#132 ぬ〜べ〜・玉藻共同戦線 の巻
小さい頃、誰でも金魚やミドリガメなどの小動物を飼ったことがあるだろう。
そして、自分の不注意で死なせた経験もあるだろう…
長い間餌をあげわすれたり、また水槽の水を取り替えようとして、下水に流してしまったり…
白戸秀一もまた、幼い頃にこの過ちを経験していた。
下水道にはたくさんの動物の屍骸があった。
それは(故意にせよ過失にせよ)人間によって殺され、捨てられた動物達だった。
…そして、待っているのだ。―――復讐の時を…
秀一の流した亀は、水底の龍をあしらった球に導かれるように向かっていく。
数年後、一人の酔っ払いの目の前にマンホールの中から巨大な蛇だか亀だかの首が飛び出てきた。
童守小学校にて。
今日は健康診断です。中を見れるのは読者だけです。
保健室では下着姿になった女子たちが胸の大きさの話題で盛り上がっている。
この女子たちを診察するのは、なんと玉藻!
ぬ〜べ〜のライバルの妖狐で、正体を知っているのは今のところぬ〜べ〜・広・郷子だけである。
事情を知らない生徒達は玉藻が医者になっていたことを知らず、教育実習に来ていたのに教師に
ならなかった事を疑問に思う。それに対し、教育課程をとったので実習に来た事、自分は教師に
なりたかったが医大出なのにと親の反対にあった事を生徒達に説明した。
この説明はもちろん舌先三寸。事情を知る郷子がこっそり突っ込むが、「胸の発育が著しい」の一言で
丸め込まれてしまった。
女子の診察が終わり男子の番になって、ようやくぬ〜べ〜は玉藻と話す事ができた。
玉藻が童守小に診察に来たのは、最近町内で起こっている怪事件を追っての事だった。
路上で、マンホールや下水の側で落雷にあったような丸コゲの人々が病院に日に何人も運ばれてくる。
しかも強力な妖気を帯びて。
診察を続ける玉藻の脇にはフーチが設置しており、秀一の番になるとこれがクルクルと回りだした。
どうやら妖怪の怨念の原因は、秀一のようだ。玉藻の話によれば、今回の妖怪は妖力が異常に高く、
神獣かもしれないという事だ。神の力を得た妖獣は桁外れに強く、ぬ〜べ〜は以前麒麟と戦ったが、
鬼の手を引き裂かれて手も足も出なかった。それでも玉藻は、恐れる事はないと強気だ。
何か方法があるようで、自分は童守町を救いに来たのだと自信たっぷりだ。
その時、二人は強力な妖気を察知した。
秀一が女の子に囲まれてブランド品自慢をしている。回りには4つのマンホールがあり、その蓋が
ゴトゴトと動き始めた。次の瞬間、「うらみはらさでおくべきか!!」と、全てのマンホールから件の首が
飛び出てきた。同時に雷雲が発生し、雷が秀一を襲う。
すぐにぬ〜べ〜が駆けつけ、首の一体を鬼の手で切断した。すると残りの首は逃げ出した。
なぜ秀一を恨んでいるのか。玉藻の調べで、この首が昔秀一に捨てられた亀の物だということがわかった。
日本神話に登場する「罔象女(みずはめ)」という水神がいる。あの亀はこの罔象女の御神体に触れて
霊力を得たのだろう。巨大妖怪とした亀は御神体を飲み込んで自分の体の一部としてしまった。
神が現世に力を送る通信器である御神体が体内にあるということは、無限に神の力を得られるという事。
それはもはや神獣だ。おそらく、ぬ〜べ〜でも玉藻でも勝ち目はないだろう。
それでも、玉藻は童守町の人々を救ってやると豪語する。ぬ〜べ〜を超える霊力を得る為に人間の愛
について研究する玉藻にとって、町を救うことは何百人もの人々を愛してやったことになり霊力を
高める事ができるだろうというのだ。たった一人の今を犠牲にする事で…
そう言うと、玉藻は人化の術を解いて秀一を連れ去った。
童守町は混乱のさ中にあった。神獣が怒って暴走し、手当たり次第に雷を落としている為だ。
玉藻は秀一に説く。これは皆秀一の所為だと、そして、秀一が責任を取って殺されれば町は救われると。
いよいよ神獣の本体が姿を現した。何本もの首を持つ巨大な亀で、その甲羅は怒りの形相を表している。
玉藻の腕を振り払うと、秀一は自ら神獣の前に躍り出た。
悪いのは自分だから、自分だけを殺して町の人を助けて、とえらく神妙だ。
大人しく雷を喰らおうとしているとぬ〜べ〜が割って入った。
「いつも口答えばかりしてるくせに、こんなときだけ素直になるなバカ!」
だが玉藻が黙っていなかった。秀一一人が死ねば町の人が救われるのにと。
それは間違っているとぬ〜べ〜は反論する。
「よく聞け、玉藻!人間は何人死ねば何人助かるなんて数で考えたりしない。
目の前に命が危ない者がいれば、何も考えず無意識に助けようとするものだ!
自分の命も顧みずにな!
そこには計算なんてないんだ、おまえは人間の心がちっともわかっちゃいない!」
鬼の手で神獣の首を落とすが、無限の霊力ですぐに再生して手に負えない。
これを封じるには甲羅を割って中の御神体を取り出す必要がある。
だが、いくら鬼の手でも神獣の甲羅を割ることは叶わず、一方的に落雷を喰らうばかり。
どうしても今の力では勝てないというのなら…ぬ〜べ〜は鬼の手の中の美奈子先生に語りかける。
すると鬼の手の力が増し、ぬ〜べ〜の左腕全体が鬼と化した。
甲羅を割るために、美奈子先生が鬼を抑えるのをやめ、鬼を目覚めさせているのだ。
そんな事をすればぬ〜べ〜の体は鬼に乗っ取られてしまうだろう。
現に、既にぬ〜べ〜の顔の半分までが鬼と化している。だが、玉藻の制止もぬ〜べ〜には届かない。
見かねた玉藻はぬ〜べ〜に駆け寄り、鬼の力を自分にも逆流させてぬ〜べ〜の負担を軽くした。
そんなことをすれば玉藻にも危険が及ぶが、それでも構わない。
「貧狼巨門隷大文曲廉貞武曲破軍」
「「哈ッ!」」
「南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音」
二人で力をあわせ、神獣の甲羅を叩き割った。
御神体が神獣から離れたのを確認し、再び美奈子先生の力で鬼を抑える。
礼を言うぬ〜べ〜に、勝機が見えたので秀一を殺すより神獣を倒す方が簡単だと判断したと玉藻。
だがぬ〜べ〜の行動は一か八かの賭けだったし、それは玉藻にもわかっていた筈だ。
喜び勇んでぬ〜べ〜に駆け寄る秀一。それを尻目に一人去ろうとする玉藻を、秀一が止める。
「玉藻先生ありがとう 本当にありがとう!」
「一人の感謝も何百人の感謝もそう…味は変わらないと思うが」
そう言うぬ〜べ〜に対し、自分はあくまでも合理的に行動しただけだと背を向ける玉藻だった。