#195 「泥」 の巻
童守小6年生の生徒、尾崎信子ちゃんが交通事故で亡くなり、葬儀が行われていた。
棺の前では親友の沙知代が号泣しており、その前を離れようとしない。
二人は一生離れないと誓った仲らしく、その悲しみようは尋常ではない。
火葬を済ませ遺骨を骨壷に収める際、沙知代は信子の遺骨を一片掠め取った。
次の日の夜明け前、沙知代は雨の校庭で、以前から信子と交わしていた約束を実行に移していた。
それは、どちらかが先に死んだら本に載っている「ゴーレムの秘術」で相手を蘇らせるというもの。
ヘブライ語で「真理」を意味する「emeth」と書いた札と人の骨を用意し、それを泥で作った人形に入れる。
沙知代は花壇の土を人の形に成し、骨を心臓の位置に、札を口に収めた。そして呪文を唱える…
しかし、術はうまくいかず人形は土くれのまま変化がない。沙知代は失意のまま校庭を去った。
直後、人形に変化が現れた。その顔にははっきりと目玉が現れている。
翌日登校してきた生徒達は、校舎内のあちこちが泥にまみれているのを見つけた。
これぞまさしく泥棒の仕業?
異常は泥だけではない。学校で飼っている金魚やハムスターなどの小動物も被害にあっていた。
タチの悪い学校荒らしだろうか。警察に届けようと思ったその時、通風孔から泥が飛び出したように見えた。
しかし確認しても異常はない。錯覚だったのだろうか。
沙知代が現れ、信子が生き返ったのだと発言する。その時、6年生のクラスから悲鳴が聞こえてきた。
駆けつけてみると、昨日葬式したばかりの信子が机に座っているではないか!!
体を動かさず、首だけでゆっくりとこちらを振り返る信子。その口から食べかけの鳥がこぼれる…
信子は沙知代の肉を欲し、戸惑う沙知代の腕に噛み付いた。
ぬ〜べ〜に引き剥がされると、信子は異常な笑い声を上げながら天井に張り付き、泥と化した。
信子はぬ〜べ〜にゴーレムの秘術を行った事を明かした。
ゴーレムとはユダヤ教の尊師が動かす泥人形の事だ。
その秘法が記された本は、祖父が古本屋を営んでいた信子から貰った物で、非常に詳しく書かれていた。
信子と沙知代は親友同士、離れたくないあまり互いが死んだら骨を手に入れてこの術で生き返らせるよう
約束していた。その気持ちはぬ〜べ〜にもわかるが、ゴーレムは所詮ただの泥人形で、蘇生術ではない。
つまりあのゴーレムは信子ではなく、まったく別の化け物だということだ。
書物によれば、ゴーレムは本物の肉体を欲して生きた肉を喰らい出すという。
その時、校内のあちこちに大量の泥が流入してきた。どうやらゴーレムが無差別に人間を襲う気のようだ。
ぬ〜べ〜は生徒達に避難の指示を出したが、沙知代はゴーレムの正体を確かめるために単身
泥の中に向かっていった。泥に向かって信子の名を呼ぶと、多くの顔が沙知代の名を呼び返す。
正気に戻ってとの沙知代の訴えに、信子は肉を食わせろと返し襲い掛かってきた。
ぬ〜べ〜がこれから助けて沙知代を連れて上の階に避難するが、ゴーレムはしつこく追ってくる。
図工室に立てこもったが、泥が入ってくるのも時間の問題だろう。
ゴーレムに鬼の手は通用しないらしく、倒す方法は一つしかないそうだ。
窓の外に気配を感じて振り向くと、そこには巨大なゴーレムが沙知代を求めていた。
その姿はまるで腐った巨神兵のようだ。ここへきて、沙知代はようやくこれが信子でないことを理解した。
肉を求めるゴーレムはついに窓を破って手を伸ばしてきた。
ぬ〜べ〜はこれを倒すべく工作用のカッターを手に取った。
大きく開いたゴーレムの口に手を突っ込むと、その舌に張り付いていた札をカッターで切り取る。
「emeth(真理)」と書かれた札から「e」を切り取り、「meth(死)」に書き換えると
ゴーレムは悲鳴をあげて崩れ去った。
旧約聖書によれば、神は泥をこねて最初の人間アダムをつくったという。
後に人間がこれを真似て作ったのがゴーレムなのだが、所詮、人に命を作り出すことはできないのだ。
生きている人間が死んだ信子にしてやれるのは、天国での幸せを祈る事のみである…