その夜、三条邸に戻り綺羅君は考えました。
お腹の中の御ややを元に戻すことができない以上、後戻りはできません。
このお腹が三の姫のように膨らんでくれば、綺羅君の妊娠は周知の事実となり左大臣家は終わりです。
弟君は人々の嘲笑の中都を追われるだろうし、地方の荘園で暮らせればまだしも、失脚したおもうさまに荘園や財産が残されるとも限りません。
出家したところで後ろ盾のない身では托鉢をして食べていけるかどうか…
けれど、綺羅君の妊娠が表沙汰にならなかったら?
何も事態は変わらないはずです。おもうさまも宮廷で一の人の地位を守れるだろうし、
綺羅姫も今や体力と気力を持っているから男に戻るチャンスさえあればうまくやれるでしょう。
そして、綺羅姫も三の姫も好きな人と一緒になれるかもしれない…
その時、頭に主上の顔が浮かび焦ってしまう綺羅君ですが、とにかく、
みんなが幸せになるためにも自分が上手くやらなければならないと強く思うのでした…。
翌日、内裏で殿上人は綺羅君の姿を数日ぶりに見止めました。
皆に囲まれた綺羅君は朗らかに話をしています。その様子はまるで結婚前に戻ったかのよう。
今日はあちこちに顔を出しているとのことでした。
宣耀殿に向かうと、小百合が、自分で考えたという献立表を渡してくれました。
綺羅君が二度とあのようにやつれたりしないように…やはり泣き出しそうな表情で言ってくれます。
綺羅君は、その献立表をありがたく受け取り、小百合に言いました。
おまえも、美人なんだから色んな殿上人に言い寄られるだろうけど、へんな奴にひっかかってはだめだ、
小百合に何があっても、もう自分は決闘するわけにはいかないのだから、と。
そう言って尚侍の待つ部屋へ姿を消す綺羅君に、小百合は何か違和感を覚えるのでした。
綺羅姫には、お前も気を強く持っていきなければ、と懇々と説きます。
突然のことにその理由がわからず綺羅姫は戸惑うのでしたが、再び元気になった綺羅君に安心するような、しないような―――。
綺羅君は、麗景殿にも顔を出していました。
麗景殿の女御さまもその女房達も、久々の綺羅君の訪問に喜び、いつになく華やかで明るい時間を過ごしたのです。
けれど女御さまは、綺羅君が時折見せる寂しそうな様子が気がかりでもありました。
夜になり、綺羅君は紫宸殿の桜の前におりました。
葉を散らした枝の下で笛を吹き、ふと、去年の管弦の宴のことを思い出しています。
この笛を吹いて、主上から桜の枝を賜ったことを。
思えば一番楽しかった頃です。主上の覚えもめでたく、満開の桜と同じように華やいで…。
今ではこの桜と同じ有様だと自嘲します。
今夜は綺麗な月夜です。つい、かの源氏の光る君と朧月夜の例しが浮かんできます。
朧月夜にしくものぞなき…と呟いたその時、背後から声を掛けられたのですた。
振り返ると、桜の陰から主上が現れました。
思わぬ人に綺羅君は、つい殿上人に戻り、主上一人の夜歩きは危ないと奏上します。
けれど、主上は、一人歩きは得意なのだと続けます。
即位してからも、事が知れれば首がとぶと怯える近侍の者をせかして内裏を抜け出し、北嵯峨にまで行ったことがある、と言うのです。
綺羅君はハッとしました。
主上は、今でもあの時のことを覚えてらっしゃるのか…3年も前の、北嵯峨でのことを…。
今さらながら、自分は主上のことが好きだったのだと気付きます。ずっとずっと好きだったのだと。
しかしどうせならお腹の御ややが主上の子なら良かった、
身を隠すにしても好きな人の御ややを身籠ってるほうがまだしもロマンティックなのに、と思います。
よりによって綺羅君を男だと思っているすみれの御ややです。情けない話です。
渡された紫水晶の数珠のことも思い出します。せめてもの主上とのつながりに持っていこう…そう考えていたときでした。
主上は、その北嵯峨で、美しい姫と出会ったと綺羅君に話します。
その姫がもう誰であるかは知っているが、あの姫は綺羅君ではないかと思えてしょうがない、と…。
確かに、あの時会ったのは綺羅君なのです。弟の綺羅姫ではなく、あの時主上と会ったのは…。
しかし、綺羅君はそれを否定する以外ありませんでした。
それは自分ではない、自分は男だから、姫にもなれない…押し出すように話しました。
けれど時々、姫として育ちたかったと思う、とも言いました。
今となってはそれも夢…
その時一陣の風が吹き、主上は顔を覆いました。
目を開けるとそこにはもう綺羅君の姿はなく…
そして綺羅君の消息はその夜から跡絶えたのでありました…。
776 :
粗筋中将:2007/10/04(木) 22:35:46 ID:???
次回、土曜朝更新予定
せ、切ない…
ドタバタ勘違い合戦のはずだったのに・・・
なんでこんな感傷的なヒキに
頼りにならん登場人物の中で、弟は役に立つなあ
もう少しでドラえもんになれそうな勢いだ
出来た御ややを元に戻す方法www
いつお腹が膨らむかわからないとかwww
綺羅君にとっちゃ一大事なんだろーけど、かわいすぐるwwwww
それにしても、なんで御やや出来たのは決定事項なんだ。
姉弟そろって奇しの恋キターーー!!
物凄い勘違いスパイラルキターーーーーー!!!
家出キタキターーー!!!
分母増えたーーーー!!!!
>780
>>分母増えたーーーー!!!!
そこかいwww
最後の桜のシーン、いいねぇ。切なすぎる…
当の御ややの父親は何をしているんだ?
>>783 父親てw
三の姫懐妊のときと同様、仮病引きこもりに一票。
個人的には宰相中将と綺羅にくっついてほしかったが、
事態がこうなったらもう無理だなorz
てか綺羅が「主上が好き」と明言しちゃったわけだし。
覚悟の失踪なのかな<消息不明
でも髪伸びるのに2〜3年はかかりそうだしな
>>785 なんか周りに顔出したってのが、最後の挨拶って感じだよね>失踪
でもこれで誘拐だったらそれはそれで新展開w
綺羅、失踪準備であいさつまわり
↓ 様子がおかしいと気付いて綺羅を備考する男有り
↓
置き手紙を残し屋敷から失踪のためにこっそり出てきたところを拉致
↓
拉致の際に女とバレ、拉致犯の別邸に連れて行かれ、正しい御ややのつくり方実践講座。
↓
そのまま愛人として別邸で暮らす(パパンや弟等は失踪と思い込んだまま)
ということで、すみれ男に拉致されて愛人コースを考えてみた。
バラすより倒錯愛を面白がりそうだし
少女漫画でそれはない
綺羅君失踪のニュースはあっという間に内裏を席巻いたしました。
何しろ宮中のアイドルが突如消えてしまったのですから、誘拐だ神隠しだとウワサがウワサを呼び大混乱。
しかし綺羅君の文机の上には、愛用していた名笛がふたつに折られ紙に包まれていたほか、身の回りのものがきちんと整理されていたことから、
覚悟の失踪に違いないという見解に落ち着いたのです。
さて、落ち着かないのはこの方々。
左大臣どのは三の姫密通の心配に綺羅君失踪のダブルパンチをくらって寝込み、
右大臣どのは、当代一と思っていた婿どのに逃げられたも同然のお立場上お倒れになり、
密かに綺羅君を慕っていた女房方も、慎ましやかにみなぶっ倒れになったのでした。
そして、世間一般の人々はあれほど未来の明るい方が何の愁いがあって姿を隠したのか、三の姫も心細いだろうと口々に言います。
当の三の姫は、自分のせいでいなくなってしまったのだと自責の念にかられているのでした。
一方主上は、左右の大臣家から捜索願が出されてなお、未だ綺羅君の行方がわからぬことに、苛立ちを感じ初めておりました。
縁の寺や山荘、都のすみずみまで心当たりは捜したと報告がされているとはいえ、手がかりの一つもつかめていないのです。
帝の身では、一貴族の探索にかまけるわけにもいかず、ただ無事でいてくれと願うことしかできませんでした。
そして、弟の綺羅姫は…
失踪前夜に綺羅君が宣耀殿にやってきた時、様子がおかしかったことを思い出します。
それに気付いていながら、どうして何もしてやれなかったのだろう、と後悔の念にかられていました。
十四の年に出仕して以来、綺羅君は一度も人を頼ったことはありません。
女の姿は嫌だの出仕したくないだの、不満ばかりぶつけていた自分とは違い、
女の身ではいろいろとつらい事もあっただろうに、総て一人で処理し、誰にも泣き言さえ言わず…
その綺羅君がわざわざ綺羅姫を頼って相談に来たのに、語気荒く綺羅君を叱ってしまったのです。
何もあんな言い方をする必要はなかった、と綺羅姫は自分を責めています。
御ややのでき方すら知らない綺羅君が、単純にもとに戻す方法があると思っても不思議ではない、今ではそう思えるのに、
どうしてあの時もっと親身になれなかったのか…。
自分さえしっかりしていれば、とつい呟いたところを、小百合に聞かれます。
そして小百合は、乳姉妹の自分を遠ざけてまで相談に来た綺羅君の、たった一人の姉君の味方にならなかった綺羅姫を詰ります。
病気の時は女東宮を大切にするあまり見舞いにも帰らず、綺羅君失踪の今でさえ、捜しに行こうとしない綺羅姫を。
今こそ弟君として、草の根を分けても捜し出そうとは思わないのか、と小百合は最後には泣き出してしまいました。
綺羅姫とて、姉君を心配していないわけではないのです。男に戻り、捜しに行くことも考えました。
けれど、あの女東宮が里下がりを許すわけはないでしょうし、無理にでも捜しに行くならば、尚侍まで失踪、ということになります。
そうなれば、おもうさまの心臓も今度こそ壊れてしまうでしょう。
それでも運良く綺羅君を見つけられたとしても、綺羅君が二人居ることになり、
入れ替わるにしても綺羅君の髪がある程度伸びるまで隠れているわけにもいきません。
綺羅姫は考えてはいるのですが、どうもいい方法などないような気がしてしまいます。
そう弱音を吐くと小百合に叱られてしまうのですが。
綺羅姫は、女東宮のお召しにより梨壺に上がり碁をうっていました。
しかし、考えるのは綺羅君を探し出す方法、どうしても上の空になってしまいます。
そんな綺羅姫を相手にしていては女東宮も面白いわけはなく、毎日毎日周りの暗く沈みきった雰囲気にも嫌気もさし、
つい几帳を倒しひと暴れしてしまうというものです。
けれど、尚侍は咎めるでもなく、ただ暗い表情で謝るしかありません。
女東宮も、御所中が暗いのは、綺羅君がいなくなったからだとわかっています。
兄上であらせられる主上も、尚侍以上に心配し、胸を痛めているのですから。
それに、今日の主上はずい分とお怒りのようでした。梨壺にまでいらして、とても怖いお顔をしてらしたというのです。
三の姫が許せない、と仰ったとか…。
どういうことかわからず、綺羅姫は訊ねます。
やはり知らなかったのか、と女東宮は綺羅姫に教えることが嬉しそうです。
そして、三の姫のお腹の子は綺羅君の子供ではないらしい、と告げました。
昨夜、盗賊取り締りのために京中に出ていた検非違使が文を拾ったのが発端でした。
中を見ると、綺羅中将が云々と書いているので、何か手掛かりになるのではと思い、内裏に届けたのでした。
ところがなんと、それは三の姫が男に宛てた文で、お腹の子が綺羅君の子ではないことが書かれていたのです。
相手の名は書かれていなかったのでわからないのですが、都中が今この噂でもちきりです。
主上は、綺羅君が妻に裏切られたので失踪したのだろうと仰っていたのだと…。
三の姫の密通が知られてしまいました。
相手の男が誰かわからない以上、三の姫は噂の矢面に立たされることになります。
主上は、三の姫の浮気が原因で綺羅君が失踪したと思っていますが、そうではありません。
綺羅君は三の姫のために、相手の男を捜そうとしていたのですから。
綺羅姫は、自分達のような姉弟に関わったばっかりに失踪の原因まで負わされる三の姫こそ被害者だと同情を禁じ得ません。
そう弟君が思案している頃、ここ右大臣家では、右大臣さまが三の姫に激昂しておりました。
当代一と言われた婿どのの何が不満だったのだ、恥知らずだ、世間で右大臣さまが面目を無くしたのはお前のふしだらのせいだと泣いています。
けれど、どれだけ強く言っても三の姫は頑として相手の名前を口にしません。
相手の名前がわかったらその男を成敗し、お前を尼にすると右大臣さまは頭に血を上らせるのでした。
さて、綺羅君失踪と聞いて真っ先にぶっ倒れたのは宰相中将その人でありました。
何しろ三の姫と通じ子まで儲け、綺羅君にまであのようにあらぬ振るまいをしかけたのでうから、
綺羅君の失踪は自分のせいでだ、あの事で世をいといどこぞで出家でもしていたら、とすっかり落ち込んでおりました。
ましてやそれに輪をかけての三の姫の騒ぎに、生きた心地もせぬ宰相中将の毎日なのでありました。
今では都中が三の姫の噂に満ちています。姫の口をついて、自分の名が知れ渡ってしまうかと思うと、思わず背筋が凍るのでした。
確かに
悪いのは自分であることはわかっています。三の姫とのこともこれ以上隠しだてする気はありません。
けれど、綺羅君が失踪している以上、どんな顔で名のりをあげろというのか…思い悩み、眠れない夜の続く宰相中将でした。
793 :
粗筋中将5/8:2007/10/06(土) 09:12:16 ID:lnfHR5Zg
その夜、外は嵐でした。風が強く、雨が激しく、雷が鳴っています。
相変わらず眠れない宰相中将は、自室で写経をして過ごしていたのですが、その時かすかに外に人の気配がしました。
気のせいかとも思われたのですが、声がしたので、まさかと思い戸を開けます。
すると、袿を被っただけで風雨にさらされた三の姫が立っているではありませんか。
宰相中将が駆け寄ると、腕の中に倒れるように抱きつき、声を上げて泣きました。
右大臣さまが、相手の名を言わぬならと、今すぐにでも縁の寺で尼にさせると言うので、逃げ出して来たのです。
お付きの女房の美濃は、文使いをしていたために右大臣さまに遠ざけられました。
けれど美濃にも、こうなっても助けに来てくれない中将は当てにならない、所詮名うての遊び人だからと言い、三の姫は孤立無援なのでした。
この冬の嵐の中、たったひとりで三の姫は宰相中将のもとへ走ってきたのです。
何もしてやれず、ここまで追いつめてしまった、けれど自分を信じ、自分だけを頼ってやって来た姫を、中将はしっかり抱き止めます。
邸の中に三の姫を入れると、姫は安堵と雨に打たれた熱で倒れてしまいました。
宰相中将は、状況を飲み込めていない女房を叱り、薬師を呼ぶよう言いつけます。
そして、真っ直ぐ前を見て言ったのです。「俺の妻だ…!」と―――。
同じ夜、綺羅姫の住まう後宮では、何度も落ちる雷に女房達は怖がり叫び、右往左往しておりました。
恐怖に怯える女房達を見て、綺羅姫はふとある人が心配になります。
そして、青ざめる小百合に、梨壺に向かう準備をさせるのでした。
梨壺でも、女房達は嵐の夜に怯えていました。訊ねると女東宮は寝所にいるようです。
行ってみると、寝床はからっぽ。
部屋の隅で涙目で震えている女東宮がいたのでした。
まさかあのお転婆がこわがっているとも思えませんでしたが、日ごろの元気さはどこへやら、
何ともいい格好だとつい意地悪を言ってしまう綺羅姫です。
その時、いっとう大きな雷の音がしました。
女東宮は、思わず尚侍に抱きつきます。
腕の中で震える女東宮をしっかりと抱き締めていると、嵐に怖がりもせず駆けつけ、好きな姫を抱き締めている男の実感が湧きあがります。
すると、つい力が入っていたのでしょうか、女東宮が苦しがりました。
それはまるで女の人のような力ではないようだ、と言われてしまいます。
女東宮にとっては何気ない一言ですが、綺羅姫にとっては大事なことです。正真正銘の男なのですから。
そしてつい女東宮に、もし自分が男だったらどうするか、と聞いてしまいました。
すると、もし綺羅姫が男だったら、北の方になってもいいと色よい返事がもらえました。
そうなれば東宮もやめられるし、尚侍は嫌いではないと女東宮は無邪気に綺羅姫に抱きつきます。
綺羅姫は、告白するなら今だ、と心を決めました。
このまま女で通すなどできっこないことですし、進退極まって綺羅姫まで失踪するハメにならないとも限りません。
女東宮さえ味方になってくれれば、小百合の言う通り男に戻って綺羅君を捜すことだって出来ます。
それに、もし姿を消すことになっても、初恋の姫にくらいは本当のことを知っていて欲しい…
そう思い、綺羅姫はとうとう打ち明けたのです。
綺羅姫が本当は男であることを…。
女東宮は、目を丸くして驚きました。
後宮一の美人で、しとやかで、女らしい綺羅姫が男だと言われても、急には信じられずパニックになる気持ちもわかります。
オカマさんだったのかと言われたりもしましたが、これには事情があるのだと説明します。
けれど知ったからには、綺羅姫の北の方にならなければいけないのだ、と条件を出すのも忘れずに。
すると女東宮は顔を赤らめ、大切にしてくれるならなってあげる、と承諾します。
綺羅姫の内心は有頂天です。
決まれば女東宮からの質問攻めでした。
いつから女なのか、左大臣や綺羅君や小百合もグルなのか、どうしてオカマのふりなのか、綺羅姫はビョーキなのか、などなど。
嵐の翌朝は、一面の雪景色でした。
内裏に積もる雪を見、主上は綺羅君のことを思い出します。どこであの嵐を凌いだのでしょう。気がかりでした。
綺羅君と別れた最後の夜、紫宸殿の桜の木、月明かりの下、風の中…どこまでもはかな気だった綺羅君―――
今では遠い夢のような気さえしてきます。
あの時綺羅君は、『時々姫として育ちたかったと思う』と言っていました。
その言葉はきっと三の姫に裏切られた男としての立場に嫌気がさして出たものでしょう。
主上は、自分の心を見透かしていたのではないかと思っていたことを思い出し、自嘲気味に笑います。
その時、殿上の間が騒がしくなりました。
女房に聞くと、どうやら綺羅中将が…宰相中将が…などと噂が立っているようで、
まさか綺羅君の手掛かりがつかめたのではないか、と、急遽兵部卿宮を召し、その話を聞きだそうとしました。
主上の御前に召された兵部卿宮も、どうやら噂は耳に入れたようです。
初めは勿体ぶっていましたが、その噂の内容を主上に告げました。三の姫の相手の男がわかったというのです。
産み月間近の身で右大臣家を抜け出し、あの嵐の中をたったひとり相手の男のもとに走ったことまで伝わっていました。
その男の相手は、意外といえば意外、あり得るといえばこれほどあり得る人はいない、宰相中将―――。
その名を聞き、主上は怒りに震えました。宰相中将は、綺羅君の一番の親友だったはずなのですから。
確かに、華やかな分いくらか軽薄なところもありましたが、綺羅君と並ぶ宮廷での人気は、あの人柄の良さにもよるものでした。
それが、親友の妻を寝盗り、その親友の綺羅君を失踪に追いやった…。
半年以上前から山籠りだの病だの出仕も滞りがちだったことも今になれば腑に落ちる、と兵部卿宮は話を続けます。
それにしても解せないのはあの一件、綺羅君にあのような振るまいをしかけたのは、事の露見を恐れての口封じだったのかと
憤っている兵部卿宮の話はもう主上の耳に届いていません。
主上は立ち上がると、側に居る殿上人に言いつけました。
宰相中将の殿上の札を削るように、と。
綺羅君失踪の原因が宰相中将にあると思ってしまった主上の怒りは計り難く、宰相中将は殿上の差し止めを言い渡されてしまったのです。
殿上を許されてこそ一級の貴族として認めれられる社会です。
自業自得とはいえ宰相中将には、最も不名誉で辛い裁断が下ったのでありました。
797 :
粗筋中将:2007/10/06(土) 09:17:22 ID:???
次回月曜夜更新
きたああああああああああああああ再開北アああああああああああああ
http://www.vipper.org/vip634638.jpg @@@@@ハンタ大再開祭りは今夜9時になります!@@@@@
@@@@@その際は週刊少年漫画板に集合してください!!@@@@@
@@@@@その時やることは・・・VIPPER諸君ならもう分かっていますね?@@@@@
@@@@@●持ちの方大歓迎!!!@@@@@
@@@@@田代祭りを超えるぞ!!!!!!@@@@@
オカマカミングアウトキターーー!
何か嵐の夜に、綺羅姫も宰相中将も男を上げた感じw
すみれの人は普通に重用されてんのね
宰相中将がやっと覚悟決まったみたいでヨカッタ
すみれの人て皇族だし、主上の従兄とか叔父さんとかなのかね
すみれの人とかいうと、楽屋裏にすみれ届ける人とかみたいだな、おいw
紫のすみれの人
除籍って、プライベートなスキャンダルでそんな重い罰になるもんなのか…
プライベートとは言ってもみんな公人だからね。
今で言うと
厚生大臣が超仲良しの外務大臣の嫁を寝取って孕ませて
しらばっくれてたようなもんだろ?
立派に処分対象じゃね?
都のはずれにある縁の邸で謹慎している宰相中将は、さすがに覚悟はしていたものの除籍の報せはこたえました。
けれど、自分が綺羅君にあのような振る舞いをしなければ、綺羅君とて失踪はしなかっただろう、と思うと、改めて責任を感じます。
三の姫は同じ邸で熱の養生をしていました。
やはり殿上差し止めになった中将を心配していますが、三の姫とて右大臣さまに勘当された身。
宰相中将は、三の姫を労わり、これ以上不幸にしてはいけない、三の姫を幸せにすることが綺羅君への精いっぱいの償いになると思っていました。
さて、この事件で肩透かしを食ったのは都の人々でありました。
何しろ綺羅中将が熱愛していた右大臣家の箱入り娘三の姫と、今をときめく宮中の華の公達宰相中将の密通事件であります。
ましてやそれが原因で主上のお気に入り関白左大臣家の綺羅中将が失踪中ともなれば、
ふたりが悪意の噂の渦中に引きずり出されることは必至だったのですが―――
宰相中将が一言も弁解しなかったことや、産み月間近の身体で嵐の中を走った三の姫たちの思わぬ潔い態度に
非難の追い討ちをかけることもできず、総じて同情的、もしくは冷静な判断が下されたのでした。
それから数日後、三の姫は無事姫君を出産しました。
右大臣さまは孫かわいさに三の姫の勘当を解き、主上は右大臣さま宛てに産養のお祝いをお贈りになりました。
それはつまり宰相中将の除籍も解かれたと言っていいわけです。
宰相中将の還殿上の日、主上は中将を御前に召しました。
参上した宰相中将を見、主上は驚きます。以前の華やかさや多少の軽薄さ、生意気さなどは見られず、すっかり面変わりしていたのです。
宰相中将の苦悩が見受けられる主上でした。
主上に声を掛けられ、宰相中将は本来ならば出家してしかるべきなのだが、三の姫や子のことを思うとそれも出来ず、
今はただ三の姫を一人の人として慈しみ尽くすことが、綺羅君への唯一の詫びになると神妙に応えました。
宰相中将の籍も戻り、これで全ては元通りです。いなくなった綺羅君を除いては―――。
主上は、梨壺へと突然向かいました。
梨壺には、少なくとも尚侍がいます。綺羅君そっくりと言われている尚侍が…。
主上はここのところ毎日のように梨壺に来ていました。
御機嫌伺いとは、いったい誰の御機嫌が気になるのやら、とさすがの女東宮も嫌味な口調です。
主上が尚侍目当てで梨壺にいらっしゃることは、宮中でも噂の的。
綺羅姫の後宮での生活も、主上の再三のお越しで危うくなっているのです。
以前もよく梨壺へいらっしゃったとはいえ、どちらかというと綺羅中将とばかりお話をされていたのですが、
今のお目当ては絶対に尚侍だ、と女東宮は綺羅姫に当たります。
その日は特に女東宮の御機嫌は悪く、梨壺に主上がお越しになってすぐ、綺羅姫と主上を二人きりにしました。
主上は、女東宮の機嫌を損ねてしまったことに苦笑し、先ほど宰相中将が還昇したこと、その席で改めて綺羅君に謝罪していたことを伝えます。
そして主上は、ふと感傷的になったのか、尚侍を出仕させた理由について語りだしました。
あの頃綺羅君は三の姫に夢中で出仕の日が減り、その仲を妬んでいたこと、
綺羅君の大切にしている妹姫を出仕させればそれが気に掛かり三の姫にばかりかまけていられなくなるだろう、
以前のように宮中に…主上の下に綺羅君をとどめることが出来ると考えたからだと言うことを。
綺羅君は、そんな主上の気持ちを知ってか知らずか、失踪の前夜、姫として育ちたかったと言い置いていったことも話しました。
突然の話に、黙って聞いていた綺羅姫は混乱しています。
綺羅君は、主上が好きだったのか?主上も綺羅姫を少なからず思っていて―――
けれど、主上の前では綺羅君は男だったわけで、そうすると主上は男の綺羅君を?
綺羅姫は顔が青ざめてしまいます。
何も言わない綺羅姫に、主上は本当に恥ずかしがりでいらっしゃる、と言いますが、
綺羅姫としては、迂闊に話すと最近低くなってきた声を悟られてしまいそうで、それを恐れているところもあるのでした。
なお黙っている綺羅姫に、主上は語りかけます。あるところで美しい姫と会ったことを。
左大臣家の子息がその姫に似ているというので元服出仕を急がせたものの、綺羅君があまりにもその北嵯峨の姫に似ていて、
すっかり眩惑してしまったと。
あの時の姫が綺羅君ではないかと思う気持ちが強かったのか、綺羅君を女性のように見ていたふしがある…。
そこまで聞いて綺羅姫は、主上はその姫に似ていたから姉の綺羅君に好意を持っていたのかと思いますが、
当の主上はその後に、綺羅君を通して綺羅尚侍を見ていたのかもしれない、と告げました。
これには綺羅姫も腰が抜けてしまいます。主上が好きなのは北嵯峨の姫…綺羅君で、綺羅姫は…
すると、突然沈黙が訪れました。
不思議に思った綺羅姫が几帳の陰から主上を伺うと―――主上がじっとこちらを見つめています。
綺羅姫は貞操の危機を感じました。押し倒されたら体格からいっても逃げられるはずがありません。
スッと立ち上がった主上に綺羅姫は身構えましたが、どうやら今日はこれで梨壺から帰るようです。
主上が帰られるとすぐさま女東宮が飛び込んできました。
しんみりと話をしていたように見えたのが気に入らないようです。綺羅姫は結婚したら尻に敷かれることが容易に想像できました。
綺羅姫は、女東宮にさきほどの主上の話を聞かせました。
すると、どうやら3年前に北嵯峨で理想の乙女に出会った話を女東宮は知っているようです。
御忍びで嵯峨の女院さまに会いに行かれた時、この世の人とも思えない清らかな姫にお会いになったことを聞いたそうです。
3年前といえばまだ元服前で、あの姉さまがどうやったら清らかな理想の乙女になるのだと不思議ですが、
確かに北嵯峨には左大臣家の別荘があり、その乙女が綺羅姫でない以上、綺羅君のことを指しているはずです。
なぜ主上が勘違いをなさっているのかはわからないものの、
とにかく主上はずっと前から姉の綺羅君が好きで、綺羅君も、主上に残した言葉からして主上を好きだったことが推測されます。
じゃあ主上は、綺羅君が女だということをご存じなのでしょうか?そこが今ひとつわからないのですが、
綺羅君が主上を好きなことが事実なら、それが綺羅君の失踪の原因に繋がるのでしょうか。
綺羅君失踪の意外とも思えるロマンチックな原因に思わず笑ってしまう弟君でありました。
―――が、しかし、主上の綺羅君への思いは、そのまま綺羅姫へと向けられたのであります。
尚侍を出仕させたときは、尚侍が目的ではなく綺羅君さえ以前のように側にいてくれればと思っただけで、
その綺羅君はもう帰って来ないのかもしれないのです。
その寂しさにどうすれば耐えられるというのでしょう。
どうしてもう一人の綺羅を求めてはいめないわけがあるのでしょう。尚侍こそがあの北嵯峨の乙女だというのに。
綺羅君と三の姫の結婚の話が出た時、本心を明かして結婚をやめさせるべきだったことも後悔しています。
それを躊躇したばかりに今回のような悲劇になってしまったのですから。
(今度こそ、わたしは意志を通そう)主上は強く思います。
身分・家柄を考えても、関白左大臣の姫尚侍ならば、摂関家の姫として后にも立てます。
あれほど案じていた後宮仕えさえうまくやっているのです。人見知りだろうと恥ずかしがりだろうともう構っていられません。
(わたしは何を望んでも許される身なのだ…!)
尚侍女御入内は、その日の内に議題に上げられました。
突然のことに会議の場はざわつきます。
なんとか貴族たちが急なことで可決できないと後日に延ばそうとしますが、主上の有無を言わさぬ表情にそれ以上口を出せなくなりました。
左大臣さまはというと、あまりに突然で無茶な話に、脂汗を流しながら思いとどまってもらおうと進言しますが、
「ただちに入内に良き期日を選ぶように」の一言で切り捨てられました。
入内などとんでもないことです。尚侍が男だとバレてしまいます。
周りの貴族達が、寝耳に水のことながらめでたい話だと左大臣さまを祝福しますが、左大臣さまは、泡をふいてお倒れになったのでした―――。
宣耀殿で綺羅姫が小百合と香合わせをしているところに、主上がこちらに向かっていることが伝えられました。
女東宮のおられる梨壺にはよくいらっしゃっていたもものの、宣耀殿に直接来るなど初めてのことです。
小百合たち女房が総出で主上のお召しをさえぎろうとするのですが、それも甲斐なく綺羅姫の下へと乱暴に入って来られました。
綺羅姫は、几帳を隔て背中を向けて顔を覆っていたのですが、その背中に主上が言いました。
「あなたの、女御入内が決定しました」
綺羅姫は耳を疑いました。
けれど主上は話を止めません。
そして最後に、決して早まった愚かなことをしないように願います。
もしそれを約束してくれないのなら、入内まで待てず、今すぐ几帳を取り除くように命令する、と。
「わたしはそれを許される身だから」
この一言に、綺羅姫はそんな目に遭っては堪らないと必死になって、約束すると答えます。
それを聞いた主上はホッとし、入内する日を楽しみにしていると穏やかに言い残し帰りました。
主上の姿が見えなくなって、綺羅姫に改めて震えがきました。
失神するのをなんとか持ち堪えた綺羅姫のもとに、女東宮と小百合が一体何事だったのかと飛び込んで来ます。
そして、綺羅姫の女御入内が決まったことを伝えると、二人とも真っ青になりました。
何がなんだかわからないまま「約束」をしてしまいましたが、
一息ついて落ち着いて考えると、早まるも何も男の綺羅姫が女御入内という何やら悪夢を見ているような弟君ですが、
すでに尚侍が女御として入内する事はゆるぎない決定事項であります。
このまま男同士の結婚と相成るわけですが…
さても進退の極まった綺羅尚侍でありました。
813 :
相関図中将:2007/10/09(火) 11:43:01 ID:???
┌────┐
藤左 右
原大 大
夢 顕臣 政 臣 _____
乃 〒 通 〒 子 ├―┬─┐ | |
綺 綺 三 二 弘 主 麗 女 兵
羅 羅 の の 徽= = 景 東 部
尚 中 姫 姫 殿 上 殿 宮 卿
侍 将 女 女 ・ 宮
(男) (女) ‖ ‖ 御 ‖ 御 久 ⌒
宰 権 梅 宮 主
相 中 壺 上
中 将 女 の
将 御 は
と
こ
814 :
粗筋中将:2007/10/09(火) 11:44:04 ID:???
次回水曜夜更新予定
綺羅姫貞操のピンチw
「あの姉さまが叶わぬ恋に絶望して失踪」でプッと笑う弟くんの顔が面白すぐるww
主 上 は す み れ を 覚 え た
>わたしは何を望んでも許される身なのだ…!
あー、やっかいな人だなー
というか、主上必死だなw
主上とうとうやらかしてしまったなw
もはやどっちでもいいのかよww
>わたしは何を望んでも許される身
帝ktkr
お主上www
暴走してるw
綺羅君が失跡してどれくらい経ってるのかな
>>821 どれくらいだろうね?
綺羅君失踪前は、秋っぽかったね。いや、あの葉の散り様は冬か…
綺羅姫男カミングアウトの嵐の夜は翌日に雪になったから冬?
そっから先がわからんな…