10.疑心暗鬼
長谷川千雨(出席番号25)は、少し学園から離れた所にある小さな森の中にいた。
特に親しいクラスメイトなどいない千雨だが、何も出来ずに死ぬなんてもってのほかだ。
だがこの状況を打破できる手段も思いつかない。
外に出ても、誰の姿も見当たらなかった。
(せめてハカセの背中ぐらい見えるかと思ったのに)
出発地点付近で隠れていることも考えないではなかったが、危険の方が多い気がした。
何故なら、校舎を出るや銃声を聞いたから。
(待ち伏せ?一番手っ取り早い方法だよな)
あれは誰だったのだろう。血の気の多い連中だ、衝動的に発砲もしかねない。
千雨はデイパックを開いた。中から出てきたのは台所などで当たり前のように置いてある包丁。
「…本当に殺し合いをさせるつもりなんだな」
事実、スタートする前に生徒一人が殺された。だが、まだ千雨の理性がそれを認めることを拒んでいる。
(どうしてこんなことになったんだ!?)
舌打ちをしながら森を進む。デイパックの中にあったいつも見慣れたはずの学園都市の地図を片手に。
(信じられるのは誰だ?)
心の中で、様々な顔を思い浮かべる。
千雨はクラスの中でも一際浮いた存在だった、特に親友がいるわけでもなければ親しい人間もいない。
常に一人ぼっち、そんな自分もネットの中ではトップアイドルだった。それだけで十分だった。
そんな千雨が心の中で信じられる誰かを模索していた。
あの魔法先生(ネギ)と一緒に居るバカレッドの神楽坂明日菜(出席番号8)か?無理だ。
あいつは考え方が単調で、考えるより先に手が出る。そんなことで他の連中と誤解を招いてそれが自分に降りかかったら?
そんないつ暴発するか分からない爆弾を持ってるなんてごめんだ。
ならば率直に武道四天王の誰かを味方にすればいい。
龍宮真名(出席番号18)は無理、あいつは何を考えているか読めない。
下手に背中を向いたまま撃たれかねないからだ。真名は除外。
ならば古菲(出席番号12)か長瀬楓(出席番号20)?明日菜と同じバカレンジャーで親しみを向けて近づけば味方にしやすい。
だがこんな私を受け入れてくれるかどうかが疑問。
魔法を知りたてで、何の関連性も無い自分を守ってくれなどと虫のいい話を持ちかけられるだろうか。
その点を考えるならば桜咲刹那(出席番号15)がいいだろう。
堅物のイメージが強かったが、徐々に緩和していき今ではお人よしの域に達している(千雨視点では)。
彼女の親友である近衛木乃香(出席番号13)を引き合いに出せばうまいことこちらに引き込めるはずだ。
だがそれには木乃香を刹那より先に見つけて取引をしなくてはならない。
(近衛を見つけてあいつの前に出さなきゃ、私の安全は保障されない………だけど、もしも二人で私を殺しに着たら…)
結局八方塞りになり、自分の身は自分で守るしかなかい結論に達する。
「敵は、誰だ?こんな所で死んでたまるものか。絶対生き残ってやる!」
千雨は絶対死なないと決意を秘め、武器である包丁を強く握り締めた。
そこには、疑心暗鬼に陥っている自分に気づいた。
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