ハーメルンのバイオリン弾き連載中 第10楽章

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最終楽章「フィナーレ〜終曲〜《歓喜の歌》」

その昔、全ての絶望を封じ込めた箱があった…
その箱をパンドラという女が開けてしまった…
そして…


「やめろお!!フルート姉ちゃんに手を出すなーーー!!!」
剣を構えるトロンをケストラーの爪が貫く
「ハハハ、みんな死んだぞ。君の仲間はなあ…。君もみんながいる死地へ逝かせてあげよう!!」
そう言って、泣くフルートの首にかみつき血を飲むケストラー
「美味い…!!やはり…予想以上だ!!美味し過ぎて…体…から魔力が…あふれ出しそうだあああ!!!」
ケストラーの足元からあふれ出した魔力が不定形の魔物へと姿を変え、城の外の兵士たちを襲う
「人間どもめ苦しめ…悲しめ!!もがき絶望に堕ちるのだ!このケストラーが恐怖を与えてやる!!
 苦痛を…怨みを…狂じる憎悪を…闇を…混沌を!!死をな!!ハハハハ!!!」
人類が守ろうとしてきたものが壊れていく光景に、絶望の涙を落とすフルート
(母さんが…命を賭して守ってきた世界が…お兄ちゃんが…全てを賭けて…戦ったもの…が…
 ライエルが…オーボウが…パンドラ…さ…んが…トロンが…みんなが…)

その時、フルートの中で何かが変わる
フルートの額の十字架が強い輝きを放つ
輝きに照らされ、ケストラーの出した魔族が散り、ケストラー自身も怯む
「なんだこの…忌まわしい…光はぁ!!なんだというのだあ小娘がぁ!!!」
憤るケストラーの手を払い、名乗りをあげるフルート
「さがりなさいケストラー!!私は人類の守護国スフォルツェンドの女王フルートです!!」
自分しかいない…自分がみんなを助けるんだ…その気持ちが、フルートに力を貸す
フルートが頭上に掲げた十字架が再び光を放ち、周囲を照らしだす
その暖かい光に照らされ、ハーメルのヒビが消え、服やバイオリンまでもが元に戻る
全身を修復され、再び動きだすオーボウ、トロン、サイザー、ライエル
その光景を見て微笑むフルートは、かつての母以上の威厳と神々しさを持っていた
まるで、母や兄を初めとした幾人もの偉大な魂が重なり合っているかのような…
1192/6:2007/06/17(日) 21:00:37 ID:???
「おのれ…!小賢しい人間めェェ…我が…道具の分際でェ…!」
よろめきながらも怒りに震えるケストラー
拳を握りケストラーに立ち向かおうとするハーメルたちに、何者かが釘を刺す
「ダメよ!魔力ではケストラーは倒せないわ!憎しみが憎しみをうみ…苦しむだけ!!」
それは、ハーメルたちと同様に生き返ったパンドラ
「信じる力で戦うのよ!!今まで信じてきたものを…信じる力で戦うの…!!」
信じる力と聞き仲間のことを思い出すハーメルに、バイオリンと帽子を渡すフルート
「あなたにはこれしかないでしょ!それにトレードマークを忘れてるわよ!」
「そーだハーメル!お前にはそれしかないぜェ!」「フン!そうだな!」「そうじゃハーメル!聴かせてやれ!!」
仲間たちに後押しされ、ライエルとともに楽器を構えるハーメル
「ライエル行こうぜ!…ケストラー!!貴様には…地獄の交響曲を聴かせてやる!!!」

「おのれェ!!雑魚どもがああ!!!小賢しいわあああ!!!」
激怒し叫ぶケストラーに、ワルキューレが、オーボウが、トロンが、火の鳥、水竜が、皆が一斉に攻撃を仕掛ける
ベートーヴェン作曲交響曲第九番…『第九』
大作曲家ベートーヴェンが耳が聴こえなくなる病の苦しみから復活し…最後に作った名曲
まさに…運命を切り開く…歓喜の如く…!!
ハーメルと出会った時のことを思い出しながら、フルートが歌う
第九第4幕《歓喜の歌》…人々に生きる喜びと勇気を、力を与える曲…!!
フルートにあわせるように、共に歌うパンドラ
「聖女2人のハーモニー!!力がみなぎってくる!!」「力がどんどん湧いてくる!!!」

歌は城の外まで響き、兵士たちの傷を癒し、力を与える
対照的に弱まっていく魔族たちの姿に、さらに勇気づけられ戦う人々
「生命が湧いてくる!!」「わしらも歌おう!!」「まだ戦えるぞ!!!」

皆に会わなければ、赤い魔女のままだったかも知れない…
(ケストラーのようになっていたかもしれない…なあオカリナ…)
皆に会わなければ、未だに泣き虫で両親の仇も取れず…
(こいつ(剣)を握る意味も知らずにいた…)
皆に会わなければ、人間らしくなれずに…
(虚しい日々の繰り返しだったかもしれない…)
1203/6:2007/06/17(日) 21:02:08 ID:???
歌の力で弱まり、確実にダメージを蓄積するケストラー
「人間めェ…道具の…くせに…!仲間?くだら…ん!!その歌をやめろおーーー!!!その曲をーーー!!!」
追い詰められたケストラーを見て、母にバイオリンを渡し演奏を任せるハーメル
帽子を脱いだハーメルの背から、翼がひろがる
それは、黒い悪魔の翼ではなく、白い天使の翼
ケストラーの血を受け継ぐということは、聖女の天使の血も継ぐということ
それは、フルートがいつか夢で見た姿
憎しみで倒すのでなく、運命を切り開くため…
「ケストラあああああああああ!!!!!」
「この……人間めェェェェェェ!!!!!」
ハーメルの拳が、ケストラーを砕く
翼を生やしたハーメルの額には、角はなかった

「そろそろ…頃合かの…」
殴り倒され身動きのとれなくなったケストラーを見て、何処からかオリンが現れる
あからさまに嫌そうな顔をする一行(特にサイザー)はさておき、何かをフルートに差し出すオリン
「これだけ弱らせれば大丈夫じゃろ…ほれ」
それは、新しいパンドラの箱
「聖女の役割じゃ…終いにしてやってくれ。大丈夫…今度のモノは逸品じゃ。何千年経とうが綻び一つせんよ…」
微笑むオリンから箱を受け取り、構えるフルート
すべてが…終わる…
「ぐ…おのれ…にっ…人間…どもめェェェ!!!こ…ざ…か…し…」
最後まで呪詛の言葉を吐きながら、箱に吸い込まれるケストラーだった

北の大地から闇が消え、空が晴れる
ケストラーが出した魔族たちも、砕けて消えていく
勝利を確信し、沸き立つ人々
互いに寄り添い、見つめあうフルートとハーメルだった
戦いは…終わった…
かに…見えた…!!
1214/6:2007/06/17(日) 21:03:07 ID:???
だが…その裏で…恐ろしい計画が進んでいた…のである…!
ヨロヨロと起き上がる、ギータの残された半身の獣
「フフフ…うまく騙せたようですねェ!!超獣王ギータ様は…体が二つあるのですよぉ!!」
王の間にやってきて、ケストラーの血痕をなめるギータ
絶大なる魔族の王ケストラーの能力を取り入れるというギータの野望が今、叶う
最大で最狂最悪の魔力がギータに漲り、その体を恐ろしい魔王の姿へと変える
「人間どもめェェ…!!恐怖を与えてやるゥゥ!!支配してやるぞオオ!!貴様らなぞ道具にすぎんのだ!!」
その時、吼える大魔王ギータの背後に何者かが現れる
「聖母殺人伝説(ジェノサイド・エクストリーム)!!!」
遅れてやってきたコルネットの攻撃により倒される大魔王ギータ
恐ろしい計画はコルネットによって防がれたのだが、そのことを知る者は誰もいなかった…

そして…それから…10年の歳月が流れます…

スフォルツェンド公国、ホルンの肖像画を眺めるクラーリィ
多忙の中、王女が国に残っていれば少しは楽だったのにと愚痴をこぼす法務官パーカス
「それはいいっこなしですよ。あなたも賛成したのですから。今頃…どうしておられるのか…」
そう言って遠い目で空を見るクラーリィに、いつまで独身でいる気なのかと説教するパーカス
「昔は親衛隊の2人もお前に真剣だったのに…今じゃ2人とも主婦だ。一途な気持ちも分かるが…お前の好きな方はな…」
クラーリィが笑顔でごまかしていたその時、子供たちが現れクラーリィを取り囲む
「クラーリィ隊長ーー!」「魔法教えてよー!!」「ヤクソクでしょ?」
パーカスに仕事を押し付け、子供たちとともに逃げ出すクラーリィ
「そーだな、お前たちが将来の…スフォルツェンドを守るのだからなっ!」
子供たちと戯れるクラーリィの姿に、懐かしいものを思い出すパーカスだった
(どうですか?リュート王子…ホルン様…)

再建されたDSで、城下を眺める親衛隊隊長とクルム
10年前、帰る場所のなかった囚人たちを受け入れDSは再建されたのだった
精悍な青年へと成長したトロンは屋根の上でたたずんでいた
ここだと民の笑顔がよく見えるんだと言って微笑むトロンの姿に、涙ぐむ親衛隊隊長だった
(立派になられましたな…。父王と母王に…誇れましょうその剣を…トロン王…)
1225/6:2007/06/17(日) 21:04:00 ID:???
「あなたー、お茶が入りましたわよー♥」
そう言ってテラスでハーブティーを用意していたのは、DS王妃となったコルネットだった
いつの間にそんな事になったのか自分でもよく分からないトロンを尻目に、突然倒れるコルネット
「ゲーーーヘヘヘ!!!!」
邪悪な魔族の姿と化し叫ぶコルネット
「発作だーー!!奥方様の年に一度の発作がぁーー!!王子!とにかくいつものヤツを!!」
「えーーい!!とにかくシーザースラッシュ!!」
なぜこんなのと一緒になってしまったのかと困惑するトロンだった


アンセムの村、女の子が生まれたと家政婦に聞き、喜びながら寝室へと入るライエル
「サイザー!!ああ、サイザー、ありがとうサイザー!」
感動しながらサイザーと赤ん坊を見るライエル
「かわいい女の子…だぞ…」
子供を作るのに命懸けなため、10年もかかってようやく子を授かったライエルだった
背に小さな羽根の生えた赤ん坊を見ながら、子供の名前はもう考えてあると笑う二人
その名前は、オカリナ
おかしそうに笑いあう二人のもとへ、同居していたオリンが現れる
「あーっサイザーさん…めしはまだかえ〜」
オリンはボケていた
「ついに産まれたのね…」
さらに、オリンとともに同居していたパンドラも現れる
赤ん坊を抱きながら、幼い頃のサイザーそっくりだと微笑むパンドラ
「この子が育って…やがて美しい女の子になった時…お前裏切るんだろう!?知ってるんだぞコンチキショーー!!」
ハーメルンの赤い魔女なんかと一緒になって後悔してるんだろうとライエルの首を締め上げるパンドラ
「母さん!!ライエルはそんなこと思ってないぞ!!」
ちょっと母さんに対しての認識を改めていたサイザーだった
1236/6:2007/06/17(日) 21:05:34 ID:???
そして、スタカット村

「母さん早くぅーー!!」
楽器を構えた9人の子供たちに急かされ、慌てるフルート
「ちょっと待ってねー。お父さんがいないのよ…せっかくの家族コンサートなのに…」
その時、どこからかバイオリンの音色が響く
それは、例の黒装束で屋根の上でバイオリンを弾くハーメルだった
「ハハハハどうだ!!父さんかっこいいだろーー!!!」
マヌケな光景にあきれつつも、初めて会った日のことを懐かしむフルート
「もー!いーから降りてきなさい!!子供たちがマネするでしょ!バカね!!」
怒られてすごすごと屋根から下りながらも、子供たちに告げ口するハーメル
「ちェっ、母さんあんなこと言ってるけど、昔は変な着ぐるみ着てたんだぞ。サルとかカメとかF1とか」
恥ずかしい過去をバラされ慌てるフルート
「あーーちょっとお!何よーーー!!バラすことないじゃないのーー!!」
「うるせーー!死のバイオリン聴かせるぞーーー!!」
丸太とバイオリンで殴り合う2人を、呆れ顔で眺める子供たちだった
「結婚記念日くらい仲良くやればいいのに…」「子供なんだから…」「こざかしいなー」

「ホホホ…相変わらずじゃの…」
苦笑いする長老の隣には、センザで買った人形とパンドラの箱の上でうたた寝するオーボウがいた


その昔…パンドラの箱がありました…
そうそして…その箱から…
最後に…

Fin