーゼツなものとなった!
「金野のカニばさみ!」「そしてヒミツ兵器脇がためっ!」
2.吉田、金野の脇固めでヒジジン帯を痛める。道着をかんで痛みをこらえる吉田。
それでもたたかう吉田も吉田なら、そのヒジを、またねらう金野も金野!
「すげえっ!これこそ真のセメント(真剣勝負)」
3.場外ぎわでガン鳥羽市あう二人!結局、勝負は金野がかったが、本当にすごい試合だった。
金野「反則にならないかぎり、どんな技をつかっても勝ちたかった!」
執念である。カレは7度目の全日本であって、初めての優勝だったのだ!
4.余談ではあるが、観戦中こんなこともありました。
どこぞの女子高生三人組「なんか帯ギュでこーゆうシーンあったよね」
うれしかったけど、はずかしいからだまってた。いやあ、すんませんでした。
243 :
3/3:2009/02/28(土) 21:03:15 ID:???
○女流まんが家 武内昌美先生の登場!!第23回 サンデーコミックス名物『絵筆をもってね!』
・今回のゲストは少女コミックで『チェリーにくちづけ』を連載中の武内昌美先生。
以前から『帯ギュ』大ファンの先生に、特別審査をお願いしました。
選評/河合克敏 応募総数:1532点 入選:33点
グランプリ:徳島県・グレゴリー〔桜子(アザラシな桜子)〕
〈武内〉寝起きのような瞳がいとしい(ハァト)アザラシって本当に耳あるんですかねェ?
〈河合〉でも、これがグランプリだと怒る投稿者が多いと思う。ゲグウ〜〜ッ!!
武内賞:宮城県・松田三里〔斉藤・桜子(君の瞳に…カンパイ!)〕
〈武内〉や、わたしが、斉藤くんのファンだってのもあるんですけどね。いいとこ突いてますよねえ。(笑)
〈河合〉どうして巧じゃなくて、みんな斉藤なんスか?
〈武内〉だって、業師なんだもん。
河合賞:HARU〔浜高メンバー(柔の道は長く厳しい)〕
〈河合〉なるほど、「イガグリくん」「柔道一直線」「柔道賛歌」の次に「帯ギュ」が並ぶといいたいんだな。
〈武内〉HARU君、きみは一体いくつなんだ!?
topix:山形県・藤沢冬夜〔杉・桜子(あの頃は良かった…)〕
〈武内〉おばーちゃん、桜子ちゃんだって。かわいー(ハァト)
〈河合〉「完」ってなんだーっ!じじいは杉だそうです。
・単行本22巻にカバー裏四コマがなかったネタ
大阪府・藪坂よしひと 長崎県・トウモロコシ 埼玉県・みのうなぎ山
〈河合〉〆切に間に合わなかったんでーす。ネタももう考え付きませーん。
どうせ、オマケなんだから、一度や二度載らなかったぐらいで目クジラ立てるなよ。
〈武内〉立てる。わたしも22巻見てがっかりしたクチです。
広島県・宮永一世〔乙淵ふね(ふっちんのうしろあたま ケツわけ)〕
〈河合〉今回のふっちんは、こいつを選んでおこう。
〈武内〉でも、女の子のヘアスタイルに、このネーミングって…〈泣〉
あれ?4コマあった
やっぱり…みんな
>>158のようなことを思っていたんだな
武内先生にまで突っ込まれてるし
にしても、フネちゃん人気の時代がやってくるのか?そうなのか!?
しかもやけに河合のお気に入りのようだし
もう一度出番がある、なんて、まさか…!
246 :
1/2:2009/03/01(日) 21:05:10 ID:???
第228話 4対1
杉が平山から技ありをとったことで、この試合も勝てそうだと麻理と保奈美が盛り上がる。
その横で桜子だけはただ一人、冷めた表情をしていた。(甘い…杉だけは最後まで信用しちゃいかん…)
残り時間30秒。大将の藤田の負担を少しでも減らすべく、平山はなお諦めない。
投げを仕掛ける平山に対し、杉はそれをさばいて逆にその股そばを捕まえ――、
「持ち上げたっ!」「ムチャゆーな――!」
「ムチャやないっ!」
なんと平山の巨体をすくい投げでひっくり返してしまった。
「技あり。合わせて一本、それまで!」
「一度やられたヤツには二度と負けん!それが浜高の柔道だっ!」
重量級の相手を力技で投げ飛ばして見せた杉。それは彼の肉体的な成長を示すものだった。
「おいおい。副将の平山が負けたってことは…」
「三工が勝つには、藤田は今から四人と闘わなきゃならないっ!キツすぎるっ!」
杉や宮崎はまだしも、その後の重量級の三溝、そして大将の粉川。
自分たちが全部藤田に押し付けてしまった――と、三工の選手たちは悔やむ。
だが、そんな消沈する彼らを吉岡先生は叱り飛ばした。
「バカモノ!まだ藤田はあきらめとらんぞ!」
奇跡に近いほど少ない可能性だが、藤田なら四人抜きを狙う。先生は彼をよく理解していた。
「始めっ!」「あっ、タイム」
爪が気になるといい中断を申し出る杉。ルール的にはどうかと思うのだが、ともかく。
メンバーの元に戻ってきた彼は、真剣な表情で仲間たちに告げる。
「おい。オレ、“裏技”いくぞ」
247 :
2/2:2009/03/01(日) 21:05:56 ID:???
杉の裏技はまだ未完成。だが、相手はあの藤田である。
普通にやっていたら本当に巧のところまで抜かされかねない。
それに――「裏技」が全国で通用するかどうか、それを試すには藤田は絶好の相手である。
「やっちまえよ、杉!絶対、藤田を倒せよっ!」
「ファイト――杉!」
「後があるなんて思うなよっ!」
「おまえでキメろ!」
観客席から試合を観ていた別所さんは、浜高のメンバーの様子に気がつく。
〈勝った気でいるなんて表情じゃない。今までとうってかわって真剣な表情。
四人いても気の抜けないほどの相手…それが藤田恵なのね……)
そしていよいよ――杉と藤田の試合が始まる。
(思いっきりふところに飛び込む…一瞬の勝負だ…)
冷静に、慎重に、組んだところで――そのとき。杉が藤田の側面から仕掛けた。
「うおりゃあ――っ!」
正面からではなく横方向からの急襲。
自分の身体全体で藤田を挟むように、その足元をすくい、後方へ倒す!
「でたっ!裏技!」「どうだ!?」
> 一度やられたヤツには二度と負けん!それが浜高の柔道だっ!
どうせ今から三人揃って藤田に二度目の敗北を喫すると思うと虚しい…
とか思ってたらまさかの奇襲攻撃キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
>杉や宮崎はまだしも
やっぱりそんな扱いなのね、と思ったら
どーせ負けるんだよなと冷めた目で見つつ
胸の前で手を組んで「お願い!杉くん!勝って!!」とか
祈っているラブコメヒロインのような俺が居るw
>>今までとうってかわって真剣な表情。
お前がゆーなw
>>250 しかしヒロインは巧くんの出番まだー?と杉の敗北を願ってますw
つか一度やられた奴には(ryって浜高というより巧のことなんじゃ
第229話 成長の証
「倒れろ――っ!」
杉の奇襲攻撃に完全に体を浮かされた藤田は、とっさに体をひねり脇から畳に落ちる。
追撃の寝技を防ぐべくカメになる藤田。今の技の判定は――。
「技あり!」
I・H全国優勝の藤田が技ありを奪われたことに騒然となる場内。それにしても今の技は?
「フフフ、今の杉くんの技を知りたいのね。私が教えてさしあげましょう」
そう得意げに永田と平八郎に語りだすのは桜子である。
「あれこそ、杉くんがここぞというとき出すために磨いていた裏技、すくい投げよっ!」
初めて他人に柔道の技の説明をしたっ!と嬉しそうな彼女だったが、
「ちがうじゃん」と永田の容赦ないツッコミが入る。
「すくい投げ」といえば、相手の股の近くを持ってひっくり返す技のこと。
実際、杉自身がそれで平山を投げている。
だが、藤田から技ありを奪った今の技は、それとは全然似ていなかった。
「助けて、麻理ちゃん!」「それは、どっちも“すくい投げ”と言われているからです」
実は、杉が藤田を倒した方が元々の「すくい投げ」。
@相手の懐に飛び込み A足をすくって後ろへ倒す
股を持ってひっくり返す方は、最初は“手車”と呼ばれていたらしい。
元の「すくい投げ」とはぜんぜん違う技だが、技の形を見ると相手の下半身をすくって投げているので、
これも「すくい投げ」と呼ばれるようになってしまったのだ。
新しいすくい投げは相手のかけてきた技を返す技として便利なので使う人が増えた。
それに対して、元のすくい投げは奇襲技なので、そもそも出番自体が少なかった。
「こうして、後から“すくい投げ”と呼ばれるようになった技のほうがメジャーになり、
もともと“すくい投げ”と呼ばれていたほうはマイナーな技になってしまったのです」
以上、麻理ちゃんの柔道講座でした。
「待て」がかかり、立ちあがる両者。
ポイントを取られているだけに、ここから藤田の猛反撃が始まる。
再開と同時に仕掛けていく藤田。軽く大内刈りを入れ、そこから間髪入れずに内股。
しかし、杉は危ういところでそれをしのぐ。
だが、藤田はそれで止まらない。杉の立ち上がり際を狙った大外刈り。
その勢いに思わず審判は「技あり」と言いかけたが、「有効」に訂正。
そのまま杉にのしかかり、藤田は寝技を狙っていく。
しかし杉は下から背中越しに手をのばして藤田の帯を取り、「でやあっ!」体勢を上下入れ替える。
逆に押さえ込まれそうになったところを藤田は慌てて引き剥がした。
先ほどから藤田がガンガン攻めているのに、ポイントはまだ有効しか取れていない。
まさか、杉に藤田の技に耐えられるほどの実力があるのか。場内は少しずつざわめき始める。
再び藤田の内股。しかし杉はこれを止め、逆にすくい投げで返す。
結果としてはポイントも何もなかったが――藤田の必殺の内股を受け止め、逆に返し技を出したこと、
これは杉自身の成長ぶりを証明するに十分だった。
(こいつ……)
自分と互角に渡り合う杉の姿に、藤田もそれを認めざるをえなかった。
え、杉まだ試合やってんの?
宮崎まだかなーと思ってたのに
まあ宮崎のほうがヘタる可能性もあるが
おかしい、杉がこんなに強いわけが無い。
早く昔の杉に戻って欲しい(花粉的な意味で)
おまえらww
杉の健闘空しく、つるつる投げで藤田の勝ちだな
宮崎戦はおさーる投げで勝つ
第230話 藤田の苦戦
残り時間一分ちょっと。これはひょっとして杉の大金星か、とにわかに盛り上がる応援席。
だが、その中で一人、桜子だけが冷めていた。「いやいや、まだまだ信用できん」
激しい組み手の取り合いから、再び杉が裏技のすくい投げを仕掛けていく。
だが、さすがに二度は喰らわない。藤田はきちんと奇襲に対応し、うつ伏せに倒れてしのぐ。
そこから逆に寝技に入ろうとするが、杉はそれを足で防御。抑え込みに入れない。
残り45秒。保奈美は巧の方を見る。
(本当は自分の手で藤田くんと決着をつけたいんでしょうね。フクザツな気持ちなんだろうな……)
試合再開。ここで藤田が勝負に出る。
「小内!まさかッ!」
逃げようとする杉。だが――「あ……足がっ!抜けんっ!」
木の根のように杉に絡みついた藤田の右足。彼はそこからさらに一歩を踏みこみ――、
「うおりゃああ!」
「小内巻き込みっ!」
杉の体をひねり倒すように畳に叩きつけた。
「一本!それまで――っ!」
ここまで藤田を追い詰めながら逆転を許してしまったことを杉は悔しがる。
(片足で小内をこらえながら足を抜こうとしたのに、ロックされたみてえに抜けやしねえ。
どうゆう足腰してたらこんな芸当ができるんだっ!)
藤田に主審の手が挙がる。
勝ち名乗りを受けながら、藤田は忌々しげに舌打ちをした。
三工の吉岡先生も、この絶望的な状況に汗を浮かべる。
(勝つには勝ったが…しかし!4分近くもてこずった上に、必殺の小内巻き込みまで見せてしまったとは…)
浜高はまだ三人も残っている。
いくら藤田といえども、ここからの逆転は厳しすぎる話であった。
そして――軽く跳ねてからしっかりと床を踏みしめ、宮崎茂、気合い十分。
「さあて、やあっと出番だぜ!」
「浜高はやっと中堅の宮崎だ!」
「いくらっちこいからって、コイツもあなどれないぜ!」
「なにしろ藤田がI・H中量級一位なら、宮崎も軽量級三位になったほどだからな!」
(フフフ、もっと言ってちょ)
周囲の声に得意がる宮崎。
彼もまた既に、この試合に対して決意をしていた。
(杉が“裏技”を出したとあっちゃ、オレがこの場で出し惜しみしてる場合じゃねえよな)
宮崎VS藤田――試合開始。
河津掛け
斉藤は日置の跳び関節を会得したのだから
暁泉の武双山と戦ったことのある茂なら幻の相撲の決まり手「一本背負い」だな
第231話 消耗戦
県大会決勝、三工VS浜高。
三工は大将・藤田。
対する浜高はいまだ三番手、中堅・宮崎。
杉がすくい投げであそこまで藤田を苦しめたのだから、宮崎はどんな技を見せてくれるのか。
「まあ、平ちゃんには教えてあげようかな。宮崎くんの裏技を」
桜子は得意げに語りだす。
ヒントは、宮崎がインターハイで戦った相手――。
素早く動き回る宮崎を、藤田はなかなか捕まえることができないでいた。
焦る藤田が不用意に出した右腕を――(今だっ!)逆に宮崎が取る。
まるで腕にぶら下がるように体重をかけ、藤田の身体がつんのめる。
「だああ――っ!」
そのまま身体ごと巻き込むようにして、投げる!
「ああ――っ!背がついた……!!」
まさか一本か、とさえ思われたが、審判の判定は「技あり――っ!」
危うく一本負けは免れたものの、それでも、あの宮崎が藤田を投げるとは。
多様な技に精通する関谷でさえ、今の宮崎の技は見たこともないものだった。
実際に受けた藤田は、その技の異質さに気がつく。
(相手の腕にぶら下がるようにして入る一本背負い。柔道技じゃないなっ!)
「ええっ!アマレスの技?今の一本背負いが…!?」
「そう、巻き込み一本背負い!宮崎くんがI・Hの時に闘った相手に長谷くんってコがいて、
そのコがアマレス出身で柔道の試合にもアマレス技を使っていたのよ」
桜子の解説に永田も平八郎も驚いた。
でも、どうして宮崎はアマレス技を使う気になったのだろうか?
「『いきなり変な技使えばビックリしてかかるだろ?オレがそうだったんだから』って言ってた」
「あんちょくな……」
しかし、今の技では一本を取るのは難しい。
相手より先に自分の体の方が地面についてしまう投げ方のため、あまり綺麗な形ではない。
下手をすれば反則スレスレのような技――その辺りをどうするかがこの技の改良を要するところである。
先ほどの杉といい、今度の宮崎といい、ピンチの連続の藤田。巧の姿が彼の目に入る。
(こんなところで足踏みしてる場合じゃないんだ!粉川、きさまと決着をつけるためにはな!)
片手で宮崎の奥襟だけをつかみ、そのまま藤田は内股に行く。
だが、その技を宮崎はあっさりとかわした。
「片手の内股が今のオレらに通用するかっ!なめんなよ!」
だが、藤田の攻撃はそれで終わらなかった。
内股は囮、瞬時に体勢を立て直した藤田は、内股をかわして体の開いた宮崎の足元に滑り込む。
股の間に腕を差し入れ、そのまま担ぎ上げ――落とす!
「一本!」
「おおっ、肩車!」「片手の内股をフェイントに使ったのかーっ!」
豪快さと繊細さが合わさったかのような藤田の技の前に、宮崎は撃沈。
そして、副将・三溝が立つ。
「ようし!次はオレが相手だぜ、藤田!」
「あと二人!」
呼吸を荒げ、汗にまみれながらなお――藤田は気炎を上げるのであった。
藤田がかっこよく見える・・・
オカマ口調は高校デビュー用に作ってたんだろうなアレ・・・w
この時俺達は予想もしなかった。
次回、ミッタンが3コマ(3票)で藤田に負けるということを…
たぶん裏技はヴァンデヴァル投げの変形でパワーボムだな
二人抜きをしたところで既に藤田の疲労はかなりのものになっていた。
パワーをつけた杉に4分間いっぱいに粘られ、元気者の宮崎にひっかきまわされ、
既に6分近く全力で戦い続けている。
その藤田の次の相手が“アレ”というのは少し厳しい。
「しょーがねえ!あとはてめーにまかせたぜ!」
宮崎からバトンを受け取ったのは――。
「うわあーでたー!」「うちらの県で一番でっかい男!」
「身長だけなら小川よりでかい197cm、浜高の三溝だあ――っ!」
第232話 意地
試合開始直後、残りのスタミナの少ない藤田が速攻を仕掛ける。
三溝の足を取りに行く藤田。だが――それを力任せに弾き飛ばされてしまう。
攻守交替。今度は三溝が藤田の奥襟を取り、押し込んでいく。
圧倒的な腕力の前に、次第に頭が下がっていく藤田。小外、小内と振り回される。
今は何とかかわしているものの、この頭を下げている状態は危ない。
上からのしかかってくる重さのために、どんどん体力を奪われていく。
巧が立ち上がり、準備運動を始める。
「巧」「おまえ……」
「あ?勘違いすんなよ。ミッタンが負けると思ってるわけじゃねえ。
ただ…万が一ってこともあるから、いちおうやってるだけだから」
口ではそんなことを言いつつも、本当は藤田と闘いたいのだろう。
それは巧の気性からして、無理もないことではあるが。
三溝が大外刈りを仕掛ける。
藤田はそれを何とかこらえるが――(チャンス!)そこが三溝の狙い目であった。
「おおっ!」「三溝の“裏技”!」
大外刈りをかわすことに意識を向けていた藤田。三溝の狙いは無防備に投げ出されたその左腕。
彼はその腕を捕まえ、立った状態から関節技に入ろうとする。
ところが――その瞬間。
己の危機を察知した藤田は、反射的に自ら前転。危ういところで難を逃れた。
「に、逃げられたっ!バカなっ!完全にウラをかいたと思ったのにっ!」
驚愕の声を上げる斉藤。
藤田は三溝の寝技の追撃もしのぎ、ものすごい形相で立ち上がるのだった。
「オレの“裏技”の立った姿勢から『腕がらみ』にとってつぶす技を、かわす力が残ってたとはっ!」
誰よりも一番驚いたのは、対戦をしている三溝である。
なおも完全に彼の組手。優位な体勢は変わらない。
大内刈りで藤田を仕留めにかかる三溝。だが――、
「だああっ!」
ここでなんと膝車。三溝の右足の膝を自分の足裏で抑え、身体ごと体重をかけて引き倒す。
完全に虚を突かれ体勢を崩す三溝。畳に両膝をついたものの、ポイントは無し。
ところが、藤田はそこから体を返し、三溝を十字固めに捕まえる。
「うおおっ!」
たまらず畳を叩いて“まいった”をする三溝。
「一本!それまで!」
驚異的な底力を藤田は見せつけるのであった。
「藤田がついに三人抜きだ――っ!」
「つに浜高の大将・粉川を引っ張り出したぜっ!」
ああ、もう!カッコよすぎ!
薫乙。
・・・そういや最近見かけないな。
・・・あれ?万全の藤田と戦った杉が一番いい勝負してね?しかも杉は2戦目。
おっと、3人目なのに唯一裏技使っても技ありとれなかった人の悪口は
>>276 杉の時は藤田も余力を残す作戦だったんだろ。それが裏目に出て試合が長引いたから
宮崎の時には全開で戦ったわけだ。ミッタンは…まあミッタンだからしかたない。
皆でバンダナで弄ったせいで
藤田に全員やられるのですね
第233話 一勝一敗一引き分け一無効試合
杉・宮崎・三溝。
いずれも全国レベル、もしくはそれに近い実力のある三人を、
たった一人で倒してしまった藤田。
「なんてヤツだ……」
普段、冷静沈着な斉藤もこれには絶句せざるを得なかった。
ぼろぼろになりながらも戦い続ける彼の姿を、三工の選手陣もただ見つめるばかり。
(今までいろんな選手を育ててきたが…おまえほど心底凄い選手はいなかったぞ、藤田!)
吉岡先生も教え子の戦いぶりを誇るのだった。
(よくも…ここまで……)
ゆっくりと試合場に歩を進めつつ、戻ってきた三溝の手をパシッと叩き、バトンタッチをする巧。
そしていよいよ――因縁の二人が対峙する。
「いよいよだな」「西久保さん!」
巧の成長を間近で見続けてきた西久保。彼にもまた別の感慨があった。
「一勝一敗、一引き分け、一無効試合」
保奈美が呟く。
それは巧と藤田、彼ら二人の戦いの道程であった。
『きみも柔道をやるならボクの名前を聞けばビビるだろう。
三方ヶ原工業高校の藤田恵とは、このボクのことさ』
『これより練習試合を行う!こっちの先鋒は藤田、おまえだ!』『は、はい!』
『はい!粉川巧、先鋒希望します』
・藤田 優勢勝ち(練習試合)
『せいっ!』『うおおっ!』
・粉川 一本勝ち(選手権地区予選)
『んのヤロ――ッ!』『あおっ!』『痛て――なっ!』『どっちがだ!』
・無効試合 (練習試合)
『ここで、キメてやる!』
『見たか!これが藤田がここまで温存していた新しい技!小内巻き込み!』
『組み手に、逆らうな?』『だああ――っ!』
・I・H県予選 引き分け
「これが」「決着だ!」
「始めっ!」
「巧!おまえがキメてくれっ!」
「優勝だっ!武道館に行こう!藤田あっ!」
全員が立ち上がり、声を張り上げる両校の選手たち。
組み手争いもなしに、いきなり真正面から組んでいく巧と藤田。
そして先手を取ったのは――藤田!
「小内巻き込み!」
負けた…
>『きみも柔道をやるならボクの名前を聞けばビビるだろう。
> 三方ヶ原工業高校の藤田恵とは、このボクのことさ』
あれ、てっきり黒歴史だとばかり思ってたぜ。
藤田……キモイとか思っててゴメンよ
これからはキモチワルイって呼ぶわ
第234話 効果
小内巻き込み――初手から大技にうってでた藤田。
同時に畳に倒れる二人。判定は――、
「効果――っ!」
ここまで三人を相手に戦い、消耗しきっているはずの藤田がまさかのポイントリード。
「うおおおっ!」「見たかあ、粉川っ!」
三工サイドの気勢が一気に上がる。
なおも藤田は攻め手を休めない。「こい、おらあっ!」
今度は内股から、小内刈りへのコンビネーション。
巧はそれをかわすが、藤田はさらにそこから大外巻き込みを仕掛けていく。
「うおおっ!」「ふんっ!」
しかし巧は冷静に引き手を切り、これをしのぎきってみせた。
物凄い連続攻撃で、藤田は巧に攻める隙を与えない。まさかこれほどまでのスタミナを有していたとは。
「いける、いけるぜ!」「技術だけじゃなく、体力でも藤田は三工のナンバーワンなんだからな!」
大盛り上がりの関谷達三工選手陣。だが――その傍で、吉岡先生が硬い表情を見せていた。
「そんな……!バカな!」
この状況に黙っていられないのは杉である。
「藤田はすでにオレたち三人と闘って、合計8分以上はぶっ通しで試合してたんだ!バテてねえハズがねえ!」
「オレたちの試合がムダだったってのかよ!?」
宮崎も、三溝も到底、納得などできはしない。
斉藤が重々しく口を開く。
「藤田が本当にバテてないのかどうか、確かめられるのは、今闘っている、巧だけだ」
そして――ついに巧の反撃が始まる。
軽い小内刈りに大きく体勢を崩す藤田。同時に巧が背負いに入る。
「うおおっ!」
「低い!逃げられる!」
が、仕掛ける体勢が拙かった。
藤田は巧の身体をまたぐように前へと踏み出し、背負いを逃れようとする。
だが――「おらあっ!」巧は足を伸ばしてさらに藤田を追い込む。
「このっ!」
しかし藤田は左膝を巧の顔面に押し込んで引き手を切る。
何とか巧の背負いをこらえた藤田。巧もこの試合、初めて自分から技を出した。
「惜しいっ!さすがタッちゃん。最後まであきらめずに投げようとしたんだけどな」
不発に終わったものの、その根性を平八郎が称賛する。
だが、当の巧は特に悔しがるような様子もなく、静かにその視線を藤田に対して向けるのだった。
白熱する因縁の対決――だが、吉岡先生はそこに違和感を感じていた。
(粉川の巻き返しが始まった。リードはわずか効果ひとつ。
それにしても、仕掛ければほとんど一本か技ありを取っていた藤田の小内巻き込みが、
効果しか取れなかったのが気になる……)
藤田がこんな状況に追い込まれたのは自分らのせいなのに
藤田が三工ナンバー1とか暢気なもんだな三工選手どもw
第235話 巧の落ち着き
巧の背負いをかわした藤田。やはりまだ体力を温存していたのか。
負けたとはいえ体力的には彼を追い詰めていたと思っていた三溝は苦い表情をする。
杉と宮崎もそれは同じ。宮崎は忌々しげに舌打ちをする。
そこで龍子先生が声を上げた。
「なに言ってんの!たった一発できめつけるのはまだ早いわよ!味方の勝利を信じなさい!」
そう、巧の反撃はまだまだこれから――というところで「おらあっ!」逆に藤田が巧の奥襟をつかむ。
頭を下げられ、完全に藤田の組み手に。
危険な状況、だが巧は慌てることなく引き手を切る。
それでも強引に投げに行こうとする藤田。
その一瞬、巧は奥襟を取られていた藤田の右腕を逆に取り返し、一本背負いを仕掛ける!
「うおおっ!」
しかし、この背負いは藤田が潰した。
それでも巧は諦めない。逃れようとした藤田の背後を取り、小外刈りで藤田を横倒しにする。
だが、審判からのコールは無し。ポイントにはならず。
そこから巧は即座に関節を狙っていく。
「野郎っ!」
執拗な巧の攻撃に余裕のない藤田は、足で巧の身体を押しのける。そこで審判の「待て」がかかった。
「おおっ!ケリが出たあっ!」「寝技を防ごうとしたとはいえっ!」
「粉川の攻撃もかなり厳しくなってきたぜ!」「こいつら闘志むきだしだあっ!」
両者の激しいやり取りに盛り上がる観客席。
だが、巧は技こそ出ているが、未だにポイントを取れていない。
巧の調子が悪いのでは、と桜子は西久保に問う。
「流れは巧に傾いてる。ヤツを信じろ!」
吉岡先生は硬い表情で巧を見る。
(それにしても――落ち着いている!
藤田が技に入る前に、うまく引き手を切って入れなくさせた!今日の粉川は、おそろしく冷静だ!)
試合再開。呼吸を荒げながらも、なお衰えることを知らない藤田の攻勢。
激しい組み手争いから四つの体勢になった両者。そこからまず仕掛けたのは――巧。
背負い投げをうまくうつ伏せに落ちた藤田。これもポイントにはならず。
しかし、巧の攻撃はそこでは終わらない。
「十字固め!危ないっ!」
声を上げる関谷。
藤田は十字固めが完成する直前に伸びきらないよう左手で自身の右腕をつかみ、
そのまま力ずくで身を起こす。
「待てっ!」
危ういところで難を逃れた藤田。
巧を離し、改めて立ち上がろうとしたところで――、
ガクン、と彼の体が崩れた。
「うっ!」「藤田くん!」
関谷と平山が悲鳴を上げる。
藤田の疲労は、もはや彼自身の意志では及ばないほどの限界に達していたのである。
(くそっ!ヒザが笑い出しやがった!)
藤田なら…
それでも藤田なら(ry
主人公ってのはもっとセリフとか心理描写とかあるもんだと思うのだが・・・
第236話 勝機
「見たか?」「見たっ!」
訪れた藤田の変調。
それも無理のないことで、彼はここまで10分近くも闘い続け、疲労の極に達していたのである。
だが、ここで藤田が審判に試合の中断を申し出る。畳の上に腰を下ろし、左足首をまわす。
「なんだ藤田、足がつったのか?」
「粉川の十字固めから逃げようとした時につったのかな?」
観客からはそんな声が上がる。ありえないことではないが――それは嘘。
体力的な限界でなく怪我で転んだのだと勘違いをしてくれれば幸いだったが、
藤田を見下ろす巧の視線は冷やかなものだった。
(こんなことで、ゴマかせるとは思ってないがな)
それでも藤田は試合を再開しようとはしない。吉岡先生も黙ってそれを見守る。
(そうだ藤田。負傷の時には回復まで3分間時間が使える。
別にこれはルール違反ではない。少なくとも、息を整えるぐらいまでは時間を使え!)
形ばかりの体操を藤田は続ける。
このほんのわずかなインターバルの間に、少しでも体力を回復しようと努めるのだった。
(よしっ!)
ついに立ち上がる藤田。だが、試合再開の前に審判が“教育的指導”を彼に与えた。
巧が攻撃している間、全然技が出ていなかったのだからこれは仕方がないが、
次に本物の“指導”を取られれば、ポイントを並ばれてしまう。
再開と同時に仕掛けていく藤田。だが、巧はそれを冷静にさばき、逆に良い組み手を取る。
そのやりとりに吉岡先生は戦慄していた。
(やはり!粉川は変わった!組み手争いで藤田を圧倒するとは!)
組み手さえ取らせなければ、内股も小内巻き込みもまともには出せない。だが――、
(甘くみるなよ、粉川!)
藤田は巧の差し手を切り、片手で巧の袖を取って――投げる!
「釣り込み腰!」「なに――っ!」
半身で畳に落ちる巧。判定は「効果っ!」。
なんと藤田は指導を取られるどころか、逆にポイントを重ねリードを広げた。
しかし、実際にはむしろ、今の技は惜しかった。
藤田が疲れていなければ、効果以上のポイントは取れていただろうから。
それにしても、藤田が釣り込み腰とは。これまでに一度も見せたことのない技である。
(不慣れな技で……あそこまで疲れていて……悔しいが、天才とはヤツみたいなのを言うんだろう…)
なおも藤田の攻勢は続く。残り時間は1分を切り、なお藤田が効果二つ分リード。
このままでは本当に四人抜きしてしまうかもしれない。たまらず杉が声を上げた。
「そんなバカなっ!たった1、2分休んだだけで、藤田の体力が復活したっていうのか?」
そして西久保も藤田の底力に驚嘆していた。
(なんてヤツだ、藤田!最悪の状況から試合の流れを自分の方に引き込んでいる)
(勝てる、勝てるぞ!あとひといきだっ!)
知らず、拳を握りしめる吉岡先生。そのとき、巧が仕掛けた。
藤田の左腕を軸にして一回転するようなこの技は――腕返し!
だが、藤田はこれを耐える。
「こらえたっ!」「腕返し失敗…」
三工の選手が歓喜の声を上げた次の瞬間。「なっ……!」一度失敗した腕返しをさらにもう一度!
「だあああっ!」
「有効ーっ!」
「なんとっ!」「腕返し二回転!」
そのまま巧は押さえ込みに入る。いよいよ決着は間近に迫った。
最近の巧は格上ないし同格相手には寝技が多いな!
もともと立ち技で最強クラスの背負いという武器を持ってるからねえ。
背負いをこれ以上強く描くのは難しい、となると寝技も使えるということにした方が
インフレを抑えつつ手っ取り早くパワーアップしたところを表現できるわけで。
どっちが主人公ですか?
恵さんちょっとカッコよすぎですよー
正直、全国出場は当然ってスタンスで少し天狗になってる浜高に自分らの立ち位置を見直させる良いチャンスだと思う。
恵ガンガレ超ガンガレ!
しかし...これでもし巧が負けたらまた内部分裂しかねないよなぁ
特に体型差有り3人目で負けた三溝はかなりグレると思うww
巧の鳶島&橘に勝つ宣言も単なる虚言になっちまうしw
...やっぱり勝つんだろうなぁ
第237話 終止符
腕返し二回転から横四方固めに藤田を捕らえた巧。
「がっちりキマってます!これなら解けないっ!」「やったぜ巧くん!」
歓喜の声を上げる麻理と桜子に対し、
「ああ――っ!」「残り1分足らずだったのに!」「ここまできてっ!」
三工サイドからは悲鳴が上がる。
「……それにしても藤田さん、まだ抵抗できるみたいですね。かれこれ10分以上戦ってるのに」
「バケ物……」
もはや誰の目にも勝敗は明らかかと思えたのだが、なおも諦めずにもがく藤田。
その驚異的な底力に麻理も桜子も呆れるほかなかった。
もしかしたら藤田の四人抜きもあるか、という期待もあったのだが、
さすがにこれまでというムードが場内に漂い始める。
ところが、藤田はなおも心を折ってはいなかった。
「動いてる!赤畳のほうに!」「藤田は場外に逃げる気だっ!」「まだあきらめてね――っ!」
吠える藤田。既に藤田の体の方は外に出ている。
後は巧の体が全部外に出れば、そこで押さえ込みは解ける。
「なんであんな力が残ってる!!」「逃がすな巧――っ!」
三溝が、宮崎が声を飛ばす。
しかし、それ以上に――。
「…じーたっ!」「ふーじーたっ!」
「えっ……な、なに?」
突然湧き上がり始めた藤田コールに戸惑う桜子。
「ふーじーたっ!」「ふーじーたっ!」「ふーじーたっ!」
「ふーじーたっ!」「ふーじーたっ!」「ふーじーたっ!」「ふーじーたっ!」
決してあきらめようとせず戦い続ける藤田の姿に、皆がその心を揺さぶられたのだ。
「な、なに……?観客が藤田くんについちゃった…」
「藤田っ!」「見ろっ!あと片足しか残ってねえぞっ!」「あとひといきだーっ!」
必死の藤田。ギリギリのところでこらえる巧。
「巧ーっ!もっと左足を伸ばせーっ!」
杉の声が飛ぶ。だが――「うおおおっ!」ついに巧の足が畳から離れた。
「解けたっ!」「23秒ですっ!」
この押さえ込みによるポイントは有効一つ。首の皮一枚残して藤田は生き延びた。
巧に取られてた袖を千切るようにして引き離す藤田。
荒い呼吸を繰り返す彼のその姿に、さすがの巧も冷や汗を浮かべずにいられない。
腕返しと押さえ込みのポイントにより、今度は巧が逆転した。
しかし、時間はまだ20秒ほど残っている。藤田にとってはこれがラストチャンス。
会場を埋め尽くすかのような藤田コール。それに対し、保奈美たちも負けじと粉川コールで返す。
最後の勝負に出る藤田。限界をとうに超えているとは思えないスピードで巧を捕まえる。
(くるならこいっ!藤田!)巧もまた真正面からそれを迎えうつ。
そして藤田が仕掛けたのは――!
(小内巻き込みか!)
「おう!!」
巧は逃げることなく、同じく小内刈りで真っ向勝負。
しかし、そのとき――仕掛けた藤田の側が崩れた。
「今だ、巧! いけ――っ!」
小内刈りから背負い。
藤田の身体が、飛んだ。
「一本! それまで!」
最後に藤田が体勢を崩したのは疲労のせいか?
それとも…
勝ちはしたが藤田バケモンすぎる
藤田一人にこれじゃあ優勝は無理だなw
さて
これから個人戦に移るわけだが
>>214はどうするんだ一体
藤田と三工の残りメンバーの力の差が酷い事になってるな
残りの4人は雑魚ってイメージが出来上がってしまったw
つか国体最強じゃね? 静岡
粉川、藤田、斎藤で東京(千駄ヶ谷)にも勝てるだろ
ひょっとしたら藤田と浜高のメンバーが強くなったから、相対的に三工の残り4人が弱くみえるだけで
先代と比べそんなに実力では劣ってないのかも・・・
先代だって冬の予選じゃ杉一人に二人片付けられ、
斉藤にも関谷のナイス判断がなかったら二人抜き喰らってたからな。
先代と違うのは藤田が巧にたどり着くまでに苦労したかそうでもないかってだけだ。
第238話 新たなる決意
「勝った、勝ったぞ!!」「武道館に行ける!」
「よかった――っ!もー最後までハラハラしどおしだったよ――っ!」
県大会優勝、全国大会進出が決まり、歓喜の浜高柔道部であったが、そのとき、麻理が異変に気づく。
「あれ?藤田さんが起き上がらない…」
畳に大の字になったまま、藤田は荒い呼吸を繰り返すばかり。
離れている観客席からは「脳震盪か」とささやきが漏れる。
「すごいムリしてたから……」「えーっ?ちょ、ちょっと待ってよ……」
麻理の言葉に、はしゃいでいた桜子は一転、不安げな表情を作る。
「大丈夫かね?起きて礼ができるか?」
審判に問われた藤田はその場で跳ね起きる。どうやら大丈夫のようだが――。
敗北に涙する三工選手陣。だが、それはまだ早い。この後、団体戦の礼が残っているのだ。
まずは巧が勝ち名乗りを受け、メンバーが彼に駆け寄る。
ところがそのとき――藤田の目から光が消えた。
極度の疲労と脱水から意識を失った藤田。力を失い崩れる彼の姿に巧は眼を見開く。
そのとき、倒れかかる藤田の身体を関谷が支えた。
「藤田は大丈夫です。早く礼を!」
意識のない藤田を、自身ともう一人とで担いで支える関谷。
彼の表情には破れてなお失われない誇り高さがたたえられていた。
「お互いに、礼!」
間を置かず、すぐに表彰式が行われたが――そこに藤田の姿はなかった。
「もっとあおげ!」「はいっ!」「おい一年!早く水持ってこい!」
床に横たえられた藤田を必死で介抱する三工の部員達。
「ハイ!」「バカ!これじゃダメだ。コップに注ぐんだよ!呼吸が激しいから吸えねえんだ!」
「それでは、これにて表彰式を終わります!」
終了の挨拶と同時に駆け出す三工の選手陣。
一刻も早く藤田のもとへ戻ろうと急ぐ彼らの後を巧も追おうとしたが、そこで彼は足を止め、踵を返した。
(こんな勝ちかたじゃ全然スカッとしねえっ!もう一回、本当にイーブンの時にまた勝負だァ!)
勝ちこそしたものの、それはあまりといえばあまりなハンデ戦の結果。
巧の胸の内には燃え足りない燻りが残っていたのであった。
今夜は祝勝会、先生に焼き肉をおごってもらおうとはしゃぐ杉たち。
そんな彼らを西久保が一喝する。
「浮かれてる場合かっ!なんだ、今日の試合はっ!」
確かに優勝はした。
よくやったと褒めるべきではあろうが、藤田一人倒すのに四人もかかっていては話にならない。
勝ち抜き戦は一人の強いヤツが、三人分、四人分の働きをすることができる。
藤田ぐらい強いヤツが二人いれば、今の浜高には勝てないのである。
「でも、藤田クラスのヤツが二人もいるチームなんて……」
仲安が呟くものの、そのチームに彼らは心当たりがあった。
千駄谷学園――鳶嶋と、橘。
その名を聞いた巧が反応する。
彼らこそ、浜高の目標である全国優勝のためには必ず越えなければならない壁なのだ。
しかしまあ、苦戦したとはいえ収穫もあった。メンバーそれぞれの「裏技」を実戦で試したことである。
斉藤の寝技。
杉のすくい投げ。
宮崎の変形一本背負い。
三溝の立ち姿勢からの関節技。
そして巧の腕返し二回転。
実践で役立つこともわかったし、問題点も出てきた。
これから全国大会に向けて「裏技」の徹底的な改良をする。これが明日からの練習テーマである。
(やってやる!藤田との勝負はまたいずれチャンスがくる!先には千駄谷学園が待ってるんだからなっ!)
拳を掌に打ち付けて、改めて気合を入れなおす巧。元気を取り戻した彼の姿に、保奈美は微笑むのであった。
ところで。皆でこうして県大会の反省会をしているというのに。
「斉藤のヤロ―がいねーじゃねーかっ!」
「別所さんだな。別所さんのところに行ったなっ!?」
「あの色ボケ小僧ーっ!」
ようやくのことで別所さんとの対面を果たした斉藤。
団体戦の優勝にお祝いの言葉をもらったにもかかわらず、まともに返事も返せない。
(参ったな、オレ、イジョーにアガってるわ。
考えて見たら文通してただけで、面と向かって話すんのって初めてだった)
「あの…今から浜高のみなさんとお帰りになるんでしょ?
それじゃ、私ももう行きますから、みなさんによろしく」
「えっ?も、もう?」
「ええ。浜高のみなさん、きっと斉藤さんを待ってるでしょうから」
実にいじらしい別所さん。迷惑をかけまいと自分から帰ろうとする。
さすがにこのまま帰すより、何か一言あった方がと斉藤は考えるものの、不器用な彼には言葉が思い浮かばない。
と、そこで別所さんが足を止めて振り向き――「あっ、あの斉藤さん」
「斉藤さんが決勝で三人抜きした時、すごくカッコよかったです」
去ろうとする別所さんを斉藤は呼びとめる。
「来週の個人戦…女子の…別所さんは出るの?」
「はい、出ます。一階級上げて52kg以下級ですけど…」
斉藤は練習があるので応援には来れないとまずお詫びを言い、
その上で「がんばってください」と励ます。
「それでもっていっしょに…春の全国大会行けたらいいね!」
それは斉藤にとって最大の誠意をこめた言葉である。
別所さんはその言葉を受け止め――、
「はいっ!私がんばりますっ!」
頬を赤く染め、頷くのであった。
さて、別所さんとのやりとりの余韻に浸る斉藤の背後から現れたのは、柔道部の仲間たち。
「なにニヤついてんだよ、このスケベじじい!表彰式のあと速攻で女のトコに走りやがってよ!」
杉のフライングエルボーに斉藤は床に倒れるが、すぐにスクと立ち上がり、
「痛いなあ、やめろよ、本気で怒るぞお」
そう抗議をするのであった。
(表情が…全然怒ってねえっ!)
「実はアタシも52kg以下級エントリーすんだけど、別所さん出るんじゃヤメよーかな――」
「ダメですよー」
別所さんも同階級に出場すると聞いて及び腰の桜子に、拳を鳴らす麻理だった。
次回は一回休載して、単行本24巻のおまけを紹介します。
え、別所さんも階級うp?
麻理は…しない、のかな?
>>312 マリは今の段階でもリミットに足りてないからな。階級上げるには食いまくるしかない。
いや、階級を上げる分には喰わなくてもいいだろ。
もちろん体重があった方が有利ではあるだろうが。
どう考えてもこの決勝戦は藤田が主役だったなあ。
316 :
1/4:2009/03/12(木) 21:02:39 ID:???
○単行本第24巻 (表紙:藤田 恵 裏表紙:粉川 巧)
・四コマその1『ムッシュウ河合のおフランス旅行記』
1.河「ボンジュール。おフランス帰りの河合ざ〜んす。今回は皆にパリーの自慢話をしてあげるざんす」
2.本当は柔道の試合を観にいったんざんすが、そんなのは一日だけ。
のこりの4日間は9月のパリーを見物したおしたろと思ってたざ〜んす。
3.夜は盛大なディナーを楽しんだざんす。秋のパリーとくれば生ガキ。
ついでにフォアグラのパイ包み焼きもタンノーしたざんす。
どうせ会社の金だから、ふところの心配はないざんす。
4.そしたら翌日、生ガキがあたって、おゲリピーになっちゃったざんす。
担当の判治や同行のカメラマン氏も同じもの食べたのに、おかしいざんす。
ミーのおなかがデリケートすぎるんざんしょうか?
結局一日、ホテルからでられなかったざんす。
317 :
2/4:2009/03/12(木) 21:03:18 ID:???
・四コマその2
1.でも遊んでばかりいたわけじゃないざんすよ
担「河合先生、エッフェル塔をバックに柔道着きて、写真とりましょう」
河「シェーッ!」でもとったざんす。
2.おフランスで初めて柔道をはじめたスポーツクラブで
担「先生、フランスの選手と乱取りしてください」
5分で息があがって動けなくなってしまった!ひどい体力。
でも写真はとったざんす。
3.似顔絵描きがいっぱいいるモンマルトル
担「先生、似顔絵描きの勝負をしてください。これをかぶって」
河「ベレー?そんなヤツいるかー?」でもやったざんす。
4.帰りの飛行機の中
担「成田まで15時間ありますから、その間に来週の帯ギュのネームつくっといてくださいよ。
じゃあ私、寝ますから」
河「…………」
パリーはよかったざんす。でも次はぜったいに観光だけの目的でいきたいざんす。
318 :
3/4:2009/03/12(木) 21:04:07 ID:???
○すべてにビッグな第24回 サンデーコミックス名物『絵筆をもってね!』
・『ジーザス』の七月鏡一・藤原芳秀両先生が特別審査員です。
選評/河合克敏 応募総数:2101点 入選:66点
グランプリ:長野県・三井美子〔保奈美・桜子(あぶり出し)〕
〈河合〉あぶり出しは、初めてです。
〈七月〉みんなでわいわい、ライターであぶり出しました(笑)
〈藤原〉リンゴ5個で描いた努力がいい。
〈担当編集者〉でも、この手のネタに、次はないですね。これっきり。
七月賞:福岡県・火炉しゅう〔斉藤一家〕
〈七月〉斉藤ファミリーのだんらん風景…ほのぼのしてて好きです。
〈河合〉斉藤・父って、死んでたのかあ。
〈藤原〉わしゃ、TV画面が気になる。
藤原賞:埼玉県・ギネコ〔杉(かわいい女の子と文通できますように)〕
〈藤原〉わしもそう思う。目の星がいい。
〈河合〉美しいですね。馬鹿ですけど。
〈七月〉こ、−ゆーのも耽美と言うべきか……。
河合賞:大阪府・ゴルゴ17〔斉藤・別所〕
1.別「あ、サイトーさん。あの、私、ケーキ作ったんですけど…」
斉「ケ…ケーキ!?」別「…お嫌いですか?」
2.斉「とっ、とっ、とんでもないっスよ!オレ、甘いものには 目がなくって」
3.別(甘いものには――!?)
〈河合〉うまいね、セリフまわしとか。
〈七月〉別所さんのケーキ、ボクも食べたい!!
〈藤原〉甘いとは…なるほど深い。
319 :
4/4:2009/03/12(木) 21:04:47 ID:???
topix:東京都・世良有里子〔原田・永田(良すぎ!ダンナ!)〕
〈七月〉ダンナはええぞ!わしもファンだ。
〈藤原〉うん、たしかにスゴかった
〈河合〉ゴルフの成績は、どうなんだろう?
京都府・萩本護〔斉藤・別所〕
1.別「斉藤さん、プロ野球はどこのファンですか?」
2.斉「最近は日本ハムかな?なんで?」
3.別「実はうちの祖父が……」斉「ま、まさか毅彦!?」
〈河合〉バカいってんじゃない!
〈七月〉いま明かされる別所家のヒミツ…
〈藤原〉前田武彦じゃなく…!?
福岡県・火炉しゅう〔河合〕
1.河合克敏 三十歳
2.空を見ながら物思う 素敵な毎日
3.この時の僕は どんな事でも許してしまう(転がってきたボールを拾って返す)
4.近所の子供「ありがとよ、オヤジ!」
〈河合〉ブッ殺す!!
〈七月〉河合先生は、このハガキを読むなり、外に駆け出してゆきました。早く逃げませう。
〈藤原〉ボクも止めたんですが…。
千葉県・伊藤園サユリ切腹!〔斉藤・杉・茂(恋泥棒)〕
〈河合〉燃えて燃えて夏泥棒は、チャゲと石川優子。
〈七月〉さ、斉藤に黒目があああ!!
〈藤原〉描いた人いわく、「自分で描いてて、すげーコワイ!」だって。
和歌山県・人肉斬包丁〔多数〕
・22巻で裏グランプリをとった男。意地でもキャラクターをニセ者で通す覚悟らしい。
ふwwwwwwwwwじwwwwwwwwwたwwwwwwwwwww
黒wwパンツwww
なぜにパンイチ!?
表紙自重www
324 :
1/5:2009/03/13(金) 21:07:54 ID:???
高校柔道選手権県大会予選、浜名湖高校は三方ヶ原工業を破って優勝した。
残るは女子個人戦。しかし、今まであまり触れてなかったことなのだが――、
実は浜高の麻理ちゃんは地元では大スターになっていたのである。
第239話 県予選個人戦スタート
帰りがけの浜高の面々の前に殺到する大勢の麻理ファン。
「キャー、TVで見るよりちっちゃーい!」
「ホント、お人形さんみんたい!」「ってゆうよりぬいぐるみみたい」
どさくさまぎれに結構失礼なことも言われていた。
同じスターでも袴田さんの時とはその辺が違う。悲しいことだが。
「オ、オレ、上とか持ってないから!このTシャツにサインしてくださあいっ!」
どこかの柔道部らしいデブ男にせり出した腹を突き付けられ、麻理は思わず悲鳴を上げる。
と、そこで仲安が我慢の限界に達した。
「いいかげんにしろっ!サインにしろなんにしろ、人にモノ頼む時には最低限のマナーってもんがあるだろうがっ!」
「Tシャツじゃダメっスかっ!」
麻理を背で隠すようにして、仲安は群衆を一喝する。
「さっきから聞いてりゃ、小っちゃいだぬいぐるみだ、
ビスコの箱の顔そっくりだとか、言いてえこと言いやがって!」
「ビスコの箱の顔ってのは無かったぞ」
仲安の背にぴったりと寄り添う麻理。その姿を見て保奈美が一言。
「まあ、仲安くん。まるで騎士役ね」
それを耳にした彼は、反射的に顔を赤くして飛び退いた。
「こらこら、そういうこと言うから仲安もテレちゃうんだぞ」
まあ、そんなこともあったりして――。
ここしばらくの間で、麻理を取り巻く環境は大きく変わっていたのである。
325 :
2/5:2009/03/13(金) 21:08:27 ID:???
いつものように麻理と桜子とで乱取り。
桜子も柔道を始めて九か月になるのだが、
「でも、ちっともかないませんね」
こりゃ個人戦ダメかな?と龍子先生の忌憚のないご意見。
とはいえ、言われる方はたまったものではなかった。
「それが教育者のセリフか――っ!」
今度の大会は一階級上げて52kg級でエントリーする桜子。
今までより相手が大きくなる分、大変になるのは分かってたが――別の意味で大変な理由があった。
実は麻理が福岡国際で優勝したために、
彼女を怖がって48kg級の選手が大挙して52kg級にまわってきているのだという。
その結果、52kg級は80人近い人数にまでふくれあがってしまったそうな。
かわりに48kg級は25人。思わず飲みかけの烏龍茶を噴き出す桜子だった。
別所さんも麻理と競うのは諦めて、52kg級に移したという。
そう話す斉藤をからかう桜子だったが、それにカチンときた斉藤が反撃。
「あのな、言っとくけど別所さんは体重は52kgもないけど移ったらしいよ、おまえさんと違ってね!」
「くっ!てめえ、体重のことを言ったなっ!許さん!」
斉藤の物言いに激昂する桜子。その右手の中で烏龍茶の缶が音を立てる。
「体重増えたって言っても、おまえの場合筋肉だろ?
スチール缶を片手で簡単につぶすほど握力つけやがって」
毎日毎日ハードな練習。
そして食欲のまま食事!
たっぷりと睡眠!
おそろしく健康的な生活に、桜子は部員の誰よりも早く「5kg筋肉をつける」とゆう目標に達していた!
「別に達したくなかったのに!」
326 :
3/5:2009/03/13(金) 21:09:05 ID:???
日頃メンバーの筋肉をあれほど気色悪がっていたのに、たくましくなったカラダをからかわれる桜子。
「あー、もうこんなに言われんだったらヤメてやる。県大会も出ない。チャラチャラ」
この期に及んでこんなことを言い出す。
「ダメです!試合に出なくっちゃ!」
「ニコニコしながら指を鳴らすなあ〜〜っ!わかった、出る出る!」
麻理に諭されて、桜子は改めて出場の意思を決めるのだった。
(大キライだーっ!柔道なんて――っ!)
そうこうしているうちに、あっという間に試合の日。
別所さんを見つけた桜子たちは、彼女に「会わせたい人」を連れてくる。
そこに現れたのは斉藤。
練習があるから来れないと言っていたにもかかわらず、目の前に現れた彼に別所さんは驚く。
斉藤が彼女の前に出したのは――先の団体戦の時に受け取ったバンダナ。
ニブイ斉藤は、これを彼女に返そうとしていたのである。しかも桜子を通じて。
そこで桜子は機転を利かせたのであった。
「アタシがバンダナ返したら、たぶん負けるね、別所さんは」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
桜子からバンダナを渡された別所さん →
『斉藤さん、わたしのバンダナを手元におきたくないの?キライなの?』 →
キズついたまま試合。「はじめ!」 →
「一本それまで!」『どうせあたしなんて…』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ま、まさか、そこまで…」
「さあ〜〜私は知らないけどね!あくまで仮定のオ・ハ・ナ・シ!」
あまりにリアリティのある想像に青ざめる斉藤と、楽しそーに彼をいじめる桜子だった。
327 :
4/5:2009/03/13(金) 21:09:39 ID:???
「それだけじゃないっスよ別所さん、斉藤先輩のメインの目的は、当然応援することっスよ」
「なにしろ団体戦の時のコイツの活躍も別所さんのおかげっスから、今度はこっちが応援する番だよな」
いらない追い打ちをかけるのは仲安と巧。
結局、浜高メンバーは今回も全員来ていたのであった。
斉藤と別所さんの仲が面白くない杉と茂。
二人は別所さんを狙っていただけに祝福などできはしない。
「オレ思うんだけど、あの二人の仲を裂くみたいなことは、もうヤメたほうがいいんじゃないの?」
ムナしいぞ、実際――と大人の意見を述べるミッタン。
「わかってるわようそんなことっ!」
「何よ、その悟ったような言い方っ!」
分かっていても納得のできないことはあるのだ。
と、そこで杉たち三人は、他の学校の女子に自分たちが話題にされていることに気がつく。
考えてみれば、これでも彼らは県下最強軍団。
麻理ほどではないにしろ、この世界では一応、名前が通っているのである。
(おっと、こうゆう時はシブく構えてなくちゃな)(最強軍団らしくな!)
ベンチにふんぞりかえって腕組みなどする三人。
そんな彼らに近づいてくる足音があった。
「ちょっと、あなたたち浜名湖高校のヒト?」
「ハアイ、そうで――す!」「ボクたちに何か用?」
渋く構えようというのはどうなったのか、いつもの軽い調子に戻ってしまう杉と茂。
だが、話しかけてきた彼女は別に三人に用があったわけではなかった。
328 :
5/5:2009/03/13(金) 21:10:43 ID:???
「私は三保女子学園柔道部元部長、松原渚!
おたくの来留間麻理さんと海老塚桜子さんに会いたいのよ」
なんと、彼女は夏の大会の女子個人戦県予選で桜子と対戦した松原だった。
その迫力にとても逆らえない杉は、素直に麻理たちの居所を教える。
「来留間と海老塚なら、たぶん会場のほうに(怖いおねえちゃんだな)」
「あ、そう。行こう薩川」「ハイ」
松原に促され、彼女の後ろにいたフードの人物――薩川はそれに従うのであった。
(うっ、今のは女の声だ!)
(男だと思った。あんなコワイ目してんだもん)
「ホラ、あれだ。ポニーテールが海老塚。ショートカットが別所」
松原は会場で一緒に練習をしている桜子と別所さんを指差す。
「52kg級で、おまえの前に立ちはだかってくるとしたら、この二人しかいない。私の考えではね」
彼女のその説明に、薩川は鋭い視線を二人に向けるのだった。
「別所愛子と、海老塚桜子……ですね」
・・・・・運動神経で負けても筋力で負けるとは思ってなかった、スチール缶なんて潰せねえよオレorz
ビスコの箱の顔ってwスーパーで確認しちゃったじゃんw
331 :
1/3:2009/03/14(土) 21:03:28 ID:???
どんなにすごい一流の選手だろうと、その日の最初の試合が一番緊張するという。
相手が有名な選手であるならまだしも、無名の選手、明らかに格下の選手でも、緊張するらしい。
真剣勝負とはそういうものかも知れない。
しかし、コイツだけはまだそういうプレッシャーを感じないのか、
それとも、ただ図太いだけなのか、よく分からない……。
麻理は初戦を、まるで打ち込みでもしているように、綺麗に一本勝ちしてのけた。
第240話 パーカーの少女
そんな横綱相撲の麻理をよそに、桜子は緊張感に苦悩していた。
「大丈夫ですよ、海老塚さんなら」と別所さんが励まし、杉と茂もそれに唱和する。
「そうよ海老塚さん太ったんですもの」「怖いのは計量だけよ」
「真剣に悩んでる人間をバカにするとブッ殺すぞ!こっちは初戦を前に気が立ってんだっ!」
それはそうと、杉たちは桜子に先ほどの松原とのやり取りを伝える。
夏のI・H県予選で当たった彼女の名を聞き、桜子も別所さんも驚く。
松原は三年生で、もう引退して試合には出られないはずなのだが。
というところで桜子の出番。慌てて試合場に出ていく。
そして――その姿に松原は厳しい視線を向けていた。
「薩川!海老塚のほうが試合するよ」
緊張に胸の動悸がおさまらない桜子。開始と共にまず組んでいくが、その足を払われ「有効」。
いきなりポイントを先行されてしまった。
(ちくしょーそれでもアタシには!実はいまだに小内と背負い投げしかまともにかかる技はないのよ)
332 :
2/3:2009/03/14(土) 21:04:32 ID:???
今度はきちんと組み手を取れた桜子。
セオリー通りに小内から背負い――というところで、その引きつけの強さに対戦相手の佐々木は戦慄。
ところが。
佐々木の体は宙に舞わず、桜子のお尻は何もない空中にヒョコっと突き出される。
「か、空振り!」
「アイツの背負いは、引き手は強力なんだけど!踏み込む足の位置が悪いからすぐ空振りしちゃうんだ!」
投げは失敗したものの、桜子は諦めずに追い込みをかける。
足を出して体落としへの変化。しかし、これも佐々木はかわす。
「それでも追うっ!」
投げて、かわし、投げて、かわし。
互いに足をを出し合って――ようやく五回目にして佐々木が畳に沈んだ。
「一本!それまで!」
「やったあ桜子先輩!」「根性の勝利よっ!」
(確かに、あの体勢からあそこまで追い込む足腰の強さはスゴイけど……)
とにもかくにも一勝したことで、応援の麻理と保奈美は喜び、別所さんは呆れ混じりに感心していた。
「…………」
もう一組、この試合に注目していた三保女子の二人。
「…言っとくけど、アレが海老塚の実力を出した試合ではないからな」「はい」
続いて別所さんの出番。彼女は内股一本勝ちで、危なげなく初戦突破。
拍手をする斉藤に気づいた彼女は頭から湯気を立てて赤面。
「別所さん!とっくに礼、終わってるよ!」「はっ」
そして――。
「そろそろ出番よ、薩川」「ハイ」
パーカーを脱ぎ捨てる薩川。フードの下に隠されていた中性的でシャープな面差しが露わになった。
333 :
3/3:2009/03/14(土) 21:05:25 ID:???
別所さんを浜高の陣取っている席に誘う桜子。そのとき、三保女子学園の名がアナウンスされる。
「うっ、あ、あれは」「松原さん」
桜子たちの視線に気づいた松原は、不敵な笑みを浮かべるのであった。
引退した松原がここに来ていたのは、後輩の試合を見守るため。
松原が苦手な桜子はさっさと逃げ出そうとするが、別所さんがそれを引きとめる。
「松原さんの後輩、同じ52kg級ですよ、当たるかもしれない」
52kg級にしてはすらりと背の高い細身の薩川。
掛け声もなくまっすぐに向かってくる彼女に対し、対戦相手の天城高・川端はこれを出足払いで迎撃。
しかし、その足は空を切った。
川端の足払いをかわした薩川は、そのまま返す刀で大外刈り一閃。
「速いっ!」その技の切れはテクニシャンの別所さんを驚かせるものだった。
「一本!それまで!」
「速い……し、ワザもキレる。あのヒト強いですよ、海老塚さん」
どうだ、といわんばかりに桜子たちの方を振り向く松原。
その視線を桜子は受け止める。
「どうやら強敵出現ってワケね。
引退して階級が変わっても、まだ私の前に立ちはだかってくる気か、松(まっ)ちゃん」
「わあ、桜子先輩の闘志に火がついたっ!」「松ちゃん…」
松ちゃん…
やっぱり部活動の先輩って大事だな
上級生がいないせいで桜子のしつけがなっとらん!
え、マリちゃん?……ま、上級生がアレだからな
何か桜子が段々男顔に・・・言葉遣いも輪をかけて悪くなってきてるような・・・
保奈美さえ可愛ければもう何でもいい
337 :
1/4:2009/03/15(日) 21:03:28 ID:???
第241話 桜の園
今、行われている県大会は、春の選手権への予選である。
男子・団体戦では既に浜高が全国の切符を手に入れている。
そして女子・個人戦の代表を賭けて麻理が48kg級、別所さんと桜子が52kg級で闘っている。
しかし、彼女たちの前に強敵が立ちはだかった。
三保女子学園の薩川佐代子。以前、桜子に惜敗した松原渚の後輩である。
因縁の対決の時は――迫っている!
「でも、三保女の薩川ちゃんって、パーカーおろして素顔見せたら結構いけるクチよ」
「なんというかこう、中性的な魅力といいましょうか。チェックチェック」
こんなところまで来て節操のない杉と茂の二人。
斉藤がそれに苦言を呈するが、そもそも別所さんとのきっかけが夏の大会でのことだった彼には説得力皆無。
逆に二人から猛反撃をくらってしまう。
と、そこで茂が思わぬ一言。
「それに、よーく見てみると松原さんだってカワイイよな」
「えっ!?」一緒に騒いでいた杉もこれには少々驚き。
「ちょっとコワイけど、そこがまた……」「ふーん、そ、そお…」
茂の意外な趣味はさておき、保奈美はあることに気がつく。
「三保女子学園って、女子校でしょ?ってことは、柔道部も女のコしかいないのね」
きっとボーイフレンドなどいないであろう彼女ら。だからこそ狙い目だと杉は考えていたのだが、
保奈美は「そうかしら?」と、それに反論する。
「ほらっ、女のコばかりの体育会系って……なんだか宝塚っぽいじゃない」
タカラヅカ……。
「ってことは……」「あ、ありえるかもしれない」
保奈美の言葉に百合色妄想が脳内を駆け巡った杉と茂。二人して顔を赤らめる。
「あーっ、いきなり変な想像してるっ!タカラヅカを歪んでとらえてるっ!」
338 :
2/4:2009/03/15(日) 21:04:30 ID:???
そんなさまざまな人間の想いをよそに、試合は滞りなく進んでいった。
52kg級二回戦。赤磐高校・別所愛子、内股から本袈裟固めで一本勝ち。
三保女子学園・薩川佐代子、一本背負いと大外刈りで、合わせて一本勝ち。
そして、浜名湖高校・海老塚桜子、現在試合中。
中田島高の砂原に対し背負い投げに行く桜子だが、またも失敗。
最初期から練習しているにもかかわらず、どうも背負いが下手な彼女。
とにかく相手を力ずくでひっくり返して押さえ込み。
そのぐだぐだな試合ぶりを見ていた松原は、どうにもコメントに困るのだった。
「言っとくけど、今のも海老塚が実力を出した試合じゃないぞ」
桜子の実力を直接味わったことのある彼女としては、これだけを見て薩川に気を抜かれては困るのだ。
「まァ、でも……こっちの予想もつかないことをするから、海老塚は。そういうトコロはわかっただろう。
比べて別所は柔道がキレイだから、テクニックはあっても変なコトはしない」
「……そうですね。別所のイメージは大体つかめました」
問題は桜子だが――と、そこで薩川が気づく。
「松原先輩。ブラウスの第二ボタン、とれかかってます」「あっ!?」
更衣室で三保女の部員たちに安全ピンを持っている者がいないか、松原は尋ねる。
しかし、残念ながら一人もいない。これでは胸元の合わせ目に隙間が開いてしまう。
弱った彼女に、薩川が申し出る。
「3分ほどガマンしていただけたら……私が」
一方その頃、麻理は48kg級を破竹の勢いで勝ち進んでいた。
準決勝まで危なげなく勝ちぬき、残るは決勝。ところが、その準決勝でTシャツの前が引っ張られて伸びてしまった。
決勝戦の前に予備のTシャツに着替えることにした麻理と、それに付き添う保奈美。
女子更衣室のドアを開けたそのとき――。
「えっ?」
上着を脱ぎブラウス姿の松原と、その胸元に手を添える薩川。
シャボントーンの背景がよく似合う光景がそこに広がっていた。
339 :
3/4:2009/03/15(日) 21:05:38 ID:???
「うん?」
入口の保奈美たちに気づいた松原。
「し、失礼しました…」
保奈美はそのまま入口のドアを閉めてしまうのであった。
(今のは来留間と浜高のマネージャー……?)
「はい、終わりました先輩」「あ、ああ。ありがと」
薩川はソーイングセットをしまう。
「速ーい!本当に3分でボタンつけ終わっちゃったあ!」
「薩川さんってお裁縫上手なのねっ!!」
手際よく取れかけたボタンを直してみせた薩川を、他の部員たちが称賛する。
その後ろで松原は保奈美たちの反応に不審を抱いていた。
(なんかヤダなー、今のうろたえよう……もしかして、えらいカン違いしてんじゃないかしら…)
その頃、廊下を駆け戻る保奈美と麻理。
(や、やっぱり女子校には禁断の愛が存在していたのだわっ!)
「保奈美先輩。なんかいいもん見ちゃいましたねっ」
松原と薩川の姿をまともに見られない保奈美。顔が赤くなっていることを巧にも指摘される。
自分たちの方にチラチラと向けられる彼女の視線に、松原は嫌な予感を確信に変えるのであった。
(くっ…やっぱりあのコ、なにかゴカイしてる!)
そんなことがありながらも試合は進み、今大会の激戦区・52kg級のベスト4が出そろった。
そしてこれより52kg級準決勝、第一試合。
『赤、三保女子学園 薩川佐代子さん!』
『白、浜名湖高校 海老塚桜子さん!』
ついに因縁の対決が始まるのであった。
340 :
4/4:2009/03/15(日) 21:06:51 ID:???
一試合一試合が綱渡りのような状態で、準決勝にまで勝ち進んでしまった桜子。
他のメンバーたちにまで「ホントに悪運の強いヤツだなあ」と評される始末。
まともに考えればとてもここまで残れる器ではないはずなのだが――。
そんな相手にも油断をしない二人がいた。
「私が海老塚にやられた試合のことは、あんたに何度も話して聞かせた。わかってるね。言ってみな」
「はい。“スピードと運動神経は超一流”」
「“でも、柔道そのものはまだド素人。そこにつけ込むスキがある”」
おそらくはこの会場の中で、最も桜子を高く評価する二人。そこに一切の緩みは無かった。
そして、もう一つの準決勝に出番を控えている別所さんが桜子を励ます。
「がんばってください。私、決勝は海老塚さんとやりたいです」
「うん、私もそうだよ!」
たがいに様々な思いを背負う両者は、畳の上で対峙する。
(こうなったらいくとこまでいくしかないからねっ!)
そうです桜子センパイ!イクとこまでイッちゃってください! by麻理
342 :
1/3:2009/03/16(月) 21:03:28 ID:cg9cg7JP
第242話 素人の限界
いざ試合、というところで保奈美が桜子を呼び止める。
保奈美は更衣室で自分が見た光景について桜子に伝えようとするが、
(え、えーと…思わず呼び止めちゃったけど、どう説明したらいいんだろう?)
悩んだ末に彼女が出した結論は、
「寝技に気をつけて……」
という一言。その助言はむしろ桜子を困惑させる。
「『寝技に気をつけろ』って、あのコ寝技が得意なの?」
そのやり取りを耳にした松原は盛大にすっ転ぶのであった。
(あ、あのコ……いっぺんちゃんと誤解を解いとかないと…!)
試合開始。それに合わせて他の浜高の面々も観客席から下に降りてくる。
桜子の試合だから応援に来てくれた、と別所さんは好意的に解釈してくれるが――。
「さーて、どうだろうな。さっき三保女の薩川さんにチェック入れてたし」
嫌味たらしく告げ口をする斉藤。
「チェックって何ですか?」「いや、実は別所さんも昔ね…」
過去の行状を本人の前でばらされそうになった杉と茂は、慌てて斉藤の口をふさぐ。
そんな彼らの様子を横で眺めていた麻理は、哀れむように笑うのであった。
「今度は薩川さんですか?それはムダな努力というものです」
激しい組み手争いから、まず先手を取ったのは桜子。
「はにわっ!」
桜子の背負い。だが薩川はそれをかわし、倒れ込みつつ内股で反撃する。
とっさに桜子は引き手を切る。うつ伏せに落ち、ポイントは無し。
「今のあぶなかった…海老塚さんじゃなきゃ、ポイント取られてたかも……」
二人の攻防に驚嘆する別所さん。
それに杉も唱和した。
「うん、薩川ちゃん、なかなかやるね」
343 :
2/3:2009/03/16(月) 21:04:11 ID:cg9cg7JP
「今、背負いをかわした直後に倒れこみながら内股を仕掛けてた」
「うん。ああゆうスキを見逃さないのは大したもんだ」
普段はおちゃらけている杉と茂だが、見るべきところはきちんと見ている。
団体優勝校らしい貫禄のある姿に感心する別所さん。
と、そこで――桜子が薩川の襟を取りに行くのだが、
(あらっ!エリといっしょにTシャツまでつかんでる)
これは競技の性質上、よくあることである。
(はっ!こ、こういうスキを見逃さないっ!)
別所さんがふと脇に目をやれば、杉と茂がTシャツの隙間から薩川の胸元を覗こうと、
わざわざ双眼鏡まで持ち出しているのであった。
「こら――っ!なにやってんだ、おまえらっ!」
(松原先輩、あなたの言うとおりです)
桜子と直接組み合っている薩川は、松原が執拗なまでに桜子を警戒していた意味を肌で理解していた。
(たとえ今、こうして互角に組み合ってる状態でも、ちょっとでも気を抜けば、
エリを取られたこの手の力で、私の頭は強引に下げられてしまうでしょう。
これが海老塚の実力なんですね!松原先輩!)
桜子が一筋縄ではいかない相手だということを、松原は嫌というほどに思い知らされていた。
(……確かに海老塚は侮れない!しかし、それはヤツの基礎体力の点についてだ)
小内刈りに行く桜子。しかし、薩川はそれを冷静に見てかわす。
(ヤツの技そのものは、まだド素人同然なのだっ!)
344 :
3/3:2009/03/16(月) 21:04:58 ID:cg9cg7JP
小内刈りをかわされて大きく体勢を崩す桜子に、今度は薩川が逆襲の大外刈り。ポイントは有効。
「くっ!よくもやってくれちゃったわねっ!」
それでもめげない桜子は、再び背負い投げに行く。
(組んですぐかける背負い!バカめ、さっきもかわされたのを忘れたかっ!)
やはり先ほどと同様に背負いをかわされ――さらに薩川は小外刈りで切り返す。
背負い失敗の直後。桜子はなすすべなく後方に刈り倒される。
「いやああ――っ!」
「技あり――っ!」
手の内を見透かしたかのように、ことごとく技を返されるこの状況に、別所さんは確信する。
「これは!海老塚さんの攻め方を、完全に研究してあったんだわ!」
I・Hでの敗戦がそれほどに彼女を駆り立てたのか、恐ろしいまでの松原の執念であった。
(小内刈りも背負い投げも封じた!どうだ海老塚!手も足も出まいっ!)
あーっとここで馬鹿力を生かした裏技か!?
ミッタン直伝のジャーマ…もとい、裏投げだぁー!!
保奈美って耳年増だな・・・
347 :
1/3:2009/03/17(火) 21:00:39 ID:???
第243話 桜子、好きこそものの上手なれ
背負いを返され技ありを奪われた桜子、そのピンチはなお続く。
「うっ!寝技にいく気か!?」「はっきり言って海老塚は寝技はヘタだぞ!」
それを耳にした保奈美は絶叫する。
「ダメよ桜子、寝技だけはっ!逃げてっ!」
彼女の脳裏には、更衣室でのあの光景が浮かんでいた。
薩川は桜子にのしかかり、その腕を押さえつける。
「きゃあっ!そんな危ない体勢にっ!」
「確かにあぶねえっ!このままじゃ完璧に押さえ込まれる!」
百合色の目線で大赤面する保奈美と、普通の目線で試合を観る巧。微妙に話が合っていない。
そんな保奈美の反応に、さすがに松原も苛立つのであった。
(いちいちうるさいなっ、あの女!薩川がこんな時に変なことするかっ!)
薩川が縦四方固めに入ろうとしたその瞬間、桜子は薩川の左足に、自分の足を絡めて捕らえる。
これならば押さえ込みは完成しない。
「あわてるな薩川!落ち着いて足をはずせ!」
松原の声が飛ぶ。だが、
「はずせるもんなら、はずしてみなっ!」
桜子は薩川を挟んでいる左足にさらに右足を絡めて完全にロック。
薩川が自由な左手で押して足を抜こうと試みるものの、まるで緩む様子もない。
(くっ!ビクともしないっ!やっぱり力は女のコ離れしてる!)
そこで彼女にふと湧く疑問。
(実際、この足だって筋肉でカッチンコッチンだし…本当に女かしら…?)
ついつい桜子の太ももを撫でて確かめてしまう薩川。その思わぬ手に桜子は奇声を発する。「うひっ!」
「ああ、別の攻撃に!」「考えすぎですよ、保奈美先輩。このひとはもう」
完全に混乱する保奈美。それを麻理がたしなめた。
348 :
2/3:2009/03/17(火) 21:01:27 ID:???
ようやく「待て」がかかり、寝技をしのぐことはできた。
しかし2分を過ぎて技ありと有効を取られ、大幅なリードを許してしまった。
どうすればよいのか別所さんが斉藤に尋ねるものの、彼にもアドバイスが思い浮かばない。
そもそも技術が違いすぎる。桜子は持っている技を全て返されてしまうのだから、文字通り手も足も出ない。
そこで巧が思いつく。
「そうか。柔道でかなわないんなら……」
「こらあっ!エビーッ!」「なんだよっ!その呼びかたすんじゃねえ!」
ただでさえ気が立っている桜子、巧の呼び声に大声で返す。
さて、巧のアドバイスとは――。
「柔道で勝負したってダメだ、おまえじゃ!かないっこない!」
「だから、おまえのやり方でやってみろ!自分の一番得意な技に強引でもいいから、もってっちゃえ!」
激励にはまるで聞こえない言葉を屈託なく言い放つ巧だったが、桜子には意味が分からない。
(一番得意な技って?だから、背負い投げは失敗しただろ!)
だが、そこで――ふと、ある閃きが浮かぶ。
(一番得意な技?)
試合再開。そこで桜子は――だらりと両腕を下げてしまう。
「のっ…ノーガード戦法!」「おまえはジョーかあ!」
応援するメンバーは驚き、対戦相手の薩川は面食らい、そして松原は激昂する。
「くっ!ナメてるのかっ!?海老塚!」
349 :
3/3:2009/03/17(火) 21:02:12 ID:???
(勝手に組み手を取れってコト?柔道でコレが何の作戦になるというの?)
桜子の態度を不審に思う薩川だったが、とりあえず正面から組みに行く。
だが、それこそ桜子の望みどおりの展開だった。
柔道である以上は相手に接触しなければ始まらない。そこに技術の差は無い。
そして、道着をつかむ以上は、その手はそこから動かない。
彼女は襟を取る薩川の右手を、両手で捕まえ――力ずくで道着から引き剥がす。
さらにそのまま手を持ち替え、薩川の身体を脇へ引き込み、その背後を取る。
その光景は――松原に嫌な記憶をフラッシュバックさせるものだった。「うっ!!」
「逃げろ薩川ァ!それは……!!」
「裏投げっ!」
桜子は薩川を背後から持ち上げ、そのまま彼女を高速で畳に叩きつける!
「技あり――っ!」
「おおっ!見たか、今のっ!」「女が裏投げやったぜ!」
「しかも、ものすごくスピードのあるデンジャラスな裏投げだっ!」
沸き立つ観客席。
プロレスごっこ仕込みの裏投げ。桜子にはこれがあった。
「立てっ!薩川っ!寝技が来るぞっ!」
松原の声に慌てて立ち上がる薩川だったが、桜子からの追撃は来なかった。
「こらっ、何してんだ海老塚!寝技のチャンスだったのにっ!」
巧が怒るが、桜子は後ろ頭を押さえてうずくまったまま。
(て〜〜っ、アタシも今、頭、打っちゃったよ)
350 :
345:2009/03/17(火) 22:23:06 ID:???
ええええ!?
マジですか!
ミッタン直伝ではなかったけどw
これで桜子が勝ちか。試合後握手を交わす……かに見えたがその手はすれ違い桜子ダウン。
裏投げの自爆が致命傷となっていたのだ……
352 :
1/3:2009/03/18(水) 21:02:37 ID:???
第244話 闘争本能
技ありを返した桜子。まだ有効一つ負けているものの、時間はある。逆転の機運が高まる。
(今のが海老塚の裏投げ……こんなに早いとは……)
ここまで実地では目の当たりにすることのなかった桜子の実力に、戦慄する薩川。
(しまった…!海老塚にはこれがあった!)
松原は薩川にその危険を伝え損ねていたことを悔いる。
(柔道だったらかなわないけど、私の裏投げだけは通用したっ!)
自信をみなぎらせる桜子。その顔に獲物を狙う猫の表情が浮かぶ。
「そうそう、まだ、ポイント負けてんだよね」
「たらっ!」
薩川に対して組みに――ではなく、文字通り捕まえにいく桜子。
技術に勝る薩川はそれを冷静に捌こうとするが、
「はっ!」よけられてもかまわず、桜子は横から噛みつくように薩川の道着をつかむ。
「しゃあ――っ!」そしてそのまま力任せに振り回す!
「うっ!まさか……!」
松原は桜子の意図に気づく。
「海老塚のヤツ!組み手なんてすでに考えてない!
ただ、捕まえて、どんな形でもいいから投げようとしてるんだ!」
なりふり構わず逃げようとする薩川に、桜子は背後から襲いかかる。
胴に組みつき、そのまま腕ずくで抱え上げ――畳に落とす!
「有効!」
353 :
2/3:2009/03/18(水) 21:03:26 ID:???
桜子の二度目の裏投げは「有効」。これでポイントは並んだのだが――、
「な、なんだあ今のは!」「ほとんどうつぶせになってる薩川を引っこぬくように投げやがった!」
「強引すぎるにもほどがあるぞ!」
桜子のそのあまりといえばあまりな戦いぶりに、味方のはずの杉たちから非難の声が上がるのだった。
「なんだか今の先輩、ミリアンみたいでしたね」
桜子のパワフルな戦いに、かつて相対したライバルを重ねる麻理。
「ちがうだろう女子の柔道ってのはよおお!」「もっとこう、柔らかというかしなやかというか」
自分たちの抱くイメージをがたがたに崩された杉たちは苛立つのであった。
(並ばれた…!!私が負けた時のように…!)
桜子の怒涛の追い上げに、嫌な記憶を喚起させられる松原。
繰り返される悪夢に縛られ、声を出すことさえもできない。
「これでタイ!こっからが勝負だっ!」
組み手の技術に勝る薩川と、捕まえさえすればどこでも良い桜子。
互いにぶつかり合うのを嫌い、一度離れて仕切り直し。
一息開けて――勝負。
先に組み手を取ったのは薩川。
彼女はフェイントもかけず、即、体落としを仕掛ける。
が、「止めたっ!」
桜子は毎日、麻理のものすごく速い技を受けているので、他の大抵の女子の技はかわせるという特技があった。
そこに生まれる大きな隙に、桜子は薩川の背中に組みつく!
(捕まった!)「薩川!」
松原が悲鳴のような大声を上げた。
(やられるっ!)
「でええいっ!」
354 :
3/3:2009/03/18(水) 21:04:29 ID:???
三度、裏投げ――ところが。
その瞬間、薩川の左足が桜子の右足を刈っていた。
「あいてっ」
まともに背中から落ちた桜子。
組み手こそ取られていなかったが――「技ありっ!」
反論できる余地もなく。
「合わせて一本!」
「それまで!」
「なんだ、今のどうなったんだ!?」
「投げられそうになった瞬間に大内刈りをかけたんだ!」
「裏投げ女が負けたーっ!」
まさかの結末に騒然となる場内。
勝利をおさめた薩川もまた、その実感を持つことができないでいた。
(運が良かった…どこでもいいからとっさに足をかけて投げられまいとしただけだったのに……)
彼女は桜子に目をやる。
そこには――どこか晴れやかな表情をした敗者の姿があった。
桜子…柔道は好きか?
356 :
1/4:2009/03/19(木) 21:01:53 ID:???
第245話 薩川佐代子@
「桜子先輩負けちゃいましたね」
「でも、惜しかったですよ。今のは九分九厘、勝ってましたよ」
健闘むなしく敗れた桜子。麻理と別所さんはその敗戦を悔しがる。
相手も強かったのだから仕方ないという巧に対し、別所さんは桜子の方が良かったと強い視線で睨みつける。
「あーあ、負けちゃった。ゴメンね別所さん。決勝戦やろうって約束したのに」
負けたにもかかわらず、さばさばとした調子で戻ってくる桜子。
その態度を自分たちへの気遣いだと解釈した別所さん。
「いいんですよ、もっと悔しがってもっ!私たちに気をつかって笑顔をつくろわないでください!」
「は、はあ……」
どうも桜子本人と比べて互いの意識に差があった。
勝ちを収めた薩川を称賛する三保女の部員たち。
「よくやった、すごいよ、薩川。あそこで裏投げを大内刈りで返すとは」
松原も手放しでこれを褒めるが――、
「いえ…あれは完全にマグレでした……」
薩川自身は浮かない表情をしていた。
「なんだ薩川。勝ちは勝ちだ。もっと喜んでいいんだぞ」
そう声をかけられるものの、周囲を拒絶するようにタオルを頭からかぶってしまう。
そうこうしているうちに別所さんの出る準決勝第二試合が始まるのだが、
薩川の頭の中ではある疑問が渦を巻いていた。
(勝てたのに……なぜ、嬉しさがこみあげてこないのだろう…)
その彼女の目に入ってきたのは、別所さんの応援をする桜子の姿。
(それなのに……負けたほうの海老塚さんはあんなに元気で…)
357 :
2/4:2009/03/19(木) 21:02:43 ID:???
別所さんの応援をしつつ、桜子は麻理に自分の敗因を尋ねる。
「三回続けて裏投げにいったから……かもしれませんね」
「うん、やっぱりそうか。三回も続けたら相手も防ぐ手を考えるよねえ」
とはいえ、裏投げ以外の技は何一つ通用しなかったのだから、ああするよりほかはなかったのだが。
「でも、三回続けても桜子先輩の裏投げのスピードについていくのはむずかしいですよ。
薩川ってヒトもスゴイなって思いました。私」
「ふうん。薩川ちゃんねえ…」
自分に向けられる桜子の視線に気がついた薩川は、ふい、と目を逸らした。
「まっ、なかなかむずかしいもんだ。勝つってことは」
今回は負けてもあまり落ち込んでいないと巧に言われた桜子は、それを否定する。
「でも、前に別所さんに負けたときみたく、泣きだしたりしないもんな」
天然で軽く地雷を踏んだ巧。桜子の回し蹴りをくらう。
「見てたのかあの時っ!てめーはっ!」
「いてっ!ちなみに斉藤もいっしょに見てたぞ!」
相も変わらず騒々しい浜高サイドに、「試合を見ろ」と松原は苛立つ。
薩川はなお思い悩んでいた。
(浜高……あそこは男子も団体で優勝してるって聞いた…
やはり、そういう強い練習相手がいるから海老塚も強いのだろうか……)
技ありを奪って押さえ込みに入る別所さん。
それに盛り上がる浜高の皆。
(楽しそう……)
薩川はその光景を、どこかうらやましく感じるのだった。
358 :
3/4:2009/03/19(木) 21:03:32 ID:???
浜高の男子といえば、巧のあの言葉。
『柔道で勝負したってダメだおまえじゃ!かないっこないっ!』
『おまえのやり方でやってみろ!自分の一番得意な技に、強引でもいいからもってっちまえ!』
(あのあと海老塚が裏投げを使ってきた…ずいぶん乱暴なことを言うと思ったけど……)
押さえ込み25秒で技あり、合わせて一本。別所さんの決勝進出が決まる。
(よし、これで薩川さんと決勝!海老塚さんのカタキが取れる!)
準決勝までのプログラムが終了し、十五分の休憩の後、各階級の決勝戦が行われる。
試合場から出る薩川は、ある結論に達しようとしていた。
(海老塚の柔道…というより、浜高の柔道が……)
そして休憩が終わり、各階級の決勝戦が始まる。
まずは48kg以下級。麻理の登場に大歓声が上がる。
松原が闘志むきだしの目でこちらを睨む別所さんに気づく。
「海老塚のカタキでも取るつもりかね」
「松原先輩」
ここで薩川は、桜子の、浜高の強さについて、自分なりの考えを松原に話す。
「ただひとつだけわかるのは、カタキ討ちとか、そんな暗いこと、海老塚だったら考えません!
浜高は柔道を楽しんでいます!」
松原の言葉はごく軽い調子のものだったのだが、それに対する薩川の反論。
いきなりのことに松原は目を丸くする。
「薩川…」
「私たちも浜高みたくなれないでしょうか?もっと…のびのびと、真正面からぶつかっていくような…」
「で、でも、勝つことは大事だっ!そんなこと言っても、負けたら誰も評価してくれない!」
期せずして言い争う形になってしまった三保女の二人。
その横で「んしょ――っ!」麻理が48kg級の優勝を決めていた。
359 :
4/4:2009/03/19(木) 21:04:35 ID:???
「やったぜ麻理ちゃん!さすが、福岡国際の覇者」
「地方大会に出ること自体、反則っぽくなってきたな」
麻理の優勝を喜ぶ桜子と、実力差がありすぎてちょっと引き気味の杉。
浜高のような楽しい柔道でもああいう風に勝てる、薩川はいう。
だが、松原は麻理を十年に一人の天才であり、特別なのだとまた反論。
もちろん、それは薩川にも分かっているが――。
「でも、目標にするんだったら、大きなほうがいいです。
私は来留間のようになることを目標にします」
彼女はそう言い置いて、決勝戦の舞台に上がるのであった。
『52kg級決勝戦を行います! 赤、赤磐高校 別所さん! 白、三保女子学園 薩川さん!』
そこで桜子が、薩川の微妙な変化に気づく。
「おや?なんか薩川ちゃん、私の試合の時よりいい顔してるな」
そして松原は、その変化に困惑していた。
(薩川、いったいどうしちゃったんだ!いつも素直だったおまえが…)
次回予告:
松原「先生…楽しく柔道がしたいです」
反抗期ですね。わかります。
毎年出るほぼ3年間分の優勝者を決める大会に、柔道人生ウン十年みたいな猛者の大会の優勝者出てんだもんな。
一応マリちゃんにも触れておくw
つまり、別所さんは暗い、と・・・
つーか浜高はともかく桜子の場合柔道は適当にやってるだけじゃ(ry
364 :
1/3:2009/03/20(金) 21:01:52 ID:???
第246話 薩川佐代子A
ついに始まった決勝戦。にもかかわらず、桜子は別所さんの応援も忘れて何かに気を引かれていた。
桜子の仇打ち、とばかりに闘志満々の別所さん。それに対して薩川は――、
「はっ!」
「背負いっ!」
組んでいきなりの薩川の背負い投げ。
別所さんは完全に乗せられながらも、片手を畳につき、空中で体をひねってうつ伏せに落ちる。
ノーポイントでしのいだものの、その立ち上がり際を狙い、薩川はさらに大外刈りを仕掛けてくる。
別所さんは引き手を切ってこれも回避。しかし、息も切らせぬ連続攻撃に反撃の糸口がつかめなかった。
薩川の戦いぶりを観て――松原は昔のことを思い返していた。
薩川……おまえは入部してきたときから、私が目をかけてきた…。
中学の時にもう黒帯も持っていたし、鍛えれば絶対に強くなると思って…。
私が持っている技術を全部、叩きこむように教えた。
『どうした薩川!立てっ!おまえはハンパにやってちゃもったいない才能なんだ!』
『勝つためだ!おまえは勝てる選手になれる!さあ、立てっ!』
あいつはどんなにキツイ練習にもついてきた。それなのに…。
『浜高は柔道を楽しんでます。私たちも浜高みたくなれないでしょうか?』
突然、変なことを言いだした…。
楽しい柔道だと?
ニコニコ柔道やってて強くなれるなんて、そんなうまい話あるわけないだろう。
365 :
2/3:2009/03/20(金) 21:03:01 ID:???
別所さんと薩川、互いにタイプは違えどテクニシャン同士。
試合は極めてレベルの高い技術戦となる。
組み手を取ったのは別所さん。そこから仕掛けていくのは――。
(大内刈り、でも、これは浅い)
薩川は冷静にこれを捌こうとする。
ところが(足を離さずついてくる!)
大内刈りは囮。
別所さんは刈り足を引くことなく、その場で瞬時に体を返し、内股へと変化した。
「いやあっ!」
とっさに引き手を切る薩川。ギリギリのところでその技をかわした。
なおも逃すまいとする別所さんだったが、そこで薩川が不意打ちの巴投げ。
別所さんは手をついてこれを防ぐ。
腹ばいに落ちてポイントは無し。そのまま場外で「待て」がかかる。
あの状況でこの返し技――別所さんは薩川の力量を感じ取っていた。
(強い!さすが、松原さんが目をかけてる選手だわ)
だが、試合を見つめる松原の心境は複雑だった。
(薩川……それが楽しい柔道か?ただがむしゃらに技をかけ合うことがか?
見てる者は面白いかもしれないが、まだひとつもポイントを取れてないじゃないか)
そのとき――滴る汗をぬぐう薩川の晴れやかな表情。
それは松原を驚かせるに十分なものだった。
366 :
3/3:2009/03/20(金) 21:04:17 ID:???
試合再開。
薩川は別所さんの左足にわずかな隙を見つける。
小内刈りに行こうとして――その刈り足が空を切る。
別所さんの足が薩川の膝頭を抑え、そのまま前方に引き倒した。
「技あり!」
「出たっ!別所さん得意の!小内かわしてヒザ車!」
ここにきて、この大きなポイントに喜ぶ麻理。
「薩川あっ!」松原が声を上げる。
さらにそこから別所さんが寝技に入ろうとした、そのとき――。
「さすがは別所さん!でも、勝負はまだまだこれからだぞ、薩川ちゃん!」
「えっ?」
一瞬、試合中の二人とも、動きが止まってしまった。
思わず“二人とも”応援してしまった桜子。「あっ!」
「今、なんつったおまえ?」「なんで相手のほうまで応援してんだよ!」
無意識的なものだったのだろう。皆に責められ桜子は赤面するのであった。
揺れてますなあ松原さん。ちょっと前の杉の心境だな。
桜子の女巧化が止まらないな。
369 :
1/3:2009/03/21(土) 21:02:20 ID:???
(し、しまった……!寝技で攻めるチャンスだったのに!)
桜子の思わぬ声援に停止してしまった別所さん。
(それにしてもなぜ……!?海老塚さんが薩川さんに声援を…!)
結局、攻めきることができず、審判の「待て」がかかるのだった。
両手を合わせて謝る桜子。
(はずみで薩川さんまで応援しちゃったのね…海老塚さんらしい…!)
第247話 薩川佐代子B
(強い…別所愛子)
別所さんの技量をその身で味わった薩川。
残り一分半のところで技あり一つ。大きくリードを奪われる結果となった。
(くっ…!だから言わんこっちゃないんだ、薩川!)
松原はこの苦境に歯噛みをしていた。
いきなり敵さんの応援までしてしまった桜子を杉が責める。
彼女は申し訳なさそうな表情で、そのときの自分の心境を説明する。
「だってさ、二人ともどんどん技を出し合っててさ……。
いい試合だなーって思って、つい二人ともがんばれーってカンジになっちゃったの」
試合はいよいよ終盤戦に入る。
薩川は臆することなく、また別所さんも守りに入ることなく、互いに真正面からぶつかっていく。
(大外刈り!)
薩川の攻め手を察知した別所さんはそれを見事にかわし、
刈り足が空を切ったところを返す刀で一本背負い。
しかし薩川もこれに即座に反応。背中に乗せられながらも足をつき、これを逃れる――が、
「逃がさないっ!」
直後、別所さんはその足を狙って刈り倒す。
「有効――っ!」
370 :
2/3:2009/03/21(土) 21:03:15 ID:???
「うまい!背負いをかわされた直後に足技で倒したっ!」
麻理が喝采を上げる。
「背負いをかけた直後でも連続して技が出せる。ヒザをつかずに両足で立っているからできるんだな」
感心する巧に、斉藤も唱和する。
膝つき背負いは返されにくいので守りに入るとよくやる人がいるが、
あまり綺麗に投げられないし、小さい相手を投げる時以外はあまりやるべきではない。
女子の選手は力が無いせいか、膝つき背負いがどうしても多いが、
基本はやはり両足を立てた背負いなのだ。
「別所さんのコトだけに解説にも力がこもっているよね」
「オレはただ一般柔道論を言ってるんであってな!」
大幅なリードを奪われ窮地の薩川に、三保女子柔道部の必死の応援。
(おまえが勝てるといったんだ。根性見せろ、薩川!)
リードをしていても守りに入らない別所さんの姿に、薩川は彼女にも浜高の柔道と同じものを感じる。
(この別所も、海老塚や来留間と同じだ)
(私も、あなたたちみたいな柔道が…)
ついに別所さんから有利な組み手を奪った薩川。もう時間は無い。これがおそらく最後の攻撃となる。
そして彼女が仕掛けたのは――「大外刈り!」
別所さんは軸足を後ろに引いて踏ん張り、これを止めた。
「返す!」
371 :
3/3:2009/03/21(土) 21:04:24 ID:???
薩川の大外刈りを止めた別所さんは、そのまま大外で返しに行く。
その瞬間――薩川の目に入ったのは別所さんの右脚。
「やあっ!」
とっさに薩川は体を開き、倒れ込みつつ右足で、後ろから別所さんの足を払った。
「えっ!!」
完全に虚を突かれた別所さんはなすすべもなく――そのまま、後方へと倒された。
そして、主審の手が高々と差し上げられる。
「一本!それまでっ!」
湧き上がる大歓声。
別所さんは畳に横になったまま、何が起こったのか把握しきれずにいた。
「別所さんが……負けちゃった……」
まさかの幕切れに、浜高の皆はそれを評するべき言葉が無かった。
「あっ!待ちなさい!」
不意に立ちあがった薩川は、審判の制止も無視して三保女子の仲間たちのもとに駆け出す。
「先輩!私、勝てましたっ!」
感極まった薩川は、周囲の目も気にせず松原を抱きしめる。
「よ、よくやった薩川。ウンウン。でも、礼を済ませてこい、なっ、審判の先生も困ってる」
これまでに見せたこともないような後輩の感情の爆発に松原は戸惑い、
(やっぱり……)保奈美は何かを納得するのであった。
そして麻理は、薩川の技に天稟を感じ取る。
(大外刈りから小外掛けかあ、初めて見た。薩川さんって天才かもしんない)
あー、なんか三保女の二人がかわいく見えてきた。
373 :
1/4:2009/03/22(日) 21:19:35 ID:???
第248話 スポーツ
県大会の女子個人戦も激戦のうちに終わり、春の高校選手権の各階級の代表も決まった。
女子48kg級は浜名湖高校の来留間麻理。
そして女子52kg級は、三保女子学園・薩川佐代子。
別所さんは52kg級準優勝。惜しくも全国への切符は逃してしまった。
表彰式が終わり、その後、各階級の優勝者は写真撮影と全国大会の説明会がある。
撮影が済んでぼうっとしている薩川さん。彼女を麻理が呼ぶ。
「ま、まだ何かあるんですか?」
「全国大会の説明会があるんですよ」
「私、こういうの初めてで、何もわからないんです。すみません、みんなの足ひっぱっちゃって……」
申し訳なさそうにする薩川さん。それに対し、場慣れしている麻理は余裕の態度。
(ウフフ、外見はオトナっぽい薩川さんでも、柔道の世界の経験では私のほうが上なんだ)
ここぞとばかりに麻理は「分からないことは何でも聞くように」とお姉さん風を吹かすのだった。
一人静かにベンチに腰を下ろす別所さんのもとに、斉藤がやってくる。
斉藤は健闘むなしく敗れてしまった彼女を不器用ながらも慰めるのであった。
当の別所さんは大分落ち着き、気持ちの整理もついていたのだが。
「ただ……みなさんといっしょに全国大会に行けなくなったのは、やっぱり残念ですね……」
二人の間に少しの間沈黙がおり、そして、
「でも、応援にはいきます。日本武道館」
別所さんはそう斉藤に告げるのだった。
「なんだかもう、浜高って他校って感じしませんもん。最後まで見届けさせてください」
頬を染める別所さんに、斉藤は「そりゃあもう」と頷く。
「じゃ、じゃあ、今度はオレが約束しますよ。別所さんが応援に来てくれるなら、絶対、全国優勝します」
「ホントに!?」悪戯っぽく微笑む別所さん。
「じゃあ指きり」「えっ?は、はい」「それじゃ手が逆ですよ」「あれっ?」
なんとも甘酸っぱい空気――それに耐えかねた杉と茂が斉藤を後ろから突き飛ばした。
「こんなん見てられっかっ!」「このラブコメ男っ!」「指きりでキンチョーしてんじゃねーよ!」
374 :
2/4:2009/03/22(日) 21:20:36 ID:???
全国大会の説明会が終わるのを廊下で待つ桜子。
ようやく選手たちが出てきたかと思うと――そこで麻理が他の階級の選手たちに囲まれてしまう。
桜子は薩川さんに何事かと尋ねるが、どうも握手を求められているらしい。
薩川さんは色々と世話になった麻理に改めて礼を言う。
「やっぱり来留間さんは偉いです。私なんかぜんぜん足元にも及ばない」
「あらやだ、そんな」
手放しのほめ言葉に調子に乗りまくる麻理だったが、
「いえ、とても私と同じで高一とは思えません。立派です」
薩川さんのその言葉を聞いた桜子は思わず噴き出す。「あ、あんたら同い年!?ぷーっ!」
「な、なんだ薩川ちゃん、まだ高一だったのか!そりゃあそうだ!同じ高一とは思えん!」
桜子のその態度に、麻理はみるみる不機嫌になるのであった。
「もう、そんなに笑わなくったってー」「ごめんごめん」
じゃれあう二人の姿を見て、薩川さんは今日のことを思い返していた。
海老塚さん…私は今日、あなたと闘って何かが変わった気がする…。
スポーツって元々楽しんでするものなのに、私は今まで柔道をしていても楽しくなかった。
でも、あなたは試合そのものを楽しんでいるのが、闘っていてわかった。
どうしてこんなに楽しそうに闘えるんだろう、って思った。
闘うことを楽しむ、それはすべてを忘れて闘いに熱中することなんだけど、それが今までの私にはできなかった。
負けたら、松原先輩にしかられてしまう。勝てても、しかられずに済んだと思ってホッとするだけ…。
そんなことばかり考えてた。自分のために闘ってたんじゃなかったから、勝っても楽しくなかったんだ。
「あの…私思ったんですけど、浜名湖高って楽しそうなところですね」「えっ?」
「男子も女子も仲が良さそうで…みなさん、楽しそうに柔道やってるように見えます」
薩川さんのそんな言葉を耳にした桜子。「薩川さん」彼女の両肩にポンと手を置く。
「キミはひょっとして、女子高に入ったことを後悔してるね」
何やらものすごく的外れな解釈をする桜子。
「言っとくけど、別に共学だからってイイ男がいないんじゃ、境遇は似たようなものよ。
白状するけど、私も彼氏いないしねえ」
「あ、あの別にそういうイミで言ったわけではっ……!」
375 :
3/4:2009/03/22(日) 21:21:28 ID:???
薩川さんは楽しく柔道をしている浜高の雰囲気が良いと思い、三保女子もそうなれたらと考えたのだが、
それが当り前の桜子と麻理には正直、ピンとこない様子であった。
と、そこで。
「海老塚さん、今、彼氏いないって言いました?」
「な、なんでそこに戻るっ!いませんよ、ごめんなさい!」
「だって、あの私との試合の最中にアドバイス出してた男子の人がいたじゃないですか」
薩川さんが言うのは巧のこと。彼女はてっきり巧が桜子の彼氏だと思っていたのだが、
「え――っ!違う違う違う違う!」
ものすごい勢いで桜子はそれを否定する。
「アレは私の親友の彼氏でいちおう柔道部員なんだけど、私の親友ってのも柔道部のマネージャーで…
とにかくそうゆうワケなのよっ!」
頬を紅潮させてまで、慌てて説明する桜子に、薩川さんはとりあえず納得をするのであった。
そのとき松原が薩川さんを迎えに来て、話はそこまで。
「全国大会がんばりましょう!」
「今度会う時は東京だね。元気でっ!」
別れの挨拶をする麻理と桜子に、薩川さんは笑顔で「はいっ!」と返すのであった。
桜子たちと何を話していたのか松原に問われた薩川さんは、ごまかすことなくそれに答える。
楽しい柔道、その言葉は松原にとって、深く胸に刺さるものであった。
「おまえにはそういう柔道のほうが似合ってるかもしれないな。それでもきっと強くなっていくだろう」
後輩の自分からの巣立ちを理解した松原は、少し寂しげな表情になる。
(別所との決勝戦を見て、おまえが私より才能があることがよくわかった…もう私がおまえに教えることは何も……)
376 :
4/4:2009/03/22(日) 21:22:41 ID:???
ところが。
そこで目を輝かせた薩川さんが松原の両肩をがっしとつかむ。
「先輩!明日からまた毎日ケイコつけてください!
私、全国大会までにまだまだいっぱい練習しなくちゃっ!」
後輩のこの反応は、松原にとっては予想外。
「ちょ、ちょっと待て薩川!私だって受験とか忙しいんだぞ!」
「何言ってるんですか!先輩、推薦狙いなんでしょう?これからもお願いします!
三保女子には先生を抜かしたら強い練習相手は先輩しかいないんですからっ!」
薩川さんの強引さと、それに振り回される松原のやりとり。
それははどこか麻理と桜子の姿を彷彿とさせるものがあった。
高校柔道選手権県予選大会。
浜名湖高校、男子団体優勝。
女子は麻理の48kg以下級優勝。
そして、めざす全国大会は春、東京は日本武道館で行われる!
その間、後三か月。
浜高が全国制覇できるかどうかは、この三か月にかかっている……。
斉藤死ねよ
あっちこっち微笑ましいな。でも斉藤は許せん。
まあこれまでいじめ受けてきたからこれくらいは
でも斉藤死ね
380 :
1/4:2009/03/23(月) 21:02:26 ID:???
県大会が終了し、浜高柔道部はまた今日から全国大会目指して頑張る日々が始まる。
ちなみに、女子個人戦の次の日、実は男子個人戦(体重無差別)もやっていたのだが――。
「な、なに――っ!」
県営体育館に響く藤田の怒号。
「浜高のヤツらがエントリーしてないだとっ!粉川はっ!!三溝もかっ!!」
第249話 藤田が浜高にやってくる@
「一本、それまで!」『藤田恵、男子無差別級県大会優勝――っ!』
78kg以下の中量級の選手であるにもかかわらず、他校の100kg以上の選手を片っ端からなぎ倒し、
ついに藤田が県大会個人戦を制した。
体格のハンデを日本一の技で克服してみせた彼に贈られる惜しみない称賛の雨。
だがそこで――「でもよお…」一人が呟く。
「浜高の粉川とかも出てればなあ……本当に県下で一番強いヤツを決められたのに……」
まるで〈粉川がいなかったから勝てた〉とでもいうような口ぶり。
それを耳にした瞬間、激昂してつかみかかる藤田。慌てて周囲の選手たちが止めに入る。
今日の優勝が本当の意味で完全なものではないと、他の誰よりも藤田自身が理解していた。
(くそっ!なぜヤツは個人戦にエントリーしなかったんだ!勝ち逃げする気か、粉川っ!)
その頃、浜高では――「あー、みんなラクにして聞け」
西久保さんが皆を集めて話を始める。
「今日から、全国大会を目指して、また毎日地道な練習になる。
しかし、毎日毎日部活やってると、誰でも練習を始める時は気が重くなるもんだ」
三か月という時間は技を磨くには短いが、苦しさを考えると長い。
やる気も出にくいだろうこうした時の気分転換をどうしたらいいか。
西久保はそれを徹夜で考えたらしいのだが――、
「こらあっ、てめえら!ラクにして聞けって言っても、そこまでラクになるなっ!」
あぐらどころか畳にごろ寝をして聞く部員達に、さすがの彼も怒るのだった。
381 :
2/4:2009/03/23(月) 21:03:58 ID:???
「せっかく今日は気分転換のために、ビデオを観る日にしようと思ったのにっ!」
「ビデオ?」「トトロかな?」「アホかっ!」
どうせ、どこかの柔道の試合のビデオだろうとまるで意識が向かない部員達。
だが「違うっ!」西久保は力強くそれを否定する。
「“やる気”を起こすビデオだっ!題して、『闘魂の書』第一巻!」
「オレの青春のバイブルでもあった、『燃えよドラゴン』!」
「こんなこったろうと思ったよ!」「ド古!」「小学校の時、テレビで観たよっ!」「トトロの方がいいっ!!」
巻き起こる大ブーイングにもめげない西久保。
「つべこべゆうなっ!記憶もあやふやなくせにっ!とっとと合宿所に行けっ!」
龍子先生からも「そんなもので本当にやる気がでるのか」と疑問が出るのだが、彼は自信満々に言い放つ。
「なりますっ!『燃えよドラゴン』を観て闘志が湧かないのは、男じゃないっス!」
そして始まる上映会。
「さあっ、きさまら、心して観ろ!考えるな、感じるのだ!」
翌日、三方ヶ原工業高校――。
吉岡先生は姿の見えない藤田のことを関谷に尋ねる。
どうも彼はランニングに出て行ったらしい。試合の直後なのだから体を休めた方が良いというのに。
「で、どこまでランニングに行ったんだ?」
「さ、さあ、聞いてませんでした」
息を切らし、汗を流し、走りに走って藤田がやってきた場所は――県立浜名湖高校。
(来ちまった浜高まで…しかし、ここまで来たら確かめずには帰れん!)
382 :
3/4:2009/03/23(月) 21:04:46 ID:???
巧の口から個人戦に出場しなかった理由をどうしても聞きたかった藤田。
それはいいのだが――道場の場所が分からない。
そこに通りかかったのはどこかで見覚えのある女子テニス部員。
藤田はとりあえず彼女に尋ねることにする。
「ハア、ハア、聞きたいことが…ハア、ハア、道場は…」
息を荒げて声をかけてくる男に、彼女は悲鳴を上げる。「ひっ!」
「な、なにこの人、ハアハア言ってっ!変質者よっ!」
そのまま彼女は逃げ出してしまい、後には藤田一人が残された。「……えっ?」
「くそう、10kmは走ってきたんだから、息だって切れるよっ!
なんだあの女!だいたい遠すぎるんだ、浜高はっ!本当に気に入らない学校だっ!」
練習開始の時間なのだが、今ひとつ気の乗らない浜高柔道部。
「さて、そろそろ始めるか」
そこで西久保が取り出したのは、『燃えよドラゴン』のサントラCDだった。
CDラジカセにセットし再生をすると、流れ出すあの音楽。
ジャアー ジャジャン♪「!」「!」「!」
「「「フォォワアアッ!」」」
道場に響く怪鳥音。その瞬間、メンバー全員にブルース師父の魂が乗り移った。
チャンチャンチャンーチャチャー ジャジャ ジャ――ン♪
「むっ!これは『燃えよドラゴン』のテーマ!」
その音は離れた場所にいた藤田の耳にも届いていた。
383 :
4/4:2009/03/23(月) 21:05:59 ID:???
ブルース・リーの戦闘状態のステップで集合する部員達。
(あんなに嫌がってたのに、完全にみんなハマってしまった……男の子の感性って…)
そんな彼らの様子に辟易とする保奈美であった。桜子もついでにハマってしまったようだったが。
ハーメルンの笛吹きのように、その音に引かれていく藤田。
(こっちから聞こえてくる)
「この音楽聴くと、なんか血が騒ぐなー」
「格闘技したくなるっスね」
西久保の作戦は覿面の効果があった模様。
やる気をみなぎらせる茂たちの様子に、巧も嬉しそうに笑うのだった。
さて、準備体操を始めようとしたそのとき――。
「ん?」
道場の前に現れた人影に、まず桜子が気づく。
「ええっ!?」
「藤田っ!」
「む・・・ええい、皆の者、討ち入りじゃ!出会え、出会えーい!」
「海老塚・・・それを言うなら『道場破り』だろうが」
>「むっ!これは『燃えよドラゴン』のテーマ!」
むっ!これは、じゃねーよwww
しかも音のする方に行くなwww
麻礼葉さん再登場!?前に出てきたの何回前だよ。
387 :
1/4:2009/03/24(火) 21:00:05 ID:???
第250話 藤田が浜高にやってくるA
何の前触れもなく、突然浜高の道場に現れた藤田に戸惑う部員達。
藤田からの言葉も無く、対応に窮する。
そこでまず動いたのは巧であった。
硬い表情のまま藤田の前に歩を進める巧。
「竜虎再び相打つ……かっ!」「何言ってんのよ!」
分かったようなことを言う桜子を保奈美が怒った。
身構える藤田。しかし、そこで杉と茂が制止に入る。
「待て、巧!」「おもしろそーだが、いちおう止めるぞ!」
「早とちりすんなよ。オレは大人になったんだ」
落ち着いた調子で言う巧のその言葉に、なぜだか頬を赤らめる杉。
「何か用があってきたんだろ?言っとくが、ケンカしに来たんなら相手はしねえぜ」
対峙する両者にハラハラの保奈美と、ワクワクの桜子。
藤田は一拍の間をおいて、口を開いた。
「オレはただ……おまえに聞きたいことがあって来ただけだ」
その反応にざわめく部員達。
会うたびに険悪になっていた二人が、ここにきて雪解けの兆し――。
「でも」いい笑顔で杉がスイッチオン。
ジャー ジャジャン♪「!」
「フォォワアアッ!」
テーマソングと同時に巧の中のブルース魂に火がついた。
ノーモーションからの巧の跳び蹴りを危ういところで藤田がかわす。
と、そこでようやく巧は我に帰った。
「はっ!いかん!」
しかし今度は藤田の方に火が入る。
「平和的に近づいたのは、油断させるためかっ!卑劣!」
388 :
2/4:2009/03/24(火) 21:00:51 ID:???
「誰だ、スイッチ入れたのは!?」「ほほほ、そー簡単に大人ぶったってダメッ!」
完璧にあの音楽で戦闘状態に入るようになってしまった巧。さながらパブロフの犬状態。
おさまらないのは藤田の方で、今の攻撃が本意ではないと説明しても聞く耳持たず。
藤田の繰り出す上段回し蹴りを、巧は危ういところでダッキングで回避する。
蹴り足を振り抜いて背中を見せた藤田を取り押さえようとするが、その時。
「アチャッ!」
藤田の右足が入れ替わるように跳ね上がる。背後も見ずに放ったその一撃は確実に巧の顔面をとらえた。
「う、後ろ回し蹴り…」
「あいつ、柔道の練習に明け暮れてるはずなのに、なんであんな技ができるんだ?」
機械のような表情で、クイッと手招きしてみせる藤田。
彼もまたブルース・リー映画は『危機一発』『怒りの鉄拳』『ドラゴンへの道』『燃えよドラゴン』『死亡遊戯』と観ていた!
口の端から流れる血を指で拭い、それを舐めとって見せる巧。
そして彼は上着を脱ぎ捨てるのだった。
「アチャアアアッ」
「ホワアアッ」
ついに激突――というところで「この」
「バカ者がっ!」
間に割って入った西久保が二人を捕まえ、その顔面に頭突きをかます。
「ハイ、おしまい!おしまい!とっとと練習に戻れっ!」「ちっ!いーとこだったのによ!」
389 :
3/4:2009/03/24(火) 21:02:03 ID:???
そんなこんなで準備体操開始。藤田は道場の隅で座って鼻を冷やしていた。
「藤田くん、ケガのほうは大丈夫?ゴメンなさいね。手荒なことしちゃって」
謝る龍子先生。藤田は鼻の穴にティッシュを詰めたまま「…いえ」と返した。
話題は昨日の男子個人戦の話に。さすが三工の藤田恵、と先生は褒めるが、
ウチの子たちが出ていたら、という話になって藤田が顔を強張らせる。
「ひとつ聞いていいっスか。その…なぜ浜高は個人戦、出場しなかったんですか?」
その問いに、ようやく藤田がやってきた意味を理解した龍子先生。
「個人戦に出場しなかったのはね、ただ団体戦に集中したかっただけなのよ」
その返答に藤田は拍子抜けをする。
しかし、それは巧たちなりに考えて決めたことだった。
全国大会の日程は個人戦が3月20日、団体戦が21日。
もし個人戦に出たら、その人は二日続けて試合をしなければならない。
もちろん藤田がいる以上、そう簡単には全国へ行けるはずもなく、
あくまで「もし出られたら」という仮定の話ではあるが。
例えば巧が出たとして、その個人戦で怪我でもしたら、
次の日の団体戦で浜高は確実に戦力ダウンしてしまう。
それは理屈では確かに藤田も納得できることだが――しかし。
「春の個人戦に出れるのは今年が最後っス。二年生なんだから、それでも……?」
「巧くんと三溝くん自身が、『出る意味ない』って言ったのよ。
『オレたちの目標は団体戦の優勝だけ。だから関係ない』ってね」
「団体戦優勝…?どこの?」
思わず尋ねる藤田に、先生は後ろの壁を示す。そこに張られていた紙に踊るのは「目標 全国大会 優勝」の文字。
それを見つめて藤田は絶句するのであった。
390 :
4/4:2009/03/24(火) 21:02:52 ID:???
体操が終わって打ち込み開始。そこで藤田は浜高の練習内容が普通と違うことに気がつく。
「ん?これは……」「ああ、バラバラにやってるでしょ?」
打ち込みとは自分の技を何度もかけて、その形を体に覚え込ませる練習であるが、
反復練習であるだけにどうしても単調になりやすい。そこで工夫をしたのがこのやり方なのである。
大きな相手に対してうまく技をかけたい人は大きな人と。
小さい人にうまく技をかけたい人は小さい人と。
例えば巧の場合、背負いの時に全力で相手を持ち上げるから、三人打ち込みをしているのだ。
「みんなが自分で考えて練習するの。それが浜高のやりかたなのよ」
練習風景を見つめていた藤田は何かを考え、そして不意に頭を下げた。
「オレ、帰ります。いろいろ迷惑かけてすんませんでした」
藤田はそこで部員たちの方に向き直り、練習中の巧に声をかける。
「おい、粉川!きさまに言っとくことがあるっ!」
「あんまり目標が身の程知らずで笑っちまったぜ!
おまえらが団体戦で日本一になれるんだったらなあ!オレが一足先に個人で日本一になってるよっ!」
それだけを堂々と言い放ち、嵐のように現れた彼は嵐のように去っていくのであった。
「身の程知らずはてめーのほうだろーがっ!」「結局、何しに来たんだ、コラァッ!」「わーっ、おまえら戻れー!」
「個人戦の優勝を宣言しちゃいましたよ」「いや――カレならやるかもしれません」
391 :
業務連絡:2009/03/24(火) 21:04:28 ID:???
次回は一回休載して、単行本25巻のおまけを紹介します。
久々に男連中のギャグシーンで腹抱えて笑ったわw
日本一目指すって言ってからどうもシリアス分が増えてしまってたからな…
これだよこれwやっぱ帯ギュはこうじゃないとw
394 :
1/5:2009/03/25(水) 21:01:03 ID:???
○単行本第25巻 (表紙:松原渚・薩川佐代子 裏表紙:粉川巧・近藤保奈美・海老塚桜子)
・四コマその1
1.三(銭型警部) 「御用だル〜パァ〜ン!」
茂(ルパン三世)「ジェニガタのとおっつあん!」
斉(次元) 「やばいぜルパン」
2.茂(ルパン三世)「こ〜のカラダ、ヤ〜ケには〜しりづらいんだわあ!ガニマタだし」
斉(次元) 「ちゃんとしゃべれ」
3.茂(ルパン三世)「げっ!」・足をくじいて転倒。札束の詰まったケースを桜子(不二子)に取られる。
4.茂(ルパン三世)「あっ、足がおれちゃったでないの?!」
斉(次元) 「足首細いからなあ…」
桜(不二子) 「ありがとルパァン」
永(五エ門) 「つきあいきれぬわ」
395 :
2/5:2009/03/25(水) 21:01:49 ID:???
・四コマその2
1.別(クラリス) 「どなた?」
茂(ルパン三世)「どろぼうです」
別(クラリス) 「どろぼうさん?」
2.茂(ルパン三世)「今はこれがせいいっぱい」
3.別(クラリス) 「ほんとにこれでせいいっぱい?もっとおもしろいものはありませんか?」
茂(ルパン三世)「うっ!」
4.茂(ルパン三世)「ガチョーン!」「おならプー!」「金もいらなきゃ女もいらぬ〜♪」
別(クラリス) 「おもしろいおじさま」
杉(カリオストロ伯爵)「かわいいカオして、もう男をたらしこんだかクラリス」
396 :
3/5:2009/03/25(水) 21:02:31 ID:???
○輝かしき第一回グランプリ受賞者登場!!第25回 サンデーコミックス名物『絵筆をもってね!』
・『R・PRINCESS』のあの安西信行先生が、審査員に来てくれたゾー!!
選評/河合克敏 応募総数:1233点 入選:42点
グランプリ:千葉県・南天水飴〔別所〕
・第一回“絵筆をもってね!!”グランプリ受賞の安西信行さんは、
あのR・プリンセスを書いていたあの人と同一人物なんですか?
「1995年1号で終わっちゃった あれ・で・すよ」
〈河合〉いいタイミングで、こんなハガキがきていたよ。
〈安西〉そうですが…「'95年一号で終わっちゃったアレ」ってなんだ、コラ!!
〈河合〉それでは第一回グランプリ作品をここに再現しよう。うりゃっ!!
〈安西〉イジメだ、これはイジメだ…。
〈河合〉でもこれ、デビュー前の17歳の時に描いたんでしょ。やっぱりプロになる人はちがいますネ。
安西賞:兵庫県・藤本洋子〔巧・保奈美(電車の窓越しにキスする幼い二人)〕
〈安西〉映画のワンシーンのよう。“帯ギュの世界観”にこだわらなかった秀作。すごくスキ。
〈河合〉なんか絵ハガキみたいだなあ。安西くん、マジメなのを選んでるなあ。ネコかぶってるなあ。
〈安西〉…………。
準グランプリ:大阪府・竹地要〔巧(イラスト/同じ構図で点描)〕
〈河合〉アイデアはいいんだ。すごくていねいだし……
〈安西〉努力のあとが見えますね。すげえや。
〈河合〉もっとストレートな巧らしい巧の絵のほうが、こういう場合ハマるんじゃないかな?
それがグランプリをとれなかった理由。
397 :
4/5:2009/03/25(水) 21:03:15 ID:???
topix:香川県・夏木〔桜子(おしゃんぽ)〕
〈安西〉「おしゃんぽ」ってのがいい。ナイス!!
〈河合〉安西先生ファンの人は「先生おしゃんぽしよ」とかいってせまれば一発でコロリだ。
静岡県・葉月流穂〔斉藤母・妹(朝のしこみは命がけ)〕
〈安西〉さあ、どうするって……オレはエンリョします。河合さん、どうぞ!!
〈河合〉『スピード』のパロディか。最近、映画館いってないよー。
〈安西〉河合さんのコメントでした。
熊本県・村上斉恒〔桜子・他(桜子の裏技)〕
1.桜:この度、私も試合に向けて“裏技”を作りました。
2.それは……。
3.桜:横四方の時、アゴでワキをくすぐるのだッ!麻「キャーッ!」
4.桜「これを桜子スペシャルとして…」巧・杉「却下!!」
〈河合〉これやってた。起きあがろうとするところを、アゴでグリグリっと。
〈安西〉桜子になら、やってほしい。
○24巻表紙の反響コーナー!!
※24巻目にして満を持して登場した藤田の表紙が「黒背景に黒パンツ一丁」という衝撃的なものであったため、
それに対する反響が50〜60通ほども届いた。その中から一部を掲載。
岡山県・うに 徳島県・阿波の踊子 富山県・343 愛知県・ロンリーS・O
新潟県・池部単 千葉県・伊藤園サユリ 愛知県・あんず
石川県・荻さらさ 高知県・ゴメス 埼玉県・古賀竜一
398 :
5/5:2009/03/25(水) 21:04:07 ID:???
topix:東京都・YOU〔仲安・麻理(ちゅーしたい仲安くん@〜B)〕
〈河合〉まっ、この二人でできるラブコメってのは、こんなカンジでしょう。
私みずからが描くまでもない。
〈安西〉ええ話や…Bの2コマ目、一番好きです。
〈河合〉ええラブコメだったら、“絵筆”でずい時載せますさかい送ってや。
大阪府・天然危険物〔多数(スプリガンパロディ)〕
〈河合〉このマンガは「スプリギュン」と名づけてやる。
〈安西〉原作はやはり、たかしげ先生ですか?
愛知県・82級〔松原・薩川〕
〈河合〉いやあ本当、出番つくりたかったんだよ。やっと出せました。
〈安西〉松原さんだぁー!!オレも大好きだぁぁっ!!今は桜子より好きだぁぁぁ!!
埼玉県・担当〔ダミー山下(今年こそ 帯ギュの表紙に でてみたい)〕
※麻「オプションでダミーフジタ、ドラえもんにもなるんだよっ!」
〈河合〉この淋しさとゆうか、わびしさがいいよねえ。
〈安西〉いくらなんでもドラえもんはないでしょう……。
前回が黒パン藤田で今回が百合かよ
一体河合の頭の中は何でできているんだw
安西?誰それ読んだ事ねーよ
ベルばら?タカラヅカ?表紙悪ノリしすぎww
一巻のグランプリの人って漫画家になってたの?へー。
403 :
1/4:2009/03/26(木) 21:21:53 ID:???
第251話 保奈美さんち
二学期も終わりになると、待っているのは期末テスト。
皆が真剣に試験に挑む中で、余裕の杉、既に死臭を放つ茂、
あさってを見つめてため息を漏らす桜子――等々、様々な人間模様があった。
答え合わせをする柔道部員達。保奈美が巧に英語はどうだったか尋ねると、
「はっはっは、オレに聞くなよ。ま、なるようになるだろ」と楽観的な態度。
「わはははっ!今さらうろたえて何になる!」「明日は明日の風が吹くーっ!」
乾いた笑顔を張り付けて現れたのは茂と桜子。「ありゃダメだったな……」的確に斉藤が見抜く。
彼らは「優等生は優等生同士、バカはバカ同士」と巧を自分たちの側に誘うのだった。
ところで、冬休みはどうするのかと巧が皆に聞く。
「練習だよ、部活。合宿するとか遠征に行くとかさあ」
巧としては至極マジメに言っているつもりなのだが、他のメンバーからは大ブーイング。
「この年がら年中柔道バカが!」「もっと楽しいこと考えられねえのかよ!冬休みだってのに!」
「冬休みどうするっていうから、スキーにでも行くのかと思っちゃったよ!」
まあ、普通の高校生ならそうかもしれない。
「巧くん、本当に大丈夫?」
本気で心配そうな顔をする保奈美にさすがに巧も嫌な気分になるが、
彼女の心配というのはべつに、巧のズレた感覚のことなどではなかった。
「四つ以上赤点取ったら、冬休み一週間、学校で補習受けなくちゃならないのよ。
合宿どころじゃなくなっちゃうんだけど」
赤点四つで補習と聞いて青ざめる巧。
「やべえ……もう三ついったかもしんねえ」
「おまえ、今日、初日だぞ!」
「結局、今日のは全部ダメだったんじゃないかっ!」
404 :
2/4:2009/03/26(木) 21:22:37 ID:???
というわけで、期末テスト残る二日間に最後の望みを賭けて、巧の特訓が始まった。
やってきたのは保奈美さんち。少し古めかしいが、一般的な二階家である。
久しぶりに会った保奈美の母は巧を歓迎する。
とはいえ今日は勉強をしに来たわけで、邪魔になるからあまり顔を出さないよう保奈美は母に釘を刺した。
「あ、そーそー、お茶菓子用意しなくちゃ」
「いいってば、私がやるから!」
さて、明日のテストの科目は数学と古文と地理の三つ。そのうち一番きついのは数学。
それでは数学を重点的にやろうということで、保奈美がヤマを張ったページを開く。
しばらく普通に勉強は進み――そこで不意に物音が。
保奈美が障子を開けてみると、そこには正座で聞き耳を立てる保奈美母。
「お母さん!」「あらやだ!あたし、何しようとしてたんだっけ?」
そのまま彼女はそそくさと逃げ出すのであった。
「あーそうそう、お使いに行こうと思ってたんだ。うっかりうっかり」
「なにが『うっかりうっかり』よっ!」
これでようやく勉強再開、というところで巧が挙手。
「先生しつも――ん。今、この家にはほかのヒトたちはいるんですかー」
いません、という保奈美の返答に喜ぶ巧。しかし、保奈美の方の態度は冷たい。
久しぶりに二人っきりにはなれたのだが、今日は勉強の方が大事。
「もう、保奈美さんってばあん」
などと巧が甘えた声を出すと――その瞬間、保奈美の手に持つアクリル定規が音高くコタツの天板を叩いた。
「カがいた。やーねえ。もう12月なのに。暖房のせいね、きっと」
無表情でしかも棒読みの彼女に巧は冷や汗を流す。
保奈美は真剣な目で巧に向き直る。
「今ここでしっかり勉強しとかないと、冬休みの練習できなくなっちゃうよ」
そもそもこれは巧のための勉強会。そう言われれば巧もきちんとせざるをえなかった。
405 :
3/4:2009/03/26(木) 21:23:41 ID:???
その後、一つ一つ問題を解いていく巧。
「柔道の駆け引きの時は、あんなに頭の回転が速いんですもの。ほんとは数学みたいな左脳を使う課目は得意なのかもね」
保奈美に称賛されて、得意満面――と、そこで彼から一つ提案が。
「一問できたごと、ご褒美がほしいな」「ごほうび?」
あげようか、と保奈美が定規を振りかざす。今日の保奈美さんはどこか怖かった。
「あのなあ、オレの口からこんなことゆうのも変だけど、“アメとムチ”ってゆうじゃないか」
何かお楽しみとしてのアメ、つまりごほうびがあったほうが勉強に気合が入る――という巧の弁にも一理あり。
「わかった。アメとムチね」
保奈美はごほうび、と巧の頭をなでてやる。
しかし、これではさすがに巧の方がおさまらない。
問題一問解いたぐらいではこのぐらいが妥当では、という保奈美に対し、
彼女がヤマを張った問題全部解いたら何をしてくれるのかと巧は問い返す。
「巧くんの言うこと、何でもきく」
「うおお――っ!」
彼女の言葉を耳にした瞬間、巧の魂に火が入った。
「ここの極限値は、因数分解して約分するんだな?」「え、えーと、そ、そうよ」「よおおし!」
「ここはy=sinxをx軸に縮小するんだな?」「いいえ、ここはy=bsinxをy軸に平行移動するの!」
「そうかっ!わかった!」
恐るべきは思春期男子のリビドーか。巧は立ち上がりノートを見せる。「できたっ!どーだ保奈美!」
「お、お見事(教えるのに五・六時間はかかると見ていた問題をたった二時間で……)」
何でも言うことをきくといったらこの集中力。ひょっとしたら巧はすごくHなのではと訝る保奈美であったが、
(まあいいか)彼女もそれを受け入れるのであった。
「や、約束だもんね。何でも言って……」
406 :
4/4:2009/03/26(木) 21:24:24 ID:???
頬を染めて俯く保奈美に、巧も何を願えばいいのか迷う。
「じゃ、じゃあ、その……んと……キ…キス」
高鳴る二人の心臓の音。目を閉じ、唇と唇とがゆっくりと近づいていき――。
「ただいま――っ!巧くん、晩ごはん食べてくでしょ!今夜はスキヤキよ!」
「は、はい、いただいていきます!」
絶妙のタイミングで帰宅した保奈美母。二人はバネ仕掛けのように瞬時に元の位置に戻るのであった。
しかし、この勉強のかいあって、次の日からの巧の期末テストは順調にいった。
(キスのチャンスは逃したが…)
「なあんだ、結局返ってきたら、赤点、初日の英語一つだけだったよ。そんなに心配することなかったな」
当初の予想より好成績だった巧。安心というよりは拍子抜けの気分である。
「キミたちも補習受けずに済みそうだし。ちなみに赤点いくつ?」
「てめーの知ったことか、優等生。裏切り者が!」
茂と桜子が巧を睨みつける。実はこの二人、ギリギリの赤点三つ。
(優等生って……赤点一つ取っててもか?)
斉藤が心の中で突っ込んだ。
これで補習の心配もなくなり、巧は改めて先生に遠征の提案をする。
もちろん。それは他の部員達にはとても嫌がられてしまうのだが。
とにもかくにも――。
さあ、冬休みだ!
(ホントに柔道バカなんだから……)
なんか河合が精一杯頑張って描いたって感じで微笑ましいなw
これが久米田や椎名だったら一体どこまで巧は要求していたことか…
パンツ1枚で保奈美にとびかかる巧を想像してしまった。
あー彼女んちで仲良くお勉強ですか。よござんしたねえ。
巧にもそういう欲求があるとは知らなかったぜ。
そういや今回初めて冬休み描いてるんだな。毎年飛ばしてたから。
しかしまだキス段階なのか?
あと1年あるんだから慌てるなよ
乱取りをいきなりやってはいけない
時間をかけて基礎を固める、これが大切なんだ
412 :
1/3:2009/03/27(金) 21:00:34 ID:???
新幹線浜松駅のホームにあふれるのは、これから冬のレジャーに赴く人々の姿。
そんな光景を桜子たちは寂しげな目で見つめていた。「ふう」
「やっぱ冬はウインタースポーツするべきなのよ。冬なんだから」
「だのに、なしてオレたちはこれから柔道やりにでかけなくちゃならんのよ」
出発前からダダ下がりのメンバーの士気。
「ブツブツゆーなっ!」
そんな彼らを西久保が一喝した。
「おまえらが冬休み中に遠征で出稽古したいって言うから、
オレが大学の寒稽古に参加できるようにしてやったのに!」
「あっ、きたきた新幹線」
さて、浜高が冬休みを利用して遠征に。その行き先は――。
『東京――東京――』
第252話 謎のジャージ軍団、東京へ行く
三月の先の選手権のときにも東京には来ているが、相変わらず人間が多い。
揺れる電車の中で吊り革も持たずに平気な東京者たちを田舎者たちは訝る。
『新宿――新宿――』
そこで同じ車内に乗り込んできた大男に巧たちは目をひかれる。
身長は185センチぐらいでゴツイ体格。
そして12月にもかかわらず半袖のTシャツにタンクトップという薄着。
彼は遅れてやって来た仲間たちに声をかける。
「オイ、ここだ早く来い!電車出るぞ!」
413 :
2/3:2009/03/27(金) 21:01:49 ID:???
その直後、閉まりかけるドアを大男は身を呈して止める。これには仲間たちも慌てた。
「奥野さん!下津田さんがドアに挟まりましたっ!」
「下津田!大丈夫か?」「奥野!手を出すなっ!」
まるでどこぞの栄養ドリンクのCMのように彼はドアの間で身をよじり、
「どりゃあ!」そのまま力ずくでそれを開くのであった。
オレがドアをおさえてる間に早く入れ、などと少年漫画のようなセリフを吐く下津田だったが、
実は彼がこじ開けたわけではなく、車掌がドアを開いたのであった。
ともかくも車内に乗り込む奥野とその仲間たち。
下津田の奇矯な行動に奥野は苦言を呈するが、言われる側にはこたえていないようだった。
彼らの振る舞いを観ていた浜高メンバー。
その格好からして、彼らもどこかの運動部員だろうと推測する。
「でも一人、かっちょいいヒトがいるねえ。
あのカンベンしてほしい野獣のような男と今、しゃべってるヒト」
そんな桜子の物言いに、杉たちがひがむ。
「やだやだ、すぐに男を品定め」「おまえはOLか」「なによそれ!」「OLが聞いたら怒るぞ」
そうはいってもやはり男は“顔”らしい。意気投合する桜子と麻理だった。
と、そこで、奥野がこちらに気づく。人の間を掻きわけて近づいてくる彼に驚く桜子。
「あの、ちょっと伺いますが…」「は、はい!何でしょうか?」
思わず頬を紅潮させる桜子だったが、奥野が話しかけたのは彼女ではなかった。
「来留間麻理さんですね?福岡女子国際で優勝した」「え?は、はい」
テレビで観てファンになったという彼は、麻理に握手を求める。そのとき、電車が急停止。
驚いた麻理は奥野に抱きついてしまうのであった。「大丈夫ですか?」
やさしい言葉に麻理の顔が赤くなる。そして同時に仲安の顔が怖くなる。
「実はボクも柔道をやっているんです。都立・竹の塚高校二年の奥野といいます」
414 :
3/3:2009/03/27(金) 21:02:40 ID:???
礼儀正しく非礼を詫びる奥野は、I・Hベスト8になった浜高のことも知っていた。
浜高が大学の練習に参加しに来たと聞いた奥野は、どこの大学なのか尋ねる。
「うちのコーチの母校でね、立川体育大学ってとこ」
「えっ、立体大?うちも今日からそこへ行くんスよ」
そしてようやく一行は、立川市に到着する。
「え――っ!竹の塚高って今度の春の選手権、東京代表になったの?」
驚く浜高の皆であったが、奥野は「一応は」と謙遜。
竹の塚高は都大会決勝で千駄谷学園に敗れているのだが、
東京は三校までが全国大会に出場することができるのである。
「これから一週間ほど、一緒に練習させていただきます。よろしくお願いします!」
竹の塚高柔道部を代表して挨拶をする奥野。
「でも、これからしばらく来留間さんに毎日会えるとは!ラッキーだなあ」
臆面もなく恥ずかしいことを言う彼と、まんざらでもない様子の麻理。
そして明らかに焦っている仲安――。
「本番で敵になるかもしれねーところと一緒か…妙なことになったな」
合宿の先行きを危惧する斉藤と、
(あっちもミョーなコトにならなきゃいいが…)
別な人間関係を危惧する杉であった。
麻理は永田ファンで面食いって分かってたけど、桜子……。
永田に引く辺りは性格>顔なんだろうけどな
417 :
1/3:2009/03/28(土) 21:04:43 ID:???
東京にある西久保の母校・立体大へ行く浜高柔道部。
彼らは同じく立体大へ出稽古に行く途中の都立・竹の塚高柔道部と知り合い、同行することになった。
都大会決勝で千駄谷と当たったという彼らに、斉藤はどんな感じだったのかを尋ねる。
「いやあ、完敗でしたよ。知ってるでしょ、鳶嶋と橘。あの二人に届かなかった」
試合では鳶嶋と橘がそれぞれ副将、大将だったのだが、竹の塚はこの二人を引っ張り出すこともできず、
先鋒・次鋒・中堅の三人だけで料理されてしまったらしい。
結局、都大会では千駄谷の二人のエースに出番は一度も無かったのだ。
今の話をどうとるべきか。
千駄谷は橘・鳶嶋以外も強い、あるいは都立・竹の塚が弱い。
議論をしているうちに彼らは目的地に到着する。
「こ、これが立体大?! ってカンジを想像してたのに……」「こんなフツーの形でいいの?」
「立川体育大学だから、別に立体とは関係ねえんだよ!」
第253話 立体大柔道部の実力
「これが道場?」「でけえ!」
試合場が二面もとれる広さ。建物の一階と二階を吹き抜けにした造り。天井が高く、熱気もこもらない。
浜高柔道部の皆は、立体大柔道場の環境の良さに驚き、また感心していた。
「伴先輩!」
西久保が挨拶したのは立体大柔道部監督・伴直人。
彼は巧たちが小学校の頃のオリンピックで金メダルを獲った選手であった。
もっとも、それを知っていたのは斉藤一人。他の皆は誰もそんな昔のオリンピックのことなど覚えていなかったのだが。
快く一人ずつ握手に応じてくれる伴監督。巧の順番になったとき、一瞬、巧が止まる。
「ん?どうした?」「いえ……」
(そんなに大きな人じゃないのに、ものすごくゴツイ手だ…これが世界一になった人の手か)
418 :
2/3:2009/03/28(土) 21:05:32 ID:???
続いて奥野たちが伴監督に挨拶をする。彼らは度々、この柔道部に出稽古に来ているらしい。
もうすぐ午後の練習が始まるところ。彼らもそれに合流するようだが。
「キミらは練習どうする?長旅の後、いきなりやるのはキツイか?」
「いや、参加しますよ。なあ」
メンバーの意見も聞かず、西久保が勝手に了承してしまう。
と、そこに――「チィ――ッス!」立体大柔道部の正部員たちが姿を現した。
「さあて、一軍の連中も出て来たようだな。おまえらも早く着替えて来い。もうすぐ始まるぞ」
「一軍?」柔道部にしては耳慣れない言葉に巧たちは首を傾げる。
立体大は、部員50名を超える大所帯なので、実力に合わせて一軍、二軍、三軍と分けている。
同じ道場で汗を流しても、一軍と二軍と三軍では練習内容や扱われ方に違いが出てくるものなのだ。
例えば、道場は試合場が二面とれるほど広いが、
そのうち一面は一軍の使うスペース、もう一面が二軍・三軍の使うスペースという具合に分けられる。
一軍より二軍・三軍の方が数が多いため、乱取りなんかをすると二軍はどうしても狭い。
(※三軍は一般生徒の部員で、柔道で推薦入学した生徒ではない)
一軍は広いところでコーチや先生が目を光らせているから、当然、手抜きなどできない。
それに対し二軍は密集しているだけに、ひょっとしたら手抜きもできるかもしれない。
しかし二軍で手抜きをしていたら、いつまでたっても一軍になどなれはしない。
無論、誰一人として二軍に留まっていたい者などいない。立体大柔道部の生存競争は厳しいのである。
そして今、浜高柔道部は立体大柔道部二軍の中で揉まれていた。
(強え、技術も力もスピードも……以前行った県警柔道部よりレベルは上だ!)
立体大二軍にまるで歯が立たない浜高メンバー。
その様子に竹の塚高の下津田が不審がり、奥野に小声で尋ねる。
「立体大の練習についてけそうもねえぜ、あれじゃあ。ホントにI・Hベスト8かよ?」
「まて、たぶんポイントゲッターのヤツがいるはずだ。そいつがどいつか見極めなくては」
419 :
3/3:2009/03/28(土) 21:06:20 ID:???
さすが大学生というべきか、二軍といってもものすごく強い立体大柔道部。
しかし、こんな調子で全国大会で勝てるのか――桜子が西久保に尋ねる。
「おまえらは立体大の本当の強さを知らん。
立体大二軍の選手のほとんどは、高校の時、全国大会を経験している。
そいつらがさらに大学で一年、二年と練習を積んでるんだ。
立体大二軍とやりあって、いきなり一本に近い投げをできたら、それこそ高校生なぞ敵にならんぞ」
西久保がそう語った直後――「だあっ!」巧が本当に一本級の投げを決めてみせた。
これには伴監督も驚き、西久保はバツが悪そうにするのであった。「ちっ、巧のヤツ……」
「よ――し!巧に負けるな!」「おうっ!」
巧の投げをきっかけにして、急に元気がよくなるメンバー。
返されるのを恐れてビビリながら技をかけていたのが、巧の一発で思い切りよくなったのである。
「西久保――っ!ちょっと来てくれ――っ!」
伴監督は西久保に、巧を呼んできてくれるように頼む。しかし、それが意味するところは――。
「試させろよ。まだ他校が手をつけてない逸材だったら、立体大だって欲しい」
「巧くんか、ちょっとウチの一軍のヤツと乱取りしてみてくれん?」
伴監督のいきなりの申し出に戸惑う巧。そして、監督は柴田という選手に声をかける。
「彼の相手をしてやってくれ。手かげんするなよ」
「本当にいいんスか」「ああ、西久保にも了解はとった!」
なんだかよく分からないうちに一軍の選手と乱取りをすることになった巧。
しかし、その相手を見た奥野たちが驚く。「うっ!あれは柴田さんじゃないか……!」
「これは見モノだぞ。何しろウチの柴田は78kg級の国際強化選手だからな」
これは…
麻理ちゃんなみの急激なステップアップへのフラグがクルー??
暁泉の監督思い出した
夏前にやった県警での特訓のバージョンアップってところか。
当時の西久保の役どころがこの柴田って人なのね。
県警よりレベル上なんだなあ…
「全国的にレベルの高い大学出た人や国体代表や日本選手権出場クラスがゴロゴロしてる」のが県警だったと思ったんだが
やっぱり24時間柔道漬けとそうでないの、では
純粋な柔道の実力では違ってくるということか
大学1年とかも混ざってるだろうにそんな圧倒的に強いとは思えないんだけどなあ。
立体大二軍とかが県警行ったらボコボコにされそうだけどねえ
年齢の問題ってのもあるかもしれん。
県警柔道部のほうはもう全盛期過ぎてる人も多いんじゃ?
男の柔道家のピークは20台前半〜中盤くらいだからねえ。
柔道漬けの名門大学生>県警でもそんなに違和感はない。
二軍よりは県警の方が強いんじゃないかとは思うけど。
428 :
1/4:2009/03/29(日) 21:02:45 ID:???
第254話 雲の上の世界
(さて、何発投げられるかな…)
正面から四つに組み合う巧と柴田。それを伴監督が興味深げに見つめる。
まず仕掛けたは柴田。その左足がわずかに動き――、
(えっ!)
次の瞬間、巧は畳の上に投げつけられていた。
仕掛けられた技は内股。柴田は何事も無かったかのように着地し、巧を振り返る。
(い、今……来ると分かっててよけられなかった!)
再び組み合う両者――だが「!」
またも内股。巧はそれをかわすどころか、技に反応することさえできない。
(スピードが段違いに速いんだ!来ると感づいた後じゃ間に合わない!)
その後も、巧はなすすべなく投げられ続ける。
実力差はまるで大人と子供。巧がこれだけ簡単に投げられるのはいつ以来のことか。
「……さすが現役だなあ。巧の相手はオレだって苦労すんのに……」
「そうだろう。柴田はこれから脂がのってくる年齢だからな」
少し悔しげな西久保に対し、伴監督は誇らしげに返す。
「くそ――っ!」
負けん気だけは一級品の巧。これだけ投げられながらもなお挑みかかる。
ほんの一瞬のタイミング、ついに一本背負いに入る。
「!」
が、柴田は即座に背後から巧を捕まえて回転を殺し、そのまま技を潰してしまった。
「交代――っ!」
結局、背負い一回入れたきりで時間。伴監督が巧を呼ぶ。
柴田は離れていくその背を見つめていた。
429 :
2/4:2009/03/29(日) 21:03:40 ID:???
「強いだろう柴田は」「全然歯が立たなかった。さすが大学生ですね」
自分の力が及ばなかったことを素直に認める巧。だが、それは恥ではなかった。
「柴田はただの大学生じゃない。次のオリンピックで日本代表を狙ってる男だからな」
柴田は11月にあった嘉納治五郎杯で二位。
間違いなく今現在、日本の78kg級で三本の指に入る実力があると伴監督は語る。
「そして、もしオリンピックに出られたら、金メダルも十分狙える男だ」
練習とはいえ自分が闘った相手がどれほどの選手だったのかを知らされた巧。
だが、それをにわかには信じることができなかった。
「国際強化選手ってワケだ。今までそんなヤツとやったことないだろう」
「いえ、一応ウチの学校にもいますけど」
「くーるーまー!」「はーい!」
巧に呼ばれた麻理は、ててててと小走りにやってくる。
「うちの国際強化選手です」
確かに彼女も国際強化選手の一人には違いないのだが――反応に困る監督だった。
道場の隅にいつの間にか立っていたブレザー姿の少女。
気づいた桜子が保奈美に、あんな人がいたか尋ねる。
隣には先生らしき人もいるし、服も制服のようなので、竹の塚高のマネージャーではと保奈美は言う。
「都立・竹の塚の?そりゃ違うんじゃないの?」
否定する桜子にどうしてかと問い返すと、その理由は彼女の制服。
紺ブレザーにチェックのミニスカートなんて公立校にあると思うのか、というのだが。
「それは、“東京”の公立高校だからよ」「なるほど……」
再び交代の時間になり――巧は柴田にもう一度乱取りを申し込む。
「巧くん、キミは二軍のほうに戻ってやんなさい!」「あっ、やっぱり?」
これはさすがに図々しかった。監督に怒られた巧はあっさりとひっこむ。
(まったく…一回手合わせしたら懲りるかと思ったら……いい度胸してやがる……)
430 :
3/4:2009/03/29(日) 21:04:48 ID:???
この日の練習は、外が真っ暗になる夕方六時に終わった。
明日の朝は六時からロードワークとウエートトレーニング。やはり寒稽古は朝が早いのだ。
それにしても、さすがに立体大は強い。
ここは全日本学生優勝大会(※大学の団体戦で最も重要なタイトル)で常にベスト8に入る実力なのである。
こんな練習があと六日も続くのか、と気を重くする茂と杉。
とはいえ、間に一日休みがあるのだから、その日にゆっくりと東京見物をしてくればいいと龍子先生が言う。
「東京見物なんて三月に来た時だってしたじゃんかよ」
「いつもそんなんで喜ぶのは田舎モノじゃ」
反応の悪い二人に「じゃあやめようか?」と先生。
とたんに彼らは涙を流して先生の足元にすがりつくのであった。
「やめないで!実はそれだけが楽しみだったんス!」「素直じゃなくてゴメンなさい!」
既に着替え終えた奥野たちが挨拶に来る。
これから塾の冬期講習に行く者もいるらしく、彼らは彼らで大変なのだ。
奥野と、そしてマネージャーが会釈をして去っていく。杉と茂はその後姿を眺め、
(東京のおなごも……ええのお)などと、とても良い笑顔をするのであった。
帰り際、マネージャーが奥野に話しかける。「主将」
「あの身長が中くらいの……目のパッチリしてるほうね?」
「そうだ、それが粉川巧だ。おそらくヤツが浜名湖高校のポイントゲッターだ」
奥野は彼女に「明日から頼むよ」と、何かの仕事を任せるのであった。
翌日、ロードワークから始まりウエートトレーニングで合わせて二時間ほどの朝練が終わり、その後朝食になる。
大学生たちに交じって食事をとる浜高メンバー。
普通は練習でバテると食欲がなくなるものだが、彼らの食欲に大学生たちは感心するのであった。
そこから四時まで男子が練習しない間に、女子部の練習が組み込まれていて、
こちらの時間に麻理と桜子が参加をすることになっている。
そして四時から男子の練習である。ここから都立・竹の塚高が毎日、通いで参加している。
431 :
4/4:2009/03/29(日) 21:05:54 ID:???
乱取りで立体大二軍を投げ飛ばす巧。
その姿を竹の塚のマネージャーがビデオカメラで撮影していた。
(あれが粉川巧……。
記録を調べてみたら、I・Hの個人戦であの千駄谷の鳶嶋に惜敗して2位になっている。
間違いなく、浜名湖のポイントゲッターね)
彼女が注目をしていたのは巧だったが、その横で杉もまた立体大の選手を投げてみせた。
「なんだおまえ、そんなすくい投げ持ってんのか!?くそっ、ひっかかっちまった!」
(すくい投げ?あれが?)
彼女が驚くのも無理はなかった。
杉が仕掛けたのは裏技のすくい投げ。普通の試合では滅多に見られるものではない。
そして――。
「わっ!ミョーな背負いすんなっ!」茂のアマレス流ぶらさがり一本背負い。
「いててっ!」ミッタンの立ち姿勢からの関節技。
浜高メンバーは裏技を積極的に仕掛け、実力的には上手の立体大二軍をそれぞれに手こずらせる。
(どうやら、ほかの連中もひとクセありそうなのばかりね……。
これはデータを集めておいてソンはないな……)
なんかマズイ予感が……
身長が中くらいの……目が─ ─な人はどうしたんだ?
あー…また杉や茂は負けるのか…
スパイされてるのに気付いて斉藤と巧は大丈夫だったっつー
オチだったらさすがに泣く。
3馬鹿が負けても理由がつくってフラグでもなんか嫌だ。
柴田は世界レベルか。そりゃかなわんわな。
436 :
1/3:2009/03/30(月) 21:00:51 ID:???
第255話 視線
浜高が立体大の合宿に参加して四日が過ぎた。
寝技乱取り三分10本。相も変わらずハードなトレーニングにもかかわらず、今日の彼らは意気込みが違う。
「元気あるなあ、浜高の生徒。ウチのヤツらが圧されてるよ」
伴監督も感心するが――それには理由があった。
明日30日は練習が休み。東京の街に繰り出せるのだ。
単純なヤツらだな、と監督が笑う。
「しかし、その単純さがうらやましいよ。ここ数日、見てて思ったが……」
浜高のメンバーは皆、いつも終わるころにはバテバテになってブッ倒れているが、
次の練習が始まる頃にはケロッとしている。
「ブッ倒れるまでやるのは、全力を出して練習してる証拠。そして回復力が早いのは若さだ。
十分メシを食って少し休めば、すぐに疲れが飛んでっちまう」
おそらく、今が彼らの一番伸びる時期。指導者としてここが勝負所だと監督は西久保に言う。
「はい、分かってます」
「だめだ。返せない。斉藤くんは寝技が得意なんだな」
竹の塚高の奥野を相手に、彼を完全に押さえ込んでみせる斉藤。
称賛を受けて「それほどでも……」と謙遜する。
が――それを眺めていた竹の塚のマネージャーはノートにその情報をきちんと書き留めていた。
そんなこんなでこの日の練習も一通り終わり。
体力を使い果たした浜高の皆は畳に転がっていたが、そこで集合がかかる。
どうやら、これから立体大の柔道部で校内試合が行われるらしい。
本来ならば外部参加の高校生には関係ないが、せっかくなので見学をしていくことに。
奥野たち竹の塚高の面々もそれに倣った。
437 :
2/3:2009/03/30(月) 21:01:42 ID:???
立体大柔道部内で二手に別れての試合。
さすがに練習の時とは段違いの迫力に、浜高の皆は息をのむ。
「どれどれ試合だって?」
そこに桜子たちが合流。女子部のお姉さま方に誘われて来たのである。
「来留間さん!」
親しげに麻理に手を振る奥野に対し、仲安はむっとするのであった。
次に試合に出てきたのは、巧とも乱取りをした国際強化選手の柴田。
「よっしゃ、柴田さんなら相手にとって不足なし!」
そう息巻くのは、対戦相手の板倉である。
「よくゆうよ」「せめて一分ぐらいは持ちこたえてみせろよ、板倉!」「板倉くーん、がんばって――っ!」
そんな周囲の声をよそに、板倉は柴田の前に立つ。
「いきまっせ柴田さん!」
「フフフ、よしこいっ!」
「一本!」
「板倉――っ!10秒で投げられんな――っ!」
勝負にも何もならず、あえなく瞬殺された板倉。
さすがは国際強化選手というべきか、同じ部内にありながら、柴田の実力は明らかに格が違っていた。
(オリンピックに出れたら、金メダルを十分に狙える男だ)
伴監督のその言葉が、巧の脳裏によみがえる。
(ちくしょ――!!もう一回、あの人と手合わせしてえなあっ!!)
さて、対抗試合は全員の試合が終了。そこで伴監督から高校生もやらないかと提案が出る。
それを西久保が快く了承。せっかくなので、浜高と竹の塚高で対抗戦の形でやることに。
「美奈、準備しといて」
奥野に言われ、マネージャーはバッグからビデオカメラを取り出した。
いつも勝手に話が進められていることに、さすがに苛立ちを覚える杉。
とはいえ、相手は千駄谷学園と東京都大会の決勝を争った学校である。
このようなチャンスは滅多にあるようなことではない――と、斉藤がまず一番手に立った。
438 :
3/3:2009/03/30(月) 21:02:37 ID:???
千駄谷は竹の塚を三人だけで片付けてしまう圧勝だったという。
ならば、ここは一人も負けられない。改めて浜高メンバーの意識に火が入る。
「互いに自己紹介して!」
「浜名湖高校二年、斉藤浩司!」
「都立・竹の塚高校二年、入谷陽一!」
「始めっ!」
号令と共にまず仕掛けたのは斉藤。組み手を取っての小内刈り。
だが、竹の塚の一番手、入谷はそれをかわし、逆に背負い投げで返そうとする。
しかし、そこは斉藤。即座に引き手を切って離れる。
さすがは東京代表校の一つ。斉藤の動きにもきちんとついてくる。
だが、勝負はこれから――。
斉藤の足払いに体勢を崩す入谷。ポイントにはならなかったが、即座に斉藤が動く。
両脚で入谷の左腕を挟み、彼を腹ばいに潰す。そして上にのしかかったまま、足で左肘の関節を極める!
慌てて「まいった」をする入谷。「一本!」
「おおっ、腹固めかっ!」「高校生のくせにうまくはいったな――っ!」
斉藤のテクニックには大学生からも称賛の雨。
幸先の良い一勝――というところで、杉の目にカメラを構える竹の塚のマネージャー・美奈の姿が映る。
二番手に出るのは杉。彼は美奈の方を振り返り、カメラに向かってバチッとウインクをする。
(フフフ。オレが勝つとこしっかり見てなよベイビー)
そのあまりにも気持ち悪い態度に、彼女は思わず吐き気を催すのであった。
ビデオを回す美奈の姿に、研究熱心だねえとのんきに感心する巧。
だが、そこでようやく斉藤がその意味に気づく。
「いかん、よく考えてみたら竹の塚は全国大会に出てくるんだ!裏技出してちゃダメなんだよ!」
斉藤…もう手遅れだよ
むしろ裏技のほうがメインだと思わせるように
裏技ばっかり狙っていったほうがいいかも
まあ現実だったら、トーナメントで対戦する前にどっちかが負けました
ってパターンなんだろうけど、漫画だから1回戦とかでぶつかるんだろうな
まあ斉藤は色々引き出しがあるから
ひとつふたつ技を見せても問題ないだろうが、
他のメンバーは対策とられるとやばそうだよな
裏技はどのみち千駄ヶ谷と戦うまで温存するからいいんじゃね?
千駄ヶ谷と当たる前の試合でつかって、千駄ヶ谷に見られたら意味無いだろ
全国大会が始まる頃には裏技は正式な表技になっていて、新たな裏技を手に入れているから大丈夫
裏技を警戒しすぎて通常技に引っ掛かってしまうかもしれんしな。
相手のペースを乱すために敢えて裏技を見せるのもありかもな。
全国優勝目指してるんだから裏技出さなくても勝てるようじゃないとだめなんじゃ
よく考えたらって斉藤お前、最初に会ったときに
「全国大会で当たるかもしれないとこと一緒か」って気にしてたじゃねえかw
まあ「当たるかもしれないとこ」と「当たるかもしれないから裏技見せちゃダメ」ってのはちょっと思考の一歩先だから、気付かずともw
448 :
1/3:2009/03/31(火) 21:04:10 ID:???
第256話 謎のジャージ軍団、街に出る〔前編〕
「とーきょ――、とちょ――!!」
冬休みを利用しての遠征で東京に来ていた浜高柔道部。
この日、12月30日は練習休みで、皆で東京の街に繰り出したのだった。
そしてこの東京見物の案内として、都立・竹の塚高の奥野と美奈も参加していた。
麻理と楽しそうに談笑する奥野。
その様子に巧は仲安の危機感を煽ろうとするが、彼は逆に頑なな態度で取り合おうとしない。
そんな人間模様とは別に、奥野には気をつけるべきだと斉藤が言う。
それは昨日の浜高と竹の塚との練習試合でのことだった。
美奈がビデオカメラを回していると知った斉藤は、杉に裏技の使用を止めるように言う。
向こうも東京代表校のうちの一つ。全国大会で当たる可能性が無いわけではない。
杉もそれを了承する。
(まあ、確かにそうだ……ここは裏技のすくい投げは控えて、ほかの技だけで……)
とはいえ、探られていると思うと他の技もかけづらい。
結局、もたついているうちに杉は引き分けで終わってしまった。
イヤなムードはそのまま結果につながり、なんとその後、宮崎と三溝まで三連続引き分け。
特に三溝と戦った下津田は、三溝が裏技を使わずに力で押そうとすると、
下津田もそれを力で押し返すという互角の展開となった。
そして、巧対奥野戦は――。
「バッカ野郎、巧まで技をださねえ!一体あいつら何考えてやがる」
こめかみに青筋を浮かべて苛立ちを露わにする西久保。
柴田も試合を観ていたのだが、やはり巧も全力が出せず苦戦を強いられていた。
449 :
2/3:2009/03/31(火) 21:05:58 ID:???
と、そこで美奈が回していたカメラのバッテリーが切れかかる。
彼女が慌てて予備に入れ替えようとしたそのとき「技あり――っ!」
いつの間にか巧が奥野を投げていた。
どうやら背負い投げだったらしいが、美奈はそれを見逃してしまった。
(まさか……こちらが目を離したスキを狙ったというの!?)
しかし、巧の攻撃も結局この背負い一つ。
しょっぱい試合内容に、柴田は首を振るのであった。
「なんだおまえら、今の試合はっ!斉藤以外、全然技が出てなかったじゃねえかっ!」
試合終了後、西久保がメンバー全員を叱りつける。
結果的に勝ちはしたものの、厳密に反則を取る本番の試合だったなら、
旗の判定で四人とも負けていたところである。巧は技ありを取っていたのだが、話の流れでスルー。
「こんなこっちゃ明日の自由行動はなしだなっ!」
それはまさに死刑宣告と同義で、杉たちは愕然とする。
そこで斉藤が、カメラで撮影をされていたので手の内を明かさなかったのだと説明をした。
奥野がそこに割って入る。
彼らは練習をビデオにとって、後でそれを見ながら技の掛け方とかをチェックするのだという。
これでは偵察と思われても仕方がない――と、彼は謝罪するのであった。
その罪滅ぼしとして、東京見物の案内役をかってでる奥野。
だが、そんなフレンドリーな態度の彼に対しても、斉藤は警戒を崩さなかった。
(竹の塚の奥野か……なんかこう……ヤツのペースでことが進んでる気がする……)
450 :
3/3:2009/03/31(火) 21:06:59 ID:???
ともあれ、奥野のおかげで自由行動禁止の危機を免れたのは事実。
浜高の女子たちは彼に感謝するが、それに引きかえ――。
「向かいのホテルをのぞいてやるっ!」
「自前の双眼鏡があるのだ!まっ昼間から悪さしてるカップルはいねがあ!」
都庁展望室には双眼鏡が置いていないのだ。そんな恥ずかしい行動をとる男子たちを桜子が怒鳴る。
「やめろ!ジャージ軍団!はっきり言っておまえらと仲間と思われたくねー!」
かくいう女子たちは全員私服。
彼女らは自由行動があると聞いていたので、段ボール箱いっぱいの服を宅配便で寮に送ってきていたのである。
そろそろ別の場所へ移動しようということで、まず麻理が上野動物園を提案。
だが「いーや!」「渋谷!」「センター街!」「多数決!」というわけで渋谷に決定。
渋谷といえばっ♪『電力館』
「ふざけんなっ!」「地方の人間にそんな東京ローカルネタが通用するかっ!」
『ハチ公前』
「これだよこれ!」「記念写真とれっ!」(※あまりに田舎者な行動に赤面する美奈)
そして渋谷に来たからにはおしゃれな服を見に行くことに。
「スポーツウェアでも、こういうんならカッコイイよ」「そうか?」
巧は保奈美に勧められるままにお買い上げ。21800円ナリ。
「確かにこりゃイカスな」「オレも買おうかな」「え――っ!」
いくら格好良いといっても、みんなでゾロゾロ着ていたら、結局、どこかの体育会系でしかなかった。
皆が買い物を楽しんでいる横で――美奈が奥野に尋ねる。
「大丈夫?このへん歩いてるとこないだの人たちが…」
「宮下公園のほうに近寄らなきゃ、多分、大丈夫だよ。
それにこの年の瀬にあいつらだって、渋谷には来てないと思うよ」
何やら意味深なやりとり。さあ次は、というところで、通りがかった帽子の男が奥野に気づく。
センター街を巧たちが歩いていると、その前にチャラい格好をした男たちの集団が現れた。
「連絡あったとーりだったな。やっと見つけたぜ、奥野!」
街でショッピング中にからまれるとか、
何か連載初期の空気を思い出すな。平ちゃん初登場の辺りの。
452 :
1/4:2009/04/01(水) 21:00:31 ID:???
「渋谷といえば、」「たばこと塩の博物館!」「そうかな?」
第257話 謎のジャージ軍団、街に出る〔後編〕
「こないだはどーも。奥野っていうんだよなあ、あんた」
リーダー格らしき帽子の男が奥野の前に彼の生徒手帳を投げ捨てる。
彼らはその顔写真をコピーして仲間たちに渡し、奥野が渋谷に現れたならすぐ分かるようにしていたのである。
男たちの態度はどう見ても友好的なものではない。はたして彼らと奥野の間に何があったのか。
ところで、桜子が男たちの一人に尋ねる。
「あ、あの――ちょっと刺青見せてくんない?」「あ――?」
突然そんなことを頼まれて戸惑う長髪の男。
「海老塚さん、離れて!」
「えっ、この人たちってチーマーってんじゃないの?」
「いつの話してんだ!」
奥野は先週、彼らとモメた――つまり喧嘩をしたのだという。
とはいえ、絡んできたのは向こうで奥野が悪いのではないと美奈がフォローする。
奥野だけ連れていこうとする帽子の男だが、巧がそれを止めようとする。
だが、それを奥野が制した。彼は皆に迷惑をかけないよう、一人、男たちに従う。
残された巧たちにマネージャーは筋違いと知りながらも助けを求める。
喧嘩というのは正確ではなく、彼女があの男たちに絡まれていたところを救ったのだという。
男たちはそのときの仕返しをするつもりなのだ。
交番に行った方が、と保奈美が言うものの、竹の塚高も春の選手権の東京代表校。
あまり暴力事件に発展させるのはよくない――。
「と、いうわけでここはひとつ。ひと肌脱ぐべきではないかな?」
453 :
2/4:2009/04/01(水) 21:01:33 ID:???
公園で男たちに袋叩きにされる奥野。だが、そこで――「待てい!」
「謎のジャージ軍団、参上!」
揃いのジャージに身を包んだ七人の戦士たちが現れた。
しかし、彼らが追いかけてくるのは男たちの予想の範疇。
「向こうは男だけなら七人。こっちは10人。やっちまえばいいんだよっ!」
「そーだな」「たよりになるぜ、健四郎ちゃん!」
などという具合に好戦的な態度を見せる。
だが――戦士たちにしてみればそんな姿はむしろ滑稽なものだった。
「そんじゃひさびさ!!」「ストリートファイトだ!」
始まる乱戦。
柔道がストリートファイトで勝つには、とにかく捕まえることである。
そして捕まえたら、反撃のチャンスを与えないように振り回す。
そして――投げる!
健四郎の体に自分の体を上から重ねるようにして地面に投げ落とす巧。
「巧のヤツ」「今、落とす時全体重乗せていきやがった」
普段彼らが使っているのは試合で勝つための技であるが、
実戦の場では相手に最大のダメージを与えるためのやり方もある。
「なんで来たんだ粉川くん!」
「へへへ。ストリートファイトでどのくらい柔道が通用するか研究に」
奥野が巧たちの無謀を責めるものの、当の巧はまるで悪びれる様子もない。
「女の子だっているのに!彼女たちをキケンな目に遭わせる気か」
「だって、あいつら連れてけってきかないんだもん。見物してるけど」
女子たちは闘っている皆の荷物係。そんな悠長な場合ではないのだが。
454 :
3/4:2009/04/01(水) 21:03:34 ID:???
実際、柔道は一対一で戦うのならば相当に強いはずなのだ。関節技や絞め技があるからである。
しかし、それはあくまで一対一の時だけで、乱戦の中でのんきに寝技などしていられるわけもない。
十字固めを極めようとしたところを後ろから蹴っ飛ばされた茂は、
「こいつブッ殺す!」
そいつを捕まえても投げ飛ばさず、そのままヒザ蹴りを連続で叩きこむ。
「おいおい!大ケガだけはさせるなよ!」
斉藤が注意をするが、その隙に別の男が彼の顔面に拳を入れた。
その瞬間、斉藤の雰囲気が変わる。
男の右腕を捕まえ――「はうっ!」
悲鳴をあげてうずくまる男。斉藤は立ち姿勢から一瞬で男の右肘を壊したのだ「フン!」
(脇固め……!柔道技で一番キケンなやつを……)
「絞め技はいったぞ!援護たのむっ!」
ロン毛男に裸絞めを仕掛けるミッタン。その背中を石野がフォローし、妨害をさせない。
「くっ、こいつら強すぎる!なんとかしなくては!」
帽子男はそこで、見物している女子たちに目をつける。卑怯にも彼女らを人質にするつもりなのだ。
「逃げろ!そいつに捕まるなあ!」
仲安が止めに入ろうとするも、遅い。
「バーカ!もう捕まえたよ!一番とろそうなヤツをな!」
だが――ジャージ軍団は怯むどころか一斉に笑い出す。
「あははははっ!」「コイツよりによって!」
困惑する帽子男。桜子が親切に彼の馬鹿さ加減を説明する。
「バカはあんただね。日本で一番強い女の子、人質にとろうと思ったんだから」
455 :
4/4:2009/04/01(水) 21:04:38 ID:???
そう。彼が捕まえていたのは誰あろう、福岡女子国際の覇者・来留間麻理。
次の瞬間――「んしょっ!」麻理の一本背負いに帽子男が宙を舞った。
「どきなマリちゃん!」
地面に仰向けに叩きつけられた帽子男。その腹めがけて落下する桜子の膝。
「二―ドロップ!」「ぐわああっ!」
「そして将来、全女にはいりそうな女!」(※全女……全日本女子プロレス)
ボロボロにされて公園に転がる男たち。
それに対してこちらは奥野も含め、実質的に損害ゼロ。完全勝利といえた。
皆が奥野を助けてくれたのに、自分は何もできなかったと涙ぐむ美奈。それを慰める奥野。
その雰囲気は客観的に見て、できているとしか思えなかった。
「残念だったな、麻理公」
ポンポンと仲安が彼女の肩を叩く。だが、逆にその腕に噛みつかれた。「て――っ!」
いろいろとあったものの、とにかくこれで一件落着。
「さあ早く帰ろう!門限破るとまた先生がうるさいぜ!」
この見えそうで見えない素敵空間がたまらない
ミニスカで一本背負い……ゴクリ。
斉藤が何気に怖いw
ここでどこかから流れ出す
燃えよドラゴンのテーマ
ストファイ寄りな見た目なのに
こんな時ですら空気キャラの
杉が気の毒でたまりません…
プギャー
462 :
1/3:2009/04/02(木) 21:01:49 ID:???
第258話 都立・竹の塚高校
渋谷、宮下公園でのストリートファイトの後。駅にて寮への帰路につく皆に奥野たちは謝る。
大変なことに巻き込まれはしたものの、とにかく怪我がなくて何より。
迷惑をかけたこともそうだが、奥野は練習中のビデオカメラのことにも触れる。
撮影に気がつかれたときには「普段から練習で使う」ととっさに言い訳をしたが、
本当はやはり対戦相手の研究に使っていたのである。
この前のことも浜高とは春の選手権で当たる可能性があったから、情報収集をしていたのだ。
「ボクたち都立・竹の塚は、いつも、こうやって勝ってきたんです」
練習試合で戦ったメンバーの中に強いと思った奴がいたかどうか、奥野は浜高の皆に率直に尋ねる。
巧と闘った奥野、三溝と闘った下津田。その辺りは確かに強く、他の皆も苦戦したのだが――、
「でも、皆さんが本当に持ってる技を全て出していたら、ウチのメンバー全員負けてましたよ」
奥野は素直に自分たちが劣っていることを認めた。
「でも、これでもみんな強くなったんですよ。初めの頃に比べたら」
もともと奥野と下津田は小学校から地元の道場に通っていた。
そこは熱心な道場で、子供の大会でも彼らはそこそこいいところまで行っていたそうである。
しかし、そこでの仲間たちは中学、高校と進むうちにバラバラになってしまった。
東京は私立高校が多く、仲間たちも私立に行く者が多かったのだ。
「東京の公立と私立の格差ときたら、それはスゴイもんですよ」
柔道でも野球でもサッカーでも、全国大会で出てくる東京の学校は大抵が私立高。
集められた優秀な生徒。スカウトしてきた監督・指導者。贅沢な設備。
スポーツする環境ではそもそも天と地の差があるのである。
差があまりに歴然とつきすぎてしまって、生徒もスポーツで頑張りたければ最初から私立を受けるしかない。
奥野も下津田も兄弟が多く、家も裕福ではなかったので、
高い金を払って柔道のために私立に行くことはできなかったのであった。
463 :
2/3:2009/04/02(木) 21:02:34 ID:???
最初に竹の塚高の柔道部を見たときに奥野たちは驚いた。
部員は10人いたはずなのに、そのうち7人は幽霊部員。部活があるのは週に三日という体たらく。
つまりもう最初から、どう頑張っても私立に勝てるわけがないと諦めてしまっていたのである。
奥野も最初はお気楽でいいと考えていたが、マネージャーの美奈に「それじゃいけない」と叱られた。
彼女は奥野たちが通っていた道場の一人娘で、やはり小学校からの付き合いなのだそうだ。
それからは色々なことをした。
やる気のある者を集め、練習日を増やし、道場の先生――美奈の父親に練習を見てもらったり。
「強そうな学校に出稽古に行ったり…」「ええ」
彼らのその工夫と頑張りは浜高と重なるところがあった。
ビデオで相手の研究というのもその一つ。
とにかく考え付くことはなんでもして、それでここまで来たのである。
奥野は改めて謝るが、似た者同士で気持がよく分かるだけに、
浜高側からはこれ以上、もう言うべきことは無かった。
「東京の学校も大変なんだね」「“打倒私立”か……」
帰宅する奥野たちとは途中の駅でお別れ。
美奈は明日には浜松に帰る皆に、今日のお礼にお土産を持ってくるという。
「なに、なに。雷おこし?」「そ、そうじゃないですけど……」
「きっと気に入ってくれると思います。ウフフ」
そう微笑む彼女。とにかくこうして浜高柔道部の東京での休日は終わった。
464 :
3/3:2009/04/02(木) 21:04:17 ID:???
明けて12月31日――。
今日の午後の新幹線で帰る浜高のメンバーにとって、立体大での練習はこれが最後。
巧は打ち込みをしながらも、その意識は別の方向に向いていた。
(全日本チームの国際強化選手、柴田辰徳さん。あれから一度も乱取りさせてもらえねえなあ……)
と、そこで伴監督が巧の背負いを見てくれることに。
肘の位置、足の位置、体の軸、それこそ数センチの単位で細かく注意され、繰り返させられる。
その様子を柴田たち大学生が脇で眺めていた。
「あいつ、現役時代『背負いの名手』といわれた伴先生に教わってら。いい経験になるぜ」
「さあなあ。なるかどうかは本人次第だ」
結局、全部打ち込みを見てもらった巧は、終わるころには息を切らして疲弊していた。
丁寧に練習を見てくれた伴監督に、西久保は礼を言う。
「それにしても、オレは背負いが得意じゃなかったから、今まで分からなかったけど、
背負い専門の先輩にかかっちゃ、巧の背負いもまだまだ欠点だらけだったんスねえ」
西久保のその言葉に、伴監督は「どうかな?」と笑みを浮かべる。
「少なくとも、オレが監督になってから、見てきたなかじゃあ…一番欠点の少ないヤツだったよ」
驚く西久保。伴監督は巧を面白いヤツだと評し、もう一度チャンスをやろうかと言い出す。
監督は一軍二軍に分かれて乱取りを始めようとする部員たちを呼び止める。
「今日は最後だ。特別に一軍も二軍も混ぜて乱取りしよう。無論、高校生の諸君もどんどん上の者にぶつかってもよし」
「チャンス!」喜ぶ巧。(やれやれ、アイツ、きっと来るだろうな)ため息をつく柴田。
ところが――開始の号令と同時に浜高メンバー全員が柴田に向かって駆け出した。
「お願いしますっ!」
「なんだおまえら!どうせオリンピック出るような人と乱取りすれば、将来自慢できるかもしれないとか思ってるな!?」
「それもある!正直!」「だいたいテメーは一回やってんだから引っ込んでろ!」
結局、順番決めはジャンケン合戦になり、一番を取ったのは斉藤。
(こいつら……なんだかなあ…)
道場の一人娘兼マネージャーが彼女とかそんなエロゲあるわけないだろ。
幼なじみ兼マネージャーが彼女というエロゲならそこにあるわけだが。
つか優秀な人材なら実家がお金無くても私立は特待生でとるでしょ
子供の大会でそこそこじゃあ特待生は無理だろ。
巧だって中学までは全く無名だったわけだし。
高校で特待生とるくらい柔道に力入れてる学校も少ないだろうしねえ
470 :
1/3:2009/04/03(金) 21:01:42 ID:???
第259話 浜高VS国際強化選手
「いっしょおおっ!」
掛け声とともに斉藤の体が宙を舞う。
さすがはオリンピック代表候補・柴田。斉藤がいともあっさりと投げられてしまう。
斉藤は矢継ぎ早に攻めていくが、それでも柴田から見ればまだまだの領域。
(くっ!やっぱ強い!でも、せっかくこんな人と乱取りするチャンスだ、何か残さないと……)
そこで斉藤が仕掛けたのは――跳び関節!
しかし柴田はそれにも即座に反応し、斉藤を畳に払い落す。
「キミは変わった技を使うなあ。一瞬、ヒヤッとしたよ」
すみません、と謝る斉藤。交代時間になり彼はここまで。
「次!お願いします!」
二番手はやる気満々の三溝。そして他のメンバーたちも視線を向けてくる。
(こいつら本当に全員オレと乱取りする気?あーあ)
苦笑するしかない柴田であった。
体格においては圧倒的に勝る三溝ですら、一本を取れる形でいともたやすく投げてしまう柴田。
そこで三溝は柴田の片腕を捕まえて力で振り回し――その肘関節を狙う。
立ち姿勢からの関節技。しかしその狙いも見抜かれ、抜けられてしまう。
(あぶね――こいつも今、関節を狙ってきた…)
斉藤も三溝も惜しげもなく裏技を使う。
オリンピックに出るような人と乱取りをすれば将来自慢できるから、とか言っていたが、
ふたを開けてみれば真剣勝負で柴田に立ち向かっていた。
三番手の挑戦者は杉。
「お願いしますっ!」
471 :
2/3:2009/04/03(金) 21:02:26 ID:???
斉藤、三溝に続き、杉、宮崎たちも、柴田を相手にそれぞれの得意技、そして裏技をかけていった。
当然の如く、それらはなかなか通用しないが、何を仕掛けてくるか分からないだけに、柴田も気を抜けない。
しかし柴田は彼らの裏技をことごとくかわし続けていく。
そして最後の挑戦者は、巧である。
「乱取りお願いします!」
(コイツ、最後に来るとは……ジャンケン一番負けたんだな……)
始め、と号令がかかったにもかかわらず、気抜けしたようにため息をつく柴田。
「全くおまえらおかしなヤツらだぜ。投げても、投げても、ビビりもせずオレに立ち向かって来るし、
一人一人、変な技を使いやがるし。一体何考えてんだ?」
その問いに巧は組み合ったまま、真正面から答える。
「千駄谷学園を破って……春の選手権で優勝っス!」
「マジか…」巧の返答を聞き、柴田に笑みが浮かぶ「よっ!」
柴田の内股。だが、巧はそれを踏み込んでかわした。「なに!?」
(今だっ!)
巧が腕返しに入る。柴田の左腕を軸に捩じるように一回転する巧。
ギリギリのところでそれをこらえる柴田。だが――さらにそこから腕返し!
「おおっ!?腕返しを二回転!?」
472 :
3/3:2009/04/03(金) 21:03:21 ID:???
伴監督ですら驚かせたその技は、柴田の体を完全にひっくり返し、その背中を畳につけた。
跳ね起きた柴田は信じられないという表情で巧を見つめる。
仕掛けた側の巧でさえ、その事実をにわかに認識できず「…………」わずかな間をおいて「や、」
「…った――っ!」
歓喜が彼の中で爆発した。
技の性質上、たとえ相手の背中を畳につけても「有効」としか認められないが、
巧が初めて実力で柴田を投げた瞬間だった。
周囲の誰もがその光景に呆気にとられる中で、柴田が笑い出す。
「すまんすまん、今までちょっと遊んじゃったよ。今から本気出すぞ高校生!」
「ハイ!望むところっス!」
「凄えっ!ケンケンでこらえてるのを足を入れ替えて刈り倒したっ!」「普通できねえぞ!」
柴田は彼の持つ最高のテクニックをもって巧の相手をしていた。
一切の手を抜かない。それは相手に対する無言の敬意を示すものであった。
(春の選手権か……こいつらなら……ひょっとして……)
こうして、浜高の東京での冬合宿は終わる。
そして、彼らは確実に大きな収穫を得たのであった。
473 :
1/3:2009/04/04(土) 21:00:10 ID:???
第260話 新年の誓い
浜松に帰る浜高メンバーの見送りに、東京駅まで来てくれた奥野たち。
次に彼らと会えるのは日本武道館、春の高校選手権の本番である。
奥野と美奈が助けてもらったようだが、大会で当たるようなら負けないと息巻く下津田。
それはこちらも同じだと浜高側も自信を持って返すのだった。
そこで美奈が、先日約束した“お土産”を手渡す。
袋を開けて中を見ると、そこにはビデオテープが一本。そのラベルには『千駄谷学園』とあった。
「都大会での千駄谷の試合を撮ったものを、編集したものです」
三年生が抜けた後の今、現在の千駄谷学園を浜高は知らない。鳶嶋や橘以外のメンバーもこれで分かる。
思わぬプレゼントを持ってきてくれた彼女に、全員でやんやの喝采を送るのであった。
「浜松まで連れてっちゃおう。いっしょに年を越そう」「ちょ、ちょっと!」
最後に、奥野から一言。
「それを見て驚くと思います。新生・千駄谷は強いですよ」
代表して礼を言う巧。そして新幹線のドアが閉まる。
(本当にありがたいよ……都立・竹の塚も苦しいだろうけど、がんばってください。オレたちもがんばります)
明けて1月1日。
浜高のメンバーは全員で初詣にやってきていた。
(春の選手権、勝てますよ―に!)
全員の願いは一つ。心の中でその声が一致した――かに見えたが。
(あと今年こそかわいい彼女ができますよーに!)〔杉・宮崎〕
(保奈美のガードが少しゆるくなりますよーに、)〔巧〕
不純な願いをついでに行うバチあたりもいた。
474 :
2/3:2009/04/04(土) 21:01:24 ID:???
「ちょっとあんたら、後が詰まってんのよ!どいたどいた」
後ろで順番を待っていた桜子が、どこうとしない杉の帽子を奪い取って急かす。「脱がすなっ!」
そもそも杉は寺の息子なのに、神社にお参りなどに来て良いのだろうか。
続いて女子たちの番。巧は保奈美に何を願ったのか尋ねると、
「みんなが春の選手権で優勝できますように」だそうで。まさにマネージャーの鑑。
それでは麻理は?
「オリンピックに出れますように」
そこでミリアンとまた試合できますように――。
実際、彼女はそのぐらい強いのだ。つい忘れてしまいがちだが。
最後に桜子は。「ん――?別にたいしたことじゃないよ」
「今年もいい年でありますように、ってね」
「ホントかよ?」「今年こそ男を捕まえられるようにとかじゃねえの?」
「あんたらと一緒にしないでよね――!」
新年早々、桜子は杉と茂にコンボライジングニー(PPPK)を決めた。
次は先生に年始の挨拶に。というわけで倉田家までやってくると、龍子先生が出迎えてくれた。
何やら賑やかな様子だが、誰か先に客でも来ているのだろうか。
「お客さんっていうか…ヨッパライが二人いるだけだけど」
「たべる前にのむっ!なんつってね――」「酔っとるな――キミ!」
おせち料理を挟んで、典善と西久保がとっくに出来上がっていましたとさ。
475 :
3/3:2009/04/04(土) 21:02:21 ID:???
「おっ来留間いたか!ちょっと来い!」
西久保が麻理を呼び、典善と共に彼女にお年玉を渡す。
それを見ていた他のメンバー、自分たちももらえるものと期待したのだが――、
「おまえら高校生になっても、まだお年玉とかもらってんのか!」「え――っ!?」
ものすごく理不尽なことを言われる。
「だって麻理ちゃんだって高校生じゃん!」「バ――カ言っちゃいかん!」
「コイツのどこが高校生だっ!」
「そんなこと言ったって、あんた、高校でコイツに柔道教えてるんでしょうが!」
ショックを受ける麻理。
酔っぱらいどもは、もう完全に理屈が通らなくなっていた。
せっかく皆が集まっているので、倉田家のテレビで竹の塚からもらった千駄谷学園のビデオを観ることに。
映像はいきなり試合からスタート。鳶嶋と橘はそれぞれ副将と大将であり、先鋒はというと――。
「なんて読むのこれ?」「御厨(みくりや)」「へ――っ」「むつかしー名前」
千駄谷学園先鋒・御厨太郎。彼はまだ一年生らしかった。
身長は160センチで宮崎と同じ。美奈の書いてくれたメモによると、得意は背負いということらしい。
というところで早速、御厨が背負いで一本を決める。
相手はかなり大きいのに、奇麗に投げ飛ばして見せた。
「西久保さん、どうしました?」「いえ……ちょっと」
一緒にビデオを観ていた西久保が黙りこくる。
御厨はさらに連勝を続け、そのまま五人抜きを決めてしまう。
そしてその背負いを見ていた西久保は確信した。
「この背負いは…そっくりだ。石丸の背負いに。12年前、オレがやられた石丸修一の、ヤツが使う背負いだっ!」
西久保が高校生だった当時、今の巧よりも鋭い背負いだったというライバル・石丸。
(あの石丸って人直伝の背負い…一年生の御厨……!)
コンボライジングニーってバーチャか?
先生ハマってたりするのかな。
ミッタンは「姉がもう少し優しくなりますよーに」とか祈ってるのだろうか
西久保さんの年齢がほぼ確定したわけだが。
479 :
1/4:2009/04/05(日) 21:01:38 ID:???
第261話 脅威・千駄谷学園
『新生・千駄谷は強いですよ』
奥野が語ったその言葉に、誇張表現は一切無かった。
石丸コーチ直伝という背負い投げで連勝を重ねる画面の中の御厨に、巧は鋭い視線を向ける。
「うわっ!また五人抜き!うそっ!?」
桜子が思わず声をあげてしまったのも無理はない。何しろ――、
「一回戦・二回戦・三回戦と連続で五人抜き……ってコトはっ!計15人抜きじゃないっ!」
いったいいつまで勝ち続けるつもりなのか。
ビデオを見始めた時はいつも通りに騒いでいたメンバーが、
いつしか一言もなく黙りこくっていることに桜子は気づく。
(はっ!まさかビビって声も出ないんじゃあ…!!)
彼女は横からそろりと回り込み、皆の表情をうかがうと、そこには――、
今まさに戦場に立つ侍がごとき、真剣な表情の彼らがいた。
「キレイな技だ。だが、見かけによらず力もあるな、コイツきっと」
「ああ、でなきゃ重量級は担げん」
「加えてスピード。あれだけ速くちゃ、なかなか捕まえられん」
「度胸もあるぜ。一発で懐に飛び込む思いっ切りの良さ」
驚異的な実力を見せつける敵を前に、彼らは怯むどころか正面から受け止め、冷静に分析をしていた。
「背負いの御厨……よーく覚えとくぜ」
御厨以外には誰がいるのか、次鋒以降も見せて欲しいと騒ぎ立てるメンバーの姿。
(フフッ、ビビるどころか火がついたか。いつの間にかこんなに精神的にも成長しているとは…)
西久保は教え子たちのそんな様子を喜ぶのであった。
(もっとも……それ位の気持ちじゃなきゃ、千駄谷学園に挑戦する資格なぞないがな!)
480 :
2/4:2009/04/05(日) 21:02:34 ID:???
ついに御厨が引き分けてその連勝がストップした。
記録は16人抜き。いくら何でも四回戦までくれば、勝ち残っている学校も強くなっているはず。
だが――千駄谷学園は実は一回戦・二回戦をシードしているので、これはもう六回戦なのだ。
六回戦ということは既に都大会の準決勝。相手は強豪、私立の東名大尾山台高。
東名大尾山台といえば、I・Hでも東京代表になっていた全国大会常連校である。
それでも御厨は16人目の尾山台の先鋒を倒してみせた。ここまで戦い続けてバテバテだろうに。
ついに千駄谷学園の次鋒が出る。コイツはどんな奴なのか、皆の目が光る。
(みんな……すごく冷静に観察してる…こんなにマジメな五人は初めてだ…。
それなのに私は御厨くんが引き分けたら自分らが勝ったみたいにはしゃいじゃって…
こんなことで楽観しても実際の勝負じゃ意味ないことなんだ)
自分の振る舞いを恥じる桜子。
そして画面の中では次の試合が始まっていた。
『技あり!』
尾山台の中堅が倒れるが、「えっ?今、どうやって倒したの?」桜子にはその技が見えなかった。
しかし――、
「足技だ」「小外刈り」「下がるところにうまくタイミングをあわせてた」
「技ありっていってるけど、一本やってもいいよな」「うん」
メンバーはその素早い技をきちんと見極めていた。
千駄谷学園・次鋒 滝川。身長170センチ、体重71キロ。
常に優位な組み手を取り、再び技あり。合わせて一本。
「これも足技で決めた。足技の滝川か」
481 :
3/4:2009/04/05(日) 21:03:28 ID:???
対する東名大尾山台も負けていない。
尾山台の副将は滝川と互角に渡り合い、結局、引き分けて終わる。
「ということはつまり、千駄谷の中堅が出てくる!」「安藤忠ってヤツか」
千駄谷学園・中堅 安藤。身長171センチ、体重75キロ。
美奈ちゃんメモの数字を聞いていた杉が、そこであることに気づく。
「今年の千駄谷って…橘を抜かすとヤケに小さくないか!?」
御厨60キロ、滝川71キロ、安藤75キロ、鳶嶋71キロ、橘120キロ。
(平均79・4キロ)
それに対して浜高側はというと、
宮崎65キロ、斉藤74キロ、粉川76キロ、杉83キロ、三溝130キロ。
(平均85・6キロ)
浜高側五人は夏からのトレーニングのために、全体に体重が増えている。
I・H時点では平均体重を取ると最下位ではと嘆いていたほどなのだが、今回は――。
「平均体重、浜高のほうがちょっと上だぞ」「なに〜〜?」
『でやあああっ!』
画面の中では安藤が東名大尾山台の大将を投げ、勝利を決めるとこであった。
その決め技はすくい投げ。細い外見に似合わない、パワフルな柔道をする男だった。
482 :
4/4:2009/04/05(日) 21:04:34 ID:???
『これだけは言っときますけど……それを見て驚くと思います』
巧の頭の中によみがえる奥野の言葉。それはまさに真実だった。
「竹の塚の奥野くんの言った通りだ!驚いた!」
さあ次は鳶嶋・橘の番だと意気込むメンバーだったが、これは都大会の記録。
鳶嶋と橘は一度も出ずに優勝してしまったのである。
「ちくしょーツメが甘いぜ奥野っ!」「もーこーなりゃ練習だ!」
いてもたってもいられず、庭でいきなりスクワットを始める五人。龍子先生が慌てて止めた。
でも、ビデオの後ろの方に個人戦の模様も入っていて、
橘の試合も彼らは見ることができた。
「エライッ!あのマネージャー!」
「奥野くんにも感謝しなさい!」
483 :
業務連絡:2009/04/05(日) 21:05:49 ID:???
次回は一回休載して、単行本26巻のおまけを紹介します。
いよいよラスボスチームの登場か。
大詰めって感じがしてきたな。
485 :
1/3:2009/04/06(月) 21:00:10 ID:???
○単行本第26巻 (表紙:奥野・美奈 裏表紙:粉川巧・近藤保奈美)
・四コマその1
1.新しい担当(ま――た替ったんかい)ニシボリ(25)は
柔道二段で泥棒面のくせにラブコメが好きというこまった男だ。〔全身タイツが似合い〕
西「帯ギュにもっとラブコメ要素いれましょうよ」
河「ラブコメだあ〜〜?」
2.河「じゃあ夏まつりに保奈美がチンピラにからまれて巧がたすけて…とかどうだ?」
西「ゆかた姿はいいっスね――っ!」
3.河「スキーにいって吹雪で遭難、山小屋に二人っきりでとじこめられるとかな」
西「二人で体をあたためあうんっスねっ!」
4.河「……どっかで誰か他のマンガ家がやってるよ。ヤメヤメ」
西「いいじゃないっスか――っ!ワンパターンで結構じゃないっスか、やりましょうよ――!」
本当に困った男だ……。
486 :
2/3:2009/04/06(月) 21:01:35 ID:???
・四コマその2
1.LLPWの女子プロレスラー、神取忍選手と会った。
実は私は前からずーっとこの人をおっかけ続けていたのだった。
2.神取忍はレスラーになる前、柔道の選手だった。日本一に3回もなっている。
柔道時代の彼女は驚くべきことに、トレーニングの内容やスケジュールなど、
ほとんど自分一人で考え、実践していた。これといった師ももたなかったという。
まさに唯我独尊の神取流柔道でトップまで登りつめてしまったのである!
努力とか忍耐とかをこれみよがしにいうのが大キライだったという。
3.浜高の楽しく柔道やって強くなろうというところは、
彼女のそういう記事を本で読んで考えさせられて書いたことだった。
彼女から受けた影響はすごく大きいのだ。
河「そういうことも含め、オレは神取忍に感謝している」
4.河「よし、オレももうちょい神取の男らしさを見ならわなくっちゃっ!」
神(無言で靴を投げつける)
487 :
3/3:2009/04/06(月) 21:02:30 ID:???
○心機一転の第26回 サンデーコミックス名物『絵筆をもってね!』
選評/河合克敏 応募総数:1605点 入選:55点
グランプリ:兵庫県・どいちゃん〔桜子・保奈美・別所(マンガ)〕
1.桜「ねえ別所さん。どーして別所さんの学校の人、応援に来ないの?」
2.別(ニコッ)
3.桜(禁句なのかな……?)
準グランプリ:東京都・後藤光〔桜子(アカンベーアニメーション風)〕
topix:「薩川コーナー」
大分県・麻弥都 和歌山県・葉月西瓜 神奈川県・大槻翔
「松原&薩川コーナー」
大阪府・木立けい 東京都・セブン 大阪府・竹地要 神奈川県・道場六三
福岡県・秘書・誠 愛知県・大山愛子 神奈川県・かぱ子
滋賀県・くじらのたまご〔松原・薩川(きぼぢえ〜)〕
「麻礼葉さんコーナー(25巻で再登場)」
愛知県・チロルチョコ 熊本県・まかぱ
「らくがきコーナー」
岡山県・アースクエイクの誉れ高き4番打者ボブ・ホフマン〔ブラックジャック〕
兵庫県・あおやま〔杉(ハクション大魔王)〕
福岡県・たきと〔美化ドラえもん〕
東京都・レオ〔保奈美(薩川テメエ、ボタン付けに3分もかけんな!)〕
鹿児島県・赤い光弾ジリオンは最高でシタ〔保奈美(クシャミしたはずみでオナラ出たことアリマスカ?)〕
>>484 まだ2年だけどな
三年目はどうなるんだろうか
話の盛り上げ方からして、ここで千駄谷と決着つかないはずないよな。
三年目でいきなり世界編とか始まらない限り、最終回は近いか……。
驚異の一年生が登場するか
巧がオリンピック代表候補になるか
あるいは千駄ヶ谷のラスボスが橘で
鳶嶋との決着は三年の個人戦に持ち込みか
491 :
1/2:2009/04/07(火) 21:01:10 ID:???
道場の壁に張り出された紙には千駄谷学園の選手五人の名前。
「みんな、この名をしっかり覚えろ!ブッ殺してやりたいと思うくらいになれっ!」
「おうっ!」
西久保が檄を飛ばし、いよいよ練習開始。
「それじゃあいくぞっ!新年はじめの練習はランニングからだっ!」「おうっ!」
気合い十分のメンバーが戸を開けて外に出ると、とたんに吹きすさぶ寒風。
「お――うっ!」「おお――うっ!」「おうおううるさいわっ!」
第262話 武道館への第一歩
東京の都立・竹の塚高校が浜高にくれた千駄谷学園の最近の試合を収録したビデオは、浜高柔道部に火をつけた。
I・Hでの敗戦のあと、必ずもう一度全国大会に出るという意気込みで早4か月。
県大会、そして東京の立体大への遠征で、疲れもピークにきていた。
そこに目標でもある“敵”、千駄谷の映像はこれ以上ないタイミングといえた。
画面の中、確かにそこに彼らはいた。
しかし、彼らの眼中には浜高は入ってないかも知れない。それが余計に浜高を燃えさせた!
「待ってろよ!千駄谷ァ!」
「勝って当然ってツラが気にくわねえっ!」
「一寸の虫にも五分の魂ってのを、教えてやる!」
虫よりはもう少しマシだ、とミッタンを蹴っ飛ばす杉と茂。せめて犬猫――と、それでも情けないが。
巧は仲安を連れて鏡の前で打ち込みを始める。
肘の位置、腰の位置、足の位置、それらを自分の目で一々確かめる。
今さら背負いのフォームをチェックしている巧を怪訝に思う西久保だったが、
そこで立体大の伴監督のアドバイスを思い出す。
脇をコンパクトに、足の開きをもう少し狭く、もっと早く回って十分に腰を落とす!
巧の背負いはその強力な引き手が命。肘・腕・肩・背中、
全ての筋肉と腰の回転をフルに使って相手を引っ張り出せ――!
492 :
2/2:2009/04/07(火) 21:02:12 ID:???
石野も一緒に三人打ち込みに変えた巧。
再び背負いに行った、そのとき――!
「でやああっ!」
仲安の帯を後ろで引っ張っていた石野までが、その強烈な引きに耐えきれずにスッ飛ばされた。
板の間に腰を打ちつける仲安。鏡に突っ込んでいたら大惨事だったが、それ以上に――。
(仲安・石野、二人分、投げおった……)
続いては乱取り稽古。巧の相手をしていた斉藤の体が大きく空中に弧を描く。
「よお――しっ!やったっ!」
会心の投げに歓喜する巧。
「たとえ練習中でも斉藤はなかなかキレイに投げられないからなっ!今のはうまくいったっ!」
嫌味ったらしく笑う巧に怒る斉藤だったが、彼は同時に違和感を感じ取っていた。
それを脇で観ていた西久保も――(はっきりとは言えんが……たぶん違う。今までのヤツの背負いと…)
(伴監督がたった一日だけ打ち込みを見てくれただけで……
もとからすげえ背負いだったのを、さらに成長させたってゆうのか?)
浜高が新たなスタートを切ったころにも、各地では予選がくりひろげられ、
有力な学校が次々と代表の名乗りを挙げていった。
関東からは千駄谷学園と並んで優勝候補の筆頭と言われる、東名大藤沢。
関西からは過去に5回この大会で優勝している常連、天味高校。
南からは沖縄尚北。エース玉城の抜けた穴をチーム力で補って進出。
代表52校中、最も重い平均体重120kgの巨漢軍団、広島代表福知山高校。
他、柔道の本場、九州勢も虎視眈々と優勝を狙っている。
春の高校柔道選手権、代表52校が出そろった。
3月、日本一を目指して、彼らは東京、日本武道館に集結する。
巧がすごいのか伴監督がすごいのか分からんが、
確実にレベルアップしたなー。
494 :
1/3:2009/04/08(水) 21:00:59 ID:???
第263話 浜高、1月・2月・3月
○1月7日
大会まであと二か月半。
それまでにやっておかなければならないことの一つに、裏技の改良があった。
杉の裏技、奇襲のすくい投げは横から飛び込む時にバレやすい。
茂の裏技、アマレス式ぶらさがり一本背負いは相手の虚を突く良い手だが、
柔道技のように綺麗には投げられない欠点がある。
そこをどう克服していくか――。
○1月20日
アマレスの技をヒントに裏技を開発している茂は、
週に一度、近くのレスリング部のある高校まで出稽古に行っていた。
三溝は西久保を相手に立ち姿勢から関節を取る練習を繰り返す。
彼にはまだ、裏技に入る前に一瞬もたつく癖があった。
立ち技から関節技に移る技は、スムーズに、一瞬でいかなければ審判に“待て”をかけられる。
途中で相手に感づかれたらまず失敗すると考えなければならない。
斉藤は巧を相手にさらに寝技に磨きをかける。
一つの技を身につけるためには、とにかく何度も何度も練習するしかないのだ。
合宿所のテレビで、メンバーは千駄谷学園のビデオを見返す。
既に何回、いや何十回これを見たか。見飽きるほど見ても本番までの日数を思うと――。
(果たしてオレたち……)(間に合うんだろうか…)
「練習…するしかないな」
495 :
2/3:2009/04/08(水) 21:02:11 ID:???
○2月14日
さながら時代劇の牢名主のように、重ねられた畳の上に並んで座る保奈美・麻理・桜子の三人。
男子メンバー全員で彼女らの前に正座して、何をやっているのかというと――義理チョコの儀式。
この日ばかりは女がエライ。
(最近ゆきづまって暗くなりがちだと思ってたら……基本的にこいつらバカだからな……)
皆の姿に呆れる西久保だったが、自分の分もあると聞き、頬を赤らめて儀式へ参加。
彼にとってバレンタインチョコをもらうなど、実に8年ぶりのことだった。
その後ろで龍子先生が微妙な表情。
(そんなに欲しかったんなら一言言ってくれれば……)
○2月25日
本日は体力測定の日。
斉藤のベンチプレスの記録、87kgという数字に対し、自分は110kgだと自慢げな杉。
その横では巧が垂直跳びで80cmという記録を出していたが、彼自身はどこか不満な様子。
「垂直跳びってさ――バレー部とかバスケ部のヤツらとかだと1m飛ぶヤツいんだよ。悔しいな――」
かく言う彼のベンチプレスの記録は体重差のある杉と同じく110kg。
彼の本当に恐ろしいところは、筋力と瞬発力を同時に持っているということ。
力とバネを併せ持つ理想的な筋肉をしているのだ。
そして最後に三溝が、巧には負けんとばかりにベンチプレス140kgを持ち上げた。
「それにしても……みんなたくましくなったわね――」
感心する龍子先生。斉藤の掲げた科学的トレーニングは確実に実を結びつつあった。
「海老塚さんもだけど……」桜子の握力は38kgに達していた。(16歳女子平均・27kg)
「それじゃサイズ計っておしまいよお」「あーら巧さん、バスト95cmもあるわよん」
「ホホホ、女性陣がくやしがるわ」(距離を取る斉藤)
「だから、何でそこでおネエ言葉になるんだよ!」
496 :
3/3:2009/04/08(水) 21:03:40 ID:???
○3月1日
今日は暁泉学園の面々がやってきて合同練習。常にない刺激が入って密度の濃い練習ができる。
平八郎は浜高の皆が開発しているという裏技に興味を示す。
県大会では藤田相手に試していたが、あの時点ではまだ彼の目から見ても改良の余地があった。
杉はそれを認めた上で、今では90パーセントまで完成したと自信を見せる。
「そいつは興味深いな。良かったら、見せてもらえないか?このオレに」
「ふふう〜〜ん、いいでしょう」
「ぐっ!!」
杉を相手に畳に叩きつけられた平八郎。仰向けになったまま彼は感心する。
「こ……これが“裏技”か」
「杉だけじゃねえぞ。みんなそれぞれ違う技だが、威力は抜群」「もう完璧にマスターしたぜ」
平八郎に完全に決まったということは、全国区の相手にも十分通用するということ。
ここまで指導をしてきた西久保は、それを静かに見つめるのであった。
(フッ、なんとか形になったかな)
そして――3月19日
やるだけのことは全てやった。後は本番あるのみ――。
西久保さんと先生がなんかかわいいんですけど
平八郎もはや雑魚キャラだなw 練習台とは・・・
しかし38キロでスチール缶潰せるか?
あれ、2月14日があるのに3月14日はないの?
桜子あたりが怒るんじゃね?
500 :
1/4:2009/04/09(木) 21:00:56 ID:???
浜松駅新幹線乗り場。ついにこの日が来た。いざ、春の高校柔道選手権へ。
というところで巧が懐からカメラを取り出し、保奈美を一枚。
いきなり写真を撮られて立腹する彼女だったが、それ以上に怒る杉と茂。
「なにはしゃいでんだてめえは?」「遊びに行くんじゃないんだよオレたちは」
これから戦場に赴くというのに、観光気分では話にならない。
だが、もちろん巧もそういうつもりではなく、あくまで闘いの記録を収めるためにカメラを持って来たのだ。。
「それじゃまず出発の記念を一枚」「なぜうんこ座りをする……」
そこにやって来たのは、三工の吉岡先生と藤田。
彼も個人戦の代表であり、同じ新幹線だったのである。
ヤンキーさながらの巧たちの姿に、藤田は小さくため息をついて視線をそらす。
「あっ、あのやろう」「なんだ今の態度はっ!」「あきれてんのよ」
第264話 プレッシャー
春の全国高等学校柔道選手権大会は、3月の20日と21日、二日間にわたって行われる。
20日は男子・女子両方の個人戦。後半の21日に浜高の出番となる団体戦が行われる。
(乗ってからずうーっと沈黙が続いている……)
はたしてどういう巡りあわせか、浜高がとった指定席のすぐ隣に三工の面々が座っていた。
あまりにも重苦しい雰囲気。桜子が小声で尋ねる。
「先生、どうしてこんな近い席とったんですか?」
「とる時は分かんないわよ。近くに誰が席をとってるかなんて」
ごもっとも。
新幹線は途中静岡に停まり――そこで乗り込んで来たのは見知った顔。
女子52kg級代表、三保女子学園の薩川佐代子であった。
501 :
2/4:2009/04/09(木) 21:02:07 ID:???
薩川はそこで麻理と桜子の二人と行き合う。偶然にも同じ列車、同じ車両だったのである。
彼女もこの三か月、みっちりと練習してきたらしく、前よりたくましくなって見える。
静岡を代表する一年生コンビの二人に、桜子は檄を飛ばすのであった。
「ところで松原さんは」「明日の本番になったら見に来てくれるそうです」
そんなこんなで東京・宿舎となるホテルに到着――そのすぐ横にはなぜか藤田たち。
「あーあ、なんかヤな予感がしてたんだよな!」「コイツと寝泊りしろってのかよ!」
「とにかく寝る時ドアのカギだけはしっかりかけなきゃ!」
「先生、今からでも宿を変えましょう。こいつらと同じ屋根の下にいるとバカがうつる」
またもやどういう偶然か、大会中の宿舎まで同じところを予約していたのであった。
「あんたたち、同じ県の代表なんだからいいかげん仲良くしなさい!」
それに比べて仲の良い女子たち。だが、薩川がどこか元気がない。
個人戦の本番がもう明日だから緊張をしているのである。
「今晩ちゃんと眠れるかどうか心配で心配で…」
一番睡眠をとっておきたい夜ではあるけれど、一番緊張する夜でもある。
眠らなければと思うほど逆に目が覚めてしまう。
大きな大会にでる経験が浅い彼女ではなおさらだろう。
「来留間さんはこんなときどうしてるんですか?」「私?」
この道の先達である麻理に薩川は尋ねるが、彼女は答えられず、そのまま考え込んでしまう。
(やっぱり…コイツ緊張というものを知らんらしい……)
さてその夜。まさに薩川の言った通りになっている人物がいた。
男子個人戦出場予定の藤田である。
ベッドの中で何度も寝返りをうち、それでも寝付けない藤田。
彼は部屋から出て、自動販売機でお茶を一本買い求める。ロビーのソファに腰をおろして一服。
(眠れん。こんなこと今までなかった!)
502 :
3/4:2009/04/09(木) 21:03:18 ID:???
男子個人戦は体重無差別。
おそらく、明日対戦する選手は誰もが86kgの彼より大きな選手ばかりだろう。
苦しい戦いになることは間違いなかったが――しかし。
(そんなことは最初から分かってたはずだ!情けない!今まで練習してきたことはなんだったのだ!)
自らを叱咤する藤田であった。
そのとき、ロビーにやって来たのは巧である。
先ほどまで保奈美と談笑していた彼を、どこまでお気楽なのかと藤田は馬鹿にする。
「てめえこそ個人戦、明日なんだろ。まさか緊張して眠れないんじゃないんだろうな」「バカ言え」
強がるものの、図星であった。
巧たちも明日、個人戦を見に行く予定なのだという。もちろん藤田ではなく麻理の応援に行くわけだが。
そのとき、藤田は巧が手にしているものを見て驚いた。「お、おまえそれ…」
彼が自販機で買ってきたのは、よりにもよって缶入り汁粉。「あ?」「い、いや、なんでもない」
巧はそれを一気に飲み干すのであった。
懐から取り出したカメラで巧は藤田をいきなりパシャリ。
思わず激昂する彼だったが、フィルムは入っていなかった。
ただの顔を撮ってもフィルムの無駄と言い放つ彼は、さらにとんでもないことをのたまう。
「ついでだからコレで、明日おまえが一本負けするところ撮ってやろうと思ってんだ」
常になく嫌味たらしい態度の巧。
「ああ、でもオレらは午後から見に行くわけだからぁ……
せめて三回戦ぐらいまでは勝ち進んでもらわないと困るなあ…」
撮れない確率の方が高いなあ、と残念がる彼に、藤田は「撮れるわけがない」と返す。
「なぜならオレは最後まで負けはせんからだっ!!藤田恵はこの個人戦を優勝する予定だからなっ!」
503 :
4/4:2009/04/09(木) 21:04:26 ID:???
「きさまの愚かな企みなど徒労に終わる!せいぜい指をくわえて見てるがいい」
そう言い捨てて藤田は去る。
「フン、やってみろ!」
巧はそう返しつつも、その表情には小馬鹿にした雰囲気は一切無かった。
部屋に戻ってきた藤田は巧の子供っぽい態度を愚痴るが――ベッドに入るとすぐに寝息を立て始めた。
巧とやりあったことで知らぬ間に緊張がほぐれていたのである。
ただ、そのいびきに同室の関谷が迷惑を被ることになったが。
3月20日 AM8:30 東京武道館
『ただいまより、全国高等学校柔道選手権大会を開催しますっ!』
恵ちゃん緊張なんて可愛いじゃないか
眠れねーのにカフェイン入ったお茶飲むなよ藤田。
そして巧は何飲んでやがるw
506 :
1/3:2009/04/10(金) 21:01:16 ID:???
第265話 ふっちん再び
今年も春の訪れとともに始まった全国高等学校柔道選手権大会。
一日目の個人戦は男子の無差別級と女子の体重別7階級が行われる。
地方予選を勝ち抜いて全国から集まった選手の数は357名。
その中で、ひときわ注目を集めている選手といえば――。
『女子48kg級の来留間麻理ちゃん、高校一年生。
昨年の12月に福岡国際女子柔道大会で彗星の如くデビューし、優勝をさらった少女です』
今日もその実力を証明するかのように、一、二回戦を背負い投げで一本勝ち。
文句なしに48kg級の優勝候補筆頭である。ところで――、
アナウンサーの後ろで先ほどからどこかで見たような人影が。
「こらっ!カメラの前でウロチョロしちゃいかん!」
ディレクターに怒鳴られて退散していく、髪を左右で結んだ少女。
(今は一人だけチヤホヤ騒がれていればいい!来留間麻理…
でも、この大会が終われば日本中の注目は私と半分っこよ)
(今まで高校柔道界の隠れたナンバーワン美少女!
でも今日からは、日本中が知ることになるのよ、この乙淵ふねの存在をねっ!)
「日本中が?いくらなんでもテレビ画面のすみっこでウロチョロしてるだけで有名になれるわけないじゃん」
「誰がウロチョロしてるだけなんだよ!あ――っ?」
友人のツッコミに美少女(笑)が台無しの凄い形相で反論するフネ。
どうも彼女は今回、本気で優勝を狙っているらしいのだが。
そんな大風呂敷を広げるフネに、友人は分け目にチョップを入れる。
「アタシはいつでも本気なの!確かに八月のI・H、11月の強化選手選考会と
続けて来留間に負けてしまった、惜しいところで!」
「グーでなぐるかあ?」「どこが惜しいところなんだか。二つとも一分以内の秒殺なのに」
「だからふっちん、今日は52kg級に階級上げたワケ!
私の実力なら一階級位上げても十分優勝狙えちゃうってカンジ?」
507 :
2/3:2009/04/10(金) 21:02:10 ID:???
52kg級になっても変らぬプロポーションよ、などとノリノリの彼女に対し、友人の辛辣な一言。
「ようするに、来留間にはかなわないから逃げたと」
「何か言ったか、おらあ!?」「はうぐぐぐっ、何も言ってません」
友人の襟首を捕まえて揺する彼女の姿に美少女(笑)の面影などかけらもなかった。
「おっと、こうしちゃいられない!早く52kg級の会場に行かなくちゃ、ふっちんの出番になっちゃうん!」
意気揚々と会場に乗り込むフネ。その目の前で――「えっ?」
薩川がキレイに内股を決めた。
「よしっ!いいぞ薩川!」応援しているのは松原さん。今日は髪を下ろして私服姿です。
「な、なかなかやるじゃない?」
「三保女子学園の薩川佐代子だって。まだ一年生よ」
思わぬ伏兵の登場に、とりあえずマークしておく相手かもしれないと考えるフネ。
そのとき――、
「さ――っちゃん!やるねー!見事な一本勝ち!」
フネの目に見覚えのあるポニーテールが飛び込んできた。
松原・薩川とじゃれ合う桜子の姿。これも因縁というものか。
これはどうしても薩川を潰さなくてはならなくなった、とフネは決意を新たにする。
「少々反則スレスレの手を使ってでも!」
「アンタ、思いっきりでかい声でなに口走ってんのよっ!」
そのとき、浜高の男子メンバーが練習を終えて試合場に到着。
順調に勝ちぬいている県代表の女子たちを称賛するが、その一方でまた凄いことになっているところもあった。
508 :
3/3:2009/04/10(金) 21:03:21 ID:???
『ハイ、こちら第一試合場です。こちらでは唯一の男子の階級、無差別級の試合が行われています。
無差別級といっても実際は体重100kg前後か、あるいはそれ以上の重量級の選手が八割を占めています。
しかし、そんな中でまさに「柔能く剛を制す」というカンジで奮闘している86kgの選手がいます!』
『それが三方ヶ原工高の藤田恵くんです!』
藤田は一回戦、30kgもの体重差がある愛媛新多高校の天地に有効一つを守って優勢勝ち。
二回戦では秋田工大附属高の大島を相手に旗判定で勝ちを収め、
三回戦では必殺の小内巻き込みでついに一本勝ちを披露した。
とうとうベスト8までコマを進めた藤田。
無差別級で彼がどこまで上位に食い込めるか、ちょっとした注目の的になっていた。
持ち上げすぎではないのかと批判する巧だったが、どうも悔しかったらしい。
「でも私はちょっと見直しちゃったね」
「すごいですよね――」
「かっこいいですよね、藤田さん」
対称的に女子の反応はすこぶる良好。特に薩川さんの頬が何やら赤くなっているご様子。
そして、快進撃を続ける藤田を注視していたのはなんといっても――。
「藤田恵か……意外な伏兵が現れたな」
千駄谷学園コーチの石丸。そして優勝候補最右翼の橘である。
「面白くなってきたな、なあ、橘」
「はあ……」
その頃、フネは麻理と薩川の足をロープで引っ掛けてやろうと、
子供のような罠を仕掛けて待ち構えていた。
「ホホホ、飛んで火にいる夏の虫…」
「バカなマネはやめろっての!」
こりゃあ…
「麻理or桜子が足を引っ掛けるも
むしろそのまま馬鹿力で引っ張られてフネ撃沈」
のオチかな
ふwwwっwwちwwwんww
>>505 え、お茶って飲むと眠れなくなるの?生まれてからこの方お茶ばっか飲んでるが何かあったことないぜ・・・
お茶はカフェインがあるからな
513 :
1/3:2009/04/11(土) 21:02:10 ID:???
第266話 個人戦のゆくえ
春の高校選手権個人戦で、特にマスコミが注目していたのはこの二人。
福岡国際女子・優勝で一気にオリンピック代表の有力候補とまでいわれるようになった、浜高の来留間麻理。
そして堂々、男子個人戦の第一シード選手に選ばれている、千駄谷学園・橘大樹。
二人とも全く危なげなく、準決勝までの試合を勝ち進んでいった。
その一方で、本来中量級に相当する体格で重量級をつぎつぎと倒していく藤田恵の存在が、
トーナメントが進むにつれ、徐々にクローズアップされていった。
(くそー、あのバカ、とうとう準決勝も勝ちやがった)
藤田が一本取られるところを撮るためのキャメラを用意している巧は微妙な表情。
(凄いなー、藤田さん。来留間さんと並んで我が県の誇りだ)
試合を終えて戻る彼を見つめる薩川の顔がどこか紅い。(わたしもがんばらなくちゃ!)
女子52kg級準決勝第二試合、薩川に対するのは――。
「白、乙淵ふね選手!」
「げっ!フネッ!」
思わぬ対戦相手に応援していた桜子は飛び上がって驚くのであった。
試合前――。
「フフフフ、今度ばかりはアタシも悪魔と取り引きした魔女といわれても仕方ない…」
筋肉痛用の軟膏をその右手にすりこむフネ。
何をしているのかと問う友人に対し、目をつぶっていてくれと彼女は言う。
仕方なくそれに従う友人の目の下に、フネが軟膏をそっと塗ると――。
「ああっ!涙が止まらない!」
「ホホホ!この筋肉痛の薬には目がスースーする成分がはいってるのよ!」
メントールくさい手を得意げに彼女は示す。
「これを寝技とかでもつれてる時に、こっそり敵のカオにすりつけてやったらどうなる!?」
「え――っ!目つぶし!?」
514 :
2/3:2009/04/11(土) 21:03:02 ID:???
顔に手をかけた時点で反則なのだが、こっそりやればばれない、と彼女は悪びれもしない。
(そうアタシは勝つためには手段を選ばない魔性の女!)
そして始まる薩川対フネの準決勝。
薩川を心配する桜子の様子に、松原がどういう相手なのかと尋ねる。
「あぶねーヤツだからね、フネは。麻理ちゃんにビンタかましたり、I・Hの決勝戦をジャマしようとしたり」
「ど、どーゆうヤツなんだ、それ?」
桜子が薩川に注意を促すが、そんなことを考える暇も与えないとばかりにフネが速攻を仕掛ける。
組んでいきなりの巴投げ。だが薩川は冷静にその引き手を切って外す。
巴投げ失敗で無防備に畳に寝転がるフネ。薩川はチャンスとばかりに寝技に入ろうとする。
だが――それはフネの計算通り。
(目つぶし攻撃!くらえ!薩川!)
見えない凶器を仕込まれたフネの右手が、薩川の顔面に向かってのびる――!
が。
薩川はその手をあっさりとよけ、そのままフネを捕まえて押さえ込み。
「よーし肩固め!これはとれないぞ!」「じゅ、15秒しかたってない…」
歓喜の松原と、拍子抜けの桜子。
応援席から観ていた斉藤も、まるで意味が分からなかった。
「何だったんだ、今の?巴投げが失敗してピンチになったと思ったら……
どうぞ肩固めにはいってくださいとばかりに右手を上げた…」
フネはジタバタと抵抗するものの、完璧に入った肩固めが外れるはずもない。
そのまま時間が経ってブザーが鳴る。
薩川佐代子、決勝進出。
乙淵ふね、準決勝で敗れる――。
515 :
3/3:2009/04/11(土) 21:04:46 ID:???
試合後、友人たちがフネを慰める。考えようによってはこれでよかったのかもしれない。
もし目つぶし作戦が成功していたら、薩川陣営に抗議されて反則負け、
あるいはもっと大問題になって出場停止ということにいたかも。
「これを不幸中の幸いと思ってさ、もうズルするのはよそうよ!」
「そうそう、だってふっちんズルしなくたって、もともと強いじゃん!
今日はズルなしで準決勝まで行ったんだし」
そんな友人たちに対し、フネはやっと自分の才能が分かってきたかと得意がる。
「でも、そのなぐさめ口調やめてよねっ!
だいたい、こんなケチな大会で負けたって、アタシはぜーんぜんショックなんて受けてないんだからっ!」
そう嘯く彼女の目には光るものが。
友人にそれを指摘され、フネは思わず手でその涙をぬぐう。
「いで――!!うっかりまだ薬ついてる手で目をふいてしまった!!」
薬の作用で彼女は涙が止まらなくなってしまった。
そこに通りかかる桜子たち。
「あんなに泣いてる……」「アンタあのコのことひどく言ってたけど、そんな悪いヤツにはみえないぞお」
事情を知らない薩川と松原には、フネが敗戦のショックで号泣しているかのように見えた。
(おっかしーなー…そんなタマじゃないはずなんだけどなー)
決勝戦進出選手はこれで全部出そろった。
そして15分後、ついに……藤田と橘の男子個人戦決勝が始まる。
試合直前でもかまわず、巧は藤田の前に進み出る。
「負けたら、撮るぞ」「負けるか!バカが」
千駄谷学園・橘大樹。
三方ヶ原工業高校・藤田恵。
両者が試合場で対峙した。
フネかわいいよフネwwww
愛すべき悪役だなフネ。
何か企んでてもバカっぽくて陰湿さがないのがイイ。
周りの友人たちにも何だかんだで愛されてるよな、ふねw
519 :
1/3:2009/04/12(日) 21:04:19 ID:???
第267話 藤田VS橘
わずか体重86kgでついに決勝まで勝ち上がってきた赤、藤田恵。
対する白は第一シード、橘大樹。ここまでオール一本勝ちで、今日は絶好調。
試合開始から藤田は組手を嫌い、一定の間合いを保つ。
橘との対戦経験がある杉が、そのときのことを思い返す。
「捕まった後、何もできないまま一発で投げられた。
今までであったことのないようなむちゃくちゃなパワーだった」
たとえ藤田でも、真っ向から組んでは勝ち目がない。やはりつかず離れずのところでよく動き、
相手にいいところを持たせず、一瞬の隙をついて素早く技をかける――。
無差別級では小柄な藤田が橘に対するにはそれ以外にない。
というところで藤田が袖釣り込みを仕掛けようとする。
が――「おらあっ!」
技に入ろうとする直前、橘は藤田の釣り手を左手でつかみ、力ずくで返してしまう。
体ごと持っていかれかけた藤田は捕まっている腕を軸に回転してそれを外し、難を逃れる。
「そう簡単にはいけねえようだな」「ふう、それにしてもやっぱ凄えパワーだ」
杉に浮かぶ冷や汗。巧は安堵の息を吐く。
「みんなやっぱり藤田くんにがんばってもらいたいんだね。真剣に見てるもん」
そんなことを保奈美に言われ、
「別に、これは団体戦になったら、橘と戦うことになるから、真剣に見てるんであってさ」
杉はそんな具合にごまかし、巧は黙ったままだった。
そのとき「橘ァ!」千駄谷の石丸コーチが檄を飛ばす。
「もっと積極的にいけっ!4分間、攻めて攻めて攻めまくるのが千駄谷柔道だぞ!」
千駄谷学園レギュラーメンバー勢揃い。
橘はその声に呼応するかのように藤田に攻めかかる。
520 :
2/3:2009/04/12(日) 21:05:16 ID:???
藤田の奥襟を捕まえた橘。
だが、藤田は冷静に頭を抜き、逆に一本背負いを仕掛け返す。
しかし二人の体重差は34kg。藤田は橘を担ごうとするも持ち上がらず、
不発かと思われたそのとき――巧の声が飛んだ。
「ケツ上げろっ!巻き込めっ!」
「うおおおっ!」
一度は止められかかった背負い。
しかし藤田はそこから両脚を伸ばし、橘の体ごと畳に転がる。
「技あり!」
『投げた、投げた、橘思わず一回転!藤田、橘から技ありを奪った――っ!』
場内に湧き上がる大歓声。
「凄い!あんなに大きな人を投げた!」
大喜びの薩川さん。
そして――、
「技あり……」
目の前の光景が信じられないといった風情の巧。
「今、なんか声が出てたね巧くん?」「うっ!」
桜子に突っ込まれ、彼は言葉を詰まらせるのであった。
そこで審判の「待て」がかかり、試合は仕切り直しになる。
(どうだ橘!体重差が30kg以上あろうとも投げてやったぜ!)
521 :
3/3:2009/04/12(日) 21:06:27 ID:???
これまで鉄面皮を崩さなかった橘の顔に浮かぶ、驚きの表情、そして汗。だが。
「なにをしとるか橘!自分の柔道をしろっ!」
石丸コーチの声に彼は冷静さを取り戻す。
「はいっ!」
試合再開。と同時に再び奥襟を取ってくる橘。
それならば、と藤田も先ほど同様、頭を抜き、一本背負いを仕掛ける。
だが、今度は橘もそれに対応する。落ち着いて引き手を切り、背負いを潰す。
カメになった藤田に寝技を深追いせず、「待て」がかかって開始線へ戻る。
そしてまた再開と同時に奥襟――。
単調な仕掛けを繰り返す橘に対し、藤田は今度は足を取りに行く。
が、これは内股で切り返され、もつれて場外。
技ありを取った後も、先手を取って積極的に攻めていくのは藤田の側。
このままいったら勝てそう――と、笑顔の薩川さん。
またも奥襟を取っていく橘。
同じことを繰り返す彼を石丸コーチは怒ることもなく、静かに呟く。
「そうだ橘、おまえはあの柔道スタイルを貫けばいい。そうすれば必ず勝つ!」
隠してる…
橘絶対なにか隠してる!
巧が声出したところでぐっときた。
あと薩っちゃんかわいい。
524 :
1/3:2009/04/13(月) 21:04:26 ID:???
第268話 怪物・橘 大樹
猛反撃に転じる橘。藤田に開始30秒で技ありを取られた彼は、思わぬ苦戦を強いられていた。
ひょっとしたらこのままいって勝てるかも――と、桜子。
だが、巧にはこのまま何もなく終わるとは思えなかった。
そんな巧の態度を桜子はからかう。藤田の背負いの時に声を出していたくせに。
「ケツあげろ――っ!だって、よりによって」「てめ、ブッ殺されたいのか!」
そんな周囲の喧騒をよそに試合は続く。
なおも橘に奥襟を取られたままの藤田。
そのとき――橘の支え釣り込み足。
きれいに足を払われ、藤田は畳に転がる。「有効!」
「支え釣り込み足一発で?」「虚をつかれたかな!?」
軽い足技で簡単に倒された藤田に斉藤と茂は驚き、巧は無言で見つめる。
橘はそのまま寝技に入ろうとするが、そこで石丸の声が飛んだ。
「立て橘!寝技はほっとけ!ここは立ち技勝負だ!」
橘は寝技が下手なのだろうか。ともかく開始線に戻って試合再開。
「なんかいとも簡単に奥エリとられるようになったな」
本来ならつかず離れずの位置をキープするのが藤田の作戦のはず。
だが――そこで斉藤が気づいた「うっ!まさか!!」
巧も頷き、それを肯定する。
「そう、いつもの藤田の動きじゃないだろ。たぶん、そうとう体力を消耗している」
「そんなバカな!あの藤田がバテてるだって!?」
茂が驚きの声を上げた。
「だって藤田は県大会の時、オレや三溝や杉を倒して、巧がやっと止めたんだぜ。
こと持久力に関しては、悔しいが、そんじょそこらにないもん持ってるはずだ!」
525 :
2/3:2009/04/13(月) 21:05:36 ID:???
そういっている間にも――橘の相手に覆いかぶさるような小外掛け。「うおっ!」
なすすべなく倒される藤田。「技あり――!」
ついにポイント逆転。
橘はやはり寝技で深追いせず立ち上がる。
その彼を悔しげに睨みつける藤田は、息が上がり、滝のような汗が流れ落ちていた。
「本当だ……完全にバテている」「あの藤田が……」
信じられないといった表情の三溝と茂。
「橘と試合する選手は…必ず3分間でバテてしまう」
石丸がそう静かに呟く。
橘のあの長い腕で奥襟を取られ、頭を下げさせられたら、立っているだけでも相当体力を消耗する。
その上で、さらに技の攻防をしなければならないのである。
結果、徐々に体力は奪われていき、どんな相手でも最後には捕まってしまうのだ。
(橘の体力は、すでに日本重量級のオリンピック代表クラスと変らん!
むしろ3分以上もった藤田という男、それだけでも大したヤツだよ)
橘に対抗する武器であるスピードも技のキレも、スタミナと共に奪われてしまった藤田。
しかし、それでもなお彼の闘志は消えていなかった。(くそう!このまま終わって…)
それが――悪あがきでしかなかったとしても。(このまま終わって…)
「たまるかあっ!」
「うっ!」「あれはっ!」
「小内巻き込み!!」
526 :
3/3:2009/04/13(月) 21:06:44 ID:???
ついに出した藤田の奥の手、必殺の小内巻き込み。
藤田の右足が橘の右脚を巻きつくように絡め捕り、畳から引っこ抜く――はずだったが。
「倒れん!バカなっ!」
藤田の強靭な足腰をもってして、橘の足は地面に固定されているかのように動かなかった。
橘はそこから逆に背中越しに藤田の帯をつかみ返し、
「おらああっ!」
藤田を背中から畳に叩きつけた。
「一本!」
熱戦の決着に湧き上がる大歓声。
その中で藤田は大の字になったまま放心していた。
(オレの小内巻き込みを……真っ向うから受けてハネ返しやがった)
『男子個人戦、優勝は橘です!オール一本勝ちの堂々たる優勝!
これは明日の団体戦も、この橘を擁する千駄谷学園が大活躍しそうです』
そんな実況の声はおそらく、この会場にいる大多数の考えを代弁したものであっただろうが、
それに反抗する浜高の面々の姿があった。
「けっ!そうはいくかってんだ」「ああ」
藤田が真っ向勝負で実力負けしたのって、ひそかにこれが初めてだな。
巧とやって負けた時はいつも体力消耗したハンデ戦だったし。
巧(…あ、負けたところの写真撮り損ねた)
藤田が体力負けする橘と血で血を洗うような戦いをした鳶嶋
藤田も所詮高校レベルだな
やはり将来五輪に出ちゃうようなやつはこの時点で化物だ
体重差考えたらラスボスぽい鳶嶋より強くね?>橘
日本重量級のオリンピック代表クラスっていったら世界最強に近いからな
まあこれは体力の話だが
533 :
1/3:2009/04/14(火) 21:00:56 ID:???
第269話 対峙
優勝のインタビューを受ける橘は、決め技の小外掛けを小外刈りと言い間違えたり、
けっこう緊張してガチガチだったりしていた。
それに対して準優勝の藤田には特に称賛も何も無し。
無差別級の中では小さい体で奮闘したのだが、これは仕方のないことだった。
桜子がそこで藤田が足を引きずっているのに気づく。
どうやら、最後の小外掛けで足首を痛めたようである。
「あたし、ちょっと様子見てこよっかな」
「やめろっ!行かなくていい!」
桜子を制止する巧。だが、これには桜子が怒った。
「“行かなくていい”って、別にあんたのために行くんじゃないんだからね!
マジで、ケガの具合が心配だからっ!今日の藤田くんは敵じゃなくて仲間じゃん!」
彼女は巧が子供っぽい感情で自分を止めたと思ったのだが、そうではなかった。
「藤田は負けたんだ。そういう時は一人になりたいもんだ」
練習用道場の隅で、吉岡先生に足の具合を診てもらう藤田。どうやら軽い捻挫で済んだらしい。
怪我は大したことはないが、それでも動かさない方が良い。
畳に横になる藤田の顔に、吉岡先生はタオルをかけた。
「表彰式になったら呼びにくる。しっかり汗ふいとけ、体が冷えるからな」
そして先生は関谷を連れて場を外す。言葉にしては出さなかったが、これは先生なりの気遣いだった。
一人になった藤田は、タオルの下で――泣いた。
インタビューの最後に、明日の団体戦で優勝すると宣言してみせる橘。これには場内にどよめきが起こる。
今年の千駄谷の主力メンバーは平均体重が80kgにも満たない。小さくても主将の鳶嶋は侮れないが、
鳶嶋と橘の両ポイントゲッターだけで全国優勝できるほど甘くはない。
そんな意見が飛び交う中――「みんな知らないから、好き勝手言ってる」
冷めた言葉を口にするのは、都立・竹の塚高マネージャーの美奈だった。
534 :
2/3:2009/04/14(火) 21:01:49 ID:???
しかし、それも仕方のないこと。
今年の千駄谷学園の強さは実際に見た者でなければ分からない、と奥野が言う。
「千駄谷学園の本当の実力を知ってるのはボクらの他は、東名大尾山台と…
情報収集をしっかりやる一部の強豪校。そしてボクらが都大会のビデオテープをやった静岡代表の……
浜名湖高ぐらいだろう――」
遅れて応援にやってきた西久保。といっても、既に麻理の試合は決勝しか残っていない。
「おっそいんだもん」とむくれる彼女をなだめつつ、話題は男子個人を優勝した千駄谷の橘に。
と、そこで――噂をすれば影。千駄谷学園の面々がこちらに歩いてくることろだった。
巧の姿を認める鳶嶋。
対峙は一瞬。
すれ違いざま、石丸コーチの目に西久保の姿が止まる。
(あの男……どこかで会ったことがある……)
「オイ、今のヤツらなんだ?オレたちのほう見てたけどよ」
安藤は去年のI・Hで対した浜高のことを覚えていなかった。
御厨と滝川が彼に説明をする。「ほら、粉川ってのがいたじゃないか、背負い投げの……」
その声に、鳶嶋がわずかな反応を見せる。
そしてもう一人、目を輝かす者がいた。「粉川巧かあ」
「自分の背負いとどっちが強力ですかねえ?ワクワクしてきたなあ」
不遜な物言いをする一年生であった。
「御厨のヤツ、あんなこと言ってるぜ鳶嶋よ」
「たのもしいじゃないか」
535 :
3/3:2009/04/14(火) 21:02:47 ID:???
そして、個人戦の女子48kg級では、圧倒的な強さで来留間麻理が優勝してしまった。
福岡国際で世界の並み居る強豪を打ち破った彼女は、
高校生の中ではもう完全に頭一つ抜きんでている存在になってしまった。
52kg級に出場した薩川佐代子は、さすがに苦戦した。
勝負は判定にもつれこんだが……なんとか旗が揃い、ギリギリ勝つことができた。
「よかった、よかったよ薩川!」「先輩のおかげです!」
歓喜の涙にむせぶ松原と薩川の二人。
そして。
「ちっ!I・Hの時はこうはいかねえからな!今度は正々堂々と実力で勝負してやる!」
首を掻っ切るジェスチャーを見せて、最後まで悪役全開のフネであった。
「最初っからそうすりゃよかったんでしょっ!」
3月20日、高校選手権の個人戦は終わった。
翌日、団体戦で燃え上がる東京・九段下の日本武道館は、
そのころまだ静かにその時を待っていた。
マリちゃんがチート化してしまった
フネ好きだわw
男子も女子もちょっと静岡に有力選手集中しすぎじゃね?
サッカーじゃあるまいし。
540 :
1/3:2009/04/15(水) 21:03:35 ID:???
病院を休んで息子の応援に行くという粉川婦長。
眼鏡で痩せ型の医者が自分も中学まで柔道をやっていたと言い、周囲に驚かれる。
まあ、そんな信憑性の薄い話はさておき。
「その応援で明日は、東京の日本武道館ってとこまで行かなくちゃならないんですよ」
日本武道館なら自分もコンサートでよく行っていた、という医者だったが、そこではたと気付く。
「えっ?息子さんの出てる大会って、まさか……?」
第270話 春の高校選手権 団体戦 開始
橘VS鳶嶋。
実はこれが東京都大会男子個人戦の決勝の顔合わせだった。
浜高の面々は宿舎のホテルでビデオのある部屋を借り、千駄谷学園の記録を再度、確認していた。
鳶嶋と橘の二人の試合は本当に同じ学校の仲間かと思うほど厳しいもので、
鳶嶋は橘の手が顔に当たって何度も口の中を切り、橘は普段の鉄面皮が見る影もない必死の形相。
このとき、二人は4分間フルに闘って、結局、ポイントなしで終了。旗判定で橘が勝った。
共に手の内を知り尽くしている同士なので接戦になったということもあるが、
都大会から全国大会決勝の藤田戦までで、橘が一番苦戦した相手が鳶嶋だったのである。
その橘は今日、高校日本一になった。これがどういうことかというと、つまり――。
鳶嶋と橘の実力はほぼ互角。千駄谷学園は日本一の実力者を二人抱えているということである。
ロビーに通りかかった桜子は、ソファに腰をおろして新聞を読む藤田を見かける。
決勝戦の際は巧に従い、敗戦した藤田に声をかけなかった彼女だが、
(私は巧くんが思わず応援してたよって伝えてあげたかったんだけどな…)
541 :
2/3:2009/04/15(水) 21:05:26 ID:???
「おい、浜高!」
ちょっと聞きたいことがある――と話しかけてきたのは藤田の方だった。
しかし桜子、この不躾な態度に少々立腹。
「な、なによ、その呼び方。私にだってちゃんと名前があるんだけどねぇ」
「悪かったな。そういえば名前を知らない、何度か会っているのに」
「そ、そういえばそうね…名乗ったことなんて一度もないか」
「あたしは海老塚桜子。覚えといてよね」
「海老塚さんか……」
藤田は桜子に、浜高の連中がどこにいるのか尋ねる。
何やら真面目な話らしいのだが――。
浜高の皆は竹の塚からもらったビデオを何十回と見返し、対策を立て、やるだけのことはやってきた。
今、このビデオを観ているのは、それぞれがやるべきことの確認というわけである。
「それなら大丈夫、もう、どんな状態からでも、オレの“裏技”はだせるぜ」
「橘だって怖くない。パワーでも絶対負けない。それだけの体づくりをしてきた!」
それぞれに自信をみなぎらせる宮崎・三溝。
そして巧も頷く。が、そのとき。
「たいした自信だな。でも、敵の情報はひとつでも多いほうがいいんじゃないのか?」
「ふっ!藤田!?」
桜子に伴なわれ、いきなり姿を見せた彼に浜高の面々は戸惑う。
だが藤田はそれに構わず、痛めた足を引きずりながらモニターの前に進み出る。
「オレは今日、橘と闘った。結果は……あの通りだったが、ひとつ気づいたことがある」
「それは、橘の弱点といってもいい!」
542 :
3/3:2009/04/15(水) 21:07:23 ID:???
『日本武道館』
総座席数13449席。1964年、東京オリンピックの屋内競技用に建てられた。
巧の母はその建物の威容に半ば呆然として立ち尽くしていた。
「ほんとに……こんな大きな建物の中で巧は試合するの?」
と、そこで杉の両親から声がかかる。もう開会式が始まる時間なのだ。
『ただ今より! 全国高等学校柔道選手権大会 団体戦の試合を開始します!』
「一年ぶりだなあ。やっぱ、会場がこれだけでかいってのは、気分いいねえ」
去年の浮き足立っていた巧たちとは違う。
彼らはこの大会場を余裕を持って受け止められるほど、精神的な成長を遂げていた。
そして観客席には、三工の吉岡先生と藤田が陣取る。
「さて、浜高、どんな闘いぶりを見せてくれるかな?」
・・・もしかして、藤田と桜子フラグ立った?
前回も怪我した藤田気にしてたしなあ。
考えてみりゃ藤田は巧のライバルなんだし、
保奈美と対になる桜子と接近しても不自然じゃない…のか?
何気に男とフラグ立てるの得意だな桜子w
しかし初登場時の気障なフェミニスト藤田はどこへ・・・
だからあれは女慣れしてない体育会系少年の精一杯のキャラづくりだったんだよ。
高校入って彼女ができるチャンスと思って張り切っちゃったんだよ。察してやれよ。
おめーらひでえなwww
いやしかし初登場の藤田はキモかったな
今の藤田にその事つついたらどんな反応するか見てみたいぞ
橘の弱点が全く気になってない
お前らがステキです
549 :
1/3:2009/04/16(木) 21:00:25 ID:???
第271話 見ててください
発表された組み合わせ表を見て、I・Hベスト8の浜高がどうしてシードになれないのかと憤る茂。
千駄谷学園は反対側のブロックで、決勝戦になるまで当たらない。
そして前半戦のヤマは――三回戦。去年のI・H優勝校、東名大藤沢が出てくるのだ。
「どうせ全部倒さなきゃ千駄谷学園のところまでいきつけねえんだ。
同じことだよ、一回戦も三回戦も準決勝も」
そう巧が言いきる。
とはいえ、まずは一回戦。オーダーはどうするのか西久保に尋ねる。
「先鋒はおまえだ巧!一回戦からとばしていく!」
その頃、会場の隅にたたずむ一人の男が周囲の注目を集めていた。
全日本強化選手Aランクの柴田。
講道館杯、ドイツ国際で優勝し、いまや78kg級で最も五輪代表に近い男。
その隣には立体大の伴監督の姿もあった。
いかつい男たちが柴田にサインをもらおうかと逡巡しているのを横目に、気さくに彼らに話しかける浜高の面々。
今日の二人は有望な選手のスカウトにやってきたのだという。
「この柴田も、四年前、この大会で活躍したのを見てスカウトを決めたんだ」
四年前、高校生の柴田は中量級の体格にもかかわらず、エースとして相手チームの重量級をポンポン投げ飛ばし、
滋賀県の無名校だった母校を一躍、全国ベスト4まで進出させる原動力となったのだという。
ベスト4など大したことないと謙遜する柴田。
伴監督は照れていると茶化すが、彼の本心は違った。
「ちがうっスよ、本気で優勝狙ってたんス、あの頃は!」
「春の選手権か……」
呟く柴田の背中に、巧は思うところがあった。
「伴先生、一回戦め、オレ先鋒なんスよ!見ててください。四年前の柴田さんの時のように!」
550 :
2/3:2009/04/16(木) 21:01:45 ID:???
○第一回戦 浜名湖VS東名大甲府
「さあて。あいつ、高校の時の柴田と比べてくれとまで言っとったが」
「見せてもらいましょうか」
先鋒に出る巧に集まる視線。それは伴や柴田のものばかりではない。
ハラハラしながら息子を見守る巧母。そして腕組みをして観戦する藤田。
「おい、次鋒・安庄!あの粉川は結構強い。先鋒・柿原がやられる可能性もある。
粉川の技の動きをよく観察しておけ。得意は背負いだ」
冷静に指示をする東名大甲府の監督と、それに素直に従う安庄。
(背負い、背負い。さあ、どうゆうタイミングで仕掛けてくる?)
と、次の瞬間、巧の姿が消え――「だああっ!」
柿原の体が一回転していた。
冷や汗を浮かべつつ、甲府の監督は安庄に尋ねる。
「次鋒・安庄。今の背負い…見てたろうな」
「は、速くて……よく見えませんでした」
「なかなか、言うだけのことはある」
巧の背負いは伴を納得させるに十分なものだった。
『第五試合場、これより二回戦にはいります!赤・新潟代表 帝都学館新潟高校』
『白、東京代表 千駄谷学園高校!』
ついに出てきた千駄谷学園。だが、彼らの入場時、その注目はむしろ隣の試合場の方に集まっていた。
「すげえぞ!第四試合場でやってるあいつ!」
「これでもう、三人抜きだってよ!」「粉川とかいうヤツだ!」
551 :
3/3:2009/04/16(木) 21:03:23 ID:???
(全国大会で三人抜き……)
隣の試合場が気になる御厨。鳶嶋に促され、慌てて礼をする。
そして試合が始まるのだが――その前に、鳶嶋が御厨を激励する。「御厨。負けるなよ」
「浜名湖のヤツらなんかにな」
「は、はいっ!」
自分の心情を汲んでくれた主将に笑顔で返事をする御厨。
対する帝都学館の先鋒は、いくら千駄谷でも軽量級なら勝てる、と彼を侮ってかかる。
浜高はその後、巧が相手チームの副将に引き分け。
次鋒・杉が相手チームの大将を優勢勝ちして、四人残して勝った。
幸先のいいスタートを切った浜高。その原動力は巧の三人抜きであるのは間違いない。
だが、そのとき――隣の試合場で歓声が上がる。
「また三人抜きがでたらしいぜ!」「どこのどいつだ!」
「千駄谷学園の一年生らしい!しかも軽量級の選手だってよ!」
「誰だ、今年の千駄谷は小柄で弱いって言ったのは――っ!」
浜高はポイントゲッターが三人抜きだが、千駄谷はいきなり一年生が三人抜き。
それを知った巧はどこか嬉しげな表情を見せるのであった。
「御厨か。ナマイキな一年坊だぜ」
この御厨プッシュはなんなんだろう
巧の相手は鳶嶋だしなぁ
勝ち抜きだから御厨と鳶嶋両方と当たる可能性はある。
御厨瞬殺で格の差を見せつけて改めて鳶嶋と、って流れかも。
それだと御厨が副将になるけど。
逆に御厨に3タテとか?
しかし夏に玉城・鳶嶋兄に勝った上個人決勝で鳶嶋と接戦演じたのに
巧がいくらなんでもノーマークすぎだろ。
結構強いとかやられる可能性も、とかどんだけ強気なんだ。
来年の大会の伏線じゃないの?
今年は鳶嶋で、来年は更に成長した御厨
556 :
1/5:2009/04/17(金) 21:03:47 ID:???
第272話 西久保と石丸
驚異の一年生、御厨の三人抜きの活躍があり、千駄谷学園は一回戦・帝都学館新潟を圧勝で下した。
「まったく、一休さんみたいなルックスしてなにかしらあの強さ!」
ぼやく桜子だが、御厨の実力は紛れもなく本物である。なにしろ全国大会で重量級に通用するのだから。
斉藤が背負いの専門家として、巧に御厨の背負いはどうかと尋ねる。
「う――ん、いいものは持ってますが……まだまだ甘いとこがあるんじゃないですか?」
彼はそんなことを言うが、周囲の評価はというと。
「すごい新人が千駄谷に現れたぞ!」「御厨か!」「鳶嶋、橘と続く秘密兵器を持ってたってワケか!」
驚異の新星として大絶賛。巧は立場が無かった。
その千駄谷とおそらく三回戦を争うことになるであろう強豪校が、今まさに出てくるところであった。
観客席からはその選手たちの姿にどよめきが起こる。
『第五試合場、二回戦第二試合を始めます!赤、広島県代表福知山高校!』
福知山高校。メンバー平均体重122kg、今大会中最も重いチームである。
圧倒的な体格差にモノを言わせて次々相手校の選手を沈めていく福知山。
その様子に浜高メンバーも「あ……あたりたくねえ――」思わず本音が漏れるのであった。
「千駄谷学園はさすがに強豪よ。人材がそろわんでもそこそこ強く仕立て上げてきよる」
上下さかさまにしても人の顔に見えそうな福知山の監督。
彼は体格に恵まれていない千駄谷のレギュラー陣を実力を接ぎ木した偽物とみなす。
「しかし最初からいい人材をきたえあげた『本物のチーム』にあたれば、そのメッキもはがれるってもんだ」
「千駄谷のメッキ、わしらがはがしたらあ、のう!」「オス!」
「勝ち名乗りの時も『ふぅっくっちやんま〜〜』『ごっちゃんです』ってやればいいのに」
相撲部じゃあるまいし、滅茶苦茶失礼なことを言い放つ桜子だった。
557 :
2/5:2009/04/17(金) 21:04:49 ID:???
「巧や千駄谷のとんち坊主ばかり目立たせちゃいかんな!オレも三人抜き狙ってやろうじゃねえの!」
意気込む宮崎。これから浜高の二回戦目が始まる。
○第二回戦 浜名湖VS東名大二高
熊本代表・東名大二高は夏のI・Hの団体戦でも対戦している相手である。
今度は宮崎・斉藤・三溝の三人で彼らを撃破。浜高は三回戦進出を決める。
「これで全員試合したけど…勝ち星があがってない人が一人」
「うーん、まだ体があったまってないなー」
「汗だくですね」
試合前にでかいことを言っていた茂は、先鋒同士の初戦で引き分けに終わってしまった。
一回戦、二回戦と調子の良い浜高。だが、隣の方では強豪・東名大藤沢が勝ち上がってきていた。
東名大付属校の中でも最強を誇る藤沢の選手たち。
その尋常でない迫力で睨まれ、思わず浜高の皆は彼らに道を譲ってしまうのであった。
しかし、その弱気な態度に桜子が苛立つ。
「なにビビってんのよ!三回戦で戦う敵でしょうが!」
「だって、きっと藤沢、オレたちのことハラたててるぞ!甲府・第二と東名大の兄弟高倒してきてんだぞ!」
組み合わせを作った人が悪いのであって、自分たちが悪いのではない――、
などと、うずくまってボヤく杉たち。実に情けない。
「千駄谷学園のツメのアカでも飲みなさいよ!」
彼女たちは先ほど偶然、三回戦で当たる福知山と千駄谷の面々が
たまたま廊下で出くわした場面に行き合ったのである。
558 :
3/5:2009/04/17(金) 21:06:19 ID:???
精神的にも肉体的にも、二重の意味で千駄谷を見下してかかる福知山。
「試合場で見た時もチビやと思ったが、近くで見たらビックリするほどチビやった」
よくここまで勝ち残れた、と聞えよがしに嫌味を言う彼らに対し、
まず反応をしたのは安藤である。
「そのチビどもに投げられて、三回戦で大ハジかくデブどもが、おめーらさ、福知山!」
あわや一触即発の空気――そこで前に出たのが鳶嶋と橘の二人だった。
ここは人目が多い、騒動を起こすと問題になる、と冷静に言う鳶嶋。
「オレたちは柔道をやりにきてるんだ。ケンカをしにきたんじゃない」
「試合でハッキリさせよう。キミらかうちらか、どっちが強いのかな」
ここで福知山の主将も間に入り、この場はどうにか事なきを得た。
一部始終を見届けていた桜子たち。
「さすが千駄谷の主将になっただけあって、カンロクがでてきたねえ、トビーは」
「トビーって鳶嶋くん?」「トビーカッコいい――」
――ということがありましたとさ。
しかし、そんなのは言われるまでもなく当たり前。
浜高の面々とて、試合になってまで藤沢に譲るような気持ちは無い。
「あっ、東名大藤沢」「えっ!!」
桜子の言葉に皆が慌てて振り向く。
「いねーじゃねえかよ!」「ウソつくな!」「ドキっとするなよ!」
そんな彼らのやり取りに(こいつら本当に大丈夫か?)心配げな伴監督であった。
そういえば、西久保の姿が見えない。もうすぐ三回戦が始まってしまうのだが。
伴に心当たりがないか尋ねてみると――。
「石丸くんと会って話してたよ。千駄谷学園コーチの石丸くん」
559 :
4/5:2009/04/17(金) 21:07:47 ID:???
その頃、西久保と石丸は観客席にいた。
西久保が浜名湖高のコーチをしていると聞いて驚いた石丸は彼の方から西久保に会いに来たのである。
昨日すれ違った時には無視されたかと思っただが、それは単に思い出せなかっただけだった。
「六年ぶりだったからな。最後に試合してから……」
「そんなになるか」
桜子が伴監督に、西久保と石丸、どちらが強かったのかと興味本位で尋ねる。
「そりゃあ記録だけ見れば、石丸だろう。大学の時は10回以上戦って、一度も勝ってないからな」
この発言に、教え子たちの間に衝撃が走る。
「おいおい、本当にライバルだったのかよ。あやしくなってきたぞ」
「自分で勝手にそう思い込んでるだけだったりして……」
「シャレにならんっスよ、それは」
自分たちの指導者にまるで敬意を払わない彼らに、伴監督は呆れるのだった。
(こいつら…西久保も苦労してそうだな…)
「西久保は本当に強かったぞ!」と主張する伴監督。
例えば石丸は学生の時、三回ほどでかい大会で優勝をしているが、
決勝戦を争ったのは三回とも西久保だったのである。
石丸さえいなければ、彼は三回もビッグタイトルをものにしていたはずだったのだ。
「結果的には負けてるが、二人の差はかなり高度な次元の世界での僅かな差だったとオレはみてる」
大学に入ってからの二人は対決はいつも大接戦であったという。
昔、全日本の合宿で石丸が伴監督に「西久保だけには負けたくない」と語ったこともあったとか。
560 :
5/5:2009/04/17(金) 21:09:15 ID:???
さて、再び観客席の西久保と石丸に戻る。
石丸は学生時代のライバルに、指導者としても良いライバル関係になって欲しい、と自分の考えを語りだす。
「なあ、西久保。最近の日本柔道ってのは何がいけないんだと思う?」
日本柔道陣は、1984年のロス五輪の時は金メダル四つだった。
それがソウル五輪では一つ。先のバルセロナでも二つだった。
日本柔道がメダルを獲れなくなった理由。
まず外国が年々強くなっていること。
それだけ柔道が世界的にメジャーになった証拠なのだから、むしろいいことなのかもしれないが。
「確かにそういう見方もできる。しかし、日本で生まれた柔道は日本が強くなくちゃいかん。
アメリカで生まれたバスケットや野球はアメリカが強いようにな」
「そして、オレなりに考えた結果が高校の指導者になることだ!
強い『日本柔道』を再建するために底辺を変えてかなきゃならん!」
「オレが今の高校柔道を変える!」
力強く言い切る石丸。その眼光には揺るぎない信念の光が宿っていた。
春の高校選手権、三回戦の好カード。
浜名湖VS東名大藤沢、千駄谷学園VS福知山、開始まであと10分!
561 :
業務連絡:2009/04/17(金) 21:10:49 ID:???
次回は一回休載して、単行本27巻のおまけを紹介します。
指導者同士の語らいは少年誌らしからぬほど真面目だったな。
そしてトビーかっこいい。
しかし後で思い出したとはいえ忘れられてた時点で
やはりライバルではなかったんじゃ・・・w
564 :
1/3:2009/04/18(土) 21:13:16 ID:???
○単行本第27巻 (表紙:西久保亨 裏表紙:石丸修一)
・四コマその1 『三保女子劇場 松原渚の夏休みのまき』
1.松「あち〜〜な〜」
天の声(あんた3年なんだから勉強しなよ)
松「クーラーもない家で勉強なんてできるかっ!」
2.松「こんな日は薩川んちにでもいくしかね――な」
天の声(薩川さんのおうちにはクーラーがあるのか?)
3.松「お――い、涼みにきたぞ――」
薩「あっ、先輩!」
4.天の声(プ、プールがあるんですね……)
松「ゴクラクゴクラク」
565 :
2/3:2009/04/18(土) 21:14:12 ID:???
・四コマその2 『三保女子劇場 嫉妬の炎のまき』
1.女子52キロ級チャンピオンになって、薩川さんはますます三保女子内で人気者になっていた。
「キャーッ」「キャーッ」「今からランニングにいかれるのだわ」「キャーッ」
2.ミッタン子「いいわね――薩川さま。あこがれちゃうわ――」
茂子「あらミッタン子もお?あ・た・し・もっ!」
杉子・賢子「ふんっ!」
3.杉子「いくら優勝したって柔道でしょ、どこがいいのよ!」
賢子「あたしたちの部だって県下じゃ強豪なのよっ!」
4.杉子「三保女子新体操部!」
賢子「女子高といえばコレよっ!」
茂子「でも、あんたたちがやるとなぜかヤだわ……」
566 :
3/3:2009/04/18(土) 21:15:25 ID:???
○絵筆も名勝負がいっぱいの第27回 サンデーコミックス名物『絵筆をもってね!』
選評/河合克敏 応募総数:1131点 入選:69点
グランプリ:福岡県・松尾昌法〔浜高メンバー(単行本26巻p.168 ギン バッ キラッ!)〕
準グランプリ:大阪府・ピヨコ〔来留間(兄?妹?)」
topix:「竹の塚のマネージャー・美奈ちゃんのコーナー」
岡山県・アスピリン 神奈川県・かしむるう 静岡県・梅子ちゃん 秋田県・大森さん
愛知県・帯一休〔保奈美・麻理・仲安(こういうこともあるだろう)〕
1.保「あたしね、マリちゃん」麻「ハイ?」
2.保「もう少しで巧クンとキスするトコだったの」麻「あら」
3.麻「そりゃまたけっこうなこって」ふっ(余裕の笑み)
4.麻「おまたせチャーリー」仲「おう、おせーぞ」保「……マリちゃん?」
愛知県・帯一休(祝)〔巧・斉藤・別所(こういうこともあるだろう)〕
1.巧「オレねえ、サイトー」斉「うん」
2.巧「ホナミとあとちょっとだったんだ」斉「ふっ」
3.斉「それはそれは」はん(鼻で笑う)
4.斉「行こうか愛子」別「ええ」巧「……はん?愛子?」
ギン バッ キラッ☆www
ミッタン子茂子杉子賢子www
いや杉は清子でいいだろ
「下の名前が清修だっていうことを知らない人が多いかも」と思ったとか
そういえば、巧みは最初「清修」って呼んでたのにいつの間にか「杉」になってるな
571 :
1/3:2009/04/19(日) 21:08:07 ID:???
第273話 石丸の理想
「絵空事のような話だと思うか?まだ青二才のこのオレが、今の高校柔道を変革してやるとか、
あまつさえ、未来の日本柔道復活のためにそれをやっているとかなんてな」
そんな石丸の言葉に、文字通り眉に唾をつける西久保。
だが石丸は自信満々に、それを今日、千駄谷の生徒が証明すると言い放つのだった。
「おまえら準備はできてるのかあ――っ!」
厳しい表情で戻ってきた西久保は、いきなり大声を張り上げる。
怒鳴り散らして遅刻をうやむやにしようとして、と図星をさされて言葉に詰まるが、
浜高メンバーはすでに準備万端で開始の時を待っていた。
「それよか、うちらより先に、あちらのほーが始まっちゃいそうなんだよね」
『第五試合場、三回戦に移ります! 赤、福知山高校! 白、千駄谷学園!』
三回戦屈指の好カード、福知山VS千駄谷学園。
今年の千駄谷が平均体重79・4kgという出場校中最小の小兵チームであるのに対し、
福知山はメンバー全員100kg以上、平均体重120kgという今大会最重量の巨漢チーム。
見事なまでに正反対の両校がぶつかりあうことになった。
千駄谷学園の先鋒は、二回戦と変らず御厨。
体重わずか60kgの彼に対し、相手の体重はおおよそ二倍。
その闘いの様子を西久保が黙したまま見つめる。
(見せてもらおうか石丸。おまえの教え子がおまえの理想をいかに体現してくれるのか)
石丸は西久保との話の中で、今年の千駄谷はかなり“理想に近いチーム”とまで言っていた。
「今の高校柔道は年々、選手の大型化が進む一方だ。それぞれの高校が勝つことばかり考えた末だな。
そりゃあ勝つことを目標にすること自体はまちがってないし、
“柔能く剛を制す”の信念に反してるとまでは言わないが……」
572 :
2/3:2009/04/19(日) 21:09:33 ID:???
「しかし、指導者としてこのあまりに一方的な、安易といってもいい大型化は……
何か大きな間違いをおかしているような気にならないか?」
福知山の先鋒、高津はとにかくその長い腕で御厨を捕まえようとするが、
御厨はその隙をうまくつき、逆に一本背負いで担ぎ上げる。
(や、やばいっ!)
とっさに足をかけてこれをこらえようとする高津。
しかし御厨はその足を手ですくい、高津の巨体をひっくり返す。
「技あり――!」
(見たか西久保!技とスピード、これが日本柔道だ!)
この大会に出てくるような大型選手を見ていて、石丸は日本柔道の将来を不安に思っていた。
力で押し合い、組み手を警戒しすぎて思い切った技をかけない。
ポイントは有効どころか効果どまりで、結局優勢勝ち。
「小さなポイントをセコくとることばかり狙ってる。力に頼りすぎてるんだ。
自分の技が本当の必殺技になってないから思いっきりいけない」
そんな力に頼りきった外国人型日本人選手が日本代表として世界に出ても、
同じ体重同士なら筋肉の質が違うヨーロッパの選手の方が、パワーの点では圧倒的に優位。
ロシアやグルジアの選手は強力な下半身を生まれ持っているし、
フランスの選手は腕力+たくみな試合運びで日本人選手をたびたび脅かす。
柔道は確かに全世界に広まり、各民族が独自のカラーを打ち出すまでになった。
ならば日本は日本のカラーで戦うべき。では、日本のカラーとは何か?
「技とスピード。それしかないだろう」
573 :
3/3:2009/04/19(日) 21:10:34 ID:???
日本人はやはり技の柔道で力の柔道に対抗するのが一番なのだと石丸は語る。
そのために、同じ階級の者同士でばかり日本の中で戦っていても、
対外国人の時に強い選手は作れないというのが彼の考えなのである。
「日本で戦う時は少なくとも、一階級や二階級上の人間とやっても負けないぐらいでなくてはならん。
だから、体重無差別の団体戦にもっと軽いほうの選手をどんどん出したほうがいい」
「西久保よ、これがオレの理想とする、千駄谷学園柔道だ。
体力の差をものともしない小兵軍団――そして、将来こういう選手が日本代表となって世界の頂点に立つ!」
「一本!」
ついに完璧な形で高津を投げ飛ばした御厨。一本勝ちで初戦をものにした。
「+、ガンガン攻めて、必ず、一本勝ちを狙う。判定になるとどうも審判は日本に辛いからな」
「はっ?何か言いました?」「いや、ひとり言だ」
歓声が止まない場内。やはり小さい御厨が大きい選手を投げるから観客が喜ぶのだ。
となると――。
「オレらがやる東名大藤沢も、けっこうでかいヤツ多いぜ」
「よっしゃ、ちょーどいいじゃん。御厨ばっかし目立っててムカついてたところだぜ」
『第四試合場三回戦! 赤、東名大付属藤沢高校 白、浜名湖高校!』
(石丸よ…おまえの野望がはったりじゃないことは分かった。さて、今度は……)
(浜高の戦いぶりを見てもらおうか!ちょっと変わったおもしろい柔道を見せてやるぜ!)
>ちょっと変わったおもしろい柔道
指導した(ことに立場上なっている)お前が言うなよオッサンw
御厨は石丸の思想で作られた第一号ってことかなあ。
巧の相手がどうたらってより、今回のためにプッシュされてたのかも。
576 :
1/3:2009/04/20(月) 21:00:43 ID:???
第274話 “伝統校”へ挑戦
「御厨!次もおまえがなんとかしてみろ!攻めて攻めて攻めまくれ!」「ハイ!」
団体戦出場選手中最軽量の御厨が、約二倍の体重の相手を投げて一本勝ち。
彼のその技に他の学校の応援に来ていた観客も思わず拍手をしてしまう。
まあ、中には「ハイだって、かーわいい――!」「素直そ――」技以外で喜んでいる人間もいたが。
三溝さんちのおねーさんズ、彼女らは何をしに来たのやら。
そしてようやく浜高の出番。難敵、東名大藤沢に対して先鋒には三溝が出る。
(ああ、なんてゴツイ弟なのかしら……)(巧くんみたいな弟だったらみんなに自慢できたのに……)
おねーさんズ、本当にヒドイ。
東名大藤沢の副将は、体格のいい三溝が先鋒、小さい巧と斉藤が大将・副将にいるのを見て、
先行逃げ切りの作戦にきたとにらむ。
「でも、浜名湖の大将・粉川はちょい、チェックだけどな」
藤沢の大将は昨年のI・H個人戦で鳶嶋と争った巧のことを覚えていた。
副将・津末。大将・原。この両名が東名大藤沢のポイントゲッターである。
西久保は巧と斉藤に、こいつらを二人で何とかしろと命じる。
と、巧は相手校の座る後ろにヤケに人が増えていることに気がつく。
彼らは東名大藤沢のOB。東名大付属でまだ生き残っているのが藤沢だけなので、集まってきたわけである。
斉藤は、そこに並ぶ顔ぶれに驚いた。
五輪金メダリストの山上。寝技の神様といわれた元・全日本コーチの川崎。世界選手権でW優勝した中島兄弟。
そのいずれもが超一流。彼ら全員が東名大OBなのである。
それこそがまさに伝統というもの。原や津末は、そんな人たちの後輩になるのだ。
もしかしたら、あの二人も将来ああなるかもしれない――。
577 :
2/3:2009/04/20(月) 21:02:15 ID:???
しかし、西久保は「臆する必要はない」と言い切る。
結局、藤沢のメンバーは誰もが強い。しかし、そんな相手でも三溝はよく闘っている。
「それにあの二人を食ってやれば、おまえらのほうが将来、
あの後ろに並んでる方々のようになれる器だってこったぜ」
そんな西久保の言葉に、巧と斉藤は顔を見合わせる。
「おほほ、ですってよ、斉藤さん」
三溝が藤沢の先鋒から技ありを取り、周囲から称賛の声が上がる。
藤沢が相手なら技あり一つ取るだけでも十分にすごいことなのだが、おねーさん方は――。
「技ありい?技ありじゃダメよ、一本取んなきゃ幸宏!」
「一本!一本!どう違うのかよく分かんないけど!」
などと罵声を飛ばすのであった。
ところが、そこで相手が逆襲の小内刈りを狙ってくる。畳に倒れる三溝。そのとき、
「あーっ幸宏!」「ナシよナシ!今のは技あり以上はないのよ!」
思わず取り乱すおねーさんズ。審判の判定は「有効」。
ほ――っと安堵の息を吐く彼女らの姿は実に微笑ましいものだった。
試合は結局、そのまま逃げ切って三溝の優勢勝ち。
東名大藤沢の先鋒が抜かれたことで周囲はどよめくが、それでも藤沢サイドにはまだ余裕がある。
あちらはポイントゲッター二人が後半に控えており、こちらは100kg以上は三溝一人。
まだ十分に取り返せると考えているのだ。
「宮崎、杉」
西久保が二人に声をかける。
「あの方々をあせらせるのはおまえらの役目だ。
すげえぞ、メダリストたちをくやしがらせるんだからな。メッタにできねえ」
578 :
3/3:2009/04/20(月) 21:03:35 ID:???
その頃、第五試合場では福知山が大将の藤村まで引っ張り出され、いよいよ後がなくなっていた。
対する千駄谷学園はまだ副将の鳶嶋。
小兵軍団の千駄谷が大会最重量チームの福知山に、今のところ競り勝っていた。そして――。
『袖釣り込み――っ!投げた――っ!一本――!!』
鳶嶋の決め技、片手からの袖釣り込み腰が藤村を背中から畳に叩きつけた。
『福知山高校破れました!今年は優勝を狙えるチームと公言していた衣笠監督もうつむいたまま!』
恐るべきは千駄谷学園。接戦を予想されたこの試合も、
ついに大将の橘が闘うことなく決着がついてしまった。
引き上げようとする千駄谷。そのとき、石丸の目に隣の試合場の様子が飛び込んでくる。
東名大藤沢の副将・津末と戦っているのは、浜名湖中堅・杉。
この時点で浜高が藤沢をリードしていた。
残り10秒、というところで津末が大外刈りを仕掛け、技あり。
惜しいところまで追い込んだものの、そのまま津末の優勢勝ちでこの試合は終了した。
これで互いに副将同士のタイに持ち込んだものの、時間いっぱいまでもつれこみ、津末の消耗は隠せない。
こうなると東名大のOB連中も焦り始めることだろう。
「さあ、次はおまえらの番だぞ!」
巧と斉藤にはっぱをかける西久保。その様子を横目で見る、藤沢の大将・原。
そして――千駄谷学園コーチ・石丸。
(西久保の浜高が……あの東名大藤沢と互角に戦っているだと?)
西久保さん舐められています、どうみてもライバルじゃありません
本当にご愁傷様です
夏の大会の成績は全部地元ゆえのフロックで片付けられてんのか?
巧なんて要注目扱いされててもおかしくないのに、ちょいチェックとかw
何だかノーマークが勝ち上がる展開にしたいだけに見えるな。
巧ってイケメン設定なのか?
>>579 全国から強豪を集めてきてる私立校から見たら地方の県立高なんてそんなもんじゃないかな
583 :
1/3:2009/04/21(火) 21:02:56 ID:???
第275話 未知の敵・原
浜名湖が東名大藤沢と互角に戦っていると聞き、驚く千駄谷学園の面々。
(むっ!あいつは確か、斉藤といったな……)
鳶嶋には、今試合に出ている斉藤に覚えがあった。
東名大藤沢の津末と浜高の斉藤、互いに副将同士のこの対戦はどちらにとっても重要な局面。
体格では津末が圧倒的に勝るが、斉藤は巧みにさばいて相手にいいところを取らせない。
(コイツなかなか組み手はできる。ならば……)
そこで津末が仕掛ける。飛び込むと同時に大外刈り。これには斉藤も対応できない。
「技ありーっ!」
大きなポイント差がつき、ようやく安堵する東名大OBの面々。
「東名大藤沢の副将・津末。太っていても技にはいる時は信じられないほど速い」
冷静に分析をする石丸に、鳶嶋が口を開く。
「しかし、今出ている斉藤というヤツは、I・Hの時、千駄谷の本田先輩に勝ってます。クセ者ですよ」
「なに?」
倒れた斉藤に対し、津末はそのまま寝技を狙う。
しかし、のしかかってきた津末の背中越しに斉藤は手を伸ばし、逆にそのまま腕がらみに捕らえる。
「でやあっ!!」「がっ!!」
流れるような関節技。津末はたまらず斉藤の背中を二度叩いて“まいった”した。
「一本!それまでっ!」
584 :
2/3:2009/04/21(火) 21:03:37 ID:???
「今の関節を取りにいく時の速さを見たか?あれは相当寝技の訓練を積んでいるぞ」
「今の腕がらみだけでなく、もっとたくさんのバリエーションを斉藤が持っているといしたら……手強いですね」
斉藤の力量を素直に認める千駄谷の石丸と鳶嶋。
御厨がもしあの人と当たったらどうすればよいのか、不安げに尋ねる。
「バーカ、御厨、てめ、そんなことも分からねえのか!?修行が足りんよ」
安藤にそんな悪態をつかれた御厨はでは自分ならどうするのか聞き返す。
「オレは寝技苦手なんだよっ!寝技になったら逃げる!」
ものすごく情けないことをものすごくきっぱりと言い切る安藤に、御厨は返す言葉もなかった。
しかし、そんな安藤の態度も戦術としては間違いではない。
とにかく次に出る大将、彼ならどうするか――。
東名大藤沢二枚看板のもう一人、原勝の出番である。
大柄な選手の揃う東名大藤沢の中で、大将の原は最軽量の80kg。
それでもポイントゲッターと呼ばれているということは、他の大きな選手より強いということである。
斉藤は原に正面から組んでいき――(今だ!)大内刈りを仕掛けていく。
ところが。
「っしゃあっ!!」
仕掛けたのは斉藤の側。その大内刈りは確かに入ったはずだった。
それなのに、落ちて下になったのは斉藤。
「有効――っ!」
そしてポイントは原の側に。
原は深追いはせず、すぐに斉藤から離れて立ち上がる。
(くそっ!寝技を捨ててきた。用心深いヤツめ……)
585 :
3/3:2009/04/21(火) 21:04:47 ID:???
「フン、きさまらの技が、原に通用するか!」
津末が嘯く。
(柔道センスという言葉があるのは知っていた。でも、本当の柔道センスがどういうものなのか…
オレは藤沢の柔道部にはいって原に会って、初めて知ったんだ!)
斉藤は今度は体落としに行く――が、
気がつけば攻守が入れ替わり、投げられていたのは斉藤の方。
「技あり――っ!」
「ま、また!?」「斉藤の技がああもカンタンに返されるなんて!」
驚くべきは原のセンス。斉藤の技がことごとく通用せず返されてしまう。
勝ち誇る津末。「見たか浜名湖!」
(原みたいなヤツをな、本当の天才っていうんだよ)
(くっ!!この男、実力が違う!)
原の力量はまぎれもなく超高校級。闘っている斉藤は誰よりもそれを実感していた。
(こりゃオレまでまわるな)
そして準備を始める巧。西久保も少なからず動揺していた。
(藤沢にこれほどのヤツがいたとは、計算外だった……)
さすがに三強の一角だな。簡単に終わるはずなかった。
大将決戦で原を倒して鳶嶋と並ぶって展開か。
587 :
1/3:2009/04/22(水) 21:00:07 ID:???
第276話 斉藤VS原
斉藤が開始一分と経たないうちに有効、技ありと立て続けにポイントを取られるなど例がない。
藤沢のOBが原を語る。
「オレはコイツを一年の時からよく見てるが、とにかくバランス感覚がいい。
例えば、相手が技をかけてきても、倒れた時に上になってるのはいつも原のほうだ。
柔道センスがあるというか、相手の技をかわし、返し技にいくのが実にうまい」
原にいいところを取られ、赤畳に追い込まれていく斉藤。
これ以上後ろに下がって自分から場外に出たら反則になる。
それでも斉藤は一瞬の隙を突いて仕掛ける――が。(フン)
(内股――か!)
原はそれを落ち着いてかわす。
内股をすかされ、斉藤はきれいに一回転して畳に落ちた。
だが「待てっ!」判定は場外。斉藤はきわどいところで難を逃れた。
「相手逃げてるぞおっ!」「場外ワザとだ!」「いけえ原!あと一押し!」
一気にヒートアップする藤沢応援席。
「くそ、言いてえこと言いやがって!」
「今のは原の技に押し出されたんだろうが!」
浜高側も負けてはいられない。声を出して対抗しようとするが――。
(なんて声かけりゃいいんだ?)(攻めなきゃどうせ負けるし。攻めても返されそうだし……)
杉たちにはいいアドバイスがまるで浮かばない。
だが、ここで頼りになるのが主人公。
「攻めてくしかねえぞ斉藤!いちかばちかだ!」
この堂々とした態度に杉たちも感心するのだが、その内心では「フフッ原か…」
(ひさびさに燃えてくるヤツだ!ヤツはオレが倒すっ!)
588 :
2/3:2009/04/22(水) 21:00:56 ID:???
(あっ、コイツの考えてること分かる!)
(強いヤツが出てくるとコレだ)
(斉藤よりポカ多いくせに……)
やる気満々の巧に対し、仲間たちの目は冷たかった。
巧の声に呼応したのか、斉藤はこれまで何度も技を返されてきたにもかかわらず、なお怯まずに攻める。
「なにっ!?跳び関節!?」
原の片腕を捕まえた状態からジャンプし、足で首を刈りにいく。
これをもとっさに防いだ原。だが、そのとき――、
原の体にぶら下がった状態から、斉藤は手で原の足を払おうとする。
「うおっと!」
反射的に原は足を引いてこれをかわし、そこで「待て」がかかった。
斉藤の奥の手、跳び関節。
これまでの相手ならほとんど決まっていたのだが、原には通用しなかった。
が、今の攻撃に原も内心で冷や汗をかいていた。
跳び関節が防がれたことで、応援席にもあきらめムードが漂う。
こうなればできるだけ粘って相手を疲れさせ、巧に望みをつなぐしかないのか。
巧の側もワクワクしながらそれをまっているのだが。
「しかしアイツ今、浜高がおかれてる状況わかってんのかな?」
これで巧まで負けようものなら、これまでの努力が水の泡になってしまうのだが。
そこで原の目の前から不意に斉藤が消える。
体ごと下に沈んで――巴投げ!
「しゃあっ!」
原はこれもかわして着地。
(フン、いろいろやってくれるぜ!苦しまぎれだろうがな!)
続けて背負い――と見せかけていきなり反転。
(背負いと見せて袖釣り込みか、こいつ、いったいいくつ技を持ってやがる!)
589 :
3/3:2009/04/22(水) 21:02:12 ID:???
試合を観戦していた石丸と鳶嶋がそのとき同時に気づく。
「コーチ、今の斉藤のコンビネーション……」
「うむ、あの原がかわすのがやっとだったな」
「今度は朽木倒しか!しつこい!」
次から次へと違う技をかけ続ける斉藤。それでもなお原は倒れない。
斉藤の弟、貞夫はその現実に歯噛みする。
(ちくしょう、兄さんがこんなにガンガン攻めてるのに…一発ぐらいかかってくれっ!)
斉藤の兄弟たちがそこで立ち上がって叫ぶ。
「がんばれ浩司兄ちゃん!」「がんばれ――っ!」
「おうっ!」
(また、跳び関節かっ!)
片襟方袖から奇襲の関節技を狙う――と見せて、実はそれがフェイント。
原の意識を上に集中させ、斉藤は左手を原の右膝の裏に差し込み、
「ぜやああっ!!」
自分の体ごと後方へひっくり返した。
そのまま即座に寝技に入ろうとしたそのとき――、
「一本!それまで!」
審判の手が高々と差し上げられる。
自分でも信じられない様子の斉藤。そんな彼に仲間たちから称賛の声。
「やったぜ斉藤!谷落とし一本!」
肩透かしをくった巧はまあいいとして。場内は騒然となる。
「東名大藤沢が…三回戦で消えた――っ!!」
- -
斉藤格好良いー!!
・・・あれ?主人公は?w
もはや技のデパートとかそういうレベル通り越してるな斉藤
「技の広辞苑」くらいの通り名をあげてもいいんじゃね?
斉藤すげええええ!
やっぱ斉藤すげえ!
そして巧www
原の負け方がリアルだな
やばい斉藤かっこいいな
もうチームのことを考えられない巧いらないわ
597 :
1/3:2009/04/23(木) 21:02:57 ID:???
第277話 準々決勝の相手
(お、おい……?ちょっと待ってくれ……)
高々と差し上げられる審判の手に、愕然とする原。
彼の敗戦により、東名大藤沢の団体戦三回戦敗退が決定した。
礼を終え、浜高の面々はこの試合最大の殊勲者に惜しみない称賛を贈る。
「いや……このままじゃ……何もできずに負けそうだから……
巧にまわる前になるたけ疲れさせてやろうと……ただ、持ってる技……
全部かけてやれと思っただけなのに……」
しみじみと語る斉藤。持っている技を全部、ガムシャラに出した結果がこれ。
ギリギリになっても自分の柔道ができていたからこそうまくいったのである。
「それにしても原を倒すとはな。よくやったぜ、このヤロー」
そんな飾り気のない西久保の賛辞に、斉藤ははにかむように笑った。
報道陣が敗退した東名大藤沢の監督のもとに駆け寄り、コメントを求める。
「油断です。戦う前、浜名湖の力を低くみすぎていた。
二回戦目で三人抜きをしていた原を休ませようと思って大将に置いた」
しかし本来、原を先鋒において先に勝ちを稼いでいくのが東名大藤沢のスタイルである。
浜名湖戦にしても、そのオーダーなら勝ちパターンにいけたかもしれないが、今さら仕方のないことだった。
(確かにオレは大将の粉川との試合を想定して、後半体力をキープしようと思った……。
斉藤の技を受けすぎたかも知れない……受けきれると思っていたのに……)
「くそおっ!」原は苛立ちまぎれに壁を叩く。
(斉藤浩司。あれほどの男が今まで全国で無名だったとは……。
もし、夏にもう一度やれる機会があったら二度と油断はしねえっ!)
598 :
2/3:2009/04/23(木) 21:03:49 ID:???
いまだにざわつきがおさまらない会場内。
今の試合を見ていてよかったと千駄谷の御厨は興奮気味。鳶嶋もそれに同意する。
「そうだな。浜名湖は粉川と、身長197cmの三溝の二人がポイントゲッターだと思っていた。
しかし本当は、もう一人ポイントゲッターがいたわけだ」
自分より50kg近く重い相手に関節技をかけて仕留めてしまう器用さ。
そして立ち技も様々な技を変幻自在に繰り出してくる。軽い体重をカバーするのに十分な技術。
「斉藤か。おもしれえ」
いち早く興味を示したのは滝川である。
「ヤツの技術とオレの足技がどっちが上か、ぜひ試してみてえくらいだ」
だが、他のメンバーも黙ってはいない。
「まだ、誰と当たるか決まったわけじゃないぜ。まっ、オレと当たることがあったら、オレが片付けてやるけどよ」
安藤がそう自己主張し、
「おいおい、いくら浜名湖が強くても、決勝までいかなきゃ当たらん相手だぞ」
副主将として橘がそれをたしなめる。
浜高は石丸のかつてのライバル、西久保がコーチをしたチーム。
その試合にメンバーが刺激を受けたことを、石丸は驚きつつも喜ぶのであった。
ところで、御厨はどうなのかと安藤が尋ねる。先ほどは斉藤の関節技に怖気づいていたようだったが。
「いえ、ボクは、先輩がやりたがってるようだから斉藤はいいっス。
ボクは同じ背負いをつかう、粉川とやってみたいっス」
屈託のない表情で希望を述べる御厨に、安藤は一言。
「おまえはバカか?」
「またさっきの東名大藤沢の時みたく粉川が大将だったら、どーやって先鋒のおまえとやるんだよっ!
五人抜きでもしてくれるってゆうのかな――っ?」
「ひたひ、ひたひっ!」
御厨のほっぺを引っ張る安藤。名門校の選手といっても、まだまだ素顔はてんで子供だった。
599 :
3/3:2009/04/23(木) 21:04:56 ID:???
次に当たる相手はどこかと浜高の皆がプログラムを見ていると、斉藤にこっそりお呼びがかかる。
桜子が彼を連れていった先には、別所さんが待っていた。
「見てました、さっきの試合。すごいですね、東名大藤沢の副将と大将を一人で倒すなんて……」
「い、いやあ、そんな。ツキもあったからね」
良い雰囲気の二人。この場は若い人たちにおまかせして、年寄りは退散しましょうか――と桜子。
彼女が振り返るとそこに、恨みがましい目をした杉と茂が隠れていた。
「業務連絡業務連絡、斉藤さん斉藤さん。
三回戦と準々決勝の間は試合間隔が短いので、大至急、会場にお戻りください」
「ちょっとぐらいいいじゃないのよ!」
斉藤を激励して去っていく別所さん。そして彼女が見えなくなるまで動かず立っている斉藤。
「フッフッフッ、よ〜〜しっ!」
「いくぞお準々決勝!勝って勝って全国優勝だあっ!」
「コ、コイツ……」「おまえ、別所さんと会うと性格変わるぞ!」
三回戦の全試合が終わり、試合を見ていた龍子先生が皆の所に報告に来る。
その最後の組というのが浜高と当たるところなのだが、知ったら驚くと彼女は言う。
そして汗だくで廊下にやってきたのは――。
「竹の塚高の奥野くん!」「えっ?おお――っ、浜名湖の皆さん!」
「準々決勝、竹の塚とですね。よろしくお願いします!」
冬の合宿を共に過ごした彼ら竹の塚高は、第三試合場のブロックを勝ち抜いてここまで来ていたのである。
斉藤が素直に彼らを称賛するが、むしろ東名大藤沢を倒してきた浜高の方が凄いと返される。
と、そこで巧が奥野の柔道着についている血に気づいた。
「ああ、これ?大丈夫っスよ。さっきの相手の血です。どこもケガなんてしてませんよ」
奥野…
マジネタなのかトラップなのか?
巧を大将にするのが怖くなってきたな
つーか斉藤がリア充すぎて妬ましい
なんで柔道やってんのにモテるんだよ…… ちくしょう!
斉藤が必死になって巧のために頑張ろうとしてる最中
早く自分に回ってこねーかな、斉藤負けろと思ってた巧普通に最悪だな。
しかし今まで対戦校とはタメ口で喋ってたから
竹ノ塚との絡みはえらい違和感あるな。
まぁ相手が心許してないからなんだろうけど。
斉藤VS滝川の対決フラグきました。
超絶技巧派決戦となると、これは燃えざるをえない。
返り血ってw
このまんがはバトルものというよりはさわやかスポーツもののはずだろ
相変わらず、ノーマークの杉と茂カワイソス(´・ω・`)
まぁ、個人で全国に出ていない杉が無視されるのは当然だけどさ
茂は全国個人で活躍したけど、初戦は軽量級って認識なんだろうな
読者から見たら斉藤が浜高のポイントゲッターなんて当たり前なんだけどね。
この世界では去年の夏に千駄谷の先鋒倒したぐらいしか全国の実績なかったか。
むしろレギュラーで出てなかった分、他の連中より評価低かったかもしれん
怪我してたなんてことは知りようがないし
沖縄尚北戦で一本負けしてるし
608 :
1/3:2009/04/24(金) 21:07:56 ID:???
第278話 都立・竹の塚との対決
準々決勝は四つの試合場で同時に行われる。
今年の大会は実力伯仲。どこが出てきてもおかしくはない。
特に三強の一角・東名大藤沢を破った浜高には台風の目として注目が集まっていた。
その浜高の次の相手は都立・竹の塚。
同じマイナー校とはいえ、こちらは組み合わせに恵まれた感が強く、
ここは浜高の楽勝だろうというのが周囲の評価であった。
「みんな、揃ってるかっ!!あと1分ぐらいで試合だからな!!今のうちに関節とか慣らしとけよ!」
別所さんに会ってはりきる斉藤に場を完全に仕切られ、杉は涙を流す。
「なあ、浜高の主将って誰か知ってるか?」
「知らない。斉藤か?」
それにしても準々決勝の相手が奥野たち竹の塚とは、これも奇縁というべきか。
彼らとは冬の合宿で練習試合もしている。あのときは手の内を見せないよう苦労をしたが、
それでも巧と斉藤は勝っているし、今日はもう裏技も使える。
手加減なしというなら正直、負けるような相手ではない。
竹の塚の三回戦での試合の模様を龍子先生に尋ねる。
それによると、先鋒の下津田が一人勝ちぬいてリードし、他のメンバーは全員引き分けていたらしい。
「なるほど、ヤツがポイントゲッターか」「やっぱりなあ」「力、強かったもん。アイツ」
何しろ三溝が大外刈りをかけても、真っ向から力で返そうとした男である。
そこで、麻理が一言ポツリ。
「でも……なんか……気になるなあ、奥野さん(の態度)……」
言葉足らずの麻理の思わせぶりなセリフに、仲安は意味もなく動揺していた。
609 :
2/3:2009/04/24(金) 21:09:00 ID:???
その頃、竹の塚のメンバーはマネージャーの美奈に傷の手当をしてもらっていた。
ここまで勝ち残る間に見事にボロボロになっていた彼ら。
どこと当たっても常に接戦だったため、これは仕方のないことだった。
「さて……次に当たるのは浜名湖だ」
奥野の一言に、皆に戦慄が走る。
練習試合で一度、対戦したことのある彼らは、浜高の強さを身にしみて知っていた。
だが――竹の塚のコーチ、美奈の父親が語る。
「確かに、あの練習試合ではキミらは浜名湖に負けた。
だから浜名湖はこう思ってるだろう。“竹の塚となら楽勝だ”ってな。
そうやって油断してもらえば、こちらとしても好都合じゃないか」
その言葉に、竹の塚メンバーに生気が戻る。
さて、そういえば下津田の姿が見えない。一足先に会場に行っているそうなのだが。
いよいよ試合場に入る浜高。と、相手側の席にもう腰を下ろしている選手が一人。
「あれは下津田だ」「えっ?」「あいつ、あんなアタマしてたっけ?」
背中のゼッケンでは確かに下津田なのだが、どうも以前と雰囲気が違う。前に回って見てみると――、
そこには髪を短く刈り込み、髭を生やした精悍な表情の下津田がいた。
遅れて竹の塚の面々もやってくる。
「いよいよこっからが正念場だぜ」「ああ」
短く言葉を交わした彼らは、静かな気合いと共に試合に臨む。
『ただ今より、準々決勝の四試合が行われます』
610 :
3/3:2009/04/24(金) 21:10:03 ID:???
「下津田って、えらく変わったねえ……」「うん、いったい彼に何があったのでしょう……」
対戦相手である浜高の面々にそうまで言わせるほどの下津田の変貌。
竹の塚のオーダーはやはり変わらず、先鋒は彼が務める。
それに対する浜高側先鋒は三溝。「始め!!」
第六試合場では千駄谷学園VS旭川中央の準々決勝。
ここでも先鋒の御厨が背負いで一本勝ちを決め、幸先のいいスタートを切っていた。
鳶嶋は横目で浜高の試合の様子をうかがう。
(ま、竹の塚はオレたちが三人で倒した相手だ。よほどのことがないかぎり、浜名湖の楽勝だろう)
彼の予想でも浜高の優位は動かない。
と、そこで押さえ込み。これで浜高も一勝かと鳶嶋も思ったのだが――違った。
(押さえ込まれてるのは……浜名湖のほうだ!)
下津田に上を取られた三溝は、どうしてもその押さえ込みを外せない。
「くっ!くそ――っ!」
そして時間。
「一本!それまで!」「おおっしゃあっ!!」
雄叫びを上げる下津田。
唖然とする浜高。
歓声を上げる竹の塚。
(竹の塚の勝ちパターンにはまってくれた!!これで勝てるぞ、浜高に!!)
ちょ、三溝おおっ!?
最近周りからはポイントゲッター扱いされてると思ったらこれだよ
さすがポイントゲッター(笑)
ポイントゲッター
噛ませ犬
615 :
1/2:2009/04/25(土) 21:07:41 ID:???
第279話 巧VS下津田
竹の塚の下津田が浜高の三溝を押さえ込みで一本勝ちするという番狂わせ。
今のはまず三溝が大外刈りをかけ、二人同時に倒れ込み、ここまでは三溝が上になっていた。
そこから寝技の攻防。そこで下になっていた下津田が体勢をひっくり返し、そのまま押さえ込んだのである。
(やられた。下津田は、てっきり力だけだと思ってた。オレのミスだ……)
肩を落として戻ってくる三溝。そんな彼を巧が励ます。
「ドンマイ、ミッタン。まだ、チームが負けたわけじゃねえぜ!!」
浜高の次鋒は東名大藤沢戦で出番の無かった巧である。
浜名湖最大のポイントゲッターである巧の登場に、奥野に緊張が走る。
彼らの勝利のためには、巧こそが最大の難関。
(しかし!この粉川に対しては、こっちも万全の対策を練ったんだ!)
「始めっ!」
最初から激しい組み手争いになる巧と下津田。
(あの組み手にもっていけさえすれば……)
下津田には狙いがあった。が――その一瞬の隙、巧の左一本背負いが下津田を宙に巻き上げる。
「だあ――っ!!」
「技あり――っ!」
先の試合の鬱憤を晴らすかのように、開始10秒で技あり。
そこで三溝の声が飛ぶ。
「巧、気をつけろ!下津田は寝技が得意だっ!」
自分がやられただけあって、ちょっと必死な三溝。
ともかく巧は深追いはせず、寝技を避けて立ち上がった。
616 :
2/2:2009/04/25(土) 21:08:28 ID:???
「下津田!落ち着け、練習した通りにやればいいんだ!まだ始まったばかりだ、じっくりいけ!」
奥野の声に下津田は頷き、落ち着きを取り戻す。
試合再開――長い腕を利して巧の奥襟を捕まえた下津田。
「よし、そうだ!つかまえたら力いっぱい引きつけてっ!」
奥野の指示通りに密着するほど巧を懐に引き込んだ彼は、そこから奥襟を取っていた左手を離し、
さらに手を伸ばして背中越しに巧の帯を捕まえる。
その奇妙な形の組み手に、西久保が気づいた。
「あの背中越しに帯をつかむ組み手は……まさか……」
密着状態のまま思い通りに動けない巧。だが、
(力まかせに押さえつければ背負いに入れないと思ったら、大間違いだぜ!)
そのまま強引に背負いに入ろうとする。
その瞬間。
巧の帯を取っていた下津田の手が背負い投げの回転を殺し、後ろからその体勢を崩す。
慌てて戻ろうとする巧。しかし、それを狙いすまして下津田が小外刈りを繰り出す。
「おらあ――っ!!」
「巧の背負いが返された!?」
驚く浜高メンバー。ポイントこそ有効どまりではあったが、下津田はそこから寝技で攻める。
三溝の声が飛ぶ。
「逃げろ、巧!下津田の寝技は、オレでも返せなかったんだ!」
そして奥野も叫ぶ。
「逃がすなっ下津田!絶対ここでキメるんだ!」
そして、下津田は巧を袈裟固めに捕らえた。
「押さえ込みっ!」「わあ――っ!はいった――っ!」
ミッタンがやられて巧もピンチ、
これはヤバイ、って状況は分かるんだが。とりあえず
三www溝www必www死wwwだwwwなwww
巧が次鋒ってひょっとして初めてか?
> 下津田の寝技は、オレでも返せなかったんだ!
斉藤が言うなら箔がつくけどミッタンが言ってもプギャーにしかならんw
620 :
1/3:2009/04/26(日) 21:07:23 ID:???
第280話 背負い封じ
下津田の寝技に巧までもが捕まってしまうというまさかの展開。
いくら相手が格下の竹の塚とはいえ、巧までやられたら後半が苦しくなってしまう。
「10秒経過!」
(なに!?粉川が押さえ込まれているのか!?)
隣の試合場から横目で見ていた鳶嶋も驚くが、そんな彼を石丸が注意する。
「今、我々は旭川中央と戦っているんだぞ。ヨソを心配しているヒマなどない。目の前の試合に集中しろ」
そして、この展開に我慢のならない人間がもう一人、観客席の藤田である。
「何をしてんだバカヤロウ!そんなもの返せっ!」
彼のその声に呼応したのか、巧に瞬時に気合が入る。
下津田の下でうまく体を反転させる。
「逃がすな下津田!あと10秒、もう少しで一本だ!」
奥野も必死。だが――ついに押さえ込みが解ける。
時間は26秒。技あり。
それでもなおあきらめず、下津田はさらに関節を狙うが、巧は何とかそれを凌いだ。
これで巧は技あり一つ、下津田は技あり一つと有効一つ。
(くそ――っ!絶対に逆転してやるぜ!)
(来い、粉川!今のオレにはこの先行したポイントを守りきる自信がある)
試合再開。
先ほどの寝技で時間を食ってしまったので、残りは約一分半。
しかし、巧には超高校級の背負いの一発がある。逆転は十分にできるはず。
だが、西久保ははっきりとそれを肯定することができない。
「先程、押さえ込まれる前に、巧のヤツ、背負いを完璧に防御されていた。
私は以前、あの防御の技術をある試合で見たことがあるんです」
621 :
2/3:2009/04/26(日) 21:08:14 ID:???
「あれだ!背中越しに帯を取る、左変形の組み手!」
またも同じ体勢に持ち込まれてしまった巧だったが、それでも怯むことなく背負いに行く。
(さっきは失敗したが、今度は……もっと思いっきり飛び込めば!)
西久保が叫ぶ。
「やめろ巧!その形では、いくらおまえでも背負いにいくことはできん!」
それは先程の再現。帯をつかむ下津田の手が巧の背負いの回転を殺し、
後ろからガクンと体勢を崩される。
「本当だ!巧の背負いが……また防がれた!」
驚愕する浜高側。そして(よし完璧だ!!)笑みを浮かべる奥野。
慌てて戻ろうとする巧。だが――、
(後ろに戻ったら、また小外刈りが!)
再度、足を刈られて倒される巧。ここはうつ伏せに落ちてポイント無し。
即座に亀の体勢をとって、寝技の追撃を防ぐ。
(しかし、また背負いがかからなかった!コイツの左変形の組み手のせいか!?)
この状況に龍子先生は西久保のアドバイスを求める。だが西久保の歯切れが悪い。
「……難しいんですよ。オレはこの戦法を、テレビでやってたソウル五輪で見たんです」
彼の口から出てきたのは、そんな驚くべき言葉。
「ソウル五輪、71kg級の古賀稔彦が敗れた試合でね。
相手の旧ソ連代表・テナーゼは古賀の背負いを、今、下津田のやっている組み手ですべて封じ込めたんです」
622 :
3/3:2009/04/26(日) 21:09:16 ID:???
あの古賀が負けたという戦法。
背負いをやろうとする者の背中を取って動きを殺し、入ってきたところを潰す。
口で言うのは簡単だが、相手より長い手と腕力がないと、この左変形の組み手はできない。
誰でもできる戦法ではないが、下津田はそれに必要な要素を兼ね備えていた。
(おそらく、冬休みの立体大での合同練習の時、巧の強さと得意技が背負いであることを知って、
その対策を練ってきたんだ。竹の塚には相当の策士がいる!)
戦慄する西久保。そしてほくそ笑むのは――奥野。
(粉川が先に出てくるか後に出てくるか迷ったが……読みが当たったな……)
(このままいけば勝てる!浜高最強の粉川巧を倒せる!)
古賀ですらやられた戦法などを持ってこられては、根本的に対策を考えなければ対抗できない。
しかし、残り一分を切っているこの試合時間内に、それをするのは不可能に近い。
こうなった以上、下津田の組み手になる前に技をかけていくよりほかにない。
しかし、下津田は組み手争いも上手い。組み際の一本背負いを警戒し、完全に組む前は慎重で隙がない。
巧は隣の試合場の鳶嶋をうかがう。
(ちっ、横目で見てやがるな。あいつの前で見せたかなかったが……仕方ねえっ!)
「でたっ、裏技!」「腕返し!」
「いけえっ!」
どうせこれも対策されてるから
いや裏技は竹ノ塚には見せてなくね?
まあこれでも決まらず裏技は布石・・・という展開だろうけど。
使っただろ、ジャンケン勝負でドンケツだったときに
立体大の最後の乱取りのときに普通に奥野とかもいたな。
せっかく実力隠してたのに、仲間意識が芽生えて甘くなったのか。
それ以上に全力で柴田とやった方が価値があると思ったのか。
……河合の単純ミスってことはないよね?
俺達の裏技をあの時の裏技と思うなよ
でおk
628 :
1/3:2009/04/27(月) 21:01:08 ID:???
第281話 怒れる巧
(あれは……!腕返し!!)
鳶嶋の目の前で、巧の仕掛けた腕返しが下津田の体を大きく回転させる。
有効を得て、これでポイントは並んだ。
(並ぶだけじゃダメだっ!)
即座に寝技を狙いにいく巧。食い止めようとする下津田の腕を押し退け、押さえ込みに入る。
横四方固め。しかし、もう時間がない。離してしまえばその瞬間に引き分けで終わる。
「その押さえ込みはまだ不十分だ!逃げられるぞ下津田!」
奥野の声が飛ぶ。
下津田は巧の首に足をかけようとするが、巧はこれを外す。
そこにできた隙に体を返そうとする下津田。「このっ!」
「おらあっ!」
外れかける寸前、巧は横四方から袈裟固めに移行し、完璧に下津田を固める。
「粉川のヤツ……寝技がうまくなってる……」
驚きの表情を見せる藤田。
県予選で彼が同じように腕返しから押さえ込まれた時は、何とか外すことができたのである。
それから三か月の間に、巧も成長をしていたのだ。
そのまま20秒が経過して有効。この時点で巧の勝利が決まる。
そして25秒。「技あり!合わせて一本、それまで!」
これで完全決着となる。
石丸には注意されたが、横目で見ていて良かったと鳶嶋は思う。
(粉川は腕返しを持っているのか。しかし、それは奥の手としてはどうかな?)
629 :
2/3:2009/04/27(月) 21:02:19 ID:???
「完全に背負いは封じ込めたのに……あと一息だったのに……」
悔しがる美奈。竹の塚高・次鋒の入谷は、まだこれで次鋒同士の争いになっただけ、
粉川を絶対に食い止めてやる、と意気込むものの――。
(苦しくなってきた)
奥野は正確にこの現状を理解していた。
一時はどうなることかと思ったが、ようやく安堵する応援席の女子たち。
それでもまだ、やっと並んだところでしかなく、油断はできない。
巧も今の試合で4分フルに戦い、疲れているに違いないのだ。
「よーし、ここは一発、きれいどころ揃い踏みの声援で元気になってもらいましょうか」
というわけで、桜子が音頭を取り――、
「せ――のっ、がんばれ、がんばれ、こっがっわ――っ!」
彼女たちの応援の声が、会場に響き渡るのであった。
巧対入谷。気合い十分の入谷に対し、巧の表情は硬いまま。
(やってやる!下津田がやったように、背負い封じの組み手にもっていけば……)
先程の試合と同じように、入谷は巧の背中越しに帯をつかみにいく――が、
巧はその伸ばされた腕を払いのけ、即、一本背負いに入る。
「うおりゃああっ!!」
「一本!それまでっ!」
630 :
3/3:2009/04/27(月) 21:03:12 ID:???
思わず立ち上がる奥野。時計の数字は2:54。
つまり――開始6秒で決着がついてしまったのだ。
「巧のヤツ……相当アタマにきてんな」
斉藤が呟く。確かに、一本勝ちしても巧はまるで嬉しそうではなかった。
「得意の背負いを下津田に完全に封じ込められたことが悔しくて怒ってんだ!
たぶん今の試合も、意地でも背負いで投げてやると決めてたんだぜ」
渋面を作る奥野。
(竹の塚には、背負い封じをマスターできたのは下津田とオレしかいない……)
いくらあの古賀を破った左変形の組み手を使ったとしても、
誰でも巧の背負いを封じられるというわけではないのだ。
「このままでいくと巧のヤツ、何人勝ち抜くか分からんぜ」
という時にコロッと負けるのが巧
あのオッサン顔のことを忘れたかお前ら
「下津田の寝技は、オレでも返せなかったんだ!」
→寝技がうまくなったので、大丈夫でした
これが主人公補正という奴か・・・つーか元々寝技で負けた試合なんて記憶にないけど。
鳶嶋やっちまったな。
まさか腕返しに本命の二回転目があるとは思うまい。
裏技は全員改良しているのだから、今の巧はきっと決まるまでかけ続ける地獄車的な変貌をとげているんじゃないかな
昔ヤンジャンでやってた弥生の大空ってマンガにそんな感じの技があったな
決勝の展開が見て取れるようだ。
鳶嶋、巧を追いつめる→裏技発動、腕返し→「お見通しだ」→まさかの二回転→
鳶嶋動揺→伴監督直伝、超背負い投げ→勝利→帯をギュッとね!完
これだね。
637 :
1/2:2009/04/28(火) 21:02:58 ID:???
第282話 追いつめられた竹の塚
竹の塚の中堅、梅嶋にも一本勝ちした巧。
先の次鋒戦での6秒で一本はともかく、今度も秒殺で決着がついた。
慄然とする竹の塚高副将・綾瀬。
次鋒の入谷もこの梅嶋も、今までの相手なら何とか引き分けには持ちこめていたのに。
「これが超高校級の実力ってヤツかよ。くそっ!」
理不尽ともいえる差に、吐き捨てるようにいう下津田。だが、
「その超高校級の背負いを実際二度も止めてみせたのは、おまえだぞ、下津田」
奥野がそうたしなめる。
「綾瀬!いつも練習でやってきたことを出せばいいんだ!まずは落ち着いて!
そして失敗を恐れずに!竹の塚はそうやって準々まで勝ってきたんじゃないか!」
その奥野の声に、綾瀬は折れかけていた精神を立て直す。
(あきらめんぞ、奥野がああいってるんだ。
オレたちは奥野の言うことを信じてやってきたから、全国大会まで来れたんだから……)
さすがに竹の塚の副将・綾瀬は、1分以上はもった。
だが、しかし……「うおりゃあっ!」
巧の一本背負い炸裂。ついに四人抜きを達成される。
「竹の塚はもう残るは大将・奥野のみだっ!!」
(さて……こういう時はどうしたらいいのかな)
638 :
2/2:2009/04/28(火) 21:03:45 ID:???
顔を押さえて涙ぐむ美奈。まだ竹の塚が負けたわけではないのだが――。
「も、もう、見るのが怖い……浜高、まだ四人も残ってるんだもの。
たとえ粉川くんを倒しても、まだ三人もいるんだもの。どこかできっと負けちゃう!」
これではまるで、負けるために出ていくようなものだと彼女は嘆く。
しかし。
「とりあえず、なんとしても粉川だけは倒す」
奥野はさわやかに言ってのける。
「その先のことは、それから考えるとするか!
逆転するも何も、まず最初の一人に勝たなきゃどうしようもないからな!」
下津田、入谷、梅島、綾瀬。バトンを受け取るように彼らにタッチした彼は、
凛とした表情で巧の前に立つ。
「こい粉川!たとえきさまが超高校級だろうと、必ず勝ってみせる!」
「始めっ!」
慎重な組み手争いから、奥野は巧の帯を取る。背負い封じの左変形組み手。
(やはり奥野もこれできたかっ!)
この体勢ではむやみに背負いにはいけない。だが――。
(粉川くん、言っとくが、この組み手は別に防御専門ってわけじゃないぞ)
「奥野ファイト!いけ――っ!」
必死な美奈の声。それに呼応するかのように、奥野が仕掛けたのは――内股!
「でやああ!」
「おわっ顔面!」「巧くん!」
極端に低く入った奥野の内股に、巧は顔から畳に突っ込んだ。判定は「有効」。
寝技の追撃を防いだ巧だったが、その鼻と口の端からは赤いものが滴り落ちていた。
「鼻血が出たか……この内股で流血したのは、今日おまえで二人目だ、粉川!」
な…そんな卑怯な!
このままじゃ巧不戦敗じゃないか!
竹ノ塚戦になってからちょいチェックから急に超高校級扱いになったな。
何か佐鳴の全国バージョンみたいだ。
そして口で呼び捨て、心の中で君付けの奥野君はおかしい。
別におかしかないんじゃない?
呼び捨ては相手を威嚇、自分を鼓舞する効果や役割があるだろうし
心の無けで君付けしているのは、自分の方が優位であると思うからだろ
別にそうとは限らないんじゃね
普段は君付けだけど試合の時だけは呼び捨てにするとかいうタイプもいるし
それを心の中で使い分けてたとしても不思議じゃない
有効止まりか、だめだなこの幼なじみ女は
645 :
1/2:2009/04/29(水) 21:01:13 ID:???
主審にティッシュをもらい、鼻に詰める巧。
このような顔面から畳に突っ込む内股は反則なのではないのか、と茂が憤るものの、
そのルールはあくまで技をかけた側の危険を避けるためのもので、この場合は適用外になる。
それよりも驚くべきは、背負い封じのためだけのものと思われた左変形の組み手から、
奥野が内股を出して見せたこと。
もしかしたら先鋒に出た下津田よりも、奥野の方がこの組み手での戦い方を熟知しているのかもしれない。
第283話 都立・竹の塚、奥野の戦い
(奥野ならやる、やってくれる!この背負い攻略の作戦も、あいつが考えたんだからな)
下津田は絶対の信頼を奥野に寄せる。
時間は少し遡って――冬の合宿後、竹の塚高の道場でのこと。
奥野は立体大で見た巧の凄さをコーチである美奈の父親に語る。
ひょっとして、古賀稔彦が高校生ぐらいの頃ってこんなだったかもしれない――と奥野。
まあ、古賀は高三の時に大学生も出る全日本新人体重別で、
オール一本勝ちとかしていたのだから、おいそれと比べられるものではないが。
「まあ、あの人は世界一の背負いの使い手ですからね。今や、誰もかないやしない」
奥野はそう言うが、その天才・古賀も苦労をしたのだ。
最初に出たソウル五輪の時には、彼は二回戦で敗退してしまったのだから。
「まてよ……」「ん?どうした奥野?」
それから彼らは、1988年ソウル五輪のビデオを手に入れる。
問題の71kg級二回戦、古賀VSテナーゼの試合である。
「見ろ、ここだ!この組み手だ!」
そして現在――当時のビデオ映像をそのまま再現するように、奥野は巧を捕まえていた。
646 :
2/2:2009/04/29(水) 21:02:11 ID:???
「どうだ粉川!!背負いに行けるものなら行ってみろ!!」
吠える下津田。それは自分たちの研究の成果に対する絶対の自信からのもの。
だが、巧は臆することなく、本当に背負いをかけにいく。
「こいつ――!」
これまで同様、背後から体勢を崩す奥野。巧は返し技をくらう前に手を離して逃れる。
(片手背負いじゃダメかっ!それなら――)
巧の背負いは完全に封じられたかと思われたが、それでも巧は諦めない。
今度は左変形組み手になる前に左背負いにいく。だが、「むんっ!」
これは奥野の予想の範囲内。即座にすくい投げで返され、さらに「有効」一つをリードされる。
(これでもダメか……くそっ。いやある!方法は絶対にある!)
「なぜ!?なぜ巧は裏技を出さん!」
苛立つ杉。今のところ、巧の背負いは下津田と奥野には通用していない。
ならば下津田戦でしたように、裏技の“腕返し”を出すしかないはずなのに。
奥野にも聞こえてしまうので外からアドバイスはできない。タイミングは巧が決めるしかないのだが。
斉藤はそんな巧の心情を理解する。
「巧のヤツおそらく…背負いにこだわってるんだろうな」
(竹の塚は、巧の背負い投げという技に挑戦してきた。巧はそれを真っ向から受けて立つ気なんだ)
再び左変形組み手に入るため、奥野は組み合った巧を懐に引きつける。
これで後ろ帯を取れば完成、というところで、
(帯をとりにくる時!一瞬が勝負だ!)
奥野の左手が巧の帯に伸びる。
(今だっ!)
自分の動きを殺していた左手が離れたそのとき、巧は一瞬、体を引く。
目測を誤った奥野の左手が空を切る。
(片エリ!?)
巧は片襟のみをつかみ、奥野の体を背負いに担ぎ上げた。
647 :
業務連絡:2009/04/29(水) 21:03:28 ID:???
次回は一回休載して、単行本28巻のおまけを紹介します。
片エリだけでも背負えるものなのか。
そういや三五もやってたような気がするけど。
巧の闘い方は選択としちゃ馬鹿なんだろうけどな。
でも馬鹿だからこそ熱い。
650 :
1/3:2009/04/30(木) 21:01:43 ID:???
○単行本第28巻 (表紙:柴田・下津田・原 裏表紙:奥野・美奈)
・四コマその1
1.〔帰り道、舞散る枯れ葉〕
巧「お?枯れ葉かあ…」
保「あっ!あれ…」
2.〔木の上から葉っぱをまいている担当ニシボリ〕
巧「なにやってんだ…?」
3.〔街でデート中、急に降り出した雨〕
保「あら雨」
巧「あっ、あそこに傘売ってる。買おう」
4.〔傘屋に扮するニシボリ〕
ニ「一本しか売らねえだよ!」
巧「なんでだよ?!」
ニ「カップルは一本でじゅうぶん!」
・ラブコメになりそうなシチュエーションをムリヤリつくるニシボリであった。
651 :
2/3:2009/04/30(木) 21:02:42 ID:???
・四コマその2 県まんが『はままつ県』しずおか県から独立!
1.アキラ係長「ウナギなんてひさしぶりだな」
よし子先輩「とくに天然ものなんてぜいたくだわ」
くるまくん「はっ!」
2.くるまくん「店主!これのどこが天然モノだっ!これは浜名湖産だろうが!」
店主「えっ、だから浜名湖の天然ものだよ!」
3.くるまくん「ウナギ屋のくせに知らないのかっ!浜名湖そのものが広大なウナギ養殖池だと!」
4.浜名湖は湖全体をそのままつかって、ウナギを養殖している。
そのため野生のウナギは一匹もいない。
ちなみに湖面は、いつもウナギでごったがえしである。
『大うそ!』
652 :
3/3:2009/04/30(木) 21:03:30 ID:???
○愛をこめての第28回 サンデーコミックス名物『絵筆をもってね!』
選評/河合克敏 応募総数:618点 入選:44点
グランプリ:広島県・大山心〔(帯ギュクイズ 私はだれでしょー。※迷路を辿ると答えが分かる)〕
準グランプリ:福岡県・たきと〔巧・杉・桜子・麻理(美の世界)〕
topix:千葉県・入船花子〔藤田ファンのみなさん(27巻p.5のパロディ)〕
愛知県・帯一休〔豊・藤田(27巻p.140で藤田×桜子がいい雰囲気だと思った人へ)〕
1.謎「お前が藤田だな」 藤「何だお前!?」
2.謎「『豊のユカタ』と10回言ってみろ。早口で。
さもなくば桜子さんの名を記憶から抹消しろ」
3.藤「ユタカのユタ…」 謎「忘れる気になったか?」
愛知県・帯一休〔松原・薩川(27巻で「薩ちゃんもしや!」と思った人へ)〕
1.松「まっじかっる柔道!!柔道といえば黒帯♪」
2.薩「黒帯といえば…藤田さん」
3.松「やりなおし」 薩「えー!?」 松「はいっマジカルじゅーどー!!♪」
迷路は辿らなくても杉じゃねぇかw
ぷりぷり県w吉田戦車ww
まんまキャラ持ってきてるけどいいのか?
655 :
1/2:2009/05/01(金) 21:03:10 ID:???
巧の背負いを必死にこらえる奥野。
こらえる奥野を全力でかつぐ巧。そして――。
「だああっ!」
第284話 竹の塚、散る。
「一本!それまで!」
『準々決勝、こちら第三試合場です。今、凄いことが起りました!
浜名湖高校の次鋒、粉川くんがなんと五人抜き達成です!』
そのとき、戦っていた残りの6チーム全部が、一瞬、第三試合場の方に注目した。
体力を使い果たして倒れ込む巧。畳に大の字になって大きく息を吐く。
「凄い凄――い!粉川先輩さっすがあっ!」
観客席では大はしゃぎで保奈美に飛びつく麻理。
そして、顔を赤らめて呆ける桜子と別所さん。“はっ!”
(いけない私ったら!ついボーッとして……斉藤さんごめんなさいっ!)
(いかん、いかん。なんでアタシがあいつに見とれなくちゃならんのよ)
そんな二人の心情に気づかず、隣でニコニコ顔の保奈美であった。
意地でも背負いで決めた巧に奥野も脱帽する。
(背負い封じのこの組み手に対し……あえて背負い投げばかりかけてきやがった。
一発一発工夫しながら、最後にこの組み手の弱点を見つけて、背負い投げを成功させた)
奥野の背負い封じの唯一の弱点。それが背中を取りに手を離す瞬間。
それを見切った巧に、奥野は完敗を認めた。
656 :
2/2:2009/05/01(金) 21:05:04 ID:???
涙ぐむ美奈を父親が慰める。
「大したもんだ、都立の竹の塚がここまでこれたなんて。ベスト8より上は夏にまた狙えばいい」
都立・竹の塚高――準々決勝、敗退。
そして浜名湖高校はついに過去最高のベスト4まで勝ち進んだ。
準決勝の相手は西の横綱、天味高校!
(五人抜きした粉川を対象に引っ込めたな。前半でなるたけリードを奪っておかなくては……)
天味高監督・杉元の考えは全く正しかったが――しかし。
斉藤・杉・宮崎の三人が踏ん張り、試合は一進一退の攻防を見せる。
さらに準々決勝の負けのお返しとばかりに三溝が副将、大将を二人抜き。
超強豪校、天味を巧なしで打ち負かすという、大方の予想を覆す展開となった。
そして、もう一方のブロックから勝ち上がってきたのは、やはり千駄谷学園だった。
副将・鳶嶋の袖釣り込み腰一本で、二人残して試合終了。
準決勝まできてなお、大将・橘の出番を待たずに勝利を決めた。
千駄谷の決勝進出の瞬間を見ても、浜高選手メンバーは誰ひとり口を開かなかった。
それがさも当然であるかのごとくに。
・・・あれ、なんかあっさり決勝進出しちゃったな
やっぱ今年は負けか?
出番が少ないことが橘の弱点だな
準決勝の描写軽いなw
そして相手がキャラ立てされてないときだけ勝てるミッタンw
今大会は宮崎と杉が空気だな
軽量の茂はともかく杉は一回ぐらい見せ場作れよ
661 :
1/4:2009/05/02(土) 21:00:22 ID:???
格闘技専用の競技場として、今なお、日本最大を誇る日本武道館。
年に一回、高校柔道マンが集い、日本一を決める高校柔道選手権大会も、いよいよ大詰めを迎えていた。
東京代表・千駄谷学園高校
静岡代表・浜名湖高校
全国1966校の頂点に立つべく、この二校が団体戦決勝を戦う。
第285話 エール
「保奈美先輩、桜子先輩、早く、早くうっ!休憩時間が終わっちゃう!」
二人を急かす麻理。決勝前に選手たちに一声かけようというのだが、彼女らにも少々、現実感が伴わない。
いくら日本一を目標にしてきたとはいえ、早々と春にここまでこれるとは――。
「なんだか……すごく怖くなってきちゃった……」
不安がる保奈美を、桜子が怒る。
「そんな暗い顔して巧くんの前に出ちゃダメ。あいつはあんたがニコニコしてる顔を見たら一番元気がでるんだから」
「……うん!わかった、ニコニコしてる」
親友の言葉に励まされた保奈美の顔に生気が戻る。そんな彼女を桜子は、
「浜高のポイントゲッターの気分を左右する女。行ってみれば、浜高が勝つも負けるも、コイツ次第か」
などとからかうのであった。「なに言ってんの、も――」
さて、そんな彼女らが控室の前に到着すると――そこには何やら人だかりができていた。
大会関係者たちの間でも、いよいよ決勝戦ということで話が盛り上がる。
千駄谷学園と浜名湖高校、はたしてどちらが勝つのだろうか。
下馬評では千駄谷有利。やはり昨日の個人戦で優勝した橘と、主将の鳶嶋の両名を抱えているのは大きい。
「橘は重量級の、そして鳶嶋は軽いクラスの、将来の日本代表になれる可能性を持っている。
太田監督と石丸コーチは、今現在というより、
数年後のオリンピック代表になれるようなスケールの大きい指導をしてこられた」
662 :
2/4:2009/05/02(土) 21:01:09 ID:???
そんなお偉方たちの会話を横で聞いていたのは、仲安と石野の二人である。
(ちくしょー、みんな千駄谷、千駄谷って言ってやがるな)
(一人ぐらい浜高ほめてくれる先生、いないのかなあ……?)
やきもきする二人の期待に応えるかのように口を開いたのは、立体大の伴監督。
「スケールの大きさを言うなら、私は準々決勝で五人抜きした浜名湖の粉川を推しますがね」
まだまだ荒削りな面が目立つものの、そこがまた、これからも伸びていく期待をさせる。
他にも斉藤、三溝といったいい選手もいるし、決勝は好勝負になると予想する。
伴監督の意見に同調してくれる人たちは他にもいた。
「へえ、伴監督もいいと思いますか、あの粉川を。実はボクも、いい選手だなあと思って見てたんですよ」
同じ背負いを使う選手にはどうしても目が行ってしまうという彼を、後ろから仲安は称賛する。
「おお、ほかにも分かってるヤツがいるじゃねえか。若そうだが偉いヤツだ」
さらにもう一人、話に加わる。
「自分もあの粉川ってヤツ、いいと思いましたね。休みなくガンガン攻めてくとこが、気持ちいいっスよ」
彼もまた手放しで巧のことを褒めるが――。
「でも優勝は、たぶん千駄谷でしょうね。ボクらの母校、世田谷学園に名前似てるし」
そんな手のひら返しに思わずコケる仲安。
(なんだこいつら?浜高をほめたと思ったら、コロッと千駄谷にくら変えしやがって!)
後であいつらシメちゃおうぜ――などと、いかにもヤンキーな発想で石野とひそひそ話をする。
それに耳聡く反応したのは、たまたま横にいた柴田だった。
柴田は悪戯っぽくにやりと笑い、大声で先ほどの二人を呼ぶ。
「古賀さん吉田さん!こんなとこにおふたりをシメちゃうとか言ってるヤツがいますよ!」
「はあ?」
古賀稔彦、吉田秀彦。日本柔道を代表する両名、しかもご本人とあって、仲安と石野は顔面蒼白。
「ひええっ!すんません!すんません!すんません!」その場に土下座して平謝りするのであった。
663 :
3/4:2009/05/02(土) 21:02:25 ID:???
「よしと……そろそろ行きますか」「ええ」
西久保と龍子先生の言葉に立ちあがる浜高メンバー。
彼らが控室のドアを開けると、その前には――。
「よおっ!」「来てやったぜ!」
かつてのライバルたちが、出陣する皆にエールを送るために待ち構えていたのであった。
「石塚さん。袴田さんも!」
佐鳴高の石塚、袴田さん、それに豊。
石塚と袴田さんの二人はともに東京の大学を受験して、仲良く合格をしていた。
「暁泉の平ちゃん!」「永田!」「ダンナ!」「佐野!」「若翔洋!」「黒柳だっ!」
暁泉学園の面々。黒柳の名前を間違えるのはお約束。
「あんたらの地元以外の人間もいるぜ」「長谷じゃねえか!I・H以来だなあ」
夏に軽量級個人戦で宮崎と戦った、神奈川県代表・座間東高の長谷。
そしてもう一人――三工の藤田。
「粉川、おまえの持ってきたカメラ貸せよ」
彼のその態度に思わず反発する巧だったが、保奈美がそれをたしなめる。
藤田はカメラを受け取り、
「分かってんな?貴様が負けたらこれで撮るぞ」
以前の巧と同じ言葉を、今度は彼自身にぶつけるのであった。
それに対する巧は自信満々に返す。
「負けねえよ!おまえじゃあるまいし!!」
すごくいい笑顔でサムズアップ。
「なんだとこの野郎!」大事な試合前だというのに、取っ組み合いの喧嘩になるところだった。
664 :
4/4:2009/05/02(土) 21:03:06 ID:???
「じゃあな、力いっぱいやってきなよ」「しっかりね!」
「ここまで来たら、ハラくくんな」「期待してるわよ」
「五人抜きされんなよ」「されるかバカタレ!!」
一人一人が口々に、それぞれに相応しい言葉で励ましていく。
「ファイトです先輩!!絶対勝てますよ!」
と、麻理が。
「一生懸命応援する!だから…こんな当たり前のことしか言えないけど……だから!」
「がんばって」
と、保奈美が。
そして最後に桜子が。
「よっしゃ!行ってこいっ!!」
皆のエールを背に受けて。五人はいよいよ決勝戦へと臨む。
「フレー、フレー、浜高!!」
いい最終回だった
>他にも斉藤、三溝といったいい選手もいるし
相変わらずこういう場面では評価されるなあ
斉藤は東名大藤沢の副将と大将の二人抜きしたし
三溝は準決勝では良いとこ無しだったけど、デカイからインパクトが大きいしな
いやいや、ミッタン準決勝は大活躍だって!
天味の副将と大将二人抜きしてますから!
……描写を完スルーされただけで。
669 :
1/3:2009/05/03(日) 21:02:09 ID:???
第286話 その時はきた!
浜高がかつてのライバル達に見送られながら出陣せんとしていた頃、
対する千駄谷の控室でも、千駄谷学園のOB達が選手を激励していた。
「いいか、優勝以外は新居も一回戦負けも一緒だぞ」
そうハッパをかけるのは、鳶嶋の兄、佳隆である。彼は日の本大学柔道部に進学が決定していた。
先のI・Hで彼が大将を務めた千駄谷のチームは二位で終ってしまったのだ。
兄の言葉を聞き届けた鳶嶋は、周りに向かって宣言する。
「分かってます!絶対優勝します!この決勝戦も、その後の試合も全て勝ちます!」
その後の試合も全て勝つ――。
それは選手権、金鷲旗、I・Hの高校柔道三大タイトル全制覇を意味していた。
「たくましくなった。見違えるほどに……」
独白する千駄谷の太田監督。
彼は正直に言って、今年のメンバーでは優勝は難しいと思っていた。
重量級クラスが橘だけしかいなかったし、半ば諦めかけていたのだ。
大会出場全チームの中でも、平均体重は一番軽いはず。
その小兵軍団が、フタを開けてみれば完璧に近い内容で決勝進出を果たしてしまった。
監督の言葉に対して石丸コーチは「確かに小兵軍団です」と認めた上で、言う。
「しかし……私は最強のチームだと思ってます。千駄谷学園始まって以来の!」
頷く太田監督。彼は千駄ヶ谷の正選手たちに、かつての石丸の姿を重ねていた。
(今のあいつらを見てると、昔の石丸が四人いるかのように見える。
当時、さして大きくない体で重量級をバッタバッタと投げ飛ばした石丸修一がな!)
670 :
2/3:2009/05/03(日) 21:03:13 ID:???
試合後の祝勝会で両親と会えることを楽しみにする御厨。
千駄谷の選手たちは全員、東京出身者ではない。
彼らは地元を離れて千駄谷学園に柔道をするために来たのである。
1月と8月に三日間の休みがもらえる以外は、全国大会のある日が家族と会える日だった。
そして、その事情は鳶嶋も同じ。
(絶対に日本一になる。そのためにオレと兄さんは九州から東京にでてきたんだ)
彼は幼い頃のことを思い出していた。
「おそいぞまさたか!はよこんかっ!」「まってえ、兄ちゃん!」
田んぼの脇の砂利道を柔道着を持って歩いていく小さな兄弟。それはかつての鳶嶋の姿である。
幼い頃から兄の後をチョコチョコついていってばかりの弟は、兄が始めた柔道を当たり前のように自分も始めた。
小学生の大会で兄弟そろって優勝を続ける兄弟のところに、有名校からの誘いが来たのは必然だった。
小学校六年で親元を離れ、千駄谷学園に入学することを決意した佳隆。
その一年後、兄を追いかけるように弟・雅隆も東京に来た。
『第16回全国高校柔道選手権、いよいよ決勝です。
昨年、一昨年と優勝し、三連覇を狙う強豪・千駄谷学園か!?
大会出場二度目、決勝進出は初めて。初優勝に挑む急成長の新興・浜名湖高校か!?』
『昨年の夏のI・Hで、この両校は準々決勝で当たっています。
この時は、千駄谷学園が浜名湖高校をくだしています。
夏の雪辱なるか、浜名湖。強豪の意地を見せるか、千駄谷学園』
○赤・千駄谷学園
先鋒・御厨太郎 次鋒・滝川澄之 中堅・安藤 忠 副将・橘 大樹 大将・鳶嶋雅隆
○白・浜名湖高校
先鋒・宮崎 茂 次鋒・杉 清修 中堅・三溝幸宏 副将・斉藤浩司 大将・粉川 巧
671 :
3/3:2009/05/03(日) 21:04:11 ID:???
「ここまで来たら優勝だ――っ!」「いけ――浜高――!!」
「ファイトー!!千駄谷!!」「がんばれ先鋒・御厨――!!」
日本一を決める最後の舞台。両校の応援が白熱する。
「太郎――、がんばれ――っ!!」
その中で御厨は、彼の母親の声を確かに聞いていた。
(聞こえるよ、お母さん。大丈夫さ)
雌雄を決する決勝戦、まずは先鋒戦。その火ぶたが今、切って落とされた。
「始めっ!」
○東京代表 千駄谷学園 先鋒・御厨太郎 VS 静岡代表 浜名湖高校 先鋒・宮崎 茂
千駄谷の先鋒・御厨は160cm・60kgという小さな体で並いる重量級を投げ飛ばし、
今大会で一番、場内を沸かせてきた驚異の一年生である。
特に圧巻は三回戦の福知山戦。この時には自分の倍ほどもある相手を投げていた。
しかし今度の相手である宮崎は、ほぼ同じような体格の軽量同士。果たしてどのような戦いになるのか――。
まずは御厨が良い組み手を取る。ここから得意の背負いにいくか。
(親元を離れて名門・千駄谷で今までがんばってきたボクらが!浜名湖なんかに……)
「負けるはずはないっ!」
いきなり背負いを仕掛ける御厨。
だが、宮崎はそれに反応して止め、そこから逆に――巴投げ!
「でやあっ!」
「有効!」
先制したのは宮崎。
試合前には千駄谷有利という大方の予想。それを覆す形で決勝戦の幕が上がった。
宮崎、ここで株を上げるか?
千駄ヶ谷有利と言ってもこの闘いだけは浜高有利と見られてもおかしくなさそうだな。
いくら御厨が凄いといっても実績の乏しい一年坊。
対する宮崎は全国3位の猛者なんだから。
けっきょく噛ませだったか、御厨
宮崎が先行したした試合はたいてい一発食らって逆転負けする
「僕、この試合に勝ったら祝勝会で両親に会うんです」
負けフラグ3つも建てたら(中途半端な背負いライバル、回想シーン×2)も挟まれて勝てるはずがない
678 :
1/2:2009/05/04(月) 21:01:42 ID:???
第287話 先制の一撃
(よくも……よくも投げてくれたなっ!絶対に投げて一本とってやる!)
有効を先取された御厨は怒り心頭。宮崎に対し果敢に攻めていく。
「でやあっ!!」
左の一本背負い。だが――「おう!」
宮崎は即座にこれに対応。重心を落としてこれを止め、逆に足を取ってこれを返す。
「おらあっ!」
御厨は何とか体をひねってこれを回避。腹ばいに落ちてノーポイント。
だが、宮崎はそこで容赦なく上に覆いかぶさって攻める。
「待て」がかかって仕切り直しとなったものの、二回連続で背負いを止められたことで動揺する御厨。
(そんな……なぜボクの背負いが通用しない……?)
さらに三度目の背負いにいくものの、やはり担げずに戻る。
準決勝まで大きな相手を投げ飛ばし続けてきた御厨が、どうして小さい宮崎を投げられないのか。
そんな桜子の疑問に対し袴田さんが解説する。
その答えは体重移動。
どんなに大きな人間でも、体の重心より下の位置に潜り込めれば背負いで投げることができる。
逆にどんな小さな人間でも、背負いに入る側の人間の腰より下に重心を下げれば投げるのは不可能なのだ。
「軽量級同士の戦いは、スピードの戦い。
相手のかけてくる技に相手以上のスピードで反応できるほうが勝つ!」
女子48kg級I・Hチャンピオンである彼女の含蓄あるお言葉。
宮崎は御厨のスピードをものともしていない。昨年のI・H軽量級三位はダテではなかった。
679 :
2/2:2009/05/04(月) 21:02:53 ID:???
ここにきてまた宮崎の巴投げ炸裂。「技あり」となり、リードを大幅に広げる。
『準決勝まで凄まじい快進撃を続けてきた御厨が、
この試合、うってかわって大苦戦!いったいどーしたのでしょうか』
『攻めが一本調子ですね、御厨は』
同じ技を同じタイミングで繰り返す御厨の攻撃は、宮崎にはもう通じない。
これなら裏技を出さずとも勝てるかもしれない。
(こんなバカな……このままじゃ……)
自分の思うような試合運びがまるでできない御厨は、次第に焦りに支配されていく。
(父さんや母さんの見てる前で、負けちゃうじゃないかっ!)
(気持が先走って技がバラバラだ。冷静になれ!普段の気持ちに!)
声を上げようとする石丸コーチ。だが、それを制するように鳶嶋が叫んだ。
「御厨!おまえは千駄谷学園柔道部の一員だっ!思い出せ!道場での練習をっ!!」
瞬間、御厨の脳裏を駆け抜ける、これまでの苦しい練習風景。
彼の精神が立ち直ると見るや、巧が宮崎に指示を飛ばす。
「宮崎いけっ!!裏技だ!」
その声に、宮崎は躊躇なく技を仕掛けに行った。
御厨の横から彼の右袖を取り、外側から懐に踏み込んで、一本背負いのように――投げる!
「なにっ!?」この変則の技の入りに驚きの声が上がる千駄谷サイド。
「おりゃあ!」
御厨の体が大きく一回転し、そのまま畳に叩きつけられた。
「一本、それまで!」
『一本です。宮崎、御厨を袖釣り込みのようなワザで一本勝ち!!
高校柔道選手権大詰めの男子団体戦決勝、先にリードしたのは浜名湖のほうです!』
このあとは
「御厨が負けたか・・・」
「ククク・・・御厨は我々の中では一番の小物!」
「御厨程度を倒したくらいでいい気になってもらっては困るな・・・」
ですね?
立ち直りかけたと思ったところで裏技瞬殺、
まるで見せ場無く終了とは扱いむごいな〜
巧がいよいよチートになってきた
外から試合の機微がわかるとか
5人抜きした1年は宮崎にお灸添えられる法則
684 :
1/3:2009/05/05(火) 21:00:47 ID:???
千駄谷学園先鋒・御厨から見事に一本勝ちを決めた宮崎はガッツポーズ。
(見てたか長谷!今の技を!)
第288話 見えない技
『それにしても驚きました。準決勝まで絶好調だった御厨が、
まさか、この大事な決勝でいきなり一本を取られて負けてしまうとは!!』
『宮崎が一本取った技は何ですか?』
『袖釣り込み腰と言ってもいいんですが、入り方が少し違いましたね。
手の持ち方が逆ですね。袖釣りはこの場合、左手で袖を持つんですが、右手で袖を持ってます。
そしてそのまま投げている。袖釣りと一本背負いのミックスとでも言いましょうか!?』
「なに言ってやがる……袖釣りなんかじゃねえよ!」
解説に文句をつけたのは、アマレス出身の長谷である。
「ありゃあアマレスで『逆一本背負い』っていわれてる技そのものじゃねえか!」
とはいえ、彼に見えるのは怒りというよりむしろ歓喜の色。
そして桜子がそれを肯定する。
「そだよ長谷くん。宮崎くんは、レスリングを研究してあの技を身につけたんだよ。『逆一本背負い』を!」
さらに保奈美も。
「宮崎くん言ってましたよ。長谷さんとI・Hで戦った時の経験がヒントになったって」
(あいつが……アマレスを……)
感動に震える彼は(やってくれるじゃねえか、てめえ!)大きな声で彼の名を呼ぶのであった。
もう一人、宮崎の勝利に感極まっている人間がいた。
「でかしたぞ茂!!名門校がなんぼのもんじゃ――い!」
久しぶりの登場、泉谷似の宮崎父。店のお酒を持ち込んで、既に出来上がっていた。
(またなんか騒いでやがんな……親父のヤツ〜〜)
685 :
2/3:2009/05/05(火) 21:01:44 ID:???
千駄谷学園二番手、次鋒の滝川に石丸がアドバイスする。
「敵は変な袖釣りも使うようだが、基本的には動きまくってスキを突く、
軽量級のスタンダードな柔道をするタイプだろう。どうやって攻めるか分かってるな」
「はい。わかってます」
○東京代表 千駄谷学園 次鋒・滝川澄之 VS 静岡代表 浜名湖高校 先鋒・宮崎 茂
体重71kgで身長が171cmという、柔道選手としてはスリムな体型の滝川。
初戦を制して勢いづいた宮崎はいきなりその懐に飛び込んでいく。
御厨はその頃、目に悔し涙をうっすらと浮かべて体を震わせていた。
彼は自分自身も気づかないうちに決勝戦のプレッシャーに憑かれていたのである。
経験の浅い一年生であるからには、仕方のないことかもしれないが――。
石丸は試合場の反対側に座る西久保をにらむ。
(なにやら変則的な技を使ってきたが、貴様の柔道とはそんなものか!?どうなんだ西久保!)
試合は宮崎の優勢のうちに進む。
小内刈りから大外刈り。どんどん攻め込む宮崎に、滝川は圧倒されているかに見えた。
が――。
何の予兆もなくいきなり、宮崎は尻もちをついていた。
「技あり――っ!」
686 :
3/3:2009/05/05(火) 21:03:01 ID:???
「え――っ!?な、何よ今の!?」
突然の事態に声を上げる桜子。
「小内刈りです」「麻理ちゃん見えたの!」
さすがの動体視力であったが、彼女の頬には冷や汗が伝っていた。
「ええ、でも、もの凄く速い小内刈りでした。私はこうして外から見てますから分かりますが……。
これほど速い足技となると……むしろかけられた当人の宮崎先輩が、今の技、見えていたかどうか……」
(左足に足を掛けられた感触はあった……――ってことは小内刈りか?
でも、そんなそぶりはちっとも見せなかったぞ、コイツ!)
技の正体には気づいたものの、宮崎はそれをまったく察知することができなかったのだ。
足技は100%タイミングの技。相手の足元を目で追っていては間に合わない。
滝川は足元などほとんど見ずに、天性の勘で足を飛ばしてかけることができるのである。
足技の滝川。
ビデオで見て予め承知していたものの、実際に対したその技の切れ味は驚愕のものだった。
(御厨を倒したくらいでイイ気になるなよ、宮崎。
御厨は実力じゃ千駄谷選手陣の中では一番下っ端なんだぜ)
> 御厨は実力じゃ千駄谷選手陣の中では一番下っ端なんだぜ
あまりにテンプレどおりのセリフで盛大に吹いたわw
> 御厨は実力じゃ千駄谷選手陣の中では一番下っ端なんだぜ)
ネタ予想当たったよおいw
でも、レギュラーってことは5番目ではあるんだよなあ。スゲえ人数いるんだろうし。
んで滝川が負けたら「所詮足技など小手先のテクニックに過ぎん。
本物の千駄ヶ谷柔道を見せてやる」とか言い出すんだろ。
あとは「チッ、滝川め油断しやがって… あの程度の相手にやられるとは情けない」だな
で、敗れた安藤を「千駄ヶ谷に弱者はいらん」って橘が屠ったあと、試合場に出るんだな
「あ、アイツ味方をやりやがった……」「なんて奴だ……今まで浜高ムードだった会場が一瞬で氷りついたぜ」
その場で失格くらうわwww
>基本的には動きまくってスキを突く、
>軽量級のスタンダードな柔道をするタイプだろう。どうやって攻めるか
えっと、相手の動きを読んで、そこへ足技トラップを仕掛ける
…ってことでいいのかな?
ならば茂、柔道の動きをやめてレスリングの動きに切り替えろ!
それなら相手も未知の動きまで読むことはできまい!
695 :
1/3:2009/05/06(水) 21:01:30 ID:???
第289話 一進一退
滝川の目にも止まらぬ小内刈りで、技ありを取られてしまった宮崎。
何としてもそれを取り返さなければならないが――(いちかばちか!!)
宮崎は組み際にいきなり、裏技の逆一本背負いを仕掛ける。
(バカめっ!)
ところが担がれる直前、滝川は一歩下がり、宮崎を体ごと後方へ引き倒してしまった。
そのまま寝技を狙う滝川。慌てて亀になる宮崎。
必死に防御の体勢を取る彼に対し、滝川は言う。
「今の技はさっき見た。分かっていれば防げる」
(御厨を投げた時、一回見せただけで……もう、あの逆一本背負いをかわせるっていうのかよ!)
とっておきの切り札として身につけた裏技。それが通用しないという現実。
しかし、宮崎はそれでも果敢に滝川を攻める。
(逆一本背負いは返されたが……これならどうだ!)
「あれはっ!巻き込み一本背負い!」
声を上げる長谷。これもアマレス技であり、I・Hでは彼がこれで宮崎を投げている。
「有効!」
『おおっと宮崎、今度は投げた!
投げたというより、自分の体に巻き込んでいったというような一本背負い!
しかし、惜しくも有効です!』
696 :
2/3:2009/05/06(水) 21:02:31 ID:???
思わぬ体勢で仕掛けられた技に、虚を突かれた形の滝川。
(くっ!この一本背負いも少し変則だ!こっちの手にぶら下がるように体重かけてきやがった!)
「へっ、見たか!てめえらを投げる技なんていくつもあるぜ!」
得意がる宮崎。ところがその一瞬の隙、滝川に奥襟を取られてしまう。
袖も取られて組み手十分。
(くそっ!早く逃げねえと足技が……)
宮崎が組み手を切って離れようとしたその瞬間、体をひねる滝川。
(足技じゃねえ!内股か、払い腰か!?)
危険を察知した宮崎。足を引いて防御しようとした、そのとき――。
「なにっ!?」
引こうとした足を、滝川に綺麗に払われる。
(何で……足がそこにある!?今、振り上げたはずの足がっ!?)
宮崎の混乱はごく一瞬。直後、彼は背中から畳に叩きつけられた。
「一本!」
『解説の上村田さん、今の技は?』
『出足払いですね。滝川が一瞬、払い腰のフェイントをかけました。
それを宮崎が右足を出してこらえようとしたところを、出足払いで払いました。
切り返しのスピードが速かったですねぇ』
宮崎がフェイントをフェイントと認識できなかったほどの滝川の技術。
そして――試合場では変事が起こっていた。
697 :
3/3:2009/05/06(水) 21:04:01 ID:???
『おやっ?宮崎どうしたのでしょう?』
倒された宮崎が起き上がらない。倒れた際に後頭部を打ち、脳震盪を起こしたのだ。
目を開いてはいるものの、その焦点はまるで結んでいない。
審判は礼をさせるのは無理と判断し、タンカを呼ぼうとするが――それを杉が制止した。
「礼だけはさせます。タンカはその後で」
杉は宮崎を肩に担ぐ。「立つぞ宮崎。踏んばれっ!」
二人で礼。その後にタンカが運ばれてくる。人の手を借りながら歩けはするようだが、念のためである。
それにしても恐るべきは滝川の技。脳震盪を起こすほどの切れ味とは……。
「どうやらあいつら、オレたちが必死こいて編み出した裏技も、一度見ちまえば対応できちまうらしいな」
杉が呟く。滝川だけではない。それは千駄谷選手陣全員が同じ。
「ってことは、裏技を使うチャンスは、それぞれが一回しかねえってことか。
こうなりゃ、一人が最低でも、向こうの一人を絶対倒さなきゃならねえようだな」
眼鏡を外した杉。その表情には常にないほどの真剣な気迫がみなぎっていた。
「とにかく!あの滝川は絶対オレが倒してやる!」
(フン、斉藤じゃあねえのか。まあいい、ヤツが出てくるまで勝ち抜けばいいだけのこと)
お目当ての斉藤ではなく、眼中にない杉が次鋒に出てきたことで、少々がっかりとする滝川。
ともかくも――次鋒同士の戦いが始まった。
こ、こいつら聖闘士か!
さて、ミッタン
3ページもすれば出番だから早めにアップしとけよ?
一度見た技は二度も通じない
という事は、鳶嶋に裏技を盗み見された巧はピンチじゃん
ミッタンの死亡フラグは何がいいかな?
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」
「冗談じゃない、これ以上殺人鬼と一緒に居られるか!俺は一人で寝る」
「大丈夫だ。病気はもう完全に治った」
「ここは任せて先にいけ」
>>701 「この程度の連中、斉藤や巧の手を煩わせるまでもない。俺だけで片付けてやる」
>>700 いや、逆にそれが仇となるんじゃないの?
腕返しなど通用せん!と潰したところに奇襲の二回転目が来て転がされると。
>>703 一回転目が潰されれば二回転目なんかないだろ
誰かこれから戦おうって奴の事も語ってやれよ
つるつる投げで勝つんじゃね>杉
>>706 と言うことは、ミッタンはヴァン・デ・ヴァル投げだな、これしかあるまい
>>701 >「大丈夫だ。病気はもう完全に治った」
これは斎藤のフラグだ
>今の技はさっき見た。分かっていれば防げる
それじゃあ巧の背負い投げ見たら
背負い投げにかからなくなるのか?と聞きたい
わかってても防げないのが必殺技であるのに対し
裏技は不意打ちの域を出ないんじゃね
>>709 知っていても対応できないものもあるんだろう。
体起こされた後の外スラとか、佐々木のフォークみたいなもんで。
712 :
1/3:2009/05/07(木) 21:03:09 ID:???
第290話 新・裏技
「杉くーん、ファイト――!!」「いけ――っ、杉――!!男になれ――っ!」
応援に熱の入る保奈美と桜子。と、そこに声をかけてきたのは何と三工の吉岡先生。あと藤田。
ここまできたら、今日限りはもう浜高の応援をしたいと先生がいう。
もちろん迷惑などではないが――「でもそっちの人は、納得してんのかな?」「フン」
桜子の言葉にそっぽを向く藤田であった。
○東京代表 千駄谷学園 次鋒・滝川澄之 VS 静岡代表 浜名湖高校 次鋒・杉 清修
浜高のポイントゲッターといえば粉川・三溝・斉藤だろうが、この杉も以前に比べれば相当強くなった。
「なにしろ県の予選では、おまえから技ありを取ったぐらいだからな」
「それは……」
吉岡先生に話を振られて、藤田は反応に困る。
しかし、その成長した杉の力をもってしても――。
左袖を取っただけの状態から、滝川の小外刈り。それがきれいに決まり、杉は畳に倒される。
「技ありっ!」
冴えに冴えまくる滝川の足技。
(コイツもオレの足技についてこれないヤツか)
彼は杉に対して、小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「野郎っ!」
侮辱的な滝川の態度に杉は怒るが、襟を取りにいこうとした左手を、逆に捕まえられてしまう。
すぐに腕を引いて組み手を切る。ところが、その一瞬の隙――。
滝川が懐に飛び込み、杉の脇の下から背中をつかむ。
そしてカミソリのように左足を飛ばす!
抱え込まれるように倒された杉。判定は「有効!」
713 :
2/3:2009/05/07(木) 21:03:51 ID:???
「危なかった……」
「そうそう足技で一本や技あり、バシバシ取られてたまるかって!これからよ、まだ!」
危機につぐ危機でハラハラし通しの保奈美と桜子。
そんな彼女たちの後ろから藤田が呟く。「フン、なにやってんだ、杉のヤツ」
「なぜ、オレから技ありを取った、あの“裏技”ってのを出さん!横から入るすくい投げを」
思わぬ言葉に周囲の視線が集まり、顔を赤くする藤田であった。
「な、なにじっと見てるんだ!試合に集中しろ!おまえらのチームがやってんだぞ!」
それはそれとして、平八郎が反論する。
「いや、しかし見てると杉は最初っから裏技狙ってるぜ」
なかなか出す機会が来ないだけで、裏技にいける組み手に持っていければ、きっと――。
と、そこで彼ははたと気づく。
「そういえば今、おまえ、杉の裏技をすくいなげと言ったな?」「? それがどうした?」
「そうか、きさま改良された杉の本当の“裏技”を知らないんだっけ。
オレはつい先日、浜高に合同練習に行った時、身をもって知ったがな」
試合の行方を見守る西久保。
(杉よ……“裏技”に関して、一番試行錯誤したのはおまえだったかも知れんな)
以前、杉が道場で裏技の練習にいそしんでいた頃、彼は西久保に訴えたことがあった。
「飛び込む時にバレやすいんスよ。このすくい投げをまったく知らないヤツには使えるかも知れないけど……」
相手はあの千駄ヶ谷。まともにやったら通じないのでは、と杉は悩む。
それに対し、西久保の回答は――。
「逃げられる可能性があるなら、逃げようとした後のことも考えた技にすればいいんじゃないか?」
横から入るすくい投げに似た技に、谷落としがある。
昔、日陰暢年という柔道選手がこの谷落としを改良して、面白い変化技を編み出した。
「相手が逃げようとした後のことも考えた技……? その日陰って人の技がそうなんスか?」
「やってみるか?」
714 :
3/3:2009/05/07(木) 21:05:11 ID:???
(それからは毎日、その新しい裏技の特訓だった。時間がないから、居残りで毎日練習した。
ノーマルの谷落としを既に使える斉藤にも手伝ってもらった。
そうしてヤツはついにあの技を……)
そして杉が絶好の組み手を取る。滝川の右手に対し、片襟片袖の組み手から――(いくぞ!)
左の脇下に相手の腕を挟みこむように、彼の右膝裏に手を差し込む!
(谷落としかっ!!)
この奇襲にも即座に対応する滝川。左足を引いてこらえようとする。
しかし、その足元に杉が潜り込み――、
「うおおおおっ!」
背中越しに畳に投げつける!
「技ありっ!」
さらに間髪入れず、杉は寝技で滝川を追い込む。「押さえ込み――っ!」
驚きの表情を見せる石丸。
「あれは……日陰六段の得意とした、谷落としからの変化技!」
谷落としにはいった時、相手が足を後退させて踏んばるところを、背中越しに後ろへ投げる。
谷落としの形のまま左手がロックされていて、逃げることもできない。
西久保が誇らしげに声を上げる。
「この大舞台でよくぞ決めた!」
必死に上四方固めで滝川を押さえ込む杉。そして、そのまま25秒が経過――。
「一本! それまで!」
そういや平ちゃんのそんなイベントとかあったっけ
ゴメン、かませにしても印象薄すぎてすっかり忘れてた
杉が活躍できてよかったw
平ちゃん、そんなこと行ってる場合じゃないだろお前……
>>杉――!!男になれ――っ!
>>この杉も以前に比べれば相当強くなった
非道いいわれようである
昔は勝率10割だった時期もあったというのに
いつの間にこんな扱いされるようになったのかw
杉の位置にミッタンが入ったってことなのかね。
正直そんな印象さらさらないんだけど・・・w
つーか平ちゃん何知ってることで優越感浸ってんだよw
(滝川を倒したくらいでイイ気になるなよ、ハゲ。
滝川は実力じゃ千駄谷選手陣二年の中では一番下っ端なんだぜ)
722 :
1/3:2009/05/08(金) 21:02:08 ID:???
杉の勝利により、再び一人リードした浜高。
抜かれたら抜き返す、その勢いは名門、千駄谷を圧倒するものだった。
「ちっ、滝川め。あんな技に引っ掛かりやがって」
千駄谷学園、中堅・安藤――彼は仲間の敗戦をそう吐き捨てた。
第291話 白熱
○東京代表 千駄谷学園 中堅・安藤 忠 VS 静岡代表 浜名湖高校 次鋒・杉 清修
「さあ来いっ!千駄谷!」「けっ!」
滝川を倒して波に乗る杉。それに対しても強気の安藤。
この決勝戦、順当に勝ち上がってきた千駄谷とダークホースの浜名湖の戦いと思われていたが、
実は今日の団体戦で、千駄谷学園がこれまでリードを許した学校は一つも無かった。
浜名湖は今日、初めて千駄谷を苦しめているチームだったのである。
浜高の真価がようやく周囲に認知され、ざわめきが広がる。
その様子を竹の塚の奥野が、そして東名大藤沢の津末と原が「今ごろ気付いたか」と毒づく。
安藤から良い組み手を取った杉。
(よし、相手のさし手を捕まえた!ダメもとでやってみるぜ!)
そこから裏技の谷落としを仕掛けようとする。
ところが、安藤は自ら前に踏み込んで間合いを潰し、「そうは……」
「いくかあっ!!」
内股で切り返してみせた。
「一本!それまで!」
723 :
2/3:2009/05/08(金) 21:03:28 ID:???
(見たか!千駄谷を甘くみるんじゃねえよ!)
裏技を今度は食い止めるだけではなく、返し技で切って落とした安藤。
一度使った裏技は、やはり二度と通用しない――それを思い知った浜高メンバーであった。
(くそうっ!また、ふりだしに戻しちまった……)
杉が浮かべる痛恨の表情。それを桜子が心配げに見つめる。
一分と経たないうちに決着したことで、安藤に疲労の色は無い。
次の試合は中堅同士、本当にふりだしに戻ってしまった。
○東京代表 千駄谷学園 中堅・安藤 忠 VS 静岡代表 浜名湖高校 中堅・三溝幸宏
『白の帯、浜名湖の中堅は三溝です。さあ、巨漢の三溝、安藤相手にどう戦うか!』
『というより、安藤がこの体重差をどうやって戦うかが問題でしょう。
何しろ、三溝は130kg、安藤は75kgと55kgも体重差があるのですから!』
しかし大柄な相手とは戦い慣れている安藤。規格外ともいえる三溝を前にしても動じない。
(フン、相手がデカくても関係ないのが、千駄谷の柔道だ!てめえを倒して会場中をびっくりさせてやらあっ!)
なんと安藤、三溝の奥襟をつかみ、力ずくで頭を下げさせようとする。
彼の得意技は内股なので確かに奥襟を取る組み手で正しい。
しかし、普通に考えてこの体格差では彼の選択は無茶というものである。
だというのに、細身の体に似合わない腕力を安藤は見せつける。
『おおっ、体の小さな安藤が、三溝を引き回しているっ!これは凄い!』
「どうだっ、でかいヤツ相手でも、こっちの戦い方は変えねえんだよ!」
己の戦う姿勢に揺るぎない自負心を持つ安藤。
だが――「それは!」
「こっちも同じだ!」
724 :
3/3:2009/05/08(金) 21:04:30 ID:???
奥襟を取る安藤の右腕を三溝は捕まえ――そのまま肘関節を極める!
立ち姿勢からの関節技、さらにそこから――体落とし!
関節を取られているために逃げることもできない安藤、一回転して畳に落ちる。
「技あり――っ!」
三溝の裏技、関節をとっての体落とし。
さらに寝技の追撃、上四方固め。この体重差では到底、ひっくり返せるわけもない。
目の前の光景に愕然とする石丸。
(くそう、立ち姿勢からの関節を持っていたのか。それでは奥エリをつかみにいけば、
関節技を取ってくださいといっているようなものだった!)
「くそっこのおおっ」「あきらめろっ!」
安藤の必死の抵抗も空しく、25秒が経過。
「一本!それまで!」
「凄い!またリードしたっ!」
「もうみんなの強さは本物だよっ!」
保奈美と桜子が歓喜の声を上げる。
三度、千駄谷学園からリードを奪い返した浜高。
そしてここで、千駄谷学園は個人戦チャンピオンの副将・橘大樹の登場となる。
杉もすぐに裏技に行かずまともに組んでたらもっとまともに試合になってただろうな
谷落としに行くところをうまくタイミング合わされちまった感じ
このまま一人差で浜高逃げ切りなら
最初に舞い上がって負けた御厨が戦犯だな
いやこれは杉が軽率だろ、同じ技同じように2度続けるのは。
総合すると安藤が一番雑魚っぽいね!
橘「ちっ、安藤め。あんな技に引っ掛かりやがって」
技の滝川、力の安藤ってキャラ立てなのか。
重量級ぶん回す腕力で技術もあり。本来の中量級に戻ったら相当強いんだろうが、
同い年に藤田と巧がいるんじゃ個人戦優勝はどう考えても無理だな。
中量級は股太郎で
巧と恵は軽重量級じゃなかったっけ?
「ヤツの技術とオレの足技がどっちが上か、ぜひ試してみてえくらいだ」
「まだ、誰と当たるか決まったわけじゃないぜ。まっ、オレと当たることがあったら、オレが片付けてやるけどよ」
ああ、死亡フラグ。
>>731 ビルドアップした藤田は知らんけど、なんで巧の方が杉より重くなってるのよ。
巧は元軽中量級で、5キロ増えて今中量級相当だね。
734 :
1/3:2009/05/09(土) 21:02:28 ID:???
「よおおし、橘さんが出てきたぞっ!」「橘さんが出てくれば、もう安心だっ!」
千駄谷学園の応援団が陣取った客席から、一機は大きな声援が上がる。
一人リードされて苦しい千駄谷学園。このピンチを救ってくれるのは彼しかいないとばかりに。
第292話 超重量級対決
昨年のI・H、二年生で重量級優勝し、
昨日の選手権個人戦も制して、ダブルタイトルホルダーになった橘。
そして彼は、あの藤田を完璧な形で倒した男でもあった。
その仇敵の登場に、藤田は怒りをたたえ、歯ぎしりをして身を震わせる。
橘大樹。身長188cm、体重120kg、胸囲125cm。
小兵軍団・千駄谷の中でただ一人の重量級だが、
いわゆるアンコ型ではなく、見事に均整のとれた近代的な重量級選手の体躯を持つ。
三溝幸宏。身長197cm、体重130kg、胸囲127cm。
彼には橘ほどの華々しい戦績は無いが、その橘より一回り大きな体格を有する。
(それにしても……)
桜子は昨夜の藤田が話していたことを思い出す。
『オレは橘と戦った。結果はあの通りだったが、
ひとつ気付いたことがある。それは、橘の弱点と言ってもいい!』
(藤田くんの言っていたあの戦法……みんな、うまくやってくれるかな……)
735 :
2/3:2009/05/09(土) 21:03:22 ID:???
○東京代表 千駄谷学園 副将・橘 大樹 VS 静岡代表 浜名湖高校 中堅・三溝幸宏
「幸宏、負けんじゃないよっ!」
「敵はあと二人しか残ってないんだからね」
「おまえが優勝決めちゃえ!」
三溝家のおねーさま方による声援が飛ぶ。
しかし、先に仕掛けてきたのは橘の方だった。
手を伸ばして三溝の奥襟をつかむ橘。
客席の藤田はその様子を冷静に見つめる。
(右で奥エリをつかんで頭を下げさせる。やはりこれが橘の攻撃パターン!)
(今だっ!)
三溝の目が光る。しかしその瞬間、鳶嶋が立ち上がって声を飛ばした。
「橘!右手!関節技がくるぞ!」
その声に反応した橘は、右腕を取られる寸前、奥襟から手を離して難を逃れた。
しかし――。
不敵な表情を見せる三溝。
(きさまが奥エリを取りに来れば、腕挫ぎ腕固めを何度でもやってやる!これがどうゆうことか、分かるか?)
橘は再び奥襟を取ろうと手を伸ばすも、またも関節を狙われて、慌てて右手を引く。
観戦している千駄谷の面々も、そこで三溝の意図に気づき始める。
「橘に奥エリを取らせない作戦ですね?」「うむ」
736 :
3/3:2009/05/09(土) 21:04:21 ID:???
橘の攻撃パターンは、まず奥襟を取ることから始まる。
相手の奥襟を取ってガッチリ組み、相手の頭を下げさせ、前に出ながら技をどんどんかけていく。
最初のうちは相手もその技をかわすことができるが、そのうち、橘の腕力とスタミナに力負けしていく。
そして、最後には相手を捕まえてなげてしまうのだ。
この攻撃パターンは相手の奥襟を持たないことには始まらない。
浜高側が目を付けたのはそこだった。
「橘の攻撃の形を封じて、ペースを乱そうという気だ」
得意のパターンを封じられた橘。
さあ、ここからどう出るか――というところで、橘が動く。
三溝の右袖を先に取り、そして奥襟。
「いかん!橘に組まれた!」(うまい!そして……速い!)
浜高側には愕然とする暇さえもない。
そこから間髪入れず、橘の――内股!
「おらああっ!」」
畳に叩きつけられる三溝。
「三溝っ!」
(敵も橘に対する作戦らしいものは練ってきたようだったがな)
余裕の石丸。
そして試合を見据える巧。
(橘の弱点――!!)
あれ、奥襟封じ作戦が橘の弱点で通用しなかったのかと思ったら
巧がラストでまた言ってる辺り違う?
橘の脇腹には幼少時竹藪で作った古傷がある。
つーかせっかく弱点を教えてもらっても戦ってるのがミッタンじゃなあ
まあ次の斉藤に期待することにしよう
なんでもいいけど試合開始からこっち石丸はん無策すぎやおまへんか。
それにしてもミッタンと安藤の試合はなんでこんなにあっさりしてるんだ。
御厨、滝川、宮崎、杉は1〜2週かけてきっちり描いてもらえたのに。
ミッタンだから。
安藤が数合わせにしか見えない件
170そこそこのパワーキャラなんてカモ以外の何物でもない。
というかミッタンってパワー対決しかさせてもらったことないんじゃ・・・
まだだ、まだ一本は言われてないよ!byミッタンのおねーさん達
746 :
1/3:2009/05/10(日) 21:04:02 ID:???
第293話 難攻不落
(しっ、しまった――っ!)
橘に対し、何もできないうちに喰らってしまった痛恨の一発。
審判も思わず一本、とその手を上げかけたが、畳に落ちたのは横半身。
「技あり――っ!」
「まだ生きてるぞ!立て、三溝!」
巧の声と、橘が寝技に入ろうとしたのがほぼ同時。
寸前、三溝は自分をひっくり返そうとする橘の手を払って立ち上がる。
それにしても、自分よりさらにもう一回り大きい三溝の巨体を、
正面から組んでブン投げる橘。やはり恐るべし。
この技ありにより、千駄谷サイドは一気に活気づく。
しかしその中で、石丸と鳶嶋の二人だけはなお冷静だった。
「あの三溝という男、パワーだけは結構あるな」「そうっスね。油断はできません」
橘は寝技に持っていこうとして、三溝の脇を完全に差した。
あのままひっくり返せば押さえ込みに入れたのだが、三溝は力任せにそれを振りほどいたのである。
試合が再開するも、またもや橘の組み手。三溝はなかなか自分の有利な形になれない。
いくら並はずれたパワーの持ち主でも、柔道では組み手で有利に立てば、
相手のその力を封じ込めることができるのである。
奥襟を取られた三溝の頭が下がっていく。
立ち関節を狙っていた彼だったが、完全に組まれてしまってはそれもできない。
石丸は対面に座る西久保を見据える。
(西久保よ。立ち姿勢からの関節技を使う高校生は確かに少ない。
しかし、珍しいだけの付け焼き刃の技が通用するほど、オレの教えた柔道は甘くないぞ)
747 :
2/3:2009/05/10(日) 21:04:53 ID:???
頃合いと見た橘が動く。
小外刈りで三溝の体勢を崩し、そこから内股――しかし、三溝は体を落としてそれを防ぐ。
「逃げてるっ!今のは完全に自分から膝をついた!」
安藤が抗議の声を上げ、橘も三溝の体を引きずってそれをアピールする。
ここで「待て」がかかり、審判から三溝に「指導」が与えられ、いよいよ追い込まれてしまった。
(オレの教えた“弱点”をつくことはできないのか!三溝!)
苛立つ藤田。しかしここからではどうすることもできない。
試合再開。またも橘が先に引き手を取る。
そして奥襟をつかもうと伸ばした右釣り手を――三溝が止めた。
さらに引き手も切り、逆襲に転じる。
(橘なんかに負けん!たとえ技術は音っていようと!気持ちだけは負けちゃいけないんだっ!)
耐えに耐えて一瞬のチャンスに賭けた三溝。西久保はそれを黙って見つめる。
(いけっ、三溝!立ち関節はおまえが必死で練習してモノにした、立派な柔道技だっ!)
片襟をつかんで橘を引き込み、その脇を取る三溝。
そこから橘の右腕を捻り上げ――極める!
「腕がらみっ!」「はいったあっ!」
が、その瞬間――。
「うおおおっ!」
748 :
3/3:2009/05/10(日) 21:06:08 ID:???
橘は右腕を極められながら、自由な左手と足で、三溝の両脚を同時に刈った。
関節技を仕掛けていた三溝は逃げることもかわすこともできず、背中から地面に倒される。
「一本!それまで!」
場内に湧き上がる大歓声。
実況の声も興奮気味。
『なんと、なんと!橘、関節技をかけられたまま、三溝を大内刈りで倒しました!強いっ!』
『130kgの三溝を肘関節をとられながら投げましたよ!』
文句のつけようもない三溝の完敗。
巧と斉藤は、この途轍もない怪物を見据える。
『浜名湖高校、この超高校生 橘を、食い止めることができるでしょうか!?』
なんだこの化け物、
鳶嶋よりコイツの方がラスボスらしくないか
>>関節技をかけられたまま、三溝を大内刈りで倒しました
>>肘関節をとられながら投げましたよ
倒したのか投げたのかどっちやねん
>>749 そりゃ、無差別級王者だからな
橘の方が鳶嶋よりも強いと思うぞ
でも、それじゃなんで、橘が副将で鳶嶋が大将なんだと尋ねられたら答えられないがw
鳶嶋が主将で橘が副主将だから分からんでもない。
ただそれいっちゃうと、浜高の主将の立場が……w
あれ?主将って桜子じゃなかったっけ?
それはともかく…極められた状態から投げにいった
橘の右腕はどうなっているんだ一体
一本勝ちと引き換えに腕一本…とかシャレにならんぞ
結局ミッタンでは橘の弱点を突くことはできなかったってことか。
所詮相手の評価も
>「あの三溝という男、パワーだけは結構あるな」だし。
ミッタンは橘の頭のネジを一本抜いておいたに違いない。
斉藤が最も美しい柔道技だと思う裏投げで倒すわけですね
バックドロップ気味の裏投げといえば
若翔よ…じゃなかった黒柳
759 :
1/3:2009/05/11(月) 21:01:13 ID:???
三溝が負けて、浜名湖高校、残っているのは斉藤と巧。
対する千駄谷は橘と鳶嶋。決勝戦は、いよいよ最大の山場を迎える。
第294話 宣言
千駄谷学園と東名大藤沢は以前に練習試合をしているが、その際、原も橘と対戦している。
しかし、天才と評される原をもってしても橘には敵わなかったのである。
また、千駄谷学園は立体大にも出稽古に来たことがある。柴田はその時のことを思い出す。
「あいつらには驚きましたよ。
高校生のくせに、いきなり立体大の一軍と乱取り稽古して……まともに渡り合うんですからね」
それに引きかえ、浜高は二軍相手ならなんとか乱取りになる程度。それでも高校生にしては大したものなのだが。
橘と鳶嶋に至っては、柴田でさえも乱取り中には気が抜けなかったのだという。
「あいつらなら、今の時点でも立体大の一軍、勤まるかもしれませんよ。
全日本学生柔道優勝大会ベスト8常連の立体大の一軍が!」
巨漢の三溝が橘に負けたことによって、この会場にいる人間のほとんどが、
この試合はもう千駄谷のものだと思っているはずである。
これから副将同士の試合が始まるのだが、浜高の斉藤は軽中量級の選手なのだから。
観客席で身を震わせる別所さん。
(自分の試合でもこんなに怖いと思ったことはない。斉藤さん!)
ここで斉藤が負けて、巧が橘と鳶嶋の二人を相手にすることになれば、浜高の優勝はまず無理になる。
浜高を応援する皆が緊張に堅くなる中、斉藤と巧は――、
「なに言ってんだ、てめーは!とっとと行ってこい!」
――笑っていた。
760 :
2/3:2009/05/11(月) 21:02:11 ID:???
こんな状況で、二人は何を喋っていたのか。「まったく……斉藤のヤツは……」
巧は呆れたように言いながら、その表情には信頼がたたえられていた。
「落ち着いてるよ。うん」
「斉藤のヤツ、言ったんだよ。『巧、おまえよりオレのほうがおいしいかもな』って。
『おまえが鳶嶋に勝って優勝を決める時より、小さなオレが橘を倒した時のほうが、よっぽど会場は沸くだろう』
『そうなりゃ浜高全国優勝のヒーローは、おまえじゃなくてオレだな』って」
○東京代表 千駄谷学園 副将・橘 大樹 VS 静岡代表 浜名湖高校 副将・斉藤浩司
「始めっ!」
橘と斉藤、副将戦の火蓋が切って落とされる。
セオリー通り、斉藤の奥襟を狙っていく橘に対し、斉藤はその手をことごとく払いのけてみせる。
「おお、うまいっ!」「橘相手に組み負けてないっ!」
橘は組み手争いも相当にできるが、斉藤の技量はそのさらに上を行っていた。
臆することなく自分の戦いをする斉藤の姿に、西久保はあることを思い出す。
1990年の全日本選手権で、71kg級の古賀稔彦は決勝戦まで勝ち進み、四階級も上の小川直也と闘った。
結果は7分13秒一本で破れてしまうが、その直後、畳に仰向けに倒れた古賀の眼には、涙があふれていたという。
負けても仕方ない……などと思っていたら、涙など流さない。心底悔しかったのだ。
古賀は自分が勝つ可能性を信じて戦っていたのだ!当時、重量級で世界一強かった男に!
斉藤の支え釣り込み足が橘をぐらつかせる。
戦っている最中に「負けるかも知れない」と思うことはよくある。
しかし、その弱気の気持ちを押し殺し、「勝ちたい」と思う気持ちを持てる者が最後には勝つ!
さらに斉藤は小内刈りを仕掛けていく。橘は必死の形相でこれをかわす。
「場外!待てっ!」
761 :
3/3:2009/05/11(月) 21:03:18 ID:???
会場内にどよめきが起こる。
「橘のほうが場外に押し出されたっ!」「なんなんだあいつは!?」
「さっきから橘が全然いいとこ持たせてもらえないぞ」
「ほお、なかなかどうして」
ここまで橘を完封している斉藤に、伴監督は感心し、柴田も評価する。
「確かにセンスはいいヤツでしたよ。あの斉藤という男は」
試合再開。
今度も先に良い組み手を取ったのは斉藤。
片襟片袖の組み手から――「せやっ!」
「出たっ!」「なにっ!?」「あれはっ!跳び関節!?」
畳を蹴って跳んだ足をそのまま橘の首にかけ、全体重をかけて引き倒しに行く!
「倒れろっ!橘!!」
762 :
業務連絡:2009/05/11(月) 21:04:40 ID:???
次回は一回休載して、単行本29巻のおまけを紹介します。
橘には勝つ気でも鳶嶋にまでは勝つ気がないんだな斉藤
それってもしかしたら橘にも気持ちで負けないか?
パターンから言って橘を裏技で倒して
それで裏技見切られて鳶嶋に負け、
本人も既にその気。
と思ったが斉藤は裏技複数持ちだっけ?
斉藤が勝ってついでにトビーも倒して優勝したらオイシイなんてもんじゃないよね
主人公の立場ないけど
姫「斉藤さん、負けないでっ!!」
(− −)→( l l )
>>764 この橘の化け物ぷりと斎藤複数裏技持ちっていうフラグは
「斎藤の裏技が尽く効かないだって!?」のパターンじゃないか
768 :
1/3:2009/05/12(火) 21:00:23 ID:???
○単行本第29巻 (表紙:橘・安藤・滝川・御厨 裏表紙:巧・鳶嶋)
・四コマその1
1.高校日本一をねらう千駄谷学園柔道部も高校生。
作中には出てこないが、普段はお互いをニックネームで呼び合う。
安藤「こ――のクリリンがっ!」(※ミクリヤ→クリヤ→クリリン)
2.滝川「ちなみに安藤はチュウ」(※忠だから)
安藤「ちなみに滝川はジイ」(※フケてるから)
3.だが、鳶嶋はうちわではトビーと呼ばれていない。先輩に鳶嶋(兄)がいるからだ。
滝川・安藤(いえねえよなあ……)
4.そして橘は……。
「よっ、大仏!」
橘「なんだい?」
そう呼ばれても怒らない。デキたヒト。
・四コマその2 『河合ってヤツはよっ!』
1.このまえマンガ家さん仲間でスキーにいった時のこと。
夜に露天ブロのような温水プールにはいってふざけてとびこんだら……。
2.河合「はっ!メ、メガネおとしたっ!」
村枝「えっ!それはヤバイ!」
3.『俺たちのフィールド』の村枝賢一先生と、そのアシスタントさんたちも一緒に捜してくれたが、
20分近く捜しても見つからなかった……。
4.そのはずである。タオルと一緒に入り口のところに自分で置いといたのを忘れていたのだから……。
村枝「河合さん……こりゃ四コマに描くしかないっスね」
769 :
2/3:2009/05/12(火) 21:01:08 ID:???
○感謝感激の第29回 サンデーコミックス名物『絵筆をもってね!』
・今回は、なんと『Zin’sエフ・シー』の馬場民雄先生が選考に駆けつけてくれました。
※今回はグランプリ・準グランプリともにありません。
選評/河合克敏 応募総数:1389点 入選:46点
馬場賞:宮城県・くまがいえみ〔保奈美・桜子・麻理(浜名湖ガールズ)〕
〈馬場〉三人娘が、それぞれかわいく描けているので好きです。
〈河合〉ミリペンのタッチにあってる絵柄です。
河合賞:大阪府・かわいいコックさん〔麻理(クリスマスツリー)〕
〈河合〉あまり今までメルヒェンっぽいのは進んで選ばない私だったんだけど、
これはすごくキレイだなと思って。いい仕事してますね。
〈馬場〉河合先生に先にとられてしまいました。表情がいいです。
topix:青森県・耕太郎〔ふね(フッチン生か死か)〕
〈河合〉ドカベン初期の、柔道編を知らないと何のことやら。
フッチンが、岩鬼を真似したサチコの役をやっているワケです。
〈馬場〉なんとコメントしてよいやら……。
長野県・椿姫〔巧・保奈美〕
〈馬場〉ドキドキさせられました。
〈河合〉最後の戦いの前にキスっていうのは考えたんだけど、
らしくないってヤメたネタ。
〈ニシボリ〉くやしいっス!
770 :
3/3:2009/05/12(火) 21:02:00 ID:???
香川県・ミッタンの妹〔御厨・鳶嶋・橘・三溝姉妹(御厨誘拐事件)〕
〈河合〉この御厨は、まるでぬいぐるみじゃねえか。
〈馬場〉御厨もいいけど、鳶嶋と橘もいい味だしてます。
静岡県・パラレルK〔巧(アルプスの少女ハイジに一本負け)〕
〈河合〉ハイジに負ける巧。たしかに手強い敵であることには、ちがいあるまい。
〈馬場〉なぜハイジ?
福島県・楠田さおり〔杉・御厨(坊主)〕
栃木県・小澤淳〔杉(即身仏)〕
〈河合〉仏の道の仲間ができたと思いきや、死んでます。
〈馬場〉これだから杉ファンはやめられません。
岡山県・押入生活〔ニシボリ(ラブコメはもうねえのか?)〕
〈河合〉もういいよニシボリ、もういい……。
771 :
業務連絡:2009/05/12(火) 21:15:39 ID:???
帯ギュスレあらすじ書きです。
今回の書き込みでスレ容量が490kに達してしまいました。
新スレに移行したいと思いますが、スレの頭がオマケからというのも何なので、
このスレは明日午後9時以降から楽屋裏ということに。
新スレは最終巻1話目からスタートとさせていただきます。
772 :
業務連絡: