683 :
マロン名無しさん:
オレがこの街に来たのは15のときだ。
親父は郊外にあるヤマで働く炭鉱夫で、もともとオレもヤマの近くで暮らしていたんだ。
オレも親父と同じように高校を出たらそこで働くことになっていた。
誰の指図でもない。親父の息子として、ヤマの町で生まれたときにそう決まってたんだ。
だが、この決まりごとをママは受け入れていなかった。
ママはオレをセントルチャーノの高校に通わせることにこだわったんだ。
684 :
マロン名無しさん:2008/08/20(水) 22:52:15 ID:2xbdB80t
オレの学校の成績は抜群だったから、街の学校に通わせれば、オレが会計士にでもなれると思ったんだな。
だが、ヤマの学校では1番だったオレは、街の高校の入学試験ではほとんどびりっけつだったんだぜ?
そもそもオレはヤマで働く運命を受け入れていたし親父のことも好きだった。
それでもオレはママのために会計士を目指した。
卒業して働き始めたらママを街に呼んであげるのが目標だったのさ。
685 :
マロン名無しさん:2008/08/20(水) 22:54:40 ID:2xbdB80t
高校での成績は悪くなかった。そりゃあ最初は追いつくのに苦労したけど、結構必死で頑張ったもんさ。
炭鉱夫の息子ってわけで、クラスの連中に妙な目でみられてんのはわかってたからな。
奴らは、育ちがいいんだろうな。表面上は別に普通に接してはくる。
だが、折りにふれてオレをいらだたせた。奴らと来たら劣った奴を見ると馬鹿にするんじゃあなくて憐れむんだ。
憐れまれる?は!オレにとって一番迷惑なことだったよ、それは。奴らはまったくたいしたもんだよな。
686 :
マロン名無しさん:2008/08/20(水) 23:03:22 ID:2xbdB80t
そんなやつらと寮で仲良くするのは一苦労さ、
なにしろ成績がいいってだけじゃあ、奴らの一方的な憐憫から逃れるのには十分ではないんだ。
オレは寮を抜けられる日曜になると、同じように帰る家のない田舎から出てきた仲間と一緒に街に繰り出して
いろいろやった。そう、いろいろさ。
687 :
マロン名無しさん:2008/08/20(水) 23:05:21 ID:2xbdB80t
手始めにオレは飲み屋に出入りしてそこのウェイターから酒を仕入れて寮の連中に売り始めた。
ウェイターがオレに酒を分けてくれるのはオレが奴らに女を紹介してやっていたからだ。
恋人じゃあない、一日だけの女だ。
酒を仕入れてこられるってのは、オレが街でうまくやってるってみせるためだ。
オレの評価はどんくさい田舎者からいかがわしい危険なやつに変わった。憐憫は消えた。残ったのはビジネスだけだ。
友人がほしかったわけじゃない。おれは学校に確固たる居場所をつくったんだ。
高校生のオレが街で商売してるって話は割とすぐに街で悪さをしている連中の目にとまっちまった。
彼らに金を払って道に立っていた女たちが、オレを通じて直接客のところに行くようになっちまったんだからな。
そりゃあ黙ってはいない。ばれるのは時間の問題だった。今思えばな。
オレは捕まってぼこぼこに痛めつけられた後で、彼らのリーダーから紳士的な口調で質問を受けた。
いつからだ。バックには誰がいる?質問はそんなところから始まった。
オレが、1人で始めたことだというと、リーダーは喜んだ。そして彼はこういった。
君はこれからもこの街で自由にやるこった。オレは君のいい兄貴になろう。困ったことはみんなオレの友人に言ってくれ。
君がしなければならんことは2つだけだ。まずオレとその友人を敬え。そして稼いだ金は一旦オレに預けろ。お前の取り分はその半分だ。
オレはその条件を飲んだ。しかたがなかった。オレは痛めつけられたことですっかり参っていたんだ。
ただ最初の条件については心の中でだけ留保した。
オレは収入をもとに戻すために別の商売を考えなくてはいけなかった。生活レベルを下げるってのは苦しいもんなんだよ、実際。
このころにはもう、寮の連中に気にいられるっていうのはもうどうでも良くなっていた。
相手がどう考えるかということを気にするのは無駄だと覚ったんだ。問題なのは相手がどう動くかだ。
オレをどれだけ恨んでいようが、そいつがオレに手を出す度胸もなく、誰にもその感情を打ち明けられずに居続けるなら、オレにとってそいつは無害ってわけだな。
そうそう、オレの新しい商売だったな。
街の飲み屋や食堂にはこのころジュークボックスって機械が置かれ始めていた。この機械には毎晩酔客が60ドルばかり投げ込んでいた。
ウェイター1人分の稼ぎだ。しかし、ひとつの店にこの箱は1つしか置かれない。当たり前だよな。2つの音楽を同時に楽しめる奴はあまりいない。
オレは何台か同時に使える機械を知っていたから、それを店にいくつか置かせてもらった。
スロットマシンってやつさ。オレと店の取り分は折半。もっととっても良かったが、何事も折半が一番だ。
後腐れがないんだよ、ホントさ。おれはぼこられた一件以来ずっと契約は折半でやってる。
これは大いにあたった。何しろ兄貴連中はこれを気に入った。兄貴たちはオレから商売をとりあげなかった。
これにはホントに感謝してる。奴らは自分で働くのが嫌いらしいんだな。
すごく助かったよ。おかげでオレはスロットの専門店をつくり、連中から半ば独立した。方法は簡単さ。
その店をやつらより強い奴に売ったのさ。そいつの職業はボス。ポリ公のボスだ。オレは雇われ店長。もちろん取り分は折半だ。
警察とつながるのはいい面と悪い面がある。いや、他人と付き合うってのは大概そうだな。いい面だけじゃない。
だが、警察となるとそれが極端に表れる。まず兄貴連中はオレから一線を引いた。彼らは警察と仲良くやるのを嫌っているんだ。
(彼らの言葉を借りれば「無粋」らしい。)
高校を卒業して、女のデリバリーは後輩に譲ってスロット店からも身を引いた。
そしてオレは会計士になった。もともとこの街にはそのために来たんだから当然だ。
高校時代につくった金はいくつかの会社に投資した。たいした会社じゃない。零細ばかりさ。
だが、かたぎでいるってのは大事なことなんだ。
特に母親と住むようになってからは、そう痛感している。
母親はオレを小さい会計事務所といくつかの会社を経営する
自慢の息子だと思ってくれている。それでいい。これがベストだ。