#248 試練の壺 の巻
九尾の放った炎に晒されたぬ〜べ〜の前に、廃人と化した筈の玉藻が守るように立ちはだかった。
驚いた九尾は自らの放った炎を逸らし、玉藻への直撃を避けた。
よくよく見れば、玉藻には壊れてしまった狐の心とは別にもう一つの心が存在している。
それは、九尾が最も恐れている力。それが玉藻に備わろうとしているのか…
九尾はぬ〜べ〜にもう一度チャンスを与えた。ただし、今回試すのはぬ〜べ〜ではなく玉藻だと言う。
ぬ〜べ〜の前に大きな壺が出現し、ぬ〜べ〜と玉藻はこの中に吸い込まれてしまった。
地面に投げ出されたぬ〜べ〜に大きな岩が倒れ掛かり、両足を負傷してしまった。
心配した玉藻が声をかける。九尾は一時的に玉藻を元の状態に戻したようだ。彼の何かを試す為に…
二人が吸い込まれたこの壺は、妖狐族の「試練の壺」。出口まで行けば出られるが、そこに至るまで
様々な試練があり、力を試されるという。力の足りない者は死ぬしかない。
そういう事ならば負傷した自分は置いて行けとぬ〜べ〜。だが玉藻はぬ〜べ〜の上にのしかかった岩を
どけようとしている。敵である自分の為に九尾様に申し立てをした行為をもって「大バカ者」と言いながら。
岩をどけるのに四苦八苦しているうちに、遠くから二人をめがけて大量の水が押し寄せてきた。
どうやら今いる場所は川底だったようだ。ぬ〜べ〜は玉藻に逃げるよう促すが、玉藻はぬ〜べ〜を殺させは
しないと救助を続ける。そんな玉藻の胸に、光が輝いていた。
玉藻はどうにかぬ〜べ〜を救助して川岸にたどり着いた。ぬ〜べ〜の事をバカと言いながら自らも
危険を顧みない行為に出た事を、ぬ〜べ〜のバカが伝染したようだと軽口を叩く。
試練はこれだけでは終わらない。溶岩の流れる川にかかった朽ちかけた吊橋や、火山の噴火による
噴石の雨など、様々な罠が二人を待ち受けていた。玉藻は「自分を置いて行け」としつこいぬ〜べ〜を
抱えてこれらの罠をことごとく突破していった。
玉藻がぬ〜べ〜から学び取ろうとしたのは、人間の愛…しかしそれは玉藻にとって未だに理解しきれない。
だが、これだけは言える。「あなたに死んでほしくない」自分を超えるぬ〜べ〜の力を完全に理解するまで…
ぬ〜べ〜を背負って絶壁をロッククライミングしていると、麓から妖怪が飛んできて二人を襲った。
すると、ぬ〜べ〜が「これ以上足手まといになるのはごめんだ」と、自ら玉藻の手を振り払って身を投げた。
玉藻はすぐにぬ〜べ〜の手をつかみ、しっかりと捕まえた。
「あなたを決して殺させはしない!
たとえこの命削られようとも…殺させはしない!」
その時、再び玉藻の胸に強い光が輝き、襲ってきた妖怪を消滅させた。
この心が発するエネルギーは壺の外にまで達し、九尾を驚嘆せしめた。
遂に、玉藻はぬ〜べ〜を連れたまま壺から脱出した。
それと同時に壺は砕け、ぬ〜べ〜の足や傷が治った。しかし玉藻は力尽きて倒れてしまった。
一体玉藻の何を試そうとしたのか、俺達をオモチャにしただけだろうと、ぬ〜べ〜は九尾に食って掛かる。
九尾が試したかったのは、玉藻の中にある人間の心だった。
九尾はかつて三度人間に敗れた。力ではずっとまさっていたにも関わらずだ。
人間が九尾を破った際の恐ろしい力…それは、他者を思いやる時に何十、何百倍もの力を発揮する事。
九尾はそれを恐れていた。しかし、玉藻は妖狐でありながらその力を手に入れつつある。
もしそれが手に入れば、妖狐族の未来にとって大きな力となるだろう。
玉藻に妖狐の未来を見出した九尾は、自分の尻尾の一つを千切って玉藻に与えた。
これを受け、玉藻はすぐに復活した。今まで以上に力があふれてくるようだ。
玉藻は九尾から、妖狐も人間も超えた力を手に入れるようにとの勅命を受けた。
九尾の尻尾があれば人化の術を完成させずとも人の姿でいられるというサービスつき。
玉藻はうやうやしく礼を述べる。
玉藻とぬ〜べ〜は、互いを素晴らしいライバルだと称え合い、殺生石の外へ出た。
生徒達やゆきめから祝福を受け、石蕗丸と別れて一行は那須野の地を後にするのだった。