──燦理雄軍本部司令室。
そこでは集まった幹部達が緊張した面持ちで立っていた。
ケロッピ「なんだと?」
サム「本当なのか?! それで、今どうしてる?」
最高幹部二人が報告に来た兵士に詰問する。
兵士「捕らえて搬送中ですが、なんだか様子が変でして」
ラナバウツ「どのように?」
兵士「誰でもいいから幹部と話がしたいと喚いています。
……なんでも、自分達は敵ではないだとか」
真意の分からない敵の発言に、メンバーはざわめいた。
しかし、ケロッピ一人だけは無言のまま少し考えて指示をする。
ケロッピ「……ここに連れて来てくれ」
サム「おい、ケロッピ!」
ケロッピ「大丈夫です。これだけのメンバーがいれば向こうの自由はきかない。
ボディチェックを厳格に行って自爆にさえ気を付ければいい」
ラナバウツ「本当に、大丈夫なのか?」
ケロッピ「ええ。万が一の時は、僕が責任を持って処理します」
ギラリと鋭くした爪を光らせ、ケロッピは問答無用で押し通した。
そうしてわらわらとやたら外見の怪しい四人組が連れて来られたのである。
「お〜いおい、乱暴はよしてくれよ。俺達は話し合いに来たんだぜ!」
「燦理雄は紳士的だと聞いていたが、意外とそうでもなかったな」
「まったくだ。あんまり乱暴にされるから目玉が落ちちまったよ。よいしょ」
「あーん、やめてよー! しっぽ引っ張らないで!」
ケロッピ「………………」
サム「なんだこいつら……」
思わず、目が合った。
ウッディ「やあ、初めまして。俺の名はウッディ。保安官……のおもちゃさ」
視線に気付き、軽快に自己紹介をするリーダー格の男。
そして次々とその奇妙な仲間達が挨拶を始めた。
バズ「私の名前はバズ・ライトイヤー。スペェェス・レンジャー!
……の同じくおもちゃだ。よろしく」
ポテトヘッド「わしはMr.ポテトヘッド」
レックス「初めまして僕レックス! よろしくね」
宇宙飛行士の姿をしたスタイルのいい男がバズ、
手足の生えたジャガイモに顔が付いているのがポテトヘッド、
そして甲高い声で話す緑色のティラノサウルスがレックスである。
サム「え、えーと君達は?」
若干押され気味のサムが額に手をやりながら質問した。
ウッディ「トイ・ストーリーって言えばわかるかな? そこに出演してるキャラだよ。
……泥須尼異に所属してる、ね」
そこで突然、目に見えてウッディのテンションが下がった。
ウッディ「バズ、彼等に説明してやってくれないか?」
バズ「わかった、ウッディ。私達は泥須尼異所属のキャラだ」
ポテトヘッド「いやそれ今言ったぞ」
レックス「しーっ! 静かに!」
少し横からちゃちゃが入ったが、物々しくバズは語り始める。
バズ「しかし私達はある時気付いてしまったのだ。彼等との方針の違いに」
サム「方針の違い?」
うむ、とバズは頷いた。そして続ける。
バズ「我々おもちゃは人々を、主に子供達を幸せにするために生まれた。
しかし、今の泥須尼異の首脳陣にはその心を感じないのだ。
勿論みんながみんな、と言う訳ではないが少なくともリーダー格の
御津奇異やプーさんは洗脳という卑劣な手段を使って人々を操っている。
我々はそれに耐えられなくなったのだ」
暗い顔をしてウッディがその後を引き取った。
ウッディ「ああ。最初は君達と戦争中だから、それも仕方ないと思ってた。
ちょっと卑怯な手段をとってでも、世界を統一しなくちゃいけないって。
でも……最近それが誤りだってことに気付いた。たとえどんな理由があろうと、
人間の心を魔法で支配するなんて、そんなの間違ってる!」
バズ「我々だけではない。今や泥須尼異に所属する多くの同胞達も、
その間違いに気が付き始めている」
レックス「だから僕達、逃げてきたんだ」
ウッディ「幸い俺達はおもちゃだ。体を小さくして、お客の荷物に紛れて脱出できた」
彼らの頭の中に、その時の回想が浮かぶ。悲しい顔をしてレックスが補足した。
レックス「でも、逃げられない仲間も多いよ。逃げようとして失敗して、
ヒドい罰を受けたり、友達を人質に取られたり……ブルブル」
ポテトヘッド「人間は夢の国なんて言っとるが、実際は監獄じゃよ。
安い給料で休日だろうと祝日だろうと働かされて」
バズ「大人しく言うことを聞いている限りは待遇も保証してくれる。
だがひとたび逆らえば……ただでは済まない。
今や数え切れない仲間達が脱出の機会を伺っている」
重い、沈黙が襲った。言うべき事は終わったようだった。
燦理雄側も予想はついていたことだが、直接内部の者から話を
聞いたことはなかったので、少なからず驚いている。
ケロッピ「一つ訊きたい。他の仲間達はどうした?」
ウッディ「一緒に逃げた。同じ手を使ってな。みんなは直接お客さんの家に
潜り込んだはずだ。しばらくはバラバラ……次はいつ会えるんだろう?」
最期の問いは誰に向けてでもなく、独り言として消えた。
バズ「我々は代表でここに来たのだ。トイ・ストーリの仲間だけでなく、
泥須尼異に囚われている全ての同胞の現状を伝える希望の星として」
未だ疑いの心を捨てきれないサムが訊く。
サム「それは仲間を助けるために我々を利用するということか?」
レックス「そんな、あなた達を利用なんてしないよー。
助けてもらうだけじゃなくて、僕らも一緒に泥須尼異と戦う!」
ポテトヘッド「逃げた時点でわしらはもう奴らとは決別してるからな」
ケロッピ「話はよくわかった。しかしここは軍事機密を扱う場所だ。
部外者の諸君等をいつまでも置いておく訳にはいかない」
ピシャリとケロッピが言うと、予想は付いていたのかウッディは淡々と答える。
ウッディ「わかってるさ。俺達は亡命を希望する。どこでもいい。
安息できる場所があるなら。もし俺達の力がほしい時は協力も惜しまない」
ケロッピ「まず諸君等の処遇をどうするか話し合って決めなければならない。
それはわかるな? とりあえずそれまでは彼等を第一応接室へ」
指示をすると、兵士数人がウッディ達四人を司令室の外へ連れて行った。
残った幹部一同はお互いの顔を見合わせ、一息つく。
ラナバウツ「泥須尼異も内部は色々あるようだな」
サム「いや、彼等の言うことはまだ信用出来ない。
我々にとって都合が良すぎる。スパイじゃないのか?」
「自分はそうは思わないでアリマス」
その場にいた全員が一斉に声をした方を振り向いた。
そこにいたのは車椅子に乗ったター坊。
車椅子を押しているのはマロンクリームである。
サム「ター坊!」
新幹線「ター坊殿!」
懐かしい顔を見て、仲間達が駆け寄った。
ラナバウツ「おお、ター坊! 久しぶりだ。だがどうしたその怪我は?」
ター坊「ラナバウツ、みんな、久しぶりでアリマス。
魔王にやられてこの有り様でアリマスよ……」
ケロッピ「ター坊、怪我はまだ良くなっていないはずだが。マロン、君も知っているな」
みんなが懐かしい気分に浸っている中、一人だけ険しい顔をしてケロッピは確認する。
その射るような目つきに耐えられず、震えながらマロンクリームは俯いた。
マロン「ど、どうかお許し下さいケロッピ様……
中将と旧知の幹部の方々が来られたということで……」
ケロッピの言いたいことを察し、ター坊はマロンクリームを庇うように前へ出る。
ター坊「ケロッピ、彼女のことは許してほしい。自分が無理を言ったのでアリマス。
せっかくみんなが来たというのにジッとしていられなかったのでアリマスよ」
新幹線「まあまあ良いではありませんか! ケロッピ参謀。
ター坊中将はラナバウツ殿と同期。積もる話もございましょう」
サム「……なんだか、懐かしいメンバーが揃って同窓会みたいになっちゃったな」