ター坊「まだ、でアリマスか?」
病室にはター坊とミミィがいた。ター坊は少し険しい顔をしてミミィに問う。
その問いに答えるため、ミミィはター坊の体に手をかざし、目を閉じて何かを探っていく。
ミミィ「……ええ。魔王の強大な魔力が未だにあなたの体を蝕んでいます。
私の力ではそれを少しずつ消していくことしか出来ません」
ター坊「そうでアリマスか……」
ミミィ「ですが、時間はかかるけれどいつかは必ず治ります。それで良しとしなければ」
ター坊「……はい。他にも怪我人がいるのに優先的に看てもらい、感謝するでアリマス」
ミミィ「いいえ。あなたのことはキティからもよく頼まれています。
今本部にいる幹部はあなたとケロッピ、サムのたった三人だけ……
怪我人のあなたには申し訳ないけれど、幹部が全員帰ってくるまでは
また無理をしてもらうことがあるかもしれません」
ター坊「それはまったく構わないでアリマス。鬼帝殿にももう伝えたでアリマスし……誰だっ?!」
銃に手をかけター坊はミミィを庇うように身を乗り出す。
扉が開いて中に入ってきたのはポーだった。その後ろには慌てたマロンが立っている。
マロン「あっ、ポー……ご、ごめんなさい! 邪魔をしちゃいけないと思って待ってたんですけど……」
ポー「だって長いんだもん」
マロン「こらポー、外で待ってないとダメでしょ。すみません、今外に出ますので!」
ミミィ「いいえ、構いませんよ。どうぞこちらへ」
穏やかな笑みを浮かべミミィは椅子を取ろうとする。
マロン「お、恐れ多いです! 私は立ったままで結構ですからお座りくださいミミィ様!」
ミミィ「どうか、遠慮なさらないで」
マロン「い、いいえぇ〜!」
そんなことをしている間に、ポーは再び何かを感じ取っていた。
ポー「あ、また聞こえた」
ター坊「何がでアリマスか? 自分には何も……」
ポー「僕を呼んでるの。 助けて、助けてって」
マロン「ごめんなさい。この子大人達が忙しいから寂しいみたいで……」
ター坊は納得するが、ミミィはポーの言葉に興味を持った。
ミミィ「ポー、その言葉はどこから聞こえてくるの?」
ポー「あっちの方。ここからずーっと遠く」
曖昧に、だが確かに東の方向を指し示すポー。
マロン「ミミィ様?」
ミミィ「この子は嘘を言っていないわ。むしろ、この子に聞こえている声は
私に聞こえている声と同じものなのかもしれません」
その言葉にマロンはハッとしてミミィを見る。
マロン(そういえば聞いたことがある。ミミィ様には治癒能力以外にも不思議な聖なる力があるって)
ミミィ「ただ、私が聞こえた声はそんなにはっきりとは聞こえない。
すすり泣くような声と、時々諦めたような悲しい笑い声……」
マロン「それは一体……?」
しかしその問いに答える前にミミィは表情を険しくしてどこかを凝視した。
ミミィ「いけない。怪我人が二人来ます。それも一人はかなり重い」
マロン「え?」
その言葉に呼応するかのように、廊下がバタバタと騒がしくなる。
マロンは扉を開けて廊下の様子を覗いてみた。すると通りすがりの看護婦が声をかける。
看護婦「婦長! これから帰還する部隊に重傷患者が一名いるそうです。
今すぐステーションに戻って指示を下さい!」
マロン「わかったわ。それではミミィ様……ミミィ様?」
振り返った時、既にミミィはそこにいなかった。
燦理雄軍会議室にて。
鬼帝「ケロッピ、よくぞ無事に帰ってきたな」
会議室には鬼帝と負傷したケロッピがいた。ケロッピは左腕に包帯を巻いている。
また、まとっていた白衣には生々しく血が付着していた。
ケロッピ「いえ、不覚をとりました。申し訳ありません」
鬼帝「生きていただけで十分だ。怪我の程度はどうだ?」
ケロッピ「本来なら二、三日で治りますが、武器に毒が塗ってありました。
持ちあわせの解毒薬を使いましたが、完全に治るには少なくとも一週間はかかるでしょう」
鬼帝「そうか。いや、大事に至らなくて良かった」
その時ノックとともにガチャリとドアが開き、サムと罰丸が入ってきた。
サム「失礼致します」
鬼帝「大儀だったな。席についてくれ」
サムは敬礼をして席についたが、罰丸はとっとと座っている。
鬼帝「報告を聞こう。だがその前に、重傷者が出たようだな?」
サム「はい、シナモンが負傷しました……私を庇って。現在治療を受けていますが、かなり重いとのこと」
チラリとサムはケロッピの方を見たが、彼の表情はうかがい知れない。
鬼帝「そうか……。では、報告を始めてくれ」
ケロッピ「今回の首謀者はやはり魔王ではありませんでした。
現在泥須尼異の筆頭戦力である黄熊のプー。奴の独断のようです。
銃に似た特殊な装置で人々を洗脳していますが、目的はまだはっきりとはしません。
私見を述べることが許されるなら……この国を内部から掌握するつもりのようです」
鬼帝「ふむ。それで対処はどうする?」
ケロッピ「正直なところ、こういう物量作戦が一番対処が難しいです。
たとえこちらが呪いを解除する装置を作ったとしても、向こうがやめない限りは
いたちごっことなりますし。しかも、今回は敵の装置を奪取出来なかった」
サム「その点なら問題ない」
どこからか魔王の印の付いた黒い魔銃を取り出し、サムは机の上に置いた。
罰丸「あ! お前どこから?!」
サム「言っただろう? 収穫はあったって。私は魔法使いの男を調べた時、こいつに気付いた。
嫌な予感がしたからとっさに掴んで道具箱にしまったという訳さ」
道具箱の中は多次元仕様となっていて、見た目よりかなり多く物が入る。
ケロッピが体内に槍をしまう方法もこれの応用である。
鬼帝「よくやったサム。ケロッピ、この銃があれば」
ケロッピ「はい。呪いの解析が出来ます。対抗装置が完成すれば奴らの領地から出た人々を
ある程度は救うことが出来るでしょう。幸い出入り口は限られていますし」
鬼帝「うむ、これで当面は凌ぐしかない。幸い兵の絶対数なら我らの方が上だ」
サム「今後はどうしますか?」
ケロッピ「黄熊のプーは一刻も早く排除した方が良い。奴は危険です。
魔王とて己の魔力で人々を洗脳していますが、一度に大勢にかけるため効果は薄まり、
軽い中毒程度で済みます。しかし今回の呪いは一人一人に直接かけるため非常に強い。
放っておけば人格は破綻し、廃人になるでしょう。幸か不幸か今は魔王もいません」
鬼帝「……そうだな。奴はこの国の人々そのものを攻撃対象としている。
見過ごす訳にはいかぬ。まずは黄熊を泥須尼異から排除するとしよう」
サム「では、御出陣を……?」
鬼帝「いや、残念ながら私が直接出向けば魔王は気付くだろう。
そうなったらもはや総力戦となることは避けられぬ。
決戦の時……魔王が本気になるまでは、出来るだけ穏便に敵の勢力を削ぎたいのだ」
ケロッピ「彼らを呼び戻しますか」
合いの手のように素早く、ケロッピが提案した。誰かがゴクリと息を呑む。
鬼帝「そうだ。いよいよ彼らの力を借りる時が来た」
サム「彼らとは、まさか……全世界に散った我らの友のことですか?」
鬼帝「そうだ。先の戦争で傷ついた身を癒やしながら、
また来たる最終戦争に備えるべく修行の旅に出た仲間達だ。
──彼らを呼び戻す」