輪廻転生─… 人は死んだ後別人になって生まれ変わる。
その時前世の記憶は失われるが、まれに前世の記憶が残っている事がある。
小学生が初めて筈の町で「ここに住んでいた事がある」と、町の地理を事細かに言い当てたとか、
「死後双子に生まれ変わる」と言っていた友達が死に、数年後、街角でまだ口も聞けないような
双子の赤ちゃんに声をかけられるなど、このような奇妙な話は後を絶たない。
前世の記憶 それはある日突然よみがえる。まるで神のいたずらのように。
立野広─3歳のとき母が病死、今は父親と二人暮しである。今日も元気に登校する広を呼び止める声。
「しばらく見ないうちに…お大きくなったねえ…」
広の母と名乗るその女性は、さくら組のかとうれいこちゃん。どこからどう見ても幼稚園児だ。
#45 前世の記憶 の巻
突然おかしなことを言い出した女児に、この子の母親も困惑している。広はダッシュで逃げ出した。
3歳で死別した母親の事を、広は殆ど覚えていない。仮に本物が生き返っても実感は湧かないだろう。
母の愛に飢えていると思われる広に、美樹は巨乳でアプローチ。まだあきらめてないようだ。
教室に入ると、先程の園児が広の机を掃除している。
掃除しながら「男手で育てるとだめね」と言い放つその様はたしかに一児の母といった風情だ。
幼稚園はどうしたのと注意するぬ〜べ〜にもしっかりした態度で挨拶。ぬ〜べ〜も思わず納得してしまう。
広が問い詰めると、広に会いたくて生まれ変わってきたのだと言う。
幼児の話にしてはできすぎている。ぬ〜べ〜達は調査に乗り出した。
広が小さい頃住んでいたボロアパートを訪れた。
れいこ曰く、父ちゃんと新婚時代をすごした懐かしのスイートホーム。
空き家になってるので大家さんを訪ねようかと言っていたら、れいこが鍵の隠し場所を言い当てた。
中に入ると部屋の配置から天井のしみの数まで…って、なんでそこまで?
「天井のしみを数える間に終わるよ」 父ちゃんとの初めての夜を思い出し、れいこは赤面する。
とりあえず嘘をついている様子はない。
れいこは床の傷を見つけた。これは広が台所でいたずらした時のものだ。
調理器具が落下して、広が怪我するんじゃないかとヒヤヒヤしたものだ。
その話なら広も父ちゃんから聞いて知っている。その時、母ちゃんは右肩に怪我をして…
広は目を疑った。上着をはだけたれいこの肩に、しっかりと傷が残っていたのだ。
だが、それが証拠になるわけじゃない。れいこのお母さんと呼んでという言葉を広は拒絶する。
と、ぬ〜べ〜が鬼の手の封印を解き、れいこの頭に触れた。
霊魂の思考を読み取るこの方法は生きた人間にも有効なのだ。
もっとも、プライバシーに関わるから滅多にやらないが。
結果、れいこの言葉に嘘はなかった。
この子は確かに広の母親の生まれ変わりで、しかもその記憶が鮮明に残っている。
となると、これは親子の間の問題で、ぬ〜べ〜が口を挟む余地はない。母ちゃんは広を連れて行った。
「しかし…あまりにも前世の記憶が強すぎる!これでは幼稚園児としてのあの子の人格が…
かといって無理に引き離すこともできないし、今しばらく様子を見るか。」
広を連れ出した母ちゃんは、今まで何もしてやれなかった分広を思い切り甘えさせた。
服を買い与え、メリーゴーランドで遊ばせ、豪華な食事をご馳走し、トイレの世話まで。
しかしハタから見ると奇異そのもので、広が妹に横暴を働いているようにも見える。
ひとしきり連れまわして公園で休憩しながら、母ちゃんは改めて母と呼んでと請う。
あくまで拒絶する広。母ちゃんの顔が曇る。そんな母ちゃんに、ぬ〜べ〜が声をかけ何事か耳打ちする。
母ちゃんは、広が元気そうで安心した、思い残す事はないと、ぬ〜べ〜に記憶を消してくれと請う。
前世の記憶が強過ぎると、れいこの人格によくないそうだ。いつまでも広のお母さんでいたいが、
そうするとれいこの母親が悲しむ。一言「お母さん」と呼んで欲しかったがしかたない。
母ちゃんが覚悟を決めると、ぬ〜べ〜が鬼の手で前世の記憶を消す。
思わず止めに入る広だったが、遅かった。母ちゃんの人格は消え、幼稚園児のれいこに戻っていた。
広は耐え切れなくなり、れいこにすがって泣き出した。
「ごめん、ごめんよ母ちゃん!俺…恥ずかしかっただけなんだよおぉ」
口に出した事はなかったが、母親がいない事で随分寂しい思いをしていたようだ。
「ばかね、男の子がメソメソ泣くんじゃありません。
でも、やっとお母さんて呼んでくれたのね。ありがとう 広ちゃん…」
人は輪廻によって生まれ変わる。しかしそれは前の人生をやり直す為ではなく、新しい人生を始める為。
その為には、冷たいようだが前世の記憶など忘れてしまったほうがいい…
幼稚園から突然姿を消したれいこを引き取り、母親も一安心。
母親に連れられて、れいこは大きくなったら広のような子供を産むなどと言っている。
母親に甘えるのは恥ずかしいことじゃない。とはいえ、流石にあれは恥ずかしい。
前世で縁のあった者同士はひかれあう事が多い…
あなたの親友や恋人も、もしかしたら前世で浅からぬ縁があったのかもしれません…