雨の日、海や池や川など水辺のそばにそれは現れる。
それは一見美しい女性に見える。そして、声をかけると笑いかけてくる。
そこでうっかり笑い返すと…そいつは一生あなたに取り憑いて離れなくなる…
#135 濡れ女子に恋した男 の巻
それは妖怪濡れ女子。彼女に取り憑かれると周りは常に湿気を帯び、家具も家も腐り挙句に湿気の為
重い病気にかかって命を落とすという…まさに恐ろしい、陰湿な妖怪である。
じとじとと雨の降りしきる童守町。
不快指数100で、ぬ〜べ〜も極悪妖怪相手に憂さを晴らしたがっている。
丁度いいタイミングで、校長から除霊して欲しいと訴えるカップルを紹介された。
太った男性の隣に、全身じめじめの黒髪の和服女性が座っている。この女はタチの悪い妖怪だからすぐに
除霊しようと張り切るぬ〜べ〜。ところが、除霊を頼み込んだのはこの女性の方だった。
この男から引き離してと涙ながらに懇願する女性と、嫌らしい顔で女性に迫る男。
念のために確認するが、やっぱり女性が妖怪で男性は人間のようだ。なんだか複雑な事態…
女性は「濡れ女子」というれっきとした妖怪で、雨の日に笑い返してきたこの男に取り憑いたのだという。
でもまさか、取り憑いた男がこんな…キモオタブサメンだったなんて…orz
男の部屋は濡れ女子が取り憑くまでもなく既に腐海と化しており、男はそんな部屋で平気で生活している。
この男は濡れ女子も驚く程、超陰気で、不潔で、友達もおらず、外との交流も殆どなく、その上驚く程タフで
図太くて、一日中家の中で過ごし、おまけに濡れ女子に自分の趣味の変な服を強要するのだった。
とにかくもう一秒でも一緒にいたくないのだが、体が丈夫で自分の能力では取り殺す事もできない。
そこでぬ〜べ〜を頼ってきたのだった。
とはいっても、濡れ女子という妖怪は…そう言ってぬ〜べ〜は妖怪解説機(美樹)のスイッチを押した。
濡れ女子は、水難で死んだ漁師や水辺で働く人の妻達の、帰らぬ夫に対する悲しく強い思いが
作り出した妖怪だ。だから帰らぬ夫の代わりにしつこく取り憑くのだ。
濡れ女子が取り憑くのはそうした女たちの強力な念によるもので、これを無理に引き離すには、
彼女自身をこの世から抹消するしかない。
引き離すぐらい簡単な事だろうと生徒達が試しに濡れ女子を引っぱってみると、まるで強力な磁石でも
あるかのように、濡れ女子は男の下に引き寄せられてしまった。
結局力になれず、帰っていく二人を見送るぬ〜べ〜だったが、その表情はなぜか険しい。
こんな男に取り憑いたのでは、妖怪だって生き地獄だ。
一刻も早くこの男から離れたい濡れ女子に、天啓のようにあるアイデアが閃いた。
そう、なにも妖怪として取り殺さなくても、この男を普通に殺してしまえばいいのだ。
心配で追ってきたぬ〜べ〜達が止めに入るが、もう遅い。
濡れ女子は土手の上から車道に向けて男を突き落とした!
男は階段を転げ落ちていく。それに引きずられるように、濡れ女子も一緒に落ちてしまった。
こうなる事くらい予想できただろうに…
二人揃ってトラックの前に転がり出た。トラックは横転し、男は腹を中心に酷い出血だ。
郷子は急いで救急車を手配する。
一方の濡れ女はというと、積荷の袋に脚を挟まれて動けないでいた。
さらに、破れた袋から塩がこぼれて濡れ女を襲う!水分を吸う塩は濡れ女子にとって劇薬と同じだ。
濡れ女子の体は見る間に溶けていく。皆で助けようとするが、足は抜けないし妖力もどんどん抜けていく。
「死なせはしない…君を死なせはしない…」
いよいよダメかと思われたその時、男が立ち上がった。
自分も腹が破れているというのに、死も恐れずに力を振り絞ってトラックを持ち上げる。
男は、濡れ女子の存在が嬉しかった。例え仕方なくにせよ、世間から外れ誰からも相手にされない
自分の側にいてくれたのだから。そんな彼女を救うためならば…
「君のためなら…死ねる」
男はトラックを起こすと、濡れ女子を抱えて川に飛び込んだ。濡れ女子の目から涙が溢れる。
男の真剣さに打たれ、濡れ女子は考えを改めた。
一生取り憑いて、何十年かかっても取り殺してやるとうそぶくが、どう見ても男に惚れている。
人間と妖怪のカップル…うまくいけばいいと見守るぬ〜べ〜の脳裏に、ゆきめの顔がよぎるのだった。