#196 翼をもつ少年 の巻
我々人間は、ずっと昔から時間と規則に縛られてきた。
でも、ずっとずっと、ず──っと昔はどうだったんだろうか。
今回はそんなお話。
ぬ〜べ〜の元に、ある会社の取締役が子供を預けに来た。笑顔の素敵な元気そうな子だ。
この子は彼の実子ではなく遠縁の子を引き取ったものなのだが、なにやら訳ありらしい。
この子は小さい頃に両親を亡くし、山奥で人間社会と隔絶した生活を送る祖父に引き取られた。
しかしその祖父もすぐに寝たきりになり、この子は実質、山奥の自然の中で誰にも会わず
自給自足で生きてきたのだ。取締役が訪ねて行った時には既に祖父も亡くなっており、
本当に一人になっていた。その為、この子は人間社会というものを何一つ知らずに大きくなったのだ。
幸い知能は高く、既に読み書きは人並みに出来るので後は学校教育で人間社会に戻したいという事だ。
そういう訳で、この新島兼太はぬ〜べ〜クラスに転入してきたのだった。
自己紹介を兼ねてなにか芸をやれと沸き立つ生徒達に兼太が披露したのは普通のお手玉。
期待はずれに思っていると、お手玉がすっぽ抜けて外に飛んでいった。
兼太はこれを拾いに出たが…飛んでる!?宙に浮いて、木の枝に引っかかった玉を拾い、平然と戻ってきた。
途端に沸き立つクラスメイト。天津飯の親戚か、はたまた鬼型宇宙人の血筋なのか。
とにかく、この能力は紛れもない空中浮揚だ。密教などでは本当にある術らしいが…
一体どこで習ったのか聞いてみるが、当の兼太は自分の能力が特殊なものだという事に気付いていない。
鳥や虫だって飛べるから、他の人も飛べて当然と思っている。
この能力のおかげですっかりクラスの人気者となった兼太だが、常識を知らない為問題行動も目立った。
授業時間になっても教室に戻らず鳥と戯れていたり、給食室で配膳前の給食を食い散らかしたりと困り者。
兼太は指導室でぬ〜べ〜からこってり絞られ、常識について説かれた。
直後、外で飛ぼうとした兼太は力を失って墜落、保健室に運び込まれてしまった。
ぬ〜べ〜はそれほど強く叱ったつもりはないが、現に兼太の気は異常に減っている。
(そうか…この子は…)
ぬ〜べ〜は取締役に、兼太を山に帰すよう促した。
それを聞いた取締役は、兼太が社会に適応できないダメ人間だと言われたと思い気分を害した。
ぬ〜べ〜が言いたいのは、兼太には素晴らしい力があり、それは人間社会という枠組みでは
失われてしまうという事だった。しかし取締役には理解できなかったようで、学校を辞めさせ兼太に
独自の教育プログラムを施す事にした。
兼太は地上20階の部屋に缶詰にされ、徹底的に管理されたスケジュールに取締役の用意した
まじめ〜な友達に囲まれて過ごしていた。童守30ビルの展望台から覗くぬ〜べ〜達も心配している。
その夜、山での生活が恋しい兼太は窓を破ってビルの上から飛び降りてしまった!!
連絡を受け、ぬ〜べ〜は急ぎ病院に駆けつけた。
社会復帰のために最善を尽くしたつもりだったが、何が悪くて自殺など…と、取締役。
それに対し、ぬ〜べ〜は食ってかかった。兼太は自殺しようとして飛び降りたのではなく、普通に飛ぼうと
しただけたと。しかし、その力が残されていなくて墜落したのだ。その力の源を取締役が奪ったから。
その源とは…「自由」だ。
兼太の力は超能力や霊能力では語れない。それは、自由の力。人間は誰しも自分の心を「常識」という
鎖で縛って生きている。もしその鎖から解かれ、真の自由を得られたらどんな事も出来るのかもしれない。
故郷の山に連れて帰ると、兼太は力を取り戻し傷も見る間に回復していった。
彼を縛るものはもう何もない。元気に空を飛びまわる兼太であった。
それは、人が人間社会で暮らすために失ったもの それは…