にゃおーん
主な登場人物紹介
瑠璃(るり)…内大臣家の姫。貴族の姫と思えぬ行動から、「物の怪憑き」などと言われている。
高彬(たかあきら)…瑠璃の筒井筒の仲で、ひとつ年下の婚約者。右大臣家の4男。右近少将。
融(とおる)…瑠璃の弟で、高彬の親友。
内大臣(うちのおとど)…瑠璃と融の父親。
内大臣家の北の方…内大臣の後妻。瑠璃と融の継母。
小萩(こはぎ)…瑠璃付きの女房。
二の姫(にのひめ)…兵部卿宮の姫。姫の鑑と言われる才媛。高彬の祖母が、高彬と結婚させようとしていた。
鷹男(たかお)…今上帝。東宮時代にある陰謀計画阻止のため雑色に身をやつし鷹男と名乗っていた。
藤宮(ふじのみや)…二条堀川邸に住む二十歳の未亡人。鷹男の叔母。
大皇の宮(たいおうのみや)…鷹男の母。
光徳院(こうとくいん)…先帝にして鷹男の父。病気のため鷹男に譲位した。
吉野君(よしののきみ)…瑠璃が幼少期吉野で出会った初恋の君。今は僧籍に入り唯恵(ゆいけい)と名乗っている。鷹男の異母弟。
4 :
粗筋中将1/6:2007/07/24(火) 22:05:58 ID:1Zk/BMC8
「鬼と…して…?」
吉野君は、瑠璃に言葉を繰り返した。瑠璃は、こんなところで吉野君に死なれては、吉野君に殺された人達も気が抜ける、
だから、吉野君は生きていなくてはならないのだ、と訴えた。
「生きて…死んだ人達の怨霊を背負って、鬼として生きることが、吉野君にできる唯一の償いなんだから…!」
瑠璃は泣いた。
「それに、鷹男の帝だって、まだあたしのことあきらめてないかもしれないわ。もしあたしが本当に入内することになったらどうするの?」
そんなことになったら、死んでも死にきれないだろう、鬼となり生き延びて、鷹男の帝の邪魔をしてやればいいと、瑠璃は吉野君をあおりたてる。
吉野君も、そうかもしれない、と苦笑する。
その吉野君の表情を見て瑠璃は立ち上がった。
「そうと決まればこんなとこでぐずぐずしてられないわ。早くその衣を脱いで!」
「しかし瑠璃姫…」
ふわっ…
瑠璃は、着ていた袿で吉野君を頭から覆った。袿を被った吉野君に瑠璃は言う。
「ふふっ。五節の舞姫みたい」
「では、瑠璃姫は白拍子ですね」
「そうよ。瑠璃は墨染めの白拍子なの。そして、
吉野君と舞を舞うの…!」
(瑠璃姫…!!)
5 :
粗筋中将2/6:2007/07/24(火) 22:07:02 ID:???
ふたりは固く抱き合った。
春咲く桜 夏の藤 秋の野萩 冬の雪―――
吉野の四季は夢のように通り過ぎて
あたし達は輝くように幸せだった…
だから 平気
生きていけるわ
あの頃を思い出せば
これからもきっと生きていける…!!
しばらくの抱擁のあと、瑠璃はゆっくりと口を開いた。
ここから40丈ほど北に院の車があるから、それに乗って宇治にある院の別邸に逃げろ、と。
そこに馬が二頭放されているはずだ。
一緒に逃げるはずだったが、門の外には役人が大勢いて、瑠璃は反対の東に逃げて役人の目を引く、という瑠璃。
「どこまでも、わたしたちは離れ離れになる運命なのですね」
呟く吉野君に瑠璃は辛く思うが、大丈夫、必ず会える、と励ました。生きていれば必ず会える…
瑠璃の気持ちに動かされ、吉野君の表情も緩む。
「そうだ!宇治から吉野に逃げて!」瑠璃は言った。
「あたしもほとぼりがさめたら吉野へ行くから。きっと行くからそこで会おう。ね?思い出の地で感動のご対面よ。素敵でしょ?」
吉野君は遠い吉野へ気持ちを馳せた。
「もう一度…吉野が見られるものなら…」
6 :
粗筋中将3/6:2007/07/24(火) 22:08:06 ID:???
ふたりは寺から脱出するため外へ出た。瑠璃は吉野君の墨染めの衣を、吉野君は瑠璃の袿を身にまとい…。
瑠璃は、厩舎に馬が繋がれているのを見て、それに飛び乗った。
「吉野君!今度会う時は吉野よ!」
瑠璃は馬上から振り返り、吉野君に向かって言う。
「その時はあたし、最高の十二単で会うわ。こんな破れ坊主みたいじゃなく、とびっきりのおしゃれをして吉野君に会うわ!」
笑顔の瑠璃を、吉野君は見ていた。そして、ゆっくり口を開く。
「瑠璃姫は、そのままでも充分可愛いですよ。あなたはいつもただ…そこにいるだけで可愛いのです…」
吉野君の言葉に瑠璃はふふっと笑う。
「やっぱり鷹男と吉野君って似てるんだわ。ふたりとも口がうまくって…」
その時、ガラガラと寺が焼け落ちる音が聞こえた。火はずい分回っている。
瑠璃は、全焼までには時間がないことを知り、吉野君にもう一度言った。
「いい?吉野君。必ず吉野で会うの!約束よっ!」
吉野君は黙っている。
「約束してっ!」
焦る瑠璃を、吉野君はじっと見つめただ静かに言った。
「来てくださって、ありがとう瑠璃姫。あなたはいつも思ったことを必ずやり通す人だった。わたしも
逃げてみます。逃げられるところまで」
「吉野君…」
「瑠璃姫 あなたもご無事で」
ハイッと、吉野君は瑠璃の乗る馬の尻を叩いた。馬は走り出す。吉野君は、走る馬に乗る瑠璃をじっと見ている。
「ばか――っ!見送ってる場合じゃないでしょっ。逃げるのよっ早くっ!」
その先は、煙を大きく吸い込んでしまい続かない。
吉野君はまだ瑠璃を見ている。その姿が、煙に巻かれ、薄れていく。遠くなる。
(吉野君…!!)
7 :
粗筋中将4/6:2007/07/24(火) 22:09:17 ID:???
瑠璃の乗る馬は、寺から門を破り、役人の前に飛び出した。
役人たちは、突然のことにわぁっと驚く。
「馬だっ」「人が乗ってるぞ!坊主だ!」
役人たちがそう叫ぶ声が瑠璃に聞こえる。瑠璃はただ馬を走らせる。
「奸僧唯恵が逃げた!追捕せよっ 東だ!」
瑠璃ははっとした。今の声は…
(高彬!?)
役人達の中に、その姿を認めたような気がする。
しかし、瑠璃は馬を走らせ、行けるところまで行くしかなかった。
(吉野君を、無事に逃がすためにも…!!)
8 :
粗筋中将5/6:2007/07/24(火) 22:10:19 ID:???
どれくらい走っただろうか、瑠璃の乗る馬は都をすっかり外れた場所を走っていた。
後ろから、役人達の明かりが見える。
(よかった。あたしを唯恵だと思って追ってきてる)
瑠璃はほっとした。その時
馬の足がもつれ、瑠璃は馬上から高く放り出された。
地上にドサッと叩き付けられる。馬はどうやらそのまま走り去ってしまったようだ。
瑠璃の体に激痛が走る。
(胸が…息が苦しい…
あたし このまま死ぬのかしら )
でも いいや
吉野君はきっと逃げられたはずだから
ほら あんなに追捕の松明が見えるもの
ふふっ 吉野君はとっくに逃げちゃってるのにね
吉野君は きっと逃げ延びるわ
宇治で馬を手に入れて吉野へ逃げ延びるのよ
だってあたしたち 吉野で会うんだもの
あの 美しい吉野で 会うんだから―――――
9 :
粗筋中将6/6:2007/07/24(火) 22:11:47 ID:???
瑠璃の体に誰かが触れた。そっと抱え込まれる感触がした。
目の前にうっすらと見えるのは…
(高彬…?)
「これで気がすんだかい…」
これも 夢かしら
きっと
幸せな夢の続きかもしれない……
新すれ乙
鳥肌立つほど泣いた
> 「これで気がすんだかい…」
これ夢じゃなかったら狂おしく萌えるのにほんとに夢っぽいな・・・
いくら瑠璃のためとはいえ
意外に曲がったことは大嫌い〜な高彬は見逃してはやらない気がするし。
>春咲く桜 夏の藤 秋の野萩 冬の雪―――
>吉野の四季は夢のように通り過ぎて
>あたし達は輝くように幸せだった…
>だから 平気
>生きていけるわ
このくだり切ないよ……もう2度と会えない気がする
切ない…
吉野君も瑠璃も死なないよね? ね?
悲恋だね……
ウヮーァァン瑠璃〜!吉野君〜!!!
「どこまでも離れ離れになる運命ですね」…か。
切ない(ノ_・。)
瑠璃と吉野君がお互いの衣交換してる
これは衣々(きぬぎぬ)ってことで心は夫婦なのかな
白拍子云々の瑠璃のお馬鹿なエピソードがこんな使われ方するとは
あぁ、吉野での日々は本当にいい思い出だったんだね……
誰も言わないようだから俺が言っておこう。
高彬オワタ
もう前回に続き号泣°・(ノД`)・°・
>>17 だとしたら、ますますせつない。
えーん高彬様が捨てられちゃうよー
>「ふふっ。五節の舞姫みたい」
>「では、瑠璃姫は白拍子ですね」
>「そうよ。瑠璃は墨染めの白拍子なの。そして、
吉野君と舞を舞うの…!」
・(ノД`)・°・
瑠璃……吉野君… 遠い約束だなあ…
瑠璃と吉野君、とくに吉野君にとって、
吉野は桃源郷みたいなもんなんだろうなぁ…
ウッ(´;ω;`)ブワッ
ちょっと吉野に行ってイケメンと幼馴染になってくる
前回、吉野君は結婚直前までこぎつけた高彬のことは眼中にないのね、と思ったら
瑠璃は瑠璃で「鷹男の邪魔をしてよ」かw
「鷹男の異母弟」ってのがキモだから高彬がカヤの外になるのはしょうがないんだろうな…
って最後に何かキタ━━━━━━!!?え?幻?
瑠璃って吉野君のことしか考えて無かったけど
実は高彬のお仕事の邪魔しまくってたんだな。
最後の幻はさすがに思い出したのか?
それってまさか、死ぬ前に思い出が走馬灯のように、ってやつじゃないよね?
太秦、青蓮華寺。
小萩が瑠璃に薬湯を持ってきた。しかし、目が据わっていてコワイ顔をしている。
寺の者達が未だに瑠璃の部屋に近付くのを嫌っているのが小萩には悲しいのだ。
瑠璃は無理もない、と小萩を宥める。あんなことがあった後じゃ、誰だって近寄りたいとは思わない、と自覚している。
「あの日」からひと月あまり。
瑠璃は通法寺から乗った馬から落馬し、胸の骨やら背中の骨を数本折り、ひと月ほど死線をさまよっていた。
その時のことは熱にうかされて覚えていないのだが、
意識が戻るやいなや、九条の別邸に、検非違使別当自ら、瑠璃の取調べにやって来た。
小萩は「まだ姫さまは熱がおありになるのに何ということでしょ!!」と激怒していたが、
三条邸が放火された時、焼け死んでいるとされていたはずの瑠璃が、
罪人の衣を被って通法寺から飛び出したのでは、不審がるなという方が無理がある。
検非違使別当には、「あの時は物の怪に取り憑かれていた」で通した。
世間では、瑠璃が三条邸の火事から人を喰らって生き延び、そのあげく通法寺を襲い罪人まで喰い殺した、という噂が流れていた。
噂を打ち消すには今しかないのだから、本当のことを話してくれ、という別当に瑠璃は取り合わない。
別当は、呆れたようにため息をついた。
「まったく。姫といい右近少将といい、どうしてこの事件に関わった方々はこうなのだ…」
高彬の名前が出たので、瑠璃は驚いて、高彬がどうしたのだ、と尋ねた。
「右近少将とも思えぬ失態の数々ですよ」
何しろ瑠璃と唯恵を見間違えたあげく、追捕の命令も見当違いの方向に出す有様。
さらに東は近江まで部下をやりながら、唯恵の手掛りすらつかめぬ始末だったという。
朝廷から特別のお咎めがなかったものの、面目を失って、このひと月あまり参内を差し控えているのだ、と別当は教えてくれた。
秋の除目も遅れているが、高彬はこのまま留め置きになるだろう、と噂されているらしい。
「宮廷の花形の公達ともあろうお方が、輝かしい履歴に疵をつけたものです」
別当は、やれやれと頭を掻いた。
(あれは、夢じゃなかったんだ…)
瑠璃は、落馬したあと、誰かに抱きかかえられた感触があったことを思い出した。
『これで 気がすんだかい…』
瑠璃の頬を包んだ手がそう囁いたことを。
(高彬は 知っていて…)
瑠璃は涙を流すししかなかった。
別当が帰るや、小萩に高彬へ歌のを代筆させた。
朽ちなむは わが身ひとつと こそ思え
君が名までも 願わざりしを
(ああいうことをしたのだから、評判を落としたり死んだりするのはわたしひとりだと思っていました
あなたまでが評判を落とそうなどとは願ってもないことでしたのに…)
高彬からの返歌は来なかった。
かわりに高彬の母上から、えらくヒステリックな婚約破棄の文が届き、
京中に流れる噂にショックを受けた瑠璃の父は、ついに寝込んでしまった。
(まあ…あれだけあたしと高彬を結婚させようと燃えてたんだから、燃えつきるのもわかるけど…)
それ以来、瑠璃が都にいても、興味本位の噂はますますエスカレートするし、父は瑠璃の顔を見るのも今は苦しいと泣き喚くしで、
瑠璃はまだ寝たきりだったにも関わらず、小萩だけを連れて、青蓮華寺に移ったのだった。
吉野君の消息は、未だ何もない。
鷹男や藤宮からも、何も知らせては来なかった。
(それは、吉野君が無事に逃げられたということよね)
通法寺の焼け跡からは、唯恵の焼死体は見つからなかったと聞いていた。
(吉野君は生きてるのよ)
鷹男はきっと、瑠璃のせいで吉野君を取り逃がしたと思っているかもしれないが、瑠璃はそれでもいいと思っていた。
(吉野君は、ちゃんと逃げおおせたんだから。無事に宇治へと向かったはずなんだから…)
その夜、大皇の宮が直々に青蓮華寺に見舞いにやってきた。
もっと早く見舞いたかったが、いろいろと辛いことも多くて…と顔を伏せる宮に瑠璃は気になっていることを聞いた。
「院の御車は、宇治へ向かったのでしょう?吉野君を乗せて、宇治へ…」
大皇の宮は、静かに首を振った。
「吉野君は、現れなかったのですわ、瑠璃姫」
牛飼童は明け方まで待っていたが、袿を被った女は、そのような者は誰一人来なかった、と言ったそうだ。
瑠璃はうそだ、と言うしかなかった。吉野君は、生きると約束したのに。逃げて、生き延びて…瑠璃と吉野で会うのだと。
もう一つ聞いた。宇治の別院に放してあった馬はどうなったのか…。
「放しておいた二頭の馬のうち、一頭がいなくなっていたそうですわ。
馬飼が申すには、二頭が争って一頭が走り去ったか、いなくなった方は駿馬ゆえ、盗まれ去ったのではないかと…」
大皇の宮の言葉に、瑠璃は安心し笑みが漏れ、涙が自然と零れた。
「それは、きっと吉野君ですわ大皇の宮。吉野君は約束通り、ちゃんと宇治までたどり着いたんです。
そして馬を手に入れ、逃げ切ることができたんですわ」
(そうよ、吉野君はあたしに生きると約束した。だから、信じるの。吉野で会おうって、あたしたちは約束したんだから…)
やがて、紅葉も散りしいた頃、兵部卿宮の二の姫から歌が届いた。
あわれとも 言わざらむ人と 思いきや
忍び音を聞く 心はありや
(あの人は、無情な人とばかり思っていましたのに
あなたも何事かを忍んで泣いてらっしゃるのは、やはりあの方が心ある人だからなのですか)
二の姫は、きっとあの僧が帝に刃を向けた謀反人だとわかってしまったのだろう。
あわれ知る 人なればこそ もろともに
堪えて忍ばむ 身を尽くしても
(あの人は、心深い人でした。だからこそ、あたしたち何があっても隠し通すのです。)
けれど、二の姫からの文はそれっきりだった。外聞を憚ったか、父宮に止められるかしたのだろう。
そして、冬も近付いた今日、
失態を恥じて参内を控えていた高彬が、参内を始めたという噂が入ってきた。
「なんでも、高彬さまには帝の再三のお召しがあったそうですわ。やはり帝は高彬さまのことを重んじてらっしゃいますのよ」
これで瑠璃も安心するだろう、と小萩は喜んでいた。
(そうか。やっと高彬は…)
瑠璃は小さく微笑んだ。
(吉野へ 行こう)
もう、高彬のことは心配ない、瑠璃はそう思った。
(あたしは、吉野君が待つ 吉野へ―――――)
32 :
おまけ中将:2007/07/25(水) 22:08:26 ID:???
検非違使別当(けびいしべっとう)…警察長官
除目(じもく)…昇進のこと
ちょwww高彬と決別して吉野君に走っているwww
orz
高彬は吉野君の正体知らないよね?
馬に乗って飛び出してきたのが瑠璃だと気付いて瑠璃のためだけにわざとヘマしたのか?
高彬仕事人間に見えても瑠璃が一番なのか、健気だ。
なのにもう心配ないっておいてかれたのかorz
それでも瑠璃が高彬のこと一応心配してたことに
ほっとしてしまったw
正体に気付いてても知らなくても、愛想つかれてもしょうがないよな・・・
孤高な高彬、ちょっと萌える。
そんなキャラでもないけど。
そしてもう見れないかもしれないけど。
第1部 ―― 完 ――
次号から、第2部「やっぱり初恋に限るわね♪」篇を陽気にお送りいたします。
瑠璃がいきおくryの変わった姫→変人→鬼と悪い方に格上げ……
思い出の地に傷心の旅だよ瑠璃は。
吉野君、生きてるかなぁ………
知った上で瑠璃の気持ちを組んでくれた高彬は、男だと思う。
>もう、高彬のことは心配ない
これってさ、別れたけどもその人のことが心配で、
でもどうやら調子を戻したらしいから、私も安心できた。これで新しい恋人の下へ行くわ
みたいな台詞だよな…
瑠璃には自分のせい、しかも初恋の人を助けるために、高彬の将来に傷を付けてしまったから、申し訳ない気持ちもあって、評判も落ちている自分が、今、高彬に関わらない方がいいとわかってると思う。
高彬が占めている場所が、心の中に、吉野君と別にある………はずorz
吉野君がああなった責任感じちゃってるかも
瑠璃は、大皇の宮と自分にやさしい嘘をついている気がするよ…
あわれとも 言わざらむ人の 恋しきに 身を尽くしても 忍ばむとかや
あわれとも 言わざらむ人と 思いきや 忍び音を聞く 心はありや
あわれ知る 人なればこそ もろともに 耐えて忍ばむ 身を尽くしても
すごい!振り返ってみると繋がってる。
燃え尽きたとーちゃんワロス
>>41 同意。結局は吉野君に気持ちがいっちゃってるってことだよな。
後にあれが吉野君だと知った高彬は復讐の鬼と化す・・・――― 第3部 ―――
昼ドラかw
パパン久し振り!寝込んでばっかだね(´・ω・`)
あれ?融は?
>>44 おお…すげえ
融って二の姫より影薄い?ヒロインの弟なのに
>>48 融…確かに影薄いね。今後活躍する場面が少しは
あるのか?乞うご期待!って感じ?w
しかし大皇の宮ってけっこう大胆だなぁ。
都中の人々から怖れられている姫が養生している寺に
見舞いにやって来るなんて。
確かに直接会って話さないとよくわからないから
当然の成り行きではあるけど、身分を考えれば
そうそうお忍びでお出掛けなんて出来ないだろうに…。
>>49 確かに。大皇の宮に仕える女房に身をやつしてお忍び、とかだったのかな
事情があるとはいえ国母が凄い。鷹男は遺伝だな
>>44 一つ目もつながってるとは気づかなかった。いいな
53 :
マロン名無しさん:2007/07/26(木) 16:08:57 ID:/MuSuyFQ
次の章では吉野が放火されて
可愛げのある鬼坊主が登場するのかな
それなんて無限ループ
しんしんと吉野に降り積もる雪を、瑠璃は脇息に凭れ眺めていた。
「まあっ瑠璃さまっ何をなさっておいでです!!
吉野に入ってからずっと床に臥していらした方が…外は雪ですのよ!さ!早く火桶のそばに!!」
さあさあ、と瑠璃を寝床に押し戻すのは小萩だった。
雪が見たかった、と瑠璃は素直に謝った。
ただでさえ吉野は京より寒いのだから、治りかけの体に無理はさせないでくれ、と小萩は言う。
吉野に来て、もう7日。
瑠璃達が吉野入りした時に降り始めた雪は、何年かぶりの大雪で、今も静かに降り積っている。
小萩は何も聞かずに、ただひたすら瑠璃の体の心配をしてくれていた。
「あんまり食べるとブタになっちゃいますわよ」なんて以前は言っていたが、
「何か召し上がりたいものはございませんか?何でもご用意いたしますわよ」なんて言ってくれている。
「寝込んでるのも、うっとおしいな…。
起きたりしちゃ、だめ?」
瑠璃の願いに、小萩は、暇潰しに格子を開け放ち雪を眺めるよりはマシかもしれない、と聞き入れた。
日が暮れる前に床につくよう念を入れることは忘れずに。
ふわっ…
置き上がった瑠璃は、まっ白い唐衣を身にまとった。
「氷の襲…ですわね、瑠璃さま」
吉野で着ようと、持ってきた衣だった。
「これは、とっておきの衣よ。ふふっ。見せたい人がいるの」
穏やかに微笑む瑠璃に、小萩は言う。
「その方なら、もうすぐいらっしゃいますわ、姫さま」
雪で難儀しているけど、もうすぐ着くと連絡があった、と―――
(まさか…)
御簾を上げ、現れたのは高彬だった。穏やかに微笑んでいる。
その瞬間、瑠璃は思わず泣いた。
「…ごめん、高彬…ごめんね…ごめ…」
「何を謝るのさ、瑠璃さん」
瑠璃はただ謝った。その姿を高彬は、静かに見守っている。
あたしは、わかってたの。
やって来るのが高彬だって わかっててがっかりしたの
吉野君じゃなかったから
吉野君が 来ないから…
「帝が」
高彬が話を切り出した。
「院からすべて伺ったと…それを伝えるよう仰せられていた」
鷹男の帝は、瑠璃の怪異の噂や高彬の失態にすっかり憔悴し、それもみな唯恵ゆえのことと捜索の手を広げようとしたので、
院が思いあまって、すべてを話したということだった。
鷹男は、知ってしまった。唯恵が弟宮だと。
それにまつわる悲しい話を、知ってしまった…。
しかし、まさか捜索を途中で打ち切ることもできず、高彬がすべての責任を負って謹慎することで、今回の事件をうやむやにした。
検非違使別当が自ら捜索にあたったとはいえ、現場担当で実務責任者の高彬が家に籠もっていたので埒が明かなかった。
瑠璃は、その話を聞き、改めて高彬に謝った。
手をつき謝る瑠璃のその手をきゅっと握り、顔を上げさせた。
「何をさっきから謝ってばかりいるのさ。瑠璃さんらしくもない」
すべては鷹男の帝の内々の意向なのだ、帝からも、許せと言葉があった、瑠璃には関係ない、と高彬は言う。
「だけど!もとから評判の悪いあたしはともかく、あたしのせいで高彬の将来にまで傷をつけて――」
「関係ないんだから黙ってなさい」
高彬の強い言葉に瑠璃は押し黙った。高彬は続ける。
鷹男の帝は、瑠璃にも許せ、と言っていた。
内大臣家の姫の名をおとしめてしまったのに、表立っては何も出来ないことを詫びていた。
「高彬も…唯恵の正体を知ったのね?」
瑠璃は聞いた。高彬は、申し訳なさそうに頷いた。
「院が…病を押して参内あそばされ、帝とお語らいの時、お側に召されて拝したてまつった。まさか、あのような縁の御身とは…」
「じゃあ、どうしてあの時見当違いの東ばかり捜索させたの?」
瑠璃は、気になることを一気に聞いた。
「馬に乗っていたのが唯恵じゃないことくらい、高彬ならわかったはずよ」
「あの火事騒ぎの中では、判断も狂うよ」
バツが悪そうに、顔を背ける高彬だった。
瑠璃は納得せず、別当から聞いたことを高彬にぶつける。
「倒れてるあたしを見つけたあと高彬は、馬にはふたり乗っていた、唯恵はそのまま馬で東に逃げたと言いはって
追捕の手を全部東に向けたって…」
「ぼくはそう判断したんだ。とんだ失態だったけどね」
高彬はなおもそう言うのだった。
次に疑問を投げたのは高彬だった。
「帝もご不審であられた。大皇の宮から事情をお聞きしたにしろ、瑠璃姫はどうしてあそこまでして唯恵を逃がそうとしたのかと…」
しかし、瑠璃は答えられずに黙ってしまった。
ふたりの間には沈黙が流れた。
「吉野は今、雪が深いね」
しばらくして、高彬が外を眺め、呟いた。
「…こちらに…縁の人だね?」
(高彬…!!)
瑠璃は高彬の胸に思わず飛び込んだ。
あの時…
承香殿に駆け込んで行った瑠璃は、一度だけその名を叫んでしまった。
几帳の陰にひそんでいた高彬は、その名を聞いてしまった。
(唯恵が吉野君であることを、察してしまった…)
「…だから、東ばっかり捜してくれたのね?いつもいつも恐れ多いばっかりの、お役目大事の人なのに…」
瑠璃は高彬の首に抱きつき、泣きながら言った。
「あれは…だから判断が狂っただけだ。今でも悔やんでいるよ」
「うそばっかり。とっても有能なくせに」
(ほんとに 有能で…)
ごめんね、高彬、と、瑠璃は高彬の胸で謝り続ける。
「瑠璃さん。ぼくは唯恵を斬ったことは謝らないよ」
瑠璃の顔を見、高彬は言った。
帝から、抜刀せよと命じられ、帝の身も瑠璃の身も危なかったから高彬は唯恵を斬った。
あの時鷹男の帝は何も知らなかったし、高彬は、帝と瑠璃のどちらも守らなければならなかった。
「だから、謝るのはよしなさい。瑠璃さんに謝られたら、ぼくは二度と太刀を持てなくなるから」
瑠璃は、もう謝らなかった。ただ静かに高彬の胸で泣いた。高彬は、そんな瑠璃の肩を抱いていた。
雪はまだ降っている。
「外に 出てみたいわ、高彬…」
「まあっ何ですって!?こ…この雪の中外へお出ましになられるって…姫さまはまだお熱も下がっておりませんのよっ!!」
小萩のお説教はもっともで、瑠璃と高彬は苦笑いして聞いていた。
高彬にもお願いされ、何より手を合わせて願う瑠璃に根負けし、小萩はしぶしぶと許した。
くれぐれも暖かくするように、と念を押す小萩に見送られ、高彬に瑠璃は抱えられたまま輿に乗った。
ふたりを乗せた輿は、雪原を走る。
先触れの声と、雪を踏みしめる音しか聞こえない。
やがて、輿が止まり、御簾が上げられた。
目の前に広がる真っ白な雪原に、瑠璃は目を細める。
(きっと、この雪原のどこかで、吉野君は待ってるんだ。
傷の養生をしながら
あたしがとびっきりの衣を着て現れるのを 待ってるんだ…
だって 約束したんだもの。この吉野で会おうと
思い出深いこの吉野で 再会しようって…)
「…雪に 溶けてしまいそうだね、瑠璃さん」
雪原に涙を流している瑠璃を抱きながら、高彬は言った。
「瑠璃さんは、もう少しここにいたほうがいいかもしれないな」
高彬の言葉の意味を、瑠璃は飲み込めない。
「今すぐ京に戻っても、とてもぼくと結婚する気にはなれないだろ?
京の噂が落ち着くまで…気がすむまでここにいるといい」
「結婚」の言葉に驚く瑠璃。高彬の母から、白紙に戻すと言われていたのに…。
高彬は、ははっと笑う。
「瑠璃姫は三条邸炎上から人を喰らって生き延びてたそうだから…そこまで噂されちゃ、求婚者なんか二度と現れないよ。
だから
ぼくで我慢しなよ 瑠璃さん」
瑠璃は、高彬の胸に顔を埋め、また泣いた。
(何もかも知っていて、高彬はそう言うのね。どうしてそんなに優しいの?
あたし、他の男の人のこと考えてるのに…吉野君のこと考えてるのに
やさしくしないでよ 高彬…)
瑠璃を抱き、高彬は輿から見える空を見上げた。
「また 降り出してきたね、瑠璃さん」
ごめんね 高彬
今は でも
もう少しだけ
吉野君のことを思い出していたいの
この美しい吉野で
あたしたちは遊んだのだから
この美吉野で
あたしたちは幸せだったのだから
早く
戻っておいで 吉野君
また一緒に遊ぼう
今度は高彬もまぜてあげるの
鷹男も一緒よ
あたしたちは
この美しい吉野で また思い出を作るんだから
今度こそ みんなで
幸せになるのだから…
> だから
> ぼくで我慢しなよ 瑠璃さん」
高彬のくせにこのやろう・(ノД`)・°・
高彬…(:_;)
いいな〜泣かせる。
16歳にしとくのはもったいない…
本当に溶けてしまいそうな瑠璃を、
そっと優しく包んで溶けないように守ってるって感じ…
泣かすなあ高彬。・゚・(ノД`)・゚・。
高彬…
高彬…?とか言ってごめんなさい
なんだよ高彬…かっこいいじゃないか!。・゚・(ノД`)・゚・。
高彬ったらいつのまにこんなイイ男に!
今までゴメンよ
切ないぐらい雪綺麗
お姫様をお姫様だっこな高彬
……最安値を更新し続けていた高彬株が急上昇し、現在も高騰中です。
市場の一部には、「吉野君株はどこへ」「バブルでは」「だから高彬って言ってたでしょ」「刀でバッサーは…」
など、混乱も見受けられますが、全体的には、一時は取引停止も危ぶまれていた高彬株の劇的な株価回復に、市場は歓迎ムードです。
以上、大和為替市場からお送りしました。
ねえねえ、瑠璃ちゃん病んでない?
人を喰らって生き延びてたとか言われてるのに、はかなげでなんか様子がおかしいよ!!1!
大怪我、してるんだよね、瑠璃。
高彬16歳なんだよね、忘れてた。
> 高彬は、ははっと笑う。
> 「瑠璃姫は三条邸炎上から人を喰らって生き延びてたそうだから…そこまで噂されちゃ、求婚者なんか二度と現れないよ。
> だから
> ぼくで我慢しなよ 瑠璃さん」
おま………。・゚・(ノД`)・゚・。
サイコウにイイ男ジャマイカ
高彬のくせに!
こんな殺し文句言いやがってー!!!
何でそんなに懐深いんだよー!
泣かせるんじゃなーい!!!
高彬ってこんなにいい男だったんだ…
今まで気付かないなんて、見る目なかったよ
瑠璃が…こんな気弱な子だっけ…(´;ω;`)ブワッ
初恋がこんな結末をむかえるとは第1回には夢にも思って無かったよ。
吉野君には生きてて欲しい…。
やさしくて、有能で、腕も立って、気ぃ遣いで、心が広くて、さらっとこれ以上ない優しいくどき文句も言えて
高彬、かっこいいよ高彬。
感動のシーンなのに二人の顔が微妙に作画おかしいのが気になるぜ……
高彬はいい奴だ
これで高校生程度の年齢とは思えない器の広さっぷりだ…
高彬かっこよすぎる・゚・(ノД`)・゚・。
お、俺は認めないぞ!
そうだ!きっと吉野君に体を乗っとられてるに違いないんだ。
あんなかっこいい高彬がいるもんか!!
高彬がいろんな意味で有能すぎる・゚・(ノД`)・゚・。
「関係ないんだから黙ってなさい」とか「あの火事騒ぎの中では、判断も狂うよ」とか
「ぼくはそう判断したんだ。とんだ失態だったけどね」とか「こちらに縁の人だね?」とか
「だから判断が狂っただけだ。今でも悔やんでいるよ」とか
有能なのに気付かなくてごめん高彬(´;ω;`)
次回から
なんて素敵に高彬
ってことで
なんて不出来な高彬
が大好きだったのに
この絶妙なシーンで琵琶を弾いてくれたりしないかな
琵琶の名手らしいのにそういうシーンなかったよな
病床の瑠璃さんを慰めるために、とか
その音色がもの悲しかったりすると、いい演出になるのにな
高彬かっこいいなぁ
でも吉野君にはなんとか生きて瑠璃の前に現れてほしい
そしたら三角関係か…瑠璃はどっちを選ぶんだろう
第1巻 (〜斬られた融を問い詰めに向かうまで)
表紙:桜色に包まれた瑠璃と高彬
折り返し:高彬の頬をつつく瑠璃。高彬にもみあげがある。
柱
1こんにちわ(瑠璃の絵)
2月に2回の締め切りで体がボロボロです
3ジャパネスクの連載が決まって友人にпィエンドレス連載頑張ってねと言われる
4原作があるので、登場人物がワレていて、プレッシャー
5美男美女だらけでめまいがする。○○の正体が知られているのは描き手としてはちょっとくやしい
6仕事中のごはんはだいたい私が作ってます
7描きにくい格好は、裸の状態から描いているけど、1巻でみょーに恥ずかしい構図があって着物を着せるまで落ち着かなかった。
8スペシャルサンクス(瑠璃の絵)
第2巻 (融の思い人は藤宮〜法珠寺に向かう牛車で書状の中味を読むまで)
表紙:瑠璃
折り返し:何かに追われてる風の瑠璃
柱
1こんにちわ(瑠璃の絵)
2藤宮さまのバックの藤の花は、松川祐里子さんに描いてもらった
3七瀬早生さんは早い上手いおもしろいアシさん
4氷室さんに「高彬はウケが悪い」と言ったところ原作のあとがきに「山内さんに高彬を何とかしろ手紙を出そう」と書かれていた
5そうしたら案の定いっぱい手紙が。鷹男よりハンサムに描いて、前髪が6本だけなんてひどい…高彬がなんぼのもんじゃい
6なんて、ウソだよ。だいたい、弟にするなら融、愛人にするなら鷹男、結婚するなら高彬って思ってるんですもの。
7だいたい氷室さんも高彬のカッコよくするよりいじめて楽しんでるフシがあるし…ほら、高彬君からもお願いして。高彬「よ…よろしく」
8引越しが多い人生
9スペシャルサンクス(瑠璃の絵)
第3巻 (法珠寺に到着〜縁の尼寺で出家よ!まで)
表紙:高彬人形を抱く瑠璃。側には鷹男人形も。
折り返し:高彬と鷹男に囲まれピースする瑠璃。高彬は少し不機嫌
柱
1こんにちわ(高彬の絵)
2段ボールから溢れるファンレター、返事が滞ってるけどきちんと読んでます。
3小坊主さんはちんねんさんと言います。七瀬早生さんがいたく気に入り、付けてくれました。
4着物の柄さえなければあと一日早く原稿があがるのに…
5一度受け持ったキャラの柄はその回の仕事が終わるまで同じ人に回される。「ごめんねー今回はるりなのよー」「…;」
6高彬論争沈静化。氷室さんは恐縮しておられたけど、ヤマウチとしては生の声が聞けてうれしい♪
7スペシャルサンクス(頭にリボンで投げキッスの瑠璃)
第4巻 (青蓮華寺に二の姫がいた〜兵部卿宮邸で二の姫の話を聞いて帰るまで)
表紙:倒れ込んでキス寸前の瑠璃と高彬
折り返し:青い花を抱えた、黄色い着物の瑠璃
柱
1こんにちわ(触角の生えた瑠璃)
2本屋に立ち寄ったときに、花ゆめのしかもジャパネスクを立ち読みしてる人がいてビックリ
3最近時代劇の本を読んでいるせいか、言葉がちょっとへん。連絡するね→つなぎをつけるねetc...
4テトリスにハマった
5お仕事が終わった翌日は掃除と洗濯以外はたいてい微熱を出して寝てます。
6中学の古典の先生のおかげで、古典嫌いではありません。未だに春はあけぼの暗誦できます。
7ファウンデーション貸してくれと言われ化粧品を差し出したら、アシモフの古典SF『銀河帝国の興亡』のことだった
8スペシャルサンクス(山内さんがピース)
第5巻 (三条邸跡に寄り吉野君と再会〜大皇の宮と出会い、院の御所に出発まで)
表紙:鞠を持った幼い頃の瑠璃。色鉛筆風。
折り返し:シースルーの袿を羽織り、うつぶせに寝ている瑠璃。背中見えてます
柱
1こんにちわ(幼い瑠璃と吉野君)
2日光旅行に行った
3吉野君の話を書いている時はBGMは姫神の「雪譜」4巻のラブシーンでは明菜やキョンキョンやブルーハーツやユニコーン
4髪の毛のある吉野君を描いたら、鷹男そっくりになった。兄弟ゆえおのずと似るのかしら
5FAXないんですか?と聞かれると、あまのじゃくだから持ちたくなくなる。
6豪華絢爛な時代を描いているにも関わらず、物持ちがいいです
7原作小説2巻最後のあたりを連載している今、怒涛のハードスケジュールで、隠居したい…
8スペシャルサンクス(ウインクしてる高彬)
第6巻 (院の御所で吉野君の出生を知る〜雪の吉野里まで)
表紙:緑に囲まれ、瑠璃を後ろから抱き締める高彬
折り返し:花菖蒲「美吉野」のバックでキスする瑠璃と高彬
柱
1こんにちわ(瑠璃の絵)
2いただいたバレンタインチョコの数は、高彬と鷹男は同数でした
3折り返しは、花ゆめの表紙を飾ったものだが、友人が「親に頼むんじゃなかった…」と恥ずかしがっていた。
45巻の折り返しも友達にイヤラシイと言われた。脱いでいくシリーズでもしようかな…アシさん「次高彬脱がせましょう「鷹男がいい」
5京都御所の取材に行った時、5年待った清涼殿の一部のレプリカが学術的価値がないということで解体されていた
6この冬生まれて初めてスキーをしました
7ゲレンデで友人と正面衝突してしまった…
8スキーが好きだが、熱を出してなかなか行けない。来シーズンはウエア買うぞー!!わたしカラダ弱いんですほんとです
9スペシャルサンクス(十二単の山内さん)
87 :
おまけ中将:2007/07/28(土) 00:03:17 ID:???
ジャパネスク年1/3
瑠璃9つ
京にいる母が亡くなる
│ 一月後
吉野君が流行病で亡くなっている
│ 二月後
吉野の祖母が亡くなる
瑠璃10
京に戻ると、新しい母がいる
高彬と「約束」
瑠璃16
二月 大納言邸での管弦の宴
│ 二月後 (このあたりで、高彬の祖母が二の姫宛に求婚の歌を送っている)
四月 高彬が進退極まり突然の初夜 (このあたりの賀茂祭で融が藤宮に一目惚れ)
その夜、高彬の祖母が亡くなる
│ 半月後
高彬と二の姫の縁談の噂が流れる
│ 半月後
五月 高彬の縁談を融と瑠璃が知る。
「身にあまる思ひ人や知るらむ」の文を小萩が持ってくる
│ 二月後
七月六日 高彬が二の姫に会いに行く情報を得、深夜二の姫の邸に侵入する
初接吻の夜
十月 高彬の喪が明け、瑠璃にまめまめしくお歌を送りはじめる
88 :
おまけ中将:2007/07/28(土) 00:04:23 ID:???
ジャパネスク年表2/3
瑠璃17
一月 「花の盛りの春の宵夢」で結婚が決まる
大事な初夜に、融が太刀傷を帯びて帰宅
│半月後
融のあとをつけ、恋の相手が藤宮と知る
融に当て身をくらわした相手を追い、陰謀計画を知る
藤宮の邸に運ばれ、藤宮、鷹男と出会う
藤宮の邸に招待される。
鷹男に、計画内容を知らされる
三月 大海入道邸に女房として侵入
│ 十日後
左馬頭、観如が大海入道邸に集まり、歌の書状を見せられる
小火を起こし書状を手に入れる
│ 一日後
大海入道の頼みで法珠寺に向かう
左馬頭や観如に命を狙われるが、鷹男に助けられる。鷹男が東宮だと知る。
│ 一日後
大納言邸に戻る
四月 藤宮が見舞いがてら瑠璃を訪れる
高彬との初夜だったが、鷹男からの文で流れる
陰謀事件の真相を高彬に話し、それ以来高彬からの文が来なくなる
89 :
おまけ中将:2007/07/28(土) 00:09:34 ID:???
ジャパネスク年表3/3
五月 鷹男が帝におなりあそばす (三日後、大海入道死去)
父は大納言から内大臣、高彬は衛門佐から近衛少将に出世する
│ 一月後 (このあたりで大皇の宮の枕辺に「新帝怨参候」の小刀)
六月 琵琶の湖で二の姫が美僧と出会う。
宮中行事が一段落し、瑠璃のもとへ帝の御使者が来る。
「ゆく舟の泊まりはなどか」の歌で後使者を怒らせる。
│ 六日後
七月五日 高彬が訪れ、瑠璃に乞巧奠の宴での女楽の演奏を願う
怒った瑠璃はその夜、青蓮華寺に出家しに行く
恋の病にかかった二の姫と再会し、高彬が出家を止めにやってくる
内大臣邸が炎上、「瑠璃姫怨」
藤宮邸に瑠璃を匿ってもらう
│ 十日後
藤宮邸で高彬から後宮へ参内する日を聞く
夜、二の姫のもとへ向かい、恋の相手の話を聞く
帰り道、焼け跡の内大臣邸で、僧侶となった吉野君と再会
│ 四日後
参内する日だったが、承香殿の女御付きの女房(荷葉の女)の頓死で延期
後日参内
│ 半月後
鷹男と再会、正良親王の近況を伝える僧として参内した吉野君とも再会
夜、瑠璃のもとへやって来た吉野君に「朝霧」のことを聞く
│ 一日後
藤宮、吉野君とも御所と退出
八月 大皇の宮の参内
初対面のその日に佐子姫のことを聞き、山科の院御所を訪れ、吉野君の正体を知る
吉野君が再び参内したことを知り、後宮へ戻る
高彬により吉野君の逮捕
通法寺に向かった瑠璃は、吉野君を救い出し、落馬し怪我を負う
90 :
おまけ中将:2007/07/28(土) 00:10:38 ID:???
ジャパネスク年表 残り
九月 意識を取り戻した瑠璃のもとへ検非違使別当自ら事情聴取。高彬の失態を知る
大皇の宮の見舞いを受ける
秋の終わり頃、二の姫と歌を交わす
冬の始まりに高彬の参内を知り、吉野行きを決意
吉野入りした七日後、高彬の訪問
本当に判断が狂っていた可能性を模索してしまう自分がいる。
>>91 おまいは、どうあっても高彬のことを
「なんて不出来な高彬」(
>>80より引用)にしたいんだな?w
>>60 泣いた。吉野君、かむばっく。
高彬はいいやつだがやっぱこの結末は悲しすぎる。
たーかーあーきーらー
なんていい奴なんだ(⊃Д`)
吉野の雪景色がジーンとくるよ
眩しそうな高彬の表情も
高彬がこんなイイ男なのは美吉野マジックかもしれん
高彬のジャパネスク・ミステリーの巻 第一話
表紙:直衣姿の高彬
「高彬さん、わたくしの話をちゃんと聞いているのですか!」
この声に、高彬ははっと我に返った。「あ、はい母上!聞いております」
そんな態度に、ふぅっとため息をつくのは、右大臣家の北の方、高彬の母君である。
「わたくしは何も、難しいことを言っているわけではないのですよ高彬さん。
ただ、あの内大臣家の瑠璃姫と だ け は もうこれ以上関わってほしくはないと申しているのです…!なのに…」
うるっと北の方は涙ぐみ、高彬はげっと思う。
「なのに高彬さんはこの母にかくれて、吉野にいる瑠璃姫のためにこのような絵巻物を集めていたなんて…!」
母は悲しいですわっ、と突っ伏して泣き出し、高彬はバツが悪い思いをした。
高彬の母も父も、もともとは日頃から評判の悪い瑠璃とも結婚には反対していた。
それでも、ふたりとも高彬に甘いので、最後にはなんとか瑠璃との結婚を認めてくれていたのに…
(なのにその矢先に あ の 事件だ…)
母が泣いて瑠璃と関わるなというのも、わからなくはないとため息をつく高彬だが、母の説教はまだまだくどくどと続く。
「あのような物の怪憑きの姫など、わたくしの高彬さんの北の方にはふさわしくありませんわっ、瑠璃姫だけはだめです。いけません!
怪我の療養のため吉野に引き籠もってらっしゃるなら、いっそそのまま吉野で尼にでもなっておしまいになればよろしいのですわ
わざわざ絵巻物を届けて瑠璃姫の里心を刺激することはないのです。
よいですね高彬さん、瑠璃姫とだけは ぜ っ た い に わたくし許しませんことよ。高彬さん、お返事は!?」
北の方の勢いにおされつつあったが、高彬は返事をしなかった。
何を黙っているのか、とまだまだお説教が続きそうなところを、高彬はちらりと目配せをした。
「北の方さま」高彬の目配せに気付き、一人の男がにじり寄る。
「何、守弥。わたくしは高彬さんに…」
「失礼ながら、先程大納言清光さまの北の方さまより、お歌が参っておりましたことをふと思い出しまして」
その言葉に、北の方は返歌が遅れてはいけないとそそくさと立ち上がり、高彬の前を去った。瑠璃はだめだ、と念を押すのを忘れず…
北の方が去り、高彬ははぁ〜っと気を抜き脇息に凭れかかった。
「若君、お疲れのようですね」やたらにこにこと声を掛ける守弥に、高彬はぐずる。
「…おまえだろ、守弥。母上に絵巻物のことを知らせたのは」
「若君も、少しはお利口になられた」守弥はにっと笑う。
守弥のふてぶてしい態度に、高彬はちぇっと言い
「守弥はぼくの乳兄弟なんだから、少しはぼくの味方をしてくれたっていいんだ。
さっきだってあんな切り札を持ってるんだったら、さっさとぼくを母上から解放してくれたって…」
「若君のお指図もないのに出過ぎたことはできません」
しれっと言ってのける守弥だった。思わずじとっと守弥を見てしまう。
(嘘をつけ、嘘を。絵巻物のことを母上にバラしたのは誰なんだ!充分出すぎてるくせに)
「…どうせおまえも、ぼくと瑠璃さんの結婚には反対なんだろ」
「はい。この身に替えても阻止いたします」
守弥のばっさりとした即答に高彬は驚く。以前は父や母が反対していても、守弥だけは高彬の味方だったのに…
「そうです。多少変わり者と評判の姫でも、内大臣家の姫君の婿として迎えられれば若君の将来にも有利に働きますから」
「おまえ…それで瑠璃さんとの結婚に賛成してくれたのか…?」
「はい」
どきっぱりと言ってのける守弥に高彬はがっくりと肩を落とした。
「しかしそれもあの事件までのこと。瑠璃姫はあろうことか若君に失策をおさせになった。これまで順調に位を極められてきた
大切な若君の経歴に疵をつけたのです。この12年の間ひたすらわたしが陰に徹してご成長を祈り見守ってきた若君に、
あのような姫を近づけたくないのは当然ではありませんか」
ちっとも陰になんかいないじゃないか、と思っているが、今は立場が弱いのでなにも言えない高彬だった。
あの事件の真相を知らされていないから、父も母も守弥も、そう思うのは当然のことだった。
失策といっても朝廷から特別のお咎めがあったわけでもないし、瑠璃にも事情があったわけで…
「しかし若君はその事情とやらをお話し下さらない。ならば今後の若君にとって瑠璃姫は無用。無用ばかりか、
障害です」
「守弥。そういう言い方は瑠璃姫に失礼だ。やめなさい」
そう諌めたものの、その先は沈黙だった。守弥もただじっと控えている。
どれくらいの時が経ったか…口を開いたのは高彬だった。
「…守弥。退がってくれ」
「…はい」
高彬は部屋に一人になった。はぁっと息を吐く。
(いっつもこれだ)
脇息に凭れ、頬杖をついた。自然眉間に皺が寄ってしまう。
(守弥のやつ、ぼくが黙れと言い出すまで人のこと怒らせておいて、今度はぼくが退がれというまで絶対にしゃべらないんだ。
こっちはそれが妙に居心地が悪くて、結局いつものパターンで“退がれ”と言ってしまって…)
「失礼いたします高彬さま」
さわさわさわと、女房たちが高彬の部屋にやってきて、がばっと絵巻物をさらってしまう。筆頭の女房が言った。
「兄に言われましたの。絵巻物を高彬さまよりいただいてくるようにと」
守弥の妹にして右大臣家の女房、大江だった。守弥にしてやられた、なんて行き届いた奴なんだと高彬は拳を握り震えた。
「大江!車の用意!!」
高彬はガタンと勢いよく立ち上がった。いきなりどこに行くのだと聞く大江。
「二条堀川邸だ。絵巻物のうち二巻は藤宮さまにお譲りいただいたもの。御礼言上に参る!」
どかどかどか、と音を立てて部屋を出た。
99 :
粗筋中将5/5:2007/07/28(土) 22:18:27 ID:21Gub0HT
あとで、瑠璃の供人の千丸から、瑠璃が夜の道を牛車を走らせながら、
『千丸!もっと大きな声で歌って!途切れちゃだめ、お歌歌って!』と怒鳴っていたということを高彬は聞いた。
まだ小さな12歳の姫がわずかな供人を連れ、こわいのを我慢しながら夜の道を来たのだ。高彬のために。
瑠璃の作った薬を飲んで、翌日高彬は腹を壊したけど、
(あの時の、あったかい幸福な気持ちは 今でも思い出すことができる。
今も同じように 瑠璃さんが好きで…)
(瑠璃さんは、いい人だ)
高彬は瑠璃に思いを馳せる。
(嘘も飾りもない、ちょっと行動や感情がストレート過ぎるけど、誰が何と言おうと瑠璃さんはいい人で、そんな瑠璃さんだから、
ああまでして唯恵を助けたんだ)
唯恵を…
ゆえあって都や朝廷から離れて育ち、長じて出家し、僧侶の身となった、今上帝の異母弟の唯恵が、
どうして帝の命を狙ったのか、高彬は深く知ろうとは思っていなかった。
(あの時 ぼくは気付いてたんだ)
高彬は思い出す。
瑠璃が通法寺に駆け込んで行ったときも、高彬ら役人の目を眩ますため僧衣をまとって寺から飛び出してきた時も。
(瑠璃さんならそうすると思ったから、そんな気がしてたから…なんだか妙に納得してしまったっけ)
きっと、高彬を池から助けあげた時のように、瑠璃はためらいもなく通法寺に駆け込んだのだろう。
何年も前に、ほんの一時期一緒に遊んだ、淡い初恋の君を助け出すために…。
理屈なんてたぶんない。瑠璃は単に助けたかっただけなんだろう。
(ほんと、瑠璃さんらしいや)
くすくすと、高彬の顔に笑みが浮かんでしまう。
二条堀川邸に向かう牛車の中で高彬は思う。瑠璃のことを。
僧唯恵による謀反未遂事件は、世間ではその一月前の三条邸放火の時に死んだとされた瑠璃が現れたことで、すっかり怪事件になってしまった。
もともと変わった姫だという評判もあってか、あれから5か月経った今も、都での噂はしっかりと消えずにいる。
でも、瑠璃の邸が放火された時、瑠璃の身を案じて死んだことにしたのは高彬の考えだったし、
少なくとも高彬は、この事件の真相を知っている。すべては瑠璃が幼い頃一緒に遊んだ吉野君――唯恵のことであることを。
童の頃の瑠璃と言えば、まだ男女の区別もつかないころ、高彬も融と一緒になってよく遊んだものだった。
瑠璃は昔から
(なんか…乱暴な姫だったよなぁ…)高彬は思い出している。
石蹴りや扇投げをやっていても、自分の負けがこんでくると、怒りを露わにし、高彬をたじろがせるような子だった。
かといって高彬がわざと負けたりすれば、ズルする子は嫌いだ、とぷんぷん怒って帰ってしまい、もうしないとこちらが謝ってしまうような子でもあった。
(子供心にもあの感情の発露にはたじろぐものがあったっけ…)
それでも、たとえ瑠璃にとあっと投げられぼろぼろになっても、いつもいつも高彬は瑠璃のあとをついて回っていた。
そのことも思い出し、知らずくすっと微笑んでしまう。
あれは確か瑠璃さんが12歳かそこいらの時、石蹴りの順番が自分の思い通りにならなかったか何かで、瑠璃に池に突き落とされたことがあった。
池に落ちた高彬は、ぶくぶくと沈んでしまい、いっこうに上がってくる気配がない。
さすがの瑠璃もびっくりし、池に飛び込み、高彬を救い出した。
池といっても、大貴族の庭の池ともなればかなり大きくて深い。子供が、ましてや女の子が簡単に飛び込めるものでもないのに…。
『ほんとにあんたって手のかかる子ね!いやになっちゃう』そう言いながらも、瑠璃は高彬の濡れた体を拭いてくれていた。
その数日後の夜、池に落ちたせいで寝込んでいた高彬の部屋に、瑠璃は突然現れた。
生霊じゃないのか、とおそるおそる聞く高彬に、オバケじゃないよ、ぴとっと抱きつく瑠璃。
『高彬にお薬あげよと思ってきたの。死んだお祖母さまがよく作ってくれたやつ。坊さんのきとうよりいいんだよ』
そう言って、筒に入った薬をくれた。
瑠璃が作ったのかと不安が隠せない高彬に、ちょっとたいへんだった、と言って、傷だらけの手を見せて笑う瑠璃だった。
あとで、瑠璃の供人の千丸から、瑠璃が夜の道を牛車を走らせながら、
『千丸!もっと大きな声で歌って!途切れちゃだめ、お歌歌って!』と怒鳴っていたということを高彬は聞いた。
まだ小さな12歳の姫がわずかな供人を連れ、こわいのを我慢しながら夜の道を来たのだ。高彬のために。
瑠璃の作った薬を飲んで、翌日高彬は腹を壊したけど、
(あの時の、あったかい幸福な気持ちは 今でも思い出すことができる。
今も同じように 瑠璃さんが好きで…)
(瑠璃さんは、いい人だ)
高彬は瑠璃に思いを馳せる。
(嘘も飾りもない、ちょっと行動や感情がストレート過ぎるけど、誰が何と言おうと瑠璃さんはいい人で、そんな瑠璃さんだから、
ああまでして唯恵を助けたんだ)
唯恵を…
ゆえあって都や朝廷から離れて育ち、長じて出家し、僧侶の身となった、今上帝の異母弟の唯恵が、
どうして帝の命を狙ったのか、高彬は深く知ろうとは思っていなかった。
(あの時 ぼくは気付いてたんだ)
高彬は思い出す。
瑠璃が通法寺に駆け込んで行ったときも、高彬ら役人の目を眩ますため僧衣をまとって寺から飛び出してきた時も。
(瑠璃さんならそうすると思ったから、そんな気がしてたから…なんだか妙に納得してしまったっけ)
きっと、高彬を池から助けあげた時のように、瑠璃はためらいもなく通法寺に駆け込んだのだろう。
何年も前に、ほんの一時期一緒に遊んだ、淡い初恋の君を助け出すために…。
理屈なんてたぶんない。瑠璃は単に助けたかっただけなんだろう。
(ほんと、瑠璃さんらしいや)
くすくすと、高彬の顔に笑みが浮かんでしまう。
結局瑠璃は、高彬たち役人を引きつけるだけ引きつけたあげく、疾走する馬から落馬し生死に関わる大怪我を負った。
そして今は吉野で傷の養生をしている。唯恵の行方も未だ知れない。
そんな瑠璃に、高彬はせめて絵巻物でも届けようと思っていたのに、先頃母に見つかりお説教だったのだ。
世間の人たちは、そんな事情があるとは知らず、無責任な噂を立てて喜んでいるのだが、
かといって事は帝の身や宮廷内の事情に関わることゆえ公表も出来ない。
本当のことが言えない以上、母も守弥も、瑠璃との結婚には反対し続けるだろう。
守弥にしてみれば、高彬が唯恵を取り逃がしたり瑠璃と唯恵を間違えたりしたことで、悪いのはすべて瑠璃だと思っている。
(守弥も悪いやつじゃないんだけど、乳兄弟のせいか妙にぼくに入れ込んでるんだよな…)
高彬は守弥のことを考える。
守弥(モリヤ)は、頭がいいくせに自分の出世は望まず、右大臣家の家令というか執事めいたことをしていて父母の信頼が厚い。
22才になるというのに社会的な地位はないが、右大臣家の陰の実力者というか、右大臣家での影響力は絶大なのだ。
その守弥が瑠璃とのことを「 障 害 で す 」なんて言う以上、瑠璃との結婚は前途多難だ。
(なんだか国家機密の犠牲になって別れを余儀なくされる恋人同士の気分になってきた)
とため息をつく高彬であった。
その時、牛車がガタンと揺れ、止まった。
まだ二条堀川邸に着いたわけではないのに…故障か?とちらりと外を覗くと、従者の政文が高彬に述べた。
「こちらの車は右近少将高彬さまのお車かと呼び止める不躾者がおりまして…」
自分ちでの高彬がお坊っちゃんしてて笑える
やっぱ高彬は大人びてジーンとくる台詞言ってるより
子供っぽくてお間抜けなほうがらしくって安心するよ
何か強烈な食えない新キャラ(・∀・)キター
家令っぽいのktkr<守弥
この守弥っての渋いハンサムだけど性格わるそー
瑠璃のこと悪く言うんじゃ無い!
>瑠璃の作った薬を飲んで、翌日高彬は腹を壊したけど、
さりげなくさすが瑠璃
高彬が池に落ちたエピは尼寺で瑠璃が回想してたけど、
何か全然違う話になってるんだな。
109 :
代理1/4:2007/07/29(日) 15:32:50 ID:???
高彬のジャパネスク・ミステリーの巻 第二話
表紙:直衣の蜻蛉頭が外れ下襲の衣がだいぶ見えている状態で桜の花びらを見上げる高彬
「道の往来で少将さまの車を止めるとは無礼な奴、この際わたしがとっちめてやりましょう!今しばらくお待ちください」
従者の政文がふんっと威張って行こうとするので、高彬は止めた。
「きっとぼくに何か用があったんだろう。呼んでおいで」
「しかし!いきなり若君の車を止めるような無礼者とお話になるなど…」
しぶる政文に、いいから呼んでおいで、と行かせた。
政文の態度からすると、高彬の車を止めたのはどうやら、政文より身分が下の者らしい。
右大臣家は、守弥の身分教育が行き届いているから、つい政文がタカビーになってしまうのもわかる。
(まあ…ぼくも身分とかには融通が聞かない方だけどさ)
現れた男は、牛車の中で御簾越しの高彬に平身低頭で青ざめながら対面した。
高彬が何の用だと聞くと、その男はひたすら恐縮しながら述べた。
男は、前上総介藤原実成に任える者だと言い、その主人がここ数日伏せっているらしい。
そして、ただうわ言のように、右近少将高彬に目通りできるツテがあれば、とたいへん悩んでいると言うのだ。
そのような主人を見かねていたところに高彬の車を見かけ、いても立ってもいられず、
咎められることは承知で声をかけたということだった。
確かに、前上総介の従五位あたりの身分で、正五位の高彬に直接会うわけにはいかない。
しかし、高彬はその従者の必死な態度に、前上総介の邸へ向かうことを承知した。
政文は、どこの者とも知れない男の言葉を信じるなんて、と高彬を止めるが、
身元は名乗ったし、しっかりした話し方をしている、
藤宮邸には約束を取り付けたわけではないし、
前上総介が伏せっているそうだから、その見舞いがてらに行く、と政文を説き伏せた。
110 :
代理2/4:2007/07/29(日) 15:34:31 ID:???
五条にある前上総介邸に通された高彬は、邸の様子を伺っていた。
小体ながら庭の手入れも行き届いて過不足なく、前上総介藤原実成という人物を信用出来そうだ、と見た。
そこに、ばたばたばたと大きな足音が高彬のいる部屋にやってきた。
「申し訳もございませぬっ!!」
姿を現すなりがばっと頭を床に擦りつけたのは、この邸の老齢の主人、藤原実成だ。
「わが家の者が差し出がましくも厚かましくも少将さまに直にお声をかけこのような賤屋にお連れいたしますとはこの実成
思いもかけぬこととはいえお詫びのしようもございませぬそれもわたしが少将さまにお目にかかりたいなどと口走ったため
まったくもって申しわけないことでございますっっひらにひらにご容赦を―――〜っっ」
ただひたすらに高彬に従者の無礼を詫びていた。
「それより実成殿は何かお悩みとか」
本題を振られ、実成はさらに取り乱す。高彬もしびれを切らし、順を追って話してくれ、と頼んだ。
「……それが…」
「女?」
「…はあ。まあわたしもまだまだ若いですし、その、通ってる女というのも年は30も半ばで情もこまかく口うるさくもなく
まあその、いい女なのですよ。その女はまあ裁縫もとくいでしてね……」
この老人は何が言いたいんだ、用があったのではないかと来たことを後悔し始めた高彬だった。
「ただその女、父親が大酒飲みだったからといって、わたしが通い始めてからの2年というもの一度も酒を出したことがないのです。
ですからその時わたしが酔っていたということはありません。これだけは信じていただきたい、その時わたしは素面でした!」
「…誰もあなたが酔っていたとは言ってませんよ」
高彬はうんざりしながら相槌を打った。
「そうです、ですからやはり生きていたのでございます」
「何が」
「謀反人の僧がですよ」
高彬は扇を取り落とし、思わず立ち上がった。
(唯恵が生きていた…!?)
111 :
代理3/4:2007/07/29(日) 15:35:36 ID:???
実成の話はこうだった。西の七条に住む通う女のもとから帰る途中だから、子の刻頃のことだった。
道の真ん中に人がいる、と従者が牛車を止めたので、二人で松明をかざして近寄った。
あのあたりは京中でも人家の少ないさびれた所で、初めは木の切り株か何かを人と間違えたのかと思ったのだが、
明かりをかざしてよく見れば、僧形をしていた。袿を頭から被った…
旅の途中で僧侶が急の病で苦しんでいるのだと思い声を掛けたところ、その僧は言ったそうだ。
『…傷が…傷が痛むのです。太刀傷が…』
盗賊にでも襲われたのかと思ったが、実成ははっとした。『そなたもしや…!!』
僧侶は立ち上がり、実成たちの元を去っていった。こう言い残し…
『 黙っていてください。 今見たことは… 誰にも… 』
実成と従者は恐怖でそのまま逃げ帰った。例の謀反僧は右近少将に一太刀浴びせられたと聞いていたので、
さてはあの火事から生きていたのかと恐ろしくなり、寝付いてしまったという次第だった。
しかし朝廷に進言しようにも、もしも間違いであったならどんな咎めを受けるかわからず、正体を知られたと謀反僧に殺されるのでは
ないかと怯え、ここ数日は生きた心地がしなかったそうだ。
右近少将である高彬があの事件を指揮していたことを思い出し、
高彬ならこの件を良い方向に計らってくれるのではないかとこぼしていたところを家人が聞きかじり、
こうして高彬を連れてきてしまったのだ、と最後には申し訳なく思うと再び詫びた。
高彬は、実成の判断を労った。おそらく旅の僧が盗賊か何かに襲われ傷を負ったのだろう、
いたずらに事を公にして世間を騒がすより、高彬にだけ報告してくれた判断は賢明だったと。
しかし、もしその僧が唯恵ならば、どうしてわざわざ人前に現れるような事をしたのだろうか。それも太刀傷が痛むなどと…
まさか物の怪怨霊の類ではなかったのか、と聞く高彬に実成ははっきりと否定した。
「わたしは確かにあの僧と話したのです。あれが怨霊や物の怪であるはずがない!あれは生身の人間でした…!」
112 :
代理4/4:2007/07/29(日) 15:36:53 ID:???
実成の家から一度邸に戻ったものの、夜になり高彬は件の西の京、七条に来た。
高彬には腑に落ちない点があった。あの唯恵が生きていたなんてどう考えても納得できないのだった。
「なんか…こう七条のあたりとは、いかにも『出そう』って感じのところですね、若君」
牛車がら降りた高彬に、お付きの政文はびくびくして言った。が、落ちてきた雪の音にすら一番驚いているのは高彬だった。
「おまえたちはここにいろ。ちょっと歩いてくる。松明を」
高彬は政文たちに言った。政文は、高彬をひとりには出来ないから供につく、と言うが、ひとりの方がいい、と高彬は断る。
「それより政文、いざとなったら馬を貸せよ」
そう言い残し、高彬は松明を持って七条の竹林の奥へと歩いて行った。
ところどころに雪を残し、竹林は続く。
高彬は考えていた。実成が見たという僧が、唯恵であるはずはない、と。
唯恵を斬った時、高彬は確かに手応えを感じていた。そして、宣命が下るまでの間ということで、手当ては粗雑だったはずだ。
通法寺には馬で移送したため、唯恵の傷はさらに深まっていただろう。
その傷を負いながらあの火事の中を誰の目も触れずに逃げることは不可能に近い。
しかし、唯恵の遺体らしきものは見つからなかった。かといって、逃げ延びた形跡もなかった。
瑠璃がおとりになって役人をひきつけていた時、高彬は心の中でずっと願っていた。逃げてほしいと。
無理だとはわかっていても、あそこまでした瑠璃のために、唯恵には無事に逃げ切ってほしいと思っていた。
高彬は謹慎中にもあちこちへ人を遣り、唯恵の消息をたどっていたが、結局何も掴めないままだった。
政文は、高彬が唯恵を取り逃がしたことで躍起になっていると思ってか、
焼死体を野犬が喰らったかどこかの河原で事切れ死体は川が流したのだと言っていた。
生きているなら、何らかの情報が入ってくるはずなのだ。なのに、その気配すらまるでない。
(やはり、唯恵は死んだのだ)
高彬は、松明をぎゅっと握り締める。実成が見たのは、単に怪我をした旅の僧侶なのだ。
(でも何かが引っ掛かるんだ。何かが…)
考え事をしながら歩いていたその時、高彬は背後に何かを感じた。
(人の気配…!?)
>>108 そういえばあったね。
高彬突き落とされて差し歯にまでなったのに、寝込んだのに、お腹まで壊したのに
それでも瑠璃さんが好きなんだなあw
かわいい奴だ。
吉野君…生きているの?
でも吉野君は人前で恨めしそうに「傷が痛む」なんて言わなそうだよね。
高彬が死んだと思うならそうに違いないと思ってしまった自分がいる。
うっかりなことはあれど高彬の推測が間違っていたことってなかったよな。
と思ったが、まったく見当違いなことならしょっちゅうある気もしてきた。
実成…ほんとに高彬来ると思わなかったんだろうが
日本語でおk
と強く思った。
>>113 本当だね。高彬って一途だ
瑠璃姫を好きになってくれてよかったな
高彬が一途に他の姫を想ってたら寂しいよ
>無理だとはわかっていても、あそこまでした瑠璃のために、唯恵には無事に逃げ切ってほしいと思っていた。
実際に瑠璃の前に姿を現したら高彬はどうするんだろう。
鷹男より手強いライバルだぞ…
人がいいな高彬。
「唯恵なんて死んでりゃいいんだ」とわら人形作ったっていいと思うが。
>>119 おいw
瑠璃が傷心のままなのが、高彬的にもつらいんだろうよ。
唯恵が生きて瑠璃の前に現れてくれれば、瑠璃もほっとするし報われるだろうし。
現れたその後、恋の修羅場があるかもなんて、考えてないだろw
丑の刻参りw
高彬が釘をコーンコーンやっているところを想像すると笑える。
高彬は自分より瑠璃の気持ちを大切にするだろうね。
これで吉野君に走られたとしても、大人しく身を引いて遠くから幸せを祈るだろう。
高彬の16才っぽいところってある?
髪も薄くなってる品
>>123 前回のママンに責め立てられたり、守弥に逆らえなかったりはガキっぽくてかーいかったぞ。
瑠璃とだったら筆がすべったお許しの歌もらって飛んできたときとか。
>>122 そこまで献身的だとやるせない・・・orz
鷹男にだって渡さないと一度は決心した男だ、いざとなれば強奪してほしいもんだ。
瑠璃のためにコッソリ絵巻物を集める高彬カワユス
ところで人の気配って何だ。
吉野君が現れればいいが…、また変な事件に巻き込まれたら…。
高彬のジャパネスク・ミステリーの巻 第三話
表紙:単衣に袴姿で文を読んでいる途中寝入ってしまった高彬
西の京、七条の竹林で高彬は背後に人の気配を感じ立ち止まっていた。
(確かに…人が、いる)
刀に手をかけ、思い切って振り返った。「誰だっ!」
「わたしです。若君」
(守弥ァ!?)
思いがけない人物に戸惑う高彬。
高彬が邸に帰るなり再び外出したのに気付き、時間も時間だけに、瑠璃の元に旅立ったのだと後を追ってきたのだという。
「この身に替えてもお止めしなければと思っておりましたが…こちらは吉野と関係ないようですね。若君はこちらに通う姫でもおありですか」
嫌味ったらしく言う守弥だった。高彬はすっかり分が悪くなり、「帰る!」と踵を返した。
守弥が後ろに着いてくる中、不貞腐れながら早足で牛車で戻る高彬だった。
(守弥の奴。この分じゃきっと邸に帰ったあとも、何でこんなところにいたんだとかなんとかしつこくきいてくるに決まって…)
がさっ
その時高彬は再び背後に物音を聞いた。同時に、竹林の奥に走り去る、墨染めの陰も…
(例の僧侶か!?)「待てっ!!」
高彬はその後を追おうとした。しかし、雪に足を滑らせ派手に転んでしまう。
守弥が走り寄る中、即座に立ち上がろうとするが、足に痛みを感じてそれが出来ない。
「若君、おみ足を挫かれたのです。わたしの肩に手を…」
「いいから追えっ守弥!!」
自分のことはいいからあの人影を追え、と言う高彬に、守弥は松明を失敬し竹林に消えた。
「顔だ守弥!顔をよく見るんだぞ!」その背中に高彬は叫ぶ。
不安そうに守弥の消えた暗闇を見つめている高彬のもとに、政文たちがやってきた。
「や!おみ足を痛められましたか」「ちょうどよかった政文、馬をよこせ!」
「いけません!そのおみ足では馬は危険です。車をこちらへ寄せろ!若君をお乗せする!」
(ったく!何でうちの者はぼくに対してこうも過保護なんだっ!!)
有無を言わさず牛車に押し込められた高彬は、痛む足を見つめていた。
しかし、先程高彬が見た影は確かに僧侶だった。もしあれが、実成の見たという僧侶だったら…
(守弥にあとを追わせたものの、あいつ、頭脳労働以外は心もとないからなぁ…)
「若君。曲者は取り逃がしてございます」
「……」
やっぱりな、と思う高彬だった。
「おまえに頼んだぼくが悪かったよ守弥」
「そうですね、わたしは頭脳専門で実戦向きではありませんから」
けろりんと言ってのける守弥に、高彬は拳を握って震えるしかなかった。
「…で?顔くらいは見たんだろうな。美しかったか?いくら何でも顔くらいは見たんだろう守弥!」
「…こちらをちらと振り返るのは見ましたが何分この暗闇の中。まして相手は女物らしい袿を被きにしておりましたからそこまでは…」
(女物の袿…!?)
高彬は黙り込んだ。
「若君。遠目とはいえ曲者は僧衣を着ていました。まさかあれは…」
「政文、車を出せ!」
守弥が続けるのを高彬は許さなかった。何か言いたげな守弥と共に、牛車は右大臣家へ戻った。
右大臣家に戻り、高彬は寝床に入った。しかし、眠りにつこうにもなかなか眠れない。考え事はもちろんあの人影のことだ。
あれは本当に唯恵だったのだろうか?唯恵を逃がすとき、人の目を眩ませるため、女物の袿を被らせたと瑠璃は言っていた。
(もし本当に唯恵が生きているのなら)
眠りの床で高彬は考える。
(ぼくは必ず逃がす。どんなことをしても逃がしてみせる)
それが瑠璃と、帝の望みであるからだ、と高彬は思っている。
けど、唯恵ならば、なぜ今頃この京の都にいる…!!
唯恵は瑠璃さんと約束したはずだ。生きて吉野で会うことを。
だから、瑠璃さんは今、吉野で静養しているんじゃないか。
唯恵との約束を信じて 唯恵が生きているというわずかな可能性を信じて…
(わからない。あれはやっぱり唯恵じゃないんだろうか。無関係な旅の僧で…)
それにしても、守弥は実戦向きじゃないとはいえ、こういうことには頭が回る。
右大臣家に戻ってきて大江に足の手当てをされている間中も、何か言いたそうにじとっと側に控えていた守弥のことも思い出していた。
あれがもし本当に唯恵だとしたら、守弥に感づかれては困るのだ。事は帝の身にも関わることゆえ…
高彬の考えは止まらない。眠れなくなって、ごろごろと寝返りを打ち、夜が更けるのだった。
「…ん…」
まぶしい光に高彬は目がくらむ。
(あれ、もう朝なのか…?結局明け方まであれこれと考え事をしていて…)
目を開け、はたと気付く。枕元に守弥が座っていたのだ。
「なんだ守弥。起き抜けから昨夜の話でもしようっていうのか」
バツが悪そうな顔で高彬は起き上がった。
「…それは、そうなのですが」
(だ――〜もうっ!うっとおしい奴っ!!)
高彬は大江を呼び、朝の仕度を始めた。
「故淡路守の邸でも怪しい僧を見たって!?」
守弥の報告に、洗った顔から滴る水を拭きもせず高彬は繰り返した。
昨夜、その邸の庭で人が動くのを見た女房が、確かめるために近付いたところ
『無念です…ただ…無念で…』
そう呟いて、忽然と消えたのだという。
故淡路守の邸は西の京、五条のあたり。ゆうべ高彬たちがあの僧を見た七条に、近いといえば近い位置だ。
「守弥、車の用意だ。故淡路守の邸へ行く!」
高彬は立ち上がった。まだあの僧が唯恵と決まったわけでもないのに、こんな噂が広まってはいけない。
そう思い、大江に着替えをさせている間、守弥が話しかけてきた。
「故淡路守は当主をなくして女ばかりの邸なのです」
「だからどうした」
「僧を見た女房が大騒ぎをしたため、この噂はすでに都中に広まっております」
だからこそこうして若君のお耳に入れることができたのですから、と守弥は言う。
(…ったく、これだから女というのは…!これじゃ前上総介に口止めした意味がないじゃないかっ!!)
心の中で毒づく高彬に、「先年の謀反僧が、無念を晴らすために都に舞い戻った」と専らの噂になっていると守弥は告げる。
「おまえまで根も葉もないことを口にするんじゃない、守弥」
「しかし若君。これも先年の失態を挽回する好機と思えば…くれぐれも御身お大切に」
にこにこ控える守弥に、人の気もしらないで…と眉間に皺を寄せる高彬だった。
「いいえっあれは ぜ っ た い に ! ! 例の謀反僧でしたわっっ!!」
年増の女房に迫られ、たじろぐ高彬が今いる場所は、故淡路守邸である。
「あれが通りすがりの旅の僧ではないかですって?そんなことはありえませんわ少将さまだって通りすがりの僧がどうして
“無念だ”などと申すでしょうそれはわたくしもこのようにか弱い女の身ですから怯えるあまり見間違えたり聞き違えたりしたのではと
少将さまがお疑いになるお気持ちはわかりますわけれどわたくし断じて嘘は申しておりませんわほんとうですのよ少将さま!!」
女房が一気にまくしたて、高彬が口を差し込む余地はない。
「しかし…あなたは今までに謀反僧を見たことはないのでしょう」
「ええありませんわ。でもあれは謀反僧だったのですわ!」
さっきからこの調子で、高彬もいい加減辟易してきた。
「まさか本人が謀反僧だと名乗ったわけでもないだろうに…」
「ええそうですけど、でも一目見てすぐに謀反僧だとわかりましたわ」
一目見て、に高彬は引っ掛かった。袿か何かを被っていたのか、と高彬は聞いた。
そんなものはなかったが、顔を見たのだ、と女房は言う。
「釣燈籠と手燭の灯りでわたくしはっきりと見ましたの。顔一面に…焼けただれたような跡があるのを…」
(火傷の跡…!?)
では、やはり唯恵は生きていたのか?
あの通法寺炎上から生き延びて、今ひとたび無念を晴らそうと、動き始めていると…
吉野君がわざわざ一目に出るわけないと思ってたが、
火傷がひどすぎるせいで錯乱してうろうろしてたりして…
吉野君は京にとどまってるわけない。
だよね、ぜったい、生きているなら吉野へいくはずだ。
吉野君の無念ってなんだよー!!
父院の思いは伝わったはずだし、だとしたら鷹男に恨みなんてもう持ってないし。
瑠璃ともひしと抱き合って満足しただろうし…ってそれで満足いってない?
亡霊にしては生々しいしなあ…。
何なんだろ。
本当に吉野君だったとして、顔に火傷を負ったのなら瑠璃に会いに行けないだろう。
吉野君の綺麗な顔に傷がついたらいけないと、童女の身で野犬に立ち向かい守ったほど。
そんな瑠璃に焼けただれた顔を見せられない、とか。
こんな顔で生き残ってしまった、それが無念、とか。
うぅ、そうなんかな、吉野君なんかな?
でもね、吉野君なら、やっぱり無念とか言わないと思うんよ・・・
と言うか、そう思いたい・・・
んじゃ、これは誰?って言われても答えらんないけど・・・
でも、吉野君だったらちゃんと生きてるってことだよね
有能公達高彬!はやく本物なのかはっきりさせてくれ
ただ単にどっかで火傷した坊さんじゃね?
通宝寺円上で吉野君を助けた腹心の僧とか
>>142 ソレダ!
それなら無念というのもうなずける。
トン切りスマソ
このジャパネスク・ミステリーって、扉が毎回高彬だけど
最初はきちんと直衣着てたのが→脱ぎかけ→単衣ってだんだん脱いでってるよね。
夏の連載にあわせてのファンサービス?
どこまで脱がせるんだ?
そりゃあおまえふんdry
過保護にされてる高彬、情けなさ過ぎてかわいいな高彬
高彬のジャパネスク・ミステリーの巻 第四話
表紙:小袖姿の高彬の後ろ姿。手には太刀を持ち、こちらを振り返っている。
謀反僧が生きていたという噂は あ っ という間に都中に広まってしまった。
なまじ出歩かないだけに女というのは手当たりしだいふみを書き散らすらしく、その情報網は多岐にわたっていて始末が悪い。
故淡路守の女房の話に信憑性があったことも確かだが、元々唯恵についての情報が不足していたことも、噂の伝播に拍車をかけた。
都人の噂はともかく、宮廷の中枢にいる公卿までもが、高彬に噂の真偽について問い詰める調子だった。
「ぼくはぜったい物の怪だと思うなっ!!祈祷僧を呼んでちゃんと祓ってもらうべきだよ!高彬だってそう思うだろう?」
と力説するのは、瑠璃の弟の融である。
そんなこんなで、噂に振り回され、頭が痛い日々を送る高彬だった。
しかし、噂が広まってはいるが、唯恵が帝の異母弟であったことや、瑠璃と唯恵の関係などの肝心な情報は流れていないのが幸いだった。
問題は、高彬が七条ではっきりと見たあの生きた人影が唯恵なのかどうかということだ。
「ほんとうに、たいへんなことになりましたわね、高彬さま」
二条堀川の邸を訪ねた際、藤宮が高彬に言った。高彬は頷くほかなかった。
「わたくしも、かの折のことは帝から伺いました。弟君であらせられたとか…」
その美しい顔に翳りを見せ、藤宮は言う。謀反の時、帝も高彬もそれを知らず、すべてを知った時にはすでに唯恵は…
「そのときの帝のお苦しみはたとえようもありませんでしたわ。お気の毒に、おいたわしくて…」
そう述べる藤宮も苦しそうな表情を浮かべた。
そこへこの事件である。帝はすっかり気持ちが塞ぎ、後宮に籠もりがちになってしまっているという。
今日高彬を藤宮邸に招んだのも、帝の気持ちを考えると藤宮はいてもたってもいられないからであった。
なぜ高彬はその謀反僧の招待を調べてくれないのか…そう問い詰める藤宮に高彬は言う。これは帝の内意なのだと。
正式に高彬が動くことになれば、万が一唯恵が生きていた場合、追捕の命を下さなければならない。
しかしもし唯恵ではない場合、都をこれだけ騒がせている以上放ってはおけない。帝も板ばさみ状態で深く悩んでいるのだ。
高彬たち近侍の者達も、こんな噂を帝の耳に入れまいと気を付けていたが、とうとう帝まで知るところとなってしまった。
京中では既に、帝から怪僧探索の命令が下らないことを不思議に思い始めている。
帝自身が、つらい立場に立たされているのだ。
「…あなたは、どうお思いなの高彬の少将。率直に言って、唯恵は生きていると思いますか」
藤宮の問いに、高彬は真っ直ぐに答えた。唯恵は…
「唯恵は、生きていると思います」
答えに、藤宮は扇を鳴らし、側に控える女房達を下がらせた。
御簾を挟んで藤宮と高彬ふたりきりになり、藤宮は改めて聞く。それが高彬の考えであるのか、と。高彬は答える。
唯恵を斬った時、手応えはあった。そして手当ても粗雑だった上にあの火事だ。それでも生きているかもしれないし、そう願ってもいる。
「だが、今京中を騒がせているのは、唯恵ではない」
藤宮は思いがけず驚いた。なぜ、唯恵ではないと、そう思うのか…。
「唯恵がもし生きているのなら、どんなことをしてでも吉野へ向かうはずだからです」
吉野へ…瑠璃との約束を果たすため、吉野へ行くはずなのだ。高彬はそう信じていた。
藤宮はなおも疑問を重ねる。
なぜ吉野へ向かうのかはわからないが、もしそうであっても、この京のどこかで傷の養生をしているとは考えられないのか、と。
高彬もそれは考えてみた。
しかし、その僧が唯恵ならば、なぜ人前で『無念だ』などと言い残す必要があるのだろうか。
「唯恵はただの謀反人ではありません。唯恵には晴らす無念などすでにないはずなのです」
高彬は自信を持って言う。だからこそ、瑠璃と約束したのだ。生きて、思い出の吉野で会うのだと。
その唯恵が今頃無念だ何だのと言って現れるわけがない。高彬は確信していた。
藤宮は、高彬の強い言葉に、まるで唯恵の心がわかっているような話し方だ、と言った。でも、本当にそうかもしれないとも思った。
「あの謀反は本来、愛情のこもった兄弟喧嘩になるはずのものでしたもの」
帝が帝であらせられなければ…唯恵が前の帝の子としてお育ちになっていれば…
そう言う藤宮の表情はたいそう穏やかだった。
しかし、当の帝は世上の噂を信じてしまっている。まだ弟宮の唯恵が帝を怨み、無念に思っているのだと深く自身を責めている。
その様子を見ている高彬は、とても不確かなことはいえないのだった。
けれど、この噂の僧は物の怪ではなく生きた人間だと言うことだけは確かだった。証言した者達の言葉にも嘘はないと思っている。
『無念だ』『傷が痛む』などの証言の内容は、以前から流布していた唯恵の噂話から容易に想像のつくものばかり。
顔の火傷というのも、美僧であった唯恵の顔を隠すための細工なのではないか、と高彬は考えている。
「細工などと…いったい何のために?いたずらにしては性質が悪すぎます!」
高彬の考えを聞いて藤宮は険しい表情をした。
高彬も、何のためかはわからない。しかし、僧形という目立つ姿で世間を騒がせておきながら、どこに潜んでいるか全く気配を見せない。
盗賊の仕業だとしても、逆にここまで噂になっては得策ではないはずだ。
ならば、僧ひとりの力で、ここまで気配が消せるものだろうか。
「…まさか、協力者が、いると?」
藤宮の言葉に高彬は、たぶん、と答えた。
その僧が何を目的として唯恵の名を騙るのかはわからない。しかし、この騒ぎの裏には誰かがいる。これが高彬の今の考えだ。
「そしてその僧はたぶん、貴族に匿われているとわたしは考えるのです」
藤宮は、ほほほと笑った。
「それは考えすぎというものですわ、高彬の少将」
その考えだと、まるでまた何かよからぬ謀が進められているようではないか、と藤宮は反論する。
それが問題だ、と高彬は思っているのだが、これ以上帝を煩わせるようなことを持ち出したくはないので、まだ帝には進言していない。
「では、今後もそのように。よろしいわね、少将」
藤宮とはそれっきりだった。
右大臣家に戻り、自室で高彬は考えている。
夜食か何か必要かと尋ねてきた大江を思わず怒鳴って追い返してしまうほど、考えが煮詰まっている。
唯恵についての情報を知っている藤宮さえあの調子なのだ、ほかの誰にこの話を説いても無駄だろう。
しかし、高彬には確信があるのだ。唯恵と瑠璃を知っているからこその確信が。
(出没している僧は唯恵ではない。瑠璃さんが命を賭けて助けた唯恵という男が、そんな人間であるはずがないんだ…!)
では、誰だというのか。唯恵が生きていることを世間に知らせることで得をする人間とは…
「若君」
高彬の思考を中断させる者がいた。
「大江をお叱りになったとか。何か不始末でもありましたか」
たまに高彬の機嫌が悪いと、すぐこーやって様子を見に来る、過保護な守弥であった。
高彬は、守弥に尋ねてみた。もし謀反僧が生きているとすれば、何をすると思うかを。
「まずもう一度謀反を企むのが普通でしょう」
(…やっぱりな)
それが一般的な普通の考えだろう、と高彬は思った。しかし、と守弥は続ける。
「これは申しあげてよいかどうか迷うのですが…」
「何だ。言ってみろよ守弥。おまえ頭脳労働は得意なんだろ」
高彬は先を促した。そして守弥はおもむろに言う。
「わたしが思いますにその謀反僧、若君の命もまた狙うかもしれません」
守弥カコイイ。
藤宮さまは瑠璃と吉野君のことを知らないからなあ。
吉野へ行くはずなんて言われても、納得は出来ないわな。
後宮に籠る鷹男カワユス
守弥がすごく怪しい気がする…
急に出てきたのにすごい存在感だし
唯恵の事件の真相を知らなくて
瑠璃姫を嫌ってて
腹の中に色々含んでそうで
頭きれる感じだからいかにもなんか手の込んだ
計画たてるの上手そうだし。
動機は…うーん失態した高彬の名誉挽回のためにとか?
高彬…完全に脱いでるな、こりゃ
高彬のジャパネスク・ミステリーの巻 第五話
表紙:憂い顔の高彬。小袖の胸元がはだけ、鎖骨が見えている。
「…唯恵が、ぼくの命を狙うって… どうしてだよ守弥っ!」
「これは、意外な」
思わず詰め寄る高彬に守弥は続ける。
謀反僧に致命的な一太刀浴びせた高彬に、その怨みを晴らすため命を狙うのは順当。
まして警護の固い帝を再び傾けんとするよりは、高彬を狙うほうがまだたやすいではないか、と言ってのけた。
確かに、唯恵がなぜ帝に刃をむけたのか、謀反事件の真相を知らない者なら守弥と同じ考え方をするだろう。
しかし、高彬は真相を知っているし、決して高彬を狙うような人物ではないこともわかっているのだが…
「謀反僧が生きていたら、ぼくを狙う…か」思わず高彬は息を飲んだ。
「ですからあの時申し上げました。御身お大切にと」
以前言われたその言葉はてっきり汚名返上しろということかと捉えていた高彬は、守弥の思いがけない優しさに、戸惑ってしまうのだった。
守弥は、急にそんなことを聞くということは、何かそれらしい兆候でもあったのかと聞き返すが、高彬はそれをかわした。
「若君、お顔の色がすぐれませんね。早くお寝みになられますよう…大江!若君の寝間の御用意を」
かわされた質問に過保護で返す守弥に、一瞬でもいい奴だと思ったことが悔しくなる高彬だった。
寝間に入り、高彬は再び考えに耽る。
唯恵が生きていれば高彬を狙うなど、自身は考えもしなかったが、世間ではそう考えているようだ。
逆に、今高彬に何かあればそれは生きている唯恵の仕業だということになる。まさか犯人はそれが目的なのか…
昼間の藤宮の言葉がよみがえる。確かに考え過ぎているのだろう。ごろんと寝返りをうつ。
(瑠璃さんが、吉野にいてくれてよかった)
今都にいたら、高彬が止めるのも聞かず、這ってでも真相究明に乗り出すに決まっている。高彬は思わず冷や汗が流れる。
(それでも)瑠璃の姿が思い出される。
(春になったら帰ってきてほしい。
その頃には、瑠璃さんの怪異の噂もおさまっているだろう。
体の傷も、心の傷もすっかり直して、いつもの元気な瑠璃さんに戻って… 帰って きて…)
眠りに落ちる直前だった。
(部屋の中に誰かいる―――――!?)
寝間にいる高彬の背後に、人の気配を感じたのだ。
『謀反僧が若君のお命を狙うのは順当…』
守弥の言葉が浮かぶ。
背中越しに、かたんと音がしたのをきっかけに高彬は飛び起きた。
「誰だっ!!」
起き上がった高彬に驚き、人影は後退しようとした。そこを逃がさず袖を掴むが、力任せに振り払われてしまう。
掴んだ手が離れ、高彬は几帳にぶつかり、大きな物音を立てて御簾まで巻き込み倒れこんだ。
その隙に逃げようとする影に、高彬は背後からしがみつく。拍子に相手は倒れ、高彬もつられて再び派手に倒れた。
倒れた相手を高彬はすばやく押さえ込んだ。
首元を掴み、逃げられないように締め上げる。
「何者だっ、唯恵じゃないな!言えっ 唯恵じゃないだろう!!」
ぎりりと、首を絞める力が強くなる。相手はか細いながらも言った。
「…ちが…う… 唯恵じゃ…な…」
(やっぱり…!!)
高彬はほっとし、思わず首にかけた力が緩んだ。それを相手は逃さなかった。
腕を伸ばし高彬の顎を捉え、思い切り自分の体から突き放した。
油断していた高彬はみたび倒れ、その間に相手は庭を駆け抜け走り去ってしまった。
「守弥っ 政文! 賊だ、起きろっ!! 兼助! 将人!!」
高彬の声に、右大臣家の家人達がざわざわと姿を現した。
一番に高彬の元へ駆けつけたのは政文だった。
「若君っご無事ですか!?賊はっ!?」
「馬鹿っ逃げたに決まっている!誰か追った者はいないのか!」
「そういえば守弥が、厩のほうに駆け出すのを見ましたが…」
「どうしておまえが行かなかったんだ馬鹿者っ!!」
高彬の叱咤に、政文始め他の家人も、ばたばたと守弥が行ったと思われる方向へ向かった。
(くそっ追って行ったのが守弥じゃまたまかれるに決まってるんだ!)
高彬は思わず壁を拳で殴りつけた。
「た…たた…高彬さま…っ!!」
駆け付けた大江が、高彬の部屋を灯りで照らし声を震わせている。
見ると、御簾は引きちぎられ几帳は倒れ寝間は荒れ… 部屋の惨状に大江は腰を抜かしつつも、高彬の身を案じた。
「お怪我はありませんでしたかっ!? 賊は何人だったのでございます!!」
「…ひとりだ」
(そして僧だった)
高彬は、襲った人物を思い出していた。
(あの暗闇の中で、ぼくの手は何度も賊の頭に触れた)
しかし、あれは唯恵ではなかった。都を騒がせている怪僧は、唯恵ではなかったのだ、と高彬の考えは確信へ変わった。
だがそれは誰なのか、なぜ高彬を狙うのかまではわからない。
高彬が狙われればそれは当然謀反僧の仕業ということになる。
唯恵が生きているという噂を立て都を騒がせたのも世間にそう思わせるためだろう。
(真相は、もっと簡単なことなのかもしれない)
高彬は思い直す。事の発端は、単に謀反僧が生きていたということだ。だがこの騒ぎで得をする人間なんて…
………いないわけでもないが
(それこそ考え過ぎというもので…)
「…若君、賊は…その、途中で見失ってしまいまして…」
政文たちは言い辛そうに高彬に報告した。
高彬も、必要以上に咎めず今夜はこれで退がらせた。
しかし、皆が下がっても守弥だけはその場を動かなかった。
「どうした守弥。お前も退がっていいぞ」
そう言う高彬に、守弥は少しためらいながらある物を差し出した。それは、布切れだった。
「馬で逃げる賊を追い、かなりの距離まで近付いたのですが、手に触れた衣を引きちぎるのが精一杯でした」
(まあ…守弥としてはほんとーに精一杯だったんだろーけど…そこまで近付いたならせめて飛びつくとかなんとか…)
ぶつぶつ思いつつ、守弥が差し出したその布の切れ端を手に取った。
「あれ?」
高彬は思わぬことに気付く。
「この染め、見覚えがあるな」
「あって当然です」
守弥は少し怒りながら答えた。
「この朽葉色の練絹は、先年こちらのお邸で常陸の方の荘園に染めに出させたものなのですから。
珍しい染めなので、北の方さまが白絹をいくつか染めさせたので覚えておりましたが…」
守弥の話に、高彬は思い当たることがあった。
(あの馬鹿…っ!!)
まだ話の途中にも関わらず、高彬は立ち上がる。
「守弥っ馬を引けっ!! 乗り込んでやるっ!!」
怒りに震える高彬であった。
途中まで
うん守弥が怪しい、賊を取り逃がしたり気をつけろといってみたり
でも怪しすぎる新登場キャラはないかなぁ
と思ってたら急展開
どうみても守弥の罠です、本当にありがとうございました。
次回は裸だw
あの馬鹿?
得をする人間って誰??
全然思い付かないんだけど
「馬鹿」って言葉から察するに、高彬より身分が低いor年下or対等な人物なんだろうけど。
今まで出てきた人でそれに該当する人いる?
まさか右大臣家の家人じゃないだろうし…。
絶対守弥が犯人だと思ってたけど、
「あの馬鹿」?高彬がそんな口きく人物ってほとんどいなそう。
家臣が一番可能性高いけど出てきたのは守弥、大江、政人くらい。
守弥じゃないとなるとあとは政人しかいないよなあ…
実成は身分は低いけど、ご老人をあの馬鹿よばわりする人間じゃないし。
つ【融】←あの馬鹿
他にいねえし
姉の名誉挽回か藤宮様目当てとみた
祈祷してもらうべきとか力説してたのがなんか……
そうだとしても融が右大臣家の布をどうやって手に入れたか。
てか確かに融は馬鹿キャラだが、親友の寝所襲うかあ?
>>158 それだ!
融が藤宮様にええかっこ見せようと思って仕組んだってところか。
活躍する前に高彬に感づかれちゃったか。
次の表紙は高彬のヌードですね
+ +
∧_∧ + ワクワク
(O・∀・) + テカテカ
(O∪ ∪ +
と__)__) +
あの馬鹿っていわれて1番しっくりくる人物ではあるんだよなw
でも融と唯恵の接点がわからん…
高彬のジャパネスク・ミステリーの巻 最終話
表紙:幼い頃の高彬と融がじゃれている。
ここは真夜中の内大臣家。高彬は、幼なじみの融を睨みつけていた。
その剣幕に押される融の後ろには、やはり雰囲気にびくついている旅支度の僧侶がいる。
「…だからぁ、ぼくだってまさか、こんな大事になるなんて思ってなくて、それもこれも姉さんのためでもあったわけで、
何もそんなに怒ることないじゃないかぁ高彬ぁ」
「これが怒らずにいられるかっ馬鹿ッ!!」
だってえ〜とぐすぐす涙目の融だが、高彬が泣き落としにかかるわけはなかった。
「この布は先年右大臣家で特別に所有の荘園に染めに出させたものだ。あんまりきれいだったもんだから、
ぼくは母上に内緒で一反かすめて瑠璃さんに贈ったのに、何でぼくを襲った人間がその布を被きにしていたんだ!」
高彬は融の直衣の胸倉を掴み詰め寄る。
「さあ言ってみろ融、なんでこんな騒ぎを引き起こしたんだ!? 言ってみろよっ!!」
融はべそをかきながら答える。
「だから、姉さんのためなんだってばぁ」
「瑠璃さんの?」
融の言い分はこうだった。年はとっくに明けたというのに、京中でも都でも瑠璃のヘンな噂はちっともおさまらない。
当の謀反人の話はそっちのけで、都人は瑠璃のことばかり物の怪憑きだのアタマが変だのと言う、
そんなのはあんまりだと融はやきもきしていた。
確かに瑠璃はもとから変な姫だといわれてたから噂になりやすいのもわかるが、
謀反僧が生きているということにすれば、そっちの方に気を取られ、都人が瑠璃のことを忘れてくれるのだと思ったのだった。
融の話に、高彬は頭を抱えた。
「おまえ…謀反僧が生きていることになれば、宮廷や衛府が動き出すとかって考えなかったわけ?」
「うん」
「………」
あまりのあっけらかんぶりに高彬は閉口した。
融も、初めは謀反僧の噂がちょこっと立てばいい、くらいに思っていたのだそうだ。
それで、善修と共に臆病そうなおじーさんを脅してみたのだが、臆病すぎて噂のうの字も出なかったのだ、と横の僧侶が続けた。
その時初めて高彬は横にいた僧侶に気を向けた。
「お前は?」
「はい、善修と申します。母が若君の乳母を努めたおかげで父は伊予守にまでなれまして、わたしは発意あって出家した身ですが、
若君のお頼みとあればいつでも御恩に報いようと思っておりましたのでこのようにお助け申し上げたしだいですともかく今度は
確実なセンを狙い女ばかりの邸でひと芝居打ったのですが逃げる途中で人に追われたりと
大変でした何しろ謀反僧は美形だと言うので顔に丹の粉を塗って火傷に見せたり小道具立てにも凝ってみまして…」
(何が小道具だ、出家したなら寺の奥にでも引っ込んでろっ!!)
ぺらぺらと喋る唯恵とは似ても似つかない善修(ゼンシュ)に、高彬は怒りで震えが止まらなかった。
「だいたい善修もやり過ぎたんだよ。おかげで話はどんどん大きくなっちゃってぼくも―」
と善修を諌める融を、高彬はギロッと睨みつけた。
どうしていいか…と、しゅんとなってしまった融を見て、高彬はふぅっと小さくため息をついた。
謀反未遂事件の真相を知らない融は、謀反僧唯恵が生きているという噂を耳にして、一番心を痛めるのが瑠璃だということもわからないのだ。
しかし、軽い気持ちでやったこととはいえ、よくよく考えれば宮廷中が動きそうになるとわかりそうなものなのに
(あと先考えず行動に移してあとで呆然とするとこなんか、瑠璃さんにそっくりだよ)
頭を押さえる高彬であった。
「それで?なんで今夜ぼくを善修に襲わせたんだ」
高彬の問いに、融は控えめに答える。謀反僧が生きているという噂が立った以上それはもう仕方がないから、
そいつは高彬に怨みの一太刀を浴びせどこかに消えましたってことにしようとしたのだそうだ。
この筋書きならば都人も納得するだろうし、すべて丸く収まるものと…
「ちょっと待てよっ!丸く収まるって、怨みを晴らされるぼくはどうなるんだ!!」
「そこはそれ、腕の一本でも怪我をしていただくということで」
融も明るく答える。そうすれば噂にもケリがつくだろうし、瑠璃の噂も消えるだろうし、高彬ならそこんところをわかってくれるだろうと思い…
「わかるかそんなりくつっ!!」
高彬の怒りは頂点に達した。
「だいたいそいつの旅仕度は何だ!あとのことはどうするつもりだったんだ!!」
融は、このままじゃ善修はつかまってしまうかもしれない、善修は悪くないのだから、早く国元の伊予に逃げたほうがいいと思ったのだそうだ。
その答えに高彬は呆れた。
「それで、あとのことはどう始末をつけるつもりでいたんだ融」
高彬がそう聞くと、融と善修は顔を見合わせた。そして高彬の方に涙目で視線を戻し、言う。
「どうしたらいいと思う?高彬…」
(こいつら…)
ぐらりんと眩暈さえしてしまう。
(まとめて宮廷に突き出してやろーかっ!!)
高彬の怒りを読み取り、融と善修はすっかり怯えてしまった。
「若君」
部屋の外から声がする。高彬はこの声は…まさか、と思い戸の外に出た。
「守弥っ?!」
なんとそこには、雑舎に控えていたはずの守弥が座していた。
守弥は、ただ事ではない高彬の様子に、その身に何かあってはと思い先ほどから部屋の側に控えていたのだ。
「先程!?じゃあ今の話…」「はい。すべて」
高彬はがーんと青ざめる。
「若君は本当に良い御友人をお持ちでいらっしゃる。その御友人のためこの守弥、策をお授けしてもよろしゅうございますよ」
そう言う守弥に、背後で融の喜ぶ声が聞こえる。
「わたしは実戦向きではありませんが、頭脳専門ですから…」
守弥の皮肉に、高彬は歯をくいしばり震えて聞くしかなかった。やはり背後では、融が善修と小躍りしているのがわかる。
(ああ…もう、どーとでもなれッ!!)
翌日。都には新たな噂が広まった。右大臣家に、僧形の賊が侵入したというものである。
子息の右近少将に捕らえられたその賊は、なんと謀反僧が生きているという噂で人心を惑わし、その隙にひと暴れするつもりだったと白状した。
だが、役人に引き渡そうとした矢先、その賊は逃走してしまった。
あわてて聞き出しておいた隠れ家に踏み込んだものの、僧衣や女物の袿、丹の粉があっただけで、すでにもぬけの殻だった。
その報告を受けた衛門府は直ぐ様検非違使を捜索に出動させたが、賊はどうやら西の摂津方面に逃げたらしいことがわかったのみだった…
二月になったある日、高彬は二条堀川邸の藤宮を訪ねていた。
「本当にその賊とは、唯恵ではありませんでしたの、高彬さま…」
御簾越しでもわかる美しさを湛え、藤宮は高彬に問うた。
「ですから、申し上げました。あれは唯恵ではなかったのです。わたしは決して嘘は申しておりません、藤宮さま」
けれど、ほんとうは…と疑り深い藤宮に、本当も何も、自分はその男の顔を見た、色の浅黒い丸顔の男だった、と事実を語った。
高彬がそう言うならそうなのだろう、と、藤宮は安堵とも取れるため息をつく。あまりに話がきれいに片づきすぎて逆に不安なのだ。
帝も、同じことを言っていたことを思い出す。未だに高彬を毎日のように召し、問いただすくらいなのだ。
顔を見た、という高彬が、唯恵ではない、と繰り返している。
悪知恵の働く小盗賊だったのだろう、と一度は納得するのも束の間、
「しかし高彬、顔を見たというのは確かなのだろうな、わたしを騙しているのではないか。ほんとーにほんとだな」
と、また同じ話に立ち戻って詰問する。帝の下問に答えないわけにはいかず、同じ言葉を繰り返すことになるのだが、
(最近はなんか、ぼくが言葉に詰まって困っているのをご覧になって楽しんでおられるフシが…)
考えすぎなかぁ、と高彬は頭を悩ませる。
しかし帝も、この事件では心を痛めていたので、以来怪僧が現れぬとは言え、やはり気になるのだろう。
「わたくしも、高彬さまのご様子が、何やら歯切れが悪くてきになるのですけれど」
と、藤宮の核心をついた言葉にぎくりとする高彬だったが、藤宮は、「瑠璃姫のおためにも」これ以上尋ねるのはやめる、と言う。
「わたくし、昨夜瑠璃姫の夢を見ましたの。懐かしゅうございましたわ。夢の中で、とてもお元気でいらして」
藤宮の話に、高彬は照れる。
今まではいろいろと悪い評判や噂もあったが、妙な賊僧の騒ぎでいくらかはまぎれただろう、瑠璃も帰りやすくなったのではないかと藤宮は続ける。
「この怪僧騒ぎ、瑠璃姫のおためにはよかったのかもしれませんわね、高彬さま」
穏やかに微笑む藤宮だった。
藤宮の言うように、穴だらけとはいえ、融の目論見は成功したといえるだろう。
(ぼくの苦労は増えたけど)
右大臣家に戻った高彬は複雑な気持ちだ。
文机を見ると、一通の文が届いていた。それは、現在絶交中の融からだった。
(また融の奴、謝りの文を届けてきたのか。あいかわらずきったねー字)
ばさっと文を放り出し、高彬は改めてため息をつく。
日に何度も帝のもとに召され、同じ事を何度も詰問されるだけでも心苦しいのに、今日みたく藤宮にまで同じことを聞かれると、
せめて藤宮にだけは何もかも話してしまいたくなる高彬だが、
(まあ融が藤宮さまに片思い中だから、こんな話ぜったい言えないけどさ)
とどこか甘いのであった。
それに、つらいのはそれだけではない。一番こたえるのは…
「若君」
そこに、守弥が現れた。
「内大臣家の大夫の君、融さまからお文が届いておりましたが、お返事をお書きになるのでしたらわたしがお届けいたしますが」
(これが い っ ち ば ん こたえるんだ!)
いや、いいとげんなりする高彬に、守弥は書かないのか、とわざとらしく聞き返す。
「融さまも、 姉 君 のことをお考えになっておやりになったことなのでしょう。それゆえにこうして毎日のように若君に謝罪のお文を遣わされる」
「…」
「ああいう 姉 君 をお持ちになられると、弟君もご苦労が絶えませんね。わたしもお察し申し上げます」
「……」
「しかしこう申しては何ですが、 姉 君 が 姉 君 なら弟君も弟君、世の常識からはずれたことをなさるところもよく似てらっしゃいますね」
「………」
「さすがは あ の 瑠 璃 姫 の弟君で…」
「守弥」
耐えかねてようやく高彬は遮った。そして、疲れているから退がってくれと守弥に告げる。守弥は、不敵な笑みを浮かべ退出した。
守弥が出て行き、高彬はため息をつきがっくりとうなだれる。
あの夜からいっつもこうだった。今回の事件まですべて瑠璃のせいにして嫌味の言いたい放題なのだ。
かといって、収拾策を授けてくれたのが守弥だけに、この件に関しては頭が上がらない高彬は、ただ耐えるしかなかった。
いくら世間で瑠璃の悪評が消えたとはいえ、ご意見番の守弥がああでは、
母が高彬と瑠璃の結婚に賛成してくれるなんてありえなくなってしまった、と、気分がどんよりしてしまう。
高彬はごろんと横になった。
(あーあ。瑠璃さんに 会いたいな…)
目を瞑り、瑠璃の笑顔を思い出していた。
(今すぐ行けるものなら吉野に行きたい。行って、瑠璃さんに会いたい…)
まあ、守弥が見張っているからムリだろうと高彬は現実を思い出す。
でも、今回のことをグチったりしたら、瑠璃のことだ、
『高彬ってなへんなとこ頼りないんだから。しっかりしなさいよね!』と、高彬の背中をばん!と叩くことだろう。
(口と手が同時に動くような人だからなあ)
想像に、高彬は思わずくすくす笑みが漏れてしまう。
唯恵も、きっとどこかで生きてこの噂話を聞いたかもしれない。
(融のしでかしたこのバカ騒ぎを聞いたに決まってるんだ…っ!! あ――っ、今考えても腹の立つっ!!)
と、いうわけであいもかわらず頭の痛い日々の続く、高彬くんなのでありました…
177 :
おまけ中将:2007/08/03(金) 22:08:44 ID:???
大夫の君(たいふのきみ)…位が五位の者のこと
藤宮様、スルドイ。
鷹男にも守弥にもいびられる高彬、イ`
腕の一本ぐらいって…バカなだけじゃなく鬼畜だった融。
瑠璃のために右大臣家で染めに出した貴重な衣織物をかすめるなんて、やるじゃん高彬
馬鹿もココまでくると愛らしいな・・・と遠い目で。
融も単なる坊っちゃんじゃあないぞ、別の意味でだが
腕の一本でもって融ヒドスw
そんな融の悪行を藤宮さまに言わない高彬、優しいなあ。
(今すぐ行けるものなら吉野に行きたい。行って、瑠璃さんに会いたい…)
高彬、可愛いよ高彬。
今回の表紙、、、
そりゃカワイイし話の内容ともリンクしてるけどさ
山内センセイのけち!!!
山内先生…こりゃないよ
ひどいよ 期待してたのにー
(゚Д゚;≡;゚Д゚)は、ハダカは!?高彬のハダカは?!?
まだ瑠璃にも見せてない裸体を
そうそう読者に見せてはくれんだろう。
高彬付きの女房は見まくってるんだろうな<裸
瑠璃は子供の頃一緒に水遊びしてたりして。
いつのまにか高彬の需要が増えたな
192 :
粗筋中将:2007/08/04(土) 22:03:49 ID:???
ジャパネスク・スクランブルの巻
----------
わたしの名前は守弥という。ちなみに22才だ。
父は大江氏の末流、紀伝道の学者であったが、貴族の生まれとはいえその末端では将来もタカが知れようというものだ。
しかしわたしは身分低い家に生まれたことを恨むでもなく、かといって愚かな大望も抱かないませたペシミストの子供であった。
(うまく立ちまわっても受領どまりがいいとこ。しょせん殿上人とは住む世界が違うのさ)
わたしが5歳の時、母は妹の大江を生んだ。生まれた妹を見て、(げーっグロテスク…)と思ったものだ。
そして同じ時期、右大臣家でも出産のあったことから、
乳の出のよかった母は乳母として右大臣家に妹のみを連れて移り住んだのであった。
わたしは男だったので父と残り「父上泣かないでください。これで少しは家計がラクになるのですから」と父を慰め、
母とは年に数回会うのみの生活が続いた。
しかし、その父もわたしが10歳の時病死した。
琵琶をたしなみ、文学を愛するよい父であった(一生うだつのあがらない人だったが)。
わたしは、右大臣家にいる母の手元に引き取られることになった。
ところが右大臣家の子息達は権門の出であることをひけらかし、横柄にわたしをからかったのである。
「貧乏学者の子のクセしてエラソーだな!」「いっつもすましてやがる」「ちゃんと働かないと追い出されるんだぞこいつ!」
(なんだいあいつら。ロクに漢字だって読めない能なしのくせに)
あはははと笑う子息達の声を背に、わたしは溢れる涙を拭った。
(もう いやだ。 あんなバカ達に一生頭を下げるくらいなら、こんなとこ出てってやる。家出してやるんだ…!!)
だが、さすがに右大臣家は広かった。
すっかり迷子になってしまったわたしは、邸のどこともわからぬ床下で膝を抱えて過ごさざるを得なかった
なぜこんなに広いのかと、知らぬ間に声を押し殺し泣き出してしまった。
193 :
粗筋中将:2007/08/04(土) 22:04:50 ID:???
その時、黒い影が近付いてくるのが見えた。野犬かと怯えたが、その影は声を発した。
「どしたの?」
よく見ると、子供だった。
「ないてるこえしたの。だからぼく、きたのよ。ね、どっかいたいの?」
ねえ、いたいの?と聞いてくるその子供を、あっち行けよ、と怒鳴り返してしまった。
すっかりしょげたその子供は、どこかに行ってしまった。
(ふん。どうせ下働きの子か何かなんだ。じゃなきゃ、誰がぼくのことなんか…)
「ねぇ、いたい?」
ふたたび声がして振り返ると、いつの間に戻ったのか先ほどの子が心配そうな顔でわたしを見ていた。
(帰らなかったのか?あんなに怒鳴ったのに…)
そう思うとふと心が緩んでしまったわたしは、その子供にこう言った。
「違うよ、痛いんじゃない。おにいちゃんはね、寒いんだ」
(たったひとりで、寒くって…)
泣きそうになりその先を続けられないわたしに、その子供は手を伸ばしてきた。
ぴとっと頬に手を当てたかと思うと、わたしの首に抱きついたのだ。
「ほら。これでさぶくない。ね?」
さぶいならいいね、いたくないからいいね…
そういう子供の体温を感じ、わたしはいつの間にか床下で眠りに落ちていた。
翌朝目覚めると、すでに子供の姿はなかった。
夢だったのか?ふしぎに思いながら床下から外に這い出た。
「まあ守弥、縁の下で何をしていたの」
母上が簀の子に立っていた。その母上の陰から、ひょこっとあの子供が現れた。「もう、さぶくない?」
たたたっと走り去ってしまったその子供について、母上に尋ねた。
「わたくしが乳母のしてお育てした若君、当右大臣家の第4子、高彬さまですよ」
あのお子が、若君…
194 :
粗筋中将:2007/08/04(土) 22:05:51 ID:???
「若君はお理髪でお優しくてね、大臣さまも北の方さまもことのほか可愛がっておいでなのですよ。
ただそのせいか、上の兄上さま達には妬まれておいでのようで…」
昼間の母上の言葉を思い出し、わたしは腹立たしい気持ちで寝間に入っていた。
そこに、がたたと音を立て、何かを抱えた若君がやってきたのだ。
はい、と言って若君がわたしに渡されたものは温石だった。
「これね、“おんじゃ”。これならさぶくないでしょ?ね?」
とにこっと笑われる若君にわたしは涙が溢れ、若君をお抱き申し上げた。
驚かれた若君は、まださぶいのかとお聞きになった。
「…いえ、もう充分に暖かくなりました。若君は、いいお子だ。いいお子です…」
(ほんとうに、思いやりのおありになる…)
わたしの言葉に、若君は表情を曇らされた。
「いいこでないの、ぼく。おじゅうじきらいなの。ばばやがしかるの。もりやは3つでじがスラスラよって」
「ではね若君、守弥が字をお教えいたします。字以外にも、守弥ができることなら何でもします!」
名手だった父の直伝の琵琶もお教えすると申し上げた。
「おにいちゃんがもりやなの?」
若君はお聞きになる。そうです、とお答えする。
「もりや?」「そうです、若君」「もりや…」
若君が5歳、わたしが10歳の時のことである。
わたしはその時に誓ったのだ。この若君のために身を尽くしてお仕えしよう。
兄上達や他の誰からもお守りし、きっとすばらしい公達にお育てしようと。
そしてあれから12年。
若君はわたしの望み通り順調に位を進められ、今は帝の御信任も厚い右近少将。
若君には前途洋々たる栄耀栄華の人生が待っているはずだった。
そう。その ハ ズ だったのだ。
あの内大臣家の瑠璃姫さえ若君の前に現れなければ…!!
195 :
粗筋中将:2007/08/04(土) 22:06:52 ID:???
「どうしたもんかのう、守弥…」
はぁーっとため息をついておられるのは、この家の右大臣殿だ。
話は内大臣家の瑠璃姫のこと。
去年の三条邸の放火事件で火傷を負われた内大臣さまを見舞った際、内大臣さまは、
殿の手を取り、瑠璃を頼む、瑠璃と高彬殿をどうかよろしくと涙ながらに訴えられたということだ。
「やはりこう同じ子を持つ親として、わしもついもらい泣きしてしまってのう…」
ぐずっと衣の袖で涙を拭かれる殿であったが、わたしにそれは通じない。
「恐れながら、殿。同じ子供とは申せ、子供の 種 類 が 違います」
わたしは続けた。
「失礼ながらあちらさまは瑠璃姫を押し付けられるのは、もう若君だけと思い定めておられるご様子。
殿、惑わされてはいけません。このまま押し切られ何かと評判の姫を北の方になされば 必 ず や 若君の将来にも翳が差します!」
わたしの主張に、殿はしかしのう、と仰るだけであった。
(…ったく、宮廷の世界ではいざ知らず、邸内では相変わらず頼りないお方だ。やれやれ)
瑠璃姫とは、内大臣家の姫である。
カオもかくさず人前に平気で出てくる邸の中をかけまわっている下々のコトバをつかっている脳の病というウワサがあるエトセトラ…
その風評たるや前々から常軌を逸していたが、わたしとしてはだからといって若君の結婚に反対するつもりはなかった。
妻はひとりと決められているわけではない。ひとりくらい変わった妻がいたところでかえって若君の生活にハクが出るというものだ。
(まあ若君の経験値があがると思えば…)
それに、内大臣家が若君のバックにつくということは、かえってプラスになるくらいだった。
しかし、そこへ去年のあの事件である。帝の御命を狙うという謀反事件が起こり、
瑠璃姫はこともあろうにその謀反僧が籠められていた炎上する寺の中から僧衣をまとい馬に乗って飛び出して来たのだ。
おかげで若君は初動捜査を乱されてしまい、謀反僧を取り逃がした責めを負い謹慎までなされることになった。
加えてつい先頃、瑠璃姫の弟君である融さままでが、若君を巻き込まれての大騒ぎを引き起こしてくださったではないか。
すべての原因はみな瑠璃姫なのだ!
そのような害のある姫を若君に近づけるなどもってのほかなのだ…!!
196 :
粗筋中将:2007/08/04(土) 22:07:59 ID:???
「北の方さまも瑠璃姫のことではたいそうお怒りのご様子。殿もここは情にながされることなく、よくお考えください」
と、申し上げるものの、殿はため息をつかれた。
「あれはのう…息子達の中でもいっとう高彬を可愛がっておるからのう…瑠璃姫に高彬を盗られるようで悔しいのだ。
何でもはいはいと言うことを聞いておった高彬が、瑠璃姫のことでは妙に片意地なのが寂しいのだろうなあ」
困ったものよのぅ、としみじみとされる殿だが、確かにそれはそうなのだった。
以前の若君は、わたしの言うことはよくお聞きになった。身分低い者の言うこと、と打ち捨てにならず素直でいらした。
決してわたしに嘘をつくようなこともなさらなかった。
だ が
若君はあの謀反事件に関してわたしに何事かを隠しておられる!
問題なのは、若君が瑠璃姫のせいで失態の責めを負ったことではない。
若君が瑠璃姫のせいで、 こ の 守 弥 に ま で 隠し事をなさるようになったといくことなのだ!
若君は瑠璃姫が静養している吉野へもわたしに無断で旅立たれた。
若君は不良になられた。
変わってしまわれたのだ。
それもこれも、みんなあの瑠璃姫のせいである。
そう、この際若君の将来に翳が差す云々は口実、タテマエと認めよう。
わたしは瑠璃姫に嫉妬しているのだ。
(ああ、北の方のお気持ちがよくわかる…)
目の前の殿は、また同じことをぐちぐちと繰り返された。そして、聞き捨てならないことを仰せになった。
「瑠璃姫がお帰りになるのですかっ!?」
まだはっきりとはしないが、もう二月も半ば、吉野に行って半年も経とうというからそろそろ里心もつく頃と内大臣さまが仰られたそうだ。
あの瑠璃姫が帰ってくる…
冗談ではない!若君をいいように振りまわしている憎らしい姫が帰ってくるとは…!!
197 :
粗筋中将:2007/08/04(土) 22:09:08 ID:???
「あのう、失礼いたします、高彬さまが兄をお呼びで…」
恐縮しながら、妹の大江がやって来た。わたしはすっくと立ち上がる。
「あ、守弥っ、わしの話はまだ終わっては…」
「申しわけありません。またの機会に」
「これ守弥!」
(いつまでも老人のグチに付き合っていられるか)
優先順位は若君が一番なのだ。わたしは殿の御前を失礼し、若君の元へ向かっていた。
そこへ、大江がわたしを呼び止めた。
「とうとうばれてしまったのよ、どうするの?」
大江は言いにくそうにわたしを見上げた。
「ばれた?何がだ」
「…兄さまが、吉野からの瑠璃姫のお文を握り潰していたことよ」
え゛っ !!
198 :
粗筋中将:2007/08/04(土) 22:10:16 ID:???
「あのね、どうも吉野にお供した女房が、高彬さまからなかなかお返事もお文も来ないのを、弟の融さまに問い合わせたらしいの。
それで融さまから高彬さまのお耳に入ったらしくて…」
ちっ、あの能なし大夫の君が…!
「わたし 兄 さ ま の 言い付けで高彬さまが吉野へお書きになったお文全部 兄 さ ま に 渡してたでしょ?そのことまで知れたら…」
「ぐずぐず言うものではない、うっとおしい」
「だって…高彬さまってば今までに見たことがないくらいに怒ってらっしゃるだものォ〜」
大江は涙目になってしまった。
わたしはこの右大臣家の家令のような仕事をしている。
もちろん当家のような大貴族ともなれば家政全般を扱う政所もあり、長である別当や家令もいるが、
仕事は多岐に渡り自然人手は不足する。
そこでわたしが交際面の内向き…つまり、他家からの文や贈り物の類を一括管理しているのだ。
当家のプライベートな部分を担当しているせいで、当然ウラの事情にも通じてくる。
右大臣が通う3人の女性からの文であったり、北の方がその3人の女性に出したイヤミの文のおかえしなどもあり、
右大臣や北の方がわたしを頼り、微妙な部分で頭があがらないのはそのためなのだ。
若君へ参る文も例外ではないが、わたしの目をかすめて直接若君に渡る文も、あるにはある。
だが、吉野からの使いが馬を駆って届けて来る文は目立つのである。
だからこそ、瑠璃姫からの文はすべて握り潰したと安心していたのだが、それが若君のお耳に入ったとなると…
若君は怒っておられた。御前に召されたわたしは、若君が口を開かれるまで黙っていた。
「今日、宮中で融から、瑠璃さんがぼくからの文が来ないと言ってると聞かされたよ、守弥」
「さすがは瑠璃姫。女性の方から文の催促をなさるとは」
「言ったのは瑠璃さんじゃない、お付きの女房が…」
「やはり姫が姫ですと仕えている女房も遠慮というものがないようですね」
「そういう問題じゃないだろッ」
顔を真っ赤にされる若君だった。
199 :
粗筋中将:2007/08/04(土) 22:11:19 ID:???
「ぼくのとこにだって瑠璃さんからの文はひとっつも来ないし、ぼくだってちゃんと文を出してたのに届いてないなんておかしいじゃないか!」
はい、と相槌を打つわたしに、若君は、先ほど別当を呼んで確かめられた、と前置きされた。
「おまえ、瑠璃さんからの文を握りつぶしてたな」
「…」
はい、と答えるしかなかった。
「しかし若君、わたしの申し上げることも…」
「ぼくからの瑠璃さんあての文の止めてたのか」
「… はい」
若君は、じっとわたしを見据えられ、ため息をつかれこう申された。
「だろうと思った」
…どうなされたのだろう。
いつもなら、『どうしてだよ、ひどいじゃないかっ』とわたしに喰ってかかり、
あとは迫力負けしてぷーっと黙り込まれるというパターンになるハズなのだが…
「ぼくはね、守弥。今度という今度は、ほんっとに頭に来た。
今後ぼく宛てのものはすべて将人に任せることにするからね。守弥は一切手を触れるな!」
「若君っ!?」
突然のことに、わたしは狼狽した。
「落ち着いてください若君、どうかわたしの話も…」
「やだね」
どうやら若君は本気で怒ってらっしゃるようだ。
「守弥は人を中傷誹謗するような人じゃなかったのに、この頃は口を開けば瑠璃さんの悪口ばかりじゃないか。
守弥が瑠璃さんの悪口をやめて瑠璃さんを認めるまで、ぼくの身の周りは一切将人に任せる。いいね!」
そう仰り、将人に車の用意をさせた。
「若君、どちらへ…」
「守弥には関係ないだろ」
( 若 君 … !! )
200 :
粗筋中将:2007/08/04(土) 22:12:22 ID:???
若君が立ち去られてから、将人がわたしにこっそり、権中将さまのお邸に花待ちの宴に打ち合わせにいらっしゃることを伝えた。
しかしわたしは気が気ではない。まさか…
ま さ か こ の 守 弥 が 12 年 間 お 育 て し て き た 若 君 に こ の よ う な 扱 い を 受 け る と は … !!
かつてわたしに優しい言葉をかけてくださった若君…
わたしの手に温石を手渡してくださった若君…
その若君があのように変わってしまわれるとは…!
いや、若君は決してお悪くはない。悪いのは、若君を惑わせあのように変えてしまった瑠璃姫なのだ。
すべては瑠璃姫が悪いのだ…!!
このままではいけない。若君のおためにも何とかしなければ。何とかして…
「兄さま」
大江がわたしを呼んだ。
「どうだった?高彬さま…。わたしのこと怒ってらした?」
「…春とはいえまだ肌寒い。この分では叔母上も難儀しているだろうな」
「はぁ?」
叔母上は関係ない、若君のことを聞きたいという大江だったが、わたしは続けて叔母上に油や米を届けさせるようにと大江に言い渡す。
「もうっ、人の話ちっとも聞かないんだから!」
わたしの後頭部に一発お見舞いし、大江は怒りながら出て行った。
その大江の後姿を見てわたしは決意する。
別れていただく。
瑠璃姫と若君は必ず!別れていただく。
わたしは目的のためには手段を選ばぬ人間なのだ。やるといったら必ずやる。
どんな手を使ってでも若君から瑠璃姫を引き剥がし、
瑠璃姫に一矢報いてやるのだ…!!
ハ、ハライテーwwwww
これはBLですか?BLの予感ですか???
こいつは手強いなあ…
も・・守弥?・・・あれ・・・?なんか・・イメージが・・・w
守弥意外とアホっぽい
彼女に捨てられたダメ男が空回りしてるように見える…
家令最強w
ちょっと兄 上なに文握りつぶしてくれちゃってんのさ
でも守弥より絶対瑠璃の方がつよそー
なにこの振られた相手でなくその相手への逆恨み展開
12年間の破壊力すごすぎる
いや、さすがに手紙を全部握りつぶすのは駄目だろ…
命令不服従もいいところじゃん。
というか、何バカっていうんだこういうのは。
本当は家来の立場にありながら、自分がお育て(子守?)した
若君が親離れし始めて焦ってるって展開だよね>守弥
この頃の貴族なら、本物の親よりも身近に接していそうだから
情愛が深いという好意的見方も出来るけど…
さすがに手紙を双方共に握り潰すのは、マズいだろーw
>若君は不良になられた。
ここ、「守弥くん、違うよ。高彬は大人になったんだよ!」と
直接話してみたいもんだw
瑠璃パパの執念スゴスwww
やべえ、守弥が可愛く見える。俺男なのにwwww
も、守弥?これが守弥なの??
予想以上のくわせもんだったんだな。
守弥ったら、変わられてしまわれたなんて
頭に血が上りすぎで唯恵事件のはるか前から
瑠璃姫とは交流していたことに気がついてないのか?ww
しかしちび高彬かわいいよ高彬。
瑠璃ウラヤマシス
高彬が今までにないくらい怒るってことは本当に瑠璃姫が好きなんだな
子供の頃に瑠璃のせいで歯を折ったあげくにお腹コワした時、
守弥は報復に走らなかったんだろうか???
>若君は不良になられた
が腹抱えて笑えるwww
でも
>瑠璃さんの悪口をやめるまで
なんて幼いこという高彬だから、さもありなんって感じか?
守弥は、今自分の通されているうら寂れた邸を見回していた。
「…相変わらずの窮乏ぶりですね、叔母君」
ここは、守弥の母の妹にあたる叔母、外記(ゲキ)が仕えている、水無瀬の宮邸。
ここの主は、先々帝の親王で水無瀬(ミナセ)の宮と呼ばれ、おっとりとしていたためきちんとした官職にもつかず亡くなった。
財を増やすとか蓄えるとか、有力な後見を頼むといったことにとんとうとい人だったため、今は燈台の油にさえこと欠く有様だ。
水無瀬の宮の遺産で細々と暮らしているうちはよかったのだが、
その遺産も底をつきはじめた去年頃からは使用人はひとり去りふたり去り…今は数人の女房を残すのみだった。
「せめてこちらの姫さまに通う殿方でもおありになればねぇ…」
叔母の言う姫とは、水無瀬の宮のひとりきり残された煌姫(アキヒメ)のことで、叔母はその煌姫の乳母である。
確かに、いくら宮家の姫とはいえ、ほとんどバケモノ邸と言えるこんな零落しきった家に身分ある公達が通ってくることはないだろう。
何しろ婿入りがポピュラーなこの時代、妻の家が婿君の生活をバックアップするのは当然。
だからこそ守弥も、多少瑠璃にキズがあろうと高彬との結婚には反対しなかったのだ。
叔母の話を聞きながら守弥は思っていた。
(この家に通ってくるほどの酔狂な男はまずいないだろうな)
「もちろん姫さまはお美しくていらっしゃるし、しつこく求婚してくる殿方もいるにはいるんですよ」
(えっ?!)
あまりに意外で守弥は驚いたが、叔母は続ける。
「ただ、身分の低い受領というのが煌姫さまのお気に召さないらしくて、絶対に嫌だと申されて…」
ほっと安堵する守弥だった。
叔母としては、この際受領だろうと何だろうといいと思うのだが、さすがに姫の気持ちを考えると強くはいえないのだった。
しかしその受領というのもしつこい男で、叔母も辟易している…
そこまで言って、叔母は謝った。いつも同じグチばかりこぼしてすまない、と。
「いえ叔母君。今日伺ったのは実はそのことなのです」
守弥は、以前叔母が、右近少将の高彬が煌姫に通ってくれれば…と言っていたのを覚えていた。
「まぁいやだわ。そういえばそんな浅ましいこと申しましたわね。なんて下品なことと呆れているのでしょうね守弥さん」
「いいえ、わが若君を情ある人と見込んでの夢。わかる気もします」
顔を赤らめる叔母に、守弥は朗らかに返した。
守弥の広い心に叔母は少し本音を出してしまう。
「ほんとにねぇ。手元に炭もお米も薪も布もなぁーんにもない時など、ふとそんな夢を見てしまうのですよ」
と、遠い目をして語った。
もちろん北の方に…などとは思いもよらないが、せめて数ある愛人のひとりにでも…ということならば…
「では叔母君、煌姫にはそのおつもりがおありなのですね」
質問の意図が飲み込めない叔母に、守弥はもう一度言った。高彬の愛人となって不安のない生活をおくるつもりがあるのか、と。
「少将さまはこちらの煌姫さまに懸想しておいでですのっっっ?!ああなんという幸運っ まるで夢のようだわっ!!」
「若君はまじめなお方です。万が一の間違いであれ一度でも関係を持った姫をそのままにしておくような方ではありません」
守弥の言葉に叔母の興奮は水を差された。万が一の間違いとは…?
「高彬さまはそういうお方です。このお邸の修理を始めとし、調度類も買い戻してくださる。
気のきいた女房や下働きの者などいくらでも集められるでよう。もう叔母君が水汲みや掃除などのお端下仕事をなさらなくてもよいのです。
これからは右近少将高彬さまの愛人の乳母として、ただ煌姫を着飾らせ、お側にお仕えし、少将をお迎えしていればいいのです」
守弥の話に、叔母はうっとりと想像をめぐらせた。
そして、何はともあれその話を煌姫に知らせるため、いそいそとぎしぎし軋む邸を奥へいそいだ。
守弥はにやりと笑った。
守弥の考えはこうだった。
話に聞く瑠璃姫は、妻は自分ひとりでなければ嫌だなどと呆れたわがままを振りかざしているらしい。
ならばふたりの仲を壊すのは簡単。
(若君が 愛 人 をお持ちになればいいのである)
もちろん、高彬に愛人を作る気がないのは守弥にもわかっている。
(なければないで、若君をハメさせていただくまでのこと…!)
ただ一度でいい、間違いであろうがその場の勢いであろうが、高彬には煌姫と一夜の関係を持ってもらおう、というのだ。
煌姫にしても、乳母があのように乗り気なのだ。所詮世間知らずの零落した宮家の姫君だ、言うなりに高彬を通わせてしまうだろう。
それが守弥の目論見だった。
瑠璃が間もなく都に帰って来ると聞いた以上、コトは急がねばならない。
叔母が戻ってきた。しかし、何やら浮かない顔をしている。
「どうしたのです叔母君、煌姫は恥ずかしがられてお返事もままならなかったのですか」
「いえ…そういうわけではないのだけど…」
何やら歯切れが悪い。そのうち叔母は意を決して言った。
「あのね、守弥さん。今までお話する機会もなかったので黙っていたけど、その、うちの姫さまは、ちょっと変わったところがおありでね…」
(変わったところ――〜っ!?)
変わっていると言うものだから、守弥はてっきりあの瑠璃のような姫かとキモを冷やしたが、話を聞けば、
幼い頃に父宮を亡くし厳しい生活が続いていたものだから、恋愛などいろいろ甘やかなことに対する情緒に欠けているところがあり、
自分に求婚するような身分ある公達がいるとは信じられないらしいのだ。
(まぁ…長年こんな暮らしが続いているんじゃ無理もないか…)
よく人が住めるなと思える寂れた邸を、煌姫に案内されるために歩いていた。
「お願いね守弥さん、こんないいお話ですもの、是非とも姫さまにはその気になっていただかないと」
と言う叔母に、任せてくれ、と守弥は頼もしく言った。頑なな心も深窓の姫君ゆえのことだろう。
「そうだといいんですけどねぇ…」
はぁーっとため息をつく叔母であった。
しかし。
思っていたより煌姫のガードは固かった。
「ですから!先程から何度も申し上げているように、わが若君右近少将さまはけして遊び心ではないのです。
叔母がお仕えしている姫さまのことをわたしよりお聞きになり、たいそうこころを動かされたのです。
そのように密やかにお暮らしの姫君こそ心ばえも清らかで汚れを知らない方に違いない、ぜひ姫さまの後見をしたい、
大切にお守りしたいと心から思っておられるのですから!」
几帳を隔て御簾の向こうにいる煌姫はそれでも物音ひとつ立てなかった。
「煌姫さま、ほんとうにこんなありがたいお話はありませんわ、少将さまのようなお方に求婚されるなど夢のようではありませんか」
せめて何かお言葉を…と言う叔母の話に、ほうっとため息が聞こえた。
「外記は、まだそのような夢物語を信じていますのね」
(…え?)
守弥は耳を疑った。
(な…何か今、深窓の姫君らしからぬ言葉を聞いたような…)
煌姫は守弥に声をかけた。
「わたくし外記とは違いますの。夢のような話を信じるには、現実の厳しさをとくと味わってしまいましたもの」
水無瀬の宮が亡くなってから、わずかに残った荘園や土地はかつての使用人に騙し盗られ、
上等の衣や調度の類も信じていた女房らに持ち逃げされた。
金品につられて身分低い男を手引きしようとした女房もいた。
苦い過去を語り、煌姫は語る。経験は人を賢くし、厳しい現実は人を強くする、と。
「ですからわたくしのモットーはふたつ。“うまい話には裏がある”“人を見たら泥棒と思え”」
守弥は状況がよくわからず絶句した。横では叔母が「あああこれだもの」と顔を青くしている。
ふたたび煌姫が守弥に話しかけた。
「この話、本当のところは何なのですの」
叔母は、少将が煌姫に心惹かれているからだ…と言うのだが、煌姫は守弥に聞いているのだ。守弥は意を決した。
「実は、我が若君高彬さまは、タチの悪い姫にひっかかっておられるのです」
真相を告げた。何とかして若君からその姫を引き離したいのだ。その姫は自分以外の通う姫がいるのは嫌だと言っているのだ…
「それでわたくしをダシに使い、少将とその愛人の姫との仲を壊そうと思ったわけですのね」
煌姫の露骨な言葉に守弥は俯くしかなかったが、煌姫はほほほ…と笑った。
「今のお話を伺って、ようやく納得がゆきましたわ。世の中そうそううまい話が転がってはいませんものね」
それで、その姫に強く惹かれている高彬をどうやって自分のもとに通わせるのだと問う煌姫だった。
「つまり…要点はわたくしが少将さまと、ただ一度契ればよろしいのね」
あからさまな言葉に守弥は顔を赤らめつつ、そうだと言った。
「わかりました。それで不安のない生活が送れるのなら手を組みましょう守弥」
守弥の話を聞いて、乗り気になった煌姫とは逆に、叔母はこの考えには反対だった。
しかし、そんな叔母を煌姫は一喝する。世の中おまえのように夢を見ているだけでは生きていけないのだ、と。
いつまでも姉の好意に甘えていろいろな品物を譲ってもらうわけにもいくまい。
「お米やお薪のためとはいえ身分低い受領の妻になるなどわたくしは嫌!薄縁を燃やして暖を取り、
顔が映るくらい薄いお粥を食していても、六位七位ふぜいの者に身を任せるなど、水無瀬の煌姫のプライドが許しません!」
(顔が映るくらいのお粥って…)
守弥は苦笑したが、煌姫は、右大臣家の少将の愛人ともなれば相手に不足はないと思っていた。
「人を騙すのが何だというのです。わたくしだってこれまでさんざん騙されて来たのです」
そう高らかに言い、守弥に、話を詰めようと持ちかけた。
「わたくしやりますわ。必ず少将と一夜を契ってみせます
そして右近少将の愛人として、必ずや白いごはんをお腹いっぱい食べてみせますわ…っ!!」
何この吉野君の10万倍は逞しそうな姫君。
誰かに似てるな、この行動力w
あきひめの二つの信条と白いご飯をお腹いっぱい……で抱腹絶倒。
序盤で末摘花展開が一瞬脳裏をよぎったらコレだよwww
守弥の方があっきーに転がされそう。
守弥の多少のキズ発言といい
叔母といい
煌姫といい
金は人を変えるな。
なんですかこの野望が煌めく逞しい姫は。変わり者の姫同士、瑠璃と気が合っちゃったりして。
白いごはんて…
…平安王朝絵巻…
なんかぶっとんだのが出てきましたよっと
守弥のたくらみが上手くいくとは思えないから
この件で二人は二度と出てこなくなるだろう
>必ず少将と一夜を契ってみせます
>必ず少将と一夜を契ってみせます
>必ず少将と一夜を契ってみせます
守弥、心のうちでとんでもない姫と関わりあってしまったと
思ってないか?www
深窓の姫君だから上手く騙せるだろうと目論んでいただろうに…w
あきひめが俺の好みにど真ん中ストライクです
守弥と瑠璃の対決も面白そうだが、あき姫とも対面させてみたい
高彬<<<<<<<<白いごはん
強烈な姫の登場で瑠璃姫がまともに感じるw
>>233 平安朝のはみだしプリンセス同士、思いっきり意気投合しそうだぞw
人間核弾頭がもう一人増えちゃって、守弥gkbrの展開に期待
権中将邸で催されている花待ちの宴は盛況だった。
高彬に従いてやって来た守弥は、家人たちの集う部屋で一人静かに待っている。
酔った他家の従者が守弥に酒を勧めるが断り、付き合い辛い奴だと心証を害してしまう。
しかし、今夜ばかりは呑気に酒を飲んでいられないのだ。何しろ今夜は
(若君を ハ メ させていただくのだから―――!!)
煌姫との密談からまだ6日目。
いささか性急に事を運ぶように思えるが、善は急げのたとえもある。何しろ煌姫本人がえらくこの話に乗り気なのだ。
『右近少将の愛人として必ずや白いご飯をお腹いっぱい食べてみせますわ…っ!!』と叫ばれた時にはさすがの守弥も腰を抜かしかけたが、
あの執念とパワーがあればうまくやってくれるだろう。
(あとは高彬の性格や体質、ものの考え方から行動パターンまでを知りつくしているわたしがいれば、この計画は成功したも同然)
高彬は必ず罠にはまる、いや、はめてみせるっ!!と自信満々の守弥だった。
そのために、いつもならば政文が高彬の外歩きに従うところを、今夜は替わってもらったのだ(一服盛って)。
(ああっ、今からあのにっくき瑠璃姫があわてふためく姿が目に浮かぶようだ…)
こみ上げる笑いを抑えられない守弥だった。
そこに、権中将の側近の金村がやって来て、高彬が、酔って気分が優れないそうだ、と伝えた。
「若君は律儀な方ゆえ、上位の権中将さまの盃をお断りになれなかったのでしょうね。
お酒に弱いのは若君のよくないところだ。ご交際にも何かと障りがある。ではお帰りを勧めますか」
やれやれ、と宴の席に向かう守弥の背中に、金村は腑に落ちないように声をかけた。
「最近少将さまがふさいでおられるからとお慰めするつもりで盃を勧めてくださるよう権中将さまにお頼みしたのはおまえだろう」
へんなやつ、と思う金村だった。
真っ赤な顔をして具合が悪そうな高彬を見て、守弥はついほくそ笑む。
勾欄越しに、帰るのか伺うと、高彬はそうしてくれと返事をした。
守弥の元に下り、口元を押さえ青ざめて凭れかかる高彬。
「若君、車をこちらに寄せましょうか」
「いや…宴の最中にそれも失礼だ。車宿まで歩くよ」
高彬の応答に守弥は感動していた。
(酔っておられるとはいえ、他の方々への配慮もお忘れでないとは…さすがわたしのお育て申し上げた若君であられる)
じーんと感動にうち震えている守弥に、その心を知ってか知らずか気だるげに高彬が言った。
「やっぱり守弥は頼りになる。この間は ごめんよ…」
ズキ―――――――ン…!!
(若君…!!)
ズキンズキンズキンと、良心のうずきが聞こえる。
(わたしは…いくら瑠璃姫憎しとはいえ…この若君をこれから… ハ メ よ う と し て い る な ん て … !! )
守弥が後悔しかけている時、高彬がふふっと笑うのが聞こえた。
「いや、こんな醜態瑠璃さんが見たら、きっとまたヒステリー起こすなと思ってさ。
瑠璃さんと結婚したあとなら“妻が酔っ払いを嫌うものですから”とか言ってお酒も断れるのになぁ」
くすくすとご機嫌に言う高彬と反対に、守弥はひくひくと顔が引きつる。
「守弥、瑠璃さんのこと、考え直した?守弥はぼくの乳兄弟だし、兄みたいなもんだから、瑠璃さんのことわかってほしいんだけど」
赤い顔で訴える高彬だったが、守弥は取り合わなかった。しょぼんとする高彬。
(やはり、 ダ メ だ。いったん瑠璃姫が絡むと、若君は道理も何もまったくわからなくなってしまう。
この際仏心は禁物なのだ!あくまで事はシビアに運ばなければ。それこそが若君のおためにもなるのだから…っ!!)
高彬を乗せた牛車は、煌姫の住む水無瀬の宮邸に近付いた。
そろそろ、牛飼童に車が壊れたとかなんとか理由をつけて水無瀬の宮邸に寄るところだったが、なんと高彬の方から気分が悪いと言ってきた。
(これはもう運命がわたしに味方しているとしか思えないではないか!!)
上手くいいくるめて高彬を水無瀬の宮邸に案内した。
従者たちはそのボロ邸ぶりに妙に怖気づいていたが、高彬を通す予定の寝殿には前もって渡してある金品でなんとか体裁を整えているはずだ。
「こ…このたびは、右大臣家の少将さまにお運びいただき、主人の煌…いえ、主人もたいそう喜んでおります」
何分急なことで仕度も整わず失礼している、と恐縮する叔母・外記の言う通り、
(右大臣家から横流しした油で)明るい部屋には、守弥のポケットマネーで揃えた調度だけが新しい。
口休めに一献…と言う外記を制し、白湯を所望する高彬だったが、これも守弥の思惑通りだった。
酒か白湯、どちらを選んでもいいように、両方に眠り薬を仕込んでいるのだ。
高彬はそれでぐっすりと眠るはず。そして、翌朝目覚めた高彬が目にするのは、しどけなく横たわる煌姫が…
『わたくし…嫌だと申し上げましたのに…申し上げましたのに…少将さまは 無 理 矢 理 …っ』
『存じませんでした、若君はお酔いになると人が変わられたようにおなりだ。わたくしもお止めしたのですが、なんとも…』
よよよと泣く煌姫に、神妙に言う守弥、高彬の身に覚えはないが、揃いすぎている状況証拠に高彬は青ざめるだろう。
『しかし若君。どうせお相手は零落した姫君。一夜の遊び、酔いの戯れごととして打ち捨てになさいませ』
何がしかの金品をあたえほうっておけばいいとこっそり耳打ちする守弥にきっと高彬はこう言う。
『そういう問題じゃないだろっ守弥っっ!!そ…そりゃ、まるでなんにも覚えてないケド…
こうなった以上ぼくにだってせっ責任はあるんだし… 打ち捨てるなんてとんでもないっ!!』
そして守弥と煌姫は作戦成功を確信する…これがふたりの「罠」だ。
政治の問題などでは冷静な高彬も、ことが女性問題になるとまるで初心(うぶ)い。煌姫とのこともムキになって認めてしまうのは確実。
(若君とは、そういう御方なのだ)
外記に差し出された白湯を飲む高彬を、じっとり見つめる守弥だった。
高彬はすっかり寝入ってしまった。
(まだまだお子様でいらっしゃる)
ふふっと笑ったのち、守弥は戸の外に声をかける。
「煌姫、ご用意はよろしいか」
gkbrって何?ゴキブリ?
守弥…なんつーベタな安い策略なんだw
>>241 スレ違い質問だが『((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル』の略。
類似wktk=ワクテカの略。
>>237-240 なんか今日凄い鯖が重・重状況だったのにup、乙です。
守弥、こんなんでなぜ自信満々?
酒に弱い高彬の、ちょっとノロケにも似たセリフにワロタw
>いったん瑠璃姫が絡むと、若君は道理も何もまったくわからなくなってしまう
お前が言うなwww
守弥からすさまじい小者臭が漂ってくる……!!
こいつ絶対陰謀向きじゃねえよなw
尻尾巻いて逃げ帰るがよい。
酔っぱらい高彬(;´Д`)ハァハァ!! (;´Д`)ハァハァ!! (;´Д`)ハァハァハァハァハァハァ!!!!!!
ただのつつもたせじゃん
高彬を知り尽くしてるなら
好みも理解して受け入れろ
知り尽くしてると言いつつ、
高彬の想い人の瑠璃のことはよく知らない守弥よ……
>ハメさせていただく
なぜ敬語やねんw
さすがお守り役守弥
>248
守弥は 自 分 に と っ て 都 合 の い い
高彬のことしか知らない
嫌な事実は全部脳内拒否
それが限界
もしや守弥、実はものすごいヘタレキャラとか?
なんてことを思ったら萌えてきたハァハァ
>>245 >すさまじい小者臭
www
守弥って確か「頭脳専門」なんじゃなかったっけ?www
> 頭脳専門
もうこの表現自体、喧嘩になったらただ叫んで暴れ、見るものをポカーン死させる守弥が浮かんでしまう
高彬が寝ている隣の部屋で、守弥は几帳越しに煌姫と話していた。煌姫は、少し不安があるようだ。
「現実はそんなに甘いものではありませんのよ。やはり少将さまに、契ったと思わせるだけではなく、
実 際 に は っき り と 契ったほうがよろしいのではなくて?」
(…またその話か)守弥はげんなりしていた。
「何度も申しあげているように、その気のない殿方と…その、関係を持つのは難しいことなのです…!
せっかく計画通りにここまで来たのですから、わざわざ事を難しくする必要は」
「わたくし自信がありますわ!」
言葉を裏付ける力強い煌姫の声に守弥は押された。
あれから、煌姫は高彬の恋人である瑠璃についていろいろ噂を集めてみたそうなのだ。
しかし、妙な噂ばかりで、美しいという話はついぞ耳にしなかったという。
「大丈夫です、わたくし意地でもそういう雰囲気にもっていって、少 将 さ ま と 契 っ て み せ ま す わ …!」
これだから女というものは…と、守弥は照れていた。
守弥は一度、偶然煌姫を垣間見たことがあったが、性格はともかく
父宮が生きており順当な環境に育っていれば都の公達の間でも評判になるような美しい姫だった。
だが一方の瑠璃といえば、高彬の口からでさえ美しい姫だという話は聞いたことがない。高彬は正直者だった。
そんな瑠璃に煌姫が女としてヘンな対抗意識を燃やすのもわからないでもないが、ここまで来た以上計画を変更するわけにはいかない。
今更どうこう言うより、全体安全確実路線でいくしかないのだ。守弥は煌姫を説得していた。
煌姫の意欲は買うが、高彬とて一度やってしまったと思い込んでくれれば
身に覚えのないこととはいえあとは一度やるも二度やるも同じこと、と腹をくくるだろう。
「その時こそ煌姫の手腕にかけて、何度でも契ればよろしいのです!」
守弥は煌姫を説き伏せた。
「誰か…誰かいないか」
その時、かたんと隣の部屋で物音がした。
(若君―――――っ!?)
突然の高彬の声に、守弥は青ざめた。
(薬の量が少なかったのか!?ああっそれより煌姫と一緒にいるところを見られてはまずいではないか〜〜〜っ!!)
パニックになっている間に、高彬の声は近付く。守弥はさっと几帳の影に隠れ、息を詰めた。
間一髪、高彬はカラッと戸を開け、守弥と煌姫のいる部屋に入ってきた。
「まあ。お目覚めですか、少将さま」
振り返った煌姫に、高彬は一瞬見惚れた後、声をかけた。
「ああ、女房どのか。わたしの供の者は…?」
「☆」
よりによって煌姫を女房に間違え、煌姫は少しムッとし、几帳に潜む守弥は青ざめた。
しかし、煌姫の態度は堂々としたものだった。供の者は退がったので、朝まで少将さまもゆっくりとしたらどうだ…
今からみなを起こすのも気の毒だからそうしよう、自分は花待ちの気分で夜を明かそうと座る高彬に、側で控えている、と言うのだった。
(すごい…この土壇場においてあの余裕あの度胸、さすが若君と契ってみせます!と豪語しただけのことはある…!)
まだ心臓がバクバクしている守弥は感心しきりだった。
こうなった以上、あとは白いご飯に対する煌姫の執念に賭けるしかなかった。
間がもたなくて、何か話さなくてはと思った高彬は、この邸は寂しい様子だ、と口にした。ほんとうに…と煌姫は話に乗る。
「このように荒れたお邸で暮らしておりますと、頼る方もないわが身のはかなさを思い、わたくしいっそ尼にと思うこともありますわ」
「それはいけない!」
高彬は思わず声を上げた。
「あなたはそんなに若くて美しいのに、尼などと言うものではありません」
「美しいなどと…おたわむれが過ぎますわ」
「いや、ぼくもあちこちのお邸に伺ってたくさんの女房を見ているけど、あなたのように美しい女房どのは初めてです」
自信を持っていい、と煌姫に力強く言う高彬に、煌姫は頬を染め、名を名乗った。自分は煌という、と。
いい名前だ、と笑う高彬を、守弥は何だかんだいって煌姫のペースだ、高彬はほんと素直だと影から見て思っていた。
「名前など…いくらよくても、美しいと言われても、ただおひとりの殿方のお気持ちがつかめなければむなしいものですわ少将さま」
煌姫の意味ありげな言葉と目線が高彬には気になった。
「あなたを袖にするような男がいるというのですか?」
「殿方は実のないもの…わたくしもう、何を頼りにしてよいのか…こうして毎日を泣き暮らすしかないのですわ」
(そうだ!若君にはストレートな色仕掛けより「不実な男に泣かされ悩む美女」というセンで攻めたほうが確実なのだ!)
守弥は思わず心の中で応援していた。
「それは、考えが過ぎるのではないかな。あなたのような美しい人をほっておくような恋人がいるとはとても思えない」
「そうでしょうかしら…」「そうですよ」
(いいぞ!若君の同情心をくすぐるあたり、ツボを心得ているではないか…!)
高彬の言葉に、煌姫もまた心をくすぐられていた。
「少将さまは、優しいお方」
「え、そんなことは」
「ほんとうに、お優しい方ですわ…」
煌姫は、高彬の腕に手をかける。上目遣いで、高彬に言う。守弥は心で大声援を送っていた。
「少将さま」 (いけっ!)
「煌は…」 (あとひと押しだっ!!)
「煌姫っ 煌姫はおられるかッ!!」
(え?!)
突然、邸の外から声がした。
(だだだだれだいったい この肝心かなめの時にやって来るバカ者は―――っ!!)
守弥はすっかり青ざめた。
「煌姫?姫というのは…」
高彬の疑問に答えるかわりに、煌姫は高彬を次の間に押し込んだ。高彬は状況が飲み込めない。
「煌姫おられるのでしょう、わしです、備中介兼資(カネスケ)ですぞ!」
守弥は思い出していた。煌姫にしつこく求婚してくる受領がいる、とため息をつく叔母のことを。
「いったい誰の許しを得て邸内に入りましたの、お帰りください!」
「許しもなにも、門番すらおらぬ邸ではないか」
煌姫は図星を突かれ言葉に詰まる。備中介は格子のすぐ外まで来ているようだ。
「今日という今日は、色よい返事をするまでは帰りませんぞ。聞けばここ数日、姫のもとに男が通っているというではありませんか!」
(男?)守弥にも初耳だった。備中介は喋り続ける。
「それも、乳母の甥っこ、右大臣家の右近少将に仕える、官位もあってないような従者だとか!」
備中介では悪くて名家の従者なら良いとはどういうことだと問い詰める声に、守弥は青ざめるどころではなかった。
(だ…誰かいないのかっ誰かっっ あああだめだ、明日の朝まで誰もここに近付くなと言ったのはこのわたしだった)
守弥は頭を抱えた。ここで今出て行ったら、今まで几帳の影に隠れていたことまで高彬に知られてしまう。
外では備中介が相変わらずわめいている。
「どうせ右近少将にお付きしていると言ってうまいことを並べて姫を騙くらかそうとしているのです。
そんな男よりわしのほうが身分も上だし財もある、悪いことはいいません、わしの北の方におなりなさい煌姫。
右近少将の従者よりも… 右 近 少 将 の 従 者 は 」
守弥は堪り兼ね、意を決した。
(こうなったらもう…あの男を黙らせるしかないではないか…っ!!)
258 :
おまけ中将:2007/08/07(火) 22:06:08 ID:???
備中介(びっちゅうのすけ)…備中(今の岡山県)の副知事
なにをやっているんだこいつらはww
そんな瑠璃のことを美しくない美しくないと連呼せんでもw
ああ、確かに瑠璃は美しくはない。
だがあの姫に関してはそういう問題ではない。
>(だ…誰かいないのかっ誰かっっ あああだめだ、明日の朝まで誰もここに近付くなと言ったのはこのわたしだった)
小者臭www
守弥モチツケww
煌姫、確かに美人。
二の姫とか藤宮さまとか(吉野君とか)とはまたタイプが違って面白い
王朝絵巻に受領が悪役で登場ってのは、ある意味素晴らしく古式ゆかしい
伝統を踏まえた展開だが
何 か が 違 う …
ごめんなさい、白いご飯への執着を侮っていましたごめんなさい
______
|←樹海|
. ̄.|| ̄ 守弥オワタ┗(^o^ )┓三
|| ┏┗ 三
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
受領GJ
正直者わろた
邪魔が入らなければ守弥のいる部屋で契ってたんだろうか
煌姫の現実への過密着ぶり
とことんツメの甘い守弥の戦術
いい感じに期待を裏切らない闖入者
最 高
頑張ってこの場を取り繕ってくれ!
あとどうする気なのか知らんがな!
白いご飯sugeeeeeeeeeeeee!!!!!!!!
守弥より一足早く備中介の前に出たのは、なんと高彬だった。
「備中介と申したな。見覚えはなかろうが、わたしは右近少将です」
突然、殿上人の右近少将が現れ、備中介は言葉を失い、恐縮しきりだった。守弥は冷や汗が止まらない。
高彬は、縁あって方違えに寄せてもらっているだけで、恋の道を邪魔するつもりはないが今夜は引き取ってもらいたいと願い出る。
備中介はただただそれに従うだけだった。帰り際に高彬は声をかけた。
「こちらの姫にどなたが通っているにしろ、妙な噂は姫のためにもよろしくない。うかつなことは言い散らさぬように」
備中介はこくこくと頷き、去っていった。
荒れた庭を草をかき分け出て行く備中介を見届け、高彬は部屋にいる煌姫を振り向いた。声を掛けかねている。
煌姫は、居辛そうに顔を隠し、守弥は相変わらず青ざめたまま息を詰めている。
「煌姫…と、おっしゃるのですか」
高彬は申し訳なさそうに、女房と見間違えたことを詫びた。煌姫も、零落して衣も整わぬ身では仕方ない、と言った。
備中介のことも、しつこくされて困っていたから助かった、と。
「備中介か…」
高彬は思うところがあった。先ほどの話が気になっていたのだ。
「そのことなのですが、わたしの従者が姫のもとに通っていると言っていたのは…」
(えっ)
思いがけない話の方向に、守弥も煌姫も焦った。
「まさか、あの守弥が身分違いの姫に通っていたとは…」
煌姫は必死になって訂正したが、もはや高彬は聞いていなかった。守弥は守弥で、几帳の影でくず折れた。
(いったい…いったい何でこんな事になってしまったのだ――――――――――――――ああぁぁ)
数日後、水無瀬の宮邸に咲く桜を守弥はぼーっと眺めていた。
「守弥、何をさっきからぼーっとしているのです。わたくしの話を聞いているのですか」
「はいはいはい、聞いていますよ煌姫」
咎めた煌姫に、ふてぶてしい態度で返す守弥。その態度が気に食わず、煌姫はお説教を始めた。
(…ああもう、いいかげんにしてくれッ!!)
あの騒ぎの夜、わけのわからぬままの高彬を車に押し込め、朝を待たずに右大臣邸へと逃げ帰ったものの、
高彬が煌姫と守弥の仲を誤解しているのは明白だった。
だからこそ守弥は、ここしばらくは煌姫と関わらぬ方がいいだろう、その間になんとかこの事態の収拾策を考えねばと考えていたのに、
翌日から守弥あてにばらばらと煌姫からの文が届くのである。
冗談ではない、これ以上あの煌姫と関わりあいになってたまるか、と文をうち捨てていたのに、
『立ち寄らせていただいたお礼に、何か届け物をしなければならないな。守弥、頼む』
とにこにこ高彬に言われては、事務処理も仕事の守弥は断るわけにもいかず、今こうして煌姫と面会していたのだ。
「それで、どうなのです守弥。高彬さまはあの夜のことを、どうお思いになっていらっしゃるのかしら」
煌姫の問いに、守弥はぶっきらぼうに答えた。
「別に、わたしの叔母が仕えている邸で寝込まれ、目覚めて女房とつれづれに話をした、
そこへ備中介が現れ女房だと思っていたのが実は煌姫だとわかった、ただそう思ってらっしゃいますよ」
(ついでに側近のスキャンダルも知ったと思い込まれていらっしゃるんだからな…!!)
守弥は、思い出して顔が赤くなった。しかし、煌姫は、それだけなのか、と残念そうだ。
何度も、自分のことについて何も言っていなかったか、と念を押すが、守弥は、何も言っていないの一辺倒。
煌姫はやがて御簾の向こうで落ち込んでしまったのか、黙ってしまったのが伺えた。
いくらとんでもない性格の姫とはいえ、愛人の座も生活の安定も取り逃がしてしまったのだ。
がっかりする気持ちもわからなくはない、何か言って慰めるべきか…と守弥が不憫に思っている時だった。
「わたくしは、守弥。守弥と手を組んで馬鹿なことをしたと悔いておりますのよ」
煌姫から予想外の言葉が飛び出した。
煌姫は言う。高彬は、煌姫の嘘八百にもころっと騙され慰めてくれるような優しい殿方で、備中介を追い返す態度は立派だった。
そのようなすばらしい高彬を、守弥の口車に乗せられ、騙そうとしていたなんて…
ほうっ、と、うっとりしながら煌姫は言った。
「あのような出会い方でさえなければ、高彬さまもきっとわたくしのことをお心にとめてくださったのではないかしら」
(な… なんだって―――――〜っ?!)
守弥の体から怒りのオーラが見える。
(そりゃこの話を持ち出したのはわたしだぞっ。だが、途中からはむしをわたしより煌姫の方がこの話にノリ気だったではないか!!
必ずや若君と契ってみせると、白いご飯をお腹いっぱい食べてみせると豪語したのは誰だったんだっっ!!)
煌姫の理不尽な言い分に耐えかね、顔をひきつらせ皮肉で返した。
「失礼ですが、それは少々お考えが甘すぎると思います。現実は甘いものではないとおっしゃられたのは煌姫ではありませんか」
しかし、煌姫はほほほほ…と笑った。守弥の言う通りだというのだ。
「わたくしは水無瀬の煌姫。一度や二度の失敗で諦めてしまうような甘い人間ではありませんのよ。瑠璃姫がなんだというのです」
今度こそ、高彬の心にとまってみせると自信満々の煌姫に、守弥は呆れ、次は煌姫一人で…と言おうとしたところを遮られた。
「もちろん守弥もわたくしに協力してくれますわね」
なぜ自分が…とその真意をはかりかねていると、煌姫は見事守弥の痛いところをついた。
「高彬さまは、このことをお知りになられたらどう思われるかしら。ねえ守弥」
とても信頼していた守弥に、あのように汚い罠をしかけられたと知ったら…
見事弱点をつく煌姫に、守弥は顔面蒼白だ。そんな守弥を見て、煌姫は優雅に微笑む。
「現実は、ほんとうに甘いものではありませんわね、守弥」
ただただうなだれるしかない守弥だった。
右大臣邸に守弥がぐったりと帰り着いた。
守弥の帰宅を知り、高彬がにこにこと煌姫は元気だったかと声をかける。
自分に遠慮してなかなか水無瀬の宮邸に行けないようだから、わざわざ用事を作ってあげた、と得意気だ。
「若君!何度も申し上げているように、わたしと煌姫は何の関係もないのです…!
たびたび母の使いでお邸に出向いておりましたが、それをあの邸の女房か何かが誤解して備中介とやらに知らせたのでしょう。
若君が思っておられるようなことではけっして…」
「うん、わかってるよ守弥」
懐の深い主人振りを見せる高彬だった。
何を言ってもこの調子な高彬に、守弥は成す術がない状態だった。
(どう申し上げたらわたしの言葉が真実なのだとわかっていただけるのだっ!あんなキテレツ極まりない姫にわたしが通うわけないではないかっっ!!)
守弥がただ黙って青くなったり赤くなったりしているのを知ってか知らずか、高彬は続ける。
「守弥が身分違いの恋を隠そうとする気持ちはわかるけど、煌姫がお可哀そうだよ」
守弥は思わず顎が外れた。
「あれから頻繁に文をよこされるだろう?ぼくに知られたところで今は遠慮なく守弥に文がかけるのかもしれない」
ぶんぶんぶんっと首を振る守弥だが、高彬は見ていない。そして、あの夜煌姫と語ったことを守弥に告げた。
「つれない男の気持ちを恨んでいるご様子だったよ。それが誰とはあえて言わないけどね」
守弥はただ青ざめた。
「守弥」
高彬はじっと守弥を見つめ、言った。
「罪なことをしてはいけないよ」
決定打だった。
結局何も言いかえせなかった守弥に、普段と違い優位に立てたことが嬉しくてしょうがない高彬はぽんぽんと肩を叩く。
「さ、お説教はここまでだ」
蒼白の守弥と上機嫌の高彬、なんとも対照的である。
「ところで守弥、これなーんだ」
ぱっと高彬が文を取り出した。吉野にいる瑠璃からの文だ、とご機嫌である。
「まったくさ、将人に文の扱いを頼んだとたんこうだもんなぁ」
ちらっと横目で守弥を見、その視線に守弥は居心地が悪そうだ。
「…若君は、意地がお悪い…」
そう言うのが精一杯の守弥に、そんなつもりはないんだけど、と高彬はとぼけ、守弥の肩に手を乗せ首を傾げて尋ねた。
「やっぱり、文の扱いは守弥に頼んだほうがいい?」
いたたまれなくなった守弥は、御前失礼、と逃げるように高彬の前を去った。
背中越しに、高彬の声を抑えた笑い声が聞こえる。
(なぜ…なぜこのわたしが若君の前から逃げ出さねばならんのだっy!これではいつもと逆のパターンではないかっ!!)
守弥の計画では、今頃高彬は煌姫という愛人をかかえて悩んでいるはずだった。そのことを瑠璃姫にも知らせ、ひと泡ふかせられるはずが…
なのに現実は、煌姫には脅され高彬にはいびられ、悩んでいるのは守弥の方だった。
(わたしが何をしたというのだっっ!! …いや、もちろん若君をハメようとはしたが…)
すべては、物の怪憑きの姫とまともに渡り合おうなどと思ったことが間違いだったのかもしれない…、と後悔する守弥だった。
> 「まさか、あの守弥が身分違いの姫に通っていたとは…」
ちょwwwww
守弥哀れ・・・しかし身から出た錆とはまさにこのことww
ちーーーーん(合掌)
清清しいまでの小者っぷり。
人を呪わば穴二つっつーか一つw
頑張れ守弥。おまへは絶対煌ちゃんにかなわない。
>すべては、物の怪憑きの姫とまともに渡り合おうなどと思ったことが間違いだった
間違いは、瑠璃と渡り合おうとしたことじゃなくて、
煌姫に関わったことだと思うんだ。
取りあえずあきひめが素敵すぎたり
高彬がかわいすぎたり、いろいろと言いたい事は有るんだが守弥…………
ざまぁwwwwwwwww
つか煌姫の方こそが物の怪憑きの姫っぽくね?
>>281 白いご飯を寄越しなさいな〜って枕元に立っちゃうの?美人だけに怖っ。でもきっと煌姫は瑠璃と同じで、何が何でも生き抜くタイプだよ。
高彬の天然ぶりの破壊力が最強すぎて笑った。まさに策士策におぼれた守弥www
朴念仁はスキャンダルに弱いんだよなw
時々忘れるけど、高彬は身分高くて偉かったのだった。
高彬の守弥への下克上成功を祝ってカンパーイ
瑠璃がそろそろ恋しい……瑠璃と煌と守弥が一堂に会したらどんなことに。wktkwktk
瑠璃と煌姫が対面かあ〜
全面衝突して巻き込まれた守弥は木っ端微塵になるか
意気投合してとんでもない行動力発揮して守弥を下僕としてこき使うか
とりあえず高彬坊っちゃんカワエエ
瑠璃と煌姫…w
二人ともハッキリした性格してるから、ものすごい親友になるか
とてつもなく敵対するか、どっちかだろうね。
程ほどの関係は築けなさそうw
まあ、でもそもそも接点が無いわ。
瑠璃はともかく、煌姫さんは(性格はともかく)一応深窓の姫君だし。
んーでもこのキャラは外伝だけのゲストでは勿体無い。
再登場希望。
ある意味地雷だから、出せないだろ
怪獣映画になるぽ…
もう煌姫と瑠璃がくっつけば良いのに
その発想はなかった・・・
・・・が、
良いかも知らんw
守弥のジャパネスク・ダンディの巻
-------------------------------
瑠璃姫…
『 どうか…早くお戻りになってください 瑠璃姫… 』
『 どうか…お泣きにならないでください 瑠璃姫… 』
瑠璃姫――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――ッ!!」
目が覚めた。がばっと体を起こしたものの、冷や汗でぐっしょりだ。
(あ…悪夢だ…)
「どうしたの?兄さま。顔色が悪いけど」
朝から不機嫌にぶすっとしているわたしを見て、妹の大江が聞く。
「ちょっとな。夢見が悪かったのだ」
「ふうん。どんな夢?」
「話すほどのこともないつまらぬ夢だ。聞くな」
ご機嫌悪いんだから、と、それ以上追求はされなかった。
ほんとうに、まだ気分が悪い…
だいたい、夢の中の話とはいえ、なにゆえこのわたしが あ の 瑠璃姫に帰京を勧めなければならないのだ。
それも、泣いている瑠璃姫を追いかけその名を呼ばわるなどと…!!
夢の中とはいえ悔しく、歯ぎしりをしているところに、大江ががたんと格子戸を開けた。
「兄さま見て、吉野山よ。ぼうっと霞んでるわ」
大江の後ろに、桜で霞む吉野山が見える。京の桜はとっくに散ってしまったというのにすごいわねえと大江は見惚れている。
そう。わたしはとうとう来たのだ。
この吉野へ。
あの憎っくき瑠璃姫がいるこの吉野へ…!!
朝餉の席で大江が言う。わたしが若君の御名代で瑠璃姫に帰京を勧めに来るなんて、すっごく嫌っていたから意外だと。
若君自身もそれを御存じなのに、よくこのわたし、守弥に御指名なさったものだ、と。
「いざとなれば、若君が信頼なさるのは常にこのわたしなのだよ」
わたしは自信満々に答えた。大江の失笑は見えない。
(とは言え、誰が瑠璃姫に帰京を勧めるものか。できれば2度と京にはお帰りになるなと言いたいくらいなのだ…!)
「ねえ兄さま、瑠璃姫ってどんな方なのかしら。キョーミあるなぁわたし。なんてったってモノノケつきの姫ですもの」
わたしの思惑とは逆に、大江はわくわくしている。
しかし、瑠璃姫にいきなり帰京を勧めるのは不躾なことなので、しばらくは御様子を伺い、ゆるゆると進めるつもりだから、
むやみに瑠璃姫の山荘に近付くな、と大江には釘をさした。
それを聞いた大江は不満そうだ。せっかく瑠璃姫を間近で見られると思ったのに、とアテが外れたようなのだ。
着いた早々瑠璃姫に帰京など勧めては、わたしの「計画」が崩れてしまうではないか。
だからこそ他に供の者をつけないように画策し、大江ひとりのみを連れて来たのだ。
「でも兄さま、ずい分と瑠璃姫に気を遣うのね。あんなに嫌っていたのに、変なの」
大江の疑問ももっともである。わたしは答えた。
「若君の御名代ともなれば、私怨私恨は乗り越えるのだ」
兄さまってエラーイ、と目を潤ませる大江だが、自分で言ってうそくさく感じ思わず赤面してしまった。
朝餉が終わり、大江に散歩だと言って立ち上がった。
「兄さまっていつもいつも内向きのお仕事ばっかりでお部屋に籠ってることの方が多いからいい機会よね。ゆっくり散歩でもしてきたら?」
と笑顔で見送る大江だった。ばかめ。敵情視察だ。
桜の咲き誇る吉野の里を歩いてどれくらいだろうか。どうも歩くのは苦手だ。すでに息が乱れ汗だくである。
見上げると目に映る桜に、若君のことを思い出していた。
瑠璃姫などというとんでもない姫に引っかかってしまわれた若君…
現在吉野にいるのも、去年京の都で騒ぎを起こし大怪我をした瑠璃姫がここで静養しているからだ。
せっせと吉野にお文を送り、帰京を待たれている若君だが、あんな姫を北の方に迎えてたまるものか。
若君にはもっと由緒正しい最高の姫を正室に迎えていただく。
そして 最 高 の 位 に 昇っていただくのだッ!!
そのために少々策を弄したこともあったが、今度こそはこの「計画」、成功させてみせる。
必ずや「証拠」を握り、若君には瑠璃姫と別れていただくのだ。
その時のことを思えば慣れない山歩きも…
ふと我に返った。
(な…なんだこの足場の険しさは!)
足元はほぼ岩場と言ってもいい。考え事をしながら歩いていたせいで、どうやら道を外れてしまったらしい。
これは引き返した方が…そうくるっと踵を返したが、ズルッと足を取られてしまった。
しまった!崖だ…っ!!
ザザザザザ
ガラガラ…
カラ…
目を開くと、野の向こうに満開の桜に霞む山、
そして、女がいた。
…誰…だ?この女は、なぜ泣いて…
「ああ…よかった、生きているのね?動かないから、どうしようかと思っちゃった」
涙を拭いながら女は言う。
「崖から落ちたの?」
女は聞いた。答えようとするがその間もなく、動いちゃだめだ、と制される。
「骨かどっか折ってるかもしれないわ。今人を呼んでくるから動いちゃだめ!」
いいわね、動いちゃだめよと念を押し、女は走っていった。
と、くるりと振り返り、再びわたしの元へ戻って来る。
「ここにいるのよぜったい!いなくなったりしちゃだめ、いいわね!?」
もう一度言いに来たようだ。わたしはゆっくり口を開いた。
「動こうにも…この状態では動けませんね」
女は黙り、再び先ほどの方向に走っていった。
途中ぱたっとコケたりしているしているところを見ると、里の女か…不器用な。
野に体を横たえたまま、桜の花びらが舞っているのが見える。
意識がなくなる直前、先ほどの女の声が遠くから聞こえた。
「小萩、早くっ。こっちよ。早くっ!」
その声を聞きながらわたしは再び目を瞑った。
( ここは まるで )
極楽浄土のようにきれいだ…
「まったく!山道をはずれて崖から落ちるなんて ば か ですわ!人騒がせだったらありゃしないっ」
ふつうなら、落ちる前に気が付くようなものだと、先ほどとは別の女に憎まれ口を叩かれている。
あの後、気が付くとわたしはここに寝かされ、お医師まで呼んでもらい手当てを受けたのだ。
崖から落ちたというわりには、擦り傷と打ち傷どこにも異常はなく、2・3日で治ると言われた。
よほど器用な落ち方をしたんじゃろうて、とお医師には笑われた。
「ったくもう!わたしだっていろいろと忙しいのよ。なのにおまえのような者の手当てをしなければならないなんて!」
今目の前にいる女も、さっきからずっとこの調子なのだ。
「あの…」
控えめに発言しても、キッと睨まれる。
「こ…こちらのお邸は、どなたの…」
恐縮して尋ねると、女は威厳を持って言った。
「こちらのお邸は京でも屈指の名門、内大臣家の山荘です」
本来ならばおまえごときの入れるような邸ではないのだが、姫さまがどうしても邸に運ぶと言うのだから仕方なく、と続けた。
「そのくせご自分は怪我人を見たショックで、お戻りになるなり御気分が悪いと伏せってしまわれるし…」
「え?あの女、伏せって…」
「まあぁっ!! あの女とはなんですかっ あの女とはっっ!!」
形相が変わり、わたしはひたすら謝った。
「内大臣家の瑠璃姫さまですよ、瑠璃姫さまっ!」
瑠璃…姫…?
「だいたいおまえは何者です。里の者ですか。家はどこです。名乗りなさい!」
女はまくしたてる。
「…名を?」
「あたり前でしょう?正体のわからぬ者を姫さまと同じ屋根の下に置いておくわけにはいきません!」
すぐにも連絡して家人に引き取りに来てもらうから何者だ、と詰め寄る。
「…何者といっても…わたしは…」
つまり
わたしは…
わたしは誰だ…!?
「ふ…ふざけないで!わからないってそんなばかなことが…」
女は言うが、わたしは頭を抱えるしかないのだ。
「…何か。そうだ…!何かわたしが身につけていたもので、身元がわかるようなものはありませんか?何か…」
今度は逆にわたしが女に問い詰めるが、そんなものはなかったと女。
「それよりおまえほんとうに何もわからないの?ほんとうに!?」
もう一度女は聞くが、わたしは何も答えられない。その様子に、こうしちゃいられない、と女は部屋を出て行った。
ここは…吉野だ。それは、わかる。
そして、瑠璃姫という名前にも、覚えがあるような気がする。
だが、なぜその名をわたしは知っているのだろう。
どこから来てどこへ行くつもりで崖から落ちてしまったのだ…!
考えようとすると、頭がズキンと痛んだ。
だめだ。
いくら考えても、何ひとつ思い出せない。
瑠璃姫という名前以外は、何ひとつ…!!
……おい…何かさらにややこしいことになっとるぞ。
そして前の前の回くらいから同じことばっか言ってるような気がするが、
さらにここでもう一度。
何 や っ と ん じ ゃ 、 守 弥 。
守弥が小萩に馬鹿って言われてるw
実の妹にもやしっこ呼ばわりもされてるなw
>私怨私恨は乗り越える
んなことぬかすのはどの口なんだかww
時々コケてる瑠璃は、大けがだったし、まだ本調子じゃないのかしら
瑠璃姫のようなとんでもない姫にひっかかってしまわれた
ってとこを強く否定できないのが悲しい
ま、高彬はとんでもない乳兄弟を持ってもいるわけだが
最 高 の 位
って帝にはなれないからくれぐれも高彬に謀反起こさせたりとかすんなよ〜守弥よ。
毎度毎度里の女に間違われる瑠璃…。
なぜ泣いているんだ。
幼い高彬の温石攻撃もかなりきたが、
日頃気丈な瑠璃の涙もなかなかに…
瑠璃姫キターー!久しぶりだ。
少しは元気になってるみたいでよかったな。
瑠璃だって由緒正しい最高の姫ですがな。守弥さん。
最高の意味は違うが
いち家令が主君の嫁決定権を事実上、握ってるってのも
なんかすげえな
>305
>毎度毎度里の女に間違われる瑠璃…
出歩かないから!
普通姫君は外出たりしないから!
しかも一人で。
なんつーか、前回もその前も守弥オワタって思ったが
毎回その更に下をいくのがすごいぜ。かっこよすぎw
文字通り落ちるところまで落ちた守弥wwww
守弥…
初登場から回を追うごとにキャラ変わりすぎw
そしてどんどん憎めない人になっていく…。
ああ、この話好きなんだよなー。
瑠璃と守弥のご対面がこんな形になるなんて思わなかったし。
続きマダー?
守弥いいキャラだ…
これからも期待
守弥ったら肝心なときはやっぱりヘマするんだな。
しかし記憶があった状態で瑠璃と対面したら面白そうww
はやく記憶戻れ戻れ!!
「…じゃあ、ほんっとーに何も覚えてないの!?ほんっとーに!?」
わたしの枕元にやってきた「瑠璃姫」は、顔をのぞき込み聞いた。わたしは、はいと返事をするしかなかった。
「しかし、瑠璃姫という名前は覚えています!それだけは…」
「あたり前でしょう!姫さまのお名前はさっきわたしが教えたんですからね!それを覚えているなどとずーずーしいっ!!」
「小萩…何もそう気をくじくよーなコトを言わなくても…」
苦笑した瑠璃姫は、わたしに向き直り言った。
とにかくわたしは崖から落ちた時頭を打ったのだ、だからいろんなことを忘れてしまっているのだと。
きっと思い出せるから大丈夫だとも言ってくださった。
「崖から落ちたってことは、どこかへ行く途中だったんでしょう?どこへ?」
瑠璃姫の問いに、わたしは考えた。山の…どこかへ…何をしに?…何か…
「そう、何か大切な…しなくてはならない重要なことがあったのです」
それははっきりしている、そう告げると、ほらね、と瑠璃姫は笑った。
「ゆっくりやれば、こうしてちゃんと思い出せるでしょ?絶対に大丈夫!」
そう言って笑ってくださる瑠璃姫がわたしには心強かった。瑠璃姫がそうおっしゃるなら、きっと大丈夫なのだろう。そんな気がする。
「だから安心してここにいていいのよ。思い出すまでここでゆっくりと…」
「姫さまっっ!! 何をおっしゃるのです!素性もわからぬこのような者を姫さまと同じ邸内に入れるわけには参りませんぬ!」
不用心だ、と「小萩」は反対している。
「思い出せないと偽って邸内に入り込む、盗賊のたぐいかもしれませんわ。危のうございます」
「平気よ小萩。盗賊にしてはこの人、腕も細いしなまっちろいもん」
ふたりのやり取りに、わたしはムッとしたり顔を赤らめたり忙しい。誰が盗賊だ、誰がっ。
この小萩という女、瑠璃姫のことをこうまで心配するとなると、どうやら姫のお付きの女房らしいが…
ふと気付いた。
なぜわたしは“お付きの女房”という言葉を知っているのだろう。
何か、お付きの女房という言葉で何か、思い出せそうな気はするのだが…
そう考えているうちに、瑠璃姫に押されて、わたしをこの山荘に置くことに決まったようだ。
ご迷惑ではないか、と伺うと、病人がいちいちそんなこと気にしなくていい、と申される。
「あんたは傷を治してあんたのことを―――…名前がないと不便ね」
「名前?ここは吉野ですから、吉野とでも呼んでくだされば…」
瑠璃姫の表情が変わった。
小萩も、心配そうに瑠璃姫を見つめている。
「え…と、ね。それは…ちょっと、だめなの」
瑠璃姫の言葉が飲み込めなかったが、姫は案を出した。美しい峯と書いて美峯はきれいではないか?
「何やら貴族のような名前ですね。わたしには…」
「まぁっ、おまえは姫さまからいただく名前に文句をつけるつもりなのっ!?」
小萩に噛みつかれてしまったが、瑠璃姫はお気になさらなかったようで、では「峯男」にしよう、と言ってくださった。
立派すぎず、小萩にも逆らえないので、喜んで了解した。
「それじゃ峯男、今日はゆっくり寝みなさいね」
そう言い残し、瑠璃姫は退出なさった。部屋にはわたしと小萩だけだ。
いったい。あの姫はどういう姫なのだろう。
崖から落ちて何もかも忘れてしまった見ず知らずの男にこうまで親切だというのは、何か信じられない気がする。
不思議で、変わった姫だ。
(といっても、フツーの姫がどーゆーものかもわからないのだが…うーん)
二人きりになり、小萩はわたしに、ほんとうに里の者ではないのか、と念を押す。
里の者なら崖から落ちたりしないだろう、と言うと納得してもらえた。
「でも怪しいわおまえ。この頃里の方では姫さまのことを口さがなく言う者もいるし」
「口さがなく…?瑠璃姫のようによい方をどうして…」
「あら!おまえもそう思うの?」
小萩は上機嫌になった。わたしのような身元の知れない者にまであのようにお心遣いくださっているのに…。
「そうなのよ、姫さまは気前がよすぎるくらいよい方なの!」
小萩は拳を握りしめ力説する。
だが、里の者達は言いたい放題なのだという。京の名門の姫がこんな山の中に四月も五月もいるのはおかしいと、いろいろ詮索されているようだ。
真実は、大怪我をされたために、昔お育ちになったこの吉野で静養されているのだそうだ。
「だいたい姫さまもお悪いのですわ!里娘の姿でふらふらと邸を出られてお散歩などなさるから噂にもなるのです!」
噂…?邸を抜けて…
「姫さまも、もうすっかりお体もよろしいのに、どうして京にお戻りにならないのかしら」
そうだ。どうして京に戻らないのだろう。何か理由があるのか?
そうでなければ、名門の姫がこんな山中にいるのはおかしい。だから、人の噂にも…
「…!」
パシンと、頭に激痛が走る。
何か
わたしには何か、知らなければならないことがある。
瑠璃姫に 関する何か
そう、噂を…!
わたしは小萩に先ほど瑠璃姫に「吉野」と呼んでほしいと言った時の瑠璃姫の困った様子の理由を聞いた。
すると、昔、瑠璃姫が吉野でお育ちの頃、仲良くしていた童をそう呼んでいらしたと答えてくれた。吉野君、と――。
言ってみれば初恋のお相手だ、と小萩は笑う。
では、その方が今もこちらにいらっしゃるの?しかし、何しろ昔のことだからそんな話も、聞かないのだそうだ。
最後は、へんなことに興味を持たず、さっさと自分のことを思い出してくれと言われた。
「起きられるようになったら、薪割りくらいはしてもらいますからね!」
とつっけんどに言い放ち、部屋を出て行った。
問題は、瑠璃姫だ。
どうしてだか、わたしは瑠璃姫に関してひどく興味があるようだ。
助けてもらってせいなのか、他に何か、わけがあるのか…すべてを思い出せば、それが何故なのかわかる気もする。
美峯という名より峯男という名の方がしっくりくるところを見ると、たぶんわたしはそういう生まれの者なのだろう。
そしてわたしには、何かしなければならない重要なことがあったはずだ。何か…
瑠璃姫に関する
何かが…
そのままわたしは眠りに落ち、夢を見た。
『………本当だな? 間違いではないのだな?
そうか その噂が本当なら 今度こそうまくいくぞ 証拠さえあれば 今度こそ…! 』
目が覚めた。夢の中で喋っている男はわたしだった。
証拠…
そうだ。わたしは証拠を求めるために吉野に来たのだ。
だが、その証拠とはいったい何なのだ…!!
2・3日もすると、わたしはすっかり起きあがれるようになった。そして、わたしの記憶の欠如は自分のことに関してのみで、
枕や鏡などと言った常識的なことや、女房や庭男など日常的なことはちゃんと覚えているということがわかってきたのだ。
今、わたしは薪割りをしている。しかし…
斧を振り上げる度によろけ、薪ひとつ割る度に息を荒くするわたしを横で見ている小萩は苦笑いだ。
「峯男ってこういう仕事はやりつけてないみたいね。危なっかしいったらないわ」
「はぁっ…どうやら、はぁっ、そのようですね」息を乱し返事をした。
「だけどよっぽど前世の業が深かったのよ。自分のことだけけろりと忘れてしまうなんて」
悪かったな。
こーゆー女だけはぜったい妻にはしたくないぞ。
小萩の憎まれ口を黙って聞き、薪に斧を通していると、じっと見つめる小萩の視線に気付いた。
いくら姫君大事とはいえ、一日中わたしのことを見張るつもりか!?
「わたし、峯男のことどこかで見たような気がするんだけど」
「ほんとうですかっ!?」
小萩の言葉にわたしは飛びついた。いつ?どこで!?
「それがはっきりしないから落ち着かないのよ。だいたいわたしの知り合いは都人ばかりで、こんな山中にいるわけが…」
「お願いです、思い出してくださいっ!!」
涙目になり袿を掴むわたしの形相に、小萩はちょっと用事が、とお茶を濁して立ち去ってしまった。
ひとりになり、はあっとため息をつく。
都人の小萩が、わたしに見覚えがあるというのはどういうことなのだろう。わたしは都からここへ来たのだろうか。
何か大事な、証拠とやらを掴むために…?
「あれ、おまえ」
すると、里から来ている下働きの爺に声をかけられた。もう動けるのか、とわたしをじろじろ見る。
むっとしたが、わたしに何か用かと聞いた。
「おまえじゃろ。崖から落ちてフヌケになったと嘘をついて姫さんが引っぱり込んだオトコは」
え え っ ?!
ちょw守弥と愛人疑惑w
記憶喪失とはいえ、守弥の脳内で瑠璃は
若君をたぶらかす物の怪憑きの姫→よい姫
になっててワロタww
みねおwww
なーんか守弥と小萩、いいコンビっぽくね?w
こーゆー女だけはぜったい妻にはしたくないぞ。
とか言っていた相手が実は運命の人だった…というのが少女漫画の常道。
守弥、小萩と結ばれるのか…。
守弥改め峯男wが夢の中で言ってた噂ってなんだろな?
330 :
代理の輔:2007/08/11(土) 22:48:24 ID:HfCy+ess
わ、わたしが瑠璃姫の男だって―――――っ!?
「そ、そ、そんなことあるわけがないだろうっっ!!」
「そうだろうなァ」
全力で否定したことを、にこにこと同意されてしまい拍子抜けしてしまった。
どうやら女房たちがそう言っていただけで、下働きのこの爺は、瑠璃姫がそんなことをするとは思っていないのだそうだ。
「ま、いろいろと噂をする奴らもおるがの。ここの姫さんはすこぅし変わっておられるだけだ」
そう言って爺はわたしの近くに腰をかけた。
「やはり…その、変わっているのか?瑠璃姫は」
「そらまー、ふつーの姫さんはあんなふうに真っ昼間からふらふらと野っ原を散歩したりはなさらんと聞くぞ」
確かに、良家の姫というのは部屋からも出ないものだ。
だいたい、わたしを最初に見つけたのが瑠璃姫だったというのも、よく考えれば奇異なことなのだ。
この山中でさえ人の噂にのぼるのだから、京の都にいたら“変わった姫”どころの騒ぎでは済まないだろうな…他人事ながらちょっとコワイ。
爺は続ける。目を細めて、瑠璃姫はいいお人だから、里の噂なぞ信じないと。
「姫さんには、ちゃあんと京にいい人がおるのだしな」
いい人…!?
少なくともわたしには衝撃だった。瑠璃姫にはそういう方がいるのか?つまり…恋人のような…
「ああ、おるらしいよ。よく御文や贈り物が届くしな。姫さんもそんな時は嬉しそうじゃもの」
「では、どうして恋人のいる京に戻らないのだろう。何か理由でもあるのだろうか…」
ああ、また同じ言葉だ!
「だから噂にもなるんじゃよ。姫さんには男がいるってな。都人らしい男がこの山荘のまわりをうろうろしていたとか、
姫さんがその男と逢い引きしとるのを見たとか言っておる。由緒ある都の姫さんのことだけに、面白がって噂しとるんじゃ」
331 :
代理の輔2/5:2007/08/11(土) 22:49:08 ID:HfCy+ess
薪割りも終わり部屋に戻っても、爺の言葉が頭を巡る。瑠璃姫に、男がいる…
年頃の姫ならば、恋人が複数いたところで何もおかしいことはない。
だが、どうしてそのことが気にかかるのだろう。わたしが瑠璃姫に懸想しているのならともかく…
瑠璃姫に懸想っ!?
わたしは思わず顔が赤くなった。何を考えているのだわたしは!
いくら助けられて親切にされたとはいえ、相手は大貴族の姫君ではないかっっ!!
そ・それに、ああいった型破りの姫はわたしの好みではないぞ、それだけは自身があるっ!ぜったいにフツーの女がいいっ
しかし…
何故こうもわたしは、瑠璃姫の男関係が気になるのだろう………?
「峯男、いる?」
突然瑠璃姫が戸を開けて入ってきた。
わたしは動悸が激しくなる。
「どうしたの峯男、顔が赤いわ。熱でもあるんじゃないかしら」
げっ
わたしの額に延ばす瑠璃姫の手から、わたしは飛びのいた。「い…いえ、熱ではありません、熱ではっ!!」
そうなの?と瑠璃姫は不審な表情をなさる。
熱ではないのなら出かけられるだろう、と瑠璃姫は言う。
「里の者達におまえを見せて回って身元を調べるのよ。早くおいで」
わたしは、はあ、と従った。
332 :
代理の輔2/5:2007/08/11(土) 22:49:30 ID:HfCy+ess
瑠璃姫に従ってずい分歩いた。すると、瑠璃姫は里へ行く道と違う方向に曲がった。
慌てて追いかけると、目の前に野原が広がった。
「…瑠璃姫、ここは…?」
微笑んだ瑠璃姫は答えた。「峯男が倒れてたとこよ」
あそこで峯男を見つけたの、と崖の下を指した。
「あんなとこから落ちたわりに怪我が軽かったのは、散った桜の花びらが積ってて柔らかかったせいよ」
そう言って瑠璃姫はしばらく黙り込んでしまわれた。
沈黙を埋めようと、里へは行かないのか、と伺ってみた。里へ行って、早く身元がわかりたいか、と聞き返されてしまう。
なぜか動悸が早くなり、しどろもどろに別に急がないと答えてしまった。
何を言っているのだわたしはっ。一刻も早く自分の身元を知りたかったのではなかったのか!?
自分自身に戸惑っていると、再び瑠璃姫は微笑み、言った。
「よかった。あたし峯男にはもう少しここにいてもらいたかったんだ」
えっ!!
い、いてもらいたかったとは…ど・ど・どういうイミで…
さらに動悸が早くなり顔が赤くなるのがわかる。やはり熱があるのではないかと瑠璃姫に聞かれたくらいだ。
やがて、瑠璃姫は野に腰をかけた。わたしもそれに倣う。
ふたりで桜を散るのを見ていたが、口を開いたのはやはりわたしの方だった。
「姫は昔、こちらでお育ちだったそうですね。お寂しくはなかったのですか。このような山中で」
わたしの問いに、瑠璃姫は静かに答える。
「寂しくなんてなかったわ。お祖母さまもいらしたし、それに子供っていつの間にか遊び相手を見つけるでしょ?」
「ああ、女房どのが言っていましたね。姫には遊び相手の初恋の男の子がいらしたと…」
初恋の…?
自分で口にして、引っかかる言葉だった。
「やだなァ。小萩がしゃべっちゃったのね。初恋かあ」
瑠璃姫はくすくすと笑っている。しかし、わたしは笑えなかった。
333 :
代理の輔4/5:2007/08/11(土) 22:50:53 ID:HfCy+ess
これは、重要なことだ。
瑠璃姫は京で怪我をしたためこの吉野へ静養に来ているのだとあの女房は言っていた。
そしてあの爺は、京の他にも瑠璃姫にはこの吉野に恋人がいて逢い引きをしているという。
では、瑠璃姫が邸を抜け出して会っているというのは、成長した初恋の男ではないのか?
そう考えればすべてに納得がいく。だから瑠璃姫は京に帰らないのだ…!!
わたしは、瑠璃姫にそれとなく聞きだそうとした。
「その初恋のお相手とは、こちらで再会なさいましたか。昔は童でも、今はもう一人前の殿方でしょう?」
しかし、瑠璃姫はゆっくりと視線をわたしから外し、膝を抱えられてしまった。
わたしは何かヘンなことを言ってしまったのか?
すると、瑠璃姫は急にすっと立ち上がった。
そしてわたしの腕をぐいっと掴み、歩き出されたのだ。
瑠璃姫の引っぱるまま連れられた場所は、わたしが倒れていたという崖の下だった。周りより少し窪みになっている。
「ね。あの時と同じようにここに寝転がってみてよ」
瑠璃姫の意図することが掴めなかった。
「落ちた時と同じことすれば、何か思い出すかもしれないでしょ?」
しかし…わたしは少し歯切れが悪かった。
「お願い峯男。もう一度寝転がってみて」
瑠璃姫に上目遣いで請われ、これも助けてもらったお礼だと思い、その通りに寝転がることになった。
334 :
代理の輔5/5:2007/08/11(土) 22:51:23 ID:HfCy+ess
仰向けに寝ていると、ひょいっと瑠璃姫がわたしを覗き込んだ。
「あの時はね、峯男。残っていた桜がいっせいに散っていて、あんたは花に埋もれているように見えたなあ」
「…雅ですね」わたしはなぜだか照れた。
「…あたし、倒れている峯男を見た時、心臓が止まるかと思ったんだ」
「死んでいると思ったのですね」
わたしの問いを、瑠璃姫は否定した。
「生きていたんだと思ったのよ。それで、待っててよかったと思ったの」
待ってた…わたしを?
「峯男の声って、低いのね。初めて聞いたときびっくりしちゃった。“この状態では動こうにも動けませんね”」
またしても照れてしまった。よく覚えてますね、と言わずにいられない。
「覚えてるわ。だって、お経を読む大僧正みたいに低い低い声だったんだもん」
「大僧正か、それはいい」
思わず笑みがこぼれた。
「知ってる人のね、声に似てるの。 低くて よく響く…
あたし そういう声好きよ、峯男」
えっ!!
すすす好きって… 動悸がまた激しくなる。
何を言い出すんだこの姫はっ!女が男に向かってす・す・す・好きだなどと…!!
動揺を必死で抑えていると、瑠璃姫がわたしに言った。なんでもいいからしゃべってみてくれと。いきなりしゃべろと言われても…
気のきいた言葉を探したが、この言葉が自然と出た。
「…瑠璃姫」
「なあに?」
「わたしはずっと前から、あなたを知っていたような気がします。自分のことを、忘れる前から…」
そうだ。わたしは確かに瑠璃姫を知っていた。
崖から落ちる前は、瑠璃姫のことを知っていたのだ…!!
335 :
代理の輔:2007/08/11(土) 22:53:51 ID:HfCy+ess
通し番号間違った。 >332 は 3/5 です。
>「生きていたんだと思ったのよ。それで、待っててよかったと思ったの」
なんか瑠璃が妙に落ち着いてるなぁ…逆に切ない感じ…・゚・(ノД`)・゚・。
しかし峯男、いや守弥、ドギマギしてるだけの情けない男だw
「生きていたんだと思ったのよ。それで、待っててよかったと思ったの」
瑠璃のこの気持ち、せつねえ°・(ノД`)・°・
吉野君だったらよかったのに、守弥のヤツ空気も読まずに崖から落ちやがって。
>他人事ながら、ちょっとコワい
それがねー、じぇんじぇん他人事じゃなかったりすんのよねー、みねおくん。
守弥は、高彬や妹は忘れても、瑠璃は覚えてるんだね
以前どこかでお会いしましたか?
僕はあなたのことを昔から知っているような気がします
って ナ ン パ か
で、瑠璃はマジで誰かと会ってるの?誰よ?
吉野君……ではないのねorz
大僧正みたいな威厳ある声だったのね。よっしーは。さらに声が守弥に似てる、と。
瑠璃の一途さに涙。でも瑠璃は誰かを忘れてませんか……
頭の片隅にすらないな
う…そう言えば一部記憶喪失になってるから、守弥の頭からも
あの人の名前がチラともかすめないのか…。
下男の爺さんも、瑠璃の相手の身分ぐらい知ってたらいいのに…。
不憫だーーーーーーっ!高彬w
山荘に戻ったわたしは、夜、邸の外で考える。瑠璃姫のことを。
以前から瑠璃姫のことを知っていたというのは確かだ。それには確信がある。
だが、なぜわたしは瑠璃姫のことを知っていたのだろう。なぜ瑠璃姫のことだけを…
きっと、何か理由があるに違いないのだ。それがわかればすべて思い出せると思うのだが…
しかし、「ずっと前からあなたを知っているような気がします」など、あれではまるで恋の告白のようではないか。
わたしは今日何度目かの赤面をした。
ほんとうに、あの時の瑠璃姫はひどく悲しそうで
あのまま 可哀そうにと 慰めたくなって
困って…
その時、邸の柴垣の向こうに松明の揺れるのが見えた。
「誰だっ!」
そう発したのは松明の主だった。
次の瞬間わたしは投げ倒されていた。
「盗賊か!?こんな夜半にこちらの山荘でなにをしているっ!」
わたしはぶつけた頭を押さえ、わたしを投げた相手を見た。その顔を見てわたしの口から自然に言葉が出た。
「秋篠の左近の権中将さまっ!」
「わたしを見知っているのか?おまえ里の者ではないな」
…そうだ!
「わたくしは…恐れながらわたくしは、右近少将高彬さまにお仕えする者」
わたしは高彬さまの側近…!吉野へは瑠璃姫の身辺を探るために来たのだ…!!
右近少将の縁とは言え見ない顔だと申されたものの、もっぱら内向きに仕えていることを伝えると、花待ちの宴で見たような気もすると仰った。
「右近少将に縁の者か…まずいことになったな」
権中将さまはそう呟き、わたしに名を問われた。
「守弥か。このことはおまえの御主人には内密にしてくれ。不審に思うかもしれぬが、さる御方から強く申し渡されているのだ。
人目に立たぬよう、ことに右近少将の縁の者には気取られるなと。これはあくまで内々のことなのだ」
「…その、さる御方とは、いかなる御方でございます」
わたしは尋ねたが、おまえの知ったことではないと身を翻された。
「無礼を承知でひとこと。権中将さまは、こちらの姫さまのお見舞いにたびたびいらっしゃるのですか」
「…いや、わたしはさる御方の使いで、姫に御帰京をお勧めに参っているだけのことだ」
こちらに参られたことはくれぐれも少将には内密に、と念を押し、中将殿は闇に消えた。
わたしはにやりとした。
権中将ほどの身分の方が御使いだって…?
もちろんその「さる御方」というのが今上帝であらせられれば話は別だが、そんなことはあり得ないはずだ。
だいたい今上帝がどうして物の怪憑きの姫に帰京をお勧めになられるというのだ。
あれは、言い訳だ。
瑠璃姫に通っているのは、権中将自身に違いない。
だからこそ、このことを若君に知られてはまずいと思っておられるのだ!
そう、わたしはすべてを思い出した。
そして、瑠璃姫の新しい恋人が権中将であるという証拠を握ったのだ…!!
事の起こりは、若君の文使いで吉野に言っていた将人が、つい最近聞きつけてきた瑠璃姫の噂話だった。
瑠璃姫に通う男がいる。
あくまで噂なのだそうだが、都の公達が春から頻繁に瑠璃姫の近くに出没しているという内容は、里ではかなり広まっているらしい。
若君は去年一度吉野を訪れただけだから、都の公達とは誰なのか…
将人には、「くだらぬ噂で若君のお心を煩わせることなはい」といい置いた。
その後わたしは考えをめぐらせたのだ。瑠璃姫が、怪我の療養と称し吉野へ行ってしばらく経つが、
いつまでも京に戻ってこないのは何か理由でもあるのかもしれない。
たとえば
若君の他に吉野に男がいるのだとしたら?
これは好機だ!瑠璃姫に新しい男がいるという証拠を握れば、いくら若君とてお考えを改められるだろう。
若君のご性格から言っても、心変わりした女を未練ぽく追いかけるより、
遠くから裏切った女の幸せを祈ってしまうようなパターンにしかなるまい。
下手な小細工を弄するより、よほど効果があるというもの。
これはいけるぞ…!
その後、若君を上手くいいくるめ御信頼を再び手に入れたわたしは、瑠璃姫に御帰京を勧めるという役目も手に入れたのだ。
瑠璃姫の身辺を探るという目的のため、他の従者は一切つけぬよう取りはからい、妹の大江のみを連れてこの吉野に乗り込んできたのだ。
そして
崖から落っこちてしまったのだ…0
349 :
粗筋中将4/5:2007/08/12(日) 18:35:26 ID:rHrKaQ1t
まあそのおかげでこうして権中将が瑠璃姫の新しい恋人だとわかったのだから、ケガの巧妙といえなくもないが…
だが、これで証拠は揃ったのだ。
瑠璃姫にはもう二度と若君のまわりをうろつかせは…
ひらりと、桜の花びらが目の前に舞い、足元に落ちた。
昼間の瑠璃姫の憂い顔が思い出される。
瑠璃姫は、確かに風変わりな姫だ。
貴族の姫君でありながら里娘のように出歩くし、言葉遣いも乱暴で、気安く男に顔を見せて恥じない。
人の目をまっすぐに見て話し、そして、
自分のことを何もかも忘れてしまったわたしにも、親切で…
とても物の怪憑きには見えなかった。
はっと我に返る。
ここで仏心は禁物だ!!
若君の御ため、瑠璃姫とは ぜ っ た い !!別れていただかねばならないのだっっ!!
本来の目的を思い出し、今まで世話になったとはいえもはや敵地も同然のこの邸から一刻も立ち去らねばと思った。
証拠も握ったことだし、証拠固めは京にいてもできる。
しかしこの夜の中、里まで降りるというのも…またガケから落ちたら大マヌケだ。
「まあ峯男、こんなところで何をしているの!?」
そんなことを考えているところに、小萩がわたしに声をかけた。
眠れないので…と言い繕っていると、ちょうどよかったと言われる。
「おまえ、瑠璃さまを見なかった?姫さまが…お部屋にいらっしゃらないのよ…!」
瑠璃姫が…!?
小萩によると、昼間小萩の目を盗んで外出した後、帰ってから様子がおかしかったというのだ。
こんな夜に邸を抜け出されるのは初めてだ、と激しく狼狽していた。
おまえのせいだ、早く探して来いという小萩にせっつかれ、わたしは夜の里を松明片手に歩いていた。
逢い引き相手の権中将はすでに帰ってしまっている。瑠璃姫ひとりでこんな夜中に出歩くとは、いくらなんでも無用心すぎる。
…別に、わたしは瑠璃姫のことを心配しているわけではないぞ。
ただ、助けてもらった恩は返しておきたいだけなのだ。
それに、きっと
瑠璃姫はたぶんあそこにいる。
あそこにいるに違いないのだから…
> 若君の御ため、瑠璃姫とは ぜ っ た い !!別れていただかねばならないのだっっ!!
かろうじて思い出した感がw峯男ww
もうまたどっかで頭打って忘却→思い出す→別れていただくぅっ!の永遠ループでいいよ峯男
>もちろんその「さる御方」というのが今上帝であらせられれば話は別だが、
>そんなことはあり得ないはずだ。
>だいたい今上帝がどうして物の怪憑きの姫に帰京をお勧めになられるというのだ。
まあ普通に考えればそうなるんだろうな…
鷹男とのこと説明したらどういう反応になるんだろ。
小利口に常識的な判断をしているつもりでどんどん深みにはまっていく。
それでこそ守弥。もうこいつが楽しくてしゃーないw
守弥は興信所の浮気調査してる探偵なわけね
権中将が「高彬に知られては困るから」って言ってるってことは、
鷹男がそう中将に伝えたってことだよね。
鷹男、抜け駆けしてる気分なのかな?
って考えて「帝がいち貴族の姫にわざわざ帰京を勧めている」ことを知られるのが世間体的によくない
ってことに思い至った。
ツマンネ('A`)
でも>ことに右近少将の縁の者には気取られるな
っていうことは、やっぱ鷹男も高彬に対してライバル心があるからじゃ…と考える
うん。鷹男の帝がいまさら高彬に内証で都への帰京を
勧めているのが気になるねぇ。
秘密裏に側室の座に据えようと画策してるのか?w
本気で邪魔なら高彬をどっか地方に飛ばせばいいものを
そうしないのはプライドなのか鷹男の良識なのかはたまた高彬が優秀なのか
あるいは鷹男はねちねち高彬をいたぶるのが楽しいS気質なのだろうか。
ドラマ「大奥」とか見ると、時代が違うとはいえ権力者はやりたい放題なのに
鷹男は良い人だね。
鷹男は高彬のこともお気に入りだからじゃなかな
瑠璃とは違った意味で
あぁ、あの時代はゲイや両刀使いは当たり前だもんね。
>>360 かわいくてたまには小憎たらしいおもちゃみたいなもんかなw
孤独なポジションの鷹男にはかわいい弟みたいな存在なのかも。
つーか即位したとは言え鷹男のバックは右大臣なんだから
その愛息を左遷やらなんやらできんだろw
女御も右大臣の姫だし。
>さる御方から強く申し渡されているのだ。
>人目に立たぬよう、ことに右近少将の縁の者には気取られるなと。
里の方で噂になった上将人に知られおまけに守弥と鉢合わせ。
権中将、出世できるといいね……。
十三夜の月が、吉野の野を照らしている。
昼間のあの野に出ると、瑠璃が、わたしが落ちていた崖の下の前に立っていた。
「…瑠璃姫」
わたしの声に少し体を震わせ、瑠璃姫はゆっくりこちらを振り返った。
わたしの姿を認め、呟く。
「…なんだ。峯男か」
そう言ってその場にぺたりと座り込んだ。
少しムッとはしたが、小萩が心配しているから帰ろう、と促した。だが、瑠璃姫は相変わらず膝を抱えていた。
「男の子をね、思い出していたの」
?
「初恋の君のことですか?それならお部屋にいても思い出せるでしょう。早くお帰りに…」
「その子、前の帝の御子様だったのよ」
えっ!?
帝の…って…
「その子ね、大きくなって父上の帝に会いに行ったんだけど、会わせてもらえなかったんだ。
それで、悲しくって寂しくって、謀反をたくらんじゃったの」
謀反…?
「でも、その子と腹違いの今の帝には有能な少将がいたから、すぐに捕まっちゃった」
………わたしはその先を、皮肉たっぷりに言った。
「そしてその子は寺に閉じ込められ、瑠璃姫はその子を救い出すために寺に飛び込んだというワケですか」
「そうよ。よく知ってるじゃない」
にこっと瑠璃姫は笑う。
知ってるも何も、そのせいでわが若君高彬さまは失策をやらかしてしまわれたのではないかッ
366 :
粗筋中将2/6:2007/08/14(火) 20:46:29 ID:BWpybDTd
忘れもしない去年のこと、都では帝の御命を狙うという謀反事件が起き、
謀反を企てたという美僧は若君の御活躍によって見事捕らえられ通法寺に籠められた。
だが瑠璃姫は、よりによって炎上するその寺から僧衣をまとい、馬に乗って飛び出してきたのだが、
そのために若君は捜査を撹乱され謀反僧を取り逃がし、その責を負って謹慎までなされたのだ。
だからこそわたしは、そんなわけのわからん物の怪憑きの姫は若君の将来の御ためにはならないと考え、
瑠璃姫を若君から遠ざけようとこうして吉野くんだりまで…
しかし…
瑠璃姫の初恋の子供…吉野君というのは、あの時の謀反僧なのか…?
相変わらず塞いだ表情の瑠璃姫を見て思う。
だから瑠璃姫は、あんなことをしたのだろうか。
捜査を撹乱するため僧衣をまとい、大怪我をしてまであんなことをしたのは、その男を救い出すためで…
『生きていたんだと思ったの…』
昼間の瑠璃姫の言葉を思い出す。
あの謀反僧の行方は未だ知れない。
そして、瑠璃姫は静養の地に吉野を選んだ。昔、その子供と遊んだという、この吉野を…
瑠璃姫は、その男が現れるのを待っているから京に戻らないのだろうか―――
「今のお話は…その、作り話なのでしょう」
にわかには信じられずわたしは聞いた。
瑠璃姫はふふっと笑う。
「もちろん作り話よ。本気にしたの?」
「えっ」
わたしの隣でくすくす瑠璃姫は笑っている。作り話にしてはつじつまが合いすぎるではないか、つじつまが。
しかし…
若君が瑠璃姫にお弱いのも、わかる気がする。
本当に瑠璃姫は風変わりで、
人を困らせるのが、うますぎて…
瑠璃姫に振り回されてしまったが、今度はわたしが聞く番だ。瑠璃姫に、京にはもう戻られないのかと聞いた。
「戻ってこいっていう人はいっぱいいるのよ。春になってからは、えらい身分の男の人がせっせと御使者なんか送ってくれるしね」
ふと微笑んだわたしに、瑠璃姫は、信じてないわね、と軽く睨む。
「あ、いえ、もちろん瑠璃姫の御帰京を心待ちにしている殿方も多いでしょう」
その筆頭が若君なのだ。
瑠璃姫は再び表情を曇らせた。
「桜のね。桜の花が咲くまでは、と思ってたの。でも、そうしたら散るまでは、と思って…こうしてずるずると居ついちゃった」
「では今度は、桃や梨の花が咲くまでですか。きりがありませんね」
わたしは続けた。
「早くお帰りになっては いかがですか」
どうして
わたしは瑠璃姫に帰京を勧めているのだろう。どうして…
「あたし、峯男の声って好きよ」
言われるのは二度目だが、わたしはまたしても戸惑った。
「ね。もう一度言って」
「…あ、あの。早くお帰りになってはいかがですか」
「もう一度」
「早く、お帰りに…」
「こう言ってみて、峯男。 もういいからお帰りなさいって」
………
「瑠璃姫
もう いいですからお帰りなさい」
もう いいから…
瑠璃姫の目に溜まった涙はすぐに溢れ、同時に姫はわたしの胸に飛び込んだ。
「る…瑠璃姫!?」
戸惑うものの、瑠璃姫の涙は止まらない。
そして、わたしの胸に顔をうずめたまま言った。ありがとう、と。
「あたし ずっと、そう言ってもらいたかったの。
あんたが、あんな風に倒れてるの見た時から…
声を 聞いた時から…
ずっと そう言ってもらいたかったの… 」
あれは 正夢だったのだ。
あの日 吉野入りした日に見た夢は…正夢だったのだ…!!
「ほんっとに兄さまってば軟弱なんだから!あきれっちゃうわよね!」
そう言いお粥をドン、と乱暴に置くのは、守弥の妹の大江である。
「だいたいなあに?せっかく吉野まで行っておきながら散歩の途中で道に迷ったですって?わたしに連絡もしないで散々心配させて
おきながらのこのこ戻ってきたあげく今度は具合が悪いとか言って瑠璃姫の御機嫌伺いどころか遠くから見ることもしないで京に
戻ってきてしまうし帰れば帰ったでこうして熱を出して寝込んでしまうなんて… ば っ か み た い っ!!」
ひとしきり兄を罵倒したせいか大江の息が荒くなっている。
「わたしなんか、女房仲間のみんなに高彬さまのお相手の姫のことを聞かれても何も答えられなくって、面目まるつぶれよ」
それもこれも兄さまのせいじゃないっときぃーっと怒りは収まらないようだ。
病人なのだから、膳を置いたら出て行きなさいと言う守弥に、最後にひとこと意地悪く言っておかないとおさまらない大江だった。
「高彬さまがね、できたら顔を見せろとおっしゃってたわよ、兄 さ ま 」
ぴしゃんと戸を閉めて出て行く大江に、吉野の山荘での女房・小萩を思い出す守弥だった。
あの夜、守弥は山荘まで瑠璃を送り届けると、小萩の目を盗んで夜の道を里へと戻った。
大江には、山で道に迷ったと言い繕い、京に戻ってきたのである。
問題は若君高彬だった。
守弥を召し、わくわくと瑠璃の帰京の意を尋ねたが、大江に口裏を合わせたように、
吉野入りした日に熱を出してしまい、そのような体で機嫌伺いをするのも失礼だと思い、結局瑠璃に会わずに帰ってきた、と告げた。
高彬はたいそうショックを受けた。
「…もういいよ。頭脳労働専門の守弥にこんなことを頼んだぼくが ば か だったんだから」
そう言い放ち、しょんぼりする高彬の姿を前に、こんなことで長年の信頼を損なうのは何より痛いと思うものの、何も言えないのだった。
(あの吉野での一件を、どう話せというのだ)
瑠璃に抱きつかれ胸で泣かれたことを思いだし、守弥は顔が赤くなる。へたに話せばあらぬ誤解を招いてしまうだろう。
結局黙っているしかないのだった。
京に戻り、瑠璃に通っていたという噂の権中将のこともウラを取ってみれば、本当にだれかの使者だったらしい。
(いったいどなたの使いだったのだろう…)首をかしげるばかりの守弥だった。
それにしても、何のために吉野くんだりまで行ったのか、と思いつつ高彬のもとに行く準備をした。
高彬は、琵琶の練習をしていた。
守弥の姿を見て、吉野に行ったくらいで熱を出してちゃ情けないから少しは体力をつけた方がいいと進言する。
吉野と言えば、先ほど急使が来て、やっと瑠璃が帰る気になったと、女房の小萩が連絡してきたことを告げた。
「おまえは結局役に立たなかったけど、迎えの時期としてはぴったりだったのかもしれないね」
高彬は朗らかに笑う。守弥はただ汗を流して聞いているだけだった。
「ただね。小萩の文によると、山荘のあたりに怪し気な男が現れて、3・4日でいなくなったものの怖い思いをしたらしいよ」
怪しい男本人の守弥はぎくりとした。
やはり山荘というのは物騒だから、瑠璃もそれで帰る気になったのかもしれないと言う高彬だが、守弥は気が気でない。
浮かない顔も守弥に気付くが、体調が思わしくない、と誤魔化した。
高彬は、今日一日は寝ていたほうがいいかもしれないと体をいたわったあと、満面の笑みで言った。
「瑠璃さんの帰京のことでは守弥も気にかけてくれてたから、教えといてあげようと思ったんだ」
守弥は複雑な思いで高彬の前から退がった。
高彬の部屋から自室に戻るまでの間に守弥は考える。
(あの瑠璃姫が、帰ってくる…)
高彬もそのことで忙しくなるだろうから、吉野のこともこれ以上は何も追及してこないだろう。高彬の方は大丈夫だ。
(だが、もし瑠璃姫や小萩にばったり会ってしまったら…!!)
守弥の心配はここだった。
同じ京にいるというだけでもその確率は高くなるというのに、まして守弥は高彬の側近で…
ふたたび、胸の中で泣く瑠璃の姿が思い出された。
(本当に、いったい どうしたものか…)
顔を真っ赤にし、うずくまる守弥だった。
だめだ、守弥面白すぎるwww
大江の頭の中
女房同士の噂ネットワーク>>>>>>兄
ぼくで我慢しなよの時の雪景色とか守弥が最初倒れてた時の桜の野とか
今回の月夜とか、
山内さんの書く風景が好きだなぁ。情緒たっぷり。
>「桜のね。桜の花が咲くまでは、と思ってたの。でも、そうしたら散るまでは、と思って…こうしてずるずると居ついちゃった」
>「では今度は、桃や梨の花が咲くまでですか。きりがありませんね」
このやり取りがなんか好きだ。
374 :
マロン名無しさん:2007/08/15(水) 00:06:21 ID:BHkaB6/o
守弥ってハンサムなんだよね。
氷室さんからの注文で。
声も低くて、渋い男でちょっと間が抜けてる。
いい男だから悪知恵も許せるって感じかな?
瑠璃はフラグ立てすぎだな
高彬、琵琶の名手だったっけ
早く正式対面しろw
原作の中でこの話が1番好きだったんだが
守弥のせいで台なしw
379 :
粗筋中将:2007/08/15(水) 22:05:28 ID:???
小萩のジャパネスク日記の巻
-------
京の七条、万里小路にある、元摂津守の邸で、目が溶けるほど泣いているのは、12歳になる小萩である。
無理もない、先年の疫病で、いきなり父と母を亡くしてしまったのだ。
以来喪が明けたというものの、ぐずぐずと涙が止まらない小萩を、母方の叔母が、元気を出しなさいと明るく背中を押す毎日だった。
しかし、いくら叔母に本当の娘のようにかわいがってもらっているとはいえ、
下級貴族とはいえ優しかった父、歌や琴、手習い裁縫をたしなみとして教えてくれた母の幸せな毎日が思い出され、また涙が溢れる。
そんな風に過ごす小萩だから、叔父が女童の話など持ってきてしまうのだ、と叔母はため息をついた。
いつもうつうつとしているよりは、貴人の邸に女童として仕える方が気が紛れるという叔父なりの心遣いだったが、
叔母は、後見もある、まだ12歳にしかならない娘を他家で仕えさせるなどとんでもない、と反対しているところだったのだ。
小萩にはいつかよい殿方を通わせ幸せになってもらいたいのだという叔母と裏腹に、小萩は興味を示したようだ。
そこは、叔母が反対するような格の低いお邸ではなく、三条にある、摂関家の流れを汲む大納言の邸だという。
ただ、家庭内でいろいろあるのが叔母が賛成できない理由だった。
なんでも、その邸の10歳になる姫は、小さい頃ゆえあって京を離れた吉野で育ち、つい最近病床の母が亡くなったことで帰京した。
しかし田舎暮らしが長かったせいか京の暮らしになかなか馴染めず、話相手に若い女房や女童を捜しているのだそうだ。
小萩はこの話にいたく同情した。
母と離れて暮らしていたうえ、その母は亡くなり、京の生活にも馴染めない…きっと、自分のように泣き暮らしているに違いない。
小萩が乗り気なのを見て、叔母は止めた。
けれど小萩としては、叔母はいい人なのだがこのまま厄介になっているのも心苦しい。
叔父も、自分を疎む気持ちがありこの話を受けたのかもしれない。
それならば、母を亡くし心細い思いをしている小さな姫のために何かをしてあげるほうがいい。自分のためにも…
小萩は、その小さな姫の名前を聞いた。瑠璃姫、というそうだ。
きっと、瑠璃のように清らかな姫なのだろう。
よい姉のように仕えることができるような予感がした…
380 :
粗筋中将:2007/08/15(水) 22:07:04 ID:???
その後、小萩は女童として三条にある大納言邸にあがった。
北の対に自分の部屋をもらい、おさがりとはいえ女童仕えの身にはもったいない程の調度品を与えられた。
10日ほど立って、邸の主人である大納言に目通りの叶うことができ、大きな邸にほうっとしつつ案内された部屋に向かった。
大納言にあいさつが終われば、瑠璃姫とも会えるはずだ。どのような姫なのだろう、と期待に胸を膨らませる小萩だった。
大納言の前に通された。大納言は、陽気で快活な人物だった。陽気ついでに、北の方も紹介された。
なんと、瑠璃姫の母が亡くなったばかりだというのに、もう新しい母がいるのである。小萩は驚愕した。家庭の事情とはこのことだったのか。
次いで大納言は、瑠璃姫についても言及した。
親の口から言うのもなんだが、姫はどうも変わっている。長い吉野暮らしのせいか、京の暮らしに合わず困っているのだと。
小萩は、急激な環境の変化に戸惑っているに違いない、それを変わっているなど言うのはかわいそうだとひっそり涙ぐむ。
それについては、北の方も述べた。前の北の方が病床にいる頃から心安くしてもらっていたのだが、
あとに残される瑠璃姫や、弟の融君のことをよろしくと気に病んでいたことを思うと、瑠璃姫にもすこやかに育って欲しい、
そう少し物憂げに語る北の方に、小萩は、この新しい北の方はやさしい人のようだと安心する。
夫婦の瑠璃姫を心配する姿を見て、小萩は一所懸命に姫に仕えることを声を大にして誓う。
それを聞いて大納言も安心した。その代わり、約束をちゃんと守ると叔父上に伝えるように、と――。
小萩は、約束は何かと聞き返す。
それは、先日開いた藤花の宴でのこと、何かというとせっかく連れてきた女房や女童を追い返す瑠璃姫のことを元政にこぼすと、
心当たりがあると答えた。
姪を務め先に出すなど、亡くなった義姉にも申し訳が立たぬと初めはしぶっていたようだ。
大納言も、身元のしっかりした後見もある娘を邸に仕えに来させるのもかわいそうにとも思ったのだが他にあてもなく、
次の除目で任官を推挙すると切り出すと、元政も、自分が上国の守になれば後見している小萩のためにもなると納得してくれたのだ。
小萩は絶望した。
381 :
粗筋中将:2007/08/15(水) 22:08:05 ID:BQhgsrXl
大納言の前から退がった後でも、自分の部屋でその話を思い出して泣いた。
あんなに反対してくれた叔母は、きっとそのことを知らなかったのだろう。
しかし、叔父の出世の道具にされたことは12歳の少女には悲しすぎる事実だった。
親を亡くした下級貴族の行く末なんてこんなものなのか。
「わたし…もう頼る人もない身の上なんだわ 万里小路の家にも…帰れない…わたし…わたし…ひとりぼっちなんだあ―――っ」
わああっと、思わず声を上げて泣いていた。
(こうなったら、尼になろう!!)
小萩は決意した。
(そうよ、尼になって 亡くなったお父さまやお母さまの菩提を弔って…ひっそりと一生を送るのがわたしにはふさわしい道なのだわ!!)
とっぷりと夜が暮れてから、小萩はこっそりと自分の部屋を出た。
貴族の邸などたぶんどこも同じ造りだろうとタカを括り、あてずっぽうに西門に向かって歩き出した。
邸内とはいえ、あたりは真っ暗だ。小萩は、木々の闇を怖がった。
その時、暗闇でがさっと音がし、野犬のような陰が見えた。
小萩は怯えつつも、手近にある小石を手に取り、投げる構えを見せた。その時――
「誰?」
暗がりのその陰が声を発した。
「そこにいるの、誰よ」
よく見ると、小さな子供だった。大きな瞳からは涙がこぼれている。
「わたし小萩ですわ。あなたは…」
「あたし、瑠璃よ。瑠璃姫よ」
(ええっ!?)
382 :
粗筋中将:2007/08/15(水) 22:10:08 ID:???
とりあえず小萩は、部屋がわからないので、未だ目を真っ赤にしている瑠璃姫を自分の部屋に連れてきた。
なぜひとりで邸の庭になどにいたのかと、極めて素朴な疑問を投げかけた。
「母さまのこと、思い出してたの」
瑠璃姫は、弱々しい声で答える。
「お祖母さまや吉野君のこともよ。そいでお庭に出て泣いてたら、お部屋わかんなくなったの」
うちのお庭広くて暗いんだもん、と、次第にこぼれる涙を拭いながら言う姿に、小萩は同情した。
「吉野に帰りたいよ。ここはいやだ。父さまが連れてくる女房はみんな瑠璃がへんだっていうの。早く京風になれってお説教するんだもん」
そんなことは言わなかった祖母は、流行病で死んでしまった。
瑠璃姫はその小さい口から、弟を産んですぐ死んでしまった母のこと、吉野で仲良くしてた童の死、祖母の死を次々告げる。
そして京に帰って来たら待っていた新しい母。
「新しい母上は嫌いじゃないけど吉野がいいの。ガミガミ言う父さまも嫌い。吉野に帰りたいの。瑠璃は、京でひとりぼっちなの…!!」
そう言い切って瑠璃姫の大きな瞳からボロボロボロと涙がこぼれ、最後はうわあんと号泣してしまった。
「小萩はあたし付きになるんでしょ?ここにいてくれる?うちお金持ちだからラクできるよ。ここにいなよ!ね?いなよ!」
(姫さま…!!)
泣きながら袿の袖を握り締め訴える瑠璃姫を、小萩はぎゅっと抱きしめた。
383 :
粗筋中将:2007/08/15(水) 22:11:08 ID:???
その夜、小萩は瑠璃姫と布団を同じくした。
一緒の袿の中で、小萩は自分の父母のことを瑠璃姫に語った。
「小萩はじゃあ、父さまも母さまもいっぺんに亡くしたの?瑠璃は母さまだけど、小萩はどっちもなのね。小萩はかわいそうね」
幼い瑠璃姫の言葉に小萩は答える。
「でも今は、小萩にも姫さまがおりますわ。これからはこの小萩、姫さまの姉として一生姫さまにお仕えしますわ」
「一生はムリだよ小萩。おまえもいつか結婚するでしょ?」
「いいえ姫さま、男なんて出世のためなら姪でも娘でも平気で道具に使う輩ですのよ!小萩は一生結婚なんかするもんですか」
ずっと姫さまのそばにいると繰り返したとき、小さな寝息が聞こえた。どうやら瑠璃姫は眠りに落ちてしまったようだ。
その寝顔を見て小萩は微笑む。
(わたしもう、どこにも行くところなんてないと思ってた。尼になるしかないと思ってたのに…)
瑠璃姫は、ムニャムニャと寝言を言った。眠りの中にいても、「小萩、いなよ…」と言っていた。
それを聞いて小萩はますます気持ちが強くなる。
こんな自分でも必要としてくれる瑠璃姫のために、精いっぱい仕えようと。
(もうひとりで姫さまを泣かせたりしない。お寂しい思いをさせたりしない。一所懸命姫さまをお守りするの…!!)
それから数日経ち、瑠璃姫はすっかり小萩に懐いていた。
その様子に、吉野から戻って以来気難しくて手に負えなかったのにと、すっかり大納言は驚いている。
小萩は、瑠璃姫は気難しいのではなく、吉野の自然の中で少しほど大らかに育ったので、京の邸はもてあましていたのだろうと答えた。
しかし小萩は知らない。寝具にトカゲを入れるわ廊下にドングリをばらまくわ寝ている顔にラクガキはするわ…
瑠璃姫の女房達への追い出し方といったらスゴイものであったことを。
384 :
粗筋中将:2007/08/15(水) 22:12:20 ID:???
雀をつかまえたと小萩を呼んだ瑠璃姫は、さきほど父大納言と何を話していたのかと問う。
小萩は、邸にはもう慣れたかと聞かれたとお茶を濁したが、その様子を瑠璃姫は読み取った。
ムリしなくても、自分が父に嫌われているのは知っている。ずっと邸にいた弟と違い、ずっと京にいた自分には愛情が薄いのだ。
だから父も新しい母も、自分のことを嫌っているのだ、と。
「でも、いいんだ」
瑠璃姫はにこっと笑顔で言った。
「瑠璃には、小萩がいるからいいんだよ」
そう言ってご機嫌に歩き出してしまったが、小萩としてはそうはいかない。これではあまりに瑠璃姫がかわいそうだ。
瑠璃姫も大納言も、少しだけ気持ちがすれ違っているだけなのだ。互いが互いの良い所を見れば…
小萩は、とあることを思いついた。
「えぇ―――っ 父さまにお歌書くのォ!?」
なんでそんなことをするのかと尋ねる瑠璃姫に小萩はにこにこして答えた。この邸は広くて、父子もめったに会えないことを利用したのだ。
「ごきげんようという意味のお歌をお届けになれば、大納言さまもお喜びになられますわよ」
お歌かぁと瑠璃姫は少し考え、ちらっと小萩を見上げた。
「父さま、よろこぶ?」
「ええ、もちろん!」
小萩は自信を持って答えた。
そして瑠璃姫は小萩の指導のもと筆を持ち、つたない文字で「ちちうえさま」と記した文を書き上げた。
(大納言さまだってこんなに愛らしい姫さまのお歌をごらんになれば、雅なことよとほめてくださるわ)
瑠璃姫の素直な気持ちにだって気付いてくれるはずだと、自信を持って大納言付き女房の中の君に託した。
けれど…
385 :
粗筋中将:2007/08/15(水) 22:13:22 ID:???
小萩は不安が広がるばかりだった。あれからもう4日もたつというのに、大納言からの返事が来ないのだ。
『父さまびっくりしてるかもね。どんなお返事来ると思う?』
そう無邪気に話す瑠璃姫の顔が思い浮かび、心は焦る一方だった。
女童ふぜいの身で直接大納言に、歌の返事は、と尋ねるのも出過ぎたことだ、と頭を悩ませているその時だった。
小萩の部屋に、文を頼んだ中の君が暗い表情で訪れた。
そして、ためらいながら、驚かないようにと前置きし、ある物を差し出した。
それは、握り潰された瑠璃姫からの文だった。
中の君が大納言の書き損じなどを入れる筥に入っていたと言うのだ。
中の君自身にも聞くことも憚られて、こうして小萩の元へ持ってきてしまったのだが…
その時、カタンと物音がした。
振り向いたその先には、瑠璃姫が立っていた。
小萩は思わずその文を後ろ手に隠したが、瑠璃姫はすでに察していた。
「気にしてないよ、あたし」
表情を暗くしたあと、そう言い残し、踵を返し走り去ってしまったのだ。
(こうなったら直訴よ!!)
眉を吊り上げた小萩は、大納言邸の渡殿をずんずん歩いていた。
何が気に入らなかったのかはわからないが、瑠璃姫の歌に返歌もせず捨てるなどあんまりだ、という気持ちが小萩の歩を進めていた。
直接言うことはできないが、やさしそうな北の方に言えば、間に入りうまく執り成してくれるだろう。
自分が歌を勧めたばかりにこんなことになってしまったことを後悔はしていた。
(でも小萩は頑張りますわ、姫さまのためにも頑張ります…!!)
386 :
粗筋中将:2007/08/15(水) 22:14:22 ID:???
とは言ったものの、北の方の部屋の前にいざやって来ると怖気づいてしまう。
直接訪ねるのを小萩が躊躇している時、北の方の部屋から話し声が聞こえた。
それは、北の方と瑠璃姫のものだった…!
「ね?だから瑠璃の言うとーりにしてよかったでしょ母上」
「でもねえ瑠璃さま。これでは殿がおかわいそうよ。小萩はきっと殿のことを冷たいひどい父親だと思っていますよ」
「いいのよ。父さまはいつも姫らしくしろだの吉野で育てたのが間違いだったのうるさくゆうんだもん。小萩に恨まれるくらいいいんだって」
小萩は、いつもと違う瑠璃姫の様子に、格子戸にさらに近づき耳をそばだてた。
「殿だって瑠璃さまからお歌が届いたことをお知りになれば、姫らしゅうなられたとお喜びでしたでしょうに…
わたしやっぱりあのお歌捨てなければよかったわ。いくら瑠璃さまに頼まれたからって…」
( え ? )
小萩は耳を疑った。北の方が捨てたとは…
「母上は父さまに甘いからなあ。でもさ、小萩はあれでますますあたしに同情してお姉さんの気持ちになってあたしを大事にするよ。
そしたら父さまや母さまが死んで悲しいのも寂しいのも忘れると瑠璃は思うの」
「それはそうでしょうけど、小萩がそんな身の上とは知りませんでしたからねぇ…殿の知り合いの娘さんというだけで」
北の方は終始困り声だ。
387 :
粗筋中将:2007/08/15(水) 22:15:23 ID:???
「あたし、また瑠璃にお説教する奴が来たと思ってさ、小石の礫投げて追い出してやろうと思って部屋いったらさ、小萩泣いてたのよ。
あたしひとりなんだわ なんとか小路の家にも帰れないって泣いてたの。だから小萩はうちにいるのがいいんだよ」
小萩は、あの夜のことを思い出していた。
「それであたし、追い出すのやめてお部屋帰ろーとしたら道に迷っちゃって、小萩がどーしたのって聞くの。
あんた追い出しに来て迷ったなんて言えないから思いつき言ったら、小萩泣くのよ。おかわいそう、お寂しいでしょうって。
だからこの手で押したら小萩はずっとうちにいて悲しいの忘れるの。ね?」
だから母上も手伝いなって、と、瑠璃姫の快活な声が聞こえる。北の方は、まだ大納言に冷徹な印象を持たれることを心配している。
「いいんだって!父さまには瑠璃も母上も融もいるでしょ。でも小萩はひとりぼっちなの。だからいいんだよ」
北の方のため息が聞こえた。
「瑠璃さまはねえ… 変なところで子供で、変なところで大人びていられるのねぇ…」
小萩は自分の部屋に戻っていた。てっきりあの歌のことが悲しくて、瑠璃姫は北の方の部屋にいたのだと思っていた。
そしてこれまでの瑠璃姫の言動を思い出していた。
『母さまを思い出して泣いてたの』『みんな死んじゃって瑠璃はひとりぼっちなの』『父さまも母さまも瑠璃のこときらいなのよ』
(でもお歌のことは姫さまが仕組んだことで、
お庭で泣いていらしたのもわたしを追い出しに来てその帰りに迷子になってしまったからで、
あの涙もあのお話もすべてウソだったなんて…………)
小萩は困惑していた。
なんだか、あんまり一所懸命だった分気が抜けて、思わず大きなため息をついてしまった。大納言の言う通りホント京風に程遠い姫だ…
ふと、小萩は瑠璃姫のもとへ行くことを思いついた。
388 :
粗筋中将:2007/08/15(水) 22:16:24 ID:???
呼んでいない小萩の訪問に瑠璃姫は戸惑っていた。小萩は、なんだか瑠璃姫の顔が見たくなって、と慇懃に述べた。
すると瑠璃姫は、自分も少し寂しかった、父のお歌のことを思い出してとしおらしく言い出した。
しかし、顔は袖で隠しているものの、頬に唾をつけているのがわかる。すると涙の瑠璃姫の完成だ。
小萩がいてうれしい、いつまでもこの邸にいてと指を組んで頼む瑠璃に、小萩はもう騙されない。
むしろなぜ今までこんなあからさまなウソ泣きに気付かなかったのか、とがっくり肩を落としてしまう。
けれど…
『小萩はうちにいるのがいちばんいいんだよ』
瑠璃姫のその心に嘘はなかったのだし、その嘘のおかげで小萩は毎日姫のために奔走し、父や母がいない寂しさがまぎれたのも事実だ。
(姫さまはその幼い手で、何度目に唾をつけられ作り声で泣いてみせたのだろう…)
そう思うと、小萩は瑠璃姫がとても愛おしく感じられた。
「姫さま。小萩はずっとここにいますわ。小萩は姫さまのおかげでとてもいい思いをさせていただいているのですもの」
疑問顔の瑠璃姫を、小萩は抱きしめた。
(ほんとうに わたしは幸せになれるのかもしれない)
この小さな姫さまを出会ったことで
幸せになれるのかもしれない…
―――8年後
「まさかこうもぶっとんだ姫さまにご成長されるとは、さすがに思いも寄りませんでしたけどね…」
はあ―――っと深いため息と共に苦笑いする小萩であった。
>(こうなったら、尼になろう!!)
これに似たフレーズどっかで聞いたことがあるような・・・w
最初から瑠璃はぶっとんだ姫じゃんw
瑠璃はなんか保護欲そそる、
と思っていたら全部演技?うっひょう
瑠璃すげえ
いろんな意味でパパンの器の大きさに脱糞
思考回路が瑠璃と一緒じゃん
記憶が戻った守弥vs小萩の忠義対決が見たくなった
瑠璃は元々ぶっ飛んでるようだけど、小萩に影響された面もあるようだ
小さい瑠璃も小萩もカワエエ
三月、鴨川―――
緑萌え、牡丹の花が美しい川のほとりでは、里娘たちが洗濯に精を出している。
春の日差しは柔らかく水に反射していた。
「ん――っ、冷たくっていい気持ち―――っ」
川に足を浸し、旅の疲れを癒しているのは、内大臣家の姫君、瑠璃である。
瑠璃が今いる場所は、京の都が目の前の伏見。
京に入ってからというもの、やれ花がきれいだ川で足を洗うのと言い、
お付きの女房小萩には入京するのをのばしのばしにしているように見えた。
父内大臣や高彬に何の連絡もせず帰京してしまったことを気に病んでいるのだと思われている。
「いや…べつにネ、そーゆーワケじゃ…ないんだケド…」
歯切れの悪い瑠璃に小萩はにっこり笑って言う。
「よろしいのですよ瑠璃さま、小萩はわかっております。お気のすむまで時間つぶしをなさいませ」
にこにこにこにこと微笑む小萩に瑠璃はまいってしまった。
瑠璃がこうしてのたのたと歩いているのは、京に帰ってきたのが嬉しいからなのだ。
(吉野にいた時は、まさかあたし、こんな気持ちで帰京できるなんて思わなかった)
それほどに、瑠璃は心を病んでいた。
どうにもできない運命、どうしようもない想いを抱えてじっと丸くなっていた。
そんな時、あの男が現れたのだ。
はじめは 吉野君だと思った…
桜の花の散る崖の下で倒れていたのを見て
吉野君があたしを待ちくたびれて うたた寝しているんだと 思って…
すぐに それは吉野君じゃないって気がついたけど
あの時あたしは確かに幸福だった
一瞬の間の 幸福な夢…
崖から落ち、自分に関する記憶をすべてなくしていたその男に「峯男」という名を与え、
吉野の山荘にしばらく置くことにしたのだが、小萩は盗賊の仲間に決まっている、と反対した。
もしそうでも、参謀とか知恵袋なんてカンジのブレーンタイプに見え、とても力仕事ができそうになく見える男だった。
そして、峯男の声は、吉野君の声にも似ていた。
『 もう いいですから 京にお帰りなさい 瑠璃姫… 』
あの吉野の地で 桜の散る中 吉野君の声でそう言ってもらった時、瑠璃の中ですべては浄化されたのだ。
これで充分だから
起きてしまったものは起こるべくして起きたことで、
それを悔いたり 恨んだりする必要はないのだから…と。
その翌日、峯男は吉野の山荘から忽然と姿を消してしまった。
やはり盗賊の一味だったのだと小萩はさらに怯えていたが、瑠璃は、
そんなことまでが何か目に見えない力で起きたことのようで、妙に納得して
「京に帰ろうか、小萩」と、ごく自然に呟いていた。
峯男は、役目を終えたからいなくなったのだ。瑠璃に帰京の決心をさせるという役目を終えたから…
そして「よしっ帰るぞ!!」と決心するや否や、ど―――してもっ帰りたくなってしまうところが瑠璃だった。
小萩が父や高彬に帰京伺いの文を出したも関わらず、その返事をムシしてこうしてさっさと帰ってきてしまった。
父や高彬のことだ、瑠璃が京に帰ると言ったらそれこそ大仰な仕度をして出迎えるに決まっている。
それよりも、瑠璃はひっそりと、誰にも気付かれることなく帰京したかった。
その意を、小萩はどうやら都での数々の悪評を瑠璃が気にしていると勘違いしたらしく、
かなりはりきってテキパキと帰郷の仕度を整えた。
そんなこんなで慌しく吉野を発ったのが10日前のこと。
そして昨日、宇治に着いたのを気に大和守から借り受けていた車や従者を返し、
こうして小萩と京の道を楽しみながらゆるゆると歩いてきたのだ。
京に帰るのが嬉しくて楽しくて、少しでもその気持ちを長く感じていたいから…
「小萩おまたせー。そろそろいこっか」
川に浸していた足を拭き草履を履いた瑠璃は小萩に呼びかけた。
「姫さは お元気ですのね 。 小萩は 休み休み歩くのはかえって 疲れ…て…」
「小萩っ!?」
言い終わらないうちに、小萩はふらりとよろめいてしまった。
赤い顔をしている小萩の額に手を当てると、熱がある。
「小萩おまえ熱があるじゃない!何で言わないのよばかっ!!」
「…いえ、ただの風邪ですわ。風邪で…少し熱がある…だけで…」
そう言ってすっかりしゃがみ込んでしまった小萩を見て、瑠璃は責任を感じる。
(小萩はたぶん朝から熱があったんだ。でも主人であるあたしにそんなこと言えなくてずっと我慢して…
なのにあたしは、小萩の様子に気付きもしないで歩かせてたんだ…!!)
小萩を木陰に横たわらせ、額に濡らした布をあてた。
「それじゃあたし、ひとっ走りしてどっか横になれるとこ捜してくるわ。すぐ戻ってくるから」
そう言う瑠璃を小萩はがしっと止めた。
「姫さまをおひとりになんてできませんわっ!京も間近だというのに姫さまに…
瑠璃さまに何かあったら小萩は…小萩は…っ うわあああぁぁっっ」
瑠璃の袖を掴んで泣く小萩に、ここで信用しろと言えるほど日頃の行いがよくないことを自省する瑠璃だった。
その時、京の方角から馬のいななきが聞こえた。助けてもらえる、とその声のする方へ走り出す瑠璃。
遠くに見えるのは先触れの馬と、貴族と思われる牛車だった。
騎乗の従者は瑠璃のもとへ荒々しく走り寄った。
「おんな!ここを御車が通る。脇にどいてろ!」
そう居丈高に言う従者に、瑠璃は聞いた。
「車中の方はどちらの縁の方でしょう。旅の途中で連れが…」
「黙れ遊び女!どけというのがわからぬかっ!」
ピシッと、従者の鞭が瑠璃の眼前をかすめた。しかし瑠璃はひるまなかった。
「わたくしは三条殿に縁の者。車中の方にお取り次ぎを…!」
三条といえば内大臣。瑠璃の言葉に従者は真っ青になり、馬を翻した。
(…ふん!誰が遊び女だ誰がっっ。たかが従者ごときの威嚇であたしがびびるとでも 思って…)
従者が走り寄った牛車から現れた人物に、瑠璃は我が目を疑った。
( 高 彬 … ! )
(どうして?どうして高彬がこんなとこに… どうして…!)
高彬は牛車から降り、こちらに走り寄ってくる。
瑠璃も、被っていた市女笠を放り出すのももどかしく駆け寄り、腕をいっぱいに広げその名を呼んだ。
「 高 彬 ! 」
「 馬 鹿 っ 」
第一声と共に、高彬の平手打ちが飛んできた。
瑠璃は突然のことにわけがわからず、頬を押さえる。
「…な…なにすんのよいきなりっ!!」
「なにするじゃないだろう、どれだけ心配したと思ってるんだ、瑠璃さんはっ!!」
もうひとつぶってやろうか、と手を振りかざす高彬に、瑠璃は顔を覆う。
「そこまでにしてくださいませ、高彬さま」
顔を上げた瑠璃は、振り上げられた高彬の手を掴むひとりの女と、目が 合った――
402 :
粗筋中将:2007/08/17(金) 22:06:42 ID:???
サブタイトル「瑠璃姫にアンコール!の巻」
抜けてた。ごめん。
>第一声と共に、高彬の平手打ちが飛んできた。
高彬、穏やかじゃないね。なんか、らしくない。
ていうか今更あれなんだが、大臣家の姫君って供一人連れただけで
歩いて家に帰るとか川で水遊びとか…
ああもういいや。でもこの当時の日本は治安もクソもないし、
本当に危ないよ。高彬が怒るのは当たり前。
だって、瑠璃だし・・・w
つか、高彬を止めに入った女の人は誰なんだ?
高彬もう愛人つくったのか
煌姫…?んなわけないかw
正直愛人ができていても仕方ないと思うんだな・・・
平手打ちはいただけんが「馬鹿っ」にはちょっとハァハァした。
高彬、あんなに瑠璃に会いたがってたのに
あまりに会いたくてテンパりすぎてうあああああっ、となったとか
>>407 あの 契ってみせますわっ!作戦の失敗から大逆転して本当に愛人に
納まってたら、自分の中では神キャラ認定するよw
しかも外に同行してるくらいだから、
愛人どころかこれは正妻ポジションじゃないか?
瑠璃を諦めて妻を娶ったんだよきっと。
で、せっかく忘れようとしていたところに瑠璃登場で怒りの火達磨。
「ぼくで我慢しなよ」
の高彬は何処へ…
おまいら、小萩のこともちょっとは気に掛けてください。
瑠璃タソは吉野にいる時、結構病んでたんだな…
守弥、いい仕事したじゃん!(・∀・)
瑠璃姫にアンコール!の巻 第二話
(ハラが立つハラが立つハラが立つ あ゛〜〜〜ハラが立つっっ!!)
向かいに座る高彬の顔を見ながら、瑠璃は顔を真っ赤にして怒っていた。
瑠璃は今、高彬の乗ってきた牛車に揺られていた。小萩も一緒だ。
しかし車中は先ほどから険悪な雰囲気が漂っている。
(高彬ってば人のこといきなりぶったたいておいて謝りもしないし、
あれからあたしに対してひとっこともしゃべらないってのはどーいうわけなのよっ
なんであたしが京に帰ってくるなり高彬にぶたれなきゃならないの!?)
小萩のことがなかったら高彬の車に乗らなかった、あーくやしい、とぎっと高彬を睨むも、知らんぷりされてしまう。
不機嫌な理由はもうひとつあった。小萩を膝に抱えじっとしているこの女。
あの後、気が立っている高彬を上手くいさめたこの女を、高彬は“夏”と呼んでいた。
年の頃なら、20か21…。いかにも高級女房といった風情で、すごい美人というわけじゃないが、
(こーゆー凛としたタイプって、あたし嫌いじゃないんだけどな)
目が合い、瑠璃に向かって微笑んだので、思わず顔を赤らめる瑠璃だった。
その時、牛車が京へ向かっていないことに気付いた。
気になり、癪ではあるが、手元の扇で高彬につんつんして聞いた。
「この車どこに行くの?ねぇ」
「………鴛鴦殿」
それだけ言って、再びぷいっと横を向いた高彬の態度に瑠璃は怒髪天。
(そっちがその気ならあたしだってもう口なんかきいてやるもんか、勝手にしろっ バカッ!!)
高彬とは逆方向につーんと顔をそむける瑠璃。ふたりのやり取りを“夏”は困り顔で見つめていた。
鳥羽にある鴛鴦殿は、高彬の右大臣家が持つ別邸だ。その西の対屋に瑠璃たちは通された。
瑠璃は、熱に浮かされる小萩を看病していた。
少し目を覚ました小萩は、なぜ瑠璃の邸ではなくここに連れてきたのかという疑問を口にした。
熱のあるアタマでそんなことを考えるな、と小萩をひと眠りさせる瑠璃だった。
しかし小萩の言うとおりでもあった。
あの鴨川の沿道からこの鴛鴦殿までは京の羅城門の距離と同じくらいなので、小萩のために近い方に駆け込んだというのは考えにくい。
高彬は鴛鴦殿に着くなり瑠璃と小萩を西の対屋に入れ室内を整えさせたり執事に薬を持ってこさせたりしてくれた。
しかし、やはり瑠璃をぶったことは謝らないし、あの夏という女房とどこかに行ってしまうしで
(これが婚約者に対する態度かってーのよっ!!)
瑠璃の怒りも収まらないのだった。
そこに、寝ていたはずの小萩が再び声を出した。
なんと、今瑠璃が考えていた“夏”という女房を、小萩はどこかで見た覚えがあるというのだ。
瑠璃が詳しいことを聞き出そうとするものの、考えがまとまらないでそれ以上はわからなかった。
しばらくして、先ほどの“夏”が、高彬から話がある、と瑠璃の部屋に声をかけた。
(あたしをぶったこと、言い訳できるもんならしてみるがいいわっ!!)
瑠璃は勇んで高彬の待つ部屋へと向かった。
通された部屋で、几帳越しに高彬と対面した。しばらくは沈黙が続いた。
(ふん だ。どうせ、どうやって謝ろうか考えてるんだろうけど、いつもみたいに気軽な対面なんかさせてやらな…)
「瑠璃さん」
高彬の低い声に、瑠璃はドキッとした。
(まだ怒ってるの…? あ の 高彬が…?)
瑠璃は意外だった。
「瑠璃さんはどうしてそう問題ばかり起こすんだ」
「あ…あたしがいつ問題を起こしたってゆーのよ!」
「誰にも知らせず抜き打ちで帰ってきたじゃないか」
「でも誰にも迷惑かけなかったわ!ヘンなことにも巻き込まれなかったし、道中だって無事に…」
「吉野にやった使いの者が『瑠璃姫の姿が見えませんでした』と血相変えて戻ってきたら、
ぼくがどんなに心配するか考えなかったの…?」
(…あっ)
瑠璃は、几帳を勢いよくどけた。そこには、相変わらず憮然とした表情の高彬がいる。
「心配…したの?」
「…うん。とてもね」
高彬は続ける。
「心配して心配して、母上にへたな嘘までついて京を出てみれば、瑠璃さんは元気いっぱいの顔でぼくの目の前に現れるんだから…
もう情けないを通りこして絶望したよ」
そんな、ぜつぼうって…と瑠璃は聞いていたが、
「瑠璃さんは、ぼくが瑠璃さんを思ってるほどにはぼくのことを思ってくれてはいないんだよね」
(あややややや…)
さすがの瑠璃も焦った。
「いや…その…、あたしほんとは、高彬に会いたくって早く帰ってきちゃったんだけど…な♥」
と、高彬を上目遣いで見てみるも、「ぼくに会いたくて…か」と再び視線を逸らされた。
「帝も吉野には何度も文を参らせておられたらしいね。案外瑠璃さん、それで早く帰ってきたんじゃないの?」
いつもならこのテでご機嫌が直るはずの高彬だが、鷹男の帝の名まで出してくるあたりどうやら今回は手強いようだ。
その時、部屋の端の控える“夏”に気がついた。
こうなりゃヤケだ、と“夏”にウィンクで助けを求める。空気を察し、“夏”が高彬に声を掛けた。
「恐れながら、わたくしが拝見いたしますところ瑠璃姫はたいへんお疲れのご様子。お話は後刻に延ばされては…」
「瑠璃さんが疲れてるって?」
“夏”の言葉に、つやつやぴちぴちしている瑠璃の方を振り返った。
意図を読み、この話はまた今度する、と立ち上がる。
「内大臣家の気まぐれなご姉弟にはふり回されてばっかりだ…!」
そう言い残し、ぱしんっと戸を閉め去っていった。
助かった、とホッとした瑠璃は、助け舟を出してくれた“夏”に声をかける。
「おまえ…その、高彬のとこの女房なの?」
「まあ…いいえ、そうでしたか、姫さまはわたくしをご存じではありませんでしたか」
“夏”の話が読めず瑠璃は首をかしげる。“夏”は気にせず続けた。
「わたくしは姫さまの弟君、融さまの乳母の娘で、於夏と申します」
於夏(オナツ)は、内大臣家の乳母を務めていた母の縁で、土佐守・伊予守と続き任じられた父と7年前から任国に下っていたが、
先年の主家にあたる三条邸炎上の大事を聞き、弟と共に伊予から駆けつけ九条の別邸で内大臣や融の世話をしているのだそうだ。
「わたくし姫さまには一度もおめもじ致しませず、ご挨拶も遅れましたこと、申し訳もございません」
火事の不幸を見舞うと共に、於夏は改めて主家の姫・瑠璃に慇懃に頭を下げ挨拶をした。
小萩にも聞かせてやりたいくらいの口上だと瑠璃は感心するが、あっと思い出すことがあった。
「おまえ…もしかしてあの『夏姫』じゃないのっ!?」
乳母の娘なのに姫とはこれいかに
高彬は相変わらず可愛いぼっちゃんだな
とりあえず、煌姫でなくて良かったw
しかし、この夏姫って人が高彬と同行してるのが、今一つ納得でけんな
>於夏(オナツ)は、内大臣家の乳母を務めていた母の縁で、土佐守・伊予守と続き任じられた父と7年前から任国に下っていたが
これって、ミステリーに出てきた善修と同じ設定だよね。(
>>172)
弟とともに…ってことは、夏と善修は姉弟?
うわ、そうなんだ
姉弟で全然違うな
瑠璃と融も全然違うが
てか鷹男、吉野の瑠璃の元へ文出してた事高彬にばれてんじゃん
>鴛鴦殿
小萩が回復するまで、ここにとどまるんだよね?
ってことは、ここで、何か騒動がおこるんだね?wktk
瑠璃がいて何もないはずがない
それは瑠璃が吉野から帰ってきたばかりの頃だった。
「ふふん、まぁーた高彬の負けーっ」
と勝ちほこっているのは、10歳の幼い瑠璃。高彬と融と共に、すもうに興じていた。
次はターゲットに指定され、姉さんとすもうするとケガするからいやだと泣き叫ぶ融だったが、
果敢にも再び高彬は瑠璃に挑む。
喜んで相手する瑠璃だったが、高彬の気が逸れて、その時二人はとてっと倒れる。
「夏姫だ」
視線の先には、木陰から瑠璃たちを見る一人の少女がいた。
高彬が、夏姫も一緒に遊ぼうと誘うが、顔を赤らめただけで何も言わずに去っていってしまった。
「どしたのあの子。急に赤くなって走ってっちゃったけど、どっか悪いの?」
そう聞く瑠璃に、
「ちがうよ瑠璃さん。夏は恥ずかしがり屋さんになっちゃったんだよ。ね、融」
「うん、夏姫なのにね」
とくすくす笑っていた。それが、夏姫だったのだ。
瑠璃の父も、瑠璃が吉野から帰るなり、いつもため息をつきながら
「いずれは瑠璃も夏姫のようになってくれるのかのう…
おまえもすっかり鄙びてしまったが、少しは姫らしくせねばなりませんぞ。いずれは夏姫のように…」
などとくどくどくどくどくどくどくどくど言うものだから、てっきり都で評判の深窓の姫か親戚の姫のことかと思っていた。
その姿を見た今は、すごぉーくおとなしいコなんだろう、と思っていたが、
その考え事も木の上でしていたりと、見ならおうという気はさらさらない瑠璃だった。
邸内でその子を見かけることはその後なく、すっかり忘れてしまっていた。
瑠璃が吉野から帰って1年程で、父について任国に下った於夏のことを覚えていないのも無理はなかった。
「わたくしは、たびたびもの陰から姫さまのお姿を拝見しておりましたわ。
お小さい姫さまはお声も高らかでいらして、邸内のどこにいても拝見できましたもの」
反対に、憧れていた瑠璃にこうして会えてほんとうに嬉しい、と於夏はしみじみ語る。
「いつも、とてもお羨ましく拝見しておりました。いつも、いつも…」
そういう於夏に瑠璃は少し照れた。
「まあその、あたしたちも不思議な縁よね」
と話題を変える。
「ほら、邸のもの達も言ってたってゆうじゃない、『表の瑠璃姫 奥の夏姫』って。
あれって、表の瑠璃姫は姫君らしくない姫で、奥で仕えてる女童の於夏のほうがよっぽど姫らしいってイミだったんでしょ?」
「姫さま。そのような戯れ言おっしゃられてはなりません!」
軽い気持ちで話題にしたのだが、険しい顔で於夏は瑠璃をたしなめた。
「わたくしと瑠璃さまでは出自からして違います。下々の物言いを真似並べて証するものではありませんわ。」
堅苦しく考えているように見える於夏に、高彬じゃあるまいし…とたじろぐ瑠璃だった。そんな瑠璃に於夏はさらに続ける。
「高彬さまは姫さまの身を案じるあまり、昨夜は一睡もされていないのですよ」
今朝も母君に嘘をついてまで邸を抜けてきたのに、高彬のことをそんな風に言うものではない、といさめるが、瑠璃は面白くない。
(ふんだ。じゃあ何か?その心配した相手を出会いがしらにぶったたくっていうのも―――)
そこで瑠璃は思い至った。於夏に気を取られてすっかり忘れていたが…
「於夏!高彬に何かあったの!?」
心配していたからと言っていきなりぶったりするような怒り方をする高彬ではない。何かあったのではないか、と於夏に聞く。
「でもこのことはやはり高彬さまから直々に…」
「おまえだって見てたでしょ?あんなツンケンした高彬から何が聞けるっていうのよ!」
しかしやはり遠慮している於夏に業を煮やし、瑠璃は言った。
「於夏!あんた高彬に仕えてるの?それともあたしんち!?」
「それはもちろん内大臣家でございます!」
間髪入れずに於夏は答えた。
高彬に気遣っているのも、高彬が融の親友で瑠璃の許婚、ふたりにとって大切な人物だからこそだ、と。
熱い敬意を見せたあと、僭越ながら、と瑠璃の質問にようやく答えた。
「実は融さまが、この7日あまり前から行方知れずなのでございます」
「行方知れずって…うちの あ の 融がっ?!」
瑠璃は驚き、於夏に掴みかからんばかりに聞いたが、どうやら本当のようだ。
それで瑠璃は納得した。だから高彬はあんなに怒っていたのだ。
検非違使の次官も兼ねている高彬は、融が誘拐されたとなればその陣頭指揮を任されていただろうし、
その捜索の最中に許婚の瑠璃までが行方不明になりかけていたのだ。
「それで?身代金目当ての誘拐なら犯人のメドくらいついてるんでしょ!?まさかもう人買いに売っぱらわれちゃったわけじゃ…」
「あの、姫さま」
「何っ!?」
「融さまは、その、… 誘拐ではありませんのよ」
瑠璃は拍子抜けした。誘拐じゃなければ一体なんなのだ。
於夏は、言いにくそうに続けた。
「融さま、家出なさったのです」
「家出ぇ―――――っ?!」
於夏の話によれば、コトの始まりはこういうことだった。
融もすでにおトシゴロの17歳。いくらボンクラとはいえ内大臣家は京でも屈指の名門であり、
その子息ともなれば融を婿にと望む貴族もけっこう多いらしく、父も融が女性に対してどーも奥手なようなので
(融の結婚相手は親であるわしが決めてやらねばなるまいなぁ)
と常々考えていたらしい。
けれど瑠璃と高彬の結婚が決まるまでは…と融の結婚を保留にしていたところに、吉野の小萩から瑠璃帰京の文が届いた。
そして高彬も同じ文をもらうや息せききって駆けつけてきて、
時を置けば瑠璃の気持ちも変わるかもしれないし何か事件が起きないともかぎらない、母にも文句は言わせない、
『今度こそ瑠璃さんと結婚しますっ!!』
ときっぱり内大臣の父に宣言した。
父は滂沱の涙を流して喜び、これで瑠璃と高彬のことは片付き肩の荷が降りる、次は融の結婚のことだが、と融に切り出した。
待望の高彬を婿取りできることで父も気が高ぶっていたのだろう、これからは婿君の高彬に肩入れするので融の面倒は見きれない、
何しろ高彬はいずれは位人臣を極める公達で融とは比べものにならないのだから早くうしろだてのしっかりとした姫のもとに通え、
折よく良縁もあることだから、早く身を固めろとばかり言うのだった。
その夜融はすっかり塞ぎ込んでしまい、翌日瑠璃の帰京の相談に九条別邸に赴いた高彬にも
『もうすっかり婿気取りだね高彬。幸せでけっこうなことじゃないか』
などとトゲのある皮肉を言うありさまだった。
その後、父が参議藤原成親殿の姫との縁談を内々に承諾したことから、翌朝父と高彬宛に置き文を残し、融は家出したのだった。
瑠璃は融に同情した。今まで甘やかされてきた分父にそんなふうに言われてはショックが大きかっただろうし、
高嶺過ぎる藤の花で相手にされないとはいえ藤宮への純愛もある。降って湧いた良縁に戸惑い家出するのもムリはない。
父宛の文にはこう書き記されていた。
参議の姫とは結婚したくありません。
でもこの結婚を断っては父上の面目も立たずご勘気を蒙るには目に見えているので
不肖の息子は山中に籠り、1年でも2年でもお怒りの解けるのを待ちます
あ の 融が書いたとは思えないくらい立派な文面なのだが、きっと何度も何度も推敲したのだろう。それだけ思い詰めていたのだ。
瑠璃は少し感動してしまうくらいだったが、父の内大臣は、行動力ゼロの融の家出に怒るやら心配するやら、
火傷の傷も癒えていないことから再び寝込んでしまったようだ。
「高彬さまもたいへんお気に病みまして、もしや吉野の姉姫を頼られたのではないかと急使を出されたのですが…」
あっと瑠璃は言葉に詰まった。於夏は続ける。
昨夜遅く戻った使者からは“吉野には瑠璃姫のお姿見えず”との報告、
融ばかりか瑠璃の身にまで何かあったのではないかと、それはもうたいそうな取り乱しようだったとか。
高彬宛の融の文には、あとを頼むというような事以外は何も書かれていなかったようだ。
「それで高彬さまが、親友なのに情けないことだと塞ぎ込まれていらした所へ、姫さま行方知れずの知らせが…」
於夏の言葉が終わらないうちに、瑠璃は立ち上がった。於夏を部屋に残し、高彬のもとへ急ぎ向かう。
(ああもうっ、どうしてあたしってばいつもいつもこうなんだろう。高彬…!!)
> 瑠璃は融に同情した。
自分は高彬に同情しました・・・
幼少瑠璃行動範囲広すぎw
ぱぱん、融の地雷踏みすぎあいたたたた
そして高彬は夏姫とイチャ(ry
融が出てくると本当にロクなことにならないな…。
さすが姉弟…
ぱぱん、所詮愛称とは言え乳母子ごときを自ら「夏姫」と呼ぶとは…
心広いなあw
身分とかあんまり気にしてないおおらかな性格が好きだ。
瑠璃の性格は絶対パパン似。
なんだかんだ言って、親子姉弟、似たもの家族だよな。
自室で考え事をしている高彬のもとへ、瑠璃が恐る恐るやって来た。
傍に座るものの、脇息に頬杖をついている高彬は、瑠璃の方を見てくれない。沈黙が続き、瑠璃は冷や汗を流す。
「あの…、ごめんなさい、高彬」
素直に、勝手に帰ってきて心配をかけたことを謝った。
「夏から聞いたの?」
高彬はひょいと瑠璃の前に顔を寄せた。ご機嫌は直ったようだ。
「融のこと、びっくりしただろう。こんなことになって」
「そりゃそうだけど、高彬の方がもっと心配」
瑠璃は高彬を見上げた。へんに責任感が強いところがあり、融のことも自分のせいだと悩んでいるように見えるのだ。
高彬は悩んでいるのではない。怒っているのだ。
「親友なんだから、恋の悩みでも何でもぼくに話してくれればいいのに、何も言わないで家出なんかするから…」
そう言って表情を暗くする高彬の手を瑠璃は両手で包んだ。
「ごめんね高彬。内大臣家の姉弟そろって迷惑ばっかりかけちゃって」
高彬は微笑み、瑠璃の頬に手を伸ばした。
「痛かった?」
「ううん、ちっとも。平気よ高彬」
高彬は瑠璃を抱き寄せた。
「…ごめん瑠璃さん。いろいろあって 心配し過ぎで 気が昂ぶってたんだ」
「いいのよ高彬、そんなこと…いいのに…」
瑠璃を胸に抱いた高彬がしばらくして口を開いた。
「通るがひがんで家出するの、無理ないな。
昨夜から融の行方なんて二の次で、瑠璃さんのことしか考えてなかったもの」
この世にふたりだけ状態で、確かにそれは言えてる、と瑠璃も苦笑いするしかなかった。
けれど、顔をあげて笑って言う。
「でもね高彬。あたしはそんな高彬だから、大好きなんだよ…」
高彬にくちづけをする瑠璃であった。
鴛鴦殿、西の対屋では、病床の小萩が、ご飯をよそう瑠璃に恐縮していた。
医師に過労だと診断された小萩も、5日目にしてやっと起き上がれるようになったのだ。
融の家出の話は、小萩も聞いた。融の行方と内大臣の心労を、瑠璃とともに心配している。
「今度ばかりはあたしがしっかりして、父さまの重荷にならないようにしなくちゃね!」
と笑う瑠璃の立派な心構えに小萩は、姫さまも大人になったと感動して泣いてしまった。
その時瑠璃はふと、西の対屋から見える庭に目を向けた。
高彬は、たぶんすぐに使えるということで瑠璃たちをこの西の対屋に入れたのだろうが、
西は季節で言えば、「秋」。秋の草花を中心にしたこの庭が寂し気なのもうなずける。
だから今一番きれいなのは東の対屋の「春」の庭で、
(じき美しくなるのは「夏」の庭…)
瑠璃は、於夏の姿を思い浮かべていた。
「瑠璃さま…?」
小萩に声をかけられ我に返る。どうやら小萩は、瑠璃が融のことで思い悩んで塞ぎ込んでいるのだと思っていた。
しかし瑠璃は、融のことは心配していないわけじゃなかったが、しょせん あ の 融のことだから、
小萩の言うようにどっかの寺か内大臣家の荘園あたりに転がり込んで、ちゃっかり無事でいるに違いないと姉のカンが言っていた。
ただ全国に散らばる荘園の数が多すぎて安否の確認がはかどらないから高彬も父も苛立っているだけなのだろう。
だから、瑠璃が今気になっているのは融のことではないのだ。
あの於夏のことだった。
あの後、瑠璃と高彬がなんとなくいい雰囲気になってたのも束の間、やはり始まってしまったのだ、高彬のお説教が…
「ともかく!内大臣さまも融のことではご心痛でいらっしゃる。そこへ瑠璃さんが連絡もなく突然帰って来たとなれば、
またもや子供が勝手なことをと嘆かれるかもしれない。わかるね瑠璃さん」
肩を掴み力説する高彬に瑠璃は押され気味だ。
こうして帰ってきた以上は仕方ないから、高彬が上手く根回しすることにした。
「ぼくが瑠璃さんの帰りを待ちきれず勝手に吉野に迎えをやってしまったので、あと数日で瑠璃さんが帰ってくることにするんだ」
出過ぎた真似に内大臣さまも嘆かれると思うがきっと許してくれるだろう、と顔を赤らめる高彬だったが、
瑠璃は、許すどころかそんなこと言われたらそこまで思ってくれているのかと小躍りして喜んでしまうだろうと思っていた。
「去年からこちら、大臣さまは心の休まる時もなかったと思うよ。瑠璃さんも辛い苦しい思いをしたけど、
大臣さまも親として辛かったと思う。せめて帰京の時くらい何ひとつ心配しなくてすむようにしてくれないか」
高彬はじっと瑠璃を見て言った。
高彬は、融の家出や、そのせいで寝込んでしまった内大臣にまで責任を感じている。
自分だって、融が高彬に何ひとつ話さずに家出したことにショックを受けているのに、
(あたしは、そんな高彬にさらに心配かけて…一晩中、一睡もできないくらい心配させて…)
瑠璃は、高彬の言うとおり鴛鴦殿でおとなしくしていることを約束した。
高彬は心底ホッとする。
「大丈夫だよ、瑠璃さんは何も心配することはない。京の九条邸の方は夏と連絡を取り合ってすべてうまく処理するから」
にぱっと笑う高彬だったが、瑠璃は夏の名前が出たことがひっかかった。
そこに、折よく夏が現れた。
「夏。ちょうどよかった。瑠璃さんも納得してくれたよ。ぼくは今日にでも九条別邸に行って大臣さまを騙くらかさなきゃ」
「ほんとうにようございましたわ高彬さま」
「うん、夏が朝を待って吉野へ発ったほうがいいと言ってくれたおかげだよ。だからこうして瑠璃さんとも会えたわけだし」
「いえ、とんでもございませんわ。夜ではものも見えず不便だからと…女の浅知恵ですわ」
どうやら、瑠璃が吉野にいない報を受けて取り乱し、すぐに車を出させると言う高彬に、
行き違いにでもなればそれこそ一大事だから、出立は翌朝でも充分間に合うといさめたのは於夏のようだった。
「ぴしゃりと言われて思ったよ。夏姫は健在だってね」
「まあ。あの時そんなことをお考えでしたの」
そうして笑いあう二人を瑠璃はただ見ているだけだった。
(何?この打ち解けた雰囲気は何なの!?いったいふたりはどーゆー関係なのよっ
気になっちゃうじゃないよ―――――っ!!)
たかあきらくうきよめ
何気に、瑠璃が高彬を「大好き」とか言うのは初めてジャマイカ?
夏は昔恥ずかしがって高彬達から逃げてたんだよね?
何故こんなに親しげになったのか…
瑠璃のそわそわした視線に気付き、於夏はおやつを取りに行くと部屋を退がった。
於夏の気配が消えてから、瑠璃は高彬に話しかける。
「ずい分於夏とうちとけてるのね」
「うん。何しろ夏は頼りになるからね。なんといってもあの夏姫だし」
(そーゆーイミじゃないわよ、ばかっ)
鈍感な高彬に、瑠璃はヤキモキしてしまい、ぷいっとそっぽを向いて言った。
「そうよね。どうせ『表の瑠璃姫、奥の夏姫』だもの。あたしなんかよりよっぽど於夏のほうが姫君らしかったんでしょうよ」
ぷーっと膨れる瑠璃に、高彬は吹き出した。
「違うよ瑠璃さん。それじゃ意味が反対だよ」
吉野から戻って間もなく父と共に任国に下った夏のことを、瑠璃がよく知らないのは無理もないことだった。
夏は融の乳母の娘で、小さい頃から女童として瑠璃の邸に上がって、使い走りのようなことをしていた。
女童といってもまだ夏も子供で、乳母の子供ということで周りも夏に気を遣ったため、
高彬達と身分が違うとは思わなかったのだろう、よく一緒に遊んでいた。
平気で高彬や融をぶったり突いたりして、男の子のように元気に走り回っていた。
高彬達よりふたつ年上の夏は気が強く、相手が誰であろうとつけつけと物を言い、高彬達と同じようにふるまう。
けれど不思議と誰からも好かれる子で、下々の者からも“夏姫”なんて呼ばれかわいがられていた。
高彬は懐かしそうに瑠璃に語る。
しかし、夏が10歳くらいになってから、高彬達と遊ばなくなったことを思い出し、少し寂し気だ。
妙に大人びてしまい考え深気になって、何度遊びに誘ってももう二度と相手にはしてくれなかったのだった。
瑠璃が吉野から帰ってきたのはそのあとのことだった。
「融の姉さまが帰ってくるっていうからどんな子かと思ってたら、
これがまるで以前の夏みたいに飛んだり跳ねたりして暴れ回るだろ。うれしくなっちゃったよ」
つまり、“表の瑠璃姫、奥の夏姫”というのは、どちらも姫らしくないっていう意味なのだ。
瑠璃の父がしみじみと「いずれは瑠璃姫も夏のようになってくれるのかのお…」と言っていたのは、
あの夏姫でさえ年頃になっておとなしくなったんだから、いずれは姫の瑠璃も…という意味だったわけだ。
(おとなしくならなくっておあいにくだったけど)
高彬の話は続く。
瑠璃が戻ってきた頃には、もう夏もすっかりおとなしくなっており、一緒に遊ぶどころか近寄ってもこなかった。
そのうち夏は邸から姿を消し、高彬もすっかり忘れていた。
先日九条邸で夏を見かけた時は、すぐにはわからなかったそうだ。
「女の人って何年も会わないとずいぶんと代わるもんだよね。見違えてしまった」
「そりゃさぞなつかしかったでよーね高彬。於夏と去年から九条邸で会っては旧交を暖めていたんだ。ふぅ――ん」
憮然と言う瑠璃だったが、皮肉に高彬は気付かず答える。
「いや、顔を合わせたのはつい最近だよ」
裕福な受領の娘となった夏は今更女房仕えをする必要はないのだが、
内大臣家が焼失したり内大臣がひどい火傷を負ったことで、去年から臨時の女房仕えとして九条邸に上がったらしい。
それまでに夏に気付かなかったのは、きっと夏が内向きの仕事をしていたからだろう、
内大臣の見舞いに度々向かうようになり夏に気付いたが、ふたことみこと言葉を交わす程度だった。
「それにしちゃ今はずい分と親しそうじゃない」
「うん。何しろ融の家出の置き文を見つけたのは夏だからね」
瑠璃にとって初耳だった。
内大臣の命を受け高彬にそのことを知らせに来たのも夏だったことから、今では内大臣と高彬の連絡係のようになっているという。
昨夜も夏は内大臣の名代として高彬のところに来ていたのだが、
瑠璃が吉野にいないという報告を受けすっかり取り乱した高彬に一喝入れたのも夏だった。
「なんか、見た目と雰囲気は変わってしまったのにやっぱり夏姫だなあって思ったりして、なつかしいといえばなつかしいよね」
無邪気に笑う高彬だった。
そんなやり取りを、鴛鴦殿の西の対屋の庭を見ながら思い出していた。
瑠璃は、高彬の言っていたことを疑っているわけではない。
きっと本当に高彬と夏は子供の頃に遊んだ仲で、融の家出を機にたまたまちょっと近しくなっただけで…
(べ…べつにあたしは、夏姫に対してやきもち焼いてるわけじゃないわよ)
いくらあたしでもそんな何年も前の子供の頃のことまでムシ返してやきもち焼いたりしない、と
誰も聞いていないのに顔を赤らめる瑠璃だった。
ただ、気に入っている夏姫がなぜこんなに気に掛かるのかが、不思議なだけだった。
(ああどうしよう、家出した融のことより夏姫のほうが気に掛かるなんて〜〜っ)
瑠璃の帰京の算段も、高彬が「夏と連絡を取り合ってすべてうまく処理する」と言われ、複雑な心境の瑠璃だった。
そこへ、寝込んでいる小萩が、「表門がざわついている様子」と言う。
もしや高彬が来たのではないかと、夏とのことを考えていた瑠璃は少し戸惑うが、やはり嬉しくてそわそわしてしまう。
しかし、ざわざわざわと騒々しく、何があったのだろう、と不審に思っているところだった。
どたどたどたどた、と足音を立てて、鴛鴦殿の女房が御簾をまくり走りやって来た。
「姫さまっ!あの…あのっ」
おろおろとしている女房に、何があったのかと聞く瑠璃。
「それが…、わが右大臣家の一の姫 聡子姫様がたった今お忍びでこの鴛鴦殿に参られたのです…!」
一の姫と言えば、高彬の姉にあたる。
「あたしが右大臣家の別邸にずーずーしくもあがり込んでるんで、気を悪くなさった…とか?」
事態の飲み込めない瑠璃に、女房はひどく恐縮して言った。
「いえ、あのう…聡子姫は誤解なさっていて…」
その時、西の対屋の外がひときわ騒がしくなった。
「違います、そのような方では…」
「放しなさいっ」
「姫さま、お静まりあそばしてっ」
その様子に瑠璃のもとにやって来た女房も顔を青くさせ、
「ああ、姫さま、どうか場所移りを お早く!」
と瑠璃をどこか別の部屋に移そうと、体を押す。
「失礼いたしますわ」
瑠璃が女房と揉み合っていると、そこに一人の女性が現れた。
眉間に皺を寄せたその人は、美しさに気押されている瑠璃をじっと品定めするように見つめ、言った。
「そうでしたの。あなたでしたの…」
「え?」
「涼中将さまもたいしたものですわ。わたくしの実家の別邸にこのような身元も知れぬ女を堂々と匿っておくなんて…!」
執事の田嶋と呼ばれる男が、聡子姫に、そのような方ではないと否定する。
「ではこの女は誰なのです。どこの姫でなんという名前なのです。言えるものなら言ってごらんなさい」
「そ…それは……」
言い淀む田嶋を、聡子姫はきっと睨む。
「おおかた中将に言いくるめられでもしたのでしょうね。こんな女をこの鴛鴦殿に入れてしまうなんて」
そして瑠璃に向けられたその視線は、一段と凄味を増した。
「出ておいきなさい…!」
瑠璃はその迫力に押されたままだ。
「わたくしも大人になりましたわ。これ以上は申しません。
けれどここはわたくしの実家の別邸。あなたごときに汚されたくありません!
さあ出ていって! どこへなりと 出ていって…!」
最後は涙をぽろぽろ流し、言い終わらぬうちに聡子姫は泣き崩れてしまった。
(…なんか、あたし… 誰か別の女と勘違いされてるみたい…よね、これは)
泣き臥す聡子姫と、おろおろとなだめる女房達を見て、瑠璃はいたたまれなくなり、
ここはちゃんと訂正しておいた方がいいと思った瑠璃は口を開いた。
「あのう…あたし、内大臣家の瑠璃姫なんですけど…」
高彬の婚約者と名乗る瑠璃を、女房たちは目を丸くして見上げるのだった。
ずけずけとものを言い、駆け回る姫君……
これは危ないぞ瑠璃!
高彬の好みストレートど真ん中じゃないか!w
姉上すごい迫力
瑠璃が吉野にいる時とうって変わって高彬ラブを全面に出してる…
高彬の姉君って美しいんだ…。
>>452 なにその、高彬の姉だからそんなに美人じゃないだろって予想してたみたいな呟きはw
瑠璃に吉野君がいるように、高彬にも夏姫がいたんだね
高彬と夏は初恋の君同士なのかは不明だが
鴛鴦殿の西の対屋で、再び熱を出してしまった小萩の看病をしながら瑠璃は先ほどの騒ぎを思い出していた。
高彬の姉君聡子姫は、女房達に抱えられて、東の対屋に入ったようだ。
聡子姫はおそらく、瑠璃のことを夫の愛人か何かだと思ったのだろう。
高彬が瑠璃を鴛鴦殿に連れて来たとはいえ、この邸の者達には瑠璃の正体は知らされておらず、
たまたま自家の別邸に身元の知れない女がいるのだから、聡子姫でなくても面くらうというものだ。
それに、聡子姫の夫は浮気な男という話もあり、ふだんからそのことを気に病んで、あんなに取り乱してしまったのだ。
(あたしみたいな跳ねっかえりならともかく、見るからにたしなみも教養もある大人の女性だもの。お辛かっただろうな…)
瑠璃が聡子姫の境遇を不憫に思っているところへ、女房がやって来て口上を述べた。
「先程はたいへん失礼をいたしました。聡子さまも落ち着かれまして、ぜひともお詫びしたいと申されております」
今はまだ足元もおぼつかない心地ゆえ、瑠璃が聡子姫のもとへ出向くことを願い出、瑠璃は了承した。
東の対屋へ向かう途中、美しく咲く菖蒲の花を眺めながら瑠璃は思う。
(別にあたしは、謝ってほしいなんて思ってないけど、でも…)
几帳越しに対面した聡子姫は、瑠璃に謝ろうとするも、途中から涙が流れ言葉にならない。
「あのっ、姉君さまっ!」
微かに聞こえる聡子姫の嗚咽を聞き、瑠璃の方からから口を開いた。
「姉君さまがお怒りになったのもムリはありませんわ!だってあたし高彬としめしあわせて
勝手に右大臣家の別邸で羽を伸ばしていたんですもの、姉君さまが気分を害されるのも当然です!」
申し訳ありませんでした、と言い瑠璃はがばっと頭を下げた。
几帳越しにその気配を察し、聡子姫は微笑んで、瑠璃の前に顔を出した。
「瑠璃さまは、やさしい方ね。わたくしのしたことをかばってくださるなんて…」
そして、瑠璃の手を両手で包んだ。
「可愛い方。ありがとう」
ふたたび聡子姫ははらはらと泣いた。
ひと息置いて、聡子姫は瑠璃に聞いた。
「…瑠璃さまは、おいくつ?」
「はあ。もう18歳になってしまいました」
瑠璃は恐縮して答えた。
「そう。もう殿方を通わせるお齢ね。初恋はおいくつ?高彬がお相手なの?」
瑠璃は顔を赤らめ、返答に困っていた。
「わたくしの初恋はね、とても遅くて…今の瑠璃さまと同じ、18の年の春でしたの」
――おとうさまがお邸で開いた宴に、とても笛のみごとな公達がいらして
わたくし
御簾越しにその方を見て、一目で心を奪われてしまって
どうしてもあの方でなければ嫌 と、駄々をこねましたの――
「右大臣家の長女として、いずれは東宮妃にとひどく大切に育てられましたでしょう。とてもわがままだったのですわね。
恋わずらいで寝ついてしまい、とうとう父君も母君も、その方を婿に迎えてくださいました」
その頃を思い出しているのか、聡子姫はほのかに顔を上気させ言った。
「わたくし、その方を得られるのなら東宮妃など惜しくはありませんでしたもの…」
瑠璃は、聡子姫の気持ちにいたく共感し、その手を強く握った。
「だから男は不実だというんです!そこまで思われておきながら平気で浮気するようなとんでもない輩ばっかりで…」
しかし、瑠璃の言葉に聡子姫は首を振った。
「いいえ、瑠璃さま。男と女のことは、どちらか一方が悪いというわけでもないのですわ。どちらが 悪いというのでも…」
手を握り返すのは聡子姫の番だった。
「瑠璃さまは、そんなことのないようにね。わたくしのようになっては駄目。
あとで悔やむようなことはなさらないで」
「姉君さま…」
「母君は何かとよけいなことを申すかもしれませんが、わたくしあなたのお味方よ。きっと高彬と幸せになってね」
そう言って瑠璃の手を優しく包むのであった…
西の対屋に戻り、瑠璃はさきほどのやり取りを思い出している。
初恋の、東宮妃も惜しくないと思った相手と結婚できたのに、今はそのことで憂いを多くしている聡子姫のことを。
聡子姫は25歳だと言うが、その頃になれば自分も同じように悲しい悟りめいたことを瑠璃も言うようになるのだろうか。
(それも、高彬のことで…?)
目を閉じ、その笑顔を思い出している時だった。女房が瑠璃の元へ来、高彬の到着を告げたのは。
一日振りに会う高彬は、むすっとした顔をしていた。部屋の端では夏が控えている。
ふぅっとつく高彬のため息に瑠璃は思わずびくついてしまう。
高彬はどうやら、朝から瑠璃の帰京の件について、夏と九条別邸で最後の詰めをしていたようだ。
これで肩の荷も降りた、あとは融の行方だけだとほっとしていたところに、右大臣家からの急使がやって来た。
「姉君がわずかな供をつれて失踪したと聞かされた時は、正直言ってぼくはめまいがしたよ」
すぐに執事の田嶋から、鴛鴦殿にいると連絡は来たが、鴛鴦殿には瑠璃がいるためとても安心するどころではなかった。
夏と大あわてで駆け付けたが、姉はすでに瑠璃の前で大立ち回りをしたあとだった。
瑠璃といい姉君といい、どうして家の中でじっとしてられないんだとお説教する高彬を身に覚えがある瑠璃は黙って聞いていた。
「御簾の内にいておとなしく琴をかき鳴らしていればいいものを、ちょっと嫌なことがあったくらいで家を飛び出してしまうなんて…」
「何がちょっとしたことよ高彬!」
聞き捨てならず瑠璃は怒鳴った。
「姉君は、不実な夫のことで辛い思いをしていたたまれなくなって家を出ていらしたのよ!
それなのにちょっとしたことですって?その言い草は何なの!?」
興奮気味の瑠璃を高彬はなだめられない。
「しょせん高彬もただの男なのよ。実の姉君より浮気な義兄の味方なんかしちゃってさ」
嫌味な言い方に高彬はむっとなって言い返す。
「そうはいうけどね。涼中将は当年とって30歳の男盛り。笛の名手でお人柄もよい、いい方だよ」
「その い い 方があちこちで浮気して妻のこと泣かすわけ。いい方だからそーゆーことしても許しちゃうんだ。ふぅーん!」
「瑠璃さん」
「何よっ」
「そうやってすぐ人に同情したり人を好きになるのは、瑠璃さんのいいところだと思うよ。悪いところでもあるけどね」
高彬の言葉に瑠璃は返す言葉がない。
高彬は、夫婦の問題にむやみに立ち入るべきではないと考えているが、弟だったら姉のために何かしてあげてもいいと瑠璃は考えている。
「瑠璃さんは、融の恋のお相手が藤宮さまだとわかった時、何かしてあげたの?」
突然の質問に瑠璃は言葉に詰まる。
「いや…でもあれは、見込みなさそうだったし…へたに手をかして失敗したら目も当てられないし、
こーゆーコトは周りがどーこーするという問題じゃ、ない…し…」
言い進めるにつれ、高彬にまんまとハメられたことに瑠璃は気付き、顔を真っ赤にして黙るしかなかった。
「だろ?出しゃばりの瑠璃さんでさえ踏み込めない領域だもの。ぼくなんかの手に負えるわけがないじゃないか」
「でも融が帰ってきたらあたしきっと何かしてあげるもん。ぜったい橋渡ししてあげるし!」
「そう。立派な心がけだね」
ふたりの主張は平行線だった。嫌な沈黙が部屋に流れ、控えている夏も戸惑っている。
そこに、高彬に京からの急ぎの使いがやって来たことが告げられる。
高彬はこの部屋に呼ぶように言いかけるが、瑠璃の方にちらりと目を向け、使者のいる部屋へ向かうと立ちあがった。
その態度が瑠璃をますます苛立たせてしまう。
(ふん、だ。
あんたなんかどーせ結婚したって行く末は姉君の夫の笛吹き中将と同じよ。
男なんかみ―――んな不実で 情を知らなくって…
高彬のバカッ!! )
吉野君、今ならまだ掻っ攫えるから出て来い
> 高彬のバカッ!!
結局そこに戻るんですねw
高彬のくせにエラそうなんたよ!by瑠璃
るり は なかま を みつけた!
み…皆様、は…初めまして…
ご、ご依頼を賜りまして…ラウンジから出前に参りました…
まずは…どなた様も、お茶とようかん…をどうぞ…
■ __ 旦~~
ヽ(・‐・(ノ
http://etc6.2ch.net/test/read.cgi/entrance/1183224790/434 ) )
| | ■旦~~ ■旦~~ ■旦~~ ■旦~~ ■旦~~
粗筋中将様に敬意を表しつつ…
__ ○三 __
(;‐;#(○三 |・∀・メ| 高彬のバカッ !!
/| ̄[] ̄|ヽ○三/ヽ瑠/ ヽ バカッバカッバカッバカッ
/  ̄|∞| ̄.\ /彡つニミ \ バカッバカッバカッバカッ
\< ̄.人 ̄>../|ム彡ェエ襾エェミハ
 ̄ ̄ ̄ ̄
ところてんマンだ〜。
出前お疲れ様です。
ありがたく頂きますね つ■旦~~
瑠璃姫のAAがつぼったw
ところてんマンは少女漫画読んだりするんですか?
467 :
466:2007/08/23(木) 10:03:05 ID:???
うお、カキコしてる間に帰っちゃった。
ありがとね〜
いただきまーす(・∀・)つ■旦~~
高彬の言うことも一理あるけど、
旦那が浮気してるのに姉上がのほほんと「琴をかき鳴らして」優雅にしてたら
むしろそっちの方が夫婦の仲は破滅的だろw
姉上はまだ旦那に惚れてるんだな。
469 :
粗筋中将:2007/08/23(木) 12:27:13 ID:???
(*´ω`)■旦~~ ゴチソウサマデス
雛人形のような瑠璃姫&高彬がカワイイ〜
⌒
|__| __
|・∀・| 川・∀・川
/| ̄[] ̄|ヽ /ヽ瑠/ ヽ
/  ̄|■| ̄.\ /彡つ■ミ \
~~ 旦 \< ̄.人 ̄>../|ム彡ェエ襾エェミハ 旦~~
いただきまーす つ■旦~~
AAカワユスw
粗筋中将様いつも乙です
最後の一個get つ■旦~~
まさか、ここでてんさんにあえるとは!
>>463 たかあきら は るり を ぶった!
しかし なにも かわらなかった・・・
高彬が去ってからも、瑠璃は機嫌を損ねたまま頬を膨らませている。そんな瑠璃の様子を見かねて夏が声をかけた。
「何よっ。於夏まであんな情知らずの肩持つ気!?」
瑠璃の言葉に、夏はキッとし言い返す。
「高彬さまは情を知らない方ではありませんわ」
強い口調に、思わず瑠璃は夏の方を見てしまう。
瑠璃は今、高彬の姉のことで気が昂ぶっているのだ、結婚も間近のことゆえ、ひときわ身に沁みているのだろう、と夏は言う。
「けれどそれを高彬さまにぶつけるのは間違っていますわ」
夏の言う通りだ、と自覚している瑠璃は、顔を赤くしうつむいた。
確かに瑠璃は今、ただ自分のモヤモヤを高彬にぶつけているだけで、けれどそれは聡子姫の話のせいだけではない。
(もっと前から…あの鴨川の沿道で、高彬に再会した時からあったものかもしれなくて…)
鴨川で、高彬の振り上げた手を押さえる夏の姿が思い出される瑠璃だった。
夏は続ける。融や瑠璃、さらには内大臣の健康のことまで気を遣いあれこれと気を配っていた高彬のことを。
聡子姫が邸を抜け出したという連絡が九条邸に来た時も、ほんとうに心を痛めているようだったと。
「高彬さまは情のあるお方です。ただそれを表にお出しにならないだけなのですわ」
(ああ、そうか)
瑠璃は、高彬のことを話す夏の姿を見て、気付いた。於夏は、夏姫は…
「高彬のことが 好きなのね?」
一瞬夏の顔が赤らんだが、本人は否定した。
「…いいえ。そんなことはございません。瑠璃さまのお考え違いですわ」
「うそよ。夏姫は前にあたしに憧れてたって言ってたわ。あれは高彬の…」
「瑠璃さま。そういうことはたわむれにでも申されてはなりません。わたくしと少将さまでは身分が違います」
「身分なんか関係ないでしょ、夏姫は…」
「住む世界が違うことを乗り越えれば不幸になります…!」
毅然とした夏の物言いに、瑠璃はその先が続けられなくなった。
いつもの目に戻った夏は、静かに言った。何もわきまえない幼い頃とは違う、と。
九条邸で仕えるようになっても高彬の前には出ないようにしていたが、融のことがあって、側に近付き過ぎたと言う。
「昔なじみの気安さでなれなれしくし過ぎて、それで瑠璃さまのご不審を買ってしまったのですね。
申し訳ありませんでしたわ。これからはもっと控えさせていただきます」
慇懃に頭を下げる夏だった。しかし、瑠璃もそんなつもりは毛頭なかったから戸惑うばかりである。
(夏姫は、どうしてこんなにも身分にこだわるんだろう。高彬のことが好きだから、だから…)
その時、バタバタバタと荒い足音が聞こえ、瑠璃と夏のいる部屋に女房が飛び込んできた。
「大変でございます!高彬さまが… 高彬さまがお倒れに…!!」
瑠璃は女房の言葉に驚き、すぐ高彬のいる部屋へ駆け出そうとするが、夏は後に付いてくる気配がない。
「何してるの夏姫!おまえも来るのよっ!」
「いいえ…わたくしは…、瑠璃さまがおられるのですから、わたくしは…」
ためらう夏に瑠璃はカッとなり、今は人手がいるのだからそんなことを言っている場合ではないと叱る。
それでも夏は、
「やはり瑠璃さまがいらっしゃるのですから、ご遠慮申し上げるのが筋かと…」
頑なな夏を置いて、瑠璃は高彬の元へ駆け出すのだった。
(さっきだって、顔色がいいとはとても思えなかった)
高彬のいる細殿の控えの間には、数人の女房がしゃがみこんでいる。
(それにこのところずっと、あたしや融のことで心配させて、姉君のこともこたえていて…)
瑠璃は、その女房たちを押しのけ、高彬の名を呼んだ。
高彬は、脇息に凭れ、青い顔でぐったりしていた。
瑠璃に気付き顔をあげ、立ちくらみがしただけで、ちょっと気を失ったくらいで大袈裟な…と言うも、その先は続かなかった。
蒼白になって腕に倒れ込む高彬を支え、瑠璃は女房達に指示を出す。慌てて走り出す女房を見届け、瑠璃は高彬を介抱した。
(小萩が倒れた時と同じだ。高彬も、たぶん過労で…)
青い顔で冷や汗まで掻いている高彬に瑠璃は寄り添う。
(あたしのために…)
しばらくして、控えの間の端に恐縮して座る者を見留めた。
「お前ね、京から来た使者って!高彬に何を言ったの!何を言ったのよ!!」
瑠璃が一気に問い質し、使者がその剣幕に押されていると、高彬が弱々しく否定する。
「違うよ、瑠璃さん。その者のせいじゃない。融が…」
「融がどうしたの?見つかったの?」
「縁の荘園、知行国、寺… どこにもいない」
高彬の言葉に瑠璃は言葉を失う。
「どこにも、いないって… ……」
瑠璃の顔もまた真っ青になってしまった。
高彬は、内大臣家に縁の土地にはすべて人をやって調べさせていた。
だが今までの報告はどれも芳しくなく、最後の越後方面に期待をかけていたというのに、融はそこにもいないと、と頭を抑えいう。
「あの融が、こうも完璧に姿をくらますことができるなんて…」
家出の途中で何かあったんじゃないだろうか…ともに顔を青くする瑠璃と高彬であった。
> 「あの融が、こうも完璧に姿をくらますことができるなんて…」
融はできない子という意味ですよねww
まあ、そういう意味ですねww
てことは、協力者がいて匿われてるんだろな
ニセ唯恵事件のあいつじゃねーの?
善修か。
確かに融ひとりだとボロ出しそうだもんなー。
高彬も乳兄弟・守弥と融の乳兄弟・善修…なんか差あるなw
於夏はしっかり者っぽいけど。
また何か裏がある展開に?
>>477-478 いや、善修&融じゃ
>こうも完璧に姿をくらますことができる
とはとても思えんのだけどw
あ〜、その通りかも・・・w
んじゃ、も少し知恵が働きそうな守屋が噛んでる・・・・・・・んなこたないかw
セオリー的に融は案外瑠璃達の近くにいそう
つまり夏姫オーバーボディ説か。斬新だな
その発想は無かった・・・w
「昨日、療養先の吉野より帰ってまいりました。長い間のお留守、父さまにはご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
内大臣家の九条別邸で帰京の挨拶を述べているのは瑠璃、御簾の向こうでそんな瑠璃の姿に目を丸くしているのは内大臣の父である。
「何やら…しばらく見ないうちにずい分と大人びたではないか、瑠璃や」
未だ病床にある父に、瑠璃は、融のことを切り出した。夏から聞いたが父もさぞ心配だろう、と。
父は、はあっとため息をついた。
あの融が家出したことには驚いたが、どこか縁の寺か荘園にでも転がり込んでいるだろうとどこか安心していた。
何しろ内大臣家の縁の荘園ともなれば全国各地に広がっている。使いを放ったところで戻ってくるのは半月もあとのこと。
だからこそ次々ともたらされる芳しくない報告も楽観視していたものの、最後の頼みの越後方面にもいないとなると…。
高彬がその報告で伏せってしまったことは、内大臣の耳にも届いていた。
融のことや瑠璃の帰京のことで毎日のように九条別邸を訪れていたこと考えると、それも内大臣家のせいのような気がして
申し訳なく思っていた。
「父さま。あたし少し落ち着いたらその鳥羽の別邸に伺って、高彬の看病なりとしてあげたいのだけど、だめかしら」
「いや!それがいいっ それがいいですぞ瑠璃やっ!!」
家でおとなしくしていろというならそうする、となにやらしおらしげなことを言う瑠璃を、父は引き留める。
「どうせおまえのこと、家でじっとしていても何をやらかすか…いやいやそのほうが高彬どのも…
いや、それがいい、そうしなさいっ!!」
御簾の間から押し出んばかりの父の迫力に瑠璃は苦笑いする。
「それとね、父さま。吉野では度々藤宮さまからお文をいただいたの。帰京後慌しいとは思うんだけど、他の方とは違うし
ひとこと帰京のご挨拶に参りたいのだけど」
「ああもちろんそうするのが分別というものですぞ」
父はにこやかに答えた。
「では、これ以上お邪魔してはお体にさわるので退がります。お大事にね、父さま」
そういって部屋を退がる瑠璃の後ろ姿を見て、「何やら瑠璃も大人になったものだ」とご機嫌な父であった。
(なんか…父さまにはえらくほめられちゃったけど、今のはほとんど高彬と於夏が考えたシナリオなのよね…)
自室に戻る瑠璃は少し後ろめたい思いであった。
本当はもっと前に帰京していた瑠璃が、さも昨日帰って来ましたという感じで九条邸に入ることが、
父にこれ以上心配をかけないようにという高彬の配慮で、挨拶の仕方まで叩き込まれる程の徹底ぶりだった。
部屋に戻ると、いつもの調子の小萩がいた。
「おまえほんとに体のほう大丈夫なの?起きたりして平気? といってもいろんなこと頼んじゃったけど…」
「もちろんですわ姫さま。高彬さまがお倒れになった今、のんびり寝てなどいられませんわ」
そのためにこうして瑠璃と共に九条邸に戻ってきたのだと言う小萩に、瑠璃はやはり頼りになる女房だと痛感する。
「ありがとう小萩。その代わり、この件が片づいたら、近江の温泉(いでゆ)でも何でも連れてってあげる。ね?」
主人の優しい言葉に小萩は照れている。
瑠璃も、高彬が倒れたことで目が覚めたのだ。
もう夏のことでうじうじするのはやめ、融の行方をつきとめて高彬の重荷を少しでも軽くすることが先決だ。
立ちくらみだと言い張る高彬を無理矢理寝かしつけ、病みあがりの小萩を連れてまで九条邸に帰ってきたのもそのためだ。
まずは、小萩に母から拝借するよう頼んだ、融の置き文だ。
目を通すと、夏が言っていた通り、『縁談はお断りしたい。そのためなら1年でも2年でも謹慎して許しを待つ』という内容だ。
(融にしてはできすぎた文面よねえ)
瑠璃は複雑な心境だ。
小萩にはもうひとつ、融付きの女房達から家出について聞き出すよう頼んでいた。
女房右近によると融はかなり縁談を気に病んでいて『なんでぼくばっかりが好きでもない姫と…』とぶつぶつこぼしていたという。
「家出をなさったことも、あの融君ならありうることだけれどこんなに長いのはおかしい、
こらえ性のないご性格ゆえ10日もたたぬうちにお戻りになると思っていたのに…と女房同士では話しているとか」
(うーん、さすが融付きの女房…あのコのことしっかり見てるわね)
またもや複雑な気持ちになる瑠璃だった。
「それで、融が出ていくところを見た者はいるの?」
「はい。門番がしっかりと」
瑠璃は驚いた。粗末な網代車で供もわずかばかりの支度だったので、思わずどちらへと声をかけたのだそうだ。しかし融は、
『夜歩きだよ。不粋なことをいうな』
家の者には内緒だ、と言い残し車を走らせたという。
門衛達も、邸には内緒で通う身分の低い恋人でもできたのではと思い、あっさり通してしまっていた。
(なぁーにが『夜歩き』だ、ばかっ。ふだんはうすらぼけーっとしてるくせにこんな時だけ頭が回るんだからっ!!)
融をにくたらしく思う気持ちが瑠璃の全身から溢れていた。
その気持ちが瑠璃をさらに奮い立たせる。小萩に頼んだ車に乗り込むことを告げる。
「あたしの推理が間違ってなければ融の居場所もじきわかるわ。小萩、あとのことも頼んだわよ」
がんばるぞーっと仕度に取り掛かる瑠璃を、苦笑いしながら手伝う小萩だった。
「まあ、瑠璃さま… まあ…」
瑠璃がやって来たのは、藤宮の住む二条堀川邸である。
たった今帰京したと聞いている瑠璃がすぐ挨拶に来たことに、藤宮は相変わらず美しい顔で驚いていた。
「突然何の連絡もなしに押しかけてきてしまって…申し訳ありませんでした」
「まあ。瑠璃さまらしくもないおっしゃりようですのね。いつものことではありませんか」
藤宮はゆったりと笑う。瑠璃は、しきりに照れた。
「それで?瑠璃さまのご用は何ですの?ご帰京早々こうしていらっしゃるからには、何かわたくしにお話がおありなのでしょう?」
単刀直入に藤宮に聞かれ、瑠璃は言っていいものか戸惑う。だが、意を決して訪問の目的となる質問をした。
「藤宮さま。最近、怪し気な公達を見かけませんでした?最近でも何でも、
このお邸のあたりをうろついていた公達です。お邸の女房達が噂してたと思うんですけど…」
「まあ。突然そうおっしゃられても…」
藤宮は戸惑っているようだった。
だが、横で控えている女房がくすくすと笑い出した。「これ、柏」と藤宮がたしなめる。
柏と呼ばれた女房は藤宮からは言い出しにくいのでと前置きし、
確かに半月あまり前、毎夜のように邸の周りを徘徊する小ざっぱりした網代車があったと告げた。
(やっぱり…!!)
瑠璃は柏の話に顔が赤くなった。
ワンパターンの融のことだ、ふってわいた縁談に戸惑っても自分では何もできないし、
そうなれば ま た 恋しい藤宮の邸の周りをぐるぐる回るだろうと瑠璃は踏んでいたのだ。
(ああっ なんてなさけない奴…!!)
読みが当たったとはいえ、あまり素直に喜べない瑠璃だった。
「あれは、やはり姫さまの弟君、大夫の君であられますか。以前そのようなことを伺った覚えもございますし」
そう言われては、瑠璃としては扇に顔を隠すしかない。
藤宮がいさめるものの、そんなやり取りを見て、融は藤宮にほんっとにぜんっぜん相手にされてないのだと実感してしまう。
コホン、と咳払いを入れ、瑠璃は改めて聞いた。
「とにかく、あたしが伺いたいのはですね、やっぱり最近もその車がこのお邸の周りをうろうろしているのかということで…」
「最近はございませんわ」
柏の答えに瑠璃は驚いた。ある夜を境に、ばったりとお姿を見ませなくなったという。
「宮さまはさにあらず、わたくしどもの間ではこっそりと笑い話…いえ、噂になっておりましたのよ」
取り繕う柏の姿も瑠璃にはもう入ってこない。
(おかしい。あたしの読みじゃ融は…)
黙り込んだ瑠璃に藤宮が声を掛ける。
「どうなさったの瑠璃さま。急に考えこまれたりして。弟君の融さま、家出でもなさいまして?」
瑠璃は扇を取り落とした。
(どうして藤宮さまがそれを…!?)
パパンかわいいよかわいいよパパン
融ってさ、現代に生きてたら間違いなく通報モンのストーカーだよな。
なんだかんだでみんな融の行方を楽観視してる件
>>488 でも、本当に藤宮さまと融ってなんとかならないんでしょうかね。今は位は低いとはいっても宮廷を二分するくらいの勢力を持つ家の嫡男なんだから。
母宮を早くになくし外戚もなく先の内大臣だった夫もなくし、家族の縁が薄い藤宮様だから、幸せになってほしいですよね。
16歳でなくした夫の地位が内大臣だったなんて、どれだけ年の離れた夫だったんだろう。
>>492 源氏物語の夕霧と落葉宮との関係のようになれればいいけどね〜。
でも融にそんな積極性はないし
鷹男や太皇の宮をバックにつけてる藤宮も、立場が心細いわけでないし融は必要ないわな。
藤宮さまを巻き込んだ大事件が起きて、融が一念発起命を賭けて救い出す
とかでもない限り、一生融のストーカーで終わりそうw
読んでいまだに理解できない・・・。
鷹男の帝と藤宮さまってどんだけ血のつながりがあるんだ?
瑠璃がいなければ、この二人くっついててもおかしくはない感じなのに
そう言う気配はないよね?異母兄弟?
あっ、「異母兄弟」はあるわけないよな。と思って消すの忘れたので
スルーしてください。
>>494 鷹男が東宮の時点で「先帝の第8皇女」とあるんで、現時点で藤宮さまは先々帝の皇女。
先帝(光徳院・鷹男パパ)が先々帝の皇子だったと仮定すると、
藤宮さまは先帝と兄妹、鷹男の叔母に当たるんじゃないかな。
当時だったら叔母・甥は結婚しても何の問題もない間柄だね。
でも藤宮さまは後宮に入っても後見いないから、
今の姉弟みたいな関係でたまに後宮に遊び行く方が気楽だとオモ。
>>496 解説ありがとうです。「叔母」かぁ〜。
この当時はいいのか>甥・叔母
それなら周りからすすめられそうな気もするんだけどね。
藤宮さまも、「弟を可愛がってる感じ」と鷹男について言ってたから、
鷹男も藤宮様をそういう感じに見ることはないのかな。
あのイケメンの鷹男でさえ「弟」なら、融は無理かなぁ。
いや、かえって新鮮で惚れるか???
「どうして藤宮さまが融の家出のことをご存じなんです?高彬の少将が何か報告したんですか!?」
「…まぁ。では、瑠璃さまの弟君は、本当に家出をなさいましたの?」
真相を問い詰めるつもりが、藤宮に逆に聞き返されてしまった。実はただ思いつきを口にしただけだと言いにくそうに藤宮は答える。
瑠璃は、恥を忍んで先を続けることとなってしまった。
「実は本当で。弟の融は今、家出の最中なんです。こちらに伺ったのもそのためで…」
そう言う瑠璃に、柏と目配せをした藤宮は改めて言った。
「よろしければそのこと、もっとくわしくお話しくださいませんか。わたくし心当たりがないこともありませんのよ」
藤宮の言葉に一縷の希望を見出した瑠璃は、思わず笑みがこぼれてしまう。
瑠璃は話した。
意に染まない縁談を嫌った融が、親友の高彬と姉の瑠璃の結婚にやっかんでいたところもあり今回の家出に至ったこと、
家出から半月、心当たりの荘園や寺はすっかり調べたにも関わらずその姿はどこにもなく、
あと先考えずに行動する融のこと、すぐボロを出すと思っていたが、こうも完璧に姿をくらますのはどう考えてもおかしいことを。
「ということはまだ…この京にいるとお考えになりましたのね」
勘のいい藤宮の言葉に、瑠璃は肯定で返した。
「とにかくあのちゃっかり者の融のこと、京にいて縁談話が消えるのを待ち、みんなが ほ ど よ く 心配したところで
姿を現すつもりだと思ってたんです。そうすればみんなにやさしくしてもらえますから。
その間、他にすることもないんで相も変わらず藤宮さまのお邸の周りを徘徊してるんじゃないかと、思ったんですけど…」
隠れ家の場所まで見当をつけていたのに、おかしいなぁ、と困り果てる瑠璃だった。
「あのね瑠璃さま。弟君のこと、たしかにわたくし心当たりがありますわ。
けれどいささか外聞を憚る話ですので、わたくしの口からは申しあげられませんわ」
なので、明日の夜にでももう一度来てくれないかと頼む藤宮に、政治的な話がからんでいるのではないかといぶかしむ瑠璃。
そんな瑠璃の猜疑心を打ち消すように、藤宮はくすくす笑い、そういうことではないと安心させた。
「ただ弟の融君は、やはりもうこの京にはいらっしゃらないと思うのです」
もう一度縁の寺や荘園をたんねんに調べたらどうか、と言う藤宮に何を聞いてもその後は
「今はだめですわ。わたくしが勝手にお話しするわけにはまいりませんもの。明日の夜に…ね?」
と話してくれなかった。そういうところはきっぱりしている藤宮である。
融はこの京に絶対いないと断言する藤宮は、いったい何を知っているというのか…
九条別邸に戻った瑠璃を待っていたのは小萩だった。
その目はじと〜っと瑠璃を睨んでいる。
「姫さまは冷たいお方です!」
状況が飲み込めない瑠璃。
小萩は、融を匿っているのは乳姉弟の夏ではないかと疑う瑠璃の言いつけ通り、夏を見張っていた。
「けれどよく考えてみれば、於夏さんがそんなことをするわけないのですわ!」
内大臣も高彬もそれこそ倒れるほど心配しているのをよそ目に夏が融を匿うはずがないと、確信を持って瑠璃に主張する小萩だった。
「どうしたの小萩、いきなり夏姫のカタ持っちゃったりして」
「肩を持ってるわけではございませんっ!!」
いつになく小萩の語気は荒い。
夏は確かに瑠璃が出かけて間もなく邸を抜け出た。けれどそれは瑠璃の言うような、融の隠れ処ではなかった。
「西の京のはずれ、木辻小路あたりの小さな寺でございました…!」
寺の僧が言うには、夏は毎日のように詣りに来ては、その寺の小塚の前で手を合わせていくのだそうだ。
女房仲間の右近に聞いたところ、その小塚は夏の亡くなった姉のものだという。
他家へ女房仕えしていたらしいが、ここ数年病がちとかで、年に一度は姉を見舞いに京へ来ていたが、
去年の暮れの三条邸炎上の時、主家の一大事を思い内大臣家に駆けつけたのと入れ違うように姉は亡くなった。
あの時の夏は、右近から見てもひどく打ち沈んで見ていられなかったほどだった。
今でも暇を見つけては菩提寺に詣っているそうだ。
「わたしも木の陰から見ていましたけど、じっと涙ぐんで手を合わせている姿がお気の毒で…」
そんな夏が融を匿いみなに迷惑をかけるようなことをするはずがない、となおも瑠璃を責める。
瑠璃としては、そんな事情があるとは知らずバカ融をボロを出させず匿えるのは乳姉弟の夏しかいないと思っていたのだが。
ちょっと読みをあやまったかもと考えているところに、さらりと衣擦れの音が聞こえた。振り返ると…
(ひゃ――――っ 夏姫っ!!)
小萩も夏の存在に気付き、席を外した。瑠璃は夏と二人きりになった。
気まずい顔をしている瑠璃に、夏は柔らかな笑顔を向ける。
「姫さま。先ほどお寺から帰る時、小萩さんの姿を見かけましたわ。
草履の鼻緒が切れて難儀の様子でしたけれど、何やら身を隠しておいでのようだったのでそのままにして参りましたの」
瑠璃は顔を赤らめ冷や汗も出てしまう。
「姫さまはわたくしをお疑いでしたの?みなさまがご心配の時に、わたくしが融さまをお匿いしていると」
核心をつかれ、瑠璃はごまかそうとしたが、まっすぐ見つめる夏に降参した。
「実は疑ってたのよ」
「まあ」
正直な答えに夏はくすくす笑う。瑠璃は居たたまれない心持ちだ。
「あたしの考えはこうだったの!」
瑠璃は何もかもぶちまけることにした。夏は融の乳姉弟だから、はじめは軽い気持ちで融を匿ったのだろう、と思ったことを。
「でもそのことでまた高彬と、あの…、近しくなれたわけでしょ?だから融さえ出てこなければ
ずっと高彬とそうしていられると思って、この京のどこかに融を匿ってると踏んだのよ」
小萩にあとをつけさせたのも、夏が融のとこに行くと思ったからだった。
「それでは、少将さまがずっとお悩みでいらっしゃるのに、それでもわたくしが融さまをお匿いしているとお考えになるのですか?」
「だからそれが恋のなせるわざだと思ったの。
融が見つかったら夏姫と高彬はただの女房と内大臣家の客人に戻っちゃうじゃない。だから…」
「姫さまは、どうしてもわたくしが少将さまに懸想していると思い込まれているのですね」
「そうよ!だってそれはぜったいそうなんだから!」
瑠璃の断言に、夏は困り顔で苦笑いした。
「瑠璃さま。わたくしの姉は、他家に女房仕えに出ていた頃、身分違いの恋をしましたの。
周囲から反対され、親族から絶縁されても、姉はその恋に縋りついていましたわ」
しかし幸福だったのも最初の1、2年で、あとはうち捨てられるようにして去年の暮れに亡くなった、と夏は語る。
『わたくしと少将さまでは身分が違います。住む世界が…』
先日の夏の言葉を思い出し、瑠璃は黙ってしまった。
瑠璃の沈んだ雰囲気を察し、つまらぬことを言ってしまった、と夏は詫びた。
しかし、高彬に思うところもなく、融も匿ってなどいない、ときちんと主張もした。
「だけど、やっぱり夏姫は高彬が好きなのよ」
それでも言い張る瑠璃に夏は苦笑する。
「嫌いですわ、年下だし…。それに姫さまのおっしゃられたように、情知らずの殿方ですもの」
「嘘つきね。高彬を好きなくせに」
「…嘘ではありませんわ。その証拠に、わたくしには通わせている殿方がおりますの。もうすぐ子供もできますわ」
「こっ… 子供―――――ッ!?」
突然の告白に狼狽する瑠璃と、それを意味深な視線で見つめる夏であった…。
融が孕ませたか
誤魔化せないから洗いざらいぶちまけるってw
なんで瑠璃はこう一か十かの極端な行動しかしないんだww
504 :
sage:2007/08/27(月) 08:21:11 ID:n+RzuNqk
子供って・・!
父親は新キャラか?
融が女に手だせるとは思えないんだが
パパンの子、と見たw
パパンの子なら
>通わせている殿方
なんて言い方はせんだろ、とマジレス。身分としてはそう高くない感じだなぁ。
於夏って瑠璃のこと好きそう。なんとなく。もちろん友達的な意味で。
「融が夏をはらませてトンズラした―――――――っ!?」
自分の発言にはっとし、自ら口を塞いだのは高彬。今瑠璃は鴛鴦殿にやって来ている。
「いや、その…身籠らせて逃げた、…って?」
顔を真っ赤にし声も小さくなる高彬に、間違いないと瑠璃はきっぱり言う。
「夏姫自身が言ったのよ。自分には通わせている男がいる、もうすぐ子供もできるって!」
瑠璃のあけすけな物言いに高彬は赤面するが、口ごもりながらも聞くことはきちんと聞いた。夏が父親は融だと言ったのかと。
「や、やあねー。そんなこと女の口からはっきり言うわけないでしょ恥ずかしい」
今度は瑠璃が顔を赤くする番だった。変わって高彬はのん気に言う。
「やっぱりそうか。あんまり突拍子もない話だから一瞬本気にしちゃったよ。あーびっくりした」
「どこが突飛よ、話は合うのよ話はっ!」
瑠璃は高彬に食ってかかる。
昨夜瑠璃が女房達に聞き回ったところ、夏姫は九条別邸に来た去年の8月半ば以来融の近くで内向きの仕事をしていたという。
「そんな長い間ひとつ屋根の下で暮らしていれば自然男女の情だって通じ―――」
自然声が大きくなる瑠璃の口を高彬は急いで塞いだ。
「る、瑠璃さん声が大きい、声がっ」
高彬と同じくらい、控えている女房達も顔を真っ赤にさせていた。
人払いをし、女房達が退がったのを確認した後、改めて高彬は冷静に瑠璃の考えを聞いた。
「つまりね。夏姫って心ばえとか人柄とか、不思議に人を惹きつける魅力のある女でしょ?」
「うん、それは言えてる」
素直に頷く高彬に少し面白くない瑠璃だが、後を続けた。
「まあつまりそーいった年上の魅力ってとこが融の好みにぴったりなワケよ。齢だって藤宮さまに近いしね。
それで、融としては藤宮さまへの片恋は片恋として、夏姫にもつい情を通じて…その…子供ができちゃったんだと思うの」
さすがの瑠璃も言いにくそうだった。
けれど融には他の姫との縁談が持ち上がるし、夏とのことも父には言い出しにくい。やがて夏のお腹も目立ってくる。
それで困りきったあげく、家出した―
「夏姫は才気煥発な女房でしょ。態度は控え目で目立たないけど、頭はいい人よ。気も強いと思う」
「うん、ぼくもそう思う」
やはり素直に頷く高彬が面白くない瑠璃だが、先を続ける。
「…それで、あたしとしては、融の家出の計画は夏姫が練ったと思うの」
だいたい、あのボンクラな融にこうまで完璧な家出が出来るのか?
ご立派すぎる置き文や、門衛に見とがめられた時の物慣れた態度。
あまりにも不自然でひっかかっていたが、バックに夏がいると考えればぴたりとはまる。
「だとすれば、融の行き先は伊予」
夏の父が国守をしているのだから、内大臣の問い合わせにも融と口裏を合わせシラを切ることも可能。
「……確かに。それはあり得る話だ」
瑠璃の推理に高彬も、融の行方がこうまでわからないのはおかしいと思っていたことを話す。
「何しろ融は熟考して行動するというより、思い付きで突っ走ってすぐボロを出すタイプだから」
親友の高彬は融の性格をよく知っていた。
縁談に困りきって、瑠璃達のことでもイライラしていた融に、夏が同情して手を貸したとしても不思議ではない。
「けど、ふたりの仲がどうこうという話はあり得ないな」
「どうしてよ高彬、そう考えれば何もかもつじつまが合うじゃない!」
高彬に瑠璃は食ってかかるが、瑠璃が吉野にいる間から今まで、融は夏のなの字も口にしていないことを高彬は根拠にあげる。
「ふたりの仲が仲ならいくら融だって必死になって隠すわよ。高彬は右大臣邸の女房に手を出してそれをほいほい言いふらせるの?」
「うっ」
高彬は言葉に詰まる。
「い…いや、その…、ぼくは、責任取る…よ。隠しっぱなしってことには、しない」
「あ そう。覚えておきましょう」
しどろもどろに答える高彬をじとっと睨む瑠璃だった。
「ともかく!あたしの考えに間違いはないと思うの」
昨夜のうちに瑠璃はこっそり伊予に使いを出した。夏も、母子ともに危険なことがないよう小萩をつけている。
瑠璃が寝つけなくなるほど頭をしぼって考えた結論だった。
「それでも、やっぱり瑠璃さんの考えは強引すぎるよ」
高彬もまた引き下がらない。
「男女の仲は、どちらか一方の好みや気の迷いってわけにはいかない。融が血迷っても夏がはねつけるねきっと。夏はほんとは気丈な女だよ」
「でも融が…」
「融が嫌がる女性に無理じいできると思う?」
「うっ…」
勢いに乗ればそれくらい、と言いたいが、夏に拳で殴られ吹っ飛ばされる融が思い浮かぶだけだった。
ただ高彬も、融の家出を夏が手伝ったという考えには賛成していた。けれどそれと夏のお腹の父親の話は無関係だと思っている。
「だいたい夏とどんな話をしていてそんなキワドイ話になったのさ。通う男がいるだの子供ができるだのって」
ちらっと興味深げな視線を瑠璃に向ける。瑠璃は言葉に詰まった。
もとはといえば、高彬が好きだ嫌いだって話からあーいったハナシになったわけだが…
「話をそらすための嘘だったのかなあ…」
「だからどんな話をしてたのさ」
高彬はにこにこにこにこ、興味津々な笑顔を向ける。
(このバカッ 原因は高彬、あんたなんだからねッ!!)
心の中で悪態をつくも、昨夜から一睡もしないで考えていたことがちゃらになったようで、気がそがれる思いだった。
高彬は、そんな瑠璃を慰める。瑠璃の言うように、融の家出の裏にはたぶん夏がいるのだろう。融はきっと伊予に無事でいる。
「新三条低ももうすぐできるし、融が帰ってくれば、ぼくらも…ね」
高彬の言葉の意味を理解し、瑠璃は顔を赤らめる。
融が無事に帰ってきて、新三条邸もできあがれば、次は瑠璃と高彬の結婚で…
(でも、それを素直に喜べないのは 夏姫のせい…? )
夏と融の関係を無理矢理にでもくっつけようとしたのは、無意識の内に高彬と夏の間を遠ざけようとしてたからかと思い至る。
もし夏と融がそういう関係なら、瑠璃は夏姫に変な気兼ねをしなくてすむ。
(高彬を間にはさんで、心を乱すようなこともしなくてすむから…)
『わたくしと少将さまでは身分が違います。住む世界が違うことを乗り越えれば不幸になります』
夏はそう言うが、瑠璃は、やはり夏は高彬のことが好きなのだ、と信じていた。
(だからあたしは不安で、夏姫に本気を出されたらどうしていいかわからないから、こんなに気にかかっちゃうのかなあ…)
瑠璃の気分が沈んでいたその時、かすかに聞こえる音を瑠璃は逃さなかった。
何の音か確かめるため、御簾を上げて外を見る。
(……笛の音…?)
まるで竹林を渡る風のような、蕭状とした横笛の音だった。
「義兄上の涼中将の笛だよ。みごとだろう」
笛の音に気付いた高彬が瑠璃に教える。瑠璃ははっとした。
「涼中将って、あの… 高彬の姉上の浮気な夫の笛吹中将が来てるの――――っ!?」
おお、ついに聡子姫の旦那が!
美人の聡子姫が一目惚れするくらいなんだから、どんだけハンサムか…ジュルリ
あの純真だった高彬があんなふしだらな発言を大声でするなんて…はしたないわ
大好きな瑠璃はすぐ目の前に居るのに、新三条邸ができるまで結婚を待つなんて…
高彬は律儀だな
>>513 だよなあw
普通なら既に手を出している。どうせ父親公認だし。
そんなことしたら瑠璃に髪箱投げ付けられるからじゃね?
尼寺での未遂の件もあるし、今の瑠璃なら普通にOKでしょう。
「浮気な笛吹中将」は、聡子姫がいつまでたっても本邸に帰らないので、ようやく今日御機嫌伺いに来たようだ。
(やっと来たのか例の笛吹中将は。妻が夫の浮気に泣いて家出してきたっていうのに、けっこーなご身分じゃないよッ)
瑠璃は、来るのが遅いと言わんばかりに不機嫌な表情を隠さなかった。
「姉さんも策士だからね。右大臣邸に帰るそぶりを見せるどころか、
小姫や女房達までたくさん呼び寄せて、この鴛鴦殿に腰を据えるように見せてるのさ」
「小姫?」
「今年5歳になる義兄上達の子供だよ。かわいいさかりだからね。ちょっとの間も手放しておけないんだろう」
「なあに!? 子供までいながら浮気してるわけ、あの笛吹中将はっ!!」
瑠璃の言い草をたしなめるように、中将は、高彬の両親に尻を叩かれてしぶしぶ来たのだろう、お気の毒に、と高彬は言う。
「あのね、この前もそうだったけど、どうして高彬ってば涼中将にそう同情的なの?いくら男同士だからって…」
「同情的なのは瑠璃さんの方じゃないか」
聡子姫に同情している、という高彬は、先日は夏も控えていたし身内の恥を言うようで憚られたけど、と前置きし話し出した。
涼中将はたしかに結婚1、2年したあたりから、あちらこちらの女性と夜歩きするようになった。
しかし、初めから浮気な性格だったというわけではない。
聡子姫が御簾越しに見初めたのは22、23歳の兵衛佐の頃あたりで、高彬はまだ元服前でそう何度も会ってはいないが、
控え目で、どちらかというと誠実な人だったと記憶している。浮気な性だという噂ももちろん聞かなかった。
「へえぇ。で、結婚したとたんに本性を出し始めて浮気するようになったの。ふーん。笛吹中将もたいしたもんよね」
「違うね瑠璃さん」
あくまで浮気な中将を責める瑠璃を、高彬は否定する。
中将を見初めたのは右大臣家の総領姫である聡子姫だった。政治的にも当然聡子姫は東宮妃に立つものと思われていたから、
当時兵衛佐程度の位でその聡子姫の婿になるのは破格のことだった。
もちろん両親は、初めは聡子姫のわがままだと耳もかさなかった。
しかし聡子姫も、あの人でなければ嫌だ、東宮妃になどなりたくないと、恋わずらいで寝ついてしまい、
頭もあがらないほど弱っていくのを見て、両親はついにふたりの結婚を許した。
そうなるとことは右大臣家一の姫の婿取りなので、鳴り物入りで兵衛佐を迎え、位階も特進し、佐中弁の正五位に出世した。
そのあとも位を順調にあげていくので、さすがは権門右大臣家の一の姫の婿君だ、婚家の威光がまぶしいくらいだ、
御簾越しに見初められる美貌が羨ましいと仲間うちでもかなりの評判になったようだ。
「けっこうなことじゃない。望まれて有力貴族の婿になって出世までして、そこまで恵まれていながらなんで浮気なんかするのよ!」
瑠璃の発言に高彬はため息をつく。
「瑠璃さんは、男の意地がわからないからね」
(男の、意地…?)
世間知らずの瑠璃に高彬は続ける。
涼中将は野心もあまりない、笛や書をたしなむ風雅人だった。
だからこの縁談も、どちらかといえば中将が動いたというより、聡子姫のために右大臣家が強引に推し進めたようなところがあり、
その際には、高彬には耳の痛い“右大臣家の威光”をかなりちらつかせたのだろう。
位階の特進だって、結局は右大臣家の一の姫の婿としてふさわしい“地位”の押し付けにすぎない。
婚家の力は強い、妻は何かと東宮妃にもなれる身だったことを鼻にかける、出世すればしたで公達仲間には嫌味を言われる…
「男にとっては地獄だよなあ。針のムシロといってもいい」
いっぱしの男のクチをきいて生意気、と思うところもあるが、高彬の話は少しわかる瑠璃だった。
中将はほんとの好色心であちこち夜歩きしているのではなく、半分以上は聡子姫に対する面当てだろう。
聡子姫もそれを感じていて、でもどうしようもない状態なのだ。
ただ、ここふた月あまりは中将も右大臣邸には寄り付かなかったから、それで思いつめて家を抜け出してみせたのだろう。
そう言う高彬の話を瑠璃は黙って聞いていた。
(高彬は、やっぱり姉君の方に点がからい。でも、ことは夫婦間の問題だし、他人がどうこう口をはさめることじゃないし…)
男女の仲というのはなぜこうもややこしいのだろうと瑠璃が頭を抱えている時だった。
「あれ。笛の音が近付いてくる」
高彬が、涼中将がこちらに来るのかもしれないことに気付き、瑠璃を几帳の後ろに隠そうとした。
「でもあたし、笛吹中将の顔が見たい。あの姉君が一目惚れするくらいハンサムなんでしょ?」
わくわくしている瑠璃の能天気さに高彬はぐったりし、あとで几帳越しに紹介するから早く隠れろと瑠璃の背中を押す。
「頼むから普通にしててくれね。ちゃんと扇で顔を隠して… あれ、扇は?」
「あわててきたんで忘れてきた」
「…」
高彬が顔を真っ赤にして怒りで震えているのがわかる。
「とにかくおとなしくしてるんだよ、いいね瑠璃さん!」
強い口調で念を押し、憮然とする瑠璃を几帳の陰に隠した。
「おや。いい匂いがしますね。静養中に麗しい来客とは… 弟君も隅におけない」
そう言って、ひとりの公達がやって来た。
(へえ…これが涼中将?)
瑠璃は声のする方向をよく見ようと几帳裏から体を乗り出した。
「何やらまだ気配が几帳のかげに…めずらしいことですね」
敏感に察した中将の言葉に、瑠璃は慌てる。
「珍しいといえば義兄上こそ。わたしとは四月五月ぶりの対面ではありませんか」
宮中では会うのに、本邸の右大臣邸では姿を見かけない、と高彬も皮肉で切り返す。
「また姉さんと一戦おやりになりましたね」
「… おやおや。諍う声がこちらまで届きましたか」
「口で負けてしまわれると義兄上は笛をお吹きになるから」
身を潜め、瑠璃はこのきわどい会話を聞いていた。
(まあ、このくらいのことできなきゃ宮廷での出世もおぼつかないんだろーけどさ)
涼中将は、抜けられない先約が夜にあるため、今夕鴛鴦殿に御機嫌伺いに来たのだと言う。
「その先約の方は、君の姉上もかなわぬ方でいらっしゃるから」
「どなたです」
「藤宮さまですよ。ここしばらく、笛の御指南に参っているのです」
(藤宮さま…!?)
瑠璃は、昨日の藤宮の、融の行方に心当たりがあるような話を思い出していた。明日の夜もう一度来るようにと…
ということは、藤宮はこの涼中将に会わせる気でいたのだろうか。
融の行方を知ってるのは涼中将なのか…?
瑠璃の考えを知ってか知らずか、高彬は中将となおも談笑している。
「義兄上もお人が悪い。せっかく姉さんに会いに来て、姉さんも今夜はこちら泊りと喜んでいたでしょうに」
それが糠よろこびに終わったとなれば、一戦交えるのもいたしかたない、と嫌味に言う高彬から中将は目を逸らす。
「君の姉上はすぐ居丈高になる。それでわたしはいつまた怒り出すのかと、ついびくびくしてしまってね
そんなわたし達の空気が伝わるのか、小姫もおどおどしていますよ、可哀相に」
「子はかすがいと申します。小姫のためにもなんとか姉さんとうまくやっていただきたいものですね」
ははははと笑う高彬に、いいかげん自分のことを紹介して欲しい瑠璃はガマンできなくなった。
「あのっ、涼中将さま!今夜藤宮さまのお邸に参られる必要はありませんわ」
声の主の方を振り返りった高彬は目を丸くし扇を手から取り落とした。そこには、
「中将さまにご用のあるのはこのあたし、瑠璃姫なんですもの」
高彬の婚約者、内大臣家の姫が、隔てるものも無く姿を現していたのである―――。
521 :
おまけ中将:2007/08/28(火) 22:05:55 ID:???
兵衛佐(ひょうえのすけ)…従五位。宮門の警備担当の次官。衛府の中では位が低い。
佐中弁(さちゅうべん) …役所間の連絡にあたる実務機関の三等官。良家のおぼっちゃんがよくなった官職。
なんか高彬がイヤな子になってるような?
反抗期か?
なんかみんな体ちっちゃくね?
顔かっこいいけど頭身おかしくね?
物憂げなかんじの涼中将ハァハァ。
>>523 確かに涼中将が座るところのコマの高彬はちょっとww
日がずい分傾いた鴛鴦殿のまわりを、瑠璃は涼中将と歩いていた。
「そう。藤宮さまの文に、縁の者で会ってほしい人がいるとあったのは、瑠璃姫のことでしたか」
涼中将はくすくすと笑う。瑠璃ははぁ、と恥ずかし気に返事をした。
「あたしは、あのまま高彬の前でお話ししていてもかまいませんでしたのよ、中将さま」
「しかし義弟君はお堅いですからね。姫の突然のお出ましに、ものも言えぬほど取り乱しておられた」
だからこうして邸の外へ誘ったのだ、と言う中将に、瑠璃はますます恐縮する。
「それに、わたしはあの家の雰囲気が嫌いでね」
高彬も悪い人ではないが、右大臣家に縁の人だと思うと気詰まりだ、と憂鬱そうに言う中将を見て、
中将と聡子姫の間には、どうしようもない深い溝があるのかもしれないと思う瑠璃だった。
(そしてそれは、他人であるあたしがどうこうできる問題じゃなくて…)
ところで、藤宮の文によると何か問いたいことがあるようだが、と中将は本題に入った。
しかし瑠璃としては、融が夏の手引きで伊予に行ってるというのは確かなセンだと思って、今更中将に聞くことも特にない。
(藤宮さまとのお約束だってすっかり忘れてたくらいなんだもの)
ちらりと中将を伺うと、こちらに笑みを向けている。
聞くだけのことはきいておこうと、瑠璃は弟の家出の話を切り出した。
家出する前まで、懸想している藤宮の邸周辺をうろついていたこと、藤宮がそのことについて何か知っているらしいが…
「藤宮さまが中将さまにお会いできるよう取りはからってくださったのは、たぶん中将さまが弟の家出について何かご存じだったからと…」
「くっ くっくっくっくっくっ…」
瑠璃の話が終わらぬ間に肩を震わせていた中将は、堪えきれず声をあげて、ははははははと笑い出した。
「いや…失礼。しかし…そうか、あの奇妙なコ、姫の弟君でしたか」
中将の笑いは止まらない。瑠璃は、融が何かとんでもないコトをしたのかと不安になってきた。
「いえ、ただわたしは、一度その弟君に跡をつけられたことがありましてね」
今年に入ってから、にわかに笛に興味を持った藤宮の指南役に中将が出向くことになった。
やがて、いつも邸近くに止まっている網代車に気付くようになる。
そして一月程前のこと、涼中将はその車に跡をつけられた。
その日は、中将は二条堀川邸からの帰り、そのまま京のはずれにある賤屋にいる女を訪れた。
その帰り道、見覚えのある網代車が隠れるように止まっていたのだ。
「どうやらわたしを藤宮さまの恋人と誤解して、身元を確かめようと跡をつけてきたのでしょう」
くすくす笑う中将とは逆に、瑠璃は頭に血を上らせていた。
(あのバカ…ッ!! どうしてそういつもいつもやるコトなすコト ワンパターンなんだ融っっ)
瑠璃は必死で怒りを抑えて、中将に尋ねる。それが融の家出とどうつながるのかと。
中将の笑いは収まらないが、答えた。半月あまり前、二条堀川邸の近くまで来た時、中将の牛車の進行を止める車があった。
それはいつもの網代車で、その車中の人物が、物見の窓を開け顔を出した。そして、何やらわからぬ中将にまくしたてた。
『ぼくは家出するからねっ その間にちゃんと別れ話をすましてよね!夏姫を悲しませたらぜったいに許さないからっ!!」
いいねっ!?と念を押し、その車はガラガラと走り去ってしまった…
「いやもうまったくわけがわからなくてね」
中将の思い出し笑いは止まらない。
その日二条堀川邸に出向き藤宮と会った際、先程門前で女のことで嫌味を言われたことを話した。
すると、側に控えている女房達がぷぷーっ、ほほほと笑い出すではないか。
「しかしあれが姫の弟君とは…」
ますます笑いを堪えられない中将、恥ずかしさで憤死しそうな瑠璃だった。
「あの、中将さま… 弟は確かに“夏姫”と言ったんですか?」
恥を忍んで瑠璃は聞く。中将も、笑顔はそのままに答えた。
「確かにそう聞こえましたよ。家出先についても何やら言いかけてきたが、そちらの方はよく覚えてなくて…」
その“夏姫”に覚えがあるか、と尋ねる瑠璃に、ないと答える中将。
「ただ、弟君が言ったことを考えると、尾行された時に会っていた女かな」
瑠璃は、夏の言葉を思い出した。
『わたくし 通わせている殿方がおりますの もうすぐ子供もできますわ…』
「…その女の方って、どちらの方ですの…?」
「さあ…」
「さあ…って…!」
「名前もない遊び女ですよ」
中将はさらりと言ってのける。
遊び女とは言ったが、身なりからしてどこかに仕えている女房かもしれないと付け足した。
去年の9月か10月頃、縁の女を葬った寺に気まぐれで行ったところ、その女がいた。
「それが驚いたな。その少し前に死んでしまった女と、面ざしが似ているのですよ」
それで中将は、その女が死んだ女の生まれ変わりのように思え、ついふらりと縁を結んでしまった。
「名前を知らないその女を、わたしは死んだ女の名で呼んでいましたよ。その女もそれでいいというのでね」
阿久…と、呼んでいたと静かに言った。
「その阿久(あく)というのはどなたですの?」
つい立ち入ったことを聞いてしまった瑠璃だが、中将は答えてくれた。昔の恋人だと。
小さな宮家に仕える女房で、気軽な兵衛佐だった頃の中将も、情こまやかにつき合っていた。
「そう。わたしが右大臣家の大姫の元に婿として通い始めるまでは…ね」
「! 婚家の権力におもんぱかって阿久をお捨てになったの!?」
瑠璃は勢いで聞いてしまったが、中将は落ち着いていた。
「逆ですね。名門の一の姫が見初めて頭を下げて迎えた婿に愛人がいるのは、右大臣家として我慢ならなかったのでしょう」
これといって右大臣家や聡子姫が何をしたというのでもないが、睨みのきく権門ゆえ、権力におもねって顔色を窺う者も多い。
阿久もやがてはいたたまれなくなって、仕えていた宮家も辞めざるを得なくなった。
中将との仲を続けるかぎりは…と、親族にも絶縁同様の憂き目にあった。
「けれど阿久は、親族から絶縁されても、なおこの京に踏みとどまっていた…」
『わたくしの姉は 女房仕えに出ていた頃、身分違いの恋をしましたの。
周囲から反対され、親族から絶縁されても 姉はその恋に縋りついていましたわ――ー』
( 夏姫…!! )
中将ほんとに罪な男だな…
?
阿久も融の乳兄弟になるんだよね。
なんか人物が入り組んでワケがわからなくなってきたw
>>529 | ̄| | ̄| | ̄| ̄ ̄|
守 大…高=瑠 融…善 夏 阿=涼=聡
弥 江 彬 璃 修 久 中 子
|_____________|
って感じ?下手ですまん
夏≠融の乳兄弟じゃなくて、乳母をしてた母の縁って言ってたから
んで瑠璃の乳兄弟は出てきてないのかな?
そういえば瑠璃の乳母って聞かないなあ。
瑠璃と1つ違いの融が生まれてすぐに
瑠璃は吉野に行ったから、あんまり縁が強くないんだろうか。
>>530 おお、わかりやすい解説ありがとう。
そういや瑠璃の乳兄弟ってでないな。
吉野で育ったから吉野にいるのか、
乳母が吉野に下るのを拒んだとかで疎遠になったとか。
日もずい分暮れた。薄暮の鴨川のほとりで、瑠璃と涼中将は歩を進める。
「…中将さまは、お通いにはなりませんでしたの?その阿久という女のもとへは」
瑠璃の質問に中将は沈んだ声で答える。
「……わたしも、疲れてしまったのですよ、瑠璃姫」
中将と会うことでますます周囲から孤立していく阿久、右大臣家からの圧力に耐えねばならない中将。
そんな重苦しい空気の中では、もう会っても辛いばかりだった。
聡子姫も、おそらく本気で中将を見初めたのだろう。中将自身にもわずかな野心はあったかもしれない。
そして阿久も、子まで成した中将との仲に、意地と執着があったのかもしれない。
「綺麗ごとばかりではありませんよ、男と女の仲はね…」
虚ろな目をする中将を、瑠璃は詰れなかった。
以前の瑠璃なら、死んだ阿久に同情し、中将の不実を詰り、聡子姫のわがままを詰っていたことだろう。
しかし瑠璃は知ってしまった。綺麗ごとではすまない現実を、人間の弱さややさしさを知ってしまった。
(生きている人のこれからを考えなくちゃならないのよ!)
そう思う瑠璃は、中将に、阿久に似た女のことを尋ねる。その女は、阿久の縁の者だと思わなかったのか、と。
中将も、そう思ったことは何度かあるようだ。
そして、なぜ中将と契りを結んだのかと、聞いたこともあった。だが…
『わたくし、右大臣家の大姫を憎んでいますの。大姫を苦しめたいのですわ』
ただそれだけを言い、ただそれだけのために、好きでもない男と関係を持ったのだ、と言ってのけたのだ。
(まって… 夏姫はあの時なんて言った?)
『 もうすぐ 子供も できますわ 』
(そして、阿久には子供がいた…)
「どんな事情があるのか、どうして阿久と似た面ざしなのか、考えなかったといえば嘘になる。
だがこの年になるとね、瑠璃姫。考えたくないことは、考えなくてもすむようになるんですよ」
(小姫!!)
「中将さまっ!! 阿久には子供がいたっておっしゃったわね、その子はどうしたの!?」
瑠璃の突然の質問に中将は、右大臣家で引き取ったと答える。
聡子姫には子供がいない。恋の相手の子とはいえ可愛さは格別のようで、たいそう可愛がっている…そこまで言って中将はハッとした。
「そう、例の女もしきりに小姫のことを聞いていた。子供がいるなら会わせてくれと…」
瑠璃は、その言葉に元来た道を走り出した。
(小姫は、今日鴛鴦殿に来てるって高彬が言ってたもの。だとしたら、きっと夏姫は…)
「瑠璃姫!」
走る瑠璃を涼中将が掴まえる。
「待ってください瑠璃姫!あの女が、まさか小姫を…」
「阿久の縁で聡子姫を憎む者なら、阿久の忘れ形見をほっておくはずがないわ、きっと小姫を取り戻す!」
(だって、相手はあの夏姫だもの。“表の瑠璃姫 奥の夏姫”の夏姫だもの…!!)
「まあ中将さま。こんな所まで遠出をなさいましたか」
走る瑠璃と中将の向かう方向から、聡子姫付きの女房が松明をかかげ歩いてきた。
「おや、小姫さまはご一緒ではありませんでしたの?」
女房がいぶかしむ。先程から小姫の姿が見えず、聡子姫がたいそう心配しているというのだ。
「小姫は今、わたくしたちと隠れ鬼をしていますの!」
返答に困る中将の前に、瑠璃がにじり出た。
「まあ、そんな…こんなに暗いのに…」
「だからおもしろいのですわ」
呆れる女房に瑠璃は朗らかに答えた。
「瑠璃は小姫がとても気に入ってしまいましたの。もう少し一緒に遊ばせてくださいと姉君にお伝えくださいな」
「でも…」
「早く行って!隠れている小姫がむずがって泣いてしまうわ!」
瑠璃の叱声に、女房はムッとし、鴛鴦殿へと踵を返した。
女房の背中を確認し、瑠璃は中将に向き直る。
「小姫は必ずあたしが取り返してきます。だからそれまでこのことはうまくごまかし続けて!」
右大臣家の姫を誘拐したとなれば夏もただではすまないだろう。表沙汰にして夏に追捕の手がかかることはしたくない。
中将は、瑠璃に託すことにした。
「できることなら小姫を取り戻してほしい。妻は…たぶん子供ができないのでね」
(中将…)
瑠璃は、陽の沈む方角へ向き直り、歩き出した。その背中に中将は声をかける。
「だが阿久がどうしても小姫を手放さなかったら、その時は瑠璃姫、あなたにお任せします…」
瑠璃は一度鴛鴦殿に戻った。陽は完全に落ち、突然瑠璃の前に現れた影もその判別が出来ないくらいだ。
「瑠璃さま!」
「小萩!?」
その影は九条別邸にいたはずの小萩で、瑠璃に言われて見張っていた夏を追っていると鴛鴦殿にたどり着いたのだという。
そしてその夏は、そこの小柴垣の近くで遊んでいた小さい姫を横抱きにして、あっという間にもと来た道を走って行ってしまったのだという。
「わたくしあとを追うべきか姫さまを待つべきかと迷ったのですけど」
「待ってて正解よ小萩!夏姫はどっちへ行ったの?」
京の方だという答えを聞き、瑠璃は再び走り出す。
小萩が乗ってきた牛車が、牛をつけたまま門の外にある、と声をかける。
瑠璃は、すべて片づいたら温泉につれていく、と約束し、牛車に乗り込んだ。
すっかりあたりは暗くなり、空には三日月が浮かんでいる。
瑠璃は京に向かう牛車に揺られ、夏のことを考えている。
いったい夏はいつからこの計画を考えていたのだろうか。去年、九条邸に来た時から?
姉を不幸にした涼中将を憎み、高彬の姉君の聡子姫を憎み、苦しめるためだけに、愛してもいない男を寝取る激しさ…。
そしてその一方で、夏は冷静に待っていた。小姫を奪い返すその時機を。
けれど偶然とはいえ、中将との仲を融に知られてしまったことは、夏にとっては大きな誤算だったことだろう。
たぶん融は、高彬の義理の兄であり、よくない噂ばかりの中将とのことを単純に心配しただけに違いない。
そして夏がそれを逆手に取り融を丸め込んだことも容易に想像できた。
『わたくしも、このままではいけないとわかってはいるのです。けれど必ず別れますわ。とても苦しくて辛いことだけれど、
融さまのおっしゃる通り、中将さまとお別れいたします。
それまではこのこと、誰にもおっしゃらないでくださいませね、融さま 』
誰にも…
融の口から中将との仲が漏れれば、小姫を奪い返すことは難しくなる。
だから融の家出を手引きし、置き文の添削指導までして融を京から遠ざけた。
その間に小姫を中将たちの手から取り戻すために…
しかし、そこへ瑠璃が吉野から帰ってきてしまった。
おまけに融の行方捜しまで始めたから、夏はどんなに慌てたことだろう。
融を匿っているのは誰なのか、瑠璃が気付いたことを夏は知っているのだろう。
だからこそ今日、すぐに行動に移したのだ。ぐずぐずしてはいられないと、小姫を…
「待って止めて!車を止めてっ!!」
瑠璃はその時、子供のかすかになにかの声を聞き取った。
車を止めさせ、物見の窓を開ける。
すると今度ははっきりと、子供の泣き声が聞こえた。
車を降りた瑠璃は、従者に松明の火を借り受け、声のする方向へ歩き出した。
声は、土手の向こう側から聞こえる。
それを頼りに、瑠璃は土手を上った。
どうか… どうか無事でいてね、小姫
夏姫のためにも
これから幸せにならなくちゃいけない人達のためにも…!!
小姫じゃなくて中将拉致れ
八つ当たりのくせに計画的なんだな、夏。
…何か嫌なデジャヴが。
瑠璃、頑張ってくれ。
うわ…夏姫にそんな事情が… (´;ω;`)ぶわぁ
中将、いくら妻の実家の威光がウザくても、他界した女の代理を
そのまま喰うな!哀しい女が増えるだけじゃネーカ!・゚・(ノД`)・゚・。
融w邪魔だからと丸め込まれて追い出されたのか
大人っていろいろあるんだね……
融オワタ・・・・・・・。
今回こそは舞台の中央に上がってくるキーキャラクターになると信じていました。
月の輝く鴨川の土手を、泣き声を頼りに瑠璃は歩く。
声の大きくなるその場所に松明の火を向けた。
「夏姫!!」
そこには、小さな姫を抱えて座り込んでいる夏がいた。
名を呼ばれ振り返る夏の元に瑠璃は土手を駆け下り近付いた。
「こんなところで何してるのよ」
夏はゆったりと笑った。
「足を挫いてしまったのですわ、瑠璃さま」
その言い方が鮮やかであり、憎らしくもあった。瑠璃は夏のそばにどかりと腰を下ろす。
「そんな細腕で子供を横抱きにして走るからよ。自業自得だわ」
「ふふっ。そうかもしれませんわね、瑠璃さま。この子ってば姪のくせに人見知りして暴れるんですもの。嫌になってしまう」
夏に抱かれている小姫は、その大きな瞳に涙を溜めぐずついている。
「聡子さまになついているのよ。かわいがっていらっしゃるから」
瑠璃の言葉に、夏は顔を曇らせた。
「亡くなった姉が、墓の下で泣いていますわね…」
瑠璃は、夏に阿久のことを聞いた。こんな形で敵を討とうとするほど慕っている姉だったのかと。
「いいえ。わたくしは京にあがる度姉に申していましたの。姉さまは馬鹿だと」
姉が亡くなった時は無性に腹が立ったという。
出世の野心がありながらふらふらと腰の据わらない中将も、
恋わずらいで寝付くほど中将が好きなくせにわがままばかりの聡子姫にも腹が立ち、少しくらい苦しむべきだと思ったのだ。
「それで、あんな弱腰の中将と契ったの?それだけのために…?」
夏は答えなかった。
「趣味が悪いわ。あたしは好きじゃない」
そっぽを向く瑠璃に、夏は苦笑した。
「仕方ありませんわ。幼い頃から好きだった人は、気が付けば姉の恋敵の弟君で、物の怪憑きと評判の許嫁までいらしたのですもの」
瑠璃はハッとする。夏の方を向いた。
「でもね瑠璃さま。わたくし、その姫が好きでしたの」
夏は、小さい頃を思い出していた。融や高彬と無邪気に遊ぶ瑠璃を遠くから見ている自分の姿を――。
「つい1、2年前の自分を見ているようで、楽しくて
家柄も身分も、わたくしの好きな方とつり合っていて、それだけは羨ましかったけれど
とても好きでしたのよ」
(夏姫…)
さわさわさわと、川風が木々を揺らす。
(あたしも、夏姫が好きだわ。初めて会った時から、どうしてだか夏姫が好きだった…)
思わず微笑む瑠璃に、ずしっと重みがかかる。
見ると、先程まで泣いていた小姫が、瑠璃の膝の上で眠ってしまったようだ。
その様子を愛おしげに見守る夏は、ふふっと笑う。
「この子。実の叔母よりも、義理の叔母の方が気に入ったみたいね」
そう言って、夏はきっぱりした様子で立ち上がった。瑠璃を見て尋ねる。
「わたくしこの後どうなりますの。右大臣家の幼女をさらったのですもの、覚悟はできてますわ」
その言葉が表情にも表れている。瑠璃は見上げて言った。
「あんたの行く先は伊予よ、夏姫」
瑠璃の乗ってきた牛車に乗って九条邸に戻り、それから伊予に帰るようにと瑠璃は言う。
そして、そそのかされて家出した融に、みんな心配してるから早く帰京するよう伝えろ、と。
夏は苦笑いを浮かべた。
「…みなさまに、ご心労をお与えするつもりはありませんでしたの。ただ融さまはお口が軽いので、中将とのことを知られてしまうと…」
「夏姫は、高彬に知られるのがこわかったのよ」
昔のままだった高彬に知られたくなかったのだと瑠璃は指摘した。
夏は顔を逸らせる。
「殿方は、あまりお変わりになりませんものね。困ったことですわ。女はどんどん変わるのに」
そう言って夏は瑠璃に背中を向け歩きだした。
瑠璃が呼び止め、夏は振り向く。
「それでもやっぱり夏姫は高彬が好きね?そうなんでしょ?」
「…いいえ嫌いですわ。あんな情知らずの方 大嫌い。」
「嘘よ、夏姫は…」
「でもわたくし、今度どなたかを好きになる時は、おとなしい許嫁のいる殿方にしますわ…!」
笑顔でそう言った夏姫は、夜の闇に消えて行った。やがて、土手の向こうに止めた牛車が走り出した音がする。
その音を聞き、瑠璃は小姫を抱え立ち上がった。
最後まで鮮やかで 最後まで嘘つきだった夏姫
さよなら夏姫
あたしもそんな夏姫が 大好きだったよ…
小姫をおぶった瑠璃は無事鴛鴦殿に着いた。
遅い帰りに、聡子姫付きの女房達には叱られてしまうが、そこに心配顔の涼中将が現れた。
瑠璃はにっこりと笑い、小姫を中将に引き渡す。
すやすやと眠る小姫の無事な姿に、中将は瑠璃の手をぎゅっと握った。視線が感謝を伝えている。
聡子姫が小姫の無事を確認した頃、瑠璃は小萩が心配そうに待っているのを見留める。
「夏姫は無事よ。今度は温泉!」
ぽんと小萩の肩を叩き、安心させた。
瑠璃の進む方向に、瑠璃の帰宅を知り慌ててやって来た高彬がいる。
走りやって来る高彬の胸に瑠璃は飛び込んだ。突然のことに高彬は顔を真っ赤にし体を離した。
「ど…どうしてたのさ瑠璃さん。こんなに遅くなるまで…」
「融は近いうちに帰ってくるわ」
「え?」
状況の飲み込めない高彬の胸に再び顔をうずめる。
「ごめんね高彬、心配かけて。でももう平気。何もかもうまくいくわ」
きっと うまくいくから…
夏姫は、その夜のうちに九条邸から姿を消していたという。
やがて4月に入り、新三条邸が完成した。
すっかり日焼けした融が帰ってきたのは、引っ越しの準備も慌しいそんな最中だった。
父は泣いて融の無事を喜んでいたが、高彬はちょっと複雑な表情で融を迎えた(ムリもないが)。
もちろん瑠璃が今までの苦労のオトシマエとして融のことをはりたおしたのは言うまでもない。
吉日を選んでの内大臣家の引っ越しは、何輌ものお仕度車を連ね都大路を練り歩きつつがなく執り行われ
木の香も新しい新三条邸に入ったあたしを待っているのは
うれし恥ずかし あたしと高彬の新婚の夜――――――♥
ああ…もう夏姫には会えないんだろうなぁ。
潔くてカッコイイ女キャラだったのに…。
瑠璃とタッグを組んで、遊びに行く話とかがあったら面白そうだった。
しかしラストw確かにやっとの初夜だけどね。
結局何回目のチャレンジなんだっけ?w 3回目?w
一度目…口喧嘩をしてモタモタしてるうちに訃報が。
二度目…融が怪我をして帰ってきたため中止。
三度目…東宮からの文で中止。
四度目…にカウントしていいのかわからないが、尼寺にて。火事が目に入り中止。
てなところかな。
五度目…勃たなくて中止
夏、許嫁のいない殿方にしとけー
夏は戻ってきて三条邸で仕えればいいのになあ。
瑠璃と良いコンビになりそうなのに。
小萩が疲れまくりそうだがw
夏は高彬のこと本当に好きみたいだから、いくら瑠璃のこと好きでも側に仕えて二人のことを見続けるのはやっぱ切ないんじゃないか?
高彬は決める時は決めてくれる奴だよ
4月。新三条邸の部屋で、もの思いにふける瑠璃がいた。
(なんか…今夜のこと考えると意識しちゃうなー。でも 高彬と結婚かあ… )
笑みがこぼれてしまうところに、弟の融がやって来た。どうやら、夏のことで話があるようだ。
「姉さんも、夏のことは知ってるだろ?ほら、ぼくの乳姉弟で伊予守の娘で、ぼくが帰ってくるまで九条邸にいた女房だよ」
「……うん、知ってる」
「それで…その、夏はさ、ぼくの家出にも親身になってくれたんだけど、高彬の姉上のダンナさんと、その…しばらく恋人で…
あっ、でももう別れたんだ、ほんとだよほんと!ぼくもちゃんと約束したんだから!
けどさ、いくら別れたって言っても、やっぱり姉さんも一応このこと知っといた方がいいと思って…だって夏は内大臣家の縁だろ?
姉さんが夫の実家のゴタゴタに巻き込まれたりしたら高彬とも気まずくなっちゃうかもしれないじゃない。だからぼくは…」
ここまで聞いて、瑠璃ははあっと溜め息をついてしまう。
しかし、そんな様子は微塵も見せず、にこっと微笑んだ。
「ありがと、融。あたしのこと心配してくれて」
高彬には先を越されてしまうが、融もまだまだ男になるチャンスはある、がんばれと励ますと、融は気分を良くし、部屋を出た。
それを確認し、瑠璃は深い溜め息を吐いた。
(姉を思いやるその気持ちはありがたいけど、どーしてあいつはああも間が抜けてるんだっっ!!今頃夏姫のこと言われたって遅いのよボケッ!)
おまけにあの要領を得ない話し方では、出世もおぼつかない、と言ったこととは正反対のことを考えている時だった。
どたどたどたどたと荒い足音とともに、父内大臣が息を荒げて部屋にやって来たではないか!
(また何かあったのっ!?)
「瑠璃やっ、仕度はすべて整っておるのか?足りないものはないか?小萩はどうしたのだ!女房がひとりも側に控えておらぬではないか!」
瑠璃の不安とは裏腹に、父は瑠璃の部屋の調度品を隈なく調べ、喋り続ける。
「ああっ、しかしこれでおまえの死んだ母親にも申し訳が立つというものだ、父は嬉しいですぞ瑠璃やっっ!!
それからな瑠璃や、枕を投げたり口答えするのはいけませんぞ。万事はあるがままに受け止めてだな。
いやしかしおまえは高彬殿よりも年上なのだからそこはそれ臨機応変に対応してだな。
とにかく落ち着いてコトにあたるのですぞ、 落 ち 着 い て っ !!」
百面相を繰り広げたのち、寝殿の用意を確認するため、再び慌しく走り去っていった。
(な…何だったんだ今のは―――っ)
また何か一大事でも起こったのではないかと思った気が抜けて、がっくりうなだれているところへ、瑠璃の名を呼ぶ人がいた。
(母上…!?)
義理の母は、瑠璃に今夜の祝い口上を述べたあと、朗らかに笑って言った。
「吉日の佳き日を迎え、血の繋がらぬ仲の母娘とは申せ、わたくしも母として瑠璃さまに少しばかり今宵のご注意など申し上げようと…」
「はあ…どうも…」
断ることなど出来ない瑠璃だった。
(先客万来とはこのことだわ)
家族の訪問を一気に受け、瑠璃はぐったり脇息に凭れた。
いざ結婚というと、必ず何かあってダメになっていたため、瑠璃がまた何かとんでもないことをやらかすのではと思う気持ちはわかる。
その時、ふと瑠璃は思いついた。
部屋の隅の文机に目をやり、手箱を開けた。
さらさらと何かを書きつけ、女童を呼び、その文を手渡す。
女童は緊張した様子で走りさった。
(ふふっ)
夜になった。
新三条邸の門の外がざわざわと賑やかだ。
「ひ…姫さまっ!」
ばたばたばたと、今度は小萩が走り込んで来た。
「ど…どうしたのよ小萩! ま た 何かあったって言うの!?」
思わず身構える瑠璃に、小萩が、そうではなく、たった今高彬の車が到着したのだと言う。
「その従者の中に、あの吉野で拾った峯男にそっくりの男がおりましたの…!
暗がりでよくは見えませんでしたけれど、年格好までそっくりでわたしもうびっくりしてしまって」
明日にでも御前に召してご覧に…とそこまで言って小萩ははっとした。火取りの役を買って出ていたのを思い出したのだ。
「でも大丈夫ですわ…!右大臣邸よりお持ちになられた火は姫さまのお部屋にお移しし、この小萩が3日3晩心してお守りいたします!」
小萩はきりりとそう言い部屋を出た。小萩も緊張しているのだ。
(何も小萩が結婚するわけじゃないのになあ…)
苦笑する瑠璃だが、先程から東門のあたりがざわついているのは…
(高彬が 来たからで…)
かた…と小さな音を立て、高彬が御簾の向こうに現れた。
その表情に、お互い少し照れがあったものの、瑠璃は御簾を上げて高彬迎えいれた。
高彬は満面の笑みを浮かべ、それにつられ瑠璃も微笑む。
「あのね瑠璃さん。今日の午後、伊予に戻った夏から文が届いたんだ」
「え゛っ」
唐突な話に瑠璃は驚く。
「でもぼくのことなんか全然書いてなくってさ。“瑠璃姫に今ひとたびお会いしたい”なんて書いてあるんだよ」
(夏姫…)
凛とした夏の姿が思い浮かんだ。
「高彬。夏姫は、誰が好きだったか、知ってる?」
瑠璃の問いに、高彬は一拍置き、答えた。
「…うん。ときどき、わかる時もあった」
その顔は真っ赤だ。
「でも、瑠璃さんはそれで平気?」
「…」
瑠璃は、少し考え、ぱらりと扇を開き、一首の歌を詠んだ。
今日よりは 紫匂う 花房の
藤もひらけり 初夏の夜 …
【 今日 紫も美しい藤の花も開いて 初夏の夜を彩っています 】
「るっ、瑠璃さんっ、それ…その歌―――」
高彬はすっかり顔から血の気がひいた。
「いったいどなたにお送りしたのっっ!?」
「んふふーちょっと昼にねー。なかなかのテクでしょ高彬♥」
瑠璃は得意気に微笑んでいる。
「藤(不死)だの花房だの、美しくもおめでたい言葉をならべて“紫匂う”で妻を暗示する。決め手はラストの“初夏の夜”よね」
「…瑠璃さんっっ!!」
蒼白の高彬に瑠璃は知らん顔だ。
そうなのだ。この歌は
“今日からあたしは人妻になります、よろしくね”というイミでもあるし、
“人妻になっても気にしないでね”というイミでもある☆
(受け取った 本 人 がどっちのイミで取るかなんて知らないもーん)
これで夏のことはチャラにしよう、という瑠璃の思惑は知らず、まだショックから立ち直れない高彬だった。
その時、小萩が泡を吹かんばかりに青い顔で瑠璃に文を届けた。
瑠璃にはその手紙の送り主がわかった。開いてみると…
人妻ゆえに… 今はただ言葉もなく、古代めいて あやし
【衝撃のあまり言葉もありません。ひどく昔ふうな気持ちになってしまって…これはどういうことでしょう】
(紫の にほへる妹を 憎くあらば 人妻ゆゑに われ恋めやも――人妻であってもやっぱ好きです 大海人皇子)
「うーん、さすがだわ鷹男って。あの歌にこんなお返事くれるなんて!」
瑠璃の口から出た名前に、高彬はピクッと体を震わせる。
「動揺のあまり歌も詠めず紙も枝も揃いませんって演出をしておいて古い万葉集の引用だもの。 す ッ ご い わよねえ、高彬」
ぴらぴら料紙を見せびらかす瑠璃だったが、高彬はぷいっとそっぽを向いてしまう。
「怒った?高彬」
瑠璃は高彬を後ろから抱き締めた。
「まあ、ぼくには夏から文がきたことだし…」
赤面している高彬の頬を両手で包み、瑠璃はこちらに振り向かせた。
瑠璃と視線が合い、頬に当てられたその手を自分の手できゅっと握り、高彬は微笑む。
そして、瑠璃の体を引き寄せた。
高彬の顔が近くなる。瑠璃はゆっくり目を瞑る。
ふたりの唇が重なった。
(高彬…)
そうして
あたしと高彬は
真新しい木の香に包まれた三条邸で
今までになく仲良しになったのでありました… ♥
とうとう瑠璃が、実質上の人妻に…父母ではないけど、感慨深いなw
瑠璃も落ち着いてるようで結構高揚してたのかな。
峯男のことスルーしてるw
これは、ついに、成就…?
落ちとかないよな?
実は高彬じゃなかったんだよ^^
今度は鷹男から文が来ても大丈夫だったのかw
瑠璃、高彬、それから誰よりもパパン、オメ!
ハネムーンベイビーまーだー?
瑠璃、高彬、おめでとう!
よかったなあ、そして長かった〜〜〜〜〜〜〜。
結局はやっぱりなにか邪魔が入ったんじゃないかと想像してみる。
パパンとかw
568 :
マロン名無しさん:2007/09/02(日) 22:24:49 ID:PY+Z5Jtf
色々あったけど、よかったよかった。
なにげに藤宮さま以外はオールスターだね。
藤宮さまは少し前に出たし。
主人の結婚を喜んでる小萩、なんかいいなぁ〜(´ー`)
えー何事もなく、つつがなく、滞りなく
済んでしまったの?
もっとドタバタを見てたかったけど
瑠璃が年増になってしまうからな…
いろいろあったけど初志貫徹、高彬と無事結ばれて大団円だ〜。
これでもう瑠璃も人妻だし、おとなしくなるんだろうね。
鷹男ももう何もいえないだろうし、高彬も一安心だな。
>>569 小萩かわいいね
小萩も結婚とかないかなー
するとすれば守弥かな?今回が伏線で
原作はまだ続編があるんだが漫画化しないのかな
第7巻 (ジャパネスクミステリー全話、ジャパネスクスクランブル第一話)
表紙:若葉色の芝で寝転ぶ瑠璃と高彬
折り返し:お互いの唇に指を当て見つめ合う瑠璃と高彬。
柱
1こんにちわ。瑠璃の前では背伸びしてるけど家でお坊ちゃんする高彬をお楽しみください(鼻にバンソコウの高彬)
2単行本5巻の柱で鷹男と吉野君が兄弟であることをうっかりバラしてしまいました。花ゆめ読めばこんなこと起きないよ(と宣伝)
3守弥は氷室さんに「ハンサムに描いてね」と言われたので、とってもハンサムになりましたフフフ。髪にトーン貼ったことを後悔
4登場したばっかの守弥を見てアシさん達が「こんなにスカしてたんだ」と大笑い。下絵にヒゲ描かれたり、モーリ、モーミンと呼ばれたり。
5ミステリーの表紙で「脱いでいくシリーズ」やりました。山内「ハダカにはしなかったでしょ怒んないでよ〜」高彬(無言で服を着る)
6花ゆめ付録のキャラクターカードに瑠璃だけ3サイズが載っていた!
高「あああ帝がこれをご覧になられたらぁあ」鷹「ふふん」(切り取って持ち歩いてるかも)
7マンション購入案内のダイレクトメールが入っていたが、単価がなんと12億円だった。
8サンクス(瑠璃の絵)
第8巻 (守弥が煌姫に計画を持ち出す〜記憶喪失の守弥が瑠璃をずっと前から知っていたと伝える)
表紙:白い衣装に身を包んだ瑠璃を高彬が抱き上げている。瑠璃の髪には真っ赤なリボン、手にはホワイトローズ
折り返し:眠る高彬
柱
1こんにちわ。今回の主役は守弥です。女っ気なしの漫画はツライので後半瑠璃が出てきてほっとした(少年の守弥と高彬)
2高彬が酔う回、アシさん達に「この高彬はぜったい守弥を誘ってる!!」と言われる。「やっぱ高彬って受よね」「瑠璃との時も受かも」「おいっ」
36巻で書いたBGMの姫神について問い合わせいっぱい。今はザバダック、クライズラー&カンパニーがお気に入り
4やっぱりスキーが好き。今年はウエァを買いました。
5花ゆめ本誌の作者の言葉で「編集部は漫画家を生かさず殺さずで休みが少ない」と書いたら削除された。
休みを潰すカラーや付録の仕事は大ッキライ
6近所の保育園にある桜の木は八重桜でピンクもひときわ鮮やか。守弥はこんなところで気を失っていたのかと考えるとメルヘンな気分。
守弥「まあ吉野山の桜はもう少し色が薄いのだが」花びらに口付けている
7サンクス(花びらの中眠っている高彬の絵)
第9巻 (守弥が記憶を戻す〜夏の存在を気にする瑠璃)
表紙:赤い十二単を着た瑠璃がこちらに手を差し伸べ笑っている。手にはかすみ草
折り返し:文を持った高彬が瑠璃を後ろから抱き締めている。
柱
1やっと瑠璃が帰ってきた。高彬とのいちゃいちゃが描けるのが嬉しい。だって少女マンガだもの(瑠璃と高彬いちゃいちゃの絵)
2ジャパネスクのカレンダーが出ることになり、書き下ろしを自ら増やしてしまった。「時間のない」カラー描くのが嫌いなんです
3ジャパネスクダンディも、いつもより4P多い連載でした。いろんなコトに手を出しまくり今日も墓穴を掘るヤマウチ…
4血がダメです。見ると貧血を起こします。検査用で採血した時好奇心に勝てず見てしまい、そのままうしろに倒れ込み運ばれました。
5花ゆめの表紙は花を描くことになっているのにアシさんの誰も知らなかった。加藤知子先生も知らなかった。
6ラストに収録されてるのはオリジナル作品です。このお話で「キャラクター作り」が少しわかった。そういう意味でも思いで深い作品。
7サンクス(ウィンクする瑠璃)
第10巻 (奥の夏姫の意味を知る〜涼中将の笛の音が聞こえる)
表紙:植え込みの向こうから顔を出す瑠璃と、それを後ろから抱いている高彬
折り返し:十二単を着た瑠璃をエスコートする高彬
柱
1こんにちわ(子供時代の瑠璃)
2この話を書いている頃カゼをひいて、アシさんに指定を出すのも大変だった
3去年の夏沖縄に行ったら台風にあった。リゾートでひたすら卓球の試合をした。海にもちゃんともぐった。素潜りに挑戦した。
4長風呂を愛してます。本を読んだり入浴剤を凝ってみたり。
5特大ポスターが付録に付いた時の予告を見てしばらく固まった。
「若君が私に黙ってヌードに!!まさかこの守弥が12年間お育てしてきた若君にこのような扱いをうけるとは…!!と怒り心頭した守弥は
私も脱ぎます!!と言って出来たのが 高彬&守弥のヌードポスター」
6出来たジャパネスクカレンダーを見てアシさん達「わーいホモ月だホモ月」「高ちゃんウケウケGOGO!!」
図柄は、高彬と鷹男の紅葉狩り。画面には二人だけどお供いっぱいいるのに…「高彬ーっあんたの性格が誤解を生むのよーっ」高「え?え?」
7サンクス(高彬の絵)
第11巻 (涼中将と対面〜仲良しになったのでありました)
表紙:単姿で瑠璃の額に口づけする高彬
折り返し:瑠璃の頭に口づけする高彬
柱
1こんにちわ(前髪を分けた瑠璃)
22泊3日で京都、吉野、姫路の桜を見てきました
3高彬の前髪は、ほつれ毛です!! 髪を下ろすと前髪があるの。吉野君もハゲではなく剃っている
4原作小説を読む順番
5ジャパネスクの画集が出ます。高彬の脱いでいくシリーズも入ってます。
高「ひ…ひどい、何もそんなカタチに残るものにのせなくたって…」シクシク泣く高彬、ありゃーと思うヤマウチさん
6原作はまだ続いていますが、漫画のジャパネスクはひとまずこれで終わりです。
7すべての人に最大級のありがとう(こちらを向く瑠璃の絵)
ジャパネスクのTV放送について
放映は1987年頃、日本テレビ系で放送された2時間単発ドラマ
瑠璃 富田靖子 : 高彬 木村一八
鷹男 仲村トオル : 融 西川弘志
吉野君 京本政樹 : 小萩 中田容子
瑠璃父 石坂浩二 : 瑠璃母 中井貴恵
藤宮 かとうかずこ: 二の姫 鳥居かほり
大海入道 伊東四郎 : 権少将 佐藤B作
演出 石坂浩二 : 脚本 松本ひろし
ちょい役で、竹中直人や小倉久寛(小萩の恋人役だった 笑)なども出ていた
入道事件が解決するまでの話。
野球放送でのびのびになって、夏の予定が秋の終わり頃になってしまった運の悪い企画。
第2話は企画倒れになってしまい、続編を作る予定だったため、おとなになった吉野君(髪有り)がちらちら映っている
> 花ゆめ本誌の作者の言葉で「編集部は漫画家を生かさず殺さずで休みが少ない」と書いたら削除された。
ちょwwそしてそれをコミクスで書く作者オモシロスww
>>578 なんだこのキャスティングは…ありえねえぇ
でもちょっと見たかった気もするw
ジャパドラマは衣裳とセットがひど過ぎた記憶しかない
>大海入道 伊東四郎
これはひどい
富田靖子は、ジャパドラマだけじゃなくて
原作の氷室さんの自伝っぽい話の方にも出ていたような記憶が…。
584 :
マロン名無しさん:2007/09/04(火) 15:14:19 ID:Xe4DOVBz
>>574
鷹男じゃないが、瑠璃姫のスリーサイズがものすごく気になる。
守弥は確かに今ミステリーを読み返すと別人www
山内さんは柱でキャラ交えて語ってくれるからいいなぁ。高彬がやっぱり不憫な扱いだしw
表紙は8巻と11巻が好き。11巻は買い辛いけどw
画集欲しいな〜アニメイト行くか。
>>578 石坂浩二演出ってだけで見る気なくす…('A`)
俺の水戸黄門を改悪しやがって。
587 :
マロン名無しさん:2007/09/04(火) 23:28:09 ID:9M0tkTbC
>>585 うちの市の図書館には画集が入ってる。
探すと意外にあるかも。
588 :
マロン名無しさん:2007/09/05(水) 02:37:47 ID:JWrMQW+H
>>578京本がスモークの中から透けるピンクの布被って登場してきて怖かった
当時からキツいビジュアル系メイクで時代劇に合わない顔
Gacktのほうがマシ
つ連載時期
原作の3巻以降は本当にこのまま漫画化しないの〜?
山内センセーのこの絵で○○宮とか○壼様とか○○姫とか見たいー!!!
漫画しか読んでなかったけど、続き知りたいから
小説版買うか。
3巻からでいいんだよね?
ジャパネスク年表
瑠璃18
一月 絵巻物のことが高彬の母にバレ、藤宮のもとへ向かう途中謀反僧の話を実兼から聞く
その夜、実兼の言う七条へ向かい、謀反僧の影を見る
翌日、故淡路守の邸でも謀反僧の噂が流れていることを知る。
謀反僧の噂があっという間に広がり、鷹男の帝の知るところとなる。
藤宮の元に現状説明に向かい、貴族に匿われている仮説を話す
守弥の考え通り、その夜高彬が自室で襲われる
袿の柄から犯人を割り、融のもとへ向かう。
守弥のはからいで謀反僧事件は落着。
二月 藤宮に謀反僧事件について言及。
守弥、右大臣から瑠璃姫帰京の話を聞く
その後高彬に呼び出され、12年間お育てした若君にこのような扱いを受けるとは。
水無瀬の宮邸に叔母を訪ね、煌姫に瑠璃姫打倒の計画を打ち明ける。
煌姫と2、3度の面会。
花待ちの宴で高彬を酔わせ水無瀬の宮邸に向かわせる
高彬、煌姫に面会するも、守弥の恋人と誤解。
翌日から煌姫からの文が絶えず、高彬が気を利かせて守弥を水無瀬の宮邸に遣いに出す
瑠璃から文が届き、高彬大?
三月 吉野入りした守弥が瑠璃の夢を見る
その後崖から落ち記憶喪失、瑠璃に拾われ峯男と名付けられる
夜、「証拠」と口にした夢を見る
|2、3日後
薪割り中に庭師の爺に瑠璃姫のオトコ扱いされる
瑠璃に懸想しているのではと疑念を抱きながら、倒れていた崖の下に連れて行かれる
夜、権中将の姿を見て記憶を取り戻す
行方不明になった瑠璃を探しに、夜の里へ向かい、もういいからお帰りなさいと告げることになる
瑠璃を送り届け、大江の待つ山荘へ急いで戻る
京に戻り、瑠璃姫帰京の意を高彬から聞いて戸惑う
瑠璃、帰京伺いを出すものの返事も待たず吉野を出発
|10日後
鴨川のほとりで小萩が倒れ、運よく高彬の車と出会う
夏と初めて顔を合わせ、鴛鴦殿に到着
高彬のご機嫌は直らず、「夏姫」に、理由を聞き、融行方不明と知る
素直に謝り仲直りするが、今度は夏の存在が気になる。
|翌日
鴛鴦殿に聡子姫がやって来て、浮気相手と誤解される
そのことで高彬と喧嘩、その後、融の行方がとうとうわからないことを知り高彬が倒れてしまう
瑠璃、京の父の元へ帰る。
その足で藤宮のもとを訪れ、融の話を聞く。会わせたい人がいると言われ、翌日の再訪を約束
夏が黒幕と考えていたことが本人にバレ、高彬を巡る話になるが、夏から通わせている殿方の存在を明かされる。
|翌日
鴛鴦殿で夏と融の仲を高彬に言うも否定され、夏黒幕説だけが残る
涼中将が鴛鴦殿に訪れ、瑠璃と初対面
阿久の話を涼中将から聞き、夏の話がすべて繋がる
小姫を連れた夏を探しあて、夏と別れる。
四月 新三条邸が完成
融が伊予から帰って来る
吉日を選んでの内大臣家の引っ越し
瑠璃と高彬が今までになく仲良しになったのでありました…
※1行空けは詳細不明の後日
まとまりが1日の出来事
わかる範囲で○日後を記載
〜ここだけ10年後〜
なんて素敵にジャパネスク 人妻編 月刊別冊花とゆめにて好評連載中!
人妻になった瑠璃が大活躍!
単行本1〜5巻絶賛発売中(2007年9月5日現在)
596 :
粗筋中将:2007/09/05(水) 22:18:22 ID:???
以下楽屋裏
みなさんお疲れさまでした、そして温かい声援ありがとうございました!
6月半ばから始めたジャパネスク連載中はこれにて終了となります。
以下楽屋裏をお楽しみください。
>>592の最後、ひょっとして上手く表示されてないかもしれません。「高彬大喜び」と脳内変換よろしくお願いします。
というか、携帯での更新なので、全体的に上手く出来てるのか甚だ不安…
最後になってgdgdで申し訳ありません。
さて、楽屋裏スレでもちらりと言ったのですが、この後は『ざ・ちぇんじ!』の連載を始めようと思います。
で、全13話なので新スレを立てるより
このスレを再利用という形にした方が良いと思うのでしょうが、いかがでしょうか?
ちなみに連載開始は9月半ばを予定してます。早い?
週末までPC環境が無い状態なのでみなさんの声に素早く反応出来る自信はありませんが、
ご意見のほどよろしくお願いします。
おつかれさまでした!
仕事終わって、ここを見るのが1日の大きな楽しみになってます。
ざ・ちぇんじ も楽しみです。
このスレ再利用でお願いします!
中将さんお疲れ様!
毎回楽しませてもらいました!
ちぇんじもこのスレでいいと思います。
楽屋裏の消費次第だとも思いますがw
粗筋中将さん毎日の連載お疲れ様でした。
「ざ・ちぇんじ」嬉しい。楽しみにしてます!
さぁ、張り切って女春宮に萌え萌えして兵部卿宮信者になるぞ!!
粗筋中将さま乙でした〜
お盆期間はチョット参加厳しくて抜けちゃったんだけど、
レス数みると同じような状態だったヒト他にもいた感じですね。
ざ・ちぇんじ、恋のいろはですな
楽しみ!
>>596 連載乙カレー!
「ちぇんじ」連載開始は、中将さんの都合でいいですよー。
読者側としてはゆっくり待ってますので。
ジャパネスクの中で一番容姿がいいのは誰かな?
吉野君、藤宮かな
吉野君が1番じゃないかなあ。
純粋な容姿だけの美しさだったら。
なんたってそこそこ外見のいい鷹男のいる後宮で
「冴え凍る君」なんて呼ばれて女房たちの絶大な人気を博していたし。
藤宮さまはもちろん容姿も充分に美しいんだろうけれど
生まれの高貴さとお育ちのよさで、作り以上に美しく見せてるのではと。
吉野君の伯母で、鷹男の母である太皇の宮も
若い頃はさぞかし美人だったんだろうなー。
藤宮さまも感心してたもんなぁ、吉野君の容姿
鷹男でそこそこなら、高彬はどうなるんだ
>>605 並々?でも育ちの良さがいい感じに出てるんだと思う。
確か、鷹男は瑠璃の好みのタイプで、高彬はハンサムな方だけど、鷹男とかに比べたら…じゃなかったかな。
吉野君は女の人みたいに綺麗な顔なんだよね。
守弥はハンサムらしいけど、鷹男とどっちがカッコイイんだろ
確か、鷹男は瑠璃の好みのタイプで、高彬はハンサムな方だけど、鷹男とかに比べたら…じゃなかったかな。
吉野君は女の人みたいに綺麗な顔なんだよね。
守弥はハンサムらしいけど、鷹男とどっちがカッコイイんだろ
鷹男だとオモ。
帝だしね。即位してから自信からか
より男っぷりがあがったって高彬が言ってたし
鷹男と吉野君の容姿が甲乙つけがたい2トップだと解釈していた。
吉野君が後宮で騒がれてたのは騒いでもいい相手だったから。
鷹男は恐れ多くも帝だからみんなかっこいいだの言っては
いけなかったんだと思われる。
ブサでもハゲでも帝だから、なんでもありがたい存在になってしまう罠
実は鷹男も……
鷹男が詠む恋の歌って印象的だよね
下手くそな設定の高彬の歌はそんなに覚えてないけど、鷹男のは記憶に残ってる。
氷室サン書き分けすごいな
614 :
粗筋中将:2007/09/10(月) 22:50:25 ID:???
鷹男守弥はソース顔、高彬はしょうゆ顔なイメージが…
>>613 原作が小説だからか、セリフの書き起こしはすごい楽しかったです。
セリフに選ばれる言葉が違うというか、一言一言が面白いというか…
品があるとか深いとか言うとちょっとおおげさだけど、これもジャパネスクの良いところかな。
あと、粗筋書き起こしてて思ったのが、瑠璃って結構dqnかも…ってことw
「この言動、ひょっとして叩かれるんじゃ?」なんて思ったことが多々ありましたw
大人しくしてたら丸く収まることが多かったような、でもそんなこと言ってると全ての物語は始まらないままですけどね。
みなさんねぎらいの言葉ありがとうございました!
保守
美女ランキングはどう?
ノミネートは藤宮、二の姫、アキ姫あたりか?
なんと言おうと瑠璃さん
これは譲らない
高彬乙
瑠璃に一票
と言ってはあげたいが、
瑠璃は特に美人でもないというのがポイントなんだろうな
まあ瑠璃は美人じゃないけどイイ女ってことで
そんなに美人でもないが妙に魅力的でモテキャラ、ってのは少女漫画ならではの萌えポイント?
かと思ったが、原作もそうなのかな。
教えてエロイ人。
基本的に原作どおりに忠実に漫画化されてる?
自分は漫画→原作の順で読んだが、
非常に忠実だと思った。
原作どおり忠実だよ。
漫画版のみの設定とか無かったと思う。
絵柄のかわいらしさゆえ原作瑠璃より柔らかい印象だなくらい。
625 :
粗筋中将:2007/09/18(火) 18:12:11 ID:???
お話をぶったぎってしまいます。粗筋中将です。
大変お待たせいたしました、ざ・ちぇんじは明日の夜10時から連載開始したいと思います。
予定より遅れてすみません。
毎夜更新予定なので、ぜひとも奮ってご参加ください。
ちぇんじはジャパネスクより連載時期は早いので、レスもその辺お願いいたします。
あと、単行本巻末に掲載雑誌は『エポ』って記載されてるんですが、これでいいんですよね?
この雑誌を知らなくて…
リアル読者だった方いらっしゃるかな…
>>625 ググってみました
「花ゆめEPO」というのがあったらしいですよ。
佐々木倫子氏の「ペパミント・スパイ」も同じ雑誌で連載されていたとか
>>626-627さんありがとうございます。
そうだ、ググるということをすれば良かったんだorz
>>627さんの紹介してくださった個人サイト、ちぇんじの掲載P数なんかも載ってて(・∀・)イイ!ですね
P数と言えばちぇんじは一話のP数が多いので、ジャパみたいなセリフ再現がほぼ出来ないです。
してたらレス数がとんでもないことに…
なので、皆さんちぇんじの漫画を思い出してセリフの脳内補完よろしくお願いします…
>>625 わー、楽しみにしてます!
…しかし明後日から入院だ、ちくしょうw
レスに参加できないのはかなり寂しいけど
退院後まとめて読ませていただきます。
630 :
粗筋中将:2007/09/19(水) 22:01:18 ID:???
平安時代は花の頃、ここ三条邸では権大納言藤原顕通卿が束の間の平和を楽しんでおりました…。
それというのもいつもうるさい北の方ふたりがそろいもそろっていらっしゃらないからなのです。
そこへ女房の近江がドスドスドスと足音をあらげ、得意の「大変どすえ」と叫びやってきました。
なんと綺羅の若君が弾正伊宮の若君と決闘なさると言うのです―――
ざ・ちぇんじ! 〜新釈とりかえばや物語〜
三条邸の西の対屋では、綺羅君が乳姉妹の小百合の見守る中、弓の稽古をしておりました。
そこへ、おもうさまであられる権大納言さまが血相を変えてやって来、女房の近江の話を確認します。
すると、綺羅君は笑い、小百合にちょっかいを出したニキビ面の弾正伊宮相手に明後日、矢を射かけ合う約束をしたことを話します。
けれど権大納言どのは父として大反対。なぜなら、綺羅君は 女 の 子 なのですから―――
権大納言どのは、綺羅「君」が産声からして並ではなかったことを思い出します。
姫なのに琴や貝合わせもせず、蹴鞠や小弓に興味を示し、はては笛や漢学まで習い覚え才を見せました。
男の格好をしたがり、それがまたよく似合っているのを見た時は情けないやら呆れるやら、複雑な思いをしたものです。
今東宮さまが女宮であらせられるご時世とはいえ、それは今上帝に男皇子がいらっしゃらないため、綺羅君とは事情が違います。
女の身で悪タレと評判の弾正伊宮の若君との決闘は危ない、と思い留まらせる権中納言さまの横から近江が耳打ちします。
なんと危ないのは弾正伊宮の若君の方で、綺羅君を怖がり出家するとまで言っているとか。
それを聞いた権大納言どのは開いた口が塞がらず、綺羅君にとにかく決闘を中止するよう言い、頭を抱え部屋に戻ったのでした。
そんなこんなで権中納言さまは、自身の結婚について相手が悪かったと振り返ります。
女子は物静かなほうが良いと、源宰相の娘、夢乃さまのもとに通ったのですが、これが妙に迷信深い方でした。
占いはすべて信じる、新興宗教と聞けばすぐに入信する、しまいには神憑かってぶつぶつ言い始める始末です。
そんな妻に嫌気がさし、今度は藤原中納言の娘、政子さまのもとに通い始めました。
これがまた正反対のお方で、物事ははっきり言う、几帳は蹴倒して歩く、火桶を投げつけて夜盗まで捕まえる…
そんな二人の北の方がこの三条帝に移ってからは、互いが互いを牽制し合うもので、権中納言どのの気の安まる時はありません。
ふたりのそれぞれのお子の運命も、生まれ落ちた時から決まっていたのではないだろうか、と思い至ったところで、
もう一つの悩みのタネを思い出しました。
東の対屋、夢乃さまのお子、綺羅姫のことを―――
綺羅姫と、はねっかえりの姫さまが反対だったら、と呟いたのを、帰宅なさった政子さまに聞かれてしまいました。
政子さまにとっては、あのひ弱な姫と逆だったらと言う権大納言どのの言葉は聞き捨てなりません。
政子さまの綺羅さまは弓や蹴鞠も都の若い者の中ではピカ一、声といい姿といい母親から見てもほれぼれしてしまうというのに、
それを夢乃さまの生んだ オ カ マ 息 子 と比べるなど失礼だ、と憤慨し、調度品を蹴り倒しながら去っていきました。
そう、東の対屋に住む綺羅姫こそが 男 の 子 なのでした。
世間では綺羅君(姫)のことを光源氏の再来かと噂しているし、
その綺羅にうりふたつと言われる綺羅姫(若君)はさぞ美しいのだろうとうらやましがっています。
何の因果でふたりの性格が入れ替わってしまったのでしょうか。それを思うと今日も泣けてくる権大納言さまでした。
その頃西の対屋では、綺羅君と小百合が権中納言さまと政子さまの騒ぎを遠巻きに聞いておりました。
すっかり男が身についてしまった綺羅君を複雑な視線で見つめるのがここにもう一人。
綺羅君の乳姉妹の小百合は、子供の頃は同じ年の綺羅君を、女と知った時は寝込むほど男だと信じておりました。
弾正伊宮の若君との決闘がなくなりほっとしている小百合とは裏腹に、
綺羅君は恋だの歌だの浮かれて弓も射れない男は腑甲斐ない、日本男児たるものもっと雄々しくあるべきだと力説します。
そんな綺羅君も、「弟」の綺羅姫がよく貧血で倒れるのを心配しておりました。
夢乃さまの西山行きに同行するくらいなら舌をかみきって死んでやると敢然と抵抗なさった話を小百合から聞き、
ホネのある男になったかと見直し、東の対屋に見舞いに行くことにします。
東の対屋では、綺羅「姫」が綺羅「君」も見惚れるかわゆらしい寝顔を見せていました。
人の気配に気付きがばっと起き上がった綺羅姫は、それが姉であることに安堵します。
今、新興宗教の教祖生誕40周年記念式典に出向いている夢乃さまではないかと思うと胸が苦しくなり倒れてしまったのだそうです。
生まれた時から体の弱かった綺羅姫は、呪われた運命をしょっているのだと悲観的に綺羅君に話します。
綺羅君よりも一日遅く難産でお生まれになった綺羅姫は、産ぶ声すらあげられず乳をふくめばむせて吐き出し、
とても育つまいと思われていたのですが、
夢乃さまが、夢に蓬莱山の仙人さまが現れ、姫としてお育てすればつつがなく成人するとお告げを頂いたと豪語しました。
そのため、綺羅姫はずっと自分のことを女の子だと思っておりました。
しかしある日、庭の外を駆け回る童を羨ましく眺めていると、その童が池に落ちるのを目撃します。
その時、衣を脱いで木に干した童のあられもない姿を見て、姫にもついている「あれ」があることに驚愕しました。
夢乃さまに問い、その時初めて自分が男の子であることを知ったのです。
男の子なのに姫の姿は嫌だと訴えるも、命を救うために姫として育てたのに、男の子に戻れば死んでしまう、
そうなれば母も死んでしまうと夢乃さまや女房達に泣き落とされると、気力も体力も上な迫力におされ、つい失神する毎日なのでありました。
けれど今でも、綺羅姫はやはり男に戻りたいと思っています。
特に、姉君に初めて会った一年前から特にそう願うようになりました。
夢乃さまと政子さまは犬猿の仲のため、同い年の姉弟がいると聞いても会ったことはありませんでした。
それぞれがそれぞれに悪い噂は聞けど、おもうさまの美人だったというおばあさまに似てそっくりだと言うのは確かでした。
お互い会ってみたいと思っており、それが一年前、綺羅君の蹴った鞠が東の対屋に飛んで行ったその時、初対面を成したのです。
綺羅君の顔を見た綺羅姫は、あっと一言漏らしたかと思うと失神してしまいましたが…。
あれ以来、人目を憚って会ったり文のやりとりをしている二人ですが、綺羅姫はやはり思わずにいられません。
男の子として育っていたら、姉さまのようになっていたのか…と。
一方の綺羅君は、男の自分に満足しておりました。
しかし悩みはひとつ、それは周りの友達のように元服して出仕していないこと。
けれどやはり男の子の姿は身軽です。小百合を連れて東の市に行くと綺羅姫の元から帰りました。綺羅姫の憂い顔に気付かないまま…。
さて、花の頃は夏へと移り…
綺羅君は友人の話に激怒しておりました。
それと言うのも先日、長雨の間の主上の無聊をお慰めする若い者の蹴鞠の会で、左近少将が主上を前に友人達を、
綺羅君の名を出して侮辱したと言うのです。
それも、元服前の綺羅君に対し嫌味を言ったというのですから、綺羅君は我慢なりません。
左近少将に中傷されるのはこれが初めてではありませんでした。
3ヶ月前、東の市に行った時、不注意にぶつかられた従者に、やはり元服前の無位の子供だと陰口を言われました。
その者達は、式部卿宮家の御一人子、左近少将の従者だったのです。
その時の屈辱が蘇り、綺羅君は友人の前であるにも関わらず部屋を飛び出し、おもうさまの元へと駆け出しました。
状況の飲み込めないおもうさまを前に、もうこれ以上の屈辱を味わわないために元服させてもらうよう訴えます。
しかしおもうさまは駄目だの一点張り。
それもそのはず、元服、出仕は遊びとは違います。もし綺羅君が女であることがバレてしまえば、主上を謀った罪で死罪もありえるのです。
「死罪」の言葉に、そんな大事になると思わなかった綺羅君は怖気づきます。
しかし、それ以上に左近少将の屈辱が勝りました。
とうとう、元服を許してくれないおもうさまへの反抗で、家出を宣言した綺羅君なのでした。
大見栄きって出てきたものの、北嵯峨にある山荘は暑く、うだる毎日を過ごす綺羅君がおりました。
ロクな供もつけずに2、3年手入れのない山荘に来たことで割りを食っている小百合とも売り言葉に買い言葉で喧嘩をしてしまいます。
そして山荘までも飛び出した綺羅君は、供もつけず一人で、子供の頃よく泳いだ池にやって来ました。
北嵯峨の山荘に行くと宣言して家出したためおもうさまにも心配されず小百合にも憎まれ口を叩かれ、左近少将に八つ当たりをしながら
子供の時のように全裸で泳ぎ回る綺羅君でした。
その時、人の気配と鳥の羽ばたきに気付き、一人で裸で泳いでいることに危険を感じた綺羅君は、急いで池のほとりへ向かいます。
水から上がり、冷えた体を早く衣で纏おうとしているところに、一人の公達が現れたのです!
公達も裸の綺羅君も、一瞬絶句したものの、綺羅君が声を上げたことで我に返った公達は、後ろを向きます。
水音を不審に思っただけで決して不埒な思いで来たわけではないと言い訳をするのですが、綺羅君はそんなことより早く立ち去って欲しいのです。
しかし公達は、去りません。何かやんごとない事情でもあるのではないかと背中越しに聞いてきます。
綺羅君としてはそんな事情はないのですが、やんごとない事情を期待しているようなので、早く立ち去ってもらうために考えます。
そこで出たのが、意に染まぬ結婚を勧められ断ることもままならず、いっそはかなく入水してしまおうと思った、というでまかせです。
「入水」の言葉に公達は驚いて振り向いてしまうような公達でしたが、綺羅君の話に心を痛めたようでした。
何やら「死ぬは易いが生くるは難い、しかし生あるものなればなべて生くるが神の御心」などと諌めてくれているようです。
その時、小百合の声が聞こえ、この場を見られてはまずい、とその公達を追い返そうとします。
哀れと思うなら自分のことは忘れて去ってくれ、と言うと、公達は涙声で哀れに思う、と答えてくれます。肩が震えています。
そして、今日の戒めに、と数珠を後ろ手に渡してくれました。
再び死を思うことがあれば、わたしを思い出し耐えて生きるように、そなたのことは忘れないと言い残し、公達は叢に帰っていきました。
間一髪で小百合がやって来ました。一糸まとわぬ綺羅君を見て驚くどころではありません。
自分が来たからいいものの、と顔を真っ赤にして怒る小百合ですが、都の役人が見慣れぬ男を探していると聞かされたのですから、
心配もわかります。山賊がこのあたりを徘徊しているらしいのです。
しかしそんな小百合の話をよそに、綺羅君は先ほどの公達を思い出していました。
衣も着ず入水するという言葉を素直に信じ、高価な紫水晶の数珠をあっさり手渡す…どこの田舎貴族なのでしょう。
先ほどのことを思い出すと、つい顔が笑ってしまう綺羅君なのでした。
一方数日後の都でのこと。権大納言どのは宮中におりました。
御簾の向こうには、即位されてまだ2年の当今…今上帝があらせられます。
ふとした話のきっかけから、主上が権大納言どのの綺羅君、綺羅姫の元服と裳着の話題になりました。
主上は、14になるふたりの綺羅さまの元服も裳着も執り行われていないことに驚き、たいへん興味を持ちました。
若い者達も噂していることを覚えていたのです。
その評判の子を見てみたいという主上が一言言いました。「出仕させなさい」
突然の話の展開に青ざめる権大納言どのは、綺羅君がまだ無位であることを理由に断ろうとしますが、
主上はあっさり殿上に必要な五位を与えられました。
こうなれば権大納言どのは従わざるを得ません。
綺羅君に、元服を許す旨の文を急遽やり、それを受けた綺羅君は大喜び。
そんなばかなと、ひとり割り切れない不安な小百合なのでしたが…
638 :
相関図中将:2007/09/19(水) 22:14:44 ID:???
藤権
原大
夢 顕納 政
乃 〒 通言 〒 子
綺 綺 小
羅 羅 ----百
姫 君 合
(男) (女)
氷室先生と山内先生は相性いいなあ。
原作読んでないけど面白そう。
女の子に官位てww
「いやあれは男勝りなだけの女の子です」と
早めに知らせる手は無かったのかおとっつぁん。
筋はとりかえばやっぽいのにノリが面白すぎるww
はだかで入水てww
そんなの信じ込むなよ
世間知らず主上、カワユスw
主上が世間知らずなんて描写あったっけ?
とってつけたような言い訳をそのまま信じ込むところw
おもうさまがまるまるコロコロしててカワイイ
綺羅姫(弟)カワユス
おかん達が恐いよー
おもうさま女見る目なさすぎ
おもうさま・権大納言さまに元服を許された綺羅君は、御機嫌も良く北嵯峨の山荘から京の三条邸へと戻って参りました。
その頃夢乃さまの東の対屋では読経の声と煙が、政子さまの西の対屋では荒い足音と女房達に指示を出す声が響き、騒然としておりました。
おもうさまの元へ事情を聞きに行ったところ、それもこれも綺羅君が元服することになったからだと言うのです。
そこで初めて綺羅君は、自分の元服が主上のお声掛かりで決まったとこを知りました。これには綺羅君も驚きです。
おまけに、おもうさまの弟君、右大臣と、父上の関白左大臣どの、天下の左右大臣がその加冠役をめぐって争っているらしいのです。
主上のお声掛かりの元服というだけでも都中の注目のマトなのに、思いがけず世紀の一大イベントへと発展してしまいました。
おまけに夢乃さまは、綺羅君だけが元服できるのは不公平だと、綺羅姫の裳着も行なうよう祈祷しているとのことです。
おもうさまはもうヤケクソです。
綺羅君も、元服が出来て嬉しい反面、以前言われた「死罪」が頭をよぎります。まさかこんな大事になってしまうとは…。
それに、裳着の話まで飛び出した弟の綺羅姫も心配です。
小百合の集めた情報によると、2日前から夢乃さまが、裳着の式が決まるための不寝の読経会にお入りになったそうです。
昨夜は焚きすぎた香を火事と間違え、京職や検非違使の役人が駆けつけたほどでした。
当の綺羅姫は、裳着の話を聞いて人事不省に陥ったままだということです。
綺羅君は、今は東北の対屋で寝んでいる弟の綺羅姫を見舞うことにします。
東北の対屋に綺羅君が向かうと、何やら裳着、裳着、ぶつぶつと声が聞こえます。
かと思えば、かすかな気配を察し、がばっと起き上がる綺羅姫。気配の主が姉上であることを知ると、ホッとするのも束の間、
元服の決まった綺羅君に、皮肉たっぷりに祝いを述べます。
好きで元服する綺羅君と違い、綺羅姫は男の身で裳着が決まるかもしれないのに、落ち着いてなどいられないのです。
興奮する綺羅姫に、主上の御命令もないのに保身第一主義のおもうさまが折れるわけない、と綺羅君が安心させているその時でした。
女房が足音荒く、おもうさま権大納言どのが綺羅姫の裳着をお決めになったことを伝えに来たのです。
これには綺羅姫も失神寸前。
なんでも、西の綺羅君の加冠役を争った関白さまが右大臣さまにクジで負け、それはそれは悔しがり、
せめてもうひとりの孫の腰結い役をやらせてくだされ、このままでは引退して出家することもできないと主上に泣きついたところ、
ならば姫の裳着も一緒にやるがよいと、 主 上 の お指図で決まったということでした。
それを聞いた綺羅姫は顔を真っ赤にして倒れ、どんどん話が大きくなることに、無事に元服を終えられるのかと不安を覚える綺羅君なのでありました―――。
というわけで、今日はお式の当日です。
元服の加冠役、裳着の腰結い役といえば後々の後見を約束するようなもの。
それを関白さま右大臣さまが自ら名乗りをあげておやりになるというのですから、綺羅姫と綺羅君の将来は並のものではありません。
なかなか元服をおさせにならなかったのはこうして主上の気をひくためだった、
関白さまはお式の後は引退なさるそうで、次期関白は権大納言さまだ、
若君も五位の侍従と決まっており、姫さまも裳着の前から主上の覚えもめでたく都一の后がねだと宮廷人の噂は止まりません。
聞いているだけだととてもめでたい話ではありますが、綺羅君と綺羅姫の事情を知る小百合は素直に喜べないのでありました。
いよいよ元服の儀の始まりです。
その場にいる者たちは、初めて目にする綺羅君の姿に、噂通り美しい若君だと、知らずどよめいています。
その中にひとり、我が姫の婿がねにぴったりだ、と心躍らせる人もいるようです。
そんな周囲の思惑はいざ知らず、綺羅君は、みなの値踏みするような視線だけが気になります。
しかし、その中にひと際イミあり気で物問いたげな視線があることに気付き、ぎくりとします。
まさか、あの北嵯峨の―――…!?
元服の準備が忙しくすっかり失念していましたが、家出先の北嵯峨で出会った、口からでまかせをコロッと信じたあの男…。
品の良い直衣を着ていたり、紫水晶の高価な数珠をくれたり、トロく見えたのも、育ちが良いせいかもしれない。
あの田舎貴族がここにいるとしたら?そうでなくても出仕して宮中でバッタリ会ったら―――。
あの時の女だ、とあの男が言えばすぐに真相がバレてしまいます。
そうなれば、主上を欺いた罪で「死罪」…。
元服の儀も終わり、祝宴が始まろうというのに、そのことを思っただけで綺羅君は気分が沈みます。
暗い顔の綺羅君に、盛大な式だったから仕方がないと小百合は慰め、綺羅姫の裳着の様子を伝えます。
何やら、式の途中で何度も倒れそうになり、左右を女房方にささえられての裳着だったとか。
近頃には珍しい奥ゆかしい姫君だともっぱらの評判になったそうです。
その評判を複雑な気持ちで聞く綺羅君のもとへ、おもうさまの権大納言どのが訪れました。
綺羅君は、おもうさまに、式の際に感じた視線の主について聞きだします。庭のあたりに、背が高く顔のいい男がいなかったかと。
するとおもうさまは記憶を手繰り寄せ、それは左近少将だったと答えます。
綺羅君が出仕するとなると良いライバルになると世間の噂、あちらもその気らしく、式の間中睨みつけていたのだとか。
左近少将といえば、綺羅君を“元服前の半人前の坊や”とバカにした憎たらしい男です。
お互いライバル視している左近少将が、もしあの北嵯峨の男だったら、身の破滅です。
元服したのはいいものの、思わぬ悩みの種が出来てしまいました。
明日の初出仕を控え、無事に済むのか、うつうつとしてしまう綺羅君でした。
翌日、綺羅君の宮廷初出仕の時がやってきました。
主上の特別要請で出仕することになり、普通ならばすぐにはお目にかかることの出来ない主上に早くもお会いすることとなりました。
加冠役の右大臣どのの一の姫・弘徽殿の女御に挨拶に行く途中、散策中の主上とバッタリ会うという「シナリオ」があるのです。
綺羅君としては、いつあの北嵯峨の男にバッタリ会うのかと気が気ではない、などと思っているところでした。
シナリオ通り、散策中の主上が目の前に現れたのです。
とは言えお声が掛かると、すぐに頭を下げて主上のお言葉を待ちます。
目の前にいる主上に思わず顔が赤くなり緊張してしまう綺羅君ですが、主上から薫る梅花香と思われる香にハッとします。
どこかで嗅いだ…
まさか、と思い、もう一度お声が掛かるのを待ちます。そうすれば、違うということがわかるはず…。
しかし、次の一声で綺羅君の疑惑が確信に変わります。
右大臣どのにせかされ、意を決して綺羅君は顔を上げました。
そこには、驚きで扇を取り落とす、北嵯峨の男がいたのでした―――
時は戻り数日前、宮中の何もかもに嫌気がさして嵯峨野へ抜け出した主上の姿がありました。
嵯峨野には、幼い頃に主上をお育てになった祖母の女院がいらしたのですが、女院は、主上の御忍びの理由がわかっておりました。
出家された身の上とはいえ、情報化時代のこの世にリアルタイムで処理した情報網は完璧だと自負しております。
主上の気鬱の原因は、日ごろから争いの耐えない3人の女御さまたちの事でした。
最初に出家すると言い出したのは麗景殿の女御さま。東宮時代からの仲で、思慮も分別もある方だけに慌てて思い留まらせたのです。
そもそも、お顔がよろしく才がある梅壺の女御さまが、主上より5つ年上の麗景殿さまや、
十人並みの容姿の弘徽殿の女御さまをないがしろにしておられるのが原因でした。
さりげなく梅壺の女御さまに麗景殿さまのことを注意なさると、ならばわたくしが尼になりますと逆上して騒ぎ出し、
そこへいつもはおとなしい弘徽殿の女御さまが、良い坊さんを紹介しましょかとイヤミの応酬。
それに怒った梅壺さまが、弘徽殿さまの呪詛を怪僧に依頼したのしないのと、女房たちまでを巻き込んでの大騒動でした。
皇子の一人も孕まずとんでもない女御たちだと、祖母の女院も主上に同情気味です。
姫宮はいらっしゃるし、死産とはいえ皇子も生まれたゆえ、主上に子種がないわけではないのに、
そのため今東宮は、東宮の器ではない妹宮・久宮さまのことも気掛かりで、「つくづく女運がお悪い」と女院も辛辣です。
しかし、この度のお忍びを面白がっているのも女院でありました。
源氏物語の光君のように、素敵な紫の上に出会える最初で最後のチャンスかもしれない、
その女院の言葉を真に受けたわけではありませんが、供の者がやたら早く宮中に帰れとうるさいので、からかい半分に館を抜け出したのです。
そこで、本当に北嵯峨の乙女に出会ったのでした。
そのことを思い出すとつい顔が赤らんでしまいます。
よもやそんな出会いがあろうとは思ってもいまかった主上ですが、水音に導かれるように池畔へ向かうと、衣もつけずにかの人がいたのでした。
息も絶え絶えふるえていたことや、途切れがちに身の上を語るのも哀れが深く思えました。
“哀れと思し召しならば…”と言って泣き伏した姿も可憐で、
結婚を嫌い入水をする程の人なのだから、かよわそうに見えても芯は強く激しい姫に違いない、といたく感動したのでした。
後に館に戻り女院から、2、3日前から権大納言の山荘に誰かが来ているという話を聞きだします。
権大納言には二人の子供がいます。その姫君に違いないと確信すると居ても立ってもいられず都へ戻りました。
若君の話も聞いていたので、その若君をきっかけにして、入内の話を勧めてもよいではないかと心が踊ります。
都に戻り、宮廷人を前に権大納言の若君について尋ねました。
宮廷人の評判はすこぶるよく、その若君にそっくりだと言われている姫君を思って権大納言に探りを入れる者もいると言うが、
それに対し権大納言はすごい見幕で、あの姫は尼にするのだ、結婚など考えたこともないと言ったというではありませんか。
これはよほど高い身分の方を婿がねにと考えての牽制かと宮廷人の間では囁かれているようですが、
高い身分とは、自分のことではないかと主上は思わず口元が緩んでしまいます。
しかるべき家柄の貴族ならば、まして次の左大臣とも言われている権大納言の姫ならば后にも立てる身分です。
しかしなぜ権大納言は一度も姫の話をしなかったのでしょうか。
ひょっとしてそれは、入内を勧められて嫌がった姫の入水に繋がるのでは、と主上はひとり愕然とします。
それで権大納言は姫の入内をあきらめてしまったのか…
自らが迂闊に入内を勧めればあの姫のこと、再び命を断とうとするやもしれぬと考えると八方塞がりになってしまい、
頭を抱える主上でした。
そんなおりのことでした、主上の御前で右大臣らが世間話を始めたのです。
気分が晴れない主上は、その話をイヤミたっぷりに返しますが、取り繕おうとした右大臣の口から綺羅の名が出たのをきっかけに、
綺羅君の出仕を決めてしまったのは、
うりふたつとまではいかなくても、北嵯峨の乙女の面影くらいはあるかもしれないと目論んだこともありました。
しかし、今日宮中で見た綺羅君を見て我が目を疑います。
そして、北嵯峨で出会った乙女は、綺羅君の妹君だったのだ、と確信するに至ったのです―――。
一方、御所を退出し三条邸へと帰る綺羅君は真っ青でした。
あの北嵯峨の田舎貴族は、主上その人だったのです。
と、ゆーわけで、
綺羅の侍従は、帝が弟の姫君と自分を都合よく取り間違えているとは知らず、暗澹たる気持ちで帰途に着いたのでした。
そして、時は流れ・・・
656 :
相関図中将:2007/09/20(木) 22:14:36 ID:???
左関
大白
臣
│
┌──┴───┐
藤権 右
原大 大
夢 顕納 政 臣
乃〒通言〒 子 ├―┬─┐
綺 綺 小 三 二 一⌒ 主 麗
羅 羅----百 の の の弘= =景
姫 君 合 姫 姫 姫徽 上 殿
(男) (女) 殿 女
女 ‖ 御
御 梅
壺
女
御
アッーな展開キボヌ
本人の預り知らぬところで
物凄い策士になってるおもうさんワロスw
なんか同じ出来事を経験してるはずなのに、
綺羅と主上で全然違う話になってるのが笑えるw
主上ーwww
うらやましい程の妄想力だ!!!
北嵯峨の乙女とのラブロマンスは脳内でだけ華麗に展開されるんだな
あれだけの脳内変換力があると人生楽しそうだなw
主上いい人だよな〜w
綺羅姫カワイソス
主上カワユス
展開早いよなぁ…
時間は結構経ってるっぽいけど
侍従の君として初めて綺羅が出仕してから早2年、
女の身とバレる事もなく、綺羅君は三位中将、父上の権大納言様は左大臣へと出世しておりました。
そして、弟の綺羅姫も美しく成長し、今は”和漢朗詠集”などをたしなんでいます。
そこに、直衣姿のりりしい姿の綺羅君がやって来ました。
今日は物忌みで出仕はお休みのようです。
2年も宮中に出入りすると、宮廷の裏側を覗いてしまった綺羅君はこれでなかなか大変だと知りました。
コソコソと噂が飛び交うたびに、女だということがバレたのではないかという心配もしなければなりません。
しかし、出仕が嫌なわけではないのです。なんていったって、主上が良い方なのです。
北嵯峨で会った時はそのトロさにどこの田舎貴族かなんて思ったものでしたが、内裏でお見申し上げると立派に見えるから不思議なものです。
それに、主上は綺羅君を信頼し、お側近くに置いて下さっているのです。
女だとバレたら大変だと言いつつ嬉しそうに宮廷での様子を話す綺羅君を、綺羅姫は苦々しい思いで聞いていました。
綺羅君と比べ綺羅姫は、好きでもない女の格好をさせられしたくもない裳着をやらされ、今や殿方からの文も耐えない日々です。
一生この姿のままでいろというのか、そう綺羅君に詰め寄りそのまま失神してしまいました。
女房たちが慌てて駆け寄る中、綺羅君は部屋の片隅にある文を見つけます。
それは綺羅姫宛ての、宰相中将からの恋文でした。綺羅姫の不機嫌の原因でしょうか。男から恋文をもらって嬉しいはずはありません。
宰相中将はまだ諦めてなかったのか、と文を見て思う綺羅君でした。
その頃内裏では、物忌みで休みの綺羅君がいないと火が消えたようだと騒いでおりました。
主上のお声掛かりで元服出仕をしたとはいえそれを鼻にかける様子もなく万事控え目で身持ちが堅いところが憎らしくもある綺羅君は、
宰相中将と宮中を二分する人気者なのでありました。
綺羅君と違って浮気な遊び人と噂の宰相中将とは、かの左近少将であります。
元服前から有名人だった綺羅にライバル意識を燃やし、元服もしてない半人前のボーヤと表面上はバカにしていたのですが、
出仕した綺羅を見てびっくり、思っていた人物像とは違い、
その綺羅そっくりといわれる綺羅姫を射止めるためにコロッと綺羅君に歩み寄る変わり身の早さにみな呆れるほどでした。
今やふたりは主上も認める親友なのです。
しかしそのお目当ての綺羅姫に対しては、左大臣さまのガードが硬いことも有名でした。
宰相中将のみならず綺羅姫の噂を頼りに懸命に文を送る貴族も多かったが、
姫は人並みはずれた恥ずかしがりやで結婚なんてムリだ、尼にさせる、あきらめてもらおうの一点張り。
というわけで求婚者はひとり減りふたり減り…2年後の現在残っているのは宰相中将ただひとりという状況です。
その宰相中将の文も二百通を越え、その情熱に主上も思わず感心してしまいます。
「親友」の綺羅君にも執り成しを頼んだものの、よほど大切な妹姫なのか一顧だにもされなかったので宰相中将は面白くありません。
綺羅君の妹思いは有名でした。
主上も、綺羅君が出仕して間もなくのこと、妹姫のことが忘れられず、「北嵯峨で見た者がいるらしい」と何気なく訊ねたのですが、
その途端に綺羅君は前のめりに倒れてしまったのです。
すぐに意識を取り戻した綺羅君ですが、「北嵯峨」の言葉に、「妹の入水自殺のことを思い出し」と、青い顔になりました。
やはり意に染まぬ結婚を嫌い入水自殺を図った綺羅姫は、今は生きる気力を取り戻し念仏三昧の日々を送っているといいます。
それを聞いた主上は、三条邸から聞こえるという読経はきっと綺羅姫のもので、手渡した紫水晶の数珠もムダではなかったと思います。
妹姫の話をする綺羅君があまりに思いつめた様子だったので、以来主上は綺羅姫の話題を出せずにいます。
しかし、綺羅君を見ると主上は、その姫のことさえ忘れてしまえるのですから不思議な心持でした。
綺羅君の物怖じしない表情や軽やかな笑い声が、ふとあの時の乙女は綺羅君ではなかったかとも思わせるのです。
「では、本命は綺羅姫ではなく綺羅君なのでは?」
そんな言葉にぎくりとしてしまう主上でしたが、どうやらこれは今御前に召している宰相中将に向けられた言葉のようでした。
貴族達が昨今流行の“奇しの恋”ではと疑いたくなるほど仲の良い宰相中将と綺羅中将をからかってのことでしたが、
主上もひとり、綺羅君が北嵯峨の乙女に似ているから好ましく思っただけだと顔を赤くして心の中で否定しています。
その時、その場に居た権中将が、主上と宰相中将に取っては寝耳に水、綺羅君の結婚話が浮上していることを口にしました。
どうやら正式に決まったわけではなく右大臣がぜひともこの話を進めたがっている段階のようなのですが、
結婚相手と言われているのは右大臣の三の姫、一の姫は弘徽殿の女御です。
二の姫は権中将を婿に迎えているから単なる噂話ではないと主上は確信しています。
現実味を帯びたこの話はきっと右大臣から左大臣家へその意向が届いているはずなのに、ならば何故綺羅君は自分に黙っているのだ、
“奇しの恋”などではなく、結婚の話が出ているのにその素振りも見せず飄々としている綺羅君が憎らしい、
と自らに言い聞かせるように不機嫌な表情をする主上なのでした。
そんなこととは露知らず、何日かぶりに綺羅君は参内しました。
実は今回の物忌みのお休みは月のもののため、毎月理由をつけては数日休みを取っているのでした。
久々に内裏に姿を現した綺羅君に殿上人はイミあり気な笑顔を向けてきます。
「ま、頑張れよ」と背中を叩いたり「そっちの話が合うようになる」など言ったり、女房達はヒソヒソと騒いだり…
親友の宰相中将に至っては、何も言わず背中を向けて去って行ってしまいました。
これには綺羅君もご立腹。
ただでさえ言いたいことをはっきり言わない今時の男に腹を立てているのに、さらに苛立ちが増してしまいます。
おまけに、今までなら綺羅君が出仕するとすぐに主上のお召しがあるのに、ここ数日はなんの音さたもありません。
わけがわからず、何をしたと言うのだと腹立ちついでに物忌みと称したズル休みをした日のことでした。
大変だ、一大事だと、おもうさまが目を剥かんばかりに綺羅君の元へやって来たのです。
それもこれも、右大臣家の三の姫と、綺羅君の結婚話が、ついにおもうさまの耳に入ったのです。
右大臣さまは、綺羅君の元服の時から三の姫の婿がねにと目をつけておいででした。
もちろんおもうさまはとんでもないと無視していたのですが、とうとう、「左大臣もこの結婚を了承した」と都中に触れ回る強硬手段に出たのです。
知らぬは当人ばかりなり、久々に出仕したおもうさまは主上の御前であやうくひっくり返るところでした。
というのも、主上ご自身からこの噂をお聞きしたのです。
しかも、綺羅君の結婚ともなれば内密に済ませて良いものではないだろう、ときついお叱りつきだったと言います。
おもうさまは綺羅君に、今からでも間に合うから出家をしろと涙ながらに訴えます。
そして、出家を、出家を、家を――ケッケケーッケケケと笑ったかと思うと失神してしまいました。
綺羅君は、最近の右大臣の馴れ馴れしい態度を思い出し合点がいきます。
人のいないスキに根も葉もない噂をバラまいて主上の耳にまで入れるそのやり方が許せず、
参内して噂の実態を確かめ、今後の方法を考えることを、すっかり取り乱しているおもうさまに強く宣言します。
というわけで、次の日さっそく参内した綺羅の中将でありましたが、
御前の主上は思った以上にご機嫌が悪く、あの噂を本気にしていらっしゃるからだと綺羅君は困り果てます。
そんな、いつもと違って落ち着かない様子の綺羅君を見た主上は、物忌みの間は、恋しい姫に文でも書いていたのかとカマをかけます。
それを聞いた綺羅君は、あの噂を信じているのだと焦り、そのうろたえをみた主上は、結婚の噂は本当だったのだとショックを受けます。
綺羅君本人の口から聞くまでは信じまいと思ってはいたのですが――。
そこで主上は綺羅君を試すかのようにこう言います。
実は、右大臣家の三の姫を女御として迎え入れたいと思っていた―――
突然の話に綺羅君は驚きを隠せません。
主上のもとには三人の女御さま、しかもその一人は三の姫と同腹の姉君がいらっしゃるのですから。
しかし、一向に意に介さない主上のスケベな答えに綺羅君は怒りで震えます。
北嵯峨では偉そうなことを言っておいて姉妹で侍らすなど、結局はただの好色漢ではないか、
三の姫に美人の噂があるわけでもなし、弘徽殿女御の妹ならばどうせ十人並みなのに、それをなんでまた…
そう思い震えている綺羅君が、主上の目には本気で三の姫を心配しているようにも見えます。
そこで、三の姫の入内話は、男皇子のないためでもあるのだと主上は言います。
しかしこれは綺羅君には逆効果でした。男皇子を産むために三の姫を入内させるのか…女は子供を産む道具ではない、と。
すっかり主上を見損なってしまった綺羅君は、毅然と言い放ちました。
「わたくしと三の姫との縁談は以前から双方合意、すでに互いの文も交わしている次第なのです…!」
かくして三の姫の入内話は阻止できました。
自分は主上の恋敵だろうから、もう参内しても声はかからないだろうと思うと寂しいものを感じつつ、主上の御前を後にしました。
主上は主上で、綺羅君があそこまで三の姫を思っていたことに少なからずショックを受けているようです。
三の姫の入内話は、とにかく綺羅君の結婚を阻止したい一心でした。
しかし、元来出世欲のない綺羅君のこと、三の姫の入内を無理矢理押し進めたら出仕しなくなるどころか出家しかねない目を主上に向けていました。
そうなれば、今までのように話すことすら望めず、まして恨みも買ったままになってしまいます。そうなればつらいのは目に見えたこと。
だからこそ三の姫から身を引いたのでありますが…
これでは本当に“奇しの恋”だと、つい顔を赤らめてしまう主上でした。
「三の姫と結婚することになっちゃった」
そうあっけらかんと話す綺羅君に、おもうさまは発狂寸前です。かろうじて、なぜそんなことになったのか問い質すと「成り行きです」。
それ以上は何も言わず埒が明かないと踏んだおもうさまは、宮中に出てその真相を確かめます。
しかし、内裏ではお祝いムード一色。主上におかれても、これだけの騒ぎになってしまったのだから結婚は早くした方が良いと仰せられる次第です。
こうなってはもう揉み消すことも出来ません。
おもうさまは出家しろの一点張りですが、綺羅君は綺羅君で、結婚すれば済む話だと言って聞きません。
子供はどうするのかと聞くおもうさまに、女同士だから諦めてもらうしかない、と顔を赤らめて綺羅君は答えます。
おもうさまは、綺羅君が子供を作る「夜のほう」も知っていることに驚きを隠せません。
けれど綺羅君も、一緒に寝ることくらいは知っています。
綺羅君が何もかも承知ならば、おもうさまも腹をくくるしかありません。結婚しなさいと命じます。
その代わり、女と知れたら流刑か死罪。その類は右大臣家にも及び、三の姫は女を婿にした笑い者になることを肝に銘じさせました。
綺羅君の結婚話を聞いた綺羅姫も驚きを隠せません。
夢乃さままで綺羅姫の婿取りを決めてくるのではないかと心配する一方、綺羅君のことも心配です。
何よりやはり男女の間のあれこれです。
しかし綺羅君はそのへんは心配ないと安心させます。
綺羅姫はむしろ、わかっているのに結婚するその無謀さに驚きです。
綺羅君も三の姫には気の毒だと思っていました。しかし、子供が出来ない分、うんと大切にすることを誓います。
それにしても先ほどからおもうさまといい綺羅姫といい、綺羅君だって、結婚した男女がひとつふとんに寝れば、
しかるべき時期に御ややができることくらい知っています。出雲の神様や如来さまが、相談の上授けてくださるのですから。
などと、大きな勘違いをしている綺羅君ですが、それはまわりの者も同じこと。
つつがなく結婚式も執り行なわれることとなったのでありました。
┌───┐
藤左 右
原大 大
夢 顕臣 政 臣
乃〒 通 〒子 ├―┬─┐
綺 綺 三 二 弘 主 麗
羅 羅 = の の 徽= = 景
姫 君 姫 姫 殿 上 殿
(男) (女) 女 女
‖ 御 ‖ 御
権 梅
中 壺
将 女
御
この綺羅の天然っぷりが、ある意味ウラヤマシイww
三の姫のとこ通う時だけ弟と入れ替わるとか
とオモタけど
綺羅君(姉)が結婚の意味理解してないんだからダメか
すごい勘違い合戦だな
しかし結婚したら一瞬でバレるんじゃね?
「あなたが○○歳になるまでは…」とかなんとか
言ってたら誤魔化せるんじゃないか?
誤魔化す必要性を感じてないのが問題だが
三の姫だって女房や乳母からイロイロ聞いているのは。
手を出さずにばれるのは時間の問題かと思われ。
しかし綺羅君といえどももちろん女ですので結婚といっても体面上のこと、ネンネの三の姫を今はうまくごまかしておりますが、
女とバレぬよう気を遣う綺羅君の苦労もまた大変なようでして…
結婚して早3か月という今日も、綺羅君が三の姫の実家である右大臣邸には少し顔を出しただけで左大臣家に帰ることになると知っただけで
三の姫にポロポロと泣かれてしまうくらいです。
けれど、綺羅君といえど今日ばかりは実家である左大臣邸に戻らねばなりません。
なんといっても三位中将ともあろう身で、生理痛に悩まされているのですから…。
それというのも、右大臣家で過ごすことが多くなった分、今までは宮中だけでよかった気遣いも増え、精神的負担が今は拷問のような毎日です。
けれど、綺羅君は三の姫が嫌いではありませんでした。
人形遊びに興じたり、変形折りした微笑ましい文が届いたりなど幼い面もありますが、妹のようにかわいく思っているのです。
それもこれも、すっかり綺羅君を男君として信頼なさっているから…
しかしそれが綺羅君にはとても心苦しくもありました。理由はどうあれ、三の姫を騙していることに変わりはありません。
だからこそ、出来るだけのことはしてあげたいと心から思っています。
けれど、世間の目が二人の仲の良さを認めている以上、右大臣家の方々にも、女だと疑われる心配はありません。
世間の目といえば、綺羅君には今それも結構な重荷でした。
結婚してからは右大臣家での気疲れからか、宮中でもぼーっとすることが多くなりました。
タメ息をついたりあくびをしたり、ついつい「疲れた」などと口にすると、
「毎日頑張るな、体壊すなよ」とか「若いからといってやりすぎはいけない、初めほどほど中どんどんだ」などと同僚に言われます。
そのたび「まだ未熟者で…」と言葉を濁しているのですが、ほんとはさっぱりイミがわからない綺羅君でした。
こういった思わせぶりな話し方が綺羅君は一番お嫌いなのですが、はっきり言われる方が恥ずかしいなどと知る由もありません。
精神衛生上よくないことだらけの毎日ですが、特に あ れ が一番こたえるのでした…。
翌日、まだ本調子ではない綺羅君に、参内早々主上からのお声掛かりがありました。
あれが始まるのです。ストレス原因No.1が…。
御簾の向こうにあらせられる主上は、不機嫌なようでした。
綺羅君の体調不良を労いつつも、このところ い ろ い ろ と忙しそうだから仕方ない、と付け足します。
そう、綺羅君のストレスの原因は、主上による新婚生活のあてこすりでした。
毎日毎日こうでした。周りには気を遣い主上にはいびられ…綺羅君はまた胃のあたりが重くなってくるのを感じます。
いつも、結婚してから公務が疎かになっている、公私の区別はつけるように、と新婚生活への皮肉を嫌味たっぷりに言ったあと、
主上と綺羅君の間に流れる沈黙に耐えられず、主上から退がるよういいつけるのでした。
この毎度の展開には主上も後悔しています。
なぜあんなことを言ってしまうのか、これでは綺羅君の足がますます内裏から遠退いてしまうといつも反省しきりです。
綺羅君が変わってしまったのが悪い、自分は悪くないと思いたいようですが…。
重い空気で主上の前を退がった綺羅君は、気分直しに麗景殿女御さまのところへ遊びに行くことを思いつきます。
麗景殿女御さまは、主上が東宮でいらした時から添っていらっしゃった方で、お年も三十路近く、
権力争いからは退いていらっしゃるので、わりと気楽に遊びに行けるのでした。
麗景殿女御さまは綺羅君を快く迎えてくれました。今ちょうど綺羅君の話をしていたところだ、と。
すると、几帳の向こうから宰相中将が顔を出しました。
ここ数日主上の御機嫌が悪かったのは綺羅君が出仕していなからだと話をしていたのだそうです。
綺羅君を御前に召して苛められるのも、主上が三の姫に嫉妬しているからだというのです。
口の悪い者達は“奇しの恋”だと噂しているようですが、それはこちらにいる美しい女御さまに失礼だと綺羅君が窘めると、一気に場は和みます。
そんななごやかな雰囲気を宰相中将は嬉しく思っていました。
綺羅君の結婚の噂を聞いて初めは、親友だと思っていた自分にまで黙っていたことに腹を立てていたりもしましたが、
やはり綺羅君は綺羅君だと思うと思わず顔も綻んでくるのです。
ところで宰相中将は綺羅姫に文を出していました。麗景殿女御さまが、未だご執心なのかと伺います。
宰相中将は、もちろんだと堂々と答えます。いろいろと浮名を流してはいるが、本命こそは綺羅姫。
一向に文を取り付けてくれない綺羅君に痺れを切らし、いっそ忍び込んで既成事実を作ってしまおうかとまで口にしたのです。
これは綺羅君も聞き捨てなりません。
思わず宰相中将の胸倉を掴み、そんなことをすれば絶交する、と鬼の形相です。
宰相中将はそんな綺羅君の見幕に押され、もちろん冗談だと言いますが、相手もプレイボーイの中将なので綺羅君も気が気ではありません。
宰相中将にしてみれば、綺羅姫に夜這いをかけてモノにするのは簡単です。
けれど、この勢いでは本当に絶交されかねません。それは避けたい中将でした。
そんな二人のやり取りを、いいコンビだと微笑ましく眺める麗景殿女御さまでした。
その時、梅壺女御さまが御機嫌伺いに麗景殿女御さまのもとへやって参りました。
綺羅君と宰相中将がいるというのでやって来たようです。
綺羅君は正直なところ、たいした美人でもないのに気取っている梅壺女御さまがお好きではありません。宰相中将も同じ気持ちなようです。
しかし梅壺女御さまは、綺羅君や中将が自分のもとへ来ないのは遠慮しているからだと思っています。
忙しさに紛れて伺えない、という綺羅君の言葉に、梅壺女御さまは、ではなぜ麗景殿にはよくいらしているのかとお怒りです。
そこを宰相中将が、新婚なのだし、努めに家庭にと忙しくなりこれからはこちらへも度々参れないことを申しあげに来たと上手く取り成してくれます。
しかし、それを聞いた梅壺女御さまは怒りが収まらないようです。
政略結婚だと思っていた綺羅君と三の姫、噂では三の姫はとても子供っぽい人だと聞いているのに、綺羅君はそこが可愛いと言います。
すべての公達が、梅壺女御さまに声をかけられただけで幸福感に包まれるというのに、綺羅中将ともあろう者が、乳くさいガキの方が良いと言うのです。
梅壺女御さまはすっかり御機嫌の悪さが表情に出てしまいました。
それを悟った宰相中将が、綺羅君には美しい妹姫がいるので、かえって子供っぽい方に惹かれるのだろうとフォローしますが、
家の奥深くでいつも題目を唱えている変わり者の姫のことか、と言った梅壺女御さまの言葉は綺羅君には不愉快でした。
妹姫のことを悪く言われ、こんな女が主上の寵愛を受けているのかと思うとついカッとなり、その後は売り言葉に買い言葉、
思い上がった態度は見苦しいと言われ、側に良い手本がいる、と笑顔で返した綺羅君に梅壺女御さまは怒り心頭、
後宮一の勢力を誇る女御さまは足音荒く麗景殿を去っていきました。
梅壺女御さまは怒りをそのまま主上にぶつけました。
綺羅君は、新妻がかわいいのでこれからは後宮にも滅多に顔を出さないと言いふらしている、
三の姫のことを考えると何も手に付かないなどと言っており、主上一筋にお仕えするのが誉れの殿上人が妻にうつつを抜かすなど、
主上を蔑ろにしているのも当然だ、とわめきちらします。
主上は、梅壺女御さまの訴えに心当たりがありました。
以前は宮廷生活を楽しんでいた綺羅君が、最近は出仕してもぼーっとしていることが多いことが思い出されたのです。
それが恋しい妻を思ってのことかとつい嫌味など言ってしまうのを反省していたのに、これからは滅多に後宮に来ないということは、
三の姫のために主上にさえ背を向けようとしているのです。
そうするうちに主上の表情は怒りですっかり変わってしまいました。梅壺女御さまも気圧されてしまうほどです。
いつも主上は話半分にしか聞いてくださらないので大袈裟に言ったところもある女御さまは、多少綺羅君のフォローをしますが、
主上はもう信じきっています。
梅壺女御さまのおっしゃったことを、よく考えておこうと言い残し、去っていきました。
主上がまさか全部本気にするなど思わなかった梅壺女御さまは青ざめてしまいました。
謹慎処分にでもなればと思ったくらいで、本当に太宰府に飛ばされたりしたら、宮中の二大勢力を敵にすことになってしまいます。
しかし、もう主上の怒りは止められません。
主上は、綺羅君が三の姫のことなど考えられぬようにしてやると強く誓うのでした―――。
その頃右大臣邸では、三の姫が、今日はこちらにやって来るという綺羅君からの文を何度も読み返しておりました。
そこに、お付きの女房の美濃がやって来て、いとしい人が待ち遠しい気持ちはよくわかる、と頬を赤らめ言います。
最近美濃にも「いい人」が出来たのですが、三の姫は、その話を聞いて不思議に思うことがありました。
美濃のいい人は、逞しくてがっしりしていると言うのです。
三の姫のいい人、綺羅君は、ほっそりしていて絵巻物に出てくる人のようなのに…
美濃は変な人が好きなのね、と思ったことを口にすると、美濃も、自分でも不思議だと答えつつも嬉しそうです。
強引に“い”をされたらコロッとまいってしまったことまで話してしまいました。
ここでも三の姫はわからないことがありました。「“い”ってなあに?」
しかし美濃は、姫さまは“い”はおろか“は”までしっかりおやりのくせに、と背中を叩くばかりです。
やはりわからない三の姫ですが、美濃は“いろは”の“い”だとしか言いません。
その代わり、今夜綺羅君にお聞きするといい、とアドバイスをくれました。きっと実地で教えてくれるでしょう、と。
わかったわ、とまじめにうなずく三の姫に、少し美濃は驚いたようです。
綺羅君がやって来ました。
三の姫は、女房達の控えるなか、単刀直入に尋ねます。「“いろは”の“い”ってなんですの?」
綺羅君は、手習いの時の“いろは”ではないのかと答えます。
美濃は“い”をされてコロッときたと言っていたと言う三の姫。きっと綺羅君に聞けば実地で教えて下さると…。
控えていた女房達は顔を真っ赤にしながらコソコソきゃあきゃあと話し出しました。
まったく話が読めない綺羅君は、そんな女房達を見て、同僚達を思い浮かべます。
わけのわからないことでからかわないでほしいと思いつつ、三の姫には、そのうちいろいろきちんと調べて教えてあげますと答えておきました。
それを聞いた女房達は、またどよめき、きっと実地よ実地、などと興奮して鼻血モノです。
さても“いろは”のわからぬ綺羅君、
家では女房達にからかわれながら姫君の子守りをし、宮中では梅壺女御を怒らせさらに帝のお怒りまで買ってしまった様子。
成り行きとはいえ結婚なぞしたばかりに、毎日苦労の絶えない綺羅君なのでありました。
685 :
相関図中将:2007/09/23(日) 22:16:52 ID:???
┌────┐
藤左 右
原大 大
夢 顕臣 政 臣
乃 〒 通 〒 子 ├―┬─┐
綺 綺 三 二 弘 主 麗
羅 羅 = の の 徽= = 景
姫 君 姫 姫 殿 上 殿
(男) (女) 女 女
‖ 御 ‖ 御
権 梅
中 壺
将 女
御
“いろは”とはもちろん…
いろは=A.B.C. だな
三の姫がネンネでスグにはバレなかったけど
「は」ねだられたらおしまいだな
そこは張り型でだな…
三の姫がここまで無垢(無知?)とは…
救われたなおもうさん。
綺羅みたいなお子さまより宰相中将が好みだ
私事だけど三の姫、友達にそっくり…
ABCのA以外を知らなくていろいろと質問してきて困る
とうか綺羅もネンネwww
ABCとかwwww普通会話にでないだろw
平安時代の性教育はどうなっているのだろう。
綺羅はアレとして三の姫は母親とか乳母とかに教わらなかったのかな。
新妻の心得、とか。初夜の迎え方、とか。
男の方は成人の時に教わってたらしいけど
女はどうなんだろうねえ。
てか主上なにをする気だ主上
“実地”てwww
牛車の中で綺羅君は沈鬱な面持ちでした。今から宮中へ参内するのがとても気重なのです。
参内すればまた主上に、三の姫を奪われた腹いせにねちねち嫌味を言われるだろうし、
嫌な女とはいえ梅壺女御さまも、主上の妃ということで御機嫌を取らねばなりません。
婚家では三の姫は“いろは”についてしつこく聞いてくるし、いつ女の身とバレるかもしれずちっとも落ち着けない、
かといって実家に帰ってばかりいられません…。
こんなことなら元服などしなければよかった、とついタメ息をついてしまいます。
もし姫として育っていれば、とまで思ってしまいます。
その時、牛車が大きく揺れました。どうやら猫の屍骸に出くわしたようです。
外出中によくないことに出遭うと、“行き触れ”と言って、家に籠り身を清めなければならないのです。
今日はこれで参内しなくていいと思うと、右大臣家へ戻る道中顔が綻んで仕方ない綺羅君でした。
しかし、右大臣家へ戻ると、義父の右大臣さまからとんでもないことを聞かされました。
なんと、主上が綺羅姫を尚侍として出仕させたい意向を示したというのですから…!
綺羅君は、驚きのあまり開いた口が塞がりません。右大臣さまから聞く父左大臣さまも同様だったようです。
尚侍(ないしのかみ)といえば主上の女秘書、しかしうまく主上の目に留まれば、家柄から言ってもそのまま女御として入内することも夢ではありません。
他の貴族からしてみれば羨ましい限りのこの突然の知らせは、綺羅君を青ざめさせるのに充分です。
なんといっても綺羅姫は姫と言っても オ ト コ なのです。
実家からの使いで、綺羅君は急遽左大臣家に向かいました。
迎えた女房は、左大臣さまが脳の病にかかられてしまったと大慌てです。
どうやら、青い顔をして帰られ、部屋に籠ってあははうふふと笑ったかと思うとコロコロ転がりだして泣いているのだとか。
急いでおもうさまの部屋へ向かうと、どろーんとした目で迎えられました。
おもうさまの話によると、今日の会議の終わり、いきなり主上からその話があったそうです。
居合わせた者にもあまりに急なお話だったため、後日に譲ってはと奏上する者もいたものの、主上はギロリと睨まれただけで、
その有無をいわさぬ強引さに誰も反論できなかったということでした。
つまり、綺羅姫が尚侍として出仕することは決定事項なのです。
宣下が下されるのももうすぐだと聞き綺羅君は愕然とします。苦しい結婚生活に耐えて頑張ってきてるのも、ふたりの秘密を守るためなのですから。
主上が綺羅姫(弟)を北嵯峨で会った人だと思っているのなら、
無理やり結婚させられそうになって入水しかけたかわいそーな姫君だと思っているはずです。
なのに尚侍にしようなんて、実務能力を買われての話ではないことはみえみえです。
その時、綺羅君は思うところがありました。
そしておもうさまに、「出家する」と宣言します。
突然発心したことにすれば、三の姫も、風変わりな夫を持ったかわいそーな妻と世間に同情してもらえ迷惑もかけません。
出家してどうするのだと戸惑うおもうさまに、すればいいことなのだ、強く言い、明日主上と話をつける、と決意する綺羅君でした。
翌日、内裏では、綺羅姫を尚侍にというのは良い手を思いついたものだ、とにんまりする主上の姿がありました。
主上の考えはこうでした。
あの妹思いの綺羅君のこと、妹姫が出仕すれば気にかかり毎日様子を見にくることでしょう。
これで綺羅君も三の姫にばかり執心してばかりもいられまい、と笑いが止まりません。
そこへ、綺羅君が殿上したという知らせがありました。
さぞや妹姫のことで落ち込んでいるであろうと楽しみに綺羅君の元へ向かうと…
思惑とは大きく外れた、怒りの表情を隠そうともしない綺羅君がおりました。
主上にはその理由が皆目わからず、不機嫌そうだね、とお声を掛けになるのが精一杯でした。
すると、綺羅君から思いもよらない一言が。なんと、出家いたしたいと申されるではありませんか。
綺羅君は、主上の思し召し深い女性を娶ったことを罪だと考えておりました。
仏門に下ることでその罪が償えるのならば、三の姫も主上の元で幸せにもなれましょう、
それにて妹姫の尚侍の話を白紙に戻して頂きたいのです、
罪のないおと…いえ妹に気苦労ばかり多い後宮生活をさせたくない、
物事を思い詰めすぐ人事不省に陥る妹を後宮に召して綺羅君を困らせようなど、あまりに浅ましい御心ではないか、…と主上を詰ります。
最後には、いくら三の姫を奪ったわたくしが憎いからと…と、綺羅君は涙を流されてしまいました。
肩を震わせて泣く綺羅君を見、主上は、三の姫を女御にしたいという口からデマカセを信じ込んでいることに多少驚きますが、
その三の姫を捨て出家してまでも内気で病弱な妹姫を守ろうというのかと思うと、顔がにんまりしてしまいます。
そこで主上は綺羅君を安心させるかのように、真実を話し出しました。
イヤミをたくさん言ったのですぐに信じてはもらえないでしょうが、それは三の姫に執心していたのではなく、
仲の良い二人が羨ましかったとのことです。主上はあまり夫婦仲が良いとは言えないのでした。
そして綺羅姫の尚侍出仕はすべて、女東宮・久宮(ひさのみや)様の御ためでした。
女東宮久宮様が東宮の地位を嫌っているのは周知の事実でした。
周りの者もまた、東宮という立場上久宮様をわがまま放題にさせています。
東宮の位が窮屈なものであることは、かつて東宮だった主上が一番よく知っています。
弓に蹴鞠に狩りにと気散じられた主上とは違い、女の身ではそれも許されません。
東宮には友が必要だと主上は考えています。姉のように威厳をもって接することが出来る…それも東宮自身蔑ろに出来ない身分の姫君が…
今の京中に、綺羅姫をおいてそのような姫君はいない、と考えてのことなのでした。
綺羅君はまだ少し疑っているものの、熱のこもったもの言いといい、まんざらウソではなさそうです。
今回の話が三の姫に絡んでのことと考えた浅はかさの非を詫びたものの、綺羅君は、妹姫が結婚を嫌うあまり入水しかけたことを持ち出しました。
いくら東宮の御ためとはいえ、主上の目にかない入内という事態は避けねばなりません。
そうなった場合、また死を考えかねないことをほのめかしました。
主上は、綺羅君のことにばかり夢中になり失念していたが北嵯峨の乙女はそういう人だった、と思い至ります。
東宮のことを思ってと念を押すが、主上が妹姫をご覧になればお考えを変えることもありましょう、と申す綺羅君の口調は強いものでした。
かの姫はそれほどまでに美しく育っているのかと主上は少し心を動かされます。
しかしここは綺羅君の信用を得ておきたいところ。
綺羅君の心配が無いように、綺羅姫には決して会わないことを約束します。
主上の住む清涼殿から最も遠く、東宮の住む昭陽舎に近い宣耀殿に住まいを与える約束をし、東宮のためという気持ちを主張します。
綺羅姫と会う時は綺羅君は同席している時だけ、もしこの約束を違えるようなことがあればその時こそ綺羅君の好きにするといい…
話はどうやら綺羅君が出家しただけではどーにもならなくなってきたようです。
主上の見せる「誠意」に綺羅君は慎重に慎重を重ねますが、
他の殿上人に見られないように、東宮のお守り役に徹すればいいとまで譲歩して下さり、
どうしても心配ならば、綺羅君が毎日様子を見にくれば良い、とまで仰られました。
できるだけ誠意を見せたのだから左大臣家も誠意を見せて欲しい、
これは東宮の、ひいては後々の帝のため、 天 下 の た め ですと言われ、引き下がれなくなった綺羅君でした…。
と、いうわけで、綺羅姫が後宮に上がるための条件をここまで下さった主上の申し出を断るわけにもいかず、
綺羅姫の尚侍出仕はもはや動かしがたい決定事項になってしまいました。
それを左大臣家に報告に戻ると、おもうさまは目まいがしてきたと部屋に下がられ、邸の奥からは何かが大暴れしている音が聞こえました。
聞くと、尚侍宣下を聞いた綺羅姫が、政子さまばりのヒステリーを起こして暴れていらっしゃるとか。
何のために自分が苦労しているのだと、綺羅君は綺羅姫の部屋に向かいます。
戸を開けるといきなり碁石が自分に向かって投げつけられました。
目の前には髪が乱れ着物も乱れた鬼の形相の綺羅姫です。
それもそのはず、源氏物語も歴史書も読んだ綺羅姫には、尚侍宣下など、主上の妾になったもいーとこだとわかっているのです。
この体でどこをどーしたら妾になれるというのでしょう。
主上は そ の 気 はないと約束してくださったと綺羅君は言うのですが、
何かの拍子に そ の 気 になったらどうしてくれるのだという綺羅姫に返す言葉もありません。
情けない女装姿を人に見られるのも嫌だと泣く綺羅姫に、主上との約束を伝え安心させようとします。
しかし、「賜るお部屋も後宮の奥」という話は聞き捨てなりませんでした。
話はそこまで進んでいるのか、と目を丸くし綺羅君に詰め寄りますが、もう決まってしまったのだと言います。
ついに綺羅姫はぷっつんとい何かの糸が切れてしまいました。
失神してしまった綺羅姫を綺羅君が抱えたまま、夜は更けてまいります―――。
さて
それからしばらくの後、宮廷では管弦の宴が催されておりました。
ここのところ、妹姫の出仕のために毎日奔走されている綺羅君は、少しやつれた顔をしながら物憂げに溜め息をついています。
それは殿上人の誰もが思わず見惚れてしまう美しさでした。
綺羅姫の尚侍出仕まで一か月を切りました。
女房だけでも40人はいる、女御の入内なみの盛大さだ、それもこれも主上を意識してのこと、尚侍というのも表向き…
などなど、世間では噂が噂を呼んでおります。
当の綺羅君のお悩みはというと、綺羅姫のことに違いはなかったのですが、綺羅姫といったら
宮廷での礼儀作法、三人の女御方の政治的背景、地位、勢力分布に始まって、後宮での話し方媚び方えとせとらせとせとら
覚えることは山ほどあるのに、そんな女のマネはできるものかと綺羅君を困らせ、最後には人事不省かヒステリーを起こしてしまいます。
小百合がいるとはいえ、後宮に上がらせる女房も、きちんと秘密を守ってくれそうな人選をしなければならないのに、
綺羅君の苦労は増えるばかりです。
苦労といえば、婚家の右大臣家のこともありました。
右大臣家は弘徽殿女御さまが後宮入りしています。いくら女東宮のお相手だけとはいえ尚侍として出仕する綺羅姫に対し、
口では気にしていないと仰りつつもピリピリした雰囲気が漂っています。
そのため綺羅君は、なるべく右大臣家に通って“その気”のないことをアピールしておりますが、
右大臣家に行くと三の姫に“いろは”について未だに聞かれます。
女房達はそれを見てあいかわらずくすくす笑って見ているだけです。
気苦労が耐えず、嫌になってしまう、と綺羅君は咲き誇る桜も気に留めず溜め息しきりなのでした。
そんな綺羅君を遠くから見つめているのは宰相中将でした。
時々、女かとも見紛う仕草をする人だ、と憂い顔の綺羅君を見て思います。
その宰相中将に声を掛ける人がおりました。
視線の先の人が今宵の主役では、宴に華を添えていた月も影が薄くなってしまった、と雅な物腰な兵部卿宮です。
この兵部卿宮は、好みの美形なら男でも女でもモノにしてしまう“すみれ族”で知られていました。
綺羅君にまで手をだされてはかなわない、と宰相中将は
“かつ見れど うとくもあるかな 月光の いたらぬ里も あらじと思えば”
(月は美しいがその美しさがうとましい、自分以外の所にまでその美しさを見せているのだから)と返します。
遠まわしに、あなたのような目で見られては綺羅君も困るだろうという皮肉です。
しかし、そういう中将は“月光の いたらぬ里こそ あらまほしけれ”(月光の届かない所こそあってほしいものだ)
という心境なのではないか、と兵部卿宮は気にも留めません。
なるほど恋とはそういうものだ、と言い、まるで宰相中将の気持ちを御存知でいるかのようです。
“恋”の言葉に宰相中将は動揺を隠せません。そんな宰相中将に、兵部卿宮が一首の歌を贈ります。
奇しの恋は禁色の深きすみれの色なりき 誇る匂いはなかれども ただに床しく咲き初めて 人知れずこそ散りゆかん…
忍ぶ恋こそ存外本命…歌に込められた意味に宰相中将はまたしてもハッとします。
しかし、どうやらこれは綺羅君のことを歌ったようで…
先ほどからの綺羅君の憂いた様子は、まるで苦しい忍び恋でもしているのかもしれない、と何やら意味深なことを兵部卿宮は口にするのでした。
今宵宰相中将は綺羅君と共に宿直でした。
ひとり宿直所に来た宰相中将は、先ほどの兵部卿宮の言葉を思い出します。
綺羅君が忍ぶ恋…
あれほど三の姫に熱愛しているというのに、何をばかなことをと思いますが、先日“いろは”について聞いてきた綺羅君のことです、
恋の“いろは”から始めたい女性でもできたのではないかという不安がよぎります。
しかしここで、なぜ綺羅君のことを気にしすぎていることに気付き、
世間では兵部卿宮と恋のライバルだと噂されていますが、自分は女一筋だと言い聞かせます。
それにしても綺羅君はなかなか宿直所にやって来ません。心配になった宰相中将は、探しに出ました。
夜の内裏を歩く宰相中将を呼び止める人がありました。
振り返ると、夜のお召しで清涼殿に渡る途中の梅壺女御さまでした。
女御さまは何やら自慢げに、先ほど藤壺あたりで綺羅君にお会いしたことを告げます。
その折、梅壺女御さまをご覧になった途端、綺羅君が顔を赤らめ視線を逸らしたことも…。
“忍ぶれど色に出でにけり”といったところかと笑う梅壺女御さまでしたが、それを聞いた宰相中将は気が気ではありません。
まさか、綺羅君はこの梅壺さまに横恋慕しているのでしょうか―――
そんな疑問を打ち捨てるように宰相中将は藤壺のあたりへとやって来ました。
するとそこには、桜の下に見るも美しい綺羅君がおりました。
その横顔に一瞬見惚れ、綺羅君が女であれば即押し倒して…いや、女でなくても、などあられもないことを考えておりましたが、
綺羅君に声を掛けられ我に返ります。
月をなんとなく観ていた、と言う綺羅君に宰相中将は、梅壺女御さまにお声を掛けられたかと聞きました。
綺羅君は、ああいうのはいいね、と何やら意味有り気に答えます。
宰相中将は、梅壺女御さまのような女性がいいのか、と肩を揺さぶらんばかりに尋ねましたが、
そうではなく、女が女の格好をするのがいいという意味で言ったのです。
女が男の格好をするわけではないのだから、と宰相中将は不思議な顔をします。
何か悩み事があるのではないかと心配する宰相中将でしたが、綺羅君は、妹が出仕することになって残念だろう、と話の矛先を向けました。
その時宰相中将は、あれほど執着していた綺羅姫の尚侍出仕の話を聞いても平静だったことを思い出します。
尚侍出仕といえば主上のお手が付いてもおかしくない立場だというのに、綺羅君のことではあれほど動揺したというのに…。
この気持ちはまさか 奇 し の 恋 なのでしょうか。
そう自覚してしまうと、綺羅君が近くに寄るだけで顔が赤らんでしまうのを止められません。
いくら自分のことで忙しいとはいえ、つくづく罪つくりな綺羅君でありました。
すみれ族ってバイ?耽美?
ホモ→パンジー→すみれ か…
すみれは両刀使いの事だよ
あーあー宰相中将はちゃんとノーマルなのにw
なんか怪しい新キャラキターーーーーー!!!
兵部卿宮イイヨ、イイヨー
宰相中将くんは、綺羅君が気になってしょーがない。
いつどこにいても目は綺羅君の姿を追い、他の公達と仲良く談笑していようものなら間に割って入る始末。
綺羅君に、この頃少し落ちつかないようだけどどこかに気になる姫君でもいらっしゃるのかと聞かれても笑って誤魔化すしかなく、
このままでは日常生活に支障をきたしそうで、大変困っておりました。
宰相中将は綺羅君のことを、綺羅君が出仕する前から知っていました。
あの頃左近少将だった宰相中将は、いろいろと噂にのぼる権大納言家の綺羅君にライバル意識を持っていたのです。
今考えれば大人気ないと思えるのですが、何かというと引き合いに出されいい加減ムキになっていたところもあります。
蹴鞠会の時も綺羅流だのと煽ったり、元服式の時も気になって見に行ったり…
しかし、出仕してきた綺羅君は宰相中将が思っていたのとは大違いでした。
ほっそりとしたその姿は女性のように雅で、そのくせなよなよしたところがなく元気いっぱいに動きまわります。
頭の回転もはやく、きれいな声で気のきいた冗談を次々にとばす綺羅君。
だからこそ、その綺羅君にそっくりだと言われている妹姫に文を贈り続けていたのですが、
今思うに、綺羅姫を中においての綺羅君との会話を楽しんでいたのかもしれません。
しばらく悶々と考えていた宰相中将でしたが、いくら考えても男同士では話が進展しないことに気付きます。
こうなったら打ち明けるしかない、と決意したのでした。
そうと決まれば話は早い方がよい、宰相中将はすっくと立ち上がると、右大臣家に行くようお付きの者達に言いつけました。
しかし、右大臣家に来てみれば、綺羅君は実家からの急な呼び出しで帰ったばかりだと言われます。
せっかく気負ってやって来たのに、すっかり出鼻が挫かれ肩を落とす宰相中将を見かね、
右大臣さまが、綺羅君が帰るまで居てはどうかと呼びとめます。
そうして右大臣家のもてなしを受けていた宰相中将ですが、今度は綺羅君が実家から帰れない旨を伝えられます。
綺羅君が帰って来るものだとばかり思って右大臣家の歓待を受けていたのに、待った分だけ宰相中将の落胆は大きいようです。
少しやけになり、外は闇夜でもあるし、せっかくだから泊まっていけと言う右大臣の言葉に甘えることにしました。
夜もすっかり更け、客人用の部屋に床を用意してもらったものの、宰相中将は眠れず、起きて簾縁に向かい、夜風に当たりました。
浮かぶのは綺羅君の顔ばかり。
それに、先程までの右大臣家の女房達の話が思い出されます。
綺羅君はやはり三の姫一筋の様子。
しかも、三の姫の女房方には ぶ す ばかり揃えていて、見目の良い女房達は綺羅君の側にも近づけないのだとか。
三の姫程度の容姿で綺羅君を一人占めしている、と口さがなく言うものもいますが、
綺羅君は月に数日、具合が悪いと実家の右大臣家に戻るのは、思う女房がいるからに違いない、など聞き捨てないことを言う者もおりました。
そんな話があるというわけではなく、そうでも思わなければ
ネンネでオカメブスの三の姫に綺羅君が夢中だなんて美しい女房達のプライドが保てないからというだけでしたが。
女房達の嫉妬具合からいって、やはり綺羅君はそれほどまでに三の姫のことを思っているのが窺える話でした。
今でも綺羅君は三の姫のことを考え眠れぬ夜を過ごしているのでしょうか、宰相中将のように…。
そうまで綺羅君の心を捕らえる三の姫とはどんな人なのでしょう。
宰相中将は気になって居ても立ってもいられなくなり、一つ屋根の下にいるのだからこの機会に三の姫をひと目見なければ落ち着かないと、
姫が住まうという西の対屋へと向かいました。
三の姫の部屋は幸運にも掛け金が外れており、こっそりと中の様子を窺うことができました。
物音がしたような気配を感じつつ、当の三の姫は、綺羅君と“いろは”のことを考えているところでした。
今日もまた“いろは”について綺羅君はなにも教えてくださらず、いつものように尋ねると不機嫌にさせてしまうようなのです。
最近とうとう“は”まで行ったということを話す美濃の様子では、
不安で最初はイタかったとは言うものの嬉しそうで、“いろは”とは良いことのように思えるのに、誰も教えてはくれません。
三の姫は、自分が子供だから誰も真剣に取り合ってくれないのかと思うと少し落ち込んでしまいます。
でも三の姫だって、結婚までした立派な人妻です。
今度綺羅君がいらした時こそ、“いろは”について絶対聞いてみせる、と決意を固めました。
そう思うと綺羅君のお越しが待ち望まれてなりません。
つい、「早く綺羅さまいらっしゃらないかしら」と呟いていました。
三の姫の呟きを、宰相中将は聞き逃しませんでした。
この部屋の人物が三の姫だと確信し、一目でも透き見しようと思ったものの、綺羅君の思い人ならさぞ美しい人に違いありません。
「美人の人妻」に気が眩み、内側からこっそりと三の姫の部屋の掛け金をかけました。
そして、几帳の向こうにいる三の姫の前に姿を現したのです。
三の姫は、突然見知らぬ殿方が目の前に現れ口も聞けないほど驚いています。しかし何が起こっているのかわかっていません。
その姿を初めて見た宰相中将はその場に立ち竦みました。
女房達の言うほどではありませんが、 十 人 並 み のそのお顔に驚いたのです。
しかし、あの綺羅君がぞっこんなのです。子供っぽいところがいいのだと綺羅君はおっしゃっておりました。
それを自分に言い聞かせるように、宰相中将は三の姫の手を取りました。
そして、慣れた口説き文句で、以前から恋こがれていたものの人妻となってしまった三の姫に
ひと目会いたくやってきてしまった旨をすらすらと口にしました。
口からでまかせを言っているうちにすっかりその気にもなってしまった宰相中将は、がばっと三の姫を抱きしめました。
…しかし、宰相中将は違和感を覚えます。三の姫が抵抗するどころか無反応なのです。
不思議に思いつつも、ともかく時間もないことだし、と三の姫への思いを語りながら、接吻しようと顎に手をかけました。
すると目はぱっちりと宰相中将を見たままの三の姫。
やりにくいなあ、と思いつつ、やることはしっかりやってしまうわけですが、
接吻をしている間も嫌がるでもなければ応えてくれるわけでもありません。
しかも、あろうことか突然がたんと顔を真っ赤に倒れてしまいました。
突然のことに宰相中将は驚きますが、三の姫は、突然口を塞がれて、息が出来なくなって苦しかったと答えたのです。
接吻の手ほどきをしなければならないなんていったいどういう姫なのだと頭を抱えますが、
ここまできてしまえばもうヤケです。
三の姫の部屋の灯りが消されたのはまもなくのことでした…。
翌朝、美濃は昨夜お泊りになった噂の美形、宰相中将を見かけたことを嬉しげに話しながら三の姫の部屋に参りました。
すると、朝から赤い顔をしてぼーっとしている三の姫がいます。
しかし美濃を見るとまた“いろは”について聞いてきました。
“いろは”が何か、三の姫はわかってしまったのです。
昨夜のことが思い出されます。あれが“い”でこれが“ろ”で…
三の姫も美濃が言うようにとってもイタかったけれど、自分のことをずっと思ってくれていたという宰相中将のことを思うとそれもまた幸せなのです。
三の姫が今美濃に聞いたのは、“いろは”のない夫婦がいるかどうかということです。
“いろは”のない夫婦などいないが、
仲の悪い夫婦ならあるいは…もしくはどちらが一方をとても憎んでいるか飽きてしまった場合ならば有り得るという答えです。
例えば片方が浮気…三日夜の餅を食べ合った人以外と“いろは”をすると、憎まれることもある、と美濃は言います。
それを聞いて三の姫は顔が青くなりました。
昨夜自分は浮気してしまったことを知ったのです。
綺羅君以外の人と浮気をしたから、三の姫がそんな人間だから、綺羅君は自分を嫌って“いろは”をしてくれなかったのだ―――
あまりのショックに世間知らずも重なり思考のつじつまが合っていない三の姫の後ろで、美濃が床の片付けをしています。
三の姫が予定外に月の穢れが来てしまったことを知り、精進料理を作るよう厨に向かうのでした…。
その頃、宰相中将も自室で青ざめておりました。
三の姫が未通娘だったことを知ってしまったのです。
宰相中将は頭が混乱していました。主上から注意を受けるくらい仲睦まじいと言われていた綺羅君夫婦なのに、
なぜ綺羅君は何もしていないのでしょう。
そういえば、綺羅君は三の姫のことを「子供っぽいところが可愛い」と言っていました。
ひょっとして、三の姫があまりに幼いから待っていた―――?
綺羅君の性格上、考えられないことではありません。
大人になるのをまつほど大切にしていた姫を…宰相中将のショックは計り知れません。
もしこのことが知れたら、絶交どころか綺羅君は出家してしまうかもしれません。
そうなればすみればかりの坊さんの中に綺羅君を放り込むことになります。
そんなことは絶対にさせられない、と思っているところに、綺羅君が宰相中将のもとへ訪れた知らせが入ります。
宰相中将は追い詰められました。
今は会えないと思うものの、病気になったことにして、綺羅君を部屋に通しました。
綺羅君は、昨夜の留守を詫びに来たようでした。
何の用事だったかと聞かれ、本当のことは言えず言い訳するも、その辻褄が合わなかったり、しどろもどろです。
最後は、急に腹が痛くなったと頭を押さえ綺羅君にムリヤリ帰ってもらうという、なんとも情けない有様なのでした。
しかし、宰相中将としても三の姫のことがいつバレるかと思うと気が気ではなく、向き合うこともできません。
なんだって惚れた相手を避けなければならない事態に陥ってしまったのでしょうか。
あの人形みたいな姫も、綺羅君のことがなければ相手にしなかったのに…
三の姫のことを思い出すと、ばーじんだったことが頭をよぎり、ますます落ち込む宰相中将でした。
宰相中将の家を後にした綺羅君は、中将の様子が変だったことを少しいぶかしみますが、
そのまま、昨夜寄れなかった右大臣家に向かいます。また“いろは”について聞かれるのかと思うと暗い気持ちになりますが…。
しかし、右大臣家に行くと、三の姫は綺羅君に会いたくないと言っていることを伝えられました。
どうやら、綺羅さまに二度とお会いしたくない、わたくし綺羅さまに嫌われている、綺羅さまなんて大嫌い、と
朝から泣き叫んでいるようなのです。
どうも月のものが狂って少しヒステリーになっているらしいとのことでした。
その気持ちがわかる綺羅君は、気持ちも軽く実家の左大臣家に戻りました。
弟の綺羅姫のことを考えると頭は重いものの、気を遣わなくてラクだとほっとする綺羅君ですが、
何やら他の方々の御物思いはふえそうで…
話がとんでもない方向に進行しているwww
もうばれたよね、三の姫に。
どうか三の姫が内緒にしてくれますよーに。
ばれてはいないだろ
昨夜から混乱しっぱなしだし
宰相中将の心配の方向がwww
浮気がバレる→綺羅は出家してしまうかも→坊さんはすみればっか→綺羅いい標的→それはダメ!
なところがもうダメだwwwwww
ダメな子とアホの子しか出ないのかこの漫画はw
弟は耳年増なのかww
宰相中将は「人妻に手を出してバレて修羅場」レベルなら慣れっこなんだろうな。
ためらいもなく人妻の三の姫に手を出したわけだし。
だから心配の対象は綺羅だけにw
あれ?全然カキコミがない??
連載もとまってるね。どうしたんだろ。
作者、取材旅行か?
やがて時は移り、五月
弟君の出仕の式も左大臣家の娘にふさわしく、つつがなく取り行われたのでありました。
綺羅君もやっとのこと肩の荷がおりた心地する今日この頃、ここ内裏の奥の後宮では、
女房達が相も変わらず綺羅君の美しさに見惚れておりました。
主上の御前に伺候されたのちはすぐに尚侍のところに行くのが日課のようになっている綺羅君。
それが女房達には嬉しいことでした。
一方、宰相中将の姿をめっきり見なくなったのが心配ではありますが…
さて、今日も綺羅姫に住まう宣耀殿に、女東宮さまの女房からのお呼びがありました。
綺羅姫に付いて後宮にやってきた小百合は、またかと怒り気味です。
後宮にやって来てわかったのですが、女東宮はとんだじゃじゃ馬でした。
天気が良いといっては「つまんない」、雨が降るといっても「つまんない」
特別注文させた貝道具が出来上がってくれば「飽きちゃったもんねー」と、何かといえばすぐ主上にわめき散らすのです。
しかし、そうは言ってもお呼びがあれば参上しなければなりません。
男君とは思えないほど美しく仕度をした綺羅姫は、女東宮の待つ梨壺へと向かうのでした。
梨壺に行くには、女御方の壺の前を通らざるをえないのですが、各々の女御に仕える女房達は、御簾の前でそわそわしておりました。
今でこそ好意で迎えられる綺羅尚侍ですが、出仕当時は女房方の目の上のコブでありました。
なぜなら尚侍という立場上、いつ何時主上のお手がつくやもしれず、
そうなれば女房方の仕えている女御さま達のライバルとなってしまうからです。
けれど、綺羅尚侍は、梨壺に向かう以外は、居るのか居ないのかわからないほどの大人しさです。
綺羅中将が毎日来ているから、居るのがわかるくらいでした。
尚侍が出仕してまもなくの先日、こんなことがありました。
綺羅中将が同席の時以外、尚侍とは会わないと約束してはいたものの、突然現れたら内気な尚侍がどう出るか、
ふと悪戯心を出した主上が、何の前触れもなしに女東宮のいる梨壺に顔を出したのです。
すると、内裏中に響き渡る尚侍の叫び声。
それを聞きつけ、綺羅中将が飛び込んできました。
そして、失神する尚侍を泣きながら抱きかかえ、主上の無体を詰り、兄妹ともに退出することを願い出ました。
傍にいた女東宮にも悪いのは主上だと叱られ、あまつさえ泣かれる始末です。
一連の騒ぎに主上ももう二度としない、と再び約束せざるを得なかったのです…。
その騒動を知った女御方の女房達は、あれでは女御並の40人の女房も、梨壺への几帳を隔てての行列も仕方ない、と納得です。
綺羅尚侍がどれほど美しくても、ライバルになりようがない、と嬉しそうなのでした。
かのように噂されているのを知ってか知らずか、綺羅尚侍は初めて女御方の壺の前を通ったときのことを思い出します。
今思い出しても心臓が止まりそうでした。御簾の向こうからいがみのオーラがだだ漏れていたのですから。
御簾の向こうで几帳を隔てて歩いているとはいえ、女房達の隠すつもりのない嫌味が赤裸々に聞こえてきます。
後宮に上がる前に綺羅君は、人間関係が大事なのだから、笑顔でやり過ごせばいいのだ、と教えてくれました。
しかし、女房達の恐ろしい視線の中で挨拶など出来ない、と思うと、めまいが襲います。
そこを助けたのが小百合でした。
そして、ここで尚侍が倒れでもすれば、今までの綺羅君の苦労はどうなるのだ、と叱咤しました。
綺羅姫のために、ただでさえ忙しい毎日を奔走した綺羅君…その苦労に応えられなければ男ではない、
そして綺羅姫は、にっこりと御簾の向こうの女房達に微笑みかけたのです。
その美しさに女房達はひと目で魅了されました。
やってみれば簡単なことです。それ以来、御簾の前の挨拶は保身のための儀式になったわけです。
さて、綺羅尚侍一行は、女東宮の住む梨壺に到着しました。
すると、床には朝の御膳がぐちゃぐちゃにばら撒かれ、朝餉も東宮の位も嫌だと暴れている女東宮の姿がありました。
綺羅尚侍が女東宮に挨拶をすると、呼んでいない、とつっけんどな態度です。
尚侍は気にせず床のものを片付けるように言い、その間ずっと何も言わずに女東宮の傍に座っているだけでした。
その沈黙に耐えられず、女東宮は、なぜ何も聞かないのか、と綺羅尚侍に問います。
聞いて欲しいのかと綺羅尚侍が返すと、女東宮は、自分から大嫌いな馴鮨が出たからだと話し出しました。
そうは言うものの、女東宮のお腹は正直で、話している間に虫が鳴きだしていました。
すると今度は、馴鮨は嫌いだが、一緒に御膳に入ってた栗の甘葛煮は好きなのだ、と遠慮気味に語ります。
綺羅尚侍は、栗の甘葛煮は高価なもので誰でも食べられるものではない、と言うと、自分は東宮だから食べられるのだと嬉しそう。
東宮だから、食べたくないものは食べないのだ、と自信たっぷりに言うと、
綺羅尚侍は、東宮はこれから食事がいらないようだから、女東宮付きの女房にそう言うように、と言い出しました。
それにぎょっとした女東宮は、誰も食べないなんて言ってない、と噛み付きます。
すると尚侍は、ではお食事をなさるのですね、とにこりとします。
女東宮はしまったと思いました。また綺羅尚侍の術にはまってしまったのです。
女東宮は尚侍には勝てませんでした。いつもいつも、怒るでもなくなだめるでもなく見てるだけの尚侍が。
思えば始まりが悪かったと振り返ります。
尚侍なんてきっとおカタイ教育係だろうから、主上の言いつけでも追い出してやろうと思っていたのでした。
そして、尚侍がやって来た途端に、小袋に詰めた小豆を投げつけたのです。
その衝撃で尚侍はなんと倒れてしまいました。
その一件で、女東宮はすっかり綺羅尚侍に謝り癖がついてしまったのです。
尚侍も、女東宮が謝るものと決めてかかっているので、他の者達と態度が違うのでしょう。
またこんなこともありました。
小豆の一件を持ち出し、あんなつぶてのひとつやふたつで倒れていては後宮仕えは無理じゃないかと皮肉を言ったときです。
尚侍は、そんなことないと言うでもなく、その通りわたくしには出仕など無理だから、女東宮から主上にお願いしてくれと言うではありませんか。
思わず、退出なんかさせない、とあまのじゃくな性格が出てしまいました。
これも思えばマズかったと今では反省しています。
女東宮は本当は東宮になどなりたくなかったのです。
なのに無理やり立坊され、後宮の奥に閉じ込められて窮屈な毎日を送り、
“東宮らしくしなさい”と言いながらも“女の東宮は好ましくない”という見え見えの態度です。
けれど、綺羅尚侍は違いました。他の者達のようにお世辞を言ったり機嫌を取ったりせず、
ヒステリーを起こしても嫌な顔もせず梨壺に来てくれます。
尚侍なら信頼できるかもしれない、自分の気持ちもわかってくれるかもしれない、と心を開きかけているのです。
それに、綺羅尚侍に見られると胸がドキドキするのでした。きっとアコガレの綺羅中将に似ているからでしょう。
そう考えている女東宮の様子を、綺羅尚侍は「可愛ゆいなあ」と見つめておりました。
同じヒステリーと言っても、左大臣家の夢乃おたあさまとは大違いです。
最初はなんてワガママな娘だ、あんなコのお守をするのかと己が身の不幸を嘆いてはいましたが、慣れればなんてことなかったのです。
一通り騒ぎはしても、あとはそれが恥ずかしかったのか下を向いてふくれている姿が子供っぽくて可笑しくなります。
それに、女東宮の気持ちも少しわかるのでした。
なりたくもない東宮にさせられて窮屈な生活を送っている姿はまるで自分を見ているようでした。
ワガママを言うのは、ただ世間知らずで子供っぽいだけなのです。それを誰かがわかってあげなければ、と思っていました。
女東宮の新しい御膳が揃うと、綺羅尚侍は梨壺を退がりました。接する人間を増やしたくないのです。
宣耀殿に戻りしばらくすると、麗景殿のあたりがさわがしくなりました。
それは、綺羅中将がやって来た合図でもあります。一目でも綺羅中将を見ようとする女房達が大騒ぎするからです。
思ったとおり、綺羅中将が元気な笑顔を見せました。
今日の騒ぎは特別で、どうやら弘徽殿のあたりで、後ろから押された女房が転がり出てくるアクシデントがあったようです。
本人も真っ赤な顔で俯いているので、そこを上手く甘い言葉で収めてきたのです。
それを聞いた綺羅尚侍は、すっかりプレイボーイだと感心します。
けれど、綺羅君は最近思うのです。
結婚以来主上の機嫌は損ねるし、気を遣うことは前より多くなる、それもこれも男の格好をしているせいではないかと。
先日の管弦の宴の時も、きらびやかな梅壺女御の一行を見かけ、自分も着飾ればまんざらでもないのに、と思ったりしたのでした。
時々、綺羅尚侍と入れ替われたらと思うのに…
その一言に綺羅尚侍は反応しました。その手があったのに、なぜそれに今まで気付かなかったのでしょう。
しかし、すぐ断念します。
綺羅尚侍は髪を切れば済みますが、綺羅中将の髪はすぐには伸びないのですから。
重苦しい十二単から解放されると喜んだのも束の間でした。
後宮生活の良いところは、おたあさまの新興宗教のお題目が聞こえないことくらいだ、と嘆く綺羅尚侍に、
「女東宮とも上手くいってるしね」と微笑みかける綺羅中将。思わずそれに赤面してしまう尚侍ですが、
どうやら尚侍の“じゃじゃ馬馴らし”の成果のことを言っているようでした。
兄妹の会話を繰り広げているところへ、主上が宣耀殿に渡る知らせが入ります。
綺羅達の前に現れた主上はご機嫌でした。
尚侍の様子を見るため、綺羅中将は毎日参内しています。三の姫のいる右大臣家にも以前ほど足繁く通っていないようです。
妹姫を出仕させたのは正解だったのです。
なんという名案だったのだ、とひとりほくほくと笑いがこみ上げているようです。
主上は尚侍に声をかけました。女東宮が尚侍の言うことなら素直に聞くことは、主上の耳にも届いているのです。
出仕して2ヶ月以上になるが、よい折だし梨壺で管弦の宴でも開こうと言うのですが、
几帳の向こうで綺羅尚侍は断固断るように綺羅中将にサインを出します。
それを見て、綺羅中将はなんとか断りを入れようとします。
しかし、その理由が、婚家の右大臣家に寄らねばならないためと聞いた主上は、一気に不機嫌になってしまいました。
いつもの嫌味で、綺羅中将が宴を断ったことを詰るのです。
けれど綺羅君は、今日はどうしても右大臣家に帰らねばならない事情もありました。
それを聞いた主上も、右大臣が今日はそわそわしていたことを思い出します。
当代一の婿を持つ幸せな義父がどうしたのでしょうか。
あらぬ人の恋の恨みでも買っているのかもしれないね、と意味深な一言を残し、主上は宣耀殿から退出しました。
主上が去り、綺羅尚侍はひと安心です。
しかし、いつもながら、お気に入りのはずの綺羅中将に掛ける言葉にトゲがあるのも気になります。
確かに、綺羅尚侍が出仕してからというものあのイヤミもおさまっていたのですが、事が三の姫の話になるとぶり返すのです。
三の姫といえば、綺羅中将は右大臣家に行かねばなりません。
いそいそと立ち上がる綺羅中将を安心させるかのように、
綺羅尚侍が「ぼくはけっこううまくやってるから」と声を掛けるのでした。
何かというと失神していた綺羅姫が、言うようになったものです。
それに比べ綺羅中将は、最近悩みが増したような気がします。
というのも、最近三の姫の様子がおかしいのです。
ぼーっとしているかと思うと急に泣き出したり、
気を紛らわせようと宮中でのことや友人のことを話すと、綺羅さまなんて嫌い、あっちに行ってと言う始末。
軽いノイローゼだとは思うのですが、原因はなんなのでしょうか。
右大臣さまも、三の姫を療養させようと言っていたので、今日の呼び出しもそのことかもしれません。
療養先が決まったら、絶対付き添って行こう、と決意する綺羅君なのですが…
綺羅君を迎えた右大臣さまはこれ以上ないほど上機嫌でした。
何か良いことでもあったのかと聞く綺羅君に、満面の笑顔で告げました。
なんと、綺羅君が父親になったというのです。
そう、三の姫に御ややが出来たのです。
これには綺羅君も、言葉を失ってしまいました。
なんと言ってもこの夫婦は女同士なのですから。
絶句している綺羅君は、右大臣にせかされるように三の姫の元へと向かいます。
三の姫の住む西の対屋では、女房達総出で祝いの言葉を向けられました。
綺羅君は、複雑な表情で応えます。
気をきかせた女房達は、綺羅君を三の姫と二人きりにさせました。
二人きりになったと言うものの、三の姫はこちらに顔を向けません。
綺羅君はなんと声を掛けたものかと迷ったものの、三の姫に話し掛けます。
すると、三の姫は開口一番にごめんなさいと謝りました。
そして、三日夜の餅を食べた綺羅君以外の人と浮気をしてしまったことを告白したのです。
慌てて後ろに控えていた美濃が飛び出してきました。他に聞かれた女房はいないようです。
美濃にも初耳のようでしたが、三の姫は、綺羅君以外の人と“いろは”をしてしまったと泣きながら吐き出します。
綺羅君は、こんな時にまでわからない言葉を使わないでくれと思いますが、一応、どうしてそんなことをしたのかと叱りました。
すると、綺羅君も誰も“いろは”について教えてくれず、悪いことだとは思わなかったと三の姫。
また“いろは”の壁にぶつかりますが、綺羅君は今度はその相手を聞き出すことにします。
しかし、こればかりは三の姫は答えてくれません。
言えばその人と決闘しかねないし、その人が出家するかもしれない。
もしもあの人に何かあったら生きてはいられない、と三の姫は泣き臥しました。
三の姫は、それ以上は教えてくれません。ただ、一度きりしか会っていないあの人が好きなのだと、それしか―――。
宮中に三の姫懐妊の報は瞬く間に流れました。
主上は、これでまた綺羅君の足が遠のいてしまうのではないかと不安が募る一方ですが、
綺羅君はそれどころではありません。
左大臣家では、左大臣さま、綺羅尚侍が集まり、このことについて緊急に話し合っています。
左大臣さまと綺羅姫は、綺羅君が三の姫に何もしてないことを相手の男性が知ってしまったことを心配しています。
下手に探られてしまえば身の破滅なのですから。
しかし、綺羅君は二人の会話がよくわかっていません。
それに、三の姫が相手の男に会ったのはたった一度きりと言っているのも不可解でした。
たった一度で御ややが授かるものなのでしょうか。
綺羅姫はこの「たった一度」に着目しました。
今三の姫は4ヶ月目に入ろうとしています。すると、4月の末頃に会った、おそらく遊び目的の男です。
4月といえば、綺羅君が綺羅姫の出仕の仕度で奔走していた頃。きっとその頃出入りしていた男でしょう。
あーだこーだと左大臣さまと綺羅姫が話し合っている頃、綺羅君も考えていました。
綺羅君が三の姫に 何 も してないとわかるのは、相手の男が 何 か したことを意味します。
でも何をしたのでしょう。それが綺羅君にはよくわからないのですが、
それにしても一回で御ややを下さるとは、神仏もあまりに考えなしってものだと憤っています。
それに、三の姫…
すべてに幼く、いつも“綺羅さま綺羅さま”と慕ってくれていたのに、
「あの方にもしものことがあったらわたくし生きてはいられません。あの方が好きです」と涙ながらに取り乱すほど
姫はその相手が好きなのです。
それに比べ自分は…と、自らを責める綺羅君がいるのでした。
735 :
相関図中将:2007/09/30(日) 22:16:42 ID:???
┌────┐
藤左 右
原大 大
夢 顕臣 政 臣 _____
乃 〒 通 〒 子 ├―┬─┐ | |
綺 綺 三 二 弘 主 麗 女
羅 羅 = の の 徽= = 景 東
尚 中 姫 姫 殿 上 殿 宮
侍 将 女 女 ・
(男) (女) ‖ 御 ‖ 御 久
権 梅 宮
中 壺
将 女
御
パズルのピースがぱしぱしとはめ込まれていくようだ…
うまいね
女春宮かわいいよかわいいよ女春宮
中身が小心者でお人好しっぽいあたり良く似た兄妹だな
今すぐって訳にはいかないが、頑張って髪を伸ばせば2~3年もすれば入れ替れるな。
>>739 その2〜3年の間をどう誤魔化すがが問題なんじゃね?
でも当時カツラとかなかったのかね?
付け毛とかさ。
時代的にはカツラはもうあるよ。
当時の天皇でカツラを使ってた人も居るくらいだし。
海の向こうでは権威の象徴として音楽室の写真に有るみたいな
派手で巻き毛のカツラが使われていた。
芥川の「羅生門」でもカツラ売りの婆が出てくるしね。
ただ現代みたいな精巧な出来ではないだろうけど
>>741 ほほう、じゃあそれつけとけば入れ替りも楽にできるじゃないか。
入れ替わっちゃえばいいのにw
「和宮様御留」では貴族(皇族)も長かもじをつけていたしね。
この時代はまったくの地毛だったのだろうか。
重いは臭いはで大変だなw
綺羅君は心を痛めていました。
三の姫が御ややを授かり実感したのです。今まで三の姫を騙していたことを。
もし自分が三の姫と結婚していなかったら、姫はその男と結ばれていたのかもしれない。
いや、今からでも遅くないはずです。何とかしてその人と幸せにしてあげるのだ…
とは思うのですが、三の姫はその相手の名前を頑として言わないのでした。
おもうさまはもう席を外し、今は綺羅姫がいるだけでしたので、綺羅君は疑問をぶつけました。
どうしても一度で御ややができることが納得いかないのです。
一度会ったきりのふたりにいきなり御ややを授けるなんて、神仏もずい分いい加減です。
これには綺羅姫も開いた口が塞がりません。
まさかとは思いますが、一度聞いてみることにします。どうすれば子供が産まれるのか知っているのか、と。
神仏が相談して、結婚しましたという報告もして…
綺羅姫も心配する回答でしたが、ひとつふとんで寝るという綺羅君の答えに安心しました。
しかし…まさか…
そのまさかです、綺羅君は、寝るとはおやすみなさいと眠ってしまう寝る以外に
何かすることがあるだなんて知らなかったのです。
綺羅姫は驚愕するというか妙に納得すると言うか…三の姫とすんなり結婚した理由はここにあったのです。
昔っから外をかけずり回っていた綺羅君は、女房達の臆面もないウワサ話など聞いたこともなかったので
基本的知識が欠如しているのです。綺羅姫の場合は耳年増と言いますが…。
綺羅姫は綺羅君に、御ややは神仏が下さるものではないことを説明します。
これは綺羅君にとっては寝耳に水、ではどうすれば、誰が御ややを授けてくれるのでしょうか。
綺羅姫は言葉につまります。今さらおしべとめしべでもないし…
「契る」という言葉を使って上手く説明しようとします。男女の仲が結ばれることを…
しかし、その結ぶも何を結ぶのか綺羅君はわかりません。
たて結びやちょうちょ結びではなく、男女のある部分同士がくっついて…この先はとても綺羅姫の口からは言えません。
しどろもどろになる綺羅姫ですが、綺羅君が、三の姫はその男ととある部分がくっついて
御ややが出来たのだろうと言ってくれたので安心します。詳しく言われたらどうしようかと思いました。
とにかく神仏ではなく、くっつかなきゃ子供はできないし、一度くっついたらできちゃうこともあるのだと
涙目で訴えます。
わかったようなわからないような、そんな表情をして綺羅君は帰って行きました。
本当にわかったのかいまひとつ不安に首を傾げる弟君ですが、不安と申すならこちらの方とて御同様、
そもそもの事件の発端、宰相中将どののお邸では、三の姫妊娠に青ざめる方がひとり。
あの3ヶ月前の夜以来、綺羅君への後ろめたさから
なんとか綺羅君のことは忘れよう三の姫との過ちも忘れてしまおうと山や寺にも籠もったりしていたのですが、
宰相中将の綺羅君への思いは日々募るばかりで…
そこに三の姫妊娠の知らせです。
これで三の姫が男を通わせたことは綺羅君に知られてしまいました。
手も触れず大切に慈しんできた三の姫を寝取られ、そして妊娠させられたと知れば綺羅君とて黙ってはいないでしょう。
きっとその男を探し出すに違いないと思うと、青ざめるのも当然です。
参内など出来たものではありません。
そんなワケで、物忌みだの行触れだのとウソをこいてズル休みをしてみたものの、
このまま一生家に籠もっているわけにもいきません。
何より、綺羅君に会えないことが、宰相中将には何よりも堪えるのです。
その時、中将に、返事を急ぐという文が届きました。
三の姫からのものでした。
そこには、子供を身籠ったこと、綺羅君には責められてはいないが、優しく相手の名前を聞き出そうとしていること、
それが逆に針のむしろのようで、血の涙を流す日々を送っていること、
相手の名前を出してしまう前に、どうか一度会いに来て勇気付けてほしい…
今夜綺羅君が来ないことを記し、その文は締められていました。
宰相中将は、文を読み、綺羅君の優しさと、それが三の姫の責め苦になっていることを知り胸が痛みました。
「あなたさまの名前を口にしてしまう前に―――」これはさすがにヤバいと思い、使いの者に、夜を待つよう伝えたのでした。
辺りがすっかり闇に包まれた頃、宰相中将は美濃に導かれ右大臣家の西の対屋にやって来ました。
そこには、すっかり面やつれしてしまった三の姫がおりました。
姫は中将の姿を見止めるなり、ぽろぽろと涙を流します。
あの幼かった三の姫がやつれる程に心を痛め自分のことを思ってくれていたのだと思うと、中将が抱き締めるのも自然でした。
三の姫は、宰相中将の腕の中で、自分を連れて逃げてくれと言います。
突然のことに言葉が飲み込めない中将でしたが、なんとか綺羅君の名前を出し思い留まらせようとします。
しかし、綺羅君の名前を出すと三の姫の表情は曇りました。
連日姫のもとに通っているとはいえ、今まで何もしないでいたのは、綺羅君が自分のことを嫌っていて、
余所に好きな方でもいるからだと三の姫は言います。
形だけの愛されてない妻で、今はもう中将しかいないと姫は泣きました。
三の姫の言葉で、宰相中将は思い出しました。
妻が他の男の子をいうのに、宮中で見かける綺羅君は寝込むでもなくしゃんとしています。
宰相中将も、綺羅君に他に愛する人がいるのかもしれないと考える方が自然なことに気付きます。
なのになぜ姫との仲を後ろめたく思わねばならないのでしょう。だいたい妻にここまで言わせる綺羅君が悪いのです。
そう思い至ると宰相中将は三の姫に、姫を掠び取ることは出来ないが、出来うる限り会いに来て同時に綺羅君とも話し合い
姫を自分のものに出来るよう力を尽くすことを誓います。
今は自分を思い耐え忍んで、健やかな子を産むようにと告げ、接吻をして三の姫のもとから帰りました。
三の姫の元から帰る宰相中将を、陰から見止める人がひとり―――
綺羅君は、実家の左大臣邸へ戻る途中、宰相中将の車が右大臣家の方向へ向かうのを見たのです。
そして、綺羅姫とおもうさまの話を思い出しました。三の姫の男が来たのは逆算して4月の末だと言っているのを。
あの頃来たのは宰相中将だけ、そして三の姫の様子がおかしくなったのも同じ頃、
気になって、中将の車を尾けさせ、三の姫の相手が宰相中将であることを知ったのでした。
この目で見るまでは信じられませんでしたが、一部始終を盗み見た綺羅君は、三の姫が本当に中将のことを愛していることを知るのです。
プレイボーイの中将の言葉は話半分に割り引くとしても、愛し合っていることになんの変わりもありません。
どうにかしてふたりを結婚させてあげるわけにはいかないか、
実は自分は女だから気にせず結婚しちゃってくれと言うわけにもいかないし…
と綺羅君が悩んでいる間にも季節は10月、三の姫のお腹も目立つようになってまいりました。
ぷっくり膨らんだ三の姫のお腹を見て、この中に赤ちゃんがいるのかと綺羅君はそれはそれは衝撃を受けました。
美濃や右大臣さまは、これからもっと大きくなるとか、十月十日経たないと生まれてこないとか気楽なことを言っていますが、
今にも生まれてきそうなのにどうしてそんなことがわかるのかと綺羅君は焦ります。
早く宰相中将と話をつけなければならないと今まで以上に強く思うのでした。
宰相中将は、最近綺羅君の物問いた気な視線をしばしば感じます。
最初こそ三の姫のことがバレたのではとあたふたしていましたが、憎んでいるとか、そういった視線ではありません。
一方、三の姫からはまめまめしく文が届くようになりました。
早く綺羅君と話をつけてくれと、涙ながらに綿々と書き綴ってあるのです。
そしていつも美濃が返事が来るまで外で待っているので、人目に立ってはマズいと返事を渡すと、また新たな文を携えやって来る…
どっぷりどろ沼に嵌っているのでした。
宰相中将の今までの恋の相手といえば、遊びと割り切っている人や深追いしたりしないプライドの高い女性ばかりだったので、
三の姫のようなタイプは苦手なのでした。
綺羅君の恋人の話も気になるし、綺羅君が宰相中将に向けるあの視線も、気がかりです。
宰相中将自身、まだ綺羅君のことを諦められていないのでしょうか―――
さてそんな折、宰相中将は宮中で、恋のライバル・両刀使いの兵部卿宮にばったりと出くわしました。
イヤな奴に会ったと苦々しく思っていると、なんと兵部卿宮の口から、
亡き大納言綾子姫が、中将に愛想が尽きたと言っていたことを知らされます。
なぜそんなことを知っているのかと思わず無粋なことを聞いてしまいました。
綾子姫は宰相中将にとって単なる恋人の一人ですが、わりと古い仲で、お互いの気心も知れてると思っていたのに、
よりによってすみれ族の兵部卿宮に横取りされてしまったのです。
受けたショックは大きく、強がりをを言うも顔がひきつってしまう中将でした。
兵部卿宮にとっては、宰相中将ともあろう人がとんだ不手際だと思っており、何かあったのかと疑いたくもなります。
宮も、綺羅君が愛妻が懐妊したにしては気もそぞろで、妙に中将に視線を向けていることが気がかりでした。
二人の仲に何かあるのでは、と持ちかけてみるも中将が否定するので、
欲しいものを眺めているだけでは最近もの足りない、と意味深な一言を言い残し、宰相中将のもとを後にしました…。
宰相中将にとってこれは聞き捨てなりません。
綾子姫の話を持ち出して中将を牽制しておいて、兵部卿宮は綺羅君に手を出す気です。
みすみす綺羅君をすみれの毒牙にかけられないと、なんとか阻止したい宰相中将ですが、
男を口説いた経験がないため、その道で争うには宮と中将ではあまりにハンデがありすぎると悩みます。
こうなったら先手必勝しかない、と決意するまで時間はかかりませんでした。
兵部卿宮の言葉からして、綺羅君が自分を意識しているのは間違いないとふんだ中将は、3日後の宿直の夜に勝負をかけます―――。
その夜、宰相中将のいる宿直所に、同じく宿直の綺羅君がやって来ました。
背中合わせに座った綺羅君に、宰相中将はどう切り出すべきか悩んでいました。
話がある、と先に切り出したのは綺羅君の方でした。
前々から思っていたことがある、という前振りは、綺羅君の中将への告白ではないかと期待しますが、その話題は三の姫のこと。
予想外の人物の名に、宰相中将は戸惑いを隠せません。
しかし、綺羅君はずべて知っているのです。
それを聞いた中将は青ざめました。
けれど綺羅君は、そのことで中将を責めたいのではないのです。大切な親友だから、中将を失うことはしたくない…
何より三の姫の幸せを第一に考えて、と綺羅君が顔を上げると、そこには怒りの表情の宰相中将がいました。
綺羅君にとって、自分は単なる親友に過ぎないのか…そう悔しさで震える中将ですが、綺羅君は、親友に単も複数もないと思っています。
宰相中将の忍耐もここで限界です。もう忍ぶことに疲れました。
「おまえが好きだ」
とうとう中将は綺羅君に告げました。
突然の告白に目を丸めて驚くも、綺羅君はまず女だということがバレたのではないかということを心配します。
そのためにはまず話を聞いてくれ、と頼みますが、中将は止まりません。綺羅君を壁際に追い込み、
奇しの恋と罵られようと、この恋は遂げるつもりであることを伝えます。
「奇しの恋」の言葉に、これは中将が自分を男だと思っての行動だと知り、女だとバレたのではなかったのだと嬉しいような喜べないような…
しかし、綺羅君のピンチに変わりはありません。
禁中で馬鹿なマネはやめてくれと再三止めますが、思いを告げた中将は止まりません。
ついに綺羅君を抱き締めたのです。
腕の中で綺羅君は必死で抵抗します。
一度その腕から逃れたものの、すぐに捉えられ押し倒されました。
そして、中将の力づくの接吻を受けたのです。
その強さにはねのけることが出来ず、唇を咬んでやっと逃れることが出来ました。綺羅君の目には驚きの涙が溢れています。
しかし中将はまだ諦めません。
さらに綺羅君を壁際に追いやります。
綺羅君がもうだめだと思ったその時でした
燭を背けては 共に憐れむ 深夜の月 花を踏んで 同じく惜しむ 少年の春―――
そんな歌と共に、兵部卿宮が宿直所に現れたのです。
壁際に追いやり今にも綺羅君を襲わんとする宰相中将の姿を見、これはこれは…と声を掛けます。
中将が驚きで目を丸くしているその隙に、綺羅君は宰相中将の腕から脱出し、宿直所からもバタバタと走り去っていきました。
遠ざかる綺羅君の足音を聞いて宰相中将は呆然とします。
これからはきっと綺羅君も警戒するだろうに、絶好のチャンスを逃してしまいました。
やっと正気に戻った頭で、三の姫のこともバレていたことにも気付きます。
兵部卿宮は、見計らって来たわけではなく、今夜宿直と聞いた中将と綺羅君と共に酒を交わそうと思って訪ねたようでした。
直衣を乱し呆然と座り込む宰相中将が同好の志だったとは、と嫌味に話しかるのでした。
綺羅君はといいますと、乱れた髪のまま内裏を駆けておりました。
その心はとても困惑しています。
なにせ、中将からの無理矢理の接吻、あれは、盗み見たあの夜の三の姫と同じことをしたのです。
つまり、綺羅君にも
御 や や が で き て し ま っ た !!
綺羅君真っ暗な気分で泣きながら走り去りました。
げに恐ろしきは無知の思い込み
襲うほうにも襲われるほうにも、さんざんな夜でありました。
752 :
粗筋中将:2007/10/02(火) 23:00:05 ID:???
次回木曜更新予定
>御 や や が で き て し ま っ た !!
違 う だ ろ !!!ww
さいしょうのちゅうじょうがこわれた
きらはこんらんしている
毎回、次回が気になる終わりだが今回の引きは凄い
御ややのできた綺羅君が何するか想像できん
ある部分とある部分がくっついて…どこのことかなあ?
おかあさんにきいてみなくちゃ
おなかとせなかだよ。
>御 や や が で き て し ま っ た !!
あるあ・・・ねーよ!wwwwwwwwww
大体「出来ることもある」って弟にも言われたろうに…
早とちりしすぎw
何から突っ込めば良いのか分からんくらい愉快すぎる展開wwww
すみれの人良いキャラだよな〜。
最近あらすじの分母がこっそり増えて無くて寂しい
すみれの人、キワモノキャラのはずなのに、
この中で一番まともに見える
なんか、弟くんは十二単とか着てるのにちゃんと男の子に見える…
綺羅姉に早とちりさせない御ややのでき方講座、難しそうだな
ズバッと言うしかないな。ズバッっと。図解つきで。
実践するしか
じゃあ事情を明かして今度こそ宰相中将に…
後宮・宣耀殿では、綺羅君の乳姉妹にして綺羅尚侍付きの女房小百合が、尚侍のお帰りを今か今かと待っておりました。
やっとお帰りになった綺羅尚侍に小百合は飛びつき尋ねます。女東宮に里下がりのお許しはいただけたのかと。
しかし、尚侍は口ごもって、またお許しを頂けなかったことを報告します。
これには小百合も堪忍袋の緒が切れ、自分ひとりでも里下がりをする意向を伝えます。
男だと隠すのがただでさえたいへんな綺羅尚侍は、事情を知る小百合がいなくなることはとても困るので、慌てて引き止めるのですが、
小百合とて、宮中でじっとしていられるわけではないのです。
それというのも、あの綺羅君が奇病に苦しんでいらっしゃるのですから―――。
綺羅君が突然参内なさらなくなったのは1週間も前のことでした。
大らかに構えている綺羅尚侍とは反対に、小百合はそれが心配で心配でなりませんでした。
綺羅君は、妹姫が出仕されるとき、毎日様子を見に来るからと約束されたのに、なんの御連絡もなしにいらっしゃらないのは、
何かいらっしゃれない理由がある…そう居ても立ってもいられず、左大臣邸に安否を訊ねる手紙を出しました。
すると、綺羅君はその前夜、宿直の役にあったにも関わらず突然牛車からお降りになるなり床に臥せてしまわれたという返事です。
そのお顔は土気色で、女房達さえお側に寄せ付けず、何やら口走っては天井を睨むばかり…。
この様子を不審に思った左大臣さまは、こんなのは初めてだ、とさっそく綺羅尚侍に告げにきました。
どうやら相当困惑しているようです。
病弱だった弟君と違い、綺羅君は病気ひとつしたことがありません。
小百合は、薬師や僧を呼んではどうだと言いますが、綺羅君自身がそれを断っているようなのです。
薬師を呼べば姫とバレてしまうから、という理由ではなく、僧や薬師を呼べば死んでやると泣いて訴えるのだとか。
これには小百合もショックを受けました。あの気丈な綺羅君がお泣きに…。
綺羅君がお泣きになるなんて、きっとたいへんな病気に違いない、左大臣さまのお話では詳しいことがわからないからこそ
小百合が帰って綺羅君の様子を確かめよう、側で看病してさしあげようと思っているのです。
なのに綺羅姫は、女東宮が里下がりを許してくれないから、と渋ります。
小百合は怒り沸騰、尚侍出仕の際にあれ程心を砕いてやつれてしまうほど奔走していた綺羅君のために、
女東宮のお怒りを買ってでもお邸に帰ろうとは思わないのか、と詰り、尚侍は女東宮の方が大切なのだ、と涙を流し走り去りました。
小百合が去って、綺羅姫は思います。もちろん、綺羅姫だって綺羅君のことは心配しています。
けれど、女東宮の機嫌を損ねたりしたら降格…下手をすれば後宮追放です。
しかし、ふと綺羅姫は気付きます。自分は出仕を嫌がっていたのでは…?
小百合の言う通り、綺羅君が心配ならば女東宮を振り切ってでも左大臣邸に帰るべきなのだと思います。
なのに浮かぶのは、里下がりの許しをもらいに行った時の、「尚侍に側にいてほしい」と駄々をこねる女東宮…。
ひょっとして、女東宮のことが好きなんだろーか、と初恋に自覚する綺羅姫なのでした。
さてその頃、ここ左大臣家の三条邸では、綺羅君が夜も眠れず苦しんでおりました。
思い出すのはあの夜のこと、宰相中将が「あんなこと」をするとは思ってもおらず、
それ以上に逢引を目撃した時の三の姫と同じことをしたわけで、御ややができたのは確実だと悩んでおります。
部屋に引き籠って1週間、妊娠したことがバレてはと祈祷も薬師も断固拒み続けてきましたが、
お腹が膨らんできたら隠し通すなんてこともできなくなります。
そしてそれを機に綺羅君が女だということがわかってしまったら…
おもうさまは主上をたばかった罪で失脚して遠国へ追放、綺羅君も女装の男君と生涯蔑まれ、三の姫も女を夫に持ったことで笑い者になってしまいます。
誰かに相談しようにもおたあさまは頼りにならず、おもうさまも三の姫の騒ぎでパニック状態、
第一、こんなことは恥ずかしくて誰に相談すればいいのでしょうか。
八方塞がりかと絶望している綺羅君に、ある人物が浮かびます。綺羅姫です。
三の姫が妊娠したとわかった時も、おもうさまより落ち着いて状況を分析していたし、御ややのでき方についてもやたら詳しそうでした。
あの子なら、できた御ややをもとに戻す方法だって知っているかもしれません!
一縷の希望をかけて綺羅君は立ち上がりました。
いつお腹が膨らんでくるかもわからないと思っているとことん無知な綺羅君は、御所に向かうよう邸の者に声を掛けました。
綺羅君の長の欠席を気にしているのがここにもひとり、主上は1週間も姿を見せない綺羅君のことを考えていました。
父である左大臣さまに聞いても何かと話をはぐらかされ続けています。
三の姫のことで辛く当たっていただけに、それが原因で出仕しなくなってしまったのでしょうか。
いやいや、それというのも綺羅君に対する好意からしたもので…でもそれは別に奇しの恋などと言うものではなくて…
などとひとりであたふたしているところに、綺羅君が殿上したことが伝えられます。
1週間ぶりに綺羅君の姿を見た主上はぎょっとします。久々に現れた綺羅君は、今にも倒れそうなほどやつれていたのです。
その様子を見て、今日はもう帰った方がいいのでは、と進言しますが、綺羅君は断ります。
病に臥している間も綺羅尚侍のことが心配で、その様子を確かめずにはとても退出は出来ない…そう青い顔をして言うのでした。
このように病をおしてまで出仕するほど綺羅君は尚侍が心配なのかと主上は思い知らされます。
なのに、その妹思いにつけ込み綺羅君を毎日参内させるためだけに無理矢理妹姫を尚侍として出仕させてしまったことに
主上はとても自己嫌悪を感じるのでした。
宣耀殿では小百合が今にも泣き出さんばかりに綺羅君を迎えました。
自分が側に付いていればこれほどやつれるまで黙っていなかったのに…と心配する小百合でしたが、
弟と話があるからと人払されてしまいます。
綺羅君の姿を見た綺羅姫は、本当に痩せてしまっている姉君の姿に驚きます。
帰れなかったことを詫びる綺羅姫に、綺羅君は顔を赤らめ言いにくそう御ややのでき方についての話を切り出しました。
あれ以上詳しい話をしなければならないのかと焦る綺羅姫ですが、その話はわかったからもういいんだと言われます。
どうやってわかったのか謎の残る綺羅姫ですが、気にせず綺羅君は続けます。
なお言いにくそうではありましたが、御ややを元に戻す方法はないのか、と思い切って尋ねました。
それを聞いた綺羅姫は、三の姫が浮気したことに腹を立て、その子供をどうにかしようということを聞きたいのかと勘ぐりました。
まさかとは思い、念のため、本気で言っているのかと問います。綺羅君はもちろん本気だと答えます。
綺羅姫はカッとなりました。綺羅君が本気だと言うならなおのこと非人間的なことは教えられません。
いくら十月十日経たねば生まれてこないとはいえ、お腹の中で赤ちゃんは育っているのです。
もとに戻すということは、その赤ちゃんを殺すことなのです。
思わず声が大きくなる綺羅姫の話に、綺羅君は衝撃を受けます。
三の姫が憎いかもしれないが、というその先の綺羅姫の話は既に聞いていません。
自分のお腹の中で赤ちゃんが育っているなどまだ信じられませんが、殺すなど考えてはいけないことを知りました。
生きている生命なのだから、大切にしなければ…
しかし、そうすればおもうさまや弟君はどうなるのでしょう。
自分の御ややのことが知れたら、綺羅君一人の問題ではなくなってしまいます。
考え込む綺羅君に、綺羅姫が声を掛けます。
綺羅君は、あんなに簡単に御ややが出来るのだから、出来る前に戻す方法もあるのだと思った、と素直に反省します。
そんな便利で都合のいい方法があるわけないとすっかり思考が男な綺羅姫ですが、三の姫や御ややを見守ってあげるよう力付けます。
その姿を見て綺羅君は、綺羅姫はすっかり男っぽくなってしまったと思います。
けれど、普通の男らしい男はこんな格好はしないと思う、いつになったらこんなバカバカしい状態から抜け出せるのか、
こんな女装姿じゃ好きな姫が出来てもプロポーズも出来やしない、とやさぐれる綺羅姫でした。
その時バタバタと足音がして、女東宮が部屋に入って来ました。先導の女房もつけない自由奔放ぶりに綺羅君は驚きです。
几帳をめくり、顔を晒して綺羅君の体調を尋ねます。
綺羅君は、女東宮にまで心配をかけていたことを詫びますが、女東宮も、尚侍を里下がりさせなかったことを謝ります。
尚侍がいないと寂しくて、と言う女東宮に、尚侍が好きなのですね、と姉として好意を持ってくれたことを喜ぶ一声をかけました。
すると、女東宮の顔は真っ赤に染まりました。
不思議に思って綺羅姫の方を振り向くと、綺羅姫もまっかっかです。
綺羅姫の言う“好きな姫”とは女東宮のことだと綺羅君は気付いてしまいました。
顔を真っ赤にしたまま、女房に怒られるからと女東宮は宣耀殿をそそくさ去りました。
なおも赤面している綺羅姫ですが、女東宮は綺羅姫が本当は男だということを知っているわけではないのでした。
誰が十二単を着た男がいると思うでしょう。それも尚侍として後宮入りしているなどと…
こんな生活は嫌だ、と愚痴をこぼす綺羅姫でした。
その夜、三条邸に戻り綺羅君は考えました。
お腹の中の御ややを元に戻すことができない以上、後戻りはできません。
このお腹が三の姫のように膨らんでくれば、綺羅君の妊娠は周知の事実となり左大臣家は終わりです。
弟君は人々の嘲笑の中都を追われるだろうし、地方の荘園で暮らせればまだしも、失脚したおもうさまに荘園や財産が残されるとも限りません。
出家したところで後ろ盾のない身では托鉢をして食べていけるかどうか…
けれど、綺羅君の妊娠が表沙汰にならなかったら?
何も事態は変わらないはずです。おもうさまも宮廷で一の人の地位を守れるだろうし、
綺羅姫も今や体力と気力を持っているから男に戻るチャンスさえあればうまくやれるでしょう。
そして、綺羅姫も三の姫も好きな人と一緒になれるかもしれない…
その時、頭に主上の顔が浮かび焦ってしまう綺羅君ですが、とにかく、
みんなが幸せになるためにも自分が上手くやらなければならないと強く思うのでした…。
翌日、内裏で殿上人は綺羅君の姿を数日ぶりに見止めました。
皆に囲まれた綺羅君は朗らかに話をしています。その様子はまるで結婚前に戻ったかのよう。
今日はあちこちに顔を出しているとのことでした。
宣耀殿に向かうと、小百合が、自分で考えたという献立表を渡してくれました。
綺羅君が二度とあのようにやつれたりしないように…やはり泣き出しそうな表情で言ってくれます。
綺羅君は、その献立表をありがたく受け取り、小百合に言いました。
おまえも、美人なんだから色んな殿上人に言い寄られるだろうけど、へんな奴にひっかかってはだめだ、
小百合に何があっても、もう自分は決闘するわけにはいかないのだから、と。
そう言って尚侍の待つ部屋へ姿を消す綺羅君に、小百合は何か違和感を覚えるのでした。
綺羅姫には、お前も気を強く持っていきなければ、と懇々と説きます。
突然のことにその理由がわからず綺羅姫は戸惑うのでしたが、再び元気になった綺羅君に安心するような、しないような―――。
綺羅君は、麗景殿にも顔を出していました。
麗景殿の女御さまもその女房達も、久々の綺羅君の訪問に喜び、いつになく華やかで明るい時間を過ごしたのです。
けれど女御さまは、綺羅君が時折見せる寂しそうな様子が気がかりでもありました。
夜になり、綺羅君は紫宸殿の桜の前におりました。
葉を散らした枝の下で笛を吹き、ふと、去年の管弦の宴のことを思い出しています。
この笛を吹いて、主上から桜の枝を賜ったことを。
思えば一番楽しかった頃です。主上の覚えもめでたく、満開の桜と同じように華やいで…。
今ではこの桜と同じ有様だと自嘲します。
今夜は綺麗な月夜です。つい、かの源氏の光る君と朧月夜の例しが浮かんできます。
朧月夜にしくものぞなき…と呟いたその時、背後から声を掛けられたのですた。
振り返ると、桜の陰から主上が現れました。
思わぬ人に綺羅君は、つい殿上人に戻り、主上一人の夜歩きは危ないと奏上します。
けれど、主上は、一人歩きは得意なのだと続けます。
即位してからも、事が知れれば首がとぶと怯える近侍の者をせかして内裏を抜け出し、北嵯峨にまで行ったことがある、と言うのです。
綺羅君はハッとしました。
主上は、今でもあの時のことを覚えてらっしゃるのか…3年も前の、北嵯峨でのことを…。
今さらながら、自分は主上のことが好きだったのだと気付きます。ずっとずっと好きだったのだと。
しかしどうせならお腹の御ややが主上の子なら良かった、
身を隠すにしても好きな人の御ややを身籠ってるほうがまだしもロマンティックなのに、と思います。
よりによって綺羅君を男だと思っているすみれの御ややです。情けない話です。
渡された紫水晶の数珠のことも思い出します。せめてもの主上とのつながりに持っていこう…そう考えていたときでした。
主上は、その北嵯峨で、美しい姫と出会ったと綺羅君に話します。
その姫がもう誰であるかは知っているが、あの姫は綺羅君ではないかと思えてしょうがない、と…。
確かに、あの時会ったのは綺羅君なのです。弟の綺羅姫ではなく、あの時主上と会ったのは…。
しかし、綺羅君はそれを否定する以外ありませんでした。
それは自分ではない、自分は男だから、姫にもなれない…押し出すように話しました。
けれど時々、姫として育ちたかったと思う、とも言いました。
今となってはそれも夢…
その時一陣の風が吹き、主上は顔を覆いました。
目を開けるとそこにはもう綺羅君の姿はなく…
そして綺羅君の消息はその夜から跡絶えたのでありました…。
776 :
粗筋中将:2007/10/04(木) 22:35:46 ID:???
次回、土曜朝更新予定
せ、切ない…
ドタバタ勘違い合戦のはずだったのに・・・
なんでこんな感傷的なヒキに
頼りにならん登場人物の中で、弟は役に立つなあ
もう少しでドラえもんになれそうな勢いだ
出来た御ややを元に戻す方法www
いつお腹が膨らむかわからないとかwww
綺羅君にとっちゃ一大事なんだろーけど、かわいすぐるwwwww
それにしても、なんで御やや出来たのは決定事項なんだ。
姉弟そろって奇しの恋キターーー!!
物凄い勘違いスパイラルキターーーーーー!!!
家出キタキターーー!!!
分母増えたーーーー!!!!
>780
>>分母増えたーーーー!!!!
そこかいwww
最後の桜のシーン、いいねぇ。切なすぎる…
当の御ややの父親は何をしているんだ?
>>783 父親てw
三の姫懐妊のときと同様、仮病引きこもりに一票。
個人的には宰相中将と綺羅にくっついてほしかったが、
事態がこうなったらもう無理だなorz
てか綺羅が「主上が好き」と明言しちゃったわけだし。
覚悟の失踪なのかな<消息不明
でも髪伸びるのに2〜3年はかかりそうだしな
>>785 なんか周りに顔出したってのが、最後の挨拶って感じだよね>失踪
でもこれで誘拐だったらそれはそれで新展開w
綺羅、失踪準備であいさつまわり
↓ 様子がおかしいと気付いて綺羅を備考する男有り
↓
置き手紙を残し屋敷から失踪のためにこっそり出てきたところを拉致
↓
拉致の際に女とバレ、拉致犯の別邸に連れて行かれ、正しい御ややのつくり方実践講座。
↓
そのまま愛人として別邸で暮らす(パパンや弟等は失踪と思い込んだまま)
ということで、すみれ男に拉致されて愛人コースを考えてみた。
バラすより倒錯愛を面白がりそうだし
少女漫画でそれはない
綺羅君失踪のニュースはあっという間に内裏を席巻いたしました。
何しろ宮中のアイドルが突如消えてしまったのですから、誘拐だ神隠しだとウワサがウワサを呼び大混乱。
しかし綺羅君の文机の上には、愛用していた名笛がふたつに折られ紙に包まれていたほか、身の回りのものがきちんと整理されていたことから、
覚悟の失踪に違いないという見解に落ち着いたのです。
さて、落ち着かないのはこの方々。
左大臣どのは三の姫密通の心配に綺羅君失踪のダブルパンチをくらって寝込み、
右大臣どのは、当代一と思っていた婿どのに逃げられたも同然のお立場上お倒れになり、
密かに綺羅君を慕っていた女房方も、慎ましやかにみなぶっ倒れになったのでした。
そして、世間一般の人々はあれほど未来の明るい方が何の愁いがあって姿を隠したのか、三の姫も心細いだろうと口々に言います。
当の三の姫は、自分のせいでいなくなってしまったのだと自責の念にかられているのでした。
一方主上は、左右の大臣家から捜索願が出されてなお、未だ綺羅君の行方がわからぬことに、苛立ちを感じ初めておりました。
縁の寺や山荘、都のすみずみまで心当たりは捜したと報告がされているとはいえ、手がかりの一つもつかめていないのです。
帝の身では、一貴族の探索にかまけるわけにもいかず、ただ無事でいてくれと願うことしかできませんでした。
そして、弟の綺羅姫は…
失踪前夜に綺羅君が宣耀殿にやってきた時、様子がおかしかったことを思い出します。
それに気付いていながら、どうして何もしてやれなかったのだろう、と後悔の念にかられていました。
十四の年に出仕して以来、綺羅君は一度も人を頼ったことはありません。
女の姿は嫌だの出仕したくないだの、不満ばかりぶつけていた自分とは違い、
女の身ではいろいろとつらい事もあっただろうに、総て一人で処理し、誰にも泣き言さえ言わず…
その綺羅君がわざわざ綺羅姫を頼って相談に来たのに、語気荒く綺羅君を叱ってしまったのです。
何もあんな言い方をする必要はなかった、と綺羅姫は自分を責めています。
御ややのでき方すら知らない綺羅君が、単純にもとに戻す方法があると思っても不思議ではない、今ではそう思えるのに、
どうしてあの時もっと親身になれなかったのか…。
自分さえしっかりしていれば、とつい呟いたところを、小百合に聞かれます。
そして小百合は、乳姉妹の自分を遠ざけてまで相談に来た綺羅君の、たった一人の姉君の味方にならなかった綺羅姫を詰ります。
病気の時は女東宮を大切にするあまり見舞いにも帰らず、綺羅君失踪の今でさえ、捜しに行こうとしない綺羅姫を。
今こそ弟君として、草の根を分けても捜し出そうとは思わないのか、と小百合は最後には泣き出してしまいました。
綺羅姫とて、姉君を心配していないわけではないのです。男に戻り、捜しに行くことも考えました。
けれど、あの女東宮が里下がりを許すわけはないでしょうし、無理にでも捜しに行くならば、尚侍まで失踪、ということになります。
そうなれば、おもうさまの心臓も今度こそ壊れてしまうでしょう。
それでも運良く綺羅君を見つけられたとしても、綺羅君が二人居ることになり、
入れ替わるにしても綺羅君の髪がある程度伸びるまで隠れているわけにもいきません。
綺羅姫は考えてはいるのですが、どうもいい方法などないような気がしてしまいます。
そう弱音を吐くと小百合に叱られてしまうのですが。
綺羅姫は、女東宮のお召しにより梨壺に上がり碁をうっていました。
しかし、考えるのは綺羅君を探し出す方法、どうしても上の空になってしまいます。
そんな綺羅姫を相手にしていては女東宮も面白いわけはなく、毎日毎日周りの暗く沈みきった雰囲気にも嫌気もさし、
つい几帳を倒しひと暴れしてしまうというものです。
けれど、尚侍は咎めるでもなく、ただ暗い表情で謝るしかありません。
女東宮も、御所中が暗いのは、綺羅君がいなくなったからだとわかっています。
兄上であらせられる主上も、尚侍以上に心配し、胸を痛めているのですから。
それに、今日の主上はずい分とお怒りのようでした。梨壺にまでいらして、とても怖いお顔をしてらしたというのです。
三の姫が許せない、と仰ったとか…。
どういうことかわからず、綺羅姫は訊ねます。
やはり知らなかったのか、と女東宮は綺羅姫に教えることが嬉しそうです。
そして、三の姫のお腹の子は綺羅君の子供ではないらしい、と告げました。
昨夜、盗賊取り締りのために京中に出ていた検非違使が文を拾ったのが発端でした。
中を見ると、綺羅中将が云々と書いているので、何か手掛かりになるのではと思い、内裏に届けたのでした。
ところがなんと、それは三の姫が男に宛てた文で、お腹の子が綺羅君の子ではないことが書かれていたのです。
相手の名は書かれていなかったのでわからないのですが、都中が今この噂でもちきりです。
主上は、綺羅君が妻に裏切られたので失踪したのだろうと仰っていたのだと…。
三の姫の密通が知られてしまいました。
相手の男が誰かわからない以上、三の姫は噂の矢面に立たされることになります。
主上は、三の姫の浮気が原因で綺羅君が失踪したと思っていますが、そうではありません。
綺羅君は三の姫のために、相手の男を捜そうとしていたのですから。
綺羅姫は、自分達のような姉弟に関わったばっかりに失踪の原因まで負わされる三の姫こそ被害者だと同情を禁じ得ません。
そう弟君が思案している頃、ここ右大臣家では、右大臣さまが三の姫に激昂しておりました。
当代一と言われた婿どのの何が不満だったのだ、恥知らずだ、世間で右大臣さまが面目を無くしたのはお前のふしだらのせいだと泣いています。
けれど、どれだけ強く言っても三の姫は頑として相手の名前を口にしません。
相手の名前がわかったらその男を成敗し、お前を尼にすると右大臣さまは頭に血を上らせるのでした。
さて、綺羅君失踪と聞いて真っ先にぶっ倒れたのは宰相中将その人でありました。
何しろ三の姫と通じ子まで儲け、綺羅君にまであのようにあらぬ振るまいをしかけたのでうから、
綺羅君の失踪は自分のせいでだ、あの事で世をいといどこぞで出家でもしていたら、とすっかり落ち込んでおりました。
ましてやそれに輪をかけての三の姫の騒ぎに、生きた心地もせぬ宰相中将の毎日なのでありました。
今では都中が三の姫の噂に満ちています。姫の口をついて、自分の名が知れ渡ってしまうかと思うと、思わず背筋が凍るのでした。
確かに
悪いのは自分であることはわかっています。三の姫とのこともこれ以上隠しだてする気はありません。
けれど、綺羅君が失踪している以上、どんな顔で名のりをあげろというのか…思い悩み、眠れない夜の続く宰相中将でした。
793 :
粗筋中将5/8:2007/10/06(土) 09:12:16 ID:lnfHR5Zg
その夜、外は嵐でした。風が強く、雨が激しく、雷が鳴っています。
相変わらず眠れない宰相中将は、自室で写経をして過ごしていたのですが、その時かすかに外に人の気配がしました。
気のせいかとも思われたのですが、声がしたので、まさかと思い戸を開けます。
すると、袿を被っただけで風雨にさらされた三の姫が立っているではありませんか。
宰相中将が駆け寄ると、腕の中に倒れるように抱きつき、声を上げて泣きました。
右大臣さまが、相手の名を言わぬならと、今すぐにでも縁の寺で尼にさせると言うので、逃げ出して来たのです。
お付きの女房の美濃は、文使いをしていたために右大臣さまに遠ざけられました。
けれど美濃にも、こうなっても助けに来てくれない中将は当てにならない、所詮名うての遊び人だからと言い、三の姫は孤立無援なのでした。
この冬の嵐の中、たったひとりで三の姫は宰相中将のもとへ走ってきたのです。
何もしてやれず、ここまで追いつめてしまった、けれど自分を信じ、自分だけを頼ってやって来た姫を、中将はしっかり抱き止めます。
邸の中に三の姫を入れると、姫は安堵と雨に打たれた熱で倒れてしまいました。
宰相中将は、状況を飲み込めていない女房を叱り、薬師を呼ぶよう言いつけます。
そして、真っ直ぐ前を見て言ったのです。「俺の妻だ…!」と―――。
同じ夜、綺羅姫の住まう後宮では、何度も落ちる雷に女房達は怖がり叫び、右往左往しておりました。
恐怖に怯える女房達を見て、綺羅姫はふとある人が心配になります。
そして、青ざめる小百合に、梨壺に向かう準備をさせるのでした。
梨壺でも、女房達は嵐の夜に怯えていました。訊ねると女東宮は寝所にいるようです。
行ってみると、寝床はからっぽ。
部屋の隅で涙目で震えている女東宮がいたのでした。
まさかあのお転婆がこわがっているとも思えませんでしたが、日ごろの元気さはどこへやら、
何ともいい格好だとつい意地悪を言ってしまう綺羅姫です。
その時、いっとう大きな雷の音がしました。
女東宮は、思わず尚侍に抱きつきます。
腕の中で震える女東宮をしっかりと抱き締めていると、嵐に怖がりもせず駆けつけ、好きな姫を抱き締めている男の実感が湧きあがります。
すると、つい力が入っていたのでしょうか、女東宮が苦しがりました。
それはまるで女の人のような力ではないようだ、と言われてしまいます。
女東宮にとっては何気ない一言ですが、綺羅姫にとっては大事なことです。正真正銘の男なのですから。
そしてつい女東宮に、もし自分が男だったらどうするか、と聞いてしまいました。
すると、もし綺羅姫が男だったら、北の方になってもいいと色よい返事がもらえました。
そうなれば東宮もやめられるし、尚侍は嫌いではないと女東宮は無邪気に綺羅姫に抱きつきます。
綺羅姫は、告白するなら今だ、と心を決めました。
このまま女で通すなどできっこないことですし、進退極まって綺羅姫まで失踪するハメにならないとも限りません。
女東宮さえ味方になってくれれば、小百合の言う通り男に戻って綺羅君を捜すことだって出来ます。
それに、もし姿を消すことになっても、初恋の姫にくらいは本当のことを知っていて欲しい…
そう思い、綺羅姫はとうとう打ち明けたのです。
綺羅姫が本当は男であることを…。
女東宮は、目を丸くして驚きました。
後宮一の美人で、しとやかで、女らしい綺羅姫が男だと言われても、急には信じられずパニックになる気持ちもわかります。
オカマさんだったのかと言われたりもしましたが、これには事情があるのだと説明します。
けれど知ったからには、綺羅姫の北の方にならなければいけないのだ、と条件を出すのも忘れずに。
すると女東宮は顔を赤らめ、大切にしてくれるならなってあげる、と承諾します。
綺羅姫の内心は有頂天です。
決まれば女東宮からの質問攻めでした。
いつから女なのか、左大臣や綺羅君や小百合もグルなのか、どうしてオカマのふりなのか、綺羅姫はビョーキなのか、などなど。
嵐の翌朝は、一面の雪景色でした。
内裏に積もる雪を見、主上は綺羅君のことを思い出します。どこであの嵐を凌いだのでしょう。気がかりでした。
綺羅君と別れた最後の夜、紫宸殿の桜の木、月明かりの下、風の中…どこまでもはかな気だった綺羅君―――
今では遠い夢のような気さえしてきます。
あの時綺羅君は、『時々姫として育ちたかったと思う』と言っていました。
その言葉はきっと三の姫に裏切られた男としての立場に嫌気がさして出たものでしょう。
主上は、自分の心を見透かしていたのではないかと思っていたことを思い出し、自嘲気味に笑います。
その時、殿上の間が騒がしくなりました。
女房に聞くと、どうやら綺羅中将が…宰相中将が…などと噂が立っているようで、
まさか綺羅君の手掛かりがつかめたのではないか、と、急遽兵部卿宮を召し、その話を聞きだそうとしました。
主上の御前に召された兵部卿宮も、どうやら噂は耳に入れたようです。
初めは勿体ぶっていましたが、その噂の内容を主上に告げました。三の姫の相手の男がわかったというのです。
産み月間近の身で右大臣家を抜け出し、あの嵐の中をたったひとり相手の男のもとに走ったことまで伝わっていました。
その男の相手は、意外といえば意外、あり得るといえばこれほどあり得る人はいない、宰相中将―――。
その名を聞き、主上は怒りに震えました。宰相中将は、綺羅君の一番の親友だったはずなのですから。
確かに、華やかな分いくらか軽薄なところもありましたが、綺羅君と並ぶ宮廷での人気は、あの人柄の良さにもよるものでした。
それが、親友の妻を寝盗り、その親友の綺羅君を失踪に追いやった…。
半年以上前から山籠りだの病だの出仕も滞りがちだったことも今になれば腑に落ちる、と兵部卿宮は話を続けます。
それにしても解せないのはあの一件、綺羅君にあのような振るまいをしかけたのは、事の露見を恐れての口封じだったのかと
憤っている兵部卿宮の話はもう主上の耳に届いていません。
主上は立ち上がると、側に居る殿上人に言いつけました。
宰相中将の殿上の札を削るように、と。
綺羅君失踪の原因が宰相中将にあると思ってしまった主上の怒りは計り難く、宰相中将は殿上の差し止めを言い渡されてしまったのです。
殿上を許されてこそ一級の貴族として認めれられる社会です。
自業自得とはいえ宰相中将には、最も不名誉で辛い裁断が下ったのでありました。
797 :
粗筋中将:2007/10/06(土) 09:17:22 ID:???
次回月曜夜更新
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何か嵐の夜に、綺羅姫も宰相中将も男を上げた感じw
すみれの人は普通に重用されてんのね
宰相中将がやっと覚悟決まったみたいでヨカッタ
すみれの人て皇族だし、主上の従兄とか叔父さんとかなのかね
すみれの人とかいうと、楽屋裏にすみれ届ける人とかみたいだな、おいw
紫のすみれの人
除籍って、プライベートなスキャンダルでそんな重い罰になるもんなのか…
プライベートとは言ってもみんな公人だからね。
今で言うと
厚生大臣が超仲良しの外務大臣の嫁を寝取って孕ませて
しらばっくれてたようなもんだろ?
立派に処分対象じゃね?
都のはずれにある縁の邸で謹慎している宰相中将は、さすがに覚悟はしていたものの除籍の報せはこたえました。
けれど、自分が綺羅君にあのような振る舞いをしなければ、綺羅君とて失踪はしなかっただろう、と思うと、改めて責任を感じます。
三の姫は同じ邸で熱の養生をしていました。
やはり殿上差し止めになった中将を心配していますが、三の姫とて右大臣さまに勘当された身。
宰相中将は、三の姫を労わり、これ以上不幸にしてはいけない、三の姫を幸せにすることが綺羅君への精いっぱいの償いになると思っていました。
さて、この事件で肩透かしを食ったのは都の人々でありました。
何しろ綺羅中将が熱愛していた右大臣家の箱入り娘三の姫と、今をときめく宮中の華の公達宰相中将の密通事件であります。
ましてやそれが原因で主上のお気に入り関白左大臣家の綺羅中将が失踪中ともなれば、
ふたりが悪意の噂の渦中に引きずり出されることは必至だったのですが―――
宰相中将が一言も弁解しなかったことや、産み月間近の身体で嵐の中を走った三の姫たちの思わぬ潔い態度に
非難の追い討ちをかけることもできず、総じて同情的、もしくは冷静な判断が下されたのでした。
それから数日後、三の姫は無事姫君を出産しました。
右大臣さまは孫かわいさに三の姫の勘当を解き、主上は右大臣さま宛てに産養のお祝いをお贈りになりました。
それはつまり宰相中将の除籍も解かれたと言っていいわけです。
宰相中将の還殿上の日、主上は中将を御前に召しました。
参上した宰相中将を見、主上は驚きます。以前の華やかさや多少の軽薄さ、生意気さなどは見られず、すっかり面変わりしていたのです。
宰相中将の苦悩が見受けられる主上でした。
主上に声を掛けられ、宰相中将は本来ならば出家してしかるべきなのだが、三の姫や子のことを思うとそれも出来ず、
今はただ三の姫を一人の人として慈しみ尽くすことが、綺羅君への唯一の詫びになると神妙に応えました。
宰相中将の籍も戻り、これで全ては元通りです。いなくなった綺羅君を除いては―――。
主上は、梨壺へと突然向かいました。
梨壺には、少なくとも尚侍がいます。綺羅君そっくりと言われている尚侍が…。
主上はここのところ毎日のように梨壺に来ていました。
御機嫌伺いとは、いったい誰の御機嫌が気になるのやら、とさすがの女東宮も嫌味な口調です。
主上が尚侍目当てで梨壺にいらっしゃることは、宮中でも噂の的。
綺羅姫の後宮での生活も、主上の再三のお越しで危うくなっているのです。
以前もよく梨壺へいらっしゃったとはいえ、どちらかというと綺羅中将とばかりお話をされていたのですが、
今のお目当ては絶対に尚侍だ、と女東宮は綺羅姫に当たります。
その日は特に女東宮の御機嫌は悪く、梨壺に主上がお越しになってすぐ、綺羅姫と主上を二人きりにしました。
主上は、女東宮の機嫌を損ねてしまったことに苦笑し、先ほど宰相中将が還昇したこと、その席で改めて綺羅君に謝罪していたことを伝えます。
そして主上は、ふと感傷的になったのか、尚侍を出仕させた理由について語りだしました。
あの頃綺羅君は三の姫に夢中で出仕の日が減り、その仲を妬んでいたこと、
綺羅君の大切にしている妹姫を出仕させればそれが気に掛かり三の姫にばかりかまけていられなくなるだろう、
以前のように宮中に…主上の下に綺羅君をとどめることが出来ると考えたからだと言うことを。
綺羅君は、そんな主上の気持ちを知ってか知らずか、失踪の前夜、姫として育ちたかったと言い置いていったことも話しました。
突然の話に、黙って聞いていた綺羅姫は混乱しています。
綺羅君は、主上が好きだったのか?主上も綺羅姫を少なからず思っていて―――
けれど、主上の前では綺羅君は男だったわけで、そうすると主上は男の綺羅君を?
綺羅姫は顔が青ざめてしまいます。
何も言わない綺羅姫に、主上は本当に恥ずかしがりでいらっしゃる、と言いますが、
綺羅姫としては、迂闊に話すと最近低くなってきた声を悟られてしまいそうで、それを恐れているところもあるのでした。
なお黙っている綺羅姫に、主上は語りかけます。あるところで美しい姫と会ったことを。
左大臣家の子息がその姫に似ているというので元服出仕を急がせたものの、綺羅君があまりにもその北嵯峨の姫に似ていて、
すっかり眩惑してしまったと。
あの時の姫が綺羅君ではないかと思う気持ちが強かったのか、綺羅君を女性のように見ていたふしがある…。
そこまで聞いて綺羅姫は、主上はその姫に似ていたから姉の綺羅君に好意を持っていたのかと思いますが、
当の主上はその後に、綺羅君を通して綺羅尚侍を見ていたのかもしれない、と告げました。
これには綺羅姫も腰が抜けてしまいます。主上が好きなのは北嵯峨の姫…綺羅君で、綺羅姫は…
すると、突然沈黙が訪れました。
不思議に思った綺羅姫が几帳の陰から主上を伺うと―――主上がじっとこちらを見つめています。
綺羅姫は貞操の危機を感じました。押し倒されたら体格からいっても逃げられるはずがありません。
スッと立ち上がった主上に綺羅姫は身構えましたが、どうやら今日はこれで梨壺から帰るようです。
主上が帰られるとすぐさま女東宮が飛び込んできました。
しんみりと話をしていたように見えたのが気に入らないようです。綺羅姫は結婚したら尻に敷かれることが容易に想像できました。
綺羅姫は、女東宮にさきほどの主上の話を聞かせました。
すると、どうやら3年前に北嵯峨で理想の乙女に出会った話を女東宮は知っているようです。
御忍びで嵯峨の女院さまに会いに行かれた時、この世の人とも思えない清らかな姫にお会いになったことを聞いたそうです。
3年前といえばまだ元服前で、あの姉さまがどうやったら清らかな理想の乙女になるのだと不思議ですが、
確かに北嵯峨には左大臣家の別荘があり、その乙女が綺羅姫でない以上、綺羅君のことを指しているはずです。
なぜ主上が勘違いをなさっているのかはわからないものの、
とにかく主上はずっと前から姉の綺羅君が好きで、綺羅君も、主上に残した言葉からして主上を好きだったことが推測されます。
じゃあ主上は、綺羅君が女だということをご存じなのでしょうか?そこが今ひとつわからないのですが、
綺羅君が主上を好きなことが事実なら、それが綺羅君の失踪の原因に繋がるのでしょうか。
綺羅君失踪の意外とも思えるロマンチックな原因に思わず笑ってしまう弟君でありました。
―――が、しかし、主上の綺羅君への思いは、そのまま綺羅姫へと向けられたのであります。
尚侍を出仕させたときは、尚侍が目的ではなく綺羅君さえ以前のように側にいてくれればと思っただけで、
その綺羅君はもう帰って来ないのかもしれないのです。
その寂しさにどうすれば耐えられるというのでしょう。
どうしてもう一人の綺羅を求めてはいめないわけがあるのでしょう。尚侍こそがあの北嵯峨の乙女だというのに。
綺羅君と三の姫の結婚の話が出た時、本心を明かして結婚をやめさせるべきだったことも後悔しています。
それを躊躇したばかりに今回のような悲劇になってしまったのですから。
(今度こそ、わたしは意志を通そう)主上は強く思います。
身分・家柄を考えても、関白左大臣の姫尚侍ならば、摂関家の姫として后にも立てます。
あれほど案じていた後宮仕えさえうまくやっているのです。人見知りだろうと恥ずかしがりだろうともう構っていられません。
(わたしは何を望んでも許される身なのだ…!)
尚侍女御入内は、その日の内に議題に上げられました。
突然のことに会議の場はざわつきます。
なんとか貴族たちが急なことで可決できないと後日に延ばそうとしますが、主上の有無を言わさぬ表情にそれ以上口を出せなくなりました。
左大臣さまはというと、あまりに突然で無茶な話に、脂汗を流しながら思いとどまってもらおうと進言しますが、
「ただちに入内に良き期日を選ぶように」の一言で切り捨てられました。
入内などとんでもないことです。尚侍が男だとバレてしまいます。
周りの貴族達が、寝耳に水のことながらめでたい話だと左大臣さまを祝福しますが、左大臣さまは、泡をふいてお倒れになったのでした―――。
宣耀殿で綺羅姫が小百合と香合わせをしているところに、主上がこちらに向かっていることが伝えられました。
女東宮のおられる梨壺にはよくいらっしゃっていたもものの、宣耀殿に直接来るなど初めてのことです。
小百合たち女房が総出で主上のお召しをさえぎろうとするのですが、それも甲斐なく綺羅姫の下へと乱暴に入って来られました。
綺羅姫は、几帳を隔て背中を向けて顔を覆っていたのですが、その背中に主上が言いました。
「あなたの、女御入内が決定しました」
綺羅姫は耳を疑いました。
けれど主上は話を止めません。
そして最後に、決して早まった愚かなことをしないように願います。
もしそれを約束してくれないのなら、入内まで待てず、今すぐ几帳を取り除くように命令する、と。
「わたしはそれを許される身だから」
この一言に、綺羅姫はそんな目に遭っては堪らないと必死になって、約束すると答えます。
それを聞いた主上はホッとし、入内する日を楽しみにしていると穏やかに言い残し帰りました。
主上の姿が見えなくなって、綺羅姫に改めて震えがきました。
失神するのをなんとか持ち堪えた綺羅姫のもとに、女東宮と小百合が一体何事だったのかと飛び込んで来ます。
そして、綺羅姫の女御入内が決まったことを伝えると、二人とも真っ青になりました。
何がなんだかわからないまま「約束」をしてしまいましたが、
一息ついて落ち着いて考えると、早まるも何も男の綺羅姫が女御入内という何やら悪夢を見ているような弟君ですが、
すでに尚侍が女御として入内する事はゆるぎない決定事項であります。
このまま男同士の結婚と相成るわけですが…
さても進退の極まった綺羅尚侍でありました。
813 :
相関図中将:2007/10/09(火) 11:43:01 ID:???
┌────┐
藤左 右
原大 大
夢 顕臣 政 臣 _____
乃 〒 通 〒 子 ├―┬─┐ | |
綺 綺 三 二 弘 主 麗 女 兵
羅 羅 の の 徽= = 景 東 部
尚 中 姫 姫 殿 上 殿 宮 卿
侍 将 女 女 ・ 宮
(男) (女) ‖ ‖ 御 ‖ 御 久 ⌒
宰 権 梅 宮 主
相 中 壺 上
中 将 女 の
将 御 は
と
こ
814 :
粗筋中将:2007/10/09(火) 11:44:04 ID:???
次回水曜夜更新予定
綺羅姫貞操のピンチw
「あの姉さまが叶わぬ恋に絶望して失踪」でプッと笑う弟くんの顔が面白すぐるww
主 上 は す み れ を 覚 え た
>わたしは何を望んでも許される身なのだ…!
あー、やっかいな人だなー
というか、主上必死だなw
主上とうとうやらかしてしまったなw
もはやどっちでもいいのかよww
>わたしは何を望んでも許される身
帝ktkr
お主上www
暴走してるw
綺羅君が失跡してどれくらい経ってるのかな
>>821 どれくらいだろうね?
綺羅君失踪前は、秋っぽかったね。いや、あの葉の散り様は冬か…
綺羅姫男カミングアウトの嵐の夜は翌日に雪になったから冬?
そっから先がわからんな…