>>391 信頼できるを通り越して神様扱い一歩手前まで来ちゃってるぞ
395 :
1/2:2008/12/17(水) 22:02:17 ID:???
第178報 理解 ――アンダースタンディング――
甘粕はヘリの中で、テレビを見つめる。DAIGO!! DAIGO!! 集まった人々は皆、大吾の名を呼んでいた。伝説のレスキュー隊員の名を。
ヘリが別荘に到着する。ヘリから降りた甘粕は、大吾の元へと歩を進めた。オレがこうしておまえの所へ来たのは、
要救助者のためだけではない。みんながお前に助けを求めるけれど、世界中でオレだけが知っている。いつだって……
本当に“救助”を求めていたのはおまえ自身だったということを。「朝比奈…」甘粕が背を向け座っている大吾に向かって呟いた。
大吾は……「萌ちゃん……」でろ――ん、でれれ〜 赤ん坊を抱いて一人楽しんでいた。「はやくパパってよんでくれ〜」
ぜったいヨメににはやらん、と堅く決心しながら。そして少しして「甘粕!」やっと気付いたようだった。
「何も言わずに来てくれ」「や…ヤダ」大吾は育児休暇中だった。それも無理矢理認めさせた。
なのに、もう二度も呼び出されていることに怒る大吾だった。
それでも、「頼む…みんなが“待ってる”」甘粕の再三の頼みに、赤ん坊を別荘つきのジェシカさんに預けヘリへと乗り込むのだった。
ヘリの中で甘粕が言った。「なんだかんだ言って、迎えに行くとホッとしたようなカオするよな…」
頼まれたから来てやったのにケンカ売ってるかと大吾はつばを飛ばす。だが、甘粕は続けた。
「子供が生まれて… 悲惨な現場から目を背けたままでいたい。それも本音だろう。でもお前、災害から見捨てられるのも怖いんじゃないのか?」
甘粕は忘れられないと話す。レスキュー研修の同期会の席で大吾の放った言葉。
『災害をゼロにしたい。しかし、地球上から災害がなくなれば自分は誰からも必要とされなくなるだろう』
396 :
2/2:2008/12/17(水) 22:03:05 ID:???
ヘリのテレビからは、依然として大吾を呼ぶ声が響いている。大吾は言った。
結構なことだ、災害がなくなるのなら。それに今は、カミさんと萌がいる。あの二人にとってだけはおれは必要なんだ。
昔とは違うぜ、と大吾は言った。けれど、テレビからは、その二人以外で大吾を必要とする者たちの声が響く。
「この人達は“朝比奈大吾”という才能を必要とし評価しながらも… 本心では、出来ることならその才能が
“発揮”される必要のない世の中を願っている」甘粕が呟く。「いつも求められ… 頼られながらも…
本当は“消滅”することを望まれている才能――…」大吾が静かに甘粕の言葉を聞く。
「いろいろなところへ行ったな。シンドかったろう、この七年間。ジレンマの連続だったろう」
大吾の脳裏には災害の現場で見た救助を待っていた人々が浮かぶ。
「才能の輝くとき…… 本来は誰からも祝福してもらえる瞬間のはずなのに、おまえの輝く時は
必ず人々の悲劇だ」耳に届く者はテレビからのコール。災害が起きたときだけ求められる助けを待つ声。
「おまえの才能の発露に…… 祝福は、ない」
大吾はヘリから夜景を眺める、窓には五味が写り、そして呟いた。
『一生こんなもんさ、おれたちは』
大吾は涙を流す、甘粕は友の肩に腕をかけ話す。
「それでもおまえはレスキューをやるべきだ。死ぬまでとは言わない。それを言いにオレは来た」
ヘリが現場上空からゆっくりと舞い降りる。人々は待ち望んだ声を放つ。イーグル1の隊員達が敬礼をし、
大吾が現場の土を踏みしめた……
子供がいるということは落合先生とせっくるしたのか〜〜!!!!
女の子かあ。
そりゃあメロメロだわなw
大吾も親父か。
それでもやっぱり行くんだな。
>世界中でオレだけが知っている。
落合先生にケンカを売っていると解釈してよろしいか。
400 :
1/2:2008/12/20(土) 21:58:50 ID:???
第179報 可能性
大吾が消防服に身を包む。現場は地鳴りのような期待感に包まれていた。レポーターが秘策を期待する。今まで
も幾度となく奇跡を起こしてきたのだからと。その声に、神田は苛ついた。秘策などそんな虫のいい物があるわけない。
「お前が来ただけで現場に生気が戻ってきた。これで十分だ」神田が大吾に言った。
大吾は無言で辺りを伺う。繰り返し大吾の名を叫ぶ聴衆。子供を助けてと涙を流す母。カメラマンが固唾を飲んでいた。
大吾は思う。不謹慎極まりないことだが、この雰囲気はどうだ?
“大観衆”に最高の“舞台”。そこへ天空より舞い降りた主人公。まるでオペラだ。大吾が地下の現場へと足を進めた。
崩落現場。状況の説明を受ける大吾は、絶望的な答えを聞いた。進んでは戻るの繰り返し。先頭車両まで十二時間、そのとき何人生きているのかと。
「甘粕、アックス… 破壊用斧をかしてくれ」大吾が呟いた。そしておもむろに、壁に向かって振り下ろした。
斧が伝える振動によって天井から土塊が落ちる。人の話を聞いていないのか。イーグル1の隊員たちがヤメろと怒鳴る。
だが、大吾は手を止めない。今までの場所は足場が造りやすいが、応力が集中していて崩れやすいという。
「ここの応力は1/3以下だ。崩れないよ」大吾は斧を振り下ろした。秘策でも機転でもない、
カミカゼ特効アタック。アメリカの隊員らはすぐにでも作業を止めさせようと叫ぶ。
けれど、甘粕は一度、ため息を吐いただけで、道具を揃えろと言い、大吾を手伝い始めた。
「クレイジ――!!」現地のレスキューが空しく叫んだ。
作業は続いている。大吾と甘粕は少しずつ穴を掘り進めていた。崩落すれば命がないほどまで。
大吾が甘粕に、いいのか? と尋ねた。さっき、ああは言ったがあれは嘘だと。崩れても要救助者が潰れないだけ、
おれ達はぺちゃんこだと大吾は話す。だが、甘粕は引かない。12時間も待っていたら、助かるものも助からない。
おまえが崩れないというのなら崩れないさ、と削岩機を動かし続けた。二人のエース。外から二人を見る
イーグル1の副隊長は、命を賭して作業を続ける二人を見て、敬意と恐れを感じていた。顔を青ざめさせながら。
大吾が掘り進む。上から落ちそうになった岩くれを片手で支える。大吾は先ほどのヘリの中、甘粕と話したことを思い出していた。
401 :
2/2:2008/12/20(土) 21:59:36 ID:???
“夢”を実現する人間は何が違う? たとえばワールドカップの得点王。彼らはいつの時点で、
そうなれると思ったのか……。ずっと気になっていたと甘粕は言う。
でも、それは違うのかもしれない。さらに甘粕は続けた。あるときに“なれる”と気付くのではなく、
“なれないかも”と考えたことのない奴が、得点王なんかになるんじゃないだろうか。
人は成長して現実を知る。“現実は理想通りにはいかない”、“夢を叶えるのは難しい”、“そうはなれないかも”
そんなことを考えた人間から、“そうなれなく”なっていくのだと甘粕は言う。
「オマエ、『きっと何とかなる』って思ってるだろ?」甘粕の言葉に大吾は頷く。
それが一番の才能なんだ。“信じている”うちは、どんなことだって“可能性”は残されている。
大吾が光り射す穴に手を入れ土を崩す。先頭車両が見えた。全員無事で。
大吾達は重傷な子供達を外へ出そうとした。そんな大吾を引き留めるグリストNY市長。私を誰だと思っている。
私を先に出させろ。出口が崩れたらどうする。左腕が折れているかもしれないんだぞ。
身勝手な言葉を飛ばす市長。大吾は言い返した。市長なんてどうでもいいけど、そんなに言うなら、
「この子達の中には、将来、大統領になる奴がいるかもしれないぞ?」
甘粕が陰で吹き出した。
「ホームラン王だって、スピルバーグだっているかもしれない」自分がそうなれるって信じていれば。
そして最後に呟いた。「ちゃんとあんたも助けてあげるからさ」
大吾は甘粕の言葉を思い出す。死ぬまで続けろとは言わない。――でも、自分を信じる力が消えない限り、
朝比奈、おまえはレスキューを続けられる。甘粕の言葉に、大吾は胸の内で答えを返した……
「ああ、続けるさ!!」
最早大吾の突き抜けぶりにぷりに適応しきってる甘粕と違って
常識を保ってそうな神田さんは苦労してるんだろうなあ…
> 大吾は思う。不謹慎極まりないことだが、この雰囲気はどうだ?
> “大観衆”に最高の“舞台”。そこへ天空より舞い降りた主人公。まるでオペラだ。
ん、これ外の人の感想だと思った俺
うん、観衆のおっさんのモノローグだよねあれは。
え、あれは大吾じゃないの?
自分がオペラの主人公になったみたいって話で。
描き方的に大吾には見えなかったな、
あんな気取った表現する奴でもないだろうし
大吾でしょ、言葉の調子が大吾っぽいよ
どうだ?、とか、歌劇だ!! とかの断定的な部分なんか特に
前の話で、甘粕が言った、大吾の才能が輝くときは悲劇だ
というのにつながって、大吾が悲劇の舞台に舞い降りたって感じたんだと思うが
「この雰囲気はどうだ?」のあたりは大吾っぽくないがでも流れ的に大吾だと思う。
409 :
1/3:2008/12/24(水) 22:34:15 ID:???
第180報 め組消滅!?!
信じられない。子供を抱えて地上へと出てきたイーグル1の隊員達。彼らは、喜びではなく唖然とした表情を浮かべていた。
地上は歓喜の声に包まれていた。報道が色めき立ってレポートする。死者はゼロ。このような規模の崩落事故では奇跡的な数字だと。
止むことのない歓声に沸くマンハッタン。疲れ果てた大吾は、まるで人ごとのように人々を眺める。
甘粕が大吾の肩に手をかけた。「ブッとんでやがるぜ、おまえ。まさか真正面から穴掘っちまうとはな…」
甘粕は今頃になって唇を振るわせていた。緊張がとけ、恐怖がやっと届いたのだ。そしてへたり込んだ甘粕は言った。
「もう二度とゴメンだ。完全に生き埋めになるのをカクゴしてたぜ…」
「おれもだ。さすがにちょっとちびったよ」大吾も座りこんで笑った。
「戻って来ないか、オレたちのハイパーレスキューに」甘粕の言葉に大吾は少し何かを考えていた。
そこへイーグル1の隊員たちが現れた。彼らは礼を言い、その後で提案した。ハイパーレスキューを抜けるのならば、
「オレ達のところへ来ないか、マンハッタンイーグル1へ」と。この騒がしいまでに喜びに満ちた歓声、止める
のなんてもったいがない。ここで一緒にやろう。彼らはそう言って大吾を誘った。
甘粕はふいの言葉に驚き、大吾の方を慌てて見る。朝比奈……。大吾は、黙ったままで何かを決めたように目をつむる。
「あなた!!」
「静香! 萌ちゃん」
突然の来訪。元落合、現在は昆虫博士であり大吾の妻でもある朝比奈静香が赤ん坊である萌を抱いて現場に現れた。
410 :
2/3:2008/12/24(水) 22:35:08 ID:???
「もえちゃんんんん〜〜〜〜〜」大吾が赤ん坊と静香の方へ飛びかかるようにして抱きついていった。
大吾は迷いも決心も見事に吹き消し飛んだようだった。あさっての方向へ……。
そして少し落ち着いて、奥さんの背に手を回しながら大吾が言った。
「今回はたまたまカミさんの出張にくっついてNYで休暇をすごしてたけど、静香の職場は日本の大学なんだ」
大吾は明るい目していた。心を決めた目。赤ん坊は両親に抱えられ幸せそうにすやすやと眠っている。
「日本を離れるわけにはいかない。おれは…千国ハイパーレスキューに復帰するよ」
朝比奈!! と甘粕歓喜。イーグルの隊員は、それでは仕方がないと、子供と嫁さんの大切にと言った。
歓声はいまだ止まない。大吾は喜びを分かち合う人々を静かに見ていた。きっと、おれはレスキューを続けられる!!
“祝福はない”か… 甘粕、おまえはおれに同情してくれるけれど… この光景を見ろよ… おまえが言うほど、
悪くはないんじゃないか? おれのハラは決まったよ。本当に災害がなくなるのならおれは“消滅”したっていい。
自分が“用無し”になるために頑張るのも面白いじゃんか。“祝福”はちゃんとある……!!
消防トラックの陰で、大吾と静香はそっと口付けを交わした。歓声はずっと続いている……。
411 :
3/3:2008/12/24(水) 22:35:55 ID:???
日本。千国市消防局本部のある一室。黒いハイヒールをはいたすらっとしたおみ足を机に載せ、煙草を吹かしながら
防災フォーラム Vol.7 飲料水兼用耐震性貯水槽の設置という本を読む忍足ミキ“消防司令長”の姿があった。
その外、休憩所では、暇そうな男達が忍足のうわさ話を楽しんでいた。彼女が推進したプロジェクトによって、
人口増加に反比例して、災害が減少。女性初の千国市消防局長誕生とまで言われ始めている。まさに女帝。
とても楽しいのだろうマザーコンピューターの噂はそうは止まらない。止めたのは女帝忍足だった。
「人のうわさ話もいいけれど、身体があいてるなら外へ出てみない? きみ達」
めだかヶ浜の方へに視察に行くという忍足。誰かついてくる? と誘ったが、
男どもはめっそうもございませんとでも言うように顔を青ざめさせ首を振った。
「期待してないわよ! フン」忍足は一人、夜の街へと車を出した。
めだかヶ浜…。思い入れが無くもないと車から降りる。
「ああ…本当に、キレイさっぱり無くなってしまったのね…」目の前には平地が広がっていた。
「めだかヶ浜出張所、通称め組」
もうあの出張所はどこにもない。建物はキレイに取り払われ、奥の方に立つ見張りの鉄塔だけが、ここに出張所があったのだと、言っているようだった。
遠くの方で同じくこの平地を眺める老人を忍足は見つける。あれ…… あの人…… もしかして…て…?
話しかけるには遠く、老人はすぐに立ち去ってしまった……
大吾きめえw
変態親父になりそう
次週、感動の最終回!!
あなた 静香 かぁ…うーん
とうとう最終回か。
まあ七年後とかやりだしたときからそんな予感はしてたんだが。
416 :
0/7:2008/12/27(土) 20:55:26 ID:???
来週水曜日の0:00過ぎた辺りでコミックス発売、
楽屋裏とします。それまでは連載中です。では、最終話をどうぞ。
417 :
0/7:2008/12/27(土) 20:56:14 ID:???
アメリカから帰ると、ジルが老衰で死んでいた。庭に造られたお墓には花が供えられている。
静香は赤子を抱きながら、ジルの墓の前で手を合わせる大吾を見つめていた。
人間でいえば100歳を超えていたろう。大往生だ。だから涙は出なかった。…だけど、
最後の瞬間そばにいてやれなかったのはやっぱり残念だった。ジルとは子供の頃からずっと一緒だったから…
ジル。おれに言い残すことはなかったか…?
最終報 そして、再び…
「上島サン!!」
ハスキーで鋭い声が千国市消防局本部に響いた。突然、名前を呼ばれた上島は、驚き机を揺らしながら立ち上がる。
「ハッ…ハイッ!!!」少しつまった返事。額から流れる脂汗が、上島の緊張を物語っていた。
「何? このレポート。先週の小田原防災フォーラム、他の会合で、私はどうしても出席できないので、
あなたに代理を頼んだのよ? 肝心の耐震性貯水槽のスペックが記載もれしてるじゃない。来年度から
ウチでも導入するかもしれないものなのよ。至急、メーカーに確認して!」
一方的に言葉を放つ女は忍足ミキ、その人である。椅子に乗せた身体を捻って上島の方を向いてはいるが、
右手はキーボードから離していない。すぐにでも作業に戻るための癖なのかもしれない。
「は、はいっ」上島が反射的に返事をした。蛇に睨まれた蛙。忍足の眼鏡の奥の眼光は、それほど鋭かった。
だが返事を聞くやいなや、忍足はすぐにどこかと電話を始める。きっと忙しいのだろう、いつでも、どこでも。
「いや――…ずっとまえから、市局の実質的な牽引役は彼女だったけどさ… 市局長補佐になって、
名目上でも忍足女史が市局のリーダーになっちまった」
「おっかねえだけじゃなく、実際50人分位の仕事をやっちまう女だから誰もたてつけねーよな」
「うう…情けね…… まさにそのとーり…」
青ざめたような表情で、男どもが忍足の噂を話す。なんとも情けない。その一言がよく似合う男たちだった。
418 :
2/7:2008/12/27(土) 20:57:02 ID:???
その男たちの間を縫って力強く忍足の元へ進むものがいた。ミニスカートから伸びた力強い足を交互に前へ出す。
手には書類らしきものを持っていた。
「いや、一人だけいたな」
「ああ! あの元気娘…!!」
「忍足さん!」
制服に身を包んだ女が忍足を呼ぶ。近藤だった。制服に身を包み、少々の化粧、目が力強く輝いていた。
「警防部の近藤純です。先日、忍足さんが作成された、来年度の新しい水利配置計画、わたしなりに市局のデータバンクを検索してみたんです」
「またあなた…」忍足が、くわえ煙草を口で遊び、少し気怠そうに近藤を見た。
近藤は、そんな忍足を気にせず、こぶしを握り、持論を力説する。
「それで3か所ほど気になった箇所を補整してみました! ぜひ見てくださいッ!! わたしは生まれた時から、
この街に住んでいるんです! 千国市の災害を無くしたい気持ちだけは、忍足さんに負けませんッ!!!」
額から汗を飛ばすかのような、力強い言葉。最後に一言、
「わたしは使えますよッ!!」
近藤の目は燦々と輝いている。
忍足は近藤のあまりの熱気に観念したのか「あ〜うるせー」と耳をほじりながらぼやきつつ立ち上がった。
「来なさい!! 市内巡回よ。車の中で意見をきくわ!」そういって忍足が部屋を出る。その目は少し意味ありげに近藤を見つめている。
逃がさないから! このオバンっ!! くわっと意志を固めて、近藤は後に続いた。
残された男たちがまた、仕事中の井戸端会議を始める。
「しかし、あれで忍足女史、けっこう近藤のこと気にいってんじゃないのか?」
「ああ、何だかんだいってよく連れて歩いてるもんな。もしかして、二代目“マザーコンピュータ”!?」
近藤は、伝統ある偉大な二つ名を襲名したようだった。
「本当になくなっちゃったんですね…… め組…」
めだかヶ浜出張所跡地。吹きすさぶ風が何もない更地を通り、二人のコート揺らしていた。
「わたし… 学生時代から、め組には出入りしてたから……」
「そういえば近藤さん、あなたあの朝比奈大吾と同じ高校の出身だそうね」
忍足が眼鏡を外しつつ言う。その言葉に、近藤はしばらく沈黙して、「ええ…」と答えた。頬を赤く染めながら。
419 :
3/7:2008/12/27(土) 20:57:55 ID:???
「で、でも、め組がなくなったのも仕方がないことですよねっ。火事が激減してこの地区には出張所が
必要なくなったんだから!!」無理しているように、明るく振る舞う近藤。
その様子に少々の違和感を感じながら、忍足は吐き捨てるように言った。
「“め”でたい、“め”組らしいわっ!!!」
もう消えてしまった出張所、目の前にはむき出しの地面が広がっている。め組は、本当に消えてしまったのだ。
「皮肉なものね……考えてみれば、私達自身、自分達が“必要となくなる”世の中を目指して働いている」
忍足が呟く。非情な現実がそこにある。ただ、言葉はそれで終わらなかった。
「…でもね、め組がなくなった理由はそれだけじゃないわ。老朽化した現本部に変わって、ここに新しい千国市消防局本部が建つのよ!!!」
「ええっ!?! そうなんですか!?!」近藤が驚き、高い声を出した。
「これからは、千国市消防局そのものが、“め”でたい、“め”組ね」
忍足の言葉に近藤は感動した。“め”ったに火がでない、“め”でたい“め”組と。
「そうかっ!! それであのうわさが……」
「新しい千国市消防局長のこと?」忍足の呟き。
「ええ!!! あの人が新消防局長に就任するらしいって…… 本当なんですか!?!」
「そうらしいわよ」
忍足は静かに肯定した。
「残念ですねぇ、忍足さん。消防局長の座、遠のくんじゃないのォ?」
近藤が口元を曲げ、ヒヒヒと嫌らしく笑いながら忍足を見た。忍足は微笑んでいた。
「そうね、でもあの人なら……」
このヒトが……こんな顔するんだ……。近藤は思う。
忍足が言った。
「あの人なら補佐しがいがある。当分、私の出番はいらないわ!!!」
あの人が来る……。あの人が千国市消防局のリーダーに!!!
千国市消防局新局長就任式会場。ホールにはずらりと椅子が並べられ、集まり始めた人が各所で雑談を交わしていた。
「お〜〜ジュンちゃん。ジュンちゃんやないけ〜〜!!」
平が近藤を見つけ声を出し近づいた。
「平サン。植木さん、め組のみなさん」
平の後ろには、植木、大野、猪俣、元め組の者が集まっている。皆、七年前とは少しずつ姿を変え、老けているようにも思える。
「元気しとったか〜〜」
「平サンこそ〜〜」
420 :
4/7:2008/12/27(土) 20:58:45 ID:???
近藤達は再会の喜びを分かち合って、明るく声を出す。そこで、
「おーい、ボン。こっちやこっち。ジュンちゃんおったで〜〜」平が手招きして大吾を呼んだ。
「“ボン”はいーかげんよしてくれよ〜〜 平さん。おれだっていいとしなんだから」
「なーにゆうとるんや。ボンはいつまでたってもボンやっ! エラそーに」
平は口うるさく大吾に先輩風を吹かし続けていた。
「近藤……」ひさしぶり、と近藤の前に立った大吾は、照れくさそうに頭を掻いた。
しばしの沈黙、近藤は懐かしむように大吾を見た後で、いきなり大吾の胸を元気よく叩いた。
「朝比奈せんぱい、萌ちゃん元気〜〜!?! きっとすごい美人になるよぉ!! 落合先生のこどもだもん!!!」
「だろだろ!?! そう思うだろ!?!」
とろとろ、とみっともなく顔を歪ませる大吾。その後ろでは、平と植木が「タコ」、「もえちゃんのこととなるとな〜」と呆れている。
「でも、ぜったいヨメにはやらんの!!! 決心してんだー」なおも続ける大吾。場はわーわーと笑顔に溢れる。
植木がふと近藤の方を見ると、誰にも気付かれないように目元の涙を拭いていたのだけれど。
『それでは、新消防局長から所信表明のお話を――』
アナウンスが会場に響いた。大勢の千国市職員が一斉に拍手し新局長を迎える。
「それにしても、あのおっさんが消防局長とはの〜〜 大丈夫かいな」平が鼻くそをほじりながら壇上を見て言った。
大吾と甘粕も、繰り返し拍手をしながら、壇上を望んだ。マイクの小さなハウリング。壇上の男が言葉を発した。
「この度、新消防局長を拝命しました―― 五味俊介です」着帽のまましつれい…と五味は小さく言葉を付け加える。
五味さん……。大吾は何とも言えぬ気持ちで五味を見ていた。
ゴホン。…………五味の咳払い。少し開いた間に皆が「なんだろう?」と視線を五味の方へと向けた。そして五味は話し出す。
「エ――、私は競馬がスキです。たい焼きとか甘いものがスキです。えーと、それから―― ミナサンの好きなものはなんですか?」
「な…なんやのそれ…」平のツッコミ。植木や猪俣、近藤も顔を蒼白とさせる。神田までもが「おいおい」と呟くほどで、
忍足、甘粕、会場の多くの者が驚いていた。
「ごみさん…」大吾も驚きつい言葉を発っした。
五味は続ける。
421 :
5/7:2008/12/27(土) 20:59:32 ID:???
「“災害”にエネルギーをすいとられる人生なんてまっぴらごめんだ。住むひとが好きなことにエネルギーの
全てをかたむけられる。そんな街にしよう。“めでたい”街に!! 俺も頑張る」
皆の顔に鋭気が戻り、憧れと畏怖の念が場を一旦沈める。そして、
「力を貸してくれ!!! 以上!」
五味の言葉が終わると、会場中が拍手と歓声の渦に包まれた。
名演説だっ。神田感涙。
忍足は「やれやれ」と内心ひやひやしていた。
「私は彼の若いころから目をかけていたんだっ。彼はやる男だと思ってたよォ、私は―― はっはっは」と来栖さん。
陽光新聞の丘野は耳をほじりながら「はいはい」と来栖に返事をしていた。
鳴り止まない拍手、五味は帽子を押さえ皆を見ていた……。
ダイゴ…… ダイゴ。目を覚ましておくれ。
大吾を呼ぶ声。目を開けると、ジルがたたずんでいた。心地いい、もやのようなものが辺りを包んでいる。
大吾はジルの元に駆け寄り、両手を広げて抱こうとした。大吾は心底喜んでいた。
「ジル!!! ジルぅ、おまえ死んだんじゃなかったのか!?! 生きてたのかァ――」
違うよ、お別れを言いに来たんだ。おまえさんはアメリカでレスキューをしていたから――
「ジル……」抱きかかえようとした手は、何故かジルを掴もうとしなかった。
それにしてもダイゴ、ずい分と大きくなったものだなあ。今や世界のヒーローじゃないか。
思えばとても名誉なことだよ。
“伝説のレスキュー隊員”の最初の要救助者は、このわたしなんだからね。
大吾の脳裏に少年の頃の記憶が浮かぶ。ジルを抱いて炎から逃げようとして、泣いていた記憶。
422 :
6/7:2008/12/27(土) 21:00:21 ID:???
子犬のころ、おまえさんにひろわれてわたしはとても幸運だった。
おかげでなかなか素敵なものを見せてもらったよ。
一人の少年が天の啓示にもにた自らの進むべき道を知り、
才能を開花させ、
世界の救世主にまで登りつめていく姿。
“人”がみるみる…… 途方もなく大きくなっていくその姿。
こんなに間近で、
こんなに尊いものを見ることが出来た犬は、世界中できっとわたしだけだ。
「なにいってんだよ……」
おい……。言葉にならない呟き。目に涙が滲む。
「ジル……行かないで!!! ずっと一緒だったじゃないか!!! 一人にしないでくれ!!!」
何を言っているんだ。
おまえさんにはもう、おまえさんの家族がいるじゃないか。
わたしを愛してくれたように、彼女達を愛してあげなさい。
「ジルぅ!!!」
伸ばした手は届かない。ジルはすぐそこにいるのに。
それじゃあな、ダイゴ。
ありがとう。
きみといられて幸せな生涯だったよ。
ありがとう。
ジルは光の中へ消えていった。
423 :
7/7:2008/12/27(土) 21:01:09 ID:???
「ジル…」
目を覚ました大吾はだらしなく涙を溢れさせていた。オレンジ色のツナギ。机に足を載せ、その隣には赤い帽子が置いてある。
待機所には、出場の報がけたたましく鳴り響いていた。
「朝比奈寝てんじゃねえ!!! 出場だぞ――ッ」と甘粕が叫ぶ。
え……。現状を理解できない大吾は涙を垂らしたまま、急いで出場準備をする甘粕見た。
「モタモタしてると、おいてくぞ!!」神田も大吾を怒鳴った。甘粕は外へと駆けだしている。
やっとのことで、大吾は勢いよく立ち上がった。涙を拭い、帽子に手を伸ばす。
心臓の拍動が一つ。大吾は前を強く見つめ、しっかりと帽子を被った。赤い帽子にはGLOBEの文字。
「よォ――――し!!!」
街を走る消防車がサイレンを響かせ街を進む。大吾たちは、現場へと急いだ。
EXCITING FIREFIGHTER COMIC
――め組の大吾 火事場のバカヤロー 完――
なんか五味さんに全部もってかれちゃった感じだなw
乙!
ジル…(´;ω;`)ブワッ
文句のつけようのない最終回だった・・・
ジルが、ジルがかっこよすぎる……
大吾はまだ現場に出続けるんだなあ。
いずれ体力的にも無理になりそうだが。
五味さんもあの年齢まで出たんだ、鍛えればかなりいけるさ
色んなことがあったこの3年10か月でしたが、
この作品を描けて本当に良かったと思う。
『ダイゴよ、まったくお前ほど手のかかる主人公はいなかったぜ。
だけどさ、お前はおれをずっと鍛えてくれてたんだな。
“もっともっと苦しめ!”“そしてスゲーモノ描け!!”って
おかげでずい分マシな漫画家になれたよ。
本当にありがとう。お前と会えてとても幸せだったよ!!!』
読者の皆さん、今までご声援ありがとうございました。
絶対またお会いしましょう!!!
1999.6.30. 曽田正人
以上でお終いです。
以下楽屋裏。適当に人がいなくなったところで放置して、
無理に保守せずスレを終わらせましょう。
お疲れさまでしたー。
乙です〜
大吾は初っぱなからスーパーマンだよな
乙でした。
連載当時の記憶とあらすじで参加してたから
たまにいらんこと言ってて申し訳ない。
この人の話は絵が必要だね。
久しぶりに読みたくなった。
このあと昴、capetaに繋がってくんだよな
なんていうか天才型の人間描かせると上手い
保守
436 :
マロン名無しさん:2009/01/06(火) 22:42:19 ID:nHO06cMY
大吾がくっついたのは落合センセ。
連載の始めっから登場しているので、当然といえば当然だ。
年齢的には近藤もありかなとは思ったんだけど。
年上のオトナの女というのは、少年マンガ的には正道だったのかな。
ま、最後まで引っ張られて、読ましてもらった。
437 :
マロン名無しさん:2009/01/06(火) 23:20:32 ID:eDHGOnAI
だよね
誰かシャカリキ連載中をやってくれないかなと……
昴でもいいけど
シャカリキはチャンピョンだから更に人が減りそうな予感
シャカリキは、自転車板では今でも大人気なんだぜ
曽田先生の作品は何処でもそうだよな。
この人は大吾の続編物描いたりしないだろうな