#88 天邪鬼 の巻
天邪鬼─ひねくれものの子鬼で、なんにでも逆らう妖怪である。
それは人の心に巣食う妖怪で、取り憑かれると同じようにひねくれた人間になるという
そしてここにも、同じようなひねくれ者がひとり…
ぬ〜べ〜クラスの生徒達から追われる新顔の生徒。妖怪に取り憑かれてるからと追われているようだ。
0能力者ぬ〜べ〜にそそのかされたんだろう、変な学校に転校してきちまった。と、なかなか口が悪い。
その0能力者に回りこまれ、除霊を受けることとなった。ぬ〜べ〜の方が余程妖怪みたいだが…
転校生の胸に鬼の手を突っ込み、そこから子鬼を取り出す。それはまるで不細工な縫いぐるみのようだった。
除霊が済むやいなや、転校生はぬ〜べ〜を殴りつけて逃げ出した。かなりの乱暴者だ。
「あれで一応 女 だってんだから」と、日頃郷子の暴力に慣れている筈の広も呆れ顔。
今回除霊した妖怪は危険だということで、生徒達はその姿をよく拝む事はできなかった。
興奮冷めやらない転校生:小林由香は、なぜこんな事になったのかとここ数日の出来事を思い返してみた。
クラスに紹介された由香は活発な恰好をしており、クラスメイトも皆「男みたい」との感想を口にした。
そんな由香の最初の挨拶はアカンベー。一言も口を聞かずに席に着いたのだった。
その後、クラスメイトから何か話しかけられるたびに揚げ足を取ったり困らせるような事をして
早くも最悪の心証を与えていた。
教室の前を通りかかると、皆で自分の悪口を言っているのが聞こえた。
それに答えてぬ〜べ〜曰く、由香には天邪鬼という妖怪が憑ついているのだと。
それじゃあ除霊してあげなきゃ、となったところで見つかり、先程のドタバタ劇と相成ったのだった。
「変な学校に来ちまったぜ…」
除霊して少しは素直になっただろうかと、美樹と法子が由香に声をかけてみる。が、結果は変わらず。
「何が天邪鬼だ、あんな縫いぐるみ…俺のひねくれは生まれつきだ」
その後もひねくれた行動を繰り返し、皆が困るのを見て喜ぶ由香。廊下でぬ〜べ〜と会っても目をそらす。
ちっとも変わってないとぼやく郷子、もう少し様子を見ようとぬ〜べ〜。
放課後、仲良し同士連れ立って帰る生徒達を見て由香は思う。
あの天邪鬼が本物で、心が素直になったのなら、自分にも友達ができるかな…と。
が、やっぱりあれは縫いぐるみだ、バカにしやがって。と思い直すのだった。
歩道の片隅、小さな地蔵の前にクラスメイトの男子が集まって何事か話している。
この地蔵はぬ〜べ〜が童守寺の和尚に頼んで作らせたもので、
お陰でこれまで頻発していた事故がぴたりとやんだと言う。
「じゃあ、これどかしたらまた事故おこるかな?」
この縁起でもない冗談を聞き、由香の顔にひねくれた笑みが浮かんだ。
由香は広達の目の前で、この地蔵を蹴り倒して行った。途端、由香の目の前にトラックが突っ込んできた!
間一髪で助けてくれたぬ〜べ〜が念じると、多くの人面が連なった悪霊が姿を現した。
これも縫いぐるみかと問うが、そうではないらしい。
交通事故で死に、次々と新しい人を引き込む地縛霊だと言う事だ。
経文と鬼の手で鮮やかに除霊を済ますぬ〜べ〜を見て、これがトリックではなく現実だと由香は理解した。
それじゃあ、天邪鬼も本物だったのか?当たり前だ、何を今更とぬ〜べ〜。
「この霊能力教師 鵺野鳴介のクラスで起こる事は
どんな不思議な出来事も全て本当の事なんだ」
次の日、すっかり由香を嫌って遊びに誘ってくれないクラスメイトに対し、
由香は自分からボールを用意して積極的に輪の中に入っていった。
その様子を見守り微笑むぬ〜べ〜。
全てが妖怪の仕業だと思えば、皆わだかまりなく仲良くなれるだろうと。
もう少し裁縫の才能があればもっと早く騙されてくれたかな、と一人ごちるぬ〜べ〜の手には、
ギャーギャーと音を発する自作の粗末な子鬼型縫いぐるみが握られていた。