ネギまバトルロワイヤル12 〜NBR]U〜

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145作者1 ◆0Z3l12M4xM
14.第1回定時放送

ゲームが開始して約6時間。早朝6時。
本来なら麻帆良学園祭3日目であったはずのこの場所で、今行われているのは殺し合いゲーム。
疎らに置かれてある学園祭の出し物がその場に散乱していた。
誰もいないこの場所は、虚像の空間であることを意味している。

夕映は考えていた。
このゲームを管理しているのは魔法先生の人たちであることは間違いない。
現に地図に記された禁止エリアには、初めから入れない場所が記入されているからだ。
その場所は世界樹を中心に、六ヶ所のエリアが禁止となっている。
そこの部分を結ぶと、まるで魔方陣の形となるように…
だが動機が不明だ。ネギから聞いた超鈴音(出席番号19)の計画を阻止するという名目ならばこんなことをしないはず。
ならば何故こんなことを…?
超を始末したいのなら超だけを狙うはず、だが殺すどころか自分たちと同じ立場でスタートされているのも不明。
考えれば考えるほど混乱する。
流石に頭が痛くなってきたため、丁度時間的にもいいだろうと考え店の奥に入る。

「…柿崎さん。朝です」
「…………ん、おはよう夕映」
時間になり綾瀬夕映(出席番号4)は柿崎美砂(出席番号7)を起こす。
美砂はまだ寝たりないのか、のっそりとした動作で体を起き上がらせる。
「ふぅ……」
流石に昨日の出来事が本当だったかと考えて辺りを見渡す。
しかし3時間前のままであり、さらにすべてを現実に戻す出来事が起きる。
146作者1 ◆0Z3l12M4xM :2007/03/01(木) 23:09:58 ID:???
『おはようございます。それでは一回目の放送を始めます!!』

(始まった…。お願いです、今だけは誰も死なないでくださいです…)
スピーカーから響く声に嫌悪し眉をひそめながらも、地図とペンを取りその声に聞き入る。
『まずは死亡者からだ。出席番号14番早乙女ハルナ、27番宮崎のどか。以上2名!始まってこのペースは遅いな、もっと積極的にならないとタイムアウトするぞ』
放送を聴き夕映は愕然とした。
「ゆ、夕映…今の放送……」
「そ、そんな……のどか」
また大事な親友が死んだ。そんな嘘のような出来事に夕映は激しく打ちのめされる。
次第に手が震え、手から持っていたペンが滑り落ちた。
しかし、そんな悲しむ夕映を無視するかのごとく放送は続き、禁止エリアの発表へ移っていた。
『―…Cの2、11時Gの4。以上だ!!では頑張って生き残るように、生き残れるのは3人だから焦るなよ。それじゃあ頑張るのだな』
放送が終わり、自分の現在地が禁止エリアに入っていない事を確認すると、美砂は安堵の溜め息を洩らす。
だが夕映だけは未だにその現実を受け入れられない。

美砂は禁止エリアに印をつけると、生徒名簿に移る。
そして、宮崎のどか(出席番号27)の欄を見てそっと手を合わせ、斜線を入れていく。
「夕映…」
信じられない。のどかが死んだことが。何故、誰が殺した?それとも自殺?
どっちにしろ早乙女ハルナと宮崎のどかはもうこの世には存在していない、それだけだ。

「うわあああああああッ!」
「ゆ、夕映!!」
形容しがたい激情が脳天を直撃した。耐えきれず夕映は絶叫し、静止しようとした美砂を跳ね除けてどこへともなく駆け出した。
(死んだ!のどかもハルナも!)
店の外へ出て闇雲にかけぬける。細い路地を駆け、小さな体に似つかわしくない速度で夕映は疾走した。
(……死んだ!…死んだ!死んだ!!)
「うあッ!」
夕映は転倒した、何かにつまづいたのだ。
147作者1 ◆0Z3l12M4xM :2007/03/01(木) 23:10:47 ID:???
勢いが付いているためものすごい速度で地面を転がった。
「う…うぅぅ…」
手のひらと膝がずきりと痛んだ。転んだ拍子に擦りむいたらしい。
激しく擦り剥いたせいで傷口はズキズキと痛む。
(痛い)
痛みを感じる、自分は生きている。
(だけど…)
夕映は一人になってしまった。あの3人だったあの頃にはもう戻れない。
ハルナものどかも死んでしまったのだ。
始まってたった6時間。大事な親友は二人とも殺されてしまった。
虚無感が夕映を包み込む。親友に出会う前に先立たれ、自分を何をすべきなのだろうかと。

……ザッ……
圧倒的な孤独に打ちのめされる夕映の耳が、異質な音をとらえた。
ザッ、ザッ……
紛れもなく足音だ。何者かの足音が近づいてくる。
夕映は己の運命を悟った。
(そうか、私もここで死ぬ運命なんです)
ハルナが死んだ。それだけでもショックだっていうのにさらにのどかというダブルパンチ。
ここまで食らって夕映は正常な感情を失いそうな気分だった。
ネギのことで茶化すハルナや、真剣にネギとの愛を親友として認めてくれたのどかはいない。
いきなりその2人を失い、そのまま1人で生き延びて何になるというのだろう?
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ
足音は迷うことな夕映を目指して走って近づいてくる。
ハルナ、のどかと来て今度は自分。何だかあっけなさ過ぎて逆に笑ってしまう。
顔を上げる前に足音は夕映の手前で止まった。
「お願いです。私を殺してくださいです」
その言葉に足音は一歩後ずさりするような感じがした。
「……」
息をのむ気配がしたが、返事はない。かまわず夕映は独り言のように続けた。
148作者1 ◆0Z3l12M4xM :2007/03/01(木) 23:11:42 ID:???
「さっきの放送、聞いたですよね?私の仲間は死にました。大切な親友を失って自分は何もぜずに生きてました。
 もう意味はないです…。殺してください。私が死ねば、1人分の誰かが生き残れるはずです。
 私には復讐なんてできません、死を望んでます、もっと生きたいって思ってる人のために使ってくださいです。
 こんなの……一人で生きていくのなんて無理です……」
夕映の頬を、涙が伝った。

ザッ

止まっていた何者かの足音が、再び夕映に向かって近づいてきた。
(あぁ、これで、楽になれる)
滲む視界の端に、靴のつま先が映って…そして、夕映の前で止まった。
「ウチを忘れとらんか?……夕映」
(え?)
夕映は顔を上げた。彼女が、確かにそこにいた。
ひどく懐かしい、今日会ったばかりなのに、もう何年も会っていなかったように懐かしい顔がそこにあった。
「はは……申し訳ないです……」
夕映の頬を、新たな涙が滑り落ちた。
「本当にごめんなさいです、忘れてたですよ…」
そこで夕映は、自分が嬉し涙で泣いていたことを初めて知った。

(そうです、私はまだ、一人じゃなかったんです……)
ずっと忘れていた、図書館探検部は4人だということを。
あの3人でいることと、彼女は神楽坂明日菜(出席番号8)らといることが当たり前すぎてついつい存在を忘れてしまっていた。
夕映の目の前に近衛木乃香(出席番号13)が、確かにそこに立っていた。まだ夜が明けたばかりの太陽の光をぼんやりと背に受けて。
その後ろには桜咲刹那(出席番号15)しっかりと夕映を見つめていた。


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