7.最後の出発
「出席番号31、ザジ・レニーディ」
「…」
ついに最後の一人となり、ザジが最後の出発者として呼ばれた。
無言で立ち上がり、メイクを施された顔でザジが前に歩み出る。
ガンドルフィーニに歩み寄るザジを見て兵士たちは銃を構えるが、ガンドルフィーニは手で静止する。
「何かな?下手な行動は無意味だぞ」
「一つ…確認させてください」
突然刹那と同じような内容で問いかける。
「なんだ?」
「全員がスタートした30分後に、この教室を含む学園周囲一帯は禁止エリアになりますよね。そして一人づつバックを持って出て行く」
ザジは先ほど説明したセリフを繰り返す。そして、一拍おくと再びザジは喋り始める。
「…説明は以上でした。…つまり30分以内なら、この部屋に再び入ってくるのも可能ですね?」
「む……」
ガンドルフィーニは少し考える。
ザジの表情からは何も読めないために、何を考えているのか分からないのだ。
「まさか武器を持って再びこの部屋に入ってくるという意味か?」
「そう言う意味ではありません」
ガンドルフィーニの答えを否定する。そしてザジはガンドルフィーニに向けふたたび喋り始める。
「バックは一人一つ…。でも今、バックは二つあります」
ザジはそう言って、背後にあるバックを指差す。
ガンドルフィーニの後方。そこにはデイパックは確かに二つ存在していた。
「つまり一つ持って部屋を出た後…、30分以内ならこの部屋に入ってもう一つ持って行ってもいいということですね」
デイパックは人数分用意されていた。だが一つ余っていた。
つまり先ほど殺された生徒の分のデイパックが余りとして確かに存在していた。
「なるほど、説明不足だ」
これは盲点を突かれたなとばかりに眼鏡をかけ直すガンドルフィーニ。
「残念ながら校舎は30分の禁止エリアになるが、基本的には進入禁止だ。蜂の巣になりたいのなら別だがな」
そこで言葉は一旦切られる。
「…だが発想は悪くない。かまわんよ。バックを二つ持って行きたまえ」
その言葉を最後に、教室を奇妙な静寂が支配する。
こうして、ザジはデイパックを二つ持って教室を出て行った。
校舎の出口、いつも見慣れた下駄箱。並んでいる兵士たちが銃口が自分を狙っている。
ここでは本当に下手な動きは取れない。取る気も起きないのだが。
ザジは思い切って校舎の外に出た。
そのバックの中には、地図、食料品、そして鉄製のヌンチャクが入っていた。
「…」
鉄製の武器なら何度も殴りつければ殺せるかもしれないがリーチが短い。
正直言って当たりと呼べる分類とは程遠い。
「…」
もう一つのデイパックの中身は果物ナイフ。辛うじて武器と呼べるものが出てきた。
とりあえず自分はゲームに乗るのか否か、考えても答えは出て来ない。
「…」
ザジは沈黙する。たった3人しか生き残れない、説明ではそう言ったのだ。
(…行かなきゃいけない)
二つ分の中身を移し変えたデイパックをしっかり肩にかけ、瞳の奥に決意を漲らせて。
「…」
大きく息を吸った。
(今はただ前へ……!)
果物ナイフの刃を畳み、いつでも使える体勢にする。
そして勢いよく、自分が何をするべきかを確かめながら現実へと飛び出した。
【残り29人】