「もう完全に怒った!だってそんじゃいつ会えるって言うのよ!」
そう愚痴りながら咲は大学への道を歩いていた。
高坂が朝は数少ない睡眠をとり、夜は会社に詰めていて、
直接には全然会えない日が続いていたからだ。
(もう完全に夜行性になってるしさあ、電話だって躊躇うっちゅーの)
訂正。直接ではなく電話ですら会えない日が続いたようだ。
彼女の研究室のゼミは三時から。それなのになぜこんな昼ごろに来てしまったかと言うと、
「怒りのせいでゆっくりしてもいられなかった」と言うのが正解らしい。
「はぁ…」
咲の足は、自然と部室棟へと向いていた。
万が一にでも高坂に会えるかも。
あるいは誰か怒りを誤魔化せる話を出来る相手が居るかも知れない。
その辺に当たりを付けたのか、それとも単なる習慣なのか。
「よぉ」
居たのは斑目だった。
眉毛がピクリと動く。
(はぁ…コイツか…まぁ良いけどね。高坂が本当に居るとは思ってなかったし。)
「ん…?どうした?
…ああ、高坂なら今日は…いや今日もか。来てないぞ。」
尋ねてもいないのに答えられる。
「そっか…まぁそうだよな。納期がどうとか言ってたしな…
今のコーサカは、こんなオタサークルで時間の無駄遣いなんてしないよなあ。」
「…それは社会人の俺に対する挑戦か?
そりゃー事務は暇ですけど〜今居るのは昼休みだからだ。」
半分は嘘だ。割と無理やりに時間を作ってきている日もある。
理由は…まあ言うまでもないだろうが。今日はその意味で斑目にとってはラッキーデイだ。
「会えないのよ。」
はぁ〜と息を吐き出す。
「誰と?ああ、高坂とか。いいじゃん、家にでも会いにでも行けば。
流石に予め約束しとけば、来られる事を嫌がるような奴じゃないだろ。」
今日の斑目の弁当は鮭弁。ふたを開けて先ずは鮭を一切れ箸で食べる。
「んー、まぁそうなんだけどね。」
……
「そりゃそれは思ったけどさ。
最近コーサカ寝てないのよ。仕事が詰まっててさ。
学生でまだ本式に勤めてないんだから、そんなに詰めなくても良いと思うんだけど。」
すっと顔を下に向ける。
「数少ないフリーな時間は、せめて寝かせてあげたい…とか思うのよ。」
「はぁ。」
しかし、再び顔を上げると、どデカイ怒筋付きで声を張り上げた。
「でもさ!私に会いたいとか思わないの?!一緒に居たいとか思わないの?!あのバカは!」
…なんか咲は自分で言っていて、凄い矛盾しているような気がしてきた。
『会いたい』『寝かせてあげたい』
どこまでがわがままで、どこからがそうでないのかも全然分かんない位には。
そこで斑目にキュピーンと効果音が入った。…ような気がした。
「そっかー。つまりだ。春日部さんはこう思っているわけだ。
『自分のやりたいことはやっててもらいたい。
だってそうじゃないと高坂らしくないから。
でも会えないことは不満。っていうかナイガシロにされて居るようで納得がいかない。』
それを高坂じゃなくて俺にぶつける辺り、春日部さんらしいよなあ…」
(それだけ信頼されているのは嬉しいやらなにやら…)
自然と顔がにやける。
(しかしやっぱり高坂が一なんだろうな…)
とは思ったが。
しかし咲はやや三白眼気味になる。
「あぁ?だれが冷静に私の性格を分析してくれなんか頼んだよ!?
つーかニヤニヤすんな!」
斑目の襟を引っ掴んだ。
しかもそれが当たっているだけに余計に腹が立つ。
斑目は少しキョドった…が、そこは開き直った。
というかいまさら引けないと言うべきか。
冷や汗を一筋たらしながら…
「『「会いたい」「気を使いたい」「両方」やんなくっちゃあならないってのが「彼女」のつらいところだな。』」
決まった。…少なくとも斑目的には。
「はぁ?何それ?
…あ、ひょっとしてまたオタワード?」
咲の目が元に戻り、手が少し緩んだ。
そしてゆっくり手が襟から離れた。
「あ、ああ、漫画…「ダダ」ってやつの五部…」
開放された斑目はカラカラになった喉を午後ティーで潤す。
……
また少し間があいた。
「あのさ斑目…」
「?」
「…もしかして…いやもしかしなくてもさ…」
「??」
「今の私って凄いブス?」
(は?何を言っているんだこの人はそんな口説いてるみたいなこと俺に言うってことは俺の気持ちを知っているのか
ひょっとして脈でも有るって事なのかいやしかし高坂が居るからそれはないだろうっていうかあったらむしろ困るつーか
なんだこのシチュエーションはありえねーだろってこういう痴話喧嘩って普通恋人同士とかでやるもんだろ普通はそうだ
だったら高坂とっとと来て俺と代われというかいやむしろ代わらなくても良い俺的にはある意味おいしいし)
冷や汗がさっきの当社比2.5倍位だらだら流れる。
夏にそんなに汗を流すと脱水症状になるぞ斑目よ。
咲は座席の上の荷物を持って立ち上がり、ドアの方へ立ち上った。
そしてぼそりと。
「ゴメン。」
半分空の鮭弁と赤い缶の前で固まっている斑目を放置して、ドアは閉まった。
(ふぅ…なんか言うだけ言ったらスッキリした。
でもアイツの言っているように押しかけてみるってのもありかも。)
「うし、ガンバレあたし!」
小声で自分に言い聞かせるように咲は呟いた。
おわり。
>ガンバレあたし!
やっぱ咲ちゃんはこうでなくちゃねえ。
格好つけているつもりが駄目駄目な斑目もやっぱりこうじゃなくちゃねえ。
脱水症状には気をつけろよ・・・。
む、このSSはっ!!
コーサカの愛読書が「ダダの奇妙な冒険」
↓
咲ちゃんも、薦められていつの間にかハマった。
と、脳内設定している俺への挑戦とみたっ!!(ねーよ)
>ガンバレあたし!
「キュピーン」以降の斑目と、キレ気味の咲のやりとりが、原作初期の雰囲気を漂わせていて楽しめました。
咲は機嫌悪いのが頂点に達すると、こうなるのかも?
「アタシの精神テンションは今! 1年生時代に戻っているッ! 」
今日は大漁の日ですね。
こんな時に駄文を投下しますスミマセン。
「入学当初の私に……言ってやりたいです“笹原さんとつき合うんだよ”って」
このセリフを目にした時から、「木尾神からのメッセージだべ!」と勝手に思い込んで「このネタ」をやろうと思っていました。
ついでに、今回の話を足がかりにして、今まで書いた、「先刻現視研」「同Z」「マダラメF91」をひっくるめた続編へとつなげたいと思います。
どうかご容赦くださいませ。
昨晩からW杯見ながら一気に書きなぐったので、アラの目立つ話になっちゃいましたが、約12レス。よろしくお願いします。
【2006年3月/現視研部室】
「さあ ほら」
「みなさん一度帰って着替えるんでしょう」
「ボーッとしてないで動く!」
現代視覚文化研究会5代目会長・荻上千佳の指示が飛ぶ。
賑やかに談笑しながら行動に移る仲間達。
この日、笹原完士、高坂真琴、春日部咲の3名が卒業式を迎えていた。
追い出しコンパに備えて、笹原の部屋で着替える予定だった荻上だが、皆と一緒にサークル棟を出たところで、ハッと自分の手元を見回した。
ハンドバックを部室に忘れていたのだ。
普通、そんなものを忘れるなんてありえないのだが、新会長就任で気持ちが舞い上がっていたのかと、荻上は自分を恥じた。
オロオロする彼女に、傍らの笹原が、「どうしたの?」と声を掛ける。
「ちょっと待っていて下さい。すぐに戻ります……」
1人で踵を返す荻上。何を忘れたのかは、マヌケで恥ずかしいので言えない。
笹原は、ふーんと考えたあと、ポンと手を叩いた。
「荻上さんも行方不明のお気に入り同人誌が…?」
「違いマス! てゆーか私はまだ卒業しませんから!」
笹原を置いてサークル棟に戻った荻上は、1人で部室に入った。
そっとドアを開ける。
もう陽は傾きかけていて、部室の中は薄暗い。
窓はトワイライトの綺麗な空の色を映し込んでいた。
2人で入った時とはまた違う感慨が浮かんできた。
ちょっと寂しい。
独りでこの時間の部室にいると、現視研に入りたてのころを思い出す。
(あのころの私は、寂しかった……)
誰も部室に来なかった時は、日が暮れるまでノートに妄想を描き込んでいた。
あのころの創作物は、妄想を止められないでいる自分を責めたり、自己嫌悪の気持ちが入り混ざり、叩き付けるようにペンを走らせていた。
独りで苦しんで、周りを突き放して……。
「なんてバカだったんだろ……。ほんと、言ってあげたいな……あのころの私に……」
ふと、我にかえる。
今ごろ笹原が、サークル棟の前でしびれを切らしていることだろう。
「帰ろう」
荻上がテーブル上のハンドバックを手にした時、背後で、ガチャリとドアの開く音がした。
「あ、すみません笹原さん、お待たせし……」
振り返りながら詫びた荻上だったが、途中で言葉が出なくなった。
そこに居たのは笹原ではなかった。
『……あれ? ……私?』
同じセリフを両者が呟く。開かれたドアを挟んで、2人の荻上が立ち尽くしていた。
【200?年?月/現視研部室】
現視研部室のドアを挟んで向き合った2人の荻上。
2人は確かに同一人物でありながら、雰囲気は全く違っていた。
“部室にいた荻上”は、瞳に輝きをたたえ、目元も柔らかく優しい印象を与えている。目を丸くして、もう一人の自分を見つめている。
いつもの筆頭を下ろして、女の子らしいシャツやミニスカートを身にまとい、大きく開けた首周りにはネックレスが光っている。
全体的に女性らしい温和な感じがある。
しかし、“後から入ってきた荻上”の瞳に光は射していない。
目そのものが、あらゆるものを拒絶するかのようにキツくつり上がり、無愛想なまなざしが鋭く相手を凝視している。
髪型はいつもの筆頭、しかし左右のブレードアンテナはやや下がり目である。
顔の輪郭も鋭さを感じさせる。体の線も細いが、それを隠すかのようにブカブカのパーカーとジーンズを着ている。
洒落っ気や女の子らしさということを意識していない印象だ。
2人の荻上は、しばらくの沈黙の後で同時に、『誰?』とだけ呟いた。
だが、2人は向き合った瞬間すでに、「私の前に居るのは私」だと直感していた。
それは本能というべきか、魂の共鳴というべきか、それとも、説明描写を避けたがっているというべきか……。
髪を下ろした方の荻上は、去年の夏に見た「悪夢」を思い出した。
(※SS「せんこくげんしけん」参照)。
あの時の夢は、自分が入学する前の椎応大学に迷い込み、当時の笹原に出会うというものだった。
(これも夢なのか?)と考えあぐねている中、「筆頭」の方が無表情と冷静さを装いながら尋ねた。
「私……だよねあなた? 何で私のくせにそんな格好してるの?」
根本の問題に触れるのは難儀なので、最初はごく普通の質問が投げかけられたようだ。
髪を下ろした方の荻上は、あっ、と自分の服に目を移した。
「こ、これね。今日、笹原さんたちの卒業式だったから……」
「ええっ? あなた、いつの私なの?」
「に……2006年……」
筆頭はよろよろと倒れそうになって、何とか踏み止まった。
「私は、……2004年だども。やっぱコレって夢だよね?」
同意を求められた2006年の荻上も、「うん、私も夢だと思いたい」と呟いた。
「荻上06」と「荻上04」は、再びお互いを凝視したまま沈黙した。
(夢なら早く覚めてほしい)と、同じことを考えていたが、再び、荻上04が話しかけた。
04「夢なら夢でいいけど、あなたナニをしに来たの?」
06「な、何をしにって……あなたが部室に来たんじゃない」
荻上06は反論するが、その時ふと、卒業式の後で笹原に告げた一言を思い出した。
「入学当初の私に……」
「言ってやりたいです“笹原さんとつき合うんだよ”って」
「絶対信じませんよ」
(あんな事を言ったから、こんな夢を見てるのかな)
そう思った荻上06は、意を決して話しかけることにした。
夢よ早く覚めろと願いながら。
06「あ、あのね、伝えたいことがあるんだけど」
04「なんですか?」
無愛想な荻上04の瞳が、まっすぐに荻上06をとらえる。
荻上06は、過去の自分の姿に躊躇した。
(私ってこんなキャラだったんだ……)
(ああ、でもやっぱり恥しくて言えないよォ)
荻上06は両手で真っ赤になった顔を隠す。
目を閉じたまま、一気に言い放った。
06「わ、わたしね……さっ…笹原さんと…つき合うんだよ」
04「え、ええエエェーーーっ!」
さすがの荻上04も驚きを隠せない。
だが、歯を食いしばるように口を真一文字に結び、ツンの表情を維持した。
06「やっぱり、い、意外…だよね?」
04「ぜっ、絶対信じませんッ!」
06「つ、ついでに言うと、私同人誌作って、笹原さんと一緒に売るんだよ」
04「ええエエェーーーっ!」
荻上04はがく然としながらも、一拍置いて真顔で尋ねた。
04「あの〜、PNは於木野鳴雪ですか?」
荻上06は(ツンケンしたってやっぱりオタクじゃない……)と呆れながらも簡潔に答えた。
06「Yes.」
04「ひ…評論本?」
06「No.」
04「い…イラスト集?」
06「No.」
04「じゅ… 18禁女性向けですかあああ〜」
06「Yes.」
04「もしかして麦×千ですかーッ!?」
06「Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.!」
オタ嫌いホモ嫌いのプライドが打ち砕かれ、がっくりと肩を落とす荻上04。
ぼつりと、「そっ、そんなっ……。しかも笹原さんごく普通のオタクじゃないですか……」と呟いた。
06「失礼ね。……でも笹原さん、優しいじゃないですか?」
04「優しくったってオタクじゃないですか! 私はッ……」
06「うん……オタクが嫌いなんだよね。分かるよ、私もそうだったもん」
04「『そうだった』……?」
荻上04はかたくなに「強い自分」を維持していたが、次第に、光の射さない瞳に涙が溢れ出した。
彼女はそれを拭おうともせず、未来の自分を睨み据えた。
04「……未来のあなたは、過去の私を許せるの?……大事な人を不幸にしたことを忘れたの?」
忘れるわけがない。
自分を慕ってくれた牧田を、自分の妄想の玩具にしてしまい、彼の心に深い傷を負わせてしまった。
それは消えることのない十字架だ。
06「……忘れるわけない。今でも思い出すと体が震えるもの……すべてが奇麗に終わるわけないじゃない」
睨んでいた荻上04がギョッとするような、抑揚のない冷たい言葉が荻上06の口から放たれた。
荻上04は、(やっぱりそうだ。この先も背負い続けるんだ)と思うと、呑気に洒落た服を着て立っている未来の自分が腹立たしくなってきた。
(お前も同じじゃないか)という憤りを言葉にして叩き付ける。
04「結局どんなに着飾ったって、男を作ったって、逃れることなんて出来ないじゃない!」
06「!!!」
04「……それなのにオタクだなんて、同人誌だなんて……。だから私はアンタが、自分が嫌いなんだ!」
荻上06はその言葉をまっすぐに受け止めた。
一瞬、唇をかみしめて苦しそうな表情をしたが、苦悶はすぐにフッと消えた。
柔らかい口調で、言葉を返す。
06「ごめんね。……でもね……私、最近結構好きなんだ……あなた(昔の私)のこと」
04「はあッ?」
意外なセリフに、荻上04の鋭かった目がまあるく見開かれた。
荻上06は、恥ずかしそうにちょっとうつむき気味になり、やや上目遣いに04を見つめて話しかけた。
「だって、『オタクは嫌い』と言いつつ、どうしようもなくオタクなところとか。それを隠そうとして失敗するとことか……」
荻上06が口にしたのは、大野が自分を好きだと言ってくれた時の言葉、そのものだった。
(大野先輩は、そんな私を認めてくれた)
(そう、今の私には、みんながいるもの)
彼女は再確認した。今の自分には、かけがえの無い人達との「つながり」があることを。
オタクとして共感を持ってくれる人がいる。
親身になって心配してくれた人がいる。
そして、妄想も心の闇も含めて、すべてを受け入れてくれた愛しい人がいる。
荻上06の脳裏に、大野、咲、そして笹原の笑顔が浮かんだ。
直後に何故か恵子と朽木の笑顔も浮かんだが、ぶるぶると頭を振ってそのビジョンを振り払った。
荻上04は真っ赤になってワナワナと震え出した。
04「わ、わだすは、失敗などしねえ!」
06「してたでねか! 都産貿のスラダンイベント行った時、朽木先輩に盗撮されたでねーか!」
一瞬の間が空く。
04「……朽木先輩、許せないですよね」
06「……んだ。2年経った今もなお許せねえ」
2人の荻上は時を超えて共感し合った。
朽木の話題でひと呼吸置いたおかげで、部室は静かになった。
荻上06は、あらためて過去の自分を見つめ直した。
(傷は残っているけれど、それを包んでくれる人たちがきっと現れる)
(……彼女は、これから作るんだね、みんなとの絆を……)
(いま言い聞かせても、理解できるわけないわ)
(……彼女は、これからだもの……)
未来の荻上は、不器用にもがいている過去の自分が愛おしかった。
一歩二歩と近づいて、スッと荻上04を抱きしめた。
「!!」驚く04。
目を閉じてもう一人の自分を感じる06。
2人は頬を合わせ、ドキドキと波打つ鼓動を確かめた。
圧迫や抵抗感が感じられない薄い胸には、お互いに嫌気がさしたが……。
06が優しく言葉を掛ける。
「ま……あんたなりに頑張って……」
2人は体を離すと、同じタイミングでフゥとため息をついた。
荻上04は頬を真っ赤に染めていたが、「だども……わだす信じないから!」とツンとした口調で言った。
04「わ……私は私。誰を嫌いになろうが好きになろうが、私の勝手だから!」
06「うん」
04「これはきっと悪い夢。私は今まで通り、自分がオタクとか腐女子だなんて絶対認めない!」
06「うん」
04「笹原さんだって、オタクはオタク。嫌いです!」
06「うん」
04「お、おしゃれなんか…、あなたみたいな気取った服なんか絶対に着ないし!」
06「あ〜、ひょっとしてあなた失敗したばかりでしょ。店員に言いくるめられて……」
04「!!!」
言葉に詰まった荻上04は、間を置いて、恥ずかしそうに未来の自分に尋ねた。
04「み、未来からきて、そこまで知ってるなら、ちょっと聞きたいんだども……わ、私が……この先ハマるカップリングって、どんなの?」
06「……」
この質問には、荻上06も躊躇した。腕を組んでう〜んと唸る。
(もう〜、腐女子嫌いを公言しながら……しかし教えるべきか、黙っているべきか……)
荻上06は荻上04を手招きした。
2人きりしか居ない部室だが、声に出すのも恥ずかしいので、そっと耳打ちする。
06「悪い夢だと思っているんだったら、教えてあげるけど……」
ゴニョゴニョと、自分が何ページも書きためたカップリングを教える。
04「…………ッ!!」
直後、荻上04はウルウルと涙目になってガクガク震え出す。
ドカッ!
いきなり机を弾き飛ばすように窓に向けてダッシュする04。飛びつく06。
06「ここは3階だーっ!」
サークル棟の外にまで、現視研部室からガタガタンと、もみあう音が聞こえてくる。
「ウソだー!」「だどもホントなんだもん!」
夕闇が辺りを包み始めたサークル棟の屋上で、騒ぎに耳を傾ける人影があった。
「入部当初の荻上さんを刺激しようと思ったけれど……少し薬が効きすぎたかな」
一人は初代会長だった。
「でも、おかげで“今の荻上さん”にも“昔の荻上さん”にも、いい影響が出ますよ」
初代の後ろにいた人影が応える。
その姿はハッキリとは見えない。
振り返った初代は、その影に礼を述べた。
「そうだね。君もご苦労様だったね……」
【2006年3月/現視研部室】
…………ハッ!?
荻上06は目を覚ました。
部室のテーブルに突っ伏して寝ていたらしい。
「いけね時間!」
携帯電話を取り出してモニタに目をやると、部室にハンドバッグを取りに来てまだ5分も経っていなかった。
「夢……だったの?」
荻上06が呆けていると、ガチャっとドアが開き、隙間から笹原が顔を出した。
「荻上さん、大丈夫?」
荻上は慌てて立ち上がり、「だっ、大丈夫デス!」と答えた。
そして、笹原の手を取って歩き出し、「さ、行きましょ」と、そそくさと部室を出て行った。
サークル棟の廊下を歩きながら、荻上06は笹原に詫びる。
「すみません、遅くなっちゃって……」
「いやいや、全然ダイジョーブだよ」
いつもの優しい笑顔を返す笹原。それを見て荻上は癒される思いがした。
早く昔の私も気付けばいいのにと、さっきの「夢」に出てきた自分を思い起こす。
「やっぱり信じてもらえませんでした……」
「え、何のこと?」
「何でもないです。スミマセン」
荻上は頬を染めながら、ニコリと笑顔を浮かべた。
【2004年6月/現視研部室】
…………ハッ!?
荻上04は目を覚ました。
部室のテーブルに突っ伏して寝ていたらしい。
「いけね寝ちまったのか?」
携帯電話を取り出してモニタに目をやると、部室に入った時間から、まだ5分も経っていなかった。
「夢……だったの?」
荻上04が呆けていると、ガチャっとドアが開き、隙間から笹原が顔を出した。
「あ、荻上さん、こんにちは」
荻上は慌てて立ち上がり、「こっ、コンニチハ!」と答えた。
そして、赤い顔を伏せて隠れるように歩き、「私はこれで失礼します」と、笹原と入れ替わるようにドアを出て行った。
後日のこと、荻上04が部室のドアを開けると、斑目と笹原がいた。
この日、コミックフェスティバルの当選通知が届いたのである。
「……やあ荻上さん、こんにちは」
そそくさとスケッチブックをたたみ、頬を赤らめている2人。
「………」
荻上04は、過日の「悪夢」を思い出した。
将来ハマるカップリング。
未来の自分が耳打ちしたのは……笹×斑……。
この時ばかりは、さすがに全力で自分の妄想を否定した。
さらに後日、荻上は咲に、「じゃ笹原みたいなタイプは?」と聞かれることになる。笹原がハラグーロを撃退した時のことだ。
「どんなタイプでもオタクはオタク」「嫌いです」
とは言うものの、荻上は、ほんの少しずつ笹原を意識しはじめていた。
<おわり>
以上です。お粗末様でした。
改行が多くてレスが一つ増えてしまいました。
荻上VS荻上の展開は、先刻現視研で書いた斑目VS斑目の焼き直しみたいになってしまいました。
なぜ「V」かは言わずもがな…で。
どうも失礼しました。
26 :
チェーンの人:2006/06/17(土) 15:20:41 ID:???
メシ食ってきた。
なんだか堰を切ったように書き込みが増えててびっくりしたよ。作品も2本あるだと?
お前ら……本当に書き込み控えててくれたんだなw
チッキショウさっきのざるそばのワサビが今頃になって効いてきやがったぜ。ぐしッ。
>>前スレ542〜546
お前らみんなまとめて大好きだ。
数日前から桃絵板でシチュ先取りされてしまって(こっちは式当日だけどね)ハラハラし
ながら完成させた甲斐があったよ。
>>ガンバレあたし!
咲ちゃんが若いなあと思いながら読んでたがみんなも感じていた模様。そうだ1〜2巻の
ころの咲のテンションだね。卒業後のことがどんどん固まってきてるのに、高坂とのこと
だけが足踏みするようになってきてイラついてたところに、斑目に痛いところを突かれた
てわけだ。最後のセリフ、可愛かった。頑張れ咲ちゃん。
それから
>>9氏がなにか挑戦を受けておられるようです。wktkしてていいですか?
>>妄想会長Vオギウエ
せんごくの人だったのか。この作品の投下を躊躇させるほどのもんではないよ、俺のは。
それはそれとして、ホントに言うのかオギー。入学当初の私にw
2年大人になったオギーが優しく頼もしく、それを否定したくてしょうがないオギー04も
かわいらしく、かー漫画で読みてえって気分になった。絵板に期待。
斑目VS斑目も楽しかったが、掛け合い描写上手だね。参考にしたいが、自分と何が違うのか
判らないので俺の向上にはつながらなさそうだorz
続編楽しみにしてます。
どうも。
アルエの第二話できました。
それは一先ず置いといて、
>スレ8の515
全然御気に為さらずに。
このタイトルつけた時点でオウンゴールですから。
>スレ8の516
仕掛けが上手く動いてくれるといいんですが…。
まあ、かなり先行き不透明で書いてます。どうなることやら。
今回、ハルコさんもののはずなのに、ハルコさんが出てません。
ハルコさんを待っていた方、申し訳ない。
それじゃいきます。宜しくお願いします。
28 :
アルエ第二話:2006/06/17(土) 15:55:55 ID:???
「おう、荻上。こんちわ」
大学の構内。
特徴的な筆頭に春日部は声をかけた。呼ばれた筆頭が振り返って小さく傾く。
横にいる真琴と笹原にも会釈を投げた。
「荻上さんも部室いくとこ?」
「そうです」
笹原にそう言うと、荻上はくるっと前を向いてそのまま歩き出そうとする。
笹原は慌てて言葉をつないだ。
「折角だから一緒にいこうか」
荻上は立ち止まった。もどかしそうに視線を下向けていた。
「はあ、いいですけど」
だいぶ現視研に馴染んだと思うけど、まだこういうところがあるなあと笹原は思った。
ちょっと集団行動に慣れていないというか、一人になりたがるようなところが。
「あー、痛い痛い」
春日部は呆れて笑う。荻上はギンと目尻を尖らせた。
「何がですか」
「いーや別に」
「まあまあ、行こうよ部室…」
荻上はふんとばかりに顔を背けてさっさと歩いて行こうとする。でもその足取りは、決して三人を置いていこうとはしていない。
三人は早足でついていった。
きっとこんなふうなやり取りを重ねるうちに、荻上さんもいつの間にか現視研に染まるんだろう。
春日部君を見習って、会長としてもっと話し掛けなければ。
29 :
アルエ第二話:2006/06/17(土) 15:56:35 ID:???
四人組になって笹原会長以下現視研メンバーは部室棟に歩いていく。
と、そこで一人の人物が笹原たちを待ち受けていた。
「や」
漫研の高柳だ。
「どうかなその後、荻上さんは。問題起こしてない?」
紹介した手前気になるのだろう。荻上は無関心無表情であちこち余所見をしているが、
聞き耳はしっかり立てているといった様子だ。
「今度ウチで出す同人誌に何か描いてもらうことになって、むしろ助かってますよ。ウチで描けるの久我山さんだけでしたから。
まあ…、小規模の小競り合いがあるぐらいです…」
荻上は目だけを滑らせて笹原を睨んだ。笹原は笑って受け流す。
その様子に高柳は安心したように表情を崩した。
「あー、なら良かった」
そして今度は如何にもすまなそうに眉尻を下げた。
「あとさ、原口来たんだって? ごめんねぇ、ウチの後輩が話しちゃったらしいんだよ」
なるほど、原口が現視研のコミフェス当選を知ったのはそういうことか。
「いや、まあ何とかなりましたんで…」
とは言ったものの、これから有名同人作家さん数名に断りの電話を掛けなければいけないことを思うと正直気が滅入る笹原だった。
まったくあの人は…。
あの時の疲労感がまざまざと思い出されている笹原。察した高柳は下がり切った眉を更に下げた。
何だかこの人のこういう表情ばかり見ている気がする。
「そんな気にしなくていいスよ。悪いのは漫研の人じゃないですから」
「そう言ってくれるとありがたいよ――…」
面倒見が良いというか、根が真面目というか、こういう星回りの人なのだな。
ぱっちりオメメを片方閉じて、高柳は苦労の隙間風のような滲み出た声を漏らした。
そして少しおかしなことを言った。
「ホント悪かったよ、斑目にも謝っとくわ。漸く卒業して顔見ずに済むと思ってのにさ」
30 :
アルエ第二話:2006/06/17(土) 15:57:36 ID:???
「………は?」
は?という顔を高柳もしていた。それは笹原も春日部も真琴も荻上も同じだった。
なに? 何でそこにハルコさんが出てくる?
そう現視研一同が心を一つにした瞬間、高柳の目に『不覚!』という字が浮かんだ。
「それでは失礼」
「待て」
春日部の腕が有り得ないほど伸びて高柳の肩を掴んでいた。
「取り合えず、場所変えましょうか?」
「え〜〜〜、第1回〜〜〜〜、『ハルコさんと原口の間に何があったのか会議』〜〜〜〜。
ゲストに漫研の高柳さんを迎えてみました」
高柳は緊縛され、頭にズタ袋を被せられていた。
やはりこういう星回りなのか。
「モガガガガ」
「これ、やばくないですか?」
荻上は現視研入会の恩人ということもあり同情的だが、
「まー、いーですけど…」
さりとて積極的に止めようともしなかった。というか、この状況に妙な想像を働かせていた。
(緊縛…、目隠し…、密室…、男同士…、メガネキャラ……。やっぱ東京の大学は本格的だァ……)
春日部はこの手の話題のときに発現させる持ち前の悪ノリ体質を如何なく発揮し、真琴はいつも通りそれをニコヤカに見守り、
笹原は知りたいような知りたくないような気持ちで、もがく高柳を苦笑いで見下ろしていた。
「じゃー、言っちゃって。高柳さん」
「え〜……、もうしょうがないな〜〜〜。だが断る」
「なに?(だが?)」
春日部は一瞬怯んだ。
31 :
アルエ第二話:2006/06/17(土) 15:58:11 ID:???
「悪いが黙秘権を行使する。斑目との友情を裏切るつもりはないよ」
高柳は決然とした顔で言った。まあ、袋を被ってるから見えないんだけど。
しかし言ってることは至極当然の正論である。
迷っていた笹原はそれで漸く正気を取り戻した。
「春日部君…、今日はこの辺にしとこうよ…。無理に聞いちゃハルコさんにも悪いし…」
荻上も異世界から帰還した。
「そ、そうですね…。もう充分…、だと思います」
「いーや、訊く」
言うや否や春日部は高柳のジーンズのベルトに手をかけた。
「ちょ、こら、やめろ!」
「言うなら今だよ。さもなくばこの場で下半身を剥く!」
ベルトの穴から留め具が外れる。
「うおーー! 何言ってんだお前! ちょっと笹原君、速く止めてーーー!」
高柳に言われるまでもなく笹原は春日部を羽交い絞めにかかる。
「ダメだって。流石にそれは掟破りだから」
荻上はキャーと言いつつ、
(む、無理矢理! 力尽く! 辱めーー!!)
真琴は笑っている。
高柳はジャッキー・チェンの映画の如き動きで椅子に縛られたままぴょんぴょんと跳ね回っていた。
「おたすけーーー!」
「放せ、笹原。逃げちゃうだろ」
「だからダメだって」
(う、後ろから強引に抱きしめてーー…)
真琴は笑っている。
「うーす…」
「こ、こんちわ…」
ドアを開けた先が阿鼻叫喚の地獄絵図と化しているなど、久我山も田中も想像だにしていなかった。
32 :
アルエ第二話:2006/06/17(土) 15:58:52 ID:???
「どうもスイマセンでした。私はどうかしておりました。ごめんなさい。許して下さい」
春日部は当然、深々と頭を下げていた。笹原も成り行き上そうしていた。
なぜか久我山と田中もそうしていた。
危うく一生ものの心の傷を負うところだった高柳だが、荻上移籍の恩とチャラということでギリギリ勘弁してくれた。
いい人だ、高柳さん。
「ま、斑目と原口? あ、ああ、うん。し、知ってるよ」
「ていうか俺らの年代の漫研かアニ研のヤツなら、だいたい知ってるよな?」
「そーなんだー…」
ほとほと疲れたという感じで春日部は椅子に仰け反っている。
笹原はそんな春日部の骨折り損または一人相撲的な無駄な苦労に呆れつつ、少しだけ先輩二人に身を乗り出した。
「それって聞いちゃっても…」
「ああ、まあ。いいけど…」
春日部は首だけ持ち上げて田中に注目する。荻上は漫画を読んでいるが耳が異常肥大していた。
二人は少し躊躇するように言葉を選んだ。
「まあ、何ていうか…、噂っていうか」
「じ、実際デマなんだけどな…」
「はあ…」
「まあよくある話なんだけど、斑目と原口が付き合ってるっていうさ。そういう話が流れたことがあってな」
「でも、それってデマだったんだろ?」
春日部は上半身を起こして口を挟んだ。
「まーね…。でもほら、俺らは一緒にいるから嘘ってのはすぐ分かるけど、他のサークルのヤツらは分かんないだろ?」
「でもタダの噂なんだから、うんなの気にすることねーじゃん」
強気で言い放った春日部に、久我山は苦笑いを返した。まさにタダの噂ではないという雰囲気を漲らせて。
「そ、それがその噂流したの、原口らしいんだよね…」
うわ…
「マジですかそれ…」
笹原はそう言うのがやっとだった。
33 :
アルエ第二話:2006/06/17(土) 15:59:40 ID:???
「まーね…、原口本人から聞いたわけじゃないけど…」
「またどうして…?」
「ま、まあ。原口の方が気があったみたいなんだけど、ま、斑目は全然だったから。は、腹いせかな…、よく分からんけど…」
「最低ですね」
荻上は漫画を読むフリを続けるのは無理だと言わんばかりの顔をしていた。
真琴も珍しく表情がなかった。
「う、噂自体もさ、原口って前からあんなんで嫌われてたから。ま、斑目、結構嫌な思いしたみたいだよ…」
春日部は腕を組んで、じっと眉間にシワを刻んでいた。
口を固く結んでいるせいで、何か言うのは出来そうになかった。
視線を部室の隅にぶつけて心と体の何か微妙なバランスを保っているようだった。
「やあ〜〜〜、こんにちわ〜〜〜〜」
よりによってこんなときに来るか。
「はい笹原くん。これ約束の連絡先。ちゃんと断っといてよ?」
「ははっ…」
笹原は自分のきつい表情を笑って誤魔化した。出来れば一刻も早く出て行ってほしい。
部室に漂うどうしようもなく重苦しい空気の中を意に介すこともなく、原口は悠然と部室を見回している。
「あー、ハルコは今日来てないの?」
こいつ分かってて言ってんのか?
「今日は見てないですよ」
田中は落ち着きを払った調子で、原口に対して多少は免疫があるところを見せた。
「ふ〜ん」
いつもの溶けた粘土のような顔で原口は含んだ笑いを浮かべている。
「就活? 研究室かな? 授業はもう出てないだろう?」
「さあ…、どうですかね」
「あいつ内定出たって言ってたかい?」
「知らないです。自分らもいろいろ忙しいんで…」
またふ〜んと呟いて、原口は笹原に目をやった。
34 :
アルエ第二話:2006/06/17(土) 16:00:29 ID:???
素早く目を逸らした笹原の態度に、原口は満足気に口角を上げる。
「やっぱ出てないか〜〜〜、そりゃそうだよね〜〜。ただでさえ女子は厳しいからね〜〜」
笹原は謂れのない敗北感に顔を歪める。
「あいつ資格も何も持ってないしね〜〜、サークルの会長って言っても、ただ漫画読んでアニメ観てるだけのサークルじゃあなあ。
コミフェス参加くらいしないと活動とは言えないからねぇ。だから新会長さんは斑目より随分見込みがあるよ」
今度は苦笑いも出ず、笹原は押し黙った。
原口は倍率ドンで声を弾ませる。
「まーそれでも? 僕の紹介ならすぐに決まると思うんだよね〜。ほら、いろいろ面倒見てるからさあ。
どうせ頼るなら早めに言ってほしいんだよね。ずれ込んでくると先方にも迷惑が掛かるからさ」
シーンと静まり帰った部室に原口の笑い声だけが響いた。
「まあ……、そのうち決まるでしょ……」
田中の蚊の鳴くようなフォローの後、原口は決定的な一言を言った。
「そう? でもなかなか無いよ。あんなの雇いたいって会社」
「うっせーぞ、ブタ」
キレたのは春日部だった。
「クダラネーこと言ってねぇで、用が済んだらさっさと帰れよ。ウザがられてるのぐらい分かんだろ?」
空気が一瞬で張り詰めた。
春日部は射るような眼で原口を見ている。口元から僅かに覗いた歯は今にも噛み付きそうなほどだった。
笹原も他のメンツも、呼吸するのを忘れて二人に視線を注ぐ。
吹き出した汗で滑った眼鏡を抑えて、原口は冷静を装う。鼻つまみ者とはいえ、付き合うのはオタクか仕事上の相手。
ここまで面と向かって罵倒されたことは皆無だった。
「へ、へぇ。ハルコの話は癇に障ったかなぁ」
辛うじて声は上擦っていない。春日部は座ったまま原口を睨み上げている。
「当たり前だろ? 散々ハルコさんのこと馬鹿にしてよ。ふざけんなよ。フラれた腹いせか何か知らねぇけど、
いつまでも付きまとってんなよ。気持ちわりぃ」
図星を突かれた原口の顔は平手打ちをくったように赤くなっていった。
「関係ないだろ、お前なんか。何だ、ハルコの彼氏か何かかお前」
「そうだよ。付き合ってんだよ、俺たち」
35 :
アルエ第二話:2006/06/17(土) 16:01:04 ID:???
それは言い過ぎだろう、と笹原は思った。
でも、間髪入れずに言い返したのは、正直カッコいいなと思った。
「なんだ…、随分ガラの悪い男と付き合ってんだなあ」
「性格悪いよりはマシだろ、顔は俺のがずっと良いしな」
原口は一瞬、眉に深いシワを寄せて、顔を田中の方へ向けた。
「田中、ハルコに言っといてよ。就職の相談ならいつでも乗るって。こいつじゃどうにも出来ないだろ?」
「テメッッ!!」
春日部は反射的に原口に掴みかかろうとしたが、立ち上がる瞬間に引き止められた。
真琴に腕を掴まれていた。
真琴は無表情で春日部の顔を見ていた。
引っぱたかれて様な気がして、いつの間にか春日部は席に戻っていた。
原口はそれを見てちょっとは溜飲が下がったのか、また泥のような笑顔を浮かべてわざとらしく尻を掻いた。
「まあ、いいや。そんじゃ笹原くん、ちゃんと電話しといてよ」
そう言うと、再びバイバーイという別れの挨拶を残して部室を出て行った。
笹原は前回その捨て台詞を聞いたときと同じに溜息を漏らした。
でもそれは原口へというよりも、春日部へのものだったが。
「いやーごめんねー。ちょーとエキサイトしちゃいましたぁー」
春日部は場の空気をマイルドにしようと必死に笑顔を振り撒いている。照れ隠しもコミだ。
あと、馬鹿にされた仲間のためにキレるというのも微妙にオタクっぽいような気がして、春日部は恥かしかった。
「まあ、気持ちは分からんでもないがな」
「きゅ、急にヒートアップしたから、び、びっくりしたけどね」
ロープから抜け出した捕虜のように、みんな肩を回したり伸びをしていた。
何せ体に力が入りっぱなしだったから。
「見てるだけで疲れましたよ」
「久しぶりに入学当初の春日部君に会ったような…」
「ははは…、ごめんなあ…」
ただそんな中、真琴には珍しく笑顔がなかった。
36 :
アルエ第二話:2006/06/17(土) 16:01:40 ID:???
「ね、怒ってる?」
大学からの帰り道、国道を跨ぐ陸橋の上。二人きりになったのを見計らって春日部は訊いた。
夕暮れの車列はヘッドライトを点して、二人の下をテールランプの赤い光の列とヘッドライトの薄いオレンジの列が
車幅を縮めてゆっくりと流れていた。
横にいる真琴に恐る恐る視線を向ける。
「何が?」
「何がって…、部室のアレだけど…」
ずっと表情が冴えないのは気が付いていたが、皆も前で訊くわけにもいかず、今やっと訊けた。
でも真琴は前を向いたままだ。
「アレの何?」
まだ笑ってくれない。
「何って…、え〜…、………いろいろ」
「いろいろって?」
ああ、やっぱり怒ってる。普段の真琴は決してこういうことは言わない。
いつも笑って俺の意見に付いて来るようで、いつの間に自分のペースに巻き込んでるような。
こんな真正面から気持ちをぶつけてきたりはしない娘なんだ。
「まあ、ケンカしそうなったし…。笹原とかちゃんと我慢してんのに…」
でも、そういうことじゃないよな。
「まあ、その、『付き合ってる』ってのは売り言葉に買い言葉っつーか、つい負けたくなくて言っちゃって…。
でも、嘘なんだしさ。そんな怒らないでも…」
「怒らないと思った?」
真琴は足を止めて恋人の顔を見上げた。
「春日部君がハルコ先輩と『付き合ってる』て嘘ついても私が傷つかないと思ったの?」
そんな風に言われると、
「え……、えと…」
真っ直ぐに見つめる真琴の瞳に、春日部君は思わず空に目を逃がしてしまった。
言葉が出てこない。
37 :
アルエ第二話:2006/06/17(土) 16:03:07 ID:???
「私は春日部君が好きだよ」
その言葉に、春日部は彷徨っていた視線を真琴に戻す。
「だから、嘘でもハルコ先輩と『付き合ってる』なんて言われるのは、とても嫌だし、悲しいの」
別に真琴は悲しそうな顔をしているわけでなかったが、それでも春日部には本当に悲しそうに見えた。
だから漸く言うべき言葉を告げることができた。
「ごめん…」
陸橋の上を強い風が吹き抜けて、真琴は顔に纏わりついた長い髪を中指と人差し指で掻き上げた。
そしていつものように微笑みを返した。
「私、春日部君のこと、ちゃんと見てるからね」
その時、珍しく真琴が春日部の手を取った。
敵わないな、と春日部は苦笑する。
確かに、今日はちょっとらしくなかった。ツチブタにはマジでムカついたが、子供っぽいことをしてしまった。
何でかな?
春日部を暗くなっていく空を見上げる。そこに何かを思い浮かべるように。
その時、真琴がグイっと手を引っ張って、また無表情で春日部を覗き込んだ。
「あ、何?」
「ちゃんと見てるのよ」
真琴とはフフフと不敵に笑って前を向いた。
額に汗をかいた。春日部は、それも何故だか分からない。
そして、まあ、いいやと呟いた。
つづく
うお、まさに堰を切ったようにSSが出まくりましたねえ…
いや、びっくり。皆考えてたことは同じだったんだなあ。
>>9 んー…それもアリだなっ!
つーことで妄想が形になったところで投下してくださいお願いします。
言いだしっぺの法則という奴でw
>妄想会長Vオギウエ
おお、夢のカップリング荻×荻!w
しかしジョジョネタを出すところまで被るとは…
これはむしろスタンド使いは引かれ合う?『重力』?(違
>アルエ
もはや何角関係だか分かんない所までw
真琴さんのキャラもいいです。
ハルコさんネタは好きなので、結構楽しみにしています。
しっかしこれ割とリアルな文科系クラブの内情のドロドロだあ…
ジョジョネタも…これはむしろス(ry
ガンバレあたし!には実は元ネタがあったりするんですが、
マイナーすぎて分からないかも。
一応元ネタのセリフ全部使ってます。違和感が無いとすれば
自分的にはおらっしゃー!って感じです。
すげー。
ものすごいラッシュでにこにこが止まんない。
…9スレ、ようやくここまで読めた…。いやーすごい投下量。しかも全部好きなシチュで興奮して止まらなくなったよ!くっはーーー!
>がんばれあたし!
咲ちゃん視点の話キター!しかも斑目相手。ごちそうさまでした。
キュピーンとか、信頼されて嬉しいとか、オタワードとか、汗かきすぎて脱水症状なりそうとか。
咲ちゃんを励まそうとしてちょっとズレてる斑目が愛しくて仕方ありませんでした。ほのぼのいいなあ。
…そんで、高坂のことを真剣に考えて「がんばれあたし!」と、戦う咲ちゃんがまぶしくもありました。かっこいいなあ。
高坂と幸せになって下さい。斑目は……………自分のSSで何とかしよう。(泣)
>妄想会長Vオギウエ
キターーーーーー!荻上さんが二人キターー!
せんこくげんしけん大好きです。ZもF91も。この荻上さん編は、焼き直しなんかじゃない、立派に「せんこく」荻上さんバージョンとして完成してますよ!
こうして対比すると、やはり最終話の荻上さんかわいいですねえ…妹に欲しい…血の繋がってない(ry
そして、過去の荻上さんの辛さや苦しさを改めて思い返して、もう一度今の荻上さんを考えて、嬉しくてたまらなくなります。
笹原もよくやったよ。荻上さんもがんばったよ。うんうん。
…こっそりマ(ryが出てたのも美味しかったとさ。
>アルエ
春日部くんがかっこええなあ…。嫉妬する真琴さんも、人間らしさ、女性らしさを感じて可愛い。
続きも期待しとります!
>妄想会長Vオギウエ
Vキタ━━━━━(゜∀゜)━━━━━!!
荻上vs荻上の構図はとても面白かったw
こんな風に困った新入生が入ってきても荻上さんは
きっとフォローできるようになってるんだなろうなあ。
そんな成長がよく現れていました。
>アルエ
原口をとりあえず殴りたい。
あと、ヤナがかわいそうな件について。
・・・お前は俺が幸せにしてやるさ・・・。
前から思ってた斑目が女だったときのドラマ性がかなりいい感じで出てますねエ。
しかしこの後どうなるのか。期待大。
しかしスンゲーラッシュ。まだだ、SSスレはまだ終わらんよっ!!!
・・・やば、これ言った人この後終わったんだった・・・。
42 :
まとめ中の人:2006/06/17(土) 22:14:15 ID:???
あ、ヤバス、
>>1のテンプレの中のSSアンソロのところ、
募集中のままだ・・・。
・・・まあ、いいか・・・。募集中って事で・・・。
・・・・・・まだ間に合うかもしれません・・・。
相談承ります・・・。
感想ありがとうございます。
>>38 今作のテーマはズバリ『三角関係』。ラブコメの王道を行こうと思ってます。
ハルコ、春日部、笹原、真琴、荻上、高柳?、の織り成す
トライアングルラブストーリーを書きたいです。
む、無理かも…。
>>40 高坂は女の子の方がいいですね。動かし易いです。
気持ちを素直に出してもいいし、ちょっと意地悪でもカワイイので許される。
活躍させたい。
>>41 ヤナは可哀想と思うのはまだ早い。もしかしたら彼も三角関係に絡んで…、こねーな。
すいません、やっぱり可哀想です。
44 :
1:2006/06/18(日) 10:10:37 ID:???
>>42 ギャー!!!
すいませんすいません、
「えーっとアンソロは……っと、夏発売だから残しといていいな」
位の感覚で文章の中身まで見てませんでした。
平に、ひらにお許しをーっ!
奥さん買い物に行ってるのでその隙にひと謝り。いやほんとすいませんでした。
お久しぶりです。筆茶屋の続きです。
読んでいただけたら幸いです…
千佳が目を覚ますと、暗闇に包まれた自分の部屋,、その布団の中だった。
ため息をつく。
どうやら、また倒れてしまったらしい。
家事の方は、あの後中島が雇ってくれた北川という女性のおかげで、順調に回っている。
彼女の手際に感心しつつ、ついそれに張り合おうとして倒れてしまう自分が、滑稽に思えた。
辺りを見渡す。
人の気配はない。
今度は安堵のため息をつく。
中島がかつてのように接してくれる事は、うれしくもあり、同時に苦痛でもあった。
彼女は千佳の過去そのものだったから。
千佳は彼女に聞きたいことがあった。
なぜ江戸にいるのか。
なぜ原口と供にいるのか。
…そして、あの噂は本当だったのか。
だが聞けなかった。
ただ、怖くて。
”筆茶屋はんじょーき”
不意に火種の臭いがすると、行灯に火が灯る。
千佳が驚いてそちらを向くと、人影があった。
原口だった。
原口は足音一つ立てずに近づくと、驚きの為に声すら出せない千佳を、布団の上から押さえつけた。
「お前は、あの女の何だ?」
酒臭い息を吐きながら、原口は尋ねる。
千佳が何も言えずにいると、原口は片手で千佳の首を掴んだ。
「あの女は俺が仕込んだ。女としても、盗賊としても」
手に次第に力が入る。
「俺が岡場所で拾った時、あの女は酷い様だった」
「客に愛想の一つも言えず、仲間には喧嘩を売り、売れ残っては折檻を受ける」
「見えないところを痣だらけにした、やせ細った女だった」
「だが、俺はその反骨が気に入って、落籍した」
千佳は必死に原口の手を外そうとする。しかし原口はもう一方の手で千佳の両手首を捕まえると、床に押し付けた。首を絞める手にさらに力が入る。
「あの女は実に憶えが良かった…この俺の片腕になれるほどに」
「いや、それ以上だな。いつ寝首をかかれるかわからないほど、だ」
言って原口は楽しそうに笑った。
「だが今のあいつは、まるでどこぞの町娘だ。おまけに指一本触らせようとしない」
ひときわ強く首を絞めると、原口はその手を離した。そして尋ねる。
「なぜだ?」
千佳は咳き込みながら首を振る。
「わからないのか?」
千佳は頷く。
「役立たずめ」
原口はそう吐き捨てると、布団を剥ぎ取った。
「なら、せめて女として役に立って見せろ」
原口は千佳に圧し掛かる。
千佳は全力で抵抗する。しかし、上げようとした悲鳴は原口の分厚い手でふさがれ、押しのけるには千佳の腕はあまりに非力だった。
原口の手が千佳の体をまさぐる。はだけられた胸元から滑り込み、乳房を握り締める。
くぐもった声以上に、千佳の心は悲鳴をあげていた。
(やめて!いや!触らないで!)
(助けて!誰か!)
(……笹原さん!!)
鈍い音と供に、原口は千佳に覆い被さる。
千佳は目を閉じ、全身を固く緊張させた。
だが、原口はピクリともしない。
おそるおそる目を開けると、台所からでも持って来たのか、太い薪を持った中島が息を切らせていた。
中島は、呆然としている千佳を原口の下から引きずり出すと、着物の乱れを直し、自分の着物を脱いで千佳に着せる。
さらに、自分の財布を千佳の胸元に捻じ込んで言った。
「逃げな」
千佳にもようやく状況が飲み込めてくる。
部屋を出ようとして、千佳は足を止め、中島の手を握った。
「中島も一緒に…」
同情だったのか、義憤だったのか、それは千佳にもわからない。ただ、彼女はここにいるべきじゃないと、そう思った。
中島はうれしそうに、そして哀しそうに笑うと、千佳の手を振りほどいて言った。
「ねえ、千佳。いい事を教えてあげる」
「あなたの書いた本が上の目に留まったのはね、私がそう仕向けたの」
信じられなかった。
信じたくなかった。
かつて聞いた、一番信じたくなかった噂を、彼女自身が肯定したとしても。
「どう…して…?」
千佳はかすれた声で尋ねる。
「私はね、あなたが大好きで、大嫌いだったの」
答える中島の声は澱みない。
「あなたは私にはない、全てを持っていたから」
「暖かな家庭。信頼できる友人。優しい許婚…」
「そんなこと…!」
「妾を好き放題抱えて家に寄り付かない父と、色小姓に囲まれて暮らす母。互いに競わされいがみ合う兄弟。家老の娘というだけでへりくだり、おべっかを使う友人。色にしか興味のない、父よりも年上の許婚。それがあなたに想像できるとでも?」
食い下がる千佳を笑い飛ばす。
「私にはあなたしかいなかった。私にきちんと向きあってくれたのはあなただけだった」
「あなたと付き合う事で、自分がどんなに惨めか思い知らされても、それでも…」
「あなたは幸せだった。そしてさらに幸せになろうとしてた。私はそれが許せなかった」
「だから、すべて壊してやったの」
中島は心底楽しそうに笑った。
千佳は思わず後ずさる。そんな千佳に中島は、凄みのある笑顔を見せながら告げた。
「わかったでしょう?ここには、あなたの味方は一人もいない」
千佳は逃げ出した。一目散に。振り返ることなく。
中島は千佳の姿が見えなくなるまで見送ると、懐から煙管を取り出し一服つける。
煙をくゆらせながら、涙をこぼす。
「馬鹿だね…彼女に一言謝りたくて、そのためだけに生きてきたのに…」
しばらくして原口は目を覚ました。
辺りを見渡すと、千佳の姿はなく、中島が煙管を吹かしていた。
「…小娘はどうした」
「逃がしたよ」
原口の問いに、中島は悠然と答える。原口は中島の襟首を掴んで凄む。
「どういうつもりだ」
「それはこっちの台詞だよ。人の物に手を出すなんてね」
「小娘はどこだ」
「知るもんか。知ってても教える気はないよ」
中島の人を食った答えに、原口は襟首から手を離し、喉笛を締め上げる。
「自分の立場をわかってるのか?」
「…わかってる…とも。あんたを…獄門台の…道連れに…できること…ぐらいね」
原口はさらに強く力を込める。
中島は煙管を吸うと、原口の顔めがけて煙を吹きかけ、笑った。
原口は憤怒の形相を浮かべると、全力で締め上げる。
中島の手から煙管が落ちる。
中島は、最後の一瞬まで抵抗しなかった。
「おい」
「…なんだぁ」
ごろつきの一人は蹴り起されて不機嫌な声を上げた。
「お頭の命令だ。全員叩き起こせ」
「今度はどこに押し込むんだ?」
「違う。小娘を狩り出すんだ」
走る。走る。走る。
人通りの絶えた道を、千佳はひたすらに走りつづけていた。
いくつ目かの角を曲がり、千佳は気付いた。
この道が、荻上屋へ向かう道だと。
笹原は、釘付けされた荻上屋の表戸に寄りかかり、月を見つめていた。
「何をしてるんですか?」
女の声に、笹原は我に返った。
振り向くと、加奈子がこちらを見つめていた。
少し離れて、総市郎と光紀と斑目がいる。
それを見て、今日が総市郎と加奈子の結納の日であり、式の後で皆で飲みに行く事になっていたのを思い出した。
「ごめん。確か今日は…」
「気にしてませんよ。むしろそんな顔をして来られたら、かえって迷惑です」
加奈子は微笑みながら、笹原を言葉で切って捨てた。そして再び問い掛ける。
「それより、笹原さんはここで何をしてるんです?」
「いや、別に…」
「千佳さんのことを考えてるんですか?」
適当に誤魔化そうとした笹原を、加奈子は正面から見据える。
「多分…いや、きっとそうなんだろう」
笹原は月を見ながら答える。
「俺は彼女のことを何も知らない」
「知ろうとしなかった」
「俺が知っているのは、ここにいた彼女だけで」
「だから…」
加奈子は呆れ顔で尋ねる。
「他人に聞こうとは考えなかったんですか?」
「知ってるのか!!」
笹原は気色ばむ。
加奈子は逆に問い掛ける。
「笹原さん。千佳さんのことを好きですか?」
加奈子は待っていた。
千佳を本気で求めている事を、それを自分に見せてくれる事を。
そうでなければ、友人として、また一部とはいえ過去を知るものとして、千佳を託す気にはなれなかった。
しかし笹原は固まっていた。身動き一つせず、一点を見つめている。
そしてその目は加奈子を見ていなかった。
疑問に思って視線を追うと、そこには千佳がいた。
息を切らせ、驚愕の表情を浮かべ、こちらを見ている。
数瞬の後、千佳はこちらに背を向けて走り出した。
振り返ると、笹原は呆然と立っている。
「さっさと追いかけなさい!この馬鹿!!」
弾かれるように笹原は駆け出す。
加奈子が呆れるほど速く。
笹原は全力で千佳を追いかける。
程なく追いつくと、千佳の腕を掴んで引き止めた。
「離して!!」
「いやだ!」
笹原はそう叫ぶと、千佳の腕を引いて抱きしめる。
「俺は千佳さんが好きだ。だから離さない。絶対に」
千佳の動きが止まる。抱かれながら、その顔を上げ、笹原を見つめる。
笹原も見つめ返す。そして告げた。
「好きです」
千佳は驚きに目を見開き、顔を赤面させ、涙を滲ませながら応える。
「わたし…わたしは…わたし…」
「見つけたぞ!!」
だが、その言葉は男の大声にかき消された。
二人が声の方向を向くと、一人のやくざ者が、こちらを指差して叫んでいた。
呆然としていると、見る間に十人ほどのやくざ者や浪人らしき男達が集まる。
そしてその中から、原口が現れた。
「やれやれ、千佳。許婚を放り出して他の男と逢引か?とんでもない女だな」
そう言うと、わざとらしいため息をつく。
「まあ、この方が都合がいいか。祝言には代役を立てておいて、『姦夫姦婦を重ねて四つ』というわけだ」
原口は笑う。そして真顔に戻ると、言い放つ。
「殺れ」
その声を受けて、男達が一斉に刃物を抜き放つ。
笹原は千佳に囁く。
「店の前に、斑目さんたちがいる。そこまで逃げて」
「笹原さんは…?」
「大丈夫。さっきの返事を聞くまでは、俺は死なない」
不安げに尋ねる千佳に、笹原は笑って答えた。
男が一人、笹原たちに切りかかる。
笹原は千佳を置いて飛び出すと、男を切り捨てた。
「行け!」
その声を受けてわずかに躊躇った後、千佳は走り出す。
二人の男が左右から笹原に突きかかる。
右の男に踏み込む。抜き胴。向きを変え、もう一人を袈裟に切って捨てる。
男たちを睨みつける。
数人の男達が目配せをする。
そして、一人が笹原に切りかかると同時に、二人が左右を駆け抜けようとする。
笹原は躊躇わずに刀を右の男に投げる。刀は男の腹に突き刺さる。
正面から切りかかって来る男の刀を身を捻ってかわすと、男の手首を掴んで極める。
男が刀を落とす。
男を突き飛ばすと、刀を拾い、もう一人に投げる。男の足を掠める。男が転ぶ。
駆け出す。再び刀を拾い、男に止めを刺す。
新たな男が後ろから切りかかる。
転がってかわす。男はさらに切りつける。転がりながら男の足に切りつける。
男の動きが止まる。
その瞬間に、笹原は立ち上がりながら切り上げた。
(あと五人!)
笹原は荒い息をつきながら確認する。
一方、瞬く間に半数を失った男達に動揺が走る。
次の瞬間、笹原は深く息を吸うと、男達に飛び掛った。
一人目の首を突き刺し、抜きながら二人目を横なぎに払い、さらに他に切りかかろうとして。
刀を弾き返された。
「やるな…だが、そこまでだ」
男が一人歩み出る。
「やっちまえ、沢崎!」
残った男が囃し立てる。
「…お前は小娘を殺ってこい。こいつは、俺が、殺る」
囃し立てる男にそう答えると、沢崎と呼ばれた男は刀を鞘に収め、腰を沈めた。
(できる)
笹原の五感が警鐘を鳴らす。
一方、囃し立てた男が笹原の横を駆け抜けようとする。
笹原の注意がそちらに向かう。
その瞬間、沢崎の刃が光る。
笹原は本能的に見を捻る。
…わかったことは二つ。
自分の首筋を浅く切り裂いた、相手の技の確かさと、
目の前の男を倒さない限り、自分が身動きが出来なくなったこと。
息を切らせながら千佳は走る。
逃げるためでなく、笹原に助けを呼ぶために。
ようやくたどり着いた荻上屋の前には、提灯の灯りに照らされた加奈子の姿があった。
しがみつき、訴える。
「お願いします!助けてください!!」
「え?えーと…笹原さんに襲われたんですか?」
「違います!!!」
千佳は本気で憤る。
(今、この瞬間にも笹原さんは命をかけているのに!!)
千佳がその思いを口にしようとした時には、加奈子達は別の理由で固まっていた。
刀を持った男の存在に。
男も固まっていた。
小娘一人が相手だと思っていたら、4人も増えたのだから。
しかし、場数を踏んだ男にはすぐにわかった。
彼らが全く脅威にならない事を。
千佳を抱き寄せながら、加奈子は総市郎を見る。
(何とかしなさい)
その思いを受けて、総市郎は隣の光紀を見る。
(頼む)
その思いを受けて、光紀は斑目を見る。
(まかせた)
光紀の視線と思いを受けて、斑目は辺りを見渡した。
そこにはもちろん他にだれも居ない。
そして皆の目が語っていた。
『お願い』
『頼みます』
『やっちまえ』
『ただし俺ら抜きで』
斑目は刀を抜く。ため息をつきながら。
(悲しいけど俺ってサムライなのよね…)
斑目は震えながら刀を構える。
せめてもの慰めは、刀が鳴るほどには震えていないことだった。
気が付けば、他の皆はじりじりと後退して、自分ひとりが男に向かい合っていた。
男は実戦から来る余裕なのか、構えもせずに近寄ってくる。
男は無造作に斑目の間合いを割り、切りつける。
刃が斑目の頬を切り裂く。
斑目は半歩下がる。
(痛い)
(怖い)
(俺はこんな所で何をしてるんだ?)
(なぜ俺は…)
悩み出した斑目に、男が再び切りつける。
今度は腕を切られる。
更なる痛みと恐怖が斑目を襲う。刀を投げ捨てて逃げ出したくなる。
その時、斑目の脳裏に咲姫の姿と声が浮かんだ。
そして思い出す。自分がなぜ剣の練習を始めたか。
(俺は逃げない)
(そして彼女に認めてもらうんだ!)
斑目は刀を振りかぶる。
それは笹原に教えられたただ一つ。
何千、何万と繰り返した型そのままに。
ただ、無心に。
斑目は刀を振り下ろした。
振り下ろした斑目の刀は、止めを刺すべく踏み込んできた男の頭を、真っ二つに切り裂いた。
男が崩れ落ちる。
それを見て、斑目はへたり込んだ。
歯が鳴る。全身が震える。手は柄を握り締めたまま離そうとしない。
そんな斑目に千佳は駆け寄って叫んだ。
「斑目さん!お願いします!笹原さんを助けて!!」
だが斑目には聞こえていなかった。
あるのはただ目の前の、自分が初めて”殺した”相手の姿だけだった。
千佳は二度三度と叫ぶ。
それでも斑目が動かずにいると、千佳は男の落とした刀を拾い、もと来た方へ、笹原の下へと駈け出した。
「千佳さん!」
加奈子は叫びながら千佳の後を追う。
そしてその声に我を取り戻して、総市郎と光紀は斑目の元へ駆け寄った。
笹原は荒い息をつく。
既に体には、多数の傷を負っている。
致命傷が無いのは、笹原の技と、沢崎自信がそれを望んだせいだった。
「どうした…御宅流はそんなものなのか?」
沢崎が問う。
「そんな訳はあるまい…さあ見せろ、その全てを」
「俺の仕官をぶち壊した高坂を、奴を超えた事を、お前の死で示せ」
笹原には沢崎の言葉など聞こえていない。
あるのはただ、一刻も早くここを離れ千佳を助けに行く、それだけだった。
あせりだけが募っていく。
最悪の事態を思い、それを否定し、思ったこと自体を振り払うべく笹原は切りかかる。
だがその刃が届くより速く、沢崎の居合が笹原を浅く切り裂く。
笹原は慌てて飛びのく。
沢崎は追撃しない。
ただ笹原をいたぶるために。
今回はここまでです。
終われませんでした。
あと一回続きます。
お粗末でした。
>>前スレ547
引き続きありがとう。苦労した部分を褒めてもらえるとまだまだ頑張ろうという気分になるよ。
「つながってます」は解って書いてんでしょーが穿ちすぎw
>>アルエ第二話
大作になりそうだが読ませる。すばらしい。高柳かっこいい。荻上さんあんたはキャーとか
言いつつ喜んでるんじゃありませんっ!
>>筆茶屋はんじょーき
緊迫感があってたまりません。てゆーかどの作品に出てきても超悪役になる原口って一体w
次回最終回ですか?ハラハラしながら待たせていただきます。
今回は結構書き込めたので満足。
スキあったらまた来るけど忙しければ来週末までさよーなら。
ノシ
どうも。
昨日投稿したくせに、もう第三話が書きあがりました。
原作の流れに乗って書けるから早いのか、ただ暇なだけなのか。
クロアチア戦前に書けて良かったです。
それでは宜しくお願いします。
64 :
アルエ第三話:2006/06/18(日) 21:24:22 ID:???
澄んだ朝の光がアイボリーのカーテンをぼんやりと照らし上がらせている。
排気ガスの成分をそのまま音に変換したような騒音で走り去るスクーター。
うつ伏せ気味に体を捻っていた笹原の瞼が少しだけ開く。
部屋はまだ薄明るいだけで、それは笹原の充血した目に優しい。
まどろみの中、笹原は徐々に世界を認識していく。
隣に誰かいる。
暗がりに、布団から露になった肩が絹のように白く光っている。それは女性の持つ曲線だった。
不意に身じろぎして、サヤから白い実が抜け出るように彼女の体が空気に触れる。
細い背中は下着を纏っていなかった。
笹原は手を伸ばす。一体誰なのだろう? ある種の期待を込めて。
あるひとを思い浮かべて、手を伸ばし、肩に触れる。そして壊れないようにそっと力を込めた。
クガピー…。
「うわわあああああーーーー!!!!」
跳ね起きたところは久我山の部屋だった。もうかなり陽が高い。エアコンを点けっ放しの部屋は肌寒かった。
ボサボサの髪と隈を従えた目、油の浮いた顔。笹原は動悸を抑えて部屋を見回す。
久我山はテーブルに突っ伏して死んでいた。もとい、死んだように眠っていた。
笹原の絶叫を聞いてもピクリともしないわけだから、どっちでもいい気がする。
自分が眠っていたのもフローリングの床の上。どうやらカーペットにすら辿り着けなかったようだ。
「あ、そっか…。原稿…完成して…」
スキャナーで取り込んで、CD−Rに焼こうとしたところまでは記憶にある。
その後、朝になってるということは、焼き上がりを見守ってるうちに気を失ったのか。
椅子に座っていたはずなのに。よく寝れたな。転げ落ちて怪我してないかな?
そういや何だか、変な音がさっきから聞こえる。
ピンポンピンポン、ブゥー、ブゥー。
ピンポンピンポン、ブゥー、ブゥー。
笹原は暫くぼーっとしてその音に聞いていた。まったく頭が働かず、お経でも聞ているような気持ちで
玄関のチャイムと携帯が床の上で暴れ回る音を聞いていた。
思考能力がどうにか小学生レベルぐらいまで回復したところで笹原は電話を取った。
「はい…、もしもし…」
「おー…、生きてる…?」
出たのはハルコだった。チャイムが止んだ。
65 :
アルエ第三話:2006/06/18(日) 21:24:56 ID:???
「はい、何とか…。久我山さんは死んでるみたいですけど…」
「はは…、そっか…。お疲れ様……。取り合えず外いるから、鍵開けてよ」
「うぃス…」
笹原は立ち上がって、ドアへ歩いて行った。が、ピタリと立ち止まった。
何か歩きにくい。そっか、寝起きだもんなあ…、疲れてるし、心持ちいつもより元気…。
「すいません。ちょっと待って下さい…」
「ぅん? どした?」
えーと、どーしよー…。
「あー…、寝起きなんで、ちょっと顔洗います」
「は? や、鍵開けてって。それから洗えばいいじゃん」
ハルコの怪訝な表情が声から伝わってくる。そりゃそうだ。どーしよー。まだこいつは元気いっぱい勇気百倍だ。
「そだ、トイレも行かないと…」
「だから鍵だけ開けてよ。それから好きなだけしなさいって」
そこでハルコの声が小さくなった。
外で階段を下りて行く足音が聞こえた。
「ちょと! ドアの前で電話してるの恥かしいんだけど。開けて、早く」
ドアを開けるとこっちが恥かしいんだけどな…。でもそれは言えないし。
笹原はキョロキョロと部屋を見回す。いい言い訳なんて転がってるわけないのに。
テンパった挙句に出てきたのがコレだ。
「あ、あれです、ダメですこれ。難しい。開けられません。何だろ。暗証番号が…」
「ふざけてると殴るよ?」
ふざけてないんです。むしろ真剣極まりないんですけど。
一度座布団をあてがってみたが、ダメだ。最低だコレ。隠してるけど隠せてない。
もういっそ素直に言っちゃうか? ダメだ、セクハラだソレ。
ハルコに冷ややかな目で見られる自分を想像する。けっこうなダメージだ。それは回避しなければ。
でも、どうやって?
途方に暮れる笹原。結局鎮まるまで右往左往するしかなく、
ドアを開けたときハルコさんにごっさ冷ややかな目で見られることになりました。
合掌。
66 :
アルエ第三話:2006/06/18(日) 21:25:28 ID:???
笹原の座席の隣は空席だ。1つ空けてハルコが座っている。
昼間の電車は空席だらけで、それがより一層物悲しさを誘っていた。
笹原はパイプに肘を掛けて横目でハルコを見やる。
ミントグリーンのブックカバーを纏った文庫本を読み耽っている。
瞳は眼鏡越しに文字を追って上下していて、笹原の方を見る気配もない。口はキュっと閉じられていた。
キマズイ…。
それはミナミ印刷さんの最寄り駅に着くまで続いた。何度か乗り換えたのに。
まあ、いいんですけどね…。徹夜明けで着替えてないし、風呂入ってなくて汗臭いし。
そんで『うわ、笹原クサッ!』とか思われるのヤですから。
いいんですけどね…。最悪から二番目ぐらいには…。
はぁ……、情けな……。
「……では確認いたしますので少々お待ち下さい」
「はい」
ハルコは堅苦しく腕を膝に突っ張って応えた。印刷所に来るのは当然初めて。
ちょっと緊張する。
受付の女子社員が出力見本をめくる。それは言わずもがな、でき立てほやほやのくじアンのエロパロマンガなわけである。
(うあ……、見られてる。まー私が描いたんじゃないけど……)
仄かに赤面して彼女の手元を見つめる。隣の笹原は顔を伏せて置物のように座っていた。
寝てるのかな?
「……笹原?」
「ぅわっ!?」
笹原は突付かれたようにビクッと体を震わせて、精一杯瞼を開いてハルコを見た。
瞼が意思に従わないものだから、額の動きで引っ張ろうとしてオデコに何本もシワが寄っていた。
「すいません…」
「いいけど…」
でもまた見ると12ラウンド戦い切ったボクサーみたいな体勢でパイプ椅子に座っている。
電車の中で寝ないようにしていた分、眠気が半端でないようだった。
ハルコはちょっと反省した。
朝のワケの分からないやり取りからこっち、ちょっと冷たく接していたのだが、それも疲労のせいかもしれない。
三日連続徹夜の後なんだから、頭に変なものが湧きもするだろう。
どんな蟲が湧いたにせよ、大人気なかったな。これだけ頑張った笹原に対して。
67 :
アルエ第三話:2006/06/18(日) 21:26:06 ID:???
入稿が終わると、二人は駅に向かって歩き出した。
いつもは一緒のペースで歩いていく二人だったが、今日の笹原は遅れ気味。
ハルコは何度も振り返って、足を止めて笹原を気遣った。
「ダイジョブ?」
「はい…、大丈夫です……」
笹原は真っ直ぐ歩いているつもりのようだったが、気が付くと道の右へ右へ寄って行ってしまうらしかった。
「まだまだ空だって飛べますよ……」
マサルさんネタで返した笹原だったが、そのセリフは笑えない。
明らかに『オクレ兄さん!』状態に突入している。
「どっか休んでこっか? 昼時だし、何か食べてく? 奢るよ?」
眉を下げて心配そうに覗き込むハルコさん。笹原はブロック塀に手をついて気丈に笑い返す。
「いっす、いっす。悪いっすから…。それにこうなったのも自分の責任ですからね…」
そう言ってまた歩き出すが、地面が傾いているように右へ右へと寄って行く。
ハルコの眉は下がったままだ。
ちょうど喫茶店の横を通ったところで、ハルコは笹原の手首を掴んだ。
「入るよ」
笹原は慌てた。5分の1ぐらいしか開いてなかった目が全開になった。
「いいですよ。大丈夫、帰れます」
笹原はぶんぶんと腕を振ったが、力が入らず振り解けない。
結果として、それはハルコに溜息をつかせる効果しかなかった。
「ちょっと休んでこ? そんなじゃホームから転落するって」
「いや、でも…」
笹原は恥かしそうに顔を伏せた。
「徹夜明けで風呂にも入ってないし、髪ボサボサだし…、汗臭いですから…。……イヤでしょ?」
「そんなの気にしてんの?」
そう言えば印刷所でも妙に離れて座ってたよーな。
ハルコは呆れ顔で笹原の肩を叩いた。
「ほら、入るよ」
笹原はハルコに引き摺られて喫茶店に入った。
何だか、ちょっと嬉しかった。
68 :
アルエ第三話:2006/06/18(日) 21:26:38 ID:???
「あーそう! できたんた!」
部室には春日部と真琴と荻上がいた。
「ええ、今、入稿しに行ってます。笹原先輩と、……ハルコ先輩が」
荻上も久我山たちほどではないとはいえ、連日連夜の執筆に疲れているようだった。
元気がないように見えたのはそういうことだろう。
「クガピーは?」
「力尽きて寝てるそうです」
「アハハハー、ギリギリだなー」
春日部は快活に笑った。
「な、本当ダメなサークルだろ? あまり多くを期待しない方がいいと思うよ?」
荻上は少し思うような仕草をしてから、
「最初から期待なんかしてないです」
と言った。
「あ〜〜らそ」
春日部はからかうように言って真琴に目配せした。真琴は荻上を見て柔らかに微笑んでいる。
「でも、まあ、笹原のことは許してやってよ」
春日部の唐突な言葉に、荻上はドキリとした。
「何がですか?」
「会議で原稿描かなくていいって言ったこと。あれ一応、笹原なりの優しさなんだよな〜、ちょっとズレてんだけど」
春日部は頬杖の上に乗った顔を捻り、まったくなあ、と呟いた。
「別に荻上をおミソ扱いしてるとか、そーいうんじゃないから。女の子だから負担かけないようにしたかったんだろうけど。
まったくな〜、会長だからって気張ってんだよな」
荻上の頬が見る見る赤く染まって、彼女はぷいっと顔を伏せた。
耳の奥でどくどくと打つ脈の音色が聞こえる。
「わ、分かってます」
「あ〜〜らそ、そのわりには泣いちゃったり?」
「そんなことっ、忘れましたっ」
「ならいいや」
クククと笑う春日部を荻上は憎々しげに睨んだが、頭はもう別のことを考えていた。
そっか、ウザかったとか、そういうことでねぇんだよな…。
春日部の言った『女の子だから』というフレーズが、妙にむず痒く感じた。
69 :
アルエ第三話:2006/06/18(日) 21:28:21 ID:???
ハルコはアイスコーヒーにガムシロップとミルクを注ぎ込んで入念にかき回す。
下にガムシロップが溜まってたりすると嫌だし、ちゃんと均等に混ぜないと苦くて飲めない。
笹原はサンドウィッチセットを頼んでいた。飲み物はオレンジジュース。
疲労回復にはビタミンCが効果的。
笹原はソファの隅にハマるように腰掛けて、ゆっくりそれらを口に運ぶ。
お陰で少しは顔色が良くなっていた。
「すいません…。こんな体たらくで…」
「しょーがないって。無事入稿できたし、よく頑張ったじゃん」
ハルコの励ましに、笹原は力なく笑った。心の中は情けなさでいっぱいだった。
初のコミフェスサークル参加に意気込んだものの、久我山との調整は大失敗。
就職活動で忙しいハルコまで会議に駆り出すハメになり、そのくせ自分は久我山を責めていて、
会議では醜い罵り合いを演じて荻上を泣かせてしまい、最終的に春日部が仕切るしかなくなって、
挙句にこんなところでグッタリしているのが自分だった。
笑らけるぐらい情けない。
笹原は、やはり自分は会長に向いてないと思った。
実際、委員長的役割は小中高を通じて皆無だった。よっぽど春日部のが向いている。
グズグズのあの状況から何とか本が出せるところまで持って行けたのは、春日部の決断があったからだ。
決断か、本当は俺がしなきゃいけなかったんだろうなあ。
春日部君、カッコよかったよな。
笹原の頭に浮かんでいたのは、ハルコのために原口に言い返している春日部の姿だった。
「なんか…、悪かったね…」
不意にハルコが言った。
笹原は驚いて顔を上げる。
「え…?」
「うん…、いや…、まあね…」
70 :
アルエ第三話:2006/06/18(日) 21:30:47 ID:???
ハルコは言い難そうにアイスコーヒーをかき混ぜ続けている。
「急に会長を押し付けちゃったしね…。前もって笹原の意志ぐらい聞いとくべきだったなと思って…」
笹原はハルコに向かうように座り直した。
「でも、コミフェス参加は自分が言ったことですから」
「それもノリで言ってみただけってとこあったでしょ? 急な思いつきみたいな…」
正直に言ってその通りだけど…。
「ヤナに引き合わせてサークル参加セット買い取っちゃったのも…、あの辺で冷静になっとけばなぁ…」
「あー……」
ハルコがはははと自嘲するのを見て、笹原は喉の奥が詰まりそうになった。
ついさっきまで自虐に浸っていた自分が、急に腹立たしくなった。頭にきた。
自分で自分のケツを拭けないばかりか、ハルコにまでこんな顔をさせているのが許せなかった。
「でも結構楽しいですから」
笹原は言った。
コーヒー色に染まっていたハルコの目が、笹原を映した。
「つい言っちゃったことがどんどん現実になって、ビビったのはビビリましたけど。当選通知見たときはもーテンション上がりまくりで。
三日徹夜で缶詰とか、それはそれで普段できないですからね」
「ははは、それは無い方が良かったけどねぇ」
表情から憂いの色が薄らいでいく姿に、笹原はほっとした。
うじうじしてたってしょうがない。もう後は当日を楽しむだけなんだから。
「コミフェス楽しみですよね?」
笹原の問いかけに、ハルコが笑って頷いた。
それは笹原にとって、疲労回復に何より効果的に違いない。
つづく
>筆茶屋
シリアスですねー。原口は本当にヤな奴ですね!荻上さんを襲うなんて!
笹原カッコヨス でも自分的には斑目が…よくやったよ。うん。へたってたけど。
>アルエ
笹原大変だァ(色々と)
コミフェス苦労話がSSで補完された、という雰囲気ですね。なかなか面白かったっすー。
…コスプレまだー?w
感想ありがとうございます。
>>71 コスプレどーしよー。
何となく面白いかなと場当たり的に書いたのを後悔してます。
>筆茶屋はんじょーき
原口の悪ぶりが憎々しいね。
まさか中島を殺めるとは、ますます許せぬ。
一方、笹原の殺陣が凄いですね。強い!
斑目の動揺ぶりもいい。「初めての斬撃後の茫然自失」は、「日本の一番長い日」を思い起こしたりして、きっと手が硬直して刀の柄が離せないに違いないw
次回の決着を期待してます。
>アルエ第三話
コミフェスの話を補完するような展開が面白く読めました。
冒頭を徹夜後の笹原久我山から始めて、あの会議のやり取りを回想で持ってくる構成も、ハルコ&笹原に焦点当てていて良かったです。
Vオギウエ、駄文にご感想いただき感謝感謝です。
>>26 >大人になったオギーが優しく頼もしく、それを否定したくてしょうがないオギー04もかわいらしく
荻上対荻上の見所はやっぱりこの成長度合いのギャップなんで、2人の違いを感じてもらえたらとても嬉しいです。
>参考にしたいが、自分と何が違うのか判らない
とんでもない&もったいない言葉。僕の駄文は参考になんかならんですばい。
「みんな違ってみんないい」(金子みすず)ですよ。
>>38 >ジョジョネタを出すところまで被るとは…
かぶりましたね〜。ジョジョ好きとげんしけん好きは意外とかぶるのかな?
僕は愛着がある分、1部〜3部からのネタ出しが多いです。
>>40 >過去の荻上さんの辛さや苦しさを改めて思い返して、もう一度今の荻上さんを考えて、嬉しくてたまらなくなります。
過去の荻上から見たら、今のデレ分増量の荻上は絶対に許せない存在だろうなと思います。現在と過去の違いは、やっぱりげんしけんの仲間との絆が深まったおかげと、笹原とつながっ(ry
> …こっそりマ(ryが出てたのも美味しかったとさ。
……そう思いますか? そう思います? クククッ……。
>>41 >こんな風に困った新入生が入ってきても荻上さんはきっとフォローできるようになってるんだなろうなあ。
そうですよね。自分のことを振り返る視点(自分を認める心)が生まれたら、他の人のイタさにも多少は優しくなれると思います。
>Vキタ━━━━━(゜∀゜)━━━━━!!
はい「V」です。
♪終わりのないディフェンスでも……いいわきゃねーだろ!>日本代表
無印、Z、F91、Vが出ましたので、やっぱり最後は、「ヌルオタの修羅場が見られるぞ!」のZZでっす。
長文失礼しました。
>>74 ZZ!?ZZ!!超期待。
…え、マ(ryじゃなかったの?えっ?えっ?(汗)
>>筆屋はんじょーき
うお・・・殺陣ですな・・・。斑目がんばった、超がんばった。
しかし、ハラグチの悪役ぷりはすごいなあ。
げんしけんで悪役っていったら彼しかいないせいなのかもしれませんが・・・。
ラスト期待シテオリマス。
>>アルエ
なんかすごい展開になりそうだぞぉ・・・?
次回もwktk・・・w
>>74 フ・・・「ZZ」は奴と見たっ!
そして・・・今回出てきた奴も・・・。ニヤリ
楽しみにしておきますw
77 :
まとめ中の人:2006/06/20(火) 05:05:47 ID:???
>>44 気にせんで下さいー。
HP見ていただいてるんですね、完成楽しみにしていてください。
さて、「未来予想図・序章」からだいぶ時間がたってしまったけど、ようやくだいたいの準備ができてきました。
一応前スレに投下した斑目と朽木の話、の続きです。
今回は斑目出てこないけど。
12レス+おまけで投下します。
「カレーライス」
(未来予想図・4月)
***
クッチーは疲れていた。
4月からようやく始めた就職活動と大学の授業で、体力だけには自身があったのだがさすがに疲れていた。
朽「にょ〜…。」
荻「…大丈夫ですか?」
夕方、朽木君は珍しく部室の机の上で伸びていた。
心配になった荻上さんが声をかける。
朽「む〜。毎日色々考え過ぎて頭が痛い…。体は別に平気なんだけど〜…。」
疲れすぎていつもの変な口調も出ないようだ。
朽「単位取らないと卒業できないし…。さすがに留年はまずいにょ…。」
荻「自業自得とは思いますが…でも、いつもの朽木先輩らしくなくてちょっと心配です。」
朽「うう…オギチンに心配って言って貰えると…早くいつものクッチーこと朽木学に復活しないと!!」
カラ元気を出し、がばっと起き上がる。
荻「いや復活しないでいいです。なんならずっと今くらい忙しくしてて下さい。」
荻上さんにバッサリ言われてしまう。
朽「にょ〜〜〜…」
再びへたる朽木君。
荻「…でも先輩、最近本当によくやってると思いますよ。昔に比べれば。」
荻上さんがフォローを入れる。
荻「人の話落ち着いて聞けるようになったし。偉いモンですよ。」
朽「…小学生デスカ、ワタクシ。…いや、でも本当のことだからにょ…」
荻「それに、周りの空気を読めるようになったじゃないですか。一人で騒いだりしなくなったし。」
朽「え?」
それは疲れていて騒ぐ気力がないだけなのだが、荻上さんはこんな話をし始めた。
荻「朽木先輩と、以前の私は…似てるんですよ」
朽「…ほぇ!?どこがデスカ??全然似てないにょ。ボクチン、荻上さんみたいに目が大きくないにょ」
荻「いえ、顔じゃないですよ(汗)…現視研に来る経緯とか、似てると思ったんですよ。私も先輩も、前にいたサークルを半ば追い出されるようにしてここに来たじゃないですか。」
朽「む、ボクチンは追い出されてないにょ!アニ研じゃ誰も僕を分かってくれなくて、逆ギレ勝負を挑んだら丁重に他のサークルを薦められただけにょ!!」
荻「それを追い出されたって言うんですよ」
朽「む、そーなのか」
荻「…最近、あの頃の自分を振り返ってみるんです。そうしたら、なんとなく朽木先輩のことも分かったような気がして」
朽「?どーゆーことかにゃ?」
荻「…寂しかったんです」
朽「…?」
荻「ずっと、自分がいてもいいところを探してたんです。でも、私はコンプレックスや変なプライドや、不器用さから、どこにいってもうまくいかなかった。孤立して、でも孤立している時は寂しくない、平気だと自分に言い聞かせてたんです。
でも本当は辛かった。…だから、そのモヤモヤを周りにぶつけてたんです。周りを攻撃することで自分を守ってたんです。…そうやって、また周りと溝を作る。悪循環でした。」
朽「………………。」
荻「だから、現視研に来たときもなかなか素直になれなかった。
また攻撃的になって、周りを引かせるようなことばかり言ってました。…我ながらイタいヤツでした。
でも誰も私を追い出そうとしなかった。だからここにいた。
…そのうち、ここに入り浸るようになりました。それから春日部先輩や大野先輩と話せるようになりました。
他の先輩や、…そして笹原さんとも。
私は………。」
荻上さんはいったん言葉を切った。
荻「…私は、ずっと誰かに『かまって』欲しかったんです。自分がかまってもらうことばかり考えていた気がします。本当は。
誰かに受け入れてもらうことばかり…。
でも怖くて、素直になれなくて、逆に拒絶して、周りを振り回してました。
…でもある時、この場所が自分にとっていかに大事な場所になっていたか悟ったとき、なんだか自分が情けなくなりました。」
朽「…むむ?情けないって何デ?」
荻「…自分のことばっかり考えてて、他の人の気持ちとか、思いとか、考えてなかったんです。
だから平気で人を傷つけるようなことが言えたんです。
『オタクが嫌い』だとか…私にそんなこと言う資格なんかなかったのに………。」
荻上さんは俯いた。
荻「そう気づいて、自分が今いかに恵まれているか分かったんです。こんな自分でもいていい場所があって、大切な人たちがいて…。
だから、自分を変えたいと思いました。攻撃的で悲しい自分を変えて、もっと人を思いやれるようにならないと、
大切な人たちに申し訳ない気がして。
…そして、自分もそんな周りの人たちの役に立てるように。少しでも、受けた恩を返せるように。」
朽「………………フーン…。」
(オギチン、そんな風に思ってたのかぁ…。)
荻「…で、以前の私と朽木先輩が似てるってさっき言いましたけど」
朽「へ?」
荻「…朽木先輩もそうなのかなって思ったんです。誰かに『かまって』欲しいんだけど、自分がかまってもらうことばかり考えてたんじゃないのかな、って。
でもうまくいかなくて、周りを振り回してるんじゃないかって。
私は素直じゃなかったけど、朽木先輩は逆に素直すぎて駄目なんじゃないですかね?一方通行なんですよ。
自分のことばっかりで、他の人の気持ちとか考えてないから、うまくいかないんじゃないですか?」
朽「………………………。」
荻「もっと相手のことを知りたい、分かりたいって思ってたら、人の話を聞こうと思うようになります。
そうしてたら自然に相手の人と仲良くなってるモノなんですよ。」
朽「………………………。」
荻「…偉そうに言ってすいません。
でも、もし朽木先輩がこの場所を大事に思っているのなら、私たちを仲間と思っているのなら、一度そういう風に考えてみて欲しいんです。」
朽「………オギチンはどーゆー人なのかにゃ〜??」
荻「え?」
朽木君はいきなり聞いた。
朽「オギチン、今言ったでしょ。相手のことを知りたかったら、話を聞けって。
で、オギチンはどーゆー人なの?」
荻「…ええ〜〜?い、いきなり聞かれても…、そ、そうですね。わたすっていつも偉そうっすよね、先輩相手に」
朽「そーだね!!もっとボクチンを敬うのダ!」
荻「無理です。ていうかもっと敬えるような人になって下さい。」
朽「うわ、キツいツッコミ!!アハハハハ!」
荻「…じゃあ、朽木先輩はどーゆー人なんスか」
朽「ボク??…ボクは自分のこと、よく分かってるつもりにょ〜〜。ちょっと個性的で前衛的なんで、ボクチンのナイスアドリブに世間がついてこれない!
周りが理解してくれない!」
荻「ちょっとどころじゃないッスよ。それに、裏を返せば朽木先輩がズレてるから世間を納得させられないだけじゃないスか」
拳をつくり力説する朽木君にツッコミを入れる荻上さん。
朽「オギチンはネガティブだにゃ〜〜。もっとポジティブに生きなヨ!!」
荻「度を越したポジティブは思考停止とどう違うんですか?」
朽「む?思考停止??それって駄目なの???」
荻「…もーちょっと考えたほうがいいと思いますよ。それに、思考停止して何かが好転するんですか?」
朽「考えすぎて悪いほーに転がってったんじゃないのカナ、オギチンは?」
荻「う、反論できね…(汗)」
朽「オギチンに理屈で勝ったにょ!ヒャッホウ!!」
荻「勝ったからどーだって言うんですか(怒)」
朽「う、そんな睨まないでにょ〜…。ボクチンだって、色々考えてるんだにょ〜」
荻「どんなこと考えてるんですか?」
朽「さっきオギチンが言ったみたいに、ボクチンだってこの場所が大事だと思ってるにょ。」
荻「…そうですか。」
朽「ボクチンみたいなちょこっと個性的な人がいてもいい場所があるのは助かってるし。
だから空気読むとか苦手なコトでも、苦手とか言ってられないって思ってるし。オギチンや大野先輩も大事な仲間だと思ってるし。」
荻「………そう、ですか。」
朽「だから、今さら…」
荻「良かったです」
朽「え??」
朽木君が荻上さんの顔を見ると、荻上さんは少し俯きがちになっていたが、口元が少し笑っていた。
荻「朽木先輩がそう思っていてくれて…良かったです。ホッとしました」
そう言って顔を上げた。少し赤くなった顔には笑みを浮かべていた。
朽「………………………………………………………。」
朽木君はびっくりしていた。
荻「…どーしたんですか?」
朽「へ!?…いや、オギチンが笑いかけてくれるのなんて初めてじゃないかナ??」
荻「そうですか?」
朽「いやそーでしょ。昔、顔合わせたとたん舌打ちされたことあるにょ!」
荻「…そんなことしましたっけ私」
朽「うわ、忘れてるにょ!?『チッ!!』て、聞こえよがしに舌打ちして出て行ったにょ!確か去年の新歓の時!!」
荻「…そんなコト言ったら、朽木先輩に私、初対面で殴られたんですけど!」
朽「ヘ??そんなことしたかにゃ?」
荻「しましたよ!!ていうか朽木先輩こそ忘れてるんですか!?他にも色々…盗撮されたり!人のプライベートを!」
朽「まあまあ、あれは結果オーライじゃないかにゃ?どのみちそーゆー趣味があるってバレるのは時間の問題だったワケだしー」
荻「そーゆー問題ですか!盗撮自体に問題があるって言ってんですよ!!」
朽「む〜。じゃあ今度は声かけてから撮るにょ」
荻「…撮らないで下さいって言ったら、引き下がってくれます?」
朽「そこで引いたら漢がすたるにょ!!」
荻「だから駄目なんですよ!(怒)」
朽「にょ〜〜〜。人に合わせるのって、むずかしいにょ〜〜〜…。」
荻「…でも、こうして朽木先輩と普通に話してるのって初めてッスよね。というかマトモに話せたんですね朽木先輩」
朽「…オギチンはボクを何だと思ってたんだにょ?」
荻「異性人…?」
朽「地球外生物扱い!?まさかそー来るとわ!!!(汗)」
荻「アハハハ…冗談ですよ、半分」
朽「なーんだアハハ…って半分本気!?オギチーン!!」
荻「あははは、はは…!」
荻上さんはずっと笑っていた。
その時、荻上さんの携帯が振動を始めた。
荻「あ、笹原さんから…」
荻上さんは通話ボタンを押した。
荻「はい、はい。………あ、そうなんですか?いえ…今日は遅くなるって聞いてたから。ああ、そうなんですか。
いえ大丈夫です。はい、はい、じゃまた後で………」
電話を切った。電話でのそっけない口調とは裏腹に、顔は少し緩んでいる。
朽「オギチン、帰るのかにょ?」
荻「ええ、笹原さんが今日は早く家に来れるようになったらしいんで。」
朽「フーン。」
荻「朽木先輩はどうします?もう出ますか?」
朽「いや、僕はもー少しここにいるにょ。」
荻「わかりました。最後カギかけといて下さいね。」
そう言って荻上さんは部室のドアを開け、出て行った。
恵「お、ちゅーす。」
荻「あ、…ども。」
荻上さんが帰ろうとして廊下に出た数分後、恵子とばったり会った。
相変わらず派手な格好をして、化粧も濃い。
恵「ん、今帰るとこなんだ?お姉ちゃん」
荻「…お姉ちゃんはやめて下さい。帰るトコです。」
恵「んーそっか、今部室に誰かいるー?」
荻「朽木先輩ならいますけど」
恵「あいつか…うーん、せっかく来たんだけどなー…」
恵子は考え込むように顔を横に向けた。
荻「…恵子さん、もう来ないと思ってました。高坂先輩とか春日部先輩が卒業したから」
恵「ん?それはもー部室に来んなってことっすか?」
荻「え、いや、そういう意味で言ったんじゃないっす。」
恵「あ、そー。まーいいけどさー。何でお姉ちゃん、敬語なの?年上なのにィー」
荻「いつものクセです。だからお姉ちゃんはやめてと…」
恵「ふーん。ていうかー、じゃあ何て呼んだらいいわけ??」
荻「えーと…ふ、普通に」
恵「普通?荻上ーとか?えーつまんねーなー。あっ、オギッペは?前に春日部ねーさんが呼んでたし」
荻「…どっちでもいいです。」
恵「じゃーオギッペね。ワタシのこともさ、恵子でいーし。呼び捨てでさ」
荻「え、よ、呼び捨てっすか?」
荻上さんの顔が少し赤くなる。
恵「えー何照れてんの、オギッペ。うわ、カワイーー!!」
荻「か、からかわねーで下さい!そんじゃわたすはこれで!」
焦ってなまりが出てしまう荻上さん。
ニヤニヤしながら、荻上さんの走ってゆく後姿を眺める恵子。
廊下を走りながら、荻上さんは考えていた。
(呼び捨てかァ………こういうのって中学生ん時以来だァ………)
口元がほころびそうになるのを必死で抑えていた。
部室では朽木君が、珍しく色々考え込んでいた。
(ウームム…他の人の気持ちを考えてないから、かあ………。一方通行かあ…。
ボクチンなりにちょっとは考えてたつもりなんですがのう?いつも読みが外れたりするにょ。
いや、うーん…そんなに深く考えてはなかったのかにょ?
でもどーせ他人の思ってることなんてその本人にしかわからないしのう。
だいたいボクチンはそーゆーの苦手なんだよ。)
(………って、さっきまではそう思ってたにょ。
でも………うーん………)
さっき荻上さんが笑ったのを思い出した。
自分が思ってたことをそのまま言っただけなのだが、喜んでくれた。珍しいことだ。
(さっき何て言ったっけ?「大事な仲間」って言ったんだったっけ。
いやでも、あれ言ったのはオギチンが「私達を仲間と思ってくれているのなら…」って、言ったからにょ。)
(んで、オギチンが「安心しました」って笑ってくれたんだにょ。
それで、何だか………。
こっちもホッとしたんだにょ。)
(ふむ、これが「他の人の気持ちをナントカ」ってやつなんですかね?
ムム、そーかあ………。)
そこまで考えたとき、部室のドアがノックされずにいきなり開いた。
恵「ちわ!」
朽「あ、笹原先輩の妹サンだ」
恵「…そーだけど。笹原の妹はやめろよなー。恵子って名前があるんだからさ。ていうかー、アイサツしてんだからアイサツで返せば?」
急に不機嫌になる恵子。
朽「はあ。恵子サン」
恵「何?」
朽「1回呼んでみただけにょ」
恵「あっそう」
恵子は近くの椅子に座った。まだ機嫌は直らない。
恵「あーあー、つまんねー!せっかく来たのに、オギッペ帰っちゃうしさー。あんたしかいないしさー」
朽「大野先輩は就職活動で忙しいにょ。ボクチンもだけど」
恵「フーン………あんた就職活動してんだ」
朽「してるにょ」
恵「………ワタシもなんだけどさぁ」
朽「そーなんデスカ??」
恵「専門学校、去年の秋に中退しちゃったからさー。勉強つまんなかったし、いいんだけどー!
でもそろそろさぁ、仕事探さないとさー。このままバイトっつーのもさー…」
恵子は小さくため息をついた。
朽「何かバイトしてるのかにょ?」
恵「今は居酒屋のバイトしてるけど。でもずっとそこってワケにはいかないしィ。
あーもう、考えるのめんどくせー!」
そう叫んで机にガバッと伏せた。
朽「考えるのめんどくさいのはボクチンもにょ〜〜。エントリーとかイチイチめんどくさいにょ!何で面接が3次まであるにょ!
いっぺんで終わらせて欲しいにょ!何で不採用の通知に1週間もかかるにょ〜!」
恵「へー、そーなんだ…」
朽「ム、就職活動やったことないにょ??」
恵「そーゆーちゃんとしたのはやったことない。バイトの面接だったらもっと簡単だしィ」
朽「フーン」
恵「でもなかなか決まらないんでしょー?兄貴も大変そうだったしー」
朽「まだまだ就職難ですからにょ……」
恵「あーもう、働きたくねー!」
朽「働きたくねーーー!」
恵「でもプーもヤなんだよねー」
朽「ボクチンも就職浪人は嫌だにょ!」
………妙なところで息が合った二人であった。
(…とは言っても。ホントにどーしよ…)
恵子は悩んでいた。部室を後にし、兄貴の家に向かっているところだった。
兄貴に連絡したら、「今日は俺、荻上さんのとこに行くから好きに使え」…とメールで返信が来たのだった。
普段兄貴や周りの人に将来のことを聞かれたときには軽く受け流していたが、これからの自分のこと、将来のことについてやっぱり不安がある。
今まで好きなようにやってきて、深く考えずに行動していた過去の自分。
…いや、考えないといけないことをずっと先延ばしにしてきたのだった。
最近、たまに家帰ると、放任主義の親にもさりげなく聞かれる。「どうするつもりなのか」…と。
(『どうするつもりか』って………。わかんねーよ。そんなんこっちが聞きたいっつの。どーしたらいい?って。
どーせ自分のことは自分で考えろ、とかありきたりなことしか言われねーんだろーけどさー………。)
(………………………)
(特に何がしたい、ってのがないから困るんじゃん………。具体的なモンがないから………。)
春日部ねーさんのことを考える。
(…ねーさんはカッコいいよなあー…。自分のやりたいことがあって、それに対してサクサク行動してさー。
自分の店まで持っちゃってさー。あんなカッコいい彼氏までいてさー。)
高坂さんのことは今でも好きだが(やっぱ男は顔でしょ)
…でも今はむしろ、春日部ねーさんと仲良くなれたことの方が良かったと思える。
(そだ、春日部ねーさんに会いいこっかな。ねーさんならちゃんと話きーてくれそーだし。うん。店行ってみよー。
閉店してからなら話す時間あるっしょ。)
心を決めたときの恵子の行動は早い。さっさと目的地を変更して、駅から新宿行きの切符を買ったのだった。
END 続く。
荻上さん宅にて。
笹「こんばんは。」
荻「こんばんは。…どうぞ。」
笹「あ、ごはん作ってくれたんだね。」
荻「ええまあ、待ってる間時間があったんで…」
笹「………またカレー…(ぼそり)」
荻「…嫌なら食べなくていーです」
笹「え、い、嫌だなんて!俺カレー好きだし!ありがとう荻上さん!」
荻「…言い方がわざとらしいです」
笹「いやホントに!………………この前の肉じゃがよりは………………」
荻「何か言いました?」
笹「え?いや何でもないよ?あははは………」
92 :
あとがき。:2006/06/22(木) 01:42:43 ID:???
続きます。
シリーズとして、これから一月分ずつ話をつづけていきたいと思っています。(本当に書き続けられんのだろうか(汗))
さて次回(5月)は斑目さんの話。
恵子の話もまた今度続きを書くつもりです。お楽しみに。
例によってサボりに来ましたよ。
とりあえず感想など。
>>アルエ第三話
くがぴーが溶けた餅のようにテーブルに垂れてる絵が鮮やかに脳に焼きつきましたorz
微妙にキャラの立ち位置が変わりながらも、コミックスで読んだ話の行間が埋まっていくのを
見るのはとても楽しい。荻上さんをフォローする春日部くん男前〜。一方で足元の定まらない
笹原おまえなあw
曲モチーフの話って大好きなんだよね。アルエは聞いたことなかったけど先日借りて聞いた。
いいじゃなーい?歌の成り立ちはググって知ったけど、こんなトコにも二次元にマジ惚れする
仲間がいたw
続き楽しみにしてます。
>>カレーライス
お、『俺たちに明日はある』の続編かぁ。現視研の春のホンワカ感が出ていて好きなのです。
クッチーは前作も今作もソレどころではないようだが。あと明るくなったオギー可愛いね。
そして恵子やっぱりガッコやめてたか。
恵子は二次創作上でも比較的キャラクター安定してるよね、斑目とくっつくかどうかはとも
かく。俺たち(いい?みんなひとくくりにして)オタクに理解しがたい人種だからかな。
彼女のアルゴリズム考えるのって大変だけど(俺にはムリ)主体的に動いてるときの彼女の
描写は読んでて楽しいよ。早い再登場を待つ。
あなたの世界ではオギーは料理あんまりなのかw 笹原死んでも残すなよ。
そんで今週もまた1本書けた。ゆうべ上がったトコなのでこれから字数数えるんだけど、
ファイルサイズからすると10レスくらいかな。章あたり行数が中途半端なので少し増える
かも知れない。
また土曜に置きに来まーす。でわ!
今本スレ行ったら、早くもネタバレ来てたwww
みなさん気をつけて下さいwwwww
むしろみんな負けるなwwwww
>>カレーライス
うーん、二人の会話が真に迫ってますな。
あえて言えばここまで深い会話をしなさそうっていうのはあるけど、
人が少なければ自然と話したりするものかもしれないですね。
次は恵子の話なのかな?
楽しみ。
97 :
801小隊:2006/06/23(金) 06:09:49 ID:???
感想のレスは前スレに書いておきました。
最終話、16レスでいっきまーす!
風呂敷、たたみ終えれたと思うんだけどなぁ・・・。
98 :
1:2006/06/23(金) 06:12:06 ID:???
俺は銃を握り締めながら考える。
・・・人を殺すというのはどういうことなのだろうか。
今まで散々殺してきた俺がこんな事考えても意味はないのかもしれない。
だが・・・いや、だからこそか。
目の前の人間を殺せば、多くの人が助かることは間違いない。
それは、今までしてきた戦いだってそうだ。
・・・・・・戦争なんてそんなもの。
しかし・・・そんな言葉だけじゃ納得できなくなってきている。
俺はこの引き金を引く事が出来るんだろうか?
・・・一人を殺して多くを助ける。
それが例え・・・悪人であっても許されることなのだろうか。
・・・・・・答えは、もうすぐ出さなければならない。
「右舷、敵MSの攻撃が再開されました!」
サキが叫ぶ。振動が艦内を伝う。
「状況はどうなっているんだ!?」
そこにタナカとオーノが飛び込んでくる。
「・・・失敗したんですか・・・?」
不安そうな顔をするオーノに、皆答えることが出来ない。
「・・・・・・おそらくMAをとめることには成功したんだろう・・・。
後は・・・我々が持ちこたえるだけだ・・・。」
周りをドムが移動しているのが見える。
「タカヤナギ隊、攻勢に出ています!もうすぐ到着・・・。」
その瞬間。目の前でデッキに向かいビームバズーカを構えるドム。
「く、か、回避!」
クチキが叫び、舵を動かす。しかし、その砲撃は今まさに放たれようとしていた。
刹那。ドムの機体が破壊される。
「・・・何が起こったでありますか!?」
『よー、クチキ。無事だったか?』
「そ、その声は、サワザキ君?」
目の前にはライフルを構えたジムが一機。
『ドッグにいたらな、隊長がやってきてさ・・・。
一緒に行かないかって行ってくれたんだよ・・・。』
クチキがジムの後方に目をやると、一隻のサラミスが・・・。
『クチキくん、お元気?』
「は、はい!隊長こそお元気そうで!」
クチキが映し出された人物に敬礼をする。
「良く来てくれたね・・・。助かったよ・・・。」
大隊長がその人物に例を言う為に立ち上がる。
『いーえぇ。あと、お土産もお二人ほど連れてきましたよー。』
「お土産?」
サキがその言葉に不思議そうな顔をする。
『あなたにとって、一番の朗報かも知れませんねぇ。
お二人ともすでに前線へ向われました。』
そういって、にっこり笑った。
『ははは、何をしている!』
白い機体から放たれたファンネルは、ジムを執拗に狙う。
『上です!』
会長の言葉に反応し、オギウエはジムを動かす。
「く、反応が鈍い!」
先ほどの戦闘でのダメージが大きく、ジムの稼動部はまともに動かない。
だがそれでも、持ち前の反応力で切り抜けてはいた。
「・・・聞いているのより動きが遅い・・・?」
ファンネルはNT、もしくは強化人間の空間認知力を利用し、
操作するサイコミュ兵器である。
使う人間が使えば、接近を気付かれる前に敵を撃破することも可能といわれている。
「・・・使い慣れていないのか?」
オギウエは、一機のファンネルユニットをサーベルで切り払った。
『・・・やるな!さすがといえばいいのかな?オギウエェエ!?』
不敵な声が響く。ファンネルはまだ数多く残っている。
『・・・厄介ですね・・・。』
「でも・・・やるしかない・・・。」
ちらっと背中で気絶しているササハラを見る。
先ほどの痛みによって、意識が飛んでいるようだ。
『来ますよ!!』
「くっ!」
会長の言葉に反応するたびに徐々に空間が認識できてくる。
(これが・・・これがこのシステムの力・・・。)
元々、オギウエにはNT能力はない。
ただ、人体実験によって擬似的なNT能力──とはいってもの物凄く弱いが──
を得る事は出来ていた。それが拡大されているのである。
感覚は分かるだけにこのシステムへの許容性も高いようである。
『右っ!』
「はいっ!」
また一機、ファンネルユニットを破壊する。
「このままファンネルだけを破壊できれば・・・!」
『そうはいくかっ!』
そこにナカジマのMSが接近する。
『直々に切り落としてやる!』
「くっ!!」
ビームサーベルが閃く。ぶつかり合うエネルギー。
「・・・う、動けない・・・!」
このタイミングでファンネルで狙われたら終わりである。
『・・・後ろ!』
「やはりきたかっ!」
切りあいながら後ろから放たれる粒子砲を避けようと、
機体を上方に浮かせる。
放たれた粒子砲は、ジムに当たらず、そのままナカジマの機体に当たる。
『くぅ・・・!やってくれるじゃないかぁ!』
「・・・何を焦ってるの?」
『焦ってる?私が・・・?』
「らしくないじゃないか!いつも冷静でみんなの相談役で!
誰よりも頼りになったあんたが!地球殲滅作戦からして!らしくないよ!」
オギウエが叫び、ナカジマに同様が走る。
『・・・うるさいうるさいうるさい!私にはもうこれしかないんだ!』
ナカジマの悲痛な叫びに、オギウエは思う。
(・・・止めてあげなきゃ・・・。・・・彼女が歪んだ原因は・・・私にも・・・。)
サーベルを構えなおし、ジムは再び接近する。
ファンネルは一段と動きを早めているようにも見えるが・・・。
『動きが・・・単調です!』
「・・・周りが見えなくなってる・・・。・・・でも!」
ファンネルユニットをかいくぐり接近し、再びサーベルを切り合わせる。
「今度こそ・・・止める!」
『・・・嫌な感じ・・・!逃げて!』
「えっ!?」
会長の叫びを聞いて、オギウエは怪訝な顔をする。
『ははははっ!おしまいだぁ!』
ナカジマのMSの胸部が開く。光が閃く。
「うわぁああああああ!!」
ジムの各所が破壊される。胸部拡散ビーム砲である。
『・・・おしまいだ、おしまいだよ!』
体がのけぞり、動けないオギウエに向って、サーベルを振り下ろすナカジマ。
『・・・ダメ!』
その瞬間。オギウエの手がぎゅっと握られる。
操縦桿を、力強く動かし、回避行動をとる。
「ササハラさん!」
『ごめん!』
そのまま、ジムはサーベルを操り、ナカジマのMSの脚部を切り払う。
『うぐぁあああ!・・・まだだ!』
『それはこっちだって同じ事だっ!』
サーベルを構えなおし襲い掛かる相手に、ジムは隙を突き後ろを取る。
そのままファンネルポッドにサーベルを突き立てる。
『これでおわりだっ!』
「・・・ナカジマ、もう終わりだよ!・・・でも・・・
何で最後ファンネルを使わなかったの!?」
最後、サーベルでなくファンネルで勝負を挑まれていたら・・・。
さらに機体にがたが来ていたジムでは一たまりもなかっただろう。
『・・・重力圏じゃ・・・ファンネルはあまり使えなんだよ・・・。』
オギウエの問いに、ササハラが苦しそうに答える。
『・・・それもあるさ・・・。だけど・・・。私は・・・。
フフフ・・・楽しかったよオギウエ。あんたと・・・最後に触れ合えた気がした・・・。』
不敵な笑みを浮かべながら、ナカジマはジムを引き剥がし上方へと移動していく。
『それと・・・あんたの愛した人は・・・。強いね。
バイバイ、オギウエ。幸せにネ・・・。』
そのまま姿が消えていく。
『・・・これで・・・よかったのかな・・・。』
「・・・分かりません・・・けど・・・。」
ナカジマの去ったほうに視線を追いながら、オギウエは自然と涙を流した。
「・・・疲れた・・・。」
誰もいなくなった基地の中で、ナカジマは一息つく。
「・・・らしくない、か。」
先ほどオギウエに言われた一言を考える。
「ちがうよ、オギウエ。一番弱かったのは私。これが私。
みんながいなければ何も出来ないのが私・・・。」
故郷を壊されてみなのいる場所がなくなって・・・。
また互いに笑い会える日がきてほしい。そのために戦ってきた。
「・・・やり方、間違っていたかな?でも、それもこれで終わり。」
いいながら、ここで死のうと決めたその時。
『・・・ナカジマ。』
振り向くとドムが一機、目の前にいた。
「その声・・・!まさか!・・・マキタ・・・。何で・・・。」
『あはは・・・幽霊じゃないよ?』
言いながらドムは壊れたナカジマの機体を抱え、移動する。
『君の執事さんがね。助けてくれたんだよ。』
「・・・じいが・・・。」
『相方も生きてる。みんな、ナカジマの事待ってるんだ。行こう。』
その言葉に、驚きながら首を振る。
「私は・・・あんた達を殺そうとしたんだぞ・・・!?」
『・・・生きてるからいいさ。やり方をちょっと間違えただけだろ?』
そういって、マキタは笑う。
『思いは一緒さ・・・。死んだら何も出来ないじゃないか。生きよう。
いきて、連盟の連中に一泡吹かせよう。』
「・・・分かった。オギウエは・・・。」
『・・・彼女は違う道を見つけたんだろ?
こんな道、行かなくて済むならそれに越した事はないさ。』
少し寂しそうな、しかし優しい笑顔をたたえ、マキタは言う。
「・・・ああ。そうだな。それじゃ、行こう。」
ナカジマは、笑う。まるでつき物が取れたような顔をして。
「本当にさよならだね、オギウエ。また・・・会えたらいいな。」
二機は宇宙へと飛び出す。その先には、彼らの脱出艇が見えていた。
銃口を握る手に汗が滲む。
『・・・撃たんのか?』
蔑むような声。その間も、老人は操作を続ける。
『発射5分前です。』
無常にも、発射の点呼が響く。
「・・・くっ。」
歯を食いしばるマダラメ。
いまだに気持ちが定まらない。
「くそぉおおお!」
銃声が、部屋に響いた。
『貴様!』
老人が、目を剥きマダラメを睨む。
銃声がさらに数発響く。金属が壊れるような音が響く。
「・・・これで発射できねえだろ?」
ニヤリと笑うマダラメ。銃弾は、コントロールパネルを貫いていた。
『馬鹿者!これではエネルギーが逆流するぞ!?』
「・・・生かせるものなら生かしてえ。お前が大量殺人鬼であってもな。
甘い考えかも知れねえけど・・・。」
『そんな事は聞いていない!ここはすぐに爆発するぞ!』
その声と共に、爆発音が辺りを包む。
「分かってたさ。でもよ、逃げれば済むことだ!」
言って、マダラメは老人に駆け寄り、抱える。
『は、離せ!逃げられるものか!』
「うるせーよ爺さん。あんたには生きて償ってもらう。
多くの人や物を消した罪をな。・・・だから生きろ!」
マダラメは駆け出した。元来た道を走り、MSの元へ戻る。
「よっし、さっさと脱出だ!」
その瞬間、爆発が目の前で広がった。
「くぅ!」
間一髪その炎から避ける事が出来た。
「こりゃ、本気でやべえかもな。」
『・・・だから言ったではないか。お前も死ぬぞ。』
皮肉な声を出し、マダラメを嘲笑する老人。
「あー、うるせえな、俺は自分が死ぬのは怖くねえんだよ。
他の連中が死ぬ方がずっと嫌だ。今もお前が死なねえかとヒヤヒヤしてるぜ。」
そういってニヤリと笑うと、ゲルググは駆け出した。
「・・・ちぃ、所々壊れてやがる・・・。」
再び小規模な爆発が起こる。
その爆発のために、大きな塊が上方から降ってくる。
「く、避けきれねえか!?」
必死にブースとを閃かせるが、間に合わないと考えるマダラメ。
大きな砲声が響く。
「なに!?」
その瞬間、塊は壊れ、四散していく。
『間に合ったね!隊長さん!』
目の前には、半壊したジムが、両肩のバズーカを構えていた。
「アンジェラ!?何で来た!?」
『何言ってんの!助けられそうな仲間をほっとくことは出来ねえって言ったの誰?
私はあんたに死んで欲しくない、それだけだよ!』
「・・・すまん。」
思わず涙が出そうになる。
『・・・誰だって死んで欲しい人なんていない。』
ふと見ると、その後ろにスーのジムもいた。
「お前ら・・・命令違反で修正だからな・・・。」
『望むところよ!』
アンジェラの声に、笑うしかないマダラメであった。
「よし!さっさと脱出するぞ!」
『こっちだよ!』
三機のMSは最速で移動を再開する。
「急げ・・・急げ・・・!」
爆発はその間も所々で起こっている。
まだ、小規模なものが多いが、後に大爆発に繋がるのは否定できない。
『この先を抜けたらもうすぐだよ!』
アンジェラの声にマダラメは操縦桿を握る手に力が入る。
しかしその瞬間、目の前でかなり大きな爆発が起こる。
「アン!スー!」
『大丈夫!それより!』
二機のジムは停止し、その進行方向を呆然と見る。
爆発の影響で道が塞がれているのが見えた。
「くそ!マジか!」
『早く他の脱出口を!』
『ククク・・・間に合うものか・・・。』
老人の哄笑が響く。
「・・・ここまでか・・・?」
『・・・聞こえる・・・。』
諦めを感じたマダラメ。しかしそこにスーの声が聞こえた。
「・・・どうしたんだ!?」
『・・・そう・・・ここ・・・。お願い!みんな、避けて!』
叫びと共に、三人が中心に空間を作るように広がる。
その中心を狙うように、メガ粒子砲の光が飛び込んできた。
「なんだ!?」
『・・・これで外に出る道が出来た・・・。』
言いながらスーはその光が作り出した穴に進んでいく。
「・・・よし!いくぞ!」
全速力でその穴を進んで行く三機。
『・・・このスピードじゃ間に合わない?』
「・・・かもな・・・。爆発はもうすぐだ・・・。」
奥歯をかみ締めるマダラメ。
『・・・これに捕まって!』
スーが指し示したところには、チェーンがぶら下がっていた。
「なんなんだよ?こりゃ!」
『今はスーを信じましょ!』
何がなんだかというマダラメに、アンジェラが叱責する。
三機がチェーンに捕まると同時に、それは高速に引き上がりだした。
「うおおおおお!?」
強烈なGを感じながら、あっという間に外が見えてくる。
宇宙に、放り出される三機。
「・・・まさか!?」
チェーンに捕まりながら考えたのは、奴の事である。
目の前に、二機のMSか佇んでいた。
一機はメガランチャーを構えたジム。
一機は、黒い塗装が施された・・・チェーンを引っ張るガンダムであった。
『早く!ここから離れましょう!』
聞き覚えのある声にマダラメたち三機と、その二機は移動する。
その瞬間。
後ろから大きな光が放たれる。
『わ、私の夢が・・・!』
「爺さん、諦めて人々の為になるもんでも研究するんだな、この先。
・・・よう、遅かったじゃねえか、二人とも。」
爺さんに皮肉を浴びせながら、斑目は二機のMSに向けてニヤリと笑う。
『・・・ま、待たせたな。ち、ちょっと撃たれちゃってさ・・・。』
『・・・・・・あの時はすみませんでした・・・。』
「・・・まあいい。クガヤマ、コーサカ。帰還ご苦労。」
その言葉を行った後、ふう、と溜息をつきながら天を仰ぐ。
「そうだ!ササハラ!?」
ばっ、っとササハラの侵入した基地の方を見るマダラメ。
「・・・あれは・・・地球に向っている!?」
基地は徐々に地球のほうへと引き寄せられていく。
『今の爆発の影響で地球の重力圏に入ってしまったんですよ!』
コーサカの言葉に、唖然とするマダラメ。
「ばかな!あの中には二人がまだ!」
『しかし、今行くと我々まで大気圏に突入する事に!』
「ち、ちくしょう!」
手を握り締め、二人の安否を思うマダラメ。
その間も、徐々に地球へと向って基地は降下していた。
「この爆発音は!?」
丁度マダラメたちが脱出を果たした頃。
二人は壊れた基地の中で脱出を試みていた。
しかし、すでに先の戦いでMSはほぼ大破。
移動するのも困難な状況であった。そのため、脱出が遅れた。
右往左往しているそのときに、大きな爆発音が響いたかと思うと、
基地の内部は大きく揺れた。そして、ある異変に気付く。
『・・・基地が・・・加速している・・・!』
オギウエのその言葉に、最悪の事をイメージするササハラ。
「ま、まさか・・・地球に近い位置にあったとはいえ・・・。
大気圏に・・・突入しようとしてるのか?
『・・・重力に惹かれている感覚があります・・・。
間違いないようです・・・。』
会長の言葉に、顔を青くする二人。
「くそ・・・。どうすれば・・・。」
大気圏への突入。それは、空気の摩擦により加熱し、燃え尽きる事を意味する。
たとえ燃え尽きなくとも、高温が基地内を覆い、そうなれば死・・・。
『・・・方法はあります。』
『え?』
会長の発言に、オギウエは聞き返す。
『・・・先ほどの分身を利用した防御法です。
あれは表面の塗装を剥離させることで生み出した質量のある幻影です。
降下寸前にそれを行う事で一種のフィールドを生み出せば・・・。」
「・・・では、それを行うしかないって事ですね!?」
『それには完全な同調が必要・・・それに・・・。』
少し寂しげな表情を浮かべる会長に、二人は不思議な顔をする。
『・・・いえ。タイミングを考え全力で行います!』
「はい!」
破壊が進む基地の中で、心を落ち着かせながら時を待つ。
一時間ほどたった頃だろうか。周囲の温度が上がってくる。
「そろそろか・・・。」
『・・・それでは・・・。行きますよ!』
光を放ち始めるジム。綺麗な・・・光が広がる。
『・・・うう・・・!』
『会長さん!?』
「どうかしましたか!?」
苦悶の声を上げる会長に、二人が心配した声を出す。
『・・・いえ・・・。こうなる事は分かっていました。
私の力が最大限に引き出される時・・・それは私とあなた方との別れだと。
このシステムから、私の意識は解き放たれるでしょう。』
寂しげな笑みを浮かべ、会長は二人を見る。
『・・・お会い出来てよかった。また・・・会えますよね?』
「・・・会長!今までありがとうございました!」
『・・・また会えますよ!いえ、会いましょう!』
その言葉に、会長は笑顔になり、手を広げる。
『・・・・・・きっと!また!』
一段と光が広がり、周囲からMSが隔絶される。
そして、光と共に、加速していく基地は、大気圏へと降下していく。
『・・・・・・さよなら・・・。』
システムから、会長の意識が解き放たれていくのが分かる。
「さよなら・・・。」
『さよなら・・・また会える時まで・・・。』
地球への降下はますます加速を強めていく。
「・・・オギウエさん。」
『はい?』
今までで一番と思えるくらい優しい声をササハラはオギウエにかける。
「・・・・・・どこに落ちたい?」
ドキッとするその声。優しい目。首を振りながら、オギウエは言う。
『どこでも。あなたと一緒なら。』
光が基地から放たれるのを、マダラメたちは見た。
「・・・あれは・・・?」
基地への突撃を敢行しようとするマダラメを止めていた皆が、その方向を一斉に向く。
『光・・・?ササハラ君たちか?』
「・・・だろうよ!きっと、きっと無事さ!勝手に死ぬなんてそんな事・・・ゆるさねえ!」
叫びながら、マダラメは泣きながら笑う。
「地球で・・・また会おうぜ・・・、ササハラ!オギウエさん!」
地球のとある場所にある豪邸の一室。
「ん・・・。」
一人の少女が目を覚まし、体を上げた。
「・・・夢・・・?いや・・・違う・・・。ササハラさん・・・オギウエさん・・・また・・・。」
食器を落とす音が響く。
「・・・リツコ様?」
ふと見ると、手に持っていた食器を落とした黒髪の少女が目を見開いていた。
「・・・カスミ。いままでありがとう。」
にっこり笑うリツコ。そこにカスミは駆け寄り抱きつく。
「よかった・・・本当によかった・・・。」
涙を流し、嗚咽を漏らす。
「・・・チヒロたちは?」
「・・・はい。いま第100特別部隊は『サン・シャ・イン』のほうへ侵攻中。
あともう少しで戦闘に入るそうです。」
「そう・・・。みんな・・・無事でいて・・・。」
窓に映る夜空には、一筋の流れ星が見えた。
「・・・あれは・・・きっと・・・。」
そういって、リツコはにっこりと笑った。
戦いは終わった。
第801小隊はドッグへと帰還した。
戦争はこの後1週間後に終結する事となる。
だが、この部隊の戦いの記録は、残る事はなかった。
危険性の高いこの事実を無視した無能を政府高官が認める事になるからだ。
都合のいい事に証拠は全て消滅していた。
・・・しかし、彼らにとってそんな事はどうでも良かった。
肝心なのは、皆生き残った事。
また、笑いあえているという事。
軍を大半が辞め、皆思い思いの地へと旅立つ。
・・・いつかまた会えるときを信じて。
あの二人にもまた会えるときを信じて。
「ササハラさん?」
「なに?」
「・・・もう戦わなくて、いいんですね。」
「・・・・・・うん。そうだね。」
リツコは、あのときの約束を果たそうとする。
戦争から一年。
元第801小隊のメンバーにめぐり合いながら、
地球にいるはずの二人を探す。
案内役は、臆病者の元隊長。
外伝「リツコ・レポート」
お楽しみに
え〜、長い間お付き合いいただいたこの話も、終わりにたどり着けました。
毎回感想を書いてくださった方々、書かずとも読んでくださっていた方々、
本当にありがとうございました。
ガンダムとげんしけんの融合。
オタクならではの舞台に彼らを呼び込んで、戦わせてしまいました。
どうでしょうか?皆さんの思っていたラストと違っていたでしょうか?
誰もが生き残ったという(もちろん、名の無い死者はいましたが)
この物語は、ご都合主義の塊です。
でもま、物語なんてそんなもん、と開き直っています。
後は外伝をかいて、この物語は一旦お終いです。
この作品を使って何かをしたいって方がもしいたら、ご自由にどうぞ!
ッていうか誰かアニメ化してくれ!(殴
SSスレと共に歩んだこのSSに、私自身が感謝。
そして、SSスレはこれからも新しい人を迎えながら進んでいくんだと思って。
さて、次は何を書こうかな・・・。
>801小隊
>「・・・・・・どこに落ちたい?」
009キター!
ここでこのパロを出してくるなんて、懐が深いですな。
「流れ星」になった2人を見ながら、「戦いのない世の中になりますように」と祈る姉弟がいたに違いない(w
とにもかくにも乙彼!
よくぞここまでまとめました!
>801小隊・完結
今読み終えて、頭が真っ白です。敵役(名前のある登場人物)が誰も死ななかったのは、
想像を超えてました。ナカジかじいさんのどっちかは死ぬと思ってたから。
でも今読み終わって、誰も死なずに話をまとめたこと、戦争という一人ではどうにもならない大きな流れの中で、
登場人物一人一人の願いや思い、後悔や苦しみが清算されてゆくのを見て、奇跡を見た!と思いました。
大げさだけど、自分にとってはそう思えました。
ホントに面白かった。外伝の話も楽しみにしています。…特に臆病者の元隊長!!!
とにかくお疲れ様でした。
うああああ、絵描きたいけどMSがかけねえええええ!
というわけでだれか たのむ
MSは描けるけどレイアウトが思いつかないので…
漏れも描きたいけど、ジムのコックピットとナカジのMA(MS?)の資料を探す根性がない・・・
いや、あったら描くのかって言われたら悩むけどw
マダラメゲルググなら曲線多いから何とかなりそう。
122 :
117:2006/06/23(金) 22:29:03 ID:???
>>121 絵だ!やった!…と思ったけど×ボタンで見れなかった…orz
あれーなにがいかんのだろう?
>>122 わしSafariとIE使ってるけど、Safariで見ることができて、IEだめだた。
ネスケでも駄目でした
126 :
描いた本人:2006/06/24(土) 00:06:44 ID:???
本当にすみません。
家に帰ったらやり直したいと思いますが、どうせ‥‥な絵なのでスルーして忘れていてください。
迷惑かけてすみません。
127 :
121:2006/06/24(土) 01:09:14 ID:???
128 :
121:2006/06/24(土) 01:10:00 ID:???
>>126 いやいやそんな。軽くして絵板に投稿してほし…とか言ってみる。
昨日はちょいと忙しかった。でも読むには読んでたよ。
>>115 801小隊完結乙&オメ。風呂敷の見事な畳みっぷり感服した。物語を完結させる力っていいなあ。
それぞれの人物なりのそれぞれの決着のつけ方、よい感じです。ただナカジマたちは宇宙海賊に
でもなりそうなイキオイだが大丈夫なのかw
ササ&オギには今回も涙腺刺激させられました。俺も世界中の人が平和に暮らせますようにって
祈ったよ!
なにはともあれお疲れ様でした。ラジヲもあるし次回作への意欲も充分なご様子なんでもっともっと
楽しませていただけそうな予感でございます。まずはご休養のうえ新作を期待してます。
外伝も楽しみ。『その後』モノっていいよね。もちろん1人あたり1話ですよねええー?
それでは拙作投下いたします。『Million Films』全11レス。今回は田中と大野さんの話。
よろしく〜。
夕暮れのスーパーマーケットを出て、歩き出す二人の影。それぞれに手提げ袋を持ってなにか会話しているのは、
田中総市郎と大野加奈子だ。
「ねえ、教えてよ、そろそろ」
「うふふー、ダメですよ。完成するまで秘密です」
「カレーかシチューでしょ?こんなにジャガイモ買ってきて」
「わたしお料理あんまり得意じゃないですけど、これだけは自信あるんです。向こうでもパーティとかで作ったりして、
評判よかったんですよ」
「楽しみだね」
早春の休日。日中は暖かくなってきたが、夕刻になると涼やかな風が吹く。
二人は今日も、コスプレイベントを楽しんできていた。先刻一旦帰り着き、田中は加奈子の自宅に夕食の招待を
受け、一緒に買出しをしてきたところだ。
もう二人で何度も行き来した道。夕飯の支度が始まる時間なのだろう、信号待ちの交差点は人や自転車で溢れ
ていた。レシピのおさらいをしているのか、今から腕を振るう料理に気合を込めているのか、加奈子は軽くハミング
しながら田中の先を歩いてゆく。曲目はアニメソングで、田中が次に制作する予定のコスチュームもこの作品の
キャラクターだった。
夕日が彼女の頬を染める。少し寒くなった風が長い黒髪をなでる。立ち止まった田中は、加奈子に気づかれない
ようにズボンのポケットに手を入れた。
ピピッ。
小さな電子音に加奈子が振り向くと、田中は小さなデジカメを片手で構えていた。慌てて、手で顔を覆う。
「あ、やだ、田中さん撮っちゃダメですよー、今わたしお化粧してないんですからぁ」
「もう一枚。はい、チーズ」
ピピッ。
「やですったら、もう。早く行きますよ!」
「はは、ごめんごめん」
唇を尖らせ、頬を染めて早足で歩き出した加奈子に急いで追いつく。本当は今の表情も撮りたかったが、シャッター
チャンスを逃してしまった。
「大野さん、歩いてるだけで絵になるからさ、つい撮っちまった」
「コスプレしてるときは自分で覚悟してるからいいんですけど……やっぱり普段のときは恥ずかしいですよ」
「見る?今の写真」
田中はかまわず、デジカメの後ろのモニターに画像を表示させた。夕映えに、全体がオレンジがかった写真。
なにか嬉しそうに、遠くを見つめる表情。軽く開いた唇から奏でられているであろうメロディーは、背景の電線を
五線譜のようにイメージさせる。
「……んーでも、やっぱり、恥ずかしいです」
まんざらでもない表情でカメラを覗き込み、しかし不意打ちはやめて欲しいと主張する。
「わたし、田中さんってデジカメ使わないんだって思ってました」
「うん?いや、そういうわけじゃないよ」
「そうなんですか。いつも大きいカメラしか持ってないから、てっきり」
「デジカメ、便利だよ。取り回しに気を使わなくていいし、たくさん撮れるし」
ピピッ。
「あ、もうっ!」
「あはは」
1枚、また1枚。彼女の周りに、思い出が積み重なって行く。
田中は、先日のことを思い出していた。
****
その日、田中は加奈子の部屋でコスチューム整理をしていた。加奈子自身がアメリカから持って帰ってきた
衣装が収拾つかなくなっており、何とかしたいと相談を受けたのだ。
「また着る機会っていうのはほとんどないし、ほんとは売るなり捨てるなりしちゃえばいいんですけれど……
やっぱり、思い入れができちゃうんですよね」
いくつものはちきれそうなダンボール箱を背に、加奈子は笑ってみせた。
「わかるよ、その気持ち。俺んちなんかこんなもんじゃないからね。よし」
端から箱を開け、彼女の歴史を感じさせるコレクションを整理し始める。コスプレ衣装といっても、加奈子は
自分では作らない。ほとんどが一般の市販服や民族衣装を組み合わせてそれらしく見せたもので、専門の
オーダー衣装店のタグがついた服が何着かあるくらいだ。箱には服と一緒にポケットアルバムが入っており、
その服を着たときの仲間と写した加奈子の写真が詰まっていた。
「……ほほう。これはなかなか」
「あー、恥ずかしいからあんまり見ないでくださいね。一応思い出に、写真撮ってもらってあるだけなんですよ」
そうは言っても加奈子の昔の写真だ。田中としては見ずにはおれない。
ライトセイバーを構える加奈子。女吸血鬼として妖しく笑う加奈子。銀のスーツを着込んだ宇宙人、つぎはぎの
キャットスーツでポーズをとる美女。
「映画関係が多いの?アメリカって」
「アニメキャラの服ってなかなか入手できないんですよ、専門店行くと高いし。映画キャラは、あっちではだいぶ
定着してるみたいでけっこう手に入りやすいんです」
「それにしても大野さん……この時高校生だったんだよね?」
「そうですよ?」
「こ……こりゃあ、けっこう」
田中が見ていたのは旧版キングコングのコスプレ写真だった。こと昔のSF映画の女優はセクシーな衣装を
つけていることが多い。それをティーンエイジャーの加奈子が演じている姿は、それはそれは扇情的なもの
だった。
「やーっ、どこ見てるんですか!あーんもういいです、わたしが自分でやりますからぁ!」
「いやいや、ごめん、ちゃんとやるから。い、衣装だよな、ポイントは。写真じゃなくて」
「そうですよっ!」
二人は作業に戻り、またしばらくは平穏に時間が流れていった。
「ふう、田中さん、そろそろ一休みしませんか?」
2時間ほども経っただろうか。大雑把にたたまれたりハンガーごと丸められていた服は、ほとんどが衣装
ケースに整列していた。
「ん、大野さん疲れた?そしたら俺やっちゃうよ。あとちょっとだから」
首を回す加奈子に田中が言う。彼としては大好きな加奈子の、大好きなコスプレ衣装に触れている限り疲れ
などに負ける気がしなかった。実際、クローゼットの奥に見えている最後の段ボール箱が空になればこの作業
が終わる、と少し寂しくなっていたくらいだ。
「大丈夫ですか、田中さん?……じゃ、わたしお茶入れてきますね。あんまり無理しないでください」
「ありがと」
「……それから」
立ち上がり、部屋を出しなに加奈子が言う。
「くれぐれも写真のほうに夢中にならないでくださいね?」
「あはは、了解」
加奈子がキッチンへ行く足音を聞きながら、田中は最後の箱を取り出した。
パタン。
「?」
箱の向こうで何かが落ちた。不審に思った田中が拾い上げたそれは、ほかの衣装箱にも入っていたポケット
アルバムだった。
「あれ、どれかにしまい忘れたのかな?」
パラパラとページを繰り……気づいた。違う。
いつもの癖で衣装にしか目が行っていなかったが、さっきまで胸躍らせながら覗いたアルバムとは違う。これ
だけページ数が少ない。写っている加奈子の衣装も、ほかのアルバムとダブっている。それに……。
全部ツーショット写真だった。相手の顔は見ていないが、同一人物であろうことが察せられる。
一旦閉じてしまったアルバムを手に、息を呑む。
いいのか?これを見て。……いや、ダメに決まっている。……いや、いまさらヤキモチなんか。……いや、彼女
のプライバシーだぞ?逡巡する心とは裏腹に、震える手が再びページを開いていた。
目に飛び込んできたのはアラビアの姫。だが、加奈子がつかんでいる腕はアラジンではなく、体が肌色の
ままのランプの精のものだった。アニメそのままのようなゴツい体つきにスキンヘッドで、手作りの辮髪と顎鬚
を揺らしている。
裸の上半身に誇示される筋肉がまがい物ではないのは一目瞭然だ。
「田中さん、お待たせ……田中さん?」
「わ……」
「キャ!」
写真に気を取られ、田中は加奈子が入室したのに気づかなかった。ティーセットを床に置き、肩越しに覗き
込んだ加奈子の顔色が変わる。
「そ……それ、どこに……なくなったと思ってたのに……」
驚愕の表情が、徐々に涙で曇る。
「……っ!」
目をギュッとつぶり、アルバムを田中から奪い取る。
「ご……ごめん大野さん、箱の向こう側に落ちてて……他のとおなじ写真だと……」
「……」
「の、覗くつもりじゃなかったんだ、本当にごめん」
アルバムを抱きしめ、肩を丸める加奈子の背中にたどたどしく弁解する。
「わ、わたしこそ……ごめんなさい」
搾り出すように声を出す。
「彼……ジェフっていって、あっちで少しお付き合いしてた方なんです」
田中の心臓を握りつぶしそうな、悲しい声音。
「……今のわたしには田中さんていう人がいるんだから、……こんなの、持ってちゃダメですよね……?ごめん
なさい……ごめんなさい……ごめ……」
泣きながら、アルバムのページに手をかけた。
「わ!大野さん、何を!?」
一気に力を入れ、破こうとする寸前に田中が止める。
「やめてよ大野さん、大野さん!」
加奈子は目をつぶったまま、写真に力を込め続ける。しばらくもみあってようやく、彼女の力が抜けた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
肩で息をしながらまだ詫び続ける加奈子を、同じく息を切らした田中が抱きしめた。膝立ちのままの加奈子の
手から、アルバムが滑り落ちる。
「!……っ」
「大野さん、なんで謝るの……?」
「だっ……て」
「俺が、こんなのでショック受けるって思った?大野さんのこと、なにか勘違いすると思った?」
「……だって……だって」
加奈子は涙を流し続ける。田中は加奈子の涙を指でぬぐった。
「……見くびらないでよ、俺のこと。これでも、結構フトコロの深いトコあるんだぜ?」
「田中さん……」
加奈子を左手で抱いたまま、田中は床に手を伸ばしアルバムを拾い上げた。実は心中穏やかではなかった
が、わざと大仰にページをめくる。
「ふん、ジニーにドクター・イーヴルに、これはなんだっけ……トゥーフェイスだ、ああ、キャットウーマンもいたもん
なあ。おお、ここにもキングコング発見!さっきはじっくり見れなかったからな。この大野さん、きれいだなあ」
「よしてください……そんな無理して」
「無理なんかしてないさ。きれいだ。それに……すごく幸せそうだ」
「……え……」
「俺さ、コスプレやりながら写真も撮ってきて、最近感じるようになった事があるんだ」
加奈子が泣き止むきっかけになったのを確認して、田中はアルバムを閉じた。
「コスプレやってるときって、みんな、とっても幸せそうに笑うんだよ」
加奈子を支えながら、そっと床に腰を下ろさせる。ぺたんと座り込んだ彼女はまだ顔を上げないが、どうやら
話を聞いてはくれているようだ。
「みんな、自分の好きなキャラクターになりきって、可愛らしく笑ったりニヒルな表情したり、悪役キャラの人
なんかは実にいやらしい笑い方を練習してきてたりするんだけど、その表情の奥に隠し切れない幸せを感じ
ちまうんだな、レンズ通して見てみると。……それで、そういう人たちの写真は必ず、いい写真に仕上がるんだ」
「……」
「衣装の出来やメイキャップなんかは各人各様でさ、中にはウケ狙いとしか思えないようなのもいて。向こうで
見たことない?段ボール箱かぶって前に『ガンガル』ってマジックで描いてある外国人。そんな連中でも、共通
してるのがそのシアワセ感だよ。コスプレが好きなんだな、って思う。大好きなんだな、って。ねえ大野さん」
「……はい」
田中は再びアルバムを取り上げた。最後に開いていたキングコングの写真を開く。
「この写真の大野さんも幸せそうに見えるよ。同じことを好きな仲間がいて、思い切り好きなことをできて。
それも……大好きな人と一緒にできて」
加奈子の肩がぴくりと動く。
「この……誰だっけ、ジョン?いまもアメリカに?」
「……ジェフ、です。いいえ、海兵隊の人だったんですけど、今は多分中東に……転属が決まってお別れ
したんです」
「彼もいい表情してる。きみと一緒にいられて幸福だったんだろう。彼もコスプレ好きだったの?」
「ええ……結構米軍ってオタク、多いらしいんです。このときの写真は、周囲の人もだいたい軍人さんで」
「大野さんのこと、自慢して回ってたんだろーなー。いま俺がやってるみたいに」
「田中さんはそんなことしてないじゃないですか」
「田中さん『は』だって?かーチクショウ、やっぱりやってやがる」
「あ……」
「ねえ、大野さん。ちょっとした提案があるんだけど」
どうやら落ち着いた加奈子の肩から手を離し、すぐそばに腰を下ろして田中は言った。右手にはアルバム
を持ったままだ。
「この衣装、俺が全部作り直してもいいかな?」
「……えっ?」
「男女両方とも。それで、これからのイベントできみに着て欲しいんだ。もちろん相方は俺でね」
「えっでも……結構ありますよ?それに時期外れ……」
「そんなの関係あるもんか。どう?全部誰かに写真撮ってもらって。カメラの仲間なら、会場探せば5人や
10人すぐ見つかるし、いなけりゃ通行人でもセルフタイマーでも、なんだって」
意気込んで喋る田中を、加奈子は目を丸くして見ていた。これほど彼が熱くなる姿は、今までにもほとんど
目にしていない。しばらく怪訝な表情をしていたが、加奈子はふいにあることに思い当たって頬を染めた。
「……あの」
「うん?」
「それって……もしかして……もしかして……ジェラシー、ですか?」
「……えっ」
「……わたしのために?」
田中も顔を赤くし、口ごもる。
「あー……なんだ、その……うーんと、わっわっ、大野さん?ちょ、ちょっと」
間近にある瞳にまた涙が浮かんだのを見てたじろぐ田中を、加奈子はかまわず全力で抱きしめた。田中の
両手は何を躊躇しているのか空気を掻くばかりだ。加奈子の動悸が、二人の服を通して彼の胸に響く。
「田中さん、わたし、嬉しいです」
「大野さん……?」
「田中さんはわたしのこと好きって言ってくれて、わたしも田中さんのこと大好きで、同じことで笑ってくれるし、
コスプレも一緒にして。でも……わたし、本当はすこし不安だったんです」
不安と聞き、宙を泳いでいた田中の手が動きを止める。
「……お正月からこっち、いつも一緒にいてくれるのに田中さん、わたしに……なにも……。大切にしてくれて
るのかなって思うんですけど。でも……やっぱり、なんだか……寂しかったんです」
田中が加奈子に好きだと打ち明けたのは、年明けのことだ。イベント会場で見せる積極的なキャラクター
とは正反対に、実体の田中総市郎は古風な小心者だった。自分に好意を寄せてくれているのが明らかな
加奈子に対しても、数ヶ月の迷いを経てようやく告白に至ったというのが真相で、そこからさらに数ヶ月、彼の
彼女に対する最大のスキンシップは先ほどの抱擁という有様である。いやむしろ現在、田中が受けている
『加奈子からの抱擁』は二人にとって久しぶりの大躍進と言えよう。
「田中さん……ありがとうございます。わたし、田中さんのこと大好きです」
「大野さん」
田中の心が決まったのだろうか。さまよっていた彼の両手は加奈子の背中に回され、愛しい人を逃さないように
しっかりと支えていた。自分を抱きしめる感触を確認するかのように、加奈子が軽く身じろぎをする。
「ごめんね、こんな男で。俺、こういうの馴れてないから……焦って失敗したら嫌われちゃうかもって思ったんだ」
「そんなこと……絶対ないのに」
「大野さん。俺もきみのこと、大好きだよ」
「……はい」
加奈子は顔を上げ、優しく微笑んだ。
田中も彼女の瞳に笑顔を投げる。
加奈子はそっと目を閉じ、唇を軽く突き出す。
「kiss me,please」
「……うっ」
田中は……田中はここでまた固まってしまう。3秒。5秒。加奈子が目を開けた。
「あ」
「田中さぁん……」
ほんの一瞬、残念そうな顔。だがその表情はすぐに消え、いたずらっ子のような笑顔に取って代わった。
「田中さん、わたし、決めました」
「え……なにを……かな?」
「うふふー」
加奈子の両手は田中の背中から、両肩へと移動した。
「わたしから、いっちゃいます!」
「いっ……」
だん、と音を立てて二人は床に転がった。田中はしたたかに後頭部を打ち付ける。
「お、大野さん……」
「田中さん、大好きです」
加奈子は田中にキスし、……衣装の整理は結局翌日へ持ち越されることとなった。
****
「……さん、田中さん?どうしたんですか?」
「ん?ああごめんごめん、考え事してた」
加奈子の声に、田中の時間は現在に戻った。考え込んでいたのは一瞬だったらしい。田中はさっきの場所に
立ち止まり、加奈子だけが数メートル進んだ位置で彼を振り返っていた。
「もう、後ろ見たら止まってるんですもん。そこの酒屋さんで赤ワイン買ったら買い物終了ですよ」
「了解。ねえ大野さん、そのワイン全部使わないんでしょ?なら、冷えてる奴買って、二人で飲まない?」
「あらー、いいですねえ」
「おっと、そうすると1本だけじゃ足りないかな?」
「そんなには飲まないですよぉ」
「イベント後の一杯って、旨いよねー?」
「……じゃ、2本買いましょう、か?赤と白と」
ピピッ。
「あ!まだ持ってたんですか?もーっ」
「あのさ」
さすがにカメラをしまって、田中は言った。
「それもコスプレじゃない、よく考えたら」
「え?このカッコが、ですか?」
「うん」
「えー?」
何を言われたのだろう、という顔をして、加奈子は考えながら歩いている。
田中は相変わらずその後ろを、シャッターチャンスを探しながらついて行く。
デジカメは、あの翌日電気店に行って買ってきたものだ。田中は実はけっこうな銀塩写真機至上主義者
だったが、それでは『枚数』でかなわない。彼女の、思い出たちに。特にあのジェフという男に。
1枚撮れば、1歩。100枚撮れば、100歩。100万枚撮れば、100万歩。俺は彼女の思い出たちを追い
抜ける。彼女の撮り溜めてきた幸せをどうこうするつもりは毛頭ない。ただ、それを凌駕する幸せを、自分は
加奈子に捧げたいと思う。
過去の彼女の幸せが何百枚分あろうと、俺はこれから100万枚分の思い出を加奈子に撮ってあげよう。
100万枚分の幸せで、俺が彼女を埋め尽くしてあげよう。それは……それは、きっと。
自分でも気づかないうちに、再びカメラを取り出していた。見つからないように手を背中に回し、視界の中で
フレームを設定する。暗くなってきた空にシルエットで浮かぶ電線には、まだ加奈子の歌が寄り添っている。
「うーん、判んないですよぉ。田中さん、なんのコスプレに見えるんですか?これ」
「判らなかった?あのね」
「はい」
「若奥様」
「……ええっ?」
ピピッ。
きっとそれは、ふがいない俺から彼女への、精一杯のラブソングになるだろうから。
今回は歌ネタでやらせていただきました。曲タイトルをテーマにしたSSはけっこう見かけるんだけど、内容
までモチーフにする作品ってあんまりないみたいだね、歌詞に踏み込んで描いてるのって『なごり雪』『お家
へかえろう』あたりだろーか。好きなのですよ、ああいうの。
今や「えーっとね、ゆず?みたいなバンド」って説明しなくても判ってくれる人も増えたコブクロの曲です。
『Yell』でハマって『風』で泣かされ、語ればきりがないくらい好きな歌手。コレも俺様ベストにずっと入ってる
曲なんですが、先日車で聴いてて夕焼けの道を歩く田中と大野さんが目に浮かび、そこからは一気呵成。
歌のイメージって人それぞれだからこーいうのダメな人も多いかと思います。その皆さんには申し訳ない。
内容については、2004年早春の頃の話。お付き合いは公になったけど、まだ……の時期。当初田中が
攻めなのかなあと考えつつ書き進めていたのに、いくら大野さんがコナかけてもカクゴ決めてくんなくて、
結果的にはここでも押し倒されてしまいましたw でもなんつーか、俺の脳内で彼らは将来幸せな家庭を
築きそうな確信が持てたのでヨシとしよう。きっと純粋培養なコスプレエリートが生まれるんだろうなあ。
大野さんってアメリカ帰りのせいか反応がストレートで描写しやすいね。やっぱこの二人いいよ。
たぶん田中が受けだけど。
今週もスレ汚しどーもでした。またオギーに愛を注ぐ日々に戻ります。またなんか書けたら来るね。
>Million Films
甘甘な大×田!!面白かった〜〜、大野さんの過去が信憑性あるなーと思って読んでました。
外国のコスプレの様子とか、興味深かった。あと、大野さんの元彼設定も。
それに対する田中の反応、大人だな〜。田中は(自分の中では)クレバーなイメージがあるけど、
大野さんに対するフォロー、うまいなーと思いましたよ。男らしい。
それにしても大野さんが攻めwありうる…ww
おおう、すんげえ勢いの投下ペース。すっかり読むペースを上回ってからは
ためてしまったけど、絵板見てまた来たっすよ。
まとめに収録されてるやつから読み始めて必ず追いつきます。
>Million Films
大田話だー!田中の描写がいい感じです。
やー、コスプレ作ってるならではの嫉妬の解消法。
田中っぽいですよね。
>ダンボールにガンダム
これ、本当に幸せそうな顔してるんですよねー。あの写真好きです。
相変わらずお前ら感想ありがとう。俺はほんとに幸せ者だよ。
>>143 高校時代の活動経験はたぶん大野さんがいちばんありそう。次が田中(大野さんはコス、田中はむしろ
撮影メインか)で以下斑目=クッチー=オギー(同人誌買いまくり)>クガピー(同人誌の購入量は上
の3人ほど多くない)と続いて、咲さんはもちろん笹原・高坂も即売会参加経験なしと見ております。
あと外国のコス風景はSF大会くらいしか判らんので(もちろん行った事なんかないし)どんなもんだか
ね。エロコス板にUPされてる奴なんか外国のイベントみたいだけど。
田中は俺ん中でも似た感じだと思います。勉強できるというよりソツのないタイプ。ただ彼の行動は、
それを踏まえた上でさらに「大野さん好みのキャラ」を演じてるという解釈でございます。
>>145 >>>ダンボールにガンダム
>>これ、本当に幸せそうな顔してるんですよねー。あの写真好きです。
コレ言われただけでも、あのよく読むと前後がつながってない1行書いた甲斐があったというものだ。
うれしいなあ。
youtubeで3D GUNDAMとかいう作品(これは日本人のもの)を見たことがあって、「お前らそんっなに
ガンダム好きかw」って感じが伝わってくる。ガンダムがすごいのかガノタがすごいのかはあえて言及
しないけどネ。
>>147 見たwフイタwwwものすごいノリノリだったですね
「アルエ」の挿絵、勝手ながら
絵板に描かせていただきました。
読んでて凄いクるものがありましたもので。
全く了承を得ずですので、問題あれば削除いたします。
>149
いえいえ、むしろこっちが勝手に書いてるほうなので・・・。
本家様に描いていただけて感謝の極みです。
ちょっとハルコさんが大人の女風ですねぇ。えーのぅ。
コミフェス編をいま書いてます。今週中に出せればと思います。
遅くなりましたが、感想ありがとうゴザイマス。
>>93 荻上さんは笹原と付き合うようになって見た目も中身もホントかわいくなったと思うので、今後も、そのへんうまく書けたらいいなと思います。
料理ヘタなのはマイ設定ですが、幸せモンのささやんにはちょっと苦労してもらおうと思いましてw
恵子はこれから成長する姿を続編でかいていきたいと思います。
>>96 確かに、クッチーと荻上さんがこんなに深い会話するってのはなさそうですね。
自分としては、荻上さんがどんな風に成長したか、どんな風に思ってるのか考えてみたかったので、あえて語らせてみました。
恵子話はもうちょっと待ってくださいねー。
さて、続編かけたので投下します。15レスです。
「トンネル」
(未来予想図・5月)
153 :
トンネル1:2006/06/28(水) 21:48:18 ID:???
その日、いつものように定時に会社を出ようとした斑目は、同僚に呼び止められた。
「いま帰り?」
斑「あ、花本さん。そうです…珍しいすね、この時間に会社戻ってきてるの」
声をかけてきた同僚は花本という作業員だった。
いつもは外で水道管の点検作業をしているので、昼間以降はほとんど顔を合わすことがない。朝会社に出勤したときに挨拶くらいはする、という程度の間柄である。
花「うん、今日は珍しく早く終わってさ。そうだ、これから飲みいかないか?」
斑「え?」
花「何か用事でもある?」
斑「いや、特にないです。」
花「じゃあ行こう。うまい焼き鳥屋知ってるんだ。」
そう言ってさっさとドアを開けて行ってしまう。斑目は慌てて後を追った。
こうして飲みに誘われたのは久しぶりだった。入社したばかりの時は何度か上司に誘われて行ったのだが、緊張しすぎてあんまり飲めず、やたら高そうな料理の味もよく分からなかった。
上司以外の同僚に誘われたのは今日が初めてだ。でも飲み屋に向かって歩く間、思ったほど緊張はしてなかった。
花本さんは話しやすい人で、気さくな感じの人だった。わりととおっとりした話し方をする。
30半ばで、確かまだ独身だったはずだ。
花「最近はだいぶ忙しさも落ち着いてきたからホッとしてるよ。」
斑「そうですねー。4月はけっこう電話かかってきてましたよね。」
花「4月はなぁ。毎年そうなんだよ、春になるとウチは工事が増えるからなー。一時期はかなりキツかった」
斑「外行ってる人はホント大変そーっすよね。いつ見ても疲れた顔されてましたもん」
花「アハハ」
花本さんは苦笑した。
154 :
トンネル2:2006/06/28(水) 21:48:56 ID:???
焼き鳥屋に着き、とりあえず生中を頼んだ。
斑「俺、会社の人と飲みに来たの久しぶりです」
花「そうなの?」
斑「何度か課長に連れてってもらったんですけど、なんか妙に高いとこで、緊張して何食ったか覚えてないんですよ」
花「ああー、課長って言ったら、あそこの料亭か。俺も入社したばっかの頃連れて行かれたなー。」
斑「そーなんすか?」
花「そうそう。課長、ワンパターンなんだよ。新入社員入るたびに連れて行ってんのさ。」
斑「へええ…。」
そんな話をしているうちにつき出しと生中2つが運ばれて来た。
花「じゃ、乾杯しますか。」
斑「あ、じゃあ。」
言われるままにジョッキを合わせる。
「乾杯!」
花本さんが半分ほどを一気飲みした。
花「ふう!」
斑「いい飲みっぷりっすね」
花「喉渇いてたからねー。今日、外はやたら暑かったし。」
斑「ああ、そうっすよね。昼休みに外に出たら、日差しがキツくてびっくりしました。
まだ5月なのに、ここんとこ夏みたいな気候ですよね」
花「…そーいやさ、君、昼休みはどこ行ってんの?」
斑「え?」
ドキッとする。
155 :
トンネル3:2006/06/28(水) 21:49:43 ID:???
花「なんか噂になってたよ。入社したときから、斑目君はいつも昼休みにいなくなるって。
何?近所に恋人がいて、会いに行ってたとか?」
斑目は飲んでいたビールを噴きそうになった。
斑「げほっ、げほ…い、いやそんなんじゃねーっすよ!」
………当たってはいないが、ちょっと近い。ほんのちょっとだが。
花「何?慌てて。まさか図星か?」
斑「え、いや違いま……」
花「顔が赤くなってるぞ」
斑「いや違いますって!…あのですね、大学が近いんで、在学中に所属してたサークルの後輩の顔見に行ってたんですよ。それだけです。」
言いながら、嘘は言ってねーな俺、と思った。
花「え?君、椎応大なの?」
斑「そーです」
花「へえ、俺の知り合いにも椎応の奴がいてさあ。サークルって何のサークル?」
斑「…現視研っていうサークルです」
花「現視研??聞いたことないな。どんなサークル?」
斑「えーと…漫画とか、ゲームとか研究してるサークルですけど」
花「ん?漫研みたいなモン?」
斑「いや、漫研は別にあるんですけど。俺らはあんまり漫画描いたりしてなかったんで。
描きたい人だけ描くって感じで。ていうかずっと部室でゲームしたりして遊んでました。」
花「ふーん?よくわからんけど、楽しそうだなあ」
そう言ってるうちに注文していた料理が来た。
156 :
トンネル4:2006/06/28(水) 21:50:21 ID:???
花「お、来た来た。ここのねぎまはでかいだろ」
斑「あ、ホントですねー」
…内心、話がそれたことにホッとしていた。
花「…ところでさ、サークルでどんな話してたの?」
斑「え?」
花「俺、学生の頃は漫研とか、あんまり縁がなかったからさ。オタクな人って、どんな話で盛り上がるのかと思ってさ」
斑「え、えーっと………そうですね。最近のアニメとか、漫画の話とか」
花「ふうん、最近のアニメ…?」
斑「いや、昔のアニメとかも。…ガンダムとか。」
花「ガンダム!!懐かしいなあ!」
花本さんは急に声が大きくなった。
花「子供のとき、すごい夢中で見てたんだよ!」
斑「ああ、花本さんはモロにガンダム世代ですもんね」
話が弾み始めた。そのうちにジョッキも空き、追加注文をする。
斑「やっぱ富野監督のガンダムっすよ!」
花「俺はファースト以外認めん!」
斑「…それは極端な意見っすね。Zも駄目っすか」
花「つーか、ファーストしか見てないから。あとガンダムの劇場版は見に行ったけど。」
斑「へえ、そりゃもったいないっすよ。面白いのに」
だんだん酒も進む。
157 :
トンネル5:2006/06/28(水) 21:50:59 ID:???
花「にしても、そんな話でずっと盛り上がれていいなあ。ちょっと羨ましいな」
斑「ずーっと遊んでましたからね。皆で格闘ゲームで対戦したり。」
花「そりゃ、昼休みに部室に行きたくなるワケだ」
斑「………仕事なんて飾りです!偉い人にはそれがわからんのです!」
斑目は急に拳を握り、言い放った。
花「…おおーい、上司の前でそんな事言うなよ?(汗)」
斑「ジーク、ジオン!!」
花「斑目君、酔っ払ってる?」
斑「そんなことないっスよ〜。…だがあえて言おう、酔っ払ってると!!」
花「どっちだよ(笑)」
…ちょっと飲みすぎたらしい。
斑「…でも、そろそろ行くのも止めなきゃいけないんですけどね………」
斑目は少し声のトーンを落として、言った。
斑「ずっと、遊んでばかりもいられないっつーか…。いい加減遊んでんなよ、って自分でも思うんですよ………」
花「そうかな?」
斑「え?」
斑目は花本さんの顔を見た。
花「いられる限り、そこにいたらいい。大事な場所があるのは幸せなことじゃないか?
それがない人にとっちゃあ、羨ましくてたまらない状況だと思うよ」
花本さんはジョッキをテーブルに置きながら、そう言った。
158 :
トンネル6:2006/06/28(水) 21:51:35 ID:???
花「すっかり遅くなっちまったな」
店員がラストオーダーを告げに来たので、店を出ることにした。
斑「なんか、すいません。話しこんじゃって」
花「いやいや、俺も面白かったし。斑目君があんなこと言う人だったなんてなー」
斑「!!………アレは忘れて下さい…(汗)」
花「あはは。まあここだけの秘密ってことでね。今度オゴってくれ」
斑「はい、喜んで……」
花「さて、タクシーでも拾うか。斑目君、確か家が会社の近くだったよな?」
斑「あ、そうです」
花「じゃあ…ここからだったら、俺んちに寄ってから、斑目君家までだな。俺先降りるから」
そう言って花本さんは手を挙げ、タクシーを一台つかまえる。
花「………じゃ、ここで降りるから」
斑「はい。今日はご馳走様でした。」
花「いやいや。あ、運転手さん、コレで。次の目的地まで足りるかな」
花本さんはそう言って万札を出す。
斑「あ!…いやここは俺が」
花「いいから。じゃ、また明日。おやすみ!」
花「はい、ありがとうございました………」
花本さんは軽く手を挙げて、歩いていった。
159 :
トンネル7:2006/06/28(水) 21:52:10 ID:???
(………………………。)
タクシーのドアがバタンと閉まり、再び走り始める。
一人になると急に、疲れていることを自覚して頭がぼうっとなる。
さっき花山さんに言われたことを思い出した。
『いられる限り、そこにいたらいい。大事な場所があるのは幸せなことじゃないか?
それがない人にとっちゃあ、羨ましくてたまらない状況だと思うよ』
(………………………。)
(いられる限り、か………。俺はいつまでいていいんだろうな………。
もうあそこにいる理由がないんだ…。)
今までの『理由』について考えた。
(だいたい理由って言っても、自分にしか分からない理由で…。
たまに部室で顔を見れたらそれでいいやって………そんだけのことで。
どうにかしたいとさえ思わなかったんだ。ずっと。
どうにかしたいって思っても、どーにもなんねーって分かってたし………。)
160 :
トンネル8:2006/06/28(水) 21:52:41 ID:???
あの二人のことを思い出す。
(だってなあ…割りこむ隙もなかったし。あの関係を壊したいとも思わなかったし。
…壊す度胸がないからって言い訳してんのか?いや、そうじゃない。本当に壊れて欲しくなかったんだ。
………なんでだろ??)
(『幼馴染み』という最強の称号には敵わんのだ。…オタクっぽい考え方だなー、我ながら)
少しおかしくなり、笑いそうになった。
(…そうか。事あるごとに見せつけられるあの二人の強い絆が、羨ましかったのかも知れんなあ…。
だから別れて欲しいって思わなかったのかも…。
でもそれってあの人が好きって気持ちと矛盾してないか?…矛盾してるな。
矛盾してっけどどっちも本音なんだな。)
(………もしかしたら)
(もしかしたら俺は、…『絆』そのものに憧れてるんじゃないだろうか?)
タクシーはトンネルに差し掛かった。
空気の音が低くゴーー…と鳴り始める。
耳の奥が痛くなる。
161 :
トンネル9:2006/06/28(水) 21:53:25 ID:???
寂しいと思った。
唐突にそんなことを思った。
…いや、いつも心のすみに漠然とあったような気がする。でも見ないようにしてきた。
そんな風に考えても仕方ないから。考えたら何か変わるわけでもないから。
それでも、今までは平気だったはずだ。
何で今は平気でいられないのか、分からない。
喉の奥がつかえたように重い。
望んでも手に入らないからだろうか。
最初から分かっていたはずだ。なのにどうして。
…いや、と反論する。
そもそも今まで自分から手を伸ばそうともしてこなかったじゃないか。それは、手を伸ばしても得られないときの事を考えると怖かったからだ。
傷つくのが怖かったからだ。
だから手を伸ばす素振りもしなかったのだ。
だから今まで望みもしなかったのだ。
いや違う、望みはあった。でもそれを深く考えようとしなかったのだ。直視しないようにしてきたのだ。
望んでも叶わないから。
…今まではそれでも平気だった。それなのに。
何でこんなに苦しいのだろうか。
…もう会えなくなって2ヶ月経つ。
会いたいと思う。でもそれは無理だ。会うための理由も手段もない。
それに、二人の邪魔をしたいとも思ってないのだ。
さっきから堂々巡りだ。同じ言葉ばかりが頭を回る。
酒のせいだろうか。頭がうまく働かない。
結局何が言いたいんだ?と自分に問いかける。
結局…。
望んだ、という自覚があるから辛いのかもしれない。
駄目だと分かっていても、手を伸ばす素振りもできなかったことを後悔しているのかも知れない。
…でも、もし仮に手を伸ばしたとしても、元々駄目だと分かっていたことだ、傷ついてもっと辛かったに違いない。
いや、いっそのこと傷ついたほうが良かったのかも知れない。きっぱり振られたほうが、今のこの中途半端な状況よりもマシだったのかも知れない。
…通過儀礼として。
………迷惑だと分かっているのに?相手にとっては困るだけなのに?
そうだ、そう思ったから結果としては正しかったのだ。
…分かっている。分かっているけど。
どっちにしても駄目なのなら、寂しいのが変わらないなら、言わなくて良かったんだ。きっと。
そのとき車がトンネルを抜けた。
トンネルを抜けても、今の自分には何も見えてこなかった。
………………………
次の日の昼休み、今日も斑目は大学に来ていた。
サークル棟の階段を上り始めたとき、後ろから声をかけられる。
朽「おぉうう!斑目先輩!!コニョニョチハ〜〜〜!」
斑「…おう。今日も元気だネ、朽木君」
朽「僕はいつも元気100倍ですにょ!………と、言いたいとこですケド〜〜〜、
最近はちょ〜〜〜っとキツいです〜…。就職活動に追われてるにょ………」
斑「ハハ、まー頑張れ。ていうか今のうちに頑張っとかねーと苦労するぞー、俺みたいに(笑)」
朽「おぉう、斑目先輩の二の舞。それだけはカンベン!!」
斑「………朽木君はいつも正直だネ。時々その首絞めたくなるな」
朽「それだけはカンベン!!」
…さて、部室では荻上さんと大野さんが何やら話し合っていた。
荻「………だから、斑目先輩は総受けなんですよ!」
大「う〜〜〜ん、そうですねえ………確かにここ最近の斑目さんを見ていると、否定できないですねえ………」
荻「メガネ君は受けだからこそいいんです!エロエロな顔で苦痛に顔を歪めてるのがいいんです!!」
大「…でも、笹原さんを強気攻めにするのって、やっぱ彼氏だからなんでしょ〜?キャーーー!!」
荻「ちっ、違います!わ、わたすがメガネ受けが基本だからです!」
斑・朽「………………………………………(汗)」
男二人は部室のすぐ外で固まっていた。
斑「…は、入りづら〜〜〜………(汗)」
朽「斑目先輩、何だかモテモテにょ」
斑「こーゆーのはモテてるって言わない」
斑目は手に持っている弁当を見て、ため息をついた。
斑「…はあ。どうすっかなー。近くの公園で食うか………」
朽「斑目先輩が遠慮することないにょ、ボクチンがガツンと言ってくるにょー!」
何をガツンと言うんだ、と言おうとしたとき、朽木君は目の前の部室のドアをおもいきり勢いよく開けた。
バターン!!!
朽「そこのオフタリサン!斑目先輩をネタにするのはやめるにょ!セクハラだにょ!!」
斑「うわーーー!!(汗)」
大・荻「!!!!!!!!」
しばらくの沈黙。
斑「………や、やあ…。コンチハ………」
大「こ、こ、こんにちは!え、えーとえーと………(//////)」
荻「あっその、す、すいませ………………(//////)」
斑「え?な、何が?何喋ってたか全然聞こえんかったよー」
「………………………………」
再び沈黙。
(…やべ、外した)
全然フォローになっていないのであった。
朽「斑目さん何言ってるにょ??荻上さんと大野さんが、斑目先輩を総受け…」
斑「うん、いいから、空気読もうぜ朽木君」
荻「あのその、す、スイマセン」
斑「いやいや………」
気まずい空気のまま、弁当をごそごそ広げる斑目であった。
END 続く。
おまけ4コマ的な。
【振ってみただけだから】
部室での微妙な空気を変えようと話題を振る斑目。
斑「そ、そういえば大野さんって就職、旅行会社とかで探してるんだっけ?」
大「え、ええ。あとは空港関係とか…。」
斑「………………朽木君は?」
朽「ボクチンですか?………秘密だにょ!!」
斑「…あっそういいけど別に」
朽「そんなに知りたいなら教えちゃうにょ〜!」
斑「いやホントいいから、どうでも」
その2。
【足がついてないじゃないか】
会社にて。
花「斑目君、おはよう」
斑「あ、おはようございます。」
花「…ぷっ、クククク…………」
斑「? どーしたんスか?」
花「『仕事なんて飾り…』」
斑「わーーーーーーーー!!(汗)」
花「ハハハハ、ごめんごめん」
斑「もー、勘弁してくださいよーー(汗)」
168 :
あとがき。:2006/06/28(水) 21:58:07 ID:???
「花本さん」のイメージは、ハチクロの花本先生のイメージを借りてます。
斑目さん、今の時期は辛いですが、そのうち……。
次回、6月は恵子の話です。
今週はSS完成しなかった。さすが月末、忙しいw
でもそれで書き込みしないというのもつまらんし、せっかく好きなシリーズが来てる
ので感想など。
>>168 未来予想図順調ですな。このスレの作品ってどれも完成度が高くて安心して読めるが、
ジャンル的には原作世界を下敷きにして進む話が好きだ。「ああ、こういう話が読み
たいんだな、読みたかったんだな」というのを共感しやすい。
斑目に同僚登場ですな。ハチクロ読んだことないけど、最近駅のポスターでお中元持
ってるおっさんが花本先生?ググってもはぐみちゃんしか絵が出てこない。
酔ってるときって他人の生の意見に触れることが多いし自分の思想にもスキができる
んだよね。告白しないことを選んだ(というより告白を選ばなかった)斑目、この先
自分の選択にどう判断を下すのか
興味津々です(書きかけの作品で斑目独白シーンが
あって、今ちょっと彼に感情移入中)。
あと「漫研みたいなもん?」と問われて「そんなもんです」と流さないところがオタ
くさくてとってもよかったw
恵子話楽しみにしてるよん。気負わず楽しく続けてください。
俺もがんばって書き続けよっと。
あと遅れたが
>>147 サンキューそれだよそれ。個人的にはガンタンクの両手の芝居が
ツボなのです。
どうも。アルエの第四話ができました。
今回はコミフェス開幕編といった感じになっております。
そろそろ何らかの動きがあっていいんじゃないかと思っているのですが、
それは次回ぐらいからになりそうです。
それでは、宜しくお願いします。
朝 7:35
「ええ、さっき駅に着いて、今、一般行列の横、通ってます。ハルコさん達この中ですか?」
「そー。今、立ってるけど、そっちから見えないかな?」
「……いやあ、見えないですね。ハルコさん達は先に買い物するんですよね?」
「ぅ、うーん…。だからそっちのサークルスペース行くのは昼頃」
そこで大野がハルコの手から携帯を引っ手繰った。
「いいえ! ハルコさん、田中さん、私は着替えたら”スグ”行きますので。買い物は荻上さん”だけ”です」
言うだけ言って、大野は喜色満面でハルコに携帯を差し出した。荻上にふふんと鼻を鳴らして。
荻上はムッツリしてキャップを深く被り直す。
苦い顔でハルコは携帯を受け取った。
「……じゃ、そっちヨロシク…」
「……はい、じゃ、後ほど」
笹原はハルコの心中を慮って苦笑いを漏らした。しかし、裏腹に胸は高鳴る。
目の前に巨大なモニュメントの如き建造物が迫るにつれて、そのボルテージは確実に上がっていく。
「楽しみだねー」
真琴が携帯をしまい込む笹原を見ながら行った。
朽木は既に尋常ならざるシチュエーションに浮き足立っているが、真琴はいつもの笑顔で余裕がありそう。
やはりサークル入場に真琴を入れたのは正解だ。
「そうだねー」
「どっちが?」
「ふえっ?」
喉から素っ頓狂な音が飛び出して、笹原は言葉に詰まった。どっちがって…、どれとどれが?
真琴は無邪気に笑ったまま、
「どっちも楽しみだねー」
「ははは…」
笹原も合わせて笑った。
真琴はそのまま、朽木と話しながらすたすたと歩いていく。
笹原は息を整えつつ、真琴の後姿をじっと見つめた。
どっちって、当然、片っぽはサークル参加で、もう片っぽは…。
笹原は自分の胸の中だけにある答えを確かめる。そこには、確かに今日もう一つの楽しみなことがあった。
自分でも、それを楽しみだと確認することを無意識に避けていた楽しみ。
笹原は真琴の背中を見ながら思った。
やっぱりそうなのかなあ。女の子って、そういうこと本人以上に鋭いものなんだなあ。
楽しみは今、一般参加の列の中に紛れていた。
「ちょっといいですかネ…」
小さく手を上げてハルコは尋ねる。
大野は喜びに堪えない顔をしていて、田中は眉をひそめて汗をかいていた。
その汗の成分の半分は反省か申し訳なさで出来ているのかもしれない。
「今日…、マジでやるの…?」
「マジです!」
「でもぉ〜…、サイズ測っただけで…、どんなコスするのか全然聞いてないんですけどネ…」
「心配ありません。ハルコさんは身を任せてくれればOKです」
「それが心配だっつってんだよ…。あれだよね…、親が泣くような衣装ではないのですよね?」
「むしろ親さえ感涙にむせび泣くこと請け合いです!」
言下に断言した大野であったが、その後、口に手を当ててニヒヒ笑いをしている姿を見るにつけ、
ハルコの不安はいやが上にも高まるばかりだった。
「大丈夫なんでしょうね…、こんな場所でトラウマ背負い込みたくないんだけど…」
「今日のフェスティバルに相応しい衣装ですよ。ねー田中さん」
語尾に『はぁと』とルンルンがつきそうな勢いの大野に、田中はお手製の作り笑顔を向けていた。
「そーだね…」
荻上が呆れ顔で指摘する。
「田中さん、目が死んでますよ」
「Shut up! コスプレ班でない人は黙ってて下さい」
「私…、いつの間にそんな班に入れられてたの…」
ハルコは溜息を漏らしたが、まあ、良しとした。
現視研初サークル参加のコミフェスにハルコもテンションのギアが一つ高かったのだ。
ともあれ、こうして『コミックフェスティバル 2004夏』3日目の朝を迎えた。
梱包を解いた先にはスカートを摘み上げる幼女会長のお姿が美麗に印刷されていた。
まるで初めて同人誌を手にしたような(というのは感動的なようで全然そうじゃない表現だが)気持ちで
笹原はじっとその会長を隅から隅まで見つめ尽くした。
ページをめくる。
「うわ……」
本当に自分達が描いたマンガが印刷されている。
「わーわーわー……」
本物の、本物の自分達が作った同人誌だ。
「いい出来だね。印刷ミスも無し」
忘我の心地であった笹原とは別に、真琴は落ち着を払っている。
地獄の一週間を経験していないからかもしれないが、これは真琴の元来の性格のせいだろう。
「じゃ保存用に……、20冊だっけ? 抜いとこう。それと提出用の本に見本誌票を貼んないと」
「あ、そーだね」
テキパキと段取りを進める真琴に引っ張られて笹原も設営の作業に移る。
今日はこれからが本番。まだまだこんなところで浸っている場合ではなかった。
さすが高坂さん、頼りになります。
設営が終わったスペースを前に、
「どう?」
「いい感じ、いい感じ」
特に派手なわけではないが、ま、こんなものだろう。
本が二段に詰まれ、表紙絵を流用したポップ。なかなか様になっているんじゃなかろうか。
「や」
「あ、高柳さん」
肩にタオルを掛けた高柳がやってきた。片手には同人誌を持っている。
恐らく漫研発行の新刊だろう。
「お〜〜、出来てるじゃない。いーねぇ」
「おかげ様で…」
笹原はいろいろな意味を込めてその言葉を言った。
この人には本当にいろいろ迷惑を掛けてしまった。主に春日部君が。
「その節は、本当に申し訳ございませんでした」
「まー、いーって…。俺も忘れたいし…。これ、ウチの新刊ね、とりあえず一冊」
いい人だなあ、高柳さん。
笹原はそっと高柳の幸福を願いつつ、同人誌を卒業証書を受領するような手つきで受け取った。
「あっ……、はい。じゃウチも一冊」
『ウチも一冊』っと言うのは、何だかゾクっときた。
そう、これはウチの同人誌なのだ。まだちょっと照れが入るが。
「ありがと。あっ、そうだ…」
そこで高柳は、また見慣れた表情をした。高柳の代名詞的な不表情である困り顔である。
ジト汗に押されるように眉尻が下がっていた。
「ハラグーロ来てるらしいから、気をつけてね」
「えっ……漫研のチケットで入ったんですか?」
「いや、大手サークルかどっかから入手したみたいね」
うわー、と思わず笹原は声を漏らした。あの人が絡むと本当にロクなことが無い。
ぜひ顔を出して欲しくない相手なのだが、いざ来たらどうしようか。
外にハルコも来ていることが脳裏を掠める。それと、今日は春日部が居ないことも。
今日は楽しい思い出になると決めてかかっていたというのに、まったく、出ばなを挫かれた。
「春日部君が居ないってのは、不幸中の幸いですかね…」
笹原は呟くように声を漏らす。気付けば高柳と同じ顔になっていた。
「あー、聞いたソレ…。正直スッとしたよ。……じゃーもう、みんな知ってんだ?」
高柳が訊いたのは、当然ハルコと原口の因縁のことだ。
ハルコが原口のせいで蒙った迷惑といったほうが正確かもしれない。
「ええ、まぁ、田中さん達から…」
高柳はまた眉尻を下げた。
「今日、斑目も来てんだよね…。顔合わさなきゃいいけどなあ…」
と、そこまでは真面目に心配そうにしていたのだが、急に何やら少しばかり恥かしげに高柳は頬を染めた。
そして真琴をちょっと気にする素振りをみせて、笹原に顔を近づける。
「斑目、コスプレするって言ってたけど、そーなの?」
んん?
「えぇ…。大野さんと一緒にコスプレで売り子さんしてもらう予定ですけど…」
「やっぱくじアンキャラ? 誰?」
「いや、知んねっす…」
「はぁ〜〜〜、なんだろね…、目覚めたの?」
「いやぁ…、半ば無理矢理ですよ」
「まーそんなとこか…。じゃ、俺、自分のとこ戻るよ…。んじゃまた後で…」
「どーもー…」
笹原は高柳をいやに細い目で見送った。
横で真琴が笑顔でその光景を見守っていた。
「あ、そうだ。後で原口さん関係で断った人達にあいさつ行っといた方がいいかもね」
「あー……、そうかなぁ……」
笹原は生返事を返すのみだ。
幸いなことに、原口が現視研の売り場に顔を出すことは無かった。
今のところは。
10:00
会場にアナウンスが流れる。
『だだいまより、コミックフェスティバル2004夏 3日目を開催いたします』
「あれ…、大野先輩達はまだ来てないんですか…?」
意外なことにスペースに最初に現れた現視研メンバーは荻上だった。
笹原たちの予想では大野さん達が来るもの思っていたのだが。
荻上は夏らしいノースーブに、首にアクセサリーまで付けていて、それまた意外だった。
「どうですか、売り上げの方は…」
「ま、ボチボチかな。あっちから回って入って」
荻上は裏に回ると早速本を手に取った。
「あ、やっぱり気になった?」
「ええ……、一応自分も描いてますから」
荻上は刷り上った『いろはごっこ』を少し離して眺めると、笹原たちの目を避けるように背中を向けて目を通した。
「どう?」
笹原が尋ねる。
「まー…、いいんじゃないですか? 男性向けなんで、本当にこれでいいのかどうか微妙ですけど…」
荻上はそっと紙袋に本を戻す。
「でも、いざ本になると、感慨深いものがあるよね〜〜」
笹原は立ったまま肩越しに話しかけている。
荻上は二の腕を隠すように腕を擦っていた。
「まあ…、そうですね…。少しは……」
少し恥かしそうに笹原には見えた。
荻上が顔を上げると、目の前に笹原の背中がある。
それを見ていると、荻上の口は会話を求めているみたいに、むずむずと疼いた。
「……立ってやってるんですか?」
「ん?」
笹原が振り向いて、荻上はまた周囲に視線を逸らす。
「そっちの方が目立つかなって、高坂さんのアイデア」
「あー…、なるほど…」
また笹原が前を向く。また口がむずむずして、荻上は唇をこじる。
えーと…、何かねぇがな…。何か…、出来るだけどーでもいいやつ……、えーと…。
「大野さんたちは?」
荻上の筆が跳ね上がる。笹原に先に越されてしまった。
「入場で、別れたきりです…」
「へー、二人ともだから、時間くってんのかな?」
「あー…、そうかもしんないすね…」
「うん……」
「はい……」
「………………そっか」
笹原は、前を向いてしまった。ちょっと苦笑気味だった。
うーん、と荻上はまんじりともしない表情で背中を見つめる。
あ、お客だ。
「1部下さい」
「ありがとうございまーす」
笹原は子供のような顔で嬉しそうにお釣りを渡す。
荻上は少しだけそれを見つめて、またうーんと二の腕を擦った。
会話が続かない。まー、話すことがない以上、続かないのもむべなるかな。
どこかに話の取っ掛かりはないものだろうか?
荻上は一度はしまった同人誌を取り出して、パラパラとめくった。
そこは荻上と笹原が一緒に過ごした時間がたっぷりと詰まっていた。
くじアンの話にしようか、同人誌の話でもしてみようか。
久我山を含めて三人で缶詰した話はどうだろう。
私は途中で帰って自分の家で寝たけど、笹原さん達は毎日どんな風に朝を迎えたんだろう。
荻上は、小さく笑った。
別にわざわざ探すまでもない。もうみんなで一緒に過ごした時間がこんなにもあったんだから。
「同人誌、出せてよかったですよね」
「ん? ああ、本当、一時はどうなることかと思ったけどねー」
笹原は笑顔が堪え切れないような、そんな笑顔をしている。
荻上もつられて顔を崩しそうになって、キャップの鍔を深く引いた。
「もー、本見た瞬間に走馬灯が駆け巡ったよ」
「それ笑えないですよ」
荻上は苦笑していたが、心は弾むように軽かった。
こんな気持ちは、もうずっとずっと感じたことがなかった。楽しいと思った。
「でも、荻上さんには悪かったなあって思うんだよね」
笹原は通路を通る人を気にしながら、弱り顔を荻上に向けた。
「本当はもっと俺がちゃんとしなきゃいけなかったのにさぁ。結局シワ寄せいっちゃったし」
荻上は胸の奥がギュと鳴くのを聞いた。
頭にある光景が浮かぶ。
自分に掌を広げて精一杯強がった顔をしている笹原。そしてしたり顔でフォローをする春日部の顔。
『【女の子】だから負担かけないように』
その言葉が耳に木霊していた。
笹原は喋り続けている。
「ほら、だって荻上さんは…」
荻上は笹原を見上げる。顔が噴火しそうなほど赤く火照っている。それに気付いて慌てて顔をあさってに向けた。
いっそ何も聞こえないように、大声でも出してしまいたかった。
次に笹原の口から出る言葉を、聞きたいのか、聞きたくないのか。
今は、じっと笹原の声が耳に届くのを待っていた。
「1年生だから。いきなりいろいろやってもらうの、申し訳なくて」
「………いいっす、別に…」
がっかりなんかしてない、と荻上は自分に言った。
「どうぞご覧になって下さーい」
真琴の平べったい客引きの声が響いた。
「あ〜〜、スゴーイ! 本当にやってる〜〜!」
お昼近くになって大野率いるコスプレ班がやっと笹原たちの元へやって来た。
大野の格好はもちろん、
「お〜〜大野さん、副会長式典Ver.か」
「くじアン本ですからね!」
周囲の視線を集めて、コスプレした大野は実に堂々としている。
しかし、何だか妙に歩きにくそうだ。
だがそれでいて、大野は明らかにいつもより生き生きしていた。
「随分かかってたね…」
笹原は少しキョドリ気味に訊いた。
実はさっきから大野の後ろで小さくなってる影が気になっているのだ。
「あはは、ちょっと説得に時間を要しまして」
「説得じゃない…。脅迫でしょっ!」
ハルコは大野の背中に肩を丸めてしがみ付いている。頭にゴーグルが見えた。
「あ、いづみコスですか? ……あれ? でも…」
帽子じゃない。ねじり鉢巻?
「ほら! いい加減に覚悟決めて下さいっ!」
大野が勢いよく体を振り回す。
背中から追い出されたハルコはタタラを踏んでよろめき出た。両足の下駄がカランと鳴った。
壊れそうなくらい細く白い脚がホットパンツから伸びている。
対照的に真っ赤になった顔。纏った薄布の祭り半纏の合わせを自分の体を抱きしめるようにして閉じていた。
眼鏡のない瞳が、ちょっとだけ涙ぐんでいた。
「ちょ、え? それ、ええ〜〜〜? 巻末の合作マンガのテキ屋コスじゃないすか…」
笹原は噴き出した汗と赤面を隠すように、手で覆って顔を伏せる。
でも、目はしっかりハルコの生脚に固定されてしまっていて、それが余計に恥かしく思えた。
「う〜〜ん、まあ、今日はお祭りだしね〜…」
田中は自嘲気味に言った。が、何気に満足そうだ。仕事を終えた感を漲らせた顔をしている。
「ちょっとハルコさん。なに前を隠してるんですかっ!」
大野がさっきとは真逆に後ろからハルコに組み付いた。ハルコのこれまた細い両腕を鷲づかみにする。
「せっかく苦労して巻いたサラシが全然見えないじゃないですか!」
「いい、見えなくていいの!」
ハルコは体を丸めて必死に抵抗してる。
赤い顔をますます真っ赤にさせて、四角い駒下駄がカンカンと鳴る。
腰を落として抗う様は、まるで手篭めにされそうになるのを死力を賭して逃れようとする姿にも見え、
目の毒だ。
「ハルコさんでコスと言えば『へそ』なんですよ? ちゃんと皆に見せてあげて下さい!」
「誰が決めたのよぅ、そんなこと」
涙を溜めて抗議する表情が嗜虐心を刺激したのか、大野の悪ノリは止まらない。
「うふふ〜〜〜、よいでわないか〜、よいでわないか〜……」
「ちょっと…、ほんとぅ、マジでやめて〜〜」
一時的に忘我の境地で大野攻め×ハルコ受けを鑑賞していた笹原だったが、
流石に周囲の皆さんの視線が痛くなってきたので止めに入った。
「ま、まあ、大野さん…、その辺で……。一応、公共の場だから……」
「むうう…。仕方ないですね。まったく意気地無しなんだから」
開放されたハルコはペタリと床に座り込んだ。それを大野が妙に勝ち誇った顔で見下ろしている。
ハルコは大野の影に怯えるように、またギュっと半纏の前を固く合わせた。
「ほら、サークルスペースの中に入りますよ。そんな所に座ってたら周りの迷惑です」
ついさっきまで周り人達の目のやり場を困らせまくらせていたくせに。
大野は愚図るハルコを手を引いて島の端へ歩いて行った。
笹原は小さく息を吐いた。
それはちょっと温度の高い溜息だった。
カメラのファインダーを覗いている田中に目をやる。
「時間が掛かってたの…は、こういうことでしたか…」
「まあねぇ…、相当ゴネてたみたいだから…」
「そんでよく着ましたね…、ハルコさん」
「まあ、それは何ちゅうか…、大野さんの力業かな…」
「力業ですか……」
あちこちに脚をぶつけながら半泣きで引っ張られているハルコと、意気揚々とした大野が
内側を回って笹原たちのサークルスペースに到着した。
荻上が呆れた表情で大野に尋ねる。
「無理矢理やらせたんですか?」
「いいえ。ただ協力を促しただけです」
得意顔の大野に、荻上はうんざりとしているのを隠さない。
それは笹原も一緒だ。正直思った。やばい、これは犯罪かもしれない。
「さあ、ハルコさん。一緒に売り子やりましょう!」
無論、大野はそんなことは露ほども気に留めていないのだ。
「え……? ほ…、ほんとにやるの……」
ハルコはソソクサと手探りでパイプ椅子を手繰り寄せて、その上でダンゴ虫みたいに丸まってしまった。
「もういいじゃん、一応着たんだから……、ね?。だからほら、眼鏡と服、返してよぅ…」
ああ、そういうことか。力業……ね。
察するに、まずハルコさんの衣服を剥ぎ取り、没収したのち、それをネタにコスプレを強要したということか。
……エゲツない!
「ダメです」
マジで今日の大野はエゲツなかった。完全にコスプレの暗黒面に堕ちていた。
「あんまり聞き分けがないと、コスプレ会場に置き去りにしますよ?」
ひでー。
「無理矢理やらせるのは邪道じゃなかったのかよぅ…」
ハルコの至極真っ当な抗議の声が空しく響く。
「悲しいですが、これも完売のためには仕方のない犠牲なのです」
大野は一瞬、悲壮感を漂わせたが、すぐに笑顔に転じてハルコの背中をポンと叩く。
「さ、やりましょー! 売りましょー!」
ハルコは首を持ち上げてギロリと睨んだ。
「くそー、大野ぉぉぉ…。この恨み忘れんぞ…」
「ハルコさん…、そっちは荻上さんです…」
どうやら眼鏡がないと人の判別も出来ないらしい。
「うるせー笹原、お前も同罪だ! 会長なら助けなさいよ」
それは大野に向かって言った。
真琴が楽しそうに笑っている。
笹原は少し考えて、
「すいません…。完売のためには仕方のない犠牲なんです…」
と笑って誤魔化した。
本当ところは、見とれていた。
白いクレパスのように淡く光る脚を抱えて、大き過ぎる黒地に赤い鼻緒の駒下駄を揺らしている。
やや赤い膝小僧の隙間から、胸に巻かれた真っ白なサラシが小さく覗いていた。
背中を丸めて、恥かしそうに膝に顎を乗せるハルコの瞳は、眼鏡が無いことに怯えるように不安げに潤んでいる。
それは、思わず頭でも撫でてしまいそうな、そんな気持ちに笹原をさせていた。
「大丈夫ですよ、ハルコ先輩」
真琴の声に、ハルコは顔を上げる。
「とってもかわいいですよ。ね、笹原くん」
「うん…」
口から出た言葉に、笹原自身が驚いてしまった。
それは水を向けた真琴でさえ、珍しく驚きが顔に表れていたくらいだ。
荻上も、その一瞬、時間が止まったように笹原を見つめていた。
その消え去りそうな一瞬に、笹原は慌てて言葉を詰め込んだ。
「まあ……、けっこーハマってんじゃないすかね…、意外と……」
「ですよねー!」
大野の何もかもを吹き飛ばすような歓声が上がる。
「さー、立って立って! 売り子交代しますよー!」
腕を引っ張られて、ハルコはしぶしぶ立ち上がった。漸く観念したようである。
「わーったよー…。やりますよー」
入れ違いで売り場に入るときに見えたハルコのサラシ姿。ニヤケそうな口元をぐっと押し殺す。
ハルコの何も気が付いていない様子に、笹原はそっと胸を撫で下ろした。
隣で真琴が笑っている。荻上は無表情に天井を見ていた。
ハルコはもうやけっぱちのような表情で積まれた同人誌の前に棒立ちに立った。
もうどうにでもなれの心境である。
「ありがとございまーす」
目の前に人間らしき影が立つ度に、機械的に同人誌を渡していく。
相手の表情が見えないのがせめてもの救いだ。じろじろ見てられるのも、苦笑いなのも、見えなきゃ分からない。
「ありがとございまーす」
もうお客を人間とも思わずにただただ同人誌手渡しマシーンと化すことに努めるのみである。
相手は人形…、人間じゃなく、かぼちゃ同然、だたの人形。狙って売って一発で終わり……、ってか…。
「ありがとございまーす」
ありがとございまーす、と喋る自動販売機でももっと愛想が良いだろうという平板な音声で繰り返す。
いま自分がしている格好を出来るだけ考えないようにしていた。
「なんかマジで売れはじめてない?」
「うん。ハルコ先輩たちになってから急に売れはじめたねー」
聞こえない、聞こえない。
ちょっとそんな気がしないでもないけど…、そんでちょっと嬉しい気もするけど…、
考えない、考えない。無視、無視。
ハルコは朱が差した顔を隠すように仏頂面を作り、同人誌を取る、渡す、お礼を言うの動作に徹しようとする。
「ありがとございまーす」
どうせコミフェスに居るのはオタクのみ。三次元には興味が無いのだ。
落ち着け〜、まだ慌てるような時間じゃない〜〜。
変な汗かくな、私。
「ありがとございまーす」
ふぅ…。
でも、ここに春日部君が居ないのは不幸中の幸いかも。
「ありがとございまーす」
また目の前に立った影に同人誌を差し出す。
しかし、その影は同人誌を受け取ろうとしない。それにお金を払おうともしなかった。
なんだ?
「うわ…、またそんなコスプレなんだ…」
「へっ?」
それは紛れも無く聞き覚えるのある声だった。
変な汗かくな〜〜〜、私。
「嫌がってわりには、何だよ、ノリノリだったんじゃんか」
うーん…。まあ、大体分かってんだけどね…。
ハルコは声に出して確認してみた。
「春日部君…じゃないよ」
「あー、そっか…。眼鏡してないもんなー。へー、そんな見えないんだー」
ハルコはその時思った。
大野コロス、と。
つづく
>>トンネル
自問自答するばかりで行動には移せない斑目‥‥‥
彼に納得できる日がくるのだろうか‥‥
マジで幸せになってほしいよ斑目さん。
>>アルエ
三角関係‥いや、四角、五角か?
ハルコさんにいづみコスはよさそうですな
なんてったって貧にゅ(ry
次回も楽しみにしとります
>>アルエ
くっはー、ハルコさんのいづみコス…しかも屋台バージョン!セクシーすぎます。
真っ赤になってパイプ椅子の上でちぢこまってるの、可愛い…!大野さんヒドスwでもGJ!
アルエ、この話読んでると「ああ、原作でこんなシーンあったな」と、なつかしくもあり。
ハルコさんバージョンになってヤナや笹原の反応が変わって面白くもあり。次回も楽しみです!
>>トンネル
むー、斑目のトンネル長いよお。早く抜け出さないかな・・・。
>>アルエ
どんどん人間関係がなんかビバヒルチックにw
でも多人数のサークルってこんな感じだろうなあ、男女比が均等だと。
本来だったら登場しているはずのハラグーロをどうするつもりか・・・。
楽しみだす。
感想ありがとうございます。
>185
斑目とヤナの友情を、ハルコとヤナとした場合にどう解釈したものか…。
結構悩んだのですが、こうしたほうが自然かなーと…。ハルコさん、モテすぎかもしれません。
でも、ヤナ攻略ルートは…、どうなんでしょう?
>186
コスも悩みました。そしてこうなりました…。
ハルコさんは、いじめられてる姿が素敵だとおも(ry
>187
次くらいから、ちょっとドロドロっとしてくる予定です。
爽やかなの書くつもりだったんですけど、おかしいなあ…。
>アルエ
まとめで一気に読んでから、こちらの最新を読みました。
ハルコさんええっすねえ、ええっすねえ デレデレしちゃいます
んー、失礼ですが以前サマーエンド書かれた方と同じ方?
違ってたらすいません。原作に沿ったパラレルもっと話膨らみそうですねw
>>189 感想ありがとうございます。
>んー、失礼ですが以前サマーエンド書かれた方と同じ方?
はい。同じです。
サマーエンドで鬱展開をやって精神が磨耗してしまったので、今回はラブいのをやろうとしたんですけど、
よくよく考えると…、三角関係ってきっついですよね…。
またもや自爆してしまったのかもしれません。
いろんなところからネタを掻い摘んでパラレルしていこうと思ってます。
絵板に刺激をうけて書きましたが、思い付きで一気に書きあげたので
できは大目にみてください。双子の物語です。一応本家のメインキャラ
のみの登場。シリーズ化はする予定なしの読みきり短編。設定は今回限りですので
他に書かれている方は設定はスルーしてください。
「えええええええ」
千里と万理は二人同時に感嘆の声をあげた。きっかけはたわいも無い会話からだった。
「ねえねえ、ぬぬ子ちゃん!! そのメガネ外してみせてよ!」
千里ははしゃぎながら言った。
「ええ?でもー」
ぬぬ子はモジモジしながら、顔を赤らめてうつむきながら恥ずかしそうに答えた。
「別にいいじゃない!! 転校してきた時もちらっと素顔見えたけど、よく見る機会無かったんだしさー。可愛かったよね、万理!」
「ええ、そうよね・・・。でもぬぬ子ちゃん嫌がってるんじゃない?」
と、思慮深い万理はぬぬ子の顔を覗きながら心配そうに答えた。
(ちさの無遠慮ぶりはいつものことだけどね・・・)
万理はそう内心で思ったが、口には出さなかった。千里は無遠慮だが人の嫌がる事をする子でないことは万理が一番よく知っていたからだ。
「えーー! ぬぬ子ちゃん、嫌なの・・・?」
千里は少しがっくりした表情を浮かべて、心配そうにぬぬ子の顔を見た。
「嫌じゃないけど・・・お母さんからもメガネを人前であんまり外しちゃ駄目って・・・」
「それはおかしいわね。母親がそんなことに口出しするなんて変だわ!」
今度は万理の方が憤慨して答えた。
(あちゃー、まりの変な癖が出たか?)
好奇心旺盛な千里だが物事にはこだわらず、すべてを軽く考えていた。
逆に万理は物事に無関心なくせに、変なところで理不尽な事や納得行かない事に出くわすとむきになる。
ぬぬ子はあわてて答えた。
「ううん!違うの!なるべく外すなって言うのはわたしがドジでよく、メガネを壊すからなの。じゃあ外すね・・・。」
ぬぬ子はそう言ってメガネに手をかけて、ゆっくりとメガネを外した・・・
はあーーという深いため息が千里と万理から思わずもれた。ぬぬ子は慌ててメガネをかけ直した。それでも二人は恍惚の余韻にひたった表情を浮かべたまま、うっとりとしてその場に立ちすくんでいた。
「???」
ぬぬ子は二人の様子を不思議そうに見た。
「・・・どうしたの?大丈夫」
ぬぬ子は心配そうに尋ねた。
「だっ大丈夫!!」
二人ははっと我に帰り、慌ててぬぬ子に返答した。
「ぬっぬぬ子ちゃん!! 絶対メガネやめて、コンタクトにした方がイイヨー。コンタクトはイイヨー!動きやすいし、視界は不便じゃないし!」
千里は大はしゃぎでぬぬ子に言った。
「ちさー!それは人の自由でしょ!自分がコンタクトが良いからって!メガネでもいいじゃない!でもそんな度の強い厚いレンズじゃなくても、今なら薄いお洒落なメガネもいっぱいあるわよ。」
「わたし・・・コンタクトは体質に合わないから、したことないの。レンズも無くしたり壊すことが多いから、安い厚いレンズで十分・・・。」
とぬぬ子は照れくさげに言った。
「ええー!! こんなに可愛いのに隠すなんて罪だよ!! オヂサンはね、オヂサンはね、ハアハア・・・」と千里はヨダレをジュルとぬぐいながら言った。
バシ!!
万理は千里の頭を思いっきり引っぱたいた。
「下品な事しないの!! 変態なんだから!!」
「ひっひでー、まりに言われたく無いね!あたしのどこが!!」
ギャアギャアと口喧嘩を始める二人に、ぬぬ子は遠慮深げに言った。
「あのー、喧嘩しないで・・・わたしのために・・・」
「ごっごめんなさい!」
先に冷静に我に返ったのは万理だった。
「それにわたし・・・自分の顔、はっきり見たことないの。幼い時から重度の近視で、外すとさっぱり見えなくて、五センチくらいでやっと見えるから、自分の顔がどんなだか、分からないし・・・。」
「ふーん」と二人は同時に声をあげた。
用務室で斑目は千里と万理と春奈とスーにコーヒーを入れてやりながら答えた。
「ふーん、そんなに美少女なんだ。一度見てみたいね。」
そう言いながら斑目は三人にコーヒーを手渡し、自分専用のくじあんキャラクターのマグカップでコーヒーをすすった。今日は千佳子は学級当番でいないが、放課後よくこのメンバーは用務員室に集まる。
もちろん、エコヒイキは好ましい事ではないし、色々問題ではあるから、スーが適当な名目をつけて部活活動と称している。
「美少女なんてもんじゃないのよ!!そりゃもちろん、学校にも美少女はたくさんいるわよ!芸能人にだっていっぱいいるし。でもそういうのとは全然違うの!」
こういう時、一番興奮して喋るのは千里だ。そういう趣味は無いのだが、妙に美少女にこだわる。誰に似たのかとクスクス笑いを堪えながら、斑目は千里の話を聞いた。
「・・・私も驚いた・・・。綺麗だからって別に興味無いんだけど、それでも私しばらく心ここにあらずになって、ほわーっとしちゃったの。」
万理もその時の印象を思い出して、ハーっとため息をついてぼんやりした。
「ははっ、まりちゃんにしては珍しく、抽象的な表現だね。」
斑目は笑いながら答えた。
「だって!!そういう表現しかできないんだもん!!」
むきになって万理は答えた。
斑目は優しい表情でうなずきながら、そばの本棚に手を伸ばした。
「最近、興味深い本を読んだよ。」
「へえ、どんな?斑目おじさん無駄な知識は多いって母さんも言ってたね。」
春奈は興味津々に体を乗り出して言った。
斑目はその表情にどきりとした。最近ますますお母さんに似てきたな・・・と目を細めて、昔を懐かしむ穏やかな表情で笑った。
「まあ、待ちなさい。ええと、この本によるとね、かいつまんで説明すると、昔から美人の基準というのは時代によって変化してきた。ほら、中世だとぽっちゃり瓜顔が美人だったりね。」
「それはよく聞くよね。」
春奈は答えた。
「でもそれは『平均化』の結果なんだそうな。つまり周りがそういう顔ばかりだったら、その平均値が美人の基準となる。」
「ふむふむ。」と千里、万理、春奈の三人は頷きながら聞いた。スーはコーヒーをすすりなから、あいかわらず無表情で話を聞いている。
「でもこの本の著者はそれだけじゃないと主張しているんだ。よく二次元のキャラは誇張されて描かれるよね。そしてそれが可愛いと感じる記号として表現される・・・。」
「うんうん。」
「つまり人間には原始的に、本能的に、顔に魔よけの刺青をしたみたいに、抽象的に記号化したものが深層心理に働きかけられているというんだ。」
「それがぬぬ子ちゃんとどう関係あんの?」
と千里は聞いた。
「それは特に眼力、目の力になって現れる。カリスマの持ち主はそれを本能的に使っているというんだ。ぬぬ子ちゃんにもひょっとしたら・・・」
「まさかあー。」
三人は笑い出した。
「そっそんなことないぞ。この著者の解説によるとしっかりした学者さんの学説を紹介しているということで、名前をええと、アッ、アンジェラ・バートン???」
本のタイトルと著者で選んだので、斑目は初めてその紹介された学者の名前に気付いて、スーの方を向いた。
スーはやはり無言でコクコクうなづくだけだった。
斑目の慌てふためいた様子と、その聞いた事の無い名前に不思議そうな顔を浮かべながら春奈は言った。
「じゃあ、斑目おじさんにも眼力があったりして。はずして見せてよ!」
「よっよーし、見てろ!」
斑目はメガネを外して、きりっとした表情で春奈の方を向いた。
「ぷぷぷぷぷぷ」春奈はツボに入ったらしく、笑いを必死に堪えているようだった。
(親娘二代にわたって、バカ受けされてしまった・・・)とシクシク涙を浮かべて斑目は顔をそらした。
そこへ千佳子が当番を終えて、ぬぬ子と一緒に用務員室に入ってきた。
「おや?二人一緒だったの?」と春奈は答えた。
「ええ・・・」と何か言いにくげな様子で千佳子が答えた。そばではぬぬ子がうなだれている。
「何かあったの?」と千里が尋ねた。
「実は・・・ぬぬ子ちゃんが例のたちの悪いグループにからかわれていて。」
「何―。あいつらまた何か!!」千里はいきりたった。
「あいつだろー、リーダー格のあの女。昔はそんなじゃなかったのに・・・。」
春奈は答えた。
「たしか親が離婚調停で別居してから、急に荒み始めて、周りを扇動しはじてめるとか・・・。」と万理は心配そうに尋ねた。
「そうなのよ。だからしばらくぬぬ子ちゃんもわたしたちと一緒にいましょう。転校生だからよけい目をつけられてるし。」
「だな。」と春奈は答えた。
斑目はその様子を頼もしそうに、その様子を見ながらウンウンと頷いていた。
(皆の子は立派に成長してるな・・・)
そしてスーの方を見た。スーは無関心に用務員室のテレビのアニメに夢中になっている。
「スー先生!学級の問題に何も口を出さないんですか?」
「マダラメ!大丈夫!生徒たちの自主性に任せる!」
(らしいといえば、らしい・・・)がくっと斑目はうなだれた。
子供たちが帰ってからスーと少し斑目は話をした。
「それにしてもぬぬ子ちゃんの転校の時期って変ですよね。前の学校で何かあったのかな?」
「さあ?でも前の学校の先生は問題は無いと言ってました。ただ・・・」
「ただ?」
「メガネは外させるなと・・・」
「は?」
「彼女に交友関係、成績、素行、性格、何も問題無いが、心に問題のある子が近くにいたら、恐ろしい事が起きると・・・。」
「そっそういうことは、早く言わなきゃ!!」
「大丈夫!大丈夫!」
『彼女』は今日も誰もいない自分のマンションに帰った。鍵をあけて誰もいない部屋にどさっと学校の鞄を投げ捨て、ソファーにごろりと制服を着替えもせずに横になった。
しばらくぼんやりとしていると、メールが入った。携帯をひらいて、メールチェックすると母親からだった。内容は分かりきっていたが、『彼女』はメールメッセージを開いてそれを見た。
「ごめんなさい。今日も仕事で遅くなります。食事はいつものように」
少女は唇をきゅっと噛み、黙って携帯を閉じてごろりと横になった。なにもかも憎らしい。いらいらする。本を読んでも映画を見てもつまらない。どんなものも『彼女』は心を動かすことは無かった。
『彼女』は家にじっとしている事に耐えられず、着替えて外に飛びだした。
少女は目的も無く町をふらふら徘徊した。そしてトコトコとのんきに歩いているぬぬ子の姿を見つけた。
(のんびりぼやぼや歩きやがって。あいつを見るといらいらする。あんな幸せそうにしてぼんやり生きてていいはずがない。世の中というのはそんなもんじゃない。あたしがそうだったように・・・。世の中というものはもっと汚いものなんだ。それを教えてあげよう・・・。)
少女はぬぬ子に駈け寄り、乱暴に肩をつかんで叫んだ。
「おい!」
ぬぬ子は驚いて、『彼女』の方を振り向いた。その拍子に彼女の厚底メガネが地面に落ちた。
そして『彼女』は見た。ぬぬ子の驚いたその表情を。『彼女』とぬぬ子は見つめ合った。そして見た。そのくもりの無い無垢の瞳を。
「あああああああ」
少女はその場にへなへなとへたり込み、はらはらと涙を流して崩れ落ちた。
次の日、ホームルーム前
「ぬぬ子ちゃんが少し心配よね。」と千佳子は言った。
「あたしたちが、目光らせときゃ大丈夫だろ?双子たちはまだ?」春奈は聞いた。
「あの子達はいつもぎりぎりよ。」
そこへぬぬ子が教室に入ってきた。そばには例の『彼女』がニコニコした表情でそばにつきそっていた。ぬぬ子は少し戸惑った表情をしている。
「てめえ!ぬぬ子にちょっかいだしてきたのか?」
ガタッと椅子を後ろに倒して、春奈は立ち上がった。
「いやねえ、そんなことあるわけないじゃない!ねえ、ぬぬ子ちゃん!」
優しい穏やかな表情でその少女は答えた。
「こんなに世界が美しいなんて知らなかったわ・・・。ほら今日もこんなに天気がいい・・・。青い空のなんて清らかなのかしら・・・」
うっとりした表情で少女は喋りつづけている。
二人はすっかり、顔を青ざめてドン引きしてその様子を見ていた。
「だっ大丈夫か?こいつ?何か変な宗教にはまった表情してるぞ?」
そこへぼんやりしてそばに立っているぬぬ子の髪を男子が引っ張っていたずらし始めた。
「あううう」ぬぬ子は困った顔をして顔を赤らめた。
「あはは、やっぱこいつ面白れえ!アニメのキャラみたいな声だすんだもの!」
その瞬間、少女は鬼のような表情に変貌した。
ドコッ!!!
その男子は少女に突き飛ばされて吹っ飛んだ。そして男の子はべそをかきながら逃げ出した。
「てめえ!あたしのぬぬ子ちゃんに何しやがる!!」
「あうううう。あたしのために乱暴なことしないでえーー」
ぬぬ子は困った表情でオロオロしている。
「何があった?一体何をした?」春奈は訳がわからず立ちすくむだけであった。
「なにがなんだか・・・」
春奈と千佳子はその場から逃げ出したい衝動にかられていた。
「やった!!ぎりぎりセーフ!!」
「毎朝、毎朝!ちさのせいでこんな思いするんですからね!」
とギャアギャア騒ぎながら、千里と万理はゼイゼイ息を切らせて駆け込んだ。
「ん?どしたの?なんかあったの?」
のんきそうに千里が聞く。
「頭痛え・・・・」
双子の他にも頭痛の種が増えた事を春奈はその朝確信したのでした。
>>ぬぬ子の秘密
きましたね〜げんしけんのセカンドジェネレーション。
SSスレでは初登場ですかね
ぬぬ子‥‥恐ろしい子‥‥ といったところですかね
個人的には、いい年になっても語るのが大好きな斑目さんがツボですw
>>202 いやー、面目ない。読み返してみたら雑で草稿の段階で見切りで出した感。
少し実験的な試みでしたが失敗しましたw
やっぱり本家からイメージ借りたとはいえ、構想固まらないうちに出すもんじゃ
ないですね。岡崎二郎の漫画で文字や記号に人の深層心理に働きかける力がある
というネタ見て、そんな感じの子がもしいたらというのと、斑目に変わらず愚にも
つかない話を少年のように熱っぽく語らせたかったというのが本音
>ぬぬ子の秘密
セカンドジェネレーションSSキタ!!
ぬぬ子の美少女ぶりはすさまじいですねえ…。連邦のMSばりに…
でもあえて言いたい。おじさん斑目の穏やかな笑顔にメロメロです。そして気になるアンジェラとの過去。
良かったらまた書いて下さいw
すまん、ところでぬぬ子とかってだれ?
ぬぬこの素顔には
すでにキン肉マンのマスク下ぐらいの能力が。
教室から担任のミルフィーユ・桜葉と副担任の長谷部祐作が入ってくると、
HRが始まった。
千里は長刀を振りかざし、長谷部に斬りかかった!!
「ぎゃああああああ!!!!!!」
長谷部が腹から臓物を垂れ流しながら瀕死の状態だった。
ミルフィーユが万里の髪の毛を強く引っ張り、ぶち抜いた!!
「ぎゃあああああああ」
長谷部はこの前、トリスメギストスとラプラスの悪魔から授受した、再生能力を
駆使し、傷が再生した。
長谷部が千里の服を、手刀で引き裂くと、胸を揉み始めた。
「いやあああああんんんん!!!!」
その攻撃に耐え兼ねたのか、千里が喘ぎ声を上げた。
長谷部は徐々に濡れ始めた、千里の膣に挿入した。
「あんっ、ダメえぇ!!!」
その頃、田村ゆかりは少林寺撲殺拳で野良犬を撲殺していた。
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜」
と謎の歌を奏でながら、殺っていた。
「やっほ〜!!犬殺しは楽しいぜ〜〜!!!」
くっそ〜、名前が長すぎますって何だよ〜コテへの嫌がらせだな。”!
コテ使えねえ!!!!
今日一日の辛抱だそうだろう?
遅くなりましたが、感想ありがとうございます。
>>169 共感しやすいと言っていただけて嬉しいです。かなり自分の願望で書いてますがw斑目さんはまたそのうち…。この先、色々と…。
ハチクロの花本先生ですが、「ハチクロ」「アニメ」でぐぐってもらったらアニメのHP出てきます。そこのキャラクターのページで顔が見られるはずです。
良かったらハチクロも読んで見てくださいw絵が少女漫画タッチですが、ほのぼのギャグマンガですw
「気負わず楽しく続けて下さい」といわれて、気負ってることに気づきました。楽しく、が大事ですよね。
>>185 自分も「幸せになって欲しい」と思って書いてます。ただ、そのために今の状態も考えておかないと、と思いあえてこんな話になりました。
>>187 すんません。そのうち…。まだしばらくは抜けれませんが、いつかは…。
さて、未来予想図・6月を投下します。14レスです。
「カラーパレット」
(未来予想図・6月)
***
大「あうう〜〜〜…」
朽「にょにょにょ〜〜〜…」
ある日の夕方、大野さんと朽木君はリクルートスーツ姿のまま、部室の机の上に伸びていた。
荻「…二人とも大丈夫っすか?」
荻上さんはそんな二人に声をかける。言葉はそっけない感じだったが、表情からはとても心配している様子が伺えた。
大「就職活動がこんなにキツイものだったなんて…。去年、笹原さんや咲さんが疲れた顔されてたけど、今になってようやく実感できます…」
荻「そ、そんなキツイんですか」
大「体もなんですけど、特に精神的にですかねぇ…必死で心の準備して面接行って、あっさり落とされるのってたまらないですよ〜〜…。君はいらないって言われ続けてるようで。本命も落ちちゃいましたし…」
荻「大野先輩って、空港関係とか旅行会社とか受けてるんでしたっけ?」
大「ええまあ…私のとりえと言ったら英語が喋れることくらいですから…。コスプレはあくまで趣味ですし。」
大野さんは大きくため息をついた。
大「エントリーシート書いてると、自分を見つめなおさないといけなくなるんですよねぇ…。『私ってどんな特技があるんだろう』って考えるほど落ち込んできちゃって」
荻「はああ…(汗)」
明日は我が身。荻上さんは大野さんの言葉を聞いて、不安になってきた。
(私もそろそろ、将来のこと考えといたほうがいいのかも…)
朽「にょ〜〜…。面接きついにょ…」
荻「…朽木先輩はどんな感じですか?」
(というか朽木先輩は面接でまともな態度をとれてるんだろうか?そこが一番気になる…)
朽「…とりあえず初めて面接行ったときは、『いつも通りに』と思って気負わずに行ったにょ」
荻「い、いつも通りすか(汗)」
朽「うん、そしたら面接の途中で退場させられたにょ」
荻「………………………何やったんですか朽木先輩(汗)」
朽「でー、さすがにいつも通りはまずいにょと思って次からは自分に『普通補正』をかけて行ったにょ」
荻「普通補正ってどんなのですか?」
朽「姿勢を正して、言葉も正して、こう。『私が御社を希望する理由は………』」
荻「へえ、朽木先輩、やればできるじゃないっすか。」
朽「『…面白そうだと思ったからです!以上!!』
………何で落ちたのかにゃ〜〜〜?」
荻「………………………やっぱり朽木先輩は朽木先輩でしたね」
朽「でも、そーゆーときに思ってもないこと言うのって、なんというかトゥルーオアダウ?みたいな」
大「………ケースバイケースだと思いますよ」
さっきから聞き役に徹していた大野さんが思わずツッコミを入れた。
大「でも、そうですねえ…面接で喋ることって、本心なのか、その会社に入りたい一心でついてる嘘なのか、自分でもわからなくなってきますよねえ…。」
大野さんは再びため息をついた。
朽「もーどこでもいいから決まりたい、って気にもなってくるしにょ…」
大「ああ、わかります、それ………。」
二人は大きくため息をついた。
………………………
さて、恵子は恵子で色々悩んでいた。
最近ずっと春日部ねーさんに今後のことを相談しに来ていたのだった。
咲「とりあえず何でもやってみりゃいいじゃん。そのうち何か見つかるって」
…と言われ、バイトを変えたり求人情報誌を読んだりしてたのだった。
ある6月のある日、今日も恵子は春日部ねーさんの店に来ていた。
閉店してレジ閉めも終わった後なのを見計らって、恵子は店までやってきた。
いつものようにシャッターを叩いて合図する。
恵「こんばんは!」
咲「またアンタか…」
春日部ねーさんは疲れて少しげっそりした顔で恵子を見た。
恵「またってことはねーじゃん!…疲れてる?ねーさん」
咲「まあねえ…」
恵子はその辺においてあるディスプレイ用の椅子を持ってきて勝手に座る。
恵「えーでも6月は売り上げ落ちる時期なんでしょー?そんな悩むことないって!」
咲「いや、本当ならそうなんだけど、今年は暑いでしょ?先行で入れてた夏物が売れるのよね。逆に品薄になっちゃって。
売れるって分かってても商品がないんじゃあねえ………」
恵「へえ、大変だー」
咲「それだけじゃないんだよね、頭痛いのはさ」
春日部ねーさんは眉間にしわを寄せる。
咲「急な都合で辞めちゃうスタッフがいてさ。その空いたシフトの穴をどーやって埋めようかと」
恵「へーーー」
咲「今から求人かけても………………………………」
言いかけて、じっ、と恵子のほうを見る。
恵「ん?何??」
咲「………アンタさ」
恵「うん」
咲「ウチで働く気ない?」
帰り道、恵子はワクワクしていた。
ねーさんに「ウチで働く気ない?」と言われ、即「やる!」…と返事したのであった。
ちょうど今やってるビデオ屋のバイトに飽きてきていたところだった。
咲「でも、ウチで働くからには、知り合いだからって甘やかさないよ」
そうはっきりと言われた。
恵「んなのわかってるよ、ねーさん」
咲「アンタが思ってるよりきついよ?」
恵「そーなん?」
咲「その服装も、仕事来るときは変えてもらわないといけないし」
恵「あーそっか、店の服着て売るんだっけ、こーゆーのって」
咲「まー完全にウチのじゃなくていいけど、ウチの雰囲気に合った服を着てもらわないと店に立たせられないからね」
(なんかちょっと楽しみだなー。スタッフは店の服半額くらいで売ってもらえるらしーし。
春日部ねーさんの趣味だから、今まで来てた服よりちょっと綺麗目な感じんなるけど。
まーそろそろ渋谷系から変えよーと思ってたし。私もトシだしィ)
とりあえず明日は店に着ていく服を買いに行こう、と思い、気合いを入れる恵子だった。
咲「うーん………」
初出勤の日、恵子を見て渋い顔をする春日部さんだった。
咲「あんたセンスはいーんだけどねえ………まだちょっと派手かな」
恵「えーそうかなー?」
咲「スカートもーちょっと長いのにして。あと化粧ももうちょっと抑え目で。」
恵「えーこれでも控えめにしてきたんだけどなー」
咲「どこが(汗)」
マスカラたっぷりの恵子のまつ毛を見て、ため息をつく春日部さんだった。
咲「…ま、仕方ない。今日はそれでいいや。あと、けっこう年配の人も来るんだからその喋りもなんとかしなよ」
恵「はーい」
咲「大きい声でアイサツしてね。お客さんが店に来たら入り口のとこで「いらっしゃいませ!」って。」
恵「わーってるよ、今までバイトとかで慣れてるもん、その辺はわーってるって」
咲「だからその喋り方を…」
恵「大丈夫、大丈夫。お客さん来たら変えるって…」
咲「いらっしゃいませー!」
お客さんが来たらしく、春日部ねーさんは商売用の声で即反応する。そのままお客さんの方に寄っていった。
咲「お久しぶりですー、○×様。昨日お友達の方がお見えになってましたよー」
「ああ、そーなの。ここの服着てたら友達に誉めてもらっちゃったんで、紹介しといたんだー」
咲「ありがとうございますー。」
「で、今日は取り置きしてた服、取りに来たんだけど…」
咲「はい、ただいまお持ちしますね」
「あと、最近暑いから半そでの服も欲しいなって」
咲「そうですね、今でしたらこのあたりが…」
接客する春日部ねーさんは普段とは別人みたいに口調が丁寧だった。
(おおお…プロだーーー!)
感心して見ていると、急に後ろからお客さんに声をかけられた。
「あの、この素材の服って洗濯できるんですか?」
恵「へっ!?」
びっくりしてお客さんを見る。お客さんもびっくりしていた。
恵「えーと、ハイ、たぶん…」
「え?」
恵「あー、ちょっと聞いてきますね!!」
慌てて春日部ねーさんの所に聞きに行く。
恵「ねーさ…じゃなかった、店長、この服って洗濯できる?」
咲「うん、できるよ。…そういうのは品質表示に書いてあるから。この服の中のタグ」
恵「ああ、そうか…」
咲「…大丈夫?」
恵「うん、何とかやってみる………」
恵「あ、お洗濯できるそーです」
「そう。…試着していい?」
恵「はい、どーぞ!!」
試着室のほうまでお客さんを連れて行く。
(えーと自分が客の時って、店員さんどうやってたっけ。えーと?)
恵「あ、じゃあ、カーテン閉めますねー!」
そう言って、とにかくカーテンを閉めた。
(ふう!…うわー緊張したーーー…。ていうか、これでいーんかな?)
焦りながら、春日部ねーさんの方を見る。ねーさんはずっと笑顔を崩さず、お客さんの世間話を聞いている。
「あのー」
試着室からお客さんの声が聞こえる。
恵「はっ、はい!あ、試着されました??」
「ちょっとキツいかも…。もう1サイズ上ってないですか?」
恵「サイズ上っすか?ちょっと待って下さいねー!」
急いでサイズ上を探しに行くが、どこに並んでいた服かわからない。
(えーと、アレ?…どの服だっけ?白のデザインシャツだったと思うんだけど、…このへん全部そうだな。
似てるのばっかでどれかわかんねー!サイズ上??Lサイズ??)
探すが、やっぱりどれか分からない。
(あーそうだ、お客さんが持って入ってんだから、それ借りて探したらいーじゃん!)
ということにようやく気づき、試着室に戻る。カーテンの外から声をかける。
恵「あのー、もう一度探してみるんで、今持って入られた服借りていいっすかね?」
「え?まだ見つからないの?」
恵「あーすいません!もーちょっとなんで!」
そしてようやく並んでいる服から同じ形を探し出した。
(Lサイズ…あ、これだ!あったあった!)
急いで引き返す。
恵「すいませーん!お待たせしました、これっすね!」
「…ありがとう」
お客さんは待たせたせいか、ちょっと声が硬かった。
(う………怒らせたかな??)
しばらくして、お客さんは出てきた。
恵「あ、どーでした?」
「んーーー…もうちょっと他も見てから…」
そう言って服を返してきた。
恵「はい、どーぞごゆっくり………」
(うーーーん…何か難しいなーーー………)
お客さんから返された服を手にもったまま、立ちつくしていた。
(なんかこう…ねーさんみたいにスマートにできてない気がする。
まだ慣れてないから、ってのもあるけどー…うーん…)
お客さんが帰ってから、春日部ねーさんに話しかける。
恵「ね、どーだった?何か私変だった??」
咲「うーーん、もうちょっと落ち着いて接客しなよ」
恵「あはは…」
咲「あとは商品知識だね。お客さんに聞かれたらすぐに答えられるようにならないと。あと、店内にある商品の場所も覚えてね。
…ま、慣れてきたらそのうち覚えると思うけど。」
恵「うーーーん」
咲「あと喋り方、直しなね。お客さんの前で出てたよ」
恵「え、マジ?マジ?気づかなかったー」
その日、帰りの電車の中で恵子はぐったりしていた。
緊張しながら8時間ほど立ち仕事だと、キツイ。バイトで慣れてるつもりだったけど。
(そのうち、かあ………そのうち、ねーさんみたいになれるのかなー………)
次の日、言われたとおり薄化粧で店に向かっていた。いつもより化粧が薄いと、なんか落ち着かない。
すっぴんで外を歩いてるような気分になり、何度もその辺のショウウインドーに自分の顔を映して確認してしまう。
(うーーーん………どーもなー…気になるなー………。化粧って自分の顔の気に入らないトコを隠すわけじゃん?
何か隠れきってないような…あー、もうちょっとマスカラつけてくりゃ良かった………)
店に着き、春日部ねーさんから商品の検品の仕方など色々教えて貰うのだが、頭に入ってこない。
鏡が視界に入ると、つい自分の顔を確認してしまう。
咲「アンタ、ちゃんとやる気あんの?」
春日部ねーさんは怒り始めた。
恵「あ…うん。あのさ、今日変だよね?私」
咲「は?何が」
恵「今日、化粧変えてきたんだけどさ………。やっぱもっとマスカラつけてくりゃ良かったかなーって」
咲「何言ってんの。いつもがつけすぎなんでしょ。これハンガーにかけて、時間ないんだから」
恵「へいへい…」
言いながら、やっぱり気にしてしまう。
昔、小学生の高学年のとき、顔のことで同級生の男の子に言われたことがあった。
「おまえ兄ちゃんそっくりだな。男顔!」
…それを言われてから、自分の顔が嫌いになった。高校生になって化粧を覚えてからは、できるだけカバーしてきたつもりなんだけど。
特に目が似ている。そういえばねーさんに初めて会ったときに、それを見破られたことを思い出した。
(………あー、駄目だ。やっぱ………………)
だんだん不安になってくる。しっかり化粧してないと、裸で街を歩いてるような気分になるのだ。
咲「………あんた、顔色悪いよ?大丈夫?」
ねーさんが聞いてきた。
恵「…う、うん、大丈夫!」
(ちゃんとやらなきゃいけないのに。…ちゃんと………)
咲「…ちょっとこっちおいで。副店長、ちょっとバックルームいってくるから」
そう副店長に言って、春日部ねーさんは私の手を引っぱっていく。
(………うわーどうしよ。説教されんのかな………)
びくびくしながらついていくと、商品が所狭しと並んだバックルームのドアを閉め、ねーさんは心配そうにこっちの顔を覗きこんでくる。
咲「ホントに顔色悪いよ。体大丈夫?」
怒られる、と思ってたのに心配されてしまい、急に心が緩んでしまう。
咲「ちょっ、ちょっとあんた、何泣いてんの?」
何でだろう。何故か急に、涙腺まで緩んでしまったのだ。
恵「…っだって、あたし………ブスだから、化粧で隠さないと恥ずかしくてっ………」
咲「ええ?」
恵「…今日、化粧薄くしてきたら、不安で仕方なくて………。」
咲「あんたは別にブスじゃないよ」
ねーさんは優しい声でそう言ってくれるけど、私は信じられなかった。
恵「ブスだって、昔そう言われたもん、兄ちゃんにそっくりで男顔だって!自分でもわかってんもん!ねーさんだって知ってるっしょ?」
だから、しっかり化粧しないと恥ずかしいのだ。
咲「ホントだよ。あんたはブスじゃないよ。」
春日部ねーさんは私の顔を見つめてそう言った。
咲「厚化粧だとせっかくの長所が隠れちゃってもったいないよ。あんた目がかわいいんだからさ。いつもアイメイクがきつすぎてもったいないことしてるよ。」
恵「………………………」
咲「色も少し優しい色にしたほうがさ、もっとかわいくなんのに、って思ってたんだ。店終わったらやり方教えたげるからさ、元気出しな」
恵「………………うん」
咲「よし。んでも今は仕事。気持ち引き締めてよ」
恵「…うん、ありがと、ねーさん」
咲「よし、ホラ涙拭け。」
春日部ねーさんは、ハンカチを渡してくれながら笑った。
その笑顔が本当にカッコいいと思った。
ねーさんのその言葉を信じようと思った。
自分もこんな風になりたいと思った。
恵「…あのさ、今日ねーさん家に泊めてよ。こっから近いんでしょー?」
咲「………駄目。」
恵「あ、もしかしてコーサカさん来るのー?だったらなおさら行きた………」
咲「ぜ…っったい、駄目!!!」
恵「えーーー!ケチィーーー」
咲「さっきまで泣いてたくせに、もう元気になりやがって」
春日部ねーさんは呆れたように笑う。
やっぱりお泊りには行かせてもらえなかったけど。
(ま、仕方ないか。)
………そして数ヶ月後。
私は今も春日部ねーさんの所で働いている。
接客って結構大変だ。色んなお客さんがいる。話がめちゃくちゃ長い人がいて、とりあえず顔では笑顔をつくりながら、どーでもいい話を延々聞かされるのに耐えたり。
逆に、声かけをしても完全に無視されたり。我がままな人もいたり。
けど、嬉しいこともある。
「この前薦めてくれた服、すごく良かった」と言われたときは本当嬉しかったし。
最近では私の固定客も何人かいて、ようやく店員として役に立ち始めたかなァ?という感じ。
まだまだ覚えないといけないこともたくさんあるけど。
恵「ねーさん、入り口のトルソーに着せるのってこの服でいいのー?」
咲「ねーさんはやめなって言ってんじゃん。店長でしょ」
恵「あ、そーだった。」
咲「ったく………。うん、その服着せといて。あと、上にこの帽子かぶせて」
恵「はいよ」
開店前、鏡で身だしなみを確認する。前より淡い色に変えたアイシャドウの色と服の色があってるかどうか、もう一度確認する。
(………よし)
今日は特に気に入っている服を着ているので、気合いの入り方が違う。大きく深呼吸した。
「いらっしゃいませー!」
笑顔で声を出す。
今日は日曜。いい天気だから、きっと昼から忙しくなるだろう。
END 続く。
おまけ4コマ的な。
【まだそこで悩んでます】
恵「くそー、今日はコーサカさん来るんだ?いいなあ…」
咲「ウフフ………でも、ウチに来てまでゲームやるのは勘弁して欲しいよねぇ………」
恵「え、…マジで?」
咲「会社でさんざんゲーム作ってるくせにねえ………(泣)」
恵「…うわ、さすがにそれは引くかも」
咲「でも、いいの!愛があるから!!」
恵「ねーさん、イタイよ。アイタタターーー(汗)」
【部室からのつぶやき】
「…これって何の話だったっけ?」
「げんしけんの話………じゃなかったかにょ?」
「部室から完全にはみ出てるな」
「いやいや、社会人にもなって大学の部室に足突っ込んでるほうがおかしいにょ」
「………………それは誰に向かって言ってるのかね?」
227 :
あとがき。:2006/07/06(木) 01:04:27 ID:???
恵子は明るくて元気があるので、服屋の店員に向いてるんじゃないか、と思って書きました。
かなり好き勝手に書いちまいました。
次回は笹荻話です。
斑目は咲さんと部屋に二人きりになると、
メガネを自らのアイズサイコキネシスで粉砕した。
そして、咲さんが漫画を読んでいる隣にパイプ椅子を強引にそして力強く
ブチ置いた。
そして、ポケットからクシャクシャになっているエロ本を取り出し、
ページを引き裂きながら読み始めた。
そして、オナニーを開始し、精液を咲さんの読んでいる漫画にぶっ掛けて、
部室を後にした。
咲さんは、破壊光線で美紗さんにブチかまして美紗さんが黒焦げになった所で、
美紗さんを食べ始めた。
骨以外全部食べた。
咲さんは高坂が着たので帰った。
エロパロでやってくれない?
エロパロどころか、ただの荒しだろ?
無視無視。
なんだこのスレは
咲は部屋で漫画を読んでいた。
時計を見ると、7:30分。
「高坂も来ねえし、帰るか」
そう言うと、ガチャリと音がして、
長谷部が入ってきた。
「今、帰り?」
長谷部が言った。
「うん、そうだけど」
長谷部が後ろから胸を揉んだ。
「きゃっ!!」
突然の行為に咲は驚いた。
「ねっ?しよう。H」
咲は頷くと、衣服を脱ぎ始めた。
同時に長谷部も脱ぎ始めた。
咲は勃起したペニスをしゃぶり始めた。
「ちゅぷ、じゅぷ・・・あん、ふむぅ」
「気持ち良いよ、咲ちゃん」
「そう、嬉しい・・・ちゅぷ、じゅぷ・・・ぷじゅっ・・・」
長谷部が絶頂に達しそうになった。
「もう、出そうだよ、咲ちゃん」
「出して、いっぱい出して、じゅぷ・・・じゅぷ・・・ぷちゅっ」
ゴクゴクと精液を飲み干す音が部室に響き渡る。
「じゃあ、咲ちゃん、後ろ向いて」
「うん」
咲は壁に手を付けると長谷部が挿入した。
「あんぅ・・・あんっ・・・凄いよ・・・祐作!!」
「僕も、気持ち良いよ」
長谷部がラストスパートを掛ける。
「あんっ・・・気持ち良いよ・・・長谷部〜、あふぅ・・・あん」
長谷部が又もや絶頂に達しようとしていた。
「もう出すよ」
「あんっ、いっぱい出して・・・私もイクよ〜!!」
咲も同時にオーガズムに達した。
kkkkk
最初に注意事項
このタイトルから某有名な作品を連想されるかもしれませんが、まったく内容は
かぶってません。だって見てない。
「ぬぬ子の秘密」の続編、完結編です。シリーズ化する力はありませんので。
ですからここに登場する殆どオリキャラ、旧レギュラーの設定はここだけのものです
旧レギュラーは斑目、アン、スーのみの登場となります。斑目主人公といっていいです。
ここに登場する団体、固有名詞、学説は一部事実も含まれますが、デタラメです。
○前兆
用務員室は平穏そのものであった。この空間だけは世界紛争とも世間の喧騒とも無縁である。彼は、この部屋の主の斑目は、かつて学生時代に友と共有した時間と空間を思い出した。
そしてその時代に似たこの時間と空間を彼は愛した。
この平穏がいつまでも続きますようにと天に祈った。といって彼は孤独では無かった。時折訪れる来訪者が彼を和ませてくれる。今日もいつもの客がここに来ていた。
「それは大変だったね、春奈ちゃん。」と斑目はいつものようにコーヒーを客人に差し出しながら言った。
「あ、ありがとう。ホント何が何だかさっぱり分かんない。斑目おじさんが言ってた事が本当みたいに思えてきちゃうよ。」と春奈はコーヒーのマグカップを受け取りながらぼやいた。
「でもその子はもう危険じゃないんでしょ?」
「まあねー。すっかり気性も穏やかになって、ぬぬ子に危害が及ばない限りは無害そのもの!つうかもう信者だよね。ぬぬ子に言われたら素直に大人しく離れて見守っているし。」
「斑目おじさん!このお菓子もらい!」と千里がお菓子に飛びついた。
「今日は珍しく、まりちゃんと一緒じゃないんだね。」
「うん。まりと千佳子とぬぬ子ちゃんはヤオイ系の同人誌の新発売だとか言って、いそいそと先に帰っていったよ。何が良いんだか、さっぱり。」と千里が言うと
「ホント、それは同意。よく分からん。」と春奈は頷いた。
「何、発売日?それは本当?しまった!」とスーが叫んだ。
「スー先生はまだ勤務中でしょう。それにここで油売っていていいんですか?本当だったら学習計画とか仕事がいっぱいあるんじゃないんですか?」
普通の中学の教師が多忙なのは他の先生の様子を見れば分かった。
だがスーはケロッとして言った。
「もう終わった。完璧。」
「え?まさかそんな!」斑目は信じがたい表情を浮かべたが、スーならありうると思った。スーだけは未だに底がしれない。
「じゃあたしたちそろそろ帰るね!」そう言って二人はたったか駆け足で用務員室を出てった。
その背中に斑目は声をかけて言った。
「おう、気をつけてな。」
子供たちが帰ってから斑目はスーに向かって、咳払いしながら聞いた。
「ゴッゴホゴホ、とっところで・・・アンは・・・いやアンジェラ・バートンさんはお元気ですか?」
「アン?もちろん元気だよ。子供と一緒に暮らしてるよ。」
「そっそう、結婚してたんだね。幸せそうで良かった。」
「結婚してないよ。」
「へ?」
「シングル・マザーだよ。双子たちより一つ上くらいの男の子と暮らしてる。」
「え?その頃って確か・・・。」
斑目は指を折って数え始めた。
(そんなはずはない。あの頃は・・・。)
「来日してるよ。」
「なっなんだって!」
斑目は『過去』が追いかけて、自分を捕まえる、そんな気がして目の前が暗くなる気がした。
○事件
次の日、いつものように自分の仕事を終わらしてから、放課後いつもの面々が来るのを斑目は待った。
ところがその日に限って誰も来なかった。まあ、こんな日もあるさと、斑目は勤務時間が終わったのを見計らって帰宅の準備に入った。その時、携帯の着信が入った。
誰だろう、『あいつら』からの飲みの誘いかなと、ディスプレイを見ると、万理からだった。
珍しいこともあるもんだと電話に出た。
「やあ、まりちゃん、今日はどうしたの?」
「・・・・・おじさん・・・。」
打ち沈んだ声の様子に、尋常じゃない何かが起きていると斑目はすぐに察した。
「どっどうした?」
「大変な事が起きたの!!スー先生の家に・・・詳しくは電話じゃ・・・。」
「わっ分かった!」
斑目は通勤用の自家用車で大急ぎでスーの家に向かった。スーの家は学校から提供された賃貸契約マンションで、学校のすぐ近くにあった。
斑目はマンションのエレベーターから急いで降りて、スーの部屋の扉を開けた。
そこには、十数年ぶりで見る女性の姿が見えた。アンジェラだった。
○発端
「・・・ア・・・ン・・・。」斑目はかすれた声を絞り出してやっとの事でそれだけ言えた。
「お久しぶり。」クスクスと笑いながらそう言った。
「何故君がここに・・・。」
「本当は大野の所に世話になってたんだけど、今回の件があったから。詳しくはこの人たちから聞いて。」
アンジェラの背後には、スーと万理、千佳子、そしてぬぬ子がいた。そしてそのわきには見知らぬ少年が立っていた。
碧眼金髪でスポーツマンタイプの、短く髪を刈り込んだ精悍な少年だった。
そして彼は斑目をキッと憎しみのこもった目で見ていた。
(まさか・・・)
だが、今は事情を聞く方が先だと思い、スーの方を向いた。
「いったい・・・。」
だがスーよりも万理の方が先に口を開いた。
「ちさと春奈が誘拐されちゃったの!!」
「ええ!!」
「そう・・・それでここに来てもらったの・・・。」とスーは言った。
「どういう・・・」
「昨日の夕方、二人は下校途中に営利誘拐されたの。正確には春奈が標的で、ちさは巻き込まれたんだけど。」
斑目は呆然としながら聞いた。
「最近、彼女のお母さんの事業、有名になってきたからね・・・。それで警察がすでに介入して報道規制体制に入ってるの。」
「俺も何とかしたいが、だが警察が動いている状況で俺たちに出来ることがあるのか?」
「もっともな意見です。まりちゃんがその答えを持ってます。」
とスーは万理の方を向いた。
「あたし微かだけど、ちさの声が聞こえるの!急に聞こえるようになったの! 誰も信じてくれないんだけど!」
万理は叫んだ。
「そっそんなことが・・・、いや双子の不思議な話はよく聞くし、信じるよ!」
「それがあなたを呼んだ理由です。この子のいう事を無条件で信じられる人。そして自由に行動できる人。警察に言っても捜査の混乱になるだけです。」
「俺に何が・・・。」斑目は困惑の表情で尋ねた。
「万理は被害者の身内で警察の保護下にあり、自由に動けません。学校を長期で休むための相談という方便で今日は来てもらったに過ぎません。」
とスーは普段の様子とは一変した口調で話しつづけた。
「そして犯人も関係者の身辺を監視している可能性もあります。すでに複数犯ということは判明してます。」
スーは大きく一息ついてから言った。
「あなたに二人を救ってもらいます。」
○再会
呆然としている斑目をそっちのけにスーは段取りをキビキビと進めた。
「ではまりちゃんは今日は帰ってもらいます。連絡はこの盗聴防止の特殊な携帯を渡して、ちさちゃんの状況を私たちに連絡します。その情報を元に私たちが監禁先を分析します。」
ここでスーに代わってアンジェラが口を開いた。
「つまりここが二人の救出本部となるわけね。そしてその分析を元に活動してもらうのがあなた。関係者に無関係で怪しまれず自由に行動できますから。」
ぬぬ子が叫んだ。
「わたしも手伝います!!」
「それは助かります。」アンジェラは微笑みながら言った。
「わっわたしも!!」と千佳子も叫んだがスーが制した。
「駄目です。あなたは関係者に近すぎる。監視されている危険があります。」
「どっどっちも駄目だよ!!中学生に危険な真似は!!」と斑目は叫んだ。
「あら?ヌヌコは戦力じゃなくて?そしてもう一人助っ人をあなたに付けます。」
アンジェラはそう言って少年の方を向いた。
「彼の名はアレクサンダー。アレックと呼んで下さい。彼は役に立ちます。」
斑目が少年の方を向くと、少年はプイッと顔を背けた。
万理は体を震わせて、大きな目に涙をいっぱいためて言った。
「ちさが・・・ちさがいなくなったら・・・わたし・・・わたし・・・」
斑目はかける言葉も見つからなかった。産まれた時からずっと一緒だったのだ。二人の絆は計り知れない。
「解散します。万理と千佳子、そしてぬぬ子ちゃんを送ります。アレックも付いて来て。」
スーと皆は部屋からぞろぞろ出て行った。そしてアレックは退出際に斑目に言った。
「認めない。」
部屋には斑目とアンジェラだけが取り残された。気まずい沈黙の後、斑目は重い口を開いた。
「久しぶり・・・。元気そうで・・・。」
「ええ、あなたも。」とアンジェラはにっこりと笑って答えた。
「君は変わらない。綺麗なままだね。」
「あら?お世辞が言えるようになったのね?でもスーとは違うわ。それ相応に年を取ったわ。」
「そんなことは無い。」
斑目は目の前のアンジェラを見てそう答えた。実際、それなりに年月を感じさせてはいたが、むしろ年相応の艶やかさを身につけていた。
「ありがとう。でも、やっぱりスーとは違うわ。彼女は『特別』だから。『メトセラ』ですから。」
「えっ?」
「あなたは知らなくて良いの。」
「・・・すまなかった。あの子はまさか・・・。」斑目は恐る恐る尋ねた。
「そうよ、あなたの息子よ。気にしなくていいの。あなたが逃げたのは仕様が無い事。わたしが自分の意志で決めた事。」
「・・・やっぱり彼をなおさら危険な事に巻き込んでは・・・」
「彼は大丈夫。ヌヌコの事は聞いてる。彼女は必要だわ。そして彼女を守るには正直あなたは頼りないし。」クスクスと笑いながら言った。
「そっそうだよな。」斑目は顔を赤らめて答えた。
「そうじゃないのよ。あなたは自分が考えている以上に人に必要にされているのよ。あなたはあなたにしかない力がある。」
「おっ俺にも特殊な力が?」
アンジェラは首を振って答えた。
「いいえ、あなたはいたって普通。凡庸。いずれその意味がわかります。そして、ヌヌコ・・・。彼女こそわたしの研究の結晶みたいなものだわ!!」
「一体、彼女の力って・・・?」
○秘密
アンジェラは碧の目でジッと斑目を見つめながら、顔を斑目に近づけながら喋り続けた。
「美に基準は無いわ。主観の中にこそ美が隠されていて、それに気付いた時に美が現れるのを一番知っているのは日本人よ。」
アンジェラは斑目の首筋に顔を近づけ、吐息をフーとふきかけながら、斑目の耳たぶを軽く噛んだ。
「綺麗な首筋・・・。あなたはわたしが会った男の中で一番セクシーだわ・・・。」
斑目は体を強張らせながらも、抗う事ができなかった。かつてもこのように自分の意志の弱さに屈したのだった・・・。
「それを知っているのはわたしだけ・・・。わたしのものだわ・・・。でも客観的な美もまた存在するわ。でもそれは統一された文化や共有された価値観の下でしか存在しない。」
アンジェラは、流し目で斑目の横顔を見つめながら、斑目の耳元でささやき続ける。
「でもわたしたちは共にアダムとイブの裔なのよ。これは喩えだけどね。人種や文化が異なっても人間であることは一緒なの。」
「そっそれが・・・どういう・・・」
アンジェラの柔らかい白い手は斑目のシャツの隙間に入り込んでいる。
「ヌヌコの表情の中には人間のゲシュタルト知覚に調和を与える抽象化された記号が隠されているのよ。」
「わっわからない」
「つまり、人間は長い歴史の中で絵や人形に見えるような、抽象化の作業を繰り返してきた。この抽象化の能力がゲシュタルト知覚。ヒナの刷り込みの研究で有名なローレンツ博士はこれが直感、霊感、神の啓示に関係すると言ってる。」
すでにアンジェラは斑目を押し倒して、上にまたがっている。そして斑目のシャツのボタンを一つ一つゆっくりと外しながら、微笑んで斑目を見下ろした。
「ヌヌコはそれに調和を与えるの。そして心の不調和な人ほど強制的に心の働きを修正するの。『わたしたち』はそれを日本のサークルで実験してきた。」
「え?」
「なんでもないわ。要はヌヌコは危険な人間を無力化するの。それを抗える者はいない。そしてわたしは肉食動物であなたは草食動物。あなたは抗えないのよ。」
斑目は近づくアンジェラの碧眼に釘付けになった。かつてもそうだったように・・・。
その時、マンションの玄関の方から声がした。
「アン、今帰ったわよ。作戦は明日からね。」
部屋に入ってきたスーはアンジェラが額に血管を浮き上がらせて怒って、逆に斑目がほっとした表情でいるのを不思議そうな目で見た。
「スー、あなたやっぱり気がきかないわ。」
○作戦
翌朝、日が昇らない時間から斑目はスーのマンションに車を回した。卒業してからしばらく車は必要としなかった。だが、新興住宅地の郊外に位置する今の仕事場になって不便を感じるようになり、中古の安い車だが購入したのだった。
こんな形で活躍することになるとは思ってもいなかったが・・・。
「・・・それで、どうするんだ?」斑目はスーに尋ねた。
「すでに前の晩に万理が千里から監禁先の情報は聞いています。幸い監視役の一人が女性で彼女たちに同情的で当面危険は無いようです。」
「そっそれは良かった。」斑目はほっとした。
「でも急がなければなりません。相手はプロ集団ではなく素人の可能性も大きいです。凶悪さで同じでも予測不能の危険が高まります。長引けば長引くほど危険です。」
スーは淡々と、だが無駄の無い段取りで事を進めた。斑目の車にノートパソコンを積み、万理と同じ携帯を斑目たちに持たせた。
「これで連絡を取り合います。ちさが伝えた情報によると、郊外のプレハブらしい建物に監禁されているらしいのです。トイレの小窓から見た景色と時間帯、太陽の方向から場所を測定します。」
「うん」
「衛星からの映像や分析では不十分です。あなたたちが現場でこちらに細かい情報を伝えてください。警察の情報もハッキングしてます。」
「そっそんなこともできるのかよ!」
斑目は今更ながらスーの底のしれなさを恐ろしく感じた。
「ただし深入りはしてはいけません。日本の警察は優秀ですから、人海戦術で捜査を進めているはずですから、逐一こちらの情報も提供して動いてもらいます。」
「分かった・・・。」
斑目は自分の無力さに脱力感を少し感じた。だが、そんな感情はすぐに打ち消した。大事なのは二人の安全と生命ではないか。自尊心や自負などつまらないものだ。
斑目とアレックとぬぬ子は斑目の車で指示された候補地を廻った。後部座席でアレックはノートパソコンから送られてくる画像や情報をチェックしている。
ぬぬ子もその傍にちょこんと座って、コンパスを片手に一生懸命周囲の景色をアレックに説明している。そして時折画像をパソコンに取り込んで、『本部』に送信していた。
斑目はバックミラーから後部座席の様子をうかがっていた。アレックは一度も斑目の顔を見ず、話しかけもしない。
「なっなあ、ア、アレック・・・君・・・。」
「・・・・・」アレックは黙りこくっている。
「『メトセラ』って何かな?」
「・・・都市伝説ですよ。」重い口を開いてアレックは呟いた。
「『ガースは都市伝説』?」
「何ですか?それ。」
「・・・あ、すみません。」(外した・・・)と斑目は冷や汗を流しながら答えた。
(俺、何を卑屈になってんだ・・・)気まずい空気から無理に話題を作ろうとして、逆に失敗してしまった事を後悔した。
「・・・昔の有名なSF小説家が書いた『長命族』の呼称ですよ。元々は旧約聖書で人類で一番長生きした人の名前らしいんですけど。」
アレックは無表情に話しつづける。
「それがいつしか本当に実在するってアメリカで少しの期間だけ流行したんです。」
「へえ、そうなんだ。」
「一般人に紛れて生活していて、各界の有力者になってるという噂ですけど・・・。もっともスーおば・・・いけねえ、スー姉さん見てると実在を信じちゃいますけどね。」
「ははっ、まったくだ・・・。」
少し馴染んでくれたのかと斑目は思ったが、アレックは気安く会話し過ぎたと思ったらしく、またむっつりと必要な事以外は黙りこくってしまった。傍ではぬぬ子が心配そうにその様子を見ている。
「ここが、推定地域の一つ。車から降りて周囲の景色の情報を送ろう。」
斑目はそう言い、車を有料駐車場に駐車させた。三人の団体行動に不審な様子は無かった。むしろこういう組み合わせに斑目は少し納得した。
斑目一人だけでは出来る事では無い。ぬぬ子と二人だけでも親子に見られるだろうが、撮影機材や携帯を使ってる様子は奇異に映る。アレックは外国人でしかも少年だから、余計一人では不審で目立つ。
三人でいれば、傍目には留学生の少年を連れて、課外学習活動しているようにも見える。
「喉が渇いたろう。飲み物を買ってこよう。」と斑目は自動販売機に向かった。
二人きりになった時、ぬぬ子はアレックに話し掛けた。
「・・・お父さんが嫌いなんですか?」
「・・・父などでは無い。」アレックはにべも無く答えた。
「うわ、すげえ!今時あんな牛乳ビンの底みたいなメガネしてる奴いねえぞ!」
突然、ぬぬ子の方に指を指して嘲笑する少年たちがそばに近寄ってきた。
アレックは声の方向に目を向け、その声の主たちを睨んだ。大柄な外国人の少年に睨みつけられ、その少年たちはひるんで立ち去った。
ぬぬ子はばつ悪そうに下をうつむいてその嘲笑に耐えていた。
「すみません・・・。」
「何故謝る?悪いのはあいつらではないか?何故怒らない?憎まない?」
「・・・・」
ぬぬ子はそれには答えず、下を向いて手を組んでいた。
「?何をしている?」
「・・・お祈りしてます。二人が無事でありますようにと・・・。」
「お祈り?愚かな行為だ。祈って世界が変わるとでも?悪が無くなるとでも?」
ぬぬ子は首を激しく振って答えた。
「ううん、世界が善意ばかりでないことは分かってます。でも・・・うまく言えないけど・・・馬鹿だから・・・わたし・・・こういう事しか出来なくて・・・。」
そう言うぬぬ子の牛乳ビンの底のようなメガネの下から涙がこぼれるのを見て、アレックは激しく動揺した。
「すみません。」そい言ってぬぬ子は駆け去った。
「お?おお?ぬぬ子ちゃん泣いてなかった?アレック・・・君、何かあったのかい?」
そこへ斑目がドリンクを持って帰ってきた。
「・・・何でもありません。あの・・・ヌヌコの本名は・・・。」
「え?服部双子と言うんだよ。」
「ハットリソウコ・・・。」
「・・・ぬぬ子ちゃんの素顔見た?」
「なっ何を言ってるんです!見てません。素顔が何だというんです?ほっ他の人がなんと言おうが、自分が認めたものは自分自身!そうじゃありませんか!」
しどろもどろ顔を真っ赤にしながら、アレックは訳の分からない事を喋っていた。
「・・・・・・・」
(やっぱり、俺の息子だ・・・。)
○発見
しばらくすると、ぬぬ子がばつの悪い顔をしながら、落ち着きを取り戻して戻ってきた。
アレックも何事も無かったように振舞う。三人は早速、探索を再開した。
「たぶんここだ・・・。」
斑目は郊外の廃屋となったプレハブを指差して答えた。
「ちさちゃんがまりちゃんに伝えた情報と一致する。確定するのは早いが。放置されているが、居住可能な状態になってるようだ。」
そう言って、斑目はデーターを『本部』に送信して、携帯で指示を仰いだ。
「おそらくそうでしょう。犯人は警察を撹乱するために、複数で警察をあっちこっち引っぱりまわしてます。ちさちゃんからまりちゃんの情報によると今、プレハブには世話役の女性と監視役の男が一人らしいですね。」
スーは冷静に状況を把握していた。
「二人は?無事なのか?」
「ええ、大丈夫です。ただ二人は疲労が著しいです。犯人の二人もストレスが溜まってるようです。警察に情報をリークして救出してもらいましょう。」
「わっ分かった。二人が無事で良かった!!」斑目とぬぬ子は安堵の表情を浮かべた。
「何を馬鹿な事を!救出されるまで無事とは言い切れない!犯人が二人しかいない今がチャンスだ!しかも危険なのは男一人で女には戦意が無い!」
アレックの言葉に斑目とぬぬ子は驚いた。それ以上に平静を失ったのはその言葉を携帯で聞いたアンジェラだった。
「アレック!馬鹿な事を言ってはいけません!不測の事態に備えて、安全策をとるのです!」
「違う!警察が包囲するのを待つ方が危険なんだ!ここは周囲の見晴らしがいい。大動員してきたら、犯人が気付く。強行突入は不可能になる。時間がかかれば人質に危険が増す!」
「マダラメ!!アレックを止めてください!」アンジェラは半狂乱になって叫んだ。
「アレック君!俺たちだけでは無理だ!」斑目はアレックを諌めた。
「そんな事は無い!俺はあなたとは違う!逃げ出したあなたとは・・・。その為に格闘技だって覚えた・・・。強くなるために・・・。」
アレックは飛び出した。
「アレック!アレック!」
叫びながら斑目とぬぬ子は追いかけた。
○救出
プレハブの二階へ上がる階段を駆け上がると、アレックはプレハブのドアを蹴破った。簡易プレハブの扉なので容易に破壊できた。犯人の位置や部屋の作りは『本部』からの情報とプレハブの構造から瞬時に推測した。
部屋に突入すると居間に男と女がテーブルに座っていた。激しい音に動揺して、音の方向を二人は見ていた。女は悲鳴を上げ、男は慌てて拳銃を手にした。だが構える暇も与えず、アレックは拳銃を叩き落した。
叩き落すと同じ動作で、瞬時に手刀を男の首に叩きつけた。腕をねじりあげ、足払いをして男を制圧した。地面に叩きつけた時に男は頭を打って気絶した。
体の小さいアレックが大人を倒すのに手加減している余裕は無かった。これで終わったとアレックが思った瞬間、後頭部に鈍痛が走った。アレックの目の前が暗くなった。
遅れて斑目とぬぬ子がプレハブの二階に上がる階段から、ぶち破られた部屋に入ると、最悪の状況がすぐに理解できた。
男が一人倒れている。その傍で後頭部から鈍器で殴られたアレックが血を流して倒れている。
その傍で、動転した女が銃を手にしている。
「もう・・・終わりだわ・・・あの子たちにお金を送れない・・・。」
女は泣きながらヒステリックにわめき散らしている。
「まっまあまあ、落ち着いて!ここは日本人的馴れ合いで!」
「おじちゃん!その人外国人だよ!」
隣の部屋に軟禁されていた千里が部屋から出てきて叫んだ。
「あっ危ないから部屋に隠れていなさい!」と斑目は叫んだ。
「千里ちゃん・・・春奈ちゃん・・・ごめんなさいね・・・わたしは捕まるわけにはいかないの・・・あの子たちのために・・・。」
泣き喚いてすっかり錯乱した女の手にする銃はしっかり斑目の方向を向いていた。
アレックは状況の判断を誤った。危険なのは男の方では無く、女の方だった。斑目の傍でぬぬ子が震えながら斑目にしがみついている。
(そういう事か・・・)
斑目は運命のピースがしっかりはまってパズルが完成するのが見えた。
「ぬぬ子ちゃん、ちょっとごめんね。」
斑目はぬぬ子のメガネをひょいっと外した。
○解決
「そんじゃ、失礼します!」
そう言って斑目は千里、春奈、アレック、ぬぬ子を連れて部屋を出た。アレックを三人の女の子たちが支えながら歩いている。
「ぬぬ子ちゃん、よくやった!」
そう言って斑目はポンとぬぬ子の頭をヨシヨシとなでた。ぬぬ子は牛乳ビンメガネごしに斑目の顔を見上げて、顔を真っ赤にした。
「ん?」斑目はにっこりしながらぬぬ子を見た。
「いっいえ、何でも!」
アレックはボロボロと涙をこぼしながら言った。
「俺は負けた・・・俺はあいつに負けたんだ・・・。」
ぬぬ子はアレックの手を取って言った。
「いいえ、誰も負けてはいません。全てが善くなったんです。」とにっこり笑った。
ハッとした表情でアレックはぬぬ子の顔を黙って見つめた。
そこへ警官隊が盾を持ちながらドヤドヤとプレハブの階段を駆け上がってきた。
「いやー、皆さんご苦労さまです!!」斑目は手を振った。
警官隊は一斉に斑目に襲い掛かって、斑目を取り押さえた。
無線機で警官が叫ぶ。
「子供たちは無事に保護しました!!犯人の拘束に成功!!繰り返します!子供たちは無事保護!」
「何!違う!俺は違うんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
(以下略)
○斑目晴信の憂鬱
「大変だったね。」とスーはいつも通り無表情で、用務員室備え付けのコーヒーを飲みながら言った。
「それで終わりか!あれから、子供たちの証言で解放されてからも、警察の事情聴取受けるわ、春奈ちゃんの親たちには子供を危険な目にあわせてと泣かれるし・・・。」
「まあまあ、こっちも手を回しておいたけど、詳しい事は言わなかったんでしょ?」
「まあね。警官たち不思議がってたな。一人は気絶して倒れてて、もう一人は泣き崩れて無抵抗なんだから。もっとも少年が大の大人を倒し、少女が精神攻撃で無力化しましたって言っても信じないだろうから。」
「それでいいんです。」
(それに最後に春奈ちゃんの母親の『あの人』は「でもありがとう・・・」って言ってくれたしな・・・)
斑目は一人満足げにニヤニヤした。
「双子たちは?」斑目が聞くと、スーは用務員室のテーブルを指差した。
「ねー、これは何?」
「うーん三角!」
「馬鹿違うでしょ!四角じゃない!」
「馬鹿とは何よ!馬鹿とは!」
「あーやっぱり〈ちさ〉〈まり〉とは趣味あわね!!」
「すっかり能力は消えちゃったわけね・・・。」
苦笑しながら斑目は呟いた。
その様子を遠くでぬぬ子と春奈が見ている。
「斑目さん・・・かっこいいですよね・・・。」
「はあ?あのくたびれたおっさんが?ぬぬ子ちゃんまた視力落ちた?」
「ひどいですね!」
「それよりアレック!彼かっこいいよね!」
(斑目さんとの関係は秘密なのよね・・・)とぬぬ子は思いながら
「そうですか?あんまりわたしは・・・。」と言った。
「そう?じゃあ、わたしが狙ってみるかな!」
斑目は遠くでその会話を聞こえないふりをしながら、うっすらと冷や汗を流した。そして窓に目を移した。
窓からはうららかな陽だまりが差し込んでいる。遠くでは小鳥がさえずっている。子供たちの笑い声も聞こえてくる。そよ風も吹いている。彼は、斑目晴信はこの時間と空間を愛した。
大変な事件が起きたが、そんな事は人生にそう何度も起きるもんじゃない。欲張らなければ人生は満ち足りて楽しい。俺はそれでいい・・・と斑目は思った。
斑目は離日前のアンジェラとの会話を思い出した。
「ありがとう。」
「いや、俺は何も・・・。」
「いいえ、アレックは過信して判断を誤りました。前に言いましたね。あなたにしか無い力があると。」
「うん・・・。」
「それがあなたの力です。あなたは臆病です。平凡極まりなく、だからこそ常に正しい選択を選ぼうとします。あなたがアレックを救いました。」
そう言ってアンジェラは斑目を抱しめた。
「また会いましょう。アレックも変わりました。あなたとの事の他にも何かあったのでしょうか?熱心に日本の事を勉強してます。」
回想から再びこの穏やかな時間と空間に戻った。この平穏がいつまでも続きますようにと天に祈った。世界は美しく平和そのものだ。もうこの平穏がやぶられることは無い・・・
***********************************
その時、千佳子が困った表情で用務員室に入ってきた。
「やあ、千佳子ちゃんどうしたの?」
「それが・・・最近わたしに不思議な事が・・・こんな事誰にも信じてもらえなくて・・・斑目おじさんなら相談にのってくれるかなと思って・・・。」
***********************************
・・はずだ・・・。
分割また間違えた。21分割でした。笹荻終わってからはぶっ飛んだ話しか
思いつきません。彼らの物語は自分の中では完成されたようですので。
斑目は動きやすいキャラでいいですねw
>斑目晴信の憂鬱(Next G)
ぬぬ子話、面白かったです。いやーそれにしても………。
斑目好きの自分にはもうお腹いっぱいです。いやむしろごはんが9杯は(ry アンジェラがーうわーうわー!!
血圧上がりました。えーと、アンGJ!!いやそうじゃなくて(動揺)えーと、ぶっ飛んだ話GJ!でした。
この1週間大漁ですなあ。アルエと未来予想図と、つ・い・に・双子がキタ━━(゚∀゚)━━!
>>アルエ第四話
大野さん黒すぎです。素敵ですw ヘソ重要ですハイ。そしてオギーloveの俺としては脇に回りながらも勝手に浮いたり
沈んだりしている彼女が愛らしくてとてもよい。こんな感情が錯綜する話を書けるのはうらやましいね。ビバヒルチックと
いう表現した
>>187は偉いと思います。
この先どろっとしてくるとなると少し不安ですが、ハッピーエンドに向けて突き進んでいただきたい。楽しみにしてますよ。
>>カラーパレット
>>212 ハチクロ、アニメでググるという手は思いつかなかった。てゆかアニメ化してたんだね。ファンサイトとか映画ムックとか
見て、ああこれは俺好きだ、と確信しました。チャンス見つけて読んでみます。ひょっとして谷川史子作品とかも読む?
恵子話グッド。この子は大方の予想で『咲の店で働く』だよね。でもだいたい勤務中の位置づけになってるので、就職
の導入部分を読めて面白かった。なんだかんだ言ってこの子は元気でいい。化粧も、初登場以降はギャルギャルしな
くなってるので咲さんの影響は昔っから大なのであろうな。
ところであなたのクッチーは就活疲労で死にそうだが大丈夫かw
>>ぬぬ子
セカンドジェネレーション……絵板の断片的な書き込み情報からおおむねの統一的設定(そして数少ない既存の完成
作品)にたどり着くのはけっこう大変なのじゃないかと思うが……各人頑張れってことでいいのかな?俺としてはこの
シリーズいっぱい読みたいので、裾野が広がるの大歓迎なのですが。
ぬぬ子はきっと昭和の漫画から抜け出てきたキャラなのだと思います。ぜひ真の正体を知りたいところだがその日は
来るのか?まとめて読み返してみると前編から兆候があったが思わぬハードボイルド展開でびっくりだ。
斑目は巻き込まれ型の王様であるということがよく判ったw
そして1本(?)書きました。なぜハテナかというと、前後編になっちまったからです。
これまで原稿書きは携帯メイン(通勤中に書いて、あとでPCで整形する)だったんですがさすがにもどかしいんで、昔
ともに戦場を駆け抜けたシグマリオンを掘り起こしたのね。そしたら書く量は増えたんだけど収拾がつかなくw
今回は前編投下します。後編も一応書きあがってるんだけどちょっと直しきれない。来週か、時間みつかったら変な
タイミングで置きにきます。
前編13レス。タイトルは『愛のエプロン』でGO!
秋も深まるある10月なかばの午前中。現視研の部室には大野加奈子と荻上千佳だけだ。学園祭まではまだ日数も
あり、何もない平穏な日々が彼女らの頭上をたゆたっている。
「大野先輩」
「はい?」
スケッチブックに落書きしながら、千佳が加奈子に話しかけた。加奈子はノートにコスプレのリストを書き込む手をとめ、
顔を上げた。
「あの……ちょっと聞いていいですか」
「え、なんですか?」
千佳は何かいいづらそうだ。
「……笹原さんのことですか?」
「まあ、そうなんですけど」
彼女が笹原完士と付き合い始めて、まだひと月にも満たない。加奈子にも覚えがある。
「ははーん。笹原さんのココがわからないとかソコが知りたいとか、いろいろ出てきたんですね?」
友達以上の関係であることに慣れてくると、恋人の考え方や性格などがかえってわからなくなる時期がある。お互い
に『友達』には言えなかったことを打ち明けるようになるためだ。
「わたしにもありましたよ、そういう時期。田中さんの考えてることが判らなくなって悩んだりしたんですよねえ。でもね
荻上さん、だいじょぶですよ、すぐになんでも言い合える仲になりますから」
「いやあの、そういうことではなくて……んー、それとも、そういうことなんでしょうかね?」
「どんなことですか?なんでもお答えしますよ」
加奈子は期待最大限だ。
「(わくわく、どんなことなのかしら。わたしも田中さんとお付き合いし始めた頃はあんなことやこんなことが……)」
「あの、大野先輩は、田中さんにどんなお料理、作ってますか?」
「え……お料理……ですか?」
「はい……」
どう説明したらいいのか、といった風で千佳は話し始めた。加奈子の冷や汗には気づいていない。
「笹原さんに、何回かうちに来ていただいて。それで私の料理、食べてもらったりしたんです。私も普段自炊が多いで
すから、まあ、自分の普段作るようなもの、作って」
「へ、へえ」
「あ、と言ってもカレーとか魚の焼いたのとか、もうごく簡単なヤツなんです。あんまり自信なかったですけど笹原さん、
おいしいって言ってくれて。嬉しかったんですけど、……もうレパートリー、ないんですよね、正直」
千佳の手元のスケッチブックは、知らないうちに食べ物の絵ばかりになっていた。自分で言ったカレーと焼き魚、その
流れからすると実際に彼女が笹原に作ってやったのだろう、トンカツや唐揚げ、味噌汁らしきお椀。皿に盛ってあるの
は野菜炒めあたりか。彼女の言葉と合わせて考えると、なるほど基本的なレシピばかりだ。
「料理本とかもあんまり見慣れてなくて。こないだ試しに1冊買ってみたんですけど、読んでる間に時間が過ぎちゃって。
なんかいっぺんに二つ以上のことできないみたいなんですよね、私」
「あ、あー、そういうことってありますよねー」
「大野先輩はどんなの作ってるんですか?」
「え」
千佳は不意に加奈子に向き直った。思い切って聞く心づもりができたらしい。
「先輩はアメリカに長かったから、雰囲気の違ったお料理ご存知なんじゃないかなって思って……あ、もちろん私に
どうにかなるくらいのやさしい奴で。なにか教えていただけませんか?」
「えぇー?わたしのお料理をー?」
「はい。あつかましいとは思ったんですけど」
「う〜ん……頼ってくれるのは嬉しいんですけどぉ」
この話題の最初から彼女の流している冷や汗が、ひときわ大きくなった。
「ダメ……ですか?」
「や、ダメなのはそのポイントではなくて……」
しばし言葉を探していたが、観念したようだ。加奈子は目をそらしながら、小声で打ち明けた。
「あのう……わたし……お料理、ほとんどダメ、なんですよね」
「……え」
千佳の目が見開かれる。
「……アメリカとは言えわたし親元だったし、しかもあっちってデリカテッセンとかレンジミールとかすごい発達してるん
ですよね。お友達と集まっても大体ピザとポテトとコークで用が足りちゃって」
加奈子は赤くなって言い訳を並べている。
「あ、すいませんそうとは知らなくて……」
「ホームパーティなんかで親の手伝いで作ったことはあるんですけど、どうもわたしって分量の加減ができないらしくて、
味は誉めてもらえるんですけど何作っても食べきれないような分量に……」
「あっあの」
「向こうではsupersize'emとか一人食品工場とか呼ばれて。田中さんもね、あの人優しいから言わないんですけど、
お付き合い始めて半年くらいでお料理と洗いものの役割分担が逆になってて……あーん荻上さぁん、わたしにお料理
教えてください〜」
「ソレ私が持ちかけた相談ですよっ!」
料理に関する質問は加奈子の鬼門だったようだ。しまいには逆に料理を教えろと迫る彼女に千佳が弱り始めた頃、
部室のドアが開いた。
「よっす、誰か……おー、大野と荻上だけ?」
「咲さん!久しぶりですね」
「あ、こんにちは」
現れたのは春日部咲だ。最近は卒業後の準備とかで、彼女が部屋に顔を出す頻度は減りつつあった。
「やー、ガッコ来んのも久しぶりだよ。これで年内は学生生活メインでやってけるかな」
「(あ……咲さん!)」
「(え?ああ……いやでも……春日部先輩ですか?)」
「今日はゼミだけ顔出して終わりだし」
「(う、うーん、やっぱ違う感じですかねえ)」
「(キャラじゃないっつうか)」
「コーサカも週末あたりから時間できるって……おい?」
少し疲れの見える咲の顔を見るなり二人の間で交わされた目くばせを、彼女は見逃さなかった。
「お前らがナニ考えてんのかは知らないけど、なんか一点の悪気もなくあたしを見くびってんのはピンときたぞ?」
「ええ?そ、そんなつもりじゃ」
「そっそうですよ、私たちべつに」
「そもそもお前ら二人がそんなに仲いいのがおかしい」
「ええ、だってわたしたち合宿以来すっかり仲良しに、ねえ荻上さん?」
「大ー野ぉ」
話をそらそうとする加奈子の努力は、咲のドスの聞いた一声で灰塵に帰した。鋭い視線が加奈子を見据える。
「話してみ?」
「あうう〜」
「あううとか言うな!」
****
「料理?なにお前ら苦手なの?」
「……はい」
体に空きができた今日の咲には物事を楽しむ余裕が生まれていた。さっきまでの話の流れを把握したところで、ニヤリ
とする。
「荻上もまだまだだけど、まあイマドキの女子大生にしちゃしっかりやってる方だろ。これからは笹原もいるし今後に期
待だな。それより大野ぉ、お前田中にメシ作らせちゃったら負けだよ、女として。あいつ専業主夫にするつもりじゃない
んだったら、男心をホールドするテクニックくらい磨いとかなきゃあ」
恋愛の先輩として、一般人女性の代表としてとうとうと語る。
「……っあ、あの」
「ん?」
なにか悪いことをして説教されているような雰囲気になってきたのを打開すべく、千佳が声を発した。
「春日部先輩は、高坂先輩にどんなお料理作ってるんですかっ?」
「お、そうだったそうだった」
先ほどのアイコンタクトを思い出す。
「さっきのアレ、要するにこのことだったんだろ?あたしは料理作れなさそー、って」
「すいません」
「ふっふっふ、おばあちゃん子なめんなよ?あたし、よっぽどでなきゃキッチリ朝晩作ってるよ」
携帯電話を取り出し、カメラ画像を表示させて加奈子に渡す。
「ほらコレ先週。コーサカ何日か泊まってったんだけど、そんときゃあ頑張ったね、我ながら」
千佳も脇から覗き込む。咲が自室の食卓で、高坂と並んで笑っている。フレームからは半分方切れているが、テーブ
ルに並んでいるのは地味ながら豪勢な晩餐だった。旬の野菜の煮物、玉子焼きに鰈の煮付け。咲の自信を見れば、
画面の端に映っている佃煮さえただ買ってきたものではなさそうだ。
「うわあ、おいしそう」
「……なんか、母の料理思い出しますね」
「和食だってこと?うん、多いなあ。そればっか作ってると調味料とか偏ってくるんだよね。あたしが好きだし、コーサカ
が仕事場でジャンクなもんばっか食ってるから、あいつのこと意識するとなおさらこんな感じになっちゃうなあ」
「咲さぁん、わたし咲さんのこと見直しました」
「ったく失礼だよねー。人を見かけで判断すんなっつうの」
「ごめんなさい……あ、でっでもホントおいしそうですよねこれ。ねー荻上さん」
「はい」
「ふふふ、もっと言ってもっと」
「このお野菜なんかいろんな種類入れてますよねー。わたしがこういうの作ると多分20人前とかになっちゃう……これ
写真の拡大ってどうやるんですか?」
料理に興味を示した加奈子は、咲の携帯を操作し始める。
「え?あっ、ちょっと待て大野」
「え」
操作の結果表示されたのは拡大画像ではなく、ただ次の写真だった。
……裸の咲と高坂がキスをしているシーンだ。画像は二人の肩から上だけだが、このシーンの後二人がどうなって
いくのかはいとも簡単に想像できる。
「わーっ!」
慌てて加奈子から携帯を取り上げるが、すでに二人とも顔を真っ赤にしている。
「あ……あはは、いーじゃないあたしたち付き合ってるんだしー」
咲自身も赤くなりながら強がって見せるが、二人は聞いていない。
「……てゆーかあんな写メ撮って持ち歩いてるっつうのが」
「あれ咲さんが自分で撮ったってことですよね」
「ちくしょうお前らの相談なんか乗るんじゃなかった。しかも今回あたしから首突っ込んでるし」
「あああ咲さんそんなこと言わないでくださいよう」
思わぬオウンゴールにくずおれる咲を、あわてて加奈子がとりなす。
「いつかお前らの恥ずかしい写真も見てやるかんな。でも今ちょっと思いついたよ」
とりあえず立ち直ることにしたらしい咲が言う。
「え?」
「な……なにを思いついたんですか?」
「あんたたちの料理上達法」
その時、部室の扉が開いた。もう昼どきになっていたのか……現れたのはコンビニ弁当をぶら下げた斑目晴信だった。
「こんちゃー……わ、春日部さん、久しぶりだね」
「ごぶさた。ねーねー斑目、今週の金曜の晩って時間ある?」
「え?なんすかイキナリ」
いきなりの展開に驚いているのは斑目だけではなかった。加奈子と千佳も、咲の話題の転換っぷりに置いてゆかれ
ていた。
「空いてんの?空いてないの?」
「そりゃー空いておりますとも。今の時期なら定時に帰れるし、コンビニ弁当食ってアニメ見て寝るだけっスから」
「そっか、よしよし」
咲は斑目の言葉を聞きつつ、千佳たちの方をニヤニヤと笑いながら眺めている。
「……春日部先輩?」
千佳の脳内で警報が鳴った。これは、なにか、来る。
「斑目ぇ。今ちょーどあたしたちで計画してたんだけどさあ」
「ん?」
……『あたしたちで』?
「今度の金曜、大野んちでみんな集まってホームパーティやろうって決めたんだ。あんたも来るでしょ?」
「へ?パーティっすか」
「いっ!」
「えええっ?ちょ、ちょっと咲さんっ」
斑目は突然降ってわいた話に面食らい、彼以上に動揺している加奈子と千佳には気づかない。彼としては当日に予定
がないとたった今言ってしまっていたし、ほかならぬ咲の誘いなら断る理由はなかった。咲は後輩たちに笑みを浮かべ
ながら、斑目のほうへは一瞥もくれず続ける。
「コーサカがさあ、金曜に仕事一段落するって言ってんのね。だけどあーいう仕事だから何時に上がるのか判んないし、
そしたらあたし待ってる間ヒマじゃん?でね、大野と荻上が『みんなで料理つくってパーティやろう』って言ってくれたのよ」
「ほー、面白そうじゃん」
「でしょ。そんな集まり方したらアンタ呼ばないのも変でしょ?全員現視研なんだし。もちろんクガピーとかも来れるんなら
呼んでさ」
「……あれ?うーん、ちょっと待ってくださいよ」
「なに?」
「それはつまり、現視研の3カップルがアツアツになってる中、俺が一人悔し涙に暮れるという企画なのか?」
「いじけんなって。コーサカ来れなかったらあたしがお酌くらいしてやっから」
「……ハハ、それは楽しみですこと」
斑目の脳裏に、差し向かいで徳利を傾ける咲の笑顔がよぎった。一瞬顔の筋肉が緩むが、気力で平静を保つ。
「うん、もちろんヒマだし、それじゃあ一口のっけてもらうかな。あ、俺当然料理できないけどいいんだろーね?後片付け
とか酒とか食材費の担当ってこと?」
「さんきゅーさんきゅー。モチよ。男たちは女たちの手料理を旨い旨いと食うのが役目だかんね」
「あれ……ひょっとして春日部さんも作るの?」
「お前までそういうことを言うのか」
「キャラじゃないでしょー、だって」
「ヨシ斑目、もし旨かったら土下座さすかんな」
「はいはい、ちゃんと胃薬も人数分持ってくさ。……ところで」
軽口の応酬が一段落したところで、彼は視線を横に移した。
「今の話の流れでは立案者だというお二人がですね、完全にフリーズしておられるようなのですが?」
二人の会話に入り込む隙を見つけられなかった加奈子と千佳である。加奈子はただおろおろするばかり、千佳もここまで
ずっと、何か言いかけては口ごもることを繰り返していた。
「あー、二人はいいの。どんな料理作るか夢想中なんでしょ、きっと」
「トテモそうは見えませんがね」
「あんたたちは週末を楽しみにしてりゃあいいの。大野も荻上も解った?ちゃんと田中と笹原呼んでくんだよ?」
「……あう」
「ハイ」
100%咲の差し金だ。そう悟った斑目は、これ以上は突っ込まないようにしようと心に決めた。昼休みもどんどん過ぎて
いく。持参したコンビニ弁当のパッケージを破りながら、彼は週末のパーティを想像していた。
「(まあいいか。春日部さんの手料理かー……)」
****
「咲さん!どうするんですかあんな企画立ててー!」
斑目が帰った直後、ようやく我に返った加奈子は咲に抗議した。部室は再び女性3人だけになっている。
「お、やる気になった?いーじゃん」
「やる気じゃないですよ!咲さん全部決めちゃうんですもん。しかもわたしの部屋使うって勝手に!」
「あはは、ごめんごめん。でも荻上んちより広いんでしょ?荻上んとこはあたし行ったことないけど、あんたのキッチン使
いやすそうだったじゃん」
「ええ……まあ」
「むしろ大野、自分の土俵だよ?やりやすいって考えなよソコは」
咲の弁舌は巧みで、加奈子の対人対応能力では太刀打ちできない。あっという間に納得させられている。
「あんたの料理の弱点はたぶん素材の計量だよ、さっきの話からすると。味で評判悪かったことはないんでしょ?味の
調整してる間に知らないうちに鍋の中身が増えてたりしてない?」
「あ……確かに」
「大野ってレシピ本使わないんじゃない?親の手伝いで覚えた?やっぱね。作ってる途中でなまじフォローできちゃう
から、仕事の総量が見えなくなってんだと思うな。つまりあんた料理うまいんだよ。はじめに計画立てる癖つければ、
なんだって作れるって」
畳み掛けるように加奈子の不安に思っているポイントを突く。話題が変わっていることに気づいた頃には、反論の機会
が消滅しているという寸法だ。
「それから荻上はねー」
「はっはい!」
もう話題の矛先すら変わっている。加奈子は言われたことに感心しているほどで、自分が言い込められたことを自覚
していない。
「あんたはたぶん数こなせば大丈夫。基本ができてるってことは応用ができるってことなんだから。レシピの使い方っ
てのは、まず材料を準備してから手順を暗記して、もう本は見ないの。本読みながらジャガイモ切ってたって間に合い
っこないんだし」
「はあ」
「冷蔵庫のアリモノでなんか作るのと、レシピ見て料理するのは別の技術だからね。レシピどおりに材料買ってきて作
るじゃん?まず。そしたら次の日は、残りの材料で別の料理作ってみんのよ。お薦めはポトフやシチューなんかね、目
を離したりしなけりゃまず失敗しないし、もし味付けミスっても取り返しがつくから。不安ならカレーにしなよ、笹原なら
何日続いたって食べてくれるんでしょ?」
千佳はスケッチブックの余白にメモを取り始めている。
「コスプレん時にどんなポーズをとるかだとか、漫画描くのとかだって実際にやってみたり、何回も練習したりしてるん
でしょ?料理もおんなじだよ。ましてあんたらの試食係はマズいとかって絶対言わなさそうだし」
コスプレや漫画を引き合いに出されて、二人も少し安心したようだ。確かにそうだ、自分の趣味に関しては、練習量も
失敗の数も誇りに思うことができるではないか。うまくいかなければそれが実力で、背伸びなど意味がない。次に一歩
でも半歩でも進めればいいのだ。
「ありがとうございます春日部先輩。ちょっと勇気わいてきました」
「よしよし」
「わたしもー。咲さん咲さん、どうせパーティなら本格的にしましょうよ」
「本格的?」
「月末はハロウィンですよお。その頃はもう学祭の準備で忙しいから、これハロウィンパーティにしちゃいましょう」
「あ。お前の言いたいことはもう判った」
意気込む加奈子に牽制を入れる。ハロウィン→仮装など、子供でも考え付く。
「えー、でもでも、高坂さん来てくれるかも知れないから咲さんも頑張ろうって思ってるんでしょー?」
「う、まあそりゃそうだけど」
「だからエプロンどうですか?かわいいエプロンドレス。せっかくお料理作るんですから、それっぽいカッコってことで」
「そんなコスチュームあるのか?」
「いーっぱい。赤毛のアンとかアリスとか赤ずきんとか。田中さん、ちょっと前に古典系ハマってたんです。テーマが合
わないんで着るチャンスなかったんですよねー。もちろん最近のメイド系もありますけど」
「おー、いつもの奴よりはよほど興味引くな。メイドはともかく」
「じゃ、じゃあゼヒ」
「それとこれとは別。まあ、持ってきてみ?気分しだいだな」
「はあい。荻上さんはアリスですかねえ、やっぱり」
「え?って私も着るんですか?」
「おーいーな。髪おろせばいい線行ってるんじゃないか?」
「春日部先輩!」
「いーじゃん。笹原喜ぶぞお」
「もうっ、全部それですか」
「そうは言っても、お前も今は全部ソレ中心で行動してんだろ?」
「……う」
こうして反対勢力は沈黙し、いつの間にか始まっていた『第1回ハロウィンパーティ企画会議』は終了したのだった。
****
「……で、どうでしたか荻上さん、笹原さんの様子は」
その日の夜、加奈子は千佳と電話で会話していた。
「……大喜びで参加するそうです。電話の声が期待で光り輝いてるようでしたよ」
「田中さんもでしたー。正直、こんな気の重いパーティ初めてですよ」
「でも大野先輩、パーティ料理は得意分野じゃないですか。私なんか何を準備すればいいのかも不安です」
「咲さんがレシピ用意してくれるって言ってたじゃないですか」
「恐ろしく複雑な工程表持ってこられたらどうするんです?」
「う……。パーティをダメにするようなことは考えてないと思うんですけどねえ」
「ハア」
「荻上さん……?今夜って笹原さん、いらっしゃるんですか?」
「え?いえ、今日は会わないですけど」
「もしよければ、今から私の家にいらっしゃいませんか?わたしちょっと、誰かとお話したい気分なんです」
「……私もです。お酒ナシでいいなら、お付き合いしますよ」
千佳が電話を切って上着を取りに行った頃、笹原は自宅のパソコンで『ハロウィンパーティ』の画像検索をして週末に
思いを馳せていた。本当なら今夜から取り掛かっているはずの、春からの就職先とやり取りしている書類の束が足元
に落ちたのにも気づいていない。
同じ頃、田中はついに日の目を見そうな衣装コレクションを選定していた。名作劇場シリーズとおとぎ話関連、すでに
十数着が床に並んでいる。
咲は咲で、恋人がパーティに飛び込んでくるところを想像しながら当日のレシピをリストアップしていた。
そして斑目は、コンビニ弁当を前に録画しておいたアニメを鑑賞中……いや。上の空だ。彼の意識もまた週末へ飛ん
でいる。
各人それぞれの想いを乗せて、週末への時間はゆっくりと、しかし確実に、秋の夜空を進んでいった。
<前編おわり>
話の途中でいろいろ言い訳するのは変なのでちょっとだけ。
これまでツーショット話しか書いてないので、ちょっと気合を入れて団体戦にチャレンジです。
大学生というよりバブルの頃のトレンディドラマみたいになってきております。
どうしようw
ともかく完成はしてるんで、未完トンズラだけはないよう努力します。とりあえず頑張れ俺。
なるべく早く覚悟決めてきます。それまでしばしさようなら。
>愛のエプロン
いいですねえ〜パーティーいいですねえ〜。荻上さんや大野さんが料理に関して悩んでるのが女の子らしくてとてもよかった。
咲ちゃんは料理上手そうだなあと自分も思ってました。家庭的な味…いいのう。
…この話、同時に身につまされる話でもありました。自分も料理苦手なんで、この話に出てきた咲ちゃんの注意事項を良く読んで、練習してみようかな…w
斑目さん出てきましたねえ。もー文脈で名前だけちらっと出ただけでもドキッとするほど斑目スキーなんですが、後編どんな風になるのか楽しみで仕方アリマセン。
嬉しい展開でも、逆にかわいそうな展開でもオイシイ人ですから。
タイトルが愛のエプロンだから、もの凄い料理が出てきたりするんだろうかw
ちなみに、地の文はスペース開けた方が読みやすいよ
どうもです。アルエの第五話が書けました。
こんなこというのもなんですが、このシリーズは長くなりそうです。
終わりが全然見えません。
コミフェス編も終了まであと2〜3話ぐらい掛かりそうです。
う〜ん…。
猛省しないと死ぬ。マジで。
それでは投下したいと思います。宜しくお願いします。
「何で春日部君が来ているんですか?」
ハルコは憔悴した顔で訊いた。
「ま〜ね〜。口出しした手前、ほったらかしってのも無責任だから、顔ぐらい出しとこうかな〜と」
春日部がカッカと笑いながら返した。
「……ぶっ、あはははははーー! せくしーーー!」
「あ、ツボ入っちゃったよ……」
大笑いする春日部にハルコはいたたまれない様子で背中を丸めていた。
そりゃ、似合ってるとは思わないけど…。そんな爆笑することないじゃないの…。
「大丈夫ですよ、ハルコさん。とってもカワイイですから。もう食べちゃいたいぐらいですぅ〜」
大野がテカテカした顔を全開の笑顔で彩ってハルコを励ました。
「私はむしろお前を食い千切りたいぐらいよ……」
ハルコは大野に精一杯の不快感を込めて眼光を放つが、眼鏡無しでボヤッとした影を睨んでも
ちっとも効果あるように思えず、逆に立腹が倍増された。
「いや〜〜ん。ハルコさん目がこわ〜〜い」
やっぱり全く効果が無い。
「お前の思考の方が兆倍怖いって……」
ハルコは小さく溜息をついた。もう何か疲れた。
実際、ブースに来てからずっと立ちっ放しだったので、ちょっと足が痺れてきていた。加えて精神的疲労…。
ハルコはブースの裏へ振り返る。
「ちょっと誰かこうたーい」
へっぴり腰で両手をバタバタさせてパイプ椅子を探る。
その、そこはかとなく愛らしい仕草に大野はまたも黄色い声をかけた。
「きゃああーー、かわいい! はいは〜い、こっちですよ、ハルコたん」
「たんはやめろ」
不倶戴天の敵に手を引かれてハルコは椅子に腰を下ろした。
隣に座っているのは、どうも春日部君らしい。
「……へぇ」
春日部はまじまじとハルコを眺める。
「……何でショーカ?」
たとえ影の塊と言えども、それが春日部かと思うとハルコは直視できなかった。
ましてや自分はあられもない衣装を身に着けているわけで。
「どーせキモイとか言うつもりなんでしょ?」
憎まれ口を叩いて唇を尖らせていても、本当は春日部の次の言葉を知りたくて、
ハルコの意識は耳に集中していた。
「いーじゃん。似合ってんじゃね?」
ハルコの顔が一瞬で真っ赤に染まった。
「な、何か逆にヤだなーソレッ! これ似合ってるって微妙じゃない?!」
声を張り上げてハルコは気持ちを誤魔化した。実際は、ちょっとというか、かなり嬉しかったけれど。
ただ飄々とした春日部の口調だと、どこまで本気で言っているのか分からなくて、警戒してしまう。
「本当に思ってる? バカにしてない?」
「思ってる思ってる」
春日部はあははと笑って、ひょいと隣の真琴に顔を向けた。
「なー、似合ってるよなあ? 真琴もそー思だろ?」
「うん、ホント素敵ですよ」
真琴の天使のような笑みと揃えるように、春日部はハルコに笑顔を向けた。
「ほらー」
「ぇえーー?! もー真琴ちゃんも適当なこと言わないでよー!」
「本当ですよ」
真琴は赤面しているハルコに微笑む。
「ハルコ先輩、肌も真っ白で綺麗だし」
「いや〜、生っちろいだけだってコレは…」
「足も細くて羨ましいなあ」
「痩せてるのと細いのは違うよ。私はただ貧相なだけだよ」
「そんなことないですよー。背ぇ高いし、スタイルいいですもん」
「もう! そんな心にもないおべっか言わなくていいんだって」
「違いますよ。ハルコ先輩は自分の魅力に気付いてないんです」
「ないない。魅力なんてないの」
「ありますあります」
などという女子同士のキャッキャウフフな様子をまったりと春日部は見物している。
(ん?)
ふと笹原を見ると、何やら様子がおかしい。
笹原の目は妙に泳ぎまくりで、視線はわざとらしいぐらいに目の前のハルコから逸れている。
それでいてちょいちょい目線のヒットアンドアウェイをハルコに対して繰り返しているのだ。
(ん〜〜〜〜〜〜?)
春日部は、笹原の顔を見て、ニヤリと笑った。
「ササヤンはどーお?」
「はひ?」
笹原はおもむろに面食らった顔を春日部に向けた。
「いんや、似合ってると思うかい? ハルコさんのコスプレ」
「やー…、それはー…」
笹原は何でもない風に手にしていたペットボトルの蓋を開けながら、視線をあさってに向けた。
「似合ってんじゃないですか…、まあ…、ヘンじゃないですよ…」
笹原は一瞬だけハルコに目を向けて、そして天を仰ぐようにお茶を一口、喉へ流し込んだ。
(ほほう…)
春日部はまたニヤリと笑って、キラリと目を光らせた。
隣で真琴が柔らかく微笑んでいる。
ハルコは春日部たちの表情は当然分からず、
「あーもう、暑っついわー! 皆が下らないこと言うから暑くなってきた!」
大野がコスプレとセットで用意した祭り手拭いで、しきりに汗を拭いていた。
それから、大野の背中をツンツンと突付いた。
「何ですか?」
「眼鏡返して。ジュース買いに行く」
大野の眉根を寄せて、語気を強めた。
「ダメです。ジュースは荻上さんが買ってきますから」
「勝手にパシリにしないで下さい」
今度は荻上が顔をしかめた。
「まあ、別にいいっすけど」
頑張っているハルコにジュースを買ってくるのはいいのだが、大野にパシられるのは嫌らしい。
「いいって、自分で行くから。それにトイレも行っときたいから。ほら、眼鏡を出しなさい」
「むむう、そう言われては出さざるを得ませんね…」
大野は観念してカバンからティッシュに包んだ眼鏡を取り出し、ハルコに渡した。
漸く帰ってきた眼鏡をハルコは掛ける。
暫くぶりだからか、何だか異様に良く見える気がする。気がするだけだろうけど。
「おー、見える見え…」
自分の格好もよく見えた。
着替えの時は真っ先に眼鏡を盗られたので、実際に自分の姿は見ていなかった。
もちろん、頭では自分の纏っている衣装は分かっているのだが、現実に目にしてみると、
大赤面!
「てめ、大野ォォオオ!! なんちゅーもの着せてんのよっ!!!」
ハルコは大野に詰める。
が、大野は視線を逸らせて開き直った。
「おほほほほほほ。今更文句を言っても遅いのです。もう皆にばっちり見られたという事実は消せないのですよ、ハルコさん!」
などとうそぶいていやがる。
「貴様の血の色は何色だ、大野!」
「赤に決まってるじゃないですか〜〜、やだなあ〜〜。ささ、早くジュースでも何でも買いに行っては如何です? 行けるものならばね!」
くぬのうぅぅ…コスプレ魔人があああ!
と、罵ったところで最早手遅れ。客にも現視研の皆にも、春日部君にも見られていたのである。
とほほ…。
「あら、行かないんですか? うふふふ……。行かないなら、荻上さんにお願いしますけど?」
「………行くわよぅ、ちくしょゥ…。どーせアタシは汚れちまったのよ…」
「そこまで言わんでも……」
春日部の突っ込みに苦笑いしてフラフラと歩き出した。
か細い声で何事か呟いている。
「コスプレ潔癖症はね〜、辛いわよ〜。オタクの間で生きていくのが〜。汚れたと感じたとき分かるわ〜。それが〜」
「エヴァですか…」
もやは笹原の声も届いていないかに思われたが、ピタリとハルコが立ち止まった。
見ている。周りの目がこっちを。
ガン見でなく、あくまでさりげなーく見てる。チラ見している。なんてゆーか、逆にこれは想像以上に…。
再び大赤面!
ダッシュで現視研のブースまで戻ると、荻上の手を掴んだ。
「は? 何すか?」
「頼む、荻上! 一緒に来て!」
「はい? ちょ、ちょっとまってくだっ、そんな引っ張らねーで…」
「いいから!」
ハルコは荻上の手を引っ張ってブリザードに立ち向かうような姿勢で出発した。
そして蹴つまずきそうになっている荻上とともに人ごみの彼方に消えていったのだった。
あははははは、と春日部が再び爆笑している。
「いやー、面白いなあ、今日のハルコさんは」
「本人は災難だろうけどね…」
笹原は緊張が解けたのか、ふっと息をついた。あの格好で傍に居られると、心臓に悪い。
お茶を飲み、笹原は渇いた喉を潤した。
その横顔を春日部が企むような笑みを浮かべて見ていた。
「ほーほーほー」
「ん…、なに?」
「いやあ、何でもないよぉ」
「??」
キョトンとしている笹原を尻目に、春日部はクスクスと声を立てて笑った。
「まったく、今日の大野がいい仕事したなあ」
行列する女子トイレを横目に、荻上は通路の柱にもたれ掛かっている。
こういうイベントごとの常であるが、女子トイレはいつだって混雑しているものだ。
まだ特にトイレに用事の無かった荻上は、一人ハルコが出てくるのを待っていた。
手にはゴーグルと捻り鉢巻を預かっている。
ハルコは下駄も交換して欲しそうだったけれど、荻上とは靴のサイズが違ったのでハルコは下駄のまま行列に加わった。
女子だけに囲まれて、ハルコは少しほっとしてるように見えた。
「じゃあ、先にジュース買って待ってますから。何がいいすか?」
「あー、う〜ん。緑茶系で。別に何でもいいから」
「わかりました」
自販機から帰ってくると、列にハルコの姿はなかった。
もうトイレ内には進んでいるのなら、もう少し待てば出てくるだろう。
荻上は自分用に買ったスポーツドリンクの蓋を開け、一息ついた。
通路は人でごった返している。
わいわいがやがやという人の声が密閉されたホールに響いて耳鳴りのように響く。
人が多すぎて、酸素濃度が低いんじゃないというほど、何だか息苦しい。
通路の先から外へ出て、ちょっと新鮮な空気でも吸ってこようか?
ハルコ先輩が戻ったら、風に当たって一休みするのも悪くないかもしんね。
喫煙所の付近は中より人は少ねーし、ハルコ先輩のストレスになんないだろう。
と荻上はぼんやりと考えていた。
「ねー、あれ見た? 現視研のブース」
一際甲高い声が、聞こえてきた。どこかで聞いたことのある声だ。
「あー見た見た。あれでしょ? コスプレ」
「あん? また大野が巨乳コスしてんの? アイツよく恥かしくねーよなー」
侮蔑の篭った三つの声が重なり合って響いた。
その神経にくる笑い声を、荻上は思い出した。あれは今年の4月。
「ちげーって。大野のコスなんて今更珍しくないっしょ?」
「じゃー誰よ? あ、もしかして荻上?」
「うはは。違う違う。まあーアイツがやってても、それはそれでウケるけどさあ」
漫研の女子会員の声だ。
荻上は表情を強張らせた。
電子音のような不快さを持った彼女達の声が宙を跳ね回り続けている。
「斑目だよ。アイツまたコスプレしてんの。しかも今回もエロいの着てた」
うはー、という嘲笑が聞こえた。
「ぐえーマジでー? どんなんだった?」
「くじアンのいづみ」
「うわー。自虐的ですなー。貧乳ネタかよ」
「しかもしかもぉ、何か巻末でチラッと出てたテキ屋のコスだよ。もーヘソとか腿とか丸出し」
「イタターーって感じだった。何を勘違いしてんだテメーって言いそうになっちゃったよ」
「あー、それアタシも思った」
荻上は口の中で、うっせーと呟いた。
「何アイツ? 自分でスタイルいいとか思ってんの? ガリガリなだけじゃん」
「だよなー? 誰か注意してやるヤツいないのかネー?」
「何か足とか細すぎてマジキモイの。色白なのも不健康なだけって感じだったし」
「おばちゃんのくせに汚い肌を晒すなっての。誰も見たくねーよ」
「おばちゃん、病弱キャラ作ってんじゃねーの?」
「原口の元カノじゃ、説得力ねーー」
言えてるー、というユニゾンが聞こえたところで、荻上は舌打ちした。
彼女達には聞こえちゃいないだろうが。
「もー、マジで何とかしてほしいわ。元カレ共々どっか行けよ」
「コスプレで売ろうってのが、どーにもなあ〜。脱力だわ」
「醜い肌晒してまで売りたいかねー。まあ、じゃなきゃ売れやしないんだろうけどさあ」
きゃはははと彼女達は笑っている。
荻上は気分が悪くなった。自分の過去が脳裏に甦って吐き気がした。
彼女は柱の影で、じっと彼女達の声が聞こえなくなるのを待っていた。
ふと気配を感じて顔を上げると、ハルコが立っていた。
「ごめん。行こっか?」
「あ…、はい…」
ハルコは笑っていたが、その笑顔は少し辛そうだった。
出来るだけ自分の表情を悟らせないように、荻上の前に立って足早に歩いていく。
ピンと背筋を伸ばしているはずなのに、悲しいそうに荻上には見えた。
「うわ。あれ斑目じゃん?」
後ろから漫研女子の声が聞こえた。
「え…、わー、ホントだ。やば…、今の聞かれてた?」
「ダイジョブじゃない? つーか聞かれても別にいーし」
「あははは、それもそっかー」
甲高いざわめきが、背中の神経を突付く。荻上は眉間にシワを刻んで、必死に振り返りたい衝動を我慢した。
ハルコはただ前だけ向いて歩いている。半纏の前を固く合わせて。
会場の高い天井と人ごみの中を二人は無言で進んでいく。ずんずんと。
「ね、荻上」
ハルコが肩越しに振り向いた。
「さっきの聞いたことだけどさ…。大野には言わないでよ」
「……はぁ、まぁ……いいすけど……。むしろ言ったほうが良いような気もしますけど…」
荻上の表情は険しいままだ。
「大野先輩、今日はちょっとやり過ぎだと思います」
「ははは、それはそーかもね…」
ハルコは笑顔は優しそうで、荻上は胸が痛くなった。
それを誤魔化すように、荻上はまた顔を強張らせる。
「はっきり言わないと、大野先輩は分かりませんよ」
「う〜ん…………、でもなぁ……」
ハルコは少し見上げて、小さく笑った。
「大野も何とか成功させようって一生懸命なんだろうからなぁ…。私もこんくらいしか出来ることないしなぁ…。
笹原は会長として頑張ってて、久我山と荻上は苦労してちゃんと本作って、大野と田中はコスプレで、
真琴ちゃんも売り場で戦力になってて、朽木君は汚れ役として奮闘してて、春日部君は崖っぷちから立て直してくれて…。
私だけ何もしないわけにいかんからネ…」
はははと、乾いた声でハルコは笑った。
「恥ぐらいかかにゃー役に立たんのよ、私」
「でも……、嫌じゃないんですか?」
荻上はハルコの顔を見上げた。
あの手の女の陰口は、荻上も経験があった。
中学時代、高校時代、彼女自身が俎上に載せられてきた。
じかに耳にする機会こそ稀だったが、女子グループの自分を見る目を見ればどんなことを言われているか、おおよそ想像はつく。
彼女はその度に軽蔑の視線を作って、針のような気配を纏わせて、独りぼっちで過ごしてきた。
荻上には他人事とは思えなかった。
「原口さんの…っていうのも嘘なんでしょ?」
「こっちが何したって、悪口言うヤツは言うんだもん…。もう言われ慣れちゃったぁ…。」
その横顔は笑っているけど、それはいつもの笑顔とは全然違っていたから、ハルコは慣れてなんかいないんだと荻上は思った。
それなのに、ハルコは笑っているから、荻上はハルコの笑顔を見ているのが辛かった。
「ぜんぜん平気ヘーキ。私は平気だから、大野には黙っといてね」
「はい……」
荻上は小さく頷いた。
ハルコの背中を荻上は見つめる。荻上は思った。
誰か、この人を守ってくれたらいいのに。
「あっ、久我山さん」
「遅かったですね先生!」
「え、ま、斑目……。が、頑張ってるね……」
「にゃはははは……」
タオル装備の久我山がやっとブースに姿を見せた。
「ちゃーす。じゃ、そっち回って入って来て下さいよ」
「お……おう」
久我山は席に着くと、ふぅーと汗を拭った。
笹原が声を掛ける。
「けっこう売れてますよー」
「あ、そ、そう?」
久我山の目が売り場の二人に向いた。
「で……でもそれは、あの二人のおかげなのでは?」
「ま……、否定はしません」
笹原は苦笑いで応えた。二人が到着してからの経過をみると、確かに否定できない。
「これです、本」
「おお〜〜……」
感嘆の溜息を漏らし、久我山はパラパラと本をめくる。
「う、うん」
「え、それだけすか」
「いやー……。は、恥ずいよね……」
「自分が描いたエロ本だもんね〜」
春日部は快活に笑いながらちゃちゃを入れた。
「あ、後でちびちび見るよ」
「そーすか」
笹原にも、久我山の気持ちは何となく分かる。
自分の性癖を晒すようなものだから、それはそれは恥かしいだろう。
「ありがとうございましたー」
ハルコの声が響く。幾分、戻ってきてからの方が言い方に気持ちが篭ってるような気がして、少しほっとした。
流石にちょっと罪悪感があったので、ハルコが乗り気になってくれたのは単純に嬉しい。
さて、と呟いて、笹原はパンと太腿を叩いた。
気持ちが軽くなったところで、あれを処理しておくか。
「俺、ちょっと原口さん関係の後始末に行って来ますんで、こっちお願いします」
「はーい」
誰とも無しに返事をして、笹原はブースを出ようとする。
と、その時、春日部が腕組みをしながらニヤリと笑った。
「ハルコさんも一緒に行ったら?」
「え?」
言ったのは笹原だ。春日部の発言に面食らっている。
「ハルコさんもその辺回りたいだろ? ついでに行って来くればいいんじゃない?」
「あぁー…、まぁ……、そうだけど……。でも……」
ハルコは自分の姿を一瞥して、
「この格好じゃ……」
「そーですよね……」
「大野さん、服出してあげれば? あと靴も。上から羽織るものとかあれば大丈夫でしょ?
真琴が大野のカバンを抱えてパイプ椅子の上にドンと載せた。
「う〜ん。私としてはそのままの方がよいと思うんですけどねぇ…」
「ダメです!」
荻上が噛み付いた。
「ちゃんとした格好じゃないと可哀想です」
荻上の剣幕に意表を突かれたのか、大野はしぶじぶハルコの衣服と靴の返還に応じた。
女子が壁を作る形でハルコを取り囲み、ハルコは半纏を脱いでシャツを羽織った。
下駄も朝に履いてきた靴に履き替える。ゴーグルと鉢巻も外した。
「あー、ちょっと解放されたぁ〜」
ハルコが安心した顔を見せたことに荻上は小さくはにかんだ。
でも、笹原さんは照れ臭そうにしてる。
「それじゃ、ちょっと行って来ます」
「うぃ〜〜す」
春日部に手を振られて、笹原はちょっと妙な顔をした。
うーん、なんだろ、これ?
ハルコさんは、コスプレから解き放たれて嬉しそうだけど。
二人はブースを後にする。
「まずどっから行くの?」
「あー…。一番近いところは…、伊鳩コージさんですね」
「うわ、いきなりビッグネーム!」
とか何とか言いながら。
春日部が終始薄気味悪い笑顔でオタクの群れに紛れる二人の姿を見守っていた。
つづく
>アルエ
おおお…漫研女子怖ええ…!!でも実際、女子の陰口ってあんな感じでしょうね。
他人を貶め合って自分たちの連帯感保ったり、憂さ晴らししてるのがむしろ可哀相です。
それにしてもハルコさん健気だなあ。「優しい笑顔」が胸にきました。ハルコさんの女らしさが出てていいですね。
続き楽しみです。
ちょっと見ない間に新作が大量投下されてますな‥‥。
>>カラーパレット
恵子は飄々と生きてるようで、本編第35話のように実は弱気な面もあるので
就職の時も結構悩んで、身近な春日部ねーさんと自分を比べて凹んでしまうんじゃないかなぁ
とか考えてたのでこの展開は非常にツボでした。
大野さんも就活無事に終わるといいですねぇ。
朽木くんは知らない。
次回も楽しみにしてます!
>>斑目晴信の憂鬱
アン&スーにやられっぱなしの斑目さん萌えです。
しかしアンと斑目さんはどういったドラマを経てああなったんでしょうねぇ‥‥。
そのへんも気が向いたら書いてもらえるとうれしいです。
>>愛のエプロン
さすが春日部さん‥。
漫画やコスプレを引き合いにだして二人を言い包めるあたりうますぎです。
そして正確なアドバイス。
大野さんと荻上さんの自然な会話もよかったけど姉御咲ちゃんはポイント高いです。
次回どんな料理がでてくるのか、期待と心配半々でお待ちしております。
>>アルエ第5話
わーい俺の目下の楽しみキター!
『みんなが頑張ってるんだから自分も』と思って頑張るあたりハルコさんは健気でいい女ですねぇ。。
ハルコさんを心配する荻上さんもまた優しくて。
個人的にこの二人がどうなっていくのかが気になってたまりませぬ。
あと、高坂♀は高坂♂よりも人間味(?)があって性別反転によって味が出たキャラな気がします。
次回も楽しみにしとります!
長文すいませんでした。
291の人の「斑目晴信の憂鬱」の感想読んで。自分もアンと斑目の昔のドラマが読んでみたいですw
健全スレの範囲内でかいてみちゃくれないかな?…まあ、もし気が向いたらおねがいします。
293 :
マロン名無しさん:2006/07/10(月) 00:56:26 ID:2qyccPsB
>>愛のエプロン
料理ものは好きですね。どんな料理を作るのか楽しみ。TVのあの人たちのような
料理にはならないでしょうから安心して見れます。
>>アルエ第5話
キタキタ!! ハルコさんはいいっすねー。原作に沿ってるから、パラレルが
楽しめるのですが、先の展開に大どんでん返しがありそうでハラハラします。
>>292 「斑目晴信の憂鬱」の中の人です。読みきりのつもりで書いて、成り行きで
続編になってしまう人なのであてにはなりません。でも言われて気になりだ
したので衝動で一気に書いてしまうかもしれません。マターリとかまえて
いただければ幸いです。
作詞・作曲・編曲:岸本和也
vocol:長谷部祐作、田村ゆかり、コゲどんぼ、後藤正文、藤巻亮太、斑目晴信
『マイペース魔王』
チンポを擦って携帯忘れた
エロゲーオタクの人生
ミルフィーユにも負けない
一つや二つはあるけど
悲しいかな人知れず
だけども妄想止まらない
そんなに現実生きてない
僕らは不屈のマイペース
今日の悲しみよ
過ぎ去っていけ
さらば悲しみよ
大気圏を越えろ
小さな声でどもれ
届けチンポで
先週半ばに自宅PCがその生涯を閉じまして、データは全部別にしてあるし慌てなくてもだいじょーぶ、なんて思って
たら休日にネットのチェックができないじゃないですかw ばっちりうろたえてるじゃん、俺も馬鹿だねどーも。
>>275 パーティいいっすよねー?もっともいまどきの女子大生がサークル仲間と彼氏見せっこパーティをやるかというと疑問。
咲姐さんの注意事項、解る人は解りますがオギー向けの後半はかなり大雑把です。俺も料理できないのであなたの
ポトフが大変なことにならないよう祈っております。
>>276 かの番組、最近はそれほどデンジャラスな料理は出てこないんだよね。素人参加番組だった頃からのファンとしては
なんか寂しいもんですな。
アドバイスもありがとうございます。行頭字下げの話ですよね?上記のような心乱される状況で、忘却しとりました。
作品全体を見ても、会話文が増えてるため地の文が詰まって見えますな。反省。後編に生かせるかな?
>>291 咲さんの交渉スキルは俺よりよほど上なので(汗)、言いくるめる雰囲気がなんとか出てれば万歳。サンクス。
あと大野荻上の女の子トークが読めるモンに仕上がっていたなら光栄でございます。咲さんはMCになって話を転が
してくれるからありがたいね。
>>293 料理ものは書いてて楽しいんだけど、ご案内のとおり料理を作らない身で書こうとするとけっこう大変。今はイメージ
検索という強い味方があるので、作中の笹原のように下調べしてたw
皆さんのお口に合うかどうかは、お出ししてのお楽しみ。
アルエは精読中。どっかで感想書きます〜。
296 :
マロン名無しさん:2006/07/10(月) 19:29:36 ID:vu7J4O+u
八巻の発売日を教えてください
感想ありがとうございます。
>>290 ここにきて漸くハルコさんのキャラが自分の中で固まってきました。
ですが、ちょっと可愛く書き過ぎかもしれないと心配しております。
>>291 次ぐらいで高坂の見せ場を作ってあげれらそうです。
彼女の活躍をとくとご覧あれ。
しかしアルエを読み返してみると、高坂が潜在的脅威であるハルコを
上手い事笹原とくっつけようとするような策士に思えてくる…
…うん、どうかんがえても深読みです。本当に(ry
299 :
sage:2006/07/11(火) 22:36:53 ID:4zXfVHkB
このへんで 人気投票じゃないけど・・・
お気に入りの作品紹介しない?
自分なりに4割くらいは読んだつもりではあるんだけど
まとめ見ただけでも予想以上にあって・・・
いや、全部みたいけど・・・
オススメあればそこから読み出す気力が沸くかなと。
とりあえず私のLOVEは「サマーエンド」
sageくらい覚えてから意見吐けよカスw
>>299 気にするな。でもちょっと吹いたW スマン。
それぞれが自分だけの最高を持ってるだろうから、オススメと
言われると難しいかもね。嗜好のジャンルも感性も一人一人違うのだから
あなたが面白いと思うものが一番面白いと思うよ。
sageはメール欄に入れるのです。自分も昔指摘されました。
下げろとだけかいてくるうるさい人がいるので下げたほうが無難でしょう。
ところで、オススメは全部です。どれも力入ってていいSSばかりなので読んでみて下さいw大変と思うけどw
最終巻が出る8月末までに、読んでみちゃどうかな?
未来予想図の感想ありがとうゴザイマス。
>>259 谷川史子はちょろーっと知ってます。本持ってないけど。あとはほのぼの漫画なら「動物のお医者さん」とかもオススメですよ。文庫版も出てる。
佐々木典子の漫画も男女問わず楽しめる漫画ですのでよければ。って、スレ違いですね(汗)
恵子は明るくてどこでもやってけそうだけど、やりたいことがなくてフワフワしてる感じがしたので、ねーさんに憧れて「目標」にしたらいいんじゃないかと思って書きました。
クッチーは…たまには苦労したほうがいいのですwいつも苦手な場面で逃げてしまってたからねえ…。
>>291 意外と悩み症ですよね。A型だからかな?と思ったり。
大野さんは真面目に就職活動しそうなので大丈夫でしょう。朽木君は……。
さて、続編書けたので投下します。15レスです。
304 :
背中1:2006/07/13(木) 00:17:40 ID:???
「背中」(未来予想図・7月)
***
7月の始め。荻上さんは悩んでいた。
ここのところ、ずっとスランプ気味だったのである。
(う〜〜………うまくシチュエーションが思いつけね………。
今までは勝手にイメージが向こうからやってきて、描く手が追いつかないほどだったのに………。)
今回、夏のコミフェスに当選して、ようやくハレガンで同人誌が出せる!と気合いが入っていたのに。
(どうすっかなー…。とりあえず今まで書き溜めてたイラストとかのシチュを使いまわしで、もっかいネームにおこして………。
いやいや、駄目だ。コミフェスで売る本だべ?やっぱ自分の力を存分に出しきらねーと!!
前回は50作って11しか…そのうち2冊はあげちゃったし。ってことは、売れたのは9冊。)
(…今回は50作って、目標30冊は売りたいなァ…。そのためにもやっぱ、中身のクオリティを上げねぇと………。)
…力みすぎてプレッシャーがかかっていたのだった。
(………考えすぎて頭痛い………ちょっと休憩するべか。
…はっ。もうこんな時間!?笹原さんがもうすぐ来るのに!!)
慌てて部屋を片付け始めた。
305 :
背中2:2006/07/13(木) 00:18:23 ID:???
笹「こんばんは、荻上さん」
荻「こんばんは。…どうぞ」
笹原が来たのは夜11時ごろだった。今日も大変だったらしい。
荻上さんが麦茶を入れてくると、笹原はスーツの上着を脱ぎかけたままで床に伸びていた。
荻「…今日も疲れてるみたいですね」
荻上さんがテーブルに麦茶を置くと、笹原はゆっくりと起き上がり、グラスを手に取った。顔がげっそりしている。
笹「ああ、まあねぇ………担当の漫画家さんがなかなかネームあげてくれなかったからね。
もう2回ネームの〆切延びてるのに………。」
荻「え、2回?そんなに〆切延ばせるんですか?」
笹「いや、もうそろそろ原稿に入らないとやばいんだけどね。さっきようやくOK出て、やっと帰ってこれたんだ。」
荻「へえ………。大変ですね」
笹「…担当してる先生、煮詰まってくると逆切れはじめるからねえ………。
『思いつかないものは仕方ないじゃん』とか、まあそんくらいならいいんだけど、昨日は『君達が見てると集中できない』とか言い出してさ。
でも見張ってないと逃げそうなんだもん。実際何度か逃げたことあるらしいし。
そのうち八つ当たりになってきてさ。」
荻「へ、へえ………」
笹「あんまり理不尽なことばっか言うから、ついこっちも腹立ってさ。
『漫画描きたくないんなら、漫画家にならなきゃいいじゃないですか!』って言っちゃったんだ………」
荻「………………………(汗)」
306 :
背中3:2006/07/13(木) 00:19:00 ID:???
笹「あとで小野寺さんに注意されたよ。『先生も言い過ぎだけど、言い過ぎ』って。でもねえ………」
荻「…笹原さんってけっこうキツいですよね」
笹「えー、そうなのかな?よく言われるけど…」
荻「ほら、現視研で夏コミに当選したことあったじゃないですか。それで、〆切前になっても漫画全然できてなくて。
そのとき久我山さんに、けっこうひどいこと言いましたよね。」
笹「でもあれは久我山さんが………」
荻「ええ、久我山さんが言い訳ばかりしてて、責任とろうとしなかったんですよね。久我山さんが悪いです。それはわかってます。
………でも、あれは言い過ぎだと思うんですよ。」
笹「え?」
笹原は荻上さんのほうを見た。荻上さんは目線を下に落として考えながら話している。
荻「『だから久我山さん、マンガ家になれないんですね。マンガ家になろうとしたこともないじゃないですか。
安いプライドを守りたいだけでしょ?』………って。」
笹「………………」
荻「その言葉はひどいと思いました。いくら描きたい気持ちはあっても、描けないことだってあるのに。
自信がなかったり、思ったように描けなかったり、納得いくものができなかったり………。すごく悩むんです。
それを『安いプライド』って言葉で切り捨てられるのは、聞いてて辛かったです。」
笹「…そっか………」
荻「もちろん、だからって責任回避していいわけじゃないです。笹原さんが怒るのも無理なかったです。
でも。私には久我山さんの気持ちもわかるから………。」
307 :
背中4:2006/07/13(木) 00:19:47 ID:???
言いながら、荻上さんは思っていた。
(………『描きたい気持ちはあっても、描けないことだってあるのに』って、それ今のわたすのことだァ………。
気持ちばっかり焦って、イライラして、どーしようもねぇ……………。)
笹「そうかあ………久我山さんにも、先生にも、悪いこと言っちゃったなあ………」
笹原はしょんぼりと肩を落とした。
荻「………………でもまあ、きつい言葉が必要なときもあるんですけどね。」
笹「そうなの?」
荻「あの時の久我山さんも、きっと一押し背中を押してもらいたかったんじゃないですかね?笹原さんに。」
笹「ええ?でもあの時久我山さん、喧嘩ごしだったじゃない。俺、『原口みたいだよね』って言われたし。」
荻「ああ…」
荻上さんは苦笑した。
荻「…まあ、なかなか素直にはなれないものなんですよ。
思ったように描けなくて、すでにプライドが傷ついてるときに、笹原さんにも指摘されて。
『何で描けないんだろう』って、自分でも思ってるのに、他人にも言われると腹が立つんですよ。
…もちろん、描くのを引き受けた以上は、そんな風に怒るのは理不尽なんですけどね………。」
笹「ふうん………。そうかあ…。俺、漫画ほとんど描いたことないからよくわかんなかったよ。
俺の担当の先生も、そんな気持ちだったのかなあ。」
荻「もしかしたら、ですけど、そうだったんじゃないですかねー………。」
308 :
背中5:2006/07/13(木) 00:20:25 ID:???
荻「…あ、でも、後で久我山さん喜んでましたよ」
荻上さんはあることを思い出した。
笹「ええっ?」
荻「ほら、笹原さんが、斑目さんと印刷所に入稿しに行った日。
あの日、笹原さんたちが出てから久我山さん、力尽きて寝ようとしてたんですけど、その前に私にこんな風に言ってたんです。
『笹原がサークル申し込みして、俺に漫画描いてくれって言ってきてくれたから、ようやく漫画描いて残すことができた。
本当はずっと描いてみたかったけどなかなか勇気が出せなかったから。
最後、学生時代にいい思い出ができて良かった。笹原には感謝しないとなあ………』って。」
笹「………………久我山さん、そんなこと言ってたんだ」
笹原は驚いた顔をしていた。
(久我山さんがそういうの、分かる気がする。わたすも………。)
現視研で初めてサークル参加して、あの経験のおかげで自分も同人誌を出してみたいと思ったのだ。
いや、本当はずっとやってみたかったけど勇気が出なかった。
………趣味を隠していたし、あの当時、自分の801妄想を描いた本を出して誰かに見せるなんて、考えられなかった。
………でも本当は誰かに見て欲しかった。自分の描いたものを読んで、面白いと言ってくれる人がいたらどんなにいいだろうって、心の奥ではずっと思っていたのだ。
…なかなか自分に素直にはなれなかったけど。
…あの、中学時代のこともあったし。
309 :
背中6:2006/07/13(木) 00:21:00 ID:???
笹「あ、そう言えば夏コミの原稿、進んでる?」
笹原に言われ、ぐっと言葉につまる荻上さん。
荻「いえ、まだ………」
笹「そっか。荻上さんいつも早いから、珍しいね」
荻「………………なんか、スランプになってるみたいです。うまく思いつかなくて………」
笹「うーーん。…そういえば、801ってどんなときに思いつくの?」
荻「ええ!?…そ、そーっスね。ハレガンとかだと、漫画読んでたりアニメ観たりしてるときに………。
あとは、急に思い出すんですよ。授業中とか、家までの帰り道とか、お風呂入ってリラックスしてるときとか。
『あのセリフ良かったなあー』とか、『あのシーンは使えるな』…って。
エドが、大佐と口論してるとことか。エドが大佐にどんだけつっかかっても、大佐は大人だから余裕なんですよね。
それでまァ、エドと大佐が口喧嘩してるうちにだんだんその………。
ええーと、ま、まあそんな感じです」
笹「ふーん、そうなんだ。」
荻「………………な、なんか恥ずかしいっすね、口で説明すると」
笹「あははは」
荻上さんは顔を赤くして下を向いてしまった。笹原はそれを見てつい笑ってしまう。
荻「わ、笑わねーで下さい!」
笹「いやいやゴメン、荻上さんが可愛いから」
荻「なっ………」
荻上さんは真っ赤になったが、ふと頭の中にイメージがよぎる。
310 :
背中7:2006/07/13(木) 00:21:35 ID:???
(………………自分の辛い気持ちを大佐に吐き出すエド。『悪い、弱音なんか吐くつもりなかったのに…』
辛そうな表情で大佐を上目づかいで見上げると、大佐は何故かいとおしそうな目でエドを見つめる。
『そんな風に弱音を私に吐くなんて珍しいじゃないか』『悪い、もう言わないからさ…』
『いや、もっと聞きたいものだな』『え?』『その間ずっと、普段は見られない君の憂い顔を見つめていられるからさ』
『た、大佐…?何言って…』『すまない。君が可愛いからいけないんだ』『なっ………』
そんであーなってこーなって………………………)
笹「………さん、荻上さん?」
荻上さんははっと我に返った。笹原が困ったような笑顔をこちらに向けている。
笹「またワープしてたね」
荻「いえその………………(汗)」
笹「どうですか先生?そのネタ、原稿になりそうですか?」
荻「え、ええ、まあ………………」
返事をしながら、
(うわーでもこのネタ絶対笹原さんには見せらんね、恥ずかしい!!)
…と思った荻上さんであった。
311 :
背中8:2006/07/13(木) 00:22:12 ID:???
お風呂で浴槽につかりながら、荻上さんは考えていた。
乗り物に乗っているときとか、寝る直前とか、お風呂に入ってるときなど、気持ちがリラックスしているときに漠然とイメージが沸いてくる。
そんなとき、好きなカップリング同士が話してる所を想像すると、勝手にキャラが動いて会話が進んでいくのだ。
色々シチュを想像している間にいつの間にか漫画のネタができてくる。
そうやって想像しているときが一番楽しいかも知れない。実際にネームに切ってみると、イマイチってことも多いのだが。
頭の中で、コミフェスに出す本のイメージがだんだん固まってきた。
風呂から上がると、笹原はくじアンの新刊を読んでいた。
笹原は先に風呂に入ったので、スーツからラフなTシャツ姿に変わっている。
頭にタオルを載せたまま、床にぺったり座って真剣に読みふけっている。
荻「………………………」
荻上さんは、とりあえずドライヤーで髪を乾かした。
(…この耳の横の髪がいつもハネちゃうんだぁ。真横にぴーんと。やだなぁ。髪下ろしてると目立つなァ…。
寝癖で後ろの髪の毛まで逆立ってるときがあるし。)
できるだけ下にまっすぐになるように念入りに乾かした。
髪を乾かし終えると、笹原のほうをちらっと見る。
笹原は真剣な顔で、ページを遡って読み返しているようだ。
312 :
背中9:2006/07/13(木) 00:22:45 ID:???
(………時間かかるんかなぁ。そういえば、今回の新刊、卒業した会長が出てくる話があったっけ?笹原さん会長好きだから………。)
(………………………。)
ふと思い立って笹原の背後のほうに寄っていき、後ろに座る。
(…何やってんだァ私)
(んでも、こっちに気づかんねぇかな………。)
笹原の背中を横目で見ながらしばらく待ってみるが、笹原はこっちを振り向かない。
(………………………………。)
一言声をかけてみればいいのだが、何となく声をかけづらい。
(………なんで声かけられねんだろ?)
心のどこかで、笹原さんのほうから気づいてこっちを振り向いてくれないかな、と考えているのだ。
(というか、何を期待してんだろ?私。い、いやそーでねぐて!)
一人で赤くなる。
313 :
背中10:2006/07/13(木) 00:23:17 ID:???
笹原の背中を眺めた。
(男の人の中では笹原さん、小さい方だけど、私よりずっと肩とかがっしりしてて…。骨格とかも…。)
後ろから抱き付いてみたい、と思ったが、数センチ先の背中になかなか手を伸ばせない。
(………何で素直になれないんだろ?)
さっきから自問自答ばかりしている。
(………………卒業式の日は、服に気合い入れて行ったどさくさで勇気出せたんだけどなァ…。でも大野先輩の罠にかかるところだったんだっけか。くそー大野先輩………)
思い出して腹が立ってきた。
(…って、そんなことはいいや、今は…。)
また背中のほうへ目を向ける。
(………………………………………。)
気づいてもらえないのが、だんだん寂しくなってきた。自分から手を伸ばせないことが、勇気を出せないことが切なかった。
何故だろう?好きなのに。付き合ってるのに。
何で素直になれないんだろう?と、もう一度考える。
………恥ずかしいから?
そうだ。自分から手を伸ばすのが恥ずかしい。そしていつも、照れ隠しのためにきつい口調になってしまう。
素直になれないのは、………自分に負けてるようで、なんだか悔しい。
314 :
背中11:2006/07/13(木) 00:23:51 ID:???
…でも。
(悔しいとか、恥ずかしいとかでねぐて…、ただ笹原さんが好きだから、でいいんじゃないだろうか?
それが素直な気持ちなんだから、素直に伝えたらいいんじゃないだろうか?)
急に胸がいっぱいになる。思わずそのまま手を伸ばしていた。
漫画に夢中になっていた笹原は、急に背中から抱きつかれてびっくりした。
笹「うわ、びっくりした!…荻上さん?」
荻「…笹原さん」
荻上さんは笹原の背中に顔を押し当て、しがみつくように笹原の胴に腕を回した。
小さい声で名前を呼んだ。
笹「ん?…どうしたの?」
優しい声で荻上さんに言葉を返す。その声を聴いて、荻上さんの強張っていた体から力が抜けた。
荻「…大好きです」
さっきよりも小さい声で、ようやく一言つぶやいた。
笹「………うん」
荻「………………………………。」
315 :
背中12:2006/07/13(木) 00:24:24 ID:???
(………言葉が続かない。どうしよう)
やっぱり恥ずかしくて、一人で内心焦っていると、笹原が話し始めた。
笹「…荻上さんから好きって言ってくれたのって、初めてじゃないかな?」
荻「………そうですか?」
笹「うん。」
荻上さんは抱きついたまま、笹原の背中ごしに上を見上げる。
後頭部しか見えないので表情は分からないが、耳が赤くなっているのがわかった。
それを見て、胸の奥に暖かいものが広がる。
荻「…そ、そうですか?前にも一回言ったじゃないすか」
笹「え?そうだっけ」
荻「そうですよ。もしかして忘れちゃったんですか?」
…本当はこれが初めてだと分かっているのだが、照れ隠しからか、ついこんなことを言ってしまう。
困らせてみたくなったのだ。
笹「ええーーー?えーと、いつだったっけ?」
笹原の焦る声が聞こえる。そうやって焦ってくれるのが嬉しかった。自分のことを本当に好きでいてくれてるんだな、とわかるから。
我ながらイジワルだなァとも思うけど。
316 :
背中13:2006/07/13(木) 00:25:03 ID:???
笹原が真剣に悩んでいるようなので、だんだん申し訳なくなってきた。
冗談ですよ、すみません、と荻上さんが言おうとしたとき、笹原が急に大きい声を出した。
笹「あ!もしかしてあの時かな?」
荻「へっ!?」
荻上さんはびっくりした。今回初めて言ったはずなのに、笹原は何を思い出したのだろう。
笹「えーと、ホラ、そのー…初めてしたとき………」
荻「ふぇッ!?」
(えっ!?そうだったっけか!?え?え?あの時!?でも記憶にないし…)
荻上さんが内心めちゃくちゃ慌てていると、笹原は聞いてきた。
笹「確かそうだったんじゃないかな?どうだっけ、荻上さん?」
荻「え、や、その…ち、違います!」
笹「あれ?でもあの時………」
荻「言ってません!絶、対、言ってません!」
笹「あれ〜〜〜?」
荻「も、もういいです、その話は………」
笹「じゃあ正解教えてよ」
荻「教えません!」
笹「ええ〜〜〜?気になるなあ」
荻「きっ、気にしないで下さい!!」
317 :
背中14:2006/07/13(木) 00:25:35 ID:???
笹「あ、じゃあさ」
荻「…何ですか?」
笹原は自分の胴から荻上さんの手をゆっくりとどかし、荻上さんのほうに向き直った。
笹「答えの代わりに………もう一回、言ってくれないかな?」
荻「………………何をですか」
笹「や、だからそのー…大好き、って」
荻「もう言いません!」
笹「頼むよー」
荻「言いません!」
笹原は困ったような笑顔で荻上さんの顔を見る。
荻上さんは赤くなってうつむいてしまう。
笹「…荻上さん」
笹原が荻上さんの肩に手を置く。
顔がすごく近くにあるのを視界の隅にとらえながら、荻上さんはうつむいたままで言った。
荻「ま、また今度!…き、………気が向いたら………?」
笹「はい」
荻上さんがふと顔を上げると、嬉しそうな笹原の顔があった。
その顔がだんだんと近づいてゆく。
………その後、恋人同士がすることは一つでしたとさ。
END 続く。
318 :
背中15:2006/07/13(木) 00:26:26 ID:???
おまけ4コマ的な。
【そっち方面でも強気攻め】
小「笹原君って意外とキツイな。顔に似合わず」
笹「はは…。昔サークルの先輩にも言われました。やっぱ直したほうがいいですかねぇ…」
小「いや…そういうのもアリなんじゃない?面接で言ってたことと逆だけどね」
笹「え…そうでしたっけ?」
小「『作家のやる気を無くさせること』が一番してはいけないこと、って言ってただろ?」
笹「そうでしたかねぇ。でも、自分が言いたいと思ったことを言わないのは、自分を否定することになりますからね…。」
小「ほーー。」
笹「だから原稿をもらいに行くときは、強気でいかせていただきます!!」
小「あ、そう。まあ頑張れ」
319 :
あとがき:2006/07/13(木) 00:27:06 ID:???
久々に笹荻書きました。この二人はずっとラブラブだったらいいなあと思いながら。
次回はコミフェス話。コミフェスといえば現れるあの二人…。
9スレ目立って以来あまり来てなかったけど、久々に来てみたらメチャ増えてるな。
前スレで長いの1本書いて以来書いてなかったが、秀作の数々読んだらまた書きたくなった。
俺もまた書いてみるかな、荻会長編とか。
321 :
愛エプの人:2006/07/15(土) 10:31:11 ID:???
後編投下しに来ましたよ。1週間コネてたら文章増えちゃったw
>>アルエ
うわ、漫研女子出たよ。女の嫉妬は恐ろしい。こんな事言ってる連中取り扱わなきゃならないヤナに同情しますわ。
ハルコさんの対応は大人だね……と言いたいところだが、むしろ心が痛む。こっちの斑目さんくらいは幸せになって
ほしい。
>>303 動物のお医者さんはコンプ。絵面に癖があったがはまったら抜けられなくなったw 谷川史子は20世紀中に出版され
てる分なら間違いない。ファンサイトとか読むと少し試行錯誤中のご様子ですな。とスレ違いにもめげず続けてみる。
>>背中
笹荻話ありがとー。いいですね、創作者の悩み。作品を生み出すことと心をさらけ出すことはどこか通じる気がする。
笹原は荻上さんに、その両方ともを導くことができる。ああうらやましいこと。
予告の2人も大期待。秋以降に向けて大きな役割を持ったキャラだしね。
あなたにとっての最終回がどこらへんかはまだ判らないが、いち読者としてはどんどん続けてほしいね。楽しみに
して待ってます。
ではまいりますよ。
『愛のエプロン:後編』全18レス。よろしく。
****
時は疾風のごとく過ぎ行き、パーティ当日はやってきた。
斑目は笹原と並んで、加奈子の家へ向かって歩いているところだった。二人の両手には酒販店の大袋。
「そうですか、久我山さん残念ですね」
「しょうがねえよ、大口先の接待だってんだから」
「でもアレっすね、久我山さん新人なのにそんな席呼ばれるなんて……実は腕利きスか」
「先々月だか月間表彰受けたって言ってたぞ、何人ライバルがいるのか知らんがな」
「へえ」
女性陣3人は加奈子の部屋で、今頃奮闘中だろう。田中総市郎は例によって大量の衣装を持って先乗りしており、
斑目と笹原が酒類の買出し部隊に任命されたのだった。久我山光紀は会社の用事、朽木学は別の飲み会がバッテ
ィングしたため不参加。笹原の妹・恵子には、笹原の強い希望で連絡していなかった。
「……高坂君は?仕事大丈夫だったの?」
「あ、いや、俺も聞いてないんですよ。春日部さん自分で連絡取ってるし、来られるなら来るでしょ」
「ふーん」
ドア開けたらいきなり高坂君がいたりしてな。斑目が数分後の未来に苦笑しているうちに、彼らは本日のパーティ
会場に到着していた。
笹原がチャイムを鳴らし、ドアの前で待つ。部屋の中、奥のほうからパタパタと足音が聞こえ……ドアが開くと満面
の笑みの加奈子がいた。外国の農場の娘のような格好をしている。
「Happy Halloween!」
ネイティブのイントネーションで日本風の挨拶をされ、迎え入れられる。
「あ、あー、ハッピーハロウィーン」
「はいはいこんばんわ……いいにおいだねー」
斑目が鼻をひくつかせる。部屋の中には、絵に描いたようなご馳走のにおいが漂っている。
「大野さん、これ期待できるんじゃない?」
「えっへへー、みんなすごいんですよお。早く早く」
廊下を通り、ダイニングに足を踏み入れる。家中のテーブルを継ぎ合わせた上に、色とりどりの晩餐の準備。さすが
に7人が入るには少々きつい感じだが、紙皿やフォークなども充分に用意されている。
「……うわ……」
「すげえ」
二人は息を呑む。
「おー、来たな」
部屋の向こう端ではカメラを構える田中。どうやらこの宴会の全てをフィルムにおさめようという魂胆らしい。
「よう田中……なんだ?お前のカッコ」
「判らんのか?マシュウおじさんだよ」
「あ、大野さん赤毛のアンだ」
「……こーいうときもギルバートじゃねえのか」
「そうさのう。アンのことはわしがよう解っとる」
名作アニメから抜け出たような二人に微笑み、笹原は千佳の姿を探す。彼女はテーブルの向こう、キッチンの中で
咲と一緒に作業中だった。
「荻上さーん、首尾はどう?」
「わ、さっ笹原さん、ちょっと待ってください、このお鍋重くて」
「だーから慌てんなって。よー斑目と笹原、買い出しご苦労さん」
千佳は赤ずきんの衣装を着せられているようだ。アクション用アレンジなのか、軽くシンプルなパーツの組み合わせ
で動きやすそうだ。フードは後ろに跳ね上げている。咲の姿は……普段着の上に割烹着だ。
「こんばんわー。春日部さんは……フネさんかい?」
「コスプレなんかしてねーよ、こりゃ自前だ自前!ほら荻上、笹原に可愛いところ見せてやれ」
「いーんですよそんなのあとでっ!」
「そー言うなって」
咲に肩をつかまれ、テーブルを回って笹原のそばまでつれてこられる。
「こんばんわ、荻上さん」
「……っこ、こんばんわ……っ」
真っ赤になって下を向き、赤いエプロンドレスの端をいじっている。
「はじめは不思議の国のアリスで行こうとしたんだけどさ、なんか髪おろしたくないって言うんでコレ。赤ずきんじゃな
いんだよね、なんつったっけ大野?」
「ベレッタです、ドラキュリーナハンターの。可憐な姿とは裏腹にスカートの下に狩人を飼うという、ある意味非常に荻
上さんらしいコスと言えましょう」
「なにワケの解んないこと言ってんすか」
「んー、でも似合ってるかも」
「笹原さんまで!」
「あはは、ごめんごめん」
ひょいと手を伸ばし、背中のフードを千佳の頭に被せる。
「このカッコが似合ってるって意味。俺はどうすんの?オオカミのコス?」
二人の世界に入り込みそうな笹原たちを、咲がからかう。
「こらこら笹原、赤ずきん食うのは二人っきりになってからにしろ。あたしなんか寂しくカレシ待ってるっつうのに」
「……あの、待つべき連れ合いすらいないこの哀れな男は、ここでハンカチのはしっこでも噛み締めてればいいの
ですかね?」
咲の後ろでは、斑目がさらに複雑な表情をしていた。咲が冷や汗をたらしながらフォローする。
「ああもう。わかったよ斑目、あたしらは飲もう」
「……ありがたきお言葉」
「大野ぉ、その火はもう止めちゃって大丈夫だから。あとオーブンだけだろ?とりあえず乾杯しようよ」
「あっはい」
「ああ、お前らはこっちだ。ちゃんとコスチューム用意してるよ」
袋から酒を出し始めた斑目たちに、田中が声をかけた。
「うわマジっすか田中さん、俺冗談で言ったのに」
「え、なに俺もやんの?」
酒瓶とコップをテーブルに並べながら、咲は加奈子にささやく。
「大野、あの二人用の衣装って何?」
「聞いてませんよ。笹原さんは荻上さんのペアでしょうけど……斑目さん、なんなんでしょうね」
数分後、乾杯の準備の整った部屋に最初に現れたのは笹原だった。本人の予想通りオオカミの着ぐるみで現れた
彼は満場の笑い声で迎えられた。
「あははは、いーじゃんか笹原。ホラどこ行くんだよ、荻上の隣に決まってんだろ」
咲に促され、真っ赤な顔をして座る。
「……ホントにオオカミだとは……」
「……あ、でも……似合ってマス」
「そりゃどーも。ガオガオ」
「はは」
笹原が出た後いったん閉まったドアの向こうから声が聞こえた。
「マダラメ行きマース!」
「お、できたのか。どんなカッコ……」
ばん。
ドアが勢いよく開いて出てきた彼は、和服を着ていた。着流しの足元からは股引の裾が見える。いくぶん緩んだ胸
元からもラクダのシャツが。そして鼻の下には海苔を切って貼ったようなちょび髭、眼鏡の上は、頭頂部に1本だけ毛
の立った禿げヅラ。眼鏡は自前だが、かえってリアリティがある。
「ま……斑目さん?」
「ナミヘー……なのか?」
「うわ……本物みてぇだぁ」
あまりのハマりっぷりに、女性陣は目を丸くする。一瞬、静寂が流れる。
「ありゃ、失敗だったかな?春日部さんの割烹着見て即興でアレンジしたんだけど」
妙に静かなギャラリーに、後ろから田中も顔を出す。斑目は振り向いて苦笑した。
「あーあ、お前のアイデアに乗った俺が馬鹿だったよ。大体お前らのカッコならまだしも、ハロウィンに和服なんざもう
雰囲気ブチ壊しもいいとこ……」
「あのー、斑目さん?」
照れ交じりで田中をコキ降ろそうと舌なめずりする斑目に、笹原が声をかけた。
「ん?」
「……失敗どころか……」
笹原の笑顔が、なぜか時々苦痛にゆがむ。どうしたのかと見てみると、腕だ。着ぐるみの左腕を、笑いをこらえる
千佳に、おそらくは肉ごと握りしめられているのだ。
下を向いている千佳の顔は、フードと同じくらい赤い。横を向いて視線をそらす加奈子も、努力しているのか動け
ないのか口の端をヒクつかせながらこちらを見据えている咲も、触れなば落ちんといった様相だった。
あ。キッカケね。合点がいった斑目は息を吸い込むと、一世一代のダミ声を張り上げた。
「『なぁんじゃ、サザエもワカメもだらしないのう。母さんメシだ、メシにするぞ!』」
……どっ。
屋根をも吹き飛ばす勢いの笑い声で、パーティは始まった。
****
「さあーて、ここからはあんたたちの根性の見せ所だよ。そうは言っても全然問題なかったけどね」
乾杯が終わっても割烹着を着たままの咲が最初に口を開いた。パーティのルールを説明すると言う。
「誰がどの料理を作ったのかはしばらく秘密。あとでそれぞれ解き明かしなさいね。それからコレは別に今日に限った
ことじゃないけど、料理にケチつけるのも禁止だから。そしてもうひとつ、出てきたもんは全部食うこと。お百姓さんや
漁師さんに感謝!」
「はいはいっと」
緊張しながら咲の言葉を聞いている加奈子や千佳の負担を減らそうと、斑目はことさらのんきな声で返事した。
「ところで春日部さんさあ……」
「ぷーっ!急にコッチ向くなってば!」
顔を向けるなり吹き出される。実はさっきからこの調子で、ひとしきり笑い終えたメンバーの中で咲だけがいつまで
も禿げヅラの斑目にハマり込んでいた。
「会話にならんだろが、これじゃ」
「だってさ、あははは、ごめんコッチ見ないでお願い」
「……なあ、料理の材料におかしなキノコ入ってなかったか?ピンクの水玉模様とか」
咲に話しかけるのはあきらめ、向かいの席で笹原に料理を取り分けている千佳に言う。
「入れてませんよ、そんなの。斑目先輩、なにか言おうとしてたんじゃ?」
「あー、うん」
まだひいひい言っている咲を横目に、声を潜める。
「春日部さんてさ、おばあちゃん子っていうこと言い訳にしてるだけで、実はもともとこーいうキャラなんじゃないかと」
「あ、俺も思ってました」
千佳の隣から笹原も顔を突っ込む。
「アネゴキャラなのはカモフラージュで、実は性格年齢がもっとずっと上……」
加奈子と田中も会話に入り込んでくる。
「普段着になったらコスプレさせられるからって言ってますけど、あの割烹着脱がないのも気になりますよね」
「21世紀にあのカッコしてるってだけで、充分コスプレだよな」
「お前ら……ひ、人が動けないのをいいことに好き勝手言ってんな?」
咲が苦しい息の下で怒ろうとするが、すぐ横の禿げ頭に射すくめられる。
「っぶははは」
「……なあ田中、このヅラだけ取るぞ?人とコミュニケーションが成立しないのはツラすぎる」
「あいよ。とりあえずあと1枚だけ写真撮っとくな」
パシャ。照れ笑いの斑目の隣で、口を押さえて笑う咲の姿が切り取られた。
「春日部さん、これで落ち着いた?」
かつらをとり、咲に聞く。相手もようやく喋れるようになったようだ。
「斑目ぇ、あんたって得だね。前に眼鏡変えたときもそうだったけど、こんなにヒト笑わせられる奴ってそうそういな
いよ?」
「『笑わせてる』というより『笑われてる』んじゃないかって思えるんですがね、俺には」
「あれ、ひょっとして傷ついてる?ごめんねー」
「う、あ、いや」
咲に顔を覗きこまれ、視線をそらす。
「まあ、人の笑う顔見れるんだから、いいやな」
そうだ。手段はどうあれ、俺の行動でこの人が笑ってくれる。いいじゃないか。
「ところで、そろそろ俺もなんか食っていいスかね?」
「え、まだ食べてなかったの?」
「俺だけじゃねーよ。誰かが笑いすぎでそれどころじゃなかったからねえ」
「うあー、いよいよゴメンなー。よし、あんたにはあたしが取ってやる」
手元の紙皿に、山と盛られた料理を取り分けてゆく。具たっぷりのメキシカンピラフ、スパイシーな衣のついたチキ
ンディアブル、野菜の詰まったミートローフ。斑目に皿を渡すと、次の皿を手に取る。オードブルの大皿からもひとつ
づつ、フィンガーフードを乗せてゆく。
「おいおい、そんなに乗っけて」
「いーんだよ、コーサカが来たって総勢7人でコレぜんぶ食うんだよ?うち3人は女だよ?言ったろ、根性見せろって」
「うわお、天国か地獄か」
ミートローフを割り箸で持ち上げ、口に放り込む。肉の味付け以外にも、淡い味のドレッシングをかけてある。料理
に詳しいわけではないが、キッチンにそれらしい瓶もなかった。手作りのソースなのだろうか。
「お……うめえ」
「マジ?」
にやり、と咲が笑う。
少し安心して、他の料理にも手を出してみる。どれもいける。悪くない……いや、それどころか上出来ではないか。
「おー?なんだなんだ、すげえ美味しいじゃない。ホントに春日部さんたちが作ったの?これ」
声を張り上げ、皿の料理をかきこむ斑目に続いたのは笹原だ。千佳から手渡された皿の、まずチキンにかぶりつい
た。隣で田中が一口目に選んだのは秋野菜のビーフシチューだった。千佳が、加奈子が固唾を飲んで見守っている。
「!」
「おー」
笹原と田中が一瞬目を合わせ、そしてそれぞれ振り返って自分の恋人に笑いかける。
「荻上さん、これウマイよ」
「え、え、ホントですか?」
「大野さんじゃない?このシチュー。おいしく作れたね」
「あああ田中さあん〜!」
「ありゃー。愛の力かねえ」
2組のカップルを眺めながら、半笑いの咲がため息をつく。斑目はふと気づいた。
「笹原がいま食ったチキン、荻上さんが作ったヤツって事?」
「そー。田中んトコは付き合い長いし、今日もキッチン行ったり来たりしてたから見てたのかも知れないけど、笹原ぁ、
お前なんでソレから行ったの?」
「え?……いや、……なんとなくだけど」
「かーっ、妬けるねえ」
「まーまー、まあ一杯」
斑目は空になっていた咲のグラスにスパークリングワインを注ぐ。咲はすぐに口をつけ、ひとあおりで半分ほども飲
み干した。ワインを注ぎ足しながら、さらに咲に話しかける。
「でもさ、春日部さん」
「ん?」
「さっきのミートローフ、作ったの春日部さんでしょ?」
「おー!判ってくれたの?あははは、ありがとー。……あ、でも斑目がうまいって言ったとき反応しちゃったしな」
「まーね。でもまだいくつか判るよ、まだ食ってないけどカボチャのプリンもきっとそうだろ?あとは……たぶんさっき食
ったアジアンピクルスって奴」
「え……」
「わあ、斑目さんすごおい!当たりです」
話を聞いていた加奈子が感心する。咲も興味深々で顔を近づける。
「すげーな、なんで判ったの?」
「そんなもん」
顔が赤くなったのを気づかれそうで、慌ててさっきの禿げヅラをかぶって声色を使う。
「『わしらもう何十年も連れ添ってるじゃないか、なあ母さん』」
「あははは、出た〜」
「いや、いやね、なんか全体的に料理見てたら、作りなれてる人じゃないとできなさそうな奴がいくつか入ってるじゃ
んか。プリンとか失敗しやすいって聞くし、あのピクルスのソース?漬けダレ?も、なんか手間かかってそうだったし、
日数も必要なんでしょ?だから、実は料理得意とおっしゃる春日部さんの作ではないかと」
かつらを取りながら説明する。斑目にしてみれば、この家に入った時からフル回転で考えていた推理だ。
「すごいね斑目、感心したー。それに、なんか嬉しいかも。まー飲みなよアンタも」
「光栄にございます」
「まだあんだけどね、あたしの作った奴。ねえねえ、判る?」
ビールを注ぎながらにじり寄る咲の体温を感じながら彼は、話を後輩に振ることにした。
「いやいや、俺が全部解き明かしたら田中と笹原がつまらんだろがよ。なあ笹原?」
「うえっ?」
突然の指名にびっくりした顔で答える笹原を、千佳は期待のこもった目つきで見つめている。
「おっいいね、ササヤンの名推理も聞けるか?」
「あ〜、あ、その……」
おどおどとテーブルの料理を探る。オードブルのチコリボートに目が行った。その名のとおり、小舟のような形をして
いるチコリの葉にフィリングを乗せたカナッペだ。一番手前のものの具はイクラだった。
「……この、荻上さんの髪型みたいな形のサラダ?」
「確かに私の担当ですけど、なんかヤです、その当て方」
宴は進む。目を見張るほど用意された料理も、それに負けないくらいの量の酒もやがてなくなり、二次会がてらの
後片付けの喧騒を経て、現視研始まって以来の大パーティは幕を閉じた。
****
参加者を送り出した後の、まだ熱気の残る部屋に帰ってきたのは主の加奈子と、田中だった。
「いやー、楽しかったね」
「はい。田中さんカメラマンばっかりで、ちゃんと食べられましたか?」
「俺が食べ物を見逃すはずないでしょ」
家具を移動させてパーティスペースを捻出したため、片付けが終わると部屋はかえって寂しいくらいだ。田中はテー
ブルを回ってキッチンへ行き、冷蔵庫から残りの缶ビールを取り出す。
「まだ飲むんですかぁ?」
「大野さんも飲まない?」
「あ……はい、じゃ、ちょっとだけ」
「カシスオレンジでよかったっけ?」
「ありがとうございます。あ、でも薄めにお願いしますね」
グラスと缶を両手に持ち、加奈子を誘って壁際のソファに並んで座る。グラスを加奈子に渡し、縁と縁を軽く当てる。
「あらためて乾杯。今日はお疲れ様」
「乾杯」
二人で、何を話すでもなく部屋を見まわす。すぐそばに感じる互いの空気だけで、もうほかには何もいらないと思う。
少しの間のあと、田中が口を開いた。
「春日部さんに軽くツッコミ入れられちゃったよ、男の料理は趣味の範囲でいいんだって。俺、ひょっとして余計なこと
しちゃってたかな?」
「あ……咲さんたら。ごめんなさい、わたしがもっとお料理頑張ればよかったのに」
「俺こそごめんね。……大野さんさ、俺にメシ作ってくれる時、あとからけっこう長いこと言い訳してるんだけど、自分
で気づいてた?」
「言い訳?」
「この肉ちょっと焼きすぎたとか、もう少し早く完成するはずだったとか、しかもその度にあやまるんだよ。俺はおいし
いって思ってるのに、それを延々あやまる大野さんを見てるのが、ちょっと辛くて。俺もさ、ちょうど自炊とか試し始め
た頃だったし、そんなら大野さんに楽しくメシ食ってもらいたいって思って、料理の担当とっちゃったんだよね」
加奈子は聞きながら、自分が田中に料理を作り始めた頃のことを思い出してみた。食卓で待つ彼の期待や過去の
プレッシャーと戦いながら作る料理は必ずしも楽しいばかりではなく、食事を始めてからもいろいろと出来栄えを糊塗
するような行動を取ってしまっていた。食べる側にとっても、それは気分のいいものではなかったろう。大切な人の、
それでも『おいしい』と言ってくれた笑顔を思い出すと、不意に涙がこぼれた。
「あ、うわ、大野さん?ごめんね、責めてるじゃないんだよ」
「……んっ、あ、だいじょぶ、です。ごめんなさい、あはは、泣くつもりじゃなかったんですけどねえ」
慌てて涙をぬぐい、田中に笑顔を見せる。
「田中さん、言ってくださってありがとうございます。そういえばわたし、ごはんの時言い訳だらけでしたね」
「平気?」
「わたしね、今日みんなでお料理してて、とっても楽しかったんです。咲さんもいっぱいアドバイスくれたし、荻上さん
とわたしで足りない所フォローし合うと、あんなおいしいお料理ができるんですよ」
「写真撮ってて判ったよ。楽しいオーラが溢れてた」
「今日のパーティでお料理の楽しさがちょっと解ってきた気がします。田中さん、期待しててくださいね、わたしこれか
らたっくさんお料理作りますから」
「そいつは楽しみだね」
「あ……でも、ときどき失敗しても怒らないでくださいね?」
「ん?『ときどき』でいいの?」
「あー、ひどーい」
「うそうそ。大野さんのメシなら俺、いくらでも食えるから」
「ありがとうございます。ふふ」
ソファの背にもたれかかり、加奈子は頭を田中の肩に乗せた。
「田中さん、大好きです」
「俺もだよ、大野さん」
がらんとした部屋が、暖かいもので満たされてゆく。秋の夜が、ほんの少し気温を上げた。
****
同じ頃、笹原と千佳は二人で千佳の部屋への道を歩いていた。斑目たちとは途中で別れている。千佳を送ると言
った笹原に別れ際、咲は意味ありげな笑顔でオオカミのジェスチャーをしてみせた。
「いやー、飲んだねー」
「大丈夫ですか?笹原さん」
「へーきへーき。荻上さんこそけっこう飲んでなかった?」
「あ、大丈夫だと思います。でもほんとは乾杯だけでやめるつもりだったんですけど、飲み始めたら止まらなくなっち
ゃいました。はは」
「後半自分で作ってたもんねー?みんなの作るついでに」
「えっ、見てたんですか?うわ、やっべー」
笹原は歩きながらのびをした。ほてった顔に夜風が心地よい。
「……今日のパーティ、楽しかったよ。荻上さんたちが頑張ってくれたからだね。ありがとう」
「い、いえっ、そんな」
「料理だっておいしかった。今までも何回かご馳走になったけど、今日のはダントツじゃない?」
「あー、春日部先輩にいっぱい手伝ってもらいましたし」
「作ったのは荻上さんでしょ。あの鶏の焼いたの、旨かったなあ。ごちそうさまでした」
「……ありがとうございます。……ふ、ふふっ」
「あれ、どうしたの?」
礼を言う笹原を見ていて、千佳は笑いをこらえきれなくなっていた。
「なんでもないです。私、やっぱりちょっと酔っ払っちゃったみたいです」
調理の途中で咲が耳打ちしてきた言葉を思い出す。
『荻上、おまじない教えてやる。オーブンに入れたら扉閉める前に、美味しくなれ、って話し掛けんの。で、言葉が逃げ
出さないうちに扉を閉めて、スイッチオンな。笹原にはナイショだよ』
『え……って、このお肉にですか?』
『それあいつが食べたらトリコになるよー?あたしもコーサカにやってるから効果は証明済み』
さっきまで理論立てのしっかりした調理手順を説明していた人物が口にする『おまじない』という言葉に半信半疑な
がらも、千佳は言われたとおりにやってみた。オーブンの前で千佳は笹原の笑顔を思い描きながら小声で「おいしく
なれ」とつぶやき、慌てて扉を閉じたのだ。
果たして笹原は宴席の一口目に彼女の料理を選び、パーティが終わった今もその味を反芻している様子だ。『おま
じない』の効果は確かにてきめんだった。
「(春日部先輩ってホントは魔法使いなんじゃねえか)」
そう思ったら、笑いが止まらなくなったのだ。声を殺して笑いながら、笑顔と心配顔が半々の笹原に小走りで追いつ
く。少しためらい、思い切って彼の右の手の平を握りしめる。笹原も一瞬驚いたようだったが、すぐに笑顔で千佳の手
を握り返した。
「笹原さん、私、またあのお料理作ってもいいですか?」
「うん、是非お願い。うわ、なんかすげー嬉しい」
「あの、……他のお料理もいろいろ試してみたい、ん、ですけど」
「もちろんだよ。俺好き嫌いないからさ、なんでも来いだよ」
「ありがとうございます。あの、ちゃんと食べれるもの作りますんで」
「あはは、マジ楽しみ」
笹原もちょうど、咲の言葉を思い出していた。
『笹原、特別に教えてやるよ。コレぜったい秘密な』
『えっ?』
料理中の千佳が一瞬だけ場をはずした時だ。すばやく近づいてきた咲が彼に伝えた一言。
『チキン、全部お前が食ってやれ』
次の瞬間にはもう加奈子の調理指導に戻っていた彼女に聞き返すチャンスはなかったが、それが何を意味するか
は充分に伝わった。千佳が味付けで失敗でもしたのかと思ったが、それも杞憂に終わった。『なぜチキンから食べた
か』と、当の咲から問われた時は少し慌ててしまったものの、どうにか隠しとおせたろう。
「まかせてまかせて。俺の胃袋頑丈だから。ナニ食ったって平気だよ」
「あ、その言い方はひどいです」
笹原の言葉に、不意に千佳が手を振りほどく。
「えっいや、そーいうわけではっ。待ってよ荻上さん」
笹原は笑いながら、急いでその手に追いすがった。逃げられないように、指を絡める。
「じゃ、じゃあさ、さっそくリクエスト第一号、いい?」
「フォアグラのソテーでもお出ししましょうか?」
「そんなんじゃなくてさ、スクランブルエッグとトーストとコーヒー、作ってよ」
「はぁ?」
意外な注文内容に、千佳の声が大きくなる。
「何ですかそれ!そんなまるで朝ごはんみたい……な……って、え?」
朝ごはん?びっくりして笹原の顔を見ると、彼も真っ赤な顔で笑っている。
「うん……明日の朝メシ。できれば、一緒に、さ。そういうの、どうかな?」
夜風がまた、少し暖かくなった。
****
斑目は、咲と夜道をぶらぶらと歩いていた。それぞれ、翌日の朝食用と、彼氏に食べさせるために持ち帰ったタッパ
ウェアをコンビニ袋に入れて持っている。
今夜は10月にしては妙に暖かい。もっとも酒のせいかもしれないし、隣に咲がいるせいかもしれないが。
「斑目ー、なんかゴメンね。あたしの思いつきでパーティやって、あんたホントは迷惑だったんじゃない?」
咲が申し訳なさそうに笑う。
「なーに謝ってんの、春日部さん」
にやりと笑って言い返す。
「メーワクかけられるのは今日に始まったことじゃねーし。それに、どっちかってーと今日は楽しかったよ。旨いメシと
酒にありつけたし、 春日部さんの真のキャラが垣間見えたし」
「ソレ言いふらしたらタダじゃおかないかんね」
「はは……春日部さんこそ」
言おうか言うまいかと思っていたが、言うことにした。
「高坂君来れなくて残念だったね。結局田中と笹原たちにアテられっぱなしで」
「ん……仕事だししょうがないよ、アイツあーいう奴だし。今夜に限って言えば、あんたが張り切ってくれたから、あたし
も大いに楽しかった。あとでアイツに話してやろって思ってる」
「これからどうすんの?帰る?」
高坂の部屋はこのあたりから歩いて5分。斑目の部屋はそのさらに先だ。咲の家は二つ隣の駅で、次の四つ角を左
に折れて、駅からモノレールに乗ることになる。
「うーん、コーサカんち行こうかな、電車乗んのめんどいし」
「ひゃー、カワイイねえ春日部さん、待つ女っすか」
「ね、あたしってケナゲでしょー?あいつも多分ハラ減ってっから……あ、ちょっとゴメン」
会話を断ち切ったのは携帯電話の着信音。斑目も聞きなれているメロディ。高坂からの電話だ。
「もしもしコーサカ?どしたの、仕事終わった?……うん、うんそう、いま終わって帰るとこ。……え、あたしんち?うん
いーよ、これから帰るから」
高坂はどうやら、ようやく仕事が終わって咲の家に行こうとしているようだ。都心の仕事場からなら2駅分、咲と早く会
えるというわけだ。電話はほどなく終わった。
「高坂君?」
「うん、あたしんち来るんだって」
「ほほう、いいタイミングだな、ほらそこ駅だし」
「コーサカってこういう勘すごいよね。あいつんち行ってたらロスってた。それじゃまたね、斑目」
「お、おう。高坂君によろしく」
「真っ先にあんたのナミヘーのこと話しとくよ」
「ソレはやめてくれ。じゃあな」
交差点で立ち止まり、咲を見送る。目の前が駅では、送ろうとする隙もない。確かに高坂のタイミングは絶妙だ。
改札直前で立ち止まってこちらを向き、咲が手を振る。右手を上げて応え、彼女の姿が見えなくなってから、改めて
自分の家へ向かって歩き出す。
途端に夜風が冷たく感じた。少々限界を超えて飲んだ酒も、急に醒めてくる。
「はー。ナニしてんのかなー、俺」
今の状況の、別の選択肢を想像してみる。
『春日部さん、高坂なんかほっといて俺の家に来ないか?』
『あら素敵ね、晴信さん』
アホか。
惚れた女がパーティを企画した。俺はそれに参加し、彼女の料理を味わい、必要以上に道化を演じ、恋人が来ない
彼女の気休めになった。そして今、彼女は待ち人ととうとう会えるという。上出来じゃないか。
「春日部さーん。コレが俺の茨の道ですよー。俺もけっこうケナゲですよー」
あらかじめあたりを見回し、誰もいないのを確認してから、低い声で一人ごちる。その先は声に出さずに続けた。
「(あんたはカレシのほう向いててくれよな。こっちなんか見られたら、カッコわりいから)」
そのとき、携帯電話が震えた。
「ん?なんだ、メール?」
メールは咲からだった。件名は『おつかれ』。本文を見ると『今日はごくろーさん。アンタが写ってたんで、おすそわ
け』という文章と、添付画像があることを示す文字列。
「写ってたって……写真か」
データが受信される。そういえば、田中のシャッター音に混じって春日部さんたちの携帯電話も活躍していたっけ。
表示された画像は、乾杯の時のものだった。破顔してグラスをあおる咲の手前で、禿げ頭の自分が半分フレーム
からはみ出ながら照れ笑いをしている。そうだった、笑いすぎで足元がふらつく彼女が、俺の首根っこを支えにして
いたんだ。あの状態で左手で撮った写真がこれか。大したカメラマンだ。
「へ、へへ」
顔がにやける。画像を保存し、携帯をしまう。思い直してもう一度画像を見る。
「だからー。コッチ見んなってのに」
携帯をポケットに突っ込み、夜空を仰ぐ。また暖かくなってきた風が顔をなで、ぼんやりと光る星がゆらめいた。
秋の夜がみんなを包み込んでいるのを感じる。さっきの部屋で寄り添う田中と加奈子。夜道を仲良く歩く笹原と千佳。
帰途を急ぐ咲と、反対方向から同じ場所を目指している高坂。
ふと思った。彼女は、今日という日を丸ごと料理したのではないか。2組のカップルのためにそれぞれの味わいの愛
を、高坂君には大いに笑える土産話を、そして俺にも淡い希望を隠し味に、目に見えぬ大鍋をじっくりとあたためてく
れたのではないか。
「おすそわけねぇ」
斑目は大きく深呼吸をした。にやけ顔は戻らないが、まあいい。
駅のほうを振り返る。こちらに手を振る咲の笑顔がよみがえる。
「……ごちそーさまでした、っと」
片手を上げて拝むと、彼はもう振り返らずに、自宅への道を歩いていった。
軽い気持ちで斑目に行動させてたら、なんと彼が物語を全部持っていきそうになったw 危ういところでほかの
キャラでバランスをとる羽目になり、結果分量ばかりが増えてゆくという結末。失礼いたしました。
斑目にとっては『咲の卒業』までまだ半年ある時期の話。彼がいろいろなことを決意するのはまだ先のことだ
ろうと思います。
高坂、クガピー、クッチー、恵子は俺の処理能力超えてたので今回は欠席してもらいました。すまん。
笹荻書きたいのになんとなく彼らの出番が減ってしまいまして残念。次は笹荻集中してみっかな。
毎度のお目汚し、ご覧いただきありがとうございます。
ではまた。
>愛のエプロン
…う、うう…。いい話だァ。何だか懐かしくて、あったかくて、楽しくて、正直泣きそうになりました。ノスタルジックう〜。
みんながとても楽しそうで。………斑目も楽しそうで。
フネさんとナミヘーには噴きましたw咲ちゃんは意外と割烹着似合いそうですね。ナミヘーも似合いそうだwww
斑目大好きの自分としては、面白いのも切ないのもひっくるめて、すごくいい話読めた。あー自分も頑張ろう。
すげえよかった。
いまあんまり書けない状態だから感想これだけだけど、
おれすごいこれスキ
>愛のエプロン
最後の余韻のところが非常にじーんと来ますね。
> ふと思った。彼女は、今日という日を丸ごと料理したのではないか。2組のカップルのためにそれぞれの味わいの愛
を、高坂君には大いに笑える土産話を、そして俺にも淡い希望を隠し味に、目に見えぬ大鍋をじっくりとあたためてく
れたのではないか。
ここが好きです。非常にじーんと来ました。
他にも『あら素敵ね、晴信さん』とか、その他諸々とても好きです。
文章が上手くて羨ましいです。
どうも。アルエの第六話を書きました。
書いたんですけども、今回はちょっと趣向を変えて六話と七話で前編、後編という感じになってます。
まあ、ネタフリです、今回は。決して短いことの言い訳ではありません。
短いんでサクっと行きます。
それでは宜しくお願いします。
「うはー……。もろ大手っすね……」
屋外に続く行列にすっかり気後れしたように笹原は言った。
「誰が伊鳩さんだろ……? あの挨拶されてる人かな……?」
ハルコも緊張気味にキョロキョロとブースを見回している。
うず高く積まれた段ボールの山を前にすると、流石に溜息が漏れた。
ハルコは笹原の肩をポンと叩いた。
「……笹原行け」
「俺すか……。まあ、行きますけどね……」
笹原は頭の中で述べるべき口上をシミュレートしてから、恐る恐る眼鏡坊主の御方の元へ歩み寄った。
同じくハルコも恐る恐る笹原の後ろから付いて行く。
「あ……すません。あのー、伊鳩コージさん……、いらっしゃいますか?」
「はい、僕ですけど」
「あ! あ、すいません」
笹原は揉み上げから滴り落ちる汗とシンクロしたように頭を垂れる。
「椎応大学現代視覚文化研究会の笹原と申しますが、今回はご迷惑を……」
「斑目です。どうも、すいませんでした……」
ハルコも頭を下げる。
「あ、現視研の」
気安い伊鳩の声に、二人は少し安心した。
「ほんとすいません。断ったりして、失礼な事を……」
「いーのいーの、仕事減ったから。ありがたかったよ」
そう言って頂けて、こっちこそありがたいです。
と、笹原とハルコは目配せしてホッと胸を撫で下ろした。
「今日もハラグーロ、出没してるみたいだけど、大丈夫だった?」
笹原はチラッとハルコを目をやった。ただ苦笑いしているだけのハルコ。
鼓膜からハラグーロという音声をかき消すように、笹原は急いで返答した。
「いやぁ〜〜……。今のところ大丈夫です」
「そう、そりゃ良かった」
それから伊鳩はおもむろに段ボールをまさぐると、引き抜いた手を笹原に向かって差し出した。
手には同人誌が握られていた。
「はい、新刊」
「えっ……、いいすよ」
不意を突かれて笹原は反射的に遠慮したが、
「こーいう時はもらっとくもんだよ」
えっ……、そーなのか。そーいうもんなのか……。しまった……。
笹原もハルコも手ぶらだった。
「あ……あ、じゃあ、すぐウチのも持って来ますんで」
「いや、いいよ、わざわざ。発行部数が違うし、他の奴にも渡してたら結構な数でしょ?」
確かに……。伊鳩の余裕を漂わせた大人な態度に笹原は思わず唸った。
山積み段ボールの大手サークルと、この度初参加の現視研とでは規模が違うし、
何より同人誌のクオリティからして違うのは火を見るより明らかなのであるが、しかし……。
笹原は横目でハルコを見る。ハルコが『どうしよっか?』という目でこっちを見ていた。
「いや……。持って来ますんで」
「ありゃ、そう?」
「あ、ちょっと……」
ハルコは慌てて声を掛けたが、もう笹原は一も二も無く現視研のブースに駆け出して行しまっていた。
え〜〜、とハルコは小さく唸った。こんな顔見知りもいないところに一人で取り残されても…。
「あのぅ……、どうもすいません……」
ハルコは笹原が走り去った方を横目で見ながら、恥かしそうに頭を下げた。
まあ、気圧されずに持って来ると言った姿は、ちょっと頼もしいと思ったけれど。
「ふ〜ん、笹原君とハルコさんが?」
「んー……。何かそういう雰囲気ある感じしない?」
ビッグサイト内のカフェで、春日部は真琴に切り出した。
真琴はストローを口の先で咥えたまま、春日部の顔を覗きこんだ。
春日部は何か新しい遊びを見つけた子供みたいに飛び切りの笑顔を浮かべている。
「それで二人で行かせたんだ」
「そーいゆこと」
春日部は悪巧みするような表情を浮かべている。実際、悪巧みしているのだろうが。
「まー、ちょっとしたアシストアシスト」
自身の面白半分のお節介をそう誤魔化して、春日部はずいっと真琴に身を乗り出した。
「でも、そー思わない。あの二人。絶対そーだって」
真琴が落ち着いた顔で、心底面白がっている春日部の表情を眺めた。
そして、ふーと息を吐いた。
「そうね。笹原君はそんな感じあったよね。去年の学祭ぐらいから」
「アレ? そんな前からだった?」
「そうよー。気付かなかった?」
「ううん。ここ2,3ヶ月かと思ってた」
あれー?と春日部は首を捻ったが、学祭の記憶を思い出すにつれ、納得したとばかりに膝を打った。
「あ、コスプレか!」
「あそこでハルコさんを女の子として意識しちゃったんでしょうね」
「ほー……、あれでねー……」
春日部はうんうんと妙に嬉しげに一頻り頷いている。
一回頷くにつれて顔のニヤニヤ度が確実に上昇していく。それはもう、楽しそうだ。
それを見ていた真琴が、朗らかに笑って言った。
「ハルコさんの気持ちはどーなんだろうね?」
「そんなの嫌いなわけないでしょう!」
と、春日部は自信満々に断定した。
いつも何気に鋭い真琴にしては、随分と的外れな心配をするものだ。
どー思っているも何も、そんなの入学からこっち、和気藹々とした二人の姿を見れていれば答えは自ずと出るだろう。
ハルコさんだって笹原を憎からず思ってたって不思議じゃない。少なくとも嫌いなはずはない。
「あの二人って元から仲が良いじゃんか。そんなもん、笹原を嫌いとか有り得ないって」
「そうね。私もそう思うわ」
真琴はニッコリと微笑む。
「もしあの二人が付き合ってくれたら、とても素敵だと思う」
「でしょ?」
ゲームやるにしたって、ダベるにしたって。いっつもツルみ過ぎるぐらいツルんでいたのがアイツらなのだ。
趣味もオタ同士でばっちりだし、むしろ笹原のオタ趣味にハルコさんは多大な影響を及ぼしている(はず)。
合わないはずがない。
つーか何だ…。今更だが改めて状況を検証してみるにつけ、付き合ってないのが逆に気持ち悪いような気がしてきた。
大野と田中だって、遅ればせながらというエクスキューズは必要なものの、付き合ってんだよ?
あんだけ一緒に遊んどいて、そういうの微塵も考えなかったのか、あの二人は…?
何だか溜息が出る……。
「よくここまで付き合わなかったよな〜…。それがオタクらしさなのか…。近過ぎて見えてなかっただけなのか…」
どっちにしろ、そろそろ納まるべきところの納まってもいい頃だろう。
何と言ってもハルコさんは4年生。今年度で卒業するんだ。
「だからー、俺達で協力してやろう」
「う〜〜〜ん」
と、真琴は唸った。珍しく眉間にシワを寄せている。
春日部は、何をそんなに悩んでるだ、と言わんばかりの顔で真琴を見つめた。悩む要素など皆無だろうに。
そんな春日部の表情に真琴は小さく「まあ、いっか…」と呟いた。
「分かった。春日部君がそーしたいなら、私も協力するわ」
「しゃっ!」
春日部は虚空に向かって意気軒昂に両拳を握った。
「必要なのは、ちょっとしたキッカケだよ。周りが背中を押してやれば、あとは自然とくっつくって」
そして、くぅ〜、バンバン、と自分の脳内で展開されるラブスーリーに悶えた。
やー、たまらん。甘酸っぱいなあ。青春だあ!
真琴は穏やかな微笑を返した。
「でも、私、手加減できないよ?」
真琴は真っ直ぐに春日部を見つめた。あまりに真っ直ぐ過ぎる視線を、彼にぶつけていた。
でも、当の春日部はただ嬉しそうに笑っただけだった。
「ま、一応さりげなーく、ね?」
春日部は無邪気な笑顔に、真琴はまた眉間にシワを寄せた。
それから春日部と真琴は現視研のブースに戻ることにした。
人並みを縫うように進んでいく最中も、春日部はこれからのアレやコレやのマル秘作戦に考えを巡らし、不気味に笑っている。
まるで妄想に浸るオタクのようだ。
「まずは大野たちのも話を通しとかないとなあ〜。そんでー、何か理由つけて集まるようにしないと。
じゃないと夏休み明けまで会う機会ないもんなあ〜。この夏中には何とかしたいからなあ。
つーか、あと8月も半分しかねーじゃん。あー、もっと早くに気付いとけばなあ〜」
ぼやきつつも顔は笑顔だ。
「海がいいんじゃないかな? また皆で行きたいよね」
真琴がお馴染みの向日葵のような笑顔で相槌を打った。
一瞬考えるような仕草をして、ニヘヘと春日部が笑う。
「海か〜…。海はいいかもなあ…」
二人は足取りも軽くごった返す会場を歩いていく。
と、突然に真琴が足を止めた。
「んー、どしたー?」
春日部が顔を覗きこんだ。真琴は遠くの方を目を大きく開けて見つめている。
花が綻ぶような麗しい笑顔も消えている。
何だろう? 春日部も視線の先を追って目を向けるが、如何せんゴチャゴチャっとしている会場である。
何を見ているやら判然としない。
じっくりと見ようと目を細めたのだが、不意に腕を引っ張られたかと思うと、
んちゅー
と擬音語がつきそうなキスをされた。
それも、結構長い時間。
唇が離れた途端に、春日部が潜水から浮上したスイマーのように喉を震わせて肺に酸素を送り込んだ。
「どーしたんだよ。とーとつに…」
春日部は気まずそうに周囲に目を配った。
呪詛の念と言ってもいいかもしれない。周りのオタク達の放つ殺気をひしひしと感じる。
流石にちょっと苦笑いが漏れた。
まあ…、いつも所構わずしているんだけれど、ここではどうもねえ…、ロマンチックでも何でもないし。
「んー…。イヤだった?」
真琴が無邪気に笑う。いたずらっ子のような顔をして。
あまりの可愛さに思わず言葉に詰まった。
「ヤじゃないけどさー。ちょっとビックリはしたかな、はは…」
赤みが差している春日部の顔を満足そうな笑みで真琴は照らした。
そして手を取って、また弾むように歩き出した。
「ちょっとね、おまじない」
笑いを含んだ声で真琴が言う。
「おまじない?」
狐に摘まれたような顔をして、春日部はトタトタと引っ張られている。
おまじない? 一体何の?
「みーんなが幸せになるためのおまじないだよ」
「……さっきのが? なんで?」
応える代わりに、真琴は満面の笑みを返した。
春日部は頭にはてなマークを浮かべて、トタトタと真琴の後をついていった。
本当、未だに分かんないなあ…。この性格…。
でも結局、あの笑顔で許しちゃうだけどなあ。
春日部は諦めたようにフッと笑った。小さく揺れる真琴の後姿を見つめて。
その時の、笑顔の消えた真琴の顔は、春日部には見えなかった。
つづく
>>298 鋭い読みですね・・・。
私の口からはこれ以上は・・・。
>アルエ
真琴さんが何考えてるのか、気になりますなあ…。
後編楽しみ。
面白い話がガンガカ登場してきますね。最近、仕事忙しくなってチラ見ばっかりになっていたから、感想が書けなくてスミマセン。
>愛エプ後編
「お百姓さんや漁師さんに感謝」「美味しくなれ」…そして、皆で楽しく食べる、ホントに楽しそう!
これって「食育」に大切な要素ですね〜。仕事柄、食育について調べている最中だったので感心して読んでました。
斑目の日頃の食生活なんてヒサンだろうから、いい思いができて良かったね。
最後の斑目の小さな喜びがたまらなく微笑ましい!
で、本編に関係ないですが、久我山「月間表彰」おめでとう!
頑張るクガピーを書いたことのある身として嬉しくってしょうがないので一筆お祝い申し上げる!
>アルエ
うはぁ、コミフェスの中心でオマジナイ!
雲霞のごときオタクの群れの中で美男美女が熱いキス。絵になるなあ(笑)
次回、「手加減なしの真琴」が見られるのか、怖い&期待!
354 :
愛エプの人:2006/07/17(月) 07:08:20 ID:???
先週仕事の関係で、『中央大学・明星大学』駅行ったんだわ。改札出てすぐ右に広がる大学見て、まだここには荻上さ
んや大野さん、クッチーが通ってるのかと思ったらちょっとジーンときた。数十メートル入るともうサークル棟が見えるん
だよね。アソコにいるのかと。ついでに学食でメシ食ってきたw
>>341,
>>342,
>>343,
>>353 みんなありがとう。・゚・(ノД`)・゚・。
アマチュアとはいえモノ書いて読んでもらう身としては、やはり「この作品が好きだ」といわれるのはサイコーに嬉しい。
今回は長文化して分割したり後編の半分くらい書き直したりで苦労したので、感激もひとしお。大鍋云々のくだりなんか
シチュが降りてきたのは前日の晩で、ようやく「あ、終わる」と実感した。
好いてもらえてこの作品も幸せだろう。読んでくれてありがとう。
ところで
>>353は『となりのクガピ』の作者氏?実は久我山が仕事デキる設定になったのはあの話のおかげだ。本編で
ほとんど見せ場のなかったクガピーが、あのSSのおかげでぐっとカッコよくなったんだよね。俺んなかでは、彼は今も
生き生きと営業活動に取り組んでるよ。
>>アルエ
大筋が原作どおりに進んでいく中、イレギュラーな行動をしている高坂さん。オギーの呪いよりよほどリアルに効きそう
で先が楽しみ(っつうより怖いわw)。どんだけ長期化しても読むからね。わくわくしながら待ってますよ。
感想ありがとうございます。
>>352 後編、できるだけ早めに書きたいです。
これが終わると漸く本格的にラブコメしてくる、はず。
>>353 絵になりますよねぇ。
期待に副えるように頑張らせていただきます。
>>354 長くなっちまってすんません。
そう言っていただけると有り難いです。せめて毎週コンスタントには書いていきたい。
>背中
大好物の甘々笹荻ありがとうございます。
素直に甘えられない荻上さんがめちゃくちゃ可愛いです。
ホントにこの二人には仲良くしていてもらいたいものです。
笹ヤンはどんどん強気に‥‥‥w
恐ろしいやら頼もしいやら。
次回は『あの二人』登場ですか‥ちょっと恐いなぁ。
>>愛エプ後半
咲ちゃんが『姉御』から『フネさん』にレベルアップw
でも割烹着は意外に似合いそうですね。
料理も大成功で安心しました。いや、失敗でもオイしかったですけどねw
原作にも通じるこの『皆でわいわいがやがややってる感』が非常に心地よかったです。
>>アルエ第6話
原作とは違って真琴がいい位置にきてますねぇ。
唯一全体を把握している存在ってとこですかね。
彼女は荻上の気持ちにも気付いているのだろうか‥‥
次回も楽しみです。
久しぶりに書いてみました。笹荻の短編です。
では3レスで…
七月のある週末のこと、生ぬるい空気の中、小雨が金曜夜から
しとしとと降り続いていた。そんな中、土曜も朝から起き出して
荻上は、夏コミに向けての原稿を書いている。
個人的なものと、現視研としての出品分なので、描くのが早い
荻上も大変なようだ。部屋は修羅場らしく衣類やゴミが散らかり、
台所の流し台にも洗い物が溜まっている。
クーラーはつけているが、その額には汗が浮かび、前髪が
数本、ぴたりと張り付いている。
いや、前髪だけではない。Tシャツも背中に張り付いて
うっすら透けていて、かなりの汗だ。
「あーーもう!動いてないのに汗が出るなんて!」
ガタッと立ち上がると台所の冷蔵庫に向かうのだった。
台所へ移動しただけで眼鏡が曇るほどに湿気ている。
「はー、シャツ、着替えよう…。」
寝室の扉の向こうで、タオルを使う音と衣擦れの音が聞こえてきた。
ごしごしと汗を拭いて着替えたようだが、
「…着替えてもすぐ汗で濡れるって!うー、ムカツク!」
こんなに独り言を言うほどの状態に追い込まれている。
しかし原稿は、やらねばならない。
その時、「〜〜〜♪」机の上の携帯が鳴る。
(あっ、笹原さんだ。)
電話をぱかっと開くと、受話ボタンを押す。
「はい、荻上です…や、いえいえ、すみません、原稿が―――。」
しばらく電話に耳を傾け、話を聞いているようだ。
「いえ、嬉しいんですけど、来て貰っても原稿やってるから、
今週末は無理ですよ。うちの部屋には入れませんから。」
そして左手で額の汗をぬぐいながら、また笹原の言葉を聞いている。
「え?そんなつもりじゃ……。そんな事言ってないですよ!」
「もう!私だってホントは―――!……もう、いいです!」
そう言って電話を切ってしまった。
その携帯電話の液晶画面をしばらく見続けると、ティッシュを1枚取り
表面に付いた汗をふき取りながら、溜息をついた。
「はー、もう…いくらなんでも、こんな荒れた部屋に入れるなんて
恥ずかし過ぎて絶対、嫌なのに…。」
ティッシュをゴミ箱へ投げつけてから、机の上の原稿に眼をやる。
「私も行きたいけど、原稿有るし…会いたいのに…それを!あーもう!」
ソファのクッションをボスボスと殴りつける荻上。
こんな状態では原稿も出来ない…かと思えば、ちょうどハードかつ欝な場面
を描くところで、荻上は机に向かうと、猛然とこのストレスを紙面にぶつけ、
強くなったり弱くなったりする雨音も耳に入らない様子で、その日の午後は
原稿がすごい勢いで進んだのだった。
ひと段落した夕方のこと、荻上は霧雨のような弱い雨の中に傘を差して
歩き出すと、コンビニに向かった。冷房で冷えていた眼鏡が曇ったが、
歩くうちに温まり、眼鏡の曇りは晴れた。空は晴れない。
とめどなく、汗も出てくる。
道路の向こうに、見慣れたコンビニが見えるが、ガラスが擦りガラスの
ように真っ白で、中が見えない。見慣れない光景だ。
ゴロッ…ドドド…。
その時、低い空から雷鳴が響いてきた。雲も光り始めた。
急いで店内に駆け込むと、カミナリを伴って大きな粒が地面を叩きつける
ようにして、強い雨がやってきた。
みるみるうちに、道路に川のような流れが出来る。
曇っていたガラスを雨が洗い流し、そんな様子をしばらく眺めていた
荻上は、食べ物や飲み物をカゴに確保すると、雑誌の立ち読みを始めた。
20分もすると雷が少し鳴り、急に日の光が差して景色が照らされ、
明るくなってきた。白いもやが遠くに立ち上っている。
買い物カゴをレジに運ぶと、荻上は店外に出た。さっきまでの
どうしようもない湿気と暑さはどこへやら、ひんやりとした空気が
肌に心地良い。荻上は、はっと思い出して傘立てから自分の傘を抜き取り、
ずれていた眼鏡を上げると、遠くの空を見て歩き出した。
「ん?………あ!」
荻上が急に携帯を取り出して、写真を撮り始めた。
そして、歩きながら携帯をいじると、嬉しそうに歩き始めたのだった。
やがて掛かって来る電話。
「あ、もしもし!メールの写真見ました?まだ今なら虹、見えますよ!」
苛々していたのが嘘のように、笑顔で話をしている。
「や、とんでもないです、…こちらこそ。そうそう、アレが―――。」
大きな虹の下を歩きながらの長電話は続く。
以上です。
かなり読み溜めてしまってるので、明日からまずは、一気に読んで
それからまた次のを書こうと思います。
ウザイほどに感想羅列してしまったら、すみません。
>不快指数
二人で同じ虹を見てる。別の場所からでも。
以心伝心みたいでいいなあ…。
笹荻の日常話はすごくホッとする。
>>不快指数
>ソファのクッションをボスボスと殴りつける荻上
この一文の情景を思い浮べるだけで幸せな気分ですよ
地球温暖化ばかりではなく梅雨にもあたり散らしてしまうそんな荻上さんが好きです
364 :
不快指数:2006/07/21(金) 23:54:58 ID:???
>>362 ホッとする部分は最後の1割ぐらいだったんですが、そう言っていただけると嬉しいです
荻上さんはやっぱり至宝ですよね!
>>363 「梅雨前線ムカツクー!!」ですねwww
1ヶ月半ぶりだったんですが、変わらず感想いただけて、ありがとうございました!
なんか原稿の進み方が遅いと思っていたが今週は平日が1日少なかった。通勤時間がメイン執筆時間の身には微妙に厳しいね。
また書けたら置きに来ます〜。
>>356 ワイワイガヤガヤ感、出てたらいいなと思いながら書いてたので伝わってたら嬉しい。なお咲姐さんは割烹着が似合うというより、
エプロンが似合わなかった(いっぺん描写してみて判明)w カフェエプロンみたいなのならいけそうなんすけどね。
>>不快指数
我が社はこのご時世にクールビズ未導入で、生粋の汗っかきとしては外出するたびに溶けるんじゃないかと危惧しながら営業
しております。訪問先がネクタイしてると同情もするが、お互い気が立ってるのがありありとわかるので、営業トークの応酬が
自然とささくれ立って非常によろしくないw
動かなくても汗だくになってイラつく荻上さんの気持ちがよくわかる。
コンビニの窓とか傘や眼鏡のくだり、こういう何気ない描写って好きだ。ドラマの一場面のような情景を想像しながら読んでる。
このくらいの掌編でシーンを切り取るのっていいね。SSの本道って感じがする。俺もこういうの書きたい。
来週はまたなんか投稿したいっす。ではまた。
「うぃーす…ってアレ?」
昼。斑目がいつものコンビニ弁当を片手に部室のドアを開けると、そこには咲一人だけだった。
咲は斑目に気付くと、煙草を吹かしながら軽く手を上げる。
「斑目か。よ」
「私で悪ぅござんしたね」
斑目は側の椅子に腰かけると、袋から弁当を取り出す。
「あんた、毎日コンビニの弁当だよね」
「はは…自分じゃ作れ…ないこともないけど、朝はそんな余裕ねーし。作ってくれる人もいねぇからなぁ」
「そりゃ一生ねーよ」
「僕は今傷ついた」
弁当の蓋を取り、箸を割る。
「高坂は? 昼に一人なんて珍しくない?」
「あー、高坂も色々とあるみたいよ。私も忙しいけど」
「そっか」
ご飯を一口、お茶を一口。
「斑目さぁ」
「なに?」
「なんかかっこよくなった?」
「ぶふぁ!!」
咲の言葉にお茶を吹き出す斑目。気管に入ったのか、むせる。
「ぅわっ! きたな!」
「ゲホ! か、春日部さんがグェホッ! 急に変なこと言うからでしょうが! ゲフ!」
「だって本当のことだよ」
咲は肘を立て、斑目を見つめる。
「そら最初はいかにもオタク、って感じで嫌だったけど」
「こうもハッキリ言ってくれると逆に清々しいです」
「今はちゃんと仕事もしてるし、就活してる時は見直してたよ」
「そりゃやらないといけないデショ」
「そうだけど。昔のあんただったら私こうやって喋んないもん」
「変わってないと思うケドな…」
「自分じゃ分からないもんだよ」
「う〜…ん」
すると咲は満面の笑みでこう言った。
「今の斑目、好きだよ」
頭が真っ白になる斑目。
「え? いや、好きって…」
「成長してる斑目は好きだよ。昔の斑目は嫌い」
「HAHAHA」
今までの人生で異性から「好き」と言われたことがなかった斑目の頭は混乱しっ放しだった。
(好き!? 春日部さんが? 俺を!? いや、好きと言ってもlikeの方だろう。そりゃloveだったら嬉しいけどありえないしなによりかすかべさんにはこうさかがいるしああもうそうやめろおれ)
「何やってんのあんた」
「ハッ! いや、何でもないデスヨ! HAHAHAHA!」
その後、斑目にとって落ち着かない時間が過ぎていった。
時間は流れ、斑目は腕時計を見る。もうそろそろ、昼休みが終わる時間だ。
「か、会社戻ろうかな。今日は結局みんな来なかったな」
言ってゴミを持ち、斑目は立ち上がる。
「ああ、じゃあ私も戻るかな」
咲も立ち上がり、ドアへ向かう。
と。
「きゃっ!」
足がもつれたのか、咲は転びそうになる。
「春日部さん!」
とっさに、咲を支える斑目。
「あ…」
「…あ」
咲と密着してることに気付き、慌てる斑目。
「ご、ごめん! いや、決してやらしいことは考えてないというか、その!」
「い…いや、大丈夫」
咲は斑目を見上げる。
(うわ…! ちょ、上目遣いとか卑怯ですよ!)
「斑目…」
「はいぃ!?」
「もう少し、このままで…」
「あー、腰が痛い…」
荻上は部室で原稿を描いていた。今回は咲×斑の純愛ラブストーリーだ。
「描いてるこっちが恥ずかしいなぁ…」
少し顔を赤くしながら、伸びをする。
「これはいいラブストーリーですね」
「ひゃあ!?」
いつの間にか、背後に斑目と咲が立っていた。
「い、いつから…」
「さっきからだけど…荻上さん、原稿描いてると周りが見えなくなるのかな?」
「いや、あの…」
斑目はニヤニヤしながら、妄想に入る。
(そうか…こういう展開もアリっちゃあアリだな…そうだ。俺にもまだチャンスが!)
「斑目」
斑目の肩に手を置く咲。斑目がにやけた顔で振り返ると、咲は満面の笑みで口を開いた。
「ねーよ」
完
>ラブストーリーは突然に
落ちが最高でしたwwww
>>ラブストーリーは突然に
「ねーよ」で吹きましたw春日部さん容赦なさすぎだw
最初の斑目と春日部さんの会話はありえそうな感じなんだけどなぁ…
やっぱり斑目は妄想のなかでしか幸せになれないんですかねぇ
>>ラブストーリーは突然に
すんません、むしろオチにヘコみましたwww
ちっくしょーーーーー!!(笑泣)
待ってろよ斑目。オイラがそのうち幸せにしてやっかんな!!SSで。
372 :
マロン名無しさん:2006/07/26(水) 22:53:21 ID:p1c0gLZd
あげ
鎮静化しているが、大波はまだ来るはず。
単行本8巻がSS人の脳を刺激することを願ってやまない。
荻ラブのリンクとかでサイト持ちSS師の人ら見てると仕事とか忙しそうね
忙しさのストレス解消に書きまくる日を期待
まだだ!まだ終わらんよ!
つーかこの時期「モノ創る人」は追い込みの時期なんジャマイカ?
>>369-371 レスありがとう。
久しぶりに荻上オチ書いたから心配だったですのよ。
何かネタが浮かんだらまた投下します。
晩飯中、今日こんなことあったよ的な世間話をしていた時に、ニョーボからリアルに「ええ〜?そうなんですか〜?」という
コメントが飛び出した。
ちょっと萌えたが、それを説明するわけにいかずしばし煩悶w
>>ラブストーリーは突然に
笑わせていただきました。テンポもいいし、斑目のセリフがあるある!な感じで楽しい。何回も読んじゃった。
単行本発売1ヶ月を切って、関連各スレことごとくうろたえてるのが面白い(絵板は絵板で個人サイトみたいになってるしw)。
期末試験、前期試験、ボーナス商戦、夏コミ原稿、この時期ほとんどの人が忙しい。みんな頑張れ。俺も頑張る。
ちゅーことでゆうべ書きあがったので推敲中です。また土曜日に来るよ。
>>376 ソーダヨ!
印刷所のやつがお盆でもないのに休みいれヤガッテ!
……漏れも休みたい……
>>378 ニョ−ボを筆に縛るんだ!
あとは任意でそれ以上縛るかどうか決めろ
>>380 筆に?……ああ、髪型をか。
鎌倉の絵筆塚みたいな巨大な筆に縛り付けられ、足を使って涙で鼠の絵を描き始めるニョーボを想像してしまいました。なんか
混じってるし。なんなの俺。
ちなみに実際は、その晩強気を試みるもママの事が大好きな一才児に間に割り込まれ、しかたなく隣の布団で寝る羽目になり
ましたとさショボンヌ。みんなも男の子生まれたら注意しろ。かなり強敵。
そんなこんなで2週間ぶりの投下でございます。今回はあんまり長くないのを2本仕上げた。
まず1本目『スケッチブック』久しぶりに笹荻だけで書けたよ。8レスで参ります。
真っ暗な夜空に、冷たい風が吹いている。澄み切った空気の層の向こうに、こぼれ落ちてきそうな満天の星。
12月28日の夜……正確に言えば、日付はすでに29日に変わっている。年末間近の冬の夜。荻上千佳は、一人ベッドの上で煩悶
していた。
「……ダメだ。眠れねー」
エアコンのないベッドルームだが、着なれたフリースのジャージに厚い布団をかぶっているので寒さは感じない。むしろ体は汗ば
んでいるくらいだ。彼女の眠れない原因は、隣の部屋にいる人物……笹原完士だ。
「笹原さん……大丈夫だろか。けっこう飲んでたみたいだけど」
ベッドから起きあがり、布団を払いのけた。さっきのやり取りを思い出す。
『ソファで寝るなんてダメですよ、疲れちゃいます。狭いですけど、一緒にベッド使いませんか?』
『ありがとう、でも今夜はまずいよ。俺、100%自制効かなくなっちゃう』
『それなら笹原さんがベッド使ってください、私がソファで寝ますから』
『そんなのもっとダメでしょ、荻上さんこそしっかり寝なきゃ。俺はほら、いい具合に酒も回ってきたし』
明日はコミフェスの初日だ。二人で始発に乗って冬コミに行く約束をした彼らは今回、新宿のカラオケ屋で夜明かしをする斑目た
ちとは別行動をとっていた。千佳の個人サークルが落選したため実際には早出の必要はないのだが、朝からあの人の絨毯に加わ
ることもコミフェスの醍醐味のひとつだ。それに二人とも、今回は待ち時間がいくら長くてもかまわなかった。
千佳の提案で、笹原は今夜彼女の家に泊まることになった。夜半過ぎまで彼らは、笹原はビールを、千佳はあたためたオレンジ
ジュースを飲みながら、翌日のことやチェックしているサークルのことなどをとりとめなく語り合っていた。
ところが。いざ寝る段になってみると二人とも居心地の悪いことこの上ない。普段のデートでは互いの家で朝を迎えることも多い
が、今回に関しては主目的は明日の早起きであり、そのあとの大イベントだ。ここで己の劣情に身を委ねるわけには行かないと、
笹原が渾身の理性でとった行動がさきほどの会話だった。
「笹原さんのバカ。自制なんて効かなくなってもいいのに」
つぶやく内容が支離滅裂になっているのにも気づかず、千佳はそっと床に降り立った。むき出しのフローリングは冷えきっており、
思わず素足のつま先を丸める。
部屋の境の引き戸に手をかけると、リビングの明かりがついたままなのに気づいた。
「笹原さん……?起きてるんですか?」
小声で呼びかけながら部屋へ入る。彼からの返事はなく、代わりに聞こえてきたのは規則正しい呼吸音だった。
笹原はソファの上で、千佳の予備の布団をかぶって眠っていた。千佳が寝室に移動した時よりテーブルのビールの缶が1本増え
ており、右手には読みかけの漫画本。どうやら彼もしばらく眠れなかったらしいことを感じ、千佳は小さく微笑む。
「(飲みながら寝ちゃったんだァ。ったく、しょうがねえ人だな)」
足音をしのばせ、ソファの傍らに立って彼を見下ろす。
「(セオリーならここで『あなた、こんなところで寝てないでベッドへ行って下さい、明日も早いんでしょ?』、みたいな。……って私ナ
ニ言ってんだ。大体そのセオリーって何のセオリーだっつうの)」
笹原の寝息は深く、穏やかだ。ともかく彼がゆっくり休むことができたのならよかった。起こさないように、音を立てないように気を
つけながら、空き缶と本を片付ける。テーブルを拭いてソファの脇、安らかな寝顔のすぐ横に座り込んだ。
笹原はよく眠っている。千佳が間近で見つめていても、気づく気配もない。目を閉じ、口を軽く開けた横顔。
「(いま……キスしたら、笹原さん起きちゃうかな?)」
千佳はそっと唇を笹原の顔に近づけてみる。彼の吐息が彼女の頬にかかる。あと10センチ……と、その時。
「う……ん」
「あわっ」
身じろぐ笹原に、千佳は驚いて身を引く。思いのほか大きな声を出してしまった自分の口を慌てて押さえたが、笹原には聞こえな
かったようだ。
「(……はあっ、びっくりしたぁ……なにやってんだ私)」
熱に浮かされたような自分の行動に赤面する。寝室とは逆に、エアコンが効きすぎて暑いくらいのこの部屋のせいだ、と自分で自
分に言い聞かせる。
「(でも)」
動悸がおさまるのを待って、あらためて笹原の顔を見つめる。
「(けっこう、キレイな顔してんだな、笹原さん)」
眠りが深まったのだろうか、彼はまた動かなくなっている。また起きやしないかとどきどきしながら、ほっぺたを人差し指でつつく。
彼女ができたとは言え、オタクなりの無頓着さで身だしなみを気にしない彼に天が与えた、きれいな形をした眉。その下のまつげも、
女の子みたいとは行かないが自然なカールを描いている。傷やほくろもなく、ふっくらとした頬のライン。あごからのどにかけては、
大して濃くない髭がぽつぽつと頭を出し始めている。
恋人の寝顔を見ているうちに千佳の中でおなじみの衝動が沸きあがってきた。立ちあがって中腰のまま机まで行き、ブックシェル
フからスケッチブックを取り出す。シャープペンシルを持ってテーブルに戻り、彼の顔の前に再び座りなおして、千佳は笹原の顔を
スケッチし始めた。
千佳の使っているノートは、いつもの落書き帳ではない。普段彼女はデッサンや落書きや、形が出来上がってくる前のネームを一
冊のスケッチブックに書きこんでいるのだが、今使っているものとは別のものだった。笹原が身動きするたびに胸の鼓動を高まらせ
ながら、ほどなくデッサンは完成した。
「(……ちっとカッコよすぎッかな?)」
出来上がった素描とモデルを見比べてみて、少し反省する。眠っていても凛々しいノートの中の寝顔と、その向こうで幸せそうに寝
こけている笹原。おかしい、描いている時は同じに見えてたはずなのに。
「(ま、いっか。どうせこのノート、全部そんなんだし)」
このノートを使っている時に、必ず行なう脳内会議。自分のルーティンっぷりに笑みをこぼし、千佳はノートのページを繰った。1ペ
ージ戻ると、そこに描かれていたのも笹原の顔だ。その前のページも、さらにその前も。ノートには千佳の描いた笹原が溢れていた。
笑う笹原、何かを考え込む笹原、憮然とする笹原。イベント後の飲み会で睡魔に襲われたのか、テーブルの向かいで舟を漕ぐ姿
もある。見られているのに気づき、照れ笑いを見せる彼がその後に続く。もちろん目の前で描いたわけではなく、帰宅後着替えもせ
ずにスケッチブックに向かったのを覚えている。ページの中心で笑う笹原は油断だらけの間抜け顔ではなく、爽やかな笑顔でこち
らを見つめていた。
このノートを初めて描いたのは彼女が現視研に入った夏、コミフェスの原稿をみんなで描いていた時期だ。絵の描けない笹原、画
力もセンスもあるのにもどかしい久我山と、自分の3人でひとつの作品を練っていた時。強引に進行役を買って出た咲の指示で自分
だけ家に帰った夜、寝るに寝られなかった気持ちを静めるために手遊びで描いたのは、かつて闖入者の原口を雄々しく撃退した時
の笹原の顔だった。
そのときはまだ、単に新しい落書きノートの1ページ目のつもりだった。だがそのノートは、それからしばらく姿を消した。どういうこと
だか今でも不明だが、いつもの場所に戻したはずのそのスケッチブックが翌日には見当たらなかったのだ。そのうち出てくるだろうと
思って別の落書きノートを作った千佳が、そのスケッチを見つけたのは1年近く後のことだった。
「(今にして思うと……あれもなんかの御託宣だったのか)」
先輩の大野加奈子にうまく乗せられてコスプレに追い込まれ、しかもそれを笹原に見られてしまった日。後悔と恥ずかしさで沸騰し
そうな脳と、そこに反響し続ける笹原の『かわいい』という声を抱いて帰宅した時に、本棚から突然落ちてきたスケッチブックの笹原と
再会した。千佳の混乱は最高潮に達し……そして不意に、心が静まったのを感じて戸惑った。尊敬してはいたものの当時は恋愛感
情などない筈の、『単なる先輩』『やおい妄想の攻め手』の顔。それに癒される自分を当時なりの論理と経験で、自分には絵を描くこ
としかないのだと結論した。11ヶ月前の笹原の顔の隣には、その日の笹原の照れた笑顔を描きつけることとなった。
原稿を描いていて行き詰まった時。前期試験の準備の合間。夏コミの前夜にもこのノートを開き、そのたびごとに笹原の姿が増え
ていく。どうしたわけかこのノートには、彼以外の絵を描く気がしなかった。
「(笹原さん……)」
目の前で眠っている笹原を見つめながら、ノートを抱きしめる。
夏コミ初日、千佳の個人サークルを手伝ってくれた笹原と別れたあと。いくつかの事件が起こってしまい、ざわめきつづける胸の動
揺を鎮めようと自宅でノートを開いた瞬間、気づいた。長らく封じ込めていた感情が、自分の中に再び顔を出しているのに。
笹原しか描かれていないノート……『笹原しか見ていない』のは、千佳自身が気づかなかった自分の心の目……千佳そのものだっ
たのだと思い当たった。
困惑した。
自分は人を好きになってはならない。自分は人に好かれてはならない。中3のあの日から、意識の表層には決して現れなかった決
意。笹原に惹かれる心と、それに相反する決意の両方を目の当たりにして、結論を出せないままに日々は過ぎた。
合宿の日の出来事を思いだす。笹原からの告白。逃げた自分をぎこちなく包もうと差し伸べられた手。その手をとってみようと決め
た日のこと。帰宅した翌日、彼はその手を振り払うことなく、むしろ千佳の心と体を、強く抱きしめてくれた。笹原が帰ってから、1ヶ月
開いていなかったスケッチブックを手に取り、翌朝まで何かに取りつかれたように千佳は、自分を愛してくれたひとの姿を描き綴った。
あれから3ヶ月。千佳の、笹原を想う気持ちは日ごとに強くなっていく。いつもへらへら笑っていて頼りなげな普段の彼。それでいて
心に決めたことには正直で、かたくなにやり遂げようとする強い意思。抱きしめてくれる時の筋肉の力強さや、一緒に眠りに落ちてゆ
く直前に必ず頬に触れてくる、手のひらの温もりと優しい瞳。
この人がいてくれてよかった、と心の底から思う。体温で温まったフローリングにぺたりと座り、笹原の頭が載っているソファの肘に
反対側から寄りかかる。彼を起こさないようにほんの少しだけ頭を触れさせ、スケッチを抱えたままで千佳は目を閉じた。
午前4時25分、笹原の頭の下で携帯電話が震える。音はしないが、本人が目覚めるには充分な衝撃だ。
「ん……っと、起きなきゃ……っうわ?」
アラームを止めながらゆっくり頭をもたげ、目の前の人影に面食らう。
「お……荻上さん?」
うっかり大きな声を出してしまったが、彼女はよく眠っている。やけに見晴らしのよいテーブルが目に入る。
「(あれ……片付けてくれたのか。いつからいたんだろう……え、ずっとここで寝てたのか?)」
暖房は入っているが、床に直に座っているのでは体が冷えてしまう。慌てて声をかける。
「荻上さん、こんなとこで寝てたら風邪ひいちゃうよ、荻上さん」
「ん……あ、ささはらさん……」
半目を開けて笹原のほうを見る。ゆっくりと微笑む。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
具合を悪くした様子はない……よかった。
「おはよう。荻上さん、ベッドで寝ててって言ったのに」
「あ……やべ、私こんなとこで寝ちまってたんだァ」
ようやく自分の状況を掴んだようだ。慌てて身を起こし、抱えていたノートが床に落ちた。
「わ!……っと」
「あ、大丈夫?」
笹原が手をのばすより早く、千佳がノートに覆い被さる。閉じられたままだったので中身は判らなかったが、いつもの千佳のノート
でないことには気付いた。
「……見ましたか?」
「見てないよぉ。……でも、その表紙」
なんにせよ彼は、千佳の作品を彼女の許可なしに見たりはしない。恋人に対する、というよりクリエイターに対する礼儀だ。警戒す
る千佳に、苦笑しながら言った。見えたのは表紙にただひとつ書かれていた文字列。西暦で書かれた日付、それは。
「荻上さんがうちに来た日、だよね?」
「……はい」
千佳がスケッチブックにタイトルをつけたのは初めてのことだった。これは大切な記録だったのだと気付いた日、千佳はこのノート
の表紙に、その原点の日付を書きいれた。
「え、おととしからずっと描き溜めてるの?1冊のノートに?」
「あ、ええ、まーその……私が現視研にかかわったイベントとかの時だけ、記録っつうかそんな感じで使ってるだけですから……ま
あ、備忘録みたいなもんで。ほらあの、今日もみんなに会うし、スーたちも来るじゃないですか」
聞いてもいない理由まで喋り始める。いけない、彼女が自爆する前に話題を変えたほうがいいか。
「わ、ソレってすごく興味あるんですけど……見せていただくワケには……」
「だっ、ダメですよもちろん。尋常じゃない呪い、かけてありますからね。即死ものの」
「死ぬのか……じゃダメか」
「ダメです」
ノートを隠すように抱きしめながら立ちあがる。
「笹原さん、シャワー浴びてきてください。私、その間に朝ごはん支度しちゃいますから」
「うん、ありがとう……あのさ」
持参した荷物を持ち上げながら、笹原は千佳に話しかける。
「なんですか?」
「……さっき目が覚めて、目の前に荻上さんがいてさ……。なんか、嬉しかった」
「……え」
千佳の顔が見る間に赤くなる。
「……っば、バカなこと言ってないで早く行ってくださいっ!」
「はいはい」
照れながら引き戸の向こうに消えてゆく笹原を見送り、千佳はもう一度ノートの表紙を見つめた。
炊飯器のタイマーはさっきも確認済で、まもなくご飯が炊き上がる。笹原がシャワーから出てくるまでに、焼き魚と味噌汁くらいは
用意できるだろう。先に食べてもらっているうちに、玉子も焼いてみよう。たくさん練習した厚焼きを試してもらえるチャンスだ。
それともその前に、今の笹原さんもスケッチしておこうか?……いや、やめておこう。今はむしろ、愛しい人にあたたかい食事を作
ってあげたい。
それに。千佳は机の脇の本棚にスケッチブックを戻しながら思った。
それに今の笑顔はノートじゃなく、私の心のほうにしっかりと描かれているのだから。
これ実は歌モチーフ(コブクロの『NOTE』)でしたが、書いてくうちに借景も減ったのでタイトルも変更してしまいました。もとの歌では
ノート書き綴るのは男のほうだし、もはや言わなきゃわからんだろう。
原作の地球温暖化のくだり、何回か読んで、「……もし笹原さんが強気だったら」「私、もうとっくに」「……」だったということをようやく
理解した。
ではそれはいつから?ということを、頭の悪い俺は自分で書かなきゃ解らんかったよw
夏コミ後から「……お、おめ」までの期間、オギーはきっといろんなこと考えたんだろうな、などと云々。
ちょっと重たくなってなんかスマンかったね。
そして引き続きもう1本いっとく。『あのひとのとなりに』3レス。
話の都合上いきなりピンク展開だが、一応直接的な表現は最小限にしたので許してくれ。
「や……山田さん……やめてよ、ね?……どうして、こんな……ッ」
榎本千尋はボタンを外された胸元を押さえながら、生徒会室の中央で立ちすくんだ。廊下へのドアに立ちはだかるように予備の制服
を手に持った山田薫子に、戸惑いながら話しかける。
「千尋さん、ごめんなさぁい。蓮子さまがどうしてもあなたのことを足止めしろって言うから……わたし、こう言うのよく解りませんけどぉ、
こんなカッコにすれば簡単に逃げられない、って蓮子さまがぁ」
おっとりしているようで意外に素早く力強い薫子に翻弄されるうち、いつしか千尋は服を剥ぎ取られ、用意されていた女子用の制服を
着せられていく。己の行動を恥じ、詫びているような物言いをしながらも彼女の動きは的確で、千尋が腕を振れば上着を奪われ、走り
出そうとすればズボンを取り上げられた。さらに暴れれば代わりの衣装に袖を通させられる有様で、彼はものの数分で上着から靴、
下着に至るまですっかり女の子の姿になっていた。
「ほぉら、出来上がりー。千尋さんがこんなカッコするの好きだってみんなに知れたら大変ですよぉ」
「やっ……だってこれは山田さんが」
「わたしに無理やり着せられたって説明して、納得する人いるかしら?わたし女の子で、千尋さん男の子なのにぃ。……あ、今は女の
子ですよねぇ、ふふ」
その時、生徒会室のドアノブががちゃりと鳴った。先刻薫子が内側から施錠していたのだ。
「ん、あれ……鍵か?」
ドアの向こうのその声は……麦男?こんな姿見せられない!千尋はドアに体を預け、麦男の注意を逸らそうとする。
「麦男、な、なんでもないんだ、今ちょっと取りこんでて……」
「六原さんですかあ?いま開けますねぇ」
「千尋か?俺、出直したほうがいいのか?」
「ごめん、そうして……」
「あっ千尋さん、脱いだ服そのままですよ、ほらぁ、下着ですよ?」
「わあぁっ!」
千尋が自分の服を拾い上げるのと、薫子がドアを解錠するのはほぼ同時だった。服で自分の姿を隠そうと壁際にちぢこまる千尋を
認め、麦男は……にやりと笑みを浮かべた。
****
「……」
大野加奈子は息を飲んでページをめくっていた。もう何度となく読んでいるが、このシーンの迫力には慣れるということがない。額に汗と、
いつも心に引っかかるあるものを感じながら彼女は同人誌を読み進んでゆく。
****
「はぁッ、はあぁッ……」
麦男の執拗な指戯から逃れる術もないまま、千尋はその華奢な体の全てを陵辱され尽くしてゆく。小さな耳朶の裏、僅かの力で手折
れそうな細い首、はだけたブラウスから覗く薄桃色の敏感な突起……。幼い頃から彼の体を知り尽くした麦男なればこその容赦のない、
それでいてひどく優しい愛撫。汗ばむ襟元から首筋へと舌を這わせるかと思えば、彼の腰には若干緩いスカートの裾を大きく捲り上げ、
温かく湿った秘所を攻め立てる。千尋の彼自身はもう何度も悦楽の高みへといざなわれ、麦男を受け入れるにはまだ経験の足りない
紅色の花弁をもねっとりと濡らしていた。
「麦男ぉ……僕、僕もうッ……来て、お願い麦男!僕を……こんな場所ででこんな、こんな恥ずかしいカッコさせられてる僕を、どうか
愛して下さい!こんないやらしい僕を、女の子みたいに……して……して下さいッ!」
「千尋……可愛いよ。俺はお前がどんな姿をしていても、お前のことを離しはしないよ。普段の一生懸命なお前も、今の愛らしいお前
も。さあ、お前の好きなように愛してやろう。言ってごらん、俺の可愛いハッピーフォーチュン?お前のこのさもしい場所を、どんなふう
にして欲しいのか。俺にして欲しいことを、ひとつ残らずその口で説明するんだ」
「は……はい……ッ」
「いやらしい子だな、千尋は。俺はそんないやらしい千尋が大好きだよ」
「麦男……僕……うンッ……うれしいよォ……」
****
スーも大好きだというクライマックスシーンにさしかかった時、現視研のドアが開いた。入ってきたのは荻上千佳だ。加奈子しか知ら
ないことだが、今日は他の誰もここには来ないようになっていた。
「あ、こんにちわ大野せんぱ……っきゃあぁっ!」
加奈子が読んでいたのは1ヶ月と少し前の夏コミで、千佳が発行した初めての個人誌『あなたのとなりに』だった。一瞬で顔を真っ赤
にして、千佳はあわてて加奈子の持っている本に突進する。が、加奈子はすばやく体をかわした。
「っちょ、ちょっと大野先輩、なんでソレ持ってきてるんですかっ!」
「いいじゃないですか誰もいないんだから。……実はどうしても荻上さんに確認してみたいことがあって」
「か……確認?」
「荻上さんのこの漫画の……この導入部分のシチュ、どこかで見た記憶が……っていうか『やった』記憶があるんですけど?」
千佳は頬を染めたままうつむき……やがて、観念したように口を開いた。
「……笹原さんには黙っててくだサイ」
「荻上さんたらぁ。もー、しょうがないですねえ」
加奈子は困ったようにそう言い、
……にやりと笑みを浮かべた。
終わってないように見えるけど、おわり。
くじアンはまったく勉強が足りないので、キャラの口調や行動がおかしかったらごめん。
荻上さんがどんな呪いをあの本にかけたのか考えていたら、まあ大体こんなことじゃないかという結論に達したw
ラストシーンは当初、ほんわか照れ笑いで終わる筈だったんだけど、大野さんが笑い方を間違えてしまいました。
……はっ!大野さんそのマスクは一体?
おそまつさまでした。
>スケッチブック
>あのひとのとなりに
2本立て乙!荻上さんが笹原の寝顔を描写するシーンが好きです。
荻上さんから見たササヤンは特にカッコよく見えるんですね。やっぱ好きな人だから特別にw
…2本目、ヤバイっすよ!!エロパロ板ですよ!!(笑)
でもまあ、荻上さんが描いた物なら仕方ネス。(そうか?)くじあんキャラ自体は自然でいいと思いましたよ。
約一ヶ月ぶりにまとめサイト更新しました〜。
サボっててすいません!
SSスレ自体もアンソロ入稿終了時までお預けにしてワクワクしてました。
いやー、まとめながら一気読みしましたけど、ニヤニヤが止まりません。
ようやくSSも書けそうですし、私も頑張ります!
>>396 えーと、私的には問題ないんですが、
というかまとめの時に利用させていただきました。
アリガトゴザイマス。
>>397 毎度ご苦労様です。
ちょうどいいとこにいらしたので、ついでにちょいと問い合わせ。
まとめサイトのスレ4が上手く開かないのですが、これはうちのPCだけでしょうか?
お暇な時に一度確認お願いします。
どうもお手数をお掛けします。
>>398 おおう、4だけ途中からのになってる・・・。
すぐに直しました!ありがとうございます。
他にも何かあったら、報告お願いします!
メールでも結構です。
400 :
スケブの人:2006/07/30(日) 12:34:11 ID:???
>>395 さんくす〜。
絵板にもオギーが笹原を自動筆記するというネタがあったけど、たぶん彼女の目に映る笹原は250%増しくらいの超絶美形。
くじアンのほうは……すんませんなんつったらいいか。考えてみりゃエロパロのキャラの性格が正しいかどうかっつうのも
失礼な質問だよね。失礼しました。
>>396 ええっと、お手間取らせて申し訳ない。もちろん削除する必要はありません。むしろありがとう。
俺の文章は投稿始めたときから「1行あたりの文字数が多すぎるんじゃゴルァ」エラーばっかりで、もうその点は思考停止に近い状態
で諦めてた。うちのPC環境(XGAのモニタでギコナビ使ってる)だと、スレ本文の文章は1行が60文字前後で改行するんだ。うちの
環境はそう特殊ではないと解釈して、原稿も書きあがってからその辺でぽちぽち改行して投下するというやり方をしてたのです。
ちなみにこのレスもね。
環境によってはシロウトのメールみたいに神経に障る改行が発生する人もあったろう。そんな皆さんにはほんとすまんかった。
ところで、このスレって1行何文字まで大丈夫なんだい?誰か知ってる人教えてくれ。改行は30、総文字数は1000字がMAXらしい
のは掴んだんだけど。
>>397 まとめの人ごぶさた&入稿激乙。
俺みたいな文章まで入れてもらって感謝してます。オアズケ食らってたシリーズたちも楽しみに待ってますよん。
スケブの人とは違う人ですが、まとめサイト見てきました。
「スケッチブック」のまとめ文の最後の一行が切れてますよーー(汗)
それはともかく、入稿お疲れ様です。ゆっくり休んで、またSSもお願いしますねw
>>400 構想だけ溜まりすぎて何から書けばいいのやらといった感じです。
文字数に関しては、使っている画面や解像度によって違うと思います。
句点まで一切改行しないか、一文30字以下の句読点で改行する方法がいいかと思います。
>>401 おおう・・・。ブランクは大きい・・・。
今後さらに気をつけます。
直しました、ありがとうございました!
>>397>>400 こちらこそありがとうございます
えと、私のほうで一つミスがありました(;・∀・)
>>382の
>むしろ体は汗ばんでいるくらいだ
の「ば」と「ん」の間に改行がありました。対応していただければ幸いです
最終単行本発売の暁にはげんしけんSSスレは10年は戦えることでしょう
>>404 ……20年だ!20年たてば双子がこのスレを発見してくれるw
それはそれとしてまず、来週がコミケなんだね。俺が巡回してるとこだけなのかもしれんが2chが全体的に過疎っているようだ。
お前らそんなに突発本やらサークルチェックが忙しいかw ……そうか忙しいのか……いいな……。
ってか暗くなってる場合か。俺はニョーボの田舎に家族連れてくけどみんなガンガレ。
わが社8月だけ土曜が休みになるんだよね。もちろんありがたいんだが自宅では書き込みのチャンスが少ないのでちょっと困る。
本日は短いのを1本投下します。
先日困ってた文字数問題は、今回クリアされてたらオッケー。
もしダメだったら投稿が乱れるかもしれませんが、そのときはあたたかく見守ってくださいませ。
タイトルは『ザクロ』。本文4レス。よろしく〜。
「うー、だるいな〜」
7月もなかばを過ぎたというのに梅雨の明ける気配はない。その一方気温は上がり続け、体には負担がかかるばかりだ。荻上千佳はベッドの上でうなっていた。
暑いだけが原因ではない。夏コミ合わせの原稿と前期試験の準備が重なり、体調を崩してしまったのだ。いつもはこんなことはないのだが、今朝は腰の凝りと腹に居座る鈍痛で起き上がる気がしない。
昨日はそれでも普段どおりに行動でき、入稿も終わった気楽さもあって部室で過ごしていた。昼には斑目晴信が昼食に立ち寄ったり、彼と入れ替わりに入室してきた大野加奈子と世間話をして1日が終わっていたのだが。
今日は日曜日だが、恋人の笹原完士は仕事だと言っていた。ゆうべ夜遅くの電話で愚痴をこぼしながら、彼はそれでも楽しそうに今の仕事について説明してくれた。
「私も寝てる場合じゃねえな。動いてりゃ気もまぎれるし」
ともかく起きることにする。いずれにしても寝室にはエアコンがなく、昼までここにいたら蒸し焼きになってしまう。すでに10時を回っており、表の灰色の空はどんどん熱を帯びてきていた。
「(まずはシャワー浴びて……どうすっかな、部室いくかな?でもちょっとだるいし、うちでネームでもやるか)」
サイドテーブルの上で充電中の携帯電話に視線を投げる。
「(笹原さんに電話してみようかな、今日は午後からって言ってたからまだ家にいるかも知れないし……いやいや、これから仕事だってのにメーワクだぁ)」
風呂から上がって、携帯電話のウインドウが明滅しているのに気づいた。メールが着信していたらしい。
「誰だろ……あ、笹原さん。……えーっ?」
笹原からのメールは『荻上さんち寄ってから会社行きます』という文章で終わっていた。千佳は慌てた。
来てくれるのは嬉しいが、予想外の展開だし髪もまだ濡れている。メールの着信は10分前で、早ければもう着いてもおかしくない。とにかく、身支度だけでも終わらせなければ。
「はわあぁ〜、どうしたんだ笹原さん、嬉しいけど……嬉しいけど!」
笑顔半分困惑半分のていでドライヤーを振り回す。ともかく服を着終えた頃、玄関のチャイムが鳴った。
腰をさすりながらドアを開ける。そこには……両手にスーパーとドラッグストアの袋を提げた、スーツ姿の笹原がいた。
「あ……おはようございます……どうしたんですか?その荷物」
「おはよう荻上さん。いやー暑いねー。えっと……上がっていいかな?」
「あ、はい。あの、ちらかっててすいません」
彼をリビングに通し、冷蔵庫で冷やしていた麦茶をグラスに注ぐ。一杯目を一息で飲み干した笹原のグラスにもう一杯注ぎ、自分用にもグラスを用意する。
「うちなんか寄って、会社の時間、大丈夫なんですか?」
いつものポジション。笹原をソファに座らせ、千佳は机の椅子に腰掛けて聞いた。スーツを脱いだ笹原は汗をぬぐいながら、テーブルに先ほどの荷物を広げ始める。
「ん、平気平気。さっき連絡あって先生の仕事場に直接行くことになったんだ。これで30分は稼げたよ。でさ」
スーパーの袋から出てきたのは大量のお菓子とフルーツ、薬屋のほうは貼り付ける式のホッカイロ。
「昨日の電話で、荻上さん調子よくなさそうだったから、いろいろ買ってきたんだ」
「こんなに!コンビニでも始める気ですか?」
「いやその、買い始めたら止まらなくなっちゃってさ。なにがいいのかよくわからないもんで。甘いものとかチョコとか、ザクロがあればよかったんだけど、ちょっと時期が早かったみたい」
「それにしたって。……え、ザクロ?」
なんでこの時期に。それに甘いもの?チョコレート?ホッカイロ?……ピンと来た。
「笹原さん……大野先輩ですね?入れ知恵したの」
「あと冷房ばっかりだと体が冷えるから……うぇっ?い、いやそんなことは……」
まるで何かを暗記してきたかのように説明を続ける彼に割り込む。やはり受け答えがおかしい。
「笹原さんがこんなに手回しいいのは変です!そもそもなんでザクロとかホッカイロとか思い付いたんですか?」
「いやその、あのさ、ほら、えーと……すいません」
あっさり陥落。聞くと、今朝がた加奈子から、千佳が具合を悪くしているから見舞いに行けというメールが入ったのだそうだ。ゆうべの電話では千佳は笹原に心配をかけまいと明るく振るまっていたので、実は彼は千佳のことをまったく絶好調だと思っていた。
数度のメールのやり取りで『チョコレートを食べたがっていた』『実はザクロが好物だ』『冷房で冷えてしまっているのでカイロがあるといい』などとアドバイスを受け、さらに加奈子の指示でメールの履歴を削除してから、笹原はこちらに向かったのだった。
「もうっ、大野先輩ったら」
「でも大野さん、心配してたよ。荻上さんあんまり病気しなさそうだし、たまにテンション下がるとスパイラルするんじゃないかって。俺もさ、ええっと気付かなくて悪かったけど、風邪ひいてるんならそう言ってくれればいいのに」
「風邪?……大野先輩、私のこと風邪だって言ってたんですか?」
「え?いや、特になんの病気だとは。え、風邪じゃなかったの?」
笹原がうろたえ始める。ひょっとしたら、もっと重い病名が頭の中を駆け巡っているのではないだろうか。
「あー……そんな病気とかじゃなくてですね……っぷっ」
心配そうにこちらを見つめる彼の表情を見ていたら、ふっと心が軽くなった。
「ふ、ふふっ……あは、あははは」
腹の底から笑いがこみあげてくる。
「わ、荻上さん?」
笹原の困惑ぶりはますます高まり、さらにそれが千佳の笑いを誘う。この人は大野先輩に尻を叩かれて、訳も判らず私のところに駆けつけてくれたのだ。
一方で申し訳ない気持ちにもなった。つい先日も締め切り直前のテンパった精神状態で軽い口喧嘩をしたばかりだ。その時は雨上がりの虹が二人の仲を取り持ってくれたが、そう毎回自然現象にも頼れまい。
もっと、この人に甘えよう。毎度のように考えているが、なかなかうまく行かない決心を今日も思い出す。人を遠ざけることに慣れ過ぎた自分の心が簡単に変わらないことは身に染みているが、それならほんの一歩ずつでもいい。
私を大切にしてくれるこの人にもっともっと甘ったれて、私に彼が必要なんだって解ってもらおう。考えるだけで恥ずかしいが……さいわい今日はひとつ、してもらえるとありがたい『おねだり』を思いついた。
「ありがとうございます、笹原さん。私、笹原さんが来てくれたら元気になりました」
「え?それは……どうも。え、ホントに大丈夫なの?」
「精神的なもんもあったみたいですよ?」
「え?」
「せっかく日曜日だっていうのに、笹原さんがお仕事に夢中だったから!」
「えぇ〜?」
「ふふ、冗談です」
椅子から立ちあがって、笹原の隣に座りなおす。
「お……荻上さん?」
「笹原さん、まだ時間大丈夫だったら……ひとつだけ、お願いしてもいいですか?」
「は……はい?」
「実は昨日冷房に当たりすぎて、肩とか腰とか凝っちゃって。コレで具合悪くしちゃったんですよね。それであの……あの……、ちょっとだけ揉んでもらっても……?」
「あ、ああ!そうだったんだ。いいよ、もちろん。お安いご用だよ」
「ありがとうございます」
今日は雨の心配はなさそうであるものの、暑苦しい雲はずっと空に居座りそうだ。しかし千佳の気持ちはもうすっきりとしていたし、体もこれから笹原が癒してくれる。笹原が立ちあがってソファの後ろに回るのを背中で感じ、ソファに座りなおした。
いろいろ気を遣ってくれた大野先輩にもあとで、お礼のメールを送っておこう。千佳は考えた。この大量の食べ物は明日、部室でみんなで山分けすればいい。
それに彼女には、ザクロは生理痛に即効性があるわけじゃないし、そもそも秋の果物だってことも教えてあげなきゃ。それともあの人には効くのかな?
なお少し後、腰を揉みはじめて妙な気を起こした笹原を千佳が部屋から追い出すのだが、それはまた別の話。
『イマ話』書きたいなと思いながらシチュ練ってたらこんな感じに。
なんの症状だったのか、書こうか書くまいか最後まで悩んでおりました。俺弱体化萌えなんですよね。
大昔に書いていたSSでも、ヒロインは大体風邪ひいたりなんだりしてます。我ながらダメ趣味だw
あと、どうも『不快指数』と時期が重なってしまった模様なのでエピお借りしました。すんません。
文字数は……みんなフラストレーションなく読めてる?
いろいろ勉強した内容と
>>402を参考に「句点まで改行せず」「ただし改行から改行までが半角256字以内」というルールでやってみました。
ほんじゃま、今日はコレで失礼。また適宜のぞきます。
>ザクロ
日常話、いいですね。笹原の行動がほほえましい…w
荻上さん、素直でかわええ…w
……最近SS投下さぼってます(汗)何個かは書きかけてるんですが…。そのうちまた、必ず!
>>ザクロ
うん、今年の夏の状況がジャストマッチしてていいね。
そして笹原カワイイ&カワイソス・・・
文字数も改行も問題無いですよー。
読んでて肩揉んでる笹原の顔に
オギーの筆がもぞもぞと・・・ってな電波が来た。
要するに電波発信するほど良いものだという事だ。
>>ザクロ
「不快指数」書いた者です。引用ありがとうございます。
僕も今年の1月に荻上さん看病SS書いてますので、弱体化萌えが
有るのかもしれません…。
414 :
まえがき。:2006/08/06(日) 16:33:10 ID:???
最近描いてたSSの続編がうまく書けず投下さぼってたんですが、先に斑目の読みきりが書けたので投下しちまいます。
夏なのに冬の話です。季節が半年ほど先です。
36レス、…長文ですがスマン。
***
「アンジェラ」
(映画「Angel-a」のパロ)
〜山崎まさよし「アンジェラ」より〜
いつか流した涙と無くした言葉を探して
鏡の向こうに閉じ込めた心を取り戻して
今は渇いた瞳でやがて来る明日を見ないで
私はあなたのすぐそばでささやきつづけている
そして物語は始まった…
ぬかるみのような灰色の空。
最近ずっと曇りの日が続いている。
冬。もうすっかり葉の落ちた木が、冷たくなった風を受けて枝を揺らしている。
会社を出てしばらく歩いたところに少し大きな川がある。
ふと足を止め、川を橋の上から眺めてみる。
濁っているので水の中までは見えない。
まるで今の自分の心のようだと思った。
ただ、川の水は止まらずずっと流れていって行き着くところがある。
自分はまだ立ち止まったままだ。
ボーッと川の流れを眺めていた。ふと気配を感じて横を向く。
すると、そこにはアンジェラがいた。
『あ、アンジェラ??…こんなトコで何してんの?』
…よく見ると、アンジェラは手すりの向こう側にいた。
今にもそこから飛び降りそうな顔で。
(………………………………………は?え?)
そんなトコにいたら危ない、と言いかけたとき、アンジェラが真剣な顔で言った。
『マダラメ!!早まらないで!!』
『は?って、早まってんのはそっち………』
『もしそこから飛び降りたら、私も飛び込む!!』
『いやいやいや、何かとんでもない勘違いしてない?ていうかそこ危ないって!』
『え?…勘違い??』
『いいから、とにかくこっち戻………』
そこまで言ったとき、アンジェラが足をつるっとすべらせ、下の川にどぼーん!!と落ちた。
『!!!!!!』
あまりのことに頭が真っ白になる。
(え、うわ、え!?落ちた!?う、う、うわーーー!!!!!
どどどどーしよ!!!???えーとえーと、とにかく助けないと!!!!!)
慌てて着ていた上着だけ脱ぎ、手すりを乗り越えて自分も橋から飛び込んだ。
ゴボゴボゴボ………。
12月の川の水はどこまでも冷たい。
着ている服が体にまとわりつき、水を吸って重くなる。めちゃくちゃ泳ぎにくい。
無我夢中でアンジェラのところまで泳ぎ着き、腕を取って岸まで必死に体を動かした。
アンジェラもバタ足で必死に泳ぐ。
ようやく岸まで辿り着き、とにかく荒い息をついた。
水の中にいたのはわずかな時間だったはずだが、一気に体力を使った。
『ぜーー、はーーー………だ、だ、大丈夫?』
『ええ、何とか…泳ぐのは得意だから。服のまま泳いだのは初めてだけど〜〜』
『………………………………あ』
『どうしたの?』
『俺、泳げないんだった………………』
無我夢中で、泳げないことを忘れていたのだった。
『でも泳いでたわ、今』
『人間、その気になりゃ何でも出来るんだな………(汗)』
岸辺を冷たい風が吹き、凍えそうになる。
歯の根が合わない。大きいくしゃみが出た。
『…ぶっくしゅ!!』
『さすがに寒いわね〜〜』
アンジェラがのんびりと言う。
今日のアンジェラは、いつもと雰囲気の違う格好をしていた。
冬だというのに袖なしの黒いぴったりしたワンピースで、スカートの丈がやたらに短い。そして黒いヒールを履いている。
むき出しの太ももから目をそらすようにして、アンジェラに聞いた。
『て、ていうか、何で俺が飛び込むと思ったの…?』
『だって今にも飛び込みそうな顔していたもの』
『俺そんなひどい顔してたんか………?』
『してたしてた』
『いやいや、そんなつもりで川見てたんじゃねーから!
ていうか、だからってアンジェラまで飛び込もうとすんなよ』
『どうしても思いとどまらせなきゃ、って思ったのよ。どんな手を使っても』
『…はあ。心配してくれてどーも………』
『マダラメが死んだら生きていけないわ、って思ったの』
『………………はい?そんな大げさな』
『大げさじゃないわ』
アンジェラは真剣な顔でこっちを見る。その青い瞳に吸い込まれそうに感じ、どぎまぎする。
『え?何で???』
『マダラメが好きだからよ』
『………………………………はい?』
いきなりの告白に、頭が真っ白になる。
アンジェラはニコニコしてこっちを見ている。
『は?え?………何の冗談デスカ?』
『冗談なんかじゃないわ』
『ていうか何で俺??』
『何でって?』
『だって、そのーーー…アンジェラは美人だし、スタイルいーし、俺みたいなショボいのでなくてももっといい相手がいるじゃ…』
『どうしてそんなこと言うの?』
『え?』
アンジェラが悲しそうな顔をする。何故そんなに悲しそうにするのか分からなかった。
『どうして信じてくれないの?』
『いやだって…な、何で俺?』
『何か理由がないと駄目?』
『………だって俺なんか、別にカッコいいわけでも何か特技があるわけでもねーのに………………』
『どうしたら信じてくれる?』
『ど、どーしたらって………………』
『キスしたら信じる?』
『は?』
言うなりアンジェラにキスされた。
頭が再び真っ白になる。
『なん…』
『くしゅっ!!』
アンジェラもくしゃみをした。
『アハハハ、このままじゃ風邪ひいちゃうわ!!』
『………………………………………』
『あらどうしたのマダラメ?顔がトマトみたいに赤いわ。熱があるんじゃない?大変!
とにかくこの服を乾かさないと。どうしましょう?大学が近いからとりあえず戻る?』
『………………………………………』
『マダラメ?』
『へっ!?…あ、あー、そ、そーだね………………………』
頭の処理速度が極端に遅くなり、何も思いつけないのであった。
大学に戻っても服を乾かす手段がないので、とにかく自分の家に行くことに。
アンジェラには自分の服を適当に着てもらうことにして、濡れた服を洗濯した。
ドライヤーでアンの服を乾かす。乾燥機がないので、時間がかかるがこれしかない。
『………………………………』
アンの黒い色の下着も一緒に乾かしながら、さっき言われた言葉を思い出していた。
(………………ていうか何で俺??)
未だに半信半疑である。
『マダラメーあがったよー。』
シャワーを浴びていたアンジェラが自分のシャツを着て出てくる。
『アハハハ!下着つけてないからスースーするわ!』
『………とりあえず乾いたからつけてくれば?』
そっちのほうを見ないようにして下着を渡す。
『ありがと!』
そう言ってアンジェラは下着を受け取る。何か後ろのほうでごそごそしている。
(…つーかここでつけんなよ………………)
そうツッコみたかったがツッコめない。
『マダラメもシャワーあびてくれば?』
『…いや俺はいい………』
『でもさっきの川、あまり綺麗な水じゃなかったわよー』
『………じゃ、入ってくる………』
アンジェラの行動にいちいち振り回され、疲れて思考停止しそうだった。
『…さて!これからどーする?』
『え?どーするって?』
風呂から上がると、乾いたワンピースに着替えたアンジェラが聞いてきた。
『とりあえずお腹すいたわね!何か食べに行かない?』
『………………』
『あら、どうしたのマダラメ?』
『え?いや。まあいいけど』
…いつ帰るんだろう、と思っていたが聞けないのだった。
とりあえず近くのファミレスに行った。大学時代にもよく行ったところだ。
『オムライス!オムライス!!』
アンジェラは自分が注文したオムライスを前に上機嫌だ。
『はあ。そんな好きなの?それ』
『アメリカでは食べたことなかったから〜』
『ふーん』
いつも楽しそうなアンジェラを見て、その性格が少し羨ましくなる。
『そういえばマダラメ』
『ん〜〜?』
『どうして自分のことをショボいなんて言うの??』
『ええ?』
『あなたってとても魅力的なのに』
『え、えええ??』
アンジェラに本当に不思議そうに聞かれ、ものすごく焦る。
『え?は?………ど、どこが?』
『自分では気づいてないのね』
『え、ていうか今までそんな…言われたことねーし………』
『あなたって自分のことをわかってないんだと思うわ』
『………はあ?』
『あなたって、繊細で優しくて、あんまり誰かと競争したりするのが向いてない人なのよ。
皆が仲良く平穏にしてるほうが好きでしょ?本当は。
そしてとっても臆病。だからいつも、人に本音が言えないで隠しちゃう。
そしていつも自分がどう見られてるか、怖くていつも気にしてる。』
『………………………』
アンジェラに鋭く指摘され、言葉が出てこない。
『あなたはどっちかというと女性的なんだと思うわ、心が』
『………それってむしろ男としてはダメなんじゃ………………』
『そんな風に思うから自分が生かせないのよ』
『………………なんか、スゲー落ち込んできた』
『でもそれがあなたなんだから仕方ないわ。むしろそこが魅力なんだから、もっと生かさなきゃ』
『………はあ…』
『自分を認めてあげるの。そしたらもっと自分が好きになれるわ』
『………………うーん』
『私はあなたと逆なの。内面は男性的。』
『え?』
アンジェラの言葉にいちいちとまどう。
『そう、豪快で大雑把で行動的。あなたとは対照的ね。まるで光と影みたいに』
『………………何かよくわかんねーんだけど………。俺が影?』
『いいえ、私が影、あなたが光。内面的には』
『ええ?逆じゃなくて?』
『あなたが光よ。ま、それはどっちでもいいわ。とにかく』
アンジェラはにっこり笑った。
『あなたは魅力的なの。そこが好きなの。それが答え。わかった?』
『………いや、まだよくわかんねーんだけど』
『もう!頑固ね。その頑固さもまた女性的だわ』
『その女性的、って言われるのスゲー嫌なんですけど』
『あらそう?』
『なんか男として否定されてるよーな………』
『まあ、そんなことないわ。』
『それに、その、す、好きって言ってもらえんのは嬉しいんだけど、俺は………』
『ああ、好きな人がいるんだっけ?確かサキが好きなのよね?』
アンジェラはさらっと言った。
『な、ななな何でそれを!!!!!』
『カナコが言ってたわ』
『…大野さん………………(汗)』
『でもサキにはずっと恋人がいるんでしょ?』
『………うん、まあ………』
『今でも好きなの?』
『………………………………』
考え込んだ。
『いや、もうわかんねー………自分が何でこんなに固執してんのか…。どうしたいのか………。
いや、何かしたい、って思ってるわけじゃなくて、もういい加減忘れなきゃいけないって分かってんだけど、それもできなくて………。
何でだろーなあ………。』
『なあんだ、そんなの簡単よ』
『え?』
アンジェラは立ち上がる。
『一人で考え込んでるから分からなくなるんだわ。直接本人と会って話してみないと、自分がどうしたいかなんてわからないわ!』
『ええ?本人って春日部さんと??い、いや無理!』
『だって今までさんざん自分で考えてて、答えが出た?出てないんでしょ?』
『いやそりゃそーだけどでも』
『じゃ、こうしちゃいられないわ。サキの店って新宿にあるのよね?さっそく行ってみましょう』
言うなりアンジェラは席を立つ。
『へ!?い、今から!?いやそんないきなり!!』
『「コトワザニモイウダロ?オモイタッタガキチジツ!!」って、スーも言ってたわ』
『…スーが?ことわざよく知ってんなあ…………って、そうじゃねー!いやむ、無理だって!』
慌てる自分を置いて、アンジェラはさっさと席を離れ、店を出ようとする。
必死で後を追った。
アンジェラは早いリズムを刻むようにきびきびと歩き続ける。
その後ろ姿を必死で追いかけた。
新宿へ向かう電車に乗っている間、周りの男性が皆アンジェラに釘付けになる。
アンジェラが美人だから、ということももちろんあるが、着ている体のラインぴったりしたワンピースと、ぎりぎりまで短いスカートから伸びる足が原因かと思われる。
『シンジュクって初めて行くわ!楽しみね、マダラメ!』
『…はあ、そうね………。』
アンに相槌を打つたび、周りの男がビックリしたようにこっちを見る。
(睨まれてんよ………。俺はもー勘弁して欲しいんだけど、ホントに)
アンは春日部さんの店の名前と住所が書かれたメモ(大野さんに聞いたらしい)を片手に、街行く人を捕まえ片っ端から道を聞いている。その行動力が羨ましいと思った。
(…ていうかどーすんだ俺?春日部さんに会ったところで、何が言えるんだろう?)
そうこう考えながらアンの後をついてゆくと、着いてしまった。
『ここだわ!』
『………………………』
店の外から、奥で服をたたんでいる春日部さんを見つけた。
こうして姿を見るのは久しぶりだ。
『…アンジェラ』
『なあに?』
『やっぱ止めない?そのー………仕事中だし、忙しそうだしさー…。』
『なら今度会う約束を取り付ければいいわ』
『…ああいう女の人の服売ってるトコってあんまり入ったことないしさーーー………』
『大丈夫、みんな最初は初めてなんだから』
『…そういう問題か?』
『いいから、つべこべ言ってる間にどーんと行けばいいのよー。ホラ!!!』
『わ………!!』
アンジェラに背中をどーん!と押された。
よろけながら店の中に入ってしまう。
「いらっしゃいませーーー!」
大きな声で挨拶され、ビビる。
「…斑目?」
「あ…(汗)」
春日部さんが目を丸くしてこっちを見ている。
「…や、やあ、久しぶり」
「何やってんの?新宿で。買い物?」
「あーいや、今日は………………」
思わず入り口近くで様子を伺っているアンジェラのほうを見た。春日部さんもアンに気がつく。
「へえ、アンジェラと来てたんだ?」
「え!?あーまあ、そーなんだけど…」
「へえええーーー。ほーほーほー!!」
春日部さんは何を勘違いしたのか、急に悪顔になって笑う。
「いや、ちがうって。そんなんじゃねーって」
「照れることないじゃん。アンジェラ、今日はまたすごいセクシーなカッコしてんのねー。気合い入ってるねー」
「なんの気合いだ。いやだから今日は………」
「何よ?」
「え、えーと………いやその………」
頭が真っ白になる。まさかこんなところで自分の中のトップシークレット(最後の砦)をバラすわけにもいかない。
「…いや、ちょっと様子見に………たまたま新宿に来てたからさ………」
「たまたまって、デートだったんでしょ?」
「いやそーじゃなくて、えーとその、アンジェラに同人ショップの場所とか紹介してただけで…」
「え?ああ、そーなんだ。…そういえばあるって言ってたね、新宿にも同人ショップ」
春日部さんは呆れたような顔をする。
…こういうときにごまかすのが得意だ。そうやっていつも、言いたいことをごまかしてきた。…自分自身にも。
「………じゃ、仕事の邪魔しちゃ悪いから帰るわ」
「あ、そう?」
「うん。…頑張ってな」
「ありがと」
それだけ言うと、店を出た。そのままアンジェラの横を通り過ぎた。
ちょっと後ろめたかった。でも、これでいいと思った。
『マダラメ!』
アンジェラに後ろから声をかけられる。
『どうだった?気持ちをちゃんと伝えられたの?』
『…いや』
『じゃあ、次に会う約束を取り付けた?』
『いや』
歩き続ける。アンジェラがずっと後ろから質問をあびせてくる。
いいのだ。そんなことしなくても、あの人が元気で頑張ってたらそれでいいのだ。
自分に言い聞かせる。だから、自分の想いなど言わなくたっていいのだ。
『…じゃあ何を話してたの?』
『仕事頑張れ、って』
『それだけ?』
『うん』
短く答えると、アンジェラに肩をつかまれた。
『何で言わないのよ!』
『いいんだよ。言わなくても』
『良くない!』
『何でアンジェラにそんなこと決められなくちゃいけないんだよ!』
『だってあなた、ひどい顔してるもの』
アンジェラがまっすぐこっちを見つめてくる。いたたまれなくなって目をそらした。
『………いいんだよ。俺のことは』
『どうして自分をないがしろにしようとするの?どうして自分の本音をごまかそうとするの?』
『………………………』
本当は自分でも分かっている。でも、状況や立場によって、本音を言えない時なんかたくさんあるのだ。別に恋愛に限ったことじゃない。
だから仕方ないのだ。だからいいのだ。
『…ごまかしてなんかない』
ようやくそれだけ言った。
『嘘よ。また自分に嘘ついてる』
『嘘ついてなんかない』
『それがもう嘘じゃない』
『…嘘つかなきゃならんときもあるだろ?』
『そうね。でも自分に嘘をつきつづけるのは良くないわ』
『………………………』
『そうやって自分を傷つけるのはやめて。自分に対してひどいことしてるわ』
『………言ってることが良くわからん』
『わかった。じゃあわからせてあげるわ。この辺りに大きい鏡のある場所はあるかしら?』
アンジェラは急にそんなことを言い始めた。
『…は?大きい鏡?』
『そう、できれば個室で。あ、あそこならあるかしら』
アンジェラは自分の手をつかみ、ぐいぐい引っ張ってゆく。
『え?ちょ、どこ行くの?』
アンジェラに連れられて入った入り口には、こう書かれていた。
ご休憩 ¥7000〜
ご宿泊 ¥10000〜
HOTEL PINK BOARD
『!!!!!?????』
状況を認識したのは、もう連れ込まれた後だった。
『……………何で俺はこんな所にいる!!!』
とりあえず叫んだ。個室の中で。
『アハハ、このベッド回るんだって。アハハハハ!!!』
アンジェラは上機嫌でベットをぐるぐる回している。
『アハハ、ちょっと目が回っちゃったわー』
『…そりゃあんだけ回したらな………』
この事態に頭がついていかない。とりあえず備え付けの小さいソファに座り込んだ。
『…で、その…あの…何でこんな所に?』
『そうそう、鏡のある所に来るのが目的だったんだわ』
『…………………鏡?』
アンジェラが壁の取っ手をガラガラと引くと、横長に大きい鏡が出てきた。
………本来アレなことをする時に使うものらしい。
『ホラ、この鏡のところまで来て』
『………………………』
よく分からないが、とりあえず鏡のところまで行く。
『この鏡の前に立って。そうそう。何が見える?』
『は?』
『鏡には何が映ってる?』
『…俺とアンジェラが映ってるに決まってるだろ』
『そうね。あなた自身が映っているわね。自分をもっとよく見て』
『………………………』
よく分からないままアンジェラの言うとおりに自分の姿を眺める。
朝に顔を洗うときなどに毎日見ている顔だ。アンに振り回されまくって、今日は特に情けない顔をして突っ立っている。
『………で?だから何なんだよ??』
『あなたは自分が好きかしら?』
『ええ?』
『鏡のほうを見ていて!あなた自身に向かって問いかけてみるの』
『………………あの〜〜?何で…』
『いいから、ホラ言ってみて。自分に”好きだ”って』
鏡の中の自分を見ていると、鏡の中のもう一人の自分がこちらをじっと見ているような錯覚に陥り、なんだか居心地が悪い。
(つーか、何かの変な宗教みたいなんですけど…)
怖くなってきたが、ここを切り抜けるいい言い訳も思いつかない。
『どうしたの?』
『…いや、その。何か変じゃない?こんなの………。』
『言えないの?』
『いや言えないっつーかその、普通わざわざそんなこと言わないって…』
鏡から目をそらし、下を向いた。
『だから自信が持てないのね。自分のことをちゃんと見れてないから』
『………………』
『自分の弱い部分を見るのが嫌?でも、それじゃいい所だって見えやしないわ』
『………………』
『まず自分が自分を認めてあげなきゃ。そうでなきゃ、自信なんて持てないわ。だから自分が好きって言えないのよ』
『………………………言えない』
『…誰かに好きって言われたことない?私以外で』
『………ないよ。モテたことねーし』
『だからかしら?私がどれだけあなたに、あなたの魅力のことを話しても信じてくれなかったのは』
鏡ごしにアンジェラのほうを見た。アンジェラはいたって真剣な顔でこっちを見ている。
『マダラメ』
『はい』
『私はあなたが好きよ』
『………………………………』
『少なくとも私にはモテてるわ。だから少なくとも、あなたは私に好かれるような人間なのよ』
『………………』
『だから自分自身にも言って。好きだ、って』
『………………………………………い、言えない』
『言って。ちゃんと自分の目を見て』
急に肩が震えた。ちゃんと自分の顔が見られない。
何故だろうか。春日部さんや、アンジェラに言うのとは訳が違うのだ。そんなに難しいことではないはずなのに。
ここを切り抜けるためにさっさと言ってしまえばいいのに。そうすればアンは納得するのに。
…そうか。不意に思いが至った。
自分には嘘をつきようがないからだ。というか嘘だとわかってしまう。当然のことだが。
もう一度自分の顔を見る。ひどい顔をしているのが分かった。
何故こんなに悲しそうなんだろう?自分に問いかけてみる。
さっきアンジェラに言われたことを思い出した。
”そうやって自分を傷つけるのはやめて。自分に対してひどいことしてるわ”
あの言葉が、今さらながら胸に来た。
『…どうしたの?何を考え込んでいるの?』
アンジェラがさっきよりも優しい口調で聞いてきた。
『………俺、ひどい顔してるな』
『そうね。すごく悲しそうだわ』
『………自分に対してひどい事してたから?だからこんな顔になっちゃったのか』
『そうね。でも目の奥を見て』
『………?』
『優しそうな目をしてると思わない?』
『………………………うん』
『本当は素直になりたいと思ってるんじゃない?』
『………うん』
『でも今までは素直になれなかった』
『…まずは、自分を認める………………』
『そうよ。あなた自身のことなんだから。まずはあなたが好きになってあげなきゃ』
『………………………』
鏡の中の自分を見つめる。さっきよりましな顔になったと思った。
アンジェラが何度も繰り返し言うくらいだから、少しは魅力とかいうのもあるのだろう。
『”自分が好き”………』
つぶやくと、鏡の中の自分の顔がぼやけて見えなくなった。
頬をつたって熱いものが流れる。体が内側から熱くなるのがわかる。
………………………
『………………………………………』
小さいソファーに体を沈めて、目をつぶりじっと考え込んでいた。
さっき鏡の前で”自分を認める”というやつをした後、頭がぼうっとなってしまって、不思議な気持ちでいっぱいになった。
興奮するような、それでいて安心するような………。少なくとも嫌な気分じゃない。
いつから自分に自信をなくしてしまったのだったか。昔はこんなんじゃなかったはずだ。
人を好きになって、その想いが強くなるたびに自分の弱い部分ばかり気づくようになって、自己嫌悪に陥るようになって、一人で落ちていたのだ。
そうやって落ち込むたびに自信をなくしていったような気がする。
アンは一体どんな魔法をかけたのだろうか?癒しの特殊能力でもあるんだろうか?
何故こんなことをしてくれるのだろうか?…そう問いかけると、好きだから、と言われた。
誰かに認めてもらうだけでこんなにも違うものなのだろうか。
ベッドではアンジェラが横になり、枕をかかえてごろごろしていた。
『窮屈だから』と言って、ぴったりしたワンピースを脱いでしまって下着姿になっている。
視界の隅でぼんやり見ながら、さっきから続いている穏やかな気持ちの余韻に浸っていた。
『マダラメー、今フロントに電話したわ、泊まりに変更するって。英語だったけど何とか通じたみたい』
『………………うん』
『ふふ。せっかくホテルに泊まるんだから、セックスでもする?』
『………………………………いや、いい』
『あら、いいの?』
『…今そういう気分じゃなくて………』
いつもの自分ならこの状況に頭が真っ白になって、うろたえるはずだが、何故かひどく落ち着いていた。
素直になって余計なことまで考えていないせいだろうか。
『じゃあ寝る?』
『うん』
『そっちだとゆっくりできないわ、小さいソファーだもの』
『いや、ここでいい………』
『こっちの方が広いわ』
そう言ってアンジェラはソファーまで近づいてきて、自分の手をとった。
そのままベッドへ連れて行かれる。
『ベッドで寝ましょう。元々、二人で寝られるようにしてあるんだし』
『………………………』
『襲いかかったりしないから、心配しないで』
アンジェラはクスクス笑いながらベッドに横になる。
自分も、ベッドサイドに眼鏡を置き、アンジェラに背を向けるようにしてベッドに横になった。
背を向けるのは失礼かと思ったが、さっき春日部さんと会ったばかりでアンジェラとそういうことになる方がアンジェラに失礼かと思ったのだ。意思表示のつもりだった。
目の前の壁をじっと眺める。今日は色々あって疲れた。瞼が重い。
うとうとしていると、後ろから手が伸びてきて自分の胴に回された。
『………………………』
『おやすみ、マダラメ』
すぐに後ろから寝息が聞こえ始めた。
ぴったり抱きしめられていると、何か背中に柔らかいのがあたっているのがわかる。
『………………………………………(汗)』
変に意地張ってもったいなかったかな、とか一瞬考えてしまう。
(いやいや。変な意地じゃなくてだな、ここは男としてだな。って誰に言い訳してんだ俺は。
いやいや。さっき素直なキャラでいくって決めたじゃねーか。言い訳はナシ!もったいなかったよな!!
でもカッコつけちゃったので今さら言えません。………変わってねーなー俺…)
思わず笑いそうになる。
変わってない。自分はやっぱりこうなのだ。でも今はそれでいいと思える。無理してないと分かる。
だんだん視界がぼんやりしてくる。そのまま目をつぶった。
………………………
目が覚めると、派手な色の壁紙が見えた。
(………………?)
一瞬どこにいるか分からなかった。しかしすぐに思い出した。
自分のお腹に白い手が回されたままだ。
アンジェラを起こさないようにゆっくりと手をどけ、体を起こす。
ずっと下敷きにしていたほうの手が痺れている。眼鏡をかけ、しばらくベッドに座ったまま、頭が目覚めるのを待った。
「………………………」
アンジェラはあどけない寝顔で寝ている。淡い色の金髪の髪が頬にかかって、寝息をたてるたびにわずかに揺れる。
白い肌や、均整のとれた豊かな体つき。長く伸びた足。
綺麗な人だと思った。こんなに綺麗な人が、自分のことを好きと言ったのだ。
ふと、寝ている間じゅうずっと抱きしめられていたことに気づく。
何故か急に、胸が苦しくなった。
「………………………………………」
(………でかい胸だな。これがずっと背中にあたってたのか)
(………つーか、下着姿だし。あんまりじろじろ見んのも………(汗))
今さら妙な気分になってきそうだったので、とりあえずベッドから降りて顔を洗いに行くことにした。
アンジェラとホテルを出て、とりあえず歩く。今日は珍しく天気が良かった。少し暖かい。
『さて、これからどうする?』
アンジェラは相変わらずきびきびと歩きながら、笑顔で聞いてくる。
その笑顔に妙にどぎまぎしながら、答える。
『…とりあえず朝飯?』
『そうね!まずはご飯よね!』
『朝から元気だなぁ』
『だってこんなにいい天気なんだもの!気持ちいいじゃない?』
『…そうだね』
確かに今日は心が軽い。重い気持ちを、昨日の曇り空とともにどこかに置いてきたかのようだ。
目についたファーストフード店に入り、アンジェラと朝のセットを頼んだ。
『どうしたのマダラメ?私の顔に何かついてる?』
『へっ!?』
アンジェラが不思議そうにこっちの顔を覗きこんでくる。ビクッとなり、思わず目線を下にそらしてしまう。
『あ、あーいや………美味しそうに食べるなーって………』
『このハムエッグトーストがとっても美味しいから〜〜』
アンジェラはニコニコしながら言う。その笑顔を見ていると、何だかこっちも嬉しくなってくる。
『…そりゃ良かった』
店を出て、ぶらぶらと歩いた。日曜なので人が多い。
アンジェラはその中をきびきびと歩く。歩いていく先を人がよけるように道ができる。
(………いつ帰ってしまうんだろう?)
ふとそう思ったが、何だか聞けない。昨日とは全く逆のことを考えている。
さっきから変な気分だ。いったいどうしてしまったのか。
アンジェラの半歩後を歩きながら、自問自答する。足元がフワフワする。
『………アンジェラ』
ふと気づくとアンジェラと少し離れてしまっていたので、呼び止める。
アンジェラがこっちを向いた。
『ん?どうしたのマダラメ』
『あ、えーと…。今日はゆっくりできるの?』
『ええ、今日のところはね』
『…そっか』
聞きたかったことを聞けて、ほっとする。…浮き足立つような気分になる。
『さて、時間もあることだし。どうする?』
『うーん………。とりあえず歩くか』
『そうね。歩くのは楽しいものね〜』
アンジェラは本当に楽しそうに歩いている。その早足に追いつくように足を動かしながら言った。
『………アンジェラは何をやってるときも楽しそうだな』
『何事も楽しまないとね。人生一度きりだもの!』
『そうねぇ………………』
こんな人とずっと一緒にいられたら、本当に楽しそうだな、と考えた。
そして、そんなことを考える理由にようやく思い至り、妙に納得してしまった。
(…ああ、そうか………。だから………………)
『………アンジェラ』
『ん?』
アンは笑顔のまま振り向いた。まっすぐな視線に、妙に気恥ずかしくなる。
『………………今から行きたいトコがあるんだけど』
『あら、どこかしら?』
アンはニコニコしながら問いかけてくる。その顔から視線を逸らさないようにしながら言った。
『………春日部さんの店に』
昨日も来た場所に、俺は再び立っている。
あと数メートルも歩けば店に着く。
数分前、アンに、再びここに行きたいという話をした。
『あら、ようやく決心が固まったのかしら?』
『ん、まぁ………』
『じゃ、すぐにでも行きましょ。「オモイタッタガ………」えーと?』
『「吉日」』
『そうそう、それ!』
アンジェラは嬉しそうに笑う。
『…じゃ、行ってくる』
昨日のように少し離れた先から、アンと店の中をのぞいてみた。
まだ午前中だからだろうか、開店直後だからか、店内は昨日より空いているように見えた。
『マダラメ』
『ん?』
『今日は、昨日よりずっといい顔してるわ』
『…そっか』
『行ってらっしゃい』
『うん』
小さく深呼吸して、店に向かって歩き始めた。
心の中に、はっきりとした一つの決意があった。そのために今、こうして歩いているのだ。
昨日アンジェラに言われたことを思い出した。
(………”自分を認める”………自分に嘘をつかない………)
今日はごまかしはナシだ。
店に入ると、また「いらっしゃいませー!」と大きな声をかけられる。
昨日もいた店員の人がこっちに気づき、「あれ?」という顔をする。顔を覚えられていたようだ。
「あ、かす…。店長さんいますか?」
その店員の人に声をかける。
「はい、今店の奥に…。呼んできましょうか」
「お願いします」
店員の人は少し小走りで店の奥へと入っていった。
ほどなくして、春日部さんが出てきた。
「や、やあ」
「あれ?あんたどーしたの?また新宿来てたの?」
「いやその、えーと…」
春日部さんは不思議そうな顔でこっちを見る。
どう説明したものか。思わず店の外のアンジェラのほうを見る。昨日と同じことをしている。
「あれ、もしかして昨日は泊まったの?」
春日部さんはこっちの服とアンジェラのほうを交互に見ながら言った。昨日と同じ格好だから気がついたのだろう。
「あー…、まぁ………」
「ふーん、朝帰り?ほーーー…やるじゃん」
「…うん、まあ」
「へーーー!ほーーー!」
相変わらず、こういう話題の時はすごく嬉しそうな顔で食いついてくる。
春日部さんらしいと思った。
「…春日部さん」
「ん?」
春日部さんは嬉しそうな顔の余韻を残したまま、こっちの顔を見てきた。
(…もう覚悟は決めたはずだ。言うぞ!!)
「………………俺」
「うん」
「アンジェラと付き合うことにしたんだ」
「は?」
春日部さんは目を丸くした。
「へえ…あ、そう」
「うん。それだけ!仕事頑張ってくれたまえ!!」
「は?ああ、ありがと…」
「じゃ!!」
そう言ってさっさと店から出た。長居は無用だ。
………我ながら変な人だと思いながら、アンジェラの元までまっすぐ歩いていった。
『言いたかったこと、言った?』
『言った』
アンは笑顔を作ったが、ふとその笑顔に憂いが混じったように見えた。
『そう…すっきりした?』
『うん』
『よかったわね、マダラメ』
『うん。それで、あの………………』
さっき言ったことをアンにも言おうとすると、アンはさっさと歩いていってしまった。
『アンジェラ?』
『………………………』
アンは返事をしてくれない。急に変化した態度にびっくりしながら、アンジェラの後を急いで追いかけた。
『アンジェラ?ど、どーしたの?』
『良かったわね、マダラメ』
アンはさっきと同じことを繰り返した。歩くスピードが緩まらない。
『本当に良かったわ!すっきりして』
『はあ…おかげ様で』
『じゃ、私の役目は終わったことだし、もう帰ろうかしら』
『ええ?か、帰るの?』
『そうだ、昨日マダラメの部屋にネックレス忘れたから、取りに行くわ。その後に帰る』
『そ、そう…』
アンは早口で一気に言った。聞き取るのに苦労する。
(………つーか、何か怒ってる???何で?)
駅へと向かうアンの早足に必死についていきながら、首をかしげた。
電車に乗り、駅で降りる間、アンはずっと不機嫌だった。
何か話しかけても投げやりな相槌を打つばかりで、会話にならない。
自分の家へと向かう間、急に気持ちが焦り始めた。
(そうだ、忘れ物を取りに行ったら、その後は帰ってしまう気なんだ)
伝えなければならないことがあるのに。
………歩いているうちに橋に差し掛かった。昨日アンとダイブした橋だ。
川の水は相変わらず濁っている。ただ、今日は天気がいいので、水面は日光を受けて少しキラキラしていた。
『アンジェラ!ちょっと待って』
橋の上で、少し大きい声で呼び止めた。
アンは振り向く。表情が硬い。やはり何か怒っている。
『…何か怒ってる?』
『怒ってなんかないわ』
『怒ってるだろ。さっきから態度が変だし』
『………………………』
『何でそんな嘘つくの?ていうか何をそんなに怒ってんだよ??』
『…嘘なんかついてないわ』
『じゃ、何でそんなに悲しそうなの?』
アンジェラは顔を歪めた。怒っている顔というより、何か悲しんでいるような顔だと思った。
『………自分に嘘つくな、って言ったのはアンジェラじゃねーか』
そうだ。それを教えてくれたのはアンジェラだったのに。
どうしてごまかす必要があるのだろう?
『…だって、私はもう必要ないもの………』
アンジェラは小さい声で言った。
『え?必要ない、って…?』
『マダラメがすっきりして、前に進んでくれたら、私の気は済んだの。それで良かったのよ』
『………………………………』
『明日にはアメリカに帰るし。もう思い残すこともないわ』
『え………』
頭が一瞬真っ白になる。
(………アメリカ帰っちゃうのか)
(また失恋??いやちょっと待て…でもアメリカ帰るんじゃ…いやだから!
今言っとかないともう言えなくなるんだぞ。また同じパターンに!そーすっとまた悩むんだぞカンベンしてくれよ俺(汗))
混乱したまま、とりあえず聞き返す。
『あ、アメリカ帰るの………?』
『ええ。明日の朝には』
『え…今度はいつ………』
『わからないわ』
『………………そうか』
(いや違う。そんなことが言いたいんじゃない。状況がどうとか、タイミングがどうとか、どうでもいい。)
…もう、自分をごまかすのはたくさんだと思った。
『………さっき、春日部さんに………』
『え?』
『春日部さんに言ったんだ』
『好きだって?』
『………いや』
『…いえ、やっぱり聞きたくないわ』
『アンジェラと付き合うって言った』
アンジェラは驚いた顔でこっちを見る。その顔が、不意に………。
また悲しそうな顔に戻った。
(あ、アレ?)
『………どうして?』
アンジェラは悲しそうな顔をする。少しは喜んでくれるかと思っていたので、アンジェラの表情に焦る。
『え!?いやその、どうしてっていうかその』
『もう明日にはアメリカ帰らなくちゃいけないのに』
『えーとでも、さっきはそれ知らなかったからつい………じゃなくてだな!』
アンジェラはこっちの顔をじっと見てくる。
『………………自分に素直になったら、思わずそう言っちゃったんだよ………』
(………や、やっぱ見切り発車はマズかったかな………)
沈黙が痛い。さっきからずっと変な汗が出てくる。
『………アンジェラ』
『………………………』
アンジェラは横を向いてしまった。複雑な表情をしている。
『えーっと…急で申し訳ないんだけども、昨日までは春日部さんが好きとか言ってたから信用できないかも知れないけど、でも本当に今は自分に嘘ついてないから…俺と』
『無理よ』
『………ぐ』
アンジェラに瞬殺されて言葉を失う。
『だって…』
『………………アメリカ帰っちゃうから?』
『それだけじゃなくて………』
『…好きだって言ったのは、あれは………嘘なんか?』
『………嘘じゃないわ』
『じゃあ、何で!』
アンは相変わらず悲しそうな顔をしている。悲しそうなのに、何で拒まれるのか分からない。
『…何で無理なの?別にしばらく離れてしまうのはいいけど仕方ねーけど…。
でも断られちゃうんはキツイっつーか、また失恋かよ!っつーか、あーもーーーーー!
アンジェラに振られたら俺、また凹むぞ!
また悲しい顔するぞ!!何年でも引きずるぞーーー!!』
拳を握って殺し文句を…いや、脅し(?)文句を………力説する。
他の女の人に言ったらどっ引きされそうだが、アンジェラには伝わるんじゃないかと思ったのだ。
『………また凹むの?私に振られたら?』
『そうね………………』
『………ちょっと待ってて』
アンジェラは胸の谷間からすっと携帯を取り出し、操作して電話をかけ始めた。
そんなところに携帯入れてたの?と、心の中でツッコミを入れていると、アンジェラの電話がどこかへ繋がったようで、元気に会話し始めた。
『ハイ、パパ元気?私は絶好調よ!
ところでパパ、明日からの予定なんだけど、もうしばらく日本にいることに決めたから!
え?そうね、ええ、わかってる。…ごめんねパパ、今回のパパの誕生日には帰れそうにないわ。旅行もキャンセル。
…だってモナリザはルーブルから逃げないもの。生きてるうちに会いに行けばいいわ。
あと、例の社長の息子だけど、私の趣味じゃないのよね。ええ、たくましいしモテるみたいだけど、私は苦手なの、あの男。
たった今ステキな彼ができたところだから!そう、前に言ってた人。早くパパにも見せたいわ!
………ええ?どうしても無理なのか、って?ごめんなさい。マイハニーは寂しがり屋だから、目が離せなくて。
ええ、埋め合わせは必ずするわ。パパの娘なのよ、信じて!じゃ、愛してる。それじゃーね!』
早口で一気に言うと、電話を切った。
『ふう!これで大丈夫』
『………………………………………………………………………………』
(何か今、聞き流せないワードがいくつもあったような)
固まっていると、アンジェラはにっこりと笑いかけてきた。
『これで当分日本にいられるわ!』
『…いいの?その………パパの誕生日がどーとか………』
『今回は仕方ないわね!』
『………………本当にイインデスカ(汗)』
『私が残りたい、って思ったのよ。他に必要な理由があるかしら?』
アンジェラはまたニコニコしている。その顔を見ていると、こっちも思わず笑ってしまう。
『…はは』
『どうしたの?』
アンジェラは不思議そうに聞いてきた。
『いや、アンジェラ見てるとこっちも楽しくなるからね』
『そう?………さて!明日の予定もなくなったことだし、これからどうしましょうか?』
『んーーー…と?…とりあえず家まで歩くか?ネックレス取りにいくんでしょ?』
『そうね!家まで行って…ついでに昨日の続きでもする?』
『え?昨日の…って、何?』
『フフッ』
アンジェラは含み笑いをする。
『?????』
『さあ、行きましょうか!』
『え?ああ、うん』
アンジェラは颯爽と歩き始める。
自分も、追いつこうとして早足になる。
横に並んで二人、歩いてゆく。
今日は珍しくいい天気で、風も少し暖かく感じる。
橋を渡りきる前に、相変わらず濁っている川の方に目をやった。
冬のわりに強い日差しを受けて、川の水が少しだけ透き通って見えた。
END
***
あとがき。(37レスでした)
長文すいませんでした。元ネタにした映画、けっこうベタな展開なんですが、でもいい話なんで、良かったら見てみてくださいー。
あと斑目が普通に英語喋ってるのは大野さんからスパルタ教育受けたとか、そんな感じで…。
>>アンジェラ
映画のアンジェラは見てませんが、映画のパロなんですか?
読み進むうちに、ホロリときたり不安になったり、引き込まれました。
斑目…(涙)。斑×アンもいいですね!
長編、おつかれでした!!
>>ザクロ
荻上さんが本当にかわいかったです。
落ちがまたいいなぁ。
>>アンジェラ
私は斑×アンの信望者ですが、自分では書けません。
この話、本当にいいなあ。
アンジェラはいい女だなあ。
斑目もいいヘタレだなあ。
斑目、これからまだ苦労するだろうけどがんばれ。
久々にSS書いた。
結構長い間頭の中にあって書いてみたかったものです。
大体9レスぐらいです。
5分後ぐらいに投下します。
もうすぐ冬が過ぎ、春が訪れそうな季節の頃。
大学の卒業式も目前に迫る中、笹原と荻上の二人は道を歩いていた。
夜もふけ、人通りもない。歩道もない狭い路地をのんびり進んでいた。
まだ残る寒気を帯びた風が吹くたびに、震える二人。
「まだ寒いね。」
「そうですか?実家の方じゃこのくらい・・・。」
そのタイミングで寒い風が吹く。
それにつられて荻上は体を震わせた。
「ははは。やっぱり寒いよね。」
「・・・ですね。」
恥ずかしそうに顔を背ける荻上に、笹原は優しく笑う。
「やぁ、しかし早かった、もう卒業かあ。」
「・・・そうですね。もうですよ。」
二人はその後、言葉もなく歩く。
これが普通になってもう半年近くがたつ。
慣れてきたともいえるこの状況は、二人にとって幸せに違いない。
だが、それももうすぐ変わる。
「卒業したら、もうこんなふうには・・・。」
そう独り言のようにボソッと呟いてしまい、目を見開いて口を覆う荻上に、
笹原は困った顔で苦笑いを浮かべるしかなかった。
「んー・・・。ごめんね?」
「何謝ってるんですか。笹原さんは別に何も悪くないでしょう。」
「でもね・・・。」
「・・・すいません。謝るのは私のほうでしたね。」
「・・・それもなんか違うと思うんだけど・・・。」
卒業も間近になり、少し今までと違う雰囲気になっていたのは確かだ。
今後のことを、不安に思う気持ちが、彼らを覆っていた。
「・・・でも・・・。」
「まあ、なんとかなるよ。うん。」
「・・・ですね。」
頭では納得はする。しかし、何かすっきりはしない。
また無言。二人は歩く。どんどん歩く。
少し時間がたった後、笹原は後ろに気配を感じ、振り向く。
車の音が近付く。
「危ない!」
叫びと共に押された荻上は壁に叩きつけられる。
「いたっ・・・。」
一瞬何が起こったのかは分からなかった。
目の前で、笹原が車にぶつかり、倒れる様が見えた。
車は一瞬速度を落としたようだったが、そのまま走り去って行った。
「え・・・。」
その場に、ぺたんとへたり込む荻上。
人気もない路地。目の前には一人の男が倒れている。
「笹原・・・さん?」
動かず、返事もない。
一瞬、呆然として何をすればいいのか分からなかった。
「笹原さん!」
飛び出すように笹原に近付く。目は閉じられたまま。頭からは・・・。
「血・・・!・・・きゅ、救急車・・・!」
手が震える。鞄の中の携帯を探す時間も長く感じた。
「えっと・・・。」
119。この三桁を押すのでさえなかなか手が動かなかった。
心臓が絶え間なく動く。鼓動が、大きく聞こえてくる。
『はい、救急センターですが。』
「あ、あの、事故が!事故がありまして!」
急がなくてはという想いが心を占め、口が早くなる。
『はい、住所をお願いします。』
「えっと、えっと・・・。」
住所なんて分かるはずもない。焦りだけが募り、頭が真っ白になる。
『近くに電柱はありませんか。落ち着いて。』
周りを見渡すと、すぐに目的のものは発見できた。
ようやく住所を告げ、電話は切られた。
「笹原さん・・・!」
涙目になりながら、笹原の手を握る荻上。遠くから、救急車の音が聞こえた。
「軽い脳震盪?頭の傷も深くはないって?」
荻上の連絡で駆けつけたメンバー達。
咲が、荻上の言葉にホッとしたような顔をした。
「ふぅ。荻上の連絡があったときには驚いたけど・・・。
まあ、不幸中の幸いだね。」
「ええ・・・。意識はまだありませんが・・・。
4、5日検査入院だそうです。」
「ひき逃げだって?全く・・・。いやな世の中だな。」
田中が神妙な面持ちで話す。
「全くです!犯人は絶対に見つけて欲しいですね!」
大野が怒りに満ちた表情で声を荒げる。
「・・・。」
荻上は俯き、言葉を発しない。
「家族には連絡したの?」
「・・・はい。一番最初に恵子さんに。」
「・・・あのバカ、何でこんな時にすぐ来ない・・・。」
その言葉を咲が全て出し切ろうとしたその時、恵子が姿を見せた。
「・・・兄貴、どうなの?」
いつもない真剣な表情を見せる恵子に、咲は少し戸惑う。
足が、小刻みに震えているのが分かる。
「・・・なんだ、あんたどうなったか知るのが怖くてすぐ来れなかったのか。」
「う、うるさい!で、どうなんだよ!」
「・・・軽い脳震盪だそうです。傷も・・・浅く・・・。」
「じゃ、じゃあ命は・・・。」
「大丈夫ってこと。親御さんは?」
咲が笑顔で言うと、恵子はその表情を崩す。
「・・・一応留守電に入れといた。二人ともまだ仕事だろうし・・・。」
「そう。じゃあ、もう一回入れておきな。命に別状はないって。」
「ん。分かった。・・・よかった・・・。」
携帯を取り出し、電話をする恵子の呟きに、咲が笑う。
「ぷふっ、あんたもなんだかんだ言って・・・。」
「うー、うるさいって!・・・あ、お父さん?うん。大丈夫だって。
お母さんも一緒?これから来る?わかった。」
段々緊張も解けてきた皆のなかで、荻上はふっと足を外に向ける。
「・・・どうした?荻上さん?」
その姿に気付いた斑目が声を掛ける。
「・・・すいません。ちょっと風に当たってきます。」
「・・・あ、ああ。」
そのまま、外へ出て行ってしまう荻上。
ただならぬ雰囲気にちょっと腰が引けた斑目。
それを見ていた咲が、すっと前に出る。
「まーたあの子、何か抱え込んでるな。」
「・・・どうしましょう?」
「・・・ここはあたしに任せてよ。」
恵子が咲と大野に告げる。
「あんたが?喧嘩しないでよ?」
「だ、大丈夫だって。兄貴のこと、礼も言いたいしさ。」
そういって、荻上のあとを追いかけていく恵子。
「・・・こんなところにいたんだ、お姉さん?」
少しおどけるように、荻上に声を掛ける恵子。
病院の中庭で、荻上は空を見上げていた。
その声にはっと振り返って、恵子の顔を見る荻上。
「・・・お姉さんじゃありません。」
「まあまあ、いいじゃないの。ありがとうね。」
「・・・・・・なんのことですか?」
その言葉に、面食らったように言葉に詰まる恵子。
「いや、兄貴のことに決まってんじゃん。」
「・・・助けてもらったんです。こっちが・・・礼を言わなきゃ・・・。」
「ああ、そういうこと・・・。」
思いつめたような荻上の言葉に、恵子は少し笑う。
「何がおかしいんですか。」
「なんとなくどういう状況だったかは分かったよ。
兄貴ならそうするだろうなって思ってさ。」
「・・・そうですか。」
ふいっと、恵子から視線をはずす荻上。
「それで気に病んでんの?」
「それもあるんですけど・・・。
・・・今の自分がどれだけ幸せか、認識したんです・・・。」
「はぁ?」
何を言っているのか恵子には分からなかった。
しかし、それに構わず荻上は言葉を続ける。
「笹原さんが本格的に仕事を始めたら、今までのように会えなくなる。
そのことに、少し不安を感じていたんです。」
振り返り、恵子のほうを見る荻上。
その視線は、あくまでも真剣だ。
「でも・・・。そんなこと、今までに比べれば大した事じゃない。
今回のことで・・・、笹原さんがいなくなったら、って思ったら・・・。
一人だった頃のことを思えば・・・。
私、幸せすぎて、そのことを見失ってたんです。
・・・自分が、すごくイヤになりました。」
その言葉に、恵子は不思議そうな顔をし、頭をかいて声を発した。
「・・・まー、人間そんなもんじゃねーの?
一つ手に入れたら次ってなるじゃん?
あたしはそーなるけどね。
でも、そんなに怒られたりしないよ?
やりすぎてしかられることはあるけどね。」
笑って荻上に近付く恵子。
「いいじゃん、少しワガママでもさ。
あんたちょっと自分に厳しすぎない?
今回もさ、無事だったからいいじゃん。」
「・・・あなたは、もう少し責任感を持った方がいいんじゃありませんか?」
「あー、いったね!?」
そういった後、二人は笑う。
「・・・さ、ここ寒いじゃん、向こういこうよ。」
手を伸ばし、恵子は荻上の手を取る。
「・・・はい。」
「そー言えばそろそろお父さんたち来るかな?
あ!もしかして初対面!?」
その言葉にドキッとする荻上。
「え、あ、そ、そういえば・・・。」
「大丈夫大丈夫だって、二人ともゆるいからさ〜。」
この恵子にゆるいといわれる二人の両親とはどんな人なのだろうと、
少し想像しておかしくなった荻上であった。
「あ〜、ごめんね。」
翌日。目覚めた笹原の横には荻上がいた。
無言で、不機嫌な顔をする荻上に、言葉が出せなかった笹原だったが、
ようやく声を出すことが出来た。
「・・・なんで謝るんですか?」
少し棘のある言い方で、荻上は視線を手に持ったりんごに向けている。
りんごは綺麗に剥けて行く。
「あ〜、心配かけたかなって・・・。」
「でも、それは私を助けたからじゃないですか。」
「ま〜、それはそうだけどさ・・・。」
荻上がどうして不機嫌なのかをつかめずにいる笹原は、
物凄い居心地の悪さを感じていた。
「・・・約束してください。」
りんごを剥き終えて、それを皿にそろえた後、
荻上はようやく声を自分から発した。
「え?」
「次こういうことがあったときは、私だけを助けないで下さい。」
「え、で、でも・・・。」
「わたしひとりになったら、それもいやですから。」
「・・・あー、でもなあ・・・。」
「二人とも助かる方法を考えてください。」
あまりに真剣な表情で話す荻上に、笹原は戸惑う。
「でも・・・。」
「ここは、うん、と言ってくれればそれでいいんです!
もし仮にそういうことがあって、出来なくてもいいんです!
いま、そういう約束をするってことが大切なんです!」
少し涙目になりながら荻上は捲くし立てる。
「・・・うん、わかったよ。」
「・・・はい。」
そうして、二人はようやく笑って、いつもの状態に戻った。
「あー、りんご食べようかな・・・。」
「・・・はい。」
荻上の手が、フォークを持ち、りんごを刺す。
そして、そのまま笹原の口の方へ・・・。
「あーん・・・。」
「うぇ!・・・うぁ!!」
(こ、こいつは夢にまで見た「あーん」ですか?)
ベタと言えばベタな展開に、笹原は興奮する。
荻上も、顔を真っ赤にしてやっている。
そして、笹原が口をあけて、
「・・・あーん。」
「よう!元気してるか笹原!見舞いに・・・。」
大きな扉の音と共に現れたのはMr.バッドタイミング・斑目氏である。
「・・・。」
「「ま、斑目先輩・・・。」」
無言のまま後ずさり、外に出て、扉を閉める斑目。
「「な、何か言ってくださいよ〜〜〜〜〜!!」」
二人の叫びを扉の外で聞きつつ、心で呟く斑目。
(病院でカップルがいちゃつく・・・。寒い時代だと思わんか・・・・。)
呆然とした顔をして、斑目はその歩を病院の外へと向けた。
「で、お父さんとお母さんとは?」
「・・・普通に挨拶しただけですよ。」
「ほんとー?」
「本当です!!」
「なんだー、
『完士のことよろしくお願いします』
『はい、任せてください』
みたいな会話を期待してたのに〜。」
「何を言ってるんですか!
・・・今度遊びに来てね、とは言われましたけど・・・。」
「をを!マジで!」
「・・・何を大げさに・・・。」
「いや、お父さんがさ、
『今度我が家の新しい一員が来るよ。』
みたいな事いってたから・・・。てっきり新しいペットかと思ってた。
お姉ちゃんの事だったんだね〜。」
「!!」
とりあえず明日朝早いので寝ます。
久々に書いてたら、段々テンションがあがってきた。
楽しかったです。
>段々テンションがあがってきた。
荻上さんバージョンの「テンションあがってきた」は筆か・・・!
466 :
ザクロの人:2006/08/07(月) 17:50:21 ID:???
大物キター。待ってたよ待ってたよ待ってたよ。
まずご返事。みんないつも感想ありがとー。
>>411 笹にはいつまでも「普段はおたおた、要所要所で強気攻め」でいてもらいたいと思います。
>>412 すまんがその電波……すげーイイ。かわいい。そして今こそその電波エネルギーを創作エネルギーに変換するときですよ。
>>413 おお作者氏!恐縮でございます(汗)。1月の作とは『8823』ですね(この数字見るたびに海底人という単語がフラッシュバックするんだが)。もちろん激萌えしております。コレと『影踏み』(こっちは別の作者氏だよね)はセットで必携の逸品。
あんまり語ると「お前それは萌えとかではなくてフェチの域だろう」と言われそうなんで控えますが、以前書いたSSで寝ぼけオギーに笹を「ささはらさん」と平仮名で呼ばせてみたのもこの作品の影響でございます。
>>452 オギー可愛く見えたらありがとうございます。オチ部分も作品化できるかななどと考えたけど、既存作品で『指』という名作があって超えられませんでした。
>>アンジェラ
雰囲気のいい作品ですね。山崎まさよし好きー。映画は未見ですが曲の方はしばらく車でヘビロテしてた。
正直斑目カッコよすぎだがw、いっこいっこ区切りをつけなきゃやってらんないところが彼らしくてよかった。いつか斑目がバリバリバリューに出てくるようなアンの実家で滝のような汗を流す話キボンヌ。
>>promise
弱体化キター!って笹原の方だけど!クライマックスの約束、じんわりきました。俺いま家族いるけど、「守りたい人」とかできると独身の時には考えもしなかった色んな感情が沸くようになるんだよね。あったかくてよい。あとうろたえ恵子かわいかった。
このへんきっかけで怒涛の爆撃を期待。俺も執筆継続中だけど、とりあえずwktkしつつお茶飲んで待ってますヨロシク。
467 :
ザクロの人:2006/08/07(月) 17:55:13 ID:???
>promise
笹原が轢かれたとこ、一瞬ヒヤッとした。荻上さんに感情移入して読んでましたから。
ホント軽い怪我でよかった。そんで、二人がさらに深く絆を深めたのが嬉しかった。
あと、恵子すごくかわいらしいです。怖くてなかなか病院来れなかったり、荻上さんに気を遣って話しに行ったり。いいコだァ。
………でも、あえて言おう。
>Mr.バッドタイミング・斑目 キター!!おいしいよなあまったく…(爆)噴き出しますた。
…さて、「アンジェラ」の感想いただきありがとうです。読んでくれた方、長文スマンカッタ。
>>452 今年の6月に見た映画です。題名に思わず反応して見に行きました。
映画見てない方には伝わりにくい部分もあったと思うんですが(汗)楽しんでいただけたのなら良かったです。
長文読んでいただいて乙ですた。
>>453 斑×アン好きな人がここにも!わーい、ナカーマ!!
斑目はどんどん苦労したほうが萌えます(笑)愛があれば苦労なんて!!
>>466 >正直斑目カッコよすぎだがw
すんません、彼に惚れておるのです。多分3割り増しくらいには色眼鏡通してみてます。
そんでこれからも斑目書き続けると思います。
>アンの実家で滝のような汗を流す話
…実はちょっと考えたことあるので(汗)それもいつか書けたらなァ、と思います。しかしアメリカン家族、ホントにかけるのか…?(汗)
>>promise
これは!一瞬笹原が死ぬかと思いました(汗)。
しかし笹荻だけでなく、恵子といい、斑目といい活きてますね〜。
いいものを読ませていただきました。
470 :
ザクロの人:2006/08/08(火) 06:11:12 ID:???
ほぼ私信だがw
>>468 感想投下した後でおぎおぎサイト巡回したんですが、あなたのサイトににアンジェラがUPされてるの発見して「やっぱりあんただったのかwww」と大爆笑させていただきました。
しかし出稿スピードといい長文構成力といい絵まで描く才能には感服します。元祖マダラーこええw
あとハチクロ読んだよ、面白かった(漫画板が大変なことになってるのも別な意味で面白かったが)。もうじき終わるのかな?こちらも楽しみだ。
……完全に私信でした。ほんとうに(ry
おお!新作がいっぱいじゃないか!
>>ザクロ
わけのわからないまま大野さんにいわれるがまま
荻上さんの家に訪れてしまう笹原がらしくていいですね。
そんな笹原を信頼する荻上さんとの二人の関係がとてもここちよい
>>アンジェラ
作中で描写が少ないアンジェラをよくぞ書ききったものだと感心しました。
斑目がアンに救われるところがいいですねー。
斑目は本音を吐きだせる相手がいなそうなんだよなぁ
次は斑×スーを期待してますw
>>promise
やばい。恵子がいい。
心配でなかなか病院にこれなかったり
荻上さんを慰めるのにわざとおどけてみせたり
いい子だなぁ…恵子。
そして斑目……ww
「斑目君!この書類、付箋か何か付けて回して来ないと、どう処理するか
わからないでしょ!全く…また同じミスしてどうするのよ!」
突然、向かいの事務机の上司である女性事務員のAさんから叱られる。
「え…??いえ、それは………。ス、スミマセン。」
「斑目君、もう2年目なんだしボーっとしてちゃイカンなぁ。」
向こうの机の社長からも声が掛かる。
(えー?付箋付けて社長に回したのに…外したの社長じゃないんか!?)
しかし結局、その日はAさんの逆鱗に触れないように、過剰に気を遣って
緊張のまま夕方の終業を迎えたのだった。斑目は、なんとかムッとした
表情を眼鏡の奥に隠そうと、平静を装いながら仕事を続けた。
実際、斑目は春からボーっとしていた。確かにもともと仕事に燃えて
いるわけでもなく、事務を淡々とこなしていたのだが、さらに何かが
抜けたような雰囲気だった。一言で言うと『枯れた』感じだろうか。
「お疲れ様でした。お先に―――。」
会社から外へ出ると明るい。日は沈んでいるが、頭上には青空が広がる
梅雨入りしたのに全く雨が降らない、6月のある週末のことだった。
(くっそー、濡れ衣で何であんな気を遣わんとイカンのだ!)
斑目は早足で、足音も高くズカズカと歩いていた。
そしてその足が向かった先は、現視研の部室である。
(このまま帰ってもなぁ。誰か飲むなりパーっと散財するなり相手が欲しいわい。)
扉に手をかけると、鍵が開いているのでホッとした様子の斑目。
「…ちーす。今、誰が居るのかな?」
部屋に入ると、蛍光灯がついている。
(良かった、これで今夜憂さ晴らし出来そうだな…。)
斑目がそう思いつつ部室に足を踏み入れると、朽木が一人で座っていて
入り口の方へ振り向いてきた。
「斑目さん!ちょうどいいところに来られましたにゃ〜!」
その手には携帯が握られている。
「おいおい、何の話だっつーの?」
とりあえず斑目も椅子に座り、大きくため息をついた。
「ふーーーーっ。」
「おやおや、斑目さん、仕事のストレスですか?」
朽木が何故かにこやかに話しかけてくるが、斑目はその様子を
あえて見ずに、スルー気味にしている。
「んー、まあね。」
「明日なんですけど、ワタクシめとライブに行きませんか? そのー、
チケットが1枚余ってまして、買って頂けるとありがたく存じます…。」
「――え?えらい急だなぁ。……で、誰の?」
「元UNDER-13のウメーイこと、梅井ハルコ嬢ですぞ!」
「あー、まあ俺もちょっとは聴いてるけど―――。」
そう聞いてガバッと身を乗り出す朽木。
「おおーーーっナイス!オゥイェス!」
斑目はちょっと身を引いて避けようとする。
「じゃあお願いしますね、これチケットです!
明日のライブ参戦に備えて、今日はこのDVD持って帰って
絶対見てくださいませっ!お願いしますにょ!」
ちょっと椅子を引いて距離をとりながら、斑目は財布を取り出す。
「そこまで言うなら、まぁ行こうかー。ぐじアン再アニメ化だしナ!
で、いくら?落としたらまずいから朽木君が持っといてよ。」
「了解であります!5千円になりますっ!」
そうしてDVDを受け取ると、なんとなくワクワクしてきた斑目だった。
部室を後にする二人。
「んじゃ、また明日ね、朽木君。」
「それでは明日は駅前に10時半でヨロシクっす!」
別方向に帰っていく斑目と朽木だった。
(ん?なんか集合時間早くねぇか?会場遠いんかな…横浜とか?)
ふとした疑問が湧き上がったが、仕事のイライラからの逃避が強く働き
すぐに帰って、さっき借りたライヴDVDを見ることを考え始めた。
(コンビにで弁当と、ちょっと良いビールでも買うかな。)
ビールのCM曲を鼻歌で歌いながら、足取りも軽く斑目の背中が遠ざかっていった。
翌日の午後、しっかりした電車のシートに座り呆然とする斑目の姿があった。
その隣にはもちろん朽木が居る。手には某携帯HDDプレイヤーに動画を落とした
物を持ち、熱心に曲ごとの振り付けをレクチャーして来ている。
斑目も流石にウザいような冷や汗が浮かんでいる。
(何故、俺は新幹線に乗っているんだ――。)
「ライヴが名古屋で有るからに決まってるにょ。」
「――!?朽木君、テレパスか?」
「口から台詞が漏れてましたからっ!」
その時、車内販売のカートが車内に入ってきた。
「お弁当、お茶、お土産各種取り揃えております。
浜名湖名物のうなぎ弁当、うなぎパイ、静岡茶はいかがでしょうか。」
ガラガラと近づいてくる。ちょうどお昼の時間も近いので、弁当は
かなり売れているようで、近づく間にも何度も呼び止められている。
「名古屋に着いたらもう遅い時間でずぞ…弁当食いませんか斑目さん?」
「うむ、そうだな。名古屋名物を食いたい気もするが…。まあ食えるっしょ。」
「名古屋名物ですか?どんなのがありますかにゃ〜?」
素で聞いてくる朽木に、苦笑しながら斑目が答える。
「つか、朽木君さー、行くの判ってるのに調べてないの?」
そう言って、しばし車内販売のカートを待つ。
が、うなぎも無ければ味噌カツも無かった。
結局、幕の内弁当2つを買ったが、それも残りわずかだった。
それを食べながら、車窓に目をやると、山の緑が濃い。
しかし旅情も無く、朽木が話しかけてくる。
「名古屋名物ってうわさに聞くと、僕にはキワモノっぽく思えるのですが!?」
「それは食わず嫌いなんじゃねーの?俺も食った事ないけどさ。」
(なんでコレでわざわざ名古屋に行こうとしてるんだろうなぁ。)
「んーそうだな。うなぎに薬味を合わせたり茶漬けにしたりして食べるひつまぶし、
味噌味のソースが掛かった味噌カツに、味噌煮込みうどん、平たい麺のきしめん、
海老天のおむすびの天むす、スパゲティーの変わった食べ方のあんかけスパに、
トーストに小倉あんを付けて食べたり、豪華な喫茶店のモーニングが有名だな!」
「ほうほう?」
「あとは酒のつまみとかでは、手羽先が有名だったり、巫女居酒屋が有るという
噂も聞いたことがあるが―――。」
「イグザクトリィ!それはミーも聞いたことアリマスね!」
「それと、ホントのキワモノ料理ってえなら、 喫茶マウントポジションも
有名かもな。 甘口のフルーツスパゲティーとか 巨大なカキ氷とか、ネタが
豊富らしくてな。量が多いらしいから、俺らだけじゃ無理っぽいけどなぁ。」
おとなしく斑目の説明を聞いていた朽木が口を開く。
「はーい質問!なんで朽木さんはこんなに詳しいんですかにゃ?出身でしたか?」
「いや、会社の先輩が一人、名古屋出身でね…。」
そうして名古屋名物の話をしながら普通の幕の内弁当を食べ終え、ライヴ画像で
振り付けの復習をするうちに名古屋に到着したのだった。
名古屋駅構内に出てきた斑目と朽木。
「そういえば今年のガメリャの映画は名古屋だったよな!」
「はーい僕チン、観に行きましたヨ!」
吹き抜けの広い構内には丸い柱が並び、広告がずらりと並んでいる。
「行き先は大丈夫なんかな?朽木君。」
「こっちでアリマス!………たぶん。」
人波をかき分けながら移動していくと、駅から出て人の流れに乗って歩く。
前方に巨大な細長い人形が見えてきた。水着を着ている。
「これがナナちゃんか―――。」
「なんですか?この巨大なコスプレ人形は?」
「ぶっ!コス………まあ、どうだろうなぁ。萌えない事だけは言えるが…。」
ライヴ会場に関しては朽木の下調べに基づいて地下鉄に乗って移動する。
「朽木君、会場はこの近くなのかな?」
「ノン!せっかくですから、ちょっと夕方まで異邦のオタ文化を楽しみましょう。」
降り立った町は、アーケードの中に洋服店とオタ向けの店が混在する商店街だった。
「確かに、これは不思議な感じだよなぁ。」
食玩のショップや同人ショップをぶらぶらと探索し、メイド喫茶で休憩する。
名古屋に来ても、いつもと同じ休日を過ごす二人だった。
「東京では見かけない同人サークルも有るし、掘り出し物が有ったな。」
「現聴研の成人向けですか〜?でもそれ女性向けではありませんかにゃ…。」
「いや、これはギャグものでな、けっこうイケルぜ。」
(帰ったらこのサークルのサイトに行ってみよう。)
「しかしこうして見ると、東京のイベントだけじゃなくて、名古屋や大阪に
遠征するのも、たまには行ってみたい気がするな。」
「オオ!旅費さえあれば、良いですネ―――!」
そうして時間が迫り、店を出る。
「行ってらっしゃいませ〜、ご主人様。」
また地下鉄で移動してから、少し道に迷いつつ、会場に到着した。
しかし朽木の様子が少しおかしい。
「……あのー、そのー……ま、斑目さん―――。」
「ん?何かな?」
「えー、非常に申し上げにくい……まことに、まっこと申し上げ難いのですが。」
「え?え?何、まさか―――。」
「チケット、忘れてきました!しかも斑目さんの分だけっ!!」
「ぶっ!!!」
反射的に吹き出す斑目。前方に居た他のライブ参加者が訝しげに振り返る。
「おいーーーっ!!どうすんの?ここまで来て!!」
「すみまっしぇん!!斑目さんについて来てもらったのに―――。」
流石の朽木も、少し震えて半泣きだ。こう見えても朽木は斑目を
慕っている方なので、心底申し訳ないと思っているのだろう。
「は、はは!はははは!!まあ、イイッテコトヨ!!」
「え????」
「朽木君、見てきなよ。俺は近くの店で待ってるわ。
終わったら携帯に連絡くれな。」
「それで良いのでありますか!?私も辞退しても―――。」
「それは勿体無いっしょ。俺は大ファンでもないし。」
「うう……斑目さん、一生ついていきますっ!」
「いや、それ迷惑だから。まぁ気にすんな。」
そうして朽木を見送った斑目は、夜の街を彷徨い始める。
(うーん、慣れない街は緊張するなぁ。ていうか予想外の展開…。)
その時、すれ違った金髪の女性の姿に思わずふり返る。
(え?春日部さん!?)
確かに後姿は似ている。思わずUターンしてしまう。
追い越しざまに見てみると………。
(当然だけど、別人だわな。っていうか、俺、まだ引きずって―――。)
名古屋名物を食べようかという目論見も忘れ、しばらくボーっと街を歩く。
ふと気づくと、路地にはハリウッドのアクション映画に出てきそうな
外国の方々が、前方にたむろしている。斑目は慌てて大通りに引き返した。
結局、漫画喫茶に入り、ネット巡回や懐かしい漫画を読んだりしつつ、
ドリンクの飲みすぎで腹がちゃぷちゃぷになって行ったのだった。
やがて朽木から連絡が有り、会場に戻っていくと、汗で上気した人々の
群れとすれ違い、祭りのあとのような寂しさを少し感じた。
「これ、ツアーTシャツです。斑目さんにお土産っス!」
「ん?ああ、ありがと。じゃあ飯でも食って……ってホテル!」
「どーしましたかにゃ〜?」
「かにゃ〜?じゃねぇ!ホテルどうしてるの?そういやさ!」
「あ〜、近くに安くビジネスホテルを取ってますから!ネットの力で!」
「そこは威張るところじゃねーよな…。まあ良かったけど。」
そうしてプリントアウトしてきた紙を取り出して歩き始めた朽木にのあとに
ついて斑目も歩き始めた。
「晩飯、どうすっかね?俺もまだなんだけど。」
「時間が時間ですから、開いてる所が有ったら入りましょうカネ。」
「しゃーねーわな。」
結局15分近く歩き、ホテルが見えて来た時に居酒屋チェーンも発見した。
一旦、ホテルにチェックインしてから行こうという事にする。
さすがに朽木は。ここでもツインじゃなくダブルで部屋を取る。という
大ボケはかまさず、普通にツインで部屋を取っていた。
「もうとことんまでトラブル続きかと思ったけどナ。はは…。」
「そこまでひどくは無いでアリマスよ!!」
そうして結局、東京でも利用していた黒木屋で呑むことになり、
斑目にしては珍しく深酒をしてしまった。
日付が変わるまで呑み続け、朽木に抱えられてホテルに帰ったのだった。
「うう……気分悪りーな………。」
斑目は、目を覚ましてしばらくして名古屋のホテルだと思い出した。
「あ、オハヨーゴザイマス。」
朽木はTVで朝のライダーを見ている。
「あー、昨日どうしたっけ?あんま覚えてねーや……。」
「昨夜は珍しく、斑目さん笑い上戸でしたヨ。」
「ハハ…どーしたんだろね………。」
「もう起きますか?今日は味噌カツとかひつまぶし食べますかにゃ?」
「ぐっ………無理だ、それ。」
そしてトイレに入ると、居の中のものを吐き出すのだった。
TVでは白黒少女のアニメが始まっている。
「うー、俺、もうちょっと寝るわ―――。」
「了解でありますが、大丈夫スか?」
「起きなくてもチェックアウト前には起こしてくれい……。」
そうして昼前まで、ホテルのベッドで寝て過ごしたのだった。
ホテルを出てすたすた歩く朽木と、けだるげについていく斑目。
「帰りの時間が迫ってまいりました!」
「は?帰りの時間って?」
「イェス、サー!帰りの新幹線は指定席で取っているでアリマス!」
「いや俺、何も名古屋らしい物、食ってねーんだけど…。つか早くない?」
「早いのは、ライヴで疲れてると思ったからでして。あと食べるのは、名古屋駅の
近くですぐ見つかれば、いけると思われ!」
「あ、でも濃いものは無理だな………。」
朽木は斑目が寝ている間に、コンビニで弁当を買ってきて朝食を食べている。
「あー………もう帰ろっか………。」
そうしてぐったりと新幹線で帰る斑目と朽木だった。
「夜ご飯に食べてくださいにょ。」
朽木の思いやりで、味噌カツ駅弁を鞄に入れてもらう斑目は少しホロリと来た。
しかし新幹線を待っている間に、朽木は一人で新幹線ホームの立ち食い処で
きしめんを食べ、新幹線内では松坂牛弁当を食べていたのだった。
その間、斑目はポカリをすすって胃の回復を待つしかなかった。
「あー、朽木君と二人旅はいかんな…マジで!」
「えーっ、そんなつれない!クッチーショックですぞ!」
「あ、ごめん、心の声が口から漏れてたわ。」
そう言う斑目の顔には、屈託のない笑みが浮かんでいた。
なんだかんだで、非日常の気晴らしにはなったようだ。
(しかし、名古屋は心残り過ぎるぜ、こりゃ…。何も食ってねーし、
観光もしてねーもんな。さすがクッチープレゼンツ!ってか。ハハ……。)
会社の人へのお土産を忘れていたので、東京駅でういろうを買う斑目であった。
以上です。
東京だけじゃなくて、他の街にも行かせてみたくなって書きました。
しかしこれ、ひどいコンビでした(爆)。
名古屋リベンジか、大阪か、はたまた他の地方都市か。
僕では書ける街も限られますので、どなたか書いて頂けたら
嬉しかったりします。
>>斑目放浪記
クッチーに預けた時点で、きそうだな……と思ってましたが
やっぱりやっちゃいましたねw
でも笑って許す斑目……丸くなったなぁ
今度はどこに出かけるんですかね?期待しとります
>>斑目放浪記
>クッチープレゼンツ
さすがクッチー!期待をある意味裏切りませんね!(正しくは裏切りまくるw)
この二人の話、また読みたいです。
>>斑目放浪記
面白かった!目の付け所なーいす。
斑朽コンビ(カップリングではなくw)の話はいいね。ひどいコンビ=ドラマ性のあるコンビつーことで。
もっといろんな土地に行って欲しいね、北は北海道から南は九州沖縄まで、君たちのフィールドは無限だw
しかし二人は名古屋のオタ知識披露しただけでなんも堪能してないな(……巫女居酒屋?)。
俺も以前友人の結婚式で名古屋に行ったが、きっついスケジュールのため100m道路見て地下街で味噌カツ食っておしまいになった経験がある。
彼らにはぜひ名古屋をリベンジさせてください。
>>483 クッチーに預けた時点で書いてた僕自身は、名古屋行きを斑目に気付かせない
だけのつもりだったのが、何故かクッチーが勝手に券を無くしましたw
>>484 僕もクッチーけっこう好きなので、長時間動かしづらいですけど頑張ります!
>>485 名古屋のリベンジ編はいずれ必ず書きます!
皆様感想ありがとうございました〜。
他のメンバーもとか、行く目的もロケ地(聖地)巡りとか即売イベントとか
色々なパターンで書けそうなので、まだ何本か書きたいです。
あと2箇所ぐらいしか書けそうな土地が無いんですけど…。
487 :
マロン名無しさん:2006/08/13(日) 04:18:34 ID:EaRXuaRE
age
|Д`) ダレモイナイ…
まあ今頃みんな有明だかんな。
週末までに一本書けてたんだけど家族サービス期間中(ようはお盆休み)のためSSの段落分けしたり一分半ごとに連投したりする余裕がありませんでしたorz
いまちょっと時間取れたので投下します。本文6レス、『かなしいライオン』。ドゾー
……そしてシマウマと友達になったライオンは、このことを仲間のライオンに秘密にして、ときどきシマウマと一緒に遊びました。
仲間のライオンとは今までどおり狩りをしたり、鹿やウサギなどを食べたりしてすごし、シマウマと一緒にいるときは水ばかり飲んでお話をしたり、かけっこをしたりして遊んだのです。ライオンはシマウマが好きになっていました。
そんなことが続いたある日、仲間のライオンの一頭がこう言いました。
「いつも俺たちと狩りをしてくれて感謝してる。今日はお前が来る前に、すばらしいご馳走をしとめておいてやったぜ。俺たちはあとから行くから、先に行って食事していてくれないか?」
ライオンはちょうどお腹が空いていましたので、仲間に言われた岩場に行ってみました。そこには元が何の動物だったかは判りませんが、確かに仲間がしとめた獲物が倒れています。ライオンは喜んでこれを食べておりました。
そこに聞こえてきたのはワライカワセミたちの歌う声です。
「かわいそう、かわいそう、かわいそうなシマウマ」
「友達と間違えてライオンに声をかけた」
「ライオンはそう、シマウマが大好物さ」
「シマウマはかわいそうに、あっというまに噛み殺された」
「バカな友達を持ったばっかりに、バカな死に方をした」
「バカな友達のほうはほら、そのシマウマを食べているよ」
「かわいそうなシマウマ、バカなライオン」
「かわいそうなシマウマ、バカなライオン」
歌の内容に驚いていると、岩場の影から年取ったイノシシがあらわれました。イノシシはライオンに言います。
「鳥たちの歌のとおりだよ、ライオンさん。あんたと仲良しだったシマウマは、いまあんたの胃袋の中だ」
ライオンはそこから走って逃げ出しました。大きな声で叫びながら、大粒の涙を流しながら。自分が死んでしまえばいいと思いました。だって、大切な友達を食べてしまったのですから。誰か他のシマウマに蹴り殺されればいいと思いました。彼らの仲間を殺したのですから。
イバラの藪に飛び込みました。鋭いとげがライオンを傷つけますが、ライオンは死にません。深い谷へ身を投げました。とがった岩に体がぶつかりましたが、ライオンは死にません。
他の動物を殺して食べるのをやめようと思いたちました。ところが、お腹が減ってくると体が勝手に動物を殺し、食べてしまいます。どうしてもやめることができません。
何週間か経って、ライオンは仲間にそそのかされてシマウマを食べてしまった岩場に戻ってきました。シマウマの肉は、とっくに他の動物たちが食べ、そこには赤黒い染みしか残っていません。このあいだの年取ったイノシシがライオンに話しかけます。
「あんたは何か変わったかね?ライオンさん」
「俺は……やめたんだよ」
「肉を食べるのをやめたのかい?」
ライオンはイノシシに向かって悲しそうに笑い、言いました。
「変わるのをやめたのさ。俺は俺でしかないから、変われないんだ。俺はこれからも他の動物を殺して、食べて生きていくよ。その代わり、俺は俺と、俺の仲間の肉を食う奴ら全部を憎む。殺す奴なんか最低だ。肉を食う奴なんか最低だ。俺なんか、最低なんだ」
ライオンは乾いた青空に向かって大声で吼えます。泣きながら怒りながら、吼え続けます。
「俺はこれからも殺すよ。俺はこれからも食うよ。だけど俺は誰かを殺すたびに、俺は俺のことを殺したくなるんだ。食うたびに、俺が誰かに食われればいいと思うんだ。俺ができることはもう何もないよ。だから、俺は一生俺を許さずに生きて、一生俺を許さずに死んでゆこう」
ライオンの悲しい吼え声は、いつまでも乾いた青空に響いていました。
****
「あ、荻上さんこんにちわ……ええっ?どうしたの、なんでそんなに泣いてるの?」
「あーん、ささはらさあんっ!」
笹原が部室に入ってきたとき、ただ一人部室にいた千佳は、ぽろぽろと涙を流しながら本を読んでいた。その有様に驚く笹原に、千佳はありったけの力で抱きついた。
「わっ……あれ、その本は大野さんが児文研から借りてきた……え、荻上さん、童話読んで泣いてたの?」
「ひっく、は、はいぃ……。ひっ、だ、だってライオンが、かっ、かわいそうなんですぅ」
「ああ、うん、よしよし。かわいそうだったんだ、うん」
笹原は千佳を抱きとめ、優しく頭をなでた。
「ライオンは他の動物を殺して食べなきゃならないのに、そのたびに自分のことが嫌いになるんです」
千佳が読んでいた本は、先月出版された童話の一冊だ。現視研と各方面にわたってつながりの深い児童文学研究会の会長から、サークル誌に掲載する新刊レビューの手伝いを大野加奈子が請け負ってきていたのである。
笹原たちも原稿書きの巻き添えとなったのだが、千佳に当てがわれたのがこの本だった。
「自分が好きになったシマウマを間違って食べちゃったのに、自分は死のうと思っても死ねないで、どんどん自分を嫌っていくんです。自分のしたことをいつまでも呪いながら、変われないままで生きていかなきゃならないんです」
「あ……そう、なんだ」
笹原はこの童話の内容は知らなかったが、話を聞いて読めてきた。かつてクラスメートを自分の趣味の餌食にしてしまった彼女自身に、千佳はそのライオンをなぞらえてしまったのだ。
「荻上さん……あのさ」
千佳を抱いたまま、笹原は言う。
「その話、ライオンは死んじゃうの?」
「死なないです」
「それならさ……ライオンは、かわいそうじゃないよ」
「……でも、だって」
顔を上げる千佳を、正面から見つめる。
「たぶんライオンは、自分は死んじゃだめだって思ったんだよ。死ねなかったんじゃなくて、死ななかったんだ。いま自分のことが嫌いだったとしても、生きていかなきゃって思ったんだ。そうすれば、いつか自分の生き方に折り合いをつけられる日が来るから」
「……え」
「本当の自分のことを知らないまま誰かに好きになられて、騙し討ちみたいに会えなくなってしまうんじゃなく……いつか自分のことを、『それでも好きだ』って言ってくれる相手が見つかるから」
笹原は千佳の肩を両手で抱いて、もとの椅子に座らせた。自分は彼女の隣に椅子を引いてくる。涙で濡れた絵本をめくりながら、どんな話だったのかを確認していった。
「ライオンは、自分が好きになったシマウマを食べちゃうのか。だけど、シマウマはそのことでライオンに死んで欲しいと思ったかなぁ?シマウマもライオンのことが好きだったのなら、ライオンが死ねばいいなんて思わなかったんじゃないかな?」
「でも、シマウマはライオンのせいで」
「失敗は誰にでもあるし、それが取り返しのつかないことだってあるよ。でも、それを全部ひっくるめて好きだって思うのが本当なんじゃないかな。……少なくとも、俺はそうだよ?」
「……」
「俺はさ、荻上さんの全部が好きだよ。荻上さんの顔も心も、腐女子なところも。俺と斑目さんでやおい妄想してるのも、攻撃的なワリに自爆体質なところも、全部まとめて荻上さんなんだから」
「笹原さん……」
「荻上さんは、昔いやなことがあったって言ってたけど、それでも自分は変われないって思ったんだよね?このあいだ、俺はきみを好きだって気づいて、きみにそれを打ち明けて、きみは俺を受け入れてくれた。きみが死んじゃってたら、こうはならなかったんだよ」
「それは……そう、ですけど」
「死ぬってことは逃げるってことだ。人が逃げないことを選ぶのは、一生を不幸せで終えるためじゃないよ。たとえばそれが『いま』じゃなくても、いつか自分が幸せになるためだ。自分のために不幸になった人がいるなら、その人のためにも自分は幸せになるべきなんだと思うな」
千佳は彼の言うことを黙って聞いている。聞きようによっては自分本位にも受け取れる説明を、一生懸命納得しようとしているのが笹原にも解った。
「荻上さん、荻上さんはいま、不幸せかな?」
「えっ?え……そんなことは、ないと思います」
「よかったぁ」
彼女の顔を覗きこみ、にっこりと笑う。彼女はこの笑顔に安心してくれるだろうか。
「あのね、俺も幸せ。きみと二人っきりで、こんな話できて。もしこの本読んだのが春日部さんだったらきっと一刀両断だよ、『甘ったれるんじゃねー』って。『食っときゃいいじゃん、馬肉だろ馬肉』ってさ」
「……そんなこと言いませんよ、春日部先輩」
かなり無理のある物真似に、千佳の口元がほんの少しほころんだ。ハンカチを取りだして渡す。千佳は黙って受け取って、涙のあとをぬぐった。
「あの……俺たち、付き合いだしてまだ少ししか経ってないけど……なにか不安なことがあったら、俺にも話してくれる、かな?その、自分だけで抱え込まないで?」
「……ありがとうございます」
「頼りないかもしれないけど……一応きみより2年ほど余分に生きてるし、少しは役に立てると思うからさ?ね」
ハンカチを両手で持って小さくうなずく。頬を染めてこちらを見つめ、ようやく嬉しそうに笑ってくれる。まだあまり多くはないが、この笑顔に出逢えるたびに笹原は幸せな気分になる。
この笑顔のためなら、俺はどんなことでもできる。童話の解釈のひとつやふたつ、どうってことないさ。必要とあれば物理法則だって塗り替えてみせる。
「荻上さん……」
千佳の細い肩に手を置く。
「……あ……」
今なら部室には自分たちだけだ。彼女がきゅっと身を硬くするのを感じる。
笹原が顔を近づけ、千佳は軽く目を閉じ、そして……そして現視研のドアが勢いよく開いた。
「こーにょにょーちわ〜!あれ、笹原セン……パイ」
「やあ、朽木君。今日も元気だね」
「……笹原センパイ……なんでボクチンにそんなに急接近なさるのですか?」
その瞬間の笹原の動きは神がかり的だった。朽木の視線が千佳を捉える前に、彼の視界は笹原の顔で埋まっていたのだ。この位置なら、炎を吹き出しそうになっている千佳の顔は見えないだろう。
「いやははは、ちょっと今荻上さんと次の原稿の話しててさ、瞬歩と飛簾脚の体さばきはどう違うんだろうってことになって」
「おおうっ、今度は『ブリード』やるんスね!?カップリングは何でゴザイマスカ?」
「……茶×石?」
「くっはーっ!キターーー!」
「なんで朽木君がやおいで喜んでるのさ」
「……や、なんとなくノリで」
ともかく、窮地はしのげた。笹原は内心胸をなでおろした。もうしばらくこの位置で朽木の話につきあえば、千佳の呼吸も整うだろう。
……そうさ、物理法則だって塗り替えてみせる。
自分の潜在能力にたまげながら、笹原は想いを新たにしたのであった。
おわり
無垢な童話におもわぬダメージを食らうオギー、っつうのを書きたくなりまして。
もともとの俺のオギー感がこの「菜食主義者になれないライオン」で、ファンとしての話をすれば彼女の魅力はこの自己矛盾から生まれているのかなあと思います。
作品としては笹原視点。よく考えると珍しい。彼にも彼なりのオギーに対する想いが(軽井沢で語ったことばかりではなく)あると思う。と言うことで、この方向感もう少し行けるかも。
祭りももうじき終わりか。みんな楽しんだかい?スレ違いでもいいから聞かせてくれるか、スレ趣旨に合うようSSにして聞かせてくれ。ヨロ。
ご無沙汰しています。
相変わらずの秀作揃い、まだまだこのスレは終わりませんな。
皆々様の作品に触発され、久々に新作書いてみました。
内容は以前書いた荻会長編「11人いる!」の続編です。
時期的には今年の7月頃、前作から約3ヶ月後の話です。
夏の日のたわいの無い1日を書く積りが、えらく長い話になってしまいました。
前作は既にまとめスレ行きになっている上に、オリキャラだらけで長い話です。
今から先にそれ読んでというのも何ですので、初めて読む方の為に最初に設定等を投下した後に本編投下します。
他に投下される方等無ければ、5分ほど後に投下開始します。
前作「11人いる!」のオリジナル設定等のまとめ
@今年の新1年生は、男子5人女子6人の計11人です
(しかも9月にはスー&アンジェラも合流する予定)
A諸々の事情で卒業生たちは以前より顔を出すようになり、それもあって部室が手狭になったので、サークル棟の屋上にプレハブ製の部室を新設しました
B斑目は相変わらず部室に昼飯食いに来てますが、4月以降は外回りの仕事も手伝っている(その為に普通免許取りました)ので、昼休み以外の時間帯にも時々部室に来ます
C作業着姿でガリガリでメガネで甲高い声でテンションの高い喋り方なので、斑目は1年生女子からシゲさんと呼ばれています
Dクッチーは去年の秋頃から空手を習っています
E諸々の事情で、クッチーは児童文学研究会にも掛け持ちで入会してます
児文研会長(いろいろあって、クッチーは「お師匠様」と崇拝してます)の勧めにより、普段は大人しくなりましたが、イベントになると必要以上に大騒ぎします
F荻上会長は巷談社主催の春夏秋冬賞という漫画コンクールに応募して審査員特別賞を獲得し、それがきっかけで今年の秋に「月刊デイアフター」で新連載開始の予定です
(ちなみに当初新部室を建てる資金には、この賞の賞金を充てる積りでしたが、いろいろあって初代会長が出してくれました)
神田美智子 キャラクターモデル 「かってに改蔵」の神崎美智子
元隠れオタ。
高校時代は周囲にはオタ趣味を隠し、オタであることがバレそうになると走って逃げていた、言わば初期型笹原と初期型荻上さんの合体キャラ。
両親と兄1人の4人家族だが、家族全員がオタ(しかも全員同人誌を作る側のオタで、1人1台ずつコピー機を所有している)なので、幼少の頃よりコミフェスに参加していた。
中学時代からは売る方でも参加している。
ノーマルなカップリング中心だが、最近ヤオイも始める。
入学当初は普通の大学生活をする積もりだったが、オタスメルに引き寄せられてついフラフラと現視研の部室に乱入してしまい(たまたま鍵を閉め忘れたまま、全員席を外していた)本能的にエロ同人誌を発見。
ついつい読み耽っているところ、トイレから戻った荻上会長とファーストコンタクト。
「違います!私オタクじゃありません!コーディネイターが遺伝子操作された新人類だなんて、全く知りません!」
訊かれもしてないのにオタ知識を披露するセルフ語るに落ちる状態&赤面で逃走するセルフドッキリ状態となる。
そのことがきっかけとなって、荻上会長に説得されて入会する。
国松千里 キャラクターモデル 「究極超人あーる」の国枝千里
元々は特撮オタで、それも50年代から70年代にかけての、東宝・円谷プロのミニチュア・着ぐるみ・光学合成主体の非CG特撮命の遅れてきた世代。
(でも今の特撮も、文句言いつつもちゃんと見ている)
将来は脚本家志望だが、その前に特撮撮影現場でスタッフとして働きたいと思っている。
高校からアニメにも興味を持ち始めてアニオタ道に入る。
だがいかんせん積み重ねが無いので、アニオタにとっての一般教養がところどころ足りない修行中の身。
垂れ目ながら大きな瞳のロリ顔美少女。
身長も150センチと小柄なので、見た目は中学生ぐらいに見える。
チト書式が失敗して見苦しくなってしまいました。
チト修正して後の分を投下します。
豪田蛇衣子
キャラクターモデル 「ドラえもん」の剛田ジャイ子
腐女子四天王(クッチーが命名した、新1年生の腐女子4人組の通称)のリーダー格。
小学生の頃から少女漫画を描いていて、投稿作品が何度か賞を取っている。
大柄で肥満体のゴッグのような体格。
だがその体格に似合わず、描く漫画は王子様や貴族が活躍する、少々古臭いが乙女チックな作風。
多少レズっ気があり、荻上会長を時と場所を選ばずハグする。
腐女子四天王は、某巨大掲示板の801板のオフ会で知り合って結成された。
(出身校は全員バラバラ)
彼女たちが高校3年の時、当時2年生の荻上会長は笹原の勧めで春夏秋冬賞に応募して審査員特別賞を獲得し、受賞作品は「月刊デイアフター」に掲載された。
中学の時の「あの一件」を元に描かれたその作品は、一部の腐女子の間で熱狂的に支持された。
四天王のメンバーもまた、その作品がきっかけで荻上会長を崇拝するようになり、彼女を追って椎応に入学した。
なおこの4人は、荻上会長を「荻様」と呼称する。
沢田彩
キャラクターモデル 「彼氏彼女の事情」の沢田亜弥
四天王の1人。
元々はジュニア小説を書いていた、ショートカットで色白の文芸少女。
ある時友だちにBL小説を見せられてヤオイに目覚め、ヤオイラノベ道に踏み入る。
元ネタを知る為に漫画も読み出し(それ以前はあまり漫画は読んでなかった)自分で絵も描きたくなってヤオイ漫画道に入る。
絵は初心者レベルだが、ストーリーの構成力や台詞回しに秀でる。
元々書いていた小説にはSF系のものが多く、そのせいかロボットアニメやファンタジー系アニメを題材に選ぶことが多い。
自室でしか吸わないが、実は1年生唯一の愛煙家。
台場晴海
キャラクターモデル 「さよなら絶望先生」の藤吉晴美
腐女子属性はむしろリーダーより濃い、四天王の参謀格。
男子が何か咥えていると、たちまちワープする。
イケメン君は彼女の前では、うっかりコーラも飲めない。
見た目秀才っぽい、スレンダーなメガネっ子。
巴マリア
キャラクターモデル 「おおきく振りかぶって」の百枝まりあ
四天王の1人。
元ソフトボール部の体育会系腐女子。
部活の傍らヤオイを描いていた変り種。
高校球児フェチで、男臭く汗臭いスポーツ漫画や格闘漫画をネタにすることが多い。
蛇衣子ほどの上背は無いが、肩幅が広く大野さん並みの巨乳。
顔も目鼻立ちのはっきりしたなかなかの美人で、長い黒髪を三つ編みにしてることが多い。
やはり少しレズっ気があり、荻ハグ常習犯。
夏ミカンを握り潰せるほどの握力の持ち主。
日垣剛
キャラクターモデル 「究極超人あーる」の曲垣剛
元野球少年でポジションは投手。
と言っても、毎年予選一回戦で帰ってくる弱小校で、彼自身もさほどの戦跡は残していない。
(まあそれでも、素人には打てない程度の剛速球と変化球は投げられるが)
肩を壊して休んでいた時にアニメや漫画の面白さに目覚め、オタ道に入る。
身長185センチの、クッチーの後継ぎ的肉体派オタ。
でも気は弱く、温厚で大人しい性格はむしろ初期笹原に近い。
実家は華道の家元で、本人も華道有段者。
すんません、前のレスの番号を直し忘れました。
前のはAではなくBです。
有吉一郎
キャラクターモデル 「究極超人あーる」の有島
高校時代は漫研。
腕より理論が先行するタイプ(もちろんそれなりに絵は描けるが)なので既存の漫研には馴染めないと考えて、初心者や非生産型のオタの集う現視研を選んだ、言わば絵心のある斑目的キャラ。
いかにも理屈先行型オタという感じの、細面のメガネ君。
人前でアジ演説風に喋るのが好きで、会長不在時のミーティングでは議長的役割をすることが多い。
伊藤とは同じ高校出身でよく一緒にいるので、それを腐女子四天王にネタにされている。
伊藤勝典
キャラクターモデル 「究極超人あーる」の伊東
高校時代は文芸部。
脚本家志望で、もともとはアニメも実写ドラマも区別なく見る、一般人とオタクの境界線上のポジションに居たが、アニメの方が自由度が高いと考えて次第にアニメ中心にシフトしていく。
猫顔で、動作も猫に似ていて、喋る時も語尾に「ニャー」と付ける。
浅田寿克
キャラクターモデル 「究極超人あーる」の浅野
高校時代は写真部。
神経質そうなメガネ君。
1年生会員たちの会話ではツッコミ役になりがち。
岸野と一緒にいることが多い為、有吉×伊藤同様、腐女子四天王にネタにされている。
岸野有洋
キャラクターモデル 「究極超人あーる」の岸田
浅田と同じ高校出身で、部活も写真部だった。
リーゼント風のひさしの目立つ髪型以外に取り立てて特徴が無く、あまり目立たない。
「なすてわたすはここに居る!」
荻上会長の雄叫びが轟く。
筆頭のまま被れるせいか、ソンブレロのような大きな麦藁帽子を被っている。
服装の方はと見れば、地味なワンピースの水着の上からパーカーを羽織っている。
「それ今日7回目ですよ」
すかさずにこやかにツッコミを入れる大野さん。
大野さんもまた同様の格好だ。
そして2人の眼前には、水平線が広がっていた。
夏休みに入ったばかりのある日、現視研の一行は海水浴にやって来た。
場所は3年前に訪れた、あの海水浴場であった。
参加者は新1年生11人、荻上会長、大野さん、クッチー、恵子、そして斑目と田中というメンバーだった。
この日は運悪く、担当している原稿の〆切日だったので、笹原は来れなかった。
春日部さんも店が開店したばかりで忙しいし、高坂と久我山は相変わらず忙しいので、今回は参加出来なかった。
ちなみに大野さんはある旅行代理店に就職が決まり、クッチーは未定であった。
大丈夫か、クッチー?
朽木「就職活動にも合間に息抜きが必要だにょー」
荻上「朽木先輩の場合、息抜きの合間に就職活動やってません?」
朽木「荻チンナイスツッコミだにょー」
荻上「皮肉が通じねえ…」
今年の夏コミで、現視研は久々にサークル参加に当選した。
ちなみに今回荻上会長は、現視研の作品にはタッチしない積りだ。
秋から「月刊デイアフター」で新連載を開始して本格的に漫画家デビューするので、この時期は他の原稿にまで手を出す余裕は無い。
幸い今年の1年生には絵描きが6人も居るから、全面的に任せることにした。
描き手は有吉以外女子ばかりなので、当然のごとく内容は女性向けとなった。
だがそこからが問題だった。
腐女子にとって同人誌創作の1番のキモは、題材よりもむしろカップリングだ。
カップルの構成メンバーが同じでも、A×BとB×Aでは内容が全然違ってくる。
腐女子にとってヤオイのカップリングとは、己の全人格を賭けた大問題なのだ。
それゆえ1度こじれ出すと互いに一歩も引かず、泥沼の膠着状態となる。
現視研でもそれは例外では無かった。
7月に入ってからの部室は、毎日がケンケンガクガクの議論の連続だった。
恵子「お前らさあ、とりあえず海水浴でも行って頭冷やせよ」
いい加減ヤオイカップリング論争にウンザリした恵子がこう切り出し、議論が膠着して煮詰まっていた会員たちも一時休戦とばかりにそれに賛成した。
いつの間にか恵子は、某ラノベ原作のアニメのイベント好きのヒロインのように、現視研をイベントに導くポジションになっていた。
恵子「いいでしょ、姉さん?」
会長という立場を考慮してか、恵子はこの頃には荻上会長のことを「お姉ちゃん」ではなく「姉さん」と呼ぶようになっていた。
ここ数日間の部室内の、険悪な空気を憂慮していた荻上会長は、この案に乗ることにした。
荻上「いい気分転換になりそうだし、行きましょうか」
実は荻上会長は、後述する「ある理由」の為に海水浴には乗り気では無かったのだが、今の彼女はそんな個人的な理由で反対するほど子供では無かった。
(ちなみに冒頭の叫びは、斑目に「会長はこれ言うのがお約束だから」と唆されたから)
即座に日取りと場所が決まり、続いて「第2回海水浴に何持って行く会議」が開かれた。
前述のラノベヒロインの影響か、今年の1年生たちは意外とイベント好きで、様々な提案が出た。
「やっぱスイカ割りでしょう」
「うち、ビーチバレーの道具一式あるけど」
「お前確か、ゴムボート持ってたよな?」
「あそこの海水浴場って、バーベキューできましたっけ?」
「夏はやっぱり花火でしょう」等々。
結局その殆どが採用された。
(不採用になったのは、「それをやるような時間までは居ない」ということで花火とキャンプファイヤー、そして「運転する人だけが飲めないのも気の毒」ということで酒類ぐらいだ)
書記として「持って行くもの」をホワイトボードに書き出していた神田が呟いた。
「これ全部持って電車乗るんですか?」
ボードいっぱいに書かれたグッズの数々をよく見ると、確かに凄い荷物になりそうだ。
そこで誰か車を出せるかという話になった。
現役会員は恵子を入れて13人、4年生とOBが何人か来ることを考慮すると、出来れば4台欲しい。
荻上会長の知る限りでは、現視研で普通免許を持ってるのは全員OBだ。
恵子「試しに訊いてみようよ。誰か免許持ってる?」
意外なことに新1年生たちには、入学して4ヶ月足らずのこの時期に、普通免許を取得している者が6人も居た。
彼らは皆、大学合格の直後から自動車学校に通っていたそうだ。
彼らの親は皆、むしろ本人以上に免許取得に積極的だった。
大学に入ってからは、いろいろ資格取る為の勉強するだろうから、普通免許ぐらいは早目に取っておけということらしい。
就職難の時代ならではの現象である。
6人とも実家に車があって多分貸し出せると言う。
では誰の車で行くかという話になり、先ず伊藤が名乗りを上げた。
「僕は泳げないから泳がないニャー。だから疲れないから帰りも安全運転だニャー」
彼の発言によって免許持ちで泳げない人を募った結果、先ず有吉、沢田、そして伊藤の3人が車を出すことになった。
残りの1台を提供したのは、傍らで昼飯を食っていた斑目だった。
「俺も泳げないし、その日は休みだから行くわ。それにこういう時にでも使わないと、車もったないしな」
斑目の車は、社長からもらった中古の軽だった。
何でも今期はボーナスが無かったので、その代わりということらしい。
もらったはいいが、彼は日々の生活に車を使う機会は少なかった。
相変わらず徒歩で通勤していたし、仕事中使う車は会社のものだ。
(最初は人手不足で外回りの仕事を手伝っていたが、今では外回りの仕事の方がメインになりつつあった)
車が要るような大規模な買い物は滅多にしないし、助手席に乗せる彼女もいない。
かと言って売ってしまうのも悪い気がする上に、どのみち古過ぎて売れそうになかった。
こうして今回現視研の面々は、4台の車に分乗してやって来た。
駐車場に車を停め、男子会員が中心になって場所取りと荷物の運び出しが始まった。
先ずビニールシートで場所を確保する。
よく見るとそれは、大きな一枚のブルーシートだった。
それを畳んで横に細長い形に陣取る。
普通のビニールシートを3枚ぐらい並べた程度の面積だ。
斑目「まるで殺人事件の現場だな」
次にシートの中央部が日陰になるように、アウトドア用の屋根だけのテントを設置する。
続いてシートの端にパラソルを広げる。
そして荷物の大半をテント下に運び入れる。
パラソルの反対側の、シートの端っこから3分の1程度のスペースは、日焼け用にわざと日陰から外してある。
妙に手馴れたセッティングぶりだ。
後で聞いたところによると、場所取り関連のグッズは浅田と岸野が高校の写真部から借りてきたそうだ。
その写真部は年に何度か撮影旅行や合宿を行なっていて、この手のグッズには事欠かないし、2人もその取り扱いに熟練しているのだという。
運び終わった荷物の数々を見て、荻上会長は慄然とする。
『これ全部、今日1日でやるの?』
表で見た時にはピンと来なかったが、改めて並べてみると凄い量だ。
スイカ、金属バット(スイカ割りの棒代わりだそうだ)、ビーチバレーのボールとネット、浮き輪、ゴムボート、エアマット、アウトドア用の大型コンロ、クーラーボックスに入った食材、その他の調理器具、そして十数個のサッカーボール、等々…
『なしてサッカーボールが?』
不意に肩を叩かれて顔を上げる。
大野「どうしたんですか、荻上さん?笹原さん来なくて寂しいんですか?」
荻上「(赤面)そっ、そんなんじゃねっす!」
本音を言えば寂しいことは寂しい。
だが笹原の盆休みと夏コミの日程が重なり、少なくとも夏コミでは一緒だから我慢出来る。
それに平日休みの笹原と、何とか時間をやりくりして会う生活を繰り返す内に、何日か会えないシチュエーションにも耐性が付いてきた。
それに今の自分は、会員たちを監督し見守る立場だ。
(とは言っても、こんな遊びの場であれこれ指図する積もりは無いが)
上に立っている者が、下ほったらかしでイチャイチャしてる訳には行かない。
こういうことに関しては、相変わらず荻上会長は生真面目だった。
大野「(笑って)分かってますよ。(荷物を見て)それにしても凄い荷物ですね」
荻上「今日じゅうにこれ全部やれっかなあ…」
大野「大丈夫ですよ。まだお昼には時間あるし」
荷物が運び終わり、1度全員集合する。
恵子が新調したビキニを1年生たちに見せびらかしている。
恵子「いいっしょ、これ?春日部姉さんの店でもらったんだ!」
本当にもらったのか、春日部さんの方はあくまでもツケで売った積もりなのかは定かではない。
あとの女子会員たちは全員無難なワンピースだ。
「荻様かわいい〜!!」
例によって巴と豪田が荻ハグすべくダブルで突進して来る。
だがさすがに慣れたらしく、軽やかなフットワークでかわす荻上会長。
結果巴と豪田は誤爆して、互いにハグしあう破目になる。
すぐに離れるかと思われたが、2人とも体がきしむ音がしそうなほど強く抱き合っている。
巴・豪田「こっ、これはこれで、なかなか…」
恵子「やめんか!」
2人をどついて止める恵子。
一方男子会員たちは、少し赤くなりつつも女子会員たちを見つめていた。
だが巴に視線を向けた彼らの目には、軽い失望の色があった。
その空気に気付いた豪田がツッコむ。
豪田「なあに、そんなにあたしのビキニが見たかったの?」
男子一同『んなわけねえだろ!』
まあ確かに、水中用モビルスーツみたいな豪田がビキニを着ても、ボンレスハムみたいになるだけだ。
スレンダーな台場、神田、国松、沢田はともかく、巴の巨乳はぜひビキニで拝みたかった、というのが男子たちの本音であった。
地味な競泳用の水着の巴は妙にソリッドな感じがして、巨乳というより大胸筋が丸く盛り上がっているみたいで、あまり色気は感じられなかった。
もっとも巴に比べれば貧弱な体格の1年女子たちも、みんなそれなりに顔立ちは整っていて全体的にスレンダーなので、出るべきとこが不足気味でもなかなか目の保養になる。
一方もう1人の巨乳、大野さんも相変わらず無難なワンピースの上、上に羽織ったシャツを脱ごうともしない。
荻上「コスプレの時は、あんなに露出してるのに…」
コスプレイヤーとしての大野さんと、個人としての大野さんとには、羞恥心にえらく差があることは長年の付き合いで分かっている。
だがそれにしても、大柄で巨乳の大野さんが1年生たちよりも恥ずかしそうにしてる図は、何とも違和感があった。
昼食と帰りの集合時間を決め、後は自由行動として解散する。
結局ブルーシートには、荻上会長、大野さん、田中、沢田、伊藤、有吉が残った。
他のメンバーはさっそく泳ぎに出かける。
伊藤と有吉は互いの背中にオイルを塗り合い、さっそくシートの日なたの部分で寝転ぶ。
荻上会長と沢田は、そんな2人を見て一瞬軽くワープしつつも、テント下で自分の体に日焼け止めを塗っていた。
大野「荻上さんは泳がないんですか?」
荻上「私、皮膚が紫外線に弱くて、軽く焼いてもすぐ真っ赤っかになっちゃうんで、こういうとこではあまり長いこと日なたに出れないんです」
それは本当だった。
荻上会長は3歳の時、家族で海水浴に行ったことがあった。
他の地方に比べて日差しの弱い東北地方の海水浴場で、家族と一緒に普通に海水浴しただけなのに、その日の晩の風呂や布団の中でのたうち回り、その後何日か皮膚科に通う破目になった。
それ以来今日まで、海水浴というものに行ったことが無かった。
家族のレジャーのメニューからは自然消滅し、友だちに誘われても断った。
プールでの水泳の授業すら、念の為に日差しの強い日には見学する徹底ぶりだ。
ちなみに医師の診断によると、どうも皮膚が神経過敏気味で極端に敏感らしいとのことだった。
だから笹原との初めての時も、そりゃあもう…
話を海水浴場に戻そう。
沢田「荻様も太陽ダメなんですか?」
荻上「沢田さんもそうなの?」
沢田「私の場合は、あまり長いこと日に当たってると立ちくらみするんです。ここ数年、夏休みはずっと部屋にこもって原稿書いてましたから」
田中「まるでドラキュラだな」
大野「それにしても…」
ブルーシートの上と海の方を交互に見る大野さん。
大野「3年前ここに来た時って、まともに泳いでたの3人ぐらいでしたよね」
田中「ああ、確か春日部さんと高坂君、それに恵子ちゃんか。あと、笹原が最後にちょっとだけ泳いでたかな」
荻上「で、あとの方は何をなさってたんですか?」
田中「パラソルの下でガンダムしりとりやって、ちょっとだけ水浴び。俺と大野さんは砂の城作り」
荻上・沢田「海水浴場でガンダムしりとり…(汗)」
田中「それに比べて、今年の1年たちは元気だな、8人も泳ぎに出てるんだから。(大野さんに)今回はどうしよ?」
大野「昼バーベキューやるから、先に準備しときましょう」
結局大野・田中コンビは昼御飯の用意を始める。
沢田が手伝おうとしたが荻上会長はそれを止め、2人に軽く会釈しつつ見送った。
荻上「あのお2人が何かやってらっしゃる時は、頼まれない限り手伝わない方がいいわよ」
楽しそうに笑う2人を見て納得する沢田。
沢田「そうですね、何かお邪魔しちゃ悪いみたいですもんね」
荻上会長を見る沢田の目付きが、不意に妖しいものに変わった。
沢田「ところで荻様、(日焼け止めを持って)お背中の方は私に塗らせて下さい。ささ、うつぶせになって下さい」
荻上「あっそう…そんじゃお願い」
とまどいつつも、うつぶせになる荻上会長。
その白い背中を、沢田の手が妖しく這い回る。
日焼け止めを塗るというより、愛撫しているような手付きだ。
荻上「ちょっ、ちょっと沢田さん!手付きが変!」
沢田「荻様って肌きれい。素敵!」
いつの間にか紅潮して息が荒くなっている沢田、思わず覆い被さる。
荻上「(最大赤面)ひへっ!?」
沢田「荻様〜!」
不意に荻上会長の背中から負荷が消えた。
恵子が沢田の耳をつまんで引っ張り上げたのだ。
沢田「痛たたたたたたた…」
恵子「(耳から手を放し)ったく、レズっ気あるのは蛇衣子とマリアだけだと思ってたのに、お前もかよ!」
沢田「申し訳ありません。荻様肌きれいだからつい…」
恵子「頭冷やしがてら、ジュースでも買って来い!」
沢田「はーい」
麦藁帽子を被って、沢田はテントから出て歩き出した。
恵子「ったく。(シートに腰下ろして寝転び)あー疲れた、もう泳ぐのはいいわ」
荻上「もうそんなに泳いだんですか?」
みんなで海に入って行ってから、まだ30分も経ってない。
恵子「あいつらのペースでやってたら死んじゃうよ。ノンストップでガンガン泳いで沖まで行っちまうんだもん。これは水泳の授業かっつうの」
荻上「へえ、そんなに…」
恵子「オタクなんて運動音痴ばっかしと思ってたのに…」
どうやら泳ぎ出すまで、野球出身の日垣と、ソフト出身の巴を忘れていたようだ。
荻上「11人も居るんですよ、1年生。そりゃいろんな人が居ますよ」
恵子「そりゃそうだわな。さて、あたしも焼くか」
日なたに出てる方のシートに移動し、伊藤の隣に寝転ぶ恵子。
たじろぐ伊藤。
トイレにでも行ったのか、有吉は席を外していた。
恵子「伊藤くーん」
伊藤「ニャッ?何でしょう?」
恵子「(うつぶせになってビキニの紐を外し)オイル塗って」
伊藤「(赤面し)ニャニャニャ?!」
恵子「つべこべ言わずに塗る!」
伊藤「かしこまりましたニャー」
女性の背中にオイルを塗るのは初めてらしく、赤面しつつ怖々した手付きで塗る伊藤。
恵子「ちょっと、くすぐったい(笑)」
そこへ戻ってきた有吉、2人の様子を見て硬直している。
有吉「伊藤君…前々から怪しいとは思ってたけど…」
こける一同。
荻上・沢田「(ハモって)怪しいんだ…」
実はこれ以前から、恵子は何かと伊藤をこき使うことが多かった。
もちろん恵子は特別彼を意識している訳ではなく、居れば1年生なら誰でも(いや厳密にはクッチーや斑目すら平気で)こき使っていたが、恵子と目が合うとビクッとする猫的な動作ゆえか、伊藤が頼まれる確率は高かった。
伊藤「ごっ、誤解だニャ!」
恵子「ちっ、ちげーよ!そういうんじゃねえから!」
有吉「邪魔しちゃ悪いから、僕は席外すね」
立ち去りかける有吉。
伊藤「待って有吉君、誤解だって!」
追いかけて引き止める伊藤。
恵子「お前らなあ…」
立ち上がりかける恵子、うっかりブラの紐を解いたままなのを忘れて一瞬ポロリ。
恵子「おっといけねえ!(ブラを直す)ん?」
2人はポロリを見てしまって、赤面したまま気絶していた。
恵子「あーあ、しょーがねーなー。童貞君にはチト刺激が強過ぎたか」
その時ふと背後に嫌な視線を感じ、恵子は振り返る。
そこにはジュースを買って帰ってきた沢田が、これまた赤面していた。
沢田「有吉君が、伊藤君を恵子先輩に盗られたと嫉妬して…ハアハア」
恵子「違うっつーの!彩、落ち着け!姉さん、こいつ何とかして!」
だが恵子の呼びかけも空しく、荻上会長の意識もまた何光年か彼方に向かって、亜空間を超光速で移動中だった。
恵子「あちゃー姉さんもワープ中かよ…(近付いて筆毛を激しくシビビビし)こら筆!目を覚ませ!戻って来い!」
荻上「はっ!ここは誰?わたすはどこ?」
恵子「ったく、腐女子ってやつぁ面倒見切れねえなあ…」
いつの間にか恵子は、かつての春日部さんのように、現視研のオタ常識と一般常識との橋渡し的な役割を引き受ける破目になっていた。
正気を取り直した荻上会長は、テントを離れて各人の動向を見に出かけることにした。
冒頭のシーンで被っていた、大きな麦藁帽子を被り、パーカーを羽織る。
とりあえず有吉の誤解は解け、恵子たちは再び日光浴に精を出し、沢田もパラソルの下で寝ていた。
そこへ浅田、岸野、日垣、国松、神田、台場の6人が戻って来た。
全員えらく疲れてる様子だ。