意味がわからなかった。ベッドの端に蹲って、月は竜崎に視線を向けた。
「薬の効き目は約一時間……さぁ、そろそろ効いてくる頃ですね」
「なに……薬って、なにを……――――ッ?」
問い掛けへの回答は、月の身体が返してきた。
「え……、ぁ、あ……っ?」
突然、鼓動が激しくなった。下半身が重く熱い。特に、中が焼けるように熱い。
「……では始めましょうか」
「な……僕に、なにをした……っ!」
全身から一気に吹き出す汗を感じながら、月がふり絞るように怒鳴りつけると――竜崎は薄く笑って、言った。
「ただの催淫剤ですよ。かなり強力なモノですが。――では、ただ今より、スタート」
「――――――」
催淫剤。
信じたくない言葉に、月はただ呆然と竜崎を見上げていた。
◆◆◆
どのくらいの時間が経ったのだろうか。
「ぁ……っ、……く、ぅ……っ」
ずるずると、立てない腰を引きずるように、月は廊下を這いずるように移動していた。
――竜崎の仕掛けたハンデは強力で、月はあっという間に立てなくなった。身体の奥深くから抗いがたい快感の波が、絶え間なく全身に広がり、浸食していく。
(痒い……)
身体の中が、奥が痒い。痒くてたまらない。いつもは竜崎に犯されて痛みしか感じない内部が、今は何かに掻き回されたいと望んで、たまらなく疼いている。
「ぁ……、ん、ぅ……っ、んっ……」
動くだけで全身を快感が貫く。毎晩のように犯されながらも、達することのなかった月の性器も、今は腹に付くほどに反り返って、たらたらと濡れている。
(痒い……でも、)
――それでも、月は耐えた。常人ならとっくに薬に負けてなりふりかまわず快楽に溺れているだろうが……元々性欲が淡泊だったし、竜崎から強姦を受けたことで、性行為に対して強い嫌悪感を抱いている。そのせいあってか、月は薬への強靱な抵抗性を示していた。
「二十分経ちましたよ」
――なんとかエレベーターホールに辿り着いた時、背後から声をかけられた。振り返る気力も余裕もない月は、壁にすがりついてボタンを押すことにだけ集中した。
「ちゃんと効いているんですかね……?」
「――ッ!」
唐突に触れられて、月の身体がビクンと跳ねた。
竜崎の指が無遠慮に月の尻に触れ、疼き続けている奥の入り口を空気にさらした。
あまりに身体全体が震えるので、腕と脚で自分の身体を支えきれず、月はがくりと床に崩れ落ちた。結果、捕らえられたままの腰を高く掲げて、竜崎に差しだした姿勢になってしまい、月は羞恥と屈辱に拳を握りしめた。
「や……あ、あぁ……っ!」
つるりと、なにかが入ってきた。
──竜崎の指だ。
意識した瞬間、信じられない快感が、月の背筋を脳天まで貫いた。
「ああああぁ……──!」
勝手に喉から悲鳴が迸った。身体が反り返って、ビクリと硬直し──そして、数度痙攣した後、弛緩する。
竜崎の指を突き立てられた瞬間に、達してしまったのだ。
「……ちゃんと効いているみたいですね。指入れただけで、イクなんて……」
クスクスと、竜崎が背後で笑っている。突然の射精に身体中を弛緩させて、月は信じられない出来事に呆然と目を見開いていた。月の中に入れた指を引き抜いて、竜崎は月の身体から手を離し、また笑う。
「──あぁ、エレベーター、きましたよ」
言われても、月は動けなかった。床に這いつくばったまま、瞬きを忘れた瞳から止めどなく涙を流し、ただ震えていた。
──今まで、竜崎に何度も犯されてきた。
でも、月は一度も達したことがない。
竜崎が月をいたわることがない、というのも理由だが……同性との、しかも同意ではない性交で快楽を感じるわけがなかった。
だから、月は達したことがなかった。
そしてそれは、月が唯一、竜崎に対して屈していないという支えになっていた。
なのに──いくら薬のせいだとしても、信じられなかった。
竜崎の指に反応して簡単に射精した自分を、月は信じたくなかった。
「逃げるんでしょう?」
床に蹲り、ただ泣きながら震える月の頭上で、笑い混じりの声が聞こえる。
「逃げるなら、本気で逃げないと……」
また、腰を掴まれる。
「動けないほど、よかったんですか……?」
さっき指を入れられた場所に、触れられる。やんわり撫でるだけの動きに、また奥が疼く。
「震えてますね……」
くすくすと笑いながら、竜崎の指が月にやんわり触れる。やめろと言いたいのに、声が出ない。逃げたいのに、身体が動かない。──いや、動かないのではなく……さらなる刺激を求めて動こうとする。