だが、予想に反して竜崎は特に怒る様子もなく、月の頬を指先でゆっくり撫でるだけだった。
──なんのつもりだろうか。
月は思う。
捕らえられ以来、竜崎が月に優しく接してくれたことなどない。しかも、昨日あれだけひどいことをされたのだ。だから、今の竜崎の態度が、月は気味悪くてしかたがない。
「今日は、ゆっくり休ませてあげましょう」
低く、笑いながら竜崎が言う。
「昨日は少し無茶をしましたから……私も、少々疲れています」
ククク、と竜崎の喉が鳴る。その笑い声が忌々しい。
自分を見下ろしてクツクツ笑う竜崎を、じっと睨み付ける。
指一本動かせない今の月には、竜崎に抵抗する術は視線しかなかった。
「──…………あぁ、その眼……」
不意に、笑っていた竜崎が笑みを消した。
「私は、その眼が大嫌いなんですよねぇ……」
竜崎の長い指が、月の輪郭をなぞる。
「……本当に、可愛げのない……昨日、あれほど思い知らせてあげたのに……」
輪郭をなぞった指が、月の顎を捕らえた。
輪郭をなぞった指が、月の顎を捕らえた。
「…………そうですね。もう一度おさらいしましょうか?」
無感情な竜崎の表情に、再び笑みが表れた。暗く冷たい微笑みで、月を見下ろしている。
「自分がどんなに惨めで浅ましいのか……君は知る必要がある……」
微かに首を振って拒絶を示すと、竜崎はまた笑った。
その笑みに──月の心を、絶望が覆った。