月の逃亡はあっけなく終わった。
泣き崩れた身体は、軽々と竜崎の肩に担ぎあげられ、月は部屋に連れ戻された。元々月も竜崎も同じくらいの体格だったはずなのに、今の自分の貧弱さを改めて知り、歯痒さからの涙が零れた。
部屋に戻ると、竜崎は月を乱暴にベッドに落とし、そのまま一度部屋を出ていった。――ややあって戻ってきた時、竜崎の手には黒い手のひら大のケースがあった。
「な――なにする……っ?」
いきなり足首を掴まれて、月はちいさく悲鳴を上げた。
「おや? ゲームするんでしょう?」
「ゲーム……?」
「逃げたいんでしょう? ゲームに勝てば逃げられるんですよ?」
「だから、ゲームって……――アッ」
掴んだ足首をぐいっと開かれ、月は再び短い悲鳴をあげた。
「ルールを説明しましょう」
身体に巻いていたブランケットをはぎ取られた。反射的に抵抗した身体を、竜崎は簡単に押さえ込み、持ってきたケースを開けた。
「一時間差し上げましょう。スタートから一時間の間、私は逃亡の阻止を一切しません。あらゆるロックを解除し……あぁ、もちろんエレベーターも作動させましょう」
「……で、逃がしてやるって? 冗談だろ。何を企んでる?」
――どういうつもりだ。 とても鵜呑みにする気になれない竜崎の言葉に、月は首をひねって振り返った。すると、竜崎はくすくすと笑いながら、手にしていたケースの中から、指ほどの太さのチューブのようなものをつまみあげた。