この流れなら衣和緒たんを投下できるっ…!
白服と鷲巣でベタなラブコメ……を目指してみた。
あんまり女体っぽくないかも知れんが……女体化だと思ってくれ。
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ホラー映画の最後で心臓に杭を突き立てられた吸血鬼のような色気のない悲鳴、
もとい、外連味のない悲鳴を耳にした瞬間、俺は自室を飛び出した。
慌てて駆け抜ける廊下はひたぶるに長く、屋敷は広大だ。
しかし、この不肖岡本、
鷲巣様のお声であれば、それがどんなに遠くとも、
針の床に落ちる音ほどの大きさであっても聞き逃しはしない自信がある!
「どうなさいました、鷲巣様! お怪我はございませんか!!」
立ちふさがるドアを押し開けるのももどかしく、俺は室内に踏み入った。
最後のノブに手をかけて扉を開く。
「馬鹿者っ!!」
次の瞬間、俺は頭から湯と怒声をかぶった。
「い…いきなり開ける奴があるかっ……! 何を考えとるんだ、貴様っ…!」
浴室、である。
なるほど、唐突に中を覗くのはマナーに反する。
鷲巣様のご指摘はまったくその通りであり、反論の余地もない。
が、叱責を恐れているようでは鷲巣様の側近は務まらないのだ。
俺はずれ落ちたサングラスのフレームを押し上げ、風呂場の入り口に正対した。
「も、申し訳ありません、鷲巣様……しかし……、
ただならぬお声が聞こえましたので、すわ一大事と――」
「天井からムカデが落ちてきて少し驚いただけだ……! 何も問題はない!」
「はぁ……ですが……」
たかが虫ケラ。されど虫ケラだ。
鷲巣様の柔肌に傷一つでもつくようなことがあれば、俺にとっては一大事である。
共に鷲巣様をお守りする同僚たちにも面目が立たない。
俺は主君の身の安全を確認するという、崇高かつ重大な使命を背負って風呂場を覗き込んだ。
「だから入るなと言っとろうが吉岡っっ!」
「ぶ……ごっ……!」
頭を吹き飛ばすような勢いで石鹸と石鹸箱が飛んできた。
相変わらず素晴らしい腕の振りをしておられる。
これだけお元気なところを見ると俺の心配は杞憂だったようだ。安心した。
が、それはそれとして、そろそろ止めていただかないと俺の身が危ない。
「わ、鷲巣様、ご自重ください。私は見てません、何も見ておりませんから……」
「――っっ!! きっ…貴様ぁぁぁ!!! 何を見た! 何をっ…!!!」
「え!? いやっ……その……!」
言葉の選択を誤ったらしいことに気付いたが、もう遅かった。
「も、申し訳ありません……! 申しわけ――」
一度火の点いたこの御方は止まらない。
とどめとばかり俺の脳天に大物(シャンプーのボトル)がめり込んだ。
……ああ、世界が反転する……。
「ふんっ…! あとで片付けとけ……!」
「は…い……」
浴室のドアが乱暴に閉められる音を聞きながら、俺は力無く返事をした。
濡れた床のせいで背中が冷たい。
……確かにこの仕打ちは俺の自業自得だ。
しかし、鷲巣様には一つだけ信じていただきたい。
サングラスが湯気で曇って、肝心なトコロは本当に見えなかったことをっ……!
白服とはかように報われぬ職業である。
しかし俺たちはこの仕事を愛しているのだ。心の底から。