#92 怪異・ムラサキババア の巻
夕方五時、隣町の小学生が恐ろしい形相をした老婆に包丁で襲われた。
紫色のタオルを持っていた為かろうじて命は助かったらしい。
彼を襲った老婆は「ムラサキババア」と呼ばれ、紫色のものを見ると逃げ出したり、
「ムラサキムラサキ」と唱えると消えるなどと噂されている。
この噂を聞きつけた我らがぬ〜べ〜クラスの生徒達は、みなそれぞれに紫色の物を身につけて登校した。
中には悪趣味な物もあり、教壇に立つぬ〜べ〜の目が痛む程で、トーン貼りも大変だ。
ムラサキババアの話はただの噂話だとぬ〜べ〜は言い放つが、それに反論して美樹が
ぬ〜べ〜得意の構図でムラサキババアについての解説を始めた。
元々ムラサキババアはとても孫思いの老人で、毎日五時には校門まで孫を迎えにきていた。
ところがその孫はいじめられっこで、いじめられた拍子に頭を強く打って亡くなってしまった。
しかし、老人が「孫は殺された」といくら訴えても回りは信じてくれず、それどころか
事故死だったんだと言い聞かせる始末。
「お前らの話はもう聞きたくない」 老人は誰の話も聞くまいと自分の耳を切り落とし、そして死んだ。
それから老人は霊となって各地の学校に出没し生徒を無差別に切りつけるようになった。
それが、ムラサキババア。
それがなんでムラサキなのか?ぬ〜べ〜の問いに美樹は答えられない。
いつものようにただの噂話と一笑に付すぬ〜べ〜だったが、生徒達から離れるとその表情は一変した。
校内に邪悪な何かが近づいているのは確かなようだ。
放課後、その妖気を辿り霊視をすると傷んだ包丁を構える老婆の霊が現れた。
半鬼化しているが、哀れな不浄霊なので成仏させてやろうと経文を唱える。
ムラサキババアは突然ぬ〜べ〜に切りつけてきた。
よく見ると彼女には耳がない。その為、経文が聞こえていないようだ。
美樹が話した噂話が思い出される。あれは本当だったのか…
なおも襲い掛かるムラサキババアだったが、ぬ〜べ〜の傍らの夕顔の花に気がつくと途端に姿を消した。
夕顔の色は紫。これまた噂通りだ。この事からぬ〜べ〜は何か思いついたようだ。
図工室に郷子をアシスタントとして呼び、絵の具で様々な色の調合をするぬ〜べ〜。
白は純粋、赤は情熱といったように、色は人間の心にいろいろなイメージを与える。
「色霊(しきだま)」といって、一色一色に宿る色の霊が人間の心に自分の色の持つ意味も伝えるからだ。
現代でもカラーコーディネーターによって商品のパッケージなどによく利用されているが、
太古の呪術者はさらに細かく色を分け、色によって文章を伝える事さえできたのだ。
そう言って、ぬ〜べ〜は「お前の母さんでーべーそー」と実演して見せた。
五時になり下校する広・克也・まこと・美樹。他の生徒は噂を恐れてとっくに下校済みだ。
紫色の物を身につけてるから心配ないと広は楽観的。
突然現れたムラサキババアは、そんな広に包丁を突きつける。
さっそく「ムラサキムラサキ」と唱えながら紫色の物をムラサキババアに次々と投げつけるが、
消えるどころか切れてますます暴れだした。
紫色の持つ意味もわからず何度も使った為、慣れてしまったようだ。
生徒達はぬ〜べ〜に導かれて校舎に逃げこんだ。ぬ〜べ〜には考えがあるようだ。
生徒達を追って校舎内に走りこんでくるムラサキババア。廊下の両側には色のついた画用紙が
何枚も貼られている。ぬ〜べ〜は色霊によってムラサキババアに経文を伝えようとしているのだ。
─迷える 魂よ 安らぎの光のもとへ─
耳を閉ざして死んでいった老人に経文は聞こえない。だから目で見る色で伝えるのだ。
いよいよ仕上げ、ムラサキババアを教室に誘い込むと、そこには紫色の夕顔がいくつも置いてあった。
─ムラサキ(成仏)─ ※紫は色霊であの世・神などを示す。
正気に戻り優しい顔になった老人の前に輝く、あの世からの迎えの光。それは紫色をしている。
紫は確かにあの世へ導く色だが、それだけでは成仏させられない。ただ恐がらせるだけだ。
ちなみに、ぬ〜べ〜の色霊はいつも「赤字」の「赤」なのでした。