「・・・・・・こーゆう疎外感はスーにはきっとわかんねよ。」
「スーは自分がSS書いててどうしようって思ったこと無いっしょ?」
「だからもうわかんねままSS書いて」
「それでいいと思うけどね。」
「スーの好きなように書いてさ」
「その方がみんな楽しいだろうし」
「私もきっと楽しい」
というわけで新年あけましておめでとうな第12弾。
未成年の方や本スレにてスレ違い?と不安の方も安心してご利用下さい。
荒らし・煽りは完全放置のマターリー進行でおながいします。
本編はもちろん、くじアンSSも受付中。←けっこう重要
☆講談社月刊誌アフタヌーンにて好評のうちに連載終了。
☆単行本第1〜9巻好評発売中。オマケもすごかった!
☆作中作「くじびきアンバランス」漫画連載&アニメ放映終了!いい出来でした!
ちんこぽけもん
えーと・・・
とり合えず投下しちゃっていいすかね…?
沈む前に押し返すよ・・・。
第801小隊アフターストーリー『リツコ・レポート』【地球編】
40レスくらいかにゃ・・・。
ではでは・・・。
「おい、隊長さん、起きてよ。」
「ん・・・?」
目が覚めると、空気が違うことが実感できた。
「ついたのか・・・。」
重力の心地よい疲労感も感じる。
「やっぱり、地球はいいな。」
「そうですね。」
すでに立ち上がり、出る準備を終えているリツコやアンたちを見て、
慌ててマダラメは立ち上がる。
「あ、すまん・・・。」
「なーに、さっき大変だったじゃない。」
「いや、それはお前たちもそうでしょ。」
「私達は気を張る必要はないからね。隊長さんはその辺大変だよね。ほら。」
そういって、アンはマダラメの手を引き、廊下に引きずり出す。
「では、いきましょうか。」
五人は順々に、シャトルから降りて行く。
「マダラメ中尉、お疲れ様でした!」
出口で待ち構えていた機長と副機長が敬礼を送る。
「なぁに、いいフライトでしたよ、お疲れさんです。」
敬礼を返すマダラメ。
「ゴクロウダッタ!」
そういって一緒に敬礼をするスー。
「偉そうだなぁ、お前・・・。」
マダラメは苦笑いをする。
外の日差しは強く、空気は埃っぽかった。
「くは〜、地球だなぁ〜。」
青い空、白い雲、周りには四人の女性・・・。
「あれ・・・?」
(これ・・・実はすごいいい状況なのでは。)
「・・・どうかしたぁ?」
ケーコに言われて正気に戻る。
「んあ!?いやいやなんでもないでござるよ。」
「なに?クッチーみたいなしゃべり方してさ。」
不思議そうに顔を見るケーコに、少し顔を赤らめるつつ、あとずさる。
「どうしたのさ?顔赤いよ?熱ある?」
「はっはっはっ、大丈夫だって。さあ行こう行こう。」
そういいながら歩き出すマダラメ。
「・・・?変な隊長さん。」
憮然な表情をするケーコ。
一同歩いて、基地の倉庫へ向う。
そのまま、一台のジープにたどり着く。
「これつかっていいの?」
「うん、それ、タナカさん所のなんだって。それで来てくれってさ。」
「ふーん。じゃみんな乗った乗った!」
言いながら、運転席に乗り込むマダラメ。
「道案内するね〜。」
助手席に座るケーコ。
「さてと、ちょっとドライブと行きますか。」
基地のある場所からそう遠くない位置にタナカの工場はあった。
戦時中から話を聞いていたらしく、彼は戦後すぐに軍隊を辞め、
この工場で経営を始めていた。オーノと共に。
「二年ぶりか。」
工場の前にジープを止めて、降りてくるマダラメ。
「うわ、大きいじゃないの。」
「まぁ、作業用MSの整備工場だからな。それなりに大きくないと無理だろ。」
「そうね。」
通用口の方に歩きを進めながらマダラメとアンが話す。
「さてと。」
チャイムを押すと、インターフォンから女性の声が聞こえた。
『はい〜、今日は工場の方はお休みなんですけど〜。』
「オーノさん?俺俺。」
『・・・オレオレ詐欺は結構ですけど。』
「あはは・・・。マダラメですけど。」
『あ!ごめんなさい!』
そういってインターホンをきると、すぐに扉からオーノが出てきた。
「久々に声を聞いたのでわからなくて・・・。」
「なーにいいってことよ。んじゃ、お邪魔するぜぃ。」
「ハーイ、カナコ久しぶり〜。」
「マタアエタナ!」
「あら!久しぶり!二人とも元気だった?」
オーノもこの二人も来ることは知らなかったようで、笑顔を隠せない。
「私もいますよー。オーノさん、久しぶりー。」
「ケーコさんも元気そうで。・・・で、あの方は・・・。」
見覚えのない人間が一人混ざっていることに違和感を感じるオーノに、
マダラメはいたって明るく答える。
「あ〜、今回の作戦の中心人物だ。」
「リツコ、と申します。始めまして。」
「・・・まさか、あの「リツコ」さんですか?」
「・・・たぶん、その「リツコ」であっていると思います・・・。」
そういって少しの間があったあと、
「・・・なるほど・・・キタガワさんの言ってたのはこれだったのね・・・。
まぁいいです、なかにお入りくださいな。」
皆で工場内に入っていく。工場内は今日は休止のようで静まり返っていた。
しかし、暗がりの中でも見える設備は、軍のものにも劣らないように思われた。
「結構いい設備じゃねえか。」
「そうなんですよ〜、
ここの前の持ち主の方が軍に重用されるくらい優秀な方だったらしくて。
その関係で知り合って譲っていただいたそうなんですけど。」
「ほーん。じゃ、元は軍備開発工場だったわけだ。」
「そうなりますね〜。」
歩きながら周りを散漫と眺めていたマダラメだったが、
工場の端のほうに見えたあるはずのないものに気が止まった。
(・・・?あれは・・・。・・・どういうことだ・・。)
「こっちが私達の家になります〜。」
「完全に新婚さんですか。」
「あはは・・・。もうすぐ入籍するつもりではあるんです。」
「本当!?おめでとう、カナコ。」
「ありがとう〜。」
「ケッコンハジンセイノハカバダゾ!?」
「・・・不吉なこといわないで・・・。」
いいながら扉を開けると、中でタナカが待っていた。
「おう、久しぶり。元気そうじゃないか。」
「お前が地球で幸せに暮らしている間も木星の引力の怯えた生活だったぜ!」
そういって笑うマダラメ。
「自分から志願しといてなに言ってるんだ。
俺は止めただろ?一緒にやらないかって誘ったのに。」
「・・・まー、冗談だ。木星もそれなりにいいところだぜ。」
少し困った顔になってタナカの前に座るマダラメ。
「・・・・・・そうか。しかしなんだ、あまりゆっくりも出来ないんだろ。」
「だな。ちょっと重要人物も連れてるし、早めにやっつけたいな。」
ちらりとリツコの方に視線を走らせるマダラメに、
わかったというように頷くタナカ。
「本当は俺もついていきたいんだが・・・そうも行かなくてな。」
「どうかしたのか?・・・まぁ、忙しいんだろ、気にするなよ。」
「・・・いやね、・・・なんだ。」
「はぁ?聞こえねーよ、なんだよ。」
「・・・身重なんだよ。」
「みおも?誰が?」
「オーノさんが。」
バコーン!
マダラメの右フックが見事にタナカのテンプルに当たった。
「お前もできちゃた婚かい!!!」
「いてて・・・。いや、結婚は本当にしようとしてたんだよ。
でもわかっちゃったから早めないとってね。・・・っていうか『も』?」
「・・・気にすんな。そうか・・・。・・・まぁいいや。二人の結婚式には二人も連れてくるぜ。」
ふぅ、と溜息をつくマダラメに、タナカは嬉しそうに笑う。
「OK、頼んだよ。明日にはクガヤマが来ると思う。今日はうちで休んでくれ。」
深夜。
工場の外で煙草をふかすタナカ。
「ふ〜〜・・・・・・。」
「よう。どうした、外に出て煙草なんて。」
そこにマダラメが現れる。
「何言ってるんだよ、子供に一番悪いだろ。」
「それでやめるって選択肢が出ないのはお前らしいな。」
「ははは・・・。ストレスの多い仕事だしな・・・。一本吸うか?」
「ああ・・・。」
そういって一本受け取ると、煙草をくわえる。
「火・・・。」
「ほらよ。」
タナカがつけたライターの火で、煙草に火をつける。
「ふ〜〜・・・・・・。」
「しかしお前も大変だな、あの人数を連れて行くなんてな。」
「ん?まぁ・・・。戦場に行くわけじゃねえから気楽っちゃ気楽だけどな・・・。」
「ふふ・・・。」
「・・・なぁ、タナカ。」
「ん?」
「工場にあるアレ、何のためにおいてある?」
その言葉に、タナカの顔が少し強張る。
「・・・見ちゃったか・・・。」
「おまえ、もう兵器に関わるのはイヤだって言ってたじゃねえか。」
「・・・・・・約束だったんだよ。」
「約束?」
「この工場を譲ってもらう代わりに、前の所有者が行ってた研究を続けるってな。」
「・・・そういうことか。まぁ、おいしすぎる話だとは思ってたけどな。」
「悪用はさせんさ。」
「ん・・・。お前が言うなら安心だがな。気をつけろよ。どこで情報が漏れるかわからん。」
「ああ・・・。」
「お前だけならまだしも、家族が出来るんだろ・・・。」
「ああ・・・。」
「・・・・・・出来る限り軍には頼れ。」
「ああ・・・。わかっている。現に俺と軍とのつながりは消えてないしな。」
「誰か何か言ってくるのか?」
「ははは。お前だよ。おまえが軍に残っているってだけで心強いもんなんだぜ?」
「・・・恥ずかしいこというなよな・・・。」
「なに、本音だ。」
その言葉を最後に、沈黙が訪れた。
煙草を吸う音だけが、闇に吸い込まれていった。
「お、おう、久しぶりだな。」
朝全員が目覚め、工場で必要なものの整理をしていると、
クガヤマが輸送用トラックと共に訪れた。
「よー、元気そうで何よりだぜ。」
「ま、まぁな、気楽なもんだぜ、こ、この仕事は。」
「・・・んで?後のは軍からの?」
マダラメが視線をトラックの荷台に送ると、クガヤマは頷いた。
「そ、そうだ。一応ジムの最新機だ。」
「ってーと、カスタム?」
「い、いや、次の世代らしい。」
「・・・ほーん。ちょっと怪しいな。データでも採らす気か?」
顎に手を当てて訝しがるマダラメに、クガヤマは笑う。
「そ、それはないだろ。
・・・あ、あの人を守らなきゃいけないと一番思ってるのは軍なんだろ。」
そういってクガヤマは視線の先で皆と一緒に荷物整理をしているリツコに送った。
「まぁそうだな・・・。」
「ど、どう?あ、あの『リツコ・キューベル・ケッテンクラート』との旅は。」
「ん?ま、どってことねーよ。最初あったときはすごい威圧感を感じたけどな。
・・・・・・気付くと普通の子になってたよ。たぶん、日頃気を張ってるんだろうな。」
「ん・・・、た、大変な立場だもんな・・・。」
ケーコが荷物の配分を間違えオーノに怒られているのを見てリツコは笑っている。
「・・・今は立場を忘れてるのか。・・・・・・もしかしたら何かあったのかもな。」
「か、彼女のプライベートで?」
「ああ。」
その言葉にクガヤマは少し首を振って言う。
「ま、まー、深入りはよくない。」
「それはそうなんだけどな。道程の途中で言ってくれたら嬉しいなっとね。」
「・・・お、お前はお節介だよなぁ。」
「・・・・・・そうかぁ?」
「ど、鈍感なくせに気付くと世話焼きたがるよな。」
「・・・うるせえよ!」
そういって二人で笑った。
「では、いってまいりますよ〜。」
「はい〜、いってらっしゃい〜。」
「結婚式にはみんな参加してくれよな。」
「おうよ〜、木星に帰るまでまだ日にちはあるからなぁ〜。
メンバー全員が揃うといいなぁ。」
「楽しみにしてる。」
そういうと、タナカはマダラメに敬礼を送る。
マダラメも敬礼を返しながら、
「任せとけ!」
そう言った瞬間、トラックは走り出した。
「・・・まったく、相変わらずだったな。」
「うふふ・・・。でも、変わりないのが嬉しかったでしょう?」
「・・・参ったな。見抜かれてるとはね。」
そういって頭をかくタナカに、オーノは微笑んで、
「マダラメさんなら、何とかしてくれますよ。」
「ああ、そうだ。心配せずに待っていよう。」
タナカもニヤリと笑った。
「で、トラックで何日よ。」
「そ、そうだな、休み無しで2日弱。」
「2日。・・・マジカ。」
「も、もちろん、休憩や何かあればもっと伸びるな。」
「交代で運転しちゃるよ。」
「あ、ああ、任せたよ。」
トラックはサバンナをひた走る。
このサバンナを越えたあたりに、懐かしい密林が待っているのである。
10時間がたった辺りで、周囲が暗くなってきた。
「そろそろ変わってやるよ。仮眠もさっきとったからな。」
マダラメが操縦席後の皆がいるスペースからクガヤマに声をかける。
「そ、そうか。じゃ、じゃあ一旦止めるな。」
「ふい〜、私も寝る〜。」
隣で座っていたケーコも、だいぶ疲れているようだ。
「お疲れさん。じゃあ、運転は俺がやるとして・・・。」
「私が助手席に入るよ。」
そういって、アンジェラが後から声を掛けた。
「・・・じゃ、たのまぁ。」
「OK。」
トラックが停止する。
「あ、明け方くらいに起こしてくれ・・・。」
そういってまずクガヤマが後へ入っていく。
「・・・あ〜、寝れるかな・・・。ここから密林だから振動ひどいんだよね・・・。」
「まぁ、なるたけ安全運転してやるからゆっくり寝なさい。」
「は〜い。」
ケーコもそのあとに続いて休みに行った。
「さて、夜のドライブの始まりだな。」
「なんかそういうとロマンティックだね〜。」
「・・・なんか恥ずかしいじゃねえか・・・。」
トラックは密林地帯に入った。村落はたくさん点在している為、
道はなくはない。ただ、整備はほぼされてない。
「うひゃひゃ、振動ひどいな。」
「下手な遊園地よりスリルがあるわねー。」
はしゃぐ様な声を出すマダラメとアン。
「・・・そういえばさ、何で木星に行ったの?」
「ん?何でって・・・。人が足りねえって話は聞いてたからな。」
急に聞かれ、視線は動かさずにマダラメは答える。
「でも、あなたがいく必要はなかったと思うんだけど。」
「誰かが行かなきゃいけないだろ?俺は一人身で身軽だったしな。」
「こっちでやるべき仕事もあったんじゃない?」
「・・・まぁ、なんだ、行ってみたいっていうのもあったんだよ・・・。」
言葉に詰まりだしたマダラメを見て、アンはふぅ、と溜息をついた。
「サキ?」
ドキッとした。
「・・・はぁ?何言ってるんですかアナタ。」
「ん?ちょっと言ってみただけだよ?」
そういわれて、動揺がばれたようで恥ずかしくなる。
沈黙が続く。響くのはトラックの駆動音とタイヤの引かれ枝が折れる音。
こいつは見抜いてる。そう思って観念し、言葉を出す。
「・・・別に、そういう訳じゃねえよ?」
「どういう訳?」
「・・・・・・地球圏に居辛くなったわけじゃねえんだよ。」
「居辛くはならないでしょ。」
「自分のなかで何かケリつけてえって言うかなぁ・・・。」
「それでついた?」
「・・・無理だな。忙しさにかまけて忘れてただけで。
会ったら思い出しちまったよ。」
「会ったんだ。」
また沈黙が続く。数分経って。
「けど・・・。子供もいて幸せそうだったよ。少しなんか・・・まぁなんだ。」
おほん、と咳をする。
「将来を楽しんでみるかとね。」
「ふーん。・・・ねえ。」
「ん?」
「一緒に仕事しない?」
その台詞に、アンが何をいいたいか、いかに鈍感な彼でも解ってしまった。
「・・・あー、それは無理だなぁ。」
「そう・・・。」
「いや、嫌な訳じゃねえし、ちょっと興味もあるんだ。
・・・だがね、俺が軍にいる必要もあるんだ。」
「そうなの?」
「例えばクガヤマとかも、軍に目をつけられれば仕事も出来なくなる。
軍隊上がりって言うのは目ぇつけられんのさ。いろいろ知ってるからな。」
そういって、トラックのハンドルを叩く。
「そういうのを、防ぐことが出来るんだよ、一応中にいればな。
大隊長からその辺の方法は教わってるからな。」
「・・・無駄に軍にいるわけじゃないんだね。感心した。」
笑顔で肩をすくめるアンに、マダラメも苦笑い。
「まぁ俺から言わせてもらえば・・・。」
「傭兵やめろ?私達に?」
「・・・何だ、わかっているんだな。」
「まぁ、あなたが言いそうなことは大体ね。」
「あ〜、そうか。で?」
「やめる気はないわよ。私達はこの仕事好きでやってるしね。
それに・・・見えるものもあるの。こういう立場だとね。」
「・・・でもなぁ・・・。」
「女に戦場は似合わない?妙なところでフェミニストなのね。」
「・・・・・・強制はせんよ・・・。」
「あら・・・。あなたが強く言ってくれたらやめたのにね。」
その台詞にマダラメは大きな溜息をついた。
「・・・・・おいおい・・・。それはずるいだろ・・・。」
「あなたが辞めて木星に一緒に来ないか?っていったら行ってるわよ。」
「・・・・・・ずるいなぁ・・・。試したのか?」
「・・・冗談よ。気にしないで・・・。」
そういって笑うアンは、マダラメからみると無理をしているように見えた。
「・・・じゃあ木星行かない?」
「いまさら。」
「そうだよね・・・。」
そのあと、言葉は続かなかった。長い沈黙が明け方まで続いた。
微妙な空気を漂わせたまま・・・。
朝になった。
「・・・ふわぁあああああああああ。」
大きなアクビをしながら、ハンドルを握るマダラメ。
一方、アンは全く堪えてない様子でまっすぐ前を見ていた。
「・・・あ!?あれ・・・村かな・・・?」
「お?丁度いいな・・・。休ませてもらおうかな・・・。」
「ヤスメヤスメ!ニンゲンヤスムガイチバンゾ!」
「うわっ!真剣驚いた!驚かせるなよ〜。」
スーが後から飛び出してきた。
「・・・あら、あそこは・・・。」
「あれ?見覚えあるな・・・。」
近付いてくる村の入り口には、見覚えのある門があった。
「あ、クチキ君・・・。クチキ君のメールだ。」
そう、クチキが送ってきた私は今ここにいますメールに添付されていた写真。
そこに映っていたものと同じであった。
「よし、こりゃ都合がいいわ。」
そういって、村の門の前でトラックを停車した。
「・・・お久しぶりでございます!隊長!」
そういって近付いてきたクチキは、前よりも精悍な体つきになっていた。
「おお、久しぶりだな、クッチー。」
「ハーイ。」
「おお、皆様おそろいで・・・。って・・・。」
クチキが後ろにいるリツコに目を留めると驚いて声を上げそうになるのを、
マダラメが口をふさいだ。
「あ〜、任務中なんだ、あとはワカルね?ん?」
「・・・はい、了解いたしましたですよ・・・。」
「OK。あのさ、お願いがあるんだけど、ちょっと休ませてもらえないかな。」
「はいはい、了解でありますよ、うちに来てくださいな。」
そういって、クチキは皆を先導して歩き始めた。
「お世話になっている家です、まぁくつろいでくださいなぁ。」
「おう、結構いいところじゃないか。」
そういってマダラメが周りを見渡す。
「ミヤ〜、ちょっちいいかにゃ〜。」
そのクチキの声と共に、奥からかわいい女の子が出てきた。
戦時中にクチキが命を救ったあの少女である。
今では成長し、しっかりとした女性になりつつある。
「あ、いらっしゃいませ〜、マナブさんのお知り合いですか?」
「お邪魔してます。クチキの元上司でマダラメともうします。
他も元同僚です。すいませんが、少し休憩をさせていただきたく。」
「かまいませんよ〜、何なら皆さんで食事でも。丁度朝食なんですよ。」
「あ、はい・・・。」
そういって、ミヤはまた奥に下がっていく。
「・・・クチキ君?」
「はい、なんでありますか!?」
「一緒に住んでるの・・・?」
「そうでありますが何か・・・?」
「・・・クチキマナブ、オマエモカ・・・・。」
スーがその後でそういって、マダラメの背中を軽く二回叩いた。
そのまま、昼過ぎぐらいまで休むことになった一行は、村をぶらついていた。
「おお、ここが写真の!」
「そうですにょ〜、綺麗でしょ〜。」
そこには村のモニュメントがおかれてあった。
不思議な形状をしているそれは、なぜか妙な美しさを醸し出していた。
マダラメがクチキからメールで受け取った画像を思い出し、感嘆の声を漏らす。
「なるほどなぁ。クチキ君がこの村に来た理由がわかった気がするよ。」
「この村が大変なのは知ってましたし、守りたいものがあったからですにゃ!」
マダラメはその言葉に感心した。というより、羨ましく思った。
あんなに頼りない部下だったクチキが、自分のやりたいことをしているからである。
「ほっほー、クチキ君は・・・。すごいな。」
「へ!?ほ、褒められるとは思ってなかったでありますよ!」
「いやいや・・・。本当に・・・。」
「隊長に褒められると非常に嬉しいでありますね!」
そういってクチキはびしっと姿勢を正し、敬礼した。
「あはは・・・。」
「マナブさ〜ん、ちょっといい〜?」
ミヤの遠くからの声に、クチキはそちらを向き、
「ちょっと言って来るであります!」
また敬礼して走り去っていった。
「いやいや・・・本当すごいよ・・・クチキ君・・・。」
「ナンダ、ウラヤマシイノカ?」
気付くと、モニュメントの天辺にスーが立っていた。
「ちょ!スー、それは駄目だ!クチキ君が怒るぞ!?」
「シンパイハイラン。スグニオリル。トゥ!」
そういってジャンプすると、マダラメの真上に落下してきた。
「うわちょ!」
顔の正面に抱きつかれ、倒れこむ。
「いてぇ!なにすんだよ!・・・ん!?」
目を開けると、薄暗い空間の中に肌色に布地・・・。
「イヤァ〜ン、マイッチング。」
スカートの中だったのだ。
「アホか!どきなさい!」
スーを急いでどかすマダラメ。
「全く・・・。何がしたいんだお前は!」
「・・・何を話してたの?夜。」
急に素のしゃべり方で話し出すスーに、マダラメは唖然とする。
「・・・・・・普通にはなせるのかよ・・・。何を・・・か・・・。
まぁしいて言えば。」
「しいて言えば?」
「俺がまた情けない奴だということを認識しただけだな。」
「・・・そう?」
「そうだよ。だって、相手が何を言って欲しいか全くわからないんだぜ。」
「でもそれは自分が言いたかったことなんでしょう?
相手が言いたい事を言わない方が、傷つくわ。」
「・・・そうかも知れねえけどな。俺はなるべく誰かの役に立ちたい。」
「・・・・・・そう気張るものでもないですよ。あなたはいるだけでも・・・。」
スーは視線を逸らすと、モニュメントを見た。
少しの間のあと。
「キレイダナ。」
「!?ああ・・・。」
元に口調に戻ったスーに、再び面食らいながらも、マダラメは少し笑った。
「あの・・・。」
そこにリツコがやってきた。
「お?なんですか?」
「これ、アンジェラさんが、隊長さんにって。」
見ると、果物だった。
「村の人に分けて頂いたけど、自分はちょっと渡しづらいから。
疲れてるだろうからこれ食べて早く寝なさいって言ってましたよ。」
「・・・そうか・・・。ありがとう。」
「それはご本人におっしゃった方がいいかと思いますよ?
・・・隊長さんは、皆に好かれてますね。」
「そ、そうですか?」
「はい。村に訪れた上司をあんなにも世話してくれる方がいる。
皆があなたの心配をしていますよ。」
「・・・それは、俺が情けないからでは・・・。」
情けない顔で溜息をつくマダラメに、
少しの間のあと。リツコはプッ、と噴出していしまった。
「え?何で笑うんですか・・・?」
「い、いえ・・・。・・・自信を持ってください。
心配してるってことは、それだけ頼りにしているってことですよ。
どうでもいい人を心配したりはしません。」
「そ、そういうものかな・・・。」
「そうですよ。そうなんです。」
リツコは、自分に言い聞かせているように強く、言った。
「・・・わかった。少し自信を持ちますよ。」
「・・・はい。」
クチキと田中の結婚式でまた会うことを確認し分かれ、
トラックに戻り仮眠を取るマダラメ。
その間にもトラックは進んでいった。
マダラメが目を覚ますと、懐かしの基地の近くであった。
「おぉ〜、演習場じゃないかぁ・・・。」
「ああ、ここ覚えてるなぁ。」
マダラメの声に、ケーコも同じように声を上げる。
「懐かしの実家に戻る感覚ってこういうのなのかね〜。」
「あれ?隊長さん実家は?」
「・・・戦争でなくなっちまったよ。親は一応生きてるけどな。」
そういって苦笑い。
「ああ・・・まぁ・・・みんなそんなもんだよね・・・。」
「そういえば妹さんもそうだったな。」
「うん。でも、なんかその気持ちよく分かるよ。実家に戻ってきたようなって。」
トラックは基地の前に停車した。
「ほっほ〜、結構普通に残ってるもんだなぁ。」
「ま、まぁ、基地だしな、こんなボロでも。」
クガヤマも嬉しそうに話す。
「で?ここで目撃されたって?」
「うん。さっきの村でも情報集めてみたんだけど、
ここに人気があるって言うのは本当みたい。」
「・・・たしかにな。」
「え?」
「見ろよ、あそこ・・・洗濯物がある。」
見ると、確かに洗濯台にいくつかの服が掛かっている。
小さい・・・子供のものばかりのようだが・・・。
「ええ〜、じゃあ本当に誰かいるの?」
「ササハラとオギウエさんかもしれんじゃないか・・・。」
少しおびえるように言うケーコに、マダラメはそういう。
「お、おい、あれササハラのジムじゃないのか?」
クガヤマは密林のほうに見えるMSの残骸を指差す。
「ちょ、直接は見てないから知らないけど・・・。
た、タナカに見せられた資料ではこれだった気がするな・・・。」
「ビンゴだ、クガヤマ。ということは・・・。」
中に二人がいる可能性が出てきた。
(しかし・・・結構な数がいるな・・・。10?10はいない・・・けど近い数いるな。)
気配でなんとなく人数を把握するマダラメ。
二人だけならそうなるはずがない。
「まぁ・・・ここは思い切っていくか・・・。」
「そうね。悪意は感じないわ。」
「え〜、本気で行くの・・・。」
「・・・それしか情報を得る方法はなさそうですね。」
「ま、まぁ、し、しょうがない。い、いくか。」
「ダッカンサクセンカイシ!」
マダラメを先頭に、入り口へと進む一行。
マダラメが扉を開けた瞬間。
ゴワ〜〜〜〜〜〜〜ン
鈍い金属の音が響いた。
「いってええええええええええええ!!」
「な、な、なんだおまえら!お、お、おれらをどうしようってんだ!」
一人のメガネをかけた少年が、震えながらタンカをきる。
「それはこっちの台詞だ!!ここが軍隊の基地だってことぐらいわかんだろ!」
急に殴られた痛みで、キレ気味に相手の子供の首根っこを押さえる。
「うるさいやい!
今まで使ってなかった基地に戻ってきて家奪おうったってそうはいかねぞぅ!」
じたばた暴れる少年に、マダラメは少し溜息をついて。
「・・・いや、別にそういうわけじゃねえんだが・・・。」
「え?」
その瞬間。
カコーーーーーーーーーーーーーーン
遠くから硬い金属のフライ返しが飛んできて、マダラメの顔に直撃した。
「いってえええ!」
「ハルノブをはなせ!」
活発そうな少女が、遠くでエプロン姿に赤ん坊を背負った姿で立っていた。
「あ〜・・・、ちょっとおちつけおまえら!」
少し大きな声で怒鳴ってしまったマダラメ。
その声に二人の子供はびくっとして、動きを止めた。
「まぁなんだ・・・。話聞くぞ?」
「ほう、君らは戦災孤児か・・・。」
「ここから少し南の方にある村でみんな暮らしてたんだ。
親はみんな戦争で死んだ。
俺たち・・・名前も覚えてないような状態でここに来たんだ。」
「戦争終結寸前か・・・。皇国軍の残党が荒らしたんだな・・・。」
苦い顔でリーダーらしきメガネ少年の話を聞くマダラメ。
食堂に案内された・・・とは言っても場所は知っているのだが
そこで集まってきたのは子供だけであった。
「そしたら・・・。ちょっとしてパパとママが来たんだ。」
「パパ?ママ?」
「あ、あのね、二人はなんか宇宙から降って来たらしくて、
怪我してたんだ。基地の前にママがパパを抱えて歩いてきたんだ。」
「そうそう、皆でママと一緒にパパの看病したの。」
メガネ君の隣にいた先ほどのエプロン少女が話を続ける。
「で、みんなに名前くれたの。
こいつはハルノブ。私はサキ。」
ここまで聞いてすべてを把握したマダラメ。
二人はこの近辺に落下し、
怪我を負ったササハラをオギウエが何とかここまで運んだあと、
この子供らと生活したということだ。そして、彼らに小隊員の名前をあげた。
「・・・そうか。俺たちはそのパパとママの知り合いなんだが・・・。」
「・・・やばい!ハルノブ!カンジとチカの状態が!」
そういって一人の少年が飛び出してきた。
「え!ソウイチ、それ本当!?」
「やばいんだ!来てくれ!」
その話を聞いてマダラメ達も思わず席を立つ。
「まさか・・・二人が・・・。」
「私達も行ってみましょう。」
リツコに促され、一行は少年たちと共に医務室へと向う。
しかしそこで熱にうなされ眠っていたのは年端も行かない少年と少女であった。
横には髪の長い少女が心配そうに二人の様子を見守っていた。
子供はサキちゃんの背中の二歳児も入れると全部で11人。
「・・・ああ、そういうことか・・・。」
思えば彼らは二人のことを「パパ」「ママ」と呼んでいた。
「ですが、この子達の病状が危険なのも確かです!」
「こ、こいつは・・・。は、肺炎だな・・・。」
クガヤマが病状を見てそういうと、外に出ていった。
「クガピーなにしにいったの?」
「おそらく抗生物質をとりにいったんだ。
オーノさんのコネで、行きがけに数個持たされていたからね。」
戻ってきたクガヤマの手で、抗生物質が投与された。
「あ、あとは、ち、ちゃんと栄養とっておけば大丈夫だ。」
「・・・よかった・・・。」
泣きそうだった少年たちは、ようやく落ち着きを取り戻した。
「・・・で・・・聞きたいんだが・・・。」
「え?」
「お前たちのパパとママはどこへ行ったんだ?」
その言葉に、皆静まり返る。
「?どうした・・・?」
「あのね、帰ってこないんだ。」
「帰ってこない?」
ハルノブ達は再び泣きそうな顔になって言う。
「・・・一週間くらい前だったんだけど、
二人は食料を探すっていって出て行ったんだ。でも・・・。」
嗚咽を漏らすハルノブに、マダラメは渇を入れる。
「おい!お前ここのリーダーなんだろ!?しゃきっとしてなきゃ駄目じゃないか!」
「・・・!そ、そうだよね!うん・・・でも、それきり帰ってこなくて・・・。
食べ物もなくなりそうで、ぼくたちどうしたらいいか分からなくなって・・・。」
「・・・わかりました。ハルノブ君?」
「は、はい。」
リツコが、そこまで聞いて声を出した。神妙に返事をするハルノブに、
「皆で軍の施設に行くようになさい。私のほうから取り計らいます。」
「・・・で、でも・・・軍隊は・・・嫌いだ・・・。」
「・・・あなた達を助けてくれた二人も、軍人ですよ?」
「・・・知ってる。でも二人はちがかったんだ・・・。」
「このまま、ここでみんなを危険に晒したままにするつもり?
リーダーなら、しっかり判断しなきゃ。みんな、あなたを頼りにしてるんだから。」
ハルノブは、自分に皆の視線が集まっているのに気付いた。
その視線は、皆彼を信用して判断を仰いでいるようだった。
「・・・・・・みんな、助かるんだよね、そうすれば・・・。」
「うん。みんな、一緒に助かる。」
「・・・わかった。でも・・・。」
「ん?」
「パパとママにまた会いたい・・・。」
「会わせてあげる。私達が必ず。」
そういいきるリツコを端で見ていた斑目は、その強い言葉に感心していた。
「一晩、ここで過ごしましょう。ここなら通信が生きてますから、
すぐに輸送艦を呼べるでしょう。明日にはつきます。」
「おいおい、輸送艦使うのか?ちょっとなぁ・・・。」
マダラメがリツコの提案に反論した。
大きな輸送機は目立つので、
何かあったかとゲリラに目をつけられる可能性があるからだ。
「でも、この子達をここに放置するわけには行きませんでしょう?」
「・・・わかった。判断は任せるよ。」
「ありがとうございます。」
そういってリツコは、通信機のあるほうへと向った。
「・・・場所も分かってるのか。
システムの中にいたとはいえ自由に中を見てたんだな。」
その晩。皆でそれなりの、しかし子供たちとの楽しい夕食を終えたマダラメは、
彼らが眠りにつく中、外に出て密林を眺め、昔を思い出していた。
「懐かしいな。ああ、もう二年もたつのか・・・。」
タナカから箱ごともらった煙草をふかし、空の星を見上げる。
「ササハラぁ、お前どこにいんのよ?」
そういっても始まらないことはわかっていた。
あと残る情報は少年たちの言う
『食料をとりに北のほうへ向った』という情報のみである。
「・・・死んで・・・いかんいかん・・・。」
自分の悪い予感はすぐ当たる。わかっているんだ。
「眠れないのですか?」
リツコが、基地の中から出てくる。
「ん?いやね・・・。今後どうしようかなって・・・。」
「北へ行くんでしょう?」
「そりゃそうなんだが・・・。ま、不安でしてね。」
「・・・私もです。」
その言葉に、マダラメは驚く。
「・・・おかしいですか?」
「おかしいっていうか・・・。さっきあんなに毅然としたこと言ってましたから。」
「まぁ・・・自分に言い聞かせてる部分もあるんですよ。」
そういって笑うリツコに、マダラメも笑う。
「ああ・・・そういうのはあるなぁ・・・。」
「そうなんですか?」
「いやね、俺部隊で出るときは『絶対に死ぬな!生きて帰るぞっ!』
って言ってたけど・・・。これ、結局は自分に言ってるんですよ。」
「・・・大変ですよね。」
「ああ・・・そうか、あなたもあの部隊ではリーダーを・・・。」
そういわれて、リツコは少し微笑むと、うつむいて言った。
「一応、ですね。みんな最初の頃は新兵同様で・・・。
片腕の部下はかなりの凄腕なんですけどね、戦争は一人でやるものじゃないから・・・。」
「ああ、わかりますよ。」
「中には、私の幼馴染もいたんですよ。しかも二人も。
彼らを戦場に送るのは・・・。とても気苦しかったです。」
・・・そうか。この人が気を張っている理由がマダラメにはわかる。
戦場へ部下を送り出す恐怖。
それを、この人も知っているからだ。自分と・・・似ているのだ。
「それでも、私がブレたらもっとおかしな事になる・・・。
必死でしたよ。」
顔を空に向け、星を仰ぐリツコ。
「あの事故のあと・・・。私無しに部隊は問題なく回っていました。
元に戻ったあと、皆にあうのが怖かった。」
「・・・それは何故?」
答えはわかっていた。しかし、あえて聞くしかないと思った。
「・・・必要ないといわれるのが嫌だったんでしょうね。
思えば情けないことです。でも・・・みんな笑顔で私を迎えてくれました。」
「そりゃそうでしょう・・・。」
「・・・それでも・・・疎外感は出てしまうんです。
見ない間に成長した皆。戦場をいくつか知らない私。
・・・だから・・・逃げてきたんです。」
「・・・。」
わかる。何故そう思うのかわかりすぎてしまう。
「マダラメ隊長?」
「はい?」
「わたしは・・・どうすればいいんでしょうか・・・。」
「そうですなぁ・・・。」
言いつつ、煙草を捨て、足で消す。
「とりあえずは・・・。」
「とりあえずは・・・?」
「二人に会いに行きましょうや。それから何かわかるかもしれないしね。」
そういって、笑うマダラメに、リツコも笑う。
「そうですね・・・。そうですよね・・・。」
空には満天の星空。星が、二人を優しく包み込んでくれるようだった。
「あら、お久しぶりね。マダラメ中尉?」
「あはは・・・。妙なところでお会いしますなぁ・・・。」
朝、艦船に乗って来たのは、クチキの元上司。あの『隊長殿』である。
「私今は彼女直属の部隊でしてね。あの子達のことは任せてくださいまし。」
「はい・・・。よろしくお願いします。」
トラックの駆動音が響く。
「お、おいそろそろ行くぞ。」
「あ、ああ・・・。」
艦船に乗り込んでいく子供たち。マダラメはハルノブを見つけて声を掛けた。
「おう。」
「あ。あの・・・。」
「ん?」
「ごめんなさい。ぶったりして・・・。」
「あ、ああ、あれか。なに、お前も責任感から来てやったんだろ?
気にしてないさ。」
「・・・うん。」
「・・・あー、あのな。」
「はい?」
「みんなお前の心配をすると思う。
でもな、みんなそれはお前を頼りにしてるからだからな。」
思いっきり受け売りの言葉でハルノブを励ますマダラメ。
「ま、頑張れ。」
「・・・うん!」
元気よく返事すると仲間のいる方へ駆け出すハルノブ。
「いい子に育てよ〜。俺のようにはなるなよな〜。」
「え〜、いいじゃない、隊長さんのようになるの。」
「そうよ、あなた少し自分を卑下しすぎ。」
「キミハシンジツヲミテイナイノダ。」
「・・・十分素敵ですよ?隊長さん。」
「・・・ははは。」
一斉に女性陣に突っ込みを入れられ、乾いた笑いを出すしかないマダラメ。
「ま〜、あともうちょっとかね、頑張りましょうか。」
そういって、マダラメはトラックの助手席に座った。
「やれやれ〜、あいつらはどこにいるのかね〜。」
そういいつつ、周囲に気を配るマダラメ。
話によると、部隊で使ってジープで移動してたとのことだ。
おそらく、どこかで事故に・・・。
「お、おい・・・あの崖・・・気にならないか・・・。」
「ん?おお・・・確かに・・・。」
トラックを止め、マダラメは一人崖の方へと近付く。
「ん・・・?あのジープ・・・。」
崖下には見覚えがあるジープが一台あった。
しかし、事故の様子はない。
「んー?まぁ一旦崖下に・・・。・・・!」
そう考えた瞬間であった。
トラックの周りをザクが取り囲む。
「ちぃ・・・。やはり感づかれたか・・・。」
艦船の位置からトラックが移動していたのを確認していたのだろう。
走ってトラックの方へと移動する。
『そこのトラック。積荷と乗員を全て晒せ。』
外部マイクから声が響く。
その間に、マダラメはトラックに戻ることに成功した。
「おい、クガヤマ、後のMS出すぞ!」
「だ、だけどよ、集中砲火食らったらトラックが・・・。」
「く・・・確かに・・・。」
奥歯をかみ締め、どうするか考えをめぐらすマダラメ。
「・・・私が囮になります。」
「リツコさん!?」
「彼らも、私の顔ぐらい知っているでしょう。
私が出て、彼らが多少ひるんでいる隙に・・・。」
「・・・しかし・・・。」
「このまま皆が死ぬよりいいでしょう?」
「・・・わかりました・・・。」
マダラメはその案をしぶしぶ了承する。
「みんな・・・よく聞け・・・所詮は旧式のザクだ。
こうするから・・・。」
『はやくしろ!あと十秒以内に・・・。』
ザクからそう言葉が出た瞬間である。トラックからリツコが出てきた。
「・・・私の顔ぐらい知っているだろう!?さらいたければさらうがいい!」
『・・・なんだと!リツコ・キューベル・ケッテンクラート!?』
明らかな動揺が彼らを包んだその瞬間である。
トラックの後部積載から、ジムUとよばれるその機体が飛び出した。
コクピットは開いたまま。瞬間、トラックは全速力でダッシュ。
一斉射撃が遅れた隙に、マダラメ操るMSが、リツコを拾い、コクピットに入れる。
「はは、うまくいきましたな!」
「あとはこいつらを!」
「わかっていますよ!」
リツコをお姫様だっこのような形で抱えたまま、
マダラメはビームサーベルで前方のザクの四肢を切断した。
振動が響き、司令官らしきザクは沈黙する。
後にいた残り二機のザクは、ジムへとマシンガンを放つが、通用しない。
「お前ら・・・、そんな昔の武器が最新兵器に通用すると思ってンのかよ・・・。」
すぐさま接近し、同様にカタをつける。
「ふぅ・・・。」
「お疲れ様でした。」
「いえいえ、これもあなたのおかげですよ。
かっこよかったですよ、先ほどのタンカ。」
「え・・・。あは、昔取った杵柄って奴ですね。」
そういって顔を赤らめるリツコは、本当にかわいいと、マダラメは思った。
トラックが戻ってきた後。
ザクに載っていた奴らを縛り、先ほどの艦船に回収を依頼する。
基地に残っていた移動式通信機を持ってきた甲斐があったものだ。
「さて・・・俺らは崖下へ行ってみますか。」
マダラメの誘導のもと、道を見つけて崖下へトラックは移動する。
「・・・やっぱりこれだ。」
トラックから降りたマダラメは、ジープを眺めて言った。
「んー・・・。お?」
近くを流れる川の向こうに、掘っ立て小屋のような・・・。
おそらく、中継用の保管庫だろう、それがあった。
「もしかして・・・。」
トラックを待たせ、一人、そちらへ行くマダラメ。
「・・・はは。中に・・・。」
(死体とか。わ、洒落になってねぇ。馬鹿か俺は・・・。)
嫌な予感はよく当たる。
そんなことはないはずだと、思いきり扉を開けてみる。
「わ!」
「「わ!」」
驚きの声が響いた。
目の前には、下半身下着だけのササハラが・・・。
「お前ら何してんじゃああああああああああああああああ!!」
マダラメの声が、成層圏も突き抜けて、木星まで響いたような気がした。
「ちょ、誤解しないで下さいよ!足をですね・・・。」
ササハラが慌てて弁明しようとして、はっとした顔をする。
「隊長・・・。」
「足・・・?ああ・・・。これが落ちた時にした怪我って奴か。」
ササハラの片足は、包帯でグルグル巻きにされており、
もはや、健常ではないことがわかる。
それを、直そうとしていたのだろう。
「なんでここに・・・。」
「そりゃこっちの台詞だわな。連絡とる方法ぐらいあっただろうに。」
「あの子達が・・・ていってもわからないですよね。」
「いや、会ったぞ。勝手に名前使いやがって。
しかも自分の名前の奴にフライパンで殴られたわ。」
そういって笑うマダラメ。
「じゃ、じゃああの子達は大丈夫なんですね!?」
ササハラの隣にいたオギウエが、心配そうに聞く。
「ああ。ちょっとやばい子もいたけどな。
ちょっとツテつかって軍に頼んだよ。」
「・・・あの子達がよくうんといいましたね。」
「まぁ、色々あってな。っと、お前らは何で?」
「燃料を補給にここ寄ったんです。丁度切れちゃったんで。
でも・・・あるはずの燃料がなくなってて・・・。」
ああ、さっきの連中か・・・。マダラメはそう思った。
「食料はあったんで何とか一週間・・・。いや、本当に助かりました。」
「ん・・・。まぁ、いいさ。お前らが元気でいてくれりゃそれでな。」
「マダラメ隊長・・・。」
ばっとそのままの体勢で敬礼を送るササハラ。
「ササハラ少尉、ただいま戻りました!!」
「・・・あほぅ、そういうのは自分で戻ったときに言うんだろうが・・・。」
いわれて、そう強がったものの、涙が止まらなかった。
そのまま振り返り、背中で話す。
「・・・あ〜、お前たちを待ってる奴らがいるから、帰るぞ!」
「「はい!」」
その瞬間、声が掛かる。
「・・・お久しぶりです・・・、いえ、この姿では始めましてですね・・・。」
マダラメの横から、リツコが顔を出す。
リツコの姿を見、一瞬声を上げそうになるササハラだったが、
そのあとすぐ、彼女が何者だったかを理解したようだった。
オギウエも、同様に。
「・・・ありがとうございました。」
「・・・え?」
「あなたが・・・あの時力を使ってくれなければ・・・。私達は死んでたでしょう。
いや、私達だけじゃない。あの子達も・・・きっと・・・。」
そういうオギウエの言葉に、リツコはハッとした。
「そうか・・・。」
「どうですか?何か答えは出ましたかい?」
「・・・はい。私も、戦ってたんですよね、あの間も。」
「・・・・・・そうだ。あなたの部下達も体験してない戦いをして、
二人だけじゃない、多くの命を救ったんですよ。」
そうマダラメに言われて、リツコは、笑う。
今までにないような、つき物が落ちたような顔で。
「自信、持ちましょう。お互い、ね。」
マダラメの言葉に、リツコは大きく、
「はい!」
と返事をした。
その後。
彼らはタナカとオーノの結婚式に向った。
その場には、第801小隊のメンバー全員が揃い、二人を祝福した。
そのままササハラはサキに連れられ、足の治療に宇宙へと旅立った。
オギウエはリツコとともに、子供たちの世話をしに・・・。
クガヤマはもうすぐ結婚するらしい。オマエモカ。
そしてみんな・・・。元の場所に・・・。
いや・・・2人違った・・・。
「あ〜、やっぱ地球の方がいいんじゃないかい?」
「何言ってるの?あなたが私達を雇うって言ったんじゃない。」
「マカセロ、ワレワレハユウシュウダゾ。」
「・・・じゃあ、ちょっくら木星までの旅路、ご一緒いただきますかね・・・。」
END
45 :
『次回予告』:2007/01/14(日) 03:49:01 ID:???
世界を巻き込んだ、『宇宙戦争』という名前で構成に語り継がれるあの戦争から20年。
二人の双子が世界の命運をかけ対立する。
宇宙海賊に共感し、連盟軍を離れた妹・マリ。
そうとは知らず、警備隊として海賊を追う姉・チサト。
二人が戦場で出会い、その事実に直面する時・・・。
世界が・・・再び戦禍に巻き込まれようとしていた。
「次は私を撃つといったはずでしょ・・・!チサト!!!!」
「マリ・・・!私は・・・!」
第801小隊の後継作となる機動戦士ガンダム『ツインズシンドローム』
お楽しみに。
46 :
『アトガキ』:2007/01/14(日) 03:50:39 ID:???
ごめんなさい。予告は大嘘です。
というわけでオチを見る事になりました第801小隊。
楽しんでいただけたでしょうか。
次は・・・ラジヲでお会いしましょうw(マジカ
あけましておめでとうございます。
遂に完成しました「26人いる!」シリーズ。
読み返してみてまだまだ粗は目立つのですが、明日にも2ちゃんねる閉鎖という不穏な噂が飛び交っている緊急時なので、思い切って投下します。
そんな事情により、普段なら2回に分けるところを一気に投下します。
開始は約10分後、39レスの予定です。
もし先に投下したい方いらしたらレス下さい。
あと感想。
>801小隊
前の話も読み返してみたら、何と投下されたの去年の6月。
およそ半年ぶりの登板ですか、お疲れ様でした。
何かここでもマダラメ、ハーレム状態ですな。
しかも木星で両手に花…うーむまたネタが被ってしまった。
実はこれから投下する話でも斑目…
やめときましょう、それは読んでからのお楽しみということで。
あと嘘と言わずに予告のネクスト・ジェネレーション編、ぜひ書いてみて下さいな。
2006年夏コミ3日目、最終日。
今日も現視研の面々は、椎応大学の最寄の駅から始発に乗った。
ちなみに「やぶへび」の面々は、今日は漫研男子の出品があるので、そちらの方に行っている。
あと恵子は昨日友人の家に泊まって寝過ごしたので、後で顔を出すとのことだった。
今日は男性向け中心の出品だ。
だから1年男子は、かなり意気込んでいる。
一方1年女子は、午前中は男子たちの分担購入を手伝い、午後からは全員コスプレに参加する。
分担購入の手伝いは、1日目に売り子で頑張ってもらったお礼の意味もあってのことだ。
もっとも元来現視研の女子会員には、最終日に男子の分担購入を手伝う習わしがあった。
(まあ習わしと言っても、ここ4年ほどの話ではあるが)
それを上の誰かが言うまでも無く、1年女子の方から言い出した。
だから荻上会長は、彼女たちの自主性を尊重して、敢えて改めて指示しなかった。
OBたちも、そんな意気込む1年生たちにかつての自分を見る思いで、静かに見守っていた。
いやただ1人、1年生以上に意気込んでいる男が居た。
言うまでも無く、ループの帝王ことクッチーであった。
朽木「よっしゃみんな、いよいよ最終決戦だにょー!今日は倒れるまで並ぶにょー!」
1年男子一同「おう!」
みんなで一斉に拳を突き上げる。
朽木・日垣「あ痛っ!」
浅田「やっぱ2人とも背高いね。俺じゃあ無理だな」
先程痛がった2人は、天井に拳をぶつけたのだ。
荻上会長の雷が落ちる。
荻上「いい加減にしなさい!電車の中で何やってるんですか!」
1年男子一同・朽木「すいません」
そう、彼らはまだビッグサイトに着いていなかったのだ。
ビッグサイトに着いた現視研一行、並んでいる間に割り当てをもう一度確認する。。
男子は基本的に単独でお気に入りの作品を扱うエリアを中心に回り、女子はその隙間を埋める形でフォローするという陣形だ。
今日も前日までと同様、午前中は買い物で午後からはコスプレという流れだから、昼までは女子も目いっぱい並べる。
いよいよ会場に入り並ぶ直前、しばし1年女子たちは雑談にふける。
台場「それにしてもうちの男ども、属性訊いてみたら見事なまでに巨乳好きだらけね」
沢田「ほんと、違うのはツルペタ属性の斑目先輩と、猫耳好きの伊藤君ぐらいね」
巴「あとは朽木先輩の、老若男女不問ぐらいかしら」
一同「朽木先輩、漢だ…」
国松「まあ何にせよ、みんな巨乳好きね。全くもう…」
どちらかと言えば貧乳の国松、やや不機嫌だ。
神田「不機嫌ねえ千里。まあ無理ないか、日垣君まで巨乳属性じゃ」
国松「(赤面し)そっ、それは関係ないわよ」
神田「(悪戯っぽく笑い)まあ、そういうことにしときましょうか」
国松と対照的に、豪田は上機嫌だ。
豪田「て言うことは、私ってもしかしてモテモテ?」
台場「いやあんたの場合は、でかいの胸だけじゃないし。むしろマリアでしょ」
巴「そう?入学してから4ヶ月以上経ったけど、誰もその手のお誘いしないけど」
沢田「みんな奥手だからね、うちの男子」
神田「単にみんな怖がってるだけじゃない?」
巴「(苦笑し)かもね」
神田「それに二次元の属性と現実の属性って、必ずしも一致しないしね」
一同「そうなの?」
神田「だって例えば笹原先輩って、元来巨乳のお色気お姉様系属性だったらしいし今でもそうらしいけど、実際に付き合ってるのは会長よ」
一同「…確かに!」
神田「あの、あまり力強く納得しちゃ会長お気の毒よ」
沢田「そう言えばこれは噂なんだけど…うーん、言っちゃっていいかなあ?」
豪田「何々?そこまで言ってもったいぶるのは無しよ」
沢田「あくまでも未確認情報なんだけど…斑目先輩、春日部先輩のこと好きらしいのよ」
一同「なっ、何だって〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」
沢田「だからMMR式で驚かないの!」
豪田「いや、いくら何でもそれは驚くわよ」
巴「私も今回ばかりは驚いた」
台場・国松「私も」
ただ1人驚かなかった神田が呟く。
神田「やっぱりそうだったのね」
豪田「ミッチー気付いてたの?」
神田「何回か春日部先輩が部室に来た時の、シゲさんの態度で何となくね」
沢田「さすがミッチー、男女のことには目ざといわね」
豪田「で、斑目先輩、今でも春日部さんのこと好きなのかな?」
神田「そこまでは分かんないけど、吹っ切れてない感じはするわね」
巴「でもそれじゃあ、何時まで経っても斑目先輩、春日部先輩の呪縛から抜け出せないじゃない」
豪田「私たちで何か出来ないかな?」
スー「ココハヒトツ、ワシラデ『斑目晴信君ヲ男ニスル会』チュウノヲ作ッタラドウジャロ?」
何時の間にか現れたスーが提案した。
一同『何で広島弁?』
豪田「何で広島弁なのかは置いといて、スーちゃんの提案自体はアリじゃない?」
巴「(ニヤリと笑い)アリでしょ」
国松「でも斑目先輩を男にするったって、それって…(赤面)」
台場「こらこら、ストレートにそっち方面に考えないの」
沢田「そうそう、別に私たちが必ずしも斑目先輩と付き合おうって訳じゃないわよ。ただみんなで応援しようってだけだから」
神田「ま、私なら付き合ってもいいけどね、シゲさんと」
豪田「まあ大胆発言(赤面)」
アンジェラ「そういうことなら私もひと肌脱ぐあるよ」
何時の間にか加わってるアンジェラに驚く一同。
アンジェラ「要は私がミスターシゲのチェリーを頂けば万事解決あるね」
沈黙&赤面&滝汗の一同。
神田「あのねアンジェラ、問題はそんな単純じゃないのよ」
台場「そうよ。そんなこといきなりやろうとしたら、シゲさん心停止しちゃうわよ」
国松「それにミスターシゲじゃ、何か長島さんみたいよ」
豪田「千里ナイスツッコミ!」
巴「それはともかくアンジェラ、これは私の主観なんだけど、斑目先輩って内気とか奥手とか通り越して、生身の女性については女性恐怖症に近いとこまで行ってると思うのよ」
豪田「そうそう。確かにシゲさんって、ガラス細工みたいに脆くてデリケートよね」
スー「(胸の前で両腕をクロスさせ)ワイノ心ハばりけーど!」
豪田「あのスーちゃん、話がややこしくなるから、その手のボケは無しね」
スー「押忍!」
神田「だから私たち後輩で少しずつ時間をかけて心を解きほぐして行くのがベストだと思うのよ。だからアンジェラ、性急なことしちゃダメよ」
アンジェラ「難しいものあるね」
藪崎「そういう話やったら、私も一口乗るで」
何時の間にか藪崎さんも話の輪に加わる。
豪田「まあそれはいいですけど、くれぐれも性急なことしちゃダメですよ」
藪崎「まかしとき。要は私の女の操を斑目さんに捧げたらええねんやろ?」
沈黙&赤面&滝汗の一同。
豪田「いやだから、そうじゃなくて…」
豪田は藪崎さんに、ここまでの話について改めて説明する。
藪崎「なるほどそういう訳か、むつかしいもんやな」
豪田「難しいですよ。だってシゲさん、ガラス細工みたいに脆くてデリケートですから」
藪崎「(胸の前で両腕をクロスさせ)わいの心はバリケード!」
こける一同。
台場「ヤブさん!スーちゃんと一緒のボケしないで下さい!」
藪崎「何やスーに先越されたか」
沢田「おまけに斑目さんとやっちゃえば万事解決って発想は、アンジェラと一緒だし」
藪崎「何やと!こんな変態外人と一緒にすな!ええか、私の場合は根本的なとこが違うんや!アンジェラはもう何人もとやりまくってるけどな…」
国松「(赤面して)あの、憶測でそういう不穏当な発言は…」
アンジェラ「(笑顔で頭かいて)いやーそれほどでも」
藪崎「褒めてへんわい!お前はクレしんか!」
巴「て言うかアンジェラ、それってヤブさんの決め付け認めてない?」
神田「アンジェラ今まで何人としたの?」
豪田「あんたも真顔で訊かないの!」
アンジェラ「ミッチー、それは男と女とどっちの話あるか?」
神田「女の子ともしたことあるの?今回はとりあえず男の子だけでいいわよ」
豪田「この間迫ってきたのはマジだったのか…(冷や汗)」
指を折って数えるアンジェラ。
アンジェラ「えーと…千里ちょっと指貸してある」
国松「それって両手の指では数え切れないってこと?(赤面)」
藪崎「つーか数えんでええ!私が言いたいのは、私はアンジェラと違って処女やってことや!穢れ無き乙女の処女以上の貢ぎもんがあるか!」
豪田「あのヤブさん、うちのシゲさん山神様か何かじゃないんですから」
国松「(赤面)それに大きな声で処女処女言わないで下さい」
台場「それに我々腐女子は、処女非処女に関係無く、心は穢れていると思いますよ」
藪崎「うっ、それを言われると…」
アンジェラ「ならばヤブさんも仲間あるね」
藪崎「お前だけはちゃう!くそー指折って男の経験自慢しおって、勝ったと思うな!」
神田「はいはいはい、もめるのはそれぐらいにして下さい。とにかくじっくり時間かけて、じわじわと行くのだけは忘れないで下さいね」
こうしてこの日、「斑目先輩を男にする会」が結成された。
斑目は会場内を見下ろして、1人佇んでいた。
その視界の中では、1年男子たちとクッチーが忙しく動いていた。
有吉が日垣、浅田、岸野に並ぶ心構えを教えている。
(伊藤はニャー子と別行動のようだ)
有吉「いいかい、君たちの任務は同人誌を買うことじゃない、並ぶことだ。完売なら即時撤退、ただし並ぶ時は潰れても並ぶんだ」
ここまで声は聞こえないが、口の動きから大体こういうことを言ってると推測出来た。
かつて笹原に同じようなことを教えたのを思い出し、斑目は1人苦笑する。
一方ループの帝王クッチーは、1人マイペースでズンズン買い進めていた。
もはや斑目の動体視力では捕捉出来ない、まるで数メートルごとにテレポートしてるような動きだ。
「朽木君も成長したなあ…」
日垣、浅田、岸野、伊藤、そして国松、この5人はアニメや漫画のオタとしては初心者レベルで、会話してみると呆れるほど知らないことが多かった。
彼らが入会してからの3ヶ月ほどの間、斑目は非常勤の初級オタク講座の講師のような役割を担っていた。
荻上会長は絵描きとして特化したオタなので、案外オタの一般常識の抜けが多い。
コスプレに特化した大野さんも同様だ。
クッチーは就職活動中(それでもしょっちゅう部室に来るが)の上に、作品の好き嫌いが激しくオタ知識が偏っているので、初心者向けではない。
恵子は同人誌やエロゲーなどには興味を示しているが、オタ知識の基本は出来ていない。
今のところ現役会員で、初心者5人に1番バランスの取れたオタ一般常識を教えられるのは、1年の有吉と神田だけだった。
(腐女子四天王が初心者向けでないことは言うまでもない)
その2人にしても、ここ10数年ほどの作品についての知識は斑目に匹敵するが、それ以前の作品についての知識には不安が残る。
(ヤマトやガンダムなどの超メジャーな作品は押さえているが)
アニメや漫画について語る上で、70〜80年代は避けて通れないという信念を持つ斑目は、必然的に有吉と神田の穴を埋めるような形でフォローするようになった。
だが彼らは元々は田中に近いタイプの、1人1芸のマイペース型のオタだったので、日垣と国松に田中がコス制作技術を伝承し始めた頃ぐらいから、各々個性を発揮し始めた。
浅田と岸野は元写真部で、写真のスキルはもちろん、アウトドアライフやサバイバルの知識やスキルは半端では無い。
伊藤は脚本やラノベやSSを書く為の修業の一環として、ドラマや映画を数多く見ていたし、小説も数多く読んでいた。
日垣と国松は田中に師事してコス作りを習得しつつある。
そして国松は、元々は筋金入りの特撮オタだ。
こうして彼らは早くも独自のオタク道を進み始めていた。
もはや斑目が彼らにしてやれることは、オタク一般教養面での細かい補完と、オタモラルを説くぐらいであった。
とは言え、斑目にとって今の現視研はそれなりに居心地は良かった。
礼儀正しい1年生たちは、本心でどう思ってるかはともかく、彼にそれなりの敬意を表し、それなりに会話もある。
まあもっとも、1年女子たちにとっては何時の間にか総受けキャラと認定され、いじられキャラと化していた。
だがそれとて今まで「可愛い女子の後輩に構われる」というシチュエーションに恵まれていなかっただけに、それはそれで悪くなかった。
なのに斑目の心の中には、何か満たされない隙間のようなものが常にあった。
それが何かは彼自身にも分かっていた。
「結局のとこ、俺はまだ春日部さんへの気持ちを吹っ切れてないんだ…」
かと言って斑目に、今さら春日部さんをどうこうしようという積もりは無かった。
それは単に振られることが怖いせいだけではない。
今の春日部さんとの関係を壊したくないし、春日部さんの幸せを壊したくないし、仮に自分が対抗できるスペックがあるとしても、高坂の幸せも壊したくなかった。
彼は高坂に含むものは無かった。
よく分からないところも多いけど、いい奴だし人としてもオタクとしても優秀だし、後輩であるにも関わらず尊敬し一目置いていた。
斑目は臆病で気弱だが、裏を返せば心優しい気配りの人でもあるのだ。
就職してから何ヶ月か経ったある日、斑目は会社の人たちと一緒に飲みに行った。
後半はカラオケ大会となり、ある先輩が「恋するカレン」を歌った。
斑目の横でそれを聞いていた、別の先輩がポツリと言った。
「俺嫌いなんだよこの歌、特に今のフレーズがさ」
彼の嫌いなフレーズとは、次の部分だった。
「かた〜ちの〜無い優〜しさ〜、そ〜れよ〜り〜も〜見〜せ〜か〜けの〜、魅力を選〜ん〜だ〜♪」
「そう言うけどさ、そんなの分かんないじゃねえか。もしかしたら2人の間には、傍目には分からない心の絆があるのかも知れないじゃねえか」
先輩はさらに続けた。
「そりゃ振られた方の気持ちとしてさ、自分の恋愛感情だけが純真無垢で、他人の恋愛感情はただやりたいだけだと思いたい、それは分かるよ」
「まあ確かにそう思っちゃいますよね」と合いの手を入れる斑目。
「でも斑目よう、くっついちまった男女の仲なんざ、所詮傍から何言っても野次馬のゴシップでしかねえんだよ。ほんとのとこどうなのかは、本人たちにしか分かんねえんだよ」
実は斑目、2人は所詮ハイスペックの美形同士がくっついただけで、ひょっとしたら卒業後も恋焦がれ続けている自分こそがふさわしい相手では、と秘かに考えたことがあった。
だが前述の先輩の話を聞いてから、2人には2人にしか分からない絆があり、それに自分が介入する資格も権利も無いと考えるようになった。
そして春日部さんへの気持ちを吹っ切ることを決意した。
だからあの2人の幸せを願う気持ちに偽りは無い積もりだ。
だがそれでも、彼は胸中に自分でも上手く説明の出来ない「何か」がしこりのように残り続けていることを自覚していた。
「ほんと未練がましい、みっともない男だよな、俺って…」
斑目は自嘲的な笑いを浮かべると、売り場に向かって歩き始めた。
その背中には、自身のみっともなさと格好悪さを受け入れた男の哀愁が滲んでいた。
この時、彼はまだ知らなかった。
その哀愁を放って置けない乙女たちが動き始めたことを。
1年女子たちは散開し、それぞれの担当エリアに並んだ。
担当エリアが近い台場と沢田が、列が進むのを待つ間、先ほどの話の続きに興じる。
台場「ねえさっきのスーちゃんの提案だけど、あれも何かの台詞っぽかったけど、元ネタ分かる?」
沢田「あの『男にする会っちゅうのを作ったらどうじゃろ』ってやつ?漫画やアニメの知識は、晴海の方が私より上なんだから、晴海が分かんないんなら私に分かる訳無いわよ」
台場「うーん、広島弁使うアニメや漫画なんて、『カバチタレ』か『はだしのゲン』ぐらいしか知らないわね。何だろう?」
伊藤「その台詞の元ネタは多分、『県警対組織暴力』だと思うニャー」
背後から突如かかった声に驚いて振り返る2人。
何時の間にか2人の後ろに、伊藤とニャー子が立っていた。
沢田「伊藤君、聞いてたの?」
台場「それよりその県警対何とかって?」
伊藤「『県警対組織暴力』、70年代の東映の実録やくざ映画のひとつだニャー」
沢田「まさか、いくら何でもスーちゃん、そこまで知識無いでしょ?」
そこへちょうどスーが歩いてきた。
伊藤「ちょうどいいから試してみるニャー。ねえねえスーちゃん、優柔不断なやくざの親分に子分がひと言」
沢田・台場「?」
スー「(松方弘樹似のドスの効いた声で)神輿ガヒトリデ歩ケルチュウンヤッタラ歩イテミイヤ!」
沢田・台場「!」
伊藤「やくざが敵の縄張りで暴れる前にひと言」
沢田・台場「?」
スー「(松方弘樹似のドスの効いた声で)ココイラノ店、ササラモサラニシチャレイ!」
沢田・台場「!」
伊藤「うーん、これはちょっとまずいかニャー?対立してる組が売春をシノギにしてることに対し、やくざがそれを非難するひと言」
沢田・台場「?」
スー「(千葉真一似の声で)言ウテミタラアレラハ、○○○ノ汁デ飯食ウトルンド!」
沢田と台場はもちろん、周辺の客たちまでもが思わず「ブッ!」となる。
○○○とは、関西での女性器の俗称だったからだ。
伊藤「うーんそこまで言えるとは、スーちゃんかなり東映やくざ映画も見てるニャー」
沢田「(赤面し)ちょっ、ちょっと伊藤君、女の子に何てこと言わせるのよ!」
台場「(赤面し)そっ、そうよ、ニャー子さんも呆れてるじゃない!」
確かに傍らで、ニャー子はボーっとしていた。
だがやがてポツリと言った。
ニャー子「伊藤君って、物知りだニャー」
伊藤「(照れて)いやあ、それほどでも」
こける沢田と台場。
沢田「それで済ますのか、ニャー子さん?」
台場「愛の力って偉大ね…」
呆然とする腐女子2人だったが、「斑目先輩を男にする会」について猫カップルに口止めすることは忘れなかった。
荻上会長は笹原の買い物に付き合っていた。
とは言っても、笹原は昔ほどがっついて買い漁っていない。
1度作る側に入るとどうしても作品を冷静に客観視してしまい、衝動的な買い方はしなくなるものらしい。
それに今回は合間に取材をしなければならないというのもある。
そんな訳で、1時間と回らぬ内に主だった買い物は終わった。
あとはA先生への資料用を買うだけだが、それも1年生たちの分担購入の範囲内でほぼ賄えそうだ。
今日は2人ともコスプレの予定も無いから、ようやく笹荻は3日目にしてノビノビと2人きりの時を楽しめた。
笹原と荻上会長の前方の人混みが左右に分かれた。
その間を十数人の男女が、こちらに向かって歩いて来る。
全員白衣だ。
みんな白衣姿が妙にさまになっている。
男たちの何人かは、首から聴診器をぶら下げている。
さらに男女ともIDカードらしきものを胸に付け、胸ポケットにはボールペンが数本刺さっている。
女性は化粧気がスッピンに近い最小限で、マニキュアやネイルアートをしてる者は居ない。
コスプレにしては、やけに細かくリアル過ぎる。
お客さんたちが退いて道を開けたのも、本物の医者や看護師に見えるせいかも知れない。
その一団の最後尾に、他の者たちに比べて縦にも横にも大きい人影が見えた。
その白衣の巨体に、笹荻は見覚えがあった。
いや正確には、見覚えのある男の面影があった。
白衣の巨漢は、卒業前に比べて激痩せした久我山だった。
久我山が何やら声をかけ、白衣の一団は停止した。
久我山「さっ笹原、それに荻上さん、ひっ久しぶり」
笹原「やっぱり久我山さん…ですよね?お久しぶりです」
荻上「こんちわ」
笹原が自信なさそうな発言をしたのも無理は無かった。
新会員たちが入った頃はたびたび部室に顔を出していた久我山だったが、その後また忙しくなってここ3ヶ月ばかりは姿を見せてなかった。
春に会った時、既に久我山は少し痩せていた。
とは言っても世間一般的には十分にデブであった。
だが今日会った久我山は、デブには違いないが病的な太り方はしていなかった。
適度に筋肉と混ざり合ったようなズングリとした太り方、例えるならラグビーの選手が引退して太った、そんな感じの太り方だ。
笹原「痩せましたね、久我山さん」
久我山「まっ、まあね。今では百キロ無いよ。90ちょいぐらいかな」
白衣の1人が話に割り込んでくる。
医師A「久我山君、この2人は?」
久我山「あっせっ先生、この2人、私の大学のこっ後輩の笹原と荻上さんです」
笹原「先生?」
久我山「この方は、おっ俺の取引先の病院の外科の先生」
荻上「じゃあ他の方々もひょっとして…」
久我山「みっみんな取引先のお医者さんや看護師さんや薬剤師さんだよ」
荻上「なるほど、道理で白衣がさまになり過ぎてる訳ですね」
笹原「ひょっとして久我山さん、これって接待ですか?」
久我山「そっそうだよ。みなさん俺の話聞いて、1度コミフェスに来てみたいとおっしゃったので、おっお連れしたのさ」
医師A「君が笹原君か。久我山君から聞いたことはあったけど、思ったより小柄だね」
笹原「はあ…(意図がよく分からない)」
医師A「いやあ君有名なんだよ、うちの病院で。久我山君と喧嘩した男として」
笹原「えっ?」
久我山の方をチラリと見る笹原。
久我山「(医師Aに)けっ喧嘩だなんて。彼とは単に口論になっただけです!」
医師A「そうなの?」
若い看護師が話に割り込む。
「何だそうだったの?うちの医局じゃ笹原さん、久我山さんをボコボコにしたって有名よ」
笹原「ボコボコって…久我山さーん(汗)」
久我山「すっすまん。雑談中にちょろっと口論した話をしたら、変な尾びれが付いて噂広がっちゃったみたい」
笹原「いくら何でも…付き過ぎでしょ尾びれ」
別の医師が声をかけてきた。
「まあ気にするなよ笹原君。うちの病院なんて君の事、『久我山殺し』って呼んでるみたいだけど大丈夫大丈夫、みんな洒落で言ってるだけだから」
笹原「洒落になってませんって…」
その後笹原は、その場に居た医師や看護師や薬剤師全員に対し、自分についてどんな噂が飛び交っているか聞き取り調査した。
噂は予想以上に膨らんでいた。
曰く、笹原が元暴走族のヘッドで百人相手のタイマンに完勝した。
曰く、笹原が久我山を3階の部室の窓から投げ捨てた。
曰く、喧嘩の原因は絵描きの女の子(荻上会長のことらしい)の取り合い等々…
笹原はそれらの噂を全て訂正するように、その場に居た白衣全員に約束させた。
医師たちは素直に応じた。
「分かった。うちの医局内については、ちゃんと訂正しておく」
「分かりました。私も患者さんたちに話したこと訂正しておきます」
「僕も今日帰ったら、自分のブログ訂正しとくよ」
「僕も2ちゃんねるに書いたネタ、訂正しとくよ」
医師たちの真摯な対応に、いったいどこまで噂が広がっているのかと却って不安になる笹原だったが、気になっていたことの質問も兼ねて話題を変えることにした。
笹原「ところで先生方、今日は何で白衣なんですか?」
医師A「これでも一応コスプレの積もりなんだけどね」
荻上「何のコスプレなんですか?」
医師A「(後ろの方に居る若い医師に)君、音楽スタート!」
若い医師は、片手にぶら下げていたラジカセのスイッチを入れた。
すると音楽が流れ始めた。
その音楽には聞き覚えがある感じがした。
ファーストガンダムで、本編の終了間際にホワイトベースが飛んで行く時に流れる音楽に似ていた。
だが医師Aは若い医師を叱り付けた。
医師A「こっ、こら君、これは田宮二郎の方じゃないか!私は唐沢寿明の方にしろと言ったじゃないか!」
その言葉で笹荻は悟った。
「『白い巨塔』か…」
だが医師たちの方は大変なことになっていた。
若い医師「もっ、申し訳ありません!」
医師A「もういい、君は減給だ!」
若い医師「ええ、そんなあ…(半泣き)」
そこへ久我山が割り込んだ。
久我山「あっあの先生、お言葉ですが、こっこの場合は田宮二郎バージョンの方が場の空気には合ってると思います」
医師A「それはどういうことかね?」
久我山「たっ田宮二郎バージョンの『白い巨塔』のテーマ曲を作曲したのが、わっ渡辺岳夫だからです」
合点の行く笹荻。
「どおりで聞き覚えがある感じがする訳だ」
久我山「見て下さい、まっ周りのお客さんの反応を」
周囲を見渡す医師A。
見ると30代以上と思われる、比較的年配のオタたちが足を止め、感心したような顔で医師たちを見ていた。
彼らの声が聞こえてきた。
「見ろよ『白い巨塔』のコスだぜ。しかも田宮二郎バージョンのとは、渋い選曲だな」
「普通なら唐沢にするとこだけど、あの先生たち分かってるじゃん」
久我山「わっ渡辺岳夫は、主に70年代のテレビアニメやドラマの主題歌をたくさん作曲した、にっ日本のアニメ史を振り返る上で避けて通れないキーパーソンなんです」
医師Aは若い医師に近付き、軽く肩を叩いてこう言った。
「怪我の功名だったな。来月から昇給だ」
どうやら久我山の言ったことを分かってくれたようだ。
若い医師「あっ、ありがとうございます!」
医師A「(笹荻に)それじゃあ私たちはこれで。そうそう忘れてた。(看護師の1人に)君、例の台詞を。(若い医師に)じゃあそれに合わせて、もう1回ミュージックスタートだ」
看護師「財前教授の、総回診です!」
再びテーマ曲を流す若い医師。
それに合わせて歩き出す医師たち。
2人にそっと囁く久我山。
久我山「あっあの若い先生、あの病院の契約取る時、いっいろいろ世話になったからね」
笹原「よかったですね、久我山さん」
久我山「そっそんじゃまた」
久我山は医師たちを追って小走りで走り去った。
昼食直前、笹原と荻上会長は漫研の売り場に立ち寄った。
今日は男性向けの出品だ。
売り子を務めていたのは、加藤さんと藪崎さんだった。
そして客としてスーが来ていた。
例によってスーがピョンピョン跳ねている。
藪崎「ほれほれ、本やったらやるから、そないピョンピョンせえへんの」
スー「オオキニー!」
藪崎「ほう、なかなか大阪弁も分かってきたなあ」
加藤「今のは種ガンダム版のハロの物真似じゃない?」
藪崎「そうでんな。やるなあスー」
荻上「すっかり仲良くなったね、スーちゃんとヤブ」
藪崎「まあな」
荻上「そう言えばヤブ、前スーちゃんに会った時は逃げてたわね」
藪崎「アホ、あれはネタや。『あずまんが大王』の真似や」
そうは言ったものの、実は藪崎さんは元来外人が苦手だった。
藪崎さんは中学高校と英語の成績が悪かった。
おまけに同級生にハーフで美人でモテモテで英語ペラペラの帰国子女が居て、彼女と比べられて辛い思いをしたことがトラウマになっていた。
その為英語だけでなく外人に対しても、何時の間にか苦手意識が染み付いていたのだ。
だが去年の冬コミで荻上会長がスーと一緒に居たことで、彼女の負けん気魂に火が点いた。
荻上会長が大野さん並みに英会話が出来ると勘違いしたのだ。
年が明けてから外人が講師を務める英会話学校に通い始め、何とか話せるレベルまで上達した。
かなりブロークンで「ちょっとジャストモーメントプリーズや」といった具合に関西弁混じりの独特の話し方ではあったが、発音は悪くないらしく不思議と意味は通じた。
そして同時に外人コンプレックスも克服出来た。
もっともそのことは、荻上会長にも内緒にしていたが。
ひと通り買い物の終わった1年男子たち(ここから伊藤も合流した)とクッチーと斑目は、1度集まって戦利品を見せ合う。
ちなみにニャー子は、伊藤に気を使ってここから別行動を取った。
さすがに女子たちの前で男性向け同人誌を広げる度胸は、1年男子たちと斑目には無かった。
(クッチーは男の中の男だから、女子の前でも平気で広げられるが)
1年女子たちが買ってくれた分は、後で部室で分配する予定だ。
OBの貫禄を見せて、ごく普通に同人誌を開く斑目。
堂々と同人誌を開き、完全にハアハア顔のクッチー。
そんな2人と対照的に、まるでふた昔ぐらい前の中学生が路地裏で秘かにエロ本を見せ合うかのように、周囲を気にしつつコソコソと遠慮がちに同人誌を開く1年男子たち。
朽木「何々みんな、そんなコソコソ見ることないにょー。ここは天下の夏コミ会場ですぞ」
斑目「まあ朽木君のレベルはいきなりは無理だろうけど、そんなに恥ずかしがるこた無いよ。どうせ周りはみんなオタだ。みんなもやってることは一緒さ」
確かに周囲のお客たちも、堂々と同人誌を読んでいる。
朽木「そうそう、みんな少しは有吉君を見習うにょー」
赤面でコソコソ読んでる1年男子たちの中でただ1人、有吉だけは平然と真顔で同人誌を読んでいた。
伊藤「(赤面)有吉君、何でそんなに平然と読めるニャー?」
有吉「慣れだよ。高校の時から夏コミ来てたら、人前で同人誌読むぐらいどうってこと無いよ。まあさすがに女子の前では無理だけどね」
日垣「有吉君凄い…」
浅田「有吉君かっこいい…」
岸野「有吉君、漢だ…」
有吉「(照れて)よしてよ」
昼食を終えて、1年女子たちと大野・アンジェラコンビ、それに斑目はコスに着替える。
大野さんとアンジェラのコスは、アンジェラの希望により「ふたりはプリキュア」だ。
ちなみに「ふたりはプリキュア」は世界各地で放送されているが、この時期アメリカではまだ放送されていなかった。
だがこの手の情報収集を怠らないアンジェラの希望により、大野さんが送っていたのだ。
(まあ厳密には法的にまずいけど)
それをアンジェラが気に入ったのだ。
一方1年女子たちと斑目のコスは「さよなら絶望先生」だ。
斑目なら絶望先生が似合うと睨んだ神田のプロデュースだ。
斑目のコスは、神田の祖父の着物だった。
そして1年女子たちのセーラー服は、豪田の高校の制服を友人や後輩から借りた物だ。
本来男子更衣室に用があるのは斑目だけだが、何故か1年男子たちも一緒だった。
いや正確には、更衣室に行く直前から付いて来ていた。
斑目「あの、君たち何で俺に張り付いてるの?」
浅田「神田さんに頼まれたんです。斑目先輩が土壇場で逃げないように見張ってろって」
斑目『読まれている…』
広場は既に着替え終わった1年女子たちと大野・アンジェラコンビ、それに大野さんの学生としては最後のコスプレの晴れ姿を撮るべくカメラを構えた田中で賑わっていた。
プリキュアコスの大アンコンビを見て呆然とする1年女子一同。
1年女子一同「このプリキュア、胸デカ過ぎ…」
つい思った通りを口にしてしまう。
確かにオリジナル版プリキュアがスレンダーな女子中学生なだけに、大きな胸以外にも全体的に肉付きの良過ぎる大アン版プリキュアは違和感があった。
大野「(汗)ハハハ、まあアンジェラのリクエストですから…」
アンジェラ「要はなり切れればノープロブレムあるね。HEY、カナコ!」
アンジェラの呼びかけを合図に、2人はいろいろとポーズを決めて見せる。
1年女子一同「おー!」
どうやらアンジェラの言葉を納得したようだ。
一方1年女子たちもキャラを作り込んでいた。
あびる役の沢田は、包帯と絆創膏とお下げ髪ズラで殆ど原形を留めていない。
マリア役の国松は、顔や四肢に黒人メイク用のドーランを塗りたくっている。
カエレ役の巴は、金髪のヅラを被り、ただ1人だけカッターシャツにチェックのミニスカートの制服だ。
ちなみにこの制服、夏コミ直前に気付いた田中が、予算自腹でひと晩で作った逸品だ。
可符香役の神田は、髪を×状のヘアピンで止めて、鉄腕アトムのように少し髪を立てて後ろに流している。
それらに比べ、藤吉役の台場は殆どセーラー服を着ただけに等しかった。
台場「何で私だけ、殆どキャラ作らなくてOKなの?」
(作者の独り言)モデルになったキャラだからです。
そこへ遅れて、ことのん役の豪田がやって来た。
豪田「ごめん、メイクに手間取っちゃって…」
巴「メイク?(豪田を見て)わっ!?」
巴の悲鳴に振り向く一同。
一同「わっ?!」
みんなが驚くのも無理は無かった。
豪田は可愛くなっていた。
普段の5割増しぐらいで可愛くなっていた。
気のせいか体も若干細くなっていた。
台場「どっ、どうしたの蛇衣子?」
豪田「まあ、一応ネットアイドルって役どころだから、ちょっとメイクに力入れたのよ」
沢田「どういうメイクしたら、そこまで変わるのよ…(冷や汗)」
神田「蛇衣子かーわいー」
豪田「それより千里、この暑いのにコンクリートの上で裸足はやり過ぎじゃない?」
国松「ヨク見ルネ(片足を挙げる)」
豪田「地下足袋?」
国松「田中サンガ作ッテクレタ、地下足袋べーすノ裸足風靴ネ」
豪田「さすがだ、田中さん…」
巴「て言うか千里、片仮名で喋ってるし…」
神田「役作りですね。マリアは役作りは何かしてないの?」
巴「一応用意したわよ。パンチラするキャラだから、見せパン穿いて来た。ほらっ」
スカートをまくってみせる巴。
女子一同「わざわざ見せんでいい!」
次の瞬間、惨劇が起きた。
巴の前方に居た男性のカメコやレイヤーや一般客たちが、一斉に鼻血を吹いたのだ。
そしてその中には、ちょうどコスプレ広場にやって来た斑目と、1年男子たちも居た。
巴「変ねえ見せパンぐらいで?(自分のパンツを見て)あっ…(慌ててスカートを戻す)」
豪田「どうしたの?」
巴「(赤面して)朝寝過ごして慌ててたから、間違えて勝負パンツ穿いて来ちゃった」
女子一同「間違えるな!」
浅田・岸野「(上を向きつつ)撮ったぞ!」
カメラを構えて叫ぶ2人。
他男子一同「(上を向きつつサムアップのポーズ)GJ!」
巴「(スカートを押さえつつ赤面し)いやーん!まいっちんぐ!」
沢田「いやそれ、役作り間違ってるし」
神田「あっ大変、先生倒れてる」
斑目は絶望先生コスのまま気絶していた。
駆け寄る一同。
国松「(斑目の体を探り)大変ダ、瞳孔開イテルヨ。ソレニ心臓止マッテイルヨ」
豪田「片仮名で喋ってる場合か!」
アンジェラ「よしこうなったら、私が人工呼吸で」
沢田「この場合人口呼吸は関係無いと思います」
神田「それに下手したら、完全に心停止しちゃうし」
巴「そんじゃあ私が心臓マッサージで」
台場「斑目さんのか細い体にあんたがやったら、あばら折れちゃうわよ」
大野「えーとえーと」
田中「しょうがねえなあ。とりあえず俺やってみるわ、心臓マッサージ。(1年男子たちに)
君たちは救護班呼んで来て」
1年男子「分かりました!」
走りかける1年男子たち。
そこへスーがトコトコとやって来た。
そして斑目に近付く。
しばし呆然と見つめてしまう一同。
スー「(斑目の心臓に左フックを放ちつつ)てりおすっ!」
固まる一同。
豪田「ちょっ、ちょっと!何てことするのよ!?」
巴「そうよ、いくら何でも無茶よそれは!」
だが次の瞬間、斑目の心臓は動き出し、むっくりと起きた。
神田「やったあ、先生生き返ったー!」
沢田「スーちゃん凄い!」
国松「先生大丈夫カ?」
斑目は本人の生命だけでなく、キャラ作り魂も復活した。
斑目「死んだらどうする!」
神田「(涙ぐみ)やっぱり先生はすばらしい教師です。常に命がけでキャラ作りに臨んでらっしゃる」
斑目「いや…あのそーゆーんじゃないから。本当に死にかけてただけですから。(巴に)それより何ですか、女の子が簡単にパンツ見せたりして、はしたない」
巴「申し訳ありません、まさか勝負パンツ穿いて来たとは思わなかったんで、つい…」
この時巴は、カエレというより大和撫子の別人格の楓に近い精神状態になっていた。
沢田「あの先生、今時パンツぐらいでそんなに目くじら立てなくてもいいと思います」
豪田「そうですよ、今時の女の子なんて超ミニでパンツ見せまくりですよ」
斑目「いいですか皆さん、男性はパンツさえ見れれば何でもいいという訳ではないのです。パンモロではなくパンチラでなければ萌えないのです」
神田「わーシゲさん先生ぽくなってきた」
国松「デモ綺麗事言ッテテモ、結局ノトコぱんつ見タインダロ?」
斑目「そりゃまあ見れないよりは…何を言わせるんですか!絶望した!パンチラの美学を理解出来ない、近頃の女子高生に絶望した!」
神田「さすがは先生、もうすっかり絶望先生ですね。それじゃあ先生も無事復活し絶好調みたいですので、サプライズをお呼びしますか」
一同「サプライズ?」
携帯を取り出して話し始める神田。
神田「もしもし、用意はいいですか?…分かりました、じゃあお願いします」
豪田「何なのサプライズって?」
神田「(ニッコリ笑って)すぐ分かりますよ」
斑目「何やら嫌な予感が…」
十数分後、サプライズの正体が分かった。
加藤「ごめんなさい、遅くなって」
声に振り返った一同は凍り付く。
やって来たのは「やぶへび」の面々だった。
神田「改めてご紹介します!特別参加の『やぶへび』の皆さんです!」
加藤さんはシーツに包まって、顔だけ(と言っても相変わらず前髪で隠れているが)出している。
藪崎さんは明治時代の女学生のような、下は袴の着物姿だった。
そしてニャー子はセーラー服だったが、背中に「もじもじもじ」と書かれたプラカードのような板を背負っていた。
豪田「加藤さんもしや…霧なの?」
巴「まあ髪型と美形なのは合ってるけど、ちと背高過ぎない?」
台場「藪崎さん…まさかまとい?」
素早く接近する藪崎さん、台場にヘッドロックをかます。
藪崎「そのまさかって何やねん?まといにしてはデブ過ぎる言いたいんか?」
台場「言ってません言ってません!ギブギブ!」
さっと台場から離れ、斑目に接近する藪崎さん。
斑目「(赤面し)なっ何を?」
藪崎「(赤面し)やっ役作りですわ」
神田「藪崎先輩、本当は万世橋わたる君の予定だったんですけど、絶望先生が斑目さんだと知ったら、強引にまといやりたいって言い出したんですよ」
藪崎「こっこら、それを言うな!」
神田「だから急遽親戚のお姉さんに頼んで、大学の卒業式の時に使った着物借りて来たんですよ。まあ乙女心から出た我がままですから、仕方ないですけどね」
斑目「あの、それはどういう…」
藪崎「(最大赤面で)言うなっちゅーに!」
沢田「ニャー子さんのは芽留ですね」
沢田の携帯が鳴る。
沢田「(携帯を出し)あっメールだ…ニャー子さん?…何々、『その通りだニャー』?うーん、役作り出来てるんだか出来てないんだか…」
神田「ねっどうです先生?ピッタリでしょ、『やぶへび』の皆さん?」
誇らしげに胸を張る神田。
神田「加藤さんの霧は、本当は毛布がいいんですけど、さすがにこの暑さじゃまた犠牲者出ちゃうからシーツにしました」
斑目の前に、ペタリと体育座りで座る加藤さん。
斑目は加藤さんと面識はあったが、あまり話したことは無かった(当然素顔は見たことが無い)ので、思わずドキリとして赤面する。
神田「ほら先生、役作り役作り」
斑目「そっ、そうですね。(しゃがんで加藤さんの前髪に手を掛ける)失礼」
加藤さんの前髪を左右に開ける斑目。
まだ赤面していて手が震えている。
こんな感じで女性の髪に触れた経験は、斑目には無かった。
初めて見る加藤さんの美人の素顔に、思わず見とれてしまう。
他の会員たちやカメコたちも思わず「おお!」とどよめく。
だがそこは斑目、オタクの中のオタクだ。
こんな場合でもキャラ作りは忘れない。
斑目「美人だ。しかも白い」
台場「わーシゲさん、マジで言ってる」
赤面しつつ、目を妖しく光らせる加藤さん。
斑目「(思わず素に戻り)えっ?」
加藤「(赤面し)あの…斑目先輩」
斑目「はい?」
加藤「(赤面)私、男の人に前髪開けられるの、初めてなんです」
斑目「そっ、それはどういう…」
加藤「(最大出力で赤面)…責任…取って下さいね」
神田「残念ながらこのクラスの女子は全員先生のお手付きなんで、それは無理でーす」
マジでうろたえる斑目。
斑目「人聞きの悪いこと言わないで下さい!」
加藤さんの気配が変わった。
顔に影が差し、頭上に「ゴゴゴゴ」という擬音の文字が見えそうな感じだ。
そしてシーツをパッと脱ぎ捨てる。
加藤さんはセーラー服を着ていた
一同「着てたんだ、セーラー服」
神田「一応用意しといたのよ」
加藤さんの髪型は、先程までと一変していた。
頭頂部の正中線で、きっちりと左右に分け目が出来ていた。
そう、彼女はキャラを途中で木津千里に変化させたのだ。
しかも顔は鬼の形相で、いつの間にか手には金属バットを持っていた。
通常モードではなく、殺人鬼モードの千里だ。
斑目「(怯え)ひっ!」
加藤「裏切ったな。私の純情を弄んだな」
田中が止めに入る。
田中「加藤さん!コミフェスで長物は禁止だ!」
斑目「そっちかい!」
加藤さんはバットを捨てた。
加藤「田中さん、素手なら問題無いですよね?」
田中「まあ腕切り落とす訳にも行かないからね、オケー!」
斑目「田中!許可するなよ!」
田中「お前もいい加減、責任取って身を固めろや」
斑目「責任取んなきゃいかんようなこと、しとらんっつーに!」
田中「まあつねられるぐらいで済めばいいじゃないか」
その時加藤さんが、500円玉を取り出して前に突き出した。
一同「?」
次の瞬間、加藤さんは親指・人差し指・中指の3本で500円玉を折り曲げた。
斑目「ひっ!?」
田中「(青ざめて)…まあ、つねられるぐらいで済めば…」
斑目「良かないっつーの!」
加藤「つねってやる〜〜〜〜!」
斑目「いやあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
全力疾走で逃げる斑目。
その斑目の後を加藤さんが追う。
それを止めようと藪崎さんも追う。
藪崎「ちょっ、ちょっと加藤さん、私の斑目さんに何しますねん?」
さらにはアンジェラや1年女子たち、それにスーもその後を追う。
それを止めようとする1年男子たちや、面白そうと判断したかニャー子までも追いかけっこに参加し、混乱は加速する。
だが周囲はアトラクションと思い、誰も止めない。
斑目「いやあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
田中と大野さんは追いかけっこを呆然と見つめていた。
そこへ様子を見に、荻上会長と笹原、それに途中で合流したクッチーがやって来た。
事情を聞いてあ然とする笹荻。
笹原「斑目さん、けっこうもてるんだ…」
荻上「そうですね」
大野「でも、やっぱり総受けですね」
荻上「総受けですね」
見ている内にお祭野朗のクッチーの血が騒いだ。
朽木「何か面白そうですな。自分も参加するであります!」
こうしてクッチーまで追いかけっこに加わった。
笹原「何か『うる星やつら』のアニメ版のオチみたいだな…」
荻上「そろそろ止めましょうか?」
大野「まあまあ、もう少し見ていましょうよ」
荻上「大野さん、この状況面白がってません?」
大野「斑目さんがたくさんの女の子に追い回されるなんて、早々あることじゃないですし」
田中「まあ案外、いい思い出になるかもな」
笹荻『鬼だ、この2人…』
コスプレ広場では、相変わらず追いかけっこが続いていた。
臆病者ゆえの逃げ足の速さのせいか、なかなか斑目は捕まらない。
だがそんな斑目が突然停止し、追手一同もそれに合わせ、まるで椅子取りゲームの音楽が止まった瞬間のように停止する。
斑目の数メートル前に、鬼の形相の春日部さんが立っていたのだ。
斑目「あの…春日部さん?」
春日部「斑目、お前この娘たちに何したんだ?」
斑目「しとらんしとらん、何もしとらんって!」
春日部「遠くからでも聞こえてたぞ。乙女心を弄んだとか、裏切ったとか」
どうやら加藤さんが追いかけながら叫んでいたことが、かなり遠くまで響いていたらしい。
斑目「してねえっつーの!」
春日部「言い訳無用!」
久々に春日部さんの、全体重を乗せた右ストレートが炸裂した。
斑目はギャラクティカ・マグナムを喰らったように、数メートル吹き飛んで気絶した。
でも何故か、斑目の寝顔(と言うのか?)は安らかだった。
数分後、斑目は意識を取り戻した。
笹原がまた気付け薬を使ったのだ。
現視研一同と「やぶへび」の面々は、心配そうな顔付きで斑目を見つめていた。
そしてその中に春日部さんも居た。
斑目「春日部…さん?」
春日部「ごめんよ斑目(頭下げつつ両手を合わせ)ほんとスマン、事情も訊かずに殴っちゃってさ。大丈夫か?」
斑目「(少し顔をそらしつつ殴られた頬を押さえ)大丈夫じゃねえよ。相変わらず暴力女なんだから、ったく」
今回ばかりは春日部さん、平身低頭の姿勢を崩さない。
春日部「ほんとごめんね」
そう言いながらハンカチを出して、斑目の口の端に滲んでいた血をぬぐう。
最大出力で赤面する斑目。
春日部「ん?どした?」
斑目「いやー殴られたことはたくさんあったけど、介抱されたことは無かったなと思ってね。そう考えたら案外今回のは役得だなと思ってさ」
春日部「(苦笑し)相変わらず馬鹿なこと言ってるね、ったく」
斑目「そう言えば春日部さん、今日はどうしたの?初日には高坂に差し入れに来てたって聞いたけど」
春日部「今日はデートよ」
親指で後方を指す春日部さん。
その指の先には、かなり離れて高坂が立っていた。
例のごとく、微笑みを浮かべつつ会釈する。
斑目もそれに応え、「ようっ」という感じで片手を上げた。
斑目「夏コミでデートか、春日部さんも丸くなったもんだな」
そういう斑目の口調は、どこか寂しげだった。
春日部「慣れただけよ。『しょうがないなあ』って目で見てるのは相変わらずよ」
斑目「まるでバカボンのママだな」
春日部「(苦笑)それ何となく分かる」
斑目と春日部さん以外の一行は、何時の間にか2人から少し距離を置いていた。
古くからの現視研の面々と1年男子たち、そして「やぶへび」の面々と1年女子たちの2組に別れて、2人を見守っていた。
神田「どうも斑目先輩と春日部先輩の関係って、私たちが思ってた以上に複雑な感情があるみたいね」
台場「確かに春日部先輩、何か斑目先輩の前では飾らないし、本音ぶつけてるわね」
豪田「それって、ドラマなんかだと本命のカップルのパターンだよね」
沢田「まあ高坂先輩と春日部先輩の関係が表面上、上辺の魅力だけで付き合ってるみたいに見えるからだろうけど、何だか高坂先輩の方が当て馬っぽく思えてきたなあ」
巴「でも春日部先輩、恋愛に関しては徹底的に真摯な人よ。ふたまたとか浮気とかって出来ないと思うわ」
豪田「確かに意識の上ではね。でも、もしかして春日部先輩、無意識の領域では斑目先輩のこと…」
女子一同「うーむ…」
加藤「まあそれは何とも言えないわよ。我々は春日部さんの問題とは別に、独立部隊で斑目さん追うしかないわ」
藪崎「せや、私の愛で斑目さんを立ち直らせたる」
ニャー子「臆面も無く、堂々と言えるようになりましたニャー」
スー「ナリフリ構ッテランナイノヨ」
アンジェラ「そういう攻撃なら私の出番あるね」
神田「あの皆さん、お気持ちは有難いんですけど、あくまでもソフトに、スローに、じっくりじわじわを忘れないで下さいね」
巴「そうそう、試合はまだ1回裏よ。ここはじっくり攻めるべきね」
1年女子たちの相談を傍らで聞いていた荻上会長は、正直感心していた。
実は荻上会長、「斑目先輩を男にする会」が発足したことをアンジェラから聞いていた。
(もちろんその後、口の軽いアンジェラに堅く口止めしたことは言うまでもない)
最初にそれを聞いた時は不安だった。
あのデリケートな斑目に、誰かが春日部さんについて何か言ったらどうなるか分からないからだ。
だが彼女たちは想像以上に斑目のことを理解していた。
だから荻上会長は、彼女たちに斑目のことを任せてみようと思った。
荻上「そういうことでいいですね?」
笹原「うん」
大野「賛成です〜」
田中「まあ斑目、これだけモテモテなら、いつか幸せになれるさ」
朽木「あの、これはどういう…」
事情を知らず戸惑う1年男子たちとクッチーに対し、荻上会長が笑顔で煙に巻く。
荻上「斑目さんがモテモテってことですよ」
コスプレ終了間際、現視研1年女子一同(スー・アンジェラ含む)が大野さんを取り囲む。
大野「あの…これはいったい?」
巴「(ニッコリ笑い)4年間お疲れ様でした!」
他女子一同「お疲れ様でした!」
言い終わるや全員で大野さんを担ぎ上げる。
大野「ちょっ、ちょっと何を?」
巴「みんな行くよ!せーの!
1年女子一同「わっしょい!わっしょい!」
景気良く胴上げを始める。
大野「ひゃ〜〜〜!!!!!!!!!!」
大野さんが悲鳴を上げるのも無理は無かった。
巴やアンジェラ等、極端な怪力人間が散在することで全体の力が均等じゃないこと。
大野さんの体の重心が極端に胸部に集中していること。
それにみんな胴上げに慣れてないことなどが災いして、85年に阪神が優勝した時の吉田監督のように、大野さんは何度も裏返ったり元に戻ったりを繰り返した。
降りてきた時には、大野さんはすっかり目を回していた。
巴「よーし、次は会長行くよ!」
1年女子一同「おー!」
荻上会長に殺到する1年女子一同。
荻上「ちょっと、何で私まで?」
巴「優勝の胴上げと言えば、やっぱり監督もやらないと」
荻上「いや別に優勝してないし…」
豪田「まあまあ細かいことは抜きにしましょうよ」
胴上げされる荻上会長。
荻上「ひえええええ!!!!!!!!!!!」
荻上会長の場合は大野さんよりもきつかった。
大野さんまで胴上げに加わって、さらに全体のパワーバランスが崩れたこと。
荻上会長が小柄軽量なこと。
これらの要因により、裏返るどころか上がるたびに2〜3回転し、しかも恐ろしく滞空時間の長い、スカイハイトルネード胴上げ状態と相成った。
荻上会長が目を回して降りて来るや、巴の号令が飛ぶ。
巴「よし、次は復活記念で斑目先輩だ!」
斑目「ひええ!!!」
痩身軽量の斑目もまた、スカイハイトルネード状態と相成った。
この頃から「やぶへび」の面々や1年男子、それに現視研一のお祭野朗クッチーまでもが胴上げに加わる。
その後も何のかんの理由を付けて、結局現視研会員全員が胴上げされる破目になった。
アンジェラやスーはもちろん、OBや「やぶへび」の面々までもが宙を舞った。
さらには終わりがけにようやくやって来た事情を知らない恵子、果てはたまたま通り掛かった久我山や連れの医師たちまでもが宙を舞う破目になった。
その頃には何か熱病でも蔓延したかのように、周囲のレイヤーやカメコやお客さんまでもが胴上げをやり始め、コスプレ広場全体が祭状態と化した。
夏コミ終了後、打ち上げコンパの会場はメントールの匂いに満ち溢れていた。
最初から胴上げに参加していた者たちの何人かは、結局のべ40人近い胴上げを繰り返した為に腕や肩を痛めた。
そこで浅田と岸野が自前の救急キットに入っていた、湿布薬やインドメタシン系の塗り薬を提供したのだ。
巴「もう誰よ、胴上げなんてやろうって言い出したの?」
豪田「あんたじゃないの、もう!」
沢田「痛たたたたたた…」
荻上「もうみんな、いくら何でもやり過ぎよ!」
そう言いつつも、自分の肩や腕をもむ荻上会長だった。
元気でテンションが高いのは、不死身のお祭野朗クッチーと、最高の素材を前に興奮している国松だけだ。
国松「ねえねえスーちゃん、学祭の時コスやらない?スーちゃん可愛いから、お姉さんいろいろ着せ替えしたいの〜」
大野「うわー国松さん、すっかりやる気ね」
田中「これで俺も肩の荷が下りるな」
スー「押忍、それでしたら是非やってみたいのがあります」
国松「何々?私何でも作っちゃうから」
スー「ケロロ軍曹であります」
一同「ケロロ?」
国松「…でっ、何のコスがいいの?」
スー「自分、クルルがやりたいであります。クークックックッ」
国松「クルルかあ…」
何やら考え込み、現視研の一同を見渡す国松。
国松「ミッチーは身長いくつ?」
神田「160だったと思うけど」
国松「うーん…アウト!彩、身長いくつ?」
沢田「156…ぐらいかな」
国松「…ギリギリ合格!」
荻上「あの国松さん、何を…」
国松「ケロロ小隊って5人いましたよね、1人足りないんです」
荻上「5人揃える積もりなの?」
国松「スーちゃんの身長に合わせようと思ったら、やっぱり彩ぐらいが限度ですから。あとみんなミッチーより高いから、バランス合わないし…」
大野「もしかして国松さんもやる積りなんですか、ケロロコス?」
国松「当然です。スーちゃんと身長釣り合う人が足りませんから。晴海!学祭は着ぐるみ5着だから、予算よろしく!」
ゴトリッ!
テーブル上に大きな音を立てて、台場が算盤を置いた。
それは普段彼女が使っている、一般によく見かける細身の算盤では無かった。
一の桁の球が四つではなく五つ有り、おまけに本体の底は素通しでは無く一枚板になっていて、本体前後左右の板と共に箱状の本体を形成していた。
戦前に使われていたタイプのものだ。
とりあえず凶器として使われたら、普段の細身の算盤より痛そうだ。
台場「あんた現視研潰す気か!5着も着ぐるみ作ったら、学祭の予算が無いわ!」
国松「それならいい方法があるわよ。着ぐるみ5着作って、なおかつ上手くいけば儲けが出る方法が」
台場「どんな方法よ?」
国松「(胸を張り)映画を作るのよ」
一同「映画!?」
国松「タイトルは『妖怪人間ベム・錬金術師アルフォンス・ケロロ小隊・7大怪人地上最低の決戦!』」
今度はあ然とする一同。
豪田「夏コミで使った着ぐるみ流用する気なんだ…」
日垣「うーん、俺はいいけど朽木先輩のスケジュールが大変だな。ベムとアルいっぺんに出そうと思ったら俺だけじゃ無理だし…」
台場が算盤を振り上げかける。
台場「あんたうちに特撮やれるスキルや予算があると思うの?」
沢田「それにその内容だと、どうやって話まとめる気?」
伊藤「こりゃ脚本難しそうだニャー」
国松「大丈夫よ。それらの問題は全部クリア出来るわ」
浅田「ほんとに?」
国松「撮影期間は1日。予備日を入れても2〜3日あれば十分よ。余分なセットや仕掛けは要らない。普通の撮影機材だけ調達すればオッケー」
岸野「どこで撮影する気なの?」
国松「大学の近所の裏山に行けば、適当な空き地や原っぱはあるわよ」
何となく嫌な予感がする一同。
伊藤「でもその条件で脚本書くのは、かなり難しいニャー」
国松「ストーリーは簡単よ。ベムとアルが歩いて来て激突。ベムが怒って喧嘩になり、それをケロロ小隊が止めに入り、ベムとアルがケロロたちやっつけてお終い」
台場が勢い良く算盤をテーブルに振り下ろし轟音を立てた。
台場「『ウルトラファイト』かい!!!」
(注釈)ウルトラファイト
70年に放送された、平日の夕方5分間の帯番組。
当初は「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の格闘シーンを編集し、プロレス風の実況ナレーションを加えた特撮格闘名場面集的な内容だった。
(ナレーターの山田次郎氏の本業はスポーツ中継のアナウンサー)
当然すぐにネタが無くなり、急遽アトラクション用の着ぐるみによる新撮が撮り足されて放送され続けた。
だがその内容たるや、野原や海岸等での寸劇風味の着ぐるみアトラクションショーの実況中継に一気にスケールダウンする。
それでも意外と人気番組で、第2期ウルトラシリーズの牽引役の1つになった。
(71年に「帰ってきたウルトラマン」が始まった後も放送は続いた)
だが台場の激怒と裏腹に、他の1年生たちは国松の案に喰い付いた。
豪田「いいねえ、それ」
巴「なるほど、その手があったか」
沢田「それなら話作るの簡単ね」
伊藤「ほんとほんと、脚本書くのに1時間も掛かりませんニャー」
日垣「なるほど、それなら撮影期間1日で済むから、朽木先輩のスケジュールに合わせて撮影すればいいね」
有吉「僕、ナレーターやりたいな」
神田「有吉君なら弁が立つから、いいかもね」
浅田「ビデオ撮りにすれば、機材も簡単に調達出来るし、編集も簡単だね」
岸野「うち8ミリあるから、それも使って並行して撮ればいいよ。ビデオはフィルムの破損や紛失に対する保険と、撮影の確認用に使ってさ」
アンジェラ「なかなか本格的あるね。ハリウッドの映画は、撮影の時その方法取ってるあるよ」
お祭野朗クッチーもこの話に乗った。
朽木「そういう話なら喜んで参加するにょー」
こうして何時の間にか話の流れは、学祭で映画をやる方向でどんどん進んで行った。
1年生たちの自主性を尊重する荻上会長は敢えて止めない。
だがそれを台場が止めた。
台場「ちょっとみんな!そんな簡単に決めていいの?」
巴「いいんじゃない?予算足りない分はみんなで出し合えば何とかなるわよ」
浅田「いざとなりゃまたバイトするし」
(彼は夏コミの軍資金稼ぎにバイトをしていた)
神田「それより晴海、あなたは映画やりたくないの?予算の問題抜きで考えてみて」
台場「そりゃ面白そうだとは思うけど…って何言わせるのよ!」
神田「なーんだ、じゃあお金の問題クリア出来るなら晴海も賛成ね」
言葉に詰まった台場だったが、やがて意を決して口を開く。
台場「分かった、やるわ」
国松「うっしゃー!」
台場「その代わりみんな、多分カンパお願いすることになると思うから、よろしくね」
1年一同「はーい!」
そんな様子を暖かく見守っていた荻上会長、ふとあることに気付いた。
荻上「あの国松さん、もしかしてケロロ小隊役の1人ってまさか…」
国松「安心して下さい。会長にはちゃんと軍曹さんお願いしますから」
荻上「(滝汗で赤面)ちょっ、ちょっと待って!」
国松「あ、アフロ軍曹バージョンの方がいいですか?」
荻上「いや、そうじゃなくて…」
国松「それともタママの方がいいですか?会長可愛いし。いや待てよ、会長ランファン似だから、忍者つながりでドロロの方がいいかも…」
荻上「だからそうじゃなくて、私がやるのは既定事項なんかい!」
沢田「私がやることも既定事項みたいですけど…」
国松「(目を見開いて涙を流し)会長嫌なんですか?」
朽木「あっ、荻チンが国チン泣かした〜!」
スー「女ノ子泣カセタノヨ!責任取リナサイヨ!」
荻上「もう分かりました!やるわよ!やらせて頂きます!ケロロでも何でも!」
国松「ほんとですか?やったあ!」
飛び付くように荻上会長に抱き付く国松。
だがその時アクシデントが起きた。
国松はアンジェラの真似して、荻上会長の頬にお礼のキスをしようとした。
ところがそこで荻上会長は、飛び付く国松に反応して彼女の方を向いてしまった。
結果国松と荻上会長の唇が重なることとなった。
最大出力で赤面して離れる2人。
国松「会長に…ファーストキス差し上げちゃった…」
一同「何ですと!?」
荻上「あっ、あの国松さん…」
何が何やらで言葉の出ない荻上会長。
国松「責任…取って下さいね」
荻上「むっ、無理です!」
国松「なーんてね。言いませんよ、そんなこと。会長にならあげてもいいし、ファーストキス」
ホッとする荻上会長。
だが次の瞬間、2人は背後に殺気を感じた。
荻上・国松「ひっ!?」
豪田「私ですら荻様ハグまでなのに、千里ったら唇まで…」
巴「荻様、千里だけってのはズルいですよ…」
沢田「そうですよ、私も荻様とキスしたーい」
荻上「ちょっ、ちょっとみんな落ち着いて。今のは事故だから、あくまでも…」
じわじわと近付く1年女子たち。
台場「じゃあ事故ならオッケーですよね」
神田「ついでに千里にもしちゃいましょう。間接キスってことで」
国松「えっ、そんな…(両手で自分の口を塞ぐ)」
豪田「大丈夫よ、みんなでキスしちゃえば一緒だから」
紅潮し、息が荒くなってきた1年女子一同。
1年女子一同「荻様〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
荻上・国松「ひ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
居酒屋の店内を所狭しと逃げ惑う荻上会長と国松。
それを追い回す1年女子一同。
さらにそれを必死で止めようとする他一同。
結局今年の夏コミの現視研は、「うる星やつら」的なドタバタの追いかけっこに終始する破目になった。
ようやくみんなが落ち着いた帰り道、国松は完全に学祭対策モードになった。
国松「さあ明日からが忙しいぞ。着ぐるみ5着ともなると、明日からでも始めないと学祭に間に合わないわ。大野さん!」
大野「はっ、はい!」
国松「スーちゃんって、明日帰るんですよね?申し訳ないですけど、大野さんとこ寄っていいですか?スーちゃんの採寸だけ先に済ましときたいんです」
大野「それは構いませんけど…スー、いい?」
スー「押忍、よろしくお願いします!」
国松「あとは…そうだ!ニャー子さんも確か身長155ぐらいだったな。ギリギリいけるかも知れない。さっそく交渉してみよう。それからそれから…」
大野「ハハハ、国松さん完全にスイッチ入っちゃいましたね」
荻上「て言うか制御装置壊れちゃいましたね。学祭は着ぐるみか、トホホ…」
夏コミは何とか無事終了(そうか?)したが、秋には新連載開始、スー&アンジェラ来襲、そして着ぐるみに学祭、荻上会長の多忙と苦闘はまだまだ続くようだ。
夏コミについてのレポートを笹原からもらった、漫画家のA先生はご満悦だった。
漫A「いやいやいや笹原君、君のレポートなあ、ごっつい役立ったでえ。ほんまおおきに」
笹原「いやあそんな、あんなんでお役に立てましたか」
漫A「十分や。おかげでわしにも君ら若いオタク君や腐女子のお嬢ちゃんたちの、『萌え』っちゅう感情がよう分かったわ」
笹原「そうですか…ハハッ」
漫A「ところで実は笹原君、今度の作品もちろんヒットさす積もりやけど、もしヒットせんかったらわし、この作品最後に引退しようか思てんねん」
笹原「えっ?」
漫A「まあ貯えはそれなりにあるし、昔の伝手はいろいろあるから、引退しても生活には困らんと思う」
笹原「そんなことおっしゃらないで下さい」
漫A「もちろんこれは売れんかった時の話や。売れたら死ぬまで描いたるわい。ただな、わし漫画以外にやりたいことが出来てもてな、もし引退したらそれやろ思てんねん」
笹原「何をなさりたいのですか?」
漫A「大学受けよ思てんねん」
笹原「大学?」
漫A「君のレポートを読んどったらオタ魂ちゅうのに目覚めた上に、大学のオタクサークルっちゅうもんに入りたなったんや」
猛烈に嫌な予感を感じる笹原。
漫A「まあ受験勉強の進捗具合にもよるけど、わし椎応受けよ思てんねん」
凍り付く笹原。
漫A「そんで笹原君のおった現視研に入ろか思てんねん」
まだ凍り付いている笹原。
そこで玄関のチャイムが鳴った。
漫A「おう、ちょうど来はったな」
我に返る笹原。
笹原「来客のご予定があったんですか?」
漫A「わしの古くからの知り合いでな、今の話もその人に相談して決めたんや。その人な、わしのやりたいようにやり言うてくれたんや」
笹原『誰だよ、そんな無責任なアドバイスしたの?』
玄関に向かうA先生。
漫A「すまんけど笹原君、お茶入れてくれるか」
笹原「はっはい(台所に向かう)」
台所から客間にお茶を運んできた笹原、危うくお茶を落としそうになった。
来客の顔には見覚えがあった。
中途半端な長髪、小柄で痩せ型で猫背で撫で肩な体格、そして眼鏡をかけた犬のような顔。
客間に座っていたのは初代会長だった。
笹原「かっ会長!?」
初代「やあ、久しぶり。君が先生の担当だったんだね」
漫A「よして下さいよ伯父貴、先生やなんて照れ臭い」
笹原『伯父貴って…確かやくざ社会だと目上の人に使う呼び方だよな。どういう関係なんだよ、会長と先生?』
2人の話によれば、どうも2人は近所の居酒屋で偶然知り合った飲み友だちのような関係で、先生も会長についてよく知らないらしい。
ただ会長がなかなか博学の情報通で、A先生にいろいろとアドバイスしていたので、先生が尊敬して何時の間にか「伯父貴」と呼ぶようになったらしい。
漫A「そやけど伯父貴が笹原君の先輩とは、世間は狭いでホンマ。まあもしわしが椎応入れたら、笹原君もわしの先輩ってことになる訳やな。よろしく頼んまっせ、笹原先輩」
笹原『神様、どうか何とぞ、先生の作品をヒットさせて下さい!ほんとマジでお願いします!』
心の中でフルパワーでヒット祈願する笹原であった。
悪い人では無さそうだが、どう考えても現視研と肌が合うとは思えないA先生。
果たして現視研史上最悪の黒船は来襲するのか?
スー&アンジェラの迎撃(歓迎)体制に入った荻上政権下現視研だったが、その後にはもっと厄介な黒船が迫っている(かも知れない)。
がんばれ荻上会長。
オタクたちの自由と平和の為に。
以上です。
最後の最後まで看板に偽り有り!
27人目をオチに使ってしまいました。
それにいつもは最低でもあと10回ぐらい推敲を重ねてから投下するのですが、今回は諸般の事情により取り急ぎ投下することになってしまいました。
投下しながらざっと読み直してみても今回の話、粗が目立ちます。
恵子は全く台詞無いし、春日部さんたちは夏コミ終了後ほったらかしだし、胴上げの後大野さん感激で泣かすの忘れたし。
いろいろ後悔は残りますが、とりあえず予定終了です。
あとは2ちゃんねるの閉鎖回避と、もし回避出来なかった時せめて1人でもこの話読んでくれてることを祈りつつ、筆を置きます。
88 :
マロン名無しさん:2007/01/14(日) 21:49:15 ID:dZ4NHrz9
読みました!ついにこのシリーズも完結ですか、、、自分はげんしけんの日常が好きなのでこの作品すごち好きです
まとめサイトの管理人さんへ。
2ちゃん閉鎖が現実味をおびてきたのでそちらのホームページに2ちゃん風掲示板を避難所として置くのはどうでしょう?短い時間ですが検討お願いします
壮大な釣りだとばかり…
私自身は、2ちゃん閉鎖は現実的に出来ないと思っていますので、
あまり危機感はないのですが、万が一があるので、
そのときのために方法は考えておこうと思っております。
あ〜、早く帰って26人いる!を読みたいところです・・・。
>1の人
スレ立て乙です!
>リツコレポート後編
ああ…終わってしまったのですね…。
801小隊の持つ独特の空気感というか、雰囲気が大好きでした。
マダラメとタナカがタバコをふかすシーンとか、アンとの手探りのセリフの駆け引きとか。
ガンダムは1stはしっかり見たんですけどあまり詳しくないです。
だからこそ、この世界観が新鮮に感じて、でも懐かしい感じがして、もっと読みたかったっす。
…ちさまりの双子編!?くああ、読みたいっす。
>26人いる!
まずは大長編お疲れ様でした。この生産力!尊敬します。
大人数のドタバタ面白かったですw
あと、気になることといえば…誰が斑目を男に(略
…冬コミ編マダー?(笑)
だってまだまだ話が続いていきそうなんですもん、この話w
絵板の絵にやられて物語がバーッとできちゃったので、書いてみました。
6くらいで投下です。
それは、昔の何処かでの話。
昔々、あるところに小さな村がありました。
村人は貧しいながらも何とか生活をしていました。
そんな村の中、一軒の家に目の色が皆と違う、碧い色をした少女がいました。
名前を「すう」といいました。
目玉の柄の綺麗な着物をいつも羽織っていました。
「やーいやーい。青目の鬼子〜。お前なんか出て行け〜。」
村のほかの子供たちから、いつもそんな風に言われていました。
でも、すうは、何もいわずにせっせと野良仕事に打ち込んでいました。
そんなすうを見て、村の心優しい青年「晴信」は、どうにかならんものかと思っていました。
「あの子は普通の頑張り屋さんだ。」
「しかし、あの目は鬼の目だ。」
「鬼なんているわけないだろ?迷信を信じて・・・。」
「馬鹿!そんな事いうな、村長の耳に入ったら・・・。」
村長は非常に迷信を信じており、すうに対して一番厳しく当たっている人の一人でした。
「・・・彼女はいつから村にいたんだっけか・・・。」
「・・・確か、前の村長が連れてきたんじゃなかったか?」
「あ、そういえば・・・。彼がいなくなってから彼女は・・・。」
「・・・そうだな・・・。」
晴信はやりきれない思いで一杯でした。
しかし、彼は臆病な性格もあってか、助けに出ることもままなりませんでした。
他の人に相談しても、同情はするが無理だの一点張り。
一人、彼が憧れる商人の娘、咲だけは、彼の話に耳を傾けてくれました。
「でも、私の力だけじゃどうしようもないよ・・・。」
「うん・・・。わかってる。すまなかったな。」
「・・・きっと、いつかなんとかなるよ。気を落とさないでね。」
「ああ・・・。」
そうは言うものの、無為に時間は過ぎていきました。
ある年のこと。
村が災厄に見舞われるという占いが出ました。
通りすがりの占い師によるその言葉を、村長はすっかり信じてしまいました。
「どうしたらいいんでしょうか?」
「ひとり、生贄を山に捧げなさい。そうすれば・・・。」
「なるほど・・・。んー、いいのがいますな。」
村人達の前で、大きな体を震わせ、憎らしい声で村長はこういいました。
「すうを生贄にするのだ。そうすれば村は助かる。」
「な・・・!」
村人達は一斉に騒ぎました。
すうを生贄にするのは忍びない。しかし、彼のいうことに逆らうわけにもいかない。
「・・・だれか、すうを連れて山までいくのだ。」
「・・・僭越ながら私が。」
そういって名乗り出たのは晴信でした。
「晴信・・・?」
その言葉に、咲は不審に思いました。いつも彼女を気にかけてる彼が何故?
「・・・そうか。よろしく頼むぞ。これをな。」
「はい。」
晴信は、村長から薬を受け取りました。
村人達がざわつく中、晴信はすうの家に向いました。
「よう、元気か?」
「・・・。」
黙って頷くすう。
「まぁ、一緒に食事でもしようじゃないか。」
そういって、彼は食事の準備を始めました。
彼は、彼女が食べる食事に、先ほどもらった睡眠薬を入れました。
食事が終わり、よく眠ったすうを背負い、山へと向いました。
「不憫な娘だ・・・。なぁ、すう。こんな村嫌だろう?
何処か逃げなさい。荷物は、あとから持っていくから・・・。」
そういう晴信の言葉を聞いているのか、すうは安らかな寝顔でした。
山まで行くと、すっかり暗くなっていました。
「よし、ほら、起きなさい。」
すうを優しく起こす晴信。すうは目を覚ますと、日頃見せないように戸惑っていました。
「あ・・・。」
「よし、ちょっとここで待っていなさい。後で荷物持ってくるから。」
「・・・村!」
「ああ、村にいるのは嫌だろう?」
「違う!村があぶない!」
「な・・・?」
丁度その頃、村では地震が起きていました。
「なんなんだ、この振動・・・。」
咲は、不振に感じていましたが、今は晴信とすうのことが気がかりでした。
思い立って山へ行こうと外へ出たそのとき、
村の真ん中から、何かが生まれ出たのを見ました。
「な、なんだ・・・、あれ・・・。」
村の人の多くがそれに気付き、村の中は混乱に包まれました。
見た目は大きな蛇・・・それが八つの頭を携えて。
「おろちだ!伝説のおろちだ!」
「こ、これが災厄なのか・・・。」
村長が呆然としていると、おろちは、彼に目をつけ一口。
「ああ、村長が!」
「ど、そうすればいいんだ・・・。」
そこに丁度、すうに引っ張られ村に戻ってきた晴信が現れたのです。
「・・・おい、あれはなんだよ!」
「・・・おさまれ・・・おさまれ・・・。」
すうが念じると、おろちは少しずつ動きを弱め、元の場所に戻っていきました。
「なんだったんだ・・・。」
「わたしは、ここにいる必要があるの。」
「・・・よくわからんが、そういう事だったのか・・・。」
何とか騒動の収まった村で、晴信は事情を説明して回りました。
平和が訪れた村。結果として、予言は的中したのです。
すうは、村に残ることになりました。
そして村長のいなくなった村で、次の村長を決めることになりました。
「晴信でいいんじゃないか?」
「ああ。」
「え、おれ?まじで?」
晴信は、村長になりました。すうも、それを喜んでくれたみたいでした。
晴信はすうを村の守り神とし、末永く村は幸せになりました。
ちなみに憧れの商人の娘、咲は、隣村の高坂家に嫁入りしたそうです。
晴信は、すうを見守りつつ、のんびりと暮らしたそうです。
めでたし めでたし
やっぱ絵ってすごいね!見た瞬間物語できちゃったよ!
描いた方が喜んでくれると嬉しいですねぇ・・・。
>>26人いる!
所々笑わせていただきました!
しかしいつもながら知識の幅が広いですね。
コスプレ(というか着ぐるみ)にかける熱い思いが伝わってきました。
やっぱ特撮がお好きなんでしょうなぁ。
いっそのことまだ書いちゃえばいいじゃないかと!
冬コミに期待age(あげてないけどw
>>26人いる!
お疲れさまでした!
タンノーさせていただきました。うる星みたいなオチってことで、脳内BGMはドタバタシーンの曲が流れてました。
モテモテな斑目ウラヤマシス…。
推敲がハンパないっすねぇ。読みやすくて安定した作風の理由の一端がわかった気がします。
冬コミもですが学祭編読みたいです!
102 :
マロン名無しさん:2007/01/15(月) 21:33:04 ID:tgiBvxIt
前スレで「斑目、歩く」を投下したものです。読んでくださったかた、感謝です。
前スレでコメントくださった方へ一応返信をば。
>>492 感想どうもです。斑目の切なさが出ていたのであれば、幸いです。
>>498 オタクは一人でぐだぐだ無駄なことを考えますよね。基本ネガですし。
葛藤しただけ労力の浪費にして無駄という・・・orz
>>499 感想ありがとうございます。もてない男の苦しみとでもいいましょうか。
つか、好きな人に振り向いてもらえる可能性ゼロって・・・斑目、せつねえ。
予定は未定ですが、ひょっとしたら続編でもまた投下するかもしれません。
たぶん、またあんまり明るくないかもしれませんが・・・。そこらへんをちょっと
懸念しつつ、そのときはどうぞよろしくお願いします。
…完結記念で1巻から読み返していたら、ふと思ったのです。
第39話 one two finishでの、荻上の「私がオタクと〜」という発言には、
どんな事情があったのだろうか、と。
と、言うわけで妄想してみました。時期的には39話直前あたりです。
気付いた時が恋のはじまり
〜よくある歌の一節
梅雨直前のある日の事。
大学へ向かう途中で、荻上は道路に、おそらく子供が書いたのであろう落書きを見つけた。
○×△□。
へのへのもへじ。
何処かの誰かの顔。
デフォルメの効いた人間像。
荻上は何となく微笑ましく思いながらそれらを眺める。
ふと自分の過去を振り返る。
家の前の道路に、親に呼ばれるまで好きに書き殴っていたあの頃。
落書き以下のあの絵を誉めてくれた、父親の笑顔を思い出す。
多分あの笑顔が、荻上にとっての原点だったのかもしれない。
ふと、その脇に描かれた○の連なりに気がつく。
(ああ、今でもこの遊びはあるんだ)
好奇心と懐かしさから、荻上はそれを踏む。
けんけんぱ
けんけんぱ
踏むごとに、自分が昔に戻れるようで。
繰り返し、繰り返し、それを踏む。
そして唐突に足を止めると、
(わたしは何をやってるんだろう?)
自嘲する。
(あれだけの事をしておいて、昔に戻れる訳が…)
「あれ?荻上さん?」
聞こえた声が、荻上の思考を断ち切る。
荻上はゆっくりと振り返る。
そこにはコンビニの袋を下げた、笹原がいた。
(見 ら れ た !?)
そう思った瞬間、荻上は駆け出していた。
大学ではなく、自宅へ向かって。
大学へ向かう途中で、笹原は荻上を見かけた。
その事にささやかな喜びを感じながら、思い切って声を掛ける。
「あれ?荻上さん?」
しかし、荻上はこちらを振り向くと、途端に駆け出して、角を曲がり、見えなくなってしまった。
(何だよ)
(声を掛けただけで逃げ出されるほど、嫌われているのか、俺?)
笹原は少し落ち込みながら、歩みを再開する。少しだけ重くなった気がする足で。
(でも、何をしてたんだろ、荻上さん)
(今度会ったら聞いてみようか…)
数日後、荻上は久しぶりに現視研の部室に向かった。
あの時のことを自分の中で整理するのに、それだけかかったからだった。
(大丈夫)
(大した事じゃない)
もう一度自分に言い聞かせると、ドアを開ける。
そこには今は一番会いたくない人がいた。
「やあ、荻上さん」
笹原は荻上の内心の動揺に全く気付かずに、いつもの声で、いつものように、彼女を見て挨拶する。
「どうも」
荻上は一瞬躊躇った後、それだけを口にすると、目を合わせないようにしながら、笹原から最も遠い席に座る。そしてノートを取り出してそれに向かう。
いつもの「私に話し掛けないで下さい」というポーズだった。
笹原はその様子を見ると、特に何も言うでもなく、さっきまで見ていたマガヅンの続きを読み始める。
部屋に荻上の鉛筆の立てる音と、笹原のめくるページの音が静かに響きあう。
読み終わった笹原がマガヅンを置く。その音は二人にはずいぶん大きく聞こえた。
荻上の鉛筆が止まる。
笹原は数度ためらった後、数日来の疑問を口にした。
「あ、あのさ、荻上さん。あの日はいったいどうしたの?」
「…何の事ですか」
荻上は笹原を見ずに固い口調で答える。
「いや、声を掛けたら急に駆け出すから、いったいどうしたのかなって思って…」
「…何でもありません」
「あ、そう
笹原の言葉は途中で途切れた。
荻上が泣いていたからだった。
ノートを睨みながら、拭うでもなく涙をこぼしつづける。
(私は何で泣いているんだろ)
荻上は他人事のように思いながら泣いていた。
そして泣きながら思う。
(見られたくなかった。聞かれたくなかった)
(笹原さんの前では『変』じゃない、普通の女性でいたかった)
(『それは何故?』)
気付きたくなかった。考えたくなかった。それを認めたら私はきっと許されない。許せない。
(私は…)
笹原は大混乱していた。どうして良いのか全くわからない。だが先輩として、男として、このまま放っておくのはいけないと思い、…ハンカチを差し出す。
荻上の目にそれが映る。慌てて自分のハンカチを取り出して涙を拭く。
笹原は少し残念そうにハンカチを引っ込めた。
二人きりの部室に、気まずい沈黙と、荻上が小さく鼻をすすり上げる音が流れる。
やがて落ち着いた荻上は、やおら荷物を片付けると、そのまま部室を小走りに出て行こうとする。
そして荻上の足が椅子の足の一つに引っかかり、倒れそうになって、笹原は思わず手を伸ばし、抱きとめた。
「大丈夫?」
「はい…」
そのまま少し時が過ぎ、笹原が口を開く。
「…えっと、ごめん」
「!」
荻上は慌てて笹原から離れる。笹原はそのまま言葉を続ける。
「本当にごめん。何か聞いちゃいけない事聞いちゃったみたいで…」
「…何で」
「え?」
「何で謝るんですか!?笹原さんは全然悪くないのに!」
「いや、その…」
「私が泣いたって、何したって、笹原さんには関係ないでしょう!!」
荻上は言った瞬間に後悔した。そしてその言葉を聞いた笹原の、傷ついた表情を見て、何も考えられなくなり、部室のドアを開けて全速で逃げ出した。
その途中で擦れ違った女性が、不思議そうに見つめていたが、荻上は気付かなかった。
「笹原さんには関係ない、か…」
笹原は呟く。
「そうかよ。関係ないのかよ」
声に苛立ちが混じる。だが、何故こうまで苛付くのかわからない。わからないから、さらに苛付く。
「くそっ」
笹原はマガヅンを乱暴にゴミ箱に放り込むと、部室を出ようとノブに手を伸ばした。
瞬間、勝手にドアが開き、「こんちはー」という間延びした挨拶と供に、恵子が現れる。
「お、アニキ。高坂さん、いる?」
「いねーよ」
いつも通りの恵子の態度が、いやに能天気に見えて、笹原は苛立つ。
「あ、そう。…そういえば、さっきあの変な髪形の人を見かけたけど、何か泣いてなかった?」
「…」
「まさか、アニキが泣かせたのか?まさかね〜、優しいだけがとりえのアニキにそんな事…」
「お前には関係ねーよ」
言い捨てると、恵子を押しのけて部室を出て行く。
「何だよ、それ…」
一人残された恵子が呟く。
「…あ、そう!そっちがそうならこっちだって勝手させてもらうからな!」
一声叫ぶと、恵子は携帯を取り出し、適当な男にかけようとして、やめた。
「…何だよ。アニキもやるこたやってんじゃん…」
その声は少しだけ寂しそうだった。
その夜。
荻上は布団の中で泣いていた。
(いつもそうだ)
(優しくされて、調子に乗って、傷つけて、孤立して…)
(笹原さんは悪くないのに。悪いのは私なのに。それなのに笹原さんを傷つけて)
(ごめんなさい)
(ごめんなさい笹原さん)
やがてすすり泣きが寝息に変わる。
そして、いつもの浅い眠りの中で荻上は思った。
(何で私は泣いていたんだろう)
(私が人を傷つけるのは、いつもの事じゃないか)
(だから、後でちゃんと謝って、以前のように先輩後輩として…)
(『以前のように』?以前って何?私はいま笹原さんをどう思って)
(私は(考えるな)笹原さんを(駄目だ)○○(そんなはずはない))
その瞬間、荻上の脳裏にいつもの悪夢が蘇る。
ただ『自分』に屋上から突き落とされる『あの人』の姿が、笹原とダブって見えた。
荻上は慌てて飛び起きる。
荒い呼吸を何とか治めると、急に馬鹿らしくなった。
小声で呟く。
「私が人を好きになる訳ない」
「相手が笹原さんだってそう」
「だってあの人は…あの人は、”オタク”なんだから」
この答えは少しだけ荻上を安堵させた。
荻上は布団から出ると、机へ向かう。夜明けにはまだまだ早いが、もう一度眠る気にはなれなかった。
そして、もうこれ以上この事について考えたくなかった。
…時が過ぎ、季節は梅雨に入る。
笹原と荻上の二人にはぎこちない会話しか流れない。
そんな中、恵子が地雷を踏む。それには多少の嫉妬もあったかもしれない。
「…ねえ、もう二人ってつき合ってんでしょ?」
「…はあ?誰と誰が?」
「え?あれ…違うの?あんたとウチのアニキなんだけど…」
荻上が用意しておいた答えを返す。
「『私がオタクとつき合うわけないじゃないですか』」
笹原は笑う。笑うしかない。
(あの日以来、自分と彼女は『ただの先輩と後輩』だと自分を納得させてきたじゃないか)
(それが裏付けられただけだろ)
(だから、怒る事も悲しむ事もないさ)
自分に言い聞かせながら、笹原は、ただ、笑った。
その後、いくつかのやり取りの後で、高坂の就職が報告され、ドタバタとともに高坂と咲が去って、一人、また一人と席を立つ。
笹原も席を立つ。納得していたはずなのに、覚悟していたはずなのに、ついさっき聞いた言葉は笹原の心をざわめかせ、それは言葉になった。最低の捨て台詞だと自覚しながら。
「俺も遊んでるヒマはないな」
荻上の心が凍りつく。
(そうか。笹原さんには遊びなんだ。現視研も、漫画も…)
場を取り繕うような大野の声に返事を返しながら、荻上は思う。
(これでいい)
(これで自分の思うとおりになった)
(でも…)
その夜、笹原は斑目から借りたエロゲーに向かっていた。
自分の趣味からはちょっとずれていたので、手を出しかねていた作品だった。
黙々と攻略を続ける。
そんな中でヒロインの姿が荻上とダブる。
笹原の手が止まる。
(何でだよ。あそこまで言われて、何で気になるんだよ?)
(気にしなきゃいいだろうが。先輩と後輩、それで納得したんだろ?)
(けど、俺は、もしかして…)
笹原は再びゲームに向かう。
それ以上考えないために。
おまけ
「笹原さん!そろそろコミフェスの打ち合わせをしましょう!」
「え、ああ、そうね」
「部室でやる、って手もあるでしょうけど…ここは荻上さんの部屋でやりましょう!」
「え!?」
「ちょっと待って下さい!なんで私の…!」
「だって無関係な人に見せたくない物だってあるでしょう?原稿とか表紙のラフとか…」
「だから何で見せなきゃならないんですか!?」
「え〜。せっかく売り子をしてあげるんだから、少しぐらい見せてもいいじゃないですか」
「絶対嫌です!」
「と、言う事なので、笹原さん。今度の日曜日、空けておいてくださいね♪」
「はあ…」
「話を聞いてください!!」
「いいですか、荻上さん」
「な、何ですか」
「荻上さんはコミフェスに自作の同人誌を売りに行きます。つまりたくさんの人に見てもらう立場な訳です。ここまではいいですね?」
「…」
「それなら私達に見せてもいいでしょう?」
「だからといって嫌なものは嫌です!」
「…わかりました。そんなに見せたくないなら、」
「私達が勝手に見に行きますから♪」
「全然わかってないじゃないですか!」「あ〜今度の日曜が楽しみですねえ」「だから人の話を…!」
〜次第にFO
以上です。
>気付いた時が恋の始まり
久々に読みました、物語の間もの。
こういうのはおもしろいですよねぇ、想像すると。
荻上さんの心を追っていくのは楽しいですね。
ただ個人的には「俺も遊んでるひま〜」って言う言葉には
そう強い受け方はしてないと思ってます。
あの時はただ頑なに言葉も聴いてないように感じました。
まぁ、その辺は個人の解釈ということでw
乙でした!楽しめました〜。
うはーっ、読んだ読んだ。まとめ読みは体に良くないわ(笑)
>斑目、歩く
遅くなりましたが、前スレの大トリお疲れさまです!
>もし俺が「フツー」の奴だったら。
このフレーズのリフレインが泣かせます。
細かい描写で斑目の心境吐露を描いていて勉強になりました。
>第801小隊『リツコ・レポート』
マダラメとリツコを通じて、それぞれのその後を追う展開は、801小隊のシリーズを読んできた身として懐かしいものでした。
あと、何が良かったって、木星から来た男・マダラメのカッコ良さですよ。
田中と二人、タバコをふかしながらの会話、夜のサバンナ、助手席のアンとのやりとりが雰囲気出てていいですね。
ラスト、両手に花のマダラメ。最近SSでよくハーレム化されたり攻略対象になったりしてて、幸せ?そうでなりよりですねw
>26人いる!
長編ホンマにお疲れ様でした!
オリキャラ多いにもかかわらず、肩の力抜いて楽しんで読めました。それぞれのキャラがイメージしやすいのもいいのかも知れませんね。
あと特オタ的にはとってもウケるネタ満載でした。
でも若い人に「ウルトラファイト」がイメージできるのか……。まあ、「県警対組織暴力」というネタ自体暴力的(イイ意味で)なんですが。
あと春日部さん、バカボンママは分かるんだ…、でもコミフェスデートなんて丸くなりすぎだよw
ほかにも色々あるけれど、なんかもうネタ多すぎて感想も困っちゃう。GJ!
>27人目をオチに使ってしまいました。
いやいや、27人目として申し分ない人の登場で、洒落た展開だと思いました。
とにもかくにも、短編でもいいので学祭編での復活を願います(この大所帯では短編では収まらないか…)
感想の続きです。
>碧目のすう
SSスレについに童話まで登場ですかw
絵は物語読んだ後に見たのですが、どちらも雰囲気ありますね!
>ちなみに憧れの商人の娘、咲は、隣村の高坂家に嫁入りしたそうです。
基本マダラメスキーな自分にとっては、↑がとってもサラリと書かれていて何故か笑えました。
めでたしなのやらそうでないのやらw
>気付いた時が恋のはじまり
「けんけんぱ」の荻上さんを思い浮かべるとカワイイのですが、何も逃げんでもwww
お互いに意識しまくりですが、それがかえって想いのすれ違いの悲劇を生むのはよくあること。こういう時期に帰りたいなあ……。
連載当時は、何もそこまでつんけんにならなくても、と個人的に思いましたが、あの刺々しいやりとりの前段階としては十分な裏付けだと思いました。
>碧目のすう
絵を見て、すごくイメージが広がっていたので、このSSはすんなり世界に入っていけました。
晴信の優しさに心があったかくなったり。
すうが実は守り神だったというオチも好きです。
咲…高坂と幸せになっちゃったのか…シクシク(ノ_T)
>気づいたときが恋のはじまり
面白かったです。荻上さんのちょっと大げさまでの反応の裏設定がかかれてて、何やらすごく納得してしまいました。
急に泣き出しちゃって笹がオロオロして、荻上さんが自己嫌悪してって所、原作にあってもおかしくないクオリテイ。
原作で「オタクが嫌いな荻上です」「私がオタクを…」といい続けてた荻上さんが、
(スーに話してて)「昔ならオタクの悪口いっぱい並べられたのに…」(笹原さんのせいだ)
に変化したことが9巻で実感できて、すごく良かったと思えたことをまた思い出しました。
「不在が愛を育む」
携帯が普及した昨今、リアルでない言葉ですが、こちらから振った彼女を一年以上たって恋しく思うこの身には、重い。
そして伝えられない思いを持つ者は、それゆえに切ない。
笹荻が切なくなく、斑目が切ないのは、そんな所に理由があるのかなー、と。
笹荻は甘酸っぱい感じがするんですがどーでしょうか?
……この1週間で10本投下されてるんですがお前ら頑張りすぎだw
風邪っぴきだったんで病院の待ち時間にようやく読めたですよ。感想いくですよ。
>まだメモ@恵子2
惜しいwwwもう一息でグッドエンドじゃないっすか。やはりアレですね、このヒロインに対しては肉弾戦あるのみ。
この展開が見込まれるなら邪魔の入らないシチュ選んで『押し倒す』3回くらい選択すればどうにかなるんでは。つかもうレイp(ryだが。
よっしゃもっかいチャレンジしてみるかなあ。
>斑目、歩く
斑目は、とにかく恋している斑目は一人にするとヤバイです。たんなるオタだった時の彼は一人になるとアニメやゲームのことを考えていたのですが、最近は隙があると心にあの人の顔が浮かんでしまいます。
いつも同じ結論にたどり着く堂々巡り、彼はいつかこの回廊を出ることはあるのでしょうか。
そんなことを思ってしまいます。哀しいし、でも、彼らしい。
>碧目のすう
目玉べべ強烈でしたね。いきなりSS書いちゃうあなたも大概すごいが。ダメだ、ダメだこんな想像の余地のあるSS書いちゃw
晴信の身の上はどうなんだとか、咲が嫁に行く前夜彼との間に何もなかったのかとか、この後すうを狙って現れる魑魅魍魎との戦いとかその中で明らかになるすうと斑目との意外な関係とか考えてしまうじゃないかあああっ!
>気付いた時が恋のはじまり
自分に言い訳を重ねていた頃のオギー来ましたね。
その「気づく」タイミングとかそん時の心情とか立ち位置みたいなものがけっこうデリケートに絡むので、自分ではうまく書けないだけに人に書いてもらうと興味深く読めます。ほうほうこう解釈したか、などなど。
友人とメールやりとりしてたら、大野さんのアレって『無邪気攻め』って言うらしいですw うんうんナルホド。
801小隊と26人はもうひとレス使わせていただく。
>『第801小隊リツコ・レポート』
ああ……終わっちゃった。
なんか残念です。地球でもみんなが元気でいたのはなによりですが、すでに時は行き過ぎているのだなあと一抹の寂寥感。ササハラけっこう満身創痍だったので、少々ポンコツでも幸せならいいや。オギウエとも仲良くやってるようで何より。
足が治ったら、11人の子供たちと大家族構成して、どこか安全なコロニーで恩給貰ってゆったり過ごしてもらいたいもんです。
なお、ちょっとした疑問として「戦災孤児だったのは実は8〜9人なんじゃないか」と思ったのは秘密にしておきます。だってあーた、2年もありゃあ、ねえ、ホラ。
あとは木星で頑張れ、両手に花。
ともあれお疲れさまです。続編も期待しているが今は言わないでおきましょうw
>『26人いる! 夏コミ千秋楽』
こちらもついに完結で寂しいことこの上ない。お疲れさまでした。
劇場板仕様の大長編でんしけん、とでも言いましょうか。史上最大のお祭りもようやく幕を引きましたね。
最後は収束に向けて動いているだけに個々のキャラの見せ場を捻出するのも大変だったでしょうが、クガピー大軍勢を引き連れて満を持しての登場とか出オチ担当27人目とか楽しく読ませていただきました。
そして今回の懐特ネタはやはしウルトラファイトがダントツですw観てたが子供心にも「いや、そのストーリーは変だろ」と思っていた。
メインキャラ26人(いや27人かw)のほぼ全員に見せ場がある話、なんてのはそうそう描けないと思います。おんなじ構想でもう一作、というわけにも行かないでしょうし、そういう観点からも見事な風呂敷の畳みっぷりと言えると思います。
次はまた誰かにスポットを当てた長編かなwkwk楽しみにしております。どうもありがとう。
おまけ。
>>123 『よろしく哀愁』思い出した。
俺のに感想くれた人たちもありがとうございます。
引き続き精進いたします〜。
ではまた。
126 :
劇場風予告:2007/01/18(木) 02:10:39 ID:???
今は平成26年。西暦にして2015年。
30年近く昔の名作アニメを知る人は、この年の到来を喜んでいる。
「使徒が襲来する年だ」と。
この年の春、ワタシは晴れて椎応大学に入学した。
我ながら、良くやったものだと思う。
初志貫徹。小学生の頃からの夢が叶ったのだから!
あぁ、桜の花びらが舞い落ちてワタシを迎えてくれている。
ついにこの日がきた。
椎応一本で今まで生きてきたのだ。
『そう、なぜならば…!』
『 と な り の ク ガ ピ 2 』
「第5回 現視研新人来て良かったね会議〜!」
「アハハ、久しぶりに聞いたなソレ」
近日公開
※ ※ ※
ほかのSSを書きためていたはずが、一瞬の妄想が膨らんでこっちの完成が先になってしまいました。疲れたので生意気にも予告だけ投下して寝ます。
明後日お会いしましょう(たぶん)
マ ジ っ す か !
待ってたよ〜。楽しみ。
128 :
真っ赤な誓い 1:2007/01/18(木) 11:26:43 ID:aTFv1avW
その日の斑目はいつもと様子が違っていた。
いつも通り仕事をそつなくこなしていたが
どこかソワソワした感じを漂わせており、落ち着かない様子であった。
「斑目くん」そんな彼の様子を見た上司が声をかけたのが
昼食も終わり、午後の業務に入る前であった・・・。
「今日ぐらいは、休みをとっても構わなかったのに・・・」
「大丈夫ですよ、明日は休日だし、
仕事していないと落ち着かなくて・・・
ここに連絡入れてもらえるように頼んでますから・・・
今日はまだ大丈夫なんじゃないですか・・・・」
斑目は引きつった笑顔で答えた。
「気持ちはわかるがなあ・・・
いざというときそばらにいなかったらあとあと恨み言をネチネチ言われるぞ・・・・
俺がそうだったから・・・。」
上司がそこまで行った時、突然事務所内に電話の呼び出し音が鳴った・・・。
129 :
真っ赤な誓い 2:2007/01/18(木) 11:33:40 ID:aTFv1avW
「斑目さん、外線です。」
「えっ・・・あっはい!!」
あわてた様子で受話器を受け取る斑目
「あっはい・・・わかりました・・・すぐに・・・はい」
そんな彼の様子を見た上司は、事務所内にいた作業着姿の社員に声をかけた。
「山本くん、昼から現場まわるのだったら、斑目くんを送ってやってくれないか?」
「専務・・・・」
「なあに、気にすることじゃないよ。それよりも早く行ってあげないと・・・。」
「ありがとうございます!!」
斑目は一礼すると、カバンを引っつかみ事務所を後にした・・・。
130 :
真っ赤な誓い 3:2007/01/18(木) 12:28:07 ID:aTFv1avW
笹原は少しあせった様子で歩いていた。
長くて広い廊下、その奥には大きな扉があり、その数メートル手前には
革張りの長いすが壁に沿うように置かれていた。
そこには斑目と初老の夫婦が座っていた。
「斑目さん!!」
「おお・・・笹原・・・」『心配』という文字が書いてありそうな顔であった。
「あら、笹原さん・・・息子がお世話になってます・・・。」
「いえ・・・こちらこそ・・・ところで」笹原はチラリと扉を見た。
「ええ・・・ちょうど今入ったところ・・・入ったとたん男二人ずっと
この調子・・・。」
「はは・・・」
「すまないな・・・笹原・・・・」
「いいですよ、そんな・・・・あとで田中さん達も来るそうです。」
「そうか・・・」斑目はどこか遠くを見つめた目で答えた・・・。
131 :
真っ赤な誓い 4:2007/01/18(木) 12:56:13 ID:aTFv1avW
足音が静かな廊下に響き渡る、その音からかなりの人数が
こちらに近づいているのが判った。
「あっ斑目!!」小さな幼女が彼を指差した。
「こらっマコ『斑目のおぢちゃん』でしょ!」咲はきつくたしなめた。
「ようこもごあいさつしなさい」可奈子の足元には彼女に良く似た
長い髪の幼女が彼女のスカートの裾を引っ張りながら「こんにちは」と
舌足らずな言葉でつぶやいた・・・・。
途中スマソ
続きを……我慢できません〜
あの〜、ID:aTFv1avWさんとは違うんですが、投下してもいい?
>となりのクガピ2
おお、とうとうあの続編が!!wktkして待ってます!
>真っ赤な誓い
なっ、何だ何だ?続きキボン
136 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:40:46 ID:???
お言葉に甘えて投下しまつ。
ちなみに予告で書いた平成26年、、、計算まちがえてました(恥)
今日は前編。スレ汚しすみませんです。
137 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:41:22 ID:???
【1】
時は平成26年。西暦にして2014年。
「ついに来年、使徒襲来!」
30年近く昔の名作アニメを知る人たちが盛り上がっている。
それにつられるように、『あの時代』のアニメの再放送も盛んに行われていて、オジサン世代は、『萌え』だとか叫んでいた古き良き時代を懐かしんでいる。
アニメの技術なんてここ5年ほど停滞しているようにも見える。
私には、昔の作品の方が結構面白く感じてしまうのだ。
そんな今昔が入り乱れているこの年の春、ワタシは晴れて椎応大学に入学した。
我ながら、良くやったものだと思う。
初志貫徹。小学生の頃からの夢が叶ったのだから!
高校三年間は、バイトしたお金をコミフェスやイベントに費やして、中野にも通いながら、それでも勉強はしっかりやった。
高校の担任からは、「椎応よりもいい大学に行けるぞ」と言われたけれど、迷いはなかった。
138 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:42:36 ID:???
……今、ワタシは憧れの学舎の前に立っている。
ちょっと大きめのボーシを目深にかぶり、伸ばし続けた髪とマフラーを風になびかせて、ここぞという時のブーツでカツカツと小気味良い音を響かせる。
そよ風がスカートの裾を軽くたなびかせる。
あぁ、桜の花びらが舞い落ちてきてワタシを迎えてくれている!
ついにキタキタこの日がやってきましたよォーッ!
もうテンションは上がりっぱなしデス!
ワタシは、椎応一本で今まで生きてきたのだ。
『そう、なぜならば…!』
139 :
>碧目のすう:絵描き:2007/01/19(金) 01:43:00 ID:me750blC
SSにしてもらえるとは感激です。
自分はすごく悲惨な展開をモーソーしてたのでハッピーエンドで
良かったです!
でも斑目のほうが不憫かもしれない…ww
140 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:43:51 ID:???
※ ※ ※
『となりのクガピ 2』
※ ※ ※
141 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:45:20 ID:???
【2】
「どうーして無いのよ“げんしけん”は!?」
ワタシは人だかりの中で思わず叫んでしまった。
上がりに上がったテンションもいきなりのダウン。
ここは椎応大学の学生生活関連棟。
新入学生がイモの子を洗うようにごったがえし、あちらこちらでサークル活動の諸先輩方からスカウトされている。
ワタシも何度か声を掛けられたけれど、「女子バスケサークル」とか、「ボクササイズ愛好会」とか、「甲賀流忍術同好会」とかスポーツやゴツイのばっかり!
果ては「長刀(ナギナタ)同好会」って、わたしゃゲルググか!?
そりゃあ……他人様よりも、ちいとばかりテンションが高いために目立つとは思うけれど、こちとらスポーツ経験のない文系の乙女なのよ。
あ、でもちょっとオタ入ってる……昔でいう「腐女子」ってやつですよ。
142 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:46:32 ID:???
「あぁ、こんなことならオープンキャンパスとか、ちゃんと下見しておけばよかった」
グチを言ってはみるけれど、本当は入学するまで『げんしけん』の事は調べないように努めてきたのだ。
だって、もし受験前に『げんしけん』消滅を知ったら、モチベーションっていうか、8年間のすべてが失われてしまいそうで怖かったから……。
「平成26年度サークル入会の手引き」にも載っていないってことは、やっぱりないのかな……。
本当に『げんしけん』が無かったら、私はどうすればいいんだろう。
いろんなサークルの看板を眺めながら、トボトボと歩いていると……、あ、漫画研究会の勧誘ブースを発見!
ワタシはブースに駆け寄って、受付に座っているメガネくんたちに声を掛けた。
メガネA「……げんしけん? 聞いた事あるか?」
メガネB「オタク系サークルで……そうねえ……」
トントンと、ペンで落書き帳をノックしながら考える2人。
ワタシは腕を組んで仁王立ち。ブーツはコツコツと床をノックしている。
ペンとブーツのノックの音がシンクロする。
メガネくんの一人が何かを思い出した。
「あ、ひょっとしてあの幽霊サークル……?」
「えっ、ユーレイ?」
143 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:47:49 ID:???
【3】
サークル棟の3階、ちょっと暗めな廊下の一角、304号室。
ついにワタシはそのドアを見つけた。
「……げんだい……しかくぶんか……けんきゅうかい……。そっか、『げんしけん』って略称なのね。何で今まで気づかなかったんだろう(汗」
改めて「サークル入会の手引き」を開き、「現代視覚文化研究会」で調べると、しっかりと載っていた。
「え〜っ! 分かるわけないよ。だって呼びかけ文が『ココニイル。』しかないし」
あ、でもイラスト入ってるわ……。
小さなスペースにサラリと描かれていたのは、『リニューアル版』の「くじびきアンバランス」に出てた「いづみ」。
もうほとんどの人が忘れているであろうキャラだ。
今どき「くじアン」というのも珍しいけど、ワタシには思い出深い。
どうやらこのカットは、3年以上は使い回されているみたいだ。コピー跡の目の粗さが見て取れるもの。
144 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:49:01 ID:???
あぁ……『げんしけん』が略称だってことも知らないまんま、現視研に入ろうと願って生きてきた自分に呆れてしまう。
こういう時はアレよ。恥ずかしさを紛らわす一人突っ込み。
「♪おちゃ〜めさんっ、テヘッ♪」
運の悪いことに、ちょうど近くの部屋から人が出てきた。
ウインク&ベロだし&コツンポーズを見られてしまったワタシ……orz
とにかく、恥ずかしいのでドアを開けて部室に入ろう。
ちょっとドキドキしながら、ドアノブに手をかけた。
「コンニチワ。見学希望なんですけ……アレ?」
「ん?」
そこには、どう見ても「疲れたサラリーマン」な男性がいた。
部屋の奥、窓際の席に座って、でかいサンドイッチをほおばろうとしていた。
しばらくの間、お互いに動きが止まった。
145 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:50:09 ID:???
【4】
「しっ、失礼しましたっ!」
バタンッ、バン!
思わず部屋を飛び出て、ドアを閉めてしまった。
あ〜驚いた。何で大学のサークル棟に中年男性がいるんだろう?
しかし、ワタシにとってはこの部屋が8年越しの『目的の地』なのだ。
リーマンごときに負けるわけにはいかないのだよ(?)。
そんなわけで、もう一度ドアノブに手をかけた。
「あの……、ここ、現代視覚文化研究会の部室でいらっしゃいますか?」
「あ、どうぞ。俺、場所借りてるだけだから」
男の人は、やせ形で丸メガネ。薄幸とか、はかなげな感じ。
例えるなら『受け』が似合うかなあ、と思わず妄想してしまい、ワタシは首をブンブンと振った。
「……ドシタノ?」
「い、いいえ何も!」
心の中で男性に詫びた後、部室を見まわした。
男性の後ろはテレビ、ビデオ、パソコンが並び、この狭いスペースにもかかわらず脇にはホワイトボードが置かれていた。
中央には長テーブル、その上には文房具やマガヅンなどが散らばっている。
周りの棚には、漫画やパソゲーの雑誌、フィギュアが所狭しと並んでいた。
なるほど……あらゆる視覚文化が揃っているわけだ……。
146 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:51:16 ID:???
でも、ちょっと気になったのは、どれも『やや古め』だったこと。
変な例えだけれど、しばらく更新されていないホームページのような寂しさを感じた。
ワタシは、バスケットに山のように詰め込まれたサンドイッチと格闘している男性に、恐る恐る声を掛けた。
「……あ、あの、見学希望なんですけど、見せてもらってもいいですか?」
「あ、はい、いいよ。どーぞどーぞ……」
ワタシは本棚に向き直った。
並べられた漫画の背表紙を眺めると、懐かしいコミックが目に入った。
「幽明の恋文」。
古典と言ってもいいくらい古い作品だ。ワタシは小学生の時に読んでたけど、途中で挫折した。今ならはイケルかもと思いながら、まだ読んでいない9巻を手に取った。
しばらくの間、コミックを読んでいると、リーマンさんが声を掛けてきた。
「あの…、あのさ君、この弁当を一緒に、食べてくんない?」
「はい!?」
「いやッ、おかしな気持ちで言ってるんじゃないんだよ。……1人じゃ食べ切れないんだコレ……」
147 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:52:24 ID:???
【5】
リーマンさんの名前は『斑目さん』という。
ワタシは2度ほど、『ワタナベさん』と言い間違えてしまった。
すみません。
大学の近くの会社で働いていらっしゃるそうで、ここ数年、春になると弁当を持って部室にやってきて、お昼を過ごすのだという。
「なんで春に?」「なんで部室に?」と不思議に思ったワタシ。
実は斑目さん、結婚記念日が4月だそうで(ヒューヒュー!)、毎年この時期になると豪勢な弁当を奥さんが作ってくれるのだそうだ。
あぁゴチソウサマ(笑)。
「それでさァ、職場の同僚が冷やかすんだよ。だから毎年この時期は懐かしい部室に逃げ込んで食べるってワケ。あ、もう一つどうぞ」
「アリガトウゴザイマス」
148 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:53:40 ID:???
斑目さんから2個目のサンドイッチを受け取る。
レタスとトマトとピクルス、ベーコンとトリ肉がギュッと挟まれたサンドイッチ。パンはこんがり狐色。マスタードの効いた濃い味付けで、こりゃ1個でも満足ッスよ。
これと同じものが、でかいバスケットにまだまだ詰め込まれている。
確かに1人で食べるのは大変だ。こんな愛情と力技の弁当を作る奥さんって、どんな人なんだろう。
それにしてもワタシの心を捉えたのは、『懐かしの部室』の一言。斑目さんは、ここのOBなのであった。
年齢も30歳ちょっとだ……。
ひょっとしたら、もしかしてと思って、ワタシは勇気を出して尋ねてみた。
「く、くがやまさんっていうOBの人、ご存じないですか?」
斑目さんは急に吹き出し、咽せた。
あ〜、ピクルスがもったいない。
149 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:55:13 ID:???
【6】
ワタシは、8年前に久我山さんと知り合った病院の入院患者であることを告げた。
斑目さんは、「へえ、ふーん、ほぉー、あの久我山がねぇ」と意外そうな表情でワタシの話を聞いてくれた。
そして、「じゃあ、今度あいつに連絡入れてやるよ」と言ってくれたのだ!
「ありがとうございます先輩っ!」
「よせやい照れくさい」
そしてワタシは、もう1つ気になっていることを尋ねてみることにした。
「あの〜、ここの現役部員の人はどちらに……?」
斑目さんは、かたわらのお茶を含んで一息ついてから答えてくれた。
「今日は学校に来ていないんじゃないかな……。残念だけど、いま現視研には部長1人しかいないからなぁ……もう風前の灯火って感じかな」
150 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:56:28 ID:???
ワタシは、急に寂しい気持ちになった。
小学生の夏、入院中ひとりぼっちで寂しかったワタシを気遣ってくれたのは、「げんしけん」OBの久我山さんだった。
久我山さんから聞いた楽しい日常のエピソード。その舞台だった「げんしけん」に、ワタシも在籍したいと思っていた。
最初は知識程度に覚えておくかと思ったオタク世界にも、いつのまにかドップリとはまり込んでしまうし。こうなったら「げんしけん」に責任取ってもらうくらいの気合いを入れて、ここまでやってきたのに……。
……かくれんぼの鬼になって、「もういいよ」と言われて喜んで出てきたら、……もうみんな家に帰った後だった……そんな気分。
あぅ、だめ……なんか涙が溢れてきそう……。
斑目さんも、こっち見て動揺しているみたいで、ゴメンナサイ。
気が付くと、斑目さんは食べかけのサンドイッチをバスケットにしまいはじめた。そして、ワタシの方に向き直って尋ねた。
「今夜7時、もう一度ここに来ることはできるかな?」
ワタシは黙って頷いた。
「じゃあ7時に」
斑目さんは、それだけ告げていそいそと部室を出て行った。
151 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:57:58 ID:???
【7】
「6時50分。ちょっと早かったかな」
ワタシはアパートの部屋でひと泣きした後、サークル棟へと戻ってきていた。
外はもう暗いが、サークル棟のあちらこちらの窓には明かりが見えて、にぎやかな笑い声や歓声が聞こえてくる。
新入部員を確保して気勢を挙げているのだろうか。
現視研も、こんな風だったらいいのにね……。グス。また悲しくなってきて、袖で頬を拭いた。
3階までトボトボと階段を登った。
意外にも、昼間はあんなに閑散としていて、静かで、寂しかった現視研の部室から、にぎやかな声が聞こえてきた。
恐る恐る、ドアノブに手をかけてみる。
「……すみません……斑目さん……」
ワタシはドアをがちゃりと引いて、そーっと中をのぞき込んだ。
にぎわいが一瞬途絶えて、中にいた人たちが一斉にこっちを凝視した。
「!!」
152 :
となクガ2:2007/01/19(金) 01:59:53 ID:???
「あれ、早かったね」
奥の方で斑目さんが声を掛けてくれた。
続けて何か言いかけてたみたいだけれど、周りの人がドッ沸いて、聞こえなかった。
「かわいいッ!」
「この娘が、嘘だろ?」
「やっぱ今の女オタも腐女子なんですかね?」
「ちょっと、こっちおいでよ!」
大学のキャンパスには不似合いな、派手な服に身を固めたお姉さんがワタシの頭を引っこ抜くようにして、強引に部屋の中へと連れ込んだ。
イテテ、うわ化粧くさ!……とは思うが表情には出さないように気を遣う。
みんながワタシに注目し、ワタシは突っ立ったまま、恥ずかしくてうつむいていた。
すると足になんか小さいモノが駆け寄ってきた。3〜4歳のかわいらしい女の子じゃないですか!
なんかどっかで見た服を……ってか、コスプレをしているッ!?
153 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:01:25 ID:???
【8】
「あー、紹介するから席について〜!」
斑目さんが小学校の先生のように、パンパンと手を叩きながら皆を制してくれた。
部室に集まっていた4人の男女。この人たちは久我山さんや斑目さんと一緒の時期に、『げんしけん』に居た先輩たちだそうだ。
「こっちの田中夫妻は夫婦でコスプレイヤー。その娘も可哀想にコスプレさせられているんだ」
「可哀想とは失礼ですね」
奥さんの方が反論。それにしても大きい胸だなぁ。
ご主人の方はちょっと生え際が危ない感じだけど、優しそう。
「きみこれね」
「あ、ありがとうございます」
田中さん(夫)から手際よくコップが手渡された。気が付けばテーブルの中央にはミニコンロ。鍋の中ではおでんがグツグツと音を立てて煮えていた。
「まだ寒いからね。今日はこれで」と斑目さん。
154 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:02:36 ID:???
斑目さんは紹介を続けた。
「それで、こっちは笹原。こっちも笹原」
「うわ説明それだけかよ!」
茶髪のお姉さんがコケた。
それを尻目に斑目さんは、『男性の方の笹原さん』に話しかけていた。
「お前もよく来てくれたな。助かったよ。今日はマガヅンの編集?」
「いいえ、事務所でデスクワークです。おかげで来ることができたんですけどね」
「え?」
ワタシは「マガヅン」「編集」の一言に反応した。
なんと笹原さんは編集プロダクションの編集者さんだという。
「あっ、あっ、あの、ドゥモコンバンワぅ……」
「そんなに緊張しなくても……」
「いや、マガヅンだとか、いきなりそんなメジャー話になっちゃってビックリしてるんですけども」
久我山さんが教えてくれた編集者の人って、この笹原さんだったんだ!
155 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:03:35 ID:???
【9】
「あの……笹原さんに見てもらいたいものが……」
ワタシは、大事に取ってあった「色紙」をカバンから取り出した。
小学生時代、久我山さんが描いてくれたものだ。
あの時、もう会えないのに、絵だけが残されて、悲しくて……。
いつも久我山さんがとなりに座っていたソファの上で、顔を覆って泣いたのを覚えている。
椎応大学に入学した時には、持っていこうと決めていたのだ。
「わ、なつかしいな、くじアン……」
色紙を手にした笹原さんを取り巻くようにして、みんながのぞき込む。
「おー、まごうことなき久我山の絵だな」
「ほんとだ、山田が目立ってるな、あいつ山田好きだったからな」
先輩方に思い出の色紙を見られて、ちょっとくすぐったい気持ち。
その色紙の隅には、久我山さんのメッセージが書かれている。
『後輩は編集者になれました。俺もがんばるから、君もがんばれ』
「久我山さん……」
色紙のメッセージを見る笹原さんの目はとても優しくて、ワタシも嬉しかった。
156 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:05:32 ID:???
【10】
「久我山をはじめ、まだ来てない人がいるけど、主賓が居るので先にはじめますか!」
斑目さんが皆を見渡した。斑目さんはこのグループの仕切り屋さんなのだろうか。
「第5回、現視研新人来て良かったね会議〜!」
「アハハ、久しぶりに聞いたよソレ」と田中さん。笹原さんも「懐かしいですね」と笑う。
「……第5回って一体……?」
「そこは流せ」
「じゃあ、かんぱーい!」
さっそく、みんなが思い思いに鍋をつつきはじめた。
田中さんの奥さんは、何度もワタシにビールを勧めつつ、コスプレを勧めてきた(汗)。
「ワタシ未経験だから、コスチュームも買ったことないし……」
「大丈夫デス。夫が作りますから!」
「エェ!?」
不意に田中さん夫妻がひそひそ話しを始めた。微妙に不安になるワタシ。
奥さんがこちらを向いて、『耳を貸せ』とゼスチャーしてきた。
157 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:07:32 ID:???
(ゴニョゴニョ……ゴニョニョ)
「ひゃああっ!」
驚く笹原さんや斑目さんたちの目線を受けて、ワタシは両手で口をふさいだ。
なんと、バスト、ウェストそして一番気にしている……のサイズまで、わずかな誤差で当てられてしまったのだ(大汗)。
そう言えば、同人仲間から、「冬コミにかなりなレヴェルの親子コスプレイヤーが現れた」「ハマり方がハンパじゃ無い」って話を聞いた覚えがある。
いかん、このままでは引き込まれる……。
ワタシは話をそらそうと、向かいに座っている男女の笹原さんに質問をぶつけた。
「あのう、そちらもご夫婦なんですか」と。
直後、田中さん夫妻と斑目さんは大ウケ。
ダブル笹原さんは真っ赤だ。
「誰がこんなサルと!」
「うるせーな。まぎらわしいから早く結婚して名前変えろよ」
「そっちこそうるせえ、アタシの勝手だろ!」
158 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:08:41 ID:???
「そういえば笹原姓だけ告げて兄妹って教えてなかったな」
斑目さんひどい。こっちは大恥ですよ。
両手を合わせて「スミマセーン」と謝罪する。
「しょうがねーな。こいつはアニキなの! あたしは恵子。『姉さん』と呼びな」
「うわ偉そうに!」と、兄の笹原さんが悪態をついた。
「確かに夫婦って、似るって言うよな」と田中さん。
「でも『あそこ』は似てないですよ……。斑目さん、『咲さんたち』今日は来ないんですか?」
田中夫妻の質問に、斑目さんはちょっと慌てた様子だった。
「あ…ああ、今日は連絡付かなかったんだ」
そこに、恵子姉さんがツッコミを入れた。
「まだ……『高坂ねーさん』に会うのが怖いんじゃねーの?」
全力否定する斑目さん。汗、凄いですよ。
いったい『咲さん』って、どんな人なんだろうか。
159 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:10:13 ID:???
【11】
いたたまれない斑目さんを、田中夫人がフォローしてくれた。
「斑目さんにはもうステキな奥さんが居るわけですし……。で、今日は会社で評判だという『美人外国人妻』は連れてこなかったんですか?」
またも慌てはじめる斑目さん。どうもフォローではなかったらしい。
つうか、この斑目さんの弱さ……。『総受け』なニオイがプンプンしますよこの人。
それにしても、斑目さんの奥さんが外国人だと聞いてビックリ。
確かにあのサンドイッチの濃い味付け、香り、洋モノっぽい感じはしたけれど……。
「きょ、今日俺は仕事場から直接来たんだよ。お前らに電話入れるので精一杯だったんだってば。ひょ、評判妻って言えば、笹原ぁ、お前の所は来てねーじゃねーか」
苦しい話の切り替え方だ。笹原さんの奥さんも外人さんなのだろうか。
「いやあ。彼女も仕事場から直なんスよ。途中で保育園に預けている子どもを迎えに行ってますし……」
160 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:10:59 ID:???
その時、斑目さんの携帯が鳴った。
どことなく命綱に捕まるような必死さで電話に出る斑目さん。おいしい人だ。
「あ、久我山?」
思わず身を起こすワタシ。
「えぇ? 遅れるんじゃねーぞ! 今日のメインはお前なんだから!」
電話を切った斑目さんは、「……今、移動中だって」と状況を教えてくれた。
「俺、久我山さんと会うの3年ぶりくらいですよ」と笹原さん。
「お前も久我山も仕事忙しいからな。でも俺は先週アキバでばったりアイツに会ったぞ」
「斑目サンは仕事がヒマだっちゅーこと?」
「キミウルサイヨ」
「久我山の職場、飯田橋だから近いしな。しかし最近アキバも変わってきたなあ」
「オタクの傾向が変化してきたからですかね」
「でもアキバが本当に変わってしまったら、久我山転職するんじゃねーか?」
「ハハハッ」
161 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:12:14 ID:???
【12】
盛り上がる先輩方の脇で、ちびちび缶ビールをのむワタシ。
うらやましい。
ワタシはこの8年、オタクをしていたけれど、これほど打ち解ける『仲間』はいなかった。それに『生息域』が違うこともあるのか、久我山さんと再会する機会もなかった。
そこにガチャっとドアの開く音。
ワタシは期待したが、そこに現れたのは小柄な女の人だった。
メガネを掛けて、耳が隠れるくらいの髪、大きなカバンを手にしている。
そして田中さん夫婦の娘さんと同じくらいの女の子が2人、足元に隠れるようにしてオドオドとこちらを見ていた。
「すみません。打ち合わせがあったので……」と、母親とおぼしき女の人が頭を下げた。どうやら笹原さんの本当の奥さんらしい。
「ん?」
ワタシは、その人の顔に見覚えがある。
思わず立ち上がり、失礼ながら30歳くらいとは思えない童顔を凝視した。
162 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:13:32 ID:???
「な……、誰ですか?」
「あー、今度ここに入る人らしいよ。今日はアフタだったんでしょ。エムカミさんお元気だった?」
「はい」
笹原夫妻の話を耳にしてピンと来たワタシは、その女性の前までズイと歩み寄った。
「本当にスミマセン、失礼します!」
頭を下げた後、両手を女性の頭にまわし、髪をまとめて頭頂部で「筆」を作ってみた。
一度それを離す。ハラリと垂れる髪。
そしてもう一度、「筆」を作って凝視した。
筆の人はジト目で無表情のまま固まっている。
……ワタシは思い出した。雑誌のインタビュー記事で見たその人の顔を!
「あーっ!於木野鳴雪!」
驚くワタシの後ろで「ピンぽーん!」と誰かが叫んだ。
163 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:15:16 ID:???
【13】
ワタシは何度も頭を下げた。
苦笑いの於木野先生。
笹原さんの『評判の妻』って於木野先生だったんだ。
確かに評判の人だわ。
驚異の生産ペースで作品を量産するメジャー作家!
臨月、それも陣痛の直前までかけて、センターカラー60ページを仕上げたという『生ける伝説』の持ち主だもの。
田中夫人が、「漫画は多産で子どももいきなり2人……」とおどけると、於木野先生は、「双子なんだから当たり前デス」と突っぱねた。
そっか、この子たち双子かぁ。
お母さんの隣のイス1つに、2人で座って机の上に顔を出している。
うはーカワイイですぅ!
「モスラ対ゴジラ」の生まれたて双子幼虫みたい(失礼)。
164 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:16:11 ID:???
「あれ? 斑目さん『奥さん』来てないんですか?」
於木野先生も斑目さんに尋ねる。
「もうその話題、置いておこうよ、ネ、ネ!」
またも困った表情の斑目さんを助けようとしてか、笹原さんがおもむろに立ち上がった。
「ひょっとして……」と、自分の背後のロッカーを開けて、中を物色しはじめた。年代ものの同人誌が出てきて机の上に山積みにされていく。
「うわ、何やってんのアニキ?」
「大して物品を処分していないだろうから……、あった!」
笹原さんは、私に向かって一冊の同人誌を掲げた。
「これ、久我山さんの作品!」
私は思い出した。久我山さんと病院で会っていたころ、学生時代に描いた「くじアン」の漫画があると。その時は結局見せてくれなかったけれど、夢にまで見た久我山さんの漫画が、いま目の前に。
私は思わず立ち上がって、身を乗り出すようにしてその同人誌を受け取った。
165 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:17:15 ID:???
「……おい、笹原、いいのかアレ」
「あ……」
周囲の不穏な空気の変化は気にも止めず、私はその同人誌「いろはごっこ」を開いた。
「……………(汗」
めくるめく妄想の世界。私は立ったままで読み続けていた。
周りに座っている御一同の「………(汗」という沈黙が心に刺さるようで痛い。
「おねえちゃん、何見てるの? 見せて見せてー!」
田中さんの子や於木野先生の子どもたちが固まる私にまとわりつくが、「見ちゃいけません!」とそれぞれの母親が引きはがした。
166 :
となクガ2:2007/01/19(金) 02:21:11 ID:???
<明日につづく……たぶん>
調子に乗って予定よりも多く投下しちゃいました。
残りのメンバーはいま何をしているのか?
斑目の外人妻は果たしてどっちの方か?
そして、クガピーとの再会は?
現視研は再建できるのか?
以下次回!
待て、しかして期待せよ!
>となりのクガピ2
リアルタイム乙!!!
いやー、読んでてすっごく楽しかったです、自分もその場に参加しているようで。
外人妻がどっちなのか、つかどっちになっても美味しい(笑)
続き楽しみにしとります!!!
>となりのクガピ2
ktkr!!
楽しみにしてましたぁ。
前の話を読んだ時からこの子が現視研にいったらどうなるンやろ・・・?
というのを考えていたのですが・・・。
楽しそうで何よりです!
しかし、気になるのは現在の部長・・・。どんななんだろうなぁ・・・。
169 :
マロン名無しさん:2007/01/19(金) 03:50:09 ID:MUTjVlEo
>となりのクガピ
面白かったです!!
斑目の奥さん!気になりますね。
水を差すようで悪いのですが「部長」ではなく「会長」では?
何はともあれ楽しみにしてます!続き求む!!
>となクガ2
待てるかー!
ふと目が覚めて一気読みですよ。残りも待ってるよ。
>真っ赤な誓い
お前も待てんwww
寸止めヤメテ。
書きかけならいつまででも待つから残りもよろしく(ハァト)
>となりのクガピ2
読後に「びぃだま」が頭の中に流れて泣きそうになりました
スッゴイ面白かったです!
メインのクガピーが登場する前なのにこの盛り上がり!
続きがムチャクチャ楽しみだぁw
深夜から朝にかけて、読んでくださった皆さんのレスに感謝します。
>前の話を読んだ時からこの子が現視研にいったらどうなるンやろ・・・?
前作「となりのクガピ」は自分が初めて挑戦したSSでしたので愛着があり、久我山に癒された少女を、ぜひとも将来の現視研に入れてあげたいと前々から願っていました。
何より、このSSを憶えてくれている人がいることに感謝!
>外人妻がどっちなのか、つかどっちになっても美味しい(笑)
>斑目の奥さん!気になりますね。
外人妻、実は初稿では謎のままにして終わらせていたのです。斑目の気持ちになると、もう迷いに迷ってしまって(笑)。
個人的な設定では、春日部さんの結婚と、アン&スーのどちらともいい雰囲気になってしまう事態が同時にやってきて、斑目的には「生き地獄」の時期があったのです(笑)。
完成版では決着つけてますので……。
>読後に「びぃだま」が頭の中に流れて泣きそうになりました
正直言って書いている自分も、「びぃだま」が頭の中をリフレインしてました。楽しいのに切なかった。
SSのラストに歌詞を挿入しようかとも思いましたが、反則だと思ってやめました。
イメージして書いたものを、同じイメージで受け止めてもらって嬉しいです。
>「部長」ではなく「会長」では?
まったくその通りです。海より深く反省……。
>待てるかー!
すまぬー!(笑)
後編投下は土曜日中に予定。宜しくお願いします!
蛇足なコトを書きます。
前作でただの「くじアン」好きだった女の子を、オタクにしてしまうのは可哀想でした(笑)。
前作同様、容姿に関しては全くイメージはしていなかったのですが、最初に、『なぜならば…!』 なんてセリフを吐かせてしまったので、「トップ2」のノノをじんわりとイメージしてしまう結果になりました。
そのほか楽屋オチ的なものを、アチコチに入れたので悔いの無いよう書きます。スレ汚しすみません。
>「甲賀流忍術同好会」
他の自作SSに出てくる椎応のサークル
>「平成26年度サークル入会の手引き」
笹原も自分の入学年度の同手引きを使ってます(原作1巻)
>『ココニイル。』と「いづみ」
1巻当時の現代視覚文化研究会案内コマが元。くじアンのリニューアルに合わせてキャラも変更。たぶん卒業前の荻上さんがテキトーに描いたものを何年も流用したもの。
>パソコン、ホワイトボード
原作ラストの部室を参考に……。
> 「幽明の恋文」9巻
春日部さんが一人部室で(自分のハナゲに気付かないほど)ハマっていた漫画。「ワタシ」が9巻を手にしたとき、斑目は何を思ったであろうか……。
>『ワタナベさん』と言い間違え
「フタリノセカイ」の新宿で春日部さんとだべっていた女友達も、斑目を「ワタナベ?」と聞き違えている。
>会社で評判の『美人外国人妻』
そのうちテレビ東京で取材され、放送されることでしょう。
>「双子なんだから当たり前デス」
「双子症候群」のイメージが強いのでついつい。勝手な引用スミマセン。
>「モスラ対ゴジラ」の生まれたて双子幼虫
ホントに失礼な奴です。
>同人誌「いろはごっこ」「……………(汗」
オタクなんだから、このくらいCha-ra-ヘッチャラだと思うのですが、憧れの人物のエロ同人を見たショックということです。
>「見ちゃいけません!」
この二人の母親は将来どうするつもりなのか……。今は母親の理性が勝っています。
長々と失礼しました。
どうも皆々様、数々のご感想ありがとうございました。
>>88 どうやらとりあえず、2ちゃんねる閉鎖はしばらく無さそうですな。
先ずは最低限読んで欲しかった人数を確保して下さったことに感謝。
>>91>>100 もし続き書くなら、先ずは学祭編でしょうね。
冬コミの方は、正直言って今のところネタ切れですんで。
>>101 推敲の回数は実はハッタリです。
本当のとこは、普段は全部で7〜8回ぐらいです。
ちなみに今回は3回ぐらいですので、いろいろ粗も目立って申し訳無いです。
>>120 ちなみにスーの「斑目晴信君ヲ男ニスル会」云々という台詞の元ネタは、「県警対〜」の金子信雄の台詞です。
(本編では書き忘れましたが、当然スーは金子信雄似の口調で言ってることでしょう)
彼の役はヤクザ上がりの市会議員(県会議員だったかも知れない)です。
彼の言う「〜君を男にする会」とは、本来は自分の子飼いのヤクザ成田三樹夫の選挙後援会のことです。
言葉というものは、使う状況次第でまるで違う意味になってしまうものだなと、自分で書いといて呆れています。
>>125 ここでちょっと予告じみた、現時点での次回作の企画案を紹介します。
・前述のような理由で、続編書くとしたら学祭編になりそうです。
・「ウルトラファイト」って、実は素人が初めて映画作るのには向いていないかも知れません。
あれだけシンプルで面白いものを作ろうとすると、逆にキャラの素材やスタッフの力量が要求されるからです。
・せっかくケロロ小隊コスで作るんだからと、結局現視研は実写映画版の「ケロロ軍曹」制作を企画します。
・監督は当然国松と思われたのですが、思わぬ障害が発覚。
彼女もまたスーツアクターの1人だからです。
(ハリウッドの映画では主役俳優が監督を兼ねる場合があるが、それを素人に求めるのは酷です)
そこで「第1回誰が監督をやるか会議」が開かれるが…
まあ気長に待ってて下さい。
とりあえずケロロのプロット書いてみないと、出演人数もストーリーも決まりませんので。
こんばんわ。
此方に投稿するのは半年振りぐらいです。とは言っても3回目ぐらいでしか
ないんですが。
荻上編は他の方が書いてらっしゃいますが、
別のエンドがうかんでしまいましたので、
差し出がましいようですが投稿させてもらいますです。
それでわ。9レス位?お借りします。
私には、妄想癖という、この先生涯ついて回るであろう悪癖がある。
私の世界は常に空想のスイッチで溢れていて、
押したが最後、あふれ出て止まらないイメージの奔流。
マンガが好きで、801が好きで、自分が嫌いで、でもやめられなくて。
中学で周りの人を傷つけて、もう傷つけたくなくて、閉じこもって。
高校まではうまく行った。大学でもうまくやれると思っていた。
でも、げんしけんは違った。みんな、みんな優しくて。それが心に響いて。痛くて。
そして。
そのシーンを見てしまったのは、つい先日。
いつものように講義を終えて、いつもの時間に部室に入ったら、
斑目先輩と笹原先輩がいちゃついてた。ネクタイ持って。
入っちゃった。すいっち。
きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アホなことさせないでくださいよっていったい何すりゃネクタイ引っ張るってのよ
何ですか僕を置いて卒業するつもりで忘れられるんですか僕をんーやっぱ責め
は笹原先輩かなあ斑目先輩はどこをどういじっても受けにしかならないからや
(以下略)
スイッチが切れたときには笹原さんのド攻め顔がノートに踊っていた。
で、それから咲先輩に見られちゃって誤解されて説明しても聞いてくんなくて
しょうがないから斑目先輩も描いて見せてみたけど結局理解されなくて大野
先輩には2秒で理解されちゃったりして。
ひどく疲れて家に帰った。
そしたら、ついこないだ買ったばかりのハレガン少佐受本が目に入っちゃって、
何故だか、笹原先輩の顔が思い浮かんで、
また、はいっちゃった。
キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(全略)
スイッチが切れたときには、スケブ1冊笹斑マンガのネームで埋め尽くされてた。
・・・あー。またやっちゃった。
途方にくれつつも、出来には満足。うん、割といいかも。
・・・また大野さんに見せてみようかな?あ、でも趣味微妙に合わないからなあの人。
そだ、これを咲先輩に見せたら流石に理解してくれるかな?・・・引くか、引くよね。
悩みつつ何気なくカバンに押し込んで、その日は就寝。
次の日、またいつものように講義を終えていつものように部室に入ると、
・・・誰もいないか。ま、そりゃそうだよね。そうそういつも・・
カバンを開いてふと気付く。あ。。昨日のスケブ・・・
誰もいないことをいいことに、私は昨日のスケブを見返し、
シーンの推敲に没入していた。
暫く作業にふけっていると、突然携帯が鳴り出した。
あれ?弟からだ。なんだろ?
電話に出て用件を尋ねていると、なんだか喉が渇いてきたので、
私は部室を出て購買に向かった。
「うぃーす荻上さん」「あ、こんちわ斑目先輩」
歩きながら先輩とすれ違う。弟の電話は他愛のない用件だったけど、
久々の電話だったので話しは弾んだ。
私は購買に着いてからも電話を続けていて、なんとなくオレンジジュースを購入した瞬間、
スケブのことを思い出した。
足元が瓦解する感覚。
私は蒼白になりながら部室へ取って返し、そこで、
真っ赤な顔でスケブを凝視している斑目先輩と対面した。
息ができない。
マダラメさんが、私の、スケブを、
「や、えーとね、その」
「違うのよ、これは」
「別に覗き見ようって訳じゃなくて、机にどーんと開いて置いてあってさ、」
「やっぱ目ぇ行くじゃん、オギウエさんの絵すごい綺麗だし」
しどろもどろになりながらも必死で釈明を試みているらしいマダラメさんの言葉は、
私には届かない。
フラッシュバック。神社。笑顔。自転車。校長室。笑顔。
牧田くん。文芸部。中島。笑顔。金網。笑顔。笑顔。回る。回る。落ちる。回る。落ちる。落ちる。
もう、だめだ。もう、居られ、ない。
わたしは、また、ここでも、マキ タくんのとき、と
発作的に部室を飛び出そうとした私の腕を、
斑目先輩は必死の形相で引き止めた。
「ごめん!本当にごめん!これは見るべきじゃなかった!」
「・・・もう、いい、です 私が悪い んです」
「へ?」
「私が全部悪いんです!こんなことしか思いつかなくてでも楽しくなっちゃって
自分がイヤで嫌でたまらなくて!それでどれだけ周りの人を傷つけてしまうのか、
私には判ってたはずなのに!」
「・・荻上さん?」
「でも!でも止められないんです!あふれてきちゃうんです!私が!私が
こういうニンゲンだから、繰り返すことしかできないから!だから」
「ちょっと待った」
「へ?」
眼前をさえぎる斑目さんの細くて薄くて広い掌に、私ははっと我に帰った。
「あの、荻上さん?・・・なんか、勘違いしてない?」
「え。。。何を、ですか?」
嗚咽で上手く答えられない、でも、
「俺は、ごめんなさい、って言ってるんだよ?まだ途中の作品を見ちゃったことに」
「 え?」
話の意図が読めない。
この人は、いったい、何を。
「だってさ、これ、ほぼネーム状態じゃん。しかも未発表の。そういうのを勝手に見られるのって、
誰だってやっぱ恥ずかしいんじゃないの?」
「え、ええ、それはそう、ですが」
少し落ち着いた私を見て、斑目先輩もほっとした様子。
こちらを眺め、少し芝居がかった仕草で両手を広げる。
「俺はそれを無神経にもじっくり読んでしまったわけで。それはもう、謝るしかないよね」
「・・・でも、でも!」「ん?」
「・・中身、わかってますよね?私は、その、斑目さんと笹原さん」
「ああ、やおいのこと?俺らの」
何故だろう、カッとなった。
「・・っ!そんな、簡単に!」
「うわ!ごめん、また俺気に障ること言っちゃったかな?」
斑目さんはあわてて、私に両手を合わせる。
そんなに謝らなくてもいいのに。
「いえ、気にはしてないんですが・・・斑目さん?その、気にならないんですか?」
「ん?何を?」
きょとんとした目で私を見る斑目さん。なんだろう、何故か、まっすぐ見返せない。
そんな私の奇妙な動揺に斑目さんはまったく気付かない素振りで、
「ああ、そういうことか。何言ってんの、俺のおたく暦がどれだけ年季入ってるか教えてあげようか?w」
きしし、と屈託なく笑う。
「俺は別に気にしないよ。割とガキの頃からこういう本何度か読んでるしね。それに、
荻上さんはさ、」
知らず見とれていた私の頭にはなぜか、
「マンガ描くの、大好きなんだよね?」
牧田くんの笑顔が浮かんでいた。
「俺はおたくとしては消費の側でしかないからさ、マンガへ情熱持ってる人は無条件で尊敬してるし。
荻上さんもだよ?って、俺に言われても嬉しかないかw」
「・・・そんなことないです!」
「え!?」
「そんなこと、ない、です・・・」
堪らず上げてしまった大声に、再びびくりとする斑目さん。
訪れる沈黙が、なんだか重い。顔が赤いのが自分でもわかる。
斑目さんはどうなのかな。顔が見られないから、私には判らない。
ああでも、斑目さんは咲先輩が好きなんだよね。綺麗だもんなあ咲さん。私なんか。
あれ、あたしなんでこんなこと考えてるんだろう。変だ。おかしい。
斑目さんは総受けでヘタレ攻めで、咲さんが好きで、でも笑顔もちょっと可愛くて、
思考が止まらない、顔が熱い、部屋が熱い、あ、これってもしかして
すいっち?
「おーぎーうーえーさーーーーん?」
「ぅひゃ!」
再度思考の波にとらわれた私は、困った顔で立ち尽くす斑目さんに気づきあわてて顔を背けた。
「どうしたの?ほんとに具合でも悪いとか」
「い、い、いえ!なんでもありません!」
「そっか、それならよかった。」
もうだめ、絶対顔見れない。うううう。
どうしたんだろ、絶対おかしい。こんなのありえない。
「・・・でもさ、これほんと凄いよね」
雰囲気を和ませようとしたのか、斑目先輩はあのスケブを目の前で拡げて見せた。
って!ちょ、まって!まって!
「ヤちょっと、目の前で広げないでくださいよ!?」
「いやぁホラこれとか?あとどれだったかな・・・」
「あ、これ、なんか質感リアルすぎてやばくない?無駄にレベルたけ〜」
「だから、今はちょっと・・・」
「うわこれ笹原人相悪すぎ。・・・あと俺カワイソスギ。絶対本人見せらんない。」
「わかってますそんなの!」
「特に下半身が反応したのはこの・・」
「斑目さん〜〜〜〜〜!!!」
ん? 下半身?
しまった、という顔で固まる斑目さん。
私は私で別の意味で凝固。
斑目さんが!?私のマンガで!?べっ、ぶべべべべ〜〜〜!!???
これで完全にテンパってしまった私は、
1.そんなに801が好きなんですか?
→ 2.実はもっと凄いマンガが・・・
3.・・斑目さん、やっぱり・・・・
この隙を見逃さず、予め準備してあった
更にもんのすごい絡み満載のスケブを3冊斑目先輩に無理やり預け、
「すいませんオツカレサマデシタさよオならー!」
超特急で部室をあとにした。
この時は、恥ずかしさでその場に居たたまれなくなった故の行動だったのだけど。
次の日、斑目先輩にお会いしたときに気付いた。
斑目先輩の視線の先。
笹原先輩だ。
ちょっと顔が赤い。もじもじ。
・・・・あちゃー。
そうして、私の短い、つーか短すぎた恋は終わりを告げた。
でも、今から思うと、この件をきっかけに、私は私を取り戻せたのだと思う。
創作こそ私の命であり、背骨だ。
誰かに影響を与えること、それこそが私の業なのだ、と。
ま、その後げんしけんは男女入り乱れた愛憎渦巻くBLだかレディコミだかよくわかんない事態に
突入しちゃったのだけど。
でも、斑目さんは笹原さんと幸せそうだし。
いいよね?マキタくん。
幻影の牧田くんが半目で、「そんなんでトラウマ解消すんのかよ」って言ってる気がした。
うっさいわ。
[Normal end.]
以上です。
荻上さんも、マダラメさんまあも幸せそうなんで、ノーマルエンドってことで。
慣れない投稿で番号ついてたりついてなかったりと、
色々お目汚し失礼しましたー。
ええ〜っ!
てっきり斑目と荻上さんがくっつく展開だと思ってwktkしながら読んでたのに〜w
そんなオチなの〜w
まぁでもオギーのトラウマかいしょーした斑目GJ!
いかんいかん、最近の作品の感想を書くのを忘れてたので戻ってきました。
それにしてもここ数日の投稿ラッシュは何なのでしょう?
2ちゃんねる閉鎖の噂が招いた、いわゆる駆け込み需要というやつなのでしょうか?
それとも単にたまたまこの時期に、皆さん書き溜めてたのが集中しただけでしょうか?
しかもよく見ると、1本増えてるし…
>碧目のすう
絵板に行って来ました。
あの図からここまで話膨らますとは、只ならぬ妄想エンジンの出力ですな。
それにしても童話風の話の中でもダメだったのか、斑目。
でもスーとは一緒だから、一応ハッピーエンドかも。
>気付いた時が恋の始まり
あの笹荻問題で本スレが祭り状態になってた頃の話ですな。
当時予想SSが集中し、思えばそれがSSスレ誕生のきっかけになったんですよね。(遠い目)
その一方で「笹荻唐突過ぎ」ってなアンチな意見も割りとありました。
にも関わらず、あの間を補完する話ってあんまし無かったように記憶してます。
それだけにチト懐かしさに涙しそうになりました。
感想の続きです。
>真っ赤な誓い
何故か途中で止まってますが、ここでも斑目どうやらパパになるようですな。
果たしてお相手は?
完成次第投下されたし。
ここまで書いて考えた。
もしかしてこの人、書いてる途中で何か事件に巻き込まれたのでは?
マジで通報した方がいいかも…
>となクガ2
こちらも話が途中で、斑目ハッピーエンド風、これってシンクロニシティってやつでしょうか?
2014年の話ですか。
私が以前書いた「はぐれクッチー純情派」は2015年の話、勝った!
って無意味な自慢をしている場合ではありません。
なかなか切り方が絶妙ですな。
果たして斑目の嫁はんは誰か?久我山は相変わらずのブーちゃんなのか?現会長って誰なのか?
後半をお待ちしております。
>まだメモ荻上
いいとこまで行ったのに、詰めが甘くてバッドエンド…
まるでタイムボカンシリーズの悪役トリオですな、斑目。
でもそれで荻上さんをまんが道一直線に更生(?)させたのだから、まあ良しとしましょう。
>荻上ノーマルエンド。
くっつかねーのかい!!!(突っ込み)
さて、そこはちと悲しいですが(笑)
荻上さんのどばーーーっと駆け巡りまくる思考とか、
荻上さんと斑目さんのやりとりとか、独特のリズムとスピード感があって、すごく読んでて楽しかった。
んで、笹の決め台詞(荻上さんのやおいを見て言う台詞)を斑目が言っても違和感ないのがね。
「笹と斑目が立場入れ替わったら」というのは考えたことあるので、すんなり受け入れられたというか。
…しっかし、くっつかないのかーーーそうかーーーーーーー…。
>まだメモ荻上
斑目の笑顔が巻田と重なったあたりでマイハート持ってかれました。いい話だ!
が……くっつかないのかw てゆーか笹原とくっついてんのかwww
ラストの三択見る限りグッドエンドなさそうだから、もっと手前でルートミスってんだな、きっと。
このお話のオギーは自分のトラウマそこそこ飼い馴らしてるみたいでなんかほっとします。
あと雑談だが。
>>191 そこで巨塔のテーマをバックに白衣軍団引き連れてクガピー登場ですよw
>>まだメモ荻上ノーマル
>ああ、そういうことか。何言ってんの、俺のおたく暦がどれだけ年季入ってるか教えてあげようか?w
ここツボった!
スゲーですよ「まだメモ」。キャラによって無限の可能性が……。
結果的に荻上さんキューピットになってるし。
「いいよね?マキタくん」じゃねーだろ!
>>真っ赤な誓い
191の中の人が言うように、予想外の事態はあったんじゃないかな?
昼休み前からSS送信はじめる(11:26:43)
↓
昼休み終了(最終アップは12:56:13)
↓
上司が呼ぶ「××君ちょっと」
→[1]何だね、この「げんしけんSS…」とやらは(見られた!)
→[2]君ちょっと喜界島まで出張してきてYo!
→[3]君クビ(意外ッ、それはリストラ!)
どうか早く続きが読めますようにナムナム。
195 :
真っ赤な誓いの中の人:2007/01/20(土) 12:32:48 ID:v3FonwSC
ご心配なく、ちゃんと生きています。
べ、別に
>>195の事を心配してたわけじゃないんだからね!
197 :
真っ赤な誓いの中の人:2007/01/20(土) 17:21:23 ID:v3FonwSC
前に投下した後用事が入って
投下出来ませんでした・・・
オチは出来ていますので近々投下します。
カキコテスト
よかった。復活してた。
さあ読むぞーw
200 :
真っ赤な誓い 5:2007/01/22(月) 16:14:46 ID:NjbFpMYv
「斑目ー」マコは声をあげながら長いすによじ登ると
斑目の首筋に抱きついた。
いつものように、これをすると斑目がふざけて遊んでくれる・・・
マコはそう考えていたのだが、斑目は力なく笑いかけ、彼女の頭を軽く
ポンポンと叩きながら微笑むだけであった。
「重症だな・・・」田中はボソッとつぶやいた・・・。
「ほらっマコ、おぢちゃん困っているでしょ!!」
母親にきつく言われてバツが悪いのかマコは高坂の足元へ行きしがみついた・・・。
「あらまあ、皆さんありがとうございます・・・。」
斑目の母親は深く頭を下げた。
201 :
真っ赤な誓い 5:2007/01/22(月) 16:36:07 ID:NjbFpMYv
「すみませんね・・・さっきからもうこの状態で・・・。」
「いえいえ・・・自分の時もこんな感じだったので解りますよ・・・。」
田中はそう答えながら、斑目に声をかけた。
「メシまだだろ、今のうちに食いに行っておくか?」
「その方がいいわね・・・先は長いんだし・・・
父さんと母さんここにいるから、先に食べてなさい。」
静かになった廊下、斑目の両親の会話だけしか聴こえない・・・。
「晴信・・・いい友達持ったな・・・」
「ホント・・・東京へ行くって言ったときは心配したけど、
あの様子なら、安心ね・・・・。」
「あいつも・・・・・になるんだな・・・・」
「そうね・・・・・でも二人・・・・・・でしょう。」
生殺しですか・・・?
たぶんまた上司に。
な に こ の 生 殺 し
おあずけ・・・これがだんだん快感に・・・。
斑目にマーチス准尉を、スーにセッティーエーム姫をやらせたい……なんてな
陸情3課ktkr
バンプキンシザーズ、流行ってんの?
げんしけんのメンツでは配役があわないよーな…。
209 :
真っ赤な誓い 7:2007/01/24(水) 22:23:40 ID:22U07SmV
「結構イケルじゃない。」咲はハンバーグを口に頬張りながら言った。
「だっだろ?営業でここきっ来た時にはいっいつも食べてるんだ・・・」
「グッード、テイスト!!こういう所の食堂の定食は大抵出来合いのものと、
相場が決まっておりますが、ワタクシ月一で通いますよ!!」
「メッメシもいいけど・・・ほっほら・・・」久我山は横を向くと窓の外を眺めた。
「本当にいい景色ですよね・・・」可奈子がなんともいえない声をあげた。
窓の外には町並みと港が広がっており、日も暮れかけているのが手伝って
神秘的な様子をかもし出していた・・・。
「クガピーお手柄だよ、こんないい所見つけて・・ねっ斑目!!」
咲は向かいに座っている斑目に声をかけた・・・。
「えっ・・・ああ・・・・」聴こえてなかったのか曖昧な返事であった
「やっぱり、気になりますか・・・?」笹原は心配そうな顔で尋ねた。
斑目の皿はまだ半分も手をつけられていなかった・・・・。
「まあ、男ならいつかは通る道ってことかな・・・。」田中は口元に笑みを浮かべている。
「そうですよ、田中さん自分の時は、今の斑目さんよりオロオロしていましたから・・」
「高坂、その話はもうやめろー!!」
ハハハハハと笑い声が食堂中に響き渡る・・・
「ところでさあ、後で可奈子から聴いた話しなんだけど・・・私の時はこの男
ずーとゲームしていたって言うじゃない・・・どうよ!!」咲は親指をクイッと
高坂に向けるとイヤミたっぷりに言い放った。
「う〜ん、僕は咲ちゃんなら大丈夫って信じていたからね。」
「これだよ・・・これ・・・・」咲の口調はウンザリと言った感じだった・・・。
>>208 全員を当てはめるような配役は合わないだろーな
しかし、スーが斑目にキスして「ウム! イカニモゲスラシイソヤニシテ美味デアル」はおいしいと思うんだ
>>210 漏れは「一人じょーず」を誰に言わそうか迷ってるんだが、適役がいねぇorz
げんしけんって、天然ボケキャラいないような・・・?
にゃー子あたりか? もうちょい身内だとダメージデカイんだが。
南瓜鋏かぁ…
勝手に801小隊ネタと組み合わせて見るw
…高坂の操るMSの狭いコックピットの中で、救助された斑目は震えていた。
高坂の機体は決して無茶な機動はしない。緩やかな軌跡を描きつつ、それでいて決して
単調にならず、常に移動を続ける。
それなのに斑目の震えは止まらない。むしろ恐怖が高まり、胃液が逆流しそうになる。
今現在、モニターには複数の敵機体が捕捉されている。
それらは間違いなくこちらを見つけ、銃口を向けている。距離はかなり近い。それこ
そ敵機の銃口が識別できるくらいに。
高坂は動かない。(早く撃て!)斑目は心の中で叫ぶ。軽いG。モニター内の敵機が
発砲する。斑目は至近を通り抜ける弾丸の存在を感じた。その瞬間モニターが微かに
瞬く。一瞬の後、複数の爆発が表示される。
高坂は無言のまま新たな敵を求めて移動する。最も戦火の激しい区域へ。
斑目は思う。
(助けてもらったというのに、なんで、ありがとうじゃなくて、こんな言葉が浮かぶんだ?)
(…「化け物」)
うろ覚えなので台詞は間違っているはずだw
214 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:00:57 ID:???
「次回は土曜日あたりに」と書きながら、大変遅くなってしまいました。
またもスレ汚しにまいりました。
「となりのクガピ2」の中編を投下させていただきます。
よろしくお願いします。
215 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:02:44 ID:???
【14】
同人誌「いろはごっこ」読了……。
18禁同人誌なんて慣れっこのはずなのに、読んでいてドキドキしてしまった。
(ワタシ、小学生の時にこの漫画をおねだりしたのか)と思うと、恥ずかしくて顔中が火に包まれたみたいに熱くなった。
おそらく真っ赤になっているであろうワタシは、周りで黙って見守っている先輩方を見回す。
あぁ、気まずそう……orz
ワタシは、カチカチカチカチカチカチ……と歯車の音がするようなぎこちなさで頬の筋肉をつり上げた。
笑え、笑うんだワタシ。いま精一杯の感謝を込めて!
「あ、あははははは、いやぁ私も小説書きですけど同人活動してるんで、このくらい日常茶飯事ですよ!」
「そそっ、ソーダよねハハハハハハハハッ」
皆が声を揃える。
その場が硬く冷ややかな笑いに包まれた瞬間、ドアが開いた。
「あ〜、お お待たせ!」
待ちこがれていた久我山さんが、よりによって、このタイミングでやってきたのだった。
216 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:05:05 ID:???
【15】
昔とまったく変わりない巨大オニギリのような体。スーツがまるでオニギリに巻いたノリみたい。
髪はほんの少し伸びたみたいだけど、その雰囲気は……あれよアレ、懐かしい映画の、トトロ。
その『大トトロ』がワタシを見て目を丸くしている。
「あ…、斑目から、は 話を聞いて驚いたけど、お、お 大きくなったね……」
「おぼえていてくれたんですか!?」
「う うん。あの時の営業は、か 会心の仕事だったしね」
「……〜ッ!」
私は感激で言葉が出なかった。
人生に影響を与えてくれた人が、目の前に現れて、ワタシのことをおぼえてくれていたなんて!
周りに人が居なかったらガッツポーズが出ていたかもしれない。
そうだ、長年言いたかった言葉を今日、伝えよう。
「久我山さん、あの時は本当に……」
「あ……」
話しかけようとした瞬間、久我山さんの表情から血の気が引いたように見えた。
その顔を見て、ワタシは、『久我山さんの代表作』を手にしていたことを思い出した。
「いろはごっこ」を両手にしっかりと握って、胸の前に抱いていたのだ。
周りの先輩方は固まった表情でうつむいている。
お願い、誰かこっち向いてフォローして、誰かぁ!
217 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:07:12 ID:???
何かを悟った久我山さんが、わなわなと震える。
おこってる……。
いま、「怒りに我を忘れてる。王蟲、森へお帰り!」とか言ったら、斑目さんあたりは笑ってくれそうだけど、久我山さんの怒りを増加させそうだな。
……ってか、何考えてるんだワタシ。
こういう非常時って、頭の中は妙に冷静になっているんだなと実感するなぁ。
怒りに震える久我山さんの姿は、小山が盛り上がっていくようにも見えて、対峙していたワタシの方まで影が伸びてきそうな迫力が感じられる。
この威圧感。「燃エロ!俺のコスモよ!」ナンチャッ……てる場合じゃないって!
「ひっ、ひ ひどいよお前らァ〜ッ!」
……後は修羅場だった。
暴れる巨体。
制止しようとするが振り回される斑目さん。
詫びる笹原さん。
笑う恵子姉さん。
恐怖のあまり泣きわめく子どもたち。
田中夫人はおでんを死守。
我関せずビールを飲み始める於木野先生。
田中さん、喜々として写真を撮っている場合ですか!
218 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:09:14 ID:???
【16】
ようやく一段落して、斑目さんに促されながら、久我山さんがフンッと鼻息荒く着席した。
ドスン!
隣のワタシは大きな揺れを感じた。
思い出す病院のソファ。
なんだか懐かしくて、うれしくなる。
乾杯の音頭を取るべく斑目さんが立ち上がった。
「さあさあ、じゃあ気を取り直して始めましょうかね!」
ちょっと頼りなさげだけど、今日はこの人のおかげで久我山さんにも再会できたのだ。
「え〜では新人を歓迎して一言」
コホンと咳き込んで斑目さんが周りを見回すと、いきなり拳を振り上げてテンション高く語り出した。
「そもそもっ! この現代視覚文化研究会とは、アニメ、ゲーム、マンガなどの視覚文化の産物全般をフォローする総合的なサークルとして……」
「いや御託はいいですから」と笹原さん。田中さんも、「このまま語らせると、きっとアレがでるぞ、アニミズム論」と笑う。
「で でも御託あっての、ま 斑目だよな」
久我山さんもようやく笑顔を見せた。
先輩方の息の合ったやりとりは、見ていて楽しい。
「え〜周りがうるさいので省略して。じゃあ、新人くんのオタク道の前途を祝して〜」
「うわぁ……」「かわいそうに」という声が漏れ聞こえる。
いいんです。覚悟してきましたから。
「カンパーイ!」
219 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:11:12 ID:???
「さ ささ、飲んでね」
久我山さんがビールを勧めてくれる。こんなこと、考えたこともなかったなあ。
「ありがとうございます!」
ワタシは、ビールをいただいたり、お酌しながら、わいわいとおでんをつつく先輩方を見回す。
みんな楽しそう。ワタシ、こういう場があこがれだったんだ。
改めて久我山さんの方に向き直る。
「久我山さん。本当に、ありがとうございました。おかげで、気が付いたら立派なオタクになってました」
「え、お 俺が原因なの?」
斑目さんがこの会話に割って入った。
「そうだってよ〜久我山。お前のせいでこの世の中にオタクが一人誕生したんだ!」
「せ 責任感じるなあ……」
「いや〜。新入部員が誕生してよかった。もうこれで次期会長はキミで決まりだな!」
斑目さんから力強く背中を叩かれ咽せるワタシ。
「ゲフッ……、ワタシが!?」
「そう、今の会長が来年で卒業するはずだから、暫定的にね。……これで『8代目』だね」
220 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:14:27 ID:???
【17】
ガタンッ!
斑目さんの言葉に反応して、急に於木野先生が立ち上がった。
「斑目さん、いま『8代目』って言いました!?」
「そうだよ」
納得いかない表情で、指折り数えはじめる於木野先生。
「2代目は斑目さん、次が笹原さん、そして大野さん、私……」
「ああ、知らないのか……。笹原は教えてなかったのか?」
「はあ、僕も忙しくて最近の動きは知らなかったですし……」
ワタシには意味が分からないけれど、どうやら歴代の現視研の会長さんは、5代目が於木野先生で、6代目は留学生、その次の人が『7代目』ということか……。
両手で何かを数えていた於木野先生が、顔を上げた。
「単純に考えて、6年以上会長になっているわけですよね……」
「ま まるで初代だよな……」と久我山さん。
ワタシはますます混乱する。
笹原さんが手を挙げた。
「あの〜、『彼』は博士課程ですよね。博士課程は前期後期で5年間のはずだけど」
斑目さんはフウとため息をついて答えた。
「彼、2年間休学したんだよね。そのときすでに現視研の部員は彼だけ……」
「その2年のブランクが、現視研のユーレイサークル化につながったんですか……」
ワタシは思わずつぶやく。なんて迷惑な話だろう。
「よく自治会に潰されなかったな」
「そ 存在自体わすれられてるのかもな……」
「で、その会長は今回の席にはお見えにはならないんですか」
「わ、忘れてた……」と斑目さん。
その場にいた先輩方の顔には、「ヲイヲイ……」と書かれているように見えた。
221 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:16:05 ID:???
【18】
その時、『バァン!』とドアが開いた。
といっても、外から引いて開くドアなので、「バァン!」は口で効果音を付けたようだった。
「斑目さん、見つけましたよ!」
背が高く、テンションも高い男の人が部室に入ってきた。
「うわあ、噂をすれば影ってやつ?」と田中さん。
「……ひょっとして、この人が7代目の会長さんですか?」
「イエ〜ス!」
誰かに尋ねようとしてたのに、いきなり本人がテンション高く返答したので、ビクつくワタシ。
「クッチーと呼んでネ。そういうキミは誰?」
「あ…、新入生です。ご縁があって、現視研に入りたいと思っ……」
「ああそうなの! 入会したからには、すべてはこの『プライド・オブ・ナリタ』ことクッチーにお任せあれ!」
汗ばむワタシ……。この先輩、基本的にいい人っぽいのだけど……。30近いというのにこの痛々しさは何だろう。
222 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:19:17 ID:???
すっかり置いてかれた先輩方を代表して斑目さんが声を掛けた。
「朽木くん、最初の『見つけましたよ!』って、何の事?」
「あ、そうでありました! 斑目さん、『奥様』が探していましたよ」
ビクッと反応する斑目さん。顔が青ざめてますよ?
笹原さんが代わりに尋ねた。
「それでどうして朽木くんに……?」
「斑目さんはお昼時に部室を使うじゃないですか。奥様は『ダーリンが部室で油を売っているのではないか』と思われて、現在の唯一の部員であるワタクシに出動要請が下ったのでありますよ」
「ああそう……(汗。俺の嫁さんはさすがに、『油を売っている』とは言わないけどな……」と斑目さん。
「それに、皆様にも連絡がつかないのでマスマス怪しいと……」
「あ……!?」
於木野先生と田中夫人がそれぞれのハンドバッグから携帯を取り出した。
「ああ、携帯に着信入ってたわ」「マナーモードだし飲んでたし……」
クッチー先輩は、もう一度ドアを開けた。
「そんなわけでして、奥様もご一緒にお見えになりました!」
斑目さんがうろたえながら立ち上がった。
「なにぃ!? 来てるの?」
なんでそんなに動揺してるのだろうか?
223 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:21:19 ID:???
【19】
7代目会長・クッチー先輩がオーバーアクションでドアの奥に合図すると、金髪がキター!
すっごいキレイ……だけど…………アレ?
先輩方も『奥さん』に声を掛けようとしたが、一瞬の間をおいてどよめいてる。
その奥様のお腹はすでにパンパンに張っていたのだ。
みんなの視線が同時に、ゆっくりと斑目さんに向かう。
「いや、生まれるまでみんなには内緒にしておこうって、2人で話してたんだけど……」
しかし、初めて奥さんを見たワタシにとっては、妊娠以前に納得いかないことがあった。
なんかヤバイのだ。どう見てもティーンエイジャー。下手すると14、15歳くらいに見える。
ワタシは失礼だと思いながらも、斑目さんに真顔で話しかけた。
「斑目さん……。これってまるで犯罪……」
224 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:23:13 ID:???
思わず、「外国人美少女をテゴメにするサラリーマン」を妄想。ワタシは脳裏で展開したテゴメシーンに赤面し、ブルブル首を振って妄想を振り払った。
先輩方も次々に口走る。
「こ これは……イメージ的に き 鬼畜だな……」
「スー、妊婦姿似合わないね……」
「Su……,At that time, were you safe? Wasn't it painful?(大丈夫だった? 痛くなかった?)」
「高坂姉さんを積極的に呼ばなかった理由はコレか?」
斑目さんは頭を抱えていた。
「だからみんなに見せるの嫌だったんだよ!」
『スー』と呼ばれた奥さんがお腹を抱えつつトコトコと斑目さんの横まで歩いてきた。
ポン、と夫の肩を叩くと、無表情のまま口元がニヤリとつり上がり、「エッチナノハイケナイトオモイマス」と声を掛けた。
見事な追い打ちだ。斑目さん汗ダラダラ。
みんなも掛ける言葉がない。
225 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:24:57 ID:???
【20】
さらにスー奥様は、於木野先生の隣に座っている双子ちゃんの所へ。
怯える双子に向かって低い声でなんか唸ってる……。
「ノーマクサンマンダーバサラダンセンダマカロシャダ……」
……真言……?
双子ちゃんが田中さんのお子さんのもとへ逃げ出すと、子どもたちをなぎ払ったスー奥様は於木野先生の隣に座った。
於木野先生もため息をついている。
何なんだこの人は?
「スー、初めての人も居るんだから、自己紹介しなさい」
於木野先生に促されて、奥様がジッとこちらを見た。
見た。
見てる。
見続けている……その間約30秒。誰か助けて。耐えられない。
「あのう、スゲー睨んでるように見えるんですけど……」
「ごめんなさい。この子いつもこんななの。ほらスー、挨拶挨拶!」
田中夫人に催促されて、スー奥様はコクリとうなづいて立ち上がり、「ヒュイ!」と指笛を吹いた。
「イエスマァム!」とクッチー先輩がスー奥様の脇に立つ。
え、何?
あ然とするワタシ達全員の前で、二人はアカペラでマーチ風の曲を歌いだした。
226 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:27:40 ID:???
どこかで聞いた曲だ……。
ひょっとして「特攻野郎Aチーム」?
「♪チャンカチャンチャーン♪チャンチャンチャーン♪チャラチャンチャンチャンチャーン♪チャンカチャカーチャーン♪…」
ネタとして知ってはいるが……あっけに取られるワタシ。
やがて曲は中盤、スー奥様が「♪デレデデッデッデッ デデッデデーデー♪…」とベースのフレーズを口ずさむなか、クッチー先輩が前に躍り出た。
「やあみんなお待たせ。俺様こそ朽木学。通称クッチー。盗撮の腕は天下一品。奇人? 変人? だから何?」
自己紹介まで再現すんのかよ。
続いてアカペラが交代し、奥様が前に出てくる。
「『スージー・コユキ・マダラーメ』。通称ロリパツキン。ジャパンオタカルチャーノ天才ダ。マンガ編集者ダッテブン殴ッテミセルァ。ダケド、ヒコーキダケハカンベンナ!」
終了。
しばし沈黙に包まれる部室。
クッチー先輩がにこやかに、「イヤー、部室に入る前に急いでネタ合わせしたのでアリマスが、新入りが来ているとは。おかげでいい自己紹介になりましたな。こんどはキミもご一緒に!」と薦めるが、さすがにコレは……(汗。
227 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:29:54 ID:???
「ま また変なネタを……。エ エンターテイナーだよな斑目の妻」
「俺、ブン殴られちゃうの?」
「笹原さんは『荻上さん』を奪った怨敵ですからねえ」
「来日外人なのに『飛行機勘弁』かよ」
ワタシは久我山さんに質問する。
「あの……『コユキ・マダラーメ』って?」
「く くじアンの朝霧小雪。斑目が奥さんの日本名として、い 妹キャラの名前をつけたんだよ。役場に届けも出してるし、マ マヂなんだな」
思わず、「スゲー」と唸るワタシ。
斑目さん、あなたはキング・オブ・オタクですよ…………悪い意味で。
228 :
となクガ2:2007/01/26(金) 01:33:09 ID:???
眠くなってきたので(そんな理由かい!)この辺で「つづく」にします。
お粗末さまでした。
いよいよ宴席は最後の局面へ。
「ワタシ」のオタとしての本性が暴かれる。
そして現れるはずのない人物が……。
以下次回。
リアルタイムでした。乙!
支援しようと思ったけどやらなくて良かった……
書いている身として、なんと言ってもお気に入りは「スージー・コユキ・マダラーメ」でした。
「痛くなかった?」
>となクガ2続
キタキタwwwってスージーかい!!www
「エッチナノハ」の台詞の使い方が最高だとオモイマス。
頑張ったな斑目wwwwwwww
くがピがすごく存在感出てていいですな。おにぎりみたいとか、ドッスーン!!
とか、凄く読んでて楽しかったwww
あと、オリキャラの主人公、キャラ立ってます。
続編期待!!!
>となクガ2
待ってたよー!
よし早起きしてよかった。今日はいい日になる。
ああ感動的な再会シーンが必殺アイテムのせいでドタバタにwうひひw
そしてクッチーお前(ノД`゚)ぜったい何か研究するために大学残ったわけじゃないだろ。
>>230 痛く……痛くはなかったけど、それは
他 に も っ と 痛 い と こ ろ が 満 載 だ か ら だ !
以上最大限の褒め言葉とさせていただきます。
ゴチ。続きも楽しみにしてますよん。
昼休みにスレ汚し。
ちょっと、勢いがつきすぎまして、「となクガ2」もまだ完結していないのに、そのスピンオフSSを投下したいと思います。
しかもこれも「前編」だし……。
もう出来た部分から投下していかないと、自分の仕事に差し支えるくらいにエンジンかかっちゃってるので……。それだけ「コユキ・マダラーメ」さんの存在が大きくなってしまってます。
そんなわけで、自分を落ち着かせるためにも投下します。荒い出来で、しかも自己満で、ご迷惑をおかけしてすみません。
もち後編は今晩投下するのでよろしくお願いします。
「『スザンナ』……落ち着いて座りなさい」
久しぶりに現視研の仲間が集まった宴席。
「特攻野郎Aチーム」のテーマをアカペラで歌うという暴挙をやってのけた妻に、斑目は、彼には似つかわしくない落ち着いた口調でたしなめた。
その口調とともに周囲を驚かせたのは、スージーがコクリとうなずき、斑目に素直に従って着席したことだった。
「聞きました皆さん!スザンナって呼びましたよ!」
田中(旧姓大野)加奈子が顔を真っ赤にして身をよじった。
彼女が赤いのは酒の飲み過ぎもあるのだが。
「……でも、普段家では『コユキ』と呼んでいらっしゃるそーですよ!」
続いて飛び出した加奈子の言葉に、口に含んでいたビールをブッと吹く斑目。焦って周りを見回すと、笹原夫妻も、田中も久我山も、朽木でさえも、顔を赤くして笑いをこらえていた。
(みんな知ってやがるな……筒抜けかよ)
斑目は加奈子のホットラインの緊密さを恨んだ。
ひょっとすると、今日は来ていない『あの人』も知っているのだろうか、と少しばかり不安になった。
みんなの話題はもう別のコトに移っていた。
斑目は安堵のため息をついて、騒がしい部室内を見まわした。
彼が椎応大学を卒業してからもう10年弱経過している。
一緒に青春(?)を過ごした男連中も苦労を重ねたのか、ほんの少し表情が精悍になっていたり、髪に白いものが混じっていたり、または生え際が上昇している者もいた。
もちろん、変わらないテンションの男もいるにはいるが。
(俺は、変わったのだろうか)
斑目は、机に肘をついて体を預け、酔いに任せてふらふらと体を揺らしている。
視線の先には、彼の身重の『妻』が、伏し目がちにジュースを飲みつつ、部室に置いてあった同人誌を呼んでいた。
(……変わったさ……)
斑目は、軽く目を閉じた。
時はさかのぼる……。
数年前の2月。
高坂家、春日部家の結婚披露宴が都内のホテルで開かれた。
新婦の希望は箱根でのガーデンウェディングであったが、彼女の父がそれを許さなかった。
しかし新婦も、老いた祖母に晴れ姿を見せたいと願っていたので、移動が楽な都内を薦める父親の意見に賛同した。
大学の同じサークルで月日を共にした田中、笹原と同様に、サークル内でのカップルとして3組目の結婚。ただし、ほか2組よりも数年遅く結ばれることになった。
披露宴では、司会の女性がいかにも場慣れしたアナウンスで、『新婦の咲様が卒業後から取り組んできたブティック経営が軌道に乗るのを、新郎の真琴様が応援しながら待っていたのです』という美談になっていた。
新郎新婦を知る元サークルの仲間達は、「新郎の仕事」こそが、結婚遅延の理由であると確信していた。
にぎわう披露宴会場で、田中や朽木が会場内を観察しながら呟く。
「いかにも厳格そうな親父さんだな」
「プシュケの関係者、肩身狭そうでアリマスな」
「まあ、パソコン関連企業とだけ言っておけば対面は保てるがな」
咲の父親も、『高坂真琴』を子どものころから知っているからこそ、最終的には結婚も許せたのだろう。
(俺じゃあ、あの父親は到底陥落できない。ア・バオア・クー以上の要塞だよ)
友人一同として座らされた円テーブルで、斑目は自虐的に自分を新郎の立場に重ねていた。
ステージ上では、加奈子が注目を浴びている。
青い目のコンタクトを入れ、立教院学園の制服をアレンジしたコスチュームに身を包んでいる。
「くじびきアンバランス」のパソゲーでの続編に登場するキャラだと説明しても、参列者の何割が理解できるというのだろう。
そのゲームは、『主人公の千尋がリツコと結ばれるコース』で登場する本作のヒロインだ。
もちろん、もう1つの可能性、『時乃と千尋パターンのコース』で登場するヒロインも存在する。
(相手を選べるなんて贅沢な。しかし、なにもこんな所まで来てコスプレしなくても……)
そう斑目が呆れていると、会場の照明が落とされて、加奈子のアナウンスで、田中(夫)が用意したスライドが上映された。
瞬間、ぼんやり画面を眺めていた斑目は酒を吹いた。
「あ、春日部さんのコスプレ写真だ……」
笹原も驚く。彼の妻は頭を抱えていた。
場内もざわめいている。
「あ、新婦が暴れてる」
「そりゃそーだろう……」
喧噪と笑いに包まれたまま、式は終わった。
後で斑目が聞いた話だが、咲の祖母はコスプレのスライドを多いに喜び、楽しんでくれたという。
この祖母の反応が無ければ、危うく田中夫妻は咲と縁を切られるところであった。もちろん、祖母が要望したコスプレ写真の焼き増しは、咲が断固として許さなかったが……。
ホテル内で二次会も行われ、さらに三次会として、新郎新婦を除く現視研の一同で居酒屋に繰り出した。
二次会終了時点で、恵子の姿は消えていた。果たして現視研以外の新郎の友人にイイ男がいたのだろうか。
今にも雪が降ってきそうな曇り空。もう日は落ちて、寒さが身にしみた。
「しかし、二人の結婚がこうもうまく行くとはなァ」
三次会に向かう途中。斑目が曇天の夜空を仰ぎ見ながら呟いた。
「どういう意味ですか?」
田中加奈子(旧姓大野)は思わず斑目に尋ねてしまったことを後悔した。
斑目の咲への思いを察するに、今日は触れずにいようと思ったのに……。ところが斑目は過度な反応をすることもなく、淡々と答えた。
「いや〜、式場で見たあの親父さんが、よくもまあ高坂(というよりその仕事)を認めたもんだなってね」
加奈子はしばしキョトンとしていたが、「ああー、そうですねえ……」と、その反応の淡泊さに半分がっかりしながら同意した。
斑目の心中では、もう『決着』はついているのだ。
ただ、今日のような特別の日には、過去の想いが蘇って胸が痛くなる。
彼は、それだけだと思っている。
三次会に突入してまもなく、子どもを抱える田中夫妻や笹原夫妻も早めに姿を消した。
翌日も仕事がある久我山も退席。
院生として在学中の朽木と、留学中のスザンナ・ホプキンス、そして斑目という異色の取り合わせが残された。
テンションの高すぎる男と、テンションが低く何を考えているか分からない外人娘。その2人に挟まれたサラリーマン。
居酒屋の周りの客はそれぞれ楽しんでいるというのに、自分たちのテーブルはどうにも話が噛み合わない。斑目は苦痛すら感じていた。
朽木もしたたかに酔っていた。
スーは、田中夫人や笹原夫人に帰宅を促されても一向に席を立たなかったので、結局斑目が責任持って彼女のアパートまで送ることになった。
(あのときお開きにしとけば良かったんだ)
斑目は後悔した。
すべてが終わった時、居酒屋の外は雪が降っていた。
続く。
あースッキリした。
じゃあ仕事に戻ります。
どうもスミマセンでした。
あああorz
昼休みになんか覗くんじゃなかった。
>koyuki
っつーか作者!
おまいはスッキリしたかもしれんがこの俺のモヤモヤをどうしてくれるwww
続き楽しみにしてます。
243 :
真っ赤な誓いの中の人:2007/01/26(金) 18:44:58 ID:AM9w3uaY
>>となクガのひと
いやあ凄いですよ・・・
早く続きが読みたいです・・・・。
こっちも早く完成させねば・・・。
自分の方はなんかgdgdになってきているような感じです・・・。
途中で何か起爆剤になるようなものがあれば入れてみるか・・・。
>真っ赤な誓いの中の人
いや、あなたはそのままでイイのでは?
読み手をヤキモキさせる生殺し手法を確立してください。
それぞれの事情やペースを守って気楽にやりましょ。
♪い〜まこのテンポでッ♪
じゃあ僕は僕のテンポで投下させていただきます。
koyukiの続きです。
またも中編です。
今夜のうちに完結します。
「なぜ一気に投下しないのか」
まだ職場にいるためです……。
最後はじっくり投下したいと思うので、申し訳ありませんがお付き合いください。
「ありがとうございましたーっ!」
勢い良く、店中の店員が連鎖的に挨拶する。
ダッフルコートに身を包んだ斑目は、後輩二人に声を掛ける。
「さ、帰ろうか」
地下の居酒屋を出て階段を上り、にぎわいを見せる繁華街に出たとき、斑目はメガネに何か水滴のようなものが当たったのに気付いた。
(雨か?)
それは、雪だった。
「……ここ数年、暖冬だったけど、久しぶりに積もるかもな」
斑目は手で軽く雪を受け止めながら、朽木に語りかける。
語りかけつつも、斑目の瞳は人が行き交う路上に向いていた。
スージーが夜空を見上げて、落ちてくる雪を追いかけるようにバタバタと道の端々へ移動しピョンピョンとはね回っていた。
やや派手目のハーフコート、下はミニとタイツ、走り回るたびに長いマフラーがたなびいている。無愛想な表情以外は、子どものように無邪気に見えた。
(このまま放っておくと変なナンパに捕まるよりも早く、俺たちが児童福祉法違反か何かで捕まりそうだぞオイ)
斑目は危機感を感じて、隣で気持ちよさそうに体をくねらせていた朽木にスージーを送らせようと思った。
彼のアパートの方がスージーのアパートに近かったはずだ。
しかし、うねうねしていたはずの朽木が、自分の腕時計に目をやるや否や、両手で「パンパンッ!」と自分の両頬を張って、シャキッと斑目の方に向き直った。
「斑目サン! ワタクシこれから品川のシネコンまで移動して、『機動戦士ガンガルユニコーン』劇場版三部作のオールナイト上映に出撃してきます!」
「え、そうなの?」
「じゃあワタクシはこれでっ!」
朽木は、チャッ!と敬礼してそそくさと駅の方へ立ち去ってしまった。
酔っぱらいリーマンや学生でにぎわう繁華街の一角に、サラリーマンと金髪少女が残された。
「俺も見たかった……。結局貧乏くじは俺かよ」
遊ぶだけ遊んで疲れたのか、スージーはパタパタと斑目の方に寄ってきた。
(次は何をするのか)といわんばかりに、上目遣いで斑目を見上げている。
斑目は、「えーと……確か日本語の理解はバッチリできるんだよな」と、頭をかきながらスージーに向き合った。
「さ、もう家に帰ろう。送るから」
「オスワリ」
「はい?」
「ネコヤシャ オスワリ!」
出た、伝家の宝刀「猫夜叉お座り」。
いつぞやの成田初詣以降、彼女が留学してきた後も、笹原たちと合流したコミフェス会場や、学園祭に顔を見せたときなど、人通りの多い場所で度々斑目に肩車を強要してきたのだ。
「いやもう遅いし、帰らないと……」
「OSUWARI!」
繁華街を行く人たちが注目し、振り返る。
金髪美少女を肩車して、悲哀いっぱいの表情で練り歩くサラリーマンの姿を。
斑目は、「駅のタクシー乗り場まで」という約束で肩車したものの、なんとも恥ずかしい姿を晒している。
スージーが普通に隣を並んで歩いてくれたら、二人の関係を知らない通行人に対して、少しばかりの優越感も生まれただろうに。
もちろん、雪が降る寒い夜だけに、太股の暖かみを感じてちょっと得した気分でもあった。
(わざわざ繁華街で肩車なんかして、何を見たいんだ)
疑問に思った斑目だったが、顔を傾けて見上げると、スージーが一生懸命に手を伸ばし、雪をつかもうとしているのが見えた。
道まで落ちてくる雪はもうほとんど溶けている。
少しでも空に近い場所で、雪に触れようとしているのだ。
斑目は、「フ…」と、ため息とも笑いともつかない吐息を発した。
吐息は白くなってすぐに消えた。
駅前でようやくスージーを降ろした。周囲でクスクスと笑い声が聞こえる。
斑目は足早にタクシー乗り場に向かい、乗車待ちの列に並んだ。
スージーは列を離れて、またどこかへフラフラ歩いていこうとする。
(ここで離れてもらっちゃまた並びなおしだよ)
斑目は2度、3度と彼女の襟やマフラーを掴んで動きを止め、列に並んでいるように説得した。
憮然としているのだろうが、普段と変わらぬ表情で並んでいるスージー。時折、道行くカップルなどを見かけて、「エッチナノハイケナイトオモイマス!」などと訳の分からない……否、斑目には理解できる言葉を吐いては、周囲を慌てさせた。
だが、やがて静かに列に並ぶようになってきた。
「?」
斑目はちょっとかがんで、隣に立つスージーの顔をのぞき込んだ。
やぶにらみの目が、さらに据わっているように見える。ちょっとずつまぶたが下がってきては、ハッと目を見開く。その繰り返し。
「眠いのか……」
やがてコクリと首を傾けはじめた。
40分近く並んで、二人はようやくタクシーに乗り込んだ。
「えーと、途中で、どこら辺で降りればいいんだっけか。スージー?」
「………」
斑目が彼女の方に行き先を尋ねるが、答えてくれない。
「えーと、うぇあゆあほーむ?」と、無茶苦茶な日本語英語で訪ねてみるが、スージーは答えない。
「まだ住所をおぼえてないのか?」と訪ねると、彼女は頷いた。
斑目は二次会の席で、田中加奈子がスージーの日常の失敗談について話していたのを思い出した。日本の住所は似ているものが多くておぼえにくく、最近も間違えて遠回りをしていたというのだ。
「そうだ、学生証、学生証は?」
「…………」
黙って両手を広げるスージー。
「持って来てないのか……」
しびれを切らしたタクシーの運転手に急かされて、斑目はとりあえず自分の住所を伝えて、アパートに向かうように頼んだ。
(ひとまず俺のアパートに行って、笹原か田中に電話するか……)
後部座席に並んで座っている斑目とスージー。
斑目は窓から外を眺めている。雪がふき飛ぶように流れ去っていくのを淡々と見ていた。
今日の披露宴のことも忘れてしまいそうな騒々しい一日だった。
いまや『高坂咲』となった彼女のドレス姿、笑顔、最後の挨拶の時に見せた嬉し涙を思い出す。
「終わったな」
心中がチクチクと痛んだ。
いきなり「ズシッ」と背中に重みを感じた。
慌てて振り向くと、自分の肩にスージーがもたれかかっていた。
スピスピと、意外にかわいい寝息が聞こえてくる。
(タクシー待ちの時から眠そうにしていたもんな……)
何を考えているか分からない。
突拍子もない言動で周りを振り回す。
そんなキャラクターを留学後も続けているスージーが、斑目はほんの少し苦手であった。
初めて会った時の第一声が、「アンタバカァ」であり、数えるほどしかない二人のやり取りでも、振り回されっぱなしの印象が強かったからだ。
しかし、その寝顔はとても可愛らしかった。
「……」
苦笑いをして、斑目はそのまま自分の肩を貸した。
十数分後、斑目のアパート前。
「……どうする……俺……?」
ブロロロロとタクシーが去っていく。
アパートの入り口前で降りた斑目は、すっかり熟睡しているスージーを背負って立ちつくしていた。
雪はいよいよ本降りになろうとしていた。
続きます。
あとは夜中に家でこっそりと……。
スレ汚し失礼しました。
うおおおおぉぉぉぉぉ…
ここは最近生殺しがはやっているのか!?!?!?
256 :
マロン名無しさん:2007/01/27(土) 01:33:21 ID:2UjHImhn
>となクガ2、koyuki
ワハハハハハハハ!!!!!!!
久々にSSに1人でツッコミまくりながら笑ってしまいました。
(例)おにぎりに海苔って、クガピー今くるよかよ!、クッチーかよ現会長!、スーかよ嫁はん!等
いやー凄いですねー。
オリキャラ1人以外全員原作キャラで、連載終了以降8年間のげんしけん世界を構築するとは。
それにしてもクッチー、逆お下がりで会長就任で二代目初代会長(変な日本語だ)状態ですか、よくこんなこと考えましたな。
しかもどうやらkoyukiのここまでの流れから見て、斑目とスーの縁結びまで担当してるし。
いろんな意味でキーパーソンですな、クッチー。
続き楽しみにしてます。
すみません。おまたせしました。
お約束通り「今夜」のうちに投下いたします。
だいぶ荒い出来なのですが、感情の赴くままに書いた恥の結晶ですので、笑って読み流してやってください。
これでようやく「となクガ2」の推敲に戻れます。
では、まさにスレ汚し、よろしくお願いいたします。
とりあえずアパートに入った斑目は、スージーの体をベッドに横たえる。
相手が誰であれ、さすがに緊張する。
洗面所で、めったに替えない新しいタオルを探し出し、スージーの服についた雪の水滴を落とそうとした。
(さすがにコートは脱がしてやらないと……)
ビクビクしながら、コートのボタンに手を掛けた。
平均以上の美少女が自分のベッドで酔っぱらって熟睡し、自分はその衣類を剥ぎ取ろうとしている……斑目は頭がクラクラしてきた。
(これなんてエロゲ?)(これなんてエロゲ?)(これなんてエロゲ?)
自己ツッコミが頭の中でリフレインした。
細身の体のおかげで、コートは意外と楽に脱がすことができた。中からパステル基調のシャツとカーディガンが現れ、安らかな寝顔とともに柔らかな印象を与えている。
斑目は赤面して、そそくさとスージーの身体に毛布をかけると、コートを拭いてハンガーに掛けた。
斑目はベッドの脇に立ったまま、携帯を取り出した。
「田中か、笹原に……。奥さんにつないでもらえば……」
しかし、携帯の時計はすでに0時を過ぎていた。
もともと小心者の斑目は、それが携帯であれ、夜中に電話を掛けることにちょっと気が引けていた。相手は家庭持ちなのだ。
(学生の頃なら気にすることもないのに……)と、軽い苛立ちを感じた。
斑目は、ドッカリとイスに腰をおろして、深いため息をついた。
疲れがドッと出てきた。寒い中で肩車をやり、タクシー行列にもならんだ。コミフェスの行列なら極寒の中でさえ耐えられるのに、今日はさすがに辛かった。
しばらくの間、机を背にして、ベッドに横たわるアメリカ人美少女を見守り、思案する。
「今夜一晩ここで寝かせておいて、明日アパートへ送るか……」
多少の緊張感はあるが、無理に仲間に電話することもなく、自分も楽をする消極的な選択肢を選んだ。
明日普通に送ってあげればいいのだ。そう決めると重苦しい気分は大分軽くなった。
申し訳程度のキッチンで湯を沸かし、インスタントコーヒーを入れた。
熱いコーヒーを手にして、再び机に向かった。
引き出しを開け、封筒を取り出す。斑目の「最後の砦」だ。
中から、「律子・キューベル・ケッテンクラート」のコスプレをした咲の写真を引き出した。
(もうこれを処分する時が来たのかも)と思いつつ、複雑な心境でその艶姿に見入っていた。
「カイチョー、キレイネ」
「うん」
「ハッ!」と斑目が振り返ると、スージーが毛布を肩に掛けたまま起きあがって、斑目の後ろから写真をのぞき込んでいたのだ。
(見られた!)
青ざめる斑目を尻目に、スージーは机の上で湯気を立てているコーヒーカップをジイッと見つめ、再び斑目を見た。
「……いいよ。飲んで……(汗」
ベッドの上でコーヒーを口にするスージー。斑目はスージーに背を向けて、机に突っ伏すようにして頭を抱えていた。
スージーはあまりベラベラ喋る印象はないが、もし田中夫妻や笹原夫妻に話したらどうなることか……。
「thanks……」
スージーは立ち上がってフラフラとキッチンに向かい、コーヒーカップを軽く洗った後、トイレへと消えた。
斑目は深いため息をついてうなだれた。
「まあしょうがないか……どうにでもなれだ……。もう相手は結婚しちまってんだから」
『ジャーッ!』
水洗の音にビクッと反応する斑目。出てきたスージーに向かって、顔面の筋肉を無理矢理総動員して笑みを見せ、「大丈夫?」と尋ねた。
スージーは黙って頷いたが、酔いが残っていて足がおぼつかない。フラフラと歩いてきて、部屋の中央に立ち、周囲を見まわした。まだ自分がどこに居るのか分かっていないらしい。
「あ、ここ俺の部屋……。どこに送ればいいか分からなくてさ。ど どうする? 住所思い出して帰る?」
スージーはまだ黙っていたが、部屋の一角に時計を見つけて時間を確認すると、首を振って再びベッドの上の毛布に潜り込んだ。
斑目は、スージーがベッドに横たわると、毛布の上から掛け布団をかぶせ、上からぽんぽん…と軽めに叩いた。
斑目が子どもの頃、熱を出して休んでいる時などに、母親がよく布団の上からぽんぽん…と軽く叩いてくれた。
温もりが逃げないように。
ぐっすりと眠れるように。
母親の愛情の小さな表れだった。斑目はこれが好きで、風邪を引いた時などには、母親に布団を掛けてもらうのが楽しみですらあった。
(酔ってるのならぐっすり眠って……写真のコトなんか忘れてくれよ)
斑目の祈りたいくらいの気持ちが、無意識に布団を叩かせたのかもしれない。
「………」
スージーは大きな瞳で苦笑いしている斑目をじいっと見つめていたが、すぐに目を閉じて、寝息をたて始めた。
一方の斑目も、見つめられて緊張し、胸が高鳴るのを感じたが、「理性理性」と言い聞かせた。
スージーが寝付いたのを見守ると、ベッドの脇の床に転がったマンガやビデオテープを追いやって、薄手の布団にくるまり、毛虫のように丸くなって眠りについた。
寝付いてからどのくらいの時間が経ったのだろうか。
ベッドの脇の床に横たわり、慣れない姿勢で寝ていた斑目は、真夜中に目が覚めた。
「寒い……」
見回すと、カーテンの隙間から青く薄い光がさしている。
外は雪がしんしんと降り積もり、外界からは音という音がまったく聞こえてこなくなっていた。
静寂の中、聞こえるのはカチカチという時計の音や、時折『ブーン…』と低く唸る冷蔵庫の音、そして斑目とスージーの二人の吐息の音だけだった。
再び眠りにつこうと、ベッドに背を向けて目を閉じた斑目は、突然背後に衝撃を感じた。
『ドスッ!』
ビクッと反応して身を起こすと、彼の腕に何か暖かいものが触った。
スージーがベッドを転げ落ちて隣に来ていたのだ。
(うわっ!)と、斑目は声を上げそうになったが、スージーが眠っているのを見て、動揺を抑えた。
全く意味のないことだが、斑目の頭は、なんとかこのアクシデントを好意的に冷静に分析しようとしていた。
そこで、スージーが常に荻上(旧姓)のそばにくっついていた姿を思い起こした。
「さびしいのかもしれないな……」
斑目は彼女を起こすこともできないまま、ベッドに残された毛布と布団をそのまま掛けてやり、背を向けた。
すぐそばで寝息が聞こえてくる。
背中に感じる暖かさ。
ドキドキと自分の鼓動が体全体を包むように大きくなっていく。息苦しい。
冷静になれ!と斑目は、今日の披露宴を思い起こしたが、逆効果だった。美しいドレスを纏った咲の姿を思うたび、余計に胸が締め付けられる。
(わかっていただろ。わかっていたはずなのに!)
わずかなコトで動揺してしまう自分の器量の小ささ、心から祝福していたはずが、後悔の思いでしか見つめられない切なさを、斑目は悔いた。
窓からこぼれ落ちてくる雪明かり。
その柔らかく青い光は、斑目がうつろに眺めている壁のポスターを薄く照らしている。
スージーが自分の背後で寝息をたててから、もう何時間も経過しているように思えた。
寝付けない。
斑目は、「……水……」と呟いた。
いらだちから来る心の渇きなのかもしれない。
身を起こそうとしたとき、傍らのスージーが、眠ったままで斑目の腕を取った。
「!」
バランスを崩してあやうく彼女の身体にもたれかかりそうになった斑目は、ベッドの端で体を支える。
まさに目前に、月明かりにてらされた美しい寝顔が現れていた。
互いの息がかかりそうで、斑目は息を押し殺していた。
早く離れなければと思いながらも、体は言うことを聞かない。
息が続く限り、その寝顔を見ていた斑目は、天井に顔を向けて軽く息を吸った。
そのまま仰向けに転がり、天井を仰ぎ見る。
ここまでスージーのことを意識して見つめたのは初めてではなかったか。
(いや、肩車とか、何度か触れているときに俺は……)
そう思い返しながらも、そんな思いを振り払った。
仰向けのまま、スージーの方に顔を向けると、もぞもぞと動きながら、相変わらずスピスピとかわいらしく眠っている。寝相が悪いのか。
「ああそうだ、水……」
再び斑目が身を起こそうとしたとき、再びスージーが身をよじった。
温かい場所を求めて、もぞもぞと斑目の胸のあたりに顔を埋めるように、彼の懐に潜り込んだ。
斑目は気が狂いそうになった。
指一本動かすことも、息を吐くことも吸うこともできない。
全身の感覚が、自分の体に密着している彼女の体温や、美しく長い髪から漂う香り、その吐息と鼓動を感じ取っている。
(さびしいのかもしれないな……)
乾きは頂点に達しようとしていた。
「!」
スージーは、体を強く揺さぶられるような感覚に驚き、ハッと目を覚ました。自分の置かれた状況が理解できずに混乱した。
体を引き起こされ、強く締め付けられている。
いや、誰かに抱きしめられている。
相手の胸の前にあった自分の両手を精一杯に押し出して、必死の抵抗を試みる。
ダンッ!と互いの体がはじけるように離れた。
ベッドの上に飛び乗って、周囲を見下ろすスージー。夜の闇に目が慣れてきたとき、わずかな明かりの中に、斑目の姿を見つけた。
斑目は、うずくまって震えていた。
咲の結婚した夜に、自分は切なさや寂しさに耐えきれずに他の女を求めて襲った。自分の劣情が醜く感じられて、この場から消え去りたいと思った。
おもむろに立ち上がる斑目。
驚いてベッドの端に身を寄せるスーを見て、余計にいたたまれなくなった。
コートと財布と鍵を暗闇の中で探り出す。
「ごめん、本当にごめん。謝って済むことじゃないけど、お、俺は居なくなるから。朝になったら勝手に出てっていいから!」
スーは黙って、じいっと斑目を見ている。
斑目は自分が滂沱の涙を流し、泣きながら謝っているコトにも気付かずにいた。
裏返る声で必死に詫びていたのだ。
息が途切れて、その場にうなだれる。
「……こんなこと言ったって、どれだけ伝わってんだよ……」
斑目はコートを手にしたまま玄関の外に出ようとした。
ふいに、ぐいと袖を引かれた。振り向くと、スージーが彼を引き止めていた。
大きな瞳で斑目を見つめたまま、つぶやく。
「モウ、コワクナイヨ……」
その時スージーが発した言葉は、斑目が何度も見返した「くじびきアンバランス」の、聞き慣れた一言だった。
ロリキャラ朝霧小雪が、最終回あたりで自分の境遇に負けない気持ちを発露したものだ。
スージーは、その台詞のイントネーションや雰囲気まで正確に再現していたのだ。いつだったか、アンジェラが「スージーの高度な技」だと自慢していたことを思い出した。
斑目は、この言葉をスージーがつぶやいた意味を理解した。
(俺は春日部さんのことを未練がましく思っていたわけじゃない。皆と一緒に過ごしてきた時間が過ぎ去って、少しずつ『みんなが変わっていくのが怖かったんだ』)
今日という日を迎えた胸の痛みも、学生時代なら夜中の電話も掛けられたのにという苛立ちも、「最後の砦」を眺めて感じたむなしさも、みんな、時間とともに変わっていくことを怖がっていた心の表れだったのだろう。
スーも同じ想いだったのかもしれない。だから、今日も出来るだけ最後まで居続けたのだろう。
そのスージーが、斑目を引き止めて許した。
一緒にいることで、怖くないと語り掛けたのだ。
再び泣きそうになった斑目。スージーは上目遣いに何かをつぶやいた。
「……ワリ…」
「?」
「オスワリ」
「???」
斑目が怪訝そうに腰掛けると、スージーは正面から彼の首に腕をまわして抱きついた。
驚きと緊張で、心臓がバクバクと破裂しそうになる斑目。
その脈打つ首筋に、カッカと火照る耳に、涙で濡れた頬に、スージーがゆっくりと口づけていく。
最後に少し顔を引いて、斑目の顔を見た。
「モウ コワクナイヨ……」
斑目はゆっくりと、しかし強くスージーの華奢な体を抱きしめた。
先ほどの強引な抱擁では感じることのなかった柔らかさ、暖かさを、彼女の身体から感じ取った。
自分の心が壊れてしまいそうなくらいに、愛おしくなった。
唇を重ねることに、迷いは無くなっていた。
それから先の記憶は、あまり定かではない。
斑目の脳裏に焼き付いているのは、自分の腕の中で潤んだ瞳で見上げてくる彼女の顔、紅潮した頬と肌を重ねたこと、息も荒く上気した顔で見つめてくるスージーに、「もう 怖くない……」優しく語り掛けたこと。
斑目は、ぬくもりが残るベッドの中で目を覚ました。
何分かの間、天井を見つめる。
ふと、しーんとした静寂の中にいることに気がついた。
窓の外から朝の光が差し込めているのに、何の音もしないのだ。
「寒っ……」
ベッドから身を起こし、机の上に置いてあったメガネをかける。
肌寒さに震えながらカーテンを開けると、外は一面の雪景色だった。
何もかもが白く染められていて、それが陽の光を浴びて輝いている。
この部屋に住んで何年も経つが、これほどの美しい景色を、この安アパートで見たことはかつてなかった。
「ガチャ!」
ドアの開く音がして、ヒュウと冷気が部屋の中に吹き込んできた。
斑目が慌てて振り向くと、コートを着込んだスージーが部屋に入ってきた。
「オハヨ」
口数こそ少ないが、アニメの台詞以外の言葉を彼女が口にするのを、斑目は珍しいと感じた。
スージーはコンビニの袋を手にしていた。
紙袋が中に入っている。洗面用の日用品か、下着の替えのようだ。
スージーの頬は赤く染まっている。寒い中を歩いたためか、それとも……。
(……あれは、夢じゃなかったんだ)
斑目は、またも泣きそうになった。
スージーはそんな斑目の想いを知ってか知らずか、コートを脱ぐと、ベッドにドスンと飛び込み、自分から毛布と掛け布団をかぶった。
顔をヒョッコリと出して斑目を見ると、自分の手でぽんぽん、ぽんぽんと布団を叩いて何かを要求していた。
斑目は目を細め、「はいはい」と答えると、布団の上からぽんぽん…と優しく叩いた。
温もりが逃げないように。
ぐっすりと眠れるように、と。
その日は土曜日。
斑目とスージーは日曜の夜まで、時の許す限り二人で過ごした。
しかし、必要以上にベタベタとくっつくわけでもなく、肩車をしたり振り回されたりと、それまで通りの関係性で過ごしていた。
そんななか、斑目はスージーと二人で部屋の外に出たときに見た光景を、一生忘れないだろうと思った。
白い雪に包まれた世界で、朝の光を浴びて目の前で自分を見つめている女の子に感じた眩しさを。
そこに舞い落ちてきた雪の名残り、小雪の美しさを。
その日から……斑目は密かに彼女のことを「コユキ」と呼ぶようになった。
「……斑目さん」
不意に笹原が声を掛けてきた。
「ああ、笹原かスマン、ボーッとしてた」
数年後。
現視研での宴席はまだまだ続いていた。
斑目は、笹原にビールを注いでもらいながら、さらに過去の出来事に思いを巡らせていた。
結婚しようと決意してからの、スージーの家族へのアタック。
外人妻をもらうと話した時の両親のショック。
スージーの親戚のマッチョから、「メガネのジャップは消えろ」と罵倒されても食い下がったこと。
そして、自分たちの結婚式に、衣装をコーディネートして協力してくれた、かつての想い人のこと……。
ちなみに、あの日以降、斑目が「最後の砦」を眺めることはなかった。
(今日、変に意識せずに『高坂たち』も呼べばよかったな……)
斑目はほんの少し後悔した。
目の前では、仲間たちがいつも通りのにぎわいを見せていた。
もちろん、この光景がいつまでも続くわけではない。時の流れは残酷だ。
それでも、今の斑目は、怖れてはいなかった。
いま目の前で、ニヤリと微笑んだ自分の妻が、いつも一緒に居てくれるのだから。
<おしまい>
荒っぽいお話でスレ汚しをしてしまい、失礼しました。
書いていくうちに、危うくエロパロ板に移籍しようかと迷いましたw
SSスレの表現上、好ましくない場面があった場合は謹んでお詫び申し上げます。
お粗末さまでした。
GJ
よくやった。
>koyuki
うああああ…斑目……
もう胸がいっぱいで言葉が出てこない……。
すっごく良かったっす。幸せになりなよ今までの分もね…。
とりあえずあったかい気持ちでいっぱいだ。
あんた素晴らしい。
感想は別に書く。
今は余韻にひたることとしよう。GJ。
本当に、本当にステキでした。
泣きそうになった。
281 :
マロン名無しさん:2007/01/27(土) 12:24:44 ID:QbHb4QJl
>koyuki
もう一言で言えば、良い!。
心暖まるはなしですね。
確かに斑目とスーのHなことは、このスレでは書けないですね(あたりまえだ)。
>koyuki
泣けたよウン。いい話だった。スーの仕草も萌えた。「ぽんぽん」がいい味だしてる。
会社でBGMにクラッシックを流してるんだが、今ベートーベンの「月光」が流れて、斑目とスーの夜を思い出してまた泣けた休日出勤の昼下がり。
283 :
真っ赤な誓い 8:2007/01/27(土) 13:42:36 ID:yqAZS4Xw
「ん・・・・」朽木は目を覚ました。
「ハテ・・・?ここは一体・・・・」彼はぼんやりした頭で考えていた・・・。
「確か・・・・食事の後、『おちびちゃん』達とプレイルームで遊んでいて・・・・
そうかそのまま寝てしまったんだ・・・。」
消灯時間はとっくに過ぎたらしく、保安灯の灯りだけであったがそこがプレイルーム
であることは理解できた。
朽木は上半身を起こし周りを見渡すと、すぐ横には『マコ』と『ようこ』が
『タンパンマン』のタオルケットをかけられてスヤスヤと寝息を立てており、
朽木にも『ふたりは ムノチュア』の大き目のタオルケットがかけられていた。
「そういえば、斑目さんはどうなったんだろう・・・」
時計を見ると、午前3:00を過ぎている。
朽木はそーっと二人を起こさないように静かにプレイルームを後にした。
284 :
真っ赤な誓い 9:2007/01/27(土) 14:19:17 ID:yqAZS4Xw
大きな扉の前には何人かの人影が見えた。
扉の周辺には蛍光灯がつけられており、それが斑目たちであることが
遠目からでも朽木には理解できた。
「あっ、クッチー起きたの?」咲は声をかけた。
「にょー、おちびちゃんたちはまだ眠っておるであります〜〜。」
「ありがとうね、今ジュース買うところだったけど何か飲む?」
「では、レモンティーをばひとつ所望いたす。」
「こころえた!!」咲はおどけて、そばの自販機へ行った。
小銭を入れる音とジュースが数本出てくる音が廊下にこだました。
「様子はどうですか?」朽木はジュースを片手にして、斑目に声をかけた。
「うーん、中の様子は伝えられてるけど・・・」斑目の視線は扉に注がれたままだった。
頑丈そうな扉である、しかしその扉からは時折、小さなものであるがはっきりと
『うめき声』が聴こえるのである。
このようなしっかりした扉からでも声が聴こえるのだから、中ではものすごく大きな声を出しているのだろう・・・。
朽木はそんな声を聴いている斑目を見ていたたまれなくなってきた・・・。
285 :
真っ赤な誓い 10:2007/01/27(土) 15:10:35 ID:yqAZS4Xw
それから、一時間くらいたったであろうか・・・。
扉がひらくと、中から一人の女性が出てきた。
「あともう少しです・・・・斑目さん・・・中へ入って励ましていただけませんか?」
「えっおれ?」斑目は驚いた顔であった。
「どっどうやら、くっ来るときが、来たようだな・・・頑張れよ。」
斑目は立ち上がると、「ほんじゃま、ちょっくら行って来るわ!!」と笑顔で振り向いたが
その表情は硬く、足は心なしか震えているようであった。
「斑目、手!!」咲は声をかけた。
「へっ?」
「右手をあげて」
斑目は言われたとおりに右手を上げると、『パシーン』と乾いた音が響き、
右の手のひらには衝撃が走った。
「ほらっみんなも」咲は皆を促した
皆は次々と斑目の手のひらに平手をうち、最後に朽木が打ち終えた時には彼の手は
『真っ赤』になっていた。
「気合入った?しっかり見届けなさいよ!!」
斑目は真っ赤な手のひらを見つめる、足の震えもいつの間にか止まっていた。
「あんがと、そんじゃいってくるわ!」斑目はそのまま扉の中へと入っていった。
次、たぶんラスト・・・かな?
286 :
真っ赤な誓い 11:2007/01/27(土) 17:48:17 ID:yqAZS4Xw
それから、一時間、扉からは先ほどよりも大きな『うめき声』いや
もはや『さけび声』とも言える声が聞こえた。
そして、『さけび声』と共に「頑張れ!!」「もう少しだ!!」と
斑目と思われる声も聞こえた。
扉の前では最早誰も口を開こうとはしなかった。
いや、むしろ立ち尽くして動けない状態でいた。
「頑張れ!!」「頑張れ!!!」「頑張れ!!!!」
斑目の声は段々激しくなってゆき、それと比例するように『さけび声』も
大きくなり、廊下中に響き渡った!!!
次の瞬間!!
廊下中いや、『病院中』に響き渡ったかも知れないと感じられた声が
扉から聴こえた!!!!
「ハラワタヲ!!ブチマケロ!!!!!!」
(;゚д゚)
288 :
真っ赤な誓い 12:2007/01/27(土) 21:25:52 ID:yqAZS4Xw
「おぎゃー!! おぎゃー!!」
産まれてきた事を喜ぶように、そして自らの存在を示すように
新しい命が歓喜の歌をあげた・・・・。
分娩室の扉が開き、助産師が出てきた。
「おめでとうございます!元気な女の子です!!!」
斑目の両親は手を取り合いその場に泣き崩れてしまった。
『現視研』のメンバー特に『元ネタ』を知っている咲以外
高坂ですら開いた口がふさがらないくらい、
絵文字で例えると(;゚д゚) な感じで呆れ返っていた・・・・。
「スージー・・・・」加奈子は頭を抱えてため息をついた・・・。
「やっぱり・・・意味解って・・・・・」
「なっ何も・・・こっこんな時に・・・・。」
「何か・・・・『散々引っ張ってオチがそれかよって』突っ込みがありそうな・・・」
そんなことを言っていると扉から斑目が顔を覗かせた。
「やあ・・・」斑目の声は叫びすぎたのか、かなりかすれていた・・・・。
一同はハッと我にかえり斑目を見つめた・・・。
「親父・・・おふくろ・・・・」斑目は泣き崩れている両親のそばによると
腰を落とし両腕で二人の肩を抱えた・・・。
斑目は震えていた・・・・ときどき「うっ・・・うっ・・・」と嗚咽が聞こえた・・・。
289 :
真っ赤な誓いの中の人:2007/01/27(土) 21:40:03 ID:yqAZS4Xw
>>287 すみません・・・orz
お気持ちはわかります・・・・・。
このネタは前々から暖めていていつかやりたいと考えていたのです。
まだ、もうちょっとだけ続きます・・・・。
>>289 文章も内容も好きだし続きも期待してる。
けどsageて書き込んだほうがいいんじゃないかなー、と。
あと、全部書いてから纏めて投下するのをオススメしますよ。
夜9時に寝付いて、午前2時に起きました。久々の休日サイコーwww
「となりのクガピ2」の中編とか、「koyuki」に感想を寄せていただいて、ありがとうございます。
>>229 リアルタイムで読んでくださってありがとうございました!
すぐに反応あると嬉しいもんですね。
>>231 久我山は普通に見ればただのデウ゛なので、年下の女の子に好かれるような愛嬌のある表現を選びました。
オリキャラの主人公「ワタシ」まで褒めてもらって感謝です!
前作「となクガ1」を踏襲したための一人称でしたが、結果、第三者の視点から現視研メンバーを見る内容となっていき、自分でも書いていて新鮮に感じました。
>>232 せっかく部室に居るのだから、「いろはごっこ」は絶対見せようと思ってました。
本物の久我山は暴走はしなさそうなんですが、「振り回される斑目」と「我関せずの荻上」を出したかったがためにこんな結果にw
クッチーは国文学系の博士号取得を目指しているようですが、将来については何も考えていない様子……という設定で遊ばせてもらいました。
そして、「最大限の褒め言葉」に感謝します。今や痛いのが快感になってます。。。
>>242 >おまいはスッキリしたかもしれんがこの俺のモヤモヤをどうしてくれるwww
「自分の描いたものが人に影響を与える その責任は重く 重く 重い……」
……だからって僕は一生かけては背負いませんw
でも自分の「モヤモヤ発散」に巻き込んでしまってごめんなさ−い。
完結後はスッキリしてもらえたでしょうか?
>>256 >おにぎりに海苔って、クガピー今くるよかよ!、クッチーかよ現会長!、スーかよ嫁はん!等
細かくツッコンでもらいながら読んでくださると、こちらも嬉しいです!
8年後の原作世界……本来なら、みんなこんなに簡単に集まることなんでできないと思うし、結構苦しい部分多いのですが、このくらい未来ならどんな風になっているのだろうかと想像するのは楽しかったです。
例えば恵子が結婚していないのは、高坂も結婚し、さらにちょっとは好意的に見ていた斑目までスーに取られた(?)ので機会を失い彷徨っていると。5代目荻上、6代目スーの時代の現視研は、それこそ「11人シリーズ」並に栄えていたとか……。
「逆お下がりで会長就任で二代目初代会長」には笑いました。原作最終回での高坂の「それはない」を見て以来、「クッチーかわいそう」と思い、SSで会長にしたろと狙ってました。
>>277 >>229さん同様、リアルタイムレスに感謝します。
>>278 マダラメスキーにとって、彼の幸せを妄想するのって至福の一時ですね。ほんと、奴には幸せになってほしい……。
>>279 お褒めいただいて光栄です。
また余韻を感じていただけるほどに読んでもらえて、こちらは幸せですよ。
>>280 ありがとうございます。
>泣きそうになった。
実は「となクガ2」を書いてるときに、ある懐かしの曲を聴いていて、斑目スー夫婦の馴れ初め話がグワーッと脳内で盛り上がってきて……マジ泣きしました。自分は妄想で涙腺が潤むアホだと分かりましたw
そんなわけで仕事に手がつかなくなって「koyuki」が生まれました。マジでアホですね。
(
>>280様つづき)ちなみにその曲はTMネットワークの「THIS NIGHT」でした。歌詞の季節感はちょっとズレるのですが、雰囲気のいい曲です。
「いつまでも いつまでも 君は僕のものだよ… 優しくうなずく君に 言葉はいらない」
「人はそれぞれの苦しみを話してしまいたい…」
「同じ雪の音を聞いて 同じ淋しさを感じて すぐそこにある出逢いには 気づかずにいた」
「I've been waitin' for this night 空に雪は降り続けた I've been waitin' for this night 永遠に続く夜だった」
「一人きりの夜は今も 忘れないけれど… いつまでも いつまでも 君は僕のものだよ…」
かいつまんで書いちゃいましたが、この歌が妄想を膨らませてくれました。
>>281 エッチナコトハイケナイ…と思いつつも、詳しい顛末を書いてみたい気もします。
斑目は結局「受け」の側なんだろうな〜とか、無愛想キャラが快○に身を○ねて恍○の表情を斑目にだけ見せてしまうとか……。もしアッチのスレに登場したら読んでくださいねw
>>282 斑目に「ぽんぽん」されるスーを書きたいために、強引に持ってきたのですが、「温もりが逃げないように。ぐっすりと眠れるように」は、この幸せを留めておきたい願望とか、愛おしさとかが重なって、いいシチュエーションになりました。
「月光」と聞くと、爆風スランプを思い出す80年代邦楽好きなんですが、ベートーベンのもピアノが切なくていいですね。
お仕事お疲れ様でした。
ほんとうに、長々と書いてしまい、すみません。
あと、おまけSSを投下します。
ほんとしつこくてすみません。
「koyuki」おまけ/斑目&スーのステディライフ
土曜日の昼前。
朝食を食べていなかった斑目とスージー。何をするでもなく、コミックや同人誌を読みふけったり、アニメのビデオを見ていた。
スージーが無表情のまますっくと立ち上がる。
朝、コンビニで買ってきた食材でピザトーストとスープを作るという。
「お、俺の人生……、いま、どうなっちゃってんだろ?」
斑目はいまだに夢を見ているような気持ちで、キッチンでブランチを作るスーに見とれている。
斑目の携帯が鳴る。田中夫人・加奈子からであった。斑目は焦った。
「斑目さん、昨夜スージーとどこで別れました?」
「え?、あ〜、アパートの前だけど……」
「そうですかぁ。今朝から電話が繋がらないんですよ!」
「あ、そ、そうなの? おっかしいなあ……(汗」
斑目は加奈子と話しながら、ハンガーに掛けてあったスージーのコートのポケットを探る。携帯はあったが、電源がオフになっていた。
「あ、あった……」
「え?」
「い、いや〜何でもないヨ。電源切ったこと忘れてるんじゃないのかなァ?」
「そうだといいんですけど……」
その時、コンビニ袋からコーンの缶詰を取り出したスージーが叫ぶ。
「ト ウ モ コ ロ シ !」
「え、斑目さんいま……?」
「アッ、アレ見てたの、ホラあの……トトロッ、そう『トトロ』!」
斑目は電話の向こうの加奈子に言い訳をしながら、斑目を見ているスージーに向かって身振り手振りで『静かに! しーずーかーに!』と合図をした。
スージーは、無愛想にそのゼスチャーを受けて答えた。
「イ エ ス 、マ イ マ ス タ ー !」
「え、斑目さんいま……?」
「お お おっかしいなぁ〜! ビデオ重ね撮りしてあったなあ〜……(激汗」
斑目は、「マスター」と呼ばれたことに全身鳥肌物の快感を得ながら、一方で加奈子に対して半ベソをかきながら取り繕うのであった。
南無南無。
<つづく?>
以上です。どうも失礼しました〜。
>koyuki
えーさてと。232=242=279でございます。いくつ書いてんだ俺。
余韻も一段落したんで感想行くですー。
タイトルは『手紙〜さよなら、ありがとう〜』(……えっ?)
4レスで(えええっ?)。
『
こんな日にこんな手紙を書いている俺を、スーは許してくれないかもしれない。
でも、あんたにだけは伝えたいと思っていて、そのチャンスはたぶん今日が最後なのだ。
書けるだけ書いてみよう。舌足らずだったらごめん、俺の精一杯の気持ちを綴ります。
春日部さん、あんたが好きだった。過去形で書くのが悔しいくらい、大好きだった。
もうとっくに「春日部さん」じゃねえけどな。この手紙では春日部さんって呼ばせてください。
初めてそれを意識したのは春日部さんが2年になった春だ。それ以来ずっと……、あんたが結婚するその日までずっとあんたを想っていた。
何回か告白するチャンスはあったけど、俺はこんなヤツだから、その全部をフイにしてきた。それが俺のためであり、あんたのためだと自分に言い聞かせながら。
実際はそうじゃなかった。あとで気付いたことだったけど。
俺は、あんたを想い続けることで、今までの日々から進み出すことを拒否していたんだ。
現視研での日々。就職してからの何年か。俺は毎日、一人で学校やら会社やらからコンビニ弁当を持って帰ってきて、録画しておいたアニメを見て、エロゲーを夜中までやって。休日にはアキバ巡回して、即売会行って、笹原やヤナたちと飲み会やって。
そんな、変わらない日々の一環で、あんたの事を想い続けていた。
誓って言うが、この想いには嘘や打算はない。俺は真剣にあんたを好きだったし、一生好きでいるだろうと思っていた。
だけど……俺の心のもう一方に、あんたを好きでなくなったら俺がなくなっちまうっていう危機感があったのも本当だ。だから、あんたが高坂くんと結婚するのが決まっても……俺の恋が100%成就しないのが決まっても、俺はあんたを想いつづけていたんだ。
彼女は……スーは、そうじゃないっていうことを俺に教えてくれたよ。
馴れ初め話は何度かしたと思うけど、実際にはスーが話してくれているような明るい「イくとこまでイっちゃった展開」じゃなかったんだ。
俺はあんたが結婚したことで心の支えを失いかけてたし、どうもスーにも似たような感情がわだかまっていたらしい。彼女の場合は笹原、というより荻上さんの結婚式あたりからそうだったんじゃないかな。
人は、現実は、どんどん変わっていってしまう。俺はオタクであることを言い訳にして、ずいぶん長いことそれを拒絶していた。田中と大野さんが結婚し、笹原と荻上さんが結婚しても、俺だけは違うとごまかし続けていた。
だけどそれに限界が来て、もう自分をごまかせないという時になって、俺の目の前に彼女が現れたんだ。
小雪って日本名のこと、あんたもキモいって言ってたなw でも俺は最高の名前だと思っているよ。だってスーが教えてくれたんだ。「もうこわくないよ」って。自分が変わってしまうことは、怖いことではないと俺に教えてくれたんだ。
あの最初の晩、彼女にも戸惑いや不安はあったに違いないのに、それを全部自分で抱えてスーは俺を勇気づけてくれた。ひょっとしたらスー自身に自分で言い聞かせるつもりもあったのかもな。
その時から俺は――春日部さん、あんたにはホントに申し訳ないけど――スーを守っていこうと決心した。変わっていこうと覚悟した。
彼女が俺の背中を押した。変わってゆくことは裏切りではないと言ってくれた。
だから俺は、今日、彼女を妻にします。
あんたとも打ち合わせやらでずっと顔合わせてたし、あと数時間後には今度は招待客として来てくれるけど、ここの部分は話したことなかったよな。
あんたに出会えて本当によかった。あんたを好きになって本当によかった。おかげで、今の、スーと結婚する俺がいるのだから。
「オタくさい」と最後の最後まで言われるかもしれないけれど、俺的なけじめとして言っておきたかった。
春日部さん、ありがとう、さよなら。
斑目 晴信 拝
春日部 咲 様
』
「……ふう。こんなもんか」
斑目は手紙を読み直し、ひとつ息をついた。あとは封をし、切手を貼り、移動の途中にでもこっそり投函すればいい。
新郎用控え室には明るい日差しが差し込み、今日の式や披露宴がよい陽気の中で執り行われるであろうことを予感させる。
いろいろゴタゴタもあったが、ようやく今日を迎えられた。彼は感慨深く窓の外を眺めながら、妻となる最愛の人の顔を思い浮かべた。
ガチャ。
「えっ?」
突然、部屋のドアがノックもなしに開いた。
その向こうから現れたのはウエディングドレスのスーである。
「Darling」
「わ、スッスー?準備できたの?」
慌てて新婦を迎えようと立ち上がり、テーブルの上の手紙を思い出して青くなる。さらに次の瞬間、野太い大声が彼の耳を襲った。
「マダラーメ!Congratulations!」
スーに続いて入ってきたのは金髪をクルーカットにした大男。瞳の色とあわせたマリンブルーのスーツが筋肉ではちきれそうだ。
「……ロジャー!?なんでココにいんの?来られないって聞いてたのに」
『(以下英語ね)なにを言ってる。お前のためなら海だって越えてやるさ。ま、実際は急な商談で日本に来る羽目になったわけだがな。HAHAHA!』
「ロジャー、ダーリンニアイタカッタッテ」
スーに通訳をしてもらいながら冷や汗をたらす。
彼はスーの叔父にあたる人物で、浄水プラントの建設会社を経営している。最初のセリフが終わる前に斑目を両手に掻き抱いていたこのエネルギッシュな男は、ほんの数ヶ月前まで斑目とスーの結婚を反対する急先鋒だった。
『今日はおめでとう。俺の大事な姪っ子をかっさらって行く男の情けねえツラを見届けなきゃ夜も日も明けねえってなもんだぜ。なあ!』
「あ、あー、そりゃサンキュー」
『どうだ、俺の会社に来る決心はついたか?……まだ?まったくお前はなにひとつ手前で決めることができねえときたもんだ』
「そんなこと言わんでください。俺はこっちの仕事に満足してるんスから」
『聞いたかスー、それでいてこの強情さだ。まあお前のそれは俺も認めてるがな』
それまで幾多の説得や、脅迫めいたやり取りさえもすべてはねのけ、スーとの結婚を頑なに願い続けた斑目の気持ちがロジャーに通じたのはごく最近のことだ。最後の一押しは、ロジャーの会社が水道工事会社からスタートしていたことだった。
「わかりましたから離してくださいって!あんたにアバラ折られるのは一回で充分スから!」
『なんだ、あれからも鍛えてないのか、しょうがない奴だ……ん、スー、なに読んでる?』
「……ワッチューリーディングって?……ハッ!」
気づいたときには遅かった。部屋に入ってくるなりロジャーに抱きすくめられ、手紙を隠す余裕がなかったのだ。
「……Darling」
「スー、あのそれはダネ、ちょっと落ち着いて聞いてくれるかな?」
スーの手から手紙が落ちる。彼女は手に持ったポーチを開きつつ、ゆっくりと振り返った。
「……ダーリン」
「え……なんで日本語イントネーション?」
何かを頭に載せる。小さな黄色いツノのついたカチューシャだった。
「マダアノオンナノコトヲ……ウチ……」
「えーと……そのツノはもしや……って待て!なんでスタンガンなんか持ってる!」
「ウチ、ユルサナイッチャーッ!」
「あああ〜ッ!」
『HAHAHA!なんだこんな時までじゃれっこか?当てつけも大概にしてくれよ』
「あんたはコレが遊んでるように見えるのかーっ!いて、あ痛っ!スーごめん、なんでもないから!そんなんじゃないから!痛いってば!」
「ダーリンノバカーッ!」
澄み切った青空の下、悲鳴と笑い声が響き渡る。
この日、ひとつの恋が終わり、ひとつの愛が始まった。
おわり
>koyuki
うは・・・。スゲエ。
自分の考えてるあるSSと設定的に矛盾があるというかパラレルになるから影響受けたくないというか読むかどうか物凄く悩んだのですが。
読んで正解だったですね。だけど影響受まくりというか。
SS書こう・・・。ゲームばっかしてる場合じゃねえや。火ついたw
小雪は個人的にくじアンでも好きキャラだし、あの台詞をうまく使っていたのが印象的。
いーね、マダスー。楽しそうな家族だ。
GJ。あ、となクガ2の続きも楽しみにしてますw
>手紙
あはは!!!すげえ、こんな感想ありかw
手紙が出てきた時点で落ちは読めましたが、やはりドタバタ家族なのねw
「ダーリンノバカーッ!」うーん、ここでもやっぱりアニメの台詞ってね。
いやはは、ご馳走様でした。
えーっと。
感想文書いてるうちにえらいことになってしまいまして。オチつけてSSにしてしまいました(テヘ)。
重ねて解説したらSSにした意味がなくなるので省略しますが、手紙文の部分で書いたことが『koyuki』にカンゲキした部分です。
せっかくの感動をある意味自分でぶちこわした感も否めないがw
いいもの読ませていただいた。
作者氏、あなたの語り口、俺の激ツボだ。
別の作品とかサイトとかおありだったら、機会があれば教えてください。いやココで書いたら荒れると思うので、なんか別の機会っつうことで。
俺もいい作品書こう。あ、SSまとめ人さまコレ作品じゃありませんから。
じゃまた。
304 :
303:2007/01/28(日) 07:18:49 ID:???
あレス入っちゃった。
20くらい連投エラー出ててほっといてしまいました。
いちお『手紙』のあとがきっす。
305 :
ラすびぃ:2007/01/28(日) 11:29:24 ID:???
書いて欲しいならさ
ちゃんとお願いしてくださいよ
どんな話がいいのか 誰の話がいいのか
ただ座って屁こいてないでリスペクトしなさいよアタシを
>>305 おー、久しぶり。
なんとなくネタ臭漂う物言いだが実際アンタをリスペクトしてる者だ。
マダラメ「ぇ・・・・あぅ」
咲ちゃん「あぅじゃないの。それにアタシだってあんたちに逢えて感謝してるんだから
こんな山奥の大学生活でも結構楽しかったし。ま、オタクってのも
結構おもしろいってわかったし。」
アンタの初登場の一節だ。こいつの続きを頼みます。
まあ座って屁こいてたのもホントですがね。
いつか出るだろうと楽しみにしてるんですよ。
お願いしますよマジ。
げんしけんメンバーで王様ゲームSS書いてくれる人いない?
笹×斑や擬似告白、頬にキス、アニメの物真似みたいな本編で出来なかったことや出そうで出なかったことが全部可能という夢のようなゲームだとは思わないかね
え、自分で書け? ……そりゃ書いてみたいが、げんしけんメンバーだと絶対アニメの物真似とかネタとかを振るでしょう?
それが駄目なんだよね。ジョジョもガンダムも知らないやつが書いたって面白くないでしょ。
というわけで、こうして言っちゃったんだけど……お頼み申す。
いや、最近いかさま王様ゲームで散々いぢられたからって、ええい斑目もいぢられろとか思ってないデスヨ?
「とまんねー」(徹夜エロゲの斑目さん風)
とりあえず頭に浮かんだネタを吐き出しました。
再度のスレ汚しすみません。
感想寄せてくださった方ありがとうございます。お返事はまた後ほど。
「koyuki」おまけ/斑目&スーのステディライフ(その2)
土曜日の夕方。
道端に雪の残る街並みを歩く斑目。
スージーは、斑目の少し前をヒョコヒョコとはねるように歩いている。
表情には絶対に表れないが、どうやら楽しそうだ。午後から近くの公園で、日が陰るまで雪遊びをしていたのだ。
だがもうすぐ日が暮れる。斑目は時計を気にした。
「どうする。田中ん家に電話してアパートの住所確認する?」
「………」
スージーは振り向かず、黙って斑目の前を歩いている。
「あ、そうだ」と、斑目は携帯電話を取り出した。
「昨日乗ったタクシーの中で、スーが忘れ物をして俺が預かってるってシナリオで笹原ん家に電話して……」
「………」
スージーがステップを止めて振り返り、斑目も歩を止めた。
「………」
ピョン、と携帯電話を握っていた斑目の腕めがけてジャンプするスー。袖を取って着地すると、その袖を握ったまま離さない。
顔は明後日の方を向いていて、斑目と目を合わせない。
「スー…?」
「……tomorrow……」
ボソッと聞こえたスーの一言に、見る見る赤くなり湯気を発する斑目の顔。
寂しがりやが二人いる。
できる限り一緒にいたいと願うのが人情だ。
正直言えば、斑目も離れたくないという気持ちがある。それを相手も思っていた。彼にとっては、世界が一変したような気分だった。
(事実はエロゲより奇なり。笹原が言ってた通り役に立たんかも……かといって、現実とゲームプレイするのは別だけどね)
斑目は夢遊病者のように歩き出した。スージーは斑目の袖を掴んだまま、伏し目がちについてきた。
「ちゃんと……ちゃんとしないと」
歩きながら斑目が思ったことはただ一つ。夜のコトだ。
もちろん小心者の斑目から求める気はないが、もしも、昨夜のようなシチュエーションが生まれたら……。
昨夜は『初めて』のコトを勢いでやってしまったが、スーも自分もお互いに試行錯誤しながらの………だったのだ。
「もしもの時は、ちゃんとやんないと」
もう頭の中はソレの対処に占拠されていた。そうなると、まず必要なモノがある。
「スー、ちょっとコンビニ寄っていい?」
近所のコンビニに入店する前に、斑目はスージーに語り掛けた。
「スー、ちょっと電話してからコンビニに入るから、先に入って雑誌でも読んでいてよ」
スージーはコクリとうなづいてトコトコとコンビニに入っていった。
続いて、時間差で斑目が入店。スージーがコミックに夢中になっているのを確認して、『他人のフリ』でやってきたのだ。
(チャッチャと『アレ』を買って出て、外からスージーを呼べばいいさ。簡単だ。簡単な事だ)
ガチガチの動きで、ティッシュや靴下などの日用品の商品棚に向かう斑目。目指すは男性諸氏が装着するアレだ。
「どうやって付けるんだろうな、コレ……」
下品な話だが、今までの斑目ならば、『右手一本』で事足りていた。アレなど今まで買ったこともなかったのだ。
「買うからには良い物を買いたいが……。こっちはオカモト……日本のメーカーか。ん? ベネトン? ベネトンってアレだろF1の……(古い情報です)。スゲーな、今やF1チームもコレ売ってるんだ(間違った情報です)」
斑目は『ハッ』と周囲に視線を配り、素知らぬ顔で近く似合ったマスクやティッシュペーパーを品定めするフリをした。すぐ横に若い女性客が来たのだ。
スージーに目を移すと、まだコミックにハマっている。
(ああ、エヴァね。名作だ。最近再販したんだな)
斑目の近くに来た女性客は、商品を手に離れていった。チャンスだ。もういちどアレの前に勃つ……いや、立つ。
「いろいろあるな。12枚入り? そんなに必要なのか……」
そのとき、斑目の脳裏に、高坂真琴が就職を決めた時の咲の鬼気迫る姿を思い出した。
『ホテル行くよホテル今すぐ! コーサカ!』
斑目はあの時の咲の、平成ゴジラのような瞳が忘れられない。
怖い。
「あのとき春日部さん(旧姓)、『10回はしなきゃダメ』とか言ってたな……。人間業じゃねえ。もし、もしもだ……」
斑目は商品棚越しに、「エヴァンゲリオン」のコミックを読みふけっているスージーを見る。視線はハーフコートの下から伸びた、タイツに包まれた足へと落ちる。
昨夜の感情の高まりと勢いで求め合った夜を思い起こした。その衣類に包まれた雪のような素肌を見て、触れた時のことを思い出すと、頭の奥がしびれてくるようだ。
「……彼女がもし今夜コトに至って、『複数回』求めてきたら、俺は果たして耐えられるのか?」
オカモトとベネトンのアレを両手に持ったまま、勃ち尽くす……いや、立ち尽くす斑目。
「いや、余計なことは考えるな! アムロだってコンスコン隊の12機のリックドムを3分で撃墜したんだ。俺だって3分12回くらいやれるさ!(この場合超早漏です)」
フン!と気合いが入る。
で、ここまで迷ってたくせに、ようやく12枚入りの商品の値段を確認した斑目。
「何ぃ! 二千円弱もするのかコレ! 廉価版DVD買えちゃうよ! う〜む。やはり1枚にすべきか」
そのとき再び、ニュータイプのひらめきのように、『春日部咲』の顔が浮かび、高価なジャケットを買いに行った時の事を思い出した。
(自分の判断で決める)(『これはいいものだ』と思ったら金を出す)(俺はそうやって選んだモノに誇りを持っている)
(な ぜ な ら そ れ は 俺 そ の も の だ か ら !)
(それはエロゲーだろうが同人誌だろうが、『アレ』だろうが同じ事!)
斑目はベネトンパッケージの高価な方のアレを手に取った。アレだけではちょっと恥ずかしいので、同じ棚から適当に、ボックスティッシュを買うことにした(間違った判断です。余計に恥ずかしいです)。
胸を張ってレジへ歩みだす斑目。
(ありがとう『春日部さん』。君のおかげだ! あの経験が今の俺を強くする!)
おそらく本人がこの件を知ったら、グーパンチだけではすまないだろう。
レジには、バイトの店員らしき若者が二人くっちゃべっていたが、威風堂々とティッシュとアレを突き出した斑目に、一瞬気圧された。
しかしティッシュとアレである。彼らは笑いをこらえながら商品を受け取った。
斑目は、(クッソー、オタクがアレ買って何が悪い。貴様らに先程の俺の戦いは理解できまい!)
アレが今まさにレジ打ちされようとした瞬間。店内にスージーの声が響き渡った。
「マダラメ! マ ダ ラ ー メ !」
スージーが駆け寄って、斑目のコートの裾を掴んだ。
激汗の斑目とバイト店員2人。
オタク青年と金髪美少女。そして買い求められるティッシュとアレ。店員はさぞ驚いたことであろう。
斑目にとっては、アレを買おうとした瞬間、大声で名前を呼ばれたショックで呆然としていた。『他人のフリ』作戦も失敗である。
しかし、レジを覗き込まれたら大変だ。慌ててスージーに向き直る。
「ど、どうしたのかな?」
スージーはヤブニラミの顔のまま、手にしていたコミックを差し出した。
「あ、エヴァのコミックね。買ってほしいの?」
コクリを頷くスー。斑目はそれを受け取ると、震える手で店員に手渡した。
ようやく料金を払い、店員がレジ袋に商品を納める。例のアレは慣例に従って紙袋に入れられようとしていた。
その時、またもスージーが斑目に話しかける。
「イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ!」
「イヤ、イヤ、イヤァ!」
またも激汗の斑目と店員。
斑目は、その悲鳴が、エヴァのコミックに載っている、『使徒の精神侵入を受けたアスカのセリフ』であることは0.1秒で察することができた。
だが、店員と店内の客には、それを知るよしもない。
斑目はダッシュでおつりと商品を受け取ると、スージーの手を取って逃げるようにコンビニを出た。店を出る寸前、スージーが叫ぶ。
「カジサン……ドウシヨウ、汚サレチャッタヨ……」
斑目は涙目で駆け出した。
(頼むから、『心が』と付け加えてくれ)
せめて、人間らしく。
その日以来、斑目がそのコンビニに足を運ぶことはなかった。
結局、「12枚入り」のうち何枚が使用されたのか?
それは、二人だけの秘密(紅の豚のラスト風に)。
<おしまい>
>>307のリクエストに答えて、というか、絵板の「One little kiss」「リアクション」
からのインスパイアですが。
王様ゲーム小ネタ 〜キス編〜
笹原・咲・高坂の追い出しコンパ3次会あたりだと思ってくれい。
咲「あ、王様私だ。え〜と、3番と5番がディープキス!」
斑「おいおい、ディープかよ!」
笹荻「「え!?」」
咲「…つまんないからヤメ」
笹荻「「なんでですか!?」」
大「そんなにしたかったんですか〜?(ニヤニヤ)」
笹荻「「ちがいます!!」」
高「…夫婦って互いに似てくる、って言うよね」
大「王様わたし〜!じゃあ、1番が2番とキス!」
咲「あ、私だ」
高「僕だね。それじゃあ…」
咲「ちょ、ちょっと待った、高さ…ん」
(しばらくお待ちください)
大「…長いですね」
斑「…長いな」
(まだしばらくお待ちください)
笹(…すごい)
恵(いいな〜)
(もうちょっとお待ちください)
高「ふう、これでいい?」
大「やりすぎです!咲さん、大丈夫ですか!?」
咲「…高坂ぁ、もっと…」
斑「あ、俺ちょっとトイレ行ってくるわ(汗」
笹「あ、俺が王様か。じゃあ、7番と6番がキスだ!」
恵「あ、わたし?」
斑「俺かよ!」
斑「あ〜、嫌だろうけど、まあ、軽くで良いから…」
(咲を一瞥したあと、思いっきりキス)
斑「〜〜〜〜!!!!」
咲「別にいいんだけどさ、ちらちらと流し目くれるのやめろ。何かムカツクんですけど」
荻「(小声で)あの反応ってどうなんですかね?」
大「(小声)…難しいですね。気付いているのか、いないのか…」
荻「(小声)いずれにしても…」
大「(小声)斑目さんに全く気がない事だけは確かですね」
荻大「「(小声)斑目さん、可哀相に…」」
咲「おい!そこの二人!こっちを見ながら、何こそこそと話してんだ!」
高「咲ちゃん、あれを”生暖かい視線”って言うんだよ?」
咲「…何か皆して私を馬鹿にしてるな?いいぞ、売られた喧嘩は買ってやる!」
恵荻大「「「きゃ〜、斑目さん、助けて〜」」」
斑「え!?俺!?!」
咲「……決めた。お前ら全員ぶん殴る!!」
斑「よし!俺が王様だな!じゃあ、4番が王様にキス!」
田「うわ、お前最っ低」
笹「相当酔ってますね」
咲「ところで4番って誰よ?」
高「それは僕です」
荻大「「え!?」」
斑「男かよ!じゃあいいや、次次!」
高「駄目ですよ斑目さん。ルールは守らないと」
斑「いや、お前だって男にキスなんてしたくないだろ?」
高「別に構いませんよ?」
咲「おいおい(苦笑)」
荻大((うわー))
斑「いや、だから、冗談だってば、ちょっとまて高坂…っっ!!」
荻大((うわーうわー))
(しばらくお待ちください)
荻大((うわーうわーうわー))
高「…これでいいかな?」
斑「ジュウブンデアリマス」
大「あ、あの!どうでしたか!?ご感想は!?」
斑「…驚いた」
荻「え?」
斑「すっげー上手いのよ。高坂のキス」
恵(ムカ)
高「あ、みんな、そろそろ時間だそうなので、今日はお開きということで」
咲「はいよ。いや〜今日は飲んだなあ」
大「明日が大変そうですねえ」
田「みんな、タクシー来たよ」
笹「荻上さん、大丈夫?顔赤いよ?」
荻「大丈夫です!(早く帰ってこの感動を書き残さなくては!!)」
斑「いてーーー!!」
恵「あら、ごめんなさい?ちょっと酔っ払ったみたいで」
斑「いや、今の絶対わざとだろ?思いっきり踏みつけてたぞ!」
恵「何よ!文句あんの!?」
斑「…アリマセン」
恵「ふん!」
おまけ
朽「へっくしゅ!あれ?皆さんはどこですか〜?」
以上です。キャラが壊れているのは、酔っている所為です。きっと。
最近、急激に斑スーに傾いてしまって、妄想が止めどなく溢れて頭がボーッとしてます。これが「萌え」ってやつですかね。
そのために、蛇足なおまけSSを2本も投下し、
>>291-293のレスも痛い事この上なしで、他の皆さんにはご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありません。
ようやく熱病の峠を越えたので、次のSS投下するまでしばらく大人しくロムります。その前に感想御礼など。
>>302 ぜひパラレルになるというSSを拝見したいです!
「読んで正解だった」と言われると凄い嬉しいです。ありがとうございます!
>真っ赤な誓い
これも斑目の嫁さんがスーだったんですね。
「ハラワタヲ…」には(;゚д゚)でしたが、その直前の皆のハイタッチは感動でした。
ラストまで生殺しよろしくお願いします。
>手紙〜さよなら、ありがとう〜
……これ、本当に作品じゃないんですか?
「春日部さんへの想いとその決着」について、僕のSSでは説明しきれなかった斑目の情感が、見事に補完されているように受け取れます。
「あんたを好きでなくなったら俺がなくなっちまうっていう危機感」いいですねコレいい。
あとロジャーwww 「親戚のマッチョ」を見事にキャラ化してて吹きました。
あと、平野文の声が見事に脳内再生された最後のドタバタと、斑目の悲鳴&釈明が笑えます。
で、これ、本当に作品じゃないんですか?
>王様ゲーム小ネタ 〜キス編〜
キスの嵐!
斑目いちばん美味しい役所じゃないですか。
なりゆき上、恵子とキス。高坂とのキスもまんざらではないとは……。
そしてクッチーのオチをわざわざ別レスにしてるあたり、クッチーの置いてかれ感が出まくって笑いました。
ではでは。
2レスばかりダラダラ書くのにお借りします。感想とかご返事とかもろもろ。
拝啓 妄想ダダ漏れの作者氏ご健勝のこととお喜び申し上げる。
すごいねホント。俺はこのスレに出会えたことを神に感謝するよ。もう何回もしてるけど。
しっとりと言うより実はけっこうヘヴィーな展開だった本編とはうって変わった明るいおまけストーリー。
スーお前100%解ってセリフチョイスしてんなw 彼女が求めていたのは生涯をともに歩む伴侶ではなく、「からかい甲斐のあるツレアイ」だったと見える。
そしてジャストフィーッツ!!お幸せに過ごされんことを心から願う。
ついでに斑目がいわれのない罪でタイーホされませんように。
いちおう真面目な感想も。ぶっちゃけ、スーほどのタマが同情や慰めで斑目に心や体を許すはずがないだろう。
『koyuki』本体で作者氏が前フリしてるようにネコヤシャオスワリその他のちょっかい、すなわち(本格的であったかは不明だが)スーからのアプローチは彼女の来日以降たびたびあったんじゃないだろうか。
自ら感情を表わさず、姿かたちこそ「ぅゎ ょぅι゛ょ っょぃ」なスーだが、中身は立派な女性である(原作時点はともかく、本作時点なら十中八九ハタチ過ぎ)。
エマニエル坊ややアグネス・チャンに俺たちが感じているものと同じモノを彼女はまとっているだけだ、というわけ。その分の精神的アドバンテージを持っているスーが斑目を選んだのはひとえに彼の受け属性のなせる技であると。
寂しい人に出会える人ははごまんといるでしょう。でも寂しい受け属性の人と出会える人は、そんなにはいないのかも知れません。
たぶんスーは今後一生、そのぶあいそな瞳の先で愛するダーリンが激汗フリーズする姿を見守りつづけるんでしょう。
そして斑目は今後一生、愛するスーのふるまいで肝を冷やし続けるってことでしょう。コユキだけにw
あんまりうまくないなorz
ともあれごちそうさま。この分なら『その3』は土曜の夜の話だろうからエロパロ板で待ってますw
>で、これ、本当に作品じゃないんですか?
あーもうそんなノドんとこゴロゴロするような質問を。ゴロニャ〜ン。
ごめんなさい書きあがる頃にはすっかり作品のつもりでしたw
俺は原作軸を中心にSSとか考えているので、相手が誰にせよ斑目は咲さんと決別しなきゃならなくて、あなたの『koyuki』は彼がその決心に至るまでのストーリーを、俺の構想よりはるかにスマートに表わしてくれたんすよ。んで尻馬に乗っかったと。
自分の作品に盛り込めなかった悔しさ以上に、いい話を読んだ幸福感が上回ってるのでこんな風にしました。
後半のネタ部分も楽しんでいただけたなら幸い。
>>302 俺の方にも反応ありがとうございます。
ま、そんなわけでなにが感想かとw そしてアメリカ人はやっぱこーでなくちゃね。
最近の投下ラッシュはなにごとだそれにしても。さらに感想まいります。
>王様ゲーム小ネタ 〜キス編〜
こんなところにも高斑が。うわーうわーうわー。
で恵子の「ムカ」はなに?高坂相手?
キスけっこう自信あったようです。
面白かったよー!
327 :
307:2007/01/30(火) 21:55:10 ID:???
遅れながらもご馳走様でした! 羨ましすぎる!
どうせこの後
「ふん!」
恵子が何だか不機嫌な様子で、斑目をにらみつける
それからへらへらしている斑目の腕をつかみ、引き寄せた
「ぅおっ!?」
「ん」
引き寄せられた斑目、その先に待っていたのは本日何度も味わうこととなった感触
いきなりの出来事に周りが固まり、目をそらしたり赤面している
強引な恵子とのキスから解放されたのはたっぷり1分は経過した後のことだった
「ぷはっ」とけだるげに離れる恵子に斑目が真っ赤になりながら何か言おうとするが、声にならないようだ
「コーサカさんと間接キスも〜らいっ」
「なっ」
恵子は上機嫌で咲の顔を見て、それから斑目の方に向き直してにひっと笑った
「バーカ」
それだけ言い捨てると、恵子はさっさとタクシーに乗り込んでしまった
その後、笹原達は放心している斑目を正気に戻したり、何故か機嫌が悪くなった咲をなだめたりすることになった
とか
328 :
307:2007/01/30(火) 21:56:33 ID:???
店から出た後、斑目と笹原達が何かオタクくさい会話で盛り上がっている
どうもその話の中心は王様ゲームの興奮から覚めぬのか、漫画のストーリーにおけるキスの必要性というよくわからないものだった
咲や恵子はあきれたようにその聞きたくもない会話を聞きつつ、タクシーを待つことにした
「・・・いやぁ、でもほんっとヤバかったね」
「何がすか」
「コーサカとのキス。めざめかけましたヨ」
「やだなぁ。ほんのお遊びですって」
「あんまり連呼してるとマジで取られるぞ」
しょうもないループに咲はあーあと達観した顔で、まだ肌寒い外気のなかでタクシー乗り場で順番をを待つ
「マダラメ、もうおヨメにいけないっ」
身体をくねくねさせながら言うのを、流石に笹原達もひいている
「何のパロっすかね?」「いやぁ、よくあるセリフだろ」「キャラ変わりましたよね、斑目先輩」とこそこそと苦笑と冷笑をする
その空気のなかで、恵子が笑って言った
「んじゃ、アタシがおムコにもらってやろーかぁ?」
空気の読めないその発言に、場が凍りついた
斑目のくねっていた動きも止まり、ようやく恵子が空気を読んだようだ
「な、なにそこだけマジで取ってんだよっ。冗談だろ、冗談っ」
「そうなんですかー?」
防寒のためか、マスクをした大野が恵子に迫る
そこに空気を読んだのか読んでないのかタクシーが咲達の目の前に止まった
恵子は咲の前に割り込み、強引にタクシーに乗り込んだ
「もう知らねぇっ! このオタクども!」
バタンとタクシーの扉が閉まり、げんしけんメンバーをその場に置いて去っていった
ただ一言、「前途多難だねぇ…」と咲が達観したようにつぶやき、斑目や笹原達を放って、次のタクシーに乗り込んだのだった
ってなことがあったんだろ! ああ、もう羨ましいぞ、斑目ェ!
俺なんかクッチーのようにいぢられ、散々いぢめらただけで終わったのに・・・・・・くぅ!
329 :
真っ赤な誓いの中の人:2007/01/30(火) 23:02:19 ID:dr7mgVFL
お久しぶり?です。
このままラストまでの展開は考えていますが・・・・。
実は言うと当方大学院の受験が迫っているため、
SSの投下はしばらく出来ない状態です・・・・。
試験が終わったら復活します!!
それまでもうちょっと
な・ま・ご・ろ・し(はあと)
現在、『真っ赤な誓い』から18年後の話しや
となクガとは違った斑スー、馴れ初めや結婚の話しも考えています。
307さん
斑恵GJです。
>>307 そこまで書けてるんなら全部書いちゃいなYO!
まあ気持ちもわかるが。どっちのパターンもいいなあ。
>>329 ちょwww
まあいい、乗りかかった船だ。いつまででもナマゴロされることとしよう。
院試パスした喜びでストーリー忘れたりすんなよ。
あとその間に「書き溜める」「状況に応じてsageる」の二つのテクを習得いただけたら幸甚の至り。
>koyukiSS2
最高です。めっちゃ最高ですた。
ありがとうありがとう
あああああ斑スー漫画かきてえええ…
>手紙
作者さんのお気持ちよく分かります。GJ!!www
SSで感想ってすんごく気持ちこもっとるじゃまいか
>王様ゲーム
www
某絵板からの妄想ですな?
斑目めっちゃいい目みてるなwww
(高坂が一番うまいな、って(爆))
>真っ赤な誓い
のんびり待ってます
マイペースでいいとオモウヨ
久しぶりにSS書いたのですが、コツコツ書いていたらさらに
長くなってしまいました。一応完成してるのですが、分割がどれほど
になるか、検討つきませんので、長引くようなら二つに分けて
投下します。二万字近く・・・。 orz
では双子シリーズ 設定から 十分後に投下します。
これは絵板起源の「セカンドジェネレーション」-双子症候群-の独自設定
です。一応、「初期設定」とされるキャラクターの設定を拝借していますが、
独自に改編した部分もあります。
ここだけで完結されたバラレル設定ですので他のSS師さんたちや絵師さんた
ちの設定との差異はご了承ください。
□舞台設定
げんしけん最終回から二十年後の世界の東京郊外の新興都市
□登場人物設定
旧世代の登場人物は斑目晴信、アンジェラ・バートン、スザンナ・ホプキンス
のみの登場。その他メンバーは名指しも登場もしない方針。
□物語設定
物語はオムニバス形式で独立しており各自主人公が異なりますが、
前作の設定を一部引き継ぐ場合があります。一応、時間系列順に列挙して
おきます。
:げんしけんSSスレまとめサイト 「その他」カテゴリー収録
@「ぬぬ子の秘密」 主人公 服部双子(ぬぬ子) A.C.2026年
A「斑目晴信の憂鬱」 主人公 斑目晴信 A.C 2026年
B「アンの青春」 主人公 アンジェラ・バートン A.C 2010年
C「千佳子の覚醒」主人公 田中千佳子 A.C.2026年
続編予定
D春奈の憤慨
E最終話 タイトル未定
□登場人物 (○旧世代 ◎新世代 ☆オリジナル)
○斑目晴信
新世代たちの中学校に用務員として赴任。過去にアンジェラと短期間交際し
ており、認知していない息子が一人いる。最近、その存在を知った。
○アンジェラ・バートン (アン、アンジェラ)
米国にて社会心理学研究をしている。斑目との間に一子あり。
○スザンナ・ホプキンス (スージー、スー)
新世代の中学校に英語教師として赴任。容姿は昔と変わらない。
◎千里(ちさ) 十四歳以下同
笹荻の娘。妹の万理と二卵性双生児。性格は積極的で物事に頓着しない。
漫画、アニメ好き。
美少女愛好趣味もある。どちらかというと消費系オタ。叔母や親友の春奈と
ファッションやゲームの話題で気が合う。
◎万理(まり) 前作でうっかり万里の変換せずにいましたので他の方々の
設定との区別の為に万理で通します。
同じく笹荻の娘。性格は消極的で思慮深い。納得のいかない細事に拘る面も
ある。腐女子趣味で創作もする。漫画、アニメ好き。創作系オタ。親友の
千佳子と気が合う。
◎千佳子
田大の娘。温厚で大人しい性格。父親に似て凝り性で几帳面な面も。漫画、
アニメ好き。消費系オタ。腐女子趣味。コスプレは嫌い。
思春期の難しい年頃で母親のコスプレ趣味には嫌悪感。その後何かの
きっかけで目覚める可能性あり。
◎春奈
高咲の娘。ボクササイズをしている。オタク趣味は無いが、父親の影響で
オンラインゲームの格闘ゲームが好き。
ファッションにも興味があり、アバターの服などのデザインを趣味にして
いる。
父親の天才性?は引き継いでいないが、母親のリーダーシップの素質の萌芽
がありそう。
◎服部双子(ぬぬ子)
突然、転校してきた厚底メガネのおさげの少女。メガネを取ると絶世の
美少女という古典的設定。その他にも秘密が多そう。
☆アレクサンダー・バートン(アレック) 十五歳
このパラレル設定での完全なオリキャラ。斑目とアンジェラの息子。
無責任な父親を拒否。
その反動でオタク趣味も寄せ付けない。しかし思いっきり素養がある。
母親似のスポーツマンで格闘技を習得。
オンライン格闘ゲームには興味がある。
○序幕 千佳子の願い
2026年 x月二十一日 午前7時37分
毎日来るはずの朝が何時も通りの朝である事に、千佳子は何の疑問も抱いてはいなかった。
そう、今までは・・・。
だから両親が頻繁にそろって旅行に出かける事が多く、そうした日が決まって少し寝坊気味で
あったとしてもやはり「いつも通り」の朝に変わりは無かった。
いつも通りである事に不満を感じるようになったのは何時からだろう?
何時からかは分かっている。「あの時」からだ。
結局、千佳子にとって不満自体よりもその理由の不可解な事の方が腹立たしいと気付くのだった。
そして今日もいつもと変わらない朝が始まる。
一人で朝食を食べ、パンをかじりながらテレビの今日の運勢を眺める。
「今日の牡牛座のラッキーカラーは白・・・、ラッキーナンバーは3ですね・・・。」
(馬鹿馬鹿しい・・・。)
こんなものにキャアキャア騒ぐ人たちの気がしれないと千佳子は最近思うようになっていた。
ふと家がぐらつくのに気付く。やがてテレビのテロップに地震速報が流れるのをぼんやりと見る。
たいした地震では無い・・・。最近の自分はどうかしているのかしら? 大きな地震がおきて、何か
世界が一変する事を秘かに期待しているみたいだ・・・。
こうした気分は決まって両親のいない日に感じる・・・。千佳子はそうした気持ちが思春期特有のものだと
「知識」として理解していたし、そうした感情も自分で自律できる「大人」であるとも思っていた。
一人でいるから余計悪いのだ。さっさと朝食を食べて友人たちといよう。千佳子はそうした感情を
振り払うように、テキパキと後片付けをして家の戸締りをして学校に向かった。
2026年 x月二十一日 午後3時48分
いつもと変わらぬ退屈な授業だ・・・。千佳子は退屈な授業が終わるのを待った。
最近、時間の立つのが遅くて苛立たしく感じる。だからといって授業を疎かにするようないい加減さは
千佳子は嫌いだった。ノートはしっかりと几帳面に整理して、鉛筆を休ませる事は無い。
隣の席では千里が眠たそうにあくびをしている。横目でそれを見て、くすりと千佳子は笑った。
きっと後でノートを見せてとせがんでくるに違いない。
万理は? 一心不乱にノートに何か書いている。黒板も見ずに!! 何に夢中になっているかは容易に
予想がついた。そしてやはり万理も後で私に泣きついてくる。
二人に頼られるのは悪くない。むしろ嬉しい。なによりも二人は幼馴染であり、親友なのだ。
だが時として、彼女たちの無垢な無邪気さが自分を苛んでいる事も自覚していた。
丁寧に一字一句正確に書かれた文字。見やすいように整理され、定規で正確に測ったように
均等な図の絵が描かれたノート。几帳面で潔癖な自分の反映でもあるかのようなノートを見ていると
苛立ちを抑える事ができない。早く・・・早く授業が終わってほしい・・・。そして何かすごい事が起こって
この退屈な世界がどうにかなって欲しい!!
その時、教室のドアが開く音がした。教頭先生だった。その顔は青ざめていた。
「皆さんにお伝えしなければならない事があります。今から警察の方が来て、簡単な質問を
皆さんにするかもしれません。」
教頭は続けて言った。
「悲しいお知らせです。皆さんの為に働いてこられた用務員の斑目さんが亡くなりました。」
教室がどよめく。
私の願いは叶えられた。こんな形で・・・。望みどおり私の世界は破壊された。
○エピローグ 千佳子の相談
「そっ相談ってどんな事? 千佳子ちゃん?」
斑目は恐る恐る聞いてみた。しかし困惑気味な表情を隠す事ができなかった。
千佳子は少しためらった表情を見せた。
「ううん、やっぱりいいの。無事解決した事だし、たいした事じゃ無いから。心配してもらってありがとう。」
そう言って千佳子は笑顔を見せて、用務員室から出て行った。
(あのしっかり者の千佳子ちゃんが俺に相談だなんて・・・。なんだったんだろう?)
斑目は千佳子の相談事の内容が気になった。だが誘拐事件の後という事もあり、しばらく平穏な生活が
続いてほしいと望んでいた事も正直な気持ちだった。
だからきっと千佳子の言う通り大した事じゃ無かったのだと自分で自分に言い聞かせた。
そして斑目の希望通り平穏な日々が続き、再び平和でヘタレな日常が戻った。
○第二幕 斑目晴信の不運
2026年 x月二十一日 午後8時06分
千佳子は通夜に参列した。普段見られない顔もあったが、急場に駆けつけられた人々の多くは
千佳子の良く知る人たちであった。千佳子の両親も旅行の予定を切り上げて戻ってきた。
制服姿の千佳子の隣では双子たちがワアワア泣いている。春奈もだ。
それなのにどうして私は泣く事ができないのだろう?みんなのように悲しいのに、泣きたいのに。
本当の事を言えば私が一番斑目小父さんと知り合うのが早かった。双子たちよりも!!
事情があるのか、母は斑目小父さんの事を毛嫌いしていた。会おうともしなかった。
だがそんな母さえも通夜では涙にくれている。
何が起きたのか次第に周囲の話で明らかになってきた。斑目小父さんは学校に発注される
教材が業者の手違いで届かなかったのを取りに外出していて、見知らぬ強盗か何かに
殺されたという。手には何かレア物のエロゲーを握りしめていたという・・・。
「ばっかだよねー、あいつ」
と春奈の母親は笑い泣きしながら言った。
「あっあいつらしいよな・・・・」
とどもりがちな旧友も泣きながら言う。
私は黙ったままうつむいている。何故私は泣けないのか?
通夜に参列している大人たちは「千佳子ちゃんは気丈に気をしっかり保って偉いねえ」と口々に言う。
偉い? 私はここにいるどの子よりも良い子などでは決してない!!
通夜が終わり子供たちは帰された。千佳子も両親とマンションに帰った。
帰宅するとテレビでは身元不明の殺人死体が発見されたと報道されていたが、今はそんな
事件さえも自分の身に起こった出来事に比べたら無意味に感じられた。
そしてベットにもぐりこんで目をつむると真っ先に斑目小父さんの姿が思い浮かんだ。
複雑な事情から斑目小父さんは母とは顔をあわせられずにいたらしい。両親は隠していたが、
そういう「大人の事情」も最近では薄々分かりかけてはいた。
だから父は外で私と斑目小父さんを引き合わせてくれた。ちょうど3〜4歳くらい?
私は見知らぬ背の高い男の人に怯えて父の足の後ろに隠れた。
その男の人は腰をかがめて、細く長い指をした手を差し出した。私は恐る恐るその指を握った。
そうだ。私は誰よりも早く斑目小父さんと知り合った。誰よりも早く。他の誰よりも!!
私は身を縮まらせて、むせび泣いた。そう・・・やっと泣く事ができた。
神様・・・私は変わった事なんか望んではいけなかった・・・。
*************************************
朝、目が覚めた。私は私の望みどおりの「何時も通り」じゃない朝を手に入れた。
斑目小父さんのいない世界。でも様子が少しおかしい?今朝は両親が家にいるはずなのに
とても静かだ。この時間だったら起きていないとおかしい。今何時?
携帯の時刻は6時13分を表示している。しかしおかしい。日付が二十一日を表示している。
「あの時」と同じだ。世界は再び「何時も通り」の時を刻んでいる。
○第一幕その2 斑目晴信の優雅な朝
2026年 x月二十一日 午前7時17分
「事件」から一月ほどたち、斑目の脳裏からこの時の記憶が薄れかけていた頃、斑目はいつもの早朝の
業務を片付け一段落してから、コーヒーをマグカップに注いで用務室で一人くつろいでいた。
出勤時間の定時よりも早いが、早朝のこの時間の為に早く来る事は苦では無かった。
用務員室の窓から差し込む夏の強い日差しは少しずつ和らぎ秋の訪れの気配を感じさせた。
入れるコーヒーもアイスからホットに変わった。ほのかにたちこめるコーヒーの香しさに気持ちが休まる。
少し肌寒い朝に冷え切った体を温めてくれるコーヒーは何よりの贅沢だ。
(これだよ・・・これこそ俺の時間の流れ方だよ・・・。)
斑目はそう思いながら、椅子をキコキコ音を立てて揺らして遊びながら、コーヒーをすすった。
そこへ千佳子が早朝から珍しく一人で顔を出した。
「おや、千佳子ちゃん、おはよう。早いね。今朝は一人?」
千佳子は走ってきたらしく、吐く息を白くさせながら斑目の顔を見るなり目を潤ませながら叫んだ。
「ああ、良かった!! 良かった!! 生きてる、生きてる。」
「へ?」
「やっやだな、千佳子ちゃん・・・生きてるに決まってるじゃない・・・」
顔を引き攣らせながら弱々しく斑目はそう答えた。しかし「何か」が再び始まろうとしている事は本能的な
直感で察せられた。最早疑う余地は無かった。だが心はささやかな希望にすがる思いでいた。
(土壇場まで俺は逃げているよな・・・、本当に俺は・・・)
斑目の戸惑ったそして困った表情に千佳子は躊躇いの表情を浮かべた。
相談して斑目を困らせる事を躊躇ったのだ。
(いかん!! せっかく俺を案じてくれてるのに!!)
「千佳子ちゃん!! 何でも相談しなさい!! 小父さんに任せなさい!!」
千佳子を元気付ける為に空元気を出してそう答えた。千佳子は斑目のそうした姿勢が空元気で相当無理を
している事に気付いた。
そして無理しながらも自分を案じてがんばってくれている事を嬉しく思い、ようやく安堵の表情を浮かべた。
「あのね・・・、斑目小父さん・・・死んじゃうの・・・」
千佳子はモジモジしながら言った。
「え? 生きてる、生きてる!!」
「ううん、ごめんなさい。言葉が足りなかったわ。これから死んじゃうの!!」
斑目は呆然としながら千佳子の顔を覗いた。真面目な子だ。冗談や嘘を言う子じゃない。
でもあまりにも言う事が突拍子も無い。
「・・・ごめんなさい。うまく言えなくて・・・。信じてもらえなくて当然だわ。」
千佳子はがっかりしたような表情を浮かべた。
「いやいや、まっまずコーヒーでも入れようか。」と斑目は言った。
「ううん、それよりテレビつけてくれる?」
「? いいよ」
斑目はそう言ってテレビのリモコンに手を伸ばし、テレビをつけた。この時間帯は朝のニュース番組が
やっている。ちょうど今日の運勢をやっていた。
『・・・獅子座のラッキーナンバーは7・・・ラッキーカラーは黄色・・・』
テレビのアナウンサーは今日の運勢を読み上げている・・・。
「・・・そして山羊座のラッキーナンバーは5、ラッキーカラーは青よ」と千佳子は言う。
『山羊座のラッキーナンバーは5、ラッキーカラーは青です・・・』
と千佳子に続けてアナウンサーは言う。
斑目はギョッとしながら千佳子の顔を覗いた。
千佳子は表情を変えずにテレビの時計のデジタル表示を見ながら、すくっと椅子から立ち上がり空の
マグカップを持ち上げた。
「小父さん、小さい地震がくるから気をつけて。」
「へっ? はっはい!!」
その途端、グラグラっと建物が小さく揺れた。
唖然としていると生放送の朝のテレビでは地震の震源地を告げるテロップが流れてきた。
「・・・トッ、トキガケですか!!」
○第一幕その3 ラベンダーの香り?
「? トキガケって? 」
千佳子は不思議そうに聞いた。
「いっいや、昔、リメイクしたアニメというか・・・タイムリープというか、過去に戻ったというか・・・」
しどろもどろ斑目は答える。
「過去に? ううん、分からないの!! 昨日・・・いえ今日、いつも通りの一日だったの。
朝もゆっくり家で過ごして・・・。そして・・・小父さんが亡くなったって知らせが学校に届いて・・・」
ここで千佳子は悲しい思い出を思い出したように顔を歪めて泣きそうな表情をした。
「俺は生きてるから!! ねっ! そっそれで?」
「うん・・・。そして・・・小父さんのお通夜に出て・・・悲しくて・・・泣きながら寝たら今日になってたの!!」
「それって過去に逆戻りしたって事?」
「良く分からないの・・・夢の出来事みたいで、予知夢に近いような。実は前にも同じことが一度あったの」
「えっ?」
「実は・・・あの『事件』の時にも・・・その時には自分でも信じられなくて・・・学校休んでずっと家に
閉じこもってたんだけど・・・」
「じゃっじゃあ、事件の結果も知ってたの?」
斑目は驚いて尋ねた。
「うん・・・」
「じゃあ、あの時相談したかった事って。」
「そう・・・」
「はー」と斑目は思わず声をあげた。
「・・・お母さんには相談したの?」と斑目は聞いた。
「ママになんか相談できないわ! あんな人に!!」
大人しい千佳子が急に語気を荒げたので斑目はギョッとした。
「年甲斐もなくパパとベタベタして! いつもパパと一緒に出かけてるし! 」
(ふうん、思春期だねえ・・・。そういうの分からんが、あいつも大変だな)
と斑目は内心で苦笑した。
「それにまだあの人時々コスプレ隠れてしてるんですよ!!パパと一緒に撮影会して!!」
「え!! まだ!! あ、いや、その・・・お母さん若いし・・・」
「いやらしいですよ! 全然コスプレの意味分かりません。」
「そう、千佳子ちゃんはコスプレ興味無い・・・ははっ。」
「それはそうと俺はどうやって死んじゃうのかな?」
実に奇妙な質問で話題を変えたものだと思ったが信じないわけにはいかなかったし、
この運命を変えられるものなら勿論変えたかった。それは千佳子も同様で、斑目の質問に頷いて答えた。
「小父さん、今日予約していたレアものの・・・その・・・エロゲー、コンビニに受け取りに行く予定でしょ」
千佳子は顔を真っ赤にして言った。
「なっ何でそれを!!」
斑目はネットオークションで入札したそれを確かにコンビニ受け取りで配送するように頼んでいた。
「そこで誰か分からない人に拳銃で撃たれて・・・。手には・・・小父さんらしいって通夜で皆・・・」
(おっ俺って、俺って奴はぁぁぁぁぁ)(涙)
「じゃっじゃあさ、コンビニに行かなきゃ言い訳だ。俺が殺される理由が無いし。きっと強盗だよ。」
「だといいんだけど・・・。業者さんの教材の発注ミスで外出する事になるみたい・・・。」
千佳子は不安そうな表情を浮かべた。
「大丈夫、大丈夫、普段通り授業を受けておいで。」
そう言って斑目は千佳子を授業に送り出した。
斑目は千佳子が用務員室を出た事を確認してから深くため息をついた。
そして机の下からノートパソコンを取り出して開いた。このノートパソコンはテレビ電話の機能も付いていた。
「アン、すまん。相談したい事があって。」
○第一幕その4 アンジェラ・バートン再び
2026年 x月二十一日 午前8時14分
このノートパソコンは例の『事件』以後、アンジェラから息子のアレックを『助けた』礼という名目で
アンジェラから無理やり送ってきたものだった。最新の情報処理機能も備えているので、
ほぼリアルタイムでの会話が可能な上、携帯カメラ搭載でインターネット経由で海外とも動画と
音声通話可能な最新機種で高価でとても斑目の手には出ないものだった。
しかも、維持経費もプロバイダー契約もすべてアンジェラ持ちというものだった。
正直、斑目はアンジェラのそうした深情けが重荷だった。自分が情けないものに思える。
そして昔を思い出す。悔恨と同時に・・・。パソコンの事を思い出したのもこれが初めてであった。
斑目は躊躇いがちに指で机をトントンと叩いてから、意を決してパソコンに手を伸ばした。
お礼と一緒に自分の本当の気持ちを言おう。
だがノートパソコンの画面に映るアンジェラの笑顔を見るとそんな事は言えなくなってしまう。
『今、大丈夫?』斑目は時計を見た。
(今は朝の八時だから・・・時差は大体十時間ぐらいか?)
『大丈夫よ。嬉しいわ、早速そのパソコン使ってくれて。』とアンジェラはにっこりした。
『うっうん・・・。それでさ、俺の手に余る事態が起きてさ・・・』
斑目はこれまでの経緯をアンジェラに説明した。
アンジェラ『ふうん・・・。面白いわね。興味深い事例だわ。』
斑目『興味深いって!! 俺が死んじゃうんだよ!! しかもあんなかっこ悪い・・・』
アンジェラ『あはは、ごめんなさい。』
斑目『まあいいけど。あれって、やっぱり過去に戻ったのかな。それとも予知夢? 』
アンジェラ『どちらでも同じ事だわ。懐かしいわね。私たち一緒に観たの、覚えてる? トキガケ?』
斑目『あっ、ああ、だったかな。』
斑目はカーと赤くなった。
(覚えてないわけが無い、覚えてないわけが)
アンジェラ『あの時私が不思議に思ったのって主人公が過去にタイムリープした時、服や食べ物を食べたと
いう現象は過去に戻っているのに記憶だけは繰り返し覚えている事だったのよね。』
斑目『当たり前だろう。覚えてなきゃ過去に戻ったって分からないんだから。』
アンジェラ『そこなのよ。記憶するというのも脳内のシナプスの伝達記録の現象で物理的現象だわ。
何故、記憶だけが元に戻らないのかしら。』
斑目『そりゃあ・・・あれ? 何でだろう。』
アンジェラ『しかも私たちは《忘れる》という行為によって絶えず記録を整理している。
全ての情報は脳内で保管されるけど、特別な事以外は覚えていないものよ。
それとも記憶だけは別の法則でもあるのかしらね。』
斑目『忘れてしまったら過去に戻ったっていう事実も存在しないって事か。まあアニメの話だからね。』
アンジェラ『そうね。深く突っ込んだら霊魂とかオカルトじみた議論になっちゃうだけで
アニメがつまらなくなっちゃうだけですものね。』
斑目『でも現実と夢との区別がつかなきゃ何を信じたらいいか分からないよ。』
アンジェラ『いよいよ哲学的になってきちゃうわね。重要なのはチカコちゃんが違う世界を《認識》したって
事よね。それは過去かもしれないし、パラレル・ワールドかもしれないし、予知か、それともただの夢
なのかもしれない。』
斑目『少なくとも夢では無いよ。未来に起こることを言い当てた。』
アンジェラ『そして貴方はチカコちゃんを信じている。でも今のところ適切な判断するには情報が
少なすぎるわ。貴方恨まれるような事したの?』
斑目『まさか!! こちとら全うなオタク道を邁進してますからね。』
アンジェラ『スーは?』
斑目『残念ながらいないよ。県の教育研修者に選ばれて嫌々出張してる。携帯もつながらない。』
アンジェラ『そう・・・。当面、出歩かずに、その現場にも近づかずに大人しくしてるしかないわね。
もちろんヌヌコちゃんたちを巻き込んじゃ駄目よ。聞いた話だと職業的犯罪者のようだし。
彼女の力はそういう人たちには無力だから。』
斑目『言うまでも無いよ。自力で何とか乗り越えるよ。たぶんコンビニ強盗か何かだろうから。』
アンジェラ『そうね。経緯は豆に報告してね。』
斑目『ああ、助かるよ。話だと三時ごろの事らしい。今、九時だから六時間後の事か・・・。』
斑目はそこでノートパソコンのディスプレイにアンジェラが心配そうに口をキュッと結んで斑目を
見つめている事に気付いた。
斑目『大丈夫!! 思うほど頼りなく無いよ!! それじゃまた!!』
アンジェラ『そうね・・・。じゃあまた・・・。』
斑目は慌てて画面を消した。
(そんな表情するなよ、そんな・・・)
アンジェラはしばし表示画面が消えたディスプレイを黙って見つめ続けていた。
その背後でアレックが声をかけられずにいる事に気付かずに・・・。
○第一幕その5 懐かしき思い出〜そしてココニイル
パタンとノートパソコンを閉じ、斑目はフーと大きく息を吐いた。
(大丈夫さ。そう、大丈夫。)
アンジェラとの会話に時間を食ってしまった。本来の業務に戻らなければならない。
用務員といっても事務局や用度係、総務に近いような業務まで最近は増えてきている。
まあ要は雑用なのだがこれでもけっこう忙しい。学習教材の手配や校内行事の準備、
先生たちの学習計画のサポートや資材の受注まで最近はしている。
そうこうしている内に午後になってしまった。
2026年 x月二十一日 午後12時09分
業務報告書を作成していると何やら表が騒がしい。廊下に出てみると人だかりと行列が出来ていて、
先頭に双子たちがいる。
「どうした?」
驚いて双子たちに尋ねてみる。
「千佳子ちゃんが授業中に動かなくなっちゃったの!!」と千里が叫んだ。
「目が・・・目だけが小刻みに動くんだけど、声をかけても動こうとしなくて!!」続けて万里が叫ぶ。
「どいて!! どいて!!」 そう言いながら千佳子を抱えて運んでいるのは春奈だった。
「あっああ、すまん。」 斑目は通路をふさいでいる自分に気付いてどけた。そして千佳子を保健室まで運ぶ
行列の後ろについていった。保健室の保健医が千佳子をベットに寝かせたところで、千佳子は声を出した。
「みんな、心配かけてごめんなさい。私は大丈夫だから。ちょっと気分が悪かっただけ。先生、
大丈夫ですから心配しないでください。」
弱々しくも元気な様子にその場に居合わせた全員が安堵の表情を浮かべた。
「よかったー。心配したんだから。」と春奈は声をかけた。
「ごめんなさい、本当にもう大丈夫だから。」と千佳子は笑って答えた。
「でもしばらく安静にしてないといけませんね。授業は休んでここで寝てなさい。貧血かしら。
血圧や熱を測ってみますね。」と保険医が言った。
担任の先生はみなに向かって言った。
「さあ、ここは保健の先生に任せて授業に戻った、戻った!!」
クラスのみんながぞろぞろと教室に戻っていってから、斑目は保健室に入っていった。
「先生、もう大丈夫ですか? 声をかけてやってもいいですか?」
「ええ、変ねえ。血圧も正常だし、脈も普通ね。熱も無いみたいだし。大事を取ってしばらく休んでから
早退して病院に行ってみなさい。」
「はい・・・。お騒がせしました。」
「担任の先生には連絡しておきます。お家の方には・・・。」
「あ・・・私から連絡します。今日は留守なんです。」
「そうなの・・・。斑目さん、確か親御さんとも古くからの知り合いなんですってね。
後で送っていってあげてもらえます?」
「ええ、お安い御用です。」と傍でそのやり取りを聞いていた斑目はそう答えた。
保健医がその場から離れると斑目は声をかけた。
「大丈夫かい? びっくりしたよ。」
「ごめんなさい。言ってなかった事があるの・・・。」すまなそうに千佳子がつぶやく。
「なんだい?」
「前の時にも同じことが起きて・・・。その時には学校休んで部屋に閉じこもってたから、
誰にも気付かれなかったんだけど、一日に何回か全てがゆっくりとした動きになるの。
もちろん私の動きも。」
「そんな事が?」
「それ以外は普通だから心配しないで。」
「うーん、分かった。それと今日はお互い大人しくしていよう。コンビニにも行かないよ。少し休みなさい。」
「うん・・・。」と力なく千佳子は笑った。
保健室を後にして廊下を歩きながら斑目は思った。
(やっぱり、俺の理解を超えているな。アンはまだ起きているかな。時差もあるし・・・。)
時計を見ると午後12時32分を表示していた。
(俺が亡くなるまで後二、三時間程度ってとこか・・・)
実に奇妙な言い回しだと斑目自身思った。千佳子の安堵した寝顔を見て、ふと千佳子と
初めて会った日の事を思い出した。
結局、『失踪生活』は数年で行き詰った。日本各地をウロウロ彷徨った。それはそれで色々あった
のだが、それはまあ別の話・・・・。
失踪中、会社を無断欠勤して懲戒解雇とされる所を色々気を回して、任意退職の手続きをしていて
くれていたのは、千佳子の父であった。またアパートの解約や荷物を実家に移動するなどの手配も
彼がしてくれていた。
その事を知ったのはずっと後の事だった。もちろん彼の連れ合いには黙っての事だ。彼と再会した日、
俺は照れくさそうにしていた。彼の足元の後ろに小さい女の子がいるのにすぐ気付いた。その子は
人見知りするように俺の顔を恐る恐る見ていた。俺は微笑んで手を差し出した。
その子も小さい手を差し出し、俺の指を握った・・・。
それが千佳子との初めての出会いだった。俺はたまたま運よく(今となっては本当に『運』だったのかと思う)
地元で某学校法人の事務の仕事にありついた。そこで息を潜めるように淡々とした生活を送った。
それが最近になって少子化の影響で、地元の学校が統廃合されて、首都圏の学校法人への転勤を
打診された。
独り者でもあったし、用務員として赴任するがゆくゆくはそちらの学校事務も経験を生かして統括して
ほしいと当てにされた事もあった。それに何よりも昔の事が、東京での生活が懐かしく思われたという
のも事実だった。
そして俺は今、「ココニイル」。そして子供たちとも出会った。何という偶然。いや、気付くべきだった
のかもしれない。この世に偶然などありはしないと言う事を。
しかし『巨大な意思』が導こうが何だろうが、俺が「ココニイル」のは俺自身の意思なのだ。
やっと半分投下。斑目の回想シーンで切りがいいので今日はここまでにしておきます。
完成はしているんで、明日の夜に投下の続きしておきます。
すんません。
昨日の続き再投下しま〜す コソコソ
○第一幕その6 学校の外へ・・・
斑目は用務員室に戻ると教材業者からの電話を受けた。千佳子が言っていた通り、発注をミスしたとの
連絡であった。ここまでは「予知」の通り。さてこれからどうする?
ノートパソコンにメールが届いていた。アンからだった。テレビ電話を繋ぐとアンが起きていた。
斑目『そっちって夜中の三時じゃないのか?寝てないの?』
アンジェラ『ええ、たまった仕事があるから気にしないで』
(・・・嘘だな。すまん・・・。いっそ再会した時になじり倒してくれた方が良かったよ・・・。)
斑目はアンジェラに千佳子の様子を伝えて意見を聞いた。
アンジェラ『うーん、分からない。夢の出来事というのはレム睡眠時の短時間の間に見るものなの。
普通の夢は支離滅裂なんだけど、チカコちゃんの場合は正確な日常を知覚して、その短時間の
情報処理の誤差が「時間差」として認識された? いまいち自信の無い当て推量ね。』
斑目『その当て推量でも無いよりはましだよ。』
アンジェラ『いずれにしてもこれだけ正確な『予知』ができても、その『予知』を修正するにはどういう
行動を取ればいいか、さっぱり分からない。スージーがそばにいてくれないのは痛いわ。』
斑目『スージーを信頼してるんだね。でもいても変わらないよ。』
アンジェラ『いいえ。確かにスージーは非常識な行動を取ると見られる。でもスージーほど人間の
普遍的な常識に正確に対応して、不測の事態に正確無比に行動できる人はいないわ。』
斑目『前の「事件」の指揮のように?』
アンジェラ『ええ。そしてこんな「非常識」に至ってもスージーなら答えを見いだす・・・。私以上に!!』
斑目『そういや双子の母親からも変な話聞いてたな。「修羅場」になって周りが死にそうになってもスージー
だけケロッとしてたとか。』
アンジェラ『スーらしいわ。彼女はあれで「巨大な意思と精神」で自分の行動を律してるのよ。』
斑目『そうは見えないけどね。連絡も取れないしー。タイムリープみたいに何回もやり直しできるか
分からないし。まあ何とかがんばってみますよ!!』
アンジェラ『気をつけてね』
通信を切ってからもしばらく斑目はスージーの事を考えた。
そもそも携帯で連絡できる状況にいても、携帯に出ないので有名なんだがなあ・・・。
スージーが誰よりも『常識』的ねえ・・・。でも担当の英語の受け持ち生徒の成績は良いんだよな・・・。
アニメの物まねで生徒の心わしづかみしてるし・・・。他の先生が仕事ぶり真似しようとして失敗してたっけ。
ああいう予測不可能な行動パターンは確かに真似できんわ・・・。
それとも全てを予測しているから、ああいう予測不能な突拍子も無い行動が取れるのか?俺には無理だ。
うーん、このピンチを切り抜ける自信が無くなってきたぞ・・・。
未来が分かっても意外と映画や創作のように上手くそれを活用できないもんだなと斑目は思った。
もっとも俺に限らず凡人ならそんなもんだとも思った。
とにかく外出しなければならない状況にあった。「事件」がたまたま「偶然」に居合わせただけであるなら、
むしろ今のうちに用件を片付けてしまう方が良策に思えた。
どう考えても自分が作為的に殺される理由が分からない。もっとも恨みを買わないように願っても、理不尽
な逆恨みを蒙るのも現実にはある。
(それに千佳子ちゃんを送らなきゃならんしな・・・。)
むしろ千佳子を危機から遠ざけるには「運命の時間」が来る前に彼女を自分から遠ざけた方が良いと思えた。
いくら自分が「殺される」とはいえ学校を離れて業務を放り出して家に引きこもる訳にはいかなかったからだ。
斑目は保健室に戻ってベットで休んでいる千佳子に声をかけた。
「千佳子ちゃん、送ってくよ。調子は大丈夫?」
「ええ大丈夫・・・。小父さんは?」
「俺は大丈夫。『例の事件』の時間までには学校に戻れるよ。それで何とかやり過ごせるさ。」
斑目はいつもの弱々しげな自信無げな顔で千佳子に笑いかけた。
「それで・・・大丈夫ならいいんだけど・・・。」
「さあ、俺の車で送ろう。」
斑目は千佳子を連れて業務上の必要から学校にあるバンで学校を出た。もっぱら最近は先生よりも自分が
使う事が多い。
「こんなの学校にあったんだ・・・。」
「まあね、色々先生方も外出する用事もあるし、通勤以外の目的で勤務中に自家用車を使用するのは
色々問題だしねえ・・・。この前なんか給食費の未納、先生と一緒に回収にいったよ!!」
「ええ、小父さんがあ? 取立て〜」
今日やっと初めて千佳子が笑顔を見せて、斑目はほっとした。
「なあ!!何で俺が取り立てまでしなきゃいけないんだ? なあ、納得イカンヨ。」
「ホント、クスクス」
「ねえ、この車、千佳子ちゃんのマンションの契約駐車場に止めてもいいかな?」
「いいよ、どうせパパたちいないし・・・」
「そう、悪いね。業者の会社近くなんだけど、車止められないんだよ。
この前、駐禁とられて点数ヤバイんだよ・・・。」
「しょうがないねえ。あら、この携帯のストラップ、見たことないキャラ・・・。」
「あれ? そう? くじあんってアニメのキャラなんだけど、知らない?」
「ううん、あんまりー。駄目よ、小父さん。こんなのにばっかりお金かけているんでしょう?」
「ははっ 千佳子ちゃんにはかなわないなあ。そうか、昔のアニメだし知らないか・・・、ガックリ。」
その斑目の様子を可笑しそうに見て、すっかり和んだ様子の千佳子の姿を見て、千佳子の幼い頃の
事を思い出した。あの当時から、大人ぶって斑目の頭を小さな手で、「いけまちぇん」と叩いたのを
思い出す。
(・・・・はやく、この子だけは危険から遠ざけないとな・・・。)
「あら、着信。」
突然、車の座席の間のフォルダーに入れていた携帯が鳴り出す。
「あれ、誰だろう? 千佳子ちゃん、ちょっと渡してくれない?」
「駄目です!! 運転中の携帯の使用は!!」
そう言って千佳子は携帯を手にとって握りしめた。
「おお、怖い。その通りです。」
「私が出る?」
「いや、いい。どうせ留守電に切り替わるし、急用かかえた身でもないし、後で確認しても遅くない。」
○第一幕その7 運命の岐路
2026年 x月二十一日 午後1時13分
二人の乗る車は千佳子のマンションにたどり着いた。
そして契約駐車場に車を止めると斑目は言った。
「じゃあ、止めさせてもらうね。管理人さんに一言、言って置けばいいのかな?」
「うん・・・。一応、防犯の為に管理人さんに言っておく規則になってるから。あの管理人さん
規則にうるさいの。」
二人はオートロックの扉を抜けて管理人室を覗いたが管理人は不在だった。
「あれ?見回りに出たのかな?お昼休みかな?」
と千佳子は言った。
「しょうがない・・・。念の為、鍵を預けていくよ。問題があったらそれを管理人さんに渡して。」
「わかった・・・。用事が済んだらすぐ戻ってきて・・・。」と千佳子は心配そうな表情で鍵を預かった。
「心配無いって!! じゃあ、また後で・・・。」
千佳子は誰もいないマンションの自分の部屋のベットに倒れこんだ。
「ふー、大丈夫よ、大丈夫よね。」
千佳子は寝転がってポケットに何か感触を感じた。触ってみると斑目の携帯だった。
(うっかりしてた!! 斑目小父さんも携帯に出ないスー先生の事、言えないよね。携帯忘れたままなんだもの。)
千佳子は運転中に携帯に出ようとする斑目から取り上げた携帯を預かったままだった。
(留守電もほったらかしで・・・。? 日本の携帯番号じゃない?)
うっかり触った拍子にディスプレイに表示された携帯番号に千佳子は驚いた。
(・・・・・・・。何か関係あるのかも・・・。特別な状況だし・・・後から小父さんに謝れば・・・。)
千佳子は携帯の留守録を聞いた。留守録の相手は外国人では無く日本語で話した。
『あんた!!斑目か!? あのクソゲー落札した馬鹿は!! もしそのクソゲー受け取ったら、即座にその
ゲーム持って警察に駆け込め!! 俺は台湾マフィアの潜入捜査官だ!!そのクソゲーには偽造電子
マネーの・・・』
留守録は途中で途切れた・・・。千佳子は震えながらその留守録を聞いた。すべての分岐点はここだった。
偶然では無かったのだ・・・。『理由』はすでに存在していたのだ。背景は大体飲み込めた。
連絡手段の限られた潜入捜査官は犯罪の証拠品をネットオークションを装って日本に送るつもりだったのだ。
おそらく誰も欲しいとは思わないゲームを隠れ蓑にして・・・。それを小父さんは落札した。相手も連絡員
と勘違いして、小父さんの指定するコンビニ宛に『証拠品』を送ったのだ。
そして『前日』にも何らかの理由で小父さんは携帯のメッセージを聞き漏らした・・・。
千佳子はベットから飛び降りた。まだ小父さんはゲームを手に入れていない。マフィアは小父さんには目も
くれずにコンビニのゲームを差し押さえただろうか? いや証拠品は押さえても小父さんは犯罪の内容を
携帯で知ったと思われている。潜入捜査官はすでにマフィアに捕まったに違いない。何故なら通じないの
なら、もう一度かけてもおかしくないのに携帯に電話しようとしないからだ。
そして・・・気付くべきだった・・・。『昨日』の晩の身元不明の死体も何か関係があったのだと・・・。
千佳子の足がカクカクと震えた。まだ間に合う・・・間に合う・・・。まずする事は・・・、電話!!
警察に電話!!
『もしもし、緊急なんです・・・』
千佳子は自分の指名を名乗り、狙われる斑目の氏名とその事情、そして場所を警察に電話した。
(でもこれで十分なんだろうか・・・。誰にも頼れない・・・。)
後になって思えば、これから自分が行おうとする事がどれだけ馬鹿げているか理解できるはずだ。
でも、その時にはこれっぽっちも思わなかった。「無意識」のうちに千佳子はその行動を取った。
千佳子は衣装ケースから『何か』を持ち出して、カバンにそれを詰め込んで、マンションを飛び出した。
○第一幕その8 美少女戦士 セーラ・セレス!!
2026年 x月二十一日 午後1時48分
「なっ何だ?! お前ら?!」
斑目は業者の会社に向かうために、マンションから近くの公園を通り抜けようとしていた。
そこで人相のあやしい数人の男たちに取り囲まれた。
「かっ金なら無いぞ!! 自慢じゃないが自分の趣味に金つぎ込んでる身なんでな!!」
強盗だと思った斑目はそう叫んだ。しかし、リーダーと思しき男が斑目の横腹に見えないように拳銃を
突きつけた時に、ただの強盗とは違うと悟った。
「あんちゃん、あんまり手間かけないでもらいたんや。大人しく俺たちの車についてきてや。」
大阪弁を真似ているようだが、その発音はどこかおかしかった。明らかにアジア系の外国人のようだった。
斑目は青ざめた。何が何だか分からないが、ついて行ったら最後だとは分かった。そして抵抗しても終わ
りだということも・・・。
ゴクリ・・・。
斑目は唾を飲み込んで黙って頷いた。
その時・・・、斑目は目を疑った。その目の前にいて仮装している女性が誰であるかはすぐに分かった。
覆面で顔を隠していたからといって、分からないはずが無かった。その女性は叫んだ。
「その手をお離しなさい!! 悪事はこのセーラ・セレスが天に代わってお仕置きです!!」
ならず者たちはポカンとした顔をして、その「キャラ」を見た。
斑目は思った・・・。(終わった・・・。)(涙)
2026年 x月二十一日 午後2時11分
「・・・なあ、ねえちゃん、仮装大会なら他でやってくんねえかな?」
ならず者たちは笑いながらそう言った。体の大きい千佳子を中学生と気付いている者はいないようだった。
少し頭のおかしい女が紛れ込んできたとしか思ってないようだった。
「俺、知ってますよ。あれ昔はやったアニメのキャラですよ。たしかプルートが惑星から脱落したんですよ。」
「セレスなんていたか? あれ惑星とは認められなかったんじゃ?」
「中々、博識じゃねえか、おめえ」
男たちは笑いながら話をしている。千佳子は思った。
(とにかく・・・警察が来るまで、時間稼ぎできれば・・・)
その時、リーダーと思しき男が部下の一人を裏拳で殴りつけた。
「ボケが!! 元はと言えばお前のミスの尻拭いしてやってんやで!! 調子に乗るんじゃないわ!!」
鼻血を流しながら若い男は謝った。
「すっすいません」
斑目はその流れる血の匂いにクラクラきた。明らかに「暴力」を商売にしている人種だと理解した。
千佳子もその血なまぐさい光景に青ざめた。そして自分の行為を後悔した。何故こんなことを・・・。
「アニメか・・・。そうやな、思えばイニシャルGを観たのが運のツキやったなあ・・・。アレ観て車オシャカに
して・・・。ヤバイとこから金借りて・・・。儲かる仕事があるからと先輩に誘われて・・・。」
「兄貴?」
リーダー格の男はまた若い男を殴りつけた。
「何でもないわ!! さっさと連れてくで!!」
「そっそうですね。変な女には構わず早く行きましょう!!」
斑目は観念した。こうなれば危険から千佳子を遠ざけるのが先決である。
「なんや? 急に素直になったやないけ?」
(小父さん・・・)
千佳子は泣きそうな顔で斑目を見つめた。
斑目は表情で合図を送って答えた。
(いいから、いいから。)
こんな最後も悪くないな・・・。かっこいいじゃないか、こういう最後も・・・。斑目は穏やかな表情で頷いた。
その時、部下の一人でスキンヘッドの男が斑目を顔を赤らめてジーと見つめている事に気付いた。
「?」 斑目はその視線に嫌な予感がした。
「なあ、兄貴・・・、こいつ始末する前に頂いてもいいですか?」
「ああ? いつもの癖か? まあええわ。」
「ブッーーーーーーーー」 斑目は噴出した。
(ほっホンモノでつかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)
「ムショで悪いもん覚えてからに・・・。まあ、あんちゃん、慣れると○×が&☆@して、潤滑に×△
自主規制―――――――――――。」
「ちょっと、まった!!!! やっぱり前言撤回!! 断固、拒否する!!! そういうかっこ悪い最後は
断る!! 俺は生きる!! 俺は生きるぞぉぉぉぉぉぉぉ」
斑目はジタバタ暴れまくった。
「なっなんやこいつ、往生際の悪いやっちゃ おい、大人しくさせい!!」
斑目の眼前に拳銃のグリップが振り下ろされた。斑目は目をつぶってそれに堪えた。
(やっばり駄目か?)
しかし、拳銃は斑目の頭上に下ろされる事は無かった。ソーと目を恐る恐る開けると、拳銃を握った男の
手がひん曲がって、男が苦痛に転げまわっているのが見えた。
そしてその前には、見知らぬ「誰か」が立っていた。
いや・・・。目の前にいるのは良く知っている人である。だが・・・、斑目には分かった。良く知るその人の姿
をしているが、自分の目の前にいるのは「その人」では決して無いということを・・・。しかし「誰か」かどうか
さえ分からなかった。人間かどうかさえ分からないかもしれなかったのだ。
千佳子は・・・、いやセーラ・セレスは・・・、静かな表情で斑目の方を向いた。
小雨がパラパラと降ってきた。お天気雨に濡れながら「それ」は立っていた。
「あなたは誰でつか?」
○第一幕その9 千佳子の覚醒
「何だ? てめえ・・・」
リーダー格の男は最後までそのセリフを言う事ができなかった。「それ」は人の目にとまらない高速で
動き出し、姿が消えたかと思うと、次の瞬間にはマフィアたちは地面に気を失って倒れていた。
発砲した者もいたが、その物理的限界を超えた高速の速度に当てる事は不可能だった。
高速の動きが止まるとやはり静かな表情で斑目を「それ」は見つめていた。
「誰? いつから? 何故?」
斑目はそんな質問しか繰り返す事ができなかった。
「それ」はフーとけだるそうにため息をつくと初めて口を開いた。
「『僕』はその三つの質問に答えなければならない義務があるのかな? 最初の質問は自我を証明
しなければならず、次の質問は因果律を証明しなければならず、最後の質問にいたっては価値判断
からの自由を証明しなければならない。」
「 ? 『僕』? 君は男か? まさかオギーポップ?」と斑目は有名なライトノベルのタイトルを言った。
「 ? その名詞はこのターミナルの情報にはインプットされていない。『限定条件』がやっとそろったのだ。
『現象』は『現象』であってそれ以上でもそれ以下でも無い。かつてそう呼ばれた『現象』があったのか?
もういいだろう。『帰らせてくれ』」
「セーラ・セレス」は立ち去ろうした。そしてふと斑目の顔を珍しそうな顔で見た。
「ターミナルの損害は皆無。『修正』も最小限。『僕』は十分な『使命』を果たした。・・・なるほど(以下、斑目の
認識不能な発音を『僕』が発したので表記不能)からか。」
不思議な言葉を残して「セーラ・セレス」は高速でその場を立ち去った。そこへ警察が駆け込んできた。
どこから聞きつけたのか、報道陣も一部駆けつけてきた。
斑目は悄然としているだけだった。
2026年 x月二十一日 午後2時38分
千佳子は息を切らせながら女性専用の有料公衆トイレに駆け込んだ。
数十年前から人気の少ない所での公衆トイレの劣化から女性の使用が敬遠されていたが、有料でも需要
があるとみた民間企業が少しずつこうした有料の公衆トイレを増やしていた。使用目的から監視カメラも
無く、支払いも携帯に内蔵された電子マネー決済だったので、防犯予防も含めて増設が奨励されていた。
千佳子はその個室に駆け込んだ。個室といっても、有料な分内装は立派で広く、化粧直しとか着替えとか
用途は広かった。防災、防犯、防音効果も高く、必要なら簡易シャワーも使えた。
千佳子はそこでへたり込んだ。
(『あれ』は・・・『あれ』は何だったのか・・・。)
千佳子の体が『あれ』に乗っ取られてからも、千佳子の意識は存在してた。そう、ちょうど千佳子の背後から
もう一人の自分を見つめていた。
斑目の頭に拳銃が振り下ろされそうになった瞬間、千佳子の意識は体から引き剥がされた。そしてあらゆる
ものがゆっくりとした動きをする事に気付いた。
雨が降り出していた・・・。雨は一粒、一粒がゆっくりと落ちてくる。空では太陽が煌き水滴を虹色に
輝かせていた。「セーラ・セレス」は宙に舞い、滑らかな動きでならず者たちをなぎ倒していく。
拳銃を構えて発砲した者がいた。拳銃から発砲された弾丸はものすごいスピードで、だが目に止まらない
ほどではない速度で螺旋回転しながら雨を弾き飛ばして弾道の軌跡を作っていた。
まるで映画のワンシーンのようだった。
そして『あれ』は振り向いた。長い髪をなびかせながら・・・。私を見た・・・。すべてを見透かすような目で・・・。
そう・・・あれはずっと見ていたのだ・・・。私のことを・・・。ずっと、ずっと見透かしていたのだ。
父の事、母の事、小父さんの事・・・。私は理解した。もう私が以前の私でいられない事を・・・。
私の中で世界が目覚めた。
「見られていた・・・。」
千佳子はあえぎながらそう呟いた。
そして、千佳子は右手を下腹部に忍び込ませた。体が火照り、体が汗ばんでくる。千佳子は黙りこくって
息を押し殺しながら、手を動かした。そして体をびくつかせながらその場に崩れ去った・・・。
○第二幕 それでもやはり斑目晴信の不運
2026年 x月二十二日
いつもの朝だった。それでも昨日の朝とは違う朝だった。昨日の事件はテレビでも一部報道されていた。
千佳子の父は事件を聞いて前の夜に旅行から母と一緒に帰っていた。千佳子の父は、わずかに撮影
された謎のヒロインの姿を新聞を広げながらテレビで一瞥し、細い目をさらに細めて、首をかしげながら
新聞に目を戻した。
千佳子はそんな父の様子を横目に通り過ぎ、照れくさげに顔を赤らめながら、そそくさと家を出た。
そして雨上がりの晴れ渡った空を駆け足で学校に向かった。
****************************************
斑目は用務員室でノートパソコンに向かっている。
斑目『心配かけました!!』
アンジェラ『無事で何よりだったね』
斑目『警察には「またあんたか!!」って言われたよ。もちろん説明不能の事は黙ってたけどね。』
アンジェラ『まあ、それがベストね。』
斑目『アンジェラには説明がつく?』
アンジェラ『うーん、聞いた限りの話ではねー。少なくとも高速で動いたという現象は「相対性」で
説明できそう。』
斑目『つまり?』
アンジェラ『聞いた話では、チカコちゃんの「中の人」と世界の時間差は十倍以上あったはずね。
仮に時速二十キロで移動しても、相手には時速二百キロの運動量の物体がぶつかったと同じ
事になるわね。百キロなら音速を超えるわね。逆に弾丸は時速百キロくらいに見えるから、
距離の離れた所から、撃つところを見れば避けれなくはないわね。』
斑目『でもそれじゃあ、千佳子ちゃんだって運動量の衝撃で無事じゃすまないんじゃ?』
アンジェラ『チカコちゃんにとっては時速二十キロの運動量しか反作用は起きないのね。逆に
たとえピンポン玉でも至近距離で時速二、三百キロでぶつかれば相手はタダじゃすまない。』
斑目『うわー、考えたくない。結局、『彼』?は何者だったんだろう?』
アンジェラ『彼?自身が言った言葉にしか答えは見つけられない。彼は「現象」だと自分の事を
言ったというわね。誰、何時、何故、それらの問いかけは無意味だと・・・。私にも答えられないわ。』
斑目『もう、現れないんだろうなあ。俺に言った言葉の意味はなんだったんだろう?』
アンジェラ『そうね・・・。たぶん表現する概念の無い断絶した認識の壁なのかも。まあ、要するに
「くじびき」でハズレばっかり引くのも一つの才能って事なのかしら。』
斑目『なぬ?ちょっとまて!! それはどういう・・・』
アンジェラ『あら? そっそれじゃあ、今度の冬コミにはアレックと一緒に行くから案内宜しくねー。
ホホホホホホ(汗)』
斑目『あ!! ちょっと待った!! あ!! 回線切った!!』
斑目の後ろではスージーがゴロゴロして漫画を読んでいる。
そして二人のそんなやり取りをかったるそうな様子で見ながら呟いた。
「アンタバカー」
****************************************
千佳子は教室で忘我の表情でひじをついてボーとしていた。
教室では昨日の事件の話題で盛り上がっていた。もちろん謎のヒロインの事で持ちきりだった。
双子たちはぼんやりしている千佳子が面白く、ほっぺたをひっぱって遊んでいた。
「千佳子ちゃんどうしたのー? うわー、面白いー。ほっぺがこんなに伸びるー。」
それでも千佳子はボーとしている。
春奈は言った。
「それにしてもさー、あんな格好するなんて、ゼッテー変態だよねー。」
その言葉に千佳子はピクッと肩を震わせた。
そして、驚いた顔で千佳子を見上げている双子をよそに、すっと立ち上がり振り向いた。
そして、きょとんとする春奈の前に、父親のように目を細めて、制するように手のひらを向けて言った。
「春奈さん お待ちなさい それは違います!! やってみればわかります!! やってみれば!!」
投下終了です〜。駄長文に時間占有させていただいて恐縮です。
なお、この話の中の似非科学、インチキ大阪弁、怪しい時代設定等は
つっこみ所満載とは思いますが大目に見ていただければ〜。
>千佳子の覚醒
最初の細かい設定いいですね。
僕も自分のSSについて略年譜作ってあーでないこーでないと妄想を膨らませているので共感。
あとセーラ(ryのクロックアップに倒される悪人も、よく読めば「外道オタク」なんですね。
運転ミスで「溝落とし」をやって車壊した身としては、危うく自分も「兄貴」のような外道オタクになるとこだったのかとガクブルでした。
夜分のスレ汚しスミマセン。
「となりのクガピ2」後編を投下させていただきます。
たぶん25スレくらいだと思います。
ダラダラと長いばかりの話なんですが、よろしくお願いします。
【21】
「あ〜、人が多くなって暑いな。ちょっと換気するから」
斑目さんは、スー奥様におとなしくするように声を掛けると、照れ隠しなのか、部室の窓を開けて外気を入れた。
ほどよく火照った頬に、さらさらっと入ってきた夜風が心地よく当たる。
ワタシは窓の方を見た。斑目さんが窓際で外を眺めているのが見えた。
その表情は落ち着いているというか、なんだか憂い顔にも見える。そんなに奥様の妊娠を気づかれたことがショックだったのかしら。
楽しく盛り上げてくれる斑目さんなのに、一人の時って、ちょっと寂しげなんだね。
そこに笹原さんがやってきた。
「……斑目さん」
「ああ、笹原かスマン、ボーッとしてた」
「お疲れですね。どぞどぞ」
「いやいやアンガト。笹原も飲んでる?」
「はい。いい機会に集まれてよかったスよ。ありがとうございます」
「うん。お前が一番来るの難しいと思ってたから。こっちこそ来てくれてありがたいよ……」
二人並んで夜風に当たって外を眺めてる……のを見ているワタシ。あ〜、いいねえ相手を思い合う男同士の会話って。
かっこいいよね。
笹原さんって、斑目さんの寂しげな雰囲気を察して話しかけたのかな。
ひょっとしてこの二人には、友情を超える密接な関係があったりして……(モヤモヤモヤ〜)。
『斑目さん……』
『ん?』
『久しぶりに、二人で過ごす夜っすね』
『馬鹿。お互いもう妻もいるじゃないか……』
『でも俺……斑目さんのこと……』
『よせよ笹原、もう昔の俺たちじゃあないんだ』
『でも斑目さんは、“僕との事”を忘れられるんですか? ほら、こことか……』
『うっ……』
「……〜なあ〜んてこと言っちゃったりなんかしちゃったりやっちゃったりしてぇ〜!」
思わず広川太一郎のような奇声をあげてしまい、ハッと我にかえって自分の口を塞いだ。なんてはしたない。
両手を口に当てた状態で、ワタシは於木野先生と目が合ってしまった。
淡々とビールをすすってたはずの於木野先生が、「ニヤリ」と笑みを浮かべたのには心底ゾッとした。
先生、ナンですかその笑みは……(汗。
【22】
ワタシが気を取り直しておでんの鍋に向かおうとした時、肩にいきなり柔らかくて弾力のあるモノがのしかかってきた。うおぉ重ッ!
「そういえばさっき、『小説書きで同人活動』って言ってましたよねぇ〜」
頭上から降りかかってきた声は、田中夫人。肩凝るでしょうね……乳がこんなに重いと。
つーかこの先輩はケース2箱分のビールを飲み終え、ワインと焼酎の熱燗を両手に持っている。スゲー酔ってねぇか?
「今まで、なぁに書いてたんですかぁ〜?」
「え、ワタシの……ですか?」
気が付くと、荻上夫人やスー奥様がこっちを凝視してる……。男性陣も和やかにお酒を飲みつつ、何だかこっちに耳を傾けているような気配。うわ、四面楚歌。
「……ワタシ、いわゆる『懐古厨』でして……」
「ふむふむ」
後方から圧迫してくる田中夫人(の胸)。
「あの……その……、『くじアン』とか『ハレガン』とかで……」
「もちろん『801』ですよねぇ〜?」
「あうぅ……(汗)」
田中さんのご主人が、「あ〜やっぱりなぁ」とうなづく。
「やっぱりって、何デスカ?」
「うちの奥さんの『名言』があるんだよ」
「あ〜、『ホモの嫌いな女子なんていません!』って奴?」と斑目さん。
田中夫人は、「また1つ、立証されましたね」と、ただでさえデカい胸を張って得意げだ。
そんなコトの立証のためにワタシは……(泣)。
私たちのやりとりを見ていた笹原さんが語り掛けてきた。
「でも、そうなるには理由がある……ってことだよね?」
「だめですよ。そんなコト聞いちゃ」
「あ、ゴメン」
於木野先生がご主人を押しとどめた。
しかし、続いて恵子姉さんが於木野先生を見据えて、「トラウマで、『藪をつついて大蛇が出る』かも知れねーもんな!?」と皮肉っぽく語った。
昔、何かあったんですか、皆さん。
「で、ソコんとこどーなの?」
今度は恵子姉さんが詰め寄る。酒の席だけに、またも皆さん興味津々のようで……。
「あの、ワタシ中学の時に……」
「ふむふむ」
「あ、お腹痛くなりそ」と、於木野先生。
「好きだった男の子が居たんですが……」
女性陣になぜか緊張が走る……。於木野先生顔色悪いよぉ(汗)。
でも、そんな中でもみんなから、「白状しろ」という圧迫感が。
「……ワタシ、その男の子がほかの男子と……キ キスするのを……見まして」
「え……(汗」
あぁ、みんなの血の気が引く音が聞こえる……(激汗)。
於木野先生が呼吸を整えながら話し掛けてきた。
「……リ、リアルを見たんだ……」
「はあ……。それ以来、仲の良い男性同士とか、アニメや漫画の男性キャラの友情も、『そのフィルター』を通して見てしまって、何でもアリに……」
「いろんな『入り口』があるのね……ある意味うらやま……いやいや(汗)」
さすがに気まずい空気。
斑目さんがそれを振り払うように、陽気に語り始めた。同意が欲しくて田中さんに目を向けつつ……。
「でッ、でも思春期の男って、友情とか連帯感の一環で、軽いホモ願望ってあるよなッ!」
「え、ないだろ」
田中さんアッサリ否定。
久我山さんも首を振る。
激汗の斑目さん。
「もう、黙っていればいいものを、何でこう自爆スキーなんですかね」
笹原さんがフォローに入るけれど、於木野先生と田中夫人がその姿をスゲー嬉しそうに見てますよ!
【23】
斑目さんの自爆でその場が和んだ(?)一方で、クッチー会長が部室のロッカーを開いた。ガサゴソと何かを探してるみたい。
「ど どうした、朽木くん」と、話題を変えたい一心の斑目さんが声を掛ける。
「いや〜、せっかく懐古厨の話題が出たんで、我々の現役世代のアニメを上映しようかなと思いマシテ」
「おお、カノジョの心の拠り所になった『くじアン』なんかどーよ。初期バージョンの方」
斑目さん、ワタシに気を遣ってくれてる……。
「朽木くんビデオあった!? 凄いね〜よく残ってたねぇ。あ〜朽木くん、その隣のテープがいいな。小雪の登場するやつ。そうそれ!」
……斑目さん、実はあなたが「くじアン」見たいだけなんじゃないスか?
早速上映。『♪どちらにしようかな天の神様の云うとおり……♪』
「うわモモーイ懐かしい。UNDER17!」
「僕はこっちの会長の方が……」
「でも作画も作劇も、リニューアル版は頑張ってたなぁ……」
「お金ない中でも演出でカバーしたり……」
「や 山田は……」
みんな口々に作品を語り出す。
そんななか、斑目さんがある話題を切り出した。
「やっぱり、この頃のカップリングの流行は男女とも『くじアン』だったっけか?」
「い いや『ハレガン』じゃね?」
「う〜ん。『旧姓荻上さん』が個人誌出したころは、『くじアン』はもうピーク過ぎてたような……」と笹原さん。
「そんなコトまで言わないでくださいよ!」
於木野先生は実に迷惑そうだが、クッチー会長が追い打ちを仕掛けて、ワタシに話かける。
「知っているか若人よ。ここに居る於木野鳴雪先生は、現視研時代に麦男×千尋本を出しているんダヨ!」
そんな呼び掛けに対してオタの性(サガ)か、ワタシは反射的に応えてしまった。
「『あなたのとなりに』なら、ワタシ、持ってますよ」
【24】
一瞬、水を打ったように静かになるワタシの周囲。
いかん、これ自爆?
直後、於木野先生が、「ええっ! だってあなた、その当時小学生じゃないの!?」と、対面側のワタシの顔近くまで身を乗り出してきた。
ワタシは身を引きながらも、年上の於木野先生の困惑顔アップに、(おっ、カワイイ)と思ってしまった。
ちょっと目線をそらしてから答える。
「あ〜、出た当時は小学生でしたけど。買ったのは高校の時です。『於木野先生の初期個人誌』と聞いて中古で」
「……いくらで?」
「……8千円……」
「ええーっ!」
笹原さん夫妻が同じタイミングで驚き、二人とも腕組みをしてブツブツ何かをつぶやき始めた。
「それだけの額で流通されながら、作者には1銭も入らないとは……」
「結構ショックですよね……」
その時、斑目さんが勢いよく立ち上がった。何だ?
「笹原夫婦は、無遠慮なオタク文化の拡大のために死んだ! なぜだ!?」
「脇が甘いからさ」
「イチャイチャしすぎて周りが見えてなかったんじゃね?」
「ま 斑目自体が、む 無遠慮なオタクな気がするぞ」
「俺らを勝手に殺さんでください(汗」
久我山さんは呆れ顔で、田中さんのコップにビールを注いだ。
「は 始まっちゃったよ、斑目」
「アイツは演説ゴッゴのきっかけが欲しいだけだからほっとけ」
そんな同期のボヤキも聞こえないみたいで、斑目さんはさらに盛り上がってる。
「……この悲しみも怒りも忘れてはならない!それを、荻上さん(旧姓)は死をもって我々に示してくれた!」
「だから勝手に殺さないでください」
「オタクよ立て! 悲しみを怒りに変えて立てよオタクよ! 我らこそ消費社会に選ばれた民であることを忘れないでほしいのだ。 グッズを初版で買い求め、作家を支える我らこそ、社会の利益循環を健全にし得るのである! ジーク・ジオン! 」
「ジーク・ジオン!」
スー奥様が拳を上げて応えてる(汗)。
この夫婦は一体……。
「しかし創作をする人には色々あったほうがいいかもよ。……経験上のある程度の『影』があった方が、創作物にも反映するしね。今度の新人も一筋縄ではいかんなぁ」
田中さんが腕を組んで感心する。こんなコトで感心されてもなぁ……。
【25】
「ま まあ人それぞれ、い 色々あるからね」
久我山さんがフォローしてくれながら、ワタシにおでんのはんぺんと卵をよそってくれた。
久我山さんは車で来ている。自分は乾杯の時にだけビールを一口。あとはジュースを飲み、寡黙におでんをつついていた。
そんな久我山さんに、斑目さんが尋ねる。
「そういう久我山はどうよ。漫画、まだ描いてる?」
「う…、うん。もう、あきらめ時かな」
(え?)ワタシは思わずとなりの久我山さんを見上げる。
「久我山さん……本当にあきらめちゃうんですか?」
「……お 俺は笹原夫婦のように、才能も無ければ、物語を創作したり、構成する力もないし……」
ワタシは小学生の時から、久我山さんに再び会って、お礼を言って、描いている漫画を見せてもらって……、そんなことを想いながら今まできたのに。
「……き 君が8年を過ごしたように、俺にも8年の時間があったんだな……。も もう30越えちゃったし……」
ワタシは、応えようがなかった。
周りがちょっと静かになったとき、恵子姉さんがある一言を発した。
「ねえ、あんたデブ専なの?」
ブッと吹くワタシ。となりの久我山さんもジュースを吹いた。
そんな風に意識したことなんてなかったのに。ワタシは自分の耳たぶまで赤く加熱しているのが自分でも分かった。
「恵子さんはどうしても地雷原が好きですね。でもこのタイミングは酷すぎですよ」と田中夫人がたしなめる。
「だってホラ、空気悪いじゃん。……大体この子、こんなに昔の色紙を大事にしてるんだよ。意識してない方がオカシイって!」
その手には、さっき笹原さんたちに見せたワタシの色紙があった。
ひらひらと色紙を振る恵子姉さん。
「ほら〜久我山さん、今まで大事に取ってあったんだって〜!」
「け 恵子ちゃん、そ それはちゃんと返してあげた方が、い いいって」
「反応それだけ?………」
恵子姉さんは一拍おいて呟いた。
「つまんねーの」
ワタシは恵子姉さんの一言にカッとなった。
「返してください!」
立ち上がって、恵子姉さんの手から強引に色紙を奪おうとした。奪い合って振り上げたふたりの手から、色紙が勢い良く離れていった。
「あ」
色紙は窓際へ飛んだ。窓は開けたままになっていた。
窓枠に当たって、外へと傾く。身を乗り出して手を伸ばすワタシ。
「危ない!」
於木乃先生がワタシの服を引いてくれた。
色紙はひらひらと木の葉のように舞って、夜風に2度3度と流されて闇の中に消えた。
部室は静かになった。
「落ちちゃった……」と恵子姉さん。ワタシは、「ひどいです!」と、にらみつけてしまった。恵子姉さんはやはり気が強い人だ。にらみ返してくる。
田中さんや笹原さんのお子さんたちが、トゲトゲしい空気を察してそれぞれ母親のもとへ逃げ出す。
斑目さんがワタシたちの間に割って入った。
「まーまー、無益な争いはやめて、探しに行こうよ〜」
「先輩は黙っててください!!」
ごめんなさい斑目さん。いつもならこんな風に他人とは目を合わせなけれど、モノがモノだけに、ワタシも引き下がれない。
「本人に見せるのが恥ずかしいなら持ってこなけりゃいいじゃん!」
痛いところを突かれた。でも、あの色紙は久我山さんにお礼が言えても言えなくても、『今日ために』と持ってきたものだ。
「ワタシだって、見せようと思ってました」
「じゃあいつ見せたっていいじゃねーの」
もうダメだ。頭の中がグラグラして視界もおぼつかない。ワタシはうつむいた。
「……8年……」
「ん?」
「8年です……8年待ったんだから! それをあんな風に晒されて……。人のココロ土足で踏みつけるようなものよ!」
ワタシはそのまま部室を飛び出していた。
【26】
サークル棟のあちらこちらに点々と灯る明かりを頼りに、色紙を探した。
こっちに飛んだように見えたのに……。
見つからなくて、ワタシはその場に座り込んだ。
地べたのタイルの1つ2つを、意味もなく見つめていると、視界がぼやけてきた。
涙があふれていた。
今日はなんて忙しい1日なんだろう。
ウキウキして、がっかりして、泣いて、笑って、怒って、また泣いて……。
もう頭の中がぐしゃぐしゃ。ワタシは膝を抱えて、その場にうずくまった。
「現視研……あこがれ、だったのにな……」
「みんなに、嫌われ……ちゃったかな……」
路上のタイルを無感情に、無意味に見つめていたワタシの視界に、不意に何かが飛び込んだ。
「!」
四角い影……、そこには見慣れた絵柄があった。
アレックスと副会長と、山田。
飛んで行った色紙を、誰かが手にしてワタシの目の前に立っていたのだ。
思わず顔を上げるけれど、灯りが逆光になっていて表情はよく見えなかった。
「これ、あんたのでしょ。……ひょっとして現視研の子?」
女性の声。ワタシは思わず尋ねる。
「なんで現視研って分かったんですか?」
「いま、『現視研』がどうとかって独り言いってたじゃん」
あ、そーかと思うワタシに、女性の言葉が続く。
「それに座り込んで黄昏れるなんてドラマじゃあるまいし、いちいち行動がオタクくさいのよアンタらは……。『私一人で苦しんでますーっ』て、いじけた目をしててさ。きっと現視研がらみだって思ってね」
ワタシはちょっとムッとしながら立ち上がった。
それに合わせて向き直った女性に、明かりが照らされる。
……きれいなひと……。
仕事のできる大人の女性だ。於木野先生のガムシャラなソレとも違ったスマートさが感じられる。
少ない明かりに照らされたその顔に見とれながら、つき出された色紙を受け取った。
「……ありがとうございます」
「ケンカしてたでしょ。部室の窓開けてるから、外に丸聞こえだよアンタ達」
うわーぁ、何て恥ずかしい。
ここは、『逃げるんだよォ、スモーキー!』に限るわ。
いそいそと一礼して立ち去ろうとする私は、呼び止められた。
「あ、ちょっと。絵の隅っこのさ、『後輩は編集者になれました』って、ササヤンのこと?」
「ササ…って、笹原さんのことご存じなんですか?」
「まぁササヤン以外もね。あたしもさ、現視研の……まぁ関係者っていうのかな」
「お姉さんもオタクなんですか?」
「…………ぶつよ」
【27】
ワタシとそのお姉さんは、サークル棟の入り口まで一緒に歩いた。
「昔の仲間がさァ、オフィスじゃなくて家の留守電にこっそりメッセージ入れててさ。ありゃワザと呼ばないつもりだったんだな。アイツ『結婚式のコト』まだ気にしてるのか……」
ああ、斑目さんのことかも、とワタシは思う。
お姉さんはさらに続ける。
「しかもクッチーまで『みなさんはドコでしょう?』なんて電話してきてさ。知るかっつうの! それで集まりがあるのかと新宿からわざわざ来てみりゃ、なんか揉めてるし……」
ワタシは歩きながら、これまでの事情を説明した。
お姉さんは黙って聞いていたが、ふと立ち止まった。ワタシも2、3歩先で止まり向き直った。
お姉さんは切り込むように言葉を投げかけてきた。
「1回のケンカでヘコんでんじゃないよ。色紙持って来るってことは、『見せたい』『伝えたい』って思ってるからなんでしょ?」
「……!」
「ケーコはそれがまどろっこしくて、ワザとやってんのよ」
「はあ……」
「あいつもオタクとは違うからな。ケーコの行動にムッとしても仕方がないか……」
そういえば、ワタシはただ自分の気持ちばかりで突っ走ってた。
亥年生まれの猪突猛進。それがここまでやってこれた長所でもあり、短所でもあるとは分かっていたけれど。
「恵子さん、あんな感じの人だから、ワタシとはアプローチの仕方が違うってことなのかな」
そんな風に呟くワタシの頭を、お姉さんがガシガシと手荒くなでる。
「そーゆーこと。みんな違うんだよ。大学生にもなって、でかい図体して、まだ子供なんだ」
「あぅ……痛いです」
「あぅ、とか言うな」
お姉さんは、軽いため息をついてから話を続ける。
「そうやって『見せたい』『伝えたい』『分かってほしい』のに何にもしないんだよねお前らは。寂しがりやのくせに自分から近づいてこないしさ」
ああ、そうかもしれない……と、ワタシは思った。
ちょっと胸の内が苦しいけれど、この人には話せるかも知れない。
「……ワタシ、…ワタシも仲間と同人誌つくったりしたけれど、ワタシのホントの気持ちとか、あんまり伝えたことがなかったです。ホントの友達っていた記憶がない……」
自分の気持ちをこんなに素直に話すことなんて、あんまりなかった。お姉さんは、まっすぐ前を見たまま、少しうつむいた。
何かを思い起こしたようだった。
「昔さ、自分の趣味暴露されて傷ついて、本当の自分を晒すことができなくてもがき苦しんだ奴知ってるよ。逃げ場がなくなると、飛び降りやろうとしてさ」
「…………」
「でも支えたり、ぶつかったりしてくれる奴がいて、おかげで好意を寄せてくれた男にも、自分を隠さずに晒すことができて……。今じゃ幸せそうだよ。好きな漫画描いて。二児の母だし」
「!!」
ワタシの脳裏に、筆頭の人気作家の顔が浮かんだ。
あの人たちも、順風満帆ってわけじゃないんだ。
「だから、ちょっと衝突したくらいでいじけてないで、これからは自分を晒すことのできる『仲間』を作りなよ」
「……はい」
なんて人だろう。とてもオタクとの関わりがなさそうな美人さんなのに、ワタシたちの事を分かっている。厳しいけど、優しい。
やっぱり、この人が『高坂』『咲』さん……?
お姉さんは、煌々と明かりを灯している夜の校舎に目を向けて、両手を広げた。
「まあ仲間なんてスグに見つかるって。こんなでっかい大学だ。きっと1人同じようなオタクが見つかったら、30人くらい隠れてるぞ」
「それなんかヤです……」
【28】
お姉さんは、サークル棟前で立ち止まった。
「さ、あんたは早くいきな。みんなオドオドしながら心配してるよきっと。あいつら気が弱いからな」
「一緒に行かないんですか?」
「うーん……。今、私が行ったら余計に場が混乱すると思うぞ。今日はダンナが一緒じゃないし、みんなとは別の機会に合うわ。それに……」
お姉さんは言葉を濁した後、複雑そうな表情でワタシに問いかけた。
「あのさ、田中加奈子って、来てる?」
「はい。コスプレの人ですね」
「うっ……。じゃあ、やっぱり帰るわ」
「ええーっ!? どうして?」
「いいか新米、私が来てたことは絶対に誰にも言うなよ!」
「はあ」
ワタシは意味も分からずに同意させられた。
なんか弱みを握られているのかしら?
『コスプレ』に反応したところを見ると、だいたいの察しは付くが。
部室に戻るため、3階にさしかかると、階段の踊り場で斑目さんたちにばったりと出くわした。
斑目さんを先頭にして、久我山さん、笹原さんと恵子姉さんが階段を下りてきていた。
笹原さんに押されるようにして、恵子姉さんが前に出てきた。
「……ごめんなホントに。調子に乗っちゃってさ。アタシも探すから」
「あ、大丈夫です。見つかりましたから。ほら……」
恵子姉さんをはじめ、後ろに立ってた久我山さんたちも、ホッとした表情を見せた。その顔を見て、心配かけちゃったなと後悔した。
「私の方こそ失礼なこと言って、ご迷惑掛けてスミマセンでした」
ワタシはみんなに頭を下げた。
斑目さんがパンパンと手を叩きながらワタシ達の間に入った。
「ハイハイハイ! これにて一件落着と」
【29】
宴は終わった。
ユーレイサークルだった現視研に不安を感じていたワタシは、少し気持ちが晴れてきた。
「そうだよね」
ワタシは一人呟いた。先輩方のような仲間を作ればいいんだ。ぶつかったとしても、きっといい方に進むコトだってできる。この先輩方はそうやってここまで来たんだもの。
ワタシは、旧交を温め、またの再会を誓って笑っている斑目さんや笹原さんたちの姿を眺めた。
何とも仲が良く、楽しそうだなぁ。
一方で、田中夫人にコスプレを迫られたり、「ク〜クック」と含み笑いをする外人妻に挟まれて頭を抱えている於木野先生からは目をそらした。
何ともお気の毒。こうはなりたくないなぁ。
ワタシは斑目さんに歩み寄って、手を取って2度、3度とお礼を述べた。
「斑目さんアリガトウゴザイマス! 本当に!」
「い いやあ。俺らの方こそ君をダシに飲んじゃったしハハハ」
今日はこの人に出会わなければ、こんな素敵な気持ちにはなれなかった。
斑目さんの背後、スージー奥様は斑目さんのスーツの裾を掴んでいる。愛されてるなあ。
久我山さんも話し掛けてきた。
「ま まあ、気楽にやりなよ。お 俺もたまに様子を見に来るから……」
「え! お願いします!」
ワタシは嬉しかった。
その脇で、斑目さんや田中さんが驚きの声を挙げた。
「おぉッ! 久我山どういう風の吹き回しよ!」
「お前が卒業以来部室に来るって、ここ8年で2、3回しかないのに『たまに様子を見に来る』だと?」
「きゃー、久我山さんに春到来ですか!?」
田中夫人が立ち上がって叫ぶ。
「せっかく女の子の新会員が入ってきたというのに、OBに取られるなんて、朽木さん残念ですね〜」
「ムダ ムダ ムダ ムダ ムダァッ」
田中夫人やスー奥様がクッチー会長を嘲笑してる。
ワタシにしてみれば、取るとか取られるとか、はた迷惑な……。
クッチー会長も立ち上がる。
「うぬぅ! ワタクシは負けない。クチキマナブは砕けない!」
「砕け散ってしまえ」
恵子姉さん、相変わらず容赦ない……。
【30】
「またいつか」
笹原さんと於木野先生、双子ちゃんたち。
田中さん夫妻とコスプレさせられたお子ちゃま。
恵子姉さん。
クッチー会長。
斑目さん夫妻……。
みんなそれぞれの場所に帰って行く。
先輩方は、こんど、いつ互いに会えるのだろう。
ワタシは、久我山さんが運転する車で、アパートまで送ってもらうことになった。
鍵をあけてもらい助手席に乗って待っていると、久我山さんが運転席に乗り込んだ。
ギシッと、車自体が運転席側に傾いた。
ワタシは思わず笑ってしまった。
「ど どうしたの?」
「子どものころを思い出したんです。病院のソファに久我山さんが座ると、すごい傾くの!」
「ハハハ そ そんなコトもあったっけ……」
車は夜の町を走る。結局、最初の会話と笑いの後、走っている間はお互い何も話さなかった。
ワタシは、「漫画をあきらめる」という久我山さんの言葉を思い起こしていた。
何も言ってあげられないと思った。
車が止まり、ワタシは自分のアパートの前で降りた。
運転席側の久我山さんのそばに立つ。窓を開けて久我山さんが手を振る。
お礼を言わなくちゃ。
「……どうも、ありがとうございました」
ワタシが頭を下げ、足下に目を落とすと、車のエンジンがかかる音がした。
「う うん。じゃあ、が 『頑張ってね』」
この言葉にハッとしたワタシは、肩から掛けたカバンに大急ぎで手をかけた。
「待ってください!」と、今にも走り出そうとしていた久我山さんに声をかける。
そして、『色紙』をカバンから取り出して、掲げた。
「ワタシも椎応に合格しました。『ワタシも頑張るから、君も頑張れ』!」
「!」
「……せめて、エールは返します。久我山さんにもらった力だから、久我山さんの力になれたら、いいなと思います……」
「……うん……。あ ありがとう」
久我山さんは、笑って答えてくれた。
【エピローグ】
「へぇ〜、斑目が父親にねえ〜」
ディスプレイを整える店員に指示を出し、新入荷の服をショーウィンドウの方から眺めていた高坂咲は、携帯電話の向こうから聞こえてきた恵子の声にニヤニヤしながら答えた。
『この前面白かったんだってば、姉さんも来れば良かったのに!』
(お前のせいで途中修羅場だったんだろうが。知ってるぞ)と内心でツッコミつつ、咲は恵子に言い放った。
「のんきなコト言ってないで、お前は早く結婚しろ! もう誰でもいいじゃん」
夫にメールを打ちながらオフィスに戻ってきた咲は、デスクの引き出しを開ける。
もう何年もしまい込んでいた封筒から、1枚の写真を取りだした。
大学を卒業した時の集合写真だ。
今や日々の仕事に充実感を得て、夫とも大学の話をすることは少なくなっていた。
写真に残された懐かしい顔1つ1つを見つめる。
集団の左端には、ポケットに手を突っ込んだ斑目の姿があった。
「楽しかったねぇ……」
表情が、ふっと緩む。
あの夜、サークル棟前で出会った新入生の顔を思い浮かべた。
これから後輩たちが、あの部室で巻き起こすであろう日々のことを思うと、何だか懐かしいような、羨ましいような気持ちになった。
「まったく、オタク(あいつら)って一向に絶滅しないし、次から次に出てくるし、しぶといよな」
毒々しいセリフを吐きながらも、咲は優しく目を細めていた。
もうすぐ開店だ。忙しい一日が始まる。
「現視研もまだ続くのか、もう無くなっちゃうと思ったのに……」
写真を再び机の中にしまおうとする咲。ふと、写真の右上、部室の窓のあたりに、『ある人物』の顔が映り込んでいるのに初めて気が付いた。
咲は寒気を感じながら苦笑いした。
「……無くなるわけ……ないか……」
※ ※ ※
サークル棟の屋上。
猫背なで肩の男が立っていた。
眼下の新緑は目に眩しく、爽やかな風が多摩の緑の香りを運んでくる。
耳を澄ますと、遠いグラウンドから聞こえる運動部員の歓声や、かすかに響くブラスの演奏に混ざって、アニソンが聞こえてきた。
『♪僕らはあいに慣れることはない……』
男の足下、3階のアノ部室で、懐かしのアニメを鑑賞しているのだ。
その音に耳を傾ける屋上の男。その表情は読みとれないが、どこか嬉しそうでもあった。
「会長お願いします!」
「オォ!一度言ってみたかったんでアリマスよコレ。では…『第255回 くじアン再評価会議〜ッ!』」
部室から、陽気な歓声が聞こえてきた。
一時は自然消滅の危機を迎えていた現視研も、新入生を迎え、会長1人、会員1人から再スタートを切った。男女を問わずアニ研、漫研からのあぶれ者や、ヌルくて気の合う仲間をかき集めはじめている。
これから彼女たちは、学内に敵と味方を大勢作りながら日々を楽しむことになるだろう。
屋上の男・初代会長がつぶやいた。
「ふふ。また、風が吹くな……」
現視研復活。
サークル棟に再びオタの嵐が吹き荒れる……のかは、今は誰も知らない。
<おわり>
以上です。長々と失礼しました。
途中で急に眠気に襲われて、1行入れるの忘れちゃったヨ>
>>401 なんとか終了しました。
あとがきは明日にでも。
では、おやすみなさい。
>千佳子の覚醒
コスプレに目覚めちゃったっ!(笑)
それにしても、めがねの人がホントに死んじゃったらどーしようかとひやひやしましたよ。
このシリーズ、それぞれのキャラが主人公になっててすごく面白いです。
でも自分的のはやっぱアンと斑(ry
>となクガ2
あー…読後感がすごく良かった。
咲の出てくるシーンは秀逸ですね。台詞ひとつひとつがすごく心にしみこんでくるようで。
これからもずっと、ずっとげんしけんは続いてゆく。人や状況が変わっても…。
…と、最後のあたりとても感慨深かったです。
ええ話やぁ…。
追記;これ読んだあとにまた「koyuki」読みかえして半泣きになってました。
せつねえ…でもすごくいい…
まったくどうしたと言うのだこの大物ラッシュは。読むのが間に合わねw
わたくし嬉しくて昇天寸止めデスヨ!!
>千佳子の覚醒
おおう!『斑目晴信の憂鬱』のエピローグが今ココに。シリーズ構想まで明かしてくださり期待絶頂。
このシリーズじっくり読ませる語り口と細かい設定で、読む側にも本腰を入れさせる硬派なSSと認識しています。全編読み終えたときのカタルシスが心地よい。
さて感想。異能力者揃いのこの世界観での、コスプレ夫婦の正統後継者・千佳子ちゃんの覚醒話です。一瞬なんに目覚めたのかハラハラしたがw 特にオートリンクよけで漢数字で書くがレス番三六九あたり!
ぬぬ子の不思議パワー、アンスーの謎の宿命に引き続いてのセーラ(ry登場に「幻魔大戦かいっ!」と微妙に間違ったツッコミ入れつつなぜかそういうオオゴトにはならず、世の中はそれでも回ってゆく感じのエンディングに不思議と安堵を覚えたりして。
人の生き死にまで絡めたミステリ仕立ての緊迫感あるストーリーの割に斑目がいつもどおりなので安心して読めるんですな。人が落とさんようなエロゲをオークションで警察に先んじて落とすってお前どんだけ不運やねんwww
あと面白い仕掛けだと思ったのが斑目と田中の繋がり。現実は非情ながらあたたかいものもあるんです的な。田中さんきっとすごく優しいんだろうなアノ時も的な(←違)。
「斑目の失踪時に田中が裏で世話を焼いている」「そのことで斑目は大野さんに顔を合わせづらい」「逆に千佳子はそのために斑目に思い入れが強い」たぶん詳細は明らかにならないだろうけど、こんな設定が物語の暗い側でバランスを取っていると感じる。
今回もアン斑の絆が健在で、こちらのシリーズではこの辺が俺的に興味あるところです。
他の書き手諸氏のセカンドジェネレーション話と違って、このシリーズでは双子たちより旧世代が焦点にある様子。あんまり邪推を重ねて地雷踏むのは本意ではないのでこの辺にしとくが、この目線は楽しみだ。
楽しく読ませていただきました。続きも待ってますYO!
続けてレス。最近感想レスしか投下していない。頑張れ俺。
>となりのクガピ2
ついに終わってしまった。とても満足したし楽しませてもらったがやはり寂しい。こういうとき人は続編を求めてしまうものだが否!俺は涙を飲んでこの完結を心から祝おう。
でも続き書きたくなったらゼヒお願いします作者氏(ォ。
学生の時は8年後なんて、30歳なんてありえない年齢だったし信じがたい未来だったが、けっこうあっさりその地点を通り過ぎてしまって思う。ああ、あんときもまだ青春だったのだなあと。これからの諸君湿っぽくてスマン。
30がらみの年齢になった斑目たちのバカ騒ぎを脇で見ている主人公も、「仲間って楽しい」と感じている。
物語上、この思いは別の到達点へ続いているのでこんな読み方邪道なんだが、でもこの「かつての仲間が集まってワイワイやる雰囲気」がこの話の中心に据えられているのが心地よい。
主人公がクガピーに抱いていた「感謝」も、結婚している斑目たちの間に流れている感情も、実は愛情というより友情なのであろうと思うと切なくもあり、笑えもするし、嬉しくもある。
激烈ラヴまっただなかであっても亭主はギレン演説をかますし、その恋女房も「ジークジオン」とか言っちゃうこの感じこそが「げんしけん」なのだろうと。この飲み会が何年経っても続いていて欲しいと思った。
そしてエピローグを読むだけで彼女はきっと現視研を再び盛り立てていくのだと確信できるし、その物語は続編が書かれなくても確かに存在するのだろう。がんばれ、未来の現視研。
あと、『koyuki』の挿話がちゃんと入るようにしてあるのがまた嬉しいね。そんないい話なのにまた801ワープの餌食になってる斑目が哀れだねwww
いい話をありがとう。
冒頭で頑張れ俺とか言ってたがゆうべ1本上がったんで近いうちに投下させていただきます。
ではまた。
>となりのクガピ2
とても良い完結を読ませていただきました。
となりのクガピーを読んでから久しいと思ったら、もう八年・・・
なわけはありませんが、現実的な時間の流れ以上に時だけが与える
心の推移を感じさせてくれました。
「ワタシ」が妄想するシーンは妙にバカ受けw ガン○ネタやジョ○ョネタ
ふんだんのにぎやかな会話は楽しいですね。
複数での多重奏のような会話を登場人物にさせるの苦手ですのでウラヤマシス。
参考にしたくてウズウズします〜。
セカンドシリーズの感想、まとめてありがとうごさいます、ではまたー
・・・というヘタレはしません (><)
>>375 大丈夫です!! 車反転(おい させてもかろうじて『外道』にならずに?
すんでるかもしれない、ような気がする人がここにいますから!!
物語上の「悪役」でも人間味を与えようとすると、誰でもどこで『外道』
になるか分からないガクブルさはありますねー。
>>406 アンと斑目の物語もガンガリマス。
>>407 色々欲張りすぎて、ネタをまとめきれない感は読み直すと感じます orz
キャラを深く掘り下げるのが好きなので、ネクスト世代をそうしようとして
旧世代を、というより斑目を、彼女たちを通して掘り下げ、浮き上がらせる
シリーズになった気がします。
次回は春奈を通して咲斑を、見つめ最終回に向けてアン、斑の関係を
決済していこうとは思います。
内容の濃い感想をいただいて感謝です!
相変わらず長いレスですが、どうかご容赦ください。
>>406 >咲の出てくるシーン
咲は、斑目たちと別ルートで「ワタシ」に会わせる必要がありました(そのために恵子を悪者にしたことを後悔……)。
「ワタシ」は、斑目たちとの宴会で「現視研の空気」を体感し、咲に説教されることで、その空気を生み出してきた人間の「関係性」を学んでいると思います。
咲の言葉にある「寂しがり屋」は、最初は大野に向けられたものでしたっけ。それを「ワタシ」に継承していくイメージを持ってました。
先輩から大切なモノを継承したからこそ、「これからもずっと、ずっとげんしけんは続いてゆく。人や状況が変わっても…」ということになるんだと思います。
あと、「koyuki」読みかえしてもらえて幸せです。
>>408 作品の投下待ってますよ!
>でも続き書きたくなったらゼヒお願いします作者氏(ォ。
了解です。一応、「個人的げんしけんクロニクル」の中では、以前書いた「妄想少年マダラメF91(1991)」にはじまり、「となクガ2(2014)」までで一応の〆ということになります。
でも「ワタシ」のその後については、「血風編」と「風雲竜虎編」を考えてはいました(オイ)。
「ワタシ」の本名は甲斐志菜乃(カイシナノ)と仮定。2015年に晴れて8代目会長になるも、漫研(駿河会長)、アニ研(小田原会長)、サークル自治会(北川(!!)越子自治会長)の圧迫を受け危機に陥る。そこにOBが助っ人に………。
まあ、
>>406氏へのレスにあるように「継承」は済んだので、コレ書いたら蛇足なんでボツです(w)
(
>>408氏へのレス続き)
>30がらみの年齢になった斑目たちのバカ騒ぎ
本当なら「劇画オバQ」なみに世知辛い話になりそうなんですが、現視研はいつまでも現視研でいて欲しいと思い、年を経た感傷的な部分は抑えめになりました。
>亭主はギレン演説をかますし、その恋女房も「ジークジオン」とか言っちゃう
9巻にあるんですよね〜斑目の演説に対するスーの「ジークジオン!」。アレは9巻の個人的「3大斑スーフラグ」の1つです(w
>>409 >現実的な時間の流れ以上に時だけが与える心の推移
イイ表現ですね。
駄文を書きためて気付いたのですが、自分のSSは、「時の経過」をテーマにしたものが多かったデス。
斑目が昔の斑目と遭遇したり、荻上の「2年前の私に言ってやりたいです。笹原さんとつきあうんだよって…」を実際にやらせてみたり、「となりのクガピ」も「2」と合わせることで8年の時間の経過を表してたり……。
昔のお酒のCMじゃないですが、「時は流れない。それは積み重なる」ってことを軸にして、失敗も涙も経験として得たモノが後に生きてくるってことを「書いている自分が信じたい」のだと思います。
やっぱり時間モノだけに、「千佳子の覚醒」にも表れている要素かなと…。
>>407氏の論評にある通り、斑目とネクストジェネレーションの関係性の陰にある、田中夫妻とのかかわりとか……。
長くなりました。どうもありがとうございました。
412 :
マロン名無しさん:2007/02/08(木) 11:40:48 ID:Gne0Aeoc
フデアゲ
フデサゲ
414 :
408:2007/02/08(木) 17:38:21 ID:???
そんなわけで来ましたよ。
ここんとこ長編やら大作やらのラッシュで読み手としてはホクホクでございます。んが、いざ書き手として作品を完成させるとレベル違いのあまり投下に躊躇するという恐ろしいスレと化しているのに気づいたw
まーそうは言っても他に読んでもらう場所もなく。流れも一息って感じなので行かせていただきます。小モノ軽モノ作者諸氏いまがチャンスだぞ。
『さくら、さく』、本編9レスにてまいる。いざー。
「……あれ?斑目だけ?」
「ん、ああ。春日部さんが一番乗りだな」
現視研のドアを開けて顔を覗かせたのは春日部咲だった。斑目晴信は読んでいた同人誌から目を上げ、少し戸惑いながら質問に答えた。
先ほどのドタバタから1時間弱。壁の時計の短針も、もうずいぶんと下を向いていた。
「って高坂くんは?一緒に来るんだと思ってたけど」
「また会社から電話でさー。まあ30分で片付くって言ってたから先に来ちゃった」
卒業式の袴から普段着に着替えた咲は、斑目に説明しながらパイプ椅子を引き出して座る。
「大野とクッチーは?荻上はササヤンと一緒なんだろうけど」
「さっき田中から電話あって迎えに行ったよ、大野さん。朽木くんは居酒屋へ先乗り」
同人誌を閉じて言う。
「ちなみに恵子ちゃんも朽木くんと一緒ね」
「え〜?ありえねえ組み合わせ」
「笹原たちとは一緒にいたくねーんだと。憎まれ口だったけど気ぃ遣ってんじゃねーか?」
「ふえー。あいつも成長したもんだ。それであんたが留守番してたの?」
「そゆこと」
「OBなのにねー」
「春日部さんだって本日をもってOGじゃないスか」
「へーん。あたしは誰かみたいに毎日毎日部室に顔出したりしないもーん」
「新宿からじゃ大変だもんな」
春の始まりの、暖かく明るい空。日差しは入りきらないので蛍光灯を点けているが、自分の左前方で携帯電話をいじっている咲は、斑目の目には本人から光を発しているかのように見えた。
「春日部さんの店って、4月に入ったらすぐオープンなの?」
微妙な間に耐えられず、世間話を続けようと試みる。メールチェックを終えたらしい咲は斑目に笑いかけた。
「なに、花輪でも送ってくれんの?」
「え。そんなこと考えもしなかったスよ」
「あはは。うん、4月1日からグランドオープンね。明日からもうプレオープンなんだけど」
「へえ、大変だね」
「うん。でも楽しいよ」
「そか」
春の空気に包まれる小さな部室。二人でいるだけで暖かく感じるのは気温のせいだけだろうか。
ふだんなら何ということもない偶然で片付けるこれも、今の彼には特別なものを意識せずにおれなかった。
――なんでまた。
斑目は思う。どうしてまた、今日という日にこのひとと再び二人きりになるのだろうか。……全部終えたと思っていたのに。
彼女に自分の思いを告げ損ねた日。もう10日以上も前になるだろうか。あの日からしばらく、彼は寝不足の日々を過ごしていた。
たとえば後悔。あるいは安堵。
恋人が、それも身内にいる人に恋してしまい、自身の小心な性格とコミュニケーションに不慣れな経験値が、何度かあった絶好の機会を全てフイにした。
それをネタに、ベッドに入るたび頭の中で自分自身が会議をはじめるのだ。「第○回・どうして俺は春日部さんに告白できなかったのか会議」を。
『はじめから結果が覚悟できる鉄板レースだというのに、自分の経験値を上げる絶好のチャンスを逸した』心の中の自分が責める。
『おかしな波風を立てずに予定調和を演出できたのだから、彼女のためにもこれでよかったのだ』もう一人の自分がとりなそうとする。
見ている斑目はどちらもなにか違うと思いながら、しかし二人の自分に反論できない。指を加えて延々続く自問自答をながめながら、気付くと夜が明けているのだ。
「会議」が10回を超えたころ、結局自分には『想いを打ち明けない』という選択肢しか初めからなかったのだと考え、すでにゲームオーバーになった恋愛シミュレーションを反芻することが自分の人生であったと結論付けた。
なぜなら、もう『チャンス』はないのだから。
……そう思っていたのに。
「……春かあぁ〜」
体内に膨らむ重苦しい溜息を、間の抜けたイントネーションに隠して吐き出す。
「ナニそれ」
「いや、笹原や春日部さんたちが卒業とはね、と感慨深い一瞬ですよ。こないだもこんな話、してた気がするけど」
「あー。そのこと思いださせないで」
先週のコスプレ撮影会の記憶がよみがえってきたのか、頬を染めてテーブルに突っ伏し、じたばたと足を踏み鳴らす。
「いーじゃないスか、田中と大野さんと春日部さんだけの秘密なんでしょ」
「お前も見たじゃんかよ、ちょっと」
「ちょっとだけっすよ」
「大野また写真売り付けたりしてないだろうね?買ったらブッ殺すかんな」
「買ってねえよ!殺すなよ!オタクにも五分の魂だよ!」
「そんならいいけどさ。――っと」
メールの着信。咲は液晶を一瞥し、眉根を寄せた。地団駄がいっそう激しくなり、テーブルがガタガタと鳴る。
「あーもう。コーサカぁ」
「どうしたの?」
「居酒屋直行するって。もうちょっとかかるんだってさ」
「ありゃー」
咲はしばらく携帯電話を見つめていたが、ふとなにか思い立ったように斑目を振り返った。
「斑目、あたしらも行っちゃわない?店」
「え?」
「コーサカ待ってるつもりだったけどそんなら部室いる意味ないしさ、クッチーたちと合流して先に飲んじゃおう」
「はあ?なんだソレ」
「笹原と大野に電話すれば伝わるでしょ?この程度の予定変更」
「や、まあ、確かにそうだけど……」
ちょっと考えてみる。彼女は恋人が期待通りに動いてくれないのでウサを晴らしたいのだろう。だが、飲まなきゃやってられない気分というならそれはこっちも同じだ。
それにそうすればもう少し、たとえば居酒屋までの道行きを二人きりでいられるかも知れない。
「んー、じゃそうすっか。考えてみりゃ笹原も大野さんも学校寄ってたら遠回りだもんな」
「ハナシ判るじゃん。また斑目ってば動くのにいちいち理由つけてるけど」
「ウッセ」
咲は嬉しそうにテーブルに手を突き、立ちあがりかけて、そこで思い出したように尋ねる。
「あれ斑目、そう言えば部屋の鍵持って――あ」
が、その言葉は途中で止まった。咲の動きも一時停止ボタンを押したようにストップする。
「……どしたん?鍵なら持ってるよ」
「あれ?ちょっとごめん、スカートが引っかかっちゃったみたい」
「え、平気?」
古い会議テーブルのがたつく金具に、生地が挟まってしまったようだ。歩み寄ろうとする斑目をしかし、咲は片手を上げて制止する。
「あ、あー、ちょっと来ないで、だいじょぶだから」
「えっ」
「このスカート、ゴムとリボンで止まってんの!」
外そうとすると服がずれてしまうというのだ。斑目は仕方なくもとの位置に戻り、だが椅子に座り直すほどのこともないと考えて立ったまま腕を組む。
「……さすがオタ部屋」
「へ?」
「あはは、アレだよ春日部さん。きっとテーブルが別れを惜しんでるんだ」
「えー?」
「この部屋で唯一まともな人だったじゃん。きっと『テーブルたん』もそんな春日部さんに行って欲しくなくって、思わず服を掴んでしまったと」
「うっわ、ここで来たか、その『ナントカたん』っていうの」
……どうして。
どうして『好きだよ』と言えないのか。
ふと、そんな疑問が湧いて出る。
無機物ですら、今のようにストレートに『行かないで』と言えるというのに。
「擬人化って言うんだよね?お前らアニメや漫画じゃ足りねーのかって感じ」
テーブルと格闘しながら咲が言う。
「そう言いなさんな。付喪神信仰は太古からあった人間の精神文化だ」
「でもそれを『萌え〜』とか言っちゃってるのは現代日本のオタだけでしょ」
「そのテーブルがむっさい男だと思い込むよりよほど健全デスヨ」
「キモいのには違いねーよ。えーと、……あれ?あれ?どうなってんだ?」
斑目の言葉を聞き流しながらスカートを救出しようとするがうまく行かない。立ちあがった勢いで布が深く食いこんでしまったらしい。咲はテーブルの上が空いているのを見て、その脚を持って持ち上げた。
「ウワ春日部さん?危ないでしょ」
「大丈夫だよ、ちょっと持ち上げるだけだし。って斑目、こっち見んなって!」
「そんな事言ってもなー」
ふらふらと揺れるテーブルが危なっかしく、彼は咲に近づこうか否か逡巡する。
「生地が傷んだら可哀想じゃん、あたしだって困るし。――あ、判った、こうだ」
脚の根元で布をつまみ、くるりと回すと、ようやくテーブルはスカートを離した。
「あ、斑目あんがとね。もういいよ」
「なにがモーイーヨだ」
テーブルを元の位置に戻そうとした時……咲の手がテーブルから滑り外れた。
「!」
「きゃ!?」
「かす――っ」
ガタンッ!
テーブルの脚が床に落ち、大きな音を立てる。その横に駆け寄った斑目は……。
……咲の体を抱きとめていた。
「――かべ、さん……」
脳内で、年末の記憶が蘇る。酔った彼女がふらついたのを引きとめた、あの時以来の触れ合い。……そして。
「だいじょうぶ……?」
そして俺の生涯おそらく最後の――正真正銘最後の、春日部さんのぬくもり。
「……は……ははっ。あ、ありがと、へーき」
目をしばたたかせ、至近距離で笑いかける咲に、斑目は自分の熱が上がるのを感じた。
そうだ。
こんなにあたたかい春なのに。花咲き誇る春なのに。
なぜ俺一人、散りぎわにこだわるような真似をしているのだろう。
明日から、ひょっとすると二度と会えないかもしれないこのいとおしい人に今、俺はなにができるのだろうか。
「……斑目?」
咲の体から手を離せない。その時間をいぶかしく思ったのか、咲は彼に聞いてきた。
「あ……ゴメ……っ」
口では詫びるが、両腕から力を抜くことができない。
「ご……ごめん……ちょっと、待って」
やっとの思いでそれだけ口にする。もう咲の顔を見ることもできず、彼はうつむいたまま目の前の人の細い腰を抱いていた。
「……うん」
ふわり。
肩に体温を感じ、彼は目を上げる。さっきと変わらない優しい笑顔が……彼の肩に両手を回していた。
「春日部さん……?」
「うん」
至近距離にある相手の目を覗き込み、その時、解った。
彼女は知っているのだ。この俺の、この想いを。
嫌悪でもからかいでも困惑でもなく、――期待と自惚れを込めて言わせてもらえばおそらくは彼女の優しさゆえ、気づかないふりをしてくれていたのだ。
見透かされていたことを……この苦しい想いを伝えられず煩悶する姿をずっと見られていたことを、恥ずかしいとは思わなかった。悔しいとは感じなかった。それら全てを包み込んだ彼女の手のぬくもりが、ただ嬉しかった。
「……俺……、さ」
「うん」
「春日部さんのことが……好きなんだわ」
「……うん」
言葉は自然に紡ぎ出された。
なぜ今まで言えなかったのかと、自分でいぶかしむくらいに。
自分は泣いてしまうんじゃないかと思ったが、涙は出なかった。むしろ、彼女に伝えるべきことを伝えることができた喜びに、頬が緩んでいるのが判る。
他にもいろいろ言いたいと思ったが、不思議とそこから先は言葉にならない。結局何も言わず、あらためて彼女を抱く腕の力を強めた。
「斑目……ありがとね」
彼を抱き締め返しながら、咲は言った。
「言わないつもりだったんだよね?言ってくれて、ありがと。あたしからは他になんにもできないけど、あんたが打ち明けてくれたってこと、とっても嬉しい」
他になにもできない……それがすでに彼女の答えだと気付いた。『覚悟のできる鉄板レース』でこのダメージか、と、判っていても心をかき乱す彼女の言葉に打ちのめされながら思う。
「……いや、いいんすよ。言えるチャンスが来ただけっスから」
「あたしも、今の斑目は嫌いじゃないよ」
「春日部さん――」
「むしろ好きなくらい、かな。だから、あんたには誠心誠意応えることにする。あたしは今、コーサカのことしか考えらんない。ごめんね、斑目」
高坂の名前を口にするだけで、咲の瞳の色が変わる。愛する人のことを考えるだけで、人はこんなにも美しく輝くのだ。
斑目は、咲の想いがどれほど強いか見せつけられたような気がした。
「……くはぁ。やっぱ、はっきり言われるとキッツイなあ」
咲を抱く腕を緩めながら……それでも、彼は笑顔を浮かべた。
「でもまあ、いいや。俺にしては上出来じゃないっすか?」
彼の笑顔につられて、少し心配そうだった咲も笑みをこぼす。
「うん。斑目、オトコだった」
「マジか」
「カッコよかったよ」
「ヤリィ!」
大げさにガッツポーズをとる斑目に背を向けて服を直し、咲が再び振り返る。
「どうする、そろそろ行く?それとも、……もう少しここにいる?」
「んー、そうだな」
少し思案してみる。後半は彼女の気遣いだろうが……。
窓の外に気付くと、午後の陰り始めた日差しに桜の花びらが舞っている。
ふと頭の中に、陳腐なフレーズが浮かんだ。――さくら、ちる……か。
……いや。
「んじゃ、行こーぜ」
「あれ、立ち直ったの?意外と根性あんね」
「なにをおっしゃる。体力ゲージなんかとっくにゼロですとも」
あらためてポケットから鍵を取り出し、咲の目の前で振ってみせる。
「ムシロ俺も飲みたい気分ってワケっスよ」
「あ、そーゆーことね。あはは、ほんじゃ行こっか」
「おう」
二人で部室を出て、ドアを締め、鍵を掛ける。
前を歩いてゆく咲について行きながら、斑目は部室を振り返った。
いま閉めたドアの、その向こうの、窓のまた向こう。日差しに踊る薄桃色の花弁。
いや、違う。
「どしたの?」
「ん、最終確認。いま行くわ」
さくら、さく、だ。
さっきの告白の行方の話ではない。俺の心で少し遅く、桜の花がいま咲いたのだ。
――しかし、アレだな。斑目は思った。
いっぺんフラれたぐらいじゃ、俺はあきらめ切れないってことじゃねえか。なにが春日部さんのためだ。彼女にしてみりゃメーワクな話だよな。
……だけど、しょうがねえよな。マムシ72歳、なにしろ前世がヘビなんだから。
彼は軽く笑うと、少し先を行く愛するひとに……これからも自分が追い求め続けるひとに並ぼうと歩を早めるのだった。
おわり
以前絵板でこんなハナシをしまして。追いコンでの斑目の疲弊ぶりは飲み会前になにかあったんじゃなかろうかと。そんなあたりから膨らんだSSでございます。
「斑目告白話」は俺自身初めて書き上げたがまー難物!過去に作品をものした皆様の筆力っつうか妄想力に感嘆するばかりっすわ。
まあようやく俺的にプロットが落ち着いたので投下。お気に召していただければいいんだが。
タイトルとストーリーの軸は多分知らない人の方が多いアイドルユニット「てん・むす」の同名曲。これでもかのSPEEDの後輩にあたるんよw
いい個性のキャラが揃ってたし、曲も詞もいい歌なんだけどね。歌唱力とダンススキルを度外視すれば。ってソレでは以下略。
ではまた。
>さくら、さく
グッドですよグッド! グ〜〜〜〜〜〜〜〜ッドゥ!
切なくて、それでいて爽やかなお話。斑目の心象を桜になぞらえた所も美しくてヨカッタです。
何より、内面で悶々としていた斑目が、咲が気付いていることを知り、自然体で告白ができたあたりは、読んでいて悶えました(w)。
確かに、このエピソードを踏まえて9巻巻末おまけマンガを読むと、スゲー萌えます。
特に9巻ラストで、大野オギー恵子が訝しむなか、咲の「ん?」で終わるアレを思うと、部室であんなコトがあった後の表情だけにニヤケちまうよホント(w)。
>……だけど、しょうがねえよな。マムシ72歳、なにしろ前世がヘビなんだから。
ここは好きなフレーズです。
一度の玉砕では諦め切れない。そうか、そうだよなと妙に納得。確かにそれで世界が終わるワケではないのだから。
そんな、陰に落ちないラストもステキです。
気持ちのいいお話、ゴチソウサマでした!
やっぱり、斑目物の王道は咲よのう!
426 :
うすびぃ:2007/02/10(土) 01:25:50 ID:N2P3Ar/Y
ペンションの風呂場にて
笹原 「パンツplease」
ダラさん「へ?・・・私の・・・履くの? (ぱんつ?ズボンのことか!?いややはり下着?普通
貸し借りしねーだろ?俺が卒業して笹原の代になって変わったのか
げんしけん・・てか俺ブリーフしかねえぞってかお前100パーセント
英語!ってかお前荻上さんに告白するんじゃ・・春日部さんたちの話は間違いだったのか!
てか仮に荻上さんに告白するとしたら俺のパンツも笹原の一部として告白ってバカか俺は)」
成田山にて
咲ちゃん「あれ?待っててくれたの・・・それって結構キモイかも」
ダラさん(わかってた・・・俺はこのまま何も言わなければそのまま終わるってこと
で安心できるって)
大野さん「今言わないでどうするんですか〜咲さんに告白するんですよ〜!///
マダラメさんは//咲さんが//好きすき好きなんですから!!」
アンジェラ「Hナノハイイコトヨ///」
朽木 「ちくわちくわです 春日部女史をちくわだと思って告白するんです」
スー 「ココハネパパトママガハジメテアッタバショナノ」
ダラさん ガビーソ(酔っ払いたちにこんな形でばらされるとわ・・
もっと綺麗に散りたかったヨ)
お・・・笹原 どした?」
笹原 「マダラメお座り!!」
ダラさん「(はーあったけー頭の後ろのぷよぷよが・・フフッ春日部さんに
プヨ2教えたっけ・・それもいい思い出だ・・・・ハッ
ズボンの隙間から見えるそのパンツわ!!!!あのときの俺のパンツ!ってか
お前・・なんで正月なのに短パンなんだよ!上セーターなのに!
まるでのび○君じゃねえか!!・・・フッわかったよ笹原。俺はお前に見透かされていたんだな
「マダラメ」として生きていくよ。ただいま笹原)」
笹原 「ニヤ お帰りなさい」
ダラさん(ふっ括弧の会話もお見通しなんだな。笹原よ。最初から盗まれていたんだな俺の心は
帰ったらネクタイで縛ってもーらおっと♥)
427 :
うすびぃ:2007/02/10(土) 01:27:14 ID:N2P3Ar/Y
大野さん「ウフフ・・・って話なんですけど」
荻上 「帰って下さい。〆切忙しいンで」
>さくら、さく
胸がいっぱいで言葉が出てきません
自分自身、試行錯誤してきますたが、こんな話がずっと書きたかったのです
こうして読めてすごく幸せでした。ありがとう。
>大野さんの妄想(?)w
>仮に荻上さんに告白するとしたら俺のパンツも笹原の一部として告白ってバカか俺は
ここがおもろいwwwSSならではwww